説明

磁界検知装置

【課題】 同じ構造のGMR素子を使用し、反応する外部磁界の向きを異ならせることができる磁界検知装置を提供する。
【解決手段】 GMR素子10の長手方向LをX方向とY方向に対して45度の向きで形成する。GMR素子10の固定磁性層の磁化の固定方向を、長手方向Lと直交する向きとし、バイアス用磁石21,22によって自由磁性層の磁化の向きを長手方向Lに揃える。第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aをX方向に細長くし、第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aをGMR素子10を挟んでY方向に間隔を空けて配置する。X方向の磁界成分が、第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aの間で導かれてGMR素子10にY方向の磁束として与えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巨大磁気抵抗効果を利用した磁気検知素子を使用して、外部磁界の向きを検知する磁界検知装置に係り、特に、主な検知方向が相違する複数の磁気検知素子を同一の基板上で形成することができる磁界検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外部磁界の変化を検知する磁界検知装置として、巨大磁気抵抗効果を利用した磁気検知素子を複数用いたものがある。
【0003】
巨大磁気抵抗効果を利用した磁気検知素子は、磁化の向きが固定されている固定磁性層と、磁化の向きが外部からの磁界に応じて変化する自由磁性層と、固定磁性層と自由磁性層との間の非磁性中間層とで構成されており、自由磁性層の磁化の向きと固定磁性層の磁化の固定方向との関係で電気抵抗が変化する。
【0004】
前記磁界検知装置は、固定磁性層の磁化の固定方向が+X方向である磁気検知素子と、固定磁性層の磁化の固定方向が−X方向である磁気検知素子とが組み合わされ、両磁気検知素子からの検知出力に基づいて、X方向の磁界の向きやその強度を検知できるようにしている。これに加えて、さらに磁化の固定方向が+Y方向である磁気検知素子と磁化の固定方向が−Y方向である磁気検知素子を組み合わせることによって、外部磁界の強度がほぼ三角関数に基づいて変化するときに、磁界変化に対して90度だけ位相がずれた検知出力を得ることができる。
【0005】
前記磁気検知素子の固定磁性層は軟磁性層で形成され、これに反強磁性層が接合されている。外部磁界を与えながらアニール処理を施すことで、固定磁性層と反強磁性層とがその境界面で交換結合し、これにより固定磁性層の磁化の向きが固定される。
【0006】
そのため、磁化の固定方向が±X方向および±Y方向の別々の向きとなる磁気検知素子を組み合わせるには、同じ基板に複数の磁気検知素子を成膜し、前記アニール処理によって全ての磁気検知素子の固定磁性層の磁化の方向を同じ向きに固定する。そして、それぞれの磁気検知素子ごとに基板を分離し、磁界検知装置の主基板に、それぞれの磁気検知素子を、その向きを変えて組み合わせて取り付ける工程が必要になる。
【0007】
しかし、前記工程では、個々の磁気検知素子毎に基板を分離し、さらに微細な複数の磁気検知素子を組み合わせて主基板に固定する作業が必要になるため、製造工程が煩雑である。また、複数の磁気検知素子の向きをXとY方向に正確に向けて組み合わせるのが困難であり、また個々の磁気検知素子の向きの誤差も大きくなる。
【0008】
以下の特許文献1に記載された磁界検知装置は、同じ基板にX軸GMR素子とY軸GMR素子が成膜されて形成されている。そして、X軸GMR素子を挟む磁石と、Y軸GMR素子を挟む磁石を使用してアニール処理を行ない、X軸GMR素子とY軸GMR素子とで、固定磁性層の磁化方向を異なる向きで固定している。
【0009】
しかし、特許文献1に記載された磁界検知装置では、X軸GMR素子とY軸GMR素子とを、その間に磁石を配置できるように間隔を空けて形成することが必要であり、磁界検知装置が大型になる。また、固定磁性層の磁化を固定するためのアニール装置に複数の磁石を配置することが必要になり、特殊な製造装置が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−275538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、固定磁性層の磁化の固定方向が同じ向きに設定された複数の磁気検知素子を同じ基板に形成して、それぞれの磁気検知素子を異なる向きの磁界に反応させることができる磁界検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の磁界検知装置は、磁化方向が固定されている固定磁性層と、磁化の方向が外部磁界の向きによって変化する自由磁性層と、前記固定磁性層と前記自由磁性層との間に位置する非磁性中間層とを有する磁気検知素子と、磁性材料で細長く形成された第1の磁束案内層および第2の磁束案内層とを有しており、
前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層は、それぞれの長手方向が同じ向きである案内方向に向けられているとともに、案内方向と直交する直交方向に間隔を空けて配置され、前記第1の磁束案内層の端部と前記第2の磁束案内層の端部との間で、磁束が、前記磁気検知素子に対して主に直交方向に向けて与えられ、
前記固定磁性層の磁化の固定方向が、前記案内方向と前記直交方向の双方に対して傾いていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の磁界検知装置は、第1の磁束案内層と第2の磁束案内層とが案内方向に平行に配置され、外部からの磁界のうちの案内方向に向く磁束が、2つの磁束案内層の間に位置する磁気検知素子に与えられる。磁気検知素子の固定磁性層の固定磁化の向きが、磁束案内層の端部間の磁束の向きに対して傾斜しているため、案内方向の一方へ向く磁界と、案内方向の他方に向く磁界に応じて、抵抗変化を得ることができる。
【0014】
本発明は、前記固定磁性層の磁化の固定方向と、案内方向および直交方向との成す角度が45度であることが好ましい。また、前記磁気検知素子に外部磁界が与えられていないときに、前記自由磁性層に、前記固定磁性層の磁化の固定方向と直交するバイアスが与えられているものが好ましい。
【0015】
本発明の磁界検知装置は、前記固定磁性層の磁化の固定方向が同じ向きに設定された第1の磁気検知素子と第2の磁気検知素子が同じ基板上に設けられており、前記第1の磁気検知素子と前記第2の磁気検知素子のそれぞれに、長手方向が同じ案内方向に向けられた前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層が設けられ、前記第1の磁気検知素子と前記第2の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の配置位置が、直交方向において互いに逆向きであるものとして構成できる。
【0016】
上記発明では、前記第1の磁気検知素子と前記第2の磁気検知素子は、案内方向の同じ向きの外部磁界に対して、抵抗変化が逆特性を示す。
【0017】
本発明の磁界検知装置は、前記固定磁性層の磁化の固定方向が同じ向きに設定された第1の磁気検知素子と第3の磁気検知素子が同じ基板上に設けられており、前記第1の磁気検知素子と前記第3の磁気検知素子のそれぞれに、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層が設けられ、前記第1の磁気検知素子と前記第3の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の長手方向である案内方向の向きが互いに直交しているものとして構成できる。
【0018】
上記発明では、前記第1の磁気検知素子と前記第3の磁気検知素子は、互いに直交する向きの外部磁界に対して抵抗変化を示す。
【0019】
さらに本発明は、前記固定磁性層の磁化の固定方向が同じ向きに設定された第3の磁気検知素子と第4の磁気検知素子が前記基板上に設けられており、前記第3の磁気検知素子と前記第4の磁気検知素子のそれぞれに、長手方向が同じ案内方向に向けられた前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層が設けられ、前記第3の磁気検知素子と前記第4の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の配置位置が、直交方向において互いに逆向きであり、
前記第1の磁気検知素子および前記第2の磁気検知素子と、前記第3の磁気検知素子および前記第4の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の長手方向である案内方向の向きが互いに直交しているものとして構成できる。
【0020】
上記発明では、前記第3の磁気検知素子と前記第4の磁気検知素子は、案内方向の同じ向きの外部磁界に対して、抵抗変化が逆特性を示し、前記第1の磁気検知素子および前記第2の磁気検知素子と、前記第3の磁気検知素子および前記第4の磁気検知素子は、互いに直交する向きの外部磁界に対して抵抗変化を示す。
【発明の効果】
【0021】
本発明の磁界検知装置は、固定磁性層の固定磁化の向きが一定であっても、第1の磁束案内層と第2の磁束案内層の長手方向の向きや、第1の磁束案内層と第2の磁束案内層の相互の対向方向を設定することで、異なる向きの磁界に対して抵抗変化を生じさせることができる。
【0022】
そのため、複数の磁気検知素子を組み合わせる必要がなく、同じ基板に設けられた複数の磁気検知素子の固定磁性層の磁化を異なる向きに固定する必要もなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の磁界検知装置に使用される第1の磁気検知素子の平面図、
【図2】第1の磁気検知素子の動作説明図、
【図3】本発明の磁界検知装置に使用される第2の磁気検知素子の平面図、
【図4】第2の磁気検知素子の動作説明図、
【図5】本発明の磁界検知装置に使用される第3の磁気検知素子の平面図、
【図6】第3の磁気検知素子の動作説明図、
【図7】本発明の磁界検知装置に使用される第4の磁気検知素子の平面図、
【図8】第4の磁気検知素子の動作説明図、
【図9】磁気検知装置の断面図、
【図10】磁気検知素子の構造を示す断面図、
【図11】磁気検知素子の他の構造を示す断面図、
【図12】磁気検知素子のさらに他の構造を示す断面図、
【図13】第1ないし第4の磁気検知素子を組み合わせた磁界検知装置の回路図、
【図14】第1ないし第4の磁気検知素子を組み合わせた他の磁界検知装置の回路図、
【図15】磁界検知装置の使用例を示す説明図、
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は第1の磁気検知素子101を示し、図3は第2の磁気検知素子102を示し、図5は第3の磁気検知素子103を示し、図7は4の磁気検知素子104を示している。図1と図3と図5および図7に示す直交座標X−Yは、各図において共通の方向である。
【0025】
磁界検知装置は、第1の磁気検知素子101、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104の全て、またはこれらのうちのいずれかを組み合わせて同じ基板上に設けることで構成される。図9には、磁界検知装置1を構成する第1の磁気検知素子101と第3の磁気検知素子103が共通の基板2上に設けられている構造が断面で示されている。
【0026】
第1の磁気検知素子101、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104は、同じ構造のGMR素子10とバイアス用磁石21,22とを有している。
【0027】
図1、図3、図5、図7に示すように、GMR素子10を平面で見た形状はミアンダパターンであり、その長手方向Lは、X軸とY軸の双方に対して45度の角度に延びている。バイアス用磁石21,22は、GMR素子10を挟んで位置して長手方向Lにおいて対向している。バイアス磁石21,22は、それぞれが長手方向Lと直交する向きの長方形パターンで形成されている。
【0028】
図10に示すように、GMR素子10は、基板2側から、反強磁性層11、固定磁性層12、非磁性中間層13、自由磁性層14の順に積層されている。反強磁性層11はPt−Mn合金やIr−Mn合金などで形成されている。固定磁性層12と自由磁性層14はNi−Co合金やNi−Fe合金などの軟磁性材料で形成されている。非磁性中間層13は、Cuなどで形成されている。
【0029】
図1、図3、図5、図7に示すように、ミアンダパターンのGMR素子10の長手方向Lの両端部には、電極15,16が設けられている。
【0030】
GMR素子10は、積層後に外部磁界を与えながら所定温度でアニール処理を行うことで、反強磁性層11と固定磁性層12とが主にその界面で交換結合し、固定磁性層12の磁化の向きが固定される。
【0031】
図2に示すように、第1の磁気検知素子101のGMR素子10は、固定磁性層12の磁化の固定方向Pが長手方向Lと直交している。すなわち、固定方向Pの向きは、−X方向と−Y方向の双方に対して45度の角度に向けられている。図4と図6および図8に示すように、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104のGMR素子10の固定磁性層12の磁化の固定方向Pは、第1の磁気検知素子101と同じである。
【0032】
したがって、図9に示すように、第1の磁気検知素子101、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104を構成する全てのGMR素子10、またはこれらのうちのいずれかのGMR素子10を同じ基板2上において同じ工程で形成し、全てのGMR素子10の固定磁性層12の磁化の固定方向Pを同一の工程で同じ方向に揃えることができる。
【0033】
第1の磁気検知素子101、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104は、それぞれ同じ形状で同じ構造のバイアス用磁石21,22を有している。図9に示すように、バイアス用磁石21,22は、基板2の表面に積層されている。
【0034】
図1に示すように、第1の磁気検知素子101に設けられたバイアス用磁石21,22の着磁方向は、長手方向Lに向けられており、自由磁性層14に対して固定磁性層12の磁化の固定方向Pと直交するバイアス磁界が与えられている。その結果、図2(A)に示すように、外部磁界が与えられていない中立状態で、GMR素子10の自由磁性層14の磁化の向きBが、−X方向と−Y方向の双方に対して45度の向きに揃えられている。自由磁性層14に与えられるバイアス磁界の向きは、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104においても同じ方向である。
【0035】
GMR素子10は、自由磁性層14の磁化の向きBが、固定磁性層12の磁化の固定方向Pと平行の向きに近づくにしたがって、電極15,16間の電気抵抗が低下し、磁化の向きBが固定方向Pと反平行の向きに向かうにしたがって、電極15,16間の電気抵抗が高くなる。
【0036】
図9に示すように、基板2上に形成されたGMR素子10およびバイアス用磁石21,22は、SiO2やAl23などの無機絶縁層3で覆われている。
【0037】
図1に示すように、第1の磁気検知素子101は第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aを伴っており、第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aは、無機絶縁層3の表面に成膜されて形成されている。第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aは、Ni−Fe合金、Co−Fe合金、Co−Fe−Si−B合金、Co−Zr−Nb合金などの軟磁性材料で形成されている。
【0038】
図3に示すように、第2の磁気検知素子102は、第1の磁束案内層31bと第2の磁束案内層32bを伴い、図5に示すように、第3の磁気検知素子103は、第1の磁束案内層31cと第2の磁束案内層32cを伴い、図7に示すように、第4の磁気検知素子104は、第1の磁束案内層31dと第2の磁束案内層32dを伴っている。
【0039】
図9に示すように、第1の磁気検知素子101、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104を組み合わせた磁界検知装置1、またはこれらの磁気検知素子のいずれかを組み合わせた磁界検知装置1を製造するときは、各磁気検知素子を構成する全てのGMR素子10およびバイアス用磁石21,22を同じ基板2上において全て同じ構造で形成する。その後、各GMR素子10とバイアス用磁石21,22を無機絶縁層3で覆い、その表面を平滑化して軟磁性材料層を成膜する。エッチング処理やミリング処理で軟磁性材料層をパターニングして、それぞれの向きおよび位置が相違する第1の磁束案内層31a,31b,31c,31dおよび第2の磁束案内層32b,32b,32c,32dが形成される。
【0040】
図1に示すように、第1の磁気検知素子101が伴う第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aは、共に長手方向がX方向に延びる長方形状である。第1の磁束案内層31aは、GMR素子10に対して−Y側に位置し、第2の磁束案内層32aは、GMR素子10に対して+Y側に位置している。第1の磁束案内層31aの端部33aと第2の磁束案内層32aの端部34aは、共にY方向に直線的に延び、GMR素子10を挟んでY方向に離れて位置している。端部33aと端部34aは、Y方向において同一直線上に位置し、または端部33aと端部34aは、X方向においてやや離れている。
【0041】
なお、前記端部33aと前記端部34aが、互いに対向する向きとなるようにY方向に対して傾斜して形成されていてもよい。
【0042】
図1に示すように、第1の磁気検知素子101が伴う第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aは、X方向が磁束の案内方向で、磁界の検知方向であり、Y方向が、案内方向と直交する直交方向である。第1の磁気検知素子101は、X方向の磁界成分に反応する。
【0043】
図1は、外部磁界のX軸に沿う成分が+X方向に向いている状態を示している。磁束は第1の磁束案内層31aで+X方向へ導かれ、第1の磁束案内層31aの端部33aから第2の磁束案内層32aの端部34aに向かい、さらに第2の磁束案内層32aで+X方向へ案内される。そして、端部33aから端部34aの間で、主に+Y方向の磁束がGMR素子10に与えられる。図2(B)に示すように、+Y方向に向かう磁束によってGMR素子10の自由磁性層14の磁化の向きBが、図2(A)の中立状態よりも反時計方向へ向けられる。したがって、GMR素子10の電極15,16間の電気抵抗は、図2(A)の中立状態よりも高くなる。
【0044】
図1と逆に、外部磁界のX軸に沿う成分が−X方向に向くと、第2の磁束案内層32aの端部34aから第1の磁束案内層31aの端部33aに向かう主に−Y方向の磁束がGMR素子10に与えられる。このとき、図2(C)に示すように、自由磁性層14の磁化の向きBが、図2(A)の中立状態よりも時計方向へ回転し、電極15,16間の電気抵抗が中立状態よりも低くなる。
【0045】
図3に示すように、第2の磁気検知素子102が伴う第1の磁束案内層31bと第2の磁束案内層32bは、長方形の長手方向がX方向に向けられて互いに平行に配置されており、X方向が磁束の案内方向である。第2の磁気検知素子102では、第1の磁束案内層31bがGMR素子10に対して+Y側に位置し、第2の磁束案内層32bがGMR素子10に対して−Y側に位置している。図3に示す第1の磁束案内層31bと第2の磁束案内層32bは、図1に示す第1の磁束案内層31aと第2の磁束案内層32aを直交方向であるY方向で+方向と−方向とで互いに逆の配置となるように入れ替えたものである。
【0046】
図3および図4(B)に示すように、外部磁界のX軸に沿う成分が+X方向に向くと、第1の磁束案内層31bで+X方向に案内された磁束が、端部33bから第2の磁束案内層32bの端部34bに向かい、第2の磁束案内層32bによってさらに+X方向へ案内される。
【0047】
したがって、図4(B)に示すように、第2の磁気検知素子102を構成するGMR素子10に対して、端部33bから端部34bに向けて主に−Y方向の磁束が与えられる。このとき、自由磁性層14の磁化の向きBが図4(A)の中立状態よりも時計方向へ回転し、中立状態よりも電極15,16間の電気抵抗が低下する。
【0048】
逆に、外部磁界のX軸に沿う成分が−X方向に向かうと、図4(C)に示すように、GMR素子10に対して主に+Y方向の磁束が与えられる。自由磁性層14の磁化の向きBが反時計方向へ回転するため、電極15,16間の電気抵抗が高くなる。
【0049】
図1に示す第1の磁気検知素子101と図3に示す第2の磁気検知素子102とを比較すると、GMR素子10およびバイアス用磁石21,22の形状と構造および配置が全く同じで、固定磁性層12の磁化の固定方向Pと自由磁性層14の磁化の向きBが同じでありながら、+X方向の磁界成分に対して、互いに逆の抵抗変化を示し、−X方向の磁界成分に対しても、互い逆の抵抗変化を示す。
【0050】
図5に示すように、第3の磁気検知素子103が伴う第1の磁束案内層31cと第2の磁束案内層32cは、長方形の長手方向がY方向に向けられている。第1の磁束案内層31cは、GMR素子10に対して−X側に位置し、第2の磁束案内層32cはGMR素子10に対して+X側に位置している。また、第1の磁束案内層31cの端部33cと第2の磁束案内層32cの端部34cは、共にX方向に延びており、GMR素子10を挟んでX方向の両側に位置している。なお、端部33cと端部34cが互いに対向する向きとなるようにX方向に対して傾いて形成されてもよい。
【0051】
図5に示す第3の磁気検知素子103は、Y方向が磁束を案内する案内方向であり検知方向である。X方向が案内方向と直交する直交方向である。
【0052】
図5および図6(B)に示すように、外部磁界のY軸に沿う成分が+Y方向に向いているときは、磁界成分が第1の磁束案内層31cで+Y方向へ導かれ、磁束が、第1の磁束案内層31cの端部33cから、第2の磁束案内層32cの端部34cに及ぶ。そして、第3の磁気検知素子103のGMR素子10に対して、主に+X方向の磁束が与えられ、図6(B)に示すように、自由磁性層14の磁化の向きBが反時計方向へ回転する。そのため、電極15,16間の電気抵抗は、図6(A)に示す中立状態よりも高くなる。
【0053】
図6(C)に示すように、外部磁界のY軸に沿う成分が−Y方向に向いているときは、第2の磁束案内層32cの端部34cから第1の磁束案内層31cの端部33cに向かう磁束が、GMR素子10に対して主に−X方向に与えられる。−X方向の磁束により自由磁性層14の磁化の向きBが時計方向へ回転し、電極15,16間の電気抵抗が、図6(A)に示す中立状態よりも低くなる。
【0054】
図7に示す第4の磁気検知素子104に伴う第1の磁束案内層31dと第2の磁束案内層32dは、共に長手方向がY方向に向けられており、Y方向が案内方向ならびに検知方向で、X方向が案内方向と直交する直交方向である。第1の磁束案内層31dは、GMR素子10よりも+X側に位置し、第2の磁束案内層32dが、GMR素子10よりも−X側に位置している。第4の磁気検知素子104では、第1の磁束案内層31dと第2の磁束案内層32dが、図5に示す第3の磁気検知素子103が伴う第1の磁束案内層31cおよび第2の磁束案内層32cに対して、X方向において逆の配置となっている。
【0055】
図7と図8(B)に示すように、外部磁界のY軸に沿う成分が+Y方向に向いていると、第1の磁束案内層31dによって+Y方向に導かれた磁束が、端部33dから第2の磁束案内層32dの端部34dに向かい、GMR素子10に、直交方向である−X方向の磁束が作用する。その結果、自由磁性層14の磁化の向きBが時計方向へ回転し、電極15,16間の電気抵抗が、図8(A)に示す中立状態よりも低下する。
【0056】
図8(C)に示すように、外部磁界のY軸に沿う成分が−Y方向に向いていると、第2の磁束案内層32dで−Y方向に案内された磁束が、端部34dから端部33dに移行し、GMR素子10に対して+X方向の磁束が与えられる。その結果、自由磁性層14の磁化の向きBが反時計方向へ回転し、電極15,16間の電気抵抗が高くなる。
【0057】
図5に示す第3の磁気検知素子103と図7に示す第4の磁気検知素子104は、共にY方向の磁界成分を検知できる。そして、図6(B)と図8(B)に示すように、第3の磁束検知素子103と第4の磁束検知素子104は、+Y方向の磁界成分に対して、互いに逆特性の抵抗変化を示し、図6(C)と図8(C)に示すように、−Y方向の磁界成分に対しても、互いに逆特性の抵抗変化を示す。
【0058】
以上のように、基板2上に、同じ形状と構造の複数のGMR素子10と複数のバイアス用磁石21,22を形成して、磁化の固定方向Pとバイアス磁界の向きを全て同じに設定し、無機絶縁層3の表面に形成される第1の磁束案内層と第2に磁束案内層のパターンを変えるだけで、第1の磁気検知素子101と第2の磁気検知素子102と第3の磁気検知素子103と第4の磁気検知素子104を構成することができる。そして、同じGMR素子10と同じバイアス用磁石21,22を使用して、第1の磁気検知素子101と第2の磁気検知素子102とで、X方向の磁界成分に対して互いに逆特性の抵抗変化を得ることができ、第3の磁気検知素子103と第4の磁気検知素子104とで、Y方向の磁界成分に対して互いに逆特性の抵抗変化を得ることができるようになる。
【0059】
図13は、複数の磁気検知素子を組み合わせた磁界検知装置1Aを示している。この磁界検知装置1Aは、第1の磁気検知素子101、第2の磁気検知素子102、第3の磁気検知素子103および第4の磁気検知素子104が、それぞれ2個ずつ使用されている。各磁気検知素子を構成するGMR素子10およびバイアス用磁石21,22は、同じ基板2の表面に成膜されて同じ工程で形成される。そのため、それぞれの磁気検知素子を構成するGMR素子10の、固定磁性層12の磁化の固定方向Pと、バイアス磁界の作用方向すなわち外部磁界が与えられていないときの自由磁性層14の磁化の向きBを、X−Y軸に対して全て同じ向きに揃えることができる。
【0060】
図13に示す磁界検知装置1Aは、第1の磁気検知素子101と第2の磁気検知素子102を直列に接続した列が2列組み合わされた素子群41、および第3の磁気検知素子103と第4の磁気検知素子104を直列に接続した列が2列組み合わされた素子群42とから構成されている。素子群41では、第1の磁気検知素子101と第2の磁気検知素子102の接続中間点から出力電圧V1とV2とが得られる。検知回路では、出力電圧V1と出力電圧V2の差が求められてX側の検知出力となる。素子群42では、第3の磁気検知素子103と第4の磁気検知素子104の接続中間点から出力電圧V3とV4とが得られる。検知回路では、出力電圧V3と出力電圧V4の差が求められてY側の検知出力となる。
【0061】
図15は、磁界検知装置1Aの使用例を示している。この使用例は、円板磁石48の周端面48aに、図13に示す磁界検知装置1Aが対向している。周端面48aは回転方向に向けてN極とS極が同一ピッチで繰り返して着磁されている。円板磁石48と磁界検知装置1Aが、円板磁石48の中心に対して相対的に回転すると、出力電圧V1と出力電圧V2との差であるX側の検知出力がほぼ三角関数に近い曲線変化を示す。同様に、出力電圧V3と出力電圧V4との差であるY側の検知出力も三角関数に近い曲線を示す。そして、X側の検知出力とY側の検知出力の位相が90度相違する。
【0062】
図15の使用例では、円板磁石48の回転数に応じた周波数の検知出力を得ることができ、互いに90度相違するX側の検知出力とY側の検知出力とから、回転方向を検知することができる。なお、磁石は回転式ではなく直線的に移動するものであって、移動方向に延びる側面にN極とS極が交互に着磁されているものであってもよい。
【0063】
図14は、他の構造の磁界検知装置1Bを示している。磁気検知装置1Bを構成する素子群43では、第1の磁気検知素子101と第2の磁気検知素子102が1個ずつ使用されており、それぞれが固定抵抗Rと直列に接続されている。そして出力電圧V1と出力電圧V2の差が求められる。素子群44では、第3の磁気検知素子103と第4の磁気検知素子104が1個ずつ使用され、それぞれが固定抵抗Rと直列に接続され、出力電圧V3とV4の差が求められる。
【0064】
図14に示す磁界検知装置1Bを、図15に示す円板磁石48に対向させると、相対的な回転によって図13に示す磁界検知装置1Aと同じ位相の検知出力が得られる。
【0065】
なお、図13に示す素子群41と42のいずれか一方のみを使用した磁界検知装置、または図14に示す素子群43と44のいずれか一方のみを使用した磁界検知装置を構成することも可能である。
【0066】
図1などに示している磁気検知素子は、図10に示すように、GMR素子10の両側にバイアス用磁石21,22が対向して、自由磁性層14の磁化の向きBを決めるバイアス磁界が与えられている。
【0067】
自由磁性層14へバイアスを与える構造は、前記実施の形態に限られず、図11と図12に示すものであってもよい。
【0068】
図11に示すGMR素子10Aは、自由磁性層14の上に絶縁層17が設けられ、この絶縁層17の上に、バイアス用磁石21a,22aが長手方向Lに間隔を空けて設置されている。バイアス用磁石21a,22a間の磁界により、自由磁性層14の磁化の向きBが揃えられる。
【0069】
図12に示すGMR素子10Bは、自由磁性層14の上に、長手方向Lに間隔を空けて反強磁性層18,19が積層されている。この積層体に長手方向Lの磁界を与えながらアニール処理を施すことにより、自由磁性層14の長手方向の両端部が、反強磁性層18,19と交換結合し、自由磁性層14の中間部では、磁化の向きBが外部磁界に反応できる程度に揃えられる。
【0070】
また、バイアス用磁石や反強磁性層を用いずに、自由磁性層14を長手方向Lに細長くして、その形状異方性によって、磁化の向きBが長手方向へ揃えられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,1A,1B 磁界検知装置
2 基板
3 無機絶縁層
10,10A,10B GMR素子
11 反強磁性層
12 固定磁性層
13 非磁性中間層
14 自由磁性層
15,16 電極
17,18 反強磁性層
17 絶縁層
21.21a.22.21a バイアス用磁石
31a,31b,31c,31d 第1の磁束案内層
32a,32b,32c,32d 第2の磁束案内層
41,42,43,44 素子群
48 円板磁石
101 第1の磁気検知素子
102 第2の磁気検知素子
103 第3の磁気検知素子
104 第4の磁気検知素子
P 固定磁性層の磁化の固定方向
B 自由磁性層の磁化の向き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁化方向が固定されている固定磁性層と、磁化の方向が外部磁界の向きによって変化する自由磁性層と、前記固定磁性層と前記自由磁性層との間に位置する非磁性中間層とを有する磁気検知素子と、磁性材料で細長く形成された第1の磁束案内層および第2の磁束案内層とを有しており、
前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層は、それぞれの長手方向が同じ向きである案内方向に向けられているとともに、案内方向と直交する直交方向に間隔を空けて配置され、前記第1の磁束案内層の端部と前記第2の磁束案内層の端部との間で、磁束が、前記磁気検知素子に対して主に直交方向に向けて与えられ、
前記固定磁性層の磁化の固定方向が、前記案内方向と前記直交方向の双方に対して傾いていることを特徴とする磁界検知装置。
【請求項2】
前記固定磁性層の磁化の固定方向と、案内方向および直交方向との成す角度が45度である請求項1記載の磁界検知装置。
【請求項3】
前記磁気検知素子に外部磁界が与えられていないときに、前記自由磁性層に、前記固定磁性層の磁化の固定方向と直交するバイアスが与えられている請求項1または2記載の磁界検知装置。
【請求項4】
前記固定磁性層の磁化の固定方向が同じ向きに設定された第1の磁気検知素子と第2の磁気検知素子が同じ基板上に設けられており、
前記第1の磁気検知素子と前記第2の磁気検知素子のそれぞれに、長手方向が同じ案内方向に向けられた前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層が設けられ、前記第1の磁気検知素子と前記第2の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の配置位置が、直交方向において互いに逆向きである請求項1ないし3のいずれかに記載の磁界検知装置。
【請求項5】
前記第1の磁気検知素子と前記第2の磁気検知素子は、案内方向の同じ向きの外部磁界に対して、抵抗変化が逆特性を示す請求項4記載の磁界検知装置。
【請求項6】
前記固定磁性層の磁化の固定方向が同じ向きに設定された第1の磁気検知素子と第3の磁気検知素子が同じ基板上に設けられており、
前記第1の磁気検知素子と前記第3の磁気検知素子のそれぞれに、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層が設けられ、前記第1の磁気検知素子と前記第3の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の長手方向である案内方向の向きが互いに直交している請求項1ないし3のいずれかに記載の磁界検知装置。
【請求項7】
前記第1の磁気検知素子と前記第3の磁気検知素子は、互いに直交する向きの外部磁界に対して抵抗変化を示す請求項6記載の磁界検知装置。
【請求項8】
前記固定磁性層の磁化の固定方向が同じ向きに設定された第3の磁気検知素子と第4の磁気検知素子が前記基板上に設けられており、
前記第3の磁気検知素子と前記第4の磁気検知素子のそれぞれに、長手方向が同じ案内方向に向けられた前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層が設けられ、前記第3の磁気検知素子と前記第4の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の配置位置が、直交方向において互いに逆向きであり、
前記第1の磁気検知素子および前記第2の磁気検知素子と、前記第3の磁気検知素子および前記第4の磁気検知素子とで、前記第1の磁束案内層と前記第2の磁束案内層の長手方向である案内方向の向きが互いに直交している請求項4記載の磁界検知装置。
【請求項9】
前記第3の磁気検知素子と前記第4の磁気検知素子は、案内方向の同じ向きの外部磁界に対して、抵抗変化が逆特性を示し、
前記第1の磁気検知素子および前記第2の磁気検知素子と、前記第3の磁気検知素子および前記第4の磁気検知素子は、互いに直交する向きの外部磁界に対して抵抗変化を示す請求項8記載の磁界検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−107914(P2012−107914A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255443(P2010−255443)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】