神経学的状態の治療のためのピペリン及びその誘導体の使用
本発明は、神経保護及び/又は神経再生が求められるニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物を調製するための、ピペリン及びその誘導体の使用に関する。本発明はさらに、神経幹細胞をin vitroで分化させるのにピペリン及びその誘導体を使用すること、並びにそのような前処理した細胞を神経学的状態の幹細胞治療に使用することに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経学的及び/又は精神医学的状態(neurological and/or psychiatric conditions)を治療及び/又は予防する医薬を製造するためのピペリン及びその誘導体の使用に関する。本発明はさらに、神経幹細胞をin vitroで分化させるのにピペリン及びその誘導体を使用すること、並びにそのような前処理した細胞を神経学的状態(neurological conditions)の幹細胞治療に使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
神経学的状態とは、神経系を冒す疾患又は障害を含む医学的状態(medical conditions)である。神経学的状態は、例えば疾患又は障害による、病的に弱った神経系の機能を伴うものでもよいし、又は学習及び記憶を向上させるために、例えば認知能力を高めることにより実現される神経学的機能の向上を単純に必要とするものでもよい。
【0003】
そのような神経学的状態の例は、病態生理学的機序が脳虚血又は低酸素にある疾患であり、脳卒中(並びに出血性脳卒中)、脳の微小血管症(小血管疾患)、分娩時の脳虚血、心停止又は蘇生中/後の脳虚血、手術中の問題による脳虚血、頸動脈手術中の脳虚血、脳に血液を供給する動脈の狭窄による慢性脳虚血、静脈洞血栓又は大脳静脈の血栓、脳血管奇形、並びに糖尿病性網膜症がこれに含まれる。こうした神経学的状態の別の例には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、ウィルソン病、多系統萎縮症、アルツハイマー病、緑内障、ピック病、レヴィ小体病、ハレルフォルデン-スパッツ病、捻転ジストニア、遺伝性感覚運動ニューロパシー(HMSN)、ゲルトマン-シュトロイスラー-シャインカー病、クロイツフェルト-ヤコブ病、マシャド-ジョセフ病、フリードライヒ失調症、非フリードライヒ失調症、ジルドラトゥレット症候群、家族性振戦、オリーブ橋小脳変性症、腫瘍随伴性脳症候群、遺伝性痙性対麻痺、遺伝性視神経症(レーベル)、網膜色素変性症、スタルガルト病、カーンズ-セイヤ症候群及び敗血症ショック、脳出血、くも膜下出血、脳血管性痴呆、炎症性疾患(脈管炎、多発性硬化症、ギラン-バレー症候群など)、神経外傷(脊髄外傷、頭部外傷など)、末梢神経疾患、多発性神経炎、統合失調症、うつ病、代謝性脳症、並びに(ウイルス性、細菌性、真菌性の)中枢神経系の感染症が含まれる。
【0004】
脳虚血に関する大部分の研究及び薬理学的物質のin vivo試験は、調査中の薬物又はパラダイムの即時の効果(即ち、脳卒中が誘発されてから24時間後の梗塞サイズ)しか扱ってきていない。しかし、特定の物質の真の有効性のより妥当なパラメーターは、機能回復への長期的効果であり、これは、臨床スケール(例えば、スカンジナビア式脳卒中スケール、NIHスケール、バーセル指数)によって日常の生活活動を遂行する能力が示される、ヒト脳卒中研究にも反映される。局所的な病変後の最初の2〜3日での回復は、可逆的虚血領域の水腫又は再灌流の解消による場合もある。急性期後の機能回復の多くは、おそらく脳の可塑性のためであり、損傷を受けた領域によって以前に遂行されていた機能を、脳の隣接する皮質野が引き継いでいる(Chen et al.、Neuroscience 2002;111:761-773)。再構築を説明するのに提唱されている2通りの主な機序は、以前から存在しているが機能的に不活性な結合の顕在化と、側枝発芽などの新しい結合の成長である(Chen et al.、Neuroscience 2002;111:761-773)。短期間の可塑性変化は、おそらくはGABA作動性の阻害が低下するために、興奮性シナプスに対する阻害が除去されることにより仲介される(Kaas、Annu Rev Neurosci.1991;14:137-167;Jones、Cereb Cortex.1993;3:361-372)。より長い時間をかけて起こる可塑性変化には、不顕性シナプスの顕在化以外の機序、例えば長期増強(LTP)が関与するが、これには、NMDA受容体の活性化及び細胞内カルシウム濃度の増大が必要となる(Hess & Donoghue、Neurophysiol.1994;71:2543-2547)。長期変化には、シナプスの形状、数、サイズ、及びタイプの変更を伴う軸索の再生及び発芽も関与する(Kaas、Annu Rev Neurosci.1991;14:137-167)。最近の研究では、脳虚血後の神経再生過程の強化によって結果が改善されることがわかっている(Fisher et al.、Stroke 2006;37:1129-1136)。脳卒中の超急性期を過ぎて施される細胞及び薬理学的治療手法を開発することが求められて止まない。したがって、脳卒中後の神経性の欠陥を軽減するように設計される、将来の成功を収める脳卒中治療は、血管再生の他に、細胞死の阻止、神経再生の刺激、及び可塑性にも同時に接近すべきである。
【0005】
脳虚血は、脳血流(CBF)を減じる様々な原因の結果として生じる場合があり、酸素とグルコースの欠乏をもたらす。一方、外傷性脳損傷(TBI)は、通常は頭蓋骨折を引き起こし、脳実質を突然崩壊させる最初の力学的な衝撃を含み、血管及び脳組織の剪断及び裂けを伴う。これが、二次的な傷害をもたらす分子応答及び細胞応答の活性化を特徴とする、次々と起こる事象を誘発する。そのような二次的な損傷の展開は、多くの生化学的な経路が関与する活発な過程である(Leker & Shohami、Brain Res.Rev.2002;39:55-73)。二次的な細胞死をもたらす有害な経路は、境界虚血域にあるものと二次的な外傷後傷害にさらされる部位にあるものとで、多くの類似性が特定されている(例えば、過剰のグルタミン酸放出による興奮毒性、一酸化窒素、活性酸素種、炎症、及びアポトーシス(Leker & Shohami、Brain Res.Rev.2002;39:55-73))。また、早期の虚血エピソードが、外傷性脳損傷後に起こり、最初の力学的な損傷に虚血の構成要素を付加することも報告されている。
【0006】
脳卒中は、第三の主な死因であり、西側世界では障害の主要な原因である。脳卒中は、大きな社会経済的負担となっている。病因は、虚血性(大部分の場合)又は出血性のどちらかとすることができる。虚血性脳卒中の原因は、塞栓又は血栓であることが多い。これまで、脳卒中に罹患している大多数の患者に有効な治療は存在していない。また、脳卒中に罹患したことのある対象のための、機能性ニューロンの神経発生を可能にする有効な治療も存在しない。臨床的に証明された薬物は、これまでは、組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)とアスピリンだけである。アスピリンの血小板凝集阻害効果のために、血栓形成のリスクの軽減だけは実現することができる。この効果は、急性虚血性脳卒中の状況下で、すでに存在する血小板塞栓を溶解させるのには適切でない。したがって、血小板凝集を阻害するだけの薬物は、虚血性脳卒中の予防のみを適応症とし、急性虚血性脳卒中の治療は適応症としない。その上、アスピリン並びにTPAは、出血性脳卒中の場合では明らかに禁忌である。グルコース及び酸素の不足による即時梗塞コアにおける大量の細胞死の後、その梗塞領域は引き続いて、グルタミン酸興奮毒性、アポトーシス機序、フリーラジカル発生などの第二の機序のために拡大する。
【0007】
心血管疾患は、西側先進諸国における主要な死因である。米国では、年ごとに約100万件の死亡があり、そのほとんど50%が突然であり、病院外で起こっている(Zheng et al.、Circulation 2001;104:2158-2163)。心肺蘇生法(CPR)は、毎年100,000人の居住者のうち40〜90人で試みられており、こうした患者の25〜50%で自発循環の回復(ROSC)が実現されている。しかし、ROSC成功後の退院率はわずか2〜10%である(Bottiger et al.、Heart 1999;82:674-679)。したがって、米国では毎年莫大な数の心停止の犠牲者がうまく治療されていない。CPR成功後の生存率が低いこと、即ち、停止後院内死亡の主な理由は、継続的な脳損傷にある。心臓循環器系の停止後の脳損傷は、低酸素ストレスに対する耐性の期間が短いことと、特定の再灌流障害と関係がある(Safar、Circulation 1986;74:UV138-153、Hossmann、Resuscitation 1993;26:225-235)。最初は、大勢の患者が心臓循環器系停止後に血行力学的に安定化する場合があるが、しかしその多くは、中枢神経系傷害のために死亡する。心停止後の脳損傷の個人的、社会的、及び経済的影響は壊滅的である。したがって、心臓の停止及び蘇生(「全身の虚血及び再灌流」)研究における最も重要な問題の一つは、脳蘇生及び停止後脳損傷である(Safar、Circulation 1986;74:UV138-153、Safar et al.、Crit Care Med 2002;30:140-144)。現在、いかなる停止後治療手段を用いても、心停止の間に低酸素によって引き起こされるニューロンへの第一次の損傷を軽減することは不可能である。主な病理生理学的な問題として、低酸素及びその後の壊死、フリーラジカル生成及び細胞へのカルシウム流入を伴う再灌流傷害、興奮性アミノ酸の放出、脳微小循環の再灌流障害、並びにプログラムニューロン死又はアポトーシスが挙げられる(Safar、Circulation 1986;74:UV138-153、Safar et al.、Crit Care Med 2002;30:140-144)。
【0008】
筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー-ゲーリック病、シャルコー病)は、年間発生率が100,000人の集団あたり0.4〜1.76人の神経変性障害である(Adams et al.、Principles of Neurology、6.sup.th ed.、New York、pp1090-1095)。この疾患は、運動ニューロン疾患の最も一般的な形態であり、通常は、全身性の線維束性攣縮、骨格筋の進行性の萎縮及び脱力、痙縮及び錐体路徴候、構語障害、嚥下障害、並びに呼吸困難となって現れる。病態は、主に、脊髄の前角及び下位脳幹の運動核における神経細胞の損失にあるが、皮質の一次運動ニューロンも含めることができる。この壊滅的な疾患の病因は、依然として大部分が不明であるが、家族性の症例におけるスーパーオキサイド-ジスムターゼ(SOD1)突然変異体の役割は、かなりよく考えられており、酸化的ストレス仮説を引合いに出している。これまでに、ALSを引き起こし得る、SOD1タンパク質の90を超える突然変異が記載されている(Cleveland & Rothstein、Nat Rev Neurosci.2001;2:806-819)。また、この疾患における神経フィラメントの役割も示されている。過剰のグルタミン酸刺激によって惹起される機序である興奮毒性も重要な要素であり、ヒト患者においてリルゾールが有益な役割を果たすことがよい例である。SOD1突然変異体の中で最も説得力をもって示されるのは、カスパーゼの活性化及びアポトーシスが、ALSにおける共通の最終的経路であると思われる点である(Ishigaki et al.、J Neurochem.2002;82:576-584、Li et al.、Science 2000;288:335-339)。したがって、ALSも、他の神経変性疾患及び脳卒中において影響を及ぼす同じ一般的な病原パターン、即ち、グルタミン酸の関与、酸化ストレス、及びプログラム細胞死に当てはまると思われる。
【0009】
緑内障は、米国では予防可能な失明の第一位の原因である。緑内障は、通常は眼内の圧力が増大した結果として視覚神経(視神経)が損傷を受ける一群の状態であるが、緑内障は、正常又はさらには正常より低い眼圧でも起こる場合がある。視神経乳頭(ONH)の篩骨篩板(LC)領域は、緑内障視神経症の傷害の主要な部位である。緑内障は、永久的な斑状の視力喪失であるが、その状態の進行は、これを十分に早く検出し、治療を開始すれば、最小限に抑えることができる。しかし、緑内障は、治療をしないままにすれば、最終的に失明に至る場合がある。緑内障は、高齢者の間で最も一般的な眼障害の一つである。世界的には、約6680万人が緑内障による視覚の機能障害を抱えており、670万人が失明していると推定されている。
【0010】
様々な異なるタイプの緑内障がある。最も一般的な形態は、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、閉塞隅角緑内障、急性緑内障、色素性緑内障、剥離症候群、又は外傷に関連した緑内障である。
【0011】
緑内障は、目薬、丸剤、レーザー手術、眼科手術、又は諸方法の併用によって治療することができる。全体としての治療目的は、視力のそれ以上の喪失を防ぐことである。緑内障による視力喪失は不可逆的であるので、これは肝要である。IOPを制御することは、緑内障からの視力喪失を予防する鍵である。最近の開発は、緑内障治療への神経保護及び神経再生の必要を重要視している(Levin、Ophthalmol Clin North Am.2005;18:585-596、vii;Schwartz et al.、J Glaucoma.1996;5:427-432)。
【0012】
アルツハイマー病(AD)は、進行性の認知低下を特徴とする神経変性疾患であり、日常生活の活動が衰えていき、神経精神医学的症状又は行動変化を伴う。この疾患は、認知症の最も一般的なタイプである。最も著しい初期症状は記憶の喪失であり、通常は軽い健忘症として現れるが、これが病の進行と共に着実により顕著になっていき、古い方の記憶は比較的保存される。病的過程は主に、主として側頭頭頂皮質、それに加えて前頭皮質におけるニューロンの減少又は萎縮、並びにアミロイド斑の沈着及び神経原線維変化に対する炎症応答からなる。この疾患の根本の原因は不明である。この疾患の原因を説明する、相反する三大仮説が存在する。最も古い説は、現在利用可能な大部分の薬物治療の根拠となっているが、「コリン作動性仮説」として知られ、ADは神経伝達物質アセチルコリンの生合成の減少によるものと示唆している。AD患者の脳組織でアセチルコリンのレベルは低下するが、グルタミン酸レベルは通常は上昇している。アセチルコリン欠乏を治療する薬物は、疾患の症状を治療するためにしか役立っておらず、疾患を停止させることもなければ、逆転させることもない(Walker & Rosen、Age Ageing 2006;35:332-335)。2000年より後の研究として、ミスフォールドし、凝集したタンパク質、即ちアミロイドβ及びτによる影響を中心に据えた仮説が挙げられる。この二つの立場は、一方はτタンパク質の異常が疾患カスケードを開始すると述べているが、他方はβアミロイド沈着物が疾患の原因因子であると考えている点で異なる(Mudher & Lovestone、Trends Neurosci.2002;25:22-26)。
【0013】
現在ADの治療法は存在しない。現在利用可能な薬物は、一部の患者に比較的少ない対症的利益をもたらすが、疾患の進行を緩徐にすることはない。こうした薬物は、記憶については多少役立つ(Lyketsos et al.、Am J Geriatr Psychiatry.2006;14:561-572)。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害は、コリン作動性神経の活性の低下が存在するので、重要であると考えられた。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、症状を中程度に調節すると思われるが、根底にある痴呆化の過程の経過を変更することはない。コリンエステラーゼ阻害剤の有効性に関して重大な疑いがある。ADで調査されている天然抽出物の一つがイチョウ(Ginkgo biloba)である。米国での無作為化された大規模臨床研究が進行中であり、イチョウの認知症を防ぐ効果が調べられている(DeKosky et al.、Contemp Clin Trials 2006、27:238-253)。グルタミン酸作動性ニューロンの興奮毒性の関与がADを引き起こすというごく新しい証拠は、新規なNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンの開発及び導入につながったが、メマンチンは、臨床上それほど効果的でないことがわかっている(Areosa-Sastre et al.、Cochrane Database Syst Rev.2004;18:CD003154)。神経発生過程についての最近の研究及び内在性の神経前駆体の存在が広範囲に及ぶという知見は、こうした細胞の潜在的可能性をADなどの神経変性疾患の修復に利用することができるという希望をもたらしている(Elder et al.、Mt Sinai J Med.2006;73:931-940;Brinton & Wang、Curr Alzheimer Res.2006;3:185-190;Kelleher-Andersson、Curr Alzheimer Res.2006;3:55-62;Greenberg & Jin、Curr Alzheimer Res.2006;3:25-8)。
【0014】
ある群の神経変性障害は、トリヌクレオチドの拡張を特徴とする。こうした神経変性トリヌクレオチド反復障害は、慢性且つ進行性であり、運動、感覚、又は認知の系のニューロンの選択的且つ対称的な減少を特徴とする。症状は、失調、認知症、又は運動障害であることが多い。最もよく知られているトリヌクレオチド反復障害はハンチントン病であり、その他のものは、球脊髄性筋萎縮症(ケネディー病)、常染色体優性の脊髄小脳失調:1型SCA1、2型SCA2、3型(マシャド-ジョセフ病)SCA3/MJD、6型SCA6、7型SCA7、8型SCA8、フリードライヒ失調症、及び歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮DRPLA/Haw-River症候群である(Hardy & Gwinn-Hardy、Science 1998;282:1075-1079;Martin、N Engl J Med.1999;340:1970-1980;Schols et al.、Ann Neurol.1997;42:924-932)。
【0015】
ハンチントン病(HD)は、進行性の運動、認知、及び挙動症状を生じさせる遺伝性の常染色体優性神経精神医学的疾患である。HDの経過は、四肢、体幹、及び顔の制御できない律動性の動き(舞踏病)、精神的能力の進行性の低下、及び精神医学的な問題の発現を特徴とする。HDは、10〜25年かけて寛解なしに進行し、通常は中年(30〜50歳)期に出現する。若年性HD(Westphal変形型又は無動硬直HDとも呼ばれる)は、20歳前に発症し、急速に進行し、さらには筋強剛を生じ、患者は、動くとしてもほとんど動かない(無動症)。10,000人に1人-米国では30,000人近く-がHDに罹っていると推定されている。若年性HDは、全症例の約16%で存在する。その核心の病態は、基底核、特に尾状核及び被殻が変性するものであり、第4染色体上の単一の常染色体遺伝子IT-15にある、グルタミンをコードするトリヌクレオチドCAGが不安定に拡張して、タンパク質ハンチンチンの変異型がコードされることによって引き起こされる。遺伝子IT-15の突然変異がどのようにタンパク質の機能を変更するのかは十分にわかっていない。
【0016】
HDの治療は、症状を軽減し、合併症を予防し、患者に援助及び補助を提供することに集中している。今日ヒョレアの治療にはいくつかの物質が利用可能である。ジストニーなどの他の神経性の症状は、治療することはできるが、治療には高リスクの有害事象が伴う。一方、精神医学的な症状は、治療の影響を受けやすいことが多く、こうした症状からの解放によって、生活の質をかなり向上させることができる(Bonelli & Hofmann、Expert Opin Pharmacother.2004;5:767-776)。HDの症状を治療するのに使用されるほとんどの薬物は、疲労、不穏状態、過剰興奮性などの副作用を伴う。シスタミン(=デカルボキシシスチン)は、HDの遺伝子変異を有するマウスにおいて振戦を緩和し、寿命を延長する。この薬物は、神経細胞又はニューロンを変性しないように保護するタンパク質の活性を増大させることにより働くと思われる。研究では、同様の治療又は神経再生治療が、HD及び関連障害のヒトにおいていつかは使用可能になり得ると示唆されている(Karpuj et al.、Nat Med.2002;8:143-149)。
【0017】
リソソーム蓄積症(LSD)は、様々な組織における特定のリソソーム酵素の欠損をそれぞれ特徴とする、約40の異なる一群の疾患である。この疾患は、全体で出生5,000件に約1件存在し、考慮すべき臨床的及び生化学的異質性を示す。2疾患(ハンター病及びファブリー病)は伴性遺伝であるが、大多数が常染色体劣性の異常として遺伝する。この疾患には、ガングリオシド蓄積症であるテイ-サックス病、並びに脂質蓄積障害であるゴーシェ病及びニーマン-ピック病が含まれる。こうした疾患の大部分は、脳を冒し、致死的である(Brooks et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:6216-6221)。
【0018】
こうした疾患の症状を治療するだけでは、成功に限界がある。一つの方法は、その酵素に代えて、酵素を生成することのできる正常な遺伝子を骨髄移植若しくは幹細胞移植又は遺伝子治療によって体に入れることである。骨髄移植(BMT)は、いくつかのLSDで成功を収めており、それほど重篤な症状なしに長期の生存が可能になっている。酵素補充療法(ERT)は、10年間にわたりゴーシェ病の患者に役立てられてきており、非常に大きな恩恵をもたらしてきた。しかし、多くの事例において、ニューロンは、それが自身の隣にあった場合でさえ大型の酵素を効率的に受け入れることができないので、この治療はまだ有効でない。神経再生の刺激及びニューロンのアポトーシスからの保護は、少なくとも、ニューロン症状及びそのようなリソソーム蓄積症の進行を緩和し、又は予防的な効果をもち得ると予想される。
【0019】
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の基本型の炎症性自己免疫障害であり、400人に1人が生存期間のリスクを負い、若年成人における神経性身体障害の最も一般的な原因となる潜在的可能性がある。世界的には、約2〜5百万の患者がこの疾患を患っている(Compston & Coles、Lancet 2002;359:1221-1231)。すべての複合形質でのように、この障害は、まだ特定されていない環境因子と感受性遺伝子の相互作用の結果として生じるものである。全体として、免疫系の関与、軸索及びグリアの急性炎症性傷害、機能の回復及び構造の修復、炎症後グリオーシス、並びに神経変性を含む要素が、事象カスケードのきっかけとなる。こうした過程の連続した関与が、回復のエピソード、持続的な欠陥を残すエピソード、及び二次的な進行を特徴とする臨床経過の基礎をなしている。治療の目的は、再発の発生頻度を減少させ、その長続きする影響を制限し、症状を軽減し、疾患の進行によって生じる身体障害を防ぎ、組織修復を促進することである。
【0020】
最近では、神経保護が、MS治療の重要な目標であることがわかっている。神経保護の範囲を広げることの根拠は、ニューロン及び軸索の傷害がMS病変の重要な特徴であるという証拠にある。軸索の損失は、進行性MSにおいて持続的な神経の欠陥を決定付ける見込みが最も高い。最近の研究では、軸索損傷は、疾患の初期及び病変出現の間に生じることが指摘されている。軸索変性の二つの異なる段階が特徴付けられているが、第一の段階は、活発なミエリン分解の間に起こり、第二の段階は、裸の軸索がそれ以上の損傷をより受けやすくなっていると思われる慢性の脱髄斑で起こる。しかし、退行性及び虚血性の中枢神経系傷害とは対照的に、MSの神経変性は、炎症性、おそらくは自己免疫性の過程によって引き起こされると思われる。したがって、MSでは、神経保護治療と有効な免疫調節を組み合わせる必要があるので、MSにおける神経保護の課題は、退行性及び虚血性の障害より難題である。しかし、軸索変性の正確な機序及びエフェクター分子はまだ規定されず、軸索保護的な治療はまだ確立されていない(Bruck & Stadelmann、Neurol Sci.2003;24:S265-S267;Hohlfeld、Int MS J 2003;10:103-105)。
【0021】
脊髄損傷(SCI)は、外傷性の事象によって、脊髄内の細胞が損傷され、又はシグナルを脊髄の上方及び下方へと中継する神経路が切断されたときに起こる。最も一般的なタイプのSCIとして、挫傷(脊髄の打撲)及び圧迫症(脊髄への圧力によって引き起こされる)が挙げられる。他のタイプの傷害には、裂傷(一部の神経線維の切断又は裂け、銃創によって引き起こされる損傷など)、及び脊髄中心症候群(脊髄頸部の皮質脊髄路への特定の損傷)が含まれる。重度のSCIはしばしば、麻痺(体の随意運動及び筋肉に対する制御の喪失)、並びに呼吸などの自律神経性の活動や、腸及び膀胱の制御などの他の活動を含めた、傷害箇所より下方の感覚及び反射機能の喪失を引き起こす。疼痛又は刺激に対する敏感性、筋けいれん、性機能不全などの他の症状が時間と共に発症する場合もある。SCI患者は、膀胱感染、肺感染、褥瘡などの二次的な医学的問題を発症する傾向もある。救急看護及びリハビリテーションにおける最近の進歩によって、多くのSCI患者が生存できるようになっているが、傷害の程度を軽減し、機能を回復させる方法は依然として限られている。急性SCIの即時の治療には、脊髄圧迫を軽減する技術、細胞損傷を最小限に抑えるための、メチルプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドでの迅速な(傷害の8時間以内の)薬物治療、及びそれ以上の傷害を防ぐための脊椎の椎骨の安定化が含まれる。SCIに関連する身体障害のタイプは、傷害の重症度、傷害が存在する脊髄の区分、及びどの神経線維が損傷を受けたかに応じて非常に様々である。成体哺乳類の中枢神経系は、SCI後に再生しないと長い間考えられてきた。しかし、最近では細胞置換が、霊長類脊髄において、神経の修復に寄与し、また治療強化のための有望なターゲットとなる、傷害に対する広範な自然の代償的応答として観察されている(Yang et al.、J Neurosci.2006;26:2157-2166)。神経幹細胞の同定を含めて、幹細胞生物学の分野における進歩は、損傷を受けた中枢神経系の再生、即ち内在性のそうした神経幹細胞の活性化を誘発することを目指す新規な治療戦略の開発のための新しい見識となっている(Okano、Ernst Schering Res Found Workshop.2006;60:215-228)。
【0022】
認知症は、脳の損傷又は疾患による、正常な老化から想定されるであろうものを超えた認知機能の進行性の低下である。特に冒される領域は、記憶、注意、言語、及び問題解決であろう。特に、この状態の後期では、罹患した者が、時間、場所、及び人の見当識を失う場合もある。大多数の認知症サブタイプについて、科学者による、その過程を緩慢にするタイプの薬物の作製が進んでいるものの、この病に対する治癒は存在しない。コリンエステラーゼ阻害剤は、疾患経過の初期にしばしば使用される。認知及び行動に対する治療処置も適切となる場合がある。N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)遮断薬として知られている部類に含まれるメマンチンは、FDAによって中程度から重度の認知症の治療用に認可されている。認知症の間、認知機能、例えば記憶力の低下には神経発生の欠陥が重要な役割を果たす。ニューロン細胞生成の回復は、痕跡記憶を獲得する能力に関連していたことが示されている。この結果は、成体において新たに生成されたニューロンが、海馬依存性記憶の形成に関与することを示唆している(Shors et al.、Nature 2001;410:372-376)。神経科学によって、認知の生物学が存在すること、並びに脳において神経発生とポトーシスが永久に対抗していることが示された。この薬理学のターゲットは、ニューロン及び認知能力の衰えに振り向けられている(Allain et al.、Psychol Neuropsychiatr Vieil.2003;1:151-156)。
【0023】
統合失調症は、最も一般的な精神病の一つである。約100人に1人(人口の1%)が統合失調症に罹患している。この障害は、世界中のいたるところで、またすべての人種及び文化に見られる。統合失調症には男女が同数で罹患するが、平均して、男性は女性より早期に統合失調症に罹る。一般に、男性は20代半ばに統合失調症の最初の徴候を示し、女性は20代の終わりに最初の徴候を示す。統合失調症は、米国では1年あたり325億ドルと推定されるおびただしいコストを社会に課している。統合失調症は、以下の症状、即ち、妄想、幻覚、混乱した思考及び発言、消極的な症状(引きこもり、無感情及び無表情、気力、意欲、及び活動の低下)、緊張病のうちのいくつかを特徴とする。統合失調症の主要な治療は、クロルプロマジン、ハロペリドール、オランザピン、クロザピン、チオリダジン、その他などの神経弛緩薬を主体とする。しかし、神経弛緩薬治療は、多くの場合、統合失調症の症状すべてを軽減するわけではない。また、抗精神病薬治療は、遅発性ジスキネジアなどの重度の副作用を伴う場合もある。統合失調症の病因は、遺伝的な影響が強いようにも思われるが、不明である。最近では、統合失調症が神経変性疾患の少なくとも一側面を有することが明らかになりつつある。特に、MR研究では、統合失調症患者において皮質の灰白質が急速に減少していることが明らかになった(Thompson et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2001;98:11650-11655;Cannon et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:3228-3233)。したがって、神経保護及び/又は神経再生の薬物療法によって統合失調症を治療することは妥当である。
【0024】
末梢神経障害は、神経系の一次病巣又は障害によって開始又は引き起こされる疼痛である。多くの分類系統が存在するが、通常は、中枢性の求心路遮断痛(deafferent pain)(即ち視床卒中後痛)と末梢性の求心路遮断痛(即ち大腿無感覚)とに分けられる。神経障害は、一つだけの神経を冒す場合(単神経障害)もあれば、いくつかの神経を冒す(多発神経障害)場合もある。神経障害は、異痛症、痛覚過敏、及び感覚不全である。一般的な症状には、焼けるような、刺すような、電気的な衝撃、又は深いうずくような感覚が含まれる。神経痛の原因としては、糖尿病性神経障害、三叉神経痛、複合性局所性疼痛症候群及び帯状疱疹後神経痛、尿毒症、エイズ、又は栄養欠乏が挙げられる。他の原因としては、圧迫症や絞扼などの力学的な圧力、直接の外傷、貫通性の傷害、挫傷、骨折若しくは脱臼;長引く松葉杖の使用のため若しくはあまりに長く一所から動かないため、又は腫瘍のために起こり得る、表面の神経(尺骨、橈骨、又は腓骨神経)を巻き込む圧迫;神経内出血;冷気若しくは放射線又はまれに特定の医薬若しくは毒性物質への曝露;並びにアテローム性動脈硬化症、全身性エリテマトーデス、強皮症、サルコイドーシス、関節リウマチ、結節性動脈周囲炎などの、血管障害又はコラーゲン障害が挙げられる。絞扼性神経障害の一般的な例は手根管症候群であり、コンピューターの使用が増えてきているので、より一般的になりつつある。末梢性神経障害の原因は多種多様であるが、こうした障害は、脱力、しびれ、異常感覚(灼熱感、くすぐり感、刺痛、打診痛などの知覚異常)、並びに腕、手、脚、及び/又は足の疼痛を含めた共通の症状を生じる。非常に多くの症例が原因不明となっている。
【0025】
根底にある状態を治療することで、末梢性神経障害のいくつかの症例は軽減することができる。他の症例では、治療を疼痛管理に集中させる場合もある。末梢性神経障害の治療は、原因に応じて異なる。例えば、糖尿病によって引き起こされる末梢性神経障害の治療は、糖尿病のコントロールを含む。腫瘍又は椎間板ヘルニアが原因である症例では、治療に、腫瘍を除去し、又は椎間板ヘルニアを修復する手術を含めることができる。絞扼性又は圧迫性神経障害の治療は、副子固定又は尺骨神経若しくは正中神経の外科的な除圧からなるものでよい。腓骨及び橈骨の圧迫性ニューロパシーは、圧迫の回避が必要となる場合もある。物理療法及び/又は副子は、拘縮の予防に有用な場合となり得る。末梢神経は、それ自体注目すべき再生能を有しており、神経成長因子を使用する新しい治療又は遺伝子治療によって、将来的には、回復へのより好適な機会さえもたらされるかもしれない。したがって、神経再生の薬物療法によって末梢神経のこの再生を強化することは妥当である。
【0026】
ヒトでは、認知能力を増強し、知能を高める方法が求められている。「知能」は、現代の理解では、単に論理的又は意味論上の能力に限らない。例えば、Howard Gardnerによる多重知能論は、進化論及び人類学の展望から知能を評価し、より一般に知能と関連付けられ、IQ試験によって測定される言語的/論理的な能力だけでなく、運動競技、音楽、芸術、及び共感の能力を含むより広い見解を得ている。知能のこのより広い意味は、創造性の領域にも及ぶ。さらに、ヒトでは、通常は約40歳で始まり、アルツハイマー病の初期徴候とは異なる、ARML(加齢による記憶喪失)又はMCI(軽度認知障害)又はARCD(加齢関連認知機能低下)としての非病的状態も知られている。
【0027】
神経細胞は、成人期を通して生理的に減少し、その数は1日100,000ニューロン程度と推定される。成人期を通して、脳の重量及び体積は徐々に減少する。この減少は、十年あたり約2%である。以前から抱かれていた考えに反して、この減少は50歳後では加速せず、初期成人期からほぼ同じペースで進み続ける。この減少の累積的な影響は、一般に高齢になるまで気付かれない。
【0028】
脳のサイズは収縮するが、均一には収縮しない。特定の構造はより縮みやすい。例えば、記憶に関与する二つの構造である海馬と前頭葉は、しばしばより小さくなる。これは、一部にはニューロンの減少によるものであり、一部には一部のニューロンの萎縮によるものである。他の多くの脳構造はサイズの損失を受けない。知的な処理の緩慢化は、ニューロンが失われるのか、収縮するのか、又は接続を失うのかはいずれにせよ、ニューロンの劣化によって引き起こされる場合もある。十分に機能するニューロンがこのように減少するので、そうでなければ簡単又は自動的なはずの知的な作業課題をなんとか成し遂げるためにニューロンの追加のネットワークを補充することが必要となる。したがって、その過程は速度が落ちる。
【0029】
前頭前野と呼ばれる前頭葉の一部分は、思考及び行動の監視及び制御に関与する。この脳領域で起こる萎縮は、多くの年配者が経験する、言葉を見いだす難しさの原因であるといえる。このことは、どこに車の鍵を置いたのかを忘れること、又は一般的な注意散漫の原因であるともいえる。前頭葉及び海馬の両方の萎縮は、記憶困難の原因であると考えられる。したがって、個人の認知能力を向上させ、又は高めることも依然として求められている。これは、脳の神経保護過程及び/又は神経再生過程を強化することにより実現できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
上記を考慮して、可塑性及び機能回復の強化又は神経系の細胞死に関係する神経疾患などの神経学的及び/又は精神医学的状態を治療することが求められている。詳細には、特に急性の神経学的状態の際に神経細胞に神経保護をもたらし、或いは特に脳卒中、脊髄損傷、又は脊髄損傷後の回復を可能にするために、神経発生を誘発してニューロンの減少から回復させることによって、神経疾患を治療することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
したがって、本発明の基礎をなす技術的な問題は、神経変性、又は神経発生の障害若しくは不十分によって引き起こされる神経学的及び/又は精神医学的状態を治療し、寛解させ、且つ/又は予防する手段及び方法の提供であるとみなすことができる。この技術的な問題は、特許請求の範囲及び以下で特徴付ける実施形態によって解決される。
【0032】
したがって、本発明は、ニューロン状態(neuronal condition)を治療及び/又は予防する医薬組成物を調製するための、一般式(I)の化合物の使用に関する。
【化1】
【0033】
[式中、
n=0、1又は2であり、但し、
n=0であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
n=1又は2であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、R4及びR5は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基、又は1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基を表す]。
【0034】
好ましくは、上述のハロゲン原子はクロロ原子である。
【0035】
好ましい本発明の化合物は、一般式(II)を有する。
【化2】
【0036】
[式中、
nは0又は1であり、R6は、上で示したような意味を有し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表す]。
【0037】
好ましくは、上述のハロゲン原子はクロロ原子である。
【0038】
好ましくは、R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基を表す。
【0039】
さらに、本発明の好ましい化合物は、一般式(III)を有する。
【化3】
【0040】
[式中、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基又はハロゲン原子を表す]。
【0041】
好ましくは、上述のハロゲン原子はクロロ原子である。
【0042】
好ましくは、R6は、アゼパノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、又はビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基を表す。
【0043】
一般式I及びIIは、ピペリン及びその誘導体を表す。一般式IIIは、ピペリンの誘導体を表す。
【0044】
より好ましくは、本発明の化合物は、ピペリン、トリコスタチン(Trichostachine)、ピペルロングミニン(Piperlonguminine)、5-E,E-ピペリノイルメチルアミン、5-E,E-ピペリノイルエチルアミン、5-E,E-ピペリノイルイソプロピルアミン、5-E,E-ピペリノイルシクロヘキシルアミン、5-E,E-ピペリノイルブチルアミン、デスピペリジル-メトキシピペリジン、5-E,E-ピペリノイルモルホリン、5-E,E-ピペリノイルヘキシルアミン、5-E,E-ピペリノイルピペリノイルアミン、5-E,E-ピペリン酸エチルエステル、5-E,E-ピペリン酸イソプロピルエステル、5-E,E-ピペリン酸プロピルエステル、5-E,E-ピペリン酸ブチルエステル、アンチエピレプシリン(Antiepilepsirine)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペニルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)モルホリン、3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリル酸メチルエステル、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド、1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド、3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド、N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン、ピペレッチン(Piperettine)、クマペリン(Coumaperine)、4'-メトキシイソ-クマペリン、ウィサニン(Wisanine)、1-(4-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(3-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(2-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-シンナモイル-ピペリジン、1-(3,4-ジメトキシ-シンナモイル)ピペリジン、3-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルプロピオン酸ピペリジド、1,2,3,4-テトラヒドロピペリン、ピペラニン(Piperanine)、カビシン、イソピペリン、又はイソカビシンである。
【0045】
特に、本発明の化合物はピペリンである。
【0046】
これらの化合物は、当業界で知られており、以下の表1で、化学名、式(I)の可変基の定義、及びその化合物に言及している参照事項を表示して一覧にしている。
【表1】
【0047】
本発明の使用及び方法で適用される上述の化合物は、本明細書に記載のin vitroアッセイによって測定したとき、ピペリンの神経再生及び/又は神経保護活性を少なくとも10%、より好ましくは50%保持することが好ましい。
【0048】
ピペリンは、クロコショウとして一般に知られているコショウ(Piper nigrum)やナガコショウとして一般に知られているヒハツ(Piper longum)などのコショウ科に属する植物中で自然に見いだされるアルカロイドである。ピペリンは、これらの植物中の主要な辛味物質であり、クロコショウ及びナガコショウの植物の果実から単離される。クロコショウという用語は、植物のコショウ(Piper nigrum)と主にその植物の果実中にある香辛料の両方に使用される。
【0049】
ピペリンは、基本的に水に不溶性の固体の物質である。ピペリンは、最初は無味であるが、強烈な後味を残す弱塩基である。ピペリンは、バニロイドファミリーという、辛いトウガラシの辛味物質であるカプサイシンも含まれるファミリーの化合物に属する。その分子式はC17H19NO3であり、分子量は285.34ダルトンである。ピペリンは、1-ピペロイルピペリジンのトランス-トランス立体異性体である。ピペリンは、(E,E)-1-ピペロイルピペリジン及び(E,E)-1-[5-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-1-オキソ-2,4-ペンタジエニル]ピペリジンとしても知られている。ピペリンは以下の化学構造によって表される。
【化4】
【0050】
ピペリンは、1819年にコペンハーゲンのエルステッドによって最初に手に入れられたが、彼はこれを有機塩基であると考えていた。ピペリンは、様々な方法で単離することができる。Cazeneuve及びCaillol(Jahresb.der Pharm.、1877、p.68)によれば、粉末にしたコショウを石灰乳と混合し、混合物を湯浴上で蒸発乾燥し、エーテルで抽出する。この溶媒を蒸発させると、不純な結晶の形のピペリンが残るが、これをアセトンから晶出させると最も良好に精製される(Fluckiger、1891)。スマトラ胡椒では平均8.10%、シンガポール白胡椒では9.15%のピペリンが得られる。Stevensonは、50gの胡椒からメチルアルコールで抽出物を調製し、炭酸カリウムによって樹脂分を溶かし出した(Stevenson、Amer.Jour.Pharm.、1885、p.513)。残渣のピペリンを水で洗浄し、アルコールから再結晶化している。
【0051】
米国特許第5,744,161号は、コショウ科の果実又は植物から得られる適切な含油樹脂材料からのピペリンの単離を記載している。イソ尿素、尿素、又は尿素誘導体を使用して、含油樹脂からピペリン以外の有機物を除去し、それによって高純度のピペリンを得ることができる(US6,054,585)。ヒドロトロープ水溶液を使用するピペリンの抽出は、米国特許第6,365,601号に記載されている。
【0052】
クロコショウ及びナガコショウは、アーユルヴェーダ医学で様々な疾患の治療に使用されてきた。そのような調製物の一つは、トリカトゥ(trikatu)というサンスクリット名で知られており、クロコショウ、ナガコショウ、及びショウガからなる。ピッパリ(pippali)というサンスクリット名で知られている別の調製物は、ナガコショウからなる。ピペリンは、こうしたアーユルヴェーダ療法の主要な生物活性物質の一つであると考えられる。
【0053】
ピペリンは、熱産生を増加させ、それが代謝に必要な栄養素の要求をもたらす。
【0054】
ピペリンは、推定上の抗炎症活性を有し、消化過程の促進において活性を有するかもしれない。ピペリンの推定上の抗炎症活性の機序は、一部には、存在するかもしれないピペリンの抗酸化活性によるものとみなすことができる。
【0055】
ピペリンは、カラゲナンによって誘発したラット足浮腫及び他の一部の炎症実験モデルにおいてかなりの抗炎症活性を示している。ある動物試験では、ピペリンによって、カラゲナンによって誘発した肝臓脂質過酸化、酸性ホスファターゼ、及び浮腫が軽減されている(Dhuley et al.、Indian J Exp Biol.1993;31:443-445;Mujumdar et al.、Jpn J Med Sci Biol.1990;433:95-100)。
【0056】
ラット腸管モデルでは、ピペリンは、いくつかの化学発癌物質によって誘発される酸化的変化に対する保護になると言われている(Khajuria et al.、Mol Cell Biochem.1998;189:113-118)。
【0057】
ピペリンが、数多くの薬物及びいくつかの栄養補助食品の生体利用度を有意に増大させ得ることを示す、動物及びヒトのin vitro研究が存在する(Atal et al.、J Pharmacol Exp Ther.1985;232:258-262;Badmaev et al.、Nutr Res.1999;19:381-388;Badmaev et al.、J Nutr Biochem.2000;11:109-113;Bano et al.、Eur J Clin Pharmacol.1991;41:615-617;Pattanaik et al.、Phytother Res.2006;20:683-686;US5616593;US5,972,382;US6,017,932;EP0650728;EP1494749)。報告によれば、この効果は、中でも一部の抗菌剤、抗原虫剤、抗蠕虫剤、抗ヒスタミン剤、非ステロイド性抗炎症剤、筋肉弛緩剤、及び抗癌剤で実証されている。ピペリンは、コエンザイムQ10、クルクミン、βカロチン、プロパノロール、及びテオフィリンの生体利用度も増大させている。
【0058】
その機序は、影響を受ける薬物の生体内変換に関与する特定の酵素の阻害によると考えられる。ピペリンは、薬物及び異物代謝の非特異的阻害剤であることがわかっている。ピペリンは、異なる多くのシトクロムP450アイソフォーム、並びにUDPグルクロニルトランスフェラーゼ、肝臓アリール炭化水素ヒドロキシラーゼ、及び薬物及び異物代謝に関与する他の酵素を阻害すると思われる。しかし、ピペリンが任意の選択された食事性物質又は薬物に与える効果について理論的根拠を予測することは未だ不可能である。
【0059】
その生体利用度に対する効果の他に、ピペリンは、βエンドルフィン、セロトニン、アドレナリン、メラニン、及び消化酵素の産生を刺激する、喘息症状及び疼痛を軽減する、胃の潰瘍化及び酸生成を減少させるなど、体内で他のいくつかの様々な作用を有する。
【0060】
ピペリン、及び一般式Iによって表されるその誘導体は、メラニン形成細胞の増殖を刺激することも実証されている。したがって、これらの化合物の医薬製剤は、皮膚色素沈着障害を治療することが示唆された(EP1094813)。
【0061】
クロコショウは、伝統的な中医学で発作性疾患の治療にも使用されてきた。ピペリン、及びアンチエピレプシリン(antiepilepsirine)などのその誘導体は、ある種の抗痙攣活性を有すると主張されており、したがって中国では一部の形態のてんかんの治療に使用されている(Pei、Epilepsia 1983;24:177-182;Liu et al.、Biochemical Pharmacology 1984;33:3883-3886)。
【0062】
マウスでは、腹腔内注射されたピペリンによって、カイニン酸で誘発した間代性痙攣が抑制された。L-グルタミン酸、N-メチルD-アスパラギン酸、又はグアニジノコハク酸によって誘発したてんかん発作活性は有意にブロックされなかった(D'Hooge et al.,Arzneimittelforschung.1996;46:557-560)。
【0063】
ヒトにおけるピペリンの薬物動態は、依然として完全には理解されていない。ラットでは、ピペリンは摂取後に吸収され、一部の代謝産物は同定されており、ピペロニル酸、ピペロニルアルコール、ピペロナール、及びバニリン酸が尿中に認められる。一代謝産物であるピペル酸は、胆汁中に見られる。ピペリンは、消化管から急速且つ十分に吸収される。他の物質の吸収に対する効果は、服用後15分位で始まり、1又は2時間持続する。血中濃度は、服用後約1〜2時間で最高点に達するが、代謝酵素に対する効果は、それよりはるかに長く持続する場合がある。さらなるヒト薬物動態研究が必要である。
【0064】
ピペリンは、構造的には、それぞれトウガラシ及びショウガ中に認められる、同じく辛味のする天然化合物のカプサイシン及びジンゲロンと関連している。共通してバニリル部分を有するこれらの化合物は、カプサゼピンによって阻害することのできるバニロイド受容体のアゴニストになり得る(Liu & Simon et al.、J Neurophysiol.1996;76:1858-1869)。ピペリンは、物質SB-366791によって選択的且つ強力に阻害することのできるバニロイド受容体サブタイプTRPV1を大部分活性化することがわかっている(McNamara et al.、Br J Pharmacology 2005;144:781-790;Varga et al.、Neurosci Lett.2005;385:137-142;Gunthrope et al.、Neuropharmacology 2004;46:133-146)。
【0065】
その式の小さな変更を含むピペリンの誘導体は通常、基本的に不変の生物学的効果を示す。したがって、そうした誘導体は、ピペリンの代わりに使用することができる。その機能活性を共通してもつピペリンの様々な誘導体、並びにその合成及び特徴付けは、文献によって知られている(EP1094813;Pei、Epilepsia 1983;24:177-182;Liu et al.、Biochemical Pharmacology 1984;33:3883-3886)。
【0066】
本発明に従って使用される化合物の単離及び/又は合成の方法は、文献によって知られている(US5,744,161;US6,054,585;US6,365,601;EP1094813;US6,346,539;Pei、Epilepsia 1983;24:177-182;Liu et al.、Biochemical Pharmacology 1984;33:3883-3886)。ピペリンの小さな化学的変更は、ピペリンの神経再生及び/又は神経保護効果を消すことなく、安定性、溶解性、血液-脳関門突破能などの物理的及び/又は生物学的性質を潜在的に向上させる場合がある。例えば薬物動態又は有害副作用のプロフィールを改善するために、当業者が薬理活性のある最初の化合物を改変することは、十分に確立された方法である。本明細書に記載のin vitro及びin vivoアッセイは、そのような改変型化合物の神経再生及び神経保護効果を試験するのに適する。
【0067】
ピペリン、並びにバニリル部分を共通に有する構造的に関連した化合物カプサイシン及びジンゲロンは、TRPV1受容体の既知の作動薬である(Liu & Simon et al.、J Neurophysiol.1996;76:1858-1869)。しかし、本発明によれば、ピペリンの神経再生及び神経保護効果は、この受容体へのアゴニスト作用の仲介によるものではないことがわかった。本明細書に記載のin vitroアッセイにおいて、カプサイシンでは検出可能な神経再生及び神経保護効果が見られない。その上、本明細書に記載のin vitroアッセイにおけるピペリンの神経再生及び神経保護効果は、特定のTRPV1受容体阻害剤SB366791によって低下しない。
【0068】
これらの知見のより詳細な内容は、実施例6に示す。
【0069】
用語「神経発生」とは、本明細書では、原則として、幹細胞からのニューロンの生成、好ましくは成体神経幹細胞からのニューロンの生成を指す。最近では、神経疾患の治療にとっての新たな神経細胞を生成すること(神経発生)の重要性が認識されつつある。他の多くの組織とは異なって、成熟した脳は修復能力が限られており、細胞分化の程度が並外れているために、残りの健常な組織が損傷を受けた脳の機能を想定できる程度が制限される。しかし、大脳ニューロンは、成体脳に残存する前駆細胞から派生するので、成体脳中の内在性の神経前駆体の刺激は、治療への潜在的可能性を有するといえることになる。
【0070】
神経発生は、神経幹細胞の新しいニューロンへの分化に基礎を置く。神経発生は、側脳室の側脳室下帯(SVZ)及び歯状回(DG)の顆粒細胞下帯(SGZ)を含めた成体脳の別個の領域で起こる。神経発生は、特に特定の神経学的パラダイム-例えば脳虚血後の成体動物で起こる(Jin et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2001;98:4710-4715;Jiang et al.、Stroke 2001;32:1201-1207;Kee et al.、Exp.Brain.Res.2001;136:313-320;Perfilieva et al.、J.Cereb.Blood Flow Metab.2001;21:211-217)。神経発生は、ヒトでも実証されており(Eriksson et al.、Nat Med.1998;4:1313-1317)、実際に機能性ニューロンをもたらす(van Praag et al.、Nature 2002;415:1030-1034)。特に、歯状回の顆粒細胞下帯、及び門は、成体神経幹細胞から新しいニューロンを生じる潜在的可能性を有する(Gage et al.、J Neurobiol 1998;36:249-266)。
【0071】
成体神経幹細胞は、胚性幹細胞が有するような、生物のすべての細胞型への分化能(全能性)はもたないが、脳組織の様々な細胞型に分化する潜在的可能性を有する(多能性)。分化の際、成体神経幹細胞は、重要な形態学的及び機能的変化を経る(van Praag et al.、Nature 2002;415:1030-1034)。ニューロン細胞の再生(神経再生)は、神経発生の機序に左右されるものであり、神経変性過程からの回復を可能にする。神経発生を誘発する能力を有する化合物は、(急性障害及び慢性神経変性疾患の両方において)ニューロン組織の再生の必要性が同様であるとき、複数の障害で使用できる可能性がある。
【0072】
用語「神経保護」は、例えば脳傷害後又は慢性神経変性疾患の結果としてのアポトーシス又は変性からニューロンを保護する、神経系内の機序を意味する。神経保護の目的は、CNS傷害後のニューロンの障害/死を制限することであり、脳における細胞相互作用の可能な限りの最高の完全性を保ち、乱されていない神経機能を得ることを試みるものである。種々の神経保護生成物が研究中である(例えば、フリーラジカルスカベンジャー、アポトーシス阻害剤、神経栄養因子、金属イオンキレート剤、及び抗興奮毒性剤)。神経保護生成物は、(急性障害及び慢性神経変性疾患の両方において)神経組織への損傷の根底にある機序の多くが同様であるとき、複数の障害で使用できる可能性がある。
【0073】
好都合なことに、ピペリンやその誘導体などの神経再生作用のある化合物は、進行性のニューロン減少後の後期でさえも神経学的状態の治療を可能にする。この分野の一般の認識は、ヒトにおける血餅溶解による急性脳卒中治療の機会の枠は、時間に制限されるというものである。組換え型TPAでは、脳卒中発症後の認可された時間枠は3時間であるが、しかし、治療はおそらく4.5時間まで効果的である(Davalos、Cerebrovasc Dis 2005;20 Suppl 2:135-139)。神経保護によって脳組織を救えるかもしれない患者を特定することを考える概念は、拡散/灌流ミスマッチ概念である。ミスマッチを示す患者の百分率及びミスマッチ体積の程度は、時間と共に減少するが、ミスマッチ理論によれば神経保護の治療時間枠の終わりであるといえる24時間でも、一部の患者において検出可能であることが示唆されている(Baron & Moseley、J Stroke Cerebrovasc Dis 2000;9:15-20)。血液循環を回復させること、したがって虚血及び低酸素条件の排除、又は神経保護は、脳卒中発症後4,5時間まで、又は最も遅くとも24時間までしか有効でないと想定される。単に神経保護の機序によって働く化合物は、ニューロンが死んでいく進行中の過程を停止し、又は弱めるのに使用することしかできない。対照的に、神経再生化合物は、すでに起こってしまったニューロンの減少を逆行させることができ、脳卒中などの急性神経疾患、又はさらに慢性神経疾患の影響を停止し、又は弱めるだけでなく、逆行させる潜在的可能性をも有する。神経再生化合物は、脳卒中発症後4,5時間より後、又はさらには24時間より後に治療を開始したとしても、脳卒中の治療に有効な場合がある。
【0074】
詳細には、本発明に従う化合物が、神経保護及び神経再生効果を有することが予想外に判明した。したがって、こうした化合物は、神経保護及び/又は神経再生の必要のある神経学的状態又は疾患の治療に単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0075】
したがって、本発明は、神経学的状態を有する患者を治療する方法であって、前記神経学的状態に罹患している患者に上で規定したような化合物を治療有効量で投与することを含む方法も企図する。治療対象となる好ましい神経学的状態又は疾患は、本明細書の他の場所で明確に参照される。
【0076】
本発明による化合物は、虚血性病変後に神経発生を強化する、したがって例えば行動に関する成果を改善する能力を有することがわかっている。神経発生は、神経回路網の可塑性を増大させることができ、ニューロンの漸進的な減少を補充することのできる一つの機序である。したがって、本発明の一実施形態は、認知の喪失を患い、示し、且つ/又はそれがいくらかのレベルであると考えられる個人に、本明細書で記載するような1種又は複数の組成物を、本明細書中の投与の論述に従ってその個人に投与することにより、認知能力の強化、向上、又は増強をもたらすことである。代替実施形態では、認知の強化は、病理学的でない状態の個人、例えば認知障害を示さない個人のためになる場合もある。
【0077】
本発明の化合物は、神経再生活性に加えて、ニューロン細胞に対して抗アポトーシス性の働きをし、それによってニューロンの生存能を強化できることもわかった。したがって、本発明に従う化合物は、神経保護化合物であるとみなすことができる。用語「神経保護化合物」とは、in vitro(細胞培養系)若しくはin vivo(脳卒中、ALS、ハンチントン病など、虚血性疾患、低酸素性疾患、及び/又は神経変性疾患の動物モデル)で、又はヒト患者において神経細胞及び/又は脳組織に対して保護効果を有する物質を全部指す。
【0078】
本発明による化合物の神経再生効果は、神経幹細胞の分化へのその刺激作用を測定することにより、in vitroで検定することができる。したがって、成体神経幹細胞を単離し、続いて適切な培地で培養しなければならない。in vitroで数回継代した後、幹細胞に、その一方は構成的プロモーターの制御下にあり、他方はβ-IIIチューブリンプロモーターの制御下にある2種の区別できるレポータータンパク質をコードするDNA構築物を同時トランスフェクションしなければならない。β-IIIチューブリンプロモーターは、神経幹細胞分化の過程の間に誘導され、したがってこのプロモーターの制御下にあるレポータータンパク質は、このようなin vitro二重レポーターアッセイで幹細胞分化のマーカーとして役立つ(Schneider et al.、J Clin Investigation 2005;115:2083-2098)。当業者には、SV40プロモーター、TKプロモーター、又はCMVプロモーターなどのいくつかの適切な構成的プロモーターが知られている。このような二重レポーターアッセイ用の区別できるレポータータンパク質としては、ホタルルシフェラーゼとウミシイタケルシフェラーゼなどの、区別できるルシフェラーゼを使用することができる。トランスフェクションした細胞は、試験化合物と共に、また標準化及びバックグラウンド補正のための陽性及び陰性対照と共にインキュベートしなければならない。陽性対照化合物としては、レチノイン酸を使用することができ(Guan et al.、Cell Tissue Res.2001;305:171-176;Jacobs et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2006;103:3902-3907)、適切な陰性対照は、細胞の偽処理である。試験化合物の神経再生活性は、β-IIIチューブリンプロモーターによって制御されたレポーターのシグナル対構成的に発現させたレポーターのシグナルの比として測定し、対照の何倍かで示す。このアッセイは、ピペリン及びその誘導体の神経再生活性を評価するのに適するが、他の潜在的な神経再生化合物のスクリーニングに使用することもできる。好ましくは、そのようなスクリーニングは、その毒性学、生体利用度、溶解性、安定性などに関して、医薬として適することが予めわかって
いる化合物を試験するのに使用できることが好ましい。
【0079】
神経再生効果の評価のためのこのようなin vitroアッセイのより詳細な内容は、実施例1及び2に示す。
【0080】
本発明者らは、ピペリンの神経組織発生効果をin vivoで実証することもできた。成体脳中の新たに生じたニューロンのピペリン投与による刺激は、BrdU/NeuN二重染色によって分析することができる(Bagley et al.BMC Neurosci 2007;8:92)。その結果は、ピペリン及びその誘導体の神経組織発生効果のin vitroでの評価が、in vivoでの状況を予測するものであることを明らかに示すものである。
【0081】
神経組織発生効果のin vivo分析のより詳細な内容は、実施例10に示す。
【0082】
神経保護は、冒されたニューロンのアポトーシスの阻害によって実現できる。ピペリン及びその誘導体の抗アポトーシス効果は、カスパーゼ3及びカスパーゼ7活性を測定することにより、in vitroで検定することができる。システインアスパラギン酸特異的プロテアーゼ(カスパーゼ)ファミリーのこのようなメンバーは、哺乳動物細胞のアポトーシスにおいて鍵となるエフェクターの役割を果たす。皮質ニューロンは、単離し、続いて適切な培地中で培養しなければならない。細胞は、スタウロスポリンなどのアポトーシス性物質の存在下で試験化合物と共にインキュベートしなければならない。スタウロスポリンのみ及び細胞の偽処理との平行した手法が、陰性及び陽性対照として役立つ。このアッセイによって、試験化合物がスタウロスポリンによるアポトーシス性の影響を完全に又は部分的に埋め合わせできるかどうかを評価することが可能になる。このアッセイは、ピペリン及びその誘導体の神経保護活性を評価するのに適するが、他の潜在的な神経保護化合物のスクリーニングに使用することもできる。好ましくは、このようなスクリーニングは、その毒性学、生体利用度、溶解性、安定性などに関して医薬として適切であることが予めわかっている化合物を試験するのに使用できることが好ましい。
【0083】
さらに、ピペリン及びその誘導体は、運動ニューロン細胞系に対しても神経保護の働きをすることがわかった。ALSでは運動ニューロンが冒されるので、このことは、本発明による化合物が慢性神経変性疾患、即ちALSの治療に適することを明らかに示している。
【0084】
ニューロン又は運動ニューロンに対する抗アポトーシス効果を評価するためのこのようなin vitroアッセイのより詳細な内容は、実施例3、4及び10に示す。
【0085】
生存能アッセイでは、ニューロンなどの細胞へのその影響に関して、試験化合物をさらに評価することが可能になる。したがって、レポーター構築物(例えばルシフェラーゼ構築物)をしっかりとトランスフェクションした細胞系(例えばSH-SY5Y細胞)を、試験化合物と共に、また陽性及び陰性対照(例えば、それぞれスタウロスポリン及び偽処理)と並行してインキュベートしなければならない。続いて、レポーター構築物によって生成されたシグナルが、試験化合物存在下での細胞の生存度についての読み値となる。このアッセイによって、試験化合物それ自体の潜在的な神経毒的影響を評価できるようになる。発明者らは、このアッセイにおいてピペリン及びその誘導体が細胞傷害性の影響を及ぼさないことを見いだした。
【0086】
ニューロンの生存能への影響を評価するためのこのようなin vitroアッセイのより詳細な内容は、実施例5に示す。
【0087】
試験化合物のin vivoでの効果をさらに評価するのに、特定の神経学的状態及び疾患の動物モデルを使用することができる。ラットMCAOモデル(中大脳閉塞、細糸モデル)は、異なる広範な種類のニューロンが虚血/低酸素によって損傷を受けている、脳卒中の動物モデルである。様々な神経学的状態の別の動物モデルは、当業者によってよく知られている。そのような動物モデルは、例えば、その限りでないが、筋萎縮性側索硬化症のSOD1G93Aトランスジェニックマウス(Almer et al.、J Neurochem 1999;72:2415-2425)、アルツハイマー病のAPPトランスジェニックマウス(Janus & Westaway、Physiol Behav 2001;73:873-886)、ハンチントン病のエキソン-1-ハンチンチントランスジェニックマウス(Sathasivam et al.、Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci.1999;354:963-969)、及びフリードライヒ失調症のFRDAトランスジェニックマウス(Al-Mahdawi Genomics 2006:88:580-590)である。試験化合物で処置した動物は、偽の処置を施した動物と比較しなければならない。発明者らは、ラットMCAOモデル動物のピペリンでの処置によって、梗塞巣体積が偽処置と比較して有意に縮小したことを見いだした。この分析は、脳卒中などの神経学的状態においてピペリンがin vivoで神経保護及び/又は神経再生活性を示すことを実証している。この分析は、ピペリンの誘導体の神経保護及び/又は神経再生活性を評価するのにも使用できる。
【0088】
同様に、発明者らは、実験的なSCIのマウスをピペリン処置すると、偽処置と比較して明らかに改善された成果が得られたことを見いだしたが、これは、ピペリンの神経保護及び/又は神経再生活性をさらにin vivoで実証するものである。
【0089】
脳卒中及びSCIの動物モデルにおけるピペリンの分析のより詳細な内容は、実施例7及び8に示す。
【0090】
本発明に従う化合物は、単独で、互いに組み合わせて、且つ/又は1種又は複数の追加の要素と組み合わせて、神経保護及び神経再生の必要のある神経学的状態の治療に使用することができる。そうした神経学的状態は、脳虚血(脳卒中、外傷性脳損傷、又は心臓循環器系の停止による脳虚血など)、筋萎縮性側索硬化症、緑内障、アルツハイマー病、神経変性トリヌクレオチド反復障害(ハンチントン病など)、神経変性リソソーム蓄積症、多発性硬化症、脊髄損傷、脊髄外傷、認知症、統合失調症、及び末梢性神経障害を含む。さらに、前記化合物は、単独で、互いに組み合わせて、且つ/又は1種又は複数の追加の要素と組み合わせて、例えば、加齢による記憶喪失、軽度認知障害、加齢関連認知機能低下などの非病理学的状態の場合に、学習及び記憶の強化に使用することもできる。
【0091】
本発明の使用及び方法の好ましい実施形態では、本明細書で規定する化合物が、医薬組成物に含まれる唯一の神経組織発生及び/又は神経保護化合物である。したがって、医薬組成物は、追加の神経組織発生及び/又は神経保護化合物を含まないことが好ましい。しかし、前記医薬組成物が、本明細書で規定する化合物、及びしたがってピペリン誘導体の組合せを含んでもよいことは理解されたい。また、医薬組成物、詳細には虚血性脳卒中に罹患している対象の治療用に調製される医薬組成物は、血栓溶解性且つ/又は抗血栓形成性の化合物、詳細には組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)やアスピリン(アセチルサリチル酸)などの化合物を含んでもよい。また、この医薬組成物が、本明細書で規定する対象に投与される唯一の活性神経組織発生及び/又は神経保護化合物であることが好ましい。
【0092】
本発明の使用及び方法の好ましい実施形態では、本明細書で規定する化合物は、単独で、互いに組み合わせて、且つ/又は1種又は複数の追加の非神経組織発生及び非神経保護要素と組み合わせて、神経組織の虚血及び/又は低酸素に基づく神経学的状態、例えば、脳虚血(例えば脳卒中、外傷性脳損傷、又は心臓循環器系の停止による脳虚血)、緑内障、脊髄損傷、脊髄外傷を、その状態の患者のニューロン細胞に保護及び再生をもたらすことによって治療するのに使用することができる。これらの神経学的状態において活発な病理学的及び保護的過程が共通していることは、本発明による化合物での治療が同等に有効となることを示唆している。
【0093】
「治療する」とは、疾患又は状態の進行を緩慢にし、中断し、阻止し、又は停止することを意味し、すべての疾患症状及び徴候の完全な消失を必ずしも必要としない。また、用語「治療する」は、本明細書で参照される神経疾患又は障害に罹患している対象の状態を寛解させることも指す。さらに、当業者にはわかるとおり、このような治療は通常、治療を受ける対象の100%に有効となることを意図しない。しかし、この用語では、統計学的に有意な割合の対象を効率的に治療することができる、即ち症状及び臨床徴候を寛解させることができる必要がある。割合が統計学的に有意であるかどうかは、よく知られている様々な統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、Mann-Whitney検定などを使用して、当業者によって難なく決定することができる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001であることが好ましい。
【0094】
特定の神経疾患(例えば筋萎縮性側索硬化症及びハンチントン病)では、疾患の遺伝マーカー又は家族性集積に基づき素因を判定することができる。他の神経学的状態(例えば脳卒中などの脳虚血)では、喫煙、栄養不良、又は特定の血中濃度などの様々なリスクファクターが当業者に知られている。このような神経疾患の治療は、臨床症状が発現する前でさえ、非常に早く開始したとき最も有望である(Ludolph、J Neurol 2000;247:VI/13-VI/18)。疾患のその段階では、分子及び細胞の損傷はすでに始まっている。神経再生及び/又は神経保護化合物は、細胞の損傷(即ちニューロンの減少)が始まったところですぐに投与されたとき、神経学的状態又は疾患を最も効果的に予防することは明らかである。
【0095】
ピペリンなどの本発明に従って使用される化合物は、長期間適用されたとしても十分に耐容性を示すので、そのような神経学的状態又は疾患になるリスクのある患者の治療に予防策として使用することができる。予防的な投与は、化合物のレベルが神経発生の刺激及び神経保護に有効な量で持続することが確立される方法で施すべきである。
【0096】
「予防する」は、神経疾患又は状態の予防策を含むものとし、「予防策」は、その限りでないが疾患又は状態の完全な予防を含めて、疾患又は状態の発症の時期又は徴候若しくは症状の重症度の任意の程度の抑制であると理解される。さらに、当業者にはわかるとおり、このような予防は通常、それを受ける対象の100%に有効となることを意図しない。しかし、この用語では、統計学的に有意な割合の対象を、将来的に、本明細書で参照される疾患又は状態にならないように効率的に予防できることが必要となる。割合が統計学的に有意であるかどうかは、本明細書において他の場所で参照される、よく知られている様々な統計評価ツールを使用して、当業者によって難なく判定することができる。
【0097】
本発明に従う化合物及びその組合せは、液状の溶液又は懸濁液、錠剤、丸剤、粉末、坐剤、高分子マイクロカプセル又はマイクロベシクル、リポソーム、並びに注射用又は注入用溶液が挙げられるがこれに限らない様々な剤形で投与することができる。好ましい形態は、投与方式及び治療用途に応じて決まる。
【0098】
投与経路としては、例えば、経口、皮下、経皮、皮内、直腸、経膣、筋肉内、静脈内、動脈内、脳への直接の注射、及び非経口を含めた典型的な経路を挙げることができる。医薬製剤は、局所的な使用に適合させることもできる。さらに、状況によっては、肺への投与、例えば肺スプレー及び他の呼吸用形態が有用な場合もある。
【0099】
肺スプレーに加え、(例えば点鼻薬による)鼻腔内(IN)送達も、神経学的/精神医学的状態のための本発明の組成物を送達する好ましい適用方式である。鼻腔内送達は、タンパク質及びペプチドの適用方式とするのに十分に適しており、特に長期間の治療のための使用に非常に好都合である。ペプチド又はタンパク質を脳に適用するための鼻腔内送達(点鼻薬)の使用の例は、以下の文献で見ることができる(Lyritis & Trovas、Bone 2002;30:71S-74S、Dhillo & Bloom、Curr Opin Pharmacol 2001;1:651-655、Thorne & Frey、Clin Pharmacokinet 2001;40:907-946、Tirucherai et al.、Expert Opin Biol Ther 2001;1:49-66、Jin et al.、Ann Neurol 2003;53:405-409、Lemere et al.、Neurobiol Aging 2002;23:991-1000、Lawrence、Lancet 2002;359:1674、Liu et al.、Neurosci Lett 2001;308:91-94)。鼻腔内の適用では、本明細書に記載の化合物を、溶媒、界面活性剤、並びに鼻の血管を広げ、灌流を増加させる薬物などの、鼻粘膜上皮の浸透又は血管への送達を増強する物質と組み合わせることができる。
【0100】
本発明による上述の物質は、当業界で利用可能な標準の手順に従って医学的な目的のために製剤することができ、例えば、薬学的に許容できる担体(又は医薬添加剤)を加えることができる。担体又は医薬添加剤は、活性成分の媒体又は媒質とすることのできる固体、半固体、又は液体の材料でよい。適切な形態及び投与方式は、選択した生成物の特定の特性、治療する疾患又は状態、疾患又は状態の段階、並びに他の関連する状況に応じて選択することができる(Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.(1990))。薬学的に許容できる担体又は医薬添加剤の比率及び種類は、選択した物質の溶解性及び化学的性質、選択した投与経路、並びに標準の薬学的慣行によって求める。局所用製剤は、オレイン酸、プロピレングリコール、エタノール、尿素、ラウリンジエタノールアミド(lauric diethanolamide)又はアゾン(azone)、ジメチルスルホキシド、デシルメチルスルホキシド、ピロリドン誘導体などの浸透性改善剤も含有してよい。リポソーム送達系を使用してもよい。
【0101】
本発明の使用及び方法で治療を受ける対象は、哺乳動物、より好ましくはモルモット、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、雌ウシ、ヒツジ、サル、又はチンパンジーであることが好ましく、ヒトであることが最も好ましい。
【0102】
神経学的状態を治療するための化合物の治療有効量は、その要素を単独又は組合せのどちらで使用するときも、神経保護及び/又は神経再生効果をもたらす量で使用すべきである。そのような効果は、本明細書に記載のアッセイによって評価することができる。治療有効量は、化合物につき又は組合せとして約0.01〜約10mg/kg体重の範囲に及ぶことが好ましく、年齢、人種、性別、投与方式、及び個々の患者ベースの他の要素に基づいて決定することができる。化合物は、治療する神経学的状態及び投与経路に応じて、単一のボーラスとして、又は例えば1日量として繰り返し投与することができる。化合物は、組み合わせて投与するとき、投与前に予め混合し、同時に投与してもよいし、又は単独で連続して投与してもよい。本明細書で記載するような神経学的な状態を治療する、特に脳卒中、SCI、TBIなどの急性の神経学的状態を治療する特定の実施形態では、本明細書に記載の化合物の多めの用量が特に有用となる場合があり、例えば、少なくとも10mg/kg体重、少なくとも50mg/kg体重、又は少なくとも200mg/kg体重を使用することができる。本明細書に記載の化合物、特にピペリンは、急性の神経学的状態の治療には、1〜10日、好ましくは1〜5日の期間中に2〜200mg/kg体重、より好ましくは5〜50mg/kg体重の用量で投与することが好ましい。ピペリンには神経再生効果があるので、その後少なめの用量で長期間にわたり治療することが得策である。10mg/kg体重の用量(静脈内ボーラス)が、ラットモデルにおける脳卒中治療の有効量であることを発明者らは示している(実施例7)。さらに、5日の期間中に5〜50mg/kg体重の用量が、神経発生の刺激のための有効量であることを発明者らは示している(実施例9)。
【0103】
ピペリンは、50mg/kgの静脈内ボーラス後にラット脳組織において最大濃度約4μg/mlで見い出されている(Sunkara at al.、Pharmazie 2001;56:640-642)。当業者には、動物モデルからヒト用量を推測する手法が知られている(Boxenbaum & DiLea、J Clin Pharmacol 1995;35:957-966)。ピペリンを共投与される薬物の生体利用度を高める目的でヒト患者に1日約5〜20mgの量で経口投与することがすでに報告されている(US5616593;US5536506;Pattanaik et al.、Phytother Res.2006;20:683-686)。この用量ではピペリンは十分に耐容性を示すようである。
【0104】
ALSや認知症などの慢性の神経変性過程の場合では、治療は、1日1回であることがより適当となり、又は緩徐放出製剤を使用することが好ましい。
【0105】
別の実施形態では、本発明は、特に徐放及び長期間の一定の適用に適したデバイスも提供するが、そのデバイスは、(例えば、Edith Mathiowitz;(Ed.)、Encyclopedia of Controlled Drug Delivery、John Wiley & Sons 1999;2:896-920に記載されているような)好ましくは皮下移植される、移植型ミニポンプでよい。このようなポンプは、インスリン治療において有用であることが知られている。そのようなポンプの例として、Animas、Dana Diabecare、Deltec Cozm、Disetronic Switzerland、Medtronic、及びNipro Amigoによって製造/販売されているもの、並びに例えば、その関連する内容が参照により本明細書に援用される米国特許第5,474,552号、第6,558,345号、第6,122,536号、第5,492,534号、及び第6,551,276号に記載のものが挙げられる。
【0106】
一実施形態では、医薬は、1種又は複数の追加要素をさらに含むことができる。「追加要素」とは、本発明によれば、医薬の有益な効果をさらに支える任意の物質である。その支持は、累積的なものでも相乗的なものでもよい。適切な追加要素は、例えば、炎症をモジュレートする要素を備えた要素である。任意の調製物の静脈内適用にブラジキニン又は類似の物質を追加すると、脳又は脊髄へのその送達が支えられる(Emerich et al.、Clin Pharmacokinet 2001;40:105-123;Siegal et al.、Clin Pharmacokinet 2002;41:171-186)。血液脳関門の通過を容易にする薬剤を使用してもよい。当業者は、個々の疾病の治療に有益な追加要素に精通している。
【0107】
血液脳関門を超えるその能力を増進し、又はその分配係数を脳組織の方へ移行させる、本発明による医薬の変更形態又は医薬製剤も好ましい。
【0108】
ラット脳卒中モデルについて示すように(実施例7)、本発明において規定する化合物の大用量の単回投与は、神経学的症状が突然発症する急性の神経学的状態の治療、特に脳卒中、脊髄損傷(SCI)、脊髄外傷、及び外傷性脳損傷(TBI)の治療に特に有利である。
【0109】
したがって、本発明は特に、脳卒中、SCI、脊髄外傷、及びTBIからなる群から選択される急性の神経学的状態を治療する医薬組成物を調製するための本明細書で規定する化合物の使用に関するものであり、前記化合物、好ましくはピペリンが、前記急性の神経学的状態が発症した後、1〜10日、好ましくは1〜5日の期間中に2〜200mg/kg体重、より好ましくは5〜50mg/kg体重の量(用量)で提供される。前記量は、全量(ボーラス)として、少量ずつ、又は連続的に提供できることが好ましい。前記化合物は、好ましくは少なくとも10mg/kg体重の前記化合物、好ましくはピペリンのボーラス用量として提供されることがより好ましい。
【0110】
上述の医薬組成物は、特に、急性の神経学的事象、即ち、機能性ニューロンの進行中の減少に陥っている対象の応急手段に有利である。用語「脳卒中」は、好ましくは出血性脳卒中、より好ましくは虚血性脳卒中を指す。
【0111】
本明細書で規定する化合物の投与は、急性事象の影響を有意に軽減する、即ち前記急性事象を原因として機能を失うニューロンの数を有意に減少させる。ピペリンの化合物の大規模単回用量の投与が特に有利である。
【0112】
用語「ボーラス」は、本明細書では、好ましくは、化合物を単回用量として投与することを意味する。
【0113】
用語「少なくとも10mg/kg体重」は、本明細書では、10mg/kg体重又は10mg/kg体重より多いものに関する。好ましくは、この用語は、少なくとも15mg/kg体重、少なくとも20mg/kg体重、少なくとも30mg/kg体重、少なくとも40mg/kg体重、又は少なくとも50mg/kg体重に関する。本発明の上述の使用に関して、本明細書で規定する化合物の体重1kgあたり10mgの投与が特に企図される。対象に投与される量は、前記対象にいかなる毒性の影響も及ぼすべきでなく、又は前記対象に毒性の影響をほどほどにしか及ぼすべきでないことを理解されたい。化合物の毒性の影響を測定する方法は、当業界でよく知られている。したがって、投与される化合物の量の好ましい上限は、ボーラス用量として50mg/kgである。かくして、本発明によれば、急性の神経学的状態に本発明の化合物を適用する最適な用量範囲が決定された。
【0114】
上述のように、本発明において規定される化合物は、驚いたことに神経組織発生効果を有する。即ち、本明細書で規定する化合物を含む医薬組成物は、機能性ニューロンの減少をもたらした急性の神経学的状態の後療法に特に有利である。
【0115】
したがって、本発明は特に、ニューロンの減少を示す対象において神経発生を強化する医薬組成物を調製するための上で規定したような化合物の使用に関する。
【0116】
ニューロンの減少を示す対象は、特に、以前からのニューロンの減少のある対象である。より好ましくは、前記対象は、本明細書で参照される神経学的状態の結果として機能性ニューロンの数が減少している対象である。好ましい神経学的状態は、本明細書の他の場所に記載している。前記のニューロンの減少は、筋萎縮性側索硬化症、緑内障、アルツハイマー病、神経変性トリヌクレオチド反復障害(ハンチントン病など)、神経変性リソソーム蓄積症、多発性硬化症、認知症、統合失調症、及び末梢性神経障害からなる群から選択される神経変性障害によって引き起こされるものであることが好ましい。前記のニューロンの減少は、脳卒中、TBI、心臓循環器系の停止による脳虚血、SCI、及び脊髄外傷からなる群から選択される、以前の急性の神経学的状態によって引き起こされたものであることがより好ましい。前記のニューロンの減少は、脳卒中、SCI、脊髄外傷、及びTBIからなる群から選択される、以前の急性の神経学的状態によって引き起こされたものであることが最も好ましい。
【0117】
さらに、本明細書で規定する化合物の使用は、後期の神経学的状態に付随するニューロン減少を治療する薬学的条件の準備に特に有利である。前記の後期の神経学的状態は、脳卒中、脊髄損傷、脊髄外傷、又は外傷性脳損傷の後期であることが好ましい。急性の神経学的状態の後期にある対象は、その段階での血餅溶解によって、特に虚血によるニューロン細胞への影響を逆行させることができないので、血餅溶解を可能にする血栓溶解薬では十分に治療することができない(例えば、Davalos、Cerebrovasc Dis 2005;20 Suppl 2:135-139を参照されたい)。本発明において規定する化合物は、急性事象の後期に付随するニューロン減少を治療することができ、したがって、投与すれば、前記対象の転帰及び回復に関して有益である。
【0118】
急性の神経学的状態が急性脳卒中である場合、用語「後期」は、好ましくは脳卒中発症後3〜72時間、より好ましくは4.5〜72時間、より好ましくは4.5〜24時間、最も好ましくは24〜72時間の間隔を指すことが好ましい。急性の神経学的状態が脊髄損傷である場合、用語「後期」は、好ましくは前記脊髄損傷が起こった後3〜72時間、より好ましくは4.5〜72時間、より好ましくは4.5〜24時間、最も好ましくは24〜72時間の間隔を指すことが好ましい。急性の神経学的状態が外傷性脳損傷である場合、用語「後期」は、好ましくは前記外傷性脳損傷が起こった後3〜72時間、より好ましくは4.5〜72時間、より好ましくは4.5〜24時間、最も好ましくは24〜72時間の間隔を指すことが好ましい。
【0119】
対象が神経学的な状態、特に、この記述の他の場所に詳述した状態に罹患した後、神経学的な機能を本質的に回復させ、又は少なくとも向上させるためには、リハビリテーション手段が通常は必要である。本発明の化合物の投与は、さらに、神経組織発生効果を誘発することができるので、リハビリテーション手段として適切であることが、本発明の基礎となる研究において判明した。したがって、本発明の化合物によって治療されるニューロン状態には、一実施形態において、急性の神経学的状態、特に脳卒中、脊髄損傷、又は外傷性脳損傷からのリハビリテーションも含まれる。本発明の化合物を適用するリハビリテーションは、神経学的状態が生じてから少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1カ月、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも1年後に実施することが好ましい。対象は、その時点では事実上、急性の神経学的状態にそれ以上罹患していないことは理解されよう。
【0120】
本発明において規定する化合物を、過去に上述の急性の神経学的状態のいずれか、好ましくは脳卒中、SCI、脊髄外傷、又はTBIに罹患したことのある対象のリハビリテーション向けに薬学的な条件を準備するのに使用することも特に企図する。
【0121】
用語「神経発生」については、本明細書で他の場所に記載している(上記を参照されたい)。他の場所で言及したように、本発明において規定する化合物は、好ましくは、成体神経幹細胞からのニューロンの生成を強化し、それによってニューロンの減少に陥っている対象の状態を改善することができる。神経発生は、好ましくは、本発明において規定する化合物が投与された対象において、神経幹細胞からのニューロン細胞の生成が、前記化合物が投与されなかった対象における神経幹細胞からのニューロンの生成と比べて有意に増加するとき、強化されている。ニューロン細胞の生成の増加は、統計学的に有意な増加であることがより好ましい。
【0122】
用語「有意な」及び「統計学的に有意な」は、当業者によって知られている。したがって、増加が有意であるか又は統計学的に有意であるかどうかは、よく知られている様々な統計評価ツールを使用して、当業者によって難なく判定することができる。
【0123】
本発明によれば、神経幹細胞からのニューロンの生成の増加が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも100%であることを有意であるとみなす。
【0124】
神経発生の強化は、好ましくは、投与される化合物の量及び/又は投与期間に応じて様々となることを理解されたい。
【0125】
神経発生を可能にするためには、本発明において規定する化合物を一定期間にわたり規則的に投与することが好ましい。前記化合物を毎月、隔月で、毎週、隔週で、又はさらに頻繁に、好ましくは毎日投与することを特に企図する。規則的な投与は、少なくとも3カ月間、6カ月間、より好ましくは少なくとも1年間にわたることが好ましい。
【0126】
神経発生を可能にするには、本発明において規定する化合物を、本明細書において他の場所で指定するとおりに投与する。
【0127】
本明細書で規定する化合物、好ましくはピペリンの毎日の投与では、投与する量は、治療有効量であることが好ましい。
【0128】
本発明はまた、ニューロンの減少を示す患者の治療方法であって、本明細書で規定する化合物を前記対象に治療有効量投与することを含む方法に関する。
【0129】
本出願は、上述の化合物が、神経幹細胞をニューロンの表現型の細胞へと分化させるきっかけとなることを実証するものである。神経発生の重要性は、神経変性疾患のすべての面において、またニューロンが死ぬすべての状態において、本発明による化合物での治療の適用可能性及び有用性を説くものである。神経学的状態の治療のために脳の内在性の幹細胞に作用するのとは対照的に、ピペリン又はその誘導体は、in vitroで幹細胞の操作、例えば分化及び増殖に適用することができる。
【0130】
したがって、本発明の別の実施形態では、この化合物を使用して、例えば神経幹細胞などの幹細胞の培養を容易にすることができる。この方法では、化合物は、培地に加え、予め混合してから細胞に加えることもでき、又は細胞が培養されている培地中に加えることもできる。
【0131】
したがって、本発明はさらに、幹細胞を上で規定したような少なくとも1種の化合物と接触させることを含む、幹細胞をin vitroで分化させる方法に関する。この方法で使用する幹細胞は、神経幹細胞であることが好ましい。
【0132】
上述の方法によって得られる分化した幹細胞は、本明細書で他の場所に指定するニューロン状態を治療する医薬組成物の調製に有用である。
【0133】
したがって、一実施形態では、本発明は、本発明による上述の化合物を使用して、神経幹細胞の増殖及び分化を刺激し、又は哺乳動物に移植する前に神経幹細胞を予め調製することに関する。この方法の別の実施形態は、こうした神経幹細胞を、本明細書で記載するような神経疾患の治療方法、好ましくは神経幹細胞が個体に投与されたとき神経保護効果をもたらす方法において利用することである。
【0134】
幹細胞は、静脈内又は動脈内に投与することができる。例えば、脳虚血又は外傷性脳損傷において、静脈内注射された骨髄間質細胞が脳のターゲット領域にたどり着くことがわかっている(Mahmood et al.、Neurosurgery 2001;49:1196-1204;Lu et al.、J Neurotrauma 2001;18;813-819;Lu et al.、Cell Transplant 2002;11:275-281;Li et al.、Neurology 2002;59:514-523)。したがって、幹細胞は、ピペリン又はその誘導体によってin vitroで処理し、次いで本明細書に記載の疾患のいずれかを患う患者に異なる経路で注射することができる。
【0135】
最後に、本発明は、神経幹細胞及び神経幹細胞から派生する他の細胞のin vitroでの分化に適する製剤にした、本発明に従う化合物を含むキットを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】ピペリンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0137】
神経幹細胞のニューロンへの分化は、β-IIIチューブリンプロモーターによって制御されたホタルルシフェラーゼ活性の、構成的に発現させたウミシイタケルシフェラーゼ活性に対する相対的な誘導によって測定する。0,2μM〜100μMの範囲のピペリンの効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2a】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0138】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(図11a)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2b】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0139】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2c】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0140】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(図11c)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2d】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0141】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(図11d)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2e】3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0142】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2f】1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0143】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲の1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(図11f)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2g】3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0144】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2h】1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0145】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2i】N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0146】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲のN-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(図11n)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2j】N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0147】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲のN-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11q)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2k】N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0148】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲のN-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11r)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2l】1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0149】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2m】(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0150】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲の(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図3】ピペリンがニューロンに対する有意な抗アポトーシス効果を用量依存的に有することを示すグラフである。
【0151】
SH-SY5Yニューロン細胞を、単独又はピペリン(100pM〜10μM)と組み合わせたスタウロスポリン(0,1μM)と共にインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7 Assay Kit(Promega)を使用して測定する。アポトーシスの尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照として、偽処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図4】ピペリン及びその誘導体がニューロンに対する有意な抗アポトーシス効果を有することを示すグラフである。
【0152】
SH-SY5Yニューロン細胞を、それぞれ濃度1μMのピペリン(pip)及びその誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(A、図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(B、図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(C、図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(D、図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(U、図11u))と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)との同時インキュベートでインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7 Assay Kit(Promega)を使用して測定する。アポトーシスの程度を、スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみによって誘発されたものと比較する。スタウロスポリンとのインキュベートなしの偽処理細胞を対照とした。ピペリン及び誘導体は、スタウロスポリンによって誘発されたアポトーシスの有意な減少を示す。
【図5a】ピペリンがニューロン細胞の生存度を低下させないことを示すグラフである。
【0153】
ピペリン(最終濃度0,1nM〜100μM)と共にインキュベートした後のSH-SY5Yニューロン細胞の生存度を測定した。試験細胞に、構成的発現用のルシフェラーゼ構築物をしっかりとトランスフェクションする。次いで、示した濃度のピペリンと共に細胞を5時間インキュベートする。インキュベートした後、ルシフェラーゼ活性の測定によって細胞の生存度を評価した。残存する生存度の尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照及び陽性対照として、それぞれ偽処理細胞及びスタウロスポリン(0,1μM)処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図5b】ピペリンの誘導体がニューロン細胞の生存能を低下させないことを示すグラフである。
【0154】
ピペリンの誘導体(最終濃度1μM)と共にインキュベートした後のSH-SY5Yニューロン細胞の生存度を測定した。ピペリンの様々な誘導体を試験した(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(B、図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(U、図11u))。試験細胞に、構成的発現用のルシフェラーゼ構築物をしっかりとトランスフェクションする。次いで、細胞を上述の化合物と共に5時間インキュベートする。インキュベートした後、ルシフェラーゼ活性の測定によって細胞の生存度を評価した。偽処理細胞を標準化対照とし、スタウロスポリン(SP、1μM)処理細胞を陽性対照とした。残存する生存度の尺度としてのアッセイの任意発光測定シグナルを、偽処理細胞に対する百分率として標準化した。値は、SEMを誤差棒として8反復試験の平均で示す。
【図6a】TRPV1受容体リガンドカプサイシンが神経幹細胞のニューロンへの分化を刺激しないことを示すグラフである。
【0155】
図1と同様に、0,1nM〜100μMの範囲のカプサイシンの効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図6b】TRPV1受容体リガンドカプサイシンが、ニューロンに対して比較的弱い抗アポトーシス活性を示すことを示すグラフである。
【0156】
SH-SY5Yニューロン細胞を、単独又はカプサイシン(10μM)若しくはピペリン(10μM)と組み合わせたスタウロスポリン(SP、0,1μM)と共にインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7 Assay Kit(Promega)を使用して測定する。スタウロスポリンによって誘発されるアポトーシスの尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照として、偽処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図6c】TRPV1受容体阻害剤SB366791が、神経幹細胞のニューロンへの分化に対するピペリンの刺激効果を低下させないことを示すグラフである。
【0157】
図1と同様に、単独及びTRPV1受容体阻害剤SB366791(10μM)と組み合わせた10μMのピペリンの効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図6d】TRPV1受容体阻害剤SB366791が、ニューロン細胞に対するピペリンの抗アポトーシス効果を低下させないことを示すグラフである。
【0158】
SH-SY5Yニューロン細胞を、単独又はピペリン(pip、10μM)若しくはピペリン(pip、10μM)プラスSB366791(10nM〜100nM)と組み合わせたスタウロスポリン(SP、0,1μM)と共にインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを図3と同様に測定した。アポトーシスの尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照として、偽処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図7a】虚血発生から30分後に適用したとき、ラットMCAOモデルにおいてピペリンが梗塞巣体積を縮小することを示す図である。
【0159】
梗塞巣体積は、虚血発生から24時間後にTTC染色によって測定した。偽処置した動物とピペリン処置した動物の脳をTTC染色したものである例示的な2断面を示す。未染色領域が梗塞巣体積を示す。
【図7b】虚血発生から30分後に適用したとき、ラットMCAOモデルにおいてピペリンが皮質及び皮質下の梗塞巣体積を縮小することを示すグラフである。
【0160】
虚血発生から24時間後にTTC染色及び面積測定によって測定した、全梗塞巣、皮質領域、及び皮質下領域についての、浮腫を補正した、偽処置及びピペリン処置の梗塞巣体積を示す。浮腫を補正した梗塞巣体積は、梗塞していない同側の半球体積を対側の半球体積から差し引いて得た。体積は、SEMを誤差棒として、平均としてのmm3で示す。
【図8】マウスSCIモデルにおいてピペリンが後肢の動作能力を向上させることを示すグラフである。
【0161】
実験的なSCI後の最初の5週間の間の偽処置及びピペリン処置についてのBMS値を示す。BMS値は、SCI後の後肢の可動性の測定値である(Basso et al.、J Neurotrauma 2006;23:635-659)。BMS値は、0(後肢の可動性なし)〜9(健常マウス)の間で変動する。BMS値は、実験的なSCI後1日、7日、14日、21日、28日、及び35日について、SEMを誤差棒として平均として示す(偽処置対照群はn=20、ピペリン処置群はn=20)。
【図9】ピペリンが成体動物において神経発生を刺激することを示すグラフである。
【0162】
BrdU投与から数週間後にBrdU及びNeuNについて脳切片を同時染色することは、新たに生成されたニューロンを確認するのに適する(Bagley et al.、BMC Neurosci.2007;8:92)。切片あたりのこのようなニューロンの量は、神経幹細胞の分化による神経発生の尺度として使用することができる。切片あたりのBrdU/NeuN陽性細胞の平均数を示す。この数は、分析する6週間前に5日間連続して1mg/kg及び10mg/kgのピペリンで毎日処置したラットでは明らかに増加する。
【図10】ピペリン及びその誘導体が、ALSに冒されている運動ニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を有することを示すグラフである。
【0163】
NSC-34運動ニューロン細胞系を、それぞれ濃度1μMのピペリン(pip)及びその誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(B、図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(U、図11u))と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)との同時インキュベートでインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7Assay Kit(Promega)を使用して測定する。アポトーシスの程度を、スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみによって誘発したものと比較する。ピペリン及び誘導体は、スタウロスポリンによって誘発される運動ニューロン細胞系のアポトーシスを有意に減少させる。
【図11−1】図11a:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0164】
図11b:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0165】
図11c:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソl-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0166】
図11d:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【図11−2】図11e:3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0167】
図11f:1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0168】
図11g:3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0169】
図11h:3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0170】
図11i:3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0171】
図11j:1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【図11−3】図11k:1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0172】
図11l:1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0173】
図11m:3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0174】
図11n:N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0175】
図11o:3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0176】
図11p:N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【図11−4】図11q:N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0177】
図11r:N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0178】
図11s:1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0179】
図11t:1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0180】
図11u:(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(TimTec Inc.)の化学式を示す図である。
【実施例】
【0181】
以下の実施例は、本明細書では例示目的で提供するにすぎず、別段の指定がない限り限定するものではない。
【0182】
(実施例1)
ピペリンを用いた成体神経幹細胞でのin vitro分化アッセイ
記載されているとおりに、4週齢のオスのウィスターラットの脳室下帯から神経幹細胞を単離した(Maurer et al、Proteome Sci.2003;1:4)。細胞を、B27(Invitrogen)、2mMのL-グルタミン、100単位/mlのペニシリン、100単位/mlのストレプトマイシン、20ng/mlの血管内皮増殖因子(EGF)、20ng/mlの線維芽細胞成長因子2(FGF-2)、及び2μg/mlのヘパリンを補充したNeurobasal培地(Invitrogen)で培養した。神経幹細胞は週1回継代し、4週間後にin vitroで実験を実施した。DNAトランスフェクションに向けて、細胞を分離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコートされた96ウェルプレートに50.000細胞/ウェルの密度で播いた。pGL3-p-βIII-チューブリンベクター(100ng/ウェル)とpRL SV40ベクター(100ng/ウェル)の同時トランスフェクションを、FuGene6 Transfectionプロトコル(Roche)に従って実施した。pRL SV40ベクター(Promega)は内部標準ベクターとした。
【0183】
クラスIIIβ-チューブリン遺伝子プロモーター(断片-450〜+54)を増幅するために、ラットゲノムDNAをPCR用の鋳型として使用した(Dennis et al.、Gene 2002;294:269-277)。増幅された断片をpGL3-Basicホタルルシフェラーゼレポーターベクター(Promega)のMlu I/Xho I部位に挿入して、pGL3-p-βIII-チューブリン実験用ベクターを作製した。
【0184】
終夜インキュベートした後、プレートをデカントし、ピペリン(Sigma)又は媒体を含有する新鮮な培地を8通り得た。in vitro分化の陽性対照として、分裂促進因子を含有していない培地に1μMのレチノイン酸(Sigma)を加えることにより、幹細胞を処理した。
【0185】
48時間後、製造者(Promega)の説明書に従い、細胞を回収して、ルシフェラーゼアッセイ用の細胞抽出物を調製した。細胞にホタルルシフェラーゼとウミシイタケルシフェラーゼを同時トランスフェクションしたら、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)を使用し、ホタルルシフェラーゼの仲介による反応からの発光シグナル対ウミシイタケルシフェラーゼの仲介による反応からの発光シグナルの比をルミノメーター(Berthold Technologies、Mithras LB 940)で測定した。トランスフェクション効率の差を、構成的に発現させたウミシイタケルシフェラーゼからの発光シグナルを使用して標準化した。
【0186】
最終濃度0,2〜100μMの範囲のピペリンを使用した。神経幹細胞分化の測定値としての、クラスIIIβ-チューブリン遺伝子プロモーターによって制御されたルシフェラーゼシグナルの相対的な誘導を図1に示す。結果は、ピペリンが、神経幹細胞のニューロンへの分化を有意に刺激し、したがって神経再生の働きをすることを示している。
【0187】
(実施例2)
ピペリンの誘導体を用いた成体神経幹細胞でのin vitro分化アッセイ
実施例1と同様に、ピペリン及びその様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(図11f)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド(図11h)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド(図11i)、1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン(図11j)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)、1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11l)、3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド(図11m)、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(図11n)、3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド(図11o)、N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド(図19p)、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11q)、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11r)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン(図11t)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u))に神経幹細胞のニューロンへの分化を刺激する能力があるか試験した。化合物は、最終濃度1μMで使用した。表2に、この神経幹細胞分化がこれらの化合物での処理によって偽処理の何倍強化されたかを要約する。陽性対照としたレチノイン酸は、これらのアッセイで神経幹細胞の刺激について2〜3の範囲の倍率となった。
【0188】
さらに、ここでも実施例1と同様に、ピペリンの様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(図11f)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(図11n)、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11q)、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11r)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u))を、神経幹細胞のニューロンへの分化を刺激するその用量依存的な活性について分析した。誘導体は、0,2〜100μMの範囲の最終濃度で使用した。神経幹細胞分化の測定値としての、クラスIIIβ-チューブリン遺伝子プロモーターによって制御されたルシフェラーゼシグナルの相対的な誘導を、これらピペリンの誘導体についてそれぞれ図2a〜mに示す。結果は、試験したすべてのピペリン誘導体が、神経幹細胞のニューロンへの分化を有意に刺激し、したがって神経再生の働きをすることを示している。
【表2】
【0189】
(実施例3)
ピペリンを用いたin vitro抗アポトーシスアッセイ
化合物の神経保護効果は、カスパーゼ3及びカスパーゼ7活性を測定することにより、in vitroで検定することができる。システインアスパラギン酸特異的プロテアーゼ(カスパーゼ)ファミリーのこのようなメンバーは、哺乳動物細胞のアポトーシスにおいて鍵となるエフェクターの役割を果たす。
【0190】
ヒト神経芽細胞腫細胞系SH-SY5Y(American Type Culture Collection)を20%のFBSを補充した高グルコースのDMEM中で維持したものを、アポトーシスアッセイに使用した。或いは、一次皮質ニューロンのアポトーシスを分析することもでき、一次皮質ニューロンを、E18ラットから単離し、続いて適切な培地で培養することができる。2,5×104個のSH-SY5Y細胞を96ウェルプレートに播種し、24時間後に、アポトーシス誘導化合物スタウロスポリン(0,1μM、Calbiochem)の存在下、ピペリン又は媒体で刺激した。37℃で5時間インキュベートした後、ルシフェラーゼ及び発光性基質を含有するカスパーゼ-Glo 3/7試薬(Promega)を細胞に加えた。カスパーゼ3及びカスパーゼ7による基質の切断を、30分後にルミノメーター(Berthold Technologies、Mithras LB 940)を使用して検出した。発光は、カスパーゼ活性の量に比例し、処理したニューロンのアポトーシスの尺度として役立つ。最終濃度が100pM〜10μMの範囲のピペリンを試験した。ピペリンで処理した細胞は、スタウロスポリンによって誘発されるアポトーシスの有意な減少を示した(図3)。結果は、ピペリンがニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を示し、したがって神経保護の働きをすることを示している。
【0191】
(実施例4)
ピペリン及びその誘導体を用いたin vitro抗アポトーシスアッセイ
実施例3と同様に、ピペリン及びその様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(誘導体A、図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(誘導体B、図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(誘導体C、図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(誘導体D、図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(誘導体E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(誘導体G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(誘導体K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(誘導体S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(誘導体U、図11u))の抗アポトーシス活性を分析した。SH-SY5Y細胞を、これらの化合物(1μM)と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)の存在下でインキュベートした。スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみとのインキュベートを陽性対照とし、媒体とのインキュベートを陰性対照とした。スタウロスポリン対照と比較したアポトーシスの程度を図4に示す(媒体(偽):6%、スタウロスポリン(SP):100%、ピペリン+スタウロスポリン:66%、誘導体A+スタウロスポリン:70%、誘導体B+スタウロスポリン:49%、誘導体C+スタウロスポリン:77%、誘導体D+スタウロスポリン:72%、誘導体E+スタウロスポリン:77%、誘導体G+スタウロスポリン:79%、誘導体K+スタウロスポリン:83%、誘導体S+スタウロスポリン:81%、誘導体U+スタウロスポリン:60%)。ピペリン又はその誘導体で処理した細胞は、スタウロスポリンによって誘発されるアポトーシスの有意な減少を示した(図4)。結果は、ピペリン及びその誘導体が、ニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を示し、したがって神経保護の働きをすることを示している。さらに、ピペリンもその誘導体も、それ自体によるアポトーシス性の影響は示さなかった。
【0192】
(実施例5)
ピペリン及びその誘導体を用いたin vitro生存能アッセイ
化合物がニューロン細胞の生存能に及ぼす影響は、構成的プロモーター制御下にあるレポーター構築物をトランスフェクションしたニューロン細胞の生存を測定することにより、in vitroで検定することができる。
【0193】
SV40プロモーター制御下にあるウミシイタケルシフェラーゼ構築物をしっかりとトランスフェクションしたSH-SY5Yニューロン細胞を、96ウェルプレートにウェルあたり2,5×104細胞の密度で播種した。終夜インキュベートした後、細胞を、ピペリン又は媒体を含有する培地で刺激した。スタウロスポリン(0,1μM)を陽性対照とした。ウミシイタケルシフェラーゼ活性を、5時間後にルミノメーター(Berthold Technologies、Mithras LB 940)を使用して測定した。最終濃度が0,1nM〜100μMの範囲のピペリンを試験した。ピペリンで処理した細胞は、ニューロン細胞の生存能に対していかなる有意な影響も示さなかった(図5a)。
【0194】
したがって、様々なピペリン誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u))の生存能を、濃度1μMで分析した。処理したニューロン細胞は、生存能の低下を示さなかった(図5b)。
【0195】
結果は、ピペリンも試験した誘導体もニューロン細胞の生存能を低下させないことを示している。
【0196】
(実施例6)
ピペリンの神経再生及び神経保護効果は、TRPV1受容体の仲介によるものではない。
【0197】
ピペリンの神経再生及び/又は神経保護効果が、ピペリン及びバニリル部分を有する他の化合物、例えばカプサイシン(Sigma)による受容体活性化作用を受けることがわかっているTRPV1受容体によって仲介されるかどうかを見いだすために分析を実施した。ピペリンの代わりにカプサイシン(最終濃度0,1nM〜100μM)を使用する以外は実施例1と類似の実験において、神経幹細胞の分化への刺激効果を検出することはできなかった(図6a)。さらに、カプサイシン(10μM)は、実施例3に記載のアッセイを使用しても、ピペリン(10μM)と比べて限られた抗アポトーシス効果しか示さなかった(図6b)。
【0198】
さらに、TRPV1受容体の特異的阻害剤である化合物SB366791(Sigma)は、それぞれ実施例1及び3のアッセイで同時インキュベートしたとき、ピペリンの神経変性又は神経保護効果のいかなる抑制ももたらさなかった(それぞれ図6c及び図6d)。TRPV1受容体アゴニストのカプサイシンもピペリンと同等の神経保護及び/又は神経再生効果を示さず、TRPV1受容体阻害剤SB366791もピペリンの神経保護及び/又は神経再生効果を低減しなかった。したがって、発明者らは、ピペリンのこの効果が、TRPV1受容体によって仲介されるものではないと仮定した。
【0199】
(実施例7)
ピペリンは、脳卒中の動物モデルにおいて転帰を改善する。
【0200】
ピペリンが、培養物中の一次ニューロンに対してはっきりとした抗アポトーシス特性及び神経組織発生特性を示し(実施例1及び3)、無処置の血液-脳関門を通過するので、発明者らは、その神経保護活性をin vivoで測定しようとした。発明者らは、広範な異なるニューロンタイプが虚血/低酸素によって損傷を受けているラットMCAO(中大脳閉塞、細糸モデル)を脳卒中モデルに選んだ。
【0201】
オスのウィスターラットに、70%のN2O、30%のO2、及び1%のハロタンによる吸入麻酔を施した。右大腿静脈をカニューレ処置し、薬物送達に使用した。実験の間、深部体温をモニターし、37℃に保った。ケイ素でコーティングされた(Provil Novo、Heraus Kulzer)4-0ナイロン細糸(Ethicon)を総頸動脈に導入し、内頸動脈へと進めることにより、中大脳動脈閉塞(MCAO)を誘発した。MCA閉塞の成功を、側頭皮質のMCA領域をおおって配置されたプローブを用いたレーザードップラー流速計測法(Perimed 4000)によって検証した。90分のMCAO後、細糸を取り除いて再灌流を可能にした。閉塞開始から30分後、動物に10mg/kgのピペリン(Sigma-Aldrich)又は媒体を20分間にわたり2μl/分の速度で静脈内投与した。ピペリンを100%のSolutol-HS15(BASF)に60℃で溶解させ、蒸留水で希釈して、Solutol-HS15の最終濃度を20%とし、ピペリン5mg/最終溶液mlの最終濃度とした。この溶液は、必要になるまで暗所にて室温で保持した。虚血の誘発から24時間後にTTC染色によって梗塞巣体積を決定した。ブレインマトリクス(Harvard Apparatus,Inc.)を使用して2mmの切片にカットし、塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム(TTC、Sigma-Aldrich)によって37℃で10分間かけて染色した。図7aに、TTC染色された、偽処置及びピペリン処置後の例示的な脳切片を示す。染色された切片を、カラースキャナーを使用して両側でスキャンし、ImageJ(http://rsb.info.nih.gov/ij)を使用して梗塞領域を決定した。「直接」梗塞巣体積は、測定された梗塞性の面積を積分して得た。浮腫を補正した梗塞巣体積は、梗塞のある半球の梗塞していない体積を対側の半球から差し引いて得た。くも膜下出血の徴候(バレルロール運動(barrel-rolling)又は脳室若しくはくも膜下腔中の血液)及びドリル孔からの皮質の損傷がある動物、並びにTTC染色で梗塞巣がなかった又は最小限であった動物は、非盲検化前に分析から除外した。実験はすべて、完全無作為化及び盲検化して行った。
【0202】
ピペリンで処置した動物は、浮腫を補正した総梗塞サイズの有意な減少を示した(媒体:210±20mm3、n=37;ピペリン:151±17mm3;n=30;p=0.031)。皮質では特に強い保護が認められたが(媒体:124±15mm3;ピペリン:73±14mm3;p=0.018)、皮質下領域での梗塞巣の縮小は統計学的有意性に達しなかった(媒体:86±7mm3;ピペリン:78±6mm3)。体積は、平均+/-平均値の標準誤差(SEM)で示し、nは反復試験の数を表し、pは、スチューデントのt検定の結果であるp値を表す。結果を図7bに示す。
【0203】
この実施例の結論として、ピペリンは、in vivo動物モデルにおいて実験的な脳卒中の転帰を改善する。この処置は、動物の耐容性も十分であるように思われた。
【0204】
(実施例8)
ピペリンは、脊髄損傷(SCI)の動物モデルにおいて転帰を改善する。
【0205】
2カ月齢のメスのマウスを、吸入麻酔(1%のハロタン/30%のN20/70%のO2)を使用して麻酔した。以前に記載されているとおりに、椎骨レベルTh8/9で椎弓切除後、腹側の組織架橋を無傷にしておきながら、脊髄を鋭利な虹彩切除術用ハサミで背側から約80%まで横切した(Demjen et al.、Nat Med 2004;10:389-395)。動物は、ゲンタマイシン(腹腔内、1mg/kg体重)で1日1回7日間術後処置した。自律性の膀胱機能が回復するまで膀胱を手作業で空にした。処置実験では、C57BL/6野生型マウス(n=20)に、ピペリンを手術中(10mg/kg体重)及び翌2日(20mg/kg体重、各時点)に腹腔内投与した。さらに、浸透圧ミニポンプ(Alzet)による連続的な皮下適用によって、1mg/kg体重の1日量を2週間にわたりマウスに与えた。対照群(偽、n=20)は、媒体(20%のSolutol-HS15)しか与えなかった以外はしかるべく処置した。ピペリンは、実施例7に記載のとおりに20%のSolutol-HS15に溶解させた。動物実験はすべて、倫理的権威によって認可されたものとした。転帰の測定値として手術後1、7、14、21、28、及び35日目に、Basso-Mouse-Score(BMS)(Basso et al.、J Neurotrauma 2006;23:635-659)を求めた。BMSでは、0(後肢の動作なし)〜9(健常マウス)の間の値をつける。結果を図8に示す。ピペリン処置によって、in vivo動物モデルでの実験的なSCIの転帰が明らかに改善された。
【0206】
(実施例9)
ピペリンはin vivoで神経発生を刺激する。
【0207】
オスの成体ラットを3群に分けた。ラットには、媒体としての20%のSolutol-HS15(BASF SE)(対照群、n=11)、1mg/kg体重のピペリン(ピペリンI群、n=14、合計用量5mg/kgのピペリン)、又は10mg/kg体重のピペリン(ピペリンII群、n=13、合計用量50mg/kg)によって、1日1回、5日間連続して腹腔内投与の処置を施した。ピペリンは、実施例7に記載のとおりに、20%のSolutol-HS15に溶解させた。さらに、すべての動物にその最初の5日間BrdU(腹腔内、50mg/kg体重)を1日2回与えた。BrdUは、分裂細胞によって安定して組み込まれ、したがって実験的に規定された時間枠(即ち、この実施例ではピペリンを投与していた時間に相当する、BrdUを投与していた時間)内に分裂した細胞の標識化に適するツールである(Bagley et al、BMC Neurosci.2007;8:92)。動物は、処置開始から6週間後に屠殺した。脳をすばやく取り出し、その先の免疫組織化学法に向けて、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、4%のパラホルムアルデヒドで保存した。海馬領域の10μmの切片を作製し、ヒツジ抗BrdU抗体(Abcam、1:100)及びマウス抗NeuN抗体(Chemicon、1:500)で染色した。続いて、切片を、抗ヒツジ-ビオチン及びストレプトアビジン-Cy2と抗マウス-Alexa555(Molecular Probes、Fisher)で蛍光検出用に染色した。NeuNはニューロンのマーカーであるので(Pechnick et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2008;105:1358-1363)、新しく生成したニューロンは、NeuNとBrdUの同時染色によって特定することができる。したがって、この同時染色は、神経幹細胞の分化による神経発生の量を分析するのに適する。ピペリン処置した動物群(合計用量5mg/kg及び50mg/kg)は両方とも、対照レベルと比べて、(1切片あたりのNeuN/BrdU陽性細胞で測定した)神経発生のレベルの明らかな上昇を示した(図9)。ピペリン処置は、in vivo動物モデルにおいて明らかに神経発生を刺激する。
【0208】
(実施例10)
ピペリン及びその誘導体は、培養運動ニューロン細胞系に対して抗アポトーシス効果を発揮する。
【0209】
実施例3と同様に、ピペリン及びその様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(誘導体B、図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(誘導体E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(誘導体G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(誘導体K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(誘導体S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(誘導体U、図11u))の抗アポトーシス活性を分析した。実施例3及び4で使用したSH-SY5Y細胞の代わりに、この分析は運動ニューロン細胞系NSC-34で実施した。ALS疾患では運動ニューロンが冒されるので、このような細胞に抗アポトーシス効果を示す薬物は、ALSの治療にも適することが想定される(Weishaupt et al.、J Pineal Res 2006;41:313-323)。NSC-34細胞を、これらのピペリン又はその誘導体(1μM)と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)の存在下でインキュベートした。スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみとのインキュベートを陽性対照とし、媒体とのインキュベートを陰性対照とした。スタウロスポリン対照と比較したアポトーシスの程度を図4に示す(媒体(偽):6%、スタウロスポリン(SP):100%、ピペリン+スタウロスポリン:70%、誘導体B+スタウロスポリン:55%、誘導体E+スタウロスポリン:75%、誘導体G+スタウロスポリン:76%、誘導体K+スタウロスポリン:83%、誘導体S+スタウロスポリン:77%、誘導体U+スタウロスポリン:71%)。ピペリン又はその誘導体で処置した細胞は、スタウロスポリンによって誘発される、培養運動ニューロンNSC-34細胞のアポトーシスの有意な減少を示した(図10)。結果は、ピペリン及びその誘導体が、運動ニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を示し、したがってALSの神経保護治療に適することを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経学的及び/又は精神医学的状態(neurological and/or psychiatric conditions)を治療及び/又は予防する医薬を製造するためのピペリン及びその誘導体の使用に関する。本発明はさらに、神経幹細胞をin vitroで分化させるのにピペリン及びその誘導体を使用すること、並びにそのような前処理した細胞を神経学的状態(neurological conditions)の幹細胞治療に使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
神経学的状態とは、神経系を冒す疾患又は障害を含む医学的状態(medical conditions)である。神経学的状態は、例えば疾患又は障害による、病的に弱った神経系の機能を伴うものでもよいし、又は学習及び記憶を向上させるために、例えば認知能力を高めることにより実現される神経学的機能の向上を単純に必要とするものでもよい。
【0003】
そのような神経学的状態の例は、病態生理学的機序が脳虚血又は低酸素にある疾患であり、脳卒中(並びに出血性脳卒中)、脳の微小血管症(小血管疾患)、分娩時の脳虚血、心停止又は蘇生中/後の脳虚血、手術中の問題による脳虚血、頸動脈手術中の脳虚血、脳に血液を供給する動脈の狭窄による慢性脳虚血、静脈洞血栓又は大脳静脈の血栓、脳血管奇形、並びに糖尿病性網膜症がこれに含まれる。こうした神経学的状態の別の例には、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハンチントン病、ウィルソン病、多系統萎縮症、アルツハイマー病、緑内障、ピック病、レヴィ小体病、ハレルフォルデン-スパッツ病、捻転ジストニア、遺伝性感覚運動ニューロパシー(HMSN)、ゲルトマン-シュトロイスラー-シャインカー病、クロイツフェルト-ヤコブ病、マシャド-ジョセフ病、フリードライヒ失調症、非フリードライヒ失調症、ジルドラトゥレット症候群、家族性振戦、オリーブ橋小脳変性症、腫瘍随伴性脳症候群、遺伝性痙性対麻痺、遺伝性視神経症(レーベル)、網膜色素変性症、スタルガルト病、カーンズ-セイヤ症候群及び敗血症ショック、脳出血、くも膜下出血、脳血管性痴呆、炎症性疾患(脈管炎、多発性硬化症、ギラン-バレー症候群など)、神経外傷(脊髄外傷、頭部外傷など)、末梢神経疾患、多発性神経炎、統合失調症、うつ病、代謝性脳症、並びに(ウイルス性、細菌性、真菌性の)中枢神経系の感染症が含まれる。
【0004】
脳虚血に関する大部分の研究及び薬理学的物質のin vivo試験は、調査中の薬物又はパラダイムの即時の効果(即ち、脳卒中が誘発されてから24時間後の梗塞サイズ)しか扱ってきていない。しかし、特定の物質の真の有効性のより妥当なパラメーターは、機能回復への長期的効果であり、これは、臨床スケール(例えば、スカンジナビア式脳卒中スケール、NIHスケール、バーセル指数)によって日常の生活活動を遂行する能力が示される、ヒト脳卒中研究にも反映される。局所的な病変後の最初の2〜3日での回復は、可逆的虚血領域の水腫又は再灌流の解消による場合もある。急性期後の機能回復の多くは、おそらく脳の可塑性のためであり、損傷を受けた領域によって以前に遂行されていた機能を、脳の隣接する皮質野が引き継いでいる(Chen et al.、Neuroscience 2002;111:761-773)。再構築を説明するのに提唱されている2通りの主な機序は、以前から存在しているが機能的に不活性な結合の顕在化と、側枝発芽などの新しい結合の成長である(Chen et al.、Neuroscience 2002;111:761-773)。短期間の可塑性変化は、おそらくはGABA作動性の阻害が低下するために、興奮性シナプスに対する阻害が除去されることにより仲介される(Kaas、Annu Rev Neurosci.1991;14:137-167;Jones、Cereb Cortex.1993;3:361-372)。より長い時間をかけて起こる可塑性変化には、不顕性シナプスの顕在化以外の機序、例えば長期増強(LTP)が関与するが、これには、NMDA受容体の活性化及び細胞内カルシウム濃度の増大が必要となる(Hess & Donoghue、Neurophysiol.1994;71:2543-2547)。長期変化には、シナプスの形状、数、サイズ、及びタイプの変更を伴う軸索の再生及び発芽も関与する(Kaas、Annu Rev Neurosci.1991;14:137-167)。最近の研究では、脳虚血後の神経再生過程の強化によって結果が改善されることがわかっている(Fisher et al.、Stroke 2006;37:1129-1136)。脳卒中の超急性期を過ぎて施される細胞及び薬理学的治療手法を開発することが求められて止まない。したがって、脳卒中後の神経性の欠陥を軽減するように設計される、将来の成功を収める脳卒中治療は、血管再生の他に、細胞死の阻止、神経再生の刺激、及び可塑性にも同時に接近すべきである。
【0005】
脳虚血は、脳血流(CBF)を減じる様々な原因の結果として生じる場合があり、酸素とグルコースの欠乏をもたらす。一方、外傷性脳損傷(TBI)は、通常は頭蓋骨折を引き起こし、脳実質を突然崩壊させる最初の力学的な衝撃を含み、血管及び脳組織の剪断及び裂けを伴う。これが、二次的な傷害をもたらす分子応答及び細胞応答の活性化を特徴とする、次々と起こる事象を誘発する。そのような二次的な損傷の展開は、多くの生化学的な経路が関与する活発な過程である(Leker & Shohami、Brain Res.Rev.2002;39:55-73)。二次的な細胞死をもたらす有害な経路は、境界虚血域にあるものと二次的な外傷後傷害にさらされる部位にあるものとで、多くの類似性が特定されている(例えば、過剰のグルタミン酸放出による興奮毒性、一酸化窒素、活性酸素種、炎症、及びアポトーシス(Leker & Shohami、Brain Res.Rev.2002;39:55-73))。また、早期の虚血エピソードが、外傷性脳損傷後に起こり、最初の力学的な損傷に虚血の構成要素を付加することも報告されている。
【0006】
脳卒中は、第三の主な死因であり、西側世界では障害の主要な原因である。脳卒中は、大きな社会経済的負担となっている。病因は、虚血性(大部分の場合)又は出血性のどちらかとすることができる。虚血性脳卒中の原因は、塞栓又は血栓であることが多い。これまで、脳卒中に罹患している大多数の患者に有効な治療は存在していない。また、脳卒中に罹患したことのある対象のための、機能性ニューロンの神経発生を可能にする有効な治療も存在しない。臨床的に証明された薬物は、これまでは、組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)とアスピリンだけである。アスピリンの血小板凝集阻害効果のために、血栓形成のリスクの軽減だけは実現することができる。この効果は、急性虚血性脳卒中の状況下で、すでに存在する血小板塞栓を溶解させるのには適切でない。したがって、血小板凝集を阻害するだけの薬物は、虚血性脳卒中の予防のみを適応症とし、急性虚血性脳卒中の治療は適応症としない。その上、アスピリン並びにTPAは、出血性脳卒中の場合では明らかに禁忌である。グルコース及び酸素の不足による即時梗塞コアにおける大量の細胞死の後、その梗塞領域は引き続いて、グルタミン酸興奮毒性、アポトーシス機序、フリーラジカル発生などの第二の機序のために拡大する。
【0007】
心血管疾患は、西側先進諸国における主要な死因である。米国では、年ごとに約100万件の死亡があり、そのほとんど50%が突然であり、病院外で起こっている(Zheng et al.、Circulation 2001;104:2158-2163)。心肺蘇生法(CPR)は、毎年100,000人の居住者のうち40〜90人で試みられており、こうした患者の25〜50%で自発循環の回復(ROSC)が実現されている。しかし、ROSC成功後の退院率はわずか2〜10%である(Bottiger et al.、Heart 1999;82:674-679)。したがって、米国では毎年莫大な数の心停止の犠牲者がうまく治療されていない。CPR成功後の生存率が低いこと、即ち、停止後院内死亡の主な理由は、継続的な脳損傷にある。心臓循環器系の停止後の脳損傷は、低酸素ストレスに対する耐性の期間が短いことと、特定の再灌流障害と関係がある(Safar、Circulation 1986;74:UV138-153、Hossmann、Resuscitation 1993;26:225-235)。最初は、大勢の患者が心臓循環器系停止後に血行力学的に安定化する場合があるが、しかしその多くは、中枢神経系傷害のために死亡する。心停止後の脳損傷の個人的、社会的、及び経済的影響は壊滅的である。したがって、心臓の停止及び蘇生(「全身の虚血及び再灌流」)研究における最も重要な問題の一つは、脳蘇生及び停止後脳損傷である(Safar、Circulation 1986;74:UV138-153、Safar et al.、Crit Care Med 2002;30:140-144)。現在、いかなる停止後治療手段を用いても、心停止の間に低酸素によって引き起こされるニューロンへの第一次の損傷を軽減することは不可能である。主な病理生理学的な問題として、低酸素及びその後の壊死、フリーラジカル生成及び細胞へのカルシウム流入を伴う再灌流傷害、興奮性アミノ酸の放出、脳微小循環の再灌流障害、並びにプログラムニューロン死又はアポトーシスが挙げられる(Safar、Circulation 1986;74:UV138-153、Safar et al.、Crit Care Med 2002;30:140-144)。
【0008】
筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー-ゲーリック病、シャルコー病)は、年間発生率が100,000人の集団あたり0.4〜1.76人の神経変性障害である(Adams et al.、Principles of Neurology、6.sup.th ed.、New York、pp1090-1095)。この疾患は、運動ニューロン疾患の最も一般的な形態であり、通常は、全身性の線維束性攣縮、骨格筋の進行性の萎縮及び脱力、痙縮及び錐体路徴候、構語障害、嚥下障害、並びに呼吸困難となって現れる。病態は、主に、脊髄の前角及び下位脳幹の運動核における神経細胞の損失にあるが、皮質の一次運動ニューロンも含めることができる。この壊滅的な疾患の病因は、依然として大部分が不明であるが、家族性の症例におけるスーパーオキサイド-ジスムターゼ(SOD1)突然変異体の役割は、かなりよく考えられており、酸化的ストレス仮説を引合いに出している。これまでに、ALSを引き起こし得る、SOD1タンパク質の90を超える突然変異が記載されている(Cleveland & Rothstein、Nat Rev Neurosci.2001;2:806-819)。また、この疾患における神経フィラメントの役割も示されている。過剰のグルタミン酸刺激によって惹起される機序である興奮毒性も重要な要素であり、ヒト患者においてリルゾールが有益な役割を果たすことがよい例である。SOD1突然変異体の中で最も説得力をもって示されるのは、カスパーゼの活性化及びアポトーシスが、ALSにおける共通の最終的経路であると思われる点である(Ishigaki et al.、J Neurochem.2002;82:576-584、Li et al.、Science 2000;288:335-339)。したがって、ALSも、他の神経変性疾患及び脳卒中において影響を及ぼす同じ一般的な病原パターン、即ち、グルタミン酸の関与、酸化ストレス、及びプログラム細胞死に当てはまると思われる。
【0009】
緑内障は、米国では予防可能な失明の第一位の原因である。緑内障は、通常は眼内の圧力が増大した結果として視覚神経(視神経)が損傷を受ける一群の状態であるが、緑内障は、正常又はさらには正常より低い眼圧でも起こる場合がある。視神経乳頭(ONH)の篩骨篩板(LC)領域は、緑内障視神経症の傷害の主要な部位である。緑内障は、永久的な斑状の視力喪失であるが、その状態の進行は、これを十分に早く検出し、治療を開始すれば、最小限に抑えることができる。しかし、緑内障は、治療をしないままにすれば、最終的に失明に至る場合がある。緑内障は、高齢者の間で最も一般的な眼障害の一つである。世界的には、約6680万人が緑内障による視覚の機能障害を抱えており、670万人が失明していると推定されている。
【0010】
様々な異なるタイプの緑内障がある。最も一般的な形態は、原発性開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、閉塞隅角緑内障、急性緑内障、色素性緑内障、剥離症候群、又は外傷に関連した緑内障である。
【0011】
緑内障は、目薬、丸剤、レーザー手術、眼科手術、又は諸方法の併用によって治療することができる。全体としての治療目的は、視力のそれ以上の喪失を防ぐことである。緑内障による視力喪失は不可逆的であるので、これは肝要である。IOPを制御することは、緑内障からの視力喪失を予防する鍵である。最近の開発は、緑内障治療への神経保護及び神経再生の必要を重要視している(Levin、Ophthalmol Clin North Am.2005;18:585-596、vii;Schwartz et al.、J Glaucoma.1996;5:427-432)。
【0012】
アルツハイマー病(AD)は、進行性の認知低下を特徴とする神経変性疾患であり、日常生活の活動が衰えていき、神経精神医学的症状又は行動変化を伴う。この疾患は、認知症の最も一般的なタイプである。最も著しい初期症状は記憶の喪失であり、通常は軽い健忘症として現れるが、これが病の進行と共に着実により顕著になっていき、古い方の記憶は比較的保存される。病的過程は主に、主として側頭頭頂皮質、それに加えて前頭皮質におけるニューロンの減少又は萎縮、並びにアミロイド斑の沈着及び神経原線維変化に対する炎症応答からなる。この疾患の根本の原因は不明である。この疾患の原因を説明する、相反する三大仮説が存在する。最も古い説は、現在利用可能な大部分の薬物治療の根拠となっているが、「コリン作動性仮説」として知られ、ADは神経伝達物質アセチルコリンの生合成の減少によるものと示唆している。AD患者の脳組織でアセチルコリンのレベルは低下するが、グルタミン酸レベルは通常は上昇している。アセチルコリン欠乏を治療する薬物は、疾患の症状を治療するためにしか役立っておらず、疾患を停止させることもなければ、逆転させることもない(Walker & Rosen、Age Ageing 2006;35:332-335)。2000年より後の研究として、ミスフォールドし、凝集したタンパク質、即ちアミロイドβ及びτによる影響を中心に据えた仮説が挙げられる。この二つの立場は、一方はτタンパク質の異常が疾患カスケードを開始すると述べているが、他方はβアミロイド沈着物が疾患の原因因子であると考えている点で異なる(Mudher & Lovestone、Trends Neurosci.2002;25:22-26)。
【0013】
現在ADの治療法は存在しない。現在利用可能な薬物は、一部の患者に比較的少ない対症的利益をもたらすが、疾患の進行を緩徐にすることはない。こうした薬物は、記憶については多少役立つ(Lyketsos et al.、Am J Geriatr Psychiatry.2006;14:561-572)。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害は、コリン作動性神経の活性の低下が存在するので、重要であると考えられた。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、症状を中程度に調節すると思われるが、根底にある痴呆化の過程の経過を変更することはない。コリンエステラーゼ阻害剤の有効性に関して重大な疑いがある。ADで調査されている天然抽出物の一つがイチョウ(Ginkgo biloba)である。米国での無作為化された大規模臨床研究が進行中であり、イチョウの認知症を防ぐ効果が調べられている(DeKosky et al.、Contemp Clin Trials 2006、27:238-253)。グルタミン酸作動性ニューロンの興奮毒性の関与がADを引き起こすというごく新しい証拠は、新規なNMDA受容体拮抗薬であるメマンチンの開発及び導入につながったが、メマンチンは、臨床上それほど効果的でないことがわかっている(Areosa-Sastre et al.、Cochrane Database Syst Rev.2004;18:CD003154)。神経発生過程についての最近の研究及び内在性の神経前駆体の存在が広範囲に及ぶという知見は、こうした細胞の潜在的可能性をADなどの神経変性疾患の修復に利用することができるという希望をもたらしている(Elder et al.、Mt Sinai J Med.2006;73:931-940;Brinton & Wang、Curr Alzheimer Res.2006;3:185-190;Kelleher-Andersson、Curr Alzheimer Res.2006;3:55-62;Greenberg & Jin、Curr Alzheimer Res.2006;3:25-8)。
【0014】
ある群の神経変性障害は、トリヌクレオチドの拡張を特徴とする。こうした神経変性トリヌクレオチド反復障害は、慢性且つ進行性であり、運動、感覚、又は認知の系のニューロンの選択的且つ対称的な減少を特徴とする。症状は、失調、認知症、又は運動障害であることが多い。最もよく知られているトリヌクレオチド反復障害はハンチントン病であり、その他のものは、球脊髄性筋萎縮症(ケネディー病)、常染色体優性の脊髄小脳失調:1型SCA1、2型SCA2、3型(マシャド-ジョセフ病)SCA3/MJD、6型SCA6、7型SCA7、8型SCA8、フリードライヒ失調症、及び歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮DRPLA/Haw-River症候群である(Hardy & Gwinn-Hardy、Science 1998;282:1075-1079;Martin、N Engl J Med.1999;340:1970-1980;Schols et al.、Ann Neurol.1997;42:924-932)。
【0015】
ハンチントン病(HD)は、進行性の運動、認知、及び挙動症状を生じさせる遺伝性の常染色体優性神経精神医学的疾患である。HDの経過は、四肢、体幹、及び顔の制御できない律動性の動き(舞踏病)、精神的能力の進行性の低下、及び精神医学的な問題の発現を特徴とする。HDは、10〜25年かけて寛解なしに進行し、通常は中年(30〜50歳)期に出現する。若年性HD(Westphal変形型又は無動硬直HDとも呼ばれる)は、20歳前に発症し、急速に進行し、さらには筋強剛を生じ、患者は、動くとしてもほとんど動かない(無動症)。10,000人に1人-米国では30,000人近く-がHDに罹っていると推定されている。若年性HDは、全症例の約16%で存在する。その核心の病態は、基底核、特に尾状核及び被殻が変性するものであり、第4染色体上の単一の常染色体遺伝子IT-15にある、グルタミンをコードするトリヌクレオチドCAGが不安定に拡張して、タンパク質ハンチンチンの変異型がコードされることによって引き起こされる。遺伝子IT-15の突然変異がどのようにタンパク質の機能を変更するのかは十分にわかっていない。
【0016】
HDの治療は、症状を軽減し、合併症を予防し、患者に援助及び補助を提供することに集中している。今日ヒョレアの治療にはいくつかの物質が利用可能である。ジストニーなどの他の神経性の症状は、治療することはできるが、治療には高リスクの有害事象が伴う。一方、精神医学的な症状は、治療の影響を受けやすいことが多く、こうした症状からの解放によって、生活の質をかなり向上させることができる(Bonelli & Hofmann、Expert Opin Pharmacother.2004;5:767-776)。HDの症状を治療するのに使用されるほとんどの薬物は、疲労、不穏状態、過剰興奮性などの副作用を伴う。シスタミン(=デカルボキシシスチン)は、HDの遺伝子変異を有するマウスにおいて振戦を緩和し、寿命を延長する。この薬物は、神経細胞又はニューロンを変性しないように保護するタンパク質の活性を増大させることにより働くと思われる。研究では、同様の治療又は神経再生治療が、HD及び関連障害のヒトにおいていつかは使用可能になり得ると示唆されている(Karpuj et al.、Nat Med.2002;8:143-149)。
【0017】
リソソーム蓄積症(LSD)は、様々な組織における特定のリソソーム酵素の欠損をそれぞれ特徴とする、約40の異なる一群の疾患である。この疾患は、全体で出生5,000件に約1件存在し、考慮すべき臨床的及び生化学的異質性を示す。2疾患(ハンター病及びファブリー病)は伴性遺伝であるが、大多数が常染色体劣性の異常として遺伝する。この疾患には、ガングリオシド蓄積症であるテイ-サックス病、並びに脂質蓄積障害であるゴーシェ病及びニーマン-ピック病が含まれる。こうした疾患の大部分は、脳を冒し、致死的である(Brooks et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:6216-6221)。
【0018】
こうした疾患の症状を治療するだけでは、成功に限界がある。一つの方法は、その酵素に代えて、酵素を生成することのできる正常な遺伝子を骨髄移植若しくは幹細胞移植又は遺伝子治療によって体に入れることである。骨髄移植(BMT)は、いくつかのLSDで成功を収めており、それほど重篤な症状なしに長期の生存が可能になっている。酵素補充療法(ERT)は、10年間にわたりゴーシェ病の患者に役立てられてきており、非常に大きな恩恵をもたらしてきた。しかし、多くの事例において、ニューロンは、それが自身の隣にあった場合でさえ大型の酵素を効率的に受け入れることができないので、この治療はまだ有効でない。神経再生の刺激及びニューロンのアポトーシスからの保護は、少なくとも、ニューロン症状及びそのようなリソソーム蓄積症の進行を緩和し、又は予防的な効果をもち得ると予想される。
【0019】
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の基本型の炎症性自己免疫障害であり、400人に1人が生存期間のリスクを負い、若年成人における神経性身体障害の最も一般的な原因となる潜在的可能性がある。世界的には、約2〜5百万の患者がこの疾患を患っている(Compston & Coles、Lancet 2002;359:1221-1231)。すべての複合形質でのように、この障害は、まだ特定されていない環境因子と感受性遺伝子の相互作用の結果として生じるものである。全体として、免疫系の関与、軸索及びグリアの急性炎症性傷害、機能の回復及び構造の修復、炎症後グリオーシス、並びに神経変性を含む要素が、事象カスケードのきっかけとなる。こうした過程の連続した関与が、回復のエピソード、持続的な欠陥を残すエピソード、及び二次的な進行を特徴とする臨床経過の基礎をなしている。治療の目的は、再発の発生頻度を減少させ、その長続きする影響を制限し、症状を軽減し、疾患の進行によって生じる身体障害を防ぎ、組織修復を促進することである。
【0020】
最近では、神経保護が、MS治療の重要な目標であることがわかっている。神経保護の範囲を広げることの根拠は、ニューロン及び軸索の傷害がMS病変の重要な特徴であるという証拠にある。軸索の損失は、進行性MSにおいて持続的な神経の欠陥を決定付ける見込みが最も高い。最近の研究では、軸索損傷は、疾患の初期及び病変出現の間に生じることが指摘されている。軸索変性の二つの異なる段階が特徴付けられているが、第一の段階は、活発なミエリン分解の間に起こり、第二の段階は、裸の軸索がそれ以上の損傷をより受けやすくなっていると思われる慢性の脱髄斑で起こる。しかし、退行性及び虚血性の中枢神経系傷害とは対照的に、MSの神経変性は、炎症性、おそらくは自己免疫性の過程によって引き起こされると思われる。したがって、MSでは、神経保護治療と有効な免疫調節を組み合わせる必要があるので、MSにおける神経保護の課題は、退行性及び虚血性の障害より難題である。しかし、軸索変性の正確な機序及びエフェクター分子はまだ規定されず、軸索保護的な治療はまだ確立されていない(Bruck & Stadelmann、Neurol Sci.2003;24:S265-S267;Hohlfeld、Int MS J 2003;10:103-105)。
【0021】
脊髄損傷(SCI)は、外傷性の事象によって、脊髄内の細胞が損傷され、又はシグナルを脊髄の上方及び下方へと中継する神経路が切断されたときに起こる。最も一般的なタイプのSCIとして、挫傷(脊髄の打撲)及び圧迫症(脊髄への圧力によって引き起こされる)が挙げられる。他のタイプの傷害には、裂傷(一部の神経線維の切断又は裂け、銃創によって引き起こされる損傷など)、及び脊髄中心症候群(脊髄頸部の皮質脊髄路への特定の損傷)が含まれる。重度のSCIはしばしば、麻痺(体の随意運動及び筋肉に対する制御の喪失)、並びに呼吸などの自律神経性の活動や、腸及び膀胱の制御などの他の活動を含めた、傷害箇所より下方の感覚及び反射機能の喪失を引き起こす。疼痛又は刺激に対する敏感性、筋けいれん、性機能不全などの他の症状が時間と共に発症する場合もある。SCI患者は、膀胱感染、肺感染、褥瘡などの二次的な医学的問題を発症する傾向もある。救急看護及びリハビリテーションにおける最近の進歩によって、多くのSCI患者が生存できるようになっているが、傷害の程度を軽減し、機能を回復させる方法は依然として限られている。急性SCIの即時の治療には、脊髄圧迫を軽減する技術、細胞損傷を最小限に抑えるための、メチルプレドニゾロンなどの副腎皮質ステロイドでの迅速な(傷害の8時間以内の)薬物治療、及びそれ以上の傷害を防ぐための脊椎の椎骨の安定化が含まれる。SCIに関連する身体障害のタイプは、傷害の重症度、傷害が存在する脊髄の区分、及びどの神経線維が損傷を受けたかに応じて非常に様々である。成体哺乳類の中枢神経系は、SCI後に再生しないと長い間考えられてきた。しかし、最近では細胞置換が、霊長類脊髄において、神経の修復に寄与し、また治療強化のための有望なターゲットとなる、傷害に対する広範な自然の代償的応答として観察されている(Yang et al.、J Neurosci.2006;26:2157-2166)。神経幹細胞の同定を含めて、幹細胞生物学の分野における進歩は、損傷を受けた中枢神経系の再生、即ち内在性のそうした神経幹細胞の活性化を誘発することを目指す新規な治療戦略の開発のための新しい見識となっている(Okano、Ernst Schering Res Found Workshop.2006;60:215-228)。
【0022】
認知症は、脳の損傷又は疾患による、正常な老化から想定されるであろうものを超えた認知機能の進行性の低下である。特に冒される領域は、記憶、注意、言語、及び問題解決であろう。特に、この状態の後期では、罹患した者が、時間、場所、及び人の見当識を失う場合もある。大多数の認知症サブタイプについて、科学者による、その過程を緩慢にするタイプの薬物の作製が進んでいるものの、この病に対する治癒は存在しない。コリンエステラーゼ阻害剤は、疾患経過の初期にしばしば使用される。認知及び行動に対する治療処置も適切となる場合がある。N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)遮断薬として知られている部類に含まれるメマンチンは、FDAによって中程度から重度の認知症の治療用に認可されている。認知症の間、認知機能、例えば記憶力の低下には神経発生の欠陥が重要な役割を果たす。ニューロン細胞生成の回復は、痕跡記憶を獲得する能力に関連していたことが示されている。この結果は、成体において新たに生成されたニューロンが、海馬依存性記憶の形成に関与することを示唆している(Shors et al.、Nature 2001;410:372-376)。神経科学によって、認知の生物学が存在すること、並びに脳において神経発生とポトーシスが永久に対抗していることが示された。この薬理学のターゲットは、ニューロン及び認知能力の衰えに振り向けられている(Allain et al.、Psychol Neuropsychiatr Vieil.2003;1:151-156)。
【0023】
統合失調症は、最も一般的な精神病の一つである。約100人に1人(人口の1%)が統合失調症に罹患している。この障害は、世界中のいたるところで、またすべての人種及び文化に見られる。統合失調症には男女が同数で罹患するが、平均して、男性は女性より早期に統合失調症に罹る。一般に、男性は20代半ばに統合失調症の最初の徴候を示し、女性は20代の終わりに最初の徴候を示す。統合失調症は、米国では1年あたり325億ドルと推定されるおびただしいコストを社会に課している。統合失調症は、以下の症状、即ち、妄想、幻覚、混乱した思考及び発言、消極的な症状(引きこもり、無感情及び無表情、気力、意欲、及び活動の低下)、緊張病のうちのいくつかを特徴とする。統合失調症の主要な治療は、クロルプロマジン、ハロペリドール、オランザピン、クロザピン、チオリダジン、その他などの神経弛緩薬を主体とする。しかし、神経弛緩薬治療は、多くの場合、統合失調症の症状すべてを軽減するわけではない。また、抗精神病薬治療は、遅発性ジスキネジアなどの重度の副作用を伴う場合もある。統合失調症の病因は、遺伝的な影響が強いようにも思われるが、不明である。最近では、統合失調症が神経変性疾患の少なくとも一側面を有することが明らかになりつつある。特に、MR研究では、統合失調症患者において皮質の灰白質が急速に減少していることが明らかになった(Thompson et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2001;98:11650-11655;Cannon et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2002;99:3228-3233)。したがって、神経保護及び/又は神経再生の薬物療法によって統合失調症を治療することは妥当である。
【0024】
末梢神経障害は、神経系の一次病巣又は障害によって開始又は引き起こされる疼痛である。多くの分類系統が存在するが、通常は、中枢性の求心路遮断痛(deafferent pain)(即ち視床卒中後痛)と末梢性の求心路遮断痛(即ち大腿無感覚)とに分けられる。神経障害は、一つだけの神経を冒す場合(単神経障害)もあれば、いくつかの神経を冒す(多発神経障害)場合もある。神経障害は、異痛症、痛覚過敏、及び感覚不全である。一般的な症状には、焼けるような、刺すような、電気的な衝撃、又は深いうずくような感覚が含まれる。神経痛の原因としては、糖尿病性神経障害、三叉神経痛、複合性局所性疼痛症候群及び帯状疱疹後神経痛、尿毒症、エイズ、又は栄養欠乏が挙げられる。他の原因としては、圧迫症や絞扼などの力学的な圧力、直接の外傷、貫通性の傷害、挫傷、骨折若しくは脱臼;長引く松葉杖の使用のため若しくはあまりに長く一所から動かないため、又は腫瘍のために起こり得る、表面の神経(尺骨、橈骨、又は腓骨神経)を巻き込む圧迫;神経内出血;冷気若しくは放射線又はまれに特定の医薬若しくは毒性物質への曝露;並びにアテローム性動脈硬化症、全身性エリテマトーデス、強皮症、サルコイドーシス、関節リウマチ、結節性動脈周囲炎などの、血管障害又はコラーゲン障害が挙げられる。絞扼性神経障害の一般的な例は手根管症候群であり、コンピューターの使用が増えてきているので、より一般的になりつつある。末梢性神経障害の原因は多種多様であるが、こうした障害は、脱力、しびれ、異常感覚(灼熱感、くすぐり感、刺痛、打診痛などの知覚異常)、並びに腕、手、脚、及び/又は足の疼痛を含めた共通の症状を生じる。非常に多くの症例が原因不明となっている。
【0025】
根底にある状態を治療することで、末梢性神経障害のいくつかの症例は軽減することができる。他の症例では、治療を疼痛管理に集中させる場合もある。末梢性神経障害の治療は、原因に応じて異なる。例えば、糖尿病によって引き起こされる末梢性神経障害の治療は、糖尿病のコントロールを含む。腫瘍又は椎間板ヘルニアが原因である症例では、治療に、腫瘍を除去し、又は椎間板ヘルニアを修復する手術を含めることができる。絞扼性又は圧迫性神経障害の治療は、副子固定又は尺骨神経若しくは正中神経の外科的な除圧からなるものでよい。腓骨及び橈骨の圧迫性ニューロパシーは、圧迫の回避が必要となる場合もある。物理療法及び/又は副子は、拘縮の予防に有用な場合となり得る。末梢神経は、それ自体注目すべき再生能を有しており、神経成長因子を使用する新しい治療又は遺伝子治療によって、将来的には、回復へのより好適な機会さえもたらされるかもしれない。したがって、神経再生の薬物療法によって末梢神経のこの再生を強化することは妥当である。
【0026】
ヒトでは、認知能力を増強し、知能を高める方法が求められている。「知能」は、現代の理解では、単に論理的又は意味論上の能力に限らない。例えば、Howard Gardnerによる多重知能論は、進化論及び人類学の展望から知能を評価し、より一般に知能と関連付けられ、IQ試験によって測定される言語的/論理的な能力だけでなく、運動競技、音楽、芸術、及び共感の能力を含むより広い見解を得ている。知能のこのより広い意味は、創造性の領域にも及ぶ。さらに、ヒトでは、通常は約40歳で始まり、アルツハイマー病の初期徴候とは異なる、ARML(加齢による記憶喪失)又はMCI(軽度認知障害)又はARCD(加齢関連認知機能低下)としての非病的状態も知られている。
【0027】
神経細胞は、成人期を通して生理的に減少し、その数は1日100,000ニューロン程度と推定される。成人期を通して、脳の重量及び体積は徐々に減少する。この減少は、十年あたり約2%である。以前から抱かれていた考えに反して、この減少は50歳後では加速せず、初期成人期からほぼ同じペースで進み続ける。この減少の累積的な影響は、一般に高齢になるまで気付かれない。
【0028】
脳のサイズは収縮するが、均一には収縮しない。特定の構造はより縮みやすい。例えば、記憶に関与する二つの構造である海馬と前頭葉は、しばしばより小さくなる。これは、一部にはニューロンの減少によるものであり、一部には一部のニューロンの萎縮によるものである。他の多くの脳構造はサイズの損失を受けない。知的な処理の緩慢化は、ニューロンが失われるのか、収縮するのか、又は接続を失うのかはいずれにせよ、ニューロンの劣化によって引き起こされる場合もある。十分に機能するニューロンがこのように減少するので、そうでなければ簡単又は自動的なはずの知的な作業課題をなんとか成し遂げるためにニューロンの追加のネットワークを補充することが必要となる。したがって、その過程は速度が落ちる。
【0029】
前頭前野と呼ばれる前頭葉の一部分は、思考及び行動の監視及び制御に関与する。この脳領域で起こる萎縮は、多くの年配者が経験する、言葉を見いだす難しさの原因であるといえる。このことは、どこに車の鍵を置いたのかを忘れること、又は一般的な注意散漫の原因であるともいえる。前頭葉及び海馬の両方の萎縮は、記憶困難の原因であると考えられる。したがって、個人の認知能力を向上させ、又は高めることも依然として求められている。これは、脳の神経保護過程及び/又は神経再生過程を強化することにより実現できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
上記を考慮して、可塑性及び機能回復の強化又は神経系の細胞死に関係する神経疾患などの神経学的及び/又は精神医学的状態を治療することが求められている。詳細には、特に急性の神経学的状態の際に神経細胞に神経保護をもたらし、或いは特に脳卒中、脊髄損傷、又は脊髄損傷後の回復を可能にするために、神経発生を誘発してニューロンの減少から回復させることによって、神経疾患を治療することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0031】
したがって、本発明の基礎をなす技術的な問題は、神経変性、又は神経発生の障害若しくは不十分によって引き起こされる神経学的及び/又は精神医学的状態を治療し、寛解させ、且つ/又は予防する手段及び方法の提供であるとみなすことができる。この技術的な問題は、特許請求の範囲及び以下で特徴付ける実施形態によって解決される。
【0032】
したがって、本発明は、ニューロン状態(neuronal condition)を治療及び/又は予防する医薬組成物を調製するための、一般式(I)の化合物の使用に関する。
【化1】
【0033】
[式中、
n=0、1又は2であり、但し、
n=0であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
n=1又は2であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、R4及びR5は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基、又は1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基を表す]。
【0034】
好ましくは、上述のハロゲン原子はクロロ原子である。
【0035】
好ましい本発明の化合物は、一般式(II)を有する。
【化2】
【0036】
[式中、
nは0又は1であり、R6は、上で示したような意味を有し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表す]。
【0037】
好ましくは、上述のハロゲン原子はクロロ原子である。
【0038】
好ましくは、R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基を表す。
【0039】
さらに、本発明の好ましい化合物は、一般式(III)を有する。
【化3】
【0040】
[式中、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基又はハロゲン原子を表す]。
【0041】
好ましくは、上述のハロゲン原子はクロロ原子である。
【0042】
好ましくは、R6は、アゼパノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、又はビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基を表す。
【0043】
一般式I及びIIは、ピペリン及びその誘導体を表す。一般式IIIは、ピペリンの誘導体を表す。
【0044】
より好ましくは、本発明の化合物は、ピペリン、トリコスタチン(Trichostachine)、ピペルロングミニン(Piperlonguminine)、5-E,E-ピペリノイルメチルアミン、5-E,E-ピペリノイルエチルアミン、5-E,E-ピペリノイルイソプロピルアミン、5-E,E-ピペリノイルシクロヘキシルアミン、5-E,E-ピペリノイルブチルアミン、デスピペリジル-メトキシピペリジン、5-E,E-ピペリノイルモルホリン、5-E,E-ピペリノイルヘキシルアミン、5-E,E-ピペリノイルピペリノイルアミン、5-E,E-ピペリン酸エチルエステル、5-E,E-ピペリン酸イソプロピルエステル、5-E,E-ピペリン酸プロピルエステル、5-E,E-ピペリン酸ブチルエステル、アンチエピレプシリン(Antiepilepsirine)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペニルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)モルホリン、3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリル酸メチルエステル、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド、1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド、3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド、N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン、ピペレッチン(Piperettine)、クマペリン(Coumaperine)、4'-メトキシイソ-クマペリン、ウィサニン(Wisanine)、1-(4-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(3-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(2-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-シンナモイル-ピペリジン、1-(3,4-ジメトキシ-シンナモイル)ピペリジン、3-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルプロピオン酸ピペリジド、1,2,3,4-テトラヒドロピペリン、ピペラニン(Piperanine)、カビシン、イソピペリン、又はイソカビシンである。
【0045】
特に、本発明の化合物はピペリンである。
【0046】
これらの化合物は、当業界で知られており、以下の表1で、化学名、式(I)の可変基の定義、及びその化合物に言及している参照事項を表示して一覧にしている。
【表1】
【0047】
本発明の使用及び方法で適用される上述の化合物は、本明細書に記載のin vitroアッセイによって測定したとき、ピペリンの神経再生及び/又は神経保護活性を少なくとも10%、より好ましくは50%保持することが好ましい。
【0048】
ピペリンは、クロコショウとして一般に知られているコショウ(Piper nigrum)やナガコショウとして一般に知られているヒハツ(Piper longum)などのコショウ科に属する植物中で自然に見いだされるアルカロイドである。ピペリンは、これらの植物中の主要な辛味物質であり、クロコショウ及びナガコショウの植物の果実から単離される。クロコショウという用語は、植物のコショウ(Piper nigrum)と主にその植物の果実中にある香辛料の両方に使用される。
【0049】
ピペリンは、基本的に水に不溶性の固体の物質である。ピペリンは、最初は無味であるが、強烈な後味を残す弱塩基である。ピペリンは、バニロイドファミリーという、辛いトウガラシの辛味物質であるカプサイシンも含まれるファミリーの化合物に属する。その分子式はC17H19NO3であり、分子量は285.34ダルトンである。ピペリンは、1-ピペロイルピペリジンのトランス-トランス立体異性体である。ピペリンは、(E,E)-1-ピペロイルピペリジン及び(E,E)-1-[5-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-1-オキソ-2,4-ペンタジエニル]ピペリジンとしても知られている。ピペリンは以下の化学構造によって表される。
【化4】
【0050】
ピペリンは、1819年にコペンハーゲンのエルステッドによって最初に手に入れられたが、彼はこれを有機塩基であると考えていた。ピペリンは、様々な方法で単離することができる。Cazeneuve及びCaillol(Jahresb.der Pharm.、1877、p.68)によれば、粉末にしたコショウを石灰乳と混合し、混合物を湯浴上で蒸発乾燥し、エーテルで抽出する。この溶媒を蒸発させると、不純な結晶の形のピペリンが残るが、これをアセトンから晶出させると最も良好に精製される(Fluckiger、1891)。スマトラ胡椒では平均8.10%、シンガポール白胡椒では9.15%のピペリンが得られる。Stevensonは、50gの胡椒からメチルアルコールで抽出物を調製し、炭酸カリウムによって樹脂分を溶かし出した(Stevenson、Amer.Jour.Pharm.、1885、p.513)。残渣のピペリンを水で洗浄し、アルコールから再結晶化している。
【0051】
米国特許第5,744,161号は、コショウ科の果実又は植物から得られる適切な含油樹脂材料からのピペリンの単離を記載している。イソ尿素、尿素、又は尿素誘導体を使用して、含油樹脂からピペリン以外の有機物を除去し、それによって高純度のピペリンを得ることができる(US6,054,585)。ヒドロトロープ水溶液を使用するピペリンの抽出は、米国特許第6,365,601号に記載されている。
【0052】
クロコショウ及びナガコショウは、アーユルヴェーダ医学で様々な疾患の治療に使用されてきた。そのような調製物の一つは、トリカトゥ(trikatu)というサンスクリット名で知られており、クロコショウ、ナガコショウ、及びショウガからなる。ピッパリ(pippali)というサンスクリット名で知られている別の調製物は、ナガコショウからなる。ピペリンは、こうしたアーユルヴェーダ療法の主要な生物活性物質の一つであると考えられる。
【0053】
ピペリンは、熱産生を増加させ、それが代謝に必要な栄養素の要求をもたらす。
【0054】
ピペリンは、推定上の抗炎症活性を有し、消化過程の促進において活性を有するかもしれない。ピペリンの推定上の抗炎症活性の機序は、一部には、存在するかもしれないピペリンの抗酸化活性によるものとみなすことができる。
【0055】
ピペリンは、カラゲナンによって誘発したラット足浮腫及び他の一部の炎症実験モデルにおいてかなりの抗炎症活性を示している。ある動物試験では、ピペリンによって、カラゲナンによって誘発した肝臓脂質過酸化、酸性ホスファターゼ、及び浮腫が軽減されている(Dhuley et al.、Indian J Exp Biol.1993;31:443-445;Mujumdar et al.、Jpn J Med Sci Biol.1990;433:95-100)。
【0056】
ラット腸管モデルでは、ピペリンは、いくつかの化学発癌物質によって誘発される酸化的変化に対する保護になると言われている(Khajuria et al.、Mol Cell Biochem.1998;189:113-118)。
【0057】
ピペリンが、数多くの薬物及びいくつかの栄養補助食品の生体利用度を有意に増大させ得ることを示す、動物及びヒトのin vitro研究が存在する(Atal et al.、J Pharmacol Exp Ther.1985;232:258-262;Badmaev et al.、Nutr Res.1999;19:381-388;Badmaev et al.、J Nutr Biochem.2000;11:109-113;Bano et al.、Eur J Clin Pharmacol.1991;41:615-617;Pattanaik et al.、Phytother Res.2006;20:683-686;US5616593;US5,972,382;US6,017,932;EP0650728;EP1494749)。報告によれば、この効果は、中でも一部の抗菌剤、抗原虫剤、抗蠕虫剤、抗ヒスタミン剤、非ステロイド性抗炎症剤、筋肉弛緩剤、及び抗癌剤で実証されている。ピペリンは、コエンザイムQ10、クルクミン、βカロチン、プロパノロール、及びテオフィリンの生体利用度も増大させている。
【0058】
その機序は、影響を受ける薬物の生体内変換に関与する特定の酵素の阻害によると考えられる。ピペリンは、薬物及び異物代謝の非特異的阻害剤であることがわかっている。ピペリンは、異なる多くのシトクロムP450アイソフォーム、並びにUDPグルクロニルトランスフェラーゼ、肝臓アリール炭化水素ヒドロキシラーゼ、及び薬物及び異物代謝に関与する他の酵素を阻害すると思われる。しかし、ピペリンが任意の選択された食事性物質又は薬物に与える効果について理論的根拠を予測することは未だ不可能である。
【0059】
その生体利用度に対する効果の他に、ピペリンは、βエンドルフィン、セロトニン、アドレナリン、メラニン、及び消化酵素の産生を刺激する、喘息症状及び疼痛を軽減する、胃の潰瘍化及び酸生成を減少させるなど、体内で他のいくつかの様々な作用を有する。
【0060】
ピペリン、及び一般式Iによって表されるその誘導体は、メラニン形成細胞の増殖を刺激することも実証されている。したがって、これらの化合物の医薬製剤は、皮膚色素沈着障害を治療することが示唆された(EP1094813)。
【0061】
クロコショウは、伝統的な中医学で発作性疾患の治療にも使用されてきた。ピペリン、及びアンチエピレプシリン(antiepilepsirine)などのその誘導体は、ある種の抗痙攣活性を有すると主張されており、したがって中国では一部の形態のてんかんの治療に使用されている(Pei、Epilepsia 1983;24:177-182;Liu et al.、Biochemical Pharmacology 1984;33:3883-3886)。
【0062】
マウスでは、腹腔内注射されたピペリンによって、カイニン酸で誘発した間代性痙攣が抑制された。L-グルタミン酸、N-メチルD-アスパラギン酸、又はグアニジノコハク酸によって誘発したてんかん発作活性は有意にブロックされなかった(D'Hooge et al.,Arzneimittelforschung.1996;46:557-560)。
【0063】
ヒトにおけるピペリンの薬物動態は、依然として完全には理解されていない。ラットでは、ピペリンは摂取後に吸収され、一部の代謝産物は同定されており、ピペロニル酸、ピペロニルアルコール、ピペロナール、及びバニリン酸が尿中に認められる。一代謝産物であるピペル酸は、胆汁中に見られる。ピペリンは、消化管から急速且つ十分に吸収される。他の物質の吸収に対する効果は、服用後15分位で始まり、1又は2時間持続する。血中濃度は、服用後約1〜2時間で最高点に達するが、代謝酵素に対する効果は、それよりはるかに長く持続する場合がある。さらなるヒト薬物動態研究が必要である。
【0064】
ピペリンは、構造的には、それぞれトウガラシ及びショウガ中に認められる、同じく辛味のする天然化合物のカプサイシン及びジンゲロンと関連している。共通してバニリル部分を有するこれらの化合物は、カプサゼピンによって阻害することのできるバニロイド受容体のアゴニストになり得る(Liu & Simon et al.、J Neurophysiol.1996;76:1858-1869)。ピペリンは、物質SB-366791によって選択的且つ強力に阻害することのできるバニロイド受容体サブタイプTRPV1を大部分活性化することがわかっている(McNamara et al.、Br J Pharmacology 2005;144:781-790;Varga et al.、Neurosci Lett.2005;385:137-142;Gunthrope et al.、Neuropharmacology 2004;46:133-146)。
【0065】
その式の小さな変更を含むピペリンの誘導体は通常、基本的に不変の生物学的効果を示す。したがって、そうした誘導体は、ピペリンの代わりに使用することができる。その機能活性を共通してもつピペリンの様々な誘導体、並びにその合成及び特徴付けは、文献によって知られている(EP1094813;Pei、Epilepsia 1983;24:177-182;Liu et al.、Biochemical Pharmacology 1984;33:3883-3886)。
【0066】
本発明に従って使用される化合物の単離及び/又は合成の方法は、文献によって知られている(US5,744,161;US6,054,585;US6,365,601;EP1094813;US6,346,539;Pei、Epilepsia 1983;24:177-182;Liu et al.、Biochemical Pharmacology 1984;33:3883-3886)。ピペリンの小さな化学的変更は、ピペリンの神経再生及び/又は神経保護効果を消すことなく、安定性、溶解性、血液-脳関門突破能などの物理的及び/又は生物学的性質を潜在的に向上させる場合がある。例えば薬物動態又は有害副作用のプロフィールを改善するために、当業者が薬理活性のある最初の化合物を改変することは、十分に確立された方法である。本明細書に記載のin vitro及びin vivoアッセイは、そのような改変型化合物の神経再生及び神経保護効果を試験するのに適する。
【0067】
ピペリン、並びにバニリル部分を共通に有する構造的に関連した化合物カプサイシン及びジンゲロンは、TRPV1受容体の既知の作動薬である(Liu & Simon et al.、J Neurophysiol.1996;76:1858-1869)。しかし、本発明によれば、ピペリンの神経再生及び神経保護効果は、この受容体へのアゴニスト作用の仲介によるものではないことがわかった。本明細書に記載のin vitroアッセイにおいて、カプサイシンでは検出可能な神経再生及び神経保護効果が見られない。その上、本明細書に記載のin vitroアッセイにおけるピペリンの神経再生及び神経保護効果は、特定のTRPV1受容体阻害剤SB366791によって低下しない。
【0068】
これらの知見のより詳細な内容は、実施例6に示す。
【0069】
用語「神経発生」とは、本明細書では、原則として、幹細胞からのニューロンの生成、好ましくは成体神経幹細胞からのニューロンの生成を指す。最近では、神経疾患の治療にとっての新たな神経細胞を生成すること(神経発生)の重要性が認識されつつある。他の多くの組織とは異なって、成熟した脳は修復能力が限られており、細胞分化の程度が並外れているために、残りの健常な組織が損傷を受けた脳の機能を想定できる程度が制限される。しかし、大脳ニューロンは、成体脳に残存する前駆細胞から派生するので、成体脳中の内在性の神経前駆体の刺激は、治療への潜在的可能性を有するといえることになる。
【0070】
神経発生は、神経幹細胞の新しいニューロンへの分化に基礎を置く。神経発生は、側脳室の側脳室下帯(SVZ)及び歯状回(DG)の顆粒細胞下帯(SGZ)を含めた成体脳の別個の領域で起こる。神経発生は、特に特定の神経学的パラダイム-例えば脳虚血後の成体動物で起こる(Jin et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2001;98:4710-4715;Jiang et al.、Stroke 2001;32:1201-1207;Kee et al.、Exp.Brain.Res.2001;136:313-320;Perfilieva et al.、J.Cereb.Blood Flow Metab.2001;21:211-217)。神経発生は、ヒトでも実証されており(Eriksson et al.、Nat Med.1998;4:1313-1317)、実際に機能性ニューロンをもたらす(van Praag et al.、Nature 2002;415:1030-1034)。特に、歯状回の顆粒細胞下帯、及び門は、成体神経幹細胞から新しいニューロンを生じる潜在的可能性を有する(Gage et al.、J Neurobiol 1998;36:249-266)。
【0071】
成体神経幹細胞は、胚性幹細胞が有するような、生物のすべての細胞型への分化能(全能性)はもたないが、脳組織の様々な細胞型に分化する潜在的可能性を有する(多能性)。分化の際、成体神経幹細胞は、重要な形態学的及び機能的変化を経る(van Praag et al.、Nature 2002;415:1030-1034)。ニューロン細胞の再生(神経再生)は、神経発生の機序に左右されるものであり、神経変性過程からの回復を可能にする。神経発生を誘発する能力を有する化合物は、(急性障害及び慢性神経変性疾患の両方において)ニューロン組織の再生の必要性が同様であるとき、複数の障害で使用できる可能性がある。
【0072】
用語「神経保護」は、例えば脳傷害後又は慢性神経変性疾患の結果としてのアポトーシス又は変性からニューロンを保護する、神経系内の機序を意味する。神経保護の目的は、CNS傷害後のニューロンの障害/死を制限することであり、脳における細胞相互作用の可能な限りの最高の完全性を保ち、乱されていない神経機能を得ることを試みるものである。種々の神経保護生成物が研究中である(例えば、フリーラジカルスカベンジャー、アポトーシス阻害剤、神経栄養因子、金属イオンキレート剤、及び抗興奮毒性剤)。神経保護生成物は、(急性障害及び慢性神経変性疾患の両方において)神経組織への損傷の根底にある機序の多くが同様であるとき、複数の障害で使用できる可能性がある。
【0073】
好都合なことに、ピペリンやその誘導体などの神経再生作用のある化合物は、進行性のニューロン減少後の後期でさえも神経学的状態の治療を可能にする。この分野の一般の認識は、ヒトにおける血餅溶解による急性脳卒中治療の機会の枠は、時間に制限されるというものである。組換え型TPAでは、脳卒中発症後の認可された時間枠は3時間であるが、しかし、治療はおそらく4.5時間まで効果的である(Davalos、Cerebrovasc Dis 2005;20 Suppl 2:135-139)。神経保護によって脳組織を救えるかもしれない患者を特定することを考える概念は、拡散/灌流ミスマッチ概念である。ミスマッチを示す患者の百分率及びミスマッチ体積の程度は、時間と共に減少するが、ミスマッチ理論によれば神経保護の治療時間枠の終わりであるといえる24時間でも、一部の患者において検出可能であることが示唆されている(Baron & Moseley、J Stroke Cerebrovasc Dis 2000;9:15-20)。血液循環を回復させること、したがって虚血及び低酸素条件の排除、又は神経保護は、脳卒中発症後4,5時間まで、又は最も遅くとも24時間までしか有効でないと想定される。単に神経保護の機序によって働く化合物は、ニューロンが死んでいく進行中の過程を停止し、又は弱めるのに使用することしかできない。対照的に、神経再生化合物は、すでに起こってしまったニューロンの減少を逆行させることができ、脳卒中などの急性神経疾患、又はさらに慢性神経疾患の影響を停止し、又は弱めるだけでなく、逆行させる潜在的可能性をも有する。神経再生化合物は、脳卒中発症後4,5時間より後、又はさらには24時間より後に治療を開始したとしても、脳卒中の治療に有効な場合がある。
【0074】
詳細には、本発明に従う化合物が、神経保護及び神経再生効果を有することが予想外に判明した。したがって、こうした化合物は、神経保護及び/又は神経再生の必要のある神経学的状態又は疾患の治療に単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0075】
したがって、本発明は、神経学的状態を有する患者を治療する方法であって、前記神経学的状態に罹患している患者に上で規定したような化合物を治療有効量で投与することを含む方法も企図する。治療対象となる好ましい神経学的状態又は疾患は、本明細書の他の場所で明確に参照される。
【0076】
本発明による化合物は、虚血性病変後に神経発生を強化する、したがって例えば行動に関する成果を改善する能力を有することがわかっている。神経発生は、神経回路網の可塑性を増大させることができ、ニューロンの漸進的な減少を補充することのできる一つの機序である。したがって、本発明の一実施形態は、認知の喪失を患い、示し、且つ/又はそれがいくらかのレベルであると考えられる個人に、本明細書で記載するような1種又は複数の組成物を、本明細書中の投与の論述に従ってその個人に投与することにより、認知能力の強化、向上、又は増強をもたらすことである。代替実施形態では、認知の強化は、病理学的でない状態の個人、例えば認知障害を示さない個人のためになる場合もある。
【0077】
本発明の化合物は、神経再生活性に加えて、ニューロン細胞に対して抗アポトーシス性の働きをし、それによってニューロンの生存能を強化できることもわかった。したがって、本発明に従う化合物は、神経保護化合物であるとみなすことができる。用語「神経保護化合物」とは、in vitro(細胞培養系)若しくはin vivo(脳卒中、ALS、ハンチントン病など、虚血性疾患、低酸素性疾患、及び/又は神経変性疾患の動物モデル)で、又はヒト患者において神経細胞及び/又は脳組織に対して保護効果を有する物質を全部指す。
【0078】
本発明による化合物の神経再生効果は、神経幹細胞の分化へのその刺激作用を測定することにより、in vitroで検定することができる。したがって、成体神経幹細胞を単離し、続いて適切な培地で培養しなければならない。in vitroで数回継代した後、幹細胞に、その一方は構成的プロモーターの制御下にあり、他方はβ-IIIチューブリンプロモーターの制御下にある2種の区別できるレポータータンパク質をコードするDNA構築物を同時トランスフェクションしなければならない。β-IIIチューブリンプロモーターは、神経幹細胞分化の過程の間に誘導され、したがってこのプロモーターの制御下にあるレポータータンパク質は、このようなin vitro二重レポーターアッセイで幹細胞分化のマーカーとして役立つ(Schneider et al.、J Clin Investigation 2005;115:2083-2098)。当業者には、SV40プロモーター、TKプロモーター、又はCMVプロモーターなどのいくつかの適切な構成的プロモーターが知られている。このような二重レポーターアッセイ用の区別できるレポータータンパク質としては、ホタルルシフェラーゼとウミシイタケルシフェラーゼなどの、区別できるルシフェラーゼを使用することができる。トランスフェクションした細胞は、試験化合物と共に、また標準化及びバックグラウンド補正のための陽性及び陰性対照と共にインキュベートしなければならない。陽性対照化合物としては、レチノイン酸を使用することができ(Guan et al.、Cell Tissue Res.2001;305:171-176;Jacobs et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2006;103:3902-3907)、適切な陰性対照は、細胞の偽処理である。試験化合物の神経再生活性は、β-IIIチューブリンプロモーターによって制御されたレポーターのシグナル対構成的に発現させたレポーターのシグナルの比として測定し、対照の何倍かで示す。このアッセイは、ピペリン及びその誘導体の神経再生活性を評価するのに適するが、他の潜在的な神経再生化合物のスクリーニングに使用することもできる。好ましくは、そのようなスクリーニングは、その毒性学、生体利用度、溶解性、安定性などに関して、医薬として適することが予めわかって
いる化合物を試験するのに使用できることが好ましい。
【0079】
神経再生効果の評価のためのこのようなin vitroアッセイのより詳細な内容は、実施例1及び2に示す。
【0080】
本発明者らは、ピペリンの神経組織発生効果をin vivoで実証することもできた。成体脳中の新たに生じたニューロンのピペリン投与による刺激は、BrdU/NeuN二重染色によって分析することができる(Bagley et al.BMC Neurosci 2007;8:92)。その結果は、ピペリン及びその誘導体の神経組織発生効果のin vitroでの評価が、in vivoでの状況を予測するものであることを明らかに示すものである。
【0081】
神経組織発生効果のin vivo分析のより詳細な内容は、実施例10に示す。
【0082】
神経保護は、冒されたニューロンのアポトーシスの阻害によって実現できる。ピペリン及びその誘導体の抗アポトーシス効果は、カスパーゼ3及びカスパーゼ7活性を測定することにより、in vitroで検定することができる。システインアスパラギン酸特異的プロテアーゼ(カスパーゼ)ファミリーのこのようなメンバーは、哺乳動物細胞のアポトーシスにおいて鍵となるエフェクターの役割を果たす。皮質ニューロンは、単離し、続いて適切な培地中で培養しなければならない。細胞は、スタウロスポリンなどのアポトーシス性物質の存在下で試験化合物と共にインキュベートしなければならない。スタウロスポリンのみ及び細胞の偽処理との平行した手法が、陰性及び陽性対照として役立つ。このアッセイによって、試験化合物がスタウロスポリンによるアポトーシス性の影響を完全に又は部分的に埋め合わせできるかどうかを評価することが可能になる。このアッセイは、ピペリン及びその誘導体の神経保護活性を評価するのに適するが、他の潜在的な神経保護化合物のスクリーニングに使用することもできる。好ましくは、このようなスクリーニングは、その毒性学、生体利用度、溶解性、安定性などに関して医薬として適切であることが予めわかっている化合物を試験するのに使用できることが好ましい。
【0083】
さらに、ピペリン及びその誘導体は、運動ニューロン細胞系に対しても神経保護の働きをすることがわかった。ALSでは運動ニューロンが冒されるので、このことは、本発明による化合物が慢性神経変性疾患、即ちALSの治療に適することを明らかに示している。
【0084】
ニューロン又は運動ニューロンに対する抗アポトーシス効果を評価するためのこのようなin vitroアッセイのより詳細な内容は、実施例3、4及び10に示す。
【0085】
生存能アッセイでは、ニューロンなどの細胞へのその影響に関して、試験化合物をさらに評価することが可能になる。したがって、レポーター構築物(例えばルシフェラーゼ構築物)をしっかりとトランスフェクションした細胞系(例えばSH-SY5Y細胞)を、試験化合物と共に、また陽性及び陰性対照(例えば、それぞれスタウロスポリン及び偽処理)と並行してインキュベートしなければならない。続いて、レポーター構築物によって生成されたシグナルが、試験化合物存在下での細胞の生存度についての読み値となる。このアッセイによって、試験化合物それ自体の潜在的な神経毒的影響を評価できるようになる。発明者らは、このアッセイにおいてピペリン及びその誘導体が細胞傷害性の影響を及ぼさないことを見いだした。
【0086】
ニューロンの生存能への影響を評価するためのこのようなin vitroアッセイのより詳細な内容は、実施例5に示す。
【0087】
試験化合物のin vivoでの効果をさらに評価するのに、特定の神経学的状態及び疾患の動物モデルを使用することができる。ラットMCAOモデル(中大脳閉塞、細糸モデル)は、異なる広範な種類のニューロンが虚血/低酸素によって損傷を受けている、脳卒中の動物モデルである。様々な神経学的状態の別の動物モデルは、当業者によってよく知られている。そのような動物モデルは、例えば、その限りでないが、筋萎縮性側索硬化症のSOD1G93Aトランスジェニックマウス(Almer et al.、J Neurochem 1999;72:2415-2425)、アルツハイマー病のAPPトランスジェニックマウス(Janus & Westaway、Physiol Behav 2001;73:873-886)、ハンチントン病のエキソン-1-ハンチンチントランスジェニックマウス(Sathasivam et al.、Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci.1999;354:963-969)、及びフリードライヒ失調症のFRDAトランスジェニックマウス(Al-Mahdawi Genomics 2006:88:580-590)である。試験化合物で処置した動物は、偽の処置を施した動物と比較しなければならない。発明者らは、ラットMCAOモデル動物のピペリンでの処置によって、梗塞巣体積が偽処置と比較して有意に縮小したことを見いだした。この分析は、脳卒中などの神経学的状態においてピペリンがin vivoで神経保護及び/又は神経再生活性を示すことを実証している。この分析は、ピペリンの誘導体の神経保護及び/又は神経再生活性を評価するのにも使用できる。
【0088】
同様に、発明者らは、実験的なSCIのマウスをピペリン処置すると、偽処置と比較して明らかに改善された成果が得られたことを見いだしたが、これは、ピペリンの神経保護及び/又は神経再生活性をさらにin vivoで実証するものである。
【0089】
脳卒中及びSCIの動物モデルにおけるピペリンの分析のより詳細な内容は、実施例7及び8に示す。
【0090】
本発明に従う化合物は、単独で、互いに組み合わせて、且つ/又は1種又は複数の追加の要素と組み合わせて、神経保護及び神経再生の必要のある神経学的状態の治療に使用することができる。そうした神経学的状態は、脳虚血(脳卒中、外傷性脳損傷、又は心臓循環器系の停止による脳虚血など)、筋萎縮性側索硬化症、緑内障、アルツハイマー病、神経変性トリヌクレオチド反復障害(ハンチントン病など)、神経変性リソソーム蓄積症、多発性硬化症、脊髄損傷、脊髄外傷、認知症、統合失調症、及び末梢性神経障害を含む。さらに、前記化合物は、単独で、互いに組み合わせて、且つ/又は1種又は複数の追加の要素と組み合わせて、例えば、加齢による記憶喪失、軽度認知障害、加齢関連認知機能低下などの非病理学的状態の場合に、学習及び記憶の強化に使用することもできる。
【0091】
本発明の使用及び方法の好ましい実施形態では、本明細書で規定する化合物が、医薬組成物に含まれる唯一の神経組織発生及び/又は神経保護化合物である。したがって、医薬組成物は、追加の神経組織発生及び/又は神経保護化合物を含まないことが好ましい。しかし、前記医薬組成物が、本明細書で規定する化合物、及びしたがってピペリン誘導体の組合せを含んでもよいことは理解されたい。また、医薬組成物、詳細には虚血性脳卒中に罹患している対象の治療用に調製される医薬組成物は、血栓溶解性且つ/又は抗血栓形成性の化合物、詳細には組織プラスミノゲンアクチベーター(TPA)やアスピリン(アセチルサリチル酸)などの化合物を含んでもよい。また、この医薬組成物が、本明細書で規定する対象に投与される唯一の活性神経組織発生及び/又は神経保護化合物であることが好ましい。
【0092】
本発明の使用及び方法の好ましい実施形態では、本明細書で規定する化合物は、単独で、互いに組み合わせて、且つ/又は1種又は複数の追加の非神経組織発生及び非神経保護要素と組み合わせて、神経組織の虚血及び/又は低酸素に基づく神経学的状態、例えば、脳虚血(例えば脳卒中、外傷性脳損傷、又は心臓循環器系の停止による脳虚血)、緑内障、脊髄損傷、脊髄外傷を、その状態の患者のニューロン細胞に保護及び再生をもたらすことによって治療するのに使用することができる。これらの神経学的状態において活発な病理学的及び保護的過程が共通していることは、本発明による化合物での治療が同等に有効となることを示唆している。
【0093】
「治療する」とは、疾患又は状態の進行を緩慢にし、中断し、阻止し、又は停止することを意味し、すべての疾患症状及び徴候の完全な消失を必ずしも必要としない。また、用語「治療する」は、本明細書で参照される神経疾患又は障害に罹患している対象の状態を寛解させることも指す。さらに、当業者にはわかるとおり、このような治療は通常、治療を受ける対象の100%に有効となることを意図しない。しかし、この用語では、統計学的に有意な割合の対象を効率的に治療することができる、即ち症状及び臨床徴候を寛解させることができる必要がある。割合が統計学的に有意であるかどうかは、よく知られている様々な統計評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、Mann-Whitney検定などを使用して、当業者によって難なく決定することができる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001であることが好ましい。
【0094】
特定の神経疾患(例えば筋萎縮性側索硬化症及びハンチントン病)では、疾患の遺伝マーカー又は家族性集積に基づき素因を判定することができる。他の神経学的状態(例えば脳卒中などの脳虚血)では、喫煙、栄養不良、又は特定の血中濃度などの様々なリスクファクターが当業者に知られている。このような神経疾患の治療は、臨床症状が発現する前でさえ、非常に早く開始したとき最も有望である(Ludolph、J Neurol 2000;247:VI/13-VI/18)。疾患のその段階では、分子及び細胞の損傷はすでに始まっている。神経再生及び/又は神経保護化合物は、細胞の損傷(即ちニューロンの減少)が始まったところですぐに投与されたとき、神経学的状態又は疾患を最も効果的に予防することは明らかである。
【0095】
ピペリンなどの本発明に従って使用される化合物は、長期間適用されたとしても十分に耐容性を示すので、そのような神経学的状態又は疾患になるリスクのある患者の治療に予防策として使用することができる。予防的な投与は、化合物のレベルが神経発生の刺激及び神経保護に有効な量で持続することが確立される方法で施すべきである。
【0096】
「予防する」は、神経疾患又は状態の予防策を含むものとし、「予防策」は、その限りでないが疾患又は状態の完全な予防を含めて、疾患又は状態の発症の時期又は徴候若しくは症状の重症度の任意の程度の抑制であると理解される。さらに、当業者にはわかるとおり、このような予防は通常、それを受ける対象の100%に有効となることを意図しない。しかし、この用語では、統計学的に有意な割合の対象を、将来的に、本明細書で参照される疾患又は状態にならないように効率的に予防できることが必要となる。割合が統計学的に有意であるかどうかは、本明細書において他の場所で参照される、よく知られている様々な統計評価ツールを使用して、当業者によって難なく判定することができる。
【0097】
本発明に従う化合物及びその組合せは、液状の溶液又は懸濁液、錠剤、丸剤、粉末、坐剤、高分子マイクロカプセル又はマイクロベシクル、リポソーム、並びに注射用又は注入用溶液が挙げられるがこれに限らない様々な剤形で投与することができる。好ましい形態は、投与方式及び治療用途に応じて決まる。
【0098】
投与経路としては、例えば、経口、皮下、経皮、皮内、直腸、経膣、筋肉内、静脈内、動脈内、脳への直接の注射、及び非経口を含めた典型的な経路を挙げることができる。医薬製剤は、局所的な使用に適合させることもできる。さらに、状況によっては、肺への投与、例えば肺スプレー及び他の呼吸用形態が有用な場合もある。
【0099】
肺スプレーに加え、(例えば点鼻薬による)鼻腔内(IN)送達も、神経学的/精神医学的状態のための本発明の組成物を送達する好ましい適用方式である。鼻腔内送達は、タンパク質及びペプチドの適用方式とするのに十分に適しており、特に長期間の治療のための使用に非常に好都合である。ペプチド又はタンパク質を脳に適用するための鼻腔内送達(点鼻薬)の使用の例は、以下の文献で見ることができる(Lyritis & Trovas、Bone 2002;30:71S-74S、Dhillo & Bloom、Curr Opin Pharmacol 2001;1:651-655、Thorne & Frey、Clin Pharmacokinet 2001;40:907-946、Tirucherai et al.、Expert Opin Biol Ther 2001;1:49-66、Jin et al.、Ann Neurol 2003;53:405-409、Lemere et al.、Neurobiol Aging 2002;23:991-1000、Lawrence、Lancet 2002;359:1674、Liu et al.、Neurosci Lett 2001;308:91-94)。鼻腔内の適用では、本明細書に記載の化合物を、溶媒、界面活性剤、並びに鼻の血管を広げ、灌流を増加させる薬物などの、鼻粘膜上皮の浸透又は血管への送達を増強する物質と組み合わせることができる。
【0100】
本発明による上述の物質は、当業界で利用可能な標準の手順に従って医学的な目的のために製剤することができ、例えば、薬学的に許容できる担体(又は医薬添加剤)を加えることができる。担体又は医薬添加剤は、活性成分の媒体又は媒質とすることのできる固体、半固体、又は液体の材料でよい。適切な形態及び投与方式は、選択した生成物の特定の特性、治療する疾患又は状態、疾患又は状態の段階、並びに他の関連する状況に応じて選択することができる(Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.(1990))。薬学的に許容できる担体又は医薬添加剤の比率及び種類は、選択した物質の溶解性及び化学的性質、選択した投与経路、並びに標準の薬学的慣行によって求める。局所用製剤は、オレイン酸、プロピレングリコール、エタノール、尿素、ラウリンジエタノールアミド(lauric diethanolamide)又はアゾン(azone)、ジメチルスルホキシド、デシルメチルスルホキシド、ピロリドン誘導体などの浸透性改善剤も含有してよい。リポソーム送達系を使用してもよい。
【0101】
本発明の使用及び方法で治療を受ける対象は、哺乳動物、より好ましくはモルモット、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウマ、雌ウシ、ヒツジ、サル、又はチンパンジーであることが好ましく、ヒトであることが最も好ましい。
【0102】
神経学的状態を治療するための化合物の治療有効量は、その要素を単独又は組合せのどちらで使用するときも、神経保護及び/又は神経再生効果をもたらす量で使用すべきである。そのような効果は、本明細書に記載のアッセイによって評価することができる。治療有効量は、化合物につき又は組合せとして約0.01〜約10mg/kg体重の範囲に及ぶことが好ましく、年齢、人種、性別、投与方式、及び個々の患者ベースの他の要素に基づいて決定することができる。化合物は、治療する神経学的状態及び投与経路に応じて、単一のボーラスとして、又は例えば1日量として繰り返し投与することができる。化合物は、組み合わせて投与するとき、投与前に予め混合し、同時に投与してもよいし、又は単独で連続して投与してもよい。本明細書で記載するような神経学的な状態を治療する、特に脳卒中、SCI、TBIなどの急性の神経学的状態を治療する特定の実施形態では、本明細書に記載の化合物の多めの用量が特に有用となる場合があり、例えば、少なくとも10mg/kg体重、少なくとも50mg/kg体重、又は少なくとも200mg/kg体重を使用することができる。本明細書に記載の化合物、特にピペリンは、急性の神経学的状態の治療には、1〜10日、好ましくは1〜5日の期間中に2〜200mg/kg体重、より好ましくは5〜50mg/kg体重の用量で投与することが好ましい。ピペリンには神経再生効果があるので、その後少なめの用量で長期間にわたり治療することが得策である。10mg/kg体重の用量(静脈内ボーラス)が、ラットモデルにおける脳卒中治療の有効量であることを発明者らは示している(実施例7)。さらに、5日の期間中に5〜50mg/kg体重の用量が、神経発生の刺激のための有効量であることを発明者らは示している(実施例9)。
【0103】
ピペリンは、50mg/kgの静脈内ボーラス後にラット脳組織において最大濃度約4μg/mlで見い出されている(Sunkara at al.、Pharmazie 2001;56:640-642)。当業者には、動物モデルからヒト用量を推測する手法が知られている(Boxenbaum & DiLea、J Clin Pharmacol 1995;35:957-966)。ピペリンを共投与される薬物の生体利用度を高める目的でヒト患者に1日約5〜20mgの量で経口投与することがすでに報告されている(US5616593;US5536506;Pattanaik et al.、Phytother Res.2006;20:683-686)。この用量ではピペリンは十分に耐容性を示すようである。
【0104】
ALSや認知症などの慢性の神経変性過程の場合では、治療は、1日1回であることがより適当となり、又は緩徐放出製剤を使用することが好ましい。
【0105】
別の実施形態では、本発明は、特に徐放及び長期間の一定の適用に適したデバイスも提供するが、そのデバイスは、(例えば、Edith Mathiowitz;(Ed.)、Encyclopedia of Controlled Drug Delivery、John Wiley & Sons 1999;2:896-920に記載されているような)好ましくは皮下移植される、移植型ミニポンプでよい。このようなポンプは、インスリン治療において有用であることが知られている。そのようなポンプの例として、Animas、Dana Diabecare、Deltec Cozm、Disetronic Switzerland、Medtronic、及びNipro Amigoによって製造/販売されているもの、並びに例えば、その関連する内容が参照により本明細書に援用される米国特許第5,474,552号、第6,558,345号、第6,122,536号、第5,492,534号、及び第6,551,276号に記載のものが挙げられる。
【0106】
一実施形態では、医薬は、1種又は複数の追加要素をさらに含むことができる。「追加要素」とは、本発明によれば、医薬の有益な効果をさらに支える任意の物質である。その支持は、累積的なものでも相乗的なものでもよい。適切な追加要素は、例えば、炎症をモジュレートする要素を備えた要素である。任意の調製物の静脈内適用にブラジキニン又は類似の物質を追加すると、脳又は脊髄へのその送達が支えられる(Emerich et al.、Clin Pharmacokinet 2001;40:105-123;Siegal et al.、Clin Pharmacokinet 2002;41:171-186)。血液脳関門の通過を容易にする薬剤を使用してもよい。当業者は、個々の疾病の治療に有益な追加要素に精通している。
【0107】
血液脳関門を超えるその能力を増進し、又はその分配係数を脳組織の方へ移行させる、本発明による医薬の変更形態又は医薬製剤も好ましい。
【0108】
ラット脳卒中モデルについて示すように(実施例7)、本発明において規定する化合物の大用量の単回投与は、神経学的症状が突然発症する急性の神経学的状態の治療、特に脳卒中、脊髄損傷(SCI)、脊髄外傷、及び外傷性脳損傷(TBI)の治療に特に有利である。
【0109】
したがって、本発明は特に、脳卒中、SCI、脊髄外傷、及びTBIからなる群から選択される急性の神経学的状態を治療する医薬組成物を調製するための本明細書で規定する化合物の使用に関するものであり、前記化合物、好ましくはピペリンが、前記急性の神経学的状態が発症した後、1〜10日、好ましくは1〜5日の期間中に2〜200mg/kg体重、より好ましくは5〜50mg/kg体重の量(用量)で提供される。前記量は、全量(ボーラス)として、少量ずつ、又は連続的に提供できることが好ましい。前記化合物は、好ましくは少なくとも10mg/kg体重の前記化合物、好ましくはピペリンのボーラス用量として提供されることがより好ましい。
【0110】
上述の医薬組成物は、特に、急性の神経学的事象、即ち、機能性ニューロンの進行中の減少に陥っている対象の応急手段に有利である。用語「脳卒中」は、好ましくは出血性脳卒中、より好ましくは虚血性脳卒中を指す。
【0111】
本明細書で規定する化合物の投与は、急性事象の影響を有意に軽減する、即ち前記急性事象を原因として機能を失うニューロンの数を有意に減少させる。ピペリンの化合物の大規模単回用量の投与が特に有利である。
【0112】
用語「ボーラス」は、本明細書では、好ましくは、化合物を単回用量として投与することを意味する。
【0113】
用語「少なくとも10mg/kg体重」は、本明細書では、10mg/kg体重又は10mg/kg体重より多いものに関する。好ましくは、この用語は、少なくとも15mg/kg体重、少なくとも20mg/kg体重、少なくとも30mg/kg体重、少なくとも40mg/kg体重、又は少なくとも50mg/kg体重に関する。本発明の上述の使用に関して、本明細書で規定する化合物の体重1kgあたり10mgの投与が特に企図される。対象に投与される量は、前記対象にいかなる毒性の影響も及ぼすべきでなく、又は前記対象に毒性の影響をほどほどにしか及ぼすべきでないことを理解されたい。化合物の毒性の影響を測定する方法は、当業界でよく知られている。したがって、投与される化合物の量の好ましい上限は、ボーラス用量として50mg/kgである。かくして、本発明によれば、急性の神経学的状態に本発明の化合物を適用する最適な用量範囲が決定された。
【0114】
上述のように、本発明において規定される化合物は、驚いたことに神経組織発生効果を有する。即ち、本明細書で規定する化合物を含む医薬組成物は、機能性ニューロンの減少をもたらした急性の神経学的状態の後療法に特に有利である。
【0115】
したがって、本発明は特に、ニューロンの減少を示す対象において神経発生を強化する医薬組成物を調製するための上で規定したような化合物の使用に関する。
【0116】
ニューロンの減少を示す対象は、特に、以前からのニューロンの減少のある対象である。より好ましくは、前記対象は、本明細書で参照される神経学的状態の結果として機能性ニューロンの数が減少している対象である。好ましい神経学的状態は、本明細書の他の場所に記載している。前記のニューロンの減少は、筋萎縮性側索硬化症、緑内障、アルツハイマー病、神経変性トリヌクレオチド反復障害(ハンチントン病など)、神経変性リソソーム蓄積症、多発性硬化症、認知症、統合失調症、及び末梢性神経障害からなる群から選択される神経変性障害によって引き起こされるものであることが好ましい。前記のニューロンの減少は、脳卒中、TBI、心臓循環器系の停止による脳虚血、SCI、及び脊髄外傷からなる群から選択される、以前の急性の神経学的状態によって引き起こされたものであることがより好ましい。前記のニューロンの減少は、脳卒中、SCI、脊髄外傷、及びTBIからなる群から選択される、以前の急性の神経学的状態によって引き起こされたものであることが最も好ましい。
【0117】
さらに、本明細書で規定する化合物の使用は、後期の神経学的状態に付随するニューロン減少を治療する薬学的条件の準備に特に有利である。前記の後期の神経学的状態は、脳卒中、脊髄損傷、脊髄外傷、又は外傷性脳損傷の後期であることが好ましい。急性の神経学的状態の後期にある対象は、その段階での血餅溶解によって、特に虚血によるニューロン細胞への影響を逆行させることができないので、血餅溶解を可能にする血栓溶解薬では十分に治療することができない(例えば、Davalos、Cerebrovasc Dis 2005;20 Suppl 2:135-139を参照されたい)。本発明において規定する化合物は、急性事象の後期に付随するニューロン減少を治療することができ、したがって、投与すれば、前記対象の転帰及び回復に関して有益である。
【0118】
急性の神経学的状態が急性脳卒中である場合、用語「後期」は、好ましくは脳卒中発症後3〜72時間、より好ましくは4.5〜72時間、より好ましくは4.5〜24時間、最も好ましくは24〜72時間の間隔を指すことが好ましい。急性の神経学的状態が脊髄損傷である場合、用語「後期」は、好ましくは前記脊髄損傷が起こった後3〜72時間、より好ましくは4.5〜72時間、より好ましくは4.5〜24時間、最も好ましくは24〜72時間の間隔を指すことが好ましい。急性の神経学的状態が外傷性脳損傷である場合、用語「後期」は、好ましくは前記外傷性脳損傷が起こった後3〜72時間、より好ましくは4.5〜72時間、より好ましくは4.5〜24時間、最も好ましくは24〜72時間の間隔を指すことが好ましい。
【0119】
対象が神経学的な状態、特に、この記述の他の場所に詳述した状態に罹患した後、神経学的な機能を本質的に回復させ、又は少なくとも向上させるためには、リハビリテーション手段が通常は必要である。本発明の化合物の投与は、さらに、神経組織発生効果を誘発することができるので、リハビリテーション手段として適切であることが、本発明の基礎となる研究において判明した。したがって、本発明の化合物によって治療されるニューロン状態には、一実施形態において、急性の神経学的状態、特に脳卒中、脊髄損傷、又は外傷性脳損傷からのリハビリテーションも含まれる。本発明の化合物を適用するリハビリテーションは、神経学的状態が生じてから少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも1カ月、少なくとも3カ月、少なくとも6カ月、少なくとも1年後に実施することが好ましい。対象は、その時点では事実上、急性の神経学的状態にそれ以上罹患していないことは理解されよう。
【0120】
本発明において規定する化合物を、過去に上述の急性の神経学的状態のいずれか、好ましくは脳卒中、SCI、脊髄外傷、又はTBIに罹患したことのある対象のリハビリテーション向けに薬学的な条件を準備するのに使用することも特に企図する。
【0121】
用語「神経発生」については、本明細書で他の場所に記載している(上記を参照されたい)。他の場所で言及したように、本発明において規定する化合物は、好ましくは、成体神経幹細胞からのニューロンの生成を強化し、それによってニューロンの減少に陥っている対象の状態を改善することができる。神経発生は、好ましくは、本発明において規定する化合物が投与された対象において、神経幹細胞からのニューロン細胞の生成が、前記化合物が投与されなかった対象における神経幹細胞からのニューロンの生成と比べて有意に増加するとき、強化されている。ニューロン細胞の生成の増加は、統計学的に有意な増加であることがより好ましい。
【0122】
用語「有意な」及び「統計学的に有意な」は、当業者によって知られている。したがって、増加が有意であるか又は統計学的に有意であるかどうかは、よく知られている様々な統計評価ツールを使用して、当業者によって難なく判定することができる。
【0123】
本発明によれば、神経幹細胞からのニューロンの生成の増加が少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも100%であることを有意であるとみなす。
【0124】
神経発生の強化は、好ましくは、投与される化合物の量及び/又は投与期間に応じて様々となることを理解されたい。
【0125】
神経発生を可能にするためには、本発明において規定する化合物を一定期間にわたり規則的に投与することが好ましい。前記化合物を毎月、隔月で、毎週、隔週で、又はさらに頻繁に、好ましくは毎日投与することを特に企図する。規則的な投与は、少なくとも3カ月間、6カ月間、より好ましくは少なくとも1年間にわたることが好ましい。
【0126】
神経発生を可能にするには、本発明において規定する化合物を、本明細書において他の場所で指定するとおりに投与する。
【0127】
本明細書で規定する化合物、好ましくはピペリンの毎日の投与では、投与する量は、治療有効量であることが好ましい。
【0128】
本発明はまた、ニューロンの減少を示す患者の治療方法であって、本明細書で規定する化合物を前記対象に治療有効量投与することを含む方法に関する。
【0129】
本出願は、上述の化合物が、神経幹細胞をニューロンの表現型の細胞へと分化させるきっかけとなることを実証するものである。神経発生の重要性は、神経変性疾患のすべての面において、またニューロンが死ぬすべての状態において、本発明による化合物での治療の適用可能性及び有用性を説くものである。神経学的状態の治療のために脳の内在性の幹細胞に作用するのとは対照的に、ピペリン又はその誘導体は、in vitroで幹細胞の操作、例えば分化及び増殖に適用することができる。
【0130】
したがって、本発明の別の実施形態では、この化合物を使用して、例えば神経幹細胞などの幹細胞の培養を容易にすることができる。この方法では、化合物は、培地に加え、予め混合してから細胞に加えることもでき、又は細胞が培養されている培地中に加えることもできる。
【0131】
したがって、本発明はさらに、幹細胞を上で規定したような少なくとも1種の化合物と接触させることを含む、幹細胞をin vitroで分化させる方法に関する。この方法で使用する幹細胞は、神経幹細胞であることが好ましい。
【0132】
上述の方法によって得られる分化した幹細胞は、本明細書で他の場所に指定するニューロン状態を治療する医薬組成物の調製に有用である。
【0133】
したがって、一実施形態では、本発明は、本発明による上述の化合物を使用して、神経幹細胞の増殖及び分化を刺激し、又は哺乳動物に移植する前に神経幹細胞を予め調製することに関する。この方法の別の実施形態は、こうした神経幹細胞を、本明細書で記載するような神経疾患の治療方法、好ましくは神経幹細胞が個体に投与されたとき神経保護効果をもたらす方法において利用することである。
【0134】
幹細胞は、静脈内又は動脈内に投与することができる。例えば、脳虚血又は外傷性脳損傷において、静脈内注射された骨髄間質細胞が脳のターゲット領域にたどり着くことがわかっている(Mahmood et al.、Neurosurgery 2001;49:1196-1204;Lu et al.、J Neurotrauma 2001;18;813-819;Lu et al.、Cell Transplant 2002;11:275-281;Li et al.、Neurology 2002;59:514-523)。したがって、幹細胞は、ピペリン又はその誘導体によってin vitroで処理し、次いで本明細書に記載の疾患のいずれかを患う患者に異なる経路で注射することができる。
【0135】
最後に、本発明は、神経幹細胞及び神経幹細胞から派生する他の細胞のin vitroでの分化に適する製剤にした、本発明に従う化合物を含むキットを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】ピペリンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0137】
神経幹細胞のニューロンへの分化は、β-IIIチューブリンプロモーターによって制御されたホタルルシフェラーゼ活性の、構成的に発現させたウミシイタケルシフェラーゼ活性に対する相対的な誘導によって測定する。0,2μM〜100μMの範囲のピペリンの効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2a】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0138】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(図11a)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2b】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0139】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2c】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0140】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(図11c)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2d】1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0141】
図1と同様に、0,2μM〜100μMの範囲の1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(図11d)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2e】3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0142】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2f】1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0143】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲の1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(図11f)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2g】3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0144】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2h】1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0145】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2i】N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0146】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲のN-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(図11n)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2j】N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0147】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲のN-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11q)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2k】N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミドが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0148】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲のN-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11r)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2l】1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0149】
図1と同様に、0,2μM〜25μMの範囲の1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図2m】(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オンが神経幹細胞のニューロンへの分化を用量依存的に有意に刺激することを示すグラフである。
【0150】
図1と同様に、0,2μM〜50μMの範囲の(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u)の効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図3】ピペリンがニューロンに対する有意な抗アポトーシス効果を用量依存的に有することを示すグラフである。
【0151】
SH-SY5Yニューロン細胞を、単独又はピペリン(100pM〜10μM)と組み合わせたスタウロスポリン(0,1μM)と共にインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7 Assay Kit(Promega)を使用して測定する。アポトーシスの尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照として、偽処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図4】ピペリン及びその誘導体がニューロンに対する有意な抗アポトーシス効果を有することを示すグラフである。
【0152】
SH-SY5Yニューロン細胞を、それぞれ濃度1μMのピペリン(pip)及びその誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(A、図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(B、図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(C、図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(D、図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(U、図11u))と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)との同時インキュベートでインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7 Assay Kit(Promega)を使用して測定する。アポトーシスの程度を、スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみによって誘発されたものと比較する。スタウロスポリンとのインキュベートなしの偽処理細胞を対照とした。ピペリン及び誘導体は、スタウロスポリンによって誘発されたアポトーシスの有意な減少を示す。
【図5a】ピペリンがニューロン細胞の生存度を低下させないことを示すグラフである。
【0153】
ピペリン(最終濃度0,1nM〜100μM)と共にインキュベートした後のSH-SY5Yニューロン細胞の生存度を測定した。試験細胞に、構成的発現用のルシフェラーゼ構築物をしっかりとトランスフェクションする。次いで、示した濃度のピペリンと共に細胞を5時間インキュベートする。インキュベートした後、ルシフェラーゼ活性の測定によって細胞の生存度を評価した。残存する生存度の尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照及び陽性対照として、それぞれ偽処理細胞及びスタウロスポリン(0,1μM)処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図5b】ピペリンの誘導体がニューロン細胞の生存能を低下させないことを示すグラフである。
【0154】
ピペリンの誘導体(最終濃度1μM)と共にインキュベートした後のSH-SY5Yニューロン細胞の生存度を測定した。ピペリンの様々な誘導体を試験した(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(B、図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(U、図11u))。試験細胞に、構成的発現用のルシフェラーゼ構築物をしっかりとトランスフェクションする。次いで、細胞を上述の化合物と共に5時間インキュベートする。インキュベートした後、ルシフェラーゼ活性の測定によって細胞の生存度を評価した。偽処理細胞を標準化対照とし、スタウロスポリン(SP、1μM)処理細胞を陽性対照とした。残存する生存度の尺度としてのアッセイの任意発光測定シグナルを、偽処理細胞に対する百分率として標準化した。値は、SEMを誤差棒として8反復試験の平均で示す。
【図6a】TRPV1受容体リガンドカプサイシンが神経幹細胞のニューロンへの分化を刺激しないことを示すグラフである。
【0155】
図1と同様に、0,1nM〜100μMの範囲のカプサイシンの効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図6b】TRPV1受容体リガンドカプサイシンが、ニューロンに対して比較的弱い抗アポトーシス活性を示すことを示すグラフである。
【0156】
SH-SY5Yニューロン細胞を、単独又はカプサイシン(10μM)若しくはピペリン(10μM)と組み合わせたスタウロスポリン(SP、0,1μM)と共にインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7 Assay Kit(Promega)を使用して測定する。スタウロスポリンによって誘発されるアポトーシスの尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照として、偽処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図6c】TRPV1受容体阻害剤SB366791が、神経幹細胞のニューロンへの分化に対するピペリンの刺激効果を低下させないことを示すグラフである。
【0157】
図1と同様に、単独及びTRPV1受容体阻害剤SB366791(10μM)と組み合わせた10μMのピペリンの効果を、偽処理細胞及び1μMのレチノイン酸(RA)で処理した細胞と比較して示す。比は、SEMを誤差棒として平均で示す。
【図6d】TRPV1受容体阻害剤SB366791が、ニューロン細胞に対するピペリンの抗アポトーシス効果を低下させないことを示すグラフである。
【0158】
SH-SY5Yニューロン細胞を、単独又はピペリン(pip、10μM)若しくはピペリン(pip、10μM)プラスSB366791(10nM〜100nM)と組み合わせたスタウロスポリン(SP、0,1μM)と共にインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを図3と同様に測定した。アポトーシスの尺度としての、アッセイの任意発光測定シグナルを、SEMを誤差棒として平均で示す。陰性対照として、偽処理細胞の発光測定シグナルを示す。
【図7a】虚血発生から30分後に適用したとき、ラットMCAOモデルにおいてピペリンが梗塞巣体積を縮小することを示す図である。
【0159】
梗塞巣体積は、虚血発生から24時間後にTTC染色によって測定した。偽処置した動物とピペリン処置した動物の脳をTTC染色したものである例示的な2断面を示す。未染色領域が梗塞巣体積を示す。
【図7b】虚血発生から30分後に適用したとき、ラットMCAOモデルにおいてピペリンが皮質及び皮質下の梗塞巣体積を縮小することを示すグラフである。
【0160】
虚血発生から24時間後にTTC染色及び面積測定によって測定した、全梗塞巣、皮質領域、及び皮質下領域についての、浮腫を補正した、偽処置及びピペリン処置の梗塞巣体積を示す。浮腫を補正した梗塞巣体積は、梗塞していない同側の半球体積を対側の半球体積から差し引いて得た。体積は、SEMを誤差棒として、平均としてのmm3で示す。
【図8】マウスSCIモデルにおいてピペリンが後肢の動作能力を向上させることを示すグラフである。
【0161】
実験的なSCI後の最初の5週間の間の偽処置及びピペリン処置についてのBMS値を示す。BMS値は、SCI後の後肢の可動性の測定値である(Basso et al.、J Neurotrauma 2006;23:635-659)。BMS値は、0(後肢の可動性なし)〜9(健常マウス)の間で変動する。BMS値は、実験的なSCI後1日、7日、14日、21日、28日、及び35日について、SEMを誤差棒として平均として示す(偽処置対照群はn=20、ピペリン処置群はn=20)。
【図9】ピペリンが成体動物において神経発生を刺激することを示すグラフである。
【0162】
BrdU投与から数週間後にBrdU及びNeuNについて脳切片を同時染色することは、新たに生成されたニューロンを確認するのに適する(Bagley et al.、BMC Neurosci.2007;8:92)。切片あたりのこのようなニューロンの量は、神経幹細胞の分化による神経発生の尺度として使用することができる。切片あたりのBrdU/NeuN陽性細胞の平均数を示す。この数は、分析する6週間前に5日間連続して1mg/kg及び10mg/kgのピペリンで毎日処置したラットでは明らかに増加する。
【図10】ピペリン及びその誘導体が、ALSに冒されている運動ニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を有することを示すグラフである。
【0163】
NSC-34運動ニューロン細胞系を、それぞれ濃度1μMのピペリン(pip)及びその誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(B、図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(U、図11u))と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)との同時インキュベートでインキュベートした後、引き続く細胞のアポトーシスを、Caspase-Glo 3/7Assay Kit(Promega)を使用して測定する。アポトーシスの程度を、スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみによって誘発したものと比較する。ピペリン及び誘導体は、スタウロスポリンによって誘発される運動ニューロン細胞系のアポトーシスを有意に減少させる。
【図11−1】図11a:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0164】
図11b:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0165】
図11c:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソl-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0166】
図11d:1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【図11−2】図11e:3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0167】
図11f:1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0168】
図11g:3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0169】
図11h:3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0170】
図11i:3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0171】
図11j:1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【図11−3】図11k:1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0172】
図11l:1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0173】
図11m:3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド(Enamine Ltd.)の化学式を示す図である。
【0174】
図11n:N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0175】
図11o:3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0176】
図11p:N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【図11−4】図11q:N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0177】
図11r:N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0178】
図11s:1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0179】
図11t:1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン(ChemBridge Corp.)の化学式を示す図である。
【0180】
図11u:(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(TimTec Inc.)の化学式を示す図である。
【実施例】
【0181】
以下の実施例は、本明細書では例示目的で提供するにすぎず、別段の指定がない限り限定するものではない。
【0182】
(実施例1)
ピペリンを用いた成体神経幹細胞でのin vitro分化アッセイ
記載されているとおりに、4週齢のオスのウィスターラットの脳室下帯から神経幹細胞を単離した(Maurer et al、Proteome Sci.2003;1:4)。細胞を、B27(Invitrogen)、2mMのL-グルタミン、100単位/mlのペニシリン、100単位/mlのストレプトマイシン、20ng/mlの血管内皮増殖因子(EGF)、20ng/mlの線維芽細胞成長因子2(FGF-2)、及び2μg/mlのヘパリンを補充したNeurobasal培地(Invitrogen)で培養した。神経幹細胞は週1回継代し、4週間後にin vitroで実験を実施した。DNAトランスフェクションに向けて、細胞を分離し、ポリ-L-オルニチン/ラミニンでコートされた96ウェルプレートに50.000細胞/ウェルの密度で播いた。pGL3-p-βIII-チューブリンベクター(100ng/ウェル)とpRL SV40ベクター(100ng/ウェル)の同時トランスフェクションを、FuGene6 Transfectionプロトコル(Roche)に従って実施した。pRL SV40ベクター(Promega)は内部標準ベクターとした。
【0183】
クラスIIIβ-チューブリン遺伝子プロモーター(断片-450〜+54)を増幅するために、ラットゲノムDNAをPCR用の鋳型として使用した(Dennis et al.、Gene 2002;294:269-277)。増幅された断片をpGL3-Basicホタルルシフェラーゼレポーターベクター(Promega)のMlu I/Xho I部位に挿入して、pGL3-p-βIII-チューブリン実験用ベクターを作製した。
【0184】
終夜インキュベートした後、プレートをデカントし、ピペリン(Sigma)又は媒体を含有する新鮮な培地を8通り得た。in vitro分化の陽性対照として、分裂促進因子を含有していない培地に1μMのレチノイン酸(Sigma)を加えることにより、幹細胞を処理した。
【0185】
48時間後、製造者(Promega)の説明書に従い、細胞を回収して、ルシフェラーゼアッセイ用の細胞抽出物を調製した。細胞にホタルルシフェラーゼとウミシイタケルシフェラーゼを同時トランスフェクションしたら、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega)を使用し、ホタルルシフェラーゼの仲介による反応からの発光シグナル対ウミシイタケルシフェラーゼの仲介による反応からの発光シグナルの比をルミノメーター(Berthold Technologies、Mithras LB 940)で測定した。トランスフェクション効率の差を、構成的に発現させたウミシイタケルシフェラーゼからの発光シグナルを使用して標準化した。
【0186】
最終濃度0,2〜100μMの範囲のピペリンを使用した。神経幹細胞分化の測定値としての、クラスIIIβ-チューブリン遺伝子プロモーターによって制御されたルシフェラーゼシグナルの相対的な誘導を図1に示す。結果は、ピペリンが、神経幹細胞のニューロンへの分化を有意に刺激し、したがって神経再生の働きをすることを示している。
【0187】
(実施例2)
ピペリンの誘導体を用いた成体神経幹細胞でのin vitro分化アッセイ
実施例1と同様に、ピペリン及びその様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(図11f)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド(図11h)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド(図11i)、1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン(図11j)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)、1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11l)、3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド(図11m)、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(図11n)、3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド(図11o)、N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド(図19p)、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11q)、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11r)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン(図11t)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u))に神経幹細胞のニューロンへの分化を刺激する能力があるか試験した。化合物は、最終濃度1μMで使用した。表2に、この神経幹細胞分化がこれらの化合物での処理によって偽処理の何倍強化されたかを要約する。陽性対照としたレチノイン酸は、これらのアッセイで神経幹細胞の刺激について2〜3の範囲の倍率となった。
【0188】
さらに、ここでも実施例1と同様に、ピペリンの様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン(図11f)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド(図11n)、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11q)、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド(図11r)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u))を、神経幹細胞のニューロンへの分化を刺激するその用量依存的な活性について分析した。誘導体は、0,2〜100μMの範囲の最終濃度で使用した。神経幹細胞分化の測定値としての、クラスIIIβ-チューブリン遺伝子プロモーターによって制御されたルシフェラーゼシグナルの相対的な誘導を、これらピペリンの誘導体についてそれぞれ図2a〜mに示す。結果は、試験したすべてのピペリン誘導体が、神経幹細胞のニューロンへの分化を有意に刺激し、したがって神経再生の働きをすることを示している。
【表2】
【0189】
(実施例3)
ピペリンを用いたin vitro抗アポトーシスアッセイ
化合物の神経保護効果は、カスパーゼ3及びカスパーゼ7活性を測定することにより、in vitroで検定することができる。システインアスパラギン酸特異的プロテアーゼ(カスパーゼ)ファミリーのこのようなメンバーは、哺乳動物細胞のアポトーシスにおいて鍵となるエフェクターの役割を果たす。
【0190】
ヒト神経芽細胞腫細胞系SH-SY5Y(American Type Culture Collection)を20%のFBSを補充した高グルコースのDMEM中で維持したものを、アポトーシスアッセイに使用した。或いは、一次皮質ニューロンのアポトーシスを分析することもでき、一次皮質ニューロンを、E18ラットから単離し、続いて適切な培地で培養することができる。2,5×104個のSH-SY5Y細胞を96ウェルプレートに播種し、24時間後に、アポトーシス誘導化合物スタウロスポリン(0,1μM、Calbiochem)の存在下、ピペリン又は媒体で刺激した。37℃で5時間インキュベートした後、ルシフェラーゼ及び発光性基質を含有するカスパーゼ-Glo 3/7試薬(Promega)を細胞に加えた。カスパーゼ3及びカスパーゼ7による基質の切断を、30分後にルミノメーター(Berthold Technologies、Mithras LB 940)を使用して検出した。発光は、カスパーゼ活性の量に比例し、処理したニューロンのアポトーシスの尺度として役立つ。最終濃度が100pM〜10μMの範囲のピペリンを試験した。ピペリンで処理した細胞は、スタウロスポリンによって誘発されるアポトーシスの有意な減少を示した(図3)。結果は、ピペリンがニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を示し、したがって神経保護の働きをすることを示している。
【0191】
(実施例4)
ピペリン及びその誘導体を用いたin vitro抗アポトーシスアッセイ
実施例3と同様に、ピペリン及びその様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン(誘導体A、図11a)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(誘導体B、図11b)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペンチルアミン(誘導体C、図11c)、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン(誘導体D、図11d)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(誘導体E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(誘導体G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(誘導体K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(誘導体S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(誘導体U、図11u))の抗アポトーシス活性を分析した。SH-SY5Y細胞を、これらの化合物(1μM)と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)の存在下でインキュベートした。スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみとのインキュベートを陽性対照とし、媒体とのインキュベートを陰性対照とした。スタウロスポリン対照と比較したアポトーシスの程度を図4に示す(媒体(偽):6%、スタウロスポリン(SP):100%、ピペリン+スタウロスポリン:66%、誘導体A+スタウロスポリン:70%、誘導体B+スタウロスポリン:49%、誘導体C+スタウロスポリン:77%、誘導体D+スタウロスポリン:72%、誘導体E+スタウロスポリン:77%、誘導体G+スタウロスポリン:79%、誘導体K+スタウロスポリン:83%、誘導体S+スタウロスポリン:81%、誘導体U+スタウロスポリン:60%)。ピペリン又はその誘導体で処理した細胞は、スタウロスポリンによって誘発されるアポトーシスの有意な減少を示した(図4)。結果は、ピペリン及びその誘導体が、ニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を示し、したがって神経保護の働きをすることを示している。さらに、ピペリンもその誘導体も、それ自体によるアポトーシス性の影響は示さなかった。
【0192】
(実施例5)
ピペリン及びその誘導体を用いたin vitro生存能アッセイ
化合物がニューロン細胞の生存能に及ぼす影響は、構成的プロモーター制御下にあるレポーター構築物をトランスフェクションしたニューロン細胞の生存を測定することにより、in vitroで検定することができる。
【0193】
SV40プロモーター制御下にあるウミシイタケルシフェラーゼ構築物をしっかりとトランスフェクションしたSH-SY5Yニューロン細胞を、96ウェルプレートにウェルあたり2,5×104細胞の密度で播種した。終夜インキュベートした後、細胞を、ピペリン又は媒体を含有する培地で刺激した。スタウロスポリン(0,1μM)を陽性対照とした。ウミシイタケルシフェラーゼ活性を、5時間後にルミノメーター(Berthold Technologies、Mithras LB 940)を使用して測定した。最終濃度が0,1nM〜100μMの範囲のピペリンを試験した。ピペリンで処理した細胞は、ニューロン細胞の生存能に対していかなる有意な影響も示さなかった(図5a)。
【0194】
したがって、様々なピペリン誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(図11u))の生存能を、濃度1μMで分析した。処理したニューロン細胞は、生存能の低下を示さなかった(図5b)。
【0195】
結果は、ピペリンも試験した誘導体もニューロン細胞の生存能を低下させないことを示している。
【0196】
(実施例6)
ピペリンの神経再生及び神経保護効果は、TRPV1受容体の仲介によるものではない。
【0197】
ピペリンの神経再生及び/又は神経保護効果が、ピペリン及びバニリル部分を有する他の化合物、例えばカプサイシン(Sigma)による受容体活性化作用を受けることがわかっているTRPV1受容体によって仲介されるかどうかを見いだすために分析を実施した。ピペリンの代わりにカプサイシン(最終濃度0,1nM〜100μM)を使用する以外は実施例1と類似の実験において、神経幹細胞の分化への刺激効果を検出することはできなかった(図6a)。さらに、カプサイシン(10μM)は、実施例3に記載のアッセイを使用しても、ピペリン(10μM)と比べて限られた抗アポトーシス効果しか示さなかった(図6b)。
【0198】
さらに、TRPV1受容体の特異的阻害剤である化合物SB366791(Sigma)は、それぞれ実施例1及び3のアッセイで同時インキュベートしたとき、ピペリンの神経変性又は神経保護効果のいかなる抑制ももたらさなかった(それぞれ図6c及び図6d)。TRPV1受容体アゴニストのカプサイシンもピペリンと同等の神経保護及び/又は神経再生効果を示さず、TRPV1受容体阻害剤SB366791もピペリンの神経保護及び/又は神経再生効果を低減しなかった。したがって、発明者らは、ピペリンのこの効果が、TRPV1受容体によって仲介されるものではないと仮定した。
【0199】
(実施例7)
ピペリンは、脳卒中の動物モデルにおいて転帰を改善する。
【0200】
ピペリンが、培養物中の一次ニューロンに対してはっきりとした抗アポトーシス特性及び神経組織発生特性を示し(実施例1及び3)、無処置の血液-脳関門を通過するので、発明者らは、その神経保護活性をin vivoで測定しようとした。発明者らは、広範な異なるニューロンタイプが虚血/低酸素によって損傷を受けているラットMCAO(中大脳閉塞、細糸モデル)を脳卒中モデルに選んだ。
【0201】
オスのウィスターラットに、70%のN2O、30%のO2、及び1%のハロタンによる吸入麻酔を施した。右大腿静脈をカニューレ処置し、薬物送達に使用した。実験の間、深部体温をモニターし、37℃に保った。ケイ素でコーティングされた(Provil Novo、Heraus Kulzer)4-0ナイロン細糸(Ethicon)を総頸動脈に導入し、内頸動脈へと進めることにより、中大脳動脈閉塞(MCAO)を誘発した。MCA閉塞の成功を、側頭皮質のMCA領域をおおって配置されたプローブを用いたレーザードップラー流速計測法(Perimed 4000)によって検証した。90分のMCAO後、細糸を取り除いて再灌流を可能にした。閉塞開始から30分後、動物に10mg/kgのピペリン(Sigma-Aldrich)又は媒体を20分間にわたり2μl/分の速度で静脈内投与した。ピペリンを100%のSolutol-HS15(BASF)に60℃で溶解させ、蒸留水で希釈して、Solutol-HS15の最終濃度を20%とし、ピペリン5mg/最終溶液mlの最終濃度とした。この溶液は、必要になるまで暗所にて室温で保持した。虚血の誘発から24時間後にTTC染色によって梗塞巣体積を決定した。ブレインマトリクス(Harvard Apparatus,Inc.)を使用して2mmの切片にカットし、塩化2,3,5-トリフェニルテトラゾリウム(TTC、Sigma-Aldrich)によって37℃で10分間かけて染色した。図7aに、TTC染色された、偽処置及びピペリン処置後の例示的な脳切片を示す。染色された切片を、カラースキャナーを使用して両側でスキャンし、ImageJ(http://rsb.info.nih.gov/ij)を使用して梗塞領域を決定した。「直接」梗塞巣体積は、測定された梗塞性の面積を積分して得た。浮腫を補正した梗塞巣体積は、梗塞のある半球の梗塞していない体積を対側の半球から差し引いて得た。くも膜下出血の徴候(バレルロール運動(barrel-rolling)又は脳室若しくはくも膜下腔中の血液)及びドリル孔からの皮質の損傷がある動物、並びにTTC染色で梗塞巣がなかった又は最小限であった動物は、非盲検化前に分析から除外した。実験はすべて、完全無作為化及び盲検化して行った。
【0202】
ピペリンで処置した動物は、浮腫を補正した総梗塞サイズの有意な減少を示した(媒体:210±20mm3、n=37;ピペリン:151±17mm3;n=30;p=0.031)。皮質では特に強い保護が認められたが(媒体:124±15mm3;ピペリン:73±14mm3;p=0.018)、皮質下領域での梗塞巣の縮小は統計学的有意性に達しなかった(媒体:86±7mm3;ピペリン:78±6mm3)。体積は、平均+/-平均値の標準誤差(SEM)で示し、nは反復試験の数を表し、pは、スチューデントのt検定の結果であるp値を表す。結果を図7bに示す。
【0203】
この実施例の結論として、ピペリンは、in vivo動物モデルにおいて実験的な脳卒中の転帰を改善する。この処置は、動物の耐容性も十分であるように思われた。
【0204】
(実施例8)
ピペリンは、脊髄損傷(SCI)の動物モデルにおいて転帰を改善する。
【0205】
2カ月齢のメスのマウスを、吸入麻酔(1%のハロタン/30%のN20/70%のO2)を使用して麻酔した。以前に記載されているとおりに、椎骨レベルTh8/9で椎弓切除後、腹側の組織架橋を無傷にしておきながら、脊髄を鋭利な虹彩切除術用ハサミで背側から約80%まで横切した(Demjen et al.、Nat Med 2004;10:389-395)。動物は、ゲンタマイシン(腹腔内、1mg/kg体重)で1日1回7日間術後処置した。自律性の膀胱機能が回復するまで膀胱を手作業で空にした。処置実験では、C57BL/6野生型マウス(n=20)に、ピペリンを手術中(10mg/kg体重)及び翌2日(20mg/kg体重、各時点)に腹腔内投与した。さらに、浸透圧ミニポンプ(Alzet)による連続的な皮下適用によって、1mg/kg体重の1日量を2週間にわたりマウスに与えた。対照群(偽、n=20)は、媒体(20%のSolutol-HS15)しか与えなかった以外はしかるべく処置した。ピペリンは、実施例7に記載のとおりに20%のSolutol-HS15に溶解させた。動物実験はすべて、倫理的権威によって認可されたものとした。転帰の測定値として手術後1、7、14、21、28、及び35日目に、Basso-Mouse-Score(BMS)(Basso et al.、J Neurotrauma 2006;23:635-659)を求めた。BMSでは、0(後肢の動作なし)〜9(健常マウス)の間の値をつける。結果を図8に示す。ピペリン処置によって、in vivo動物モデルでの実験的なSCIの転帰が明らかに改善された。
【0206】
(実施例9)
ピペリンはin vivoで神経発生を刺激する。
【0207】
オスの成体ラットを3群に分けた。ラットには、媒体としての20%のSolutol-HS15(BASF SE)(対照群、n=11)、1mg/kg体重のピペリン(ピペリンI群、n=14、合計用量5mg/kgのピペリン)、又は10mg/kg体重のピペリン(ピペリンII群、n=13、合計用量50mg/kg)によって、1日1回、5日間連続して腹腔内投与の処置を施した。ピペリンは、実施例7に記載のとおりに、20%のSolutol-HS15に溶解させた。さらに、すべての動物にその最初の5日間BrdU(腹腔内、50mg/kg体重)を1日2回与えた。BrdUは、分裂細胞によって安定して組み込まれ、したがって実験的に規定された時間枠(即ち、この実施例ではピペリンを投与していた時間に相当する、BrdUを投与していた時間)内に分裂した細胞の標識化に適するツールである(Bagley et al、BMC Neurosci.2007;8:92)。動物は、処置開始から6週間後に屠殺した。脳をすばやく取り出し、その先の免疫組織化学法に向けて、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、4%のパラホルムアルデヒドで保存した。海馬領域の10μmの切片を作製し、ヒツジ抗BrdU抗体(Abcam、1:100)及びマウス抗NeuN抗体(Chemicon、1:500)で染色した。続いて、切片を、抗ヒツジ-ビオチン及びストレプトアビジン-Cy2と抗マウス-Alexa555(Molecular Probes、Fisher)で蛍光検出用に染色した。NeuNはニューロンのマーカーであるので(Pechnick et al.、Proc Natl Acad Sci USA 2008;105:1358-1363)、新しく生成したニューロンは、NeuNとBrdUの同時染色によって特定することができる。したがって、この同時染色は、神経幹細胞の分化による神経発生の量を分析するのに適する。ピペリン処置した動物群(合計用量5mg/kg及び50mg/kg)は両方とも、対照レベルと比べて、(1切片あたりのNeuN/BrdU陽性細胞で測定した)神経発生のレベルの明らかな上昇を示した(図9)。ピペリン処置は、in vivo動物モデルにおいて明らかに神経発生を刺激する。
【0208】
(実施例10)
ピペリン及びその誘導体は、培養運動ニューロン細胞系に対して抗アポトーシス効果を発揮する。
【0209】
実施例3と同様に、ピペリン及びその様々な誘導体(1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン(誘導体B、図11b)、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド(誘導体E、図11e)、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド(誘導体G、図11g)、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン(誘導体K、図11k)、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン(誘導体S、図11s)、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン(誘導体U、図11u))の抗アポトーシス活性を分析した。実施例3及び4で使用したSH-SY5Y細胞の代わりに、この分析は運動ニューロン細胞系NSC-34で実施した。ALS疾患では運動ニューロンが冒されるので、このような細胞に抗アポトーシス効果を示す薬物は、ALSの治療にも適することが想定される(Weishaupt et al.、J Pineal Res 2006;41:313-323)。NSC-34細胞を、これらのピペリン又はその誘導体(1μM)と共に、スタウロスポリン(SP、0,1μM)の存在下でインキュベートした。スタウロスポリン(SP、0,1μM)のみとのインキュベートを陽性対照とし、媒体とのインキュベートを陰性対照とした。スタウロスポリン対照と比較したアポトーシスの程度を図4に示す(媒体(偽):6%、スタウロスポリン(SP):100%、ピペリン+スタウロスポリン:70%、誘導体B+スタウロスポリン:55%、誘導体E+スタウロスポリン:75%、誘導体G+スタウロスポリン:76%、誘導体K+スタウロスポリン:83%、誘導体S+スタウロスポリン:77%、誘導体U+スタウロスポリン:71%)。ピペリン又はその誘導体で処置した細胞は、スタウロスポリンによって誘発される、培養運動ニューロンNSC-34細胞のアポトーシスの有意な減少を示した(図10)。結果は、ピペリン及びその誘導体が、運動ニューロンに対して有意な抗アポトーシス効果を示し、したがってALSの神経保護治療に適することを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物を調製するための一般式(III)の化合物の使用
【化1】
[式中、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表す]。
【請求項2】
前記化合物が、アンチエピレプシリン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペニルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)モルホリン、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド、1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド、3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド、N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン、1-(4-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(3-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(2-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-シンナモイル-ピペリジン、1-(3,4-ジメトキシ-シンナモイル)ピペリジンからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
神経学的状態が、脳虚血、筋萎縮性側索硬化症、緑内障、アルツハイマー病、神経変性トリヌクレオチド反復障害、神経変性リソソーム蓄積症、多発性硬化症、脊髄損傷、脊髄外傷、認知症、統合失調症、及び末梢性神経障害からなる群から選択される少なくとも一つの状態である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
神経学的状態が、脳卒中、外傷性脳損傷、心臓循環器系の停止による脳虚血、緑内障、脊髄損傷、及び脊髄外傷からなる群から選択される、虚血及び/又は低酸素が関与する病態生理学的機序の神経疾患である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
学習及び記憶を強化する医薬組成物を調製するための、請求項1又は2に記載の化合物の使用。
【請求項6】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物として使用される、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
ニューロン状態を患っている対象においてそれを治療及び/又は予防する方法であって、前記対象に、請求項1に記載の化合物を治療有効量で投与することを含む方法。
【請求項8】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物を調製するための一般式(I)の化合物の使用
【化2】
[式中、
n=0、1又は2であり、但し、
n=0であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
n=1又は2であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、R4及びR5は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基、又は1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基を表す]。
【請求項9】
前記化合物が2〜200mg/kg体重の用量で提供される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記ニューロン状態が、後期の急性の神経学的状態に付随するニューロンの減少である、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記ニューロン状態が、急性の神経学的状態からのリハビリテーションである、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物として使用される、請求項8に記載の化合物。
【請求項13】
ニューロン状態を患っている対象においてそれを治療及び/又は予防する方法であって、前記対象に、治療有効量の請求項8に記載の化合物を投与することを含む方法。
【請求項1】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物を調製するための一般式(III)の化合物の使用
【化1】
[式中、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、又はハロゲン原子を表す]。
【請求項2】
前記化合物が、アンチエピレプシリン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘキシルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロヘプチルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)シクロペニルアミン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)ピロリジン、1-(3-トランス-ベンゾ-1,3-ジオキソール-5-イルアクリロイル)モルホリン、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-シクロオクチルアクリルアミド、1-[3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)アクリロイル]-4-メチルピペリジン、3-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-N-(4,5-ジヒドロ-チアゾール-2-イル)-アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニルメチル)アクリルアミド、3-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-N-ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-イルアクリルアミド、1-アゼパン-1-イル-3-(8-クロロ-2,3-ジヒドロ-ベンゾール[1,4]ジオキシン-6-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、1-アゼパン-1-イル-3-(9-クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)-プロペノン、3-(クロロ-3,4-ジヒドロ-2H-ベンゾ[b][1,4]ジオキセピン-7-イル)N-シクロヘキシル-アクリルアミド、N-シクロオクチル-3-(4-メトキシフェニル)アクリルアミド、3-(4-エトキシフェニル)-N-(テトラヒドロ-2-フラニル)アクリルアミド、N-シクロヘキシル-3-(4-エトキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロペンチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、N-シクロヘプチル-3-(4-プロポキシフェニル)アクリルアミド、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]ピペリジン、1-[3-(4-プロポキシフェニル)アクリロイル]アゼパン、(2E)-3-(4-クロロフェニル)-1-ピペリジルプロパ-2-エン-1-オン、1-(4-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(3-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-(2-メトキシ-シンナモイル)ピペリジン、1-シンナモイル-ピペリジン、1-(3,4-ジメトキシ-シンナモイル)ピペリジンからなる群から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
神経学的状態が、脳虚血、筋萎縮性側索硬化症、緑内障、アルツハイマー病、神経変性トリヌクレオチド反復障害、神経変性リソソーム蓄積症、多発性硬化症、脊髄損傷、脊髄外傷、認知症、統合失調症、及び末梢性神経障害からなる群から選択される少なくとも一つの状態である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
神経学的状態が、脳卒中、外傷性脳損傷、心臓循環器系の停止による脳虚血、緑内障、脊髄損傷、及び脊髄外傷からなる群から選択される、虚血及び/又は低酸素が関与する病態生理学的機序の神経疾患である、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
学習及び記憶を強化する医薬組成物を調製するための、請求項1又は2に記載の化合物の使用。
【請求項6】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物として使用される、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
ニューロン状態を患っている対象においてそれを治療及び/又は予防する方法であって、前記対象に、請求項1に記載の化合物を治療有効量で投与することを含む方法。
【請求項8】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物を調製するための一般式(I)の化合物の使用
【化2】
[式中、
n=0、1又は2であり、但し、
n=0であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
n=1又は2であるとき、R2及びR3は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、R4及びR5は水素原子を表し、又は一緒になって、E若しくはZどちらかの幾何学的立体配置の炭素-炭素二重結合を表し、
m=0、1、2又は3であり、但し、
m=1であるとき、R1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
m=2であるとき、各R1は、それぞれ独立に、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基を表し、又は二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、若しくは3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、
m=3であるとき、二つのR1は、一緒になって、3',4'-メチレンジオキシ基、3',4'-エチレンジオキシ基、又は3',4'-プロピレンジオキシ基を表し、他のR1は、1〜3個の炭素原子を有するアルコキシ基、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を表し、
R6は、ピロリジノ、ピペリジノ、アゼパノ、4-メチルピペリジノ、モルホリノ、4,5-ジヒドロ-2-チアゾールアミノ、2-テトラヒドロフルフリルアミノ、2-テトラヒドロフラニルアミノ、炭素原子4〜6個のN-モノアルキルアミノ基、炭素原子4〜8個のN-モノシクロアルキルアミノ基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルアミノ基、3',4'-メチレンジオキシで置換されたベンジルアミノ基、2-フェネチルアミノ基、又は1〜6個の炭素原子を有するアルコキシ基を表す]。
【請求項9】
前記化合物が2〜200mg/kg体重の用量で提供される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記ニューロン状態が、後期の急性の神経学的状態に付随するニューロンの減少である、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
前記ニューロン状態が、急性の神経学的状態からのリハビリテーションである、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
ニューロン状態を治療及び/又は予防する医薬組成物として使用される、請求項8に記載の化合物。
【請求項13】
ニューロン状態を患っている対象においてそれを治療及び/又は予防する方法であって、前記対象に、治療有効量の請求項8に記載の化合物を投与することを含む方法。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図2i】
【図2j】
【図2k】
【図2l】
【図2m】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図11−3】
【図11−4】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図2e】
【図2f】
【図2g】
【図2h】
【図2i】
【図2j】
【図2k】
【図2l】
【図2m】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11−1】
【図11−2】
【図11−3】
【図11−4】
【公表番号】特表2010−531857(P2010−531857A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513994(P2010−513994)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058627
【国際公開番号】WO2009/004071
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510003405)シグニス バイオサイエンス ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058627
【国際公開番号】WO2009/004071
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510003405)シグニス バイオサイエンス ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (1)
【Fターム(参考)】
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