説明

移動磁性物体検知装置、交差点監視装置および地域監視装置

【課題】自動車のような移動磁性物体が近傍に存在するか否かを高感度に検知する。
【解決手段】マイクロプロセッサ60は、フラックスゲート型磁気検出素子10による検出信号を読み込んで検出信号の変化が小さいときは移動磁性物体が近傍に存在しないと判定し検出信号の変化が大きいときは移動磁性物体が近傍に存在すると判定する。
【効果】自動車のような移動磁性物体が近傍に存在するか否かを高感度(実用感度範囲10m以上)に検知することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動磁性物体検知装置、交差点監視装置および地域監視装置に関し、さらに詳しくは、自動車のような移動磁性物体が近傍に存在するか否かを高感度に検知しうる移動磁性物体検知装置、交差点監視装置および地域監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2つの磁気センサを数mの距離を離して道路と平行に且つ自動車の高さに設置し、歩道と路肩数mの範囲の磁気センサを横切る車両の磁気を計測して、自動車が近傍を移動したか否かを検出する車両検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
他方、フラックスゲート型磁気検出素子を用いた磁気測定装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−74583号公報
【特許文献2】特開2003−121521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の車両検出装置では、磁気センサから放射する磁界を車両が横切ったときに磁気センサのインピーダンスが変化することを検出する方式であるため、放射可能な磁界の強さのハードウエア的制限やソフトウエア的制限(法的制限や周囲への磁界の悪影響防止上の制限)から、実用上の感度範囲が数mに限られる問題点がある。
他方、従来のフラックスゲート型磁気検出素子を用いた磁気測定装置は、ナビゲーションシステムの方位センサやテレビの地磁気補正用センサとして利用されているが、自動車のような移動磁性物体の検知には利用されていない。
そこで、本発明の目的は、磁気検出素子を用いて自動車のような移動磁性物体が近傍に存在するか否かを高感度に検知しうる移動磁性物体検知装置、交差点監視装置および地域監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、磁心及び励磁用コイル及び検出用コイルを備えたフラックスゲート型磁気検出素子と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の励磁用コイルに励磁電流を通電する励磁部と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の検出用コイルに誘起される信号を処理して検出信号を出力する信号処理部と、前記検出信号の変化に基づいて移動磁性物体が近傍に存在するか否かを判定し出力する判定部とを具備したことを特徴とする移動磁性物体検知装置を提供する。
上記第1の観点による移動磁性物体検知装置では、フラックスゲート型磁気検出素子により地磁気を検出するが、移動磁性物体が近傍に存在するときと存在しないときとで地磁気が変化するので、検出信号の変化から移動磁性物体が近傍に存在するか否かを判定することが出来る。そして、放射可能な磁界の強さのハードウエア的制限やソフトウエア的制限(法的制限や周囲への磁界の悪影響防止上の制限)がないため、実用上の感度範囲を10m以上に出来る。
【0006】
第2の観点では、本発明は、磁心及び励磁用コイル及び検出用コイルを備えたフラックスゲート型磁気検出素子と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の励磁用コイルに励磁電流を通電する励磁部と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の検出用コイルに誘起される信号を処理して検出信号を出力する信号処理部と、前記検出信号の変化に基づいて移動磁性物体が近傍に存在するか否かを判定し出力する判定部と、移動磁性物体が近傍に存在すると判定した時にその旨を電波または光または音波で送信する送信部と、前記各部に電力を供給する電池とを具備したことを特徴とする移動磁性物体検知装置を提供する。
上記第2の観点による移動磁性物体検知装置では、フラックスゲート型磁気検出素子により地磁気を検出するが、移動磁性物体が近傍に存在するときと存在しないときとで地磁気が変化するので、検出信号の変化から移動磁性物体が近傍に存在するか否かを判定することが出来る。そして、放射可能な磁界の強さのハードウエア的制限やソフトウエア的制限(法的制限や周囲への磁界の悪影響防止上の制限)がないため、実用上の感度範囲を10m以上に出来る。さらに、判定結果を電波または光または音波で送信するため、配線をしなくても遠隔で判定結果を受信し管理することが出来る。
【0007】
第3の観点では、本発明は、交差点に設置した上記第1または上記第2の観点による移動磁性物体検知装置と、前記移動磁性物体検知装置で移動磁性物体が近傍に存在すると判定した時にその旨を光または音で報知する報知装置とを具備したことを特徴とする交差点監視装置を提供する。
上記第3の観点による交差点監視装置では、交差点に自動車が接近したときにその旨を光または音で報知するので、安全性を向上することが出来る。
【0008】
第4の観点では、本発明は、監視地域に分散させて複数設置した上記第1から上記第3の観点による移動磁性物体検知装置と、前記各移動磁性物体検知装置での判定結果を受信し報知する管理装置とを具備したことを特徴とする地域監視装置を提供する。
上記第4の観点による地域監視装置では、各移動磁性物体検知装置の感度範囲で監視地域を覆うように複数の移動磁性物体検知装置を分散配置し、各移動磁性物体検知装置での判定結果を集中管理することにより、監視地域に移動磁性物体が存在するか否かを監視することが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の移動磁性物体検知装置、交差点監視装置および地域監視装置によれば、自動車のような移動磁性物体が近傍に存在するか否かを高感度(実用感度範囲10m以上)に検知することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1にかかる移動磁性物体検知装置100を示す構成図である。
この移動磁性物体検知装置100は、フラックスゲート型磁気検出素子10と、フラックスゲート型磁気検出素子10の励磁用コイルに励磁電流を通電する励磁部50と、フラックスゲート型磁気検出素子10の検出用コイルに誘起される信号を処理して検出信号を出力する信号処理部20と、検出信号をアナログ/デジタル変換するA/D変換器40と、A/D変換器40を介して検出信号を読み込んで検出信号の変化が所定値より大きくない場合に磁性物体が近傍に存在しないと判定し検出信号の変化が所定値より大きい場合に磁性物体が近傍に存在すると判定し判定結果を出力するマイクロプロセッサ60と、判定結果を表示する表示部61とを具備している。
【0012】
図2は、フラックスゲート型磁気検出素子10と励磁部50と信号処理部20を示す構成図である。
【0013】
フラックスゲート型磁気検出素子10は、例えばパーマロイまたはセンダストなどの軟磁気特性(保持力が小さく、透磁率が大きい。)を有する材料を環状に成形した磁心11に励磁用コイル12および検出用コイル13を設けた構造である。なお、棒状の磁心に励磁用コイルと検出用コイルとを付設した構造でもよい。
【0014】
励磁部50は、周波数f0(例えばf0=2kHz)の矩形波を発振する発振器51と、発振器51が発振した矩形波を分周し周波数f0/2の交流電流を励磁用コイル12に通電するコイル駆動回路52とを含んでおり、フラックスゲート型磁気検出素子10の励磁用コイル12に交流電流を通電する。
【0015】
信号処理部20は、検出用コイル13に誘起される検出信号Isに帰還信号Ibを重畳する帰還回路26と、フラックスゲート型磁気検出素子10の励磁移相から移相をずらせた同期信号を出力する移相器31と、帰還信号Ibを重畳した検出信号Isを増幅する前置増幅器32と、遮断周波数fc1(>f0/2)で励磁信号成分を遮断するためのハイパスフィルタ33と、ハイパスフィルタ33からの出力信号を同期信号で位相検波する位相検波器34と、遮断周波数fc2(≪f0)で所望帯域の出力信号Vpを取り出すローパスフィルタ35と、出力信号Vpを時定数τ1で積分し第1の積分信号Vi1を出力する第1の積分器41と、第1の積分信号Vi1を時定数τ2(>τ1)で積分し第2の積分信号Vi2を出力する第2の積分器42と、第2の積分信号Vi2を時定数τ3(>τ2)で積分し第3の積分信号Vi3を出力する第3の積分器43と、第1〜第3の積分信号Vi1〜Vi3を減衰/増幅する第1〜第3の積分信号調整器201〜203と、積分信号調整器201〜203を経た第1〜第3の積分信号Vi1’〜Vi3’を加算して加算信号Vdを出力する加算器21と、感度を調整するべく加算信号Vdを減衰/増幅する帰還量調整器22と、帰還量調整器22を経た加算信号Vd’にバイアス信号Vaを加えて帰還信号Ibを出力するバイアス調整器23とを具備している。
【0016】
バイアス信号Vaは、磁性物体が近傍に存在しないときに加算信号Vdが0になるように(つまり、ノイズ磁気の直流成分を打ち消すように)調整しておく。
【0017】
各積分器41,42,43の時定数τ1,τ2,τ3やフィードバック特性を積分信号調整器201〜203で調整することで、出力信号Vpから抽出される信号成分の帯域を積分器ごとに変えることが可能となり、異なる複数の帯域の信号成分をそれぞれ検出信号として同時に得ることが出来る。すなわち、第1〜第3の積分信号Vi1〜Vi3のいずれか適当なものを検出信号として選べばよい。
【0018】
図3は、マイクロプロセッサ60の動作を示すフロー図である。
ステップS1では、検出信号を読み込む。
ステップS2では、検出信号の変化(移動磁性物体が近傍に存在しない時の検出信号のレベルと現在の検出信号のレベルの差)が所定値より大きくないならステップS3へ進み、所定値より大きいならステップS4へ進む。
【0019】
ステップS3では、移動磁性物体が近傍に存在しないと判定する。そして、ステップS5へ進む。
【0020】
ステップS4では、移動磁性物体が近傍に存在すると判定する。
【0021】
ステップS5では、判定結果を表示部61に表示する。そして、ステップS1に戻る。
【0022】
実施例1の移動磁性物体検知装置100によれば、フラックスゲート型磁気検出素子10により地磁気を検出するが、移動磁性物体が近傍に存在するときと存在しないときとで地磁気が変化するので、検出信号の変化から移動磁性物体が近傍に存在するか否かを判定することが出来る。そして、放射可能な磁界の強さのハードウエア的制限やソフトウエア的制限(法的制限や周囲への磁界の悪影響防止上の制限)がないため、実用上の感度範囲を10m以上に出来る。
【実施例2】
【0023】
図4は、実施例2の交差点監視装置を示す説明図である。
この交差点監視装置では、4台の実施例1の移動磁性物体検知装置100−1〜100−4を交差点への各侵入口に埋設する。また、各移動磁性物体検知装置100−1〜100−4が埋設されている進路と交差する2つの進路からの各侵入口に表示部61−1〜61−4をそれぞれ設置する。各表示部61−1〜61−4は、例えば赤色LEDとし、道路面に露出しておく。なお、各表示部61−1〜61−4は、それらが設置されている進路と交差する2つの進路からは見えない(又は見えにくい)ような配置や構造とする。
【0024】
図4で、自動車A−1が交差点に侵入しようとすると、それを移動磁性物体検知装置100−4が検知し、表示部61−4を点滅させる。
これにより、自動車A−1の進路と交差する進路から交差点に接近している自動車A−2は、自動車A−1が見えなくても、表示部61−4の点滅で自動車A−1の存在を知ることが出来る。なお、自動車A−1には、表示部61−4の点滅が見えない(見えにくい)ため、自分で自分に警告するようなことはない。
【実施例3】
【0025】
図5は、実施例3の移動磁性物体検知装置200を示す構成図である。
この移動磁性物体検知装置200は、図1における表示部61の代わりに判定結果を電波で送信する送信部62とし、電源を電池65とした構成である。
【0026】
図6に示すように、複数の移動磁性物体検知装置200−1〜200−9をそれぞれ監視地域に分散して設置しておく(空中から散布してもよい)。そして、移動磁性物体検知装置200−1〜200−9から送信される電波を航空機81に搭載した管理装置80で受信し集中管理する。
【0027】
なお、電波の送信は、近傍に車両Tが存在すると判定したときは直ちに行い、近傍に車両が存在しないと判定したときは電池65の消耗を防ぐため間欠的(例えば3分毎)に行う。
【0028】
実施例3の移動磁性物体検知装置200によれば、フラックスゲート型磁気検出素子10により地磁気を検出するが、磁性物体が近傍に存在するときと存在しないときとで地磁気が変化するので、検出信号の変化から磁性物体が近傍に存在するか否かを判定することが出来る。そして、磁界を放射しないので、電池65の消耗が少なく、長時間の可動が可能になる。
【実施例4】
【0029】
実施例3の移動磁性物体検知装置200にGPS(Global Positioning System)を付加し、自分の位置をも送信するようにすれば、検知した磁性物体の位置を知ることも可能になる。
【実施例5】
【0030】
図7に示すように、フラックスゲート型磁気検出素子は2個以上でもよい。マイクロプロセッサ60で各フラックスゲート型磁気検出素子による検出信号の大きさを比較すれば、移動磁性物体の存在する方向を推定できる(検出信号が最も大きいフラックスゲート型磁気検出素子が設置してある方向に存在している)。
【産業上の利用可能性】
【0031】
自動車のような磁性物体の存在を検知するのに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1の移動磁性物体検知装置を示す構成図である。
【図2】フラックスゲート型磁気検出素子と励磁部と信号処理部を示す構成図である。
【図3】マイクロプロセッサ(判定部)の動作を示すフロー図である。
【図4】実施例2の交差点監視装置を示す説明図である。
【図5】実施例3の移動磁性物体検知装置を示す構成図である。
【図6】実施例3の移動磁性物体検知装置を地域監視装置として利用した場合の説明図である。
【図7】実施例5の移動磁性物体検知装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0033】
10,10−1,10−2 フラックスゲート型磁気検出素子
11 磁心
12 励磁用コイル
13 検出用コイル
20 信号処理部
50 励磁部
60 マイクロプロセッサ
61 表示部
62 送信部
65 電池
80 管理装置
100,100−1〜100−4,200,300 移動磁性物体検知装置
A−1,A−2 自動車
T 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁心及び励磁用コイル及び検出用コイルを備えたフラックスゲート型磁気検出素子と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の励磁用コイルに励磁電流を通電する励磁部と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の検出用コイルに誘起される信号を処理して検出信号を出力する信号処理部と、前記検出信号の変化に基づいて移動磁性物体が近傍に存在するか否かを判定し出力する判定部とを具備したことを特徴とする移動磁性物体検知装置。
【請求項2】
磁心及び励磁用コイル及び検出用コイルを備えたフラックスゲート型磁気検出素子と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の励磁用コイルに励磁電流を通電する励磁部と、前記フラックスゲート型磁気検出素子の検出用コイルに誘起される信号を処理して検出信号を出力する信号処理部と、前記検出信号の変化に基づいて移動磁性物体が近傍に存在するか否かを判定し出力する判定部と、移動磁性物体が近傍に存在すると判定した時にその旨を電波または光または音波で送信する送信部と、前記各部に電力を供給する電池とを具備したことを特徴とする移動磁性物体検知装置。
【請求項3】
交差点に設置した請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の移動磁性物体検知装置と、前記移動磁性物体検知装置で移動磁性物体が近傍に存在すると判定した時にその旨を光または音で報知する報知装置とを具備したことを特徴とする交差点監視装置。
【請求項4】
監視地域に分散させて複数設置した請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の移動磁性物体検知装置と、前記各移動磁性物体検知装置での判定結果を受信し報知する管理装置とを具備したことを特徴とする地域監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−119081(P2006−119081A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309470(P2004−309470)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】