積層ゴム支承
【課題】修理及び交換の手間及び費用を軽減することのできる積層ゴム支承を提供する。
【解決手段】この積層ゴム支承は、空気中の湿気や光によって硬化するペースト状組成物が積層体50とカバー層60との間に封入されているので、例えば長期の使用によってカバー層60にオゾンクラックが発生し、クラックCがカバー層60を貫通した際に、積層体50とカバー層60との間に封入されているペースト状組成物がクラックC内に噴出等し、噴出等したペースト状組成物が空気中の湿気や光によって硬化し、ペースト状組成物が硬化することによってクラックCが塞がれる。
【解決手段】この積層ゴム支承は、空気中の湿気や光によって硬化するペースト状組成物が積層体50とカバー層60との間に封入されているので、例えば長期の使用によってカバー層60にオゾンクラックが発生し、クラックCがカバー層60を貫通した際に、積層体50とカバー層60との間に封入されているペースト状組成物がクラックC内に噴出等し、噴出等したペースト状組成物が空気中の湿気や光によって硬化し、ペースト状組成物が硬化することによってクラックCが塞がれる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁やビル等の大型建造物を弾性支持するための積層ゴム支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の弾性支承としては、複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、積層体上端に取付けられたフランジ板と、積層体の下端に取付けられたフランジ板と、積層体の側面を覆うカバー層とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−201228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記積層ゴム支承では、積層体のゴムは天然ゴム(NR)やブタジエンゴム(BR)から成るので、積層体を構成する天然ゴムやブタジエンゴムのオゾンや紫外線による劣化を防止するため、積層体の側面がエチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)やクロロプレンゴム(CR)から成るカバー層によって覆われている。
【0005】
このように、前記積層ゴム支承では、オゾンや紫外線による積層体の劣化をカバー層によって防止するように構成し、カバー層がオゾンクラックの発生し難いゴム材料から形成されているが、長期に亘る使用により、カバー層にも硬化劣化、オゾンクラック、その他外力によるクラックが発生する。また、定期的に外観検査を行い、カバー層にクラックが発生している場合は、安全性を考慮して積層ゴム支承の修理や交換等のメンテナンスが行われている。
【0006】
しかしながら、積層ゴム支承は1つ1つが大型のものが多く、また、積層ゴム支承は大型建造物を支持しているので、積層ゴム支承の交換には多大な手間及び費用がかかるという問題点があった。
【0007】
また、積層ゴム支承は橋桁と橋脚との間やビルと地面との間に配置されているので、積層ゴム支承の外観検査は容易ではなく、また、積層ゴム支承はその側面の面積が大きいことから、積層ゴム支承の修理にも多大な手間及び費用がかかるという問題点があった。
【0008】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、修理及び交換の手間及び費用を軽減することのできる積層ゴム支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化する組成物を前記積層体と前記カバー層との間に封入して成る未硬化層を備えている。
【0010】
これにより、空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化する組成物が積層体とカバー層との間に封入されているので、例えば長期の使用によってカバー層にオゾンクラックが発生し、クラックがカバー層を貫通した際に、積層体とカバー層との間に封入されている組成物のクラック内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等した組成物が空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化し、クラックが塞がれる。
【0011】
また、本発明は、複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、前記積層体と前記カバー層との間に、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーとパーオキサイドとを含有する組成物から成る中間層を備えている。
【0012】
ここで、中間層はパーオキサイドによる分解性を有するポリマーとパーオキサイドとを含有していることから、所定の加硫用金型で加熱及び加圧して加硫成形される際に、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーが分解され、前記所定の加硫用金型内の加熱及び加圧により中間層が硬化せず、または硬化後に軟化し、または単に軟化する。このため、例えば長期の使用によってカバー層にオゾンクラックが発生し、クラックがカバー層を貫通した際に、硬化しなかった、または硬化後に軟化した、または単に軟化した中間層のクラック内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等した中間層がクラックの表面を覆い、クラックの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックの表面への紫外線照射を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層ゴム支承によれば、噴出等した組成物が硬化することによってクラックが塞がれ、または、噴出等した中間層がクラックの表面を覆い、クラックの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックの表面への紫外線照射を防止することができるので、カバー層のクラックの伸展を防止または遅延させることができ、積層ゴム支承の修理及び交換の手間及び費用を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の積層ゴム支承の取付状態を示す図
【図2】積層ゴム支承の橋軸方向の側面断面図
【図3】積層ゴム支承の橋軸直角方向の側面断面図
【図4】積層ゴム支承の橋軸方向の側面断面図
【図5】積層ゴム支承の橋軸方向の要部側面断面図
【図6】積層ゴム支承の橋軸方向の要部側面断面図
【図7】本発明の第2実施形態を示す積層ゴム支承の橋軸方向の側面断面図
【図8】積層ゴム支承の橋軸直角方向の要部側面断面図
【図9】積層ゴム支承の橋軸方向の要部側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1実施形態の積層ゴム支承を図1〜図6を参照しながら説明する。この積層ゴム支承は橋桁1と、橋脚等の支持体2との間に配置されるものである。また、例えば橋桁1は上面に自動車用道路が設けられ、橋軸直角方向Yに並ぶように設けられた複数の積層ゴム支承によって支持体2に支持されている。
【0016】
この積層ゴム支承は、図1及び図2に示すように、上端側が橋桁1に固定されたソールプレート10に取付けられ、下端側が支持体2に固定されたベースプレート20に取付けられる。
【0017】
ソールプレート10は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のアンカーボルト10aによって橋桁1に取付けられている。ソールプレート10の下面における略中央部には凹状部10bが設けられ、凹状部10bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0018】
ベースプレート20は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のアンカーボルト20aによって支持体2に取付けられている。ベースプレート20の上面における略中央部には凹状部20bが設けられ、凹状部20bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0019】
また、この積層ゴム支承は、図2及び図3に示すように、ソールプレート10の下面に取付けられた上沓30と、ベースプレート20の上面に取付けられた下沓40と、上沓30と下沓40との間に配置された積層体50と、積層体50の橋軸方向Xの側面50a及び橋軸直角方向Yの側面50bを覆うカバー層60と、積層体50とカバー層60との間に設けられた未硬化層70とを備えている。
【0020】
上沓30は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト30aによってソールプレート10に取付けられている。また、上沓30の略中央部には貫通孔30bが設けられ、貫通孔30bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0021】
下沓40は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト40aによってベースプレート20に取付けられている。また、下沓40の略中央部には貫通孔40bが設けられ、貫通孔40bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0022】
積層体50は、上沓30に取付けられた上側補強板51と、下沓40に取付けられた下側補強板52と、上側補強板51と下側補強板52との間に互いに上下方向に間隔をおいて設けられた複数の補強板53と、各補強板51,52,53と加硫接着によって接着しているゴム54とを有する。
【0023】
上側補強板51は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト51aによって上沓30に取付けられている。また、上側補強板51の上面の略中央部には凹状部51bが設けられ、凹状部51bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。凹状部51bにはキー部材51cが挿入され、キー部材51cの上端側は上沓30の貫通孔30bを挿通してソールプレート10の凹状部10bに挿入されている。
【0024】
下側補強板52は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト52aによって下沓40に取付けられている。また、下側補強板52の下面の略中央部には凹状部52bが設けられ、凹状部52bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。凹状部52bにはキー部材52cが挿入され、キー部材52cの下端側は上沓40の貫通孔40bを挿通してベースプレート20の凹状部20bに挿入されている。
【0025】
各補強板53は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、上側補強板51及び下側補強板52よりも薄く形成されている。
【0026】
ゴム54は、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(BR−IIR,Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)のうち一種のポリマー、または複数種類のポリマーを混合したものに、カーボンブラック、加硫剤、可塑剤、安定剤、老化防止剤、加工助剤等のゴム配合剤を適宜配合したものを加硫して成る。尚、カーボンブラックの代わりに他の補強剤を用いることも可能である。
【0027】
カバー層60は、天然ゴムやイソプレンゴムやスチレンブタジエンゴムよりも耐候性に優れている例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(BR−IIR,Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)、シリコンゴム(Q)のうち一種のポリマー、または複数種類のポリマーを混合したものに、カーボンブラック、加硫剤、可塑剤、安定剤、老化防止剤、加工助剤、顔料等のゴム配合剤を適宜配合したものを加硫して成る。尚、カーボンブラックの代わりに他の補強剤を用いることも可能である。
【0028】
未硬化層70は、例えば、特開平11−286602に記載されているように、ウレタンプレポリマーを主成分とし、空気中の水分(湿気)によって硬化するポリウレタン系の公知のシーリング材や、特開2003−221575に記載されているように、変性シリコーンを主成分とし、光や空気中の水分(湿気)によって硬化する変性シリコーン系の公知のシーリング材や、特開2006−225545に記載されているように、エポキシ化合物を主成分とし、光によって硬化する樹脂系の公知のペースト状またはゲル状組成物を用いて形成することが可能である。また、未硬化層70を構成するペースト状またはゲル状組成物は、硬化前の状態で20℃における粘度が1000Pa・s以上のペースト状またはゲル状組成物であり、空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化し、且つ、硬化後にゴム状弾性を有するものであれば、前記以外の組成物を用いることも可能である。
【0029】
未硬化層70は、例えば、加硫成形された積層体50の側面50a,50bに前記ペースト状またはゲル状組成物を塗布した後に、カバー層60を成形するための未加硫ゴムシートをペースト状またはゲル状組成物が塗布された積層体50の側面50a,50bに全周に亘って巻付け、これを所定の加硫用金型内で圧力及び温度を加えて加硫することにより成形される。これにより、カバー層60が加硫され、また、例えばカバー層60の上端と積層体50の上端とが加硫によって接着するとともに、カバー層60の下端と積層体50の下端とが加硫によって接着し、積層体50とカバー層60との間にペースト状またはゲル状組成物が封入され、ペースト状またはゲル状組成物から成る未硬化層70が形成される。尚、加硫成形された積層体50の側面50a,50bに前記ペースト状またはゲル状組成物を塗布した後に、カバー層60を成形するための加硫ゴムシートをペースト状またはゲル状組成物が塗布された積層体50の側面50a,50bに全周に亘って巻付け、加硫ゴムシートの上端及び下端を積層体50に全周に亘って接着することにより、積層体50とカバー層60との間にペースト状またはゲル状組成物を封入することも可能である。
【0030】
また、積層体50とカバー層60との間に一定の間隔を設ける様に積層ゴム支承を加硫成形後、積層ゴム支承の積層体50とカバー層60との間に設けた一定の空間に前記ペースト状またはゲル状組成物を注入及び封入することも可能である。
【0031】
以上のように構成された積層ゴム支承は、橋桁1を上下方向及び/または水平方向に支持する。また、例えば温度の変化によって橋梁が橋軸方向Xに伸縮する場合、積層ゴム支承は図4に示すように橋軸方向Xに弾性変形することになる。
【0032】
また、積層ゴム支承に上下方向の荷重が加わる場合、各補強板51,52,53の間のゴム54が水平方向の外側に押出され、図5に示すように押出されたゴム54によって積層体50の側面が突出し、その突出に応じてカバー層60及び未硬化層70が変形する。ここで、未硬化層70はペースト状またはゲル状組成物から成り、未硬化層70が積層体50の側面50a,50bとカバー層60との間で柔軟に変形するので、カバー層60が全体に亘って積層体50の側面50a,50bに加硫によって接着されている場合と比較し、未硬化層70の柔軟な変形によりカバー層60の変形を低減することができる。ゴムは引張変形が生じた状態でオゾンや紫外線にさらされると、比較的表面の劣化が早く、表面にオゾンクラック等のクラックが発生し易い。また、橋桁1の下は紫外線やオゾンの影響を比較的受け易い場所である。このため、未硬化層70の柔軟な変形によってカバー層60の変形を低減することにより、カバー層60のオゾンクラック等に対する耐クラック性を向上することができる。
【0033】
また、本実施形態の積層ゴム支承は、空気中の湿気や光によって硬化するペースト状またはゲル状組成物が積層体50とカバー層60との間に封入されているので、例えば長期の使用によってカバー層60にオゾンクラックが発生し、図6に示すようにクラックCがカバー層60を貫通した際に、積層体50とカバー層60との間に封入されているペースト状またはゲル状組成物のクラックC内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等したペースト状またはゲル状組成物が空気中の湿気や光によって硬化し、ペースト状またはゲル状組成物が硬化することによってクラックCが塞がれる。
【0034】
このように、本実施形態によれば、ペースト状またはゲル状組成物が硬化することによってクラックCが塞がれるので、カバー層60のクラックCの伸展を防止または遅延することができ、積層ゴム支承の修理及び交換の手間及び費用を軽減することができる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態の積層ゴム支承を図7〜図9を参照しながら説明する。第2実施形態の積層ゴム支承は、第1実施形態と同等の上沓30、下沓40、及び積層体50とを備え、さらに、積層体50の橋軸方向Xの側面50a及び橋軸直角方向Yの側面50bを覆うカバー層80と、積層体50とカバー層80との間に配置された中間層90とを備えている。
【0036】
カバー層80は、天然ゴムやイソプレンゴムやスチレンブタジエンゴムよりも耐候性に優れている例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(BR−IIR,Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)、シリコンゴム(Q)のうち一種のポリマー、または複数種類のポリマーを混合したものに、カーボンブラック、加硫剤、可塑剤、安定剤、老化防止剤、加工助剤、顔料等のゴム配合剤を適宜配合したものを加硫して成る。尚、カーボンブラックの代わりに他の補強剤を用いることも可能である。
【0037】
中間層90は、ポリイソブチレン等のパーオキサイドによる分解性を有するポリマーを含有するとともに該ポリマー100重量部に対してパーオキサイドを0.2〜20重量部含有する組成物から成る。パーオキサイドの例としては、ベンゾイルパーオキサイド、P−クロロベンゾイルパーオキサイドなどのアシルパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシフタレートなどのパーオキシエステル類、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのアルキルパーオキサイド類、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類を挙げることができるが、その他のパーオキサイドを用いることも可能である。また、前記組成物は、必要に応じて、パーオキサイドによるポリマーの分解を促進するためにナフテン酸コバルトのような触媒を添加したり、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤を添加したり、ポリブテンのような粘着剤を添加したり、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル等の可塑剤を添加したり、安定剤、老化防止剤、加工助剤、顔料等のその他のゴム配合剤を適宜配合することが可能である。尚、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーであれば、ポリイソブチレン以外のポリマーを用いることも可能である。中間層90は前記組成物を後述するように所定の加硫用金型で加熱及び加圧して成形される。
【0038】
中間層90は、例えば、加硫成形された積層体50の側面50a,50bに中間層90を成形するための前記組成物から成るシート状部材を全周に亘って巻付けた後に、カバー層80を成形するための未加硫ゴムシートを中間層90用のシート状部材が巻付けられた積層体50の側面50a,50bに全周に亘って巻付け、これを所定の加硫用金型で圧力及び温度を加えて加硫することにより成形される。これにより、カバー層80が加硫され、また、例えばカバー層80の上端と積層体50の上端とが加硫によって接着するとともに、カバー層80の下端と積層体50の下端とが加硫によって接着し、積層体50とカバー層80との間に中間層90が封入される。
【0039】
以上のように構成された積層ゴム支承は、第1実施形態と同様に、例えば温度の変化によって橋梁が橋軸方向Xに伸縮する場合、積層ゴム支承が橋軸方向Xに弾性変形し、また、積層ゴム支承に上下方向の荷重が加わる場合、各補強板51,52,53の間のゴム54が水平方向の外側に押出され、図8に示すように押出されたゴム54によって積層体50の側面が突出し、その突出に応じてカバー層80及び中間層90が変形する。
【0040】
ここで、中間層90はパーオキサイドによる分解性を有するポリマーを含有するとともに該ポリマー100重量部に対してパーオキサイドを0.2〜20重量部含有しており、また、積層体50とカバー層80との間に中間層90が配置されるように積層体50と中間層90とカバー層80とを所定の加硫用金型内に加熱及び加圧して成形することにより、カバー層80の上端及び下端が積層体50に接着されていることから、前記所定の加硫用金型内で加熱及び加圧されることにより、中間層90のポリマーが分解され、前記所定の加硫用金型内の加熱及び加圧により中間層90が硬化せず、または硬化後に軟化し、または単に軟化する。このため、例えば長期の使用によってカバー層80にオゾンクラックが発生し、図9に示すようにクラックCがカバー層80を貫通した際に、硬化しなかった、または硬化後に軟化した、または単に軟化した中間層90のクラックC内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等した中間層90がクラックCの表面を覆い、クラックCの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックCの表面へ紫外線照射を防止することができる。
【0041】
このように、本実施形態によれば、クラックC内に流れ出した中間層90がクラックCの表面を覆い、クラックCの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックCの表面へ紫外線照射を防止することができるので、カバー層60のクラックCの伸展を防止または遅延することができ、積層ゴム支承の修理及び交換の手間及び費用を軽減することができる。
【0042】
また、前記所定の加硫用金型内の加熱及び加圧により中間層90が硬化せず、または硬化後に軟化し、または単に軟化し、中間層90が積層体50の側面50a,50bとカバー層80との間で柔軟に変形するので、カバー層80が全体に亘って積層体50の側面50a,50bに加硫によって接着されている場合と比較し、中間層90の柔軟な変形によりカバー層80の変形を低減することができる。ゴムは引張変形が生じた状態でオゾンや紫外線にさらされると、比較的表面の劣化が早く、表面にオゾンクラック等のクラックが発生し易い。また、橋桁1の下は紫外線やオゾンの影響を比較的受け易い場所である。このため、中間層90の柔軟な変形によってカバー層80の変形を低減することにより、カバー層80のオゾンクラック等に対する耐クラック性を向上することができる。
【0043】
尚、本実施形態では、中間層90のポリマーとしてパーオキサイドによる分解性を有するポリマーのみを用いるものを示した。これに対し、中間層90にエチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)のポリマー等の他のゴムのポリマーを配合することも可能であり、さらには、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーにパーオキサイドにより架橋するポリマーをブレンドすることも可能である。この場合でも、カバー層80にクラックCが発生した際に、中間層90の組成物のクラックC内への噴出や染み出しや流出が生ずる状態になるのであれば、前述と同様の作用効果を達成できる。
【0044】
また、第1及び第2実施形態において、未硬化層70や中間層90を赤色、黄色、緑色、桃色、橙色、白色、灰色等に着色することも可能である。これにより、未硬化層70や中間層90がカバー層60,80のクラックから流れ出したことを容易に確認可能となり、積層ゴム支承のメンテナンスを効率的に行う上で有利である。
【0045】
尚、第1及び第2実施形態では、積層体50の橋軸方向Xの両側面50a及び橋軸直角方向の両側面50bに未硬化層70や中間層90を設けたものを示した。これに対し、積層体50の4つの側面のうちクラックの発生し易い1側面にのみ未硬化層70や中間層90を設けることも可能であり、この場合でも前述と同様の作用効果を達成可能である。
【0046】
尚、第1及び第2実施形態では橋桁1を支持する積層ゴム支承を示したが、ビルやその他の大型建造物の積層ゴム支承に本実施形態と同等の構成を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…橋桁、2…支持体、10…ソールプレート、20…ベースプレート、30…上沓、40…下沓、50…積層体、50a…橋軸方向の側面、50b…橋軸直角方向の側面、51…上側補強板、52…下側補強板、53…補強板、54…ゴム、60…カバー層、70…未硬化層、80…カバー層、90…中間層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば橋梁やビル等の大型建造物を弾性支持するための積層ゴム支承に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の弾性支承としては、複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、積層体上端に取付けられたフランジ板と、積層体の下端に取付けられたフランジ板と、積層体の側面を覆うカバー層とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−201228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記積層ゴム支承では、積層体のゴムは天然ゴム(NR)やブタジエンゴム(BR)から成るので、積層体を構成する天然ゴムやブタジエンゴムのオゾンや紫外線による劣化を防止するため、積層体の側面がエチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)やクロロプレンゴム(CR)から成るカバー層によって覆われている。
【0005】
このように、前記積層ゴム支承では、オゾンや紫外線による積層体の劣化をカバー層によって防止するように構成し、カバー層がオゾンクラックの発生し難いゴム材料から形成されているが、長期に亘る使用により、カバー層にも硬化劣化、オゾンクラック、その他外力によるクラックが発生する。また、定期的に外観検査を行い、カバー層にクラックが発生している場合は、安全性を考慮して積層ゴム支承の修理や交換等のメンテナンスが行われている。
【0006】
しかしながら、積層ゴム支承は1つ1つが大型のものが多く、また、積層ゴム支承は大型建造物を支持しているので、積層ゴム支承の交換には多大な手間及び費用がかかるという問題点があった。
【0007】
また、積層ゴム支承は橋桁と橋脚との間やビルと地面との間に配置されているので、積層ゴム支承の外観検査は容易ではなく、また、積層ゴム支承はその側面の面積が大きいことから、積層ゴム支承の修理にも多大な手間及び費用がかかるという問題点があった。
【0008】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、修理及び交換の手間及び費用を軽減することのできる積層ゴム支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するために、複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化する組成物を前記積層体と前記カバー層との間に封入して成る未硬化層を備えている。
【0010】
これにより、空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化する組成物が積層体とカバー層との間に封入されているので、例えば長期の使用によってカバー層にオゾンクラックが発生し、クラックがカバー層を貫通した際に、積層体とカバー層との間に封入されている組成物のクラック内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等した組成物が空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化し、クラックが塞がれる。
【0011】
また、本発明は、複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、前記積層体と前記カバー層との間に、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーとパーオキサイドとを含有する組成物から成る中間層を備えている。
【0012】
ここで、中間層はパーオキサイドによる分解性を有するポリマーとパーオキサイドとを含有していることから、所定の加硫用金型で加熱及び加圧して加硫成形される際に、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーが分解され、前記所定の加硫用金型内の加熱及び加圧により中間層が硬化せず、または硬化後に軟化し、または単に軟化する。このため、例えば長期の使用によってカバー層にオゾンクラックが発生し、クラックがカバー層を貫通した際に、硬化しなかった、または硬化後に軟化した、または単に軟化した中間層のクラック内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等した中間層がクラックの表面を覆い、クラックの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックの表面への紫外線照射を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層ゴム支承によれば、噴出等した組成物が硬化することによってクラックが塞がれ、または、噴出等した中間層がクラックの表面を覆い、クラックの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックの表面への紫外線照射を防止することができるので、カバー層のクラックの伸展を防止または遅延させることができ、積層ゴム支承の修理及び交換の手間及び費用を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の積層ゴム支承の取付状態を示す図
【図2】積層ゴム支承の橋軸方向の側面断面図
【図3】積層ゴム支承の橋軸直角方向の側面断面図
【図4】積層ゴム支承の橋軸方向の側面断面図
【図5】積層ゴム支承の橋軸方向の要部側面断面図
【図6】積層ゴム支承の橋軸方向の要部側面断面図
【図7】本発明の第2実施形態を示す積層ゴム支承の橋軸方向の側面断面図
【図8】積層ゴム支承の橋軸直角方向の要部側面断面図
【図9】積層ゴム支承の橋軸方向の要部側面断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1実施形態の積層ゴム支承を図1〜図6を参照しながら説明する。この積層ゴム支承は橋桁1と、橋脚等の支持体2との間に配置されるものである。また、例えば橋桁1は上面に自動車用道路が設けられ、橋軸直角方向Yに並ぶように設けられた複数の積層ゴム支承によって支持体2に支持されている。
【0016】
この積層ゴム支承は、図1及び図2に示すように、上端側が橋桁1に固定されたソールプレート10に取付けられ、下端側が支持体2に固定されたベースプレート20に取付けられる。
【0017】
ソールプレート10は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のアンカーボルト10aによって橋桁1に取付けられている。ソールプレート10の下面における略中央部には凹状部10bが設けられ、凹状部10bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0018】
ベースプレート20は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のアンカーボルト20aによって支持体2に取付けられている。ベースプレート20の上面における略中央部には凹状部20bが設けられ、凹状部20bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0019】
また、この積層ゴム支承は、図2及び図3に示すように、ソールプレート10の下面に取付けられた上沓30と、ベースプレート20の上面に取付けられた下沓40と、上沓30と下沓40との間に配置された積層体50と、積層体50の橋軸方向Xの側面50a及び橋軸直角方向Yの側面50bを覆うカバー層60と、積層体50とカバー層60との間に設けられた未硬化層70とを備えている。
【0020】
上沓30は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト30aによってソールプレート10に取付けられている。また、上沓30の略中央部には貫通孔30bが設けられ、貫通孔30bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0021】
下沓40は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト40aによってベースプレート20に取付けられている。また、下沓40の略中央部には貫通孔40bが設けられ、貫通孔40bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。
【0022】
積層体50は、上沓30に取付けられた上側補強板51と、下沓40に取付けられた下側補強板52と、上側補強板51と下側補強板52との間に互いに上下方向に間隔をおいて設けられた複数の補強板53と、各補強板51,52,53と加硫接着によって接着しているゴム54とを有する。
【0023】
上側補強板51は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト51aによって上沓30に取付けられている。また、上側補強板51の上面の略中央部には凹状部51bが設けられ、凹状部51bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。凹状部51bにはキー部材51cが挿入され、キー部材51cの上端側は上沓30の貫通孔30bを挿通してソールプレート10の凹状部10bに挿入されている。
【0024】
下側補強板52は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、複数のボルト52aによって下沓40に取付けられている。また、下側補強板52の下面の略中央部には凹状部52bが設けられ、凹状部52bは水平方向の断面が円形状となるように形成されている。凹状部52bにはキー部材52cが挿入され、キー部材52cの下端側は上沓40の貫通孔40bを挿通してベースプレート20の凹状部20bに挿入されている。
【0025】
各補強板53は鉄鋼材料から成る矩形の板状部材であり、上側補強板51及び下側補強板52よりも薄く形成されている。
【0026】
ゴム54は、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(BR−IIR,Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)のうち一種のポリマー、または複数種類のポリマーを混合したものに、カーボンブラック、加硫剤、可塑剤、安定剤、老化防止剤、加工助剤等のゴム配合剤を適宜配合したものを加硫して成る。尚、カーボンブラックの代わりに他の補強剤を用いることも可能である。
【0027】
カバー層60は、天然ゴムやイソプレンゴムやスチレンブタジエンゴムよりも耐候性に優れている例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(BR−IIR,Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)、シリコンゴム(Q)のうち一種のポリマー、または複数種類のポリマーを混合したものに、カーボンブラック、加硫剤、可塑剤、安定剤、老化防止剤、加工助剤、顔料等のゴム配合剤を適宜配合したものを加硫して成る。尚、カーボンブラックの代わりに他の補強剤を用いることも可能である。
【0028】
未硬化層70は、例えば、特開平11−286602に記載されているように、ウレタンプレポリマーを主成分とし、空気中の水分(湿気)によって硬化するポリウレタン系の公知のシーリング材や、特開2003−221575に記載されているように、変性シリコーンを主成分とし、光や空気中の水分(湿気)によって硬化する変性シリコーン系の公知のシーリング材や、特開2006−225545に記載されているように、エポキシ化合物を主成分とし、光によって硬化する樹脂系の公知のペースト状またはゲル状組成物を用いて形成することが可能である。また、未硬化層70を構成するペースト状またはゲル状組成物は、硬化前の状態で20℃における粘度が1000Pa・s以上のペースト状またはゲル状組成物であり、空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化し、且つ、硬化後にゴム状弾性を有するものであれば、前記以外の組成物を用いることも可能である。
【0029】
未硬化層70は、例えば、加硫成形された積層体50の側面50a,50bに前記ペースト状またはゲル状組成物を塗布した後に、カバー層60を成形するための未加硫ゴムシートをペースト状またはゲル状組成物が塗布された積層体50の側面50a,50bに全周に亘って巻付け、これを所定の加硫用金型内で圧力及び温度を加えて加硫することにより成形される。これにより、カバー層60が加硫され、また、例えばカバー層60の上端と積層体50の上端とが加硫によって接着するとともに、カバー層60の下端と積層体50の下端とが加硫によって接着し、積層体50とカバー層60との間にペースト状またはゲル状組成物が封入され、ペースト状またはゲル状組成物から成る未硬化層70が形成される。尚、加硫成形された積層体50の側面50a,50bに前記ペースト状またはゲル状組成物を塗布した後に、カバー層60を成形するための加硫ゴムシートをペースト状またはゲル状組成物が塗布された積層体50の側面50a,50bに全周に亘って巻付け、加硫ゴムシートの上端及び下端を積層体50に全周に亘って接着することにより、積層体50とカバー層60との間にペースト状またはゲル状組成物を封入することも可能である。
【0030】
また、積層体50とカバー層60との間に一定の間隔を設ける様に積層ゴム支承を加硫成形後、積層ゴム支承の積層体50とカバー層60との間に設けた一定の空間に前記ペースト状またはゲル状組成物を注入及び封入することも可能である。
【0031】
以上のように構成された積層ゴム支承は、橋桁1を上下方向及び/または水平方向に支持する。また、例えば温度の変化によって橋梁が橋軸方向Xに伸縮する場合、積層ゴム支承は図4に示すように橋軸方向Xに弾性変形することになる。
【0032】
また、積層ゴム支承に上下方向の荷重が加わる場合、各補強板51,52,53の間のゴム54が水平方向の外側に押出され、図5に示すように押出されたゴム54によって積層体50の側面が突出し、その突出に応じてカバー層60及び未硬化層70が変形する。ここで、未硬化層70はペースト状またはゲル状組成物から成り、未硬化層70が積層体50の側面50a,50bとカバー層60との間で柔軟に変形するので、カバー層60が全体に亘って積層体50の側面50a,50bに加硫によって接着されている場合と比較し、未硬化層70の柔軟な変形によりカバー層60の変形を低減することができる。ゴムは引張変形が生じた状態でオゾンや紫外線にさらされると、比較的表面の劣化が早く、表面にオゾンクラック等のクラックが発生し易い。また、橋桁1の下は紫外線やオゾンの影響を比較的受け易い場所である。このため、未硬化層70の柔軟な変形によってカバー層60の変形を低減することにより、カバー層60のオゾンクラック等に対する耐クラック性を向上することができる。
【0033】
また、本実施形態の積層ゴム支承は、空気中の湿気や光によって硬化するペースト状またはゲル状組成物が積層体50とカバー層60との間に封入されているので、例えば長期の使用によってカバー層60にオゾンクラックが発生し、図6に示すようにクラックCがカバー層60を貫通した際に、積層体50とカバー層60との間に封入されているペースト状またはゲル状組成物のクラックC内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等したペースト状またはゲル状組成物が空気中の湿気や光によって硬化し、ペースト状またはゲル状組成物が硬化することによってクラックCが塞がれる。
【0034】
このように、本実施形態によれば、ペースト状またはゲル状組成物が硬化することによってクラックCが塞がれるので、カバー層60のクラックCの伸展を防止または遅延することができ、積層ゴム支承の修理及び交換の手間及び費用を軽減することができる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態の積層ゴム支承を図7〜図9を参照しながら説明する。第2実施形態の積層ゴム支承は、第1実施形態と同等の上沓30、下沓40、及び積層体50とを備え、さらに、積層体50の橋軸方向Xの側面50a及び橋軸直角方向Yの側面50bを覆うカバー層80と、積層体50とカバー層80との間に配置された中間層90とを備えている。
【0036】
カバー層80は、天然ゴムやイソプレンゴムやスチレンブタジエンゴムよりも耐候性に優れている例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(BR−IIR,Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)、シリコンゴム(Q)のうち一種のポリマー、または複数種類のポリマーを混合したものに、カーボンブラック、加硫剤、可塑剤、安定剤、老化防止剤、加工助剤、顔料等のゴム配合剤を適宜配合したものを加硫して成る。尚、カーボンブラックの代わりに他の補強剤を用いることも可能である。
【0037】
中間層90は、ポリイソブチレン等のパーオキサイドによる分解性を有するポリマーを含有するとともに該ポリマー100重量部に対してパーオキサイドを0.2〜20重量部含有する組成物から成る。パーオキサイドの例としては、ベンゾイルパーオキサイド、P−クロロベンゾイルパーオキサイドなどのアシルパーオキサイド類、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシフタレートなどのパーオキシエステル類、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシベンゾエート、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのアルキルパーオキサイド類、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類を挙げることができるが、その他のパーオキサイドを用いることも可能である。また、前記組成物は、必要に応じて、パーオキサイドによるポリマーの分解を促進するためにナフテン酸コバルトのような触媒を添加したり、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤を添加したり、ポリブテンのような粘着剤を添加したり、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル等の可塑剤を添加したり、安定剤、老化防止剤、加工助剤、顔料等のその他のゴム配合剤を適宜配合することが可能である。尚、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーであれば、ポリイソブチレン以外のポリマーを用いることも可能である。中間層90は前記組成物を後述するように所定の加硫用金型で加熱及び加圧して成形される。
【0038】
中間層90は、例えば、加硫成形された積層体50の側面50a,50bに中間層90を成形するための前記組成物から成るシート状部材を全周に亘って巻付けた後に、カバー層80を成形するための未加硫ゴムシートを中間層90用のシート状部材が巻付けられた積層体50の側面50a,50bに全周に亘って巻付け、これを所定の加硫用金型で圧力及び温度を加えて加硫することにより成形される。これにより、カバー層80が加硫され、また、例えばカバー層80の上端と積層体50の上端とが加硫によって接着するとともに、カバー層80の下端と積層体50の下端とが加硫によって接着し、積層体50とカバー層80との間に中間層90が封入される。
【0039】
以上のように構成された積層ゴム支承は、第1実施形態と同様に、例えば温度の変化によって橋梁が橋軸方向Xに伸縮する場合、積層ゴム支承が橋軸方向Xに弾性変形し、また、積層ゴム支承に上下方向の荷重が加わる場合、各補強板51,52,53の間のゴム54が水平方向の外側に押出され、図8に示すように押出されたゴム54によって積層体50の側面が突出し、その突出に応じてカバー層80及び中間層90が変形する。
【0040】
ここで、中間層90はパーオキサイドによる分解性を有するポリマーを含有するとともに該ポリマー100重量部に対してパーオキサイドを0.2〜20重量部含有しており、また、積層体50とカバー層80との間に中間層90が配置されるように積層体50と中間層90とカバー層80とを所定の加硫用金型内に加熱及び加圧して成形することにより、カバー層80の上端及び下端が積層体50に接着されていることから、前記所定の加硫用金型内で加熱及び加圧されることにより、中間層90のポリマーが分解され、前記所定の加硫用金型内の加熱及び加圧により中間層90が硬化せず、または硬化後に軟化し、または単に軟化する。このため、例えば長期の使用によってカバー層80にオゾンクラックが発生し、図9に示すようにクラックCがカバー層80を貫通した際に、硬化しなかった、または硬化後に軟化した、または単に軟化した中間層90のクラックC内への噴出や染み出しや流出が生じ、噴出等した中間層90がクラックCの表面を覆い、クラックCの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックCの表面へ紫外線照射を防止することができる。
【0041】
このように、本実施形態によれば、クラックC内に流れ出した中間層90がクラックCの表面を覆い、クラックCの表面と酸素やオゾンとの接触やクラックCの表面へ紫外線照射を防止することができるので、カバー層60のクラックCの伸展を防止または遅延することができ、積層ゴム支承の修理及び交換の手間及び費用を軽減することができる。
【0042】
また、前記所定の加硫用金型内の加熱及び加圧により中間層90が硬化せず、または硬化後に軟化し、または単に軟化し、中間層90が積層体50の側面50a,50bとカバー層80との間で柔軟に変形するので、カバー層80が全体に亘って積層体50の側面50a,50bに加硫によって接着されている場合と比較し、中間層90の柔軟な変形によりカバー層80の変形を低減することができる。ゴムは引張変形が生じた状態でオゾンや紫外線にさらされると、比較的表面の劣化が早く、表面にオゾンクラック等のクラックが発生し易い。また、橋桁1の下は紫外線やオゾンの影響を比較的受け易い場所である。このため、中間層90の柔軟な変形によってカバー層80の変形を低減することにより、カバー層80のオゾンクラック等に対する耐クラック性を向上することができる。
【0043】
尚、本実施形態では、中間層90のポリマーとしてパーオキサイドによる分解性を有するポリマーのみを用いるものを示した。これに対し、中間層90にエチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)のポリマー等の他のゴムのポリマーを配合することも可能であり、さらには、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーにパーオキサイドにより架橋するポリマーをブレンドすることも可能である。この場合でも、カバー層80にクラックCが発生した際に、中間層90の組成物のクラックC内への噴出や染み出しや流出が生ずる状態になるのであれば、前述と同様の作用効果を達成できる。
【0044】
また、第1及び第2実施形態において、未硬化層70や中間層90を赤色、黄色、緑色、桃色、橙色、白色、灰色等に着色することも可能である。これにより、未硬化層70や中間層90がカバー層60,80のクラックから流れ出したことを容易に確認可能となり、積層ゴム支承のメンテナンスを効率的に行う上で有利である。
【0045】
尚、第1及び第2実施形態では、積層体50の橋軸方向Xの両側面50a及び橋軸直角方向の両側面50bに未硬化層70や中間層90を設けたものを示した。これに対し、積層体50の4つの側面のうちクラックの発生し易い1側面にのみ未硬化層70や中間層90を設けることも可能であり、この場合でも前述と同様の作用効果を達成可能である。
【0046】
尚、第1及び第2実施形態では橋桁1を支持する積層ゴム支承を示したが、ビルやその他の大型建造物の積層ゴム支承に本実施形態と同等の構成を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…橋桁、2…支持体、10…ソールプレート、20…ベースプレート、30…上沓、40…下沓、50…積層体、50a…橋軸方向の側面、50b…橋軸直角方向の側面、51…上側補強板、52…下側補強板、53…補強板、54…ゴム、60…カバー層、70…未硬化層、80…カバー層、90…中間層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、
空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化する組成物を前記積層体と前記カバー層との間に封入して成る未硬化層を備えた
ことを特徴とする積層ゴム支承。
【請求項2】
前記組成物は、20℃における粘度が1000Pa・s以上のペースト状またはゲル状の組成物である
ことを特徴とする請求項1に記載の積層ゴム支承。
【請求項3】
複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、
前記積層体と前記カバー層との間に、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーとパーオキサイドとを含有する組成物から成る中間層を備えた
ことを特徴とする積層ゴム支承。
【請求項4】
前記組成物は、パーオキサイドによる分解性を有するポリマー100重量部に対してパーオキサイドを0.2〜20重量部含有する組成物である
ことを特徴とする請求項3に記載の積層ゴム支承。
【請求項5】
積層体とカバー層との間に中間層が配置されるように積層体と中間層とカバー層とが所定の加硫用金型内で加熱及び加圧されることにより、前記積層体と前記カバー層との間に前記中間層が設けられている
ことを特徴とする請求項3または4の何れかに記載の積層ゴム支承。
【請求項6】
前記カバー層の一部が積層体に接着されている
ことを特徴とする請求項3、4または5の何れかに記載の積層ゴム支承。
【請求項1】
複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、
空気中の湿気や空気中の酸素や光によって硬化する組成物を前記積層体と前記カバー層との間に封入して成る未硬化層を備えた
ことを特徴とする積層ゴム支承。
【請求項2】
前記組成物は、20℃における粘度が1000Pa・s以上のペースト状またはゲル状の組成物である
ことを特徴とする請求項1に記載の積層ゴム支承。
【請求項3】
複数の補強板とゴムとを上下方向に積層して成る積層体と、ゴム材料から成り積層体の側面を覆うカバー層とを備えた積層ゴム支承において、
前記積層体と前記カバー層との間に、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーとパーオキサイドとを含有する組成物から成る中間層を備えた
ことを特徴とする積層ゴム支承。
【請求項4】
前記組成物は、パーオキサイドによる分解性を有するポリマー100重量部に対してパーオキサイドを0.2〜20重量部含有する組成物である
ことを特徴とする請求項3に記載の積層ゴム支承。
【請求項5】
積層体とカバー層との間に中間層が配置されるように積層体と中間層とカバー層とが所定の加硫用金型内で加熱及び加圧されることにより、前記積層体と前記カバー層との間に前記中間層が設けられている
ことを特徴とする請求項3または4の何れかに記載の積層ゴム支承。
【請求項6】
前記カバー層の一部が積層体に接着されている
ことを特徴とする請求項3、4または5の何れかに記載の積層ゴム支承。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−57691(P2012−57691A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200541(P2010−200541)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
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