説明

積層セラミックコンデンサ

【課題】 高誘電率であり、比誘電率の温度特性の安定性に優れるとともに、分極電荷が小さく、かつ高温における絶縁抵抗の高い誘電体層を有する積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】 チタン酸バリウムの主結晶粒子と、ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子とを有し、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)およびイッテルビウム(Yb)を含有する誘電体磁器を誘電体層とする積層セラミックコンデンサであって、前記主結晶粒子が立方晶系の結晶構造を有するとともに、平均粒径が0.05〜0.2μmであり、前記ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子がハフニウムを含有するとともに、X線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの面指数(110)の回折強度に対するジルコン酸ストロンチウムの面指数(121、002)の回折強度が0.7〜18.0%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサに関し、特に、チタン酸バリウムを主成分として形成される誘電体磁器を誘電体層とする積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が急速に進んでいるが、高誘電率の材料を誘電体磁器とする高誘電率系の積層セラミックコンデンサは、静電容量は高いものの、電界−誘電分極特性におけるヒステリシスが大きいという問題を有している。
【0003】
このような問題に対し、本出願人は、内部電極層を構成する材料として卑金属を用いることができ、電界−誘電分極特性に優れたコンデンサを提案した(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/147893号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたコンデンサは、中耐圧用コンデンサとして、さらなる信頼性の向上が求められており、そのため高誘電率であるとともに、高温においても高い絶縁抵抗を有するものが求められている。
【0006】
従って、本発明は、室温(25℃)における比誘電率が高く、分極電荷が小さく、かつ高温における絶縁抵抗の高い誘電体層を有する積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の積層セラミックコンデンサは、チタン酸バリウムの主結晶粒子と、ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子とを有し、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)およびイッテルビウム(Yb)を含有する誘電体磁器を誘電体層とする積層セラミックコンデンサであって、前記主結晶粒子が立方晶系の結晶構造を有するとともに、平均粒径が0.05〜0.2μmであり、ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子がハフニウムを含有するとともに、X線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの面指数(110)の回折強度に対するジルコン酸ストロンチウムの面指数(121、002)の回折強度が0.7〜18.0%であることを特徴とする。
【0008】
また、上記積層セラミックコンデンサでは、前記誘電体磁器は、チタン1モルに対して、前記イットリウムをYO3/2換算で0.0014〜0.030モル、前記マンガンをMnO換算で0.0002〜0.0450モル、前記マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モル、前記イッテルビウムをYbO3/2換算で0.025〜0.080モル含有することが望ましい。
【0009】
また、上記積層セラミックコンデンサでは、前記誘電体磁器は、さらにテルビウム(Tb)またはガドリニウム(Gd)を含み、チタン1モルに対して、前記イットリウムをYO3/2換算で0.010〜0.020モルと、前記マンガンをMnO換算で0.020
0〜0.0300モルと、前記マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モルと、前記イッテルビウムをYbO3/2換算で0.040〜0.075モルと、前記テルビウムまたは前記ガドリニウムをTbO3/2換算またはGdO3/2換算で0.005〜0.040モルとを含有することが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、室温(25℃)における比誘電率が高く、分極電荷が小さく、かつ高温における絶縁抵抗の高い誘電体層を有する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は、本発明の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図であり、(b)は、(a)の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層の拡大図であり、結晶粒子および粒界相を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の積層セラミックコンデンサについて、図1の概略断面図をもとに詳細に説明する。図1(a)は、本発明の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図であり、(b)は、(a)の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層の拡大図であり、結晶粒子および粒界相を示す模式図である。
【0013】
本実施発明の積層セラミックコンデンサは、コンデンサ本体1の両端部に外部電極3が形成されている。外部電極3は、例えば、CuもしくはCuとNiの合金ペーストを焼き付けて形成されている。
【0014】
コンデンサ本体1は、誘電体磁器からなる誘電体層5と内部電極層7とが交互に積層され構成されている。図1では誘電体層5と内部電極層7との積層状態を単純化して示しているが、本発明の積層セラミックコンデンサは誘電体層5と内部電極層7とが数百層にも及ぶ積層体となっている。
【0015】
誘電体磁器からなる誘電体層5は、結晶粒子9と粒界相11とから構成されており、その平均厚みは10μm以下、特に、5μm以下が望ましく、これにより積層セラミックコンデンサを小型、高容量化することが可能となる。なお、静電容量のばらつきの低減および容量温度特性の安定化並びに高温負荷寿命の向上という点で、誘電体層5の平均厚みは2μm以上であることが望ましい。
【0016】
内部電極層7は、高積層化しても製造コストを抑制できるという点で、ニッケル(Ni)や銅(Cu)などの卑金属が望ましく、特に、本発明における誘電体層5との同時焼成が図れるという点でニッケル(Ni)がより望ましい。
【0017】
本実施形態の積層セラミックコンデンサにおける誘電体層5を構成する誘電体磁器は、チタン酸バリウムの主結晶粒子9aとハフニウム(Hf)を含むジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bとを含み、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)およびイッテルビウム(Yb)を含有する。
【0018】
また、この誘電体磁器は、主結晶粒子9aが立方晶系の結晶構造を有するとともに、平均粒径が0.05〜0.2μmである。
【0019】
さらに、この誘電体磁器は、X線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの面指数(110)の回折強度に対するジルコン酸ストロンチウムの面指数(121、002)の回
折強度が0.7〜18.0%である。
【0020】
これにより、室温(25℃)における比誘電率が400以上であり、分極電荷が30nC/cm以下であり、かつ125℃における絶縁抵抗が200MΩ(2×10−8Ω)以上という優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0021】
すなわち、チタン酸バリウムの主結晶粒子9aの結晶構造が立方晶系でなく、例えば、コアシェル構造を有するような正方晶系のようなものであるか、または主結晶粒子9aの平均粒径が0.2μmよりも大きいと、比誘電率は高いものの、誘電分極が30nC/cmよりも大きくなるか、または125℃における絶縁抵抗が200MΩよりも低くなる。
【0022】
また、主結晶粒子9aの平均粒径が0.05μmよりも小さい場合には、誘電体磁器の比誘電率が400よりも低くなる。
【0023】
また、誘電体磁器のX線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの面指数(110)の回折強度に対するジルコン酸ストロンチウムの面指数(121、002)の回折強度が0.7%より低いと、125℃における絶縁抵抗が200MΩよりも低くなる。一方、誘電体磁器のX線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの面指数(110)の回折強度に対するジルコン酸ストロンチウムの面指数(121、002)の回折強度が18.0%より高いと、室温における比誘電率が400よりも低下する。
【0024】
本実施形態の積層セラミックコンデンサにおいて、誘電体磁器中に含まれるイットリウム(Y)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)およびイッテルビウム(Yb)は、比誘電率の温度特性を安定化させるとともに、絶縁抵抗を高め、かつ分極電荷を低減する効果があり、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)およびイッテルビウム(Yb)等のうちのいずれか1種は主結晶粒子9a中に含有させてあることが好ましい。
【0025】
ハフニウム(Hf)は、ジルコン酸ストロンチウムの融点を上昇させる効果があることから、チタン酸バリウムの主結晶粒子9aとジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bとの反応を抑制でき、これによりチタン酸バリウムの結晶粒子9aとジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bとの混晶組織を維持しやすくすることができる。
【0026】
なお、ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9b中にハフニウムが含まれているとは、走査型電子顕微鏡または透過電子顕微鏡を用いたジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bを有する誘電体磁器の組織観察において、EPMA(Electron Probe Micro Analysis
)を用いて元素分析を行ったときに、ハフニウム(Hf)の特性X線の強度が、映し出されている画面のノイズレベル(ノイズレベルを画面上で平均化した値)の1.5倍以上である場合をいう。また、このような分析は、組織観察を行うための分析試料である誘電体磁器中から任意に10個のジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bを選択し、7個以上のジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bにおいてハフニウム(Hf)が含まれている場合とする。
【0027】
また、本実施形態において、ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bは、誘電体磁器中のジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bを分析したときに、ZrおよびSrの特性X線の強度が他の成分に比較して大きく検出され、かつ誘電体磁器のX線回折チャート上に、ジルコン酸ストロンチウムの回折パターンが認められているものをいう。
【0028】
誘電体磁器を構成するチタン酸バリウムの主結晶粒子9aの結晶構造はX線回折を用い
て同定する。このとき回折角(2θ)を4〜105°とし、面指数が200,020,002である回折ピークの分離状態から結晶構造を判定する。
【0029】
チタン酸バリウムの(110)面の回折強度と、ジルコン酸ストロンチウムの(121)面および(002)面からなる回折強度の比の測定は、Cukαの管球を備えたX線回折装置を用いて、角度2θ=25〜35°の範囲で測定し、ピーク強度の比から求める。このとき、ジルコン酸ストロンチウムの面指数である(121)および(002)は、ジルコン酸ストロンチウムのJCPDSカードに示された面指数を適用する。
【0030】
また、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、誘電体磁器は、チタン1モルに対して、イットリウムをYO3/2換算で0.0014〜0.030モル、マンガンをMnO換算で0.0002〜0.0450モル、マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モル、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.025〜0.080モル含有することが望ましい。
【0031】
誘電体磁器の組成を上記範囲とすると、室温(25℃)における比誘電率を420以上、分極電荷を24nC/cm以下および125℃における絶縁抵抗を202MΩ以上にできるとともに、25℃〜125℃における比誘電率の温度係数の絶対値を760×10−6/℃以下にできる。
【0032】
また、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、誘電体磁器は、さらにテルビウム(Tb)またはガドリニウム(Gd)を含み、チタン1モルに対して、イットリウムをYO3/2換算で0.010〜0.020モルと、マンガンをMnO換算で0.0200〜0.0300モルと、マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モルと、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.040〜0.075モルと、テルビウムまたはガドリニウムをTbO3/2換算またはGdO3/2換算で0.005〜0.040モルとを含有することが望ましい。
【0033】
誘電体磁器の組成をさらに上記範囲とすると、室温(25℃)における比誘電率を755以上、分極電荷を24nC/cm以下および125℃における絶縁抵抗を235MΩ以上にできるとともに、25℃〜125℃における比誘電率の温度係数の絶対値を643×10−6/℃以下にできる。
【0034】
なお、本実施形態の積層セラミックコンデンサの誘電体層を構成する誘電体磁器では所望の誘電特性を維持できる範囲であれば焼結性を高めるための助剤としてガラス成分を0.5〜2質量部の割合で含有させても良い。
【0035】
次に、本実施形態の積層セラミックコンデンサを製造する方法について説明する。まず、原料粉末として、純度が99質量%以上のチタン酸バリウム粉末(以下、BT粉末という。)に、Y粉末、MnCO粉末およびYb粉末を添加混合する。次いで、混合粉末を900〜1100℃にて、1〜3時間の条件で仮焼を行い、所定の粒径になるように粉砕を行う。このとき仮焼粉末の平均粒径は焼成後の結晶粒子を微粒の状態に維持できるという理由から0.03〜0.08μmであるのがよい。
【0036】
次に、粉砕した仮焼粉末に、MgO粉末、Yb粉末およびハフニウムを含むジルコン酸ストロンチウム粉末(以下、Sr(Zr、Hf)O粉末とする)を添加し、さらには、必要に応じて所望の誘電特性を維持できる範囲で焼結助剤としてガラス粉末を添加して素原料粉末を得る。なお、ガラス粉末の添加量は、BT粉末を100質量部としたときに0.5〜2質量部が良い。また、Sr(Zr、Hf)O粉末中に含まれるハフニウム(Hf)の含有量は、ジルコン酸ストロンチウムを構成するジルコニウムサイトの置換
量として0.1〜50モル%であるものを用いることが望ましく、特に、原料粉末のコスト低減という点からハフニウムの置換量が10モル%以下であるものを用いるのがよい。また、BT粉末の平均粒径は0.2〜0.3μmであるものが好適であり、BT粉末の平均粒径が0.20〜0.3μmであると、焼成温度の適正化により、BT粉末に対するイットリウム、マンガン、マグネシウムおよびイッテルビウムの固溶を抑制することができるとともに、チタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子9aとハフニウムを含むジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子9bとを共存させることが可能になる。
【0037】
さらに、誘電体磁器中にTb粉末またはGd粉末を含有させると、室温(25℃)における比誘電率および125℃における絶縁抵抗が高くかつ比誘電率の温度係数の絶対値を小さい積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0038】
次に、上記のように配合して調製した誘電体粉末に専用の有機ビヒクルを加えてセラミックスラリを調製し、次いで、ドクターブレード法やダイコータ法などのシート成形法を用いてセラミックグリーンシートを形成する。この場合、セラミックグリーンシートの厚みは誘電体層5の高容量化のための薄層化、高絶縁性を維持するという点で1.5〜6μmが好ましい。
【0039】
次に、得られたセラミックグリーンシートの主面上に矩形状の内部電極パターンを印刷して形成する。内部電極パターンとなる導体ペーストはNi、Cuもしくはこれらの合金粉末が好適である。
【0040】
次に、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを所望枚数重ねて、その上下に内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを複数枚、上下層が同じ枚数になるように重ねてシート積層体を形成する。この場合、シート積層体中における内部電極パターンは、長手方向に半パターンずつずらしてある。
【0041】
次に、シート積層体を格子状に切断して、内部電極パターンの端部が露出するようにコンデンサ本体成形体を形成する。このような積層工法により、切断後のコンデンサ本体成形体の端面に内部電極パターンが交互に露出されるように形成できる。
【0042】
次に、コンデンサ本体成形体を脱脂した後焼成する。焼成温度は、本実施形態におけるBT粉末への添加剤の固溶と結晶粒子の粒成長を抑制するという理由から1200〜1300℃が好ましい。
【0043】
また、焼成後に、再度、弱還元雰囲気にて熱処理を行う。この熱処理は還元雰囲気中での焼成において還元された誘電体磁器を再酸化し、焼成時に還元されて低下した絶縁抵抗を回復するために行うものである。その温度は結晶粒子9の粒成長を抑えつつ再酸化量を高めるという理由から900〜1100℃が好ましい。こうして誘電体磁器が高絶縁性化し、X7R特性を示す積層セラミックコンデンサを作製することができる。
【0044】
次に、このコンデンサ本体1の対向する端部に、外部電極ペーストを塗布して焼付けを行い外部電極3を形成する。また、この外部電極3の表面には実装性を高めるためにメッキ膜を形成しても構わない。
【0045】
このようにして得られる本実施形態の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体磁器は、平均粒径が0.05〜0.20μmであり、各添加成分を固溶させているために、誘電体磁器中に形成されるチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子9aは立方晶系の結晶構造を有するものとなっている。本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、誘電体磁器中にチタン酸バリウムを主成分とする結晶粒子9aとともにハフニウムを含むジルコン
酸ストロンチウムの結晶粒子9bを共存させているために、チタン酸バリウムを主成分とする主結晶粒子9aが立方晶系の結晶構造を有するものであっても、高い絶縁抵抗を有し、高温負荷寿命に優れた積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【実施例】
【0046】
まず、原料粉末として、BT粉末、Y粉末、MnCO粉末およびYb粉末を準備し、表1に示す割合で混合し、1000℃にて仮焼を行った。各添加剤粉末の添加量はBT粉末中のチタン1モルに対する割合とした。このときYb粉末については、全添加量の半分の量だけこの段階で添加し、残りの半分の量をこの後に調製する仮焼粉末に添加した。次いで、この仮焼粉末を粉砕して平均粒径が0.03〜0.06μmの仮焼粉末を調製した(試料No.13は0.03μm、他の試料は0.06μmとした)。次に、この仮焼粉末100質量部に対し、MgO粉末、残り半分の量のYb粉末、Tb粉末またはGd粉末のうちのいずれかの希土類元素の酸化物粉末およびSr(Zr、Hf)O粉末を表1に示す割合で混合した。ここで、BT粉末は平均粒径が0.20μmのものを用いた。MgO粉末、Y粉末、MnCO粉末、Yb粉末、Tb粉末、Gd粉末およびSr(Zr,Hf)O粉末は平均粒径が0.1μmのものを用いた。また、Zrに対するHfの置換量は7モル%とした。焼結助剤はSiO=55,BaO=20,CaO=15,LiO=10(モル%)組成のガラス粉末を用いた。ガラス粉末の添加量は仮焼粉末100質量部に対して1質量部とした。
【0047】
次に、これらの原料粉末を直径5mmのジルコニアボールを用いて、溶媒としてトルエンとアルコールとの混合溶媒を添加し湿式混合した。
【0048】
次に、湿式混合した粉末を、ポリビニルブチラール樹脂と、トルエンおよびアルコールの混合溶媒中に投入し、直径5mmのジルコニアボールを用いて湿式混合しセラミックスラリを調製し、ドクターブレード法により平均厚みが8μmのセラミックグリーンシートを作製した。
【0049】
次に、セラミックグリーンシートの上面にNiを主成分とする矩形状の内部電極パターンを複数形成した。内部電極パターンを形成するための導体ペーストは、平均粒径が0.3μmのNi粉末100質量部に対してBT粉末を少量添加したものを用いた。
【0050】
次に、内部電極パターンを印刷したセラミックグリーンシートを200枚積層し、その上下面に内部電極パターンを印刷していないセラミックグリーンシートを積層し、プレス機を用いて温度60℃、圧力10Pa、時間10分の条件で密着させて、シート積層体とを作製し、しかる後、各シート積層体を、所定の寸法に切断してコンデンサ本体成形体を形成した。
【0051】
次に、コンデンサ本体成形体を大気中で脱バインダ処理した後、水素−窒素中、1250℃で2時間焼成してコンデンサ本体を作製した。また、試料は、続いて、窒素雰囲気中1000℃で4時間再酸化処理をした。このコンデンサ本体の大きさは2.0×1.25×1.25mm、誘電体層の厚みは5μm、内部電極層の1層の有効面積は1.7mmであった。なお、有効面積とは、コンデンサ本体の異なる端面にそれぞれ露出するように積層方向に交互に形成された内部電極層同士の重なる部分の面積のことである。
【0052】
次に、焼成したコンデンサ本体をバレル研磨した後、コンデンサ本体の両端部にCu粉末とガラスを含んだ外部電極ペーストを塗布し、850℃で焼き付けを行い外部電極を形成した。その後、電解バレル機を用いて、この外部電極の表面に、順にNiメッキ及びSnメッキを行い、積層セラミックコンデンサを作製した。なお、Hfを含まないSrZr
粉末を使用した試料を比較例として試料No.5と同様の組成で作製した。
【0053】
次に、これらの積層セラミックコンデンサについて以下の評価を行った。評価はいずれも試料数10個とし、その平均値から求めた。比誘電率および誘電損失は静電容量を温度25℃、周波数1.0kHz、測定電圧1Vrmsで測定し、誘電体層の厚みと内部電極層の有効面積から求めた。また、比誘電率の温度係数の絶対値は静電容量を温度25〜150℃の範囲で測定して求めた。
【0054】
分極電荷は、誘電分極測定装置を用いて、直流電圧を±1250Vの範囲で変化させたときの、0Vにおける電荷量の値で評価した。
【0055】
125℃における絶縁抵抗は、絶縁抵抗計を用いて、直流電圧を印加1分後の値を測定した。サンプル数は各10個とした。
【0056】
誘電体層を構成するチタン酸バリウムの主結晶粒子の平均粒径は走査型電子顕微鏡(SEM)により求めた。研磨面をエッチングし、電子顕微鏡写真内の主結晶粒子を任意に20個選択し、インターセプト法により各主結晶粒子の最大径を求め、それらの平均値を求めた。
【0057】
誘電体磁器を構成するチタン酸バリウムの主結晶粒子の結晶構造はX線回折を用いて同定した。このとき回折角(2θ)を4〜105°とし、面指数が200,020,002である回折ピークの分離状態から結晶構造を判定した。立方晶系は200,020,002の回折ピークに分離が認められないものとした。作製した試料の積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層はチタン酸バリウムの主結晶粒子の結晶構造がいずれも立方晶系を示すものであった。
【0058】
チタン酸バリウムの(110)面の回折強度と、ジルコン酸ストロンチウムの(121)面および(002)面からなる回折強度の比の測定は、Cukαの管球を備えたX線回折装置を用いて、角度2θ=25〜35°の範囲で測定し、ピーク強度の比から求めた。
【0059】
ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子中に含まれるハフニウムの存在は、走査型電子顕微鏡を用いた組織観察において、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)を用いて
元素分析を行って、ハフニウム(Hf)の特性X線の強度から判定した。この場合、ハフニウム(Hf)の特性X線の強度は、映し出されている画面のノイズレベル(ノイズレベルを画面上で平均化した値)の1.5倍以上であった。この分析での判定は、組織観察を行うための分析試料である誘電体磁器中から任意に10個のジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子を選択して行ったが、いずれも7個以上のジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子においてハフニウム(Hf)が含まれていることを確認した。
【0060】
また、得られた焼結体である試料の組成分析はICP(Inductively Coupled Plasma)分析および原子吸光分析により行った。この場合、得られた誘電体磁器を硼酸と炭酸ナトリウムと混合し溶融させたものを塩酸に溶解させて、まず、原子吸光分析により誘電体磁器に含まれる元素の定性分析を行い、次いで、特定した各元素について標準液を希釈したものを標準試料として、ICP分析にかけて定量化した。分析した誘電体磁器の組成は、調合組成に一致するものであった。調合組成を表1〜3に、焼成後の組成と主結晶粒子の平均粒径を表4〜6に、および特性を表7〜9に示す。なお、表7〜9における「SZ」はジルコン酸ストロンチウムのことであり、「BT」はチタン酸バリウムのことである。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
【表8】

【0069】
【表9】

【0070】
表1〜9の結果から明らかなように、本発明の試料である試料No.2、4〜6、8、9、11、12、14〜21および22〜81では、室温(25℃)における比誘電率が400以上であり、分極電荷が30nC/cm以下であり、かつ125℃における絶縁抵抗が200MΩ(2×10−8Ω)以上であった。
【0071】
特に、誘電体磁器の組成を、チタン1モルに対して、イットリウムをYO3/2換算で0.0014〜0.0300モル、マンガンをMnO換算で0.0002〜0.0450モル、マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モル、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.025〜0.080モル含有するものとした試料No.2、4〜6、11、12、15、16、19、20、22〜26、28〜32、34〜38、40〜44、46〜50、52〜56、58〜62、64〜68、70〜74および76〜80では、室温(25℃)における比誘電率が420以上、分極電荷が24nC/cm以下、125℃における絶縁抵抗が202MΩ以上であり、かつ25℃〜125℃における比誘電率の温度係数の絶対値が760×10−6/℃以下であった。
【0072】
さらに、誘電体磁器中にテルビウムまたはガドリニウムを含ませて、その組成を、チタン1モルに対して、イットリウムをYO3/2換算で0.010〜0.020モルと、マンガンをMnO換算で0.0200〜0.0300モルと、マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モルと、イッテルビウムをYbO3/2換算で0.040〜0.075モルと、テルビウムまたはガドリニウムをTbO3/2換算またはGdO3/2換算で0.005〜0.040モルとを含有するものとした試料(試料No.23〜26、29〜32、35〜38、41〜44、47〜50、53〜56、59〜62、65〜68、71〜74および77〜80)では、室温(25℃)における比誘電率が755以上、分極電荷が24nC/cm以下、125℃における絶縁抵抗が235MΩ以上であり、かつ25℃〜125℃における比誘電率の温度係数の絶対値が643×10−6/℃以下であった。これらの試料は、チタン酸バリウムの(110)面の回折強度と、ジルコン酸ストロンチウムの(121)面および(002)面からなる回折強度の比が、いずれも7.8%であった。
【0073】
これに対し、本発明の範囲外の試料No.1、3、7、10および13では、室温(25℃)における比誘電率が400以上、分極電荷が30nC/cm以下および125℃における絶縁抵抗が200MΩ(2×10−8Ω)以上であることのいずれかの特性を満足しないものであった。また、比較例として作製したHfを含まない試料は、X線回折でのBT(110)に対するSZ(121,002)のピーク比が8%、室温(25℃)における比誘電率が760、125℃における比誘電率が711,比誘電率の温度係数の絶対値が646×10−6/℃、分極電荷が15nC/cmであったが、125℃における絶縁抵抗が170MΩと低かった。
【符号の説明】
【0074】
1 コンデンサ本体
3 外部電極
5 誘電体層
7 内部電極層
9 結晶粒子
9a チタン酸バリウムの結晶粒子
9b ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子
11 粒界相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムの主結晶粒子と、ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子とを有し、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)およびイッテルビウム(Yb)を含有する誘電体磁器を誘電体層とする積層セラミックコンデンサであって、前記主結晶粒子が立方晶系の結晶構造を有するとともに、平均粒径が0.05〜0.2μmであり、ジルコン酸ストロンチウムの結晶粒子がハフニウムを含有するとともに、X線回折チャートにおいて、チタン酸バリウムの面指数(110)の回折強度に対するジルコン酸ストロンチウムの面指数(121、002)の回折強度が0.7〜18.0%であることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体磁器は、チタン1モルに対して、前記イットリウムをYO3/2換算で0.0014〜0.030モル、前記マンガンをMnO換算で0.0002〜0.0450モル、前記マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モル、前記イッテルビウムをYbO3/2換算で0.025〜0.080モル含有することを特徴とする請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記誘電体磁器は、さらにテルビウム(Tb)またはガドリニウム(Gd)を含み、チタン1モルに対して、前記イットリウムをYO3/2換算で0.010〜0.020モルと、前記マンガンをMnO換算で0.0200〜0.0300モルと、前記マグネシウムをMgO換算で0.008〜0.040モルと、前記イッテルビウムをYbO3/2換算で0.040〜0.075モルと、前記テルビウムまたは前記ガドリニウムをTbO3/2換算またはGdO3/2換算で0.005〜0.040モルとを含有することを特徴とする請求項1または2に記載の積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−134438(P2012−134438A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92238(P2011−92238)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】