説明

空気入りタイヤの製造方法及び加硫装置

【課題】設備コストの大幅な増加を伴うことなくブラダーレス加硫を可能にした空気入りタイヤの製造方法及び加硫装置を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤTの外表面を成形する金型1と、空気入りタイヤTの最内面部材となるインナーライナー部材Lを加硫ブラダーとして円筒状に把持する一対のクランプ部材11,12と、金型1を加熱する加熱手段と、インナーライナー部材Lの内側に加圧媒体Mを供給する加圧媒体供給手段とを備えた加硫装置を用いる。空気入りタイヤTの最内面部材となるインナーライナー部材Lを加硫ブラダーとして使用し、グリーンタイヤT’の内側にて加圧媒体Mによりインナーライナー部材Lを膨らませた状態でタイヤT’の加硫を行うことによりインナーライナー部材Lが内面に一体化された空気入りタイヤTを成形し、しかる後、空気入りタイヤTのビード部から突き出したインナーライナー部材Lの不要部分を切除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法及び加硫装置に関し、更に詳しくは、設備コストの大幅な増加を伴うことなくブラダーレス加硫を可能にした空気入りタイヤの製造方法及び加硫装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤを加硫する場合、加硫装置の金型内にグリーンタイヤを投入し、そのグリーンタイヤの内側にてブラダーを膨らませた状態でグリーンタイヤの加硫を行うようにしている。このようにブラダーを介してタイヤ内側から圧力を掛けることにより、空気入りタイヤを所望の形状に成形することができる。
【0003】
しかしながら、ブラダーを用いた加硫方法においては、消耗品であるブラダー自体のコストが発生するという問題がある。また、タイヤとブラダーとの間にエアが残留した場合や、ブラダーが劣化して表面に凹凸等が形成された場合には、タイヤ内面の外観が悪化すという問題がある。更には、離型時にブラダーがタイヤ内面に対して擦れると、インナーライナー層が損傷してしまうという問題がある。
【0004】
これら問題の解決策として、ブラダーを使用せずに加硫を行うようにしたブラダーレス加硫が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ブラダーレス加硫を実施するには、タイヤ内に充填される気体のシール性を十分に確保する必要があり、そのためには空気入りタイヤのビード部を金型に対して押し付ける複雑な機構を加硫装置に付設する必要があり、設備コストの大幅な増加を招くことになる。また、加硫装置に上記のような複雑な機構を設けたとしても、タイヤ内に充填される気体のシール性を必ずしも十分に確保することができないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−208394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、設備コストの大幅な増加を伴うことなくブラダーレス加硫を可能にした空気入りタイヤの製造方法及び加硫装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの製造方法は、空気入りタイヤの最内面部材となるインナーライナー部材を加硫ブラダーとして使用し、グリーンタイヤの内側にて加圧媒体により前記インナーライナー部材を膨らませた状態で前記グリーンタイヤの加硫を行うことにより前記インナーライナー部材が内面に一体化された空気入りタイヤを成形し、しかる後、前記空気入りタイヤのビード部から突き出した前記インナーライナー部材の不要部分を切除することを特徴とするものである。
【0008】
また、上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの加硫装置は、空気入りタイヤの外表面を成形する金型と、空気入りタイヤの最内面部材となるインナーライナー部材を加硫ブラダーとして円筒状に把持する一対のクランプ部材と、前記金型を加熱する加熱手段と、前記インナーライナー部材の内側に加圧媒体を供給する加圧媒体供給手段とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、空気入りタイヤのインナーライナー部材を加硫ブラダーとして使用し、グリーンタイヤの内側にてインナーライナー部材を膨らませた状態でグリーンタイヤの加硫を行うことでインナーライナー部材が内面に一体化された空気入りタイヤを成形するので、タイヤ内に充填される加圧媒体のシール性を十分に確保し、ブラダーレス加硫を可能にする。これにより、従来から消耗品として加硫装置に使用されているブラダーのコストを削減し、ブラダーに起因する外観不良の発生を回避し、ブラダーによるインナーライナーの損傷を回避し、更には離型剤の塗布を不要にすることができる。また、従来の加硫装置においてブラダーを把持するために使用されているクランプ部材を僅かな改良だけでインナーライナー部材の把持に転用可能であるため、設備コストの大幅な増加を伴うこともない。加硫後、空気入りタイヤのビード部から突き出したインナーライナー部材の不要部分を切除するので、ビード部から突き出したインナーライナー部材がタイヤ性能に悪影響を与えることもない。
【0010】
本発明においては、上述の製造方法を実施するために、空気入りタイヤの外表面を成形する金型と、空気入りタイヤの最内面部材となるインナーライナー部材を加硫ブラダーとして円筒状に把持する一対のクランプ部材と、金型を加熱する加熱手段と、インナーライナー部材の内側に加圧媒体を供給する加圧媒体供給手段とを備えた加硫装置を用いることが好ましい。
【0011】
上記加硫装置において、クランプ部材にはインナーライナー部材に当接する弾性体を介在させることが好ましい。これにより、クランプ部材の把持によりインナーライナー部材が損傷するのを防止することができる。或いは、クランプ部材にはインナーライナー部材に当接すると共に空気入りタイヤのビード部の内面に当接する弾性体からなるカバー部材を介在させることが好ましい。この場合、クランプ部材の把持によりインナーライナー部材が損傷するのを防止することに加えて、加硫時にカバー部材がビード部の形状を整える役割を果たすようになる。
【0012】
インナーライナー部材の構成材料としては、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物を用いることができ、或いは、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物を用いることができる。いずれの場合も、加硫ブラダーの代用品として十分に機能する。
【0013】
一方、加圧媒体としては、スチーム又は不活性ガスを用いることができる。但し、加圧媒体としてスチームを用いる場合、スチームの透過をより確実に防止するために、インナーライナー部材の内面に予め防水処理を施した上でスチームを用いることが好ましい。
【0014】
グリーンタイヤにはその厚さ方向に貫通する複数の穴を設け、これら穴を介してインナーライナー部材とグリーンタイヤとの間のエアを排出することが好ましい。このようにインナーライナー部材とグリーンタイヤとの間のエアを排出することにより、加硫故障をより確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの加硫装置を示す要部断面図である。
【図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの製造方法を示し、(a)〜(e)は各工程での断面図である。
【図3】本発明において加硫ブラダーとして使用されるインナーライナー部材の一例を示す上面図である。
【図4】本発明において加硫ブラダーとして使用されるインナーライナー部材の他の例を示す上面図である。
【図5】本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤの加硫装置を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの加硫装置を示すものである。図1に示すように、この加硫装置は、空気入りタイヤTの外表面を成形する金型1と、空気入りタイヤTの最内面部材となるインナーライナー部材Lを加硫ブラダーとして把持する上下一対のクランプ部材11,12と、金型1を加熱する不図示の加熱手段と、インナーライナー部材Lの内側に加圧媒体Mを供給する不図示の加圧媒体供給手段とを備えている。加熱手段及び加圧媒体供給手段としては、通常の加硫装置で使用されるものを採用することができる。
【0017】
金型1は、空気入りタイヤTのトレッド部を成形する複数のセクター2と、空気入りタイヤTのサイドウォール部を成形する下側サイドプレート3及び上側サイドプレート4と、空気入りタイヤTのビード部を成形する下側ビードリング5及び上側ビードリング6とから構成されている。
【0018】
下側のクランプ部材11は、下側ビードリング5と下側クランプリング13とから構成されている。下側クランプリング13は空気入りタイヤTの下側のビード部よりも径方向内側の位置に配設されている。この下側クランプリング13は鉛直方向に移動自在に構成されている。下側クランプリング13の外周端は下側ビードリング5の内周端に係合し、その隙間に円筒状のインナーライナー部材Lの下端部を挟み込むようになっている。
【0019】
一方、上側のクランプ部材12は上側クランプリング14と補助クランプリング15とから構成されている。上側クランプリング14は下側クランプリング13の上方であって空気入りタイヤTの上側のビード部よりも径方向内側の位置に配設されている。この上側クランプリング14は鉛直方向に移動自在に構成され、補助クランプリング15は上側クランプリング14に対して着脱自在に構成されている。上側クランプリング14の外周端は補助クランプリング15の内周端に係合し、その隙間に円筒状のインナーライナー部材Lの上端部を挟み込むようになっている。また、補助クランプリング15の外周端は上側ビードリング6の内周端に対して係合するようになっている。
【0020】
図2(a)〜(e)は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの製造方法を示すものである。先ず、図2(a)に示すように、円筒状をなすインナーライナー部材Lを径方向外側から複数のパキュームカップ16により吸着して搬送し、そのインナーライナー部材Lを下側クランプリング13及び上側クランプリング14の径方向外側に配置する。図2(a)においては、インナーライナー部材Lの縦断面での端面が図示されている。
【0021】
次に、図2(b)に示すように、インナーライナー部材Lの下端部及び上端部をそれぞれクランプ部材11,12で把持する。これにより、インナーライナー部材Lを加硫ブラダーとして使用することが可能になる。一方、インナーライナー部材Lの径方向外側にはグリーンタイヤT’を配置する。このグリーンタイヤT’はインナーライナー部材を備えていないものである。但し、空気透過防止性能を重視する場合には、グリーンタイヤT’に予めインナーライナー部材を設けることも可能である。
【0022】
次に、図2(c)に示すように、インナーライナー部材Lの内側に加熱された低圧の加圧媒体Mを導入し、グリーンタイヤT’の内側にて加圧媒体Mによりインナーライナー部材Lを膨らませた状態にする。これにより、グリーンタイヤT’のシェーピングを行う。シェーピング工程での内圧は5kPa〜50kPaの範囲に設定すると良い。シェーピング工程において、従来の加硫ブラダーよりも薄手であるインナーライナー部材Lは柔軟に変形可能であり、従来の加硫ブラダーのようにグリーンタイヤT’のビード部に引っ掛かることがないため、グリーンタイヤT’とインナーライナー部材Lとの間からエアを効果的に排出することができる。なお、グリーンタイヤT’にその厚さ方向に貫通する複数の穴を設け、これら穴を介してインナーライナー部材LとグリーンタイヤT’との間のエアを排出することも可能である。この場合、グリーンタイヤT’とインナーライナー部材Lとの間に残留するエアに起因する加硫故障をより確実に低減することができる。
【0023】
次に、図2(d)に示すように、金型1を閉じた後、インナーライナー部材Lの内側に加熱された高圧の加圧媒体Mを導入し、グリーンタイヤT’の加硫を行う。加硫工程での内圧は1.0MPa〜2.5MPaの範囲に設定すると良い。閉型状態では、金型1が圧力を受け止めるため、インナーライナー部材Lの剛性が低くても何ら問題はない。そして、加硫工程を完了することにより、インナーライナー部材Lが内面に一体化された空気入りタイヤTを得る。
【0024】
次に、図2(e)に示すように、金型1を開放する一方で、クランプ部材11,12によるインナーライナー部材Lの把持を解除することにより、インナーライナー部材Lが内面に一体化された空気入りタイヤTを加硫装置から取り出す。その後、空気入りタイヤTのビード部から突き出したインナーライナー部材Lの不要部分は適宜切除する。なお、インナーライナー部材Lの不要部分の切除は、クランプ部材11,12がインナーライナー部材Lを把持している状態で行っても良い。
【0025】
上述した空気入りタイヤの製造方法によれば、空気入りタイヤTのインナーライナー部材Lを加硫ブラダーとして使用し、グリーンタイヤT’の内側にてインナーライナー部材Lを膨らませた状態でグリーンタイヤT’の加硫を行うことでインナーライナー部材Lが内面に一体化された空気入りタイヤTを成形するので、グリーンタイヤT’内に充填される加圧媒体Mのシール性を十分に確保し、ブラダーレス加硫を実施することができる。
【0026】
これにより、(1)従来から消耗品として加硫装置に使用されているブラダーのコストを削減し、(2)ブラダーに起因する外観不良の発生を回避し、むしろタイヤ内面を平滑にして外観を向上し、(3)ブラダーによるインナーライナーの損傷を回避し、(4)ブラダーとタイヤとの剥離を促進するための離型剤の塗布を不要にするという効果が得られる。
【0027】
また、クランプ部材11,12は、従来の加硫装置においてブラダーを把持するために使用されているクランプ部材を僅かに改良するだけで構成可能であるので、設備コストの大幅な増加を伴うことはない。
【0028】
インナーライナー部材Lの構成材料としては、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物を用いることができる。このようなゴム組成物からなるインナーライナー部材Lを使用する場合、インナーライナー部材Lは、未加硫状態でも良く、或いは、加硫されたものであっても良い。また、インナーライナー部材Lの構成材料としては、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物を用いることができる。
【0029】
図3及び図4はそれぞれ加硫ブラダーとして使用されるインナーライナー部材Lを円筒状に把持した状態を示すものである。図3において、シート状のインナーライナー部材Lを円筒状に巻回した状態である。この場合、繋ぎ合わせ部の開きによる不良を防止するためにシート状のインナーライナー部材Lを二重に巻き回すことが好ましい。図4において、インナーライナー部材Lは円筒状に押し出された成形品である。
【0030】
加圧媒体Mとしては、スチームを用いることができる。この場合、スチームの透過をより確実に防止するために、インナーライナー部材Lの内面に予め防水処理を施すことが好ましい。防水処理としては、例えば、インナーライナー部材Lの内面にシリコーンオイル等の防水処理剤をスプレーにより塗布すれば良い。また、加圧媒体Mとしては、窒素ガス等の不活性ガスを用いることができる。不活性ガスの場合、防水処理は不要である。
【0031】
図5は本発明の他の実施形態からなる空気入りタイヤの加硫装置を示すものである。図5において、図1と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。
【0032】
図5に示すように、この加硫装置は、空気入りタイヤTの外表面を成形する金型1と、空気入りタイヤTのインナーライナー部材Lを加硫ブラダーとして把持する上下一対のクランプ部材21,22と、金型1を加熱する不図示の加熱手段と、インナーライナー部材Lの内側に加圧熱媒体Mを供給する不図示の加圧媒体供給手段とを備えている。
【0033】
下側のクランプ部材21は、下側ビードリング5と下側クランプリング23と補助クランプリング24とカバー部材25とから構成されている。下側クランプリング23は空気入りタイヤTの下側のビード部よりも径方向内側の位置に配設されている。下側クランプリング23と下側ビードリング5との間には、空気入りタイヤTの下側のビード部を押さえ込む位置まで延在する環状の弾性体からなるカバー部材25が挟み込まれている。補助クランプリング24は下側クランプリング23に対して着脱自在に構成されている。そして、補助クランプリング24とカバー部材25との間に円筒状のインナーライナー部材Lの下端部を挟み込むようになっている。つまり、下側のクランプ部材21において、弾性体からなるカバー部材25はインナーライナー部材Lに当接すると共に空気入りタイヤTのビード部の内面に当接するように設けられている。
【0034】
一方、上側のクランプ部材22は、上側クランプリング26と2つの補助クランプリング27,28とカバー部材29とから構成されている。上側クランプリング26は下側クランプリング23の上方であって空気入りタイヤTの上側のビード部よりも径方向内側の位置に配設されている。補助クランプリング27,28はそれぞれ上側クランプリング26に対して着脱自在に構成されている。上側クランプリング26と補助クランプリング27との間には、空気入りタイヤTの上側のビード部を押さえ込む位置まで延在する環状の弾性体からなるカバー部材29が挟み込まれている。補助クランプリング27の外周端は上側ビードリング6の内周端に係合するようになっている。補助クランプリング28とカバー部材29との間には円筒状のインナーライナー部材Lの上端部を挟み込むようになっている。つまり、上側のクランプ部材22において、弾性体からなるカバー部材29はインナーライナー部材Lに当接すると共に空気入りタイヤTのビード部の内面に当接するように設けられている。
【0035】
このように構成される加硫装置においては、下側のクランプ部材21では補助クランプリング24とカバー部材25との間にインナーライナー部材Lの下端部を挟み込み、上側のクランプ部材22では補助クランプリング28とカバー部材29との間にインナーライナー部材Lの上端部を挟み込むことにより、インナーライナー部材Lを加硫ブラダーとして使用することを可能にする。加硫後は、補助クランプリング24を下側クランプリング23から離脱させ、補助クランプリング28を上側クランプリング26から離脱させることにより、クランプ部材21,22によるインナーライナー部材Lの把持を解除する。
【0036】
このようにクランプ部材21,22にインナーライナー部材Lに当接する弾性体からなるカバー部材25,29を介在させた場合、インナーライナー部材Lへの応力集中を回避し、クランプ部材21,22の把持によりインナーライナー部材Lが損傷するのを防止することができる。また、カバー部材25,29はグリーンタイヤT’のビード部の内面にも当接するので、加硫時にカバー部材25,29がビード部の形状を整える役割を果たす。つまり、加硫ブラダーとして使用されるインナーライナー部材Lはシール性を確保する点では十分であるが、ビード部の形状を整える機能は必ずしも十分ではない。そこで、ビード部の形状を整えてビードトウを尖った形状に成形するために、カバー部材25,29を付設するのである。
【0037】
なお、得られた空気入りタイヤTにおいてビードトウが丸みを帯びていても性能的に大きく劣るものではないので、カバー部材25,29によりビード部の形状を整えることは必ずしも必要ではない。また、ビード部廻りのゴム部材の押出し形状を工夫し、グリーンタイヤT’の状態でビード部の形状を整えるようにすれば、加硫工程においてビード部の形状を整えることは必ずしも必要ではない。
【0038】
以下、インナーライナー部材の構成部材として使用される熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物について説明する。このインナーライナー部材は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性樹脂中にエラストマーをブレンドした熱可塑性エラストマー組成物から構成することができる。
【0039】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などを挙げることができる。
【0040】
本発明で使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBR及び低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC,CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム(例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができる。
【0041】
本発明で使用される熱可塑性エラストマー組成物において、熱可塑性樹脂成分(A)とエラストマー成分(B)との組成比は、フィルムの厚さや柔軟性のバランスで適宜決めればよいが、好ましい範囲は10/90〜90/10、更に好ましくは20/80〜85/15(重量比)である。
【0042】
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物には、上記必須成分(A)及び(B)に加えて第三成分として、相溶化剤などの他のポリマー及び配合剤を混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との相溶性を改良するため、材料のフィルム成形加工性を良くするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等であり、これに用いられる材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、SBS、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0043】
上記熱可塑性エラストマー組成物は、予め熱可塑性樹脂とエラストマー(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させることにより得られる。エラストマー成分を加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマーを動的に加硫させても良い。また、熱可塑性樹脂またはエラストマー成分への各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加しても良いが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマーの混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が挙げられる。中でも樹脂成分とゴム成分の混練およびゴム成分の動的加硫には2軸混練押出機を使用するのが好ましい。さらに、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であれば良い。また、混練時の剪断速度は2500〜7500sec-1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で作製された熱可塑性エラストマー組成物は、樹脂用押出機による成形またはカレンダー成形によってフィルム化される。フィルム化の方法は、通常の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーをフィルム化する方法によれば良い。
【0044】
このようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物の薄膜は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる状態の分散構造を採ることにより、ヤング率を1〜500MPaの範囲に設定し、タイヤ構成部材として適度な剛性を付与することが可能になる。
【0045】
上記熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物はシート又はフィルムに成形して単体でタイヤ構成部材として使用することが可能であるが、隣接するゴムとの接着性を高めるために接着層を積層しても良い。この接着層を構成する接着用ポリマーの具体例としては、分子量100万以上、好ましくは300万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)等のアクリレート共重合体類及びそれらの無水マレイン酸付加物、ポリプロピレン(PP)及びそのマレイン酸変性物、エチレンプロピレン共重合体及びそのマレイン酸変性物、ポリブタジエン系樹脂及びその無水マレイン酸変性物、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、フッ素系熱可塑性樹脂、ポリエステル系熱可塑性樹脂などを挙げることができる。これらは常法に従って例えば樹脂用押出機によって押し出してシート状又はフィルム状に成形することができる。接着層の厚さは特に限定されないが、タイヤ軽量化のためには厚さが少ない方がよく、5μm〜150μmが好ましい。
【符号の説明】
【0046】
1 金型
11,21 下側のクランプ部材
12,22 上側のクランプ部材
25,29 カバー部材
L インナーライナー部材
M 加圧媒体
T 空気入りタイヤ
T’グリーンタイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤの最内面部材となるインナーライナー部材を加硫ブラダーとして使用し、グリーンタイヤの内側にて加圧媒体により前記インナーライナー部材を膨らませた状態で前記グリーンタイヤの加硫を行うことにより前記インナーライナー部材が内面に一体化された空気入りタイヤを成形し、しかる後、前記空気入りタイヤのビード部から突き出した前記インナーライナー部材の不要部分を切除することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
空気入りタイヤの外表面を成形する金型と、空気入りタイヤの最内面部材となるインナーライナー部材を加硫ブラダーとして円筒状に把持する一対のクランプ部材と、前記金型を加熱する加熱手段と、前記インナーライナー部材の内側に加圧媒体を供給する加圧媒体供給手段とを備えた加硫装置を用いることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記クランプ部材に前記インナーライナー部材に当接する弾性体を介在させたことを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記クランプ部材に前記インナーライナー部材に当接すると共に前記空気入りタイヤのビード部の内面に当接する弾性体からなるカバー部材を介在させたことを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記インナーライナー部材の構成材料としてブチルゴムを主成分とするゴム組成物を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記インナーライナー部材の構成材料として熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記インナーライナー部材の内面に予め防水処理を施した上で、前記加圧媒体としてスチームを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記加圧媒体として不活性ガスを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記グリーンタイヤにその厚さ方向に貫通する複数の穴を設け、これら穴を介して前記インナーライナー部材と前記グリーンタイヤとの間のエアを排出することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
空気入りタイヤの外表面を成形する金型と、空気入りタイヤの最内面部材となるインナーライナー部材を加硫ブラダーとして円筒状に把持する一対のクランプ部材と、前記金型を加熱する加熱手段と、前記インナーライナー部材の内側に加圧媒体を供給する加圧媒体供給手段とを備えることを特徴とする空気入りタイヤの加硫装置。
【請求項11】
前記クランプ部材に前記インナーライナー部材に当接する弾性体を介在させたことを特徴とする請求項10に記載の空気入りタイヤの加硫装置。
【請求項12】
前記クランプ部材に前記インナーライナー部材に当接すると共に前記空気入りタイヤのビード部の内面に当接する弾性体からなるカバー部材を介在させたことを特徴とする請求項10に記載の空気入りタイヤの加硫装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−30503(P2012−30503A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172378(P2010−172378)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】