説明

空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層およびその製造方法

本発明は、空気力学的な部品または構造体(1)用の耐侵食層、および、このような層を製造する方法に関する。空気力学的な部品または構造体(1)に良好に粘着する材料から構成される接着層(3)の中に、マイクロスケールまたはナノスケールの複数の硬質材料粒子(4)が埋め込まれている。この耐侵食層(2)は、スプレーすることによって、または、蒸着によって、堆積させることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層、および、このような層を製造する方法に関する。
【0002】
例えばエンジンの圧縮機ブレードや、ファンブレード若しくはプロペラブレード、ヘリコプターのロータ、翼の前縁などといった、空気力学的な部品および構造体は、特にそれが繊維複合物材料である場合には、当該部品および構造体の動作プロファイル、当該部品および構造体に生じる空気力学的負荷、および用いられる特定の材料に応じて、水、塵、粗粒子といった、流れによって運ばれる粒子による損耗を受ける。流れプロファイルのこのような侵食(エロージョン)は、結果的に、正確なプロファイルからの逸脱を生じさせ、正確なプロファイルを破壊する。このことは、流れ抵抗の上昇、および、空気力学的効率の低下に関連する。さらに、この空気力学的な部品または構造体の材料は、クラックが形成されることにより、劣化し得る。このような部品の上に耐侵食層を配置することにより、こういった形の経年変化を、著しく遅延させることが可能である。今までは、硬質層および軟質層を交互に連続させた被覆システムが、空気力学的な部品および構造体上の侵食を保護するために、用いられてきた。
【0003】
本発明の目的は、高効率且つ高耐久性を特徴とし、低コストで製造可能な、空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層を生成することにある。さらに、このような耐侵食層を製造する方法も提供する。
【0004】
本発明の目的は、請求項1の特徴を含む、空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層によって実現される。さらに、この目的は、請求項17および請求項18に係る、耐侵食層の製造方法によって実現される。本発明の好ましい実施形態および改良は、各従属請求項に記載されている。
【0005】
本発明によれば、空気力学的な部品または構造体に良好に粘着する材料を含む接着層内に、複数の硬質材料粒子が埋め込まれた、空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層が、実現される。
【0006】
硬質材料粒子は、主に、マイクロメートルの範囲の直径を有していてよい。
【0007】
硬質材料粒子は、主に、ナノメートルの範囲の直径を有していてよい。
【0008】
硬質材料粒子は、主に、200μm未満の直径を有していてよい。
【0009】
硬質材料粒子は、主に、8μm〜80μmの直径を有していてよい。
【0010】
硬質材料粒子は、主に、0.8μm〜8μmの直径を有していてよい。
【0011】
硬質材料粒子は、主に、80nm〜800nmの直径を有していてよい。
【0012】
硬質材料粒子は、主に、8nm〜80nmの直径を有していてよい。
【0013】
硬質材料粒子は、主に、8nm未満の直径を有していてよい。
【0014】
本発明の一実施形態によれば、各硬質材料粒子は、主に、同一の直径を有している。
【0015】
本発明の他の一実施形態によれば、各硬質材料粒子は、異なる直径を有していてよい。各硬質材料粒子は、上述した範囲のうちの1つまたは複数の範囲において、異なる直径を有していてもよいし、または、これらの範囲外の直径を有していてもよい。
【0016】
硬質材料粒子は、セラミック、立方晶窒化ホウ素(CBM)、ケイ酸塩、炭化物若しくは(他の)窒化物、またはダイヤモンド状のカーボン粒子を含む材料の1つまたは複数により構成されていてもよい。
【0017】
接着層は、金属性、有機物、または無機物であってよい。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、接着層は、耐侵食層の容積の、60%未満、好ましくは40%未満である。
【0019】
さらに本発明は、接着層を形成する材料と硬質材料粒子とを含む混合物をスプレーすることによって、耐侵食層を、空気力学的な部品または構造体に堆積させる、上述した種類の空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層を製造する方法を提供する。
【0020】
さらに本発明は、接着層を形成する材料を空気力学的な部品または構造体上に蒸着させることによって、耐侵食層を製造する、上述した種類の空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層を製造する方法を提供する。この際に、硬質材料粒子を、接着層を形成する材料の蒸気の雲の中に導入し、該材料とともに、空気力学的な部品若しくは構造体に堆積させる、または、空気力学的な部品若しくは構造体上に沈殿させる。
【0021】
本発明に係る方法の好ましい一実施形態によれば、耐侵食層は、単一の作業において、所望の層厚で、空気力学的な部品または構造体に堆積される。
【0022】
以下に、本発明の典型的な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明の典型的な一実施形態に係る耐侵食層が堆積される、空気力学的な部品または構造体の一部を示す概略的な拡大図である。
【0024】
図2は、本発明の典型的な一実施形態に係る、耐侵食層を空気力学的な部品または構造体上に製造する方法を示す概略的な図である。
【0025】
図3は、本発明の典型的な他の一実施形態に係る、耐侵食層を空気力学的な部品または構造体上に製造する方法を示す概略的な図である。
【0026】
図1は、空気力学的な部品または構造体1、例えばエンジンの圧縮機ブレード、ファンブレード若しくはプロペラブレード、ヘリコプターロータ、翼の前縁、または他の幾つかの空気力学的に有効な部品、の一部を示す概略的な断面図である。
【0027】
空気力学的な部品1には、耐侵食層2が堆積されている。この耐侵食層2は、水、塵、大きな粒子などといった、流れによって運ばれる粒子に起因する損耗に対して保護力を提供するように構成されている。この耐侵食層2は、空気力学的な部品または構造体1に良好に粘着する材料の接着層3を含んでいる。接着層3内には、複数の硬質材料粒子4が埋め込まれている。一般的にいえば、これらの硬質材料粒子4は、マイクロスケールまたはナノスケールの粒子であり、これらの粒子は、主に、同一または類似の直径を有していてもよいし、または、異なる直径を有していてもよい。一般的にいえば、硬質材料粒子4は、種類若しくは特徴に応じて、または、保護の対象である空気力学的な部品1に作用する負荷に応じて、数ナノメートルから数百マイクロメートルもの範囲の直径を有していてもよい。
【0028】
硬質材料粒子4は、次の材料、すなわち、セラミック、立方晶窒化ホウ素(CBM)、ケイ酸塩、炭化物、他の窒化物、またはダイヤモンド状のカーボン粒子のうちの1つまたは複数を含んでいてよい。接着層3は、金属性、有機物、または無機物であってよく、例えば、好適な金属の層、有機塗料、有機接着材、または類似のものであってよい。従って、硬質材料粒子4および接着層3は、接着層3によって形成された「柔軟な」接合材の中に、上述のマイクロスケールまたはナノスケールの硬質材料粒子4が挿入されたシステムを形成している。接着層3は、耐侵食層2全体の容積の、例えば、40%未満である。
【0029】
粒子4内の硬質材料の含有量が極めて高いため、耐侵食層2は、単体で構成される硬質層のように機能し、このため、下に存在する部品または構造体1の表面を保護する。大きな固形粒子が衝突したとしても、小さな硬質材料粒子4のみに当たり、耐侵食層2にクラックの形成が誘発されることはない。これは、接着層3が「柔軟性」または弾性の特徴を有しているからである。
【0030】
図2に示される、このような耐侵食層2を製造する方法の典型的な実施形態によれば、耐侵食層2は、接着層を形成する材料3と硬質材料粒子4とを含む混合物を空気力学的な部品または構造体1の上にスプレーすることによって、堆積される。接着層3の材料は、液体であってもよいし、1つまたは複数の成分を含むスプレー可能な材料であってもよい。すなわち、接着層3の材料は、溶媒、および/または、他の接着材を含んでいてよい。接着層3を形成する材料と硬質材料粒子4とを含む混合物は、従来技術から公知の好適なスプレー装置5によって堆積される。
【0031】
図3に示される、本発明に係る、空気力学的な部品または構造体1の上に耐侵食層2を製造する方法の典型的な実施形態では、接着層3を形成する材料を、部品1の上に蒸着させる。その時、当該プロセスの間に硬質材料粒子4を、接着層を形成する材料3の蒸気の雲の中に導入し、該材料とともに部品1の上に沈殿させる。最初は、接着層3の材料の供給と硬質材料粒子4の材料の供給とを、別個に行う。その後、これらの材料が混合された後、これらの材料はともに部品1の上に沈殿するので、均一且つ同質な耐侵食層2を形成する。この蒸着は蒸着装置6によって行われる。蒸着装置6は、図3では概略的にしか示されていないが、従来技術ではそれ自体が公知である。
【0032】
本発明の典型的な一実施形態によれば、耐侵食層は、単一の作業において、所望の層厚dにて堆積される。層厚dは、ナノメートルの範囲であってもよいし、マイクロメートルの範囲であってもよいし、数ミリメートルまたはそれ以上であってもよい。
【0033】
場合によっては、耐侵食層2にさらに、カバー層、例えば特に、円滑性を確保するカバー層を堆積させてもよいし、または、専ら美的目的を提供するカバー層、例えばペイント塗装を塗布してもよい。
【0034】
〔参照番号一覧〕
1 空気力学的な部品または構造体
2 耐侵食層
3 接着層
4 硬質材料粒子
5 スプレー装置
6 蒸着装置
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の典型的な一実施形態に係る耐侵食層が堆積される、空気力学的な部品または構造体の一部を示す概略的な拡大図である。
【図2】図2は、本発明の典型的な一実施形態に係る、耐侵食層を空気力学的な部品または構造体上に製造する方法を示す概略的な図である。
【図3】図3は、本発明の典型的な他の一実施形態に係る、耐侵食層を空気力学的な部品または構造体上に製造する方法を示す概略的な図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気力学的な部品または構造体(1)に良好に粘着する材料から構成される接着層(3)内に、複数の硬質材料粒子(4)が埋め込まれていることを特徴とする、空気力学的な部品および構造体用の耐侵食層。
【請求項2】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、マイクロメートルの範囲の直径を有していることを特徴とする、請求項1に記載の耐侵食層。
【請求項3】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、ナノメートルの範囲の直径を有していることを特徴とする、請求項1に記載の耐侵食層。
【請求項4】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、200μm未満の直径を有していることを特徴とする、請求項2に記載の耐侵食層。
【請求項5】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、8μm〜80μmの直径を有していることを特徴とする、請求項2に記載の耐侵食層。
【請求項6】
硬質材料粒子(4)は、主に、0.8μm〜8μmの直径を有していることを特徴とする、請求項2に記載の耐侵食層。
【請求項7】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、80nm〜800nmの直径を有していることを特徴とする、請求項3に記載の耐侵食層。
【請求項8】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、8nm〜80nmの直径を有していることを特徴とする、請求項3に記載の耐侵食層。
【請求項9】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、8nm未満の直径を有していることを特徴とする、請求項3に記載の耐侵食層。
【請求項10】
上記硬質材料粒子(4)は、主に、同一の直径を有していることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の耐侵食層。
【請求項11】
上記硬質材料粒子(4)は、異なる直径を有していることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の耐侵食層。
【請求項12】
上記硬質材料粒子(4)は、セラミック、立方晶窒化ホウ素、ケイ酸塩、炭化物若しくは他の窒化物、またはダイヤモンド状のカーボン粒子を含む材料の、1つまたは複数により構成されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の耐侵食層。
【請求項13】
上記接着層(3)は、金属性であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の耐侵食層。
【請求項14】
上記接着層(3)は、有機物であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の耐侵食層。
【請求項15】
上記接着層(3)は、無機物であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の耐侵食層。
【請求項16】
上記接着層(3)は、上記耐侵食層(2)の容積の、60%未満、好ましくは、40%未満であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の耐侵食層。
【請求項17】
請求項1〜16の1つまたは複数の請求項に記載の耐侵食層を製造する方法であって、上記接着層(3)を形成する材料と上記硬質材料粒子(4)とを含む混合物をスプレーすることによって、上記耐侵食層(2)を、上記空気力学的な部品または構造体(1)に堆積させることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1〜16の1つまたは複数の請求項に記載の耐侵食層を製造する方法であって、上記接着層(3)を形成する材料を、上記空気力学的な部品または構造体(1)の上に蒸着させ、この際に、上記硬質材料粒子(4)を、上記接着層を形成する上記材料(3)の蒸気の雲の中に導入し、上記材料とともに、上記空気力学的な部品または構造体(1)に堆積させることによって、上記耐侵食層(2)を製造することを特徴とする方法。
【請求項19】
上記耐侵食層(2)を、単一の作業において、所望の層厚(d)で、上記空気力学的な部品または構造体(1)に堆積させることを特徴とする、請求項17または18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−508122(P2012−508122A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535007(P2011−535007)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【国際出願番号】PCT/DE2009/001560
【国際公開番号】WO2010/051803
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(311014956)エアバス オペレーションズ ゲーエムベーハー (54)
【氏名又は名称原語表記】Airbus Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Kreetslag 10,21129 Hamburg,Germany
【Fターム(参考)】