説明

空燃比制御装置

【課題】内燃機関で生成される有害物質の排出量の一層の低減を図る。
【解決手段】排出ガスの空燃比を検出する空燃比センサ53と、空燃比センサ53で検出される排出ガスの空燃比の振幅と目標振幅との差、及び空燃比の変動の周期と目標周期との差の双方を減少させるようにフィードバック制御を行う空燃比制御部4とを具備する内燃機関100の空燃比制御装置を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒による排出ガス浄化能率を保つ目的で実施される空燃比の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の排気通路には、内燃機関から排出される排気ガス中に含まれる有害物質HC、CO、NOxを酸化/還元して無害化する触媒が装着されている。HC、CO、NOxの全てを効率よく浄化するには、排出ガスの空燃比をウィンドウと称する理論空燃比近傍の一定範囲に収束させる必要がある。そのために、触媒の上流及び下流にそれぞれ空燃比センサを配し、フロント、リア両センサの出力信号を用いる二重のフィードバックループを構築して空燃比をフィードバック制御することが行われている(例えば、下記特許文献を参照)。
【0003】
しかしながら、非定常運転時にはどうしても、空燃比がウィンドウから外れることが多くなる。具体的には、スロットルがゆっくり開かれる緩加速、逆にスロットルがゆっくり閉じられる緩減速、エアーコンディショナのON/OFFといった外乱発生時に、空燃比が目標値(理論空燃比)から大きく乖離してその収束が遅れることがあり、有害物質の排出量の削減に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−138791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内燃機関で生成される有害物質の排出量の一層の低減を図ることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、排出ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、前記空燃比センサで検出される排出ガスの空燃比の振幅と目標振幅との差、及び、空燃比の変動の周期と目標周期との差のうちの少なくとも一方を減少させるようにフィードバック制御を行う空燃比制御部とを具備する空燃比制御装置を構成し、触媒が高い浄化能率を発揮できる範囲に空燃比の振幅及び変動周期を収束せしめることとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内燃機関で生成される有害物質の排出量の一層の低減を図り得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態の空燃比制御装置のハードウェア資源構成を示す図。
【図2】同実施形態の空燃比制御装置のブロック線図。
【図3】フロントO2センサの出力を参照した空燃比フィードバック制御の模様を示すタイミング図。
【図4】制御中心補正量FACFと遅延時間TDR、TDLとの関係を例示するグラフ。
【図5】空燃比の振幅及び変動周期を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に1気筒の構成を概略的に示した内燃機関100は、例えば自動車に搭載されるものである。内燃機関100の吸気系1には、アクセルペダルの踏込量に応じて開閉するスロットルバルブ11を設けており、スロットルバルブ11の下流にはサージタンク13を一体に有する吸気マニホルド12を取り付けている。シリンダ2上部に形成される燃焼室21の天井部には点火プラグ8を、吸気マニホルド12の吸気ポート側端部には燃料噴射弁3を、それぞれ設けている。
【0010】
内燃機関100の排気系5には、排気マニホルド51を取り付け、かつ排気ガス浄化用の三元触媒52を装着している。そして、触媒52の上流及び下流に、排出ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ53、54を設けている。空燃比センサ53、54は、排出ガスに接触して反応することにより、当該ガスの空燃比または酸素濃度に応じた出力信号を出力するものである。フロントセンサ53、リアセンサ54はそれぞれ、排気ガスの空燃比に対して非線形な出力特性を有するO2センサであってもよく、排気ガスの空燃比に比例した出力特性を有するリニアA/Fセンサであってもよい。
【0011】
本実施形態では、フロントセンサ53、リアセンサ54ともにO2センサを想定している。周知の通り、O2センサの出力特性は、ウィンドウの範囲では空燃比に対する出力の変化率が大きく急峻な傾きを示し、それよりも空燃比が大きいリーン領域では低位飽和値に漸近し、空燃比が小さいリッチ領域では高位飽和値に漸近する、いわゆるZ特性曲線を描く。
【0012】
吸気系1と排気系5との間は、EGR(排気ガス再循環)装置6を介して接続する。EGR装置6は、始端が排気マニホルド51に連通し終端がサージタンク13に連通するEGR通路61と、EGR通路61上に設けた外部EGRバルブ62とを要素とする。
【0013】
内燃機関100の運転制御を司るECU(電子制御装置)4は、中央演算装置41、記憶装置42、入力インタフェース43、出力インタフェース44等を有するマイクロコンピュータシステムである。入力インタフェース43には、吸気管内圧力を検出する吸気圧センサ71から出力される吸気圧信号a、エンジン回転数を検出する回転数センサ72から出力される回転数信号b、車速を検出する車速センサ73から出力される車速信号c、アイドルスイッチ74から出力されるIDL信号d、冷却水温を検出する水温センサ76から出力される水温信号f、燃焼圧の変化によりノッキングの状態を検出するノッキングセンサ75から出力されるノッキング信号e、吸気カムシャフト91の端部にあるタイミングセンサ93から出力されるクランク角度信号及び気筒判別用信号g、排気カムシャフト92の端部にあるタイミングセンサ94から240°CA(クランク角度)回転毎に出力される排気カム信号h、フロントO2センサ53から出力される上流側空燃比信号i、リアO2センサ54から出力される下流側空燃比信号j等が入力される。
【0014】
出力インタフェース44からは、燃料噴射弁3に対して燃料噴射信号n、点火プラグ8に対して点火信号m、EGRバルブ62に対してバルブ開度信号o等を出力する。
【0015】
中央演算装置41は、予め記憶装置42に格納されているプログラムを解釈、実行し、以て内燃機関100の燃焼噴射制御、EGR制御等を実行する。即ち、内燃機関100の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、h、i、jを入力インタフェース43を介して取得し、それらに基づいて制御入力である燃料噴射量、点火時期、EGRバルブ62の開度等を算出して、制御入力に対応した制御信号m、n、oを出力インタフェース44を介して印加する。
【0016】
空燃比制御に関して詳記する。本実施形態において、空燃比制御部たるECU4は、プログラムに従い上記ハードウェア資源を作動し、図2に示す噴射量補正部401、制御中心設定部402及び補正定数設定部403としての機能を発揮する。
【0017】
噴射量補正部401は、混合気の空燃比を制御する。具体的には、まず、吸気圧信号a、回転数信号b等から吸入空気量を算出して基本噴射量TPを決定する。次いで、この基本噴射量TPを、上流側空燃比信号iに応じて定まるフィードバック補正係数FAFで補正し、さらには内燃機関100の状況に応じて定まる各種補正係数Kや燃料噴射弁3の無効噴射時間TAUVをも加味して、最終的な燃料噴射時間(燃料噴射弁3に対する通電時間)Tを算定する。燃料噴射時間Tは、T=TP×FAF×K+TAUVとなる。しかして、燃料噴射時間Tだけ燃料噴射弁3に信号nを入力、燃料噴射弁3を開弁して吸気系1に燃料を噴射させる。
【0018】
噴射量補正部401による、上流側空燃比信号iを参照したフィードバック制御は、例えば冷却水温が所定温度以上で、燃料カット中でなく、パワー増量中でなく、内燃機関100の始動から所定時間が経過し、フロントO2センサ53が活性中、圧力センサ71が正常である、等の諸条件が全て成立している場合に行う。
【0019】
図3に示すように、噴射量補正部401は、触媒52を流れるガスの空燃比を検出するセンサであるフロントO2センサ53の出力電圧iを、所定の判定値と比較して、判定値よりも高ければリッチ、判定値よりも低ければリーンと判定する。そして、センサ出力iがリーンからリッチに切り替わったときには、リッチ判定遅延時間TDRの経過を待って、フィードバック補正係数FAFをスキップ値RSMだけ減少させる。その後、補正係数FAFを所定時間当たりリーン積分値KIMだけ逓減させる。補正係数FAFの減少に伴い、燃料噴射量が絞られて、混合気の空燃比がリーンへと向かう。
【0020】
あるいは、センサ出力iがリッチからリーンに切り替わったときには、リーン判定遅延時間TDLの経過を待って、フィードバック補正係数FAFをスキップ値RSPだけ増加させる。その後、補正係数FAFを所定時間当たりリッチ積分値KIPだけ逓増させる。補正係数FAFの増加に伴い、燃料噴射量が上積みされて、混合気の空燃比がリッチへと向かう。
【0021】
遅延時間TDR、TDLは、制御中心補正量FACFに応じて増減する。図4に、補正量FACFと遅延時間TDR、TDLとの関係を例示する。補正量FACFが大きくなるほど、リッチ判定遅延時間TDRは延長され、リーン判定遅延時間TDLは短縮される。さすれば、フィードバック補正係数FAFが増加から減少に転じる時期が遅れ、減少から増加に転じる時期が早まる。結果として、燃料噴射量が平均的に増すこととなり、空燃比フィードバック制御の制御中心がリッチ側に変位する。
【0022】
他方、補正量FACFが小さくなるほど、リッチ判定遅延時間TDRは短縮され、リーン判定遅延時間TDLは延長される。さすれば、フィードバック補正係数FAFが増加から減少に転じる時期が早まり、減少から増加に転じる時期が遅れる。結果として、燃料噴射量が平均的に減ることとなり、空燃比フィードバック制御の制御中心がリーン側に変位する。
【0023】
制御中心設定部402は、上記の制御中心補正量FACFを算出する。制御中心設定部402による、下流側空燃比信号jを参照したフィードバック制御は、例えば冷却水温が所定温度以上で、噴射量補正部401による空燃比フィードバック制御の開始から所定時間が経過し、フロントO2センサ53が活性してから所定時間が経過し、過渡期の燃料補正量が所定値を下回り、アイドリング状態で車速が0または非アイドリング状態で所定の運転領域にある、等の諸条件が全て成立している場合に行う。
【0024】
図5に示すように、制御中心設定部402は、リアO2センサ54の出力電圧jを所定の判定値と比較して、判定値よりも高ければリッチ、判定値よりも低ければリーンと判定する。そして、センサ出力jがリッチである間は、制御中心補正量FACFを所定時間当たりリーン積分値FACFKIMだけ逓減させる。既に述べたように、補正量FACFの減少に伴い、空燃比フィードバック制御の制御中心はリーンへと向かう。
【0025】
逆に、センサ出力jがリーンである間は、制御中心補正量FACFを所定時間当たりリッチ積分値FACFKIPだけ逓増させる。補正量FACFの増加に伴い、空燃比フィードバック制御の制御中心はリッチへと向かう。
【0026】
その上で、補正定数設定部403は、噴射量補正部401にてフィードバック補正係数FAFを算出する際に用いられるリーンスキップ値RSM、リーン積分値KIM、リッチスキップ値RSP、リッチ積分値KIPを設定する。
【0027】
噴射量補正部401による燃料噴射量の補正を伴う空燃比制御の結果、触媒52を流れるガスの空燃比は、目標空燃比たる理論空燃比(例えば、14.7)の周囲で上下に振動する。補正定数設定部403は、この空燃比の振動の振幅及び周期を、触媒52が高い浄化能率を発揮し得る範囲に収束せしめるために働くものである。空燃比の振幅を所要範囲内に抑制することが望ましいのは勿論だが、空燃比の変動の周期を最適化することもまた排出ガスの浄化に有意義である。空燃比の変動の周期が短すぎる(早すぎる)と、却って有害物質の酸化還元反応がうまく進まないからである。
【0028】
図5に示すように、本実施形態では、空燃比の出力信号iの極大値と極小値との差分、またはその差分の半分を、空燃比の振幅として計測する。並びに、空燃比の出力信号iのpeek−to−peek即ち前回の極大値から今回の極大値までの経過時間、及び/または、前回の極小値から今回の極小値までの経過時間を、空燃比の変動の周期として計測する。尤も、空燃比センサ53たるO2センサの非線形な出力特性により、実際にセンシングする出力信号iは図5に示しているような波形にはならず、より矩形波に近くなる。
【0029】
そして、計測した振幅と目標振幅との差に基づき、スキップ値RSM、RSPを算定する。具体的には、
スキップ値=基本値×(目標振幅/実測振幅)
とし、計測した空燃比信号iの振幅が目標を上回っているときはスキップ値RSM、RSPをより小さくし、下回っているときはスキップ値RSM、RSPをより大きくする。スキップ値RSM、RSPの基本値は、例えば、目標振幅に係数(1でもよい)を乗ずることにより定める。
【0030】
加えて、計測した周期と目標周期との差に基づき、積分値KIM、KIPを算定する。具体的には、
積分値=基本値×(目標周期/実測周期)
とし、計測した空燃比信号iの変動の周期が目標を上回っているときは積分値KIM、KIPをより小さくし、下回っているときは積分値KIM、KIPをより大きくする。積分値KIM、KIPの基本値は、例えば、目標周期に係数を乗ずることにより定める。
【0031】
補正定数設定部403は、空燃比の振幅及び変動周期を恒常的にフィードバックし、スキップ値RSM、RSP及び積分値RSM、RSPを反復演算する。但し、目標振幅及び目標周期は常に一定とせず、内燃機関100の運転領域に応じて変えることが望ましい。即ち、エンジン回転数及び吸気圧(または、要求負荷)毎に予め定められた目標振幅及び目標周期を記憶装置42に記憶しておき、現在の回転数信号a及び吸気圧信号bに対応した目標振幅及び目標周期を検索して読み出し、それら目標と空燃比信号iの振幅及び周期とからスキップ値RSM、RSP及び積分値RSM、RSPを算出する。噴射量補正部401は、このスキップ値RSM、RSP及び積分値RSM、RSPを用いて、燃料噴射量補正係数FAFを演算する。
【0032】
本実施形態によれば、排出ガスの空燃比を検出する空燃比センサ53と、前記空燃比センサ53で検出される排出ガスの空燃比の振幅と目標振幅との差、及び空燃比の変動の周期と目標周期との差の双方を減少させるようにフィードバック制御を行う空燃比制御部4とを具備する空燃比制御装置を構成したため、触媒52が高い浄化能率を発揮できる範囲に空燃比の振幅及び変動周期を収束せしめることができる。スロットルがゆっくり開かれる緩加速、逆にスロットルがゆっくり閉じられる緩減速、エアーコンディショナのON/OFFといった外乱発生時にも、排出ガスの空燃比が理論空燃比から大きく乖離することが少なくなる。ひいては、内燃機関100で生成される有害物質の排出量の一層の低減を図り得る。
【0033】
触媒53の性能を最大限に発揮できることから、触媒53の寸法の小形化、貴金属使用量の削減によるコスト減にも寄与する。排出ガスの空燃比が過リッチ化しないことは、余分な燃料噴射の削減、燃費の向上に資することにもなる。
【0034】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、空燃比センサ53、54としてO2センサを採用していたが、これをリニアA/Fセンサに置き換えることは当然に可能である。リニアA/Fセンサを採用し、当該センサが出力する空燃比信号を参照して、空燃比の振幅及び変動周期を各目標に収束させる制御を行う場合には、上記実施形態の如くスキップ値RSM、RSPや積分値RSM、RSPを操作する態様をとるとは限られない。実測振幅と目標振幅との偏差、実測周期と目標周期との偏差の多寡に応じて燃料噴射量の補正量を演算するようなコントローラ(特に、現代制御理論を利用したコントローラ)を設計し、これを主体とした空燃比制御装置を構成することも考えられる。
【0035】
上記実施形態では、排出ガスの空燃比の振幅と目標振幅との差、及び変動の周期と目標周期との差の双方を減少させるよう制御を行うこととしていたが、空燃比の振幅と目標振幅との差のみを減少させるように制御を行ってもよく(変動周期を考慮に入れない)、あるいは、空燃比の変動周期と目標周期との差のみを減少させるように制御を行ってもよい(振幅を考慮に入れない)。
【0036】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
100…内燃機関
4…空燃比制御部
401…噴射量補正部
403…補正定数設定部
53…空燃比センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出ガスの空燃比を検出する空燃比センサと、
前記空燃比センサで検出される排出ガスの空燃比の振幅と目標振幅との差、及び、空燃比の変動の周期と目標周期との差のうちの少なくとも一方を減少させるようにフィードバック制御を行う空燃比制御部と
を具備する内燃機関の空燃比制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−167637(P2012−167637A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30802(P2011−30802)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】