説明

筒形アルカリ電池

【課題】負極ゲルの活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用いた筒形アルカリ電池の耐漏液性とくに過放電状態での耐漏液性を向上させる。
【解決手段】負極ゲル18の活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用い、その負極集電子25として銅または銅を主成分とする合金を用いる筒形アルカリ電池10ににあって、上記負極集電子25の表面にSnを無電解メッキするとともに、その無電解メッキ(251)の厚さを0.05〜0.095μmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒形アルカリ電池に関し、とくに、負極ゲルの活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用いたアルカリ乾電池に適用して有効なものに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえばLR03などの筒形アルカリ電池(乾電池)は、負極ゲルの活物質に亜鉛を主成分とする合金を用い、その負極集電子としては銅または銅を主成分とする合金が用いられている。
【0003】
亜鉛を負極活物質として用いたアルカリ電池では、亜鉛の腐食反応により、電池保存中に水素ガスが発生し、これにより、電池内圧が上昇し、樹脂製封口ガスケットの安全弁が作動し、電池外部に電解液等が流出し、漏液に至る。この対策として、従前は、水銀を添加した汞化亜鉛粉末を負極活物質として用いることが一般的に行われてきた。水銀の添加は、負極活物質である亜鉛の水素過電圧が高め、亜鉛の腐食を防止して電池内部の水素ガス発生を抑制するのに有効であった。
【0004】
一方、水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を負極ゲルの活物質に用いた場合は、負極集電子表面に固着しているFe,Ni,Cr,Co等の不純物が負極ゲル中の亜鉛の腐食反応を助長させて水素ガス発生を増大させるという問題が生じる。負極集電子には銅あるいは銅合金などの材質が使用されるが、線材の伸線製造工程等にて上記不純物が固着する可能性があり、これらの不純物を集電子表面から完全に除去するのは困難である。
【0005】
上記問題の解決手段として、従来は、たとえば特許文献1に開示されているように、負極集電子表面に水素過電圧の高いSnを0.10μm以上の厚さで無電解メッキすることが行われていた。これは、無電解メッキされたSnが、負極集電子表面に固着しているFe,Ni,Cr,Co等の不純物を隠蔽することにより、水素の発生を抑制して耐食性を向上させる、ということを期待したものと考えられる。同様に、特許文献2にも、水素過電圧の高いSn、Pb、Cuのうち少なくとも2種以上の金属元素からなる合金を、集電体の表面に0.10μm以上の厚さで無電解メッキすることが開示されている。
【特許文献1】特開平5−109411
【特許文献2】特開平6−20694
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、負極集電体の表面にSn等の無電解メッキを行っても、電池を消費した状態すなわち過放電状態で長期間保存した場合に、水素ガス発生が起きて漏液に至るケースの多いことが、本発明者らによりあきらかとされた。
【0007】
上記特許文献1,2によれば、水素ガス発生を抑制するためには負極集電子表面の不純物を完全に隠蔽する必要があり、そのためにはSn等の無電解メッキを少なくとも厚さ0.10μm以上で行う必要があるということであった。
【0008】
ところが、本発明者らの知得によれば、過放電状態の電池では負極集電子近傍の負極ゲルにメッキ物質の析出が非常に高濃度に現れ、これが過放電状態の電池内ガス発生の原因となることが判明した。つまり、過放電状態の電池においては、負極集電子表面の不純物を隠蔽するために無電解メッキしたSnも耐漏液性を低下させる原因になるということが判明した。
【0009】
本発明は以上のような背反する問題を鑑みてなされたもので、その目的は、負極ゲルの活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用いた筒形アルカリ電池の耐漏液性とくに過放電状態での耐漏液性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、次の(1)の手段を提供する。
(1)負極ゲルの活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用い、その負極集電子として銅または銅を主成分とする合金を用いる筒形アルカリ電池において、上記負極集電子の表面にSnを無電解メッキするとともに、その無電解メッキの厚さを0.05〜0.095μmとしたことを特徴とする筒形アルカリ電池。
【0011】
上記手段(1)においては、さらに次のような手段(2)(3)を備えることがとくに好適である。
(2)負極ゲルの活物質に用いる水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金の粒度が、50〜250meshの範囲であることを特徴とする上記(1)に記載の筒形アルカリ電池。
(3)負極ゲルに、In等の金属酸化物を負極ゲル全体の20〜2000ppmの範囲で添加したことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の筒形アルカリ電池。
【発明の効果】
【0012】
負極ゲルの活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用いた筒形アルカリ電池の耐漏液性とくに過放電状態での耐漏液性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の技術が適用された筒形アルカリ電池の一実施形態を示す。同図に示す筒形アルカリ電池10はLR03(単4)型のアルカリ乾電池であって、アルカリ発電要素15を収容する有底円筒状の金属製電池缶11と、この電池缶11の開口を塞ぐ金属製負極端子板21と、この負極端子板21と上記電池缶11の間に介挿されて気密封止状態を形成する樹脂製封口ガスケット30とを有する。
【0014】
アルカリ発電要素15は、正極合剤16、セパレータ17、負極ゲル(負極合剤)18により構成される。正極合剤16は管状に成形されたものであって、電池缶11内に圧入状態で装填されている。これにより、電池缶(正極缶)11は正極集電体と正極端子を兼ねる。
【0015】
正極合剤16の内側にはアルカリ電解液を含浸する円筒状セパレータ17が配置されている。このセパレータ17の内側に、ゲル状亜鉛を用いた負極ゲル18が充填されている。そして、この負極ゲル18中に棒状の金属製負極集電子25が挿入されている。この負極集電子25は金属製負極端子板21にスポット溶接されている。
【0016】
正極合剤16は、電解二酸化マンガン、黒鉛導電剤、バインダ、KOH水溶液等を用いて調整した混練物を環状に加圧成形することにより作製される。
【0017】
負極合剤である負極ゲル18は、負極活物質として水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用いて調整されているが、その合金は、粒度が50〜250meshの範囲のものを使用する。この負極ゲル18には、In等の金属酸化物を負極ゲル全体の20〜2000ppmの範囲で添加するとよい。
【0018】
負極集電子25は、銅または銅を主成分とする合金を用いて構成されている。この負極集電子25の表面にはSnが無電解メッキされているが、その無電解メッキの厚さは0.05〜0.095μmの範囲内に設定されている。符号251はその無電解メッキ部分を示す。
【0019】
ここで、本発明者らがあきらかにしたところによると、負極集電子25の表面にSnを無電解メッキする場合、そのメッキ厚が上記範囲よりも小さくなると、負極集電子25の表面に固着しているFe,Ni,Cr,Co等の不純物が十分に隠蔽されないことにより、その不純物による水素ガス発生が電池保存中に起きるようになるが、上記範囲を超えると、電池が過放電状態になったときに負極ゲル中に析出するSnが増大して電池内ガス発生の原因となる。すなわち、保存中の耐漏液性と過放電状態での耐漏液性を共に向上させるためには、上記無電解メッキ(251)の厚さを0.05〜0.095μmの範囲内に設定するのが、特異的に有効であることが判明した。
【0020】
また、上記電池においては、負極ゲル18中の亜鉛を主成分とした合金の粒度を、従来よりも粗粒子を選択的にカット(排除)した50〜250meshの範囲にしているが、これにより、放電利用率が向上するとともに、過放電時の電池内ガス発生がさらに抑制されることが判明した。
以下、典型的な実施例を示す。
【0021】
[実施例1]
実施例1として、図1に示した形状構造を有する筒形アルカリ電池(LR03)を、次の仕様1により作製した。
===仕様1===
(1)正極合剤:電解二酸化マンガン、導電剤としての黒鉛、バインダ、40%KOH水溶液を用いて作製。
(2)負極ゲル:粒度を50〜250meshの範囲内に揃えた亜鉛合金、40%KOH水溶液、増粘剤としてのポリアクリル酸を用いて調整。
(3)負極ゲルの添加剤:無し。
(4)負極集電子:素材として真鍮を使用し、表面にSnを無電解メッキしたものを使用。
(5)負極集電子表面の無電解メッキ厚;0.07〜0.095μm。
【0022】
[実施例2]
実施例2として、図1に示した形状構造を有する筒形アルカリ電池(LR03)を、次の仕様2により作製した。
===仕様2===
(1)正極合剤:仕様1と同じ。
(2)負極ゲル:仕様1と同じ。
(3)負極ゲルの添加剤:酸化インジウムを負極ゲル文体に対して100ppm添加。
(4)負極集電子:仕様1と同じ。
(5)負極集電子表面の無電解メッキ厚;仕様1と同じ(0.07〜0.095μm)。
【0023】
[比較例1]
比較例1として、図1に示したのと同様の形状構造を有する筒形アルカリ電池(LR03)を、次の仕様3により作製した。
===仕様3===
(1)正極合剤:仕様1と同じ。
(2)負極ゲル:仕様1と同じ。
(3)負極ゲルの添加剤:無し。
(4)負極集電子:仕様1と同じ。
(5)負極集電子表面の無電解メッキ厚;1.4〜1.9μm。
【0024】
==評価試験結果==
各仕様1〜3の電池についてそれぞれ、負極ゲルへのPb,CuおよびSnの析出状態を分析するとともに、漏液状発生状態を調べる評価試験を行ったところ、次のような結果となった。
【0025】
===実施例1(仕様1)===
仕様1で作製された実施例1の電池では、負極ゲルへのPb,CuおよびSnの析出状態について、表1に示すような分析結果が得られた。
【表1】

【0026】
表1において、放電状態は、20℃で4Ωの負荷による放電で電池電圧が0.6Vに至るまでの時間を100(%)としてある。以下の表3,5においても同様である。
【0027】
また、漏液試験については、表2に示すような結果が得られた。
【表2】

【0028】
===実施例2(仕様2)===
仕様2で作製された実施例2の電池では、負極ゲルへのPb,CuおよびSnの析出状態について、表1に示すような分析結果が得られた。
【表3】

【0029】
また、漏液試験については、表4に示すような結果が得られた。
【表4】

【0030】
===比較例1(仕様3)===
仕様3で作製された比較例1の電池では、負極ゲルへのPb,CuおよびSnの析出状態について、表5に示すような分析結果が得られた。
【表5】

【0031】
また、漏液試験については、表6に示すような結果が得られた。
【表6】

【0032】
上記評価試験の結果によれば、比較例1の電池では、表5が示すように、過放電状態において、集電子表面に無電解メッキされたSnが負極ゲルに多量(330ppm)に析出している。
【0033】
これに対し、実施例1,2の電池では、表1または表3が示すように、過放電状態においても、集電子表面に無電解メッキされたSnの負極ゲルへの析出は少なく(43ppm)抑えられている。
【0034】
これに伴い、比較例1の電池では表6が示すように、漏液が高頻度で発生したが、実施例1,2の電池では表2または表4が示すように、漏液発生頻度が大幅に低減されている。
【0035】
さらに、実施例1(表2)と実施例2(表4)を比較すると、実施例2では耐漏液性がさらに向上している。これは、In等の金属酸化物を負極ゲル全体の20〜2000ppmの範囲で添加したことによると認められる。
【0036】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。たとえば、本発明は、LR03以外の筒形アルカリ電池にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
負極ゲルの活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用いた筒形アルカリ電池の耐漏液性とくに過放電状態での耐漏液性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の技術が適用された筒形アルカリ電池の一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 筒形アルカリ電池
11 金属製電池缶
15 アルカリ発電要素
16 正極合剤
17 セパレータ
18 負極ゲル(負極合剤)
21 金属製負極端子板
25 負極集電子
251 無電解メッキ部分
30 樹脂製封口ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極ゲルの活物質に水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金を用い、その負極集電子として銅または銅を主成分とする合金を用いる筒形アルカリ電池において、上記負極集電子の表面にSnを無電解メッキするとともに、その無電解メッキの厚さを0.05〜0.095μmとしたことを特徴とする筒形アルカリ電池。
【請求項2】
負極ゲルの活物質に用いる水銀無添加の亜鉛を主成分とする合金の粒度が、50〜250meshの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の筒形アルカリ電池。
【請求項3】
負極ゲルに、In等の金属酸化物を負極ゲル全体の20〜2000ppmの範囲で添加したことを特徴とする請求項1または2に記載の筒形アルカリ電池。


【図1】
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【公開番号】特開2006−32152(P2006−32152A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209929(P2004−209929)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】