説明

粉体塗装装置および粉体塗装方法

【課題】被塗装物の周面にムラのない均一な塗膜を形成させる。
【解決手段】予備加熱工程P1に対応した予備加熱装置20と、流動浸漬工程P2に対応した流動塗装装置30と、事後加熱工程P3に対応した事後加熱装置40とを経ることで被塗装物90に流動浸漬法による塗装が施される。予備加熱装置20は、誘導加熱手段としての誘導加熱コイル21と、この誘導加熱コイル21に高周波電流を流す高周波発振器22と、被塗装物90を軸体92の軸心回りに回転させる回転機構23とを備えている。流動塗装装置30は、流動槽31と、流動槽31内の粉体塗料50を流動状態にする送風機32とを備えている。事後加熱装置40は、予備加熱装置20と同様の構成で被塗装物90に事後加熱処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状の外周面を有する磁性材料製の被塗装物に、流動浸漬法によって粉状の塗料(粉体塗料)を付着させる粉体塗装装置及び粉体塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているような流動浸漬法が適用された粉体塗装装置が知られている。この粉体塗装装置は、微細な粉状の塗料(粉体塗料)を流動させた状態の流動槽内へ円柱状の被塗装物(引用文献1では電動機の回転部を構成するアーマチュア)を装填して当該粉体塗料を被塗装物の表面に付着させ、これによって被塗装物の表面に塗膜を形成させるものである。
【0003】
かかる粉体塗装装置は、被塗装物に加熱処理を施して当該被塗装物を高温に加熱するとともに、付着している油分を蒸散させる加熱脱脂部と、加熱された被塗装物を粉体塗料が流動されている流動槽に装填して当該粉体塗料を表面に付着させる静電付着部と、被塗装物の表面に積層された塗料層に熱処理を施して塗料の塗布状態を安定化させるキュアリング部とを備えている。
【0004】
そして、加熱脱脂部およびキュアリング部においては、高周波発振器(引用文献1では高圧発生器)からコイルに印加された高電圧により形成される磁束の中に被塗装物を通すことによって被塗装物に渦電流によるジュール熱で加熱処理を施す、いわゆる誘導加熱方式が採用されている。
【0005】
かかる誘導加熱方式を利用した流動浸漬法を採用することにより、加熱処理に熱風炉などの加熱手段で得られる熱風を利用した場合に比較し、安価な装置コストおよび処理コストで流動浸漬法による粉体塗装を実現させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−38529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載の粉体塗装装置にあっては、被塗装物は、搬送途中に全体的に磁束に曝される。このため、部位によって曝される磁束の量が異なるようになり、当該被塗装物が均一加熱され難く、被塗装物の表面温度が不均一になることがある。被塗装物の表面温度が不均一であると、静電付着部で被塗装物の表面に付着する粉体塗料の量や溶着の状態が不均一になるため、結果として被塗装物に均一で、かつ、美麗な仕上がりの塗膜を形成させることが困難であるという問題点を有している。
【0008】
本発明は、従来のかかる問題点を解消するためになされたものであって、誘導加熱方式の採用を前提とし、円筒状の外周面を有する被塗装物の前記外周面を均一に誘導加熱することが可能であり、これによって被塗装物の外周面にムラのない均一な塗膜を形成させることができる粉体塗装装置及び粉体塗装方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に係る粉体塗装装置は、円筒状の外周面を有する磁性材料製の被塗装物を、その軸心回りに回転させる回転機構と、前記被塗装物の外周面の一部に対しその軸心方向の全長に亘り磁束を作用させることが可能とされ、前記回転機構により回転されている前記被塗装物に誘導加熱処理を施す誘導加熱手段と、粉体塗料が流動状態で充填され、前記誘導加熱手段によって加熱された前記被塗装物が挿入される流動槽と、を備えることを特徴とする(請求項1)。
【0010】
この構成によれば、被塗装物は、外周面の周方向の所定範囲が誘導加熱手段によって誘導加熱される。これに加えて、被塗装物はその軸心回りに回転されるので、結果として外周面が全周に亘り均一に誘導加熱されるようになる。誘導加熱が行われた被塗装物が流動槽内に挿入されることにより、流動している粉体塗料は、被塗装物の周面に付着して溶融し、これによって被塗装物の周面は、粉体塗料が溶融して得られた塗膜が積層された状態になり、塗装された状態になる。ここで、被塗装物の周面は均一に加熱されているので、粉体塗料の被加熱体の外周面への付着量が均一になり、結果として被塗装物の外周面には、厚み寸法が一様な塗膜が形成される。
【0011】
上記構成において、前記誘導加熱手段は、前記被塗装物の外周面に対向し、且つ前記被塗装物の軸心方向と平行に配置された磁性コアと、該磁性コアの周囲に巻回された巻線とを含む誘導加熱コイルであることが望ましい(請求項2)。
【0012】
この構成によれば、前記磁性コアと、被塗装物の外周面における周方向の所定幅の部分(前記磁性コアと対向する部分)との間で磁路が形成され、誘導加熱コイルが発生する磁束の通路が提供されるようになる。従って、前記被塗装物の外周面を、磁束の通過に伴うジュール熱でその軸方向に均一に誘導加熱でき、さらに被塗装物が回転されることで外周面全体に亘り均一に加熱できるようになる。
【0013】
本発明の他の局面に係る粉体塗装方法は、円筒状の外周面を有する磁性材料製の被塗装物を、その軸心回りに回転させる工程と、回転状態にある前記被塗装物の外周面の一部に対しその軸心方向の全長に亘り磁束を作用させ、前記被塗装物を誘導加熱する工程と、前記誘導加熱された被塗装物を、粉体塗料が流動している流動槽中に浸漬して粉体塗料を周面に付着させる工程と、を含むことを特徴とする(請求項3)。
【0014】
この方法によれば、被塗装物は、外周面の周方向の所定範囲が誘導加熱されつつ、その軸心回りに回転されるので、結果として外周面が全周に亘り均一に誘導加熱されるようになる。このように均一加熱された被塗装物が流動槽内に挿入されることにより、粉体塗料を被加熱体の外周面へ均一に付着させることができる。
【0015】
上記方法において、前記粉体塗料が付着された処理済み被塗装物を、その軸心回りに回転させる工程と、回転状態にある前記処理済み被塗装物の外周面の一部に対しその軸心方向の全長に亘り磁束を作用させ、前記処理済み被塗装物を誘導加熱する工程と、をさらに備えることが望ましい(請求項4)。
【0016】
この方法によれば、流動浸漬の工程の後に再度誘導加熱処理が施され、いわゆるキュア処理が実行されるため、塗膜の厚み寸法のさらなる均一化が達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粉体塗装装置又は粉体塗装方法によれば、円筒状の外周面を有する磁性材料製の被塗装物を均一に加熱でき、被塗装物の外周面に均一な厚み塗膜を形成させることができる。従って、例えば、被塗装物が例えば電気的な絶縁状態の確保を目的として塗装されるような場合には、場所によって絶縁能力に差が出るような不都合の発生を有効に防止することができる。また、塗装が防錆を目的とする場合には、部分的に錆が出るような不都合の発生を有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る粉体塗装装置および粉体塗装方法の一実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明に係る粉体塗装装置および粉体塗装方法の一実施形態を示す説明図である。なお、図1においては、流動塗装装置30内の粉体塗料50のサイズを誇張して示している。また、図1においては、被塗装物90の表面に積層された塗膜を点描で示している。
【0020】
図1の上部に示しているように、本実施形態に係る粉体塗装方法は、被塗装物90に対し事前に誘導加熱処理を施す予備加熱工程P1と、予備加熱工程P1で加熱処理が施された被塗装物90に対し粉体塗料50が流動状態で充填されている流動槽31の中で流動浸漬法により塗膜を形成させる流動浸漬工程P2と、流動浸漬工程P2で塗装処理が施された被塗装物90に対し養生のために事後の誘導加熱処理を施す事後加熱工程P3とを順次経ることにより、被塗装物90の外周面に粉体塗装を施すものである。
【0021】
上記の各工程P1〜P3を実行するために、本実施形態においては、粉体塗装装置10が採用されている。この粉体塗装装置10は、予備加熱装置20と、流動浸漬装置30と、事後加熱装置40とによって構成されている。これら粉体塗装装置10の各構成要素である予備加熱装置20、流動浸漬装置30および事後加熱装置40については、各工程の説明中で順次説明する。
【0022】
被塗装物90は、円筒状の外周面を有する磁性材料製の物品である。このような物品としては、円柱体または円筒体を例示することができる。被塗装物90は、円筒状の外周面を備えた被塗装物本体91と、この被塗装物本体91の中心位置に貫設された軸体92とを備えている。かかる被塗装物90における主に被塗装物本体91の外周面に、流動浸漬法による塗装処理が施される。
【0023】
予備加熱工程P1においては、予備加熱装置20が使用される。この予備加熱装置20は、巻芯方向が被塗装物90の軸体92と平行に延びる誘導加熱コイル(誘導加熱手段)21と、この誘導加熱コイル21に高周波電流を流すための高周波発振器22と、被塗装物90を軸体92回りに回転させる回転機構23とを備えている。
【0024】
誘導加熱コイル21は、被塗装物本体91の外周面に近接して対向し、且つ被塗装物の軸体92と平行に配置された磁性コア211と、該磁性コア211の周囲に巻回された巻線212とを含む。磁性コア211の長さは、被塗装物本体91の軸方向の長さとほぼ同等である。巻線212は、このような磁性コア211の略全長に亘り巻回されている。なお、図示では、1本の巻線212が巻回されている例を示しているが、複数本の巻線212を磁性コア211に分割して巻回するようにしても良い。
【0025】
高周波発振器22は、所定の高周波発振回路を有し、商用電源から受電した交流電力を当該高周波発振回路により高周波に変換して誘導加熱コイル21へ供給する。誘導加熱コイル21は、高周波発振器22より高周波電流を与えられることで、磁性コア211の長手方向に沿った磁束を発生する。
【0026】
回転機構23は、駆動モータ231と、この駆動モータ231の駆動軸と軸体92との間に介設されたギヤ機構232とを備えている(図1ではこれらを模式的に示している)。駆動モータ231の駆動回転は、ギヤ機構232により所定の速度に減速された上で軸体92へ伝達される。駆動モータ231の駆動によって、被塗装物90は、軸体92の軸回りに回転される。
【0027】
かかる構成の予備加熱装置20によれば、誘導加熱コイル21の磁性コア211が被塗装物本体91の外周面に近接し、しかも軸体92と平行に配置されている。このため、磁性コア211と、この磁性コア211と対向した被塗装物本体91の表層部911との間に磁路が形成されるようになる。表層部911は、被塗装物本体91の外周面において、その周方向に一定範囲の幅(概ね、磁性コア211と対向する幅)を有し、その軸方向の全長に亘る長さを有する領域である。
【0028】
高周波発振器22からの高周波電流を誘導加熱コイル21に流すと磁束が発生する。この磁束は、磁性コア211と表層部911とで形成される磁路を通過するようになる。すなわち、磁束は、磁性コア211の一端部を出て表層部911の一端部に入り、表層部911の他端部を出て磁性コア211の他端部に戻る。表層部911において磁束は、所定の磁気浸透深さで、表層部911の領域を通過する。
【0029】
その結果、被塗装物本体91の表層部911は、前記磁束の通過で生起される渦電流によるジュール熱によって誘導加熱されるようになる。ここで、磁束が表層部911を軸心方向の全長に亘り作用するため、表層部911は、軸心方向で加熱条件が同一になり、同一の温度に加熱される。従って、この状態で被塗装物本体91を軸体92回りに一定速度で回転させれば、表層部911が順次被塗装物本体91の周方向にシフトして行くようになるので、被塗装物本体91の外周面を均一に誘導加熱することができる。
【0030】
このため予備加熱工程P1では、回転機構23により被塗装物本体91を軸体92回りに一定速度で回転させた状態で、高周波発振器22から高周波電流を誘導加熱コイル21に流す。その結果、被塗装物本体91の外周面は、表層部911に相当する領域が同じ条件で加熱され続けることから、全体的に同一の温度に加熱されることになる。被塗装物本体91の外周面は、塗布される粉体塗料50の融点よりも若干高めの温度にまで加熱される。
【0031】
次に、流動浸漬工程P2においては、流動浸漬装置30が使用される。予備加熱工程P1で被塗装物本体91の外周面が所定の温度にまで加熱された被塗装物90は、流動浸漬装置30に挿入され、ここで被塗装物90に流動浸漬法による塗装が施される。流動浸漬装置30は、予め粉体塗料50が装填され被塗装物90が挿入される流動槽31と、この流動槽31内へ空気を吹き込んで当該流動槽31内で粉体塗料50を浮遊させるための気流を形成させる送風機32とを備える。
【0032】
流動槽31には、その側壁の下部に開口された空気取り入れ口311が設けられているとともに、流動槽31の上面は、全面が開口とされている。流動槽31内の空気取り入れ口311の上方位置には、当該流動槽31内の底面近傍を全体的に覆うフィルタ312が取り付けられている。このフィルタ312は、スポンジ状の合成樹脂材料によって形成されている。流動槽31内におけるフィルタ312の上方の空間は、被塗装物90に対して流動浸漬法による塗装処理を施す流動浸漬室33とされている。
【0033】
送風機32の駆動により、空気取り入れ口311から流動槽31の下部へ空気が吹き込まれる。この空気は、フィルタ312を通って均等に拡散され、流動浸漬室33へ満遍なく供給される。従って、流動浸漬室33内は、粉体塗料50が偏ることなく舞い上がって流動状態となり、被塗装物90に対する流動浸漬処理に適した環境になる。
【0034】
粉体塗料50は、有機溶剤または水などの揮発系の分散媒体を含まない微粉状の塗料であり、合成樹脂、着色顔料、フィラーおよび添加剤などが混合されることによって形成されている。粉体塗料50としては、融点が250℃〜400℃、粒径が80〜150μm程度のものを好適に用いることができ、例えばポリ塩化ビニル樹脂系、ポリエチレン樹脂系、ナイロン樹脂系等、各種の合成樹脂材料からなるものを用いることができる。
【0035】
このような粉体塗料50の所定量が予め流動槽31の流動浸漬室33内に装填される。引き続き送風機32が駆動され、空気が空気取り入れ口311を通して流動槽31内に吹き込まれる。この吹き込まれた空気は、フィルタ312を通して異物が取り除かれた状態で流動浸漬室33内に導入され、これにより流動浸漬室33内の粉体塗料50は舞い上がって流動浸漬室33内で流動することになる。この状態で、流動浸漬室33内に、予備加熱工程P1で所定の温度にまで加熱された被塗装物90が浸漬される。
【0036】
流動している粉体塗料50は、その融点よりも高温に加熱された被塗装物90の表面に当接して溶融付着し、これによって被塗装物90の表面に塗膜が形成される。この塗膜は、被塗装物本体91の周面の温度が均一であることから、被塗装物本体91の周面およびその近傍においては均一な厚みになるため、被塗装物本体91の周面およびその近傍において塗料の塗りムラが生じることはなく、美麗に塗装が施された状態になる。
【0037】
流動浸漬工程P2での流動浸漬法による塗装処理が完了すると、被塗装物90は、流動浸漬装置30から取り出されて次の事後加熱工程P3に供される。事後加熱工程P3は、先の流動浸漬工程P2で被塗装物本体91の周面に積層された粉体塗料50の溶融塗膜に事後加熱処理(養生処理)を施すべく、被塗装物90を再度加熱する工程である。
【0038】
事後加熱工程P3では、予備加熱装置20と同様に構成された事後加熱装置40が使用される(予備加熱装置20を再度用いるようにしても良い)。事後加熱装置40は、巻芯方向が被塗装物90の軸体92と平行に延びる誘導加熱コイル41と、誘導加熱コイル41に高周波電流を流すための高周波発振器42と、被塗装物90を軸体92回りに回転させる回転機構43とを備えている。誘導加熱コイル41は、軸体92と平行に配置される磁性コア411と、磁性コア412に巻回された巻線412とを含む。回転機構43は、回転機構23は、駆動モータ231と、この駆動モータ231の駆動軸と軸体92との間に介設されたギヤ機構232とを含む。これらの構成要素は、予備加熱装置20における誘導加熱コイル21、高周波発振器22及び回転機構23と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0039】
事後加熱工程P3の実行に際しては、駆動モータ431の駆動でギヤ機構432および軸体92を介して被塗装物本体91を軸体92回りに回転させた状態で、高周波発振器42から高周波電流が誘導加熱コイル41に流される。これより、誘導加熱コイル41は磁束を発生し、この磁束は、磁性コア411の一方の端面から出て、回転している被塗装物本体91の外周面の表層部911を軸方向に所定の磁気浸透深さで透過し、磁性コア411の他方の端面に戻る。
【0040】
従って、被塗装物本体91の表層部911は、この高周波の磁束で生起される渦電流によるジュール熱によって加熱されることになる。この加熱により、被塗装物本体91の外周面が均一に加熱されが、そのメカニズムについては、先の予備加熱装置20における場合と同様である。かかる均一加熱により、被塗装物本体91の外周面に形成された粉体塗料50の塗膜層の養生処理が良好に行われる。事後加熱処理が完了すると、被塗装物90は、事後加熱装置40から取り出され、所定の製品検査の後に商品として出荷されたり、倉庫に一時保管されたりする。
【0041】
以上詳述したように、本実施形態に係る粉体塗装方法は、円筒状の外周面を有し磁性材料性の被塗装物90を軸心回りに回転させながら、被塗装物90の外周面の表層部911に対し軸心方向の全長に亘り磁束を作用させて当該周面に誘導加熱処理を施す予備加熱工程P1と、この予備加熱工程P1で加熱処理された被塗装物90を粉体塗料50が流動している流動槽31中に浸漬して粉体塗料50を被塗装物90の周面に付着させる流動浸漬工程P2と、この流動浸漬工程P2で周面に粉体塗料50が溶着された被塗装物90に再度誘導加熱処理することによって事後加熱処理(熱的な養生処理)を施す事後加熱工程P3と、を順次経ることによって被塗装物90の外周面に塗装を施すものである。
【0042】
この粉体塗装方法(粉体塗装装置10)によれば、被塗装物90の表層部911が順次誘導加熱されるため、被塗装物90の外周面を全周に亘って均一加熱することができる。かかる均一加熱が行われた被塗装物90が流動槽31内に挿入されることにより、流動している粉体塗料50は、被塗装物90の周面に付着して溶融するため、被塗装物90の周面に粉体塗料50が溶融して得られた塗膜を積層することができる。
【0043】
従って、被塗装物90が円柱状または円筒状のものであれば、その外周面にムラなく均等に塗膜を形成させることができるため、例えば、円柱状や円筒状を呈する建築用の資材(例えば、支柱や梁材等)、円筒状を呈する吸水用の鋼管、あるいは円柱状や円筒状を呈する各種の工業部品(例えば、電動機の回転部を構成するアーマチュアに対する絶縁処理のための塗装等)に好適に適用することができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば以下のような変形実施形態を取ることができる。
【0045】
(1)上記の実施形態においては、誘導加熱コイル21、41およびこの誘導加熱コイル21に対向配置される被塗装物90は、いずれも縦置きされている例を示した。これに代えて、誘導加熱コイル21、41及び被塗装物90を水平方向に配置してもよい。
【0046】
(2)上記の実施形態においては、流動槽31の上面が開放されているが、こうする代わりに流動槽31の上面開口を閉止する蓋体を設けるとともに、この蓋体の適所に空気抜き用の開口を設け、この開口から所定のフィルタを介して空気を排出させるようにしてもよい。この変形実施形態によれば、流動槽31内で流動している粉体塗料50の飛散を防止することができる。
【0047】
(3)上記の実施形態においては、誘導加熱コイル21は1つだけが採用されているが、被塗装物90の回りに複数の誘導加熱コイル21を配置してもよい。
【0048】
(4)上記の実施形態においては、事後加熱工程P3で予備加熱装置20とは別の事後加熱装置40が採用されているが、予備加熱装置20と事後加熱装置40とはその構成が全く同一であるため、事後加熱装置40を設けることなく、事後加熱工程P3で予備加熱装置20を事後加熱処理用に利用してもよい。こうすることで事後加熱装置40を設けなくてもよい分、設備コストの低減化に貢献することができる。
【0049】
(5)上記の実施形態においては、被塗装物90は、流動浸漬工程P2に引き続き事後加熱工程P3で最終仕上げとしての誘導加熱処理が施されるようになされているが、流動浸漬工程P2で充分に適正な塗装が行われているような場合には、特に事後加熱工程P3を省略してもよい。
【符号の説明】
【0050】
P1 予備加熱工程
P2 流動浸漬工程
P3 事後加熱工程
1 引用文献
10 粉体塗装装置
20 予備加熱装置
21 誘導加熱コイル
211 磁性コア
212 巻線
22 高周波発振器
23 回転機構
231 駆動モータ
232 ギヤ機構
30 流動塗装装置
31 流動槽
311 空気取り入れ口
312 フィルタ
32 送風機
33 流動浸漬室
40 事後加熱装置
41 誘導加熱コイル
411 磁性コア
412 巻線
42 高周波発振器
43 回転機構
431 駆動モータ
432 ギヤ機構
50 粉体塗料
90 被塗装物
91 被塗装物本体
911 表層部
92 軸体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外周面を有する磁性材料製の被塗装物を、その軸心回りに回転させる回転機構と、
前記被塗装物の外周面の一部に対しその軸心方向の全長に亘り磁束を作用させることが可能とされ、前記回転機構により回転されている前記被塗装物に誘導加熱処理を施す誘導加熱手段と、
粉体塗料が流動状態で充填され、前記誘導加熱手段によって加熱された前記被塗装物が挿入される流動槽と、
を備えることを特徴とする粉体塗装装置。
【請求項2】
前記誘導加熱手段は、前記被塗装物の外周面に対向し、且つ前記被塗装物の軸心方向と平行に配置された磁性コアと、該磁性コアの周囲に巻回された巻線とを含む誘導加熱コイルであることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗装装置。
【請求項3】
円筒状の外周面を有する磁性材料製の被塗装物を、その軸心回りに回転させる工程と、
回転状態にある前記被塗装物の外周面の一部に対しその軸心方向の全長に亘り磁束を作用させ、前記被塗装物を誘導加熱する工程と、
前記誘導加熱された被塗装物を、粉体塗料が流動している流動槽中に浸漬して粉体塗料を周面に付着させる工程と、
を含むことを特徴とする粉体塗装方法。
【請求項4】
前記粉体塗料が付着された処理済み被塗装物を、その軸心回りに回転させる工程と、
回転状態にある前記処理済み被塗装物の外周面の一部に対しその軸心方向の全長に亘り磁束を作用させ、前記処理済み被塗装物を誘導加熱する工程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の粉体塗装方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−110464(P2011−110464A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267213(P2009−267213)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】