説明

粘稠性樹脂組成物

【課題】 液伸びの良さと液垂れ難さとを両立させることができ、しかも低コストな粘稠性樹脂組成物を提供するものである。
【解決手段】 熱硬化性樹脂組成物(A),脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(B)及び充填剤(C)から構成され、前記熱硬化性樹脂組成物(A)は不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂より選択される1種類以上の樹脂とラジカル重合性不飽和単量体とを含有する粘稠性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の保護,防食,耐震若しくは剥落防止等を目的とした土木建築工事において、プライマー処理後の乾燥及び湿潤コンクリート面に塗布される粘稠性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低温環境下において、粘性が増大し塗布作業性を低下させると共に、反応性が著しく低下することにより施工を妨げるエポキシ樹脂に代わり、低温速硬化性を有する不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂等のラジカル重合性樹脂が土木建築工事用材料として用いられてきている。
【0003】
例えば、ラジカル重合性樹脂に揺変性付与剤及び充填剤を配合した粘稠性樹脂組成物は、コンクリート構造物に連続繊維シートを貼り付けて構造部材の耐力を向上させる接着工法の不陸修正材として使用されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多軸組布を貼り付けてコンクリート片の剥落を防止する接着工法において、施工期間の短縮化を図るため、粘稠性樹脂組成物を不陸修正材のみならず多軸組布を貼り付ける含浸接着樹脂として用いる場合、作業性を重視した低粘稠性樹脂組成物は粘着性が弱く多軸組布の貼り付け時、特にコーナー部で多軸組布の跳ねを押えきれない問題を生じていた。一方、多軸組布の跳ねを押えるため粘性を増大させると硬い性状となりコテ塗り作業性の悪化を招いていた。
【0005】
これは、従来から用いられている熱硬化性樹脂組成物の揺変性付与剤であるコロイダルシリカ,繊維状鉱物及び微粉末鉱物を、液伸びの良さと液垂れ難さとを両立させて配合調整することが困難であるためである。
【0006】
更に、上述のコロイダルシリカは高価であることから製品のコストが高くなる問題があり、また、コロイダルシリカは常温硬化系で用いる硬化促進剤の第3アミン及びナフテン酸コバルトを添加すると、樹脂組成物の粘稠性を低下させる問題もあった。
【0007】
更に、上述の繊維状鉱物及び微粉末鉱物は粘稠性樹脂組成物製造時に粘性の撹拌時間依存性があるために、一定粘性の品質確保が困難であった。
【0008】
本発明は、従来の揺変性付与剤による上述の問題点を解決するもので、液伸びの良さと液垂れ難さとを両立させることができ、しかも低コストな粘稠性樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨を説明する。
【0010】
熱硬化性樹脂組成物(A),脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(B)及び充填剤(C)から構成され、前記熱硬化性樹脂組成物(A)は不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂より選択される1種類以上の樹脂とラジカル重合性不飽和単量体とを含有することを特徴とする粘稠性樹脂組成物に係るものである。
【0011】
また、請求項1記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂より選択される1種類以上の樹脂が20〜100重量%、ラジカル重合性不飽和単量体が0〜80重量%である熱硬化性樹脂組成物(A)が採用され、更に、この熱硬化性樹脂組成物(A)が100重量部、脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(B)が20〜200重量部及び充填剤(C)が0〜200重量部配合されていることを特徴とする粘稠性樹脂組成物に係るものである。
【0012】
また、請求項1,2のいずれか1項に記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物は、ブルックフィールド形回転粘度計において、20℃環境下,分速20回転時の粘度が20Pa・s〜80Pa・sであるとともに、20℃環境下,分速2回転時の粘度を20℃環境下,分速10回転時の粘度で除した値が3.8〜6.0であることを特徴とする粘稠性樹脂組成物に係るものである。
【0013】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物はコンクリートの不陸修正材として用いられるものであることを特徴とする粘稠性樹脂組成物に係るものである。
【0014】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物は多軸組布等の繊維シートを貼り付けるコンクリート剥落防止用接着剤として用いられるものであることを特徴とする粘稠性樹脂組成物に係るものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上述のように構成したから、液伸びの良さと液垂れ難さとを両立させることができ、しかも製品コストを低減し得る粘稠性樹脂組成物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の熱硬化性樹脂組成物(A)に含有される不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂は公知の方法により製造されるものである。
【0017】
不飽和ポリエステル樹脂は、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸と、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の芳香族あるいは脂環式等の多塩基酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類と、その他の成分を原料に合成された不飽和ポリエステルを、架橋剤を兼ねるモノマーに溶解させたものである。
【0018】
ビニルエステル樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、(メタ)アクリル酸エステル及びその他の成分を原料に合成されたエポキシアクリレートを、架橋剤を兼ねるモノマーに溶解させたものである。
【0019】
不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂には、貯蔵安定性付与の為、p-ベンゾキノン、ナフトキノン、ハイドロキノン、p-t-ブチルカテコール、ジ-t-ブチル・パラクレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ナフテン酸銅、フェニル-β-ナフチルアミン等の重合禁止剤が添加される。
【0020】
熱硬化性樹脂組成物(A)に含有されるラジカル重合性不飽和単量体は、活性基としてビニル基を有するエチレン性不飽和単量体、1個の(メタ)アクリロイル基を有する単官能(メタ)アクリレート及び活性基として2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートである。
【0021】
例えばビニル基を有するエチレン性不飽和単量体として、スチレン、ビニルトルエン、α―メチルスチレン等が挙げられる。
【0022】
単官能(メタ)アクリレートとして、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
多官能(メタ)アクリレートとして、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
これらラジカル重合性不飽和単量体は、1種または2種以上併用して用いることが出来る。
【0025】
本発明の粘稠性樹脂組成物を構成する脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(B)とは、不飽和高級脂肪酸、不飽和高級脂肪酸金属塩、不飽和高級脂肪酸エステル、飽和高級脂肪酸、飽和高級脂肪酸金属塩、及び飽和高級脂肪酸エステルのいずれかで表面処理されている軽質炭酸カルシウム微粉末である。
【0026】
不飽和高級脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0027】
不飽和高級脂肪酸金属塩としては、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノール酸ナトリウム、リノール酸カリウム等が挙げられる。
【0028】
不飽和高級脂肪酸エステルとしては、オレイン酸のグリセリンエステル、リノール酸のグリセリンエステル等が挙げられる。
【0029】
飽和高級脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
【0030】
飽和高級脂肪酸金属塩としては、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等が挙げられる。
【0031】
飽和高級脂肪酸エステルとしては、パルミチン酸のグリセリンエステル、ステアリン酸のグリセリンエステル等が挙げられる。
【0032】
本発明の粘稠性樹脂組成物を構成する充填剤(C)とは、無機質フィラー若しくは有機質フィラー又は両者の混合物である。
【0033】
無機質フィラーとしては、水酸化アルミニウム、重質炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、ガラス紛、シリカ紛、タルク、クレー、珪砂等が挙げられる。
【0034】
有機質フィラーとしては、フェノール樹脂紛、エポキシ樹脂紛、アクリル樹脂紛等が挙げられる。
【0035】
これら充填剤は、1種または2種以上併用して用いることができる。
【0036】
更に本発明では、補助的に揺変性を付与してもよく、揺変性付与剤として乾式シリカ、湿式シリカ等のコロイダルシリカ、セピオライト系鉱物、クリスタライト系鉱物等が挙げられる。
【0037】
本発明の粘稠性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、公知である可塑剤、空気乾燥剤、酸化防止剤、重合禁止剤等の添加剤を使用することが出来る。
【0038】
本発明の粘稠性樹脂組成物は常温硬化型であり、硬化に際しては有機過酸化物と促進剤のレドックス系硬化剤を添加する。尚、望ましい使用温度範囲は−10〜30℃である。
【0039】
有機過酸化物と促進剤の組合せとしては、特に限定されるものでないが、以下の組合せが例示される。第1の組合せとして、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、アセト酢酸メチルパーオキサイド等のケトンパーオキサイドとナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト等のコバルトの有機酸塩、第2の組合せとして、ベンゾイルパーオキサイド等のアシルパーオキサイドとN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等の芳香族第3アミン、第3の組合せとして、ハイドロパーオキサイドとバナジウム塩等がある。
【0040】
上記組合せの他、特に限定されるものではないが、硬化速度調整のために添加剤を加えることが出来る。
【0041】
第1の組合せの添加剤として、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン等の芳香族第3アミン、第2の組合せの添加剤として、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト等のコバルトの有機酸塩が例示できる。
【0042】
有機過酸化物取扱い時の安全性と水分存在下における硬化性を考慮すると、純度50重量%以下のペースト状若しくはサスペンション状のベンゾイルパーオキサイドとN,N−ジメチルアニリン若しくはN,N−ジメチル−p−トルイジンの芳香族第3アミンの組合せが望ましい。
【0043】
本発明において、熱硬化性樹脂組成物(A)100重量部のうち、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂より選択される1種類以上の樹脂は20〜100重量%とすることが望ましく、また、ラジカル重合性不飽和単量体は0〜80重量%とすることが望ましい。尚、脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(B)は20〜200重量部,充填剤(C)は0〜200重量部とすることが望ましい。
【0044】
前記不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂より選択される1種類以上の樹脂は20重量%未満であると脆性の発現及び耐水性の低下等のため好ましくない。
【0045】
また、前記不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂は、粘度が高く、粘りを生じるために接着剤、塗料として用いる際の作業性が悪い場合があるが、低粘度の単量体であるラジカル重合性不飽和単量体を配合することで、樹脂粘度を下げることができる。
【0046】
更に、前記不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂は、加熱硬化に対し、常温硬化では反応温度が低いがために硬化物の架橋ネットワーク形成に違いが生じ、例えば脆さ等の物性低下が起こる場合があるため、問題点を解決するような分子骨格を有するラジカル重合性単量体を配合することで、靭性を付与したり、架橋密度を調整したりすることにより、物性を向上させることができる。
【0047】
加えて、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂そのものでは目的とするコンクリート及び既に硬化した塗膜上への強固な接着性が得られない為、被着体との反応性官能基を有するラジカル重合性単量体を配合することにより、接着性を向上させることができる。この際、前記ラジカル重合性不飽和単量体は、80重量%を越えると脆性の発現,耐水性の低下及び高コスト等のため好ましくない。
【0048】
また、前記脂肪酸表面処理炭酸カルシウムは20重量部未満であると液垂れが生じるため好ましくなく、また、200重量部を越えると液伸びが困難となるため好ましくない。
【0049】
また、前記充填剤は200重量部を超えると液伸びが困難となるため好ましくない。
【0050】
次に、本発明の特性を確認した評価試験について説明する。
【0051】
本発明の粘稠性樹脂組成物の塗布作業性は、20℃環境下分速20回転時の粘度と、5℃環境下ローラー塗布作業性により評価した。
【0052】
粘度測定は、トキメック社製の粘度計であるブルックフィールド形回転粘度計のB形を用いた。作業性に関わるコテ塗り時の重さが回転粘度計のトルクと相関することを考慮し、最大回転数である20回転時の粘度で評価した。
【0053】
ローラー塗布作業性評価は、粘性が増大する低温の5℃環境下、マスチックローラーを用いて、1mの垂直面に対しローラーを回転させて1mmの厚さで塗布を行った時のローラー回転性、ローラーにかかる重さ、液垂れにより評価を行った。
【0054】
その結果、20℃環境下における20回転時の粘度が20pa・s〜80pa・sの範囲にある場合、5℃環境下におけるマスチックローラーが適度な負荷で回転することが確認でき、よって、塗布作業性が良好となる。
【0055】
本発明の粘稠性樹脂組成物の垂れ難さは、スランプ、35mm三角目地充填性及び粘度比(2rpm/10rpm)により評価した。
【0056】
スランプ試験は、JIS A 1439建築用シーリング材の試験方法に準拠し、20℃環境下、幅20mm長さ150mm高さ10mmの溝へ樹脂組成物を充填後、垂直に立て、溝下端より垂れ下がった先端までの距離を測定した。
【0057】
35mm三角目地充填性評価は、20℃環境下、厚さ5mmの40mm等辺山形鋼を上向きに設置し、内のり部35mm角への樹脂組成物の三角目地充填性を評価した。
【0058】
粘度比(2rpm/10rpm)は、樹脂組成物の垂れが粘度計の低回転トルクと中回転トルクの応答性即ち分速2回転と分速20回転の間より狭い範囲である分速2回転と分速10回転の間におけるチキソトロピーに相関することを考慮し、ブルックフィールド形回転粘度計のB形を用いて測定した分速2回転時の粘度を分速10回転時の粘度で除した値とした。
【0059】
その結果、粘度比(2rpm/10rpm)が3.8〜6.0の範囲にある場合、スランプ50mm以内で且つ35mm三角目地充填性評価において硬化時まで垂れずに完全に充填される。
【0060】
以上より、本発明の粘稠性樹脂組成物は、ブルックフィールド形回転粘度計のB形を用い、20℃環境下、分速20回転時の粘度が20Pa・s〜80Pa・sであること且つ粘度比(2rpm/10rpm)が3.8〜6.0であることが好適である。
【0061】
分速20回転時の粘度が20Pa・s未満及び粘度比(2rpm/10rpm)が3.8未満では、コンクリート垂直面及び天井面への塗布時に液垂れを生じ、分速20回転時の粘度が80Pa・sを超え、粘度比(2rpm/10rpm)が6.0を超える場合には、5℃環境下におけるローラー塗布作業が困難となる。
【0062】
従って、本発明は、液伸びの良さと液垂れ難さとを両立する粘稠性樹脂組成物となる。
【実施例】
【0063】
以下、従来例(比較例)を示して本実施例の特性を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。尚、従来例と本実施例の各性能は以下の項目について記載した方法により比較を行った。
【0064】
(1)塗布作業性評価
塗布作業性の評価項目は、20℃環境下分速20回転時の粘度と、5℃環境下ローラー塗布作業性の2項目とした。
【0065】
粘度は、トキメック社製の粘度計であるブルックフィールド形回転粘度計のB形を用いて測定した。作業性に関わるコテ塗り時の重さが回転粘度計のトルクと相関することを考慮し、最大回転数である20回転時の粘度で評価した。
【0066】
ローラー塗布作業性評価は、粘性が増大する低温の5℃環境下、マスチックローラーを用いて、1mの垂直面に対しローラーを回転させて1mmの厚さで塗布を行った時のローラー回転性、ローラーにかかる重さ、液垂れより、評価を行い、良好であった場合に○、不具合が生じた場合に×と判定した。
【0067】
(2)液垂れ難さ評価
液垂れ難さの評価項目は、スランプ試験、35mm三角目地充填性評価及び粘度比(2rpm/10rpm)の3項目とした。
【0068】
スランプ試験は、JIS A 1439建築用シーリング材の試験方法に準拠し、20℃環境下、幅20mm長さ150mm高さ10mmの溝へ樹脂組成物を充填後、垂直に立て、溝下端より垂れ下がった先端までの距離を測定した。
【0069】
35mm三角目地充填性評価は、20℃環境下、厚さ5mmの40mm等辺山形鋼を上向きに設置し、内のり部35mm角への樹脂組成物の三角目地充填性を評価した。硬化時まで垂れずに完全に充填されていた場合に○、充填不可能であった場合若しくは硬化前に垂れが生じた場合に×と判定した。
【0070】
粘度比(2rpm/10rpm)は、樹脂組成物の垂れが粘度計の低回転トルクと中回転トルクの応答性即ち分速2回転と分速20回転の間より狭い範囲である分速2回転と分速10回転の間におけるチキソトロピーに相関することを考慮し、ブルックフィールド形回転粘度計のB形を用いて測定した分速2回転時の粘度を分速10回転時の粘度で除した値とした。
【0071】
(3)粘度の第3アミン添加依存性評価
粘度の第3アミン添加依存性の評価は、分速10回転時の粘度の3級アミン添加前数値と添加後数値の変化率とした。
【0072】
(4)粘度の攪拌時間依存性評価
粘度の攪拌時間依存性の評価は、分速10回転時の粘度の攪拌時間10分経過時測定値と20分経過時測定値の変化率とした。
【0073】
(実施例1)
実施例1は、2Lポリプロピレン製容器に、ビニルエステル樹脂(商品名:ネオポール8260、日本ユピカ製)1000g及び脂肪酸表面処理炭酸カルシウム400gを配合し、高トルク型攪拌機を用いて10分間攪拌混合し、完全分散した粘稠性樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物100重量部に促進剤であるN,N−ジメチルアニリンを0.11重量部及び硬化剤である40重量%ベンゾイルパーオキサイドを1.1重量部添加し、攪拌混合後、各評価試験を実施した(表1)。
【0074】
(実施例2〜5)
実施例2は、ビニルエステル樹脂1000g,脂肪酸表面処理炭酸カルシウム500g,N,N−ジメチルアニリン0.10重量部及び40重量%ベンゾイルパーオキサイドを1.0重量部添加した。
【0075】
また、実施例3は、ビニルエステル樹脂1000g,脂肪酸表面処理炭酸カルシウム700g,N,N−ジメチルアニリン0.09重量部及び40重量%ベンゾイルパーオキサイドを0.9重量部添加した。
【0076】
また、実施例4は、ビニルエステル樹脂1000g,脂肪酸表面処理炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムとを夫々500gつづ,N,N−ジメチルアニリン0.07重量部及び40重量%ベンゾイルパーオキサイドを0.7重量部添加した。
【0077】
また、実施例5は、ビニルエステル樹脂1000g,脂肪酸表面処理炭酸カルシウム800g,N,N−ジメチルアニリン0.08重量部及び40重量%ベンゾイルパーオキサイドを0.8重量部添加した。
【0078】
上記実施例2〜5についても、実施例1と同様の操作及び各評価試験を実施した(表1)。
【0079】
尚、上記実施例1〜5のビニルエステル樹脂とは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とメタクリル酸を反応させて得たエポキシアクリレートをスチレン単量体に溶解し、エポキシアクリレートが55重量%、スチレンが45重量%であるビニルエステル樹脂(商品名:ネオポール8260、日本ユピカ製)である。
【0080】
また、上記実施例1〜5における、粘稠性樹脂組成物100部に対する40重量%ベンゾイルパーオキサイド及びN,N−ジメチルアニリンの配合部数は、20℃環境下における160gスケールの硬化時間が各組成物60分となるよう調整し決定されたものである。
【0081】
【表1】

【0082】
上記各評価試験の結果を示した表1から、実施例1における、20℃環境下、塗布作業性を示す分速20回転時の粘度は33Pa・sであった。また、垂れ難さを示す粘度比(2rpm/10rpm)は3.8であった。
【0083】
尚、5℃環境下におけるローラー塗布作業性は、適度な負荷でローラーの回転が認められたことより良好であった。更に、スランプは45mmで、35mm三角目地に対しては硬化時まで垂れずに充填された。加えて、第3アミン添加による分速10回転時粘度の変化率は3.0%であった。
【0084】
また、実施例2〜5における、20℃環境下、塗布作業性を示す分速20回転時の粘度は、実施例2で54Pa・s、実施例3で77Pa・s、実施例4で68Pa・s、実施例5で80Pa・sであった。
【0085】
また、垂れ難さを示す粘度比(2rpm/10rpm)は、実施例2で4.5、実施例3で4.0、実施例4で4.3、実施例5で6.0であった。
【0086】
尚、5℃環境下におけるローラー塗布作業性は、実施例2、3、4、5共に適度な負荷でローラーの回転が認められたことより良好であった。更に、スランプは実施例2で16mm、実施例3で0mm、実施例4で2mm、実施例5で0mmとなり、35mm三角目地に対しては実施例2、3、4、5共に硬化時まで垂れずに充填された。加えて、第3アミン添加による分速10回転時粘度の変化率は、実施例2で−1.9%、実施例3で3.9%、実施例4で0%、実施例5で0%であった。更に、実施例2において、攪拌時間10分間延長による分速10回転時の粘度の変化率は2.1%であった。
【0087】
(比較例1,2)
比較例1,2として、2Lポリプロピレン製容器に、ビニルエステル樹脂(商品名:ネオポール8260、日本ユピカ製)1000gに対し、親水性乾式シリカ(商品名:レオロシールQS20L、トクヤマ製)50g(比較例1)または疎水性乾式シリカ(商品名:レオロシールPM20L、トクヤマ製)50g(比較例2)を配合し、高トルク型攪拌機を用いて10分間攪拌混合し、完全分散した粘稠性樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物100重量部に促進剤であるN,N−ジメチルアニリンを0.14重量部及び硬化剤である40重量%ベンゾイルパーオキサイドを1.4重量部添加し、攪拌混合後、実施例1〜4と同様の操作及び各評価試験を実施した(表2)。
【0088】
(比較例3〜6)
比較例3〜6として、2Lポリプロピレン製容器に、ビニルエステル樹脂(商品名:ネオポール8260、日本ユピカ製)1000gに対し、クリスタライト系鉱物(商品名:アタゲル♯40、東新化成製)を300g(比較例3),350g(比較例4),400g(比較例5)及び450g(比較例6)となるように夫々配合し、高トルク型攪拌機を用いて10分間攪拌混合し、完全分散した粘稠性樹脂組成物を得た。当該樹脂組成物100重量部に促進剤であるN,N−ジメチルアニリンを0.11重量部(比較例3〜5)若しくは0.10重量部(比較例6)、硬化剤である40重量%ベンゾイルパーオキサイドを1.1重量部(比較例3〜5)若しくは1.0重量部(比較例6)添加し、攪拌混合後、実施例1〜5及び比較例1,2と同様の各評価試験を実施した(表2)。
【0089】
尚、上記比較例1〜6のビニルエステル樹脂とは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とメタクリル酸を反応させて得たエポキシアクリレートをスチレン単量体に溶解し、エポキシアクリレートが55重量%、スチレンが45重量%であるビニルエステル樹脂(商品名:ネオポール8260、日本ユピカ製)である。
【0090】
また、上記実施例1〜6における、粘稠性樹脂組成物100部に対する40重量%ベンゾイルパーオキサイド及びN,N−ジメチルアニリンの配合部数は、20℃環境下における160gスケールの硬化時間が各組成物60分となるよう調整し決定されたものである。
【0091】
【表2】

【0092】
上記表2の各評価試験の結果から、比較例1,2における、20℃環境下、塗布作業性を示す分速20回転時の粘度は、比較例1で3Pa・s比較例2で35Pa・sであった。
【0093】
また、垂れ難さを示す粘度比(2rpm/10rpm)は、比較例1で1.5、比較例2で3.5であった。
【0094】
尚、5℃環境下におけるローラー塗布作業性は、比較例1においては液垂れを生じたことより悪く、一方比較例2においては適度な負荷でローラーの回転が認められたことより良好であった。更に、スランプは比較例1,2共に50mm以上となり、35mm三角目地に対しては比較例1,2共に充填不可能であった。加えて、第3アミン添加による分速10回転時粘度の変化率は、比較例2で−13.3%であった。更に、比較例2において、攪拌時間10分間延長による分速10回転時の粘度の変化率は13.3%であった。
【0095】
また、比較例3〜6における、20℃環境下、塗布作業性を示す分速20回転時の粘度は、比較例3で4Pa・s、比較例4で24Pa・s、比較例5で60Pa・s、比較例6では抵抗が大きいためメーターが振り切れ測定不能であった。
【0096】
また、垂れ難さを示す粘度比(2rpm/10rpm)は、比較例3で2.3、比較例4で6.4、比較例5で7.8であった。
【0097】
尚、5℃環境下におけるローラー塗布作業性は、比較例3においては液垂れを生じたことより悪く、一方比較例4,5においては適度な負荷でローラーの回転が認められたことより良好であり、比較例6においては粘性が強くローラーの回転が不可能であった。更に、スランプは比較例3,4,5共に50mm以上となり、比較例6では0mmであった。35mm三角目地に対しては比較例3,4,5共に充填不可能であったが、比較例6においては硬化時まで垂れずに充填された。加えて、第3アミン添加による分速10回転時粘度の変化率は、比較例4で−12.5%、比較例5で12.5%であった。更に、比較例4において、攪拌時間10分間延長による分速10回転時の粘度の変化率は−80.0%、比較例5で−30.0%であった。
【0098】
以上、上記表1及び表2の各評価試験の結果より、塗布作業性を示すローラー塗布作業性評価及び液垂れ難さを示す35mm三角目地充填性評価において、双方とも判定が○である例は実施例1〜5の場合のみである。即ち、揺変性付与剤として、脂肪酸表面処理炭酸カルシウム若しくは脂肪酸表面処理炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムを用いた実施例1〜5は、親水性若しくは疎水性の乾式シリカやクリスタライト系鉱物を用いた比較例1〜6と比較して、液伸びの良さと液垂れ難さの点で優れるとともに、液伸びの良さと液垂れ難さとが両立する結果となった。
【0099】
尚、ブルックフィールド形回転粘度計のB形による測定では、この実施例1〜5の粘稠性樹脂組成物は、分速20回転時の粘度が20Pa・s〜80Pa・sの範囲内であり且つ粘度比(2rpm/10rpm)が3.8〜6.0の範囲内にあることが判明した。
【0100】
よって、揺変性付与剤として脂肪酸表面処理炭酸カルシウム若しくは脂肪酸表面処理炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムを用いた粘稠性樹脂組成物において、ブルックフィールド形回転粘度計のB形による分速20回転時の粘度が20Pa・s〜80Pa・sの範囲内であり且つ粘度比(2rpm/10rpm)が3.8〜6.0の範囲内にある場合に、液伸びの良さと液垂れ難さが両立した粘稠性樹脂組成物となるといえる。これに対し、比較例1〜6では上記性能を全て満たす樹脂組成物は得られない結果となった。
【0101】
また、第3アミン添加による10回転時の粘度の変化率は、実施例1〜5で絶対値4%未満の結果に対し、比較例1〜6では絶対値10%以上の結果であったことから、実施例1〜5の樹脂組成物は第3アミン添加による粘度変化の影響を受け難いことが明らかとなった。
【0102】
更に、攪拌時間延長による10回転時の粘度の変化率は、実施例2で2.1%の結果に対し、比較例2では13.3%、比較例4では−80.0%、比較例5では−30.0%の結果であったことから、実施例2の樹脂組成物は攪拌時間延長による粘度変化の影響を受け難いことが明らかとなった。
【0103】
以上、本実施例は、従来用いられていた熱硬化性樹脂組成物の揺変性付与剤であるコロイダルシリカ,繊維状鉱物及び微粉末鉱物の代わりに脂肪酸表面処理炭酸カルシウム若しくは脂肪酸表面処理炭酸カルシウムと重質炭酸カルシウムを用いることにより、液伸びの良さと液垂れ難さとを両立することができる。
【0104】
また、高価なコロイダルシリカに代わり安価な脂肪酸表面処理炭酸カルシウムを用いることにより、製品コストを抑制できるとともに、常温硬化系で用いる硬化促進剤の第3アミン及びナフテン酸コバルトを添加しても、組成物の粘稠性が低下することがない。
【0105】
また、本実施例の粘稠性樹脂組成物に用いる脂肪酸表面処理炭酸カルシウムは、粘稠性樹脂組成物製造時に粘性の撹拌時間依存性がないことから、一定粘性の品質を確保することができる。
【0106】
また、本実施例の粘稠性樹脂組成物は、塗布作業性と液垂れ難さの相反する性能を両立させることにより、コンクリートの不陸修正材及び多軸組布等の繊維シートを貼り付けるコンクリート剥落防止用接着剤として、優れた施工性を発揮することが出来る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物(A),脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(B)及び充填剤(C)から構成され、前記熱硬化性樹脂組成物(A)は不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂より選択される1種類以上の樹脂とラジカル重合性不飽和単量体とを含有することを特徴とする粘稠性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂より選択される1種類以上の樹脂が20〜100重量%、ラジカル重合性不飽和単量体が0〜80重量%である熱硬化性樹脂組成物(A)が採用され、更に、この熱硬化性樹脂組成物(A)が100重量部、脂肪酸表面処理炭酸カルシウム(B)が20〜200重量部及び充填剤(C)が0〜200重量部配合されていることを特徴とする粘稠性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1,2のいずれか1項に記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物は、ブルックフィールド形回転粘度計において、20℃環境下,分速20回転時の粘度が20Pa・s〜80Pa・sであるとともに、20℃環境下,分速2回転時の粘度を20℃環境下,分速10回転時の粘度で除した値が3.8〜6.0であることを特徴とする粘稠性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物はコンクリートの不陸修正材として用いられるものであることを特徴とする粘稠性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか1項に記載の粘稠性樹脂組成物において、この粘稠性樹脂組成物は多軸組布等の繊維シートを貼り付けるコンクリート剥落防止用接着剤として用いられるものであることを特徴とする粘稠性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−188552(P2006−188552A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381689(P2004−381689)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(591236437)株式会社 東邦アーステック (16)
【Fターム(参考)】