説明

精製フッ素樹脂の製造方法

【課題】本発明は、揮発成分の含有量を低減することができる精製フッ素樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、溶融加工可能なフッ素樹脂を加熱溶融状態で脱揮助剤と接触させる工程を含む精製フッ素樹脂の製造方法であって、上記工程は、脱揮助剤を加熱溶融状態のフッ素樹脂中に分散させた状態で行うことを特徴とする精製フッ素樹脂の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製フッ素樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融成形可能なフッ素樹脂において、未反応のモノマー、低分子量のポリマー、重合溶媒等の揮発成分が存在すると、成形不良等を引き起こすため、これらを除去して精製することが好ましい。
【0003】
フッ素樹脂以外の重合生成物に含まれる揮発成分を除去する方法として、ベント部を有するベント型押出機内で加熱溶融した重合生成物に不活性ガスや水等の揮発助剤を圧入して混練したのち減圧状態で揮発成分を除去する脱揮を行う方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5参照。)。
【0004】
フッ素樹脂が含有するオリゴマー成分を低減する方法として、溶融状態のフッ素樹脂表面を更新させながら不活性ガスと接触させる方法が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。しかしながら、この方法では、フッ素樹脂と不活性ガスとの接触を樹脂表面の更新のみに頼っており、L/Dが大きい設備が必要となるため、処理設備が大型化し省スペース化が図れなかった。更に、揮発成分の除去効率も充分ではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−262667号公報
【特許文献2】特開平8−207118号公報
【特許文献3】特開平11−292921号公報
【特許文献4】特開2000−143721号公報
【特許文献5】特開2000−309019号公報
【特許文献6】米国特許出願公開2005/0245725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、揮発成分の含有量を低減することができる精製フッ素樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、溶融加工可能なフッ素樹脂を加熱溶融状態で脱揮助剤と接触させる工程を含む精製フッ素樹脂の製造方法であって、上記工程は、脱揮助剤を加熱溶融状態のフッ素樹脂中に分散させた状態で行うことを特徴とする精製フッ素樹脂の製造方法である。
【0008】
本発明は、溶融加工可能なフッ素樹脂を二軸押出機によって溶融処理する精製フッ素樹脂の製造方法であって、上記二軸押出機は、シリンダの一領域である脱揮助剤添加ゾーンにおいて、脱揮助剤を導入しない状態でフッ素樹脂を押し出したときにフッ素樹脂がシリンダ内に充満することとなるスクリュー構成、上記脱揮助剤添加ゾーンに接続された、上記脱揮助剤を導入する脱揮助剤導入部、及び、上記脱揮助剤と揮発成分とを排出する脱揮助剤排出部を有しており、上記溶融処理は、上記脱揮助剤導入部から上記脱揮助剤を導入し、上記脱揮助剤排出部から上記脱揮助剤と揮発成分とを排出しながら行うことを特徴とする精製フッ素樹脂の製造方法である。
【0009】
本発明は、溶融加工可能なフッ素樹脂を二軸押出機中で加熱溶融させる工程(1)、加熱溶融させたフッ素樹脂に脱揮助剤を分散させる工程(2)、及び、上記脱揮助剤と揮発成分とを排出する工程(3)を有することを特徴とする精製フッ素樹脂の製造方法である。
【0010】
本発明は、上記製造方法により得られる精製フッ素樹脂である。
【0011】
本発明は、上記精製フッ素樹脂をフッ素含有ガスと接触させることにより得られることを特徴とする安定化フッ素樹脂である。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の精製フッ素樹脂の製造方法は、加熱溶融状態にあるフッ素樹脂を脱揮助剤と接触させることによって揮発成分を除去するに際して、脱揮助剤をフッ素樹脂中に分散させた状態、すなわち、フォーム状で接触させることを特徴とするものである。フォーム状とすることで、脱揮助剤とフッ素樹脂との界面の面積が大きくなるため、脱揮効率を向上させることができ、処理設備の小型化を図ることができる。
【0013】
本明細書において、脱揮とは、フッ素樹脂中の揮発成分を除くことであり、脱揮助剤とは、上記脱揮の効率を向上させるために脱揮処理中に使用する物質のことである。
【0014】
上記脱揮助剤がフッ素樹脂中に分散した状態を形成するための方法としては、例えば、シリンダ中のスクリューの構成を選択することによって、樹脂の流れをコントロールする方法が挙げられる。より具体的には、直列的に連結されたシリンダの一領域である脱揮助剤添加ゾーンにおいて、脱揮助剤を導入しない状態でフッ素樹脂を押し出したときにフッ素樹脂がシリンダ内に充満することとなるスクリュー構成、上記脱揮助剤添加ゾーンに接続された、脱揮助剤を導入する脱揮助剤導入部、及び、上記脱揮助剤と揮発成分とを排出する脱揮助剤排出部を有する二軸押出機を使用し、上記脱揮助剤導入部から脱揮助剤を導入し、上記脱揮助剤排出部から脱揮助剤と揮発成分とを排出しながら溶融処理を行うことによって、脱揮助剤がフッ素樹脂中に分散した状態とすることができる。
【0015】
上述したような押出機を使用すると、脱揮助剤添加ゾーンにおいて、フッ素樹脂が充満しているシリンダ内に脱揮助剤が注入され、脱揮助剤の注入箇所直後に分散混合の機能をもつスクリューエレメントを配置するとスクリューの回転による剪断を受けることによって、効率よく脱揮助剤が加熱溶融状態のフッ素樹脂中に分散されるものである。
【0016】
従来の技術においては、フッ素樹脂の充満率を低くし、表面更新を行うことで脱揮助剤と接触させていたが、本発明は充満率を高くし、混練することにより加圧状態で脱揮助剤を注入し、分散、発泡状態を形成させるものである。
【0017】
上記二軸押出機のスクリューは、各種のスクリューエレメントを適宜選択し、組み合わせることによって構成することができる。上記スクリューエレメントとしては、例えば、送り側にも戻り側にも搬送能力を持たず、分散・混合・混練の機能をもつニーディングディスク(例えば、特開2002−120271号公報の実施例の図7,8に示される。)、戻し側への搬送能力と分散・混合・混練の機能をもつバックニーディングディスク(例えば、特開2002−120271号公報の実施例の図2,3,9,10に示される。)、樹脂をせき止める効果をもつシールリング(例えば、特開平7−124945号公報に記載されているシールリング。)、逆フライト(例えば、特開2002−120271号公報の実施例の図11,12に示される。)等が挙げられる。
【0018】
脱揮助剤導入領域の両端にシールリングを設置したり、上記バックニーディングディスクの上流に混練用のスクリューエレメントを設置したりすることで、脱揮助剤を導入しない状態で樹脂を押し出したときに、フッ素樹脂がシリンダ内に充満することとなるスクリュー構成が実現できる。
【0019】
上記脱揮助剤添加ゾーンとは、二軸押出機のシリンダにおいて、フッ素樹脂が充満することとなるように構成されたスクリューが設置されている一領域を指し、すなわち、フッ素樹脂を押し出したときにフッ素樹脂が充満する一領域を指す。
【0020】
「フッ素樹脂がシリンダ内に充満する」とは、シリンダ内に自由空間が無い状態であることを意味し、気化した揮発成分が一部に空間を作っている場合等、シリンダ内が完全にフッ素樹脂により満たされていなくともよい。
【0021】
上記揮発成分としては、フッ素樹脂に含まれるオリゴマー等の低分子量体、未反応モノマー、副生産物等の不純物、残存する重合溶媒、HFやCOFなどの熱分解で発生するガス等が挙げられる。
【0022】
また、押出機中での反応(特表2006−505680号公報に開示されるフッ素化反応や特開平10−313669号公報、特開平11−250526号公報に開示される湿潤熱処理反応等。)の後に本発明を連続して行う場合は、上記反応によって生じたフッ素樹脂中に溶解しているF、HF、COF等のフッ素含有化合物や水などの除去も有効に行える。
【0023】
本発明の精製フッ素樹脂の製造方法は、溶融加工可能なフッ素樹脂を二軸押出機中で加熱溶融させる工程(1)、上記加熱溶融させた樹脂に脱揮助剤を分散させる工程(2)、及び、上記脱揮助剤と揮発成分とを排出する工程(3)を有する。上記工程(2)及び工程(3)は、除去効率を向上させることができる点で、2回以上繰り返し行うことが好ましい。
【0024】
上記溶融加工可能なフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PFA)、ビニリデンフルオライド重合体(PVdF)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン重合体(PCTFE)等が挙げられる。また、これらの共重合体に更に他のモノマーを共重合させた重合体であってもよく、具体的にはテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が挙げられる。
【0025】
上記フッ素樹脂を重合する方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができるが、例えば、溶液重合、乳化重合等が挙げられる。加熱溶融させるフッ素樹脂は、重合終了後の液状物に分散しているフッ素樹脂からなる粒子を凝集して濾取したのち乾燥して得られるものである。上記重合で用いる重合開始剤の種類や濃度、重合温度、重合圧力は特に限定されない。
【0026】
本発明の精製フッ素樹脂の製造方法は、二軸押出機によってフッ素樹脂を溶融処理するものである。上記二軸押出機は、投入した樹脂を加熱して溶融状態にする可塑化ゾーン、樹脂を充満させたところに脱揮助剤を添加する脱揮助剤添加ゾーン、脱揮助剤と揮発成分とを排出する脱揮ゾーンとを有している。上記二軸押出機は、シリンダを複数結合することにより、原料供給部、上記可塑化ゾーン、上記脱揮助剤添加ゾーン、上記脱揮ゾーン及び押出部を構成しており、二軸押出機に投入したフッ素樹脂は、二軸押出機の押出スクリュー(フライトスクリュー)によって移送される。上記脱揮助剤添加ゾーンを構成するシリンダには脱揮助剤導入部が接続されており、脱揮ゾーンを構成するシリンダには脱揮助剤排出部が接続されている。
【0027】
本発明に用いる二軸押出機としては、セルフクリーニング性が高いものが好ましい。セルフクリーニング性が高いものとしては、スクリュー型押出機が好ましい。上記スクリュー型押出機としては、用途に応じた適切なスクリューを配置することによりメルトシールを形成させやすく、また、滞留時間分布が狭く連続操作が可能である点から、二軸スクリュー型押出機が好ましい。メルトシールを形成させると、脱揮助剤添加ゾーンのシリンダ内にある樹脂の圧力を高め、揮発成分の分圧を下げることができ、脱揮効率を向上させることができる。
【0028】
二軸押出機の可塑化ゾーンにおいて、溶融加工可能なフッ素樹脂を加熱溶融させる。上記加熱溶融時の温度、時間等の条件としては上記フッ素樹脂が溶融状態になるのであれば特に限定されない。
【0029】
上記可塑化ゾーンにおいて、シリンダにベント孔を設けることにより、常圧下又は減圧下に揮発成分の少なくとも一部を留去することが好ましい。この段階で留去しておくと、後の脱揮ゾーンでの揮発成分除去効率を向上させることができる。
【0030】
上記可塑化ゾーンにおいて溶融させたフッ素樹脂は、次に脱揮助剤添加ゾーンに送られる。本発明の精製フッ素樹脂の製造方法では、脱揮助剤添加ゾーンにおいて工程(2)を行い、脱揮助剤を溶融状態のフッ素樹脂中に分散させる。
【0031】
上記脱揮助剤添加ゾーンは、投入するフッ素樹脂の種類にもよるが、150〜380℃に温度設定することがより好ましい。150℃未満であると、フッ素樹脂の溶融が不充分となり、脱揮助剤との混合が不充分となって、揮発成分の除去を促進しにくい。380℃を超えると、フッ素樹脂の劣化を招く場合がある。脱揮助剤添加ゾーンの設定温度の好ましい下限は、170℃、好ましい上限は、330℃、より好ましい上限は、320℃である。
【0032】
上記二軸押出機は、脱揮助剤を導入する脱揮助剤導入部を有し、上記脱揮助剤導入部が接続されたシリンダは、脱揮助剤を導入しない状態で樹脂を押し出したときに上記シリンダ内にフッ素樹脂が充満するように構成されたスクリュー構成を有している。
【0033】
上記脱揮助剤導入部は、フッ素樹脂が充満したシリンダ内に脱揮助剤を直接導入できる部分に設ける。上記脱揮助剤導入部は、脱揮助剤が気体の場合、シリンダに設けた孔から適切な圧力に調整した高圧ガスを注入できる手段を備える。脱揮助剤が液体の場合、シリンダに設けた孔から連続的に注入できるようにポンプ等の送液手段を備える。
【0034】
上記脱揮助剤添加ゾーンにおいて、上記脱揮助剤導入部から導入された脱揮助剤とフッ素樹脂とを混合する。脱揮助剤添加ゾーンのシリンダ内に充満したフッ素樹脂と脱揮助剤とを脱揮助剤添加ゾーンに設置されているニーディングディスク等の分散、混合、混練機能を有するスクリューで混合することにより、脱揮助剤が気体の場合はフッ素樹脂中に高度に分散した状態で取り込まれ、いわゆるフォーム状となる。この場合、フッ素樹脂中の揮発成分の拡散がフォーム/ポリマー界面を通じて始まる。脱揮助剤が液体の場合は、脱揮助剤導入部の樹脂圧力が液体の蒸気圧以上の圧力になるようにスクリューエレメントを構成することで、脱揮助剤が液体のまま分散し、脱揮部で減圧された場合に急激に気化し、発泡する。この場合、フッ素樹脂中の揮発成分は発泡現象が現れる時点から気泡/ポリマー界面を通じて気泡中への拡散が始まり、脱揮ゾーンの急激な減圧で崩壊し気泡中に含まれる揮発成分がベントを通じて外部に排出される。
【0035】
フッ素樹脂が充満したシリンダ内部の圧力(絶対圧力)は、大気圧を超えるものであることが好ましい。圧力が高いと、除去する揮発成分の分圧が下がるので、揮発成分除去の効率を高めることができる。上限は特に限定されないが、50MPaであることが好ましい。50MPaを超えると、圧力に見合った除去効率が得られにくい。上記圧力は、除去効率向上の点で、脱揮助剤の蒸気圧以上であることが好ましい。上記圧力の好ましい下限は、0.1MPa、より好ましい下限は、0.2MPa、より好ましい上限は、7MPaである。
【0036】
上記圧力は、圧力計により測定することができる。
【0037】
フッ素樹脂が充満したシリンダ内(脱揮助剤添加ゾーン)をフッ素樹脂が通過する時間としては特に限定されず、設定温度、脱揮助剤の存在量、押出機の構造等にもよるが、通常、10分未満である。10分以上であると、剪断力が多く加えられてしまいフッ素樹脂が劣化する傾向にある。上記通過時間は、上記範囲内であれば、0.2分以上が好ましく、好ましい上限は1分である。0.2分未満であると、除去効率が不充分となりやすい。
【0038】
上記脱揮助剤とは、溶融状態のフッ素樹脂中に存在する揮発成分を除去するために添加するものである。上記脱揮助剤は、気体であっても液体であってもよい。また、上記脱揮助剤は、窒素、ヘリウム等のフッ素樹脂に対して不活性な物質であってもよいし、フッ素、水等のフッ素樹脂に対して活性な物質であってもよい。上記脱揮助剤としては、ポリマーに対して不活性な気体であることが好ましく、なかでも、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、及び、二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1種の気体であることが好ましい。
【0039】
上記脱揮助剤の投入量は特に限定されないが、揮発成分の除去効率を向上させることができる点で、脱揮助剤添加によって絶対圧力が上述の範囲内となる量が好ましい。
【0040】
上記脱揮助剤導入部から導入した脱揮助剤は、フッ素樹脂と接触させた後、工程(3)として、脱揮助剤排出部から揮発成分と共に排出する。
【0041】
脱揮助剤排出部は、上述した脱揮ゾーンのシリンダに接続することができる。上記脱揮ゾーンは、複数のシリンダからなるものが好ましく、上記シリンダは2〜4個がより好ましい。複数のシリンダを使用すると、脱揮ゾーンに温度勾配をもたせることができるので、脱揮ゾーンの温度コントロールを安定させ、二軸押出機から押し出されるフッ素樹脂の物性、排出速度を安定させることができる。
【0042】
上記排出は、シリンダに設けたベント孔に真空ポンプをつなぎ減圧下にシリンダ内のフッ素樹脂から揮発成分を抜き出して押出機の外部に排出する方法(真空ベント)により行うことができる。上記ベント孔は、揮発成分除去を効率よく行う点で、2〜4個設けることが好ましい。
【0043】
脱揮ゾーンの圧力(絶対圧力)は、フッ素樹脂の溶融状態や二軸押出機のスクリュー回転数等の運転条件により異なるが、脱揮助剤排出部の排気ノズルにフッ素樹脂が侵入しない程度に減圧することが好ましく、例えば、0.1MPa以下とすることができる。
【0044】
脱揮ゾーンのフッ素樹脂の温度としては特に限定されないが、130〜380℃が好ましい。130℃未満であると、フッ素樹脂の粘度が高く攪拌が困難となりやすく、380℃を超えると、フッ素樹脂の分解が起こり品質を低下させる場合がある。
【0045】
溶融処理後のフッ素樹脂は、溶融状態でダイから押出して冷却・固化し、所望の形状を有する精製フッ素樹脂とすることができる。
【0046】
精製フッ素樹脂の形状は特に限定されず、二軸押出機の押出口におけるダイの形状等により、所望の形状とすることができるが、汎用性等の点で、ペレットとすることが好ましい。得られたペレットは、別の成形機に投入して所望の成形物の作製に供することができる。
【0047】
本発明の精製フッ素樹脂をフッ素含有ガスと接触(反応)させて分子鎖末端を−CFに変換した安定化フッ素樹脂もまた本発明の一つである。安定化フッ素樹脂は、揮発性が改善され、熱安定に優れており、押出成形性をさらに向上させることができる。また、本発明で得た精製フッ素樹脂は低分子量物が大幅に削減されているために、精製フッ素樹脂の分子鎖末端を−CFに変換するために要するフッ素含有ガスの使用量を非精製フッ素樹脂と比較して減少させることができ、−CFの変換に要する反応時間も大きく削減できる。更に、−CFに変換する工程からフッ素含有ガスを除去する際に、低分子量物の多いフッ素樹脂であると生じる反応装置やフッ素含有ガスを排出する配管等に糊状の低分子量体がこびりつき、配管の閉塞や排ガス処理工程の閉塞などの問題も軽減される。これら生産設備上のトラブルも軽減され、生産機会損失を防ぐことができるので、生産効率の向上やコストダウンに繋がる。
【0048】
精製フッ素樹脂の分子鎖末端を−CFに変換するために要するフッ素含有ガスの使用量を非精製フッ素樹脂と比較して減少させることができ、−CFの変換に要する反応時間も大きく削減できる理由としては、精製フッ素樹脂に含まれる低分子量物が大幅に削減されているために、フッ素含有ガス中のフッ素と反応することとなる不安定末端基の数が少ないためである。
【0049】
特に、−CFに変換する際の条件は、フッ素含有ガスの種類、濃度、反応温度には拘らない。すべての場合において精製フッ素樹脂を用いることで生産効率が向上する。好ましい変換条件においては、フッ素含有ガスとして、Fガス濃度が10〜90%、Nガス10%〜90%の混合ガスを用いる。また、温度の好ましい条件は40℃以上、230℃以下である。より好ましくは100℃以上、220℃以下である。
【0050】
上記安定化フッ素樹脂を用いることにより、成形した場合の気泡や空隙の発生を更に少なくすることができる。また、ケーブルの被覆材として成形される場合には、成形機出口のダイ部の目ヤニが減少し、精製フッ素樹脂と比べて、被覆切れや成形品表面の凹凸が更に減少し、成形品の不良率を更に低減できる。
【0051】
精製フッ素樹脂が有する分子鎖末端としては、−COF基、−COOH基、−CHOH基、−CONH基、−COOCH基、−CFH基等の不安定末端基が挙げられる。上記安定化フッ素樹脂は、−COF基、−COOH基、−CHOH基、−CONH基、−COOCH基及び−CFH基の総数が主鎖炭素原子10個あたり50個以下であるものが好ましい。
【0052】
上記不安定末端基の数は、FT−IR Spectrometer 1760X(Perkin Elmer社製)を用いて、赤外吸収分光測定を行うことにより、米国特許第3085083号明細書、特開2005−298659号公報に記載されている方法により測定したものである。
【0053】
本発明の精製フッ素樹脂の製造方法によれば、フッ素樹脂に残存する揮発成分の量を著しく減じることができる。本発明の精製フッ素樹脂の製造方法によると、二軸押出機に供給する前においてフッ素樹脂の0.5〜20質量%程度含有されていた揮発成分を、得られる精製フッ素樹脂の0.05質量%以下にまで低減することができる。更に条件を最適化すれば、0.01質量%以下とすることも可能である。残存する揮発成分の量は、フッ素樹脂の0.05質量%以上であっても、通常の用途において好ましく使用することができる。
【発明の効果】
【0054】
本発明の精製フッ素樹脂の製造方法は、含有する揮発成分が充分に低減された精製フッ素樹脂を得ることができるものであり、高温で揮発する揮発成分も充分に低減された精製フッ素樹脂を得ることができる。揮発成分の量が低減された精製フッ素樹脂のペレットは、成形した場合に気泡や空隙を少なくすることができる。また、ケーブルの被覆材として成形される場合には、成形機出口のダイ部の目ヤニが減少し、従来のペレットに比べ、被覆切れや成形品表面の凹凸が減少し、成形品の不良率を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、実施例、比較例を示し、本発明を具体的に説明する。なお、各実施例及び比較例において、各値の測定は以下の方法により行った。
【0056】
(1)ペレットのポリマー物性
ポリマーの組成は特公昭63−2281号公報に記載された測定方法によって決定した。
【0057】
(2)揮発成分量
米国特許第6,703,464号明細書に記載のある(D)Volatile Content Indexに開示された測定方法にて測定した。
【0058】
(3)フッ素樹脂中の不安定末端基数
FT−IR Spectrometer 1760X(Perkin Elmer社製)を用いて、赤外分光吸収測定を行い、米国特許第3085083号明細書、特開2005−298659号公報に記載されている方法により分析した。
【0059】
製造例1 パウダーの製造
本実施例、比較例に使用したペレット化前のパウダー(A)は米国特許第6,703,464号明細書に記載のある比較例3に開示された手法にて作製した。
【0060】
実施例1
パウダー(A)を、シリンダ径32mm、L/D=31.5、シリンダ数9の二軸押出機を用いて処理し、ペレットを得た。処理はパウダー(A)を20kg/時間の速度で供給した。第6シリンダにおいて窒素を3NL/分で添加した。第7,8シリンダの真空度は80kPaとした。処理時間は約80秒であった。
【0061】
処理に使用した二軸押出機は、第1シリンダを原料供給部とし、第2〜5シリンダを主に送り(右ねじ)で構成された可塑化ゾーン(第3シリンダ後半に戻り(左ねじ)のニーディングディスクを配置しメルトシールにより背圧を立て、粉末が完全溶融するゾーン。)を設け、その直後の第4シリンダにベント孔を設け、溶融の際に出る揮発成分を除去するようにした。第6シリンダにニーディングディスクと戻り(左ねじ)フライトを設け(L/D=0.5の戻りフライト1枚、L/D=0.5のニュートラルニーディングディスク2枚、L/D=0.5の戻りのニーディングディスクを3枚、L/D=0.5の戻りフライト1枚で構成した(L/D=3.5)。)、脱揮助剤導入部を接続した(脱揮助剤添加ゾーン)。第7シリンダ、第8シリンダには真空ベントを設けた(脱揮ゾーン)。真空ベントが配置されるシリンダ部のフライトスクリューはベントアップ(樹脂が真空ベントに進入すること)の防止に効果的な搬送能力の高いアンダーカットフライトスクリュー(特開2001−232676に示される。)を用いた。シリンダ構成の模式図を図1に示す。
【0062】
得られたペレットのポリマー物性は、TFE87.2wt%、HFP11.8wt%、PPVE1.0wt%であった。揮発成分量は、0.06wt%であり、揮発成分量を削減することができた。
【0063】
また、二軸押出機の連続運転中に窒素と原料の供給を遮断し、主モータ急停止した後、シリンダ6の上部を急激に開放したところ、ムース状のフッ素樹脂があふれ出し、発泡し始めたので、脱揮助剤が細かく分散し、フォームを形成していることが分かった。
【0064】
実施例2
パウダー(A)を、シリンダ径32mm、L/D=42、シリンダ数12の二軸押出機を用いて処理し、ペレットを得た。パウダー(A)を20kg/時間の速度で供給した。第6シリンダにおいて窒素を3NL/分で添加した。処理時間は約120秒であった。
【0065】
処理に使用した二軸押出機は、第1シリンダを原料供給部とし、第2〜5シリンダを主に送り(右ねじ)で構成された可塑化ゾーン(第3シリンダ後半に戻り(左ねじ)のニーディングディスクを配置しメルトシールにより背圧を立て、粉末が完全溶融するゾーン)を設け、その直後の第4シリンダにベント孔を設け、溶融の際に出る揮発成分を除去するようにした。第6シリンダにニーディングディスクと戻り(左ねじ)フライトを設け(L/D=0.5の戻りフライト1枚、L/D=0.5のニュートラルニーディングディスク2枚、L/D=0.5の戻りのニーディングディスクを2枚、L/D=0.5の戻りフライト1枚で構成した(L/D=3.0)。)、脱揮助剤導入部を接続した(第1の脱揮助剤添加ゾーン)。第7シリンダには真空ベントを設けた(脱揮ゾーン)。第9シリンダに戻り(左ねじ)フライトを設置し(L/D=0.5の戻りフライト1枚、L/D=0.5のニュートラルニーディングディスク2枚、L/D=0.5の戻りのニーディングディスクを3枚、L/D=0.5の戻りフライト1枚で構成した(L/D=3.5)。)、脱揮助剤導入部を接続した(第2の脱揮助剤添加ゾーン)。第10,11シリンダには真空ベントを配置した(脱揮ゾーン)。真空ベントが配置されるシリンダ部のフライトスクリューはベントアップ(樹脂が真空ベントに進入すること。)の防止に効果的な搬送能力の高いアンダーカットフライトスクリューを用いた。シリンダ構成の模式図を図2に示す。
【0066】
得られたペレットのポリマー物性は、TFE87.2wt%、HFP11.8wt%、PPVE1.0wt%であった。揮発成分量は、0.05wt%であり、揮発成分量を削減することができた。
【0067】
比較例1
パウダー(A)を、シリンダ径32mm、L/D=31.5、シリンダ数9の二軸押出機を用いて処理し、ペレットを得た。
【0068】
処理に使用した二軸押出機は、第1シリンダを原料供給部とし、第2〜9シリンダを送り(右ねじ)のフライトで構成した。第8シリンダに真空ベントを配置した。シリンダ構成の模式図を図3に示す。上記原料粉末を20kg/時間の速度で供給し、第8シリンダの真空度は80kPaとした。処理時間は約40秒であった。
【0069】
得られたペレットのポリマー物性は、TFE87.2wt%、HFP11.8wt%、PPVE1.0wt%であった。揮発成分量は、0.15wt%であった。
【0070】
比較例2
パウダー(A)を、シリンダ径32mm、L/D=31.5、シリンダ数9の二軸押出機を用いて処理し、ペレットを得た。パウダー(A)を20kg/時間の速度で供給し、第8シリンダの真空度は80kPaとした。処理時間は約55秒であった。
【0071】
処理に使用した二軸押出機は、第1シリンダを原料供給部とし、第2〜5シリンダを主に送り(右ねじ)で構成された可塑化ゾーン(第3シリンダ後半に戻り(左ねじ)のニーディングディスクを配置しメルトシールにより背圧を立て、粉末が完全溶融するゾーン。)を設け、その直後の第4シリンダにベント孔を設け、溶融の際に出る揮発成分を除去するようにした。第5〜9シリンダを主に送り(右ねじ)のフライトで構成した(第5シリンダの前半と第7シリンダの後半にL/D=0.5の戻りのニーディングディスクを2枚配置した。)。第6シリンダから窒素を導入した。第8シリンダに真空ベントを配置した。シリンダ構成の模式図を図4に示す。
【0072】
得られたペレットのポリマー物性は、TFE87.2wt%、HFP11.8wt%、PPVE1.0wt%であった。揮発成分量は、0.09wt%であった。
【0073】
実施例3
実施例2で得られたペレットをNガスで希釈された25%濃度のFガスと200℃で9時間接触させ、不安定末端基が主鎖炭素原子10個あたり18個になった安定化フッ素樹脂を得た。
【0074】
比較例3
比較例1で得られたペレットをNガスで希釈された25%濃度のFガスと200℃で15時間接触させ、不安定末端基が主鎖炭素原子10個あたり39個になった安定化フッ素樹脂を得た。
【0075】
実施例3と比較例3の結果から、精製フッ素樹脂をフッ素化すると、短時間で不安定末端基を減少させ得ることが分かった。
【0076】
押出被覆実験例
実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2で作成したフッ素樹脂の各ペレットを、以下の条件で押出被覆実験を行い、目ヤニ量を判定した。
【0077】
(1)成形条件
・芯線規格:AWG24
・芯線径:20.1mil(=約0.51mm)
・絶縁材厚み:7.5mil(約0.19mm)
・絶縁電線径:35.1mil(約0.89mm)
【0078】
(2)押出被覆の条件
・シリンダ径:50mm
・L/D:30
・設定温度(℃):Z1:338 Z2:360 Z3:371 Z4:382 Z5:399 CL:404 AD:404 HD:404 DIE:404
・芯線予備加熱:165℃
・コーン長:4.7cm
・空冷長:20ft
・ダイの内径:8.71mm
・チップの外径:4.75mm
・成形速度:1800ft/m
【0079】
上記条件で電線成形し、成形開始から6時間後のダイ部に付着する目ヤニを目視で比較した結果、実施例1、実施例2、実施例3で作製したフッ素樹脂は、比較例1、比較例2で作成したものよりも、大幅に目ヤニ量が減っている結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の精製フッ素樹脂の製造方法は、揮発成分を減少させたフッ素樹脂を製造する用途に好適に使用できる。本発明の精製フッ素樹脂は、気泡や空隙が少なく、端切れや厚みの班、表面の荒れ等の不具合のない高品質の最終製品を成形する材料として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例1の二軸押出機のシリンダ構成を示す模式図及びフッ素樹脂の充満率を示したグラフである。
【図2】実施例2の二軸押出機のシリンダ構成を示す模式図及びフッ素樹脂の充満率を示したグラフである。
【図3】比較例1の二軸押出機のシリンダ構成を示す模式図及びフッ素樹脂の充満率を示したグラフである。
【図4】比較例2の二軸押出機のシリンダ構成を示す模式図及びフッ素樹脂の充満率を示したグラフである。
【符号の説明】
【0082】
1 原料供給口
2 シリンダ
3 第1シリンダ
4 第9シリンダ
5 ベント
6 脱揮助剤導入部
7 脱揮助剤排出部(真空ベント)
8 グラフの縦軸:充満率(%)の計算値
9 グラフの横軸:模式図の長さ方向の距離とグラフの横軸とは対応関係にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融加工可能なフッ素樹脂を加熱溶融状態で脱揮助剤と接触させる工程を含む精製フッ素樹脂の製造方法であって、
前記工程は、脱揮助剤を加熱溶融状態のフッ素樹脂中に分散させた状態で行うことを特徴とする精製フッ素樹脂の製造方法。
【請求項2】
溶融加工可能なフッ素樹脂を二軸押出機によって溶融処理する精製フッ素樹脂の製造方法であって、
前記二軸押出機は、
シリンダの一領域である脱揮助剤添加ゾーンにおいて、脱揮助剤を導入しない状態でフッ素樹脂を押し出したときにフッ素樹脂がシリンダ内に充満することとなるスクリュー構成、
前記脱揮助剤添加ゾーンに接続された、前記脱揮助剤を導入する脱揮助剤導入部、及び、
前記脱揮助剤と揮発成分とを排出する脱揮助剤排出部
を有しており、
前記溶融処理は、前記脱揮助剤導入部から前記脱揮助剤を導入し、前記脱揮助剤排出部から前記脱揮助剤と揮発成分とを排出しながら行う
ことを特徴とする精製フッ素樹脂の製造方法。
【請求項3】
溶融加工可能なフッ素樹脂を二軸押出機中で加熱溶融させる工程(1)、
加熱溶融させたフッ素樹脂に脱揮助剤を分散させる工程(2)、及び、
前記脱揮助剤と揮発成分とを排出する工程(3)
を有することを特徴とする精製フッ素樹脂の製造方法。
【請求項4】
脱揮助剤は、不活性ガスである請求項1、2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
不活性ガスは、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム及びCOからなる群より選択される少なくとも1種である請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
溶融加工可能なフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、及び、クロロトリフルオロエチレン重合体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の製造方法により得られることを特徴とする精製フッ素樹脂。
【請求項8】
請求項7記載の精製フッ素樹脂をフッ素含有ガスと接触させることにより得られることを特徴とする安定化フッ素樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−95978(P2009−95978A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266633(P2007−266633)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】