紙片識別装置及び紙片識別方法
【課題】 表面が平滑な場合でも紙片の真贋判定を可能とするとともに、紙片の特徴を検出する際に照明方向や紙の位置・姿勢の厳密な調整を不要とする。また、真贋判定方式を知る者には偽造が不可能とする。
【解決手段】紙片の真贋判定において、透過像を用い、紙片の真贋を判定する。紙片特徴量はデータベースで一括管理する。透過像から数値的に特徴量を抽出し、データベースに登録した特徴量と比較して、真贋判定を行う。
【解決手段】紙片の真贋判定において、透過像を用い、紙片の真贋を判定する。紙片特徴量はデータベースで一括管理する。透過像から数値的に特徴量を抽出し、データベースに登録した特徴量と比較して、真贋判定を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,紙片の識別装置及び紙片の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、文書の偽造防止、著作権保護のため、紙面上に非可視かつ改ざん不可能なパターンを印刷する技術が開発されてきている。例えば、非特許文献1では、文字の一部分に切断加工を施すことにより、目視では分からないように情報を埋め込む技術が述べられている。また、非特許文献2には、濃淡画像を2値化表示でハードコピーする際に,署名画像を走査し,署名部に該当する画素では出力画像と検証画像に互いに異なるパターンセルを記録することにより,密かに署名を記録する技術が述べられている。
【0003】
一方、文書の用途によっては、紙自身の真贋が問われることがある。例えば、切手、紙幣、交通機関や興行の切符は、その紙片自身に社会的な価値がある。複写物には価値は認められない。場合によっては、同じ内容を複写すること自体が禁じられている。こうした文書が用いる際には、紙片自身のアイデンティティを特定する必要がある。紙片自身の特徴から紙片を特定する方式としては、非特許文献3および非特許文献4がある。これは、紙の表面の凹凸を反射像で検出し、この特徴を数値的に表現し、予め紙片にバーコードで印字してある特徴と比較することで紙片の真贋を判定する。登録時には凹凸を観察する領域を表す黒点を印刷しておく。真贋判定時には、まずこの黒点を検出し、次にその検出結果に従って特徴を検出する。
【0004】
また、特許文献1には、紙片の識別情報(タグ)を、紙片上に不規則に分布するドットのような多数のパターンの中から採用し、識別対象物から検知されたパターン信号を、タグの特性として予め検知されているパターン信号と比較して、検証する手段が開示されている。
【0005】
【特許文献1】United States Patent 4,785,290
【非特許文献1】林克明、上田 芳弘、岩田 雅士、木村 春彦「文字への加工を利用したハードコピーへの情報ハイディングの一提案」情報処理学会誌Vol.44 No.11(2003)
【非特許文献2】岡一博、中村康弘、松井、甲子雄「濃度パターン法を用いたハードコピー画像への署名の埋込み」電子情報通信学会論文誌Vol.J79-D2 No.9 pp.1624-1626(1996)
【非特許文献3】Eric Metois, Paul M. Yarin, Noah Salzman, and Joshua R. Smith, 擢iberFingerprint Identification (Proceedings of the Third Workshop on Automatic Identification, Tarrytown, NY, March 2002, pp. 147-154)
【非特許文献4】Joshua R. Smith, 的mperceptible Sensory Channels, (IEEE Computer, Vol. 37, No. 6, pp. 84-85, June 2004)
【非特許文献5】Neil Gershenfeld, 典he Physics of Information Technology pp. 183-186, Cambridge University Press, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1や非特許文献2に開示された技術は、印刷されている内容に情報を埋め込む技術であり、印刷されている紙自身には関わらないものである。高解像度の複写機で異なる紙に複写した場合には、埋め込まれた情報も同じように複写される。このため、その紙が本物か、複写物かを判断することはできない。
【0007】
また、非特許文献3ないし非特許文献4に開示された従来技術には、3つの問題点がある。第一の問題点は、上質な紙の表面の凹凸は非常に小さく、反射像から光学的に凹凸を検出するのは困難なことである。特にコーティングを施して表面が平滑にしてある場合には、ほとんど凹凸の検出は不可能である。このため、この従来技術の適用対象は比較的品質の悪く表面が粗い紙片に限られてしまう。
【0008】
第二の問題点は、反射像は照明の方向により変化することである。紙の表面の凹凸を反射像の明暗で捉えるためには、照明光は紙片表面に垂直でなく、斜めに入射する必要がある。こうして得られる明暗は、照明の角度により変化する。このため、紙片ごとに照明を適切な角度に調整する必要がある。
【0009】
第三の問題点は、本技術の特徴抽出方式およびバーコード印字方式を知るものには偽造が可能となることである。すなわち、本技術に従って黒点を印刷し、その領域から特徴を取り出し、その結果をバーコードで印刷した場合には、偽造を検知できない。このため、特徴抽出方式およびバーコード印字方式を秘匿しなければ、真贋判定自身が不可能となってしまう。
【0010】
さらに、特許文献1に開示された従来技術は、実際には複製できない不規則な変化をもたらす識別情報を採用しているので判定方式を知るものでも偽造は困難であるが、識別情報の特定のために限られた点を飛び飛びに観測するため、判定に際して厳密な位置合わせが必要という欠点がある。
【0011】
本発明が解決しようとする第一の課題は、表面が平滑な場合でも紙片の真贋判定を可能とすることである。
【0012】
本発明が解決しようとする第二の課題は、紙片の特徴を検出する際に照明方向や紙の位置・姿勢の厳密な調整を不要とすることである。
【0013】
本発明が解決しようとする第三の課題は、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能であり、しかも、判定操作の容易な真贋判定方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明は、識別対象の紙片の透過像を撮る透過像撮像手段と、前記透過像の特徴を数値的に抽出する特徴抽出手段と、前記特徴抽出手段で得られた特徴量と予め記憶してある標準特徴量の相違の度合いを距離値として計算する距離計算手段と、前記距離値が一定値以下か否かで前記紙片の真贋を判定する判定手段を有することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、紙片の表面の凹凸に代わり、透過像を用い、紙片を特定する特徴を検出する。透過像を用いると、表面が平滑である場合にも、紙の内部構造による二次元像を得ることができる。この像は紙片を特定するのに十分な特徴を含んでいる。また、透過像は、背面より紙片に垂直に照明をあてることにより得られる。反射光を用いる方式のような、照明方向による二次元像の変化はない。このため、透過像を取得後、画像処理によって回転・位置補正を施せば、真贋判定に必要な特徴の抽出が可能となる。
【0016】
また、上記の第三の課題を解決するため、本発明では、紙片の特徴量を紙片の識別子とともに、遠隔地のサーバ上のデータベースで一括管理するようにする。真贋判定時には紙片に印刷されている識別子を認識し、その識別子に応じた標準的な特徴量と、紙片から新たに抽出された特徴量を比較する。この方式によれば、データベースに登録されていないものは贋物とみなされる。このため、たとえ本方式の真贋判定方式を知っている者であっても、偽造は不可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能となる。また、紙片の特徴を検出する際に照明方向の調整が不要となる。また、特徴量、特徴抽出領域をデータベースで管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能であり、しかも、判定操作の容易な真贋判定方式を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、実施例により詳細に説明する。
[第一の実施例]
本発明の第一の実施例として、ネットワークを用いた紙片の真贋判定システムを図1ないし図11で説明する。
まず、図1に、紙片登録・識別装置(単に紙片識別装置と呼ぶ場合もある)の構成例を示す。この図は、本発明の各実施例に用いる紙片識別装置の基本構成例を示す図である。本装置は、少なくとも1台の計算機とこの計算機にインターフェイスを介して接続された各種入出力用端末装置からなるシステムとして構成される。計算機上で各々所定の処理手順を記述した複数のプログラムを実行させることにより、このシステムを紙片登録・識別装置として機能させる。すなわち、紙片登録・識別装置100は、透過像撮影手段101、反射像撮影手段102、演算手段103、通信手段104、記憶手段105の各部がバスで接続されて構成されている。透過像撮影手段102は、紙片の特徴を検出するために用いる。透過像撮影手段101の原理は、図4Aで後述する。反射像撮影手段102は、紙片に印刷されているマーク、識別子を認識するために用いる。ここで、識別子とは、紙片毎に付与される固有な整数値である。また、マークとは、紙片の特徴量を抽出する領域を指定するために、紙片上に印刷するものである。
【0019】
一例として、演算手段103、通信手段104、記憶手段105は、所定のプログラムを具備した計算機を用いて構成される。また、透過像撮影手段101及び反射像撮影手段102は計算機に対する入出力用端末装置の一部を構成し、これらの撮影手段で取得した紙片像のデータをA/D変換して計算機に送信する機能を有する。
【0020】
すなわち、演算手段103は、汎用のMPU(Micro Processing Unit)で、図3以下で述べる識別子認識処理322、313、マーク検出処理324、314、特徴抽出処理325、315、距離計算処理318、摂動処理316、判定処理319を実行するのに用いる。通信手段104は、例えばIEEE802.11bのような汎用のLANへの接続インタフェースである。通信段手段104を介して、後述する標準特徴量データベース209を管理するサーバとデータを交換する。
【0021】
記憶手段105は、例えばFlash EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)のような不揮発性のメモリである。記憶手段105には、識別子認識106、マーク検出107、摂動108、特徴抽出処理109、距離計算110、判定処理111の各処理の処理手順を記述するプログラム106を格納する。また、後述する登録処理で用いる際の処理手順および真贋判定処理で用いる際の処理手順もプログラム106に記述しておき、切り替えて使用できるようにする。また、特徴量112、識別子113も記憶手段105に格納する。
【0022】
紙片登録・識別装置100は、汎用のMPUで識別子認識処理、マーク検出処理、特徴抽出処理、距離計算処理、摂動処理、及び判定処理を実行することにより、マークで指定した領域中の紙片の特徴量を識別子認識結果とともに通信手段を介して出力する。
【0023】
なお、特徴量112、識別子113は、紙片登録・識別装置100を構成する計算機本体(又はサーバ)の記憶手段105で管理しても良いが、紙片登録・識別装置100に対して遠隔地に有りネットワークを介して接続された他のサーバ上のデータベースで一括管理するのが望ましい。
【0024】
図2に、このようなネットワークを用いた紙片の真贋判定システムの構成例を示す。本システムは、ネットワークで接続された複数台の計算機及び各種の端末装置からなる複数の登録・識別装置を備えた真贋判定システム200として構成される。すなわち、本システム200は、紙片201に対する印刷装置202、第1の登録・識別装置203、第2の登録・識別装置204を有する登録・識別処理サーバ(もしくは端末装置)と、特徴量データベース管理サーバ206で構成されており、これらのサーバ(もしくは端末装置)がネットワーク205で接続されている。第1の登録・識別装置203と第2の登録・識別装置204は、いずれも、図1の実施例に示した登録・識別装置100に相当する構成となっている。ただ、各登録・識別装置の特徴量データベース209は、登録・識別装置本体から離れた遠隔の位置にありネットワークで接続された共通の特徴量データベース管理サーバ206に格納される点で異なる。なお、登録・識別の各処理用に個別にサーバ(もしくは端末装置)を構成しても良いことは言うまでも無い。
【0025】
本システム200によれば、特徴量データベース管理サーバ206で、識別子発行処理及び印刷装置202を用いた識別子・マーク印刷の処理を実行する。また、標準特徴量データベースへの登録処理も、特徴量データベース管理サーバ206で実行する。それ以外の登録処理は、第1の登録・識別装置203で実行する。
【0026】
また、真贋判定処理は、第2の登録・識別装置204で実行する。ただし、真贋判定処理における標準特徴量呼び出し処理は、特徴量データベース管理サーバ206で実行する。
【0027】
図3に、第一の実施例の各処理プログラムのより具体的な構成、流れを示す。この例において、処理は、印刷、登録、真贋判定の3つの段階に分かれている。
【0028】
印刷処理301は、紙片303に登録処理、識別処理で必要なマークと識別子を紙片上に印刷する処理である。登録処理307は、紙片320の特徴量を抽出して標準特徴量データベース209に登録する処理である。ここで特徴量とは、紙片の透過像から得られるひとつ以上の数値である。登録時に抽出した特徴量は、真贋判定時の標準的な特徴量として用いるので、標準特徴量と呼ぶ。ここで、紙片320は予め印刷処理301でマークと識別子を印刷してあるものとする。真贋判定処理302は、紙片310の真贋を特徴量に基づいて判定する処理である。ここでは、予め標準特徴量データベース209に登録されている紙片のみを本物と判定される。もし、事前に登録されているならば真贋判定処理はTRUEを、登録されていないならばFALSEを出力する。
【0029】
以下では、印刷、登録、真贋判定の各処理を詳細に説明する。
印刷処理301では、まず識別子発行処理305で、標準特徴量データベース209を参照し、まだ識別子として未使用の整数値を新たな識別子として発行する。次に、識別子およびマークを紙片に印刷する(304)。印刷には、通常のプリンタを用いる。識別子はバーコードもしくは数字で紙片に印刷する。また、マークの印刷形式の詳細は図11にて説明する。
【0030】
登録処理307では、まず、紙片320の反射像を撮像する(321)。続いて、透過像を撮像する(323)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(322)。ここでは、既存のバーコード認識技術あるいは文字認識技術を用いる。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(324)。さらに、得られた透過像中から特徴量を抽出する(325)。この際、特徴量はマークで指定した領域から抽出するようにする。次に、得られた特徴量を識別子と対にして標準特徴量データベース209に登録する(326)。
【0031】
真贋判定処理302の際には、まず、紙片310の反射像を撮像する(311)。続いて、透過像を撮像する(312)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(313)。次に、得られた識別子を参照し、特徴量データベース209より識別子に該当する標準特徴量を呼び出す(317)。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(314)。マーク位置より推定した特徴抽出領域座標には、印刷、検出の過程で生じる誤差が含まれることがある。そこで、特徴抽出領域座標を摂動処理316にて少しずつずらし、ずらした領域から特徴量を抽出し(315)、得られた特徴量と標準特徴量の相違の度合い(距離値)を計算する(318)。ずらし方は摂動パラメータとして予め1通りあるいは複数通り記憶しておく。ここでは、距離の尺度としてユークリッド距離を用いる。最後に、判定処理319で真贋の判定結果を出力する。判定処理319では、いずれかの摂動条件で、得られた距離値が予め設定した閾値θ以下となれば、紙片310は本物とみなし、TRUEを出力する。予め設定してあるいかなる摂動条件でも距離値が閾値θより大きければ、紙片310を贋物とみなし、FALSEを出力する。
【0032】
透過像の撮像原理を、図4Aに示す。光源401は紙片402を背面から照らす。非特許文献5にあるように、紙の繊維はもともと透明であるが、紙片内の微細な構造により、入射光は散乱する。発明者の観察によると、この際の、光の透過のし方は、紙片内の微細な構造や紙片の厚さの微妙な変化を反映し、その結果得られる透過像は紙片毎に独特なものになる。この像を、レンズ403で二次元撮像素子404に結像するようにする。こうした装置構成により、紙片の透過像を撮像することができる。
【0033】
図4Bに、紙片の透過像の一例を示す。これは、市販の透過型スキャナを用い、上質紙を600DPIで撮像したものである。印刷の際に、濃淡を強調してある。
【0034】
登録処理の処理手順を、図5に示す。まず、登録対象の紙片の透過像を撮像し(501)、次に反射像を撮像する(502)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(503)。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(504)。次に、透過像中から特徴量を抽出する(505)。最後に、得られた特徴量を識別子と対にして標準特徴量データベース209に登録する(506)。
【0035】
真贋判定処理の処理手順を図6に示す。まず、真贋判定対象の紙片310の反射像を撮像する(601)。続いて、透過像を撮像する(602)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(603)。次に、得られた識別子を参照し、標準特徴量データベース209より識別子に該当する標準特徴量を呼び出す(604)。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(605)。次に、摂動パラメータの数だけ、ループ606にて、以下の処理を繰り返す。まず、マーク検出結果を摂動パラメータで補正する(609)。次に、補正して得られる特徴量抽出領域から、特徴量を抽出する(610)。次に、得られた特徴量と標準特徴量の距離値を計算する(611)。次に、もし、距離値が閾値θ以下であれば(612)、判定結果をTRUEとし(613)、Label1(608)へジャンプし、処理を終了する。ループが終了したならば、判定結果をFALSEとし(607)、処理を終了する。
【0036】
なお、特徴抽出処理は、図3の登録処理307、真贋判定処理302で用いるが、これらは全て同じ処理である。
【0037】
図7に、この特徴抽出処理の詳細な構成例を示す。
特徴抽出処理701では、まず、指定された特徴抽出領域座標に基づき、透過像から部分画像を切出して、正規化する(702)。この際、予め定められた寸法の矩形(標準矩形)に合わせて画像を射影変換して切出す。次に、ローパスフィルター(LPF)を画像にかけ、ノイズを低減する(703)。次に、得られた画像に対しヒストグラム正規化を行う(704)。これは、画素値のヒストグラムを求め、ヒストグラムが平坦になるよう画素値を変換する処理である。
【0038】
この処理により、登録時の透過像撮像323と真贋判定時の透過像撮像312との特性の違いを補正することが可能となる。最後に、ヒストグラム正規化(704)の結果得られた画像から、数値的な特徴を取り出す(705)。数値的な特徴としては、例えば、各画素の画素値を用いる。この場合は、画像切出し・正規化(702)の出力が横w画素、縦h画素の矩形のRGBカラー画像であるならば、3×w×h個の特徴量が得られることとなる。また、別な特徴の例としては、予め指定した座標での、予め指定したフィルタ出力を用いる。必要に応じ、指定座標および/またはフィルタの種類を予め複数しておき、複数の特徴量を抽出する。
【0039】
画像切出し・正規化処理(702)の概要を、図8に示す。本実施例では、特徴抽出領域は透過像中の4隅の座標で指定する。この場合、図8の(A)に示すように、特徴抽出領域は必ずしも標準矩形とはならない。また、傾いている場合もある。そこで、射影変換を用いて、特徴抽出領域中の画素値を標準矩形中に複写するようにする。この際、(A)に示す特徴抽出領域の4隅の座標(P1, P2, P3, P4)が、(B)に示すような標準矩形の4隅の座標(P'1, P'2, P'3, P'4)に一致するよう、射影変換のパラメータを設定する。
【0040】
図3の摂動処理316の概要を、図9に示す。本実施例では、摂動パラメータδi(1≦I≦n)をn個予め記憶しておく。各摂動パラメータδiは8つの変数(δxi1, δyi1, δxi2, δyi2, δxi3, δyi3, δxi4, δyi4)からなる。それぞれの変数を用い、図9の(A)から図9の(B)に示すように特徴抽出領域を変化させる。
【0041】
なお、摂動処理316のループ606では、n個の摂動パラメータを一つ一つ用いて特徴抽出領域を変化させ(609)、特徴抽出(610)、距離計算(611)を実行する。
【0042】
図10は、δxi1=δxi2=δxi3=δxi4=δxi、δyi1=δyi2=δyi3=δyi4=δyiとし、δxiとδyiを様々に変え、距離計算処理318の出力値を測定した実験結果の一例である。図10からわかるように、適切な摂動パラメータでは(この例では図形の中央部において)、距離値が著しく小さくなっている一方、それ以外の場合(すなわち、場所がずれている場合)、距離値は一様に大きい。また、贋物の紙片から得られる距離値も、同様の大きくなることが実験で分かっている。このため、適切な閾値を用いることにより、本物と贋物を区別できる。
【0043】
図11に、本実施例におけるマークの一例を模式的に示す。この例では紙片1101に、図11の(A)に示すような識別子を表すバーコード1105とともに3つの黒点1102, 1103, 1104がマークとして印刷してある。このマークにより、図11の(B)の斜線部1106に示すような領域が指定される。なお、斜線部1106は紙片には印刷されるわけでなく、特徴抽出領域を模式的に示すため図中で用いた。
【0044】
マークの3つの点はそれぞれ図8の(A)のP1, P4, P3を表すものとみなす。残りの1点であるP2の座標は、特徴抽出領域が平行四辺形であるとの仮定に基づき、P1, P4, P3から推定する。
【0045】
本実施例によれば、紙片の表面の凹凸に代わり、透過像を用い、紙片を特定する特徴を検出する。透過像を用いると、表面が平滑である場合にも、紙の内部構造による二次元像を得ることができる。この像は紙片を特定するのに十分な特徴を含んでいる。また、透過像は、背面より紙片に垂直に照明をあてることにより得られる。反射光を用いる方式のような、照明方向による二次元像の変化はない。このため、透過像を取得後、画像処理によって回転・位置補正を施せば、真贋判定に必要な特徴の抽出が可能となる。すなわち、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能になる。また、紙片の特徴を検出する際に、照明方向の調整は必要ない。
【0046】
また、本発明では、紙片の特徴量を紙片の識別子とともに、遠隔地のサーバ上のデータベースで一括管理するようにする。真贋判定時には紙片に印刷されている識別子を認識し、その識別子に応じた標準的な特徴量と、紙片から新たに抽出された特徴量を比較する。この方式によれば、データベースに登録されていないものは贋物とみなされる。このため、たとえ本方式の真贋判定方式を知っている者であっても、偽造は不可能となる。すなわち、特徴量、特徴抽出領域を装置本体から離れた遠隔地のデータベースで管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能となるので、システムの信頼性を高めることができる。
【0047】
また、二次元撮像素子のような二次元センサを用いて位置合わせ用のマークを検出し、これに応じて透過像の特徴を検出するため、厳密な位置合わせが不要であり、判定操作は容易に行える。
【0048】
さらに、本実施例によれば、ネットワークを介して接続された複数の登録・識別装置により登録・識別を分散処理することで、処理速度を向上させることができる。そのため、多量の紙片の真贋判定処理に適したシステムを構築できる。また、複数の登録・識別装置に対応する標準特徴量を共通の特徴量データベース管理サーバで管理するので、システムの信頼性を高めることができる。
【0049】
[第二の実施例]
本発明の第二の実施例を図12、図13で説明する。まず、この実施例の紙片の真贋判定システム1200の構成を図12に示す。本システムは登録装置(サーバ又は端末)1201、真贋判定装置1202(サーバ又は端末)、特徴量データベース管理サーバ1204で構成されており、これらがネットワーク1203で接続されている。本実施例の紙片登録・識別装置1200は、特徴抽出領域の座標自身をデータベースで一括管理するものであり、特徴量データベース管理サーバ1204は、標準特徴量データベース1205及び特徴抽出領域座標データベース1206を備えている。登録処理における識別子発行と標準特徴量登録処理は、特徴量データベース管理サーバ1204で実行する。識別子・マーク印刷、透過像撮像、特徴抽出は、登録装置1201で実行する。真贋判定処理における標準特徴量呼び出し処理は特徴量データベース管理サーバ1204で実行する。それ以外の処理は真贋判定装置1202で実行する。
【0050】
図13に、第二の実施例の構成及び処理の流れを示す。登録処理1301では、まず標準特徴量データベース1311を参照して新たな識別子を発行し(1304)、紙片1302に識別子を印刷する(1303)。次に、紙片の透過像を撮像する(1305)。次に、特徴抽出領域座標設定処理1306にて乱数的に特徴抽出領域を設定し、透過像から特徴量を抽出する(1307)。得られた特徴量は識別子とともに標準特徴量データベース1311に登録する(1308)。さらに、特徴抽出領域座標も識別子と対にして特徴抽出領域座標データベース1310に登録する(1309)。
【0051】
真贋判定処理1312では、まず、紙片1313の反射像を撮像し(1314)、さらに透過像を撮像する(1317)。得られた反射像または透過像を用い、紙片1313に印刷されている識別子を認識する(1315)。次に識別子に応じた特徴抽出領域座標を特徴抽出領域座標データベース1310から呼び出す(1318)。呼び出した特徴抽出領域座標に摂動を施し(1320)、透過像から特徴量を抽出する(1321)。一方、識別子に応じた標準特徴量を標準特徴量データベースより呼び出す(1316)。紙片1313から得られた特徴量(1319)と標準特徴量の距離値(1321)を計算する。判定処理1322では、いずれかの摂動条件で、得られた距離値が予め設定した閾値θ以下となれば、紙片1313は本物とみなし、TRUEを出力する。予め設定してあるいかなる摂動条件でも距離値が閾値θより大きければ、紙片1313を贋物とみなし、FALSEを出力する。
【0052】
本実施例によれば、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能になる。また、紙片の特徴を検出する際に、照明方向の調整は必要ない。特徴量、特徴抽出領域を装置本体から離れた遠隔地のデータベースで一括管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能となる。また、特徴抽出領域の座標自身をデータベースで一括管理するので、安全性がより高くなる。さらに、二次元センサを用いて位置合わせ用のマークを検出し、これに応じて透過像の特徴を検出するため、厳密な位置合わせが不要である。
【0053】
[第三の実施例]
本発明の第三の実施例を図14に示す。この実施例は、本発明を紙片、例えば、切手、紙幣、切符など複数種の正式な紙片が発行されているもののアイデンティティの識別に応用したものである。この実施例では、識別対象の紙片があらかじめ登録されている複数種の紙片のいずれに該当するかを特定する処理を行う。この実施例の紙片の真贋判定システムのハード構成は、例えば図2の実施例と同様な構成であり、記憶手段にアイデンティティ識別処理用のプログラムが追加されているものとする。
【0054】
登録処理1401では、まず紙片1403に対し、マークを印刷し(1404)、さらに透過像を撮影する(1406)。得られた透過像から特徴量を抽出し(1407)、識別子発行処理(1405)で得られた識別子とともに標準特徴量データベース1409に登録する(1408)。登録処理1401を様々な紙片に対して実行し、標準特徴量データベース1409に複数の紙片を登録する。紙片識別処理1402では、まず、紙片1410から反射像を撮像し(1411)、さらに透過像を撮像する(1412)。次に得られた反射像もしくは透過像からマークを検出し(1414)、摂動を施して(1416)、透過像から特徴量を抽出する(1415)。得られた特徴量と標準特徴量データベース1409中の特徴量との距離値を計算し(1418)、最も距離が小さくなる摂動パラメータと識別子の組み合わせを求める(1419)。その結果の識別子を、紙片の識別結果とする。これにより、標準特徴量データベース1409に登録されている複数種の紙片の中から、最も紙片1410に類似したものを見つけることができる。
【0055】
[第四の実施例]
図15に、本発明の第四の実施例になる紙片登録・識別装置の処理の流れを示す。本実施例の紙片登録・識別装置は、第一の実施例の標準特徴量データベース209に相当するものがない。代わりに、この実施例では、紙片の標準特徴量はバーコードなどにより紙片に印刷するようにする。その他の構成は第一の実施例と同じである。
【0056】
真贋判定の際は、標準特徴量を紙片から認識後、透過像から得た特徴量と比較する。登録処理1501では、まず紙片1502の透過像を撮像し(1503)、特徴量を抽出し(1504)、特徴量とマークを印刷する(1505)。必要に応じ、標準特徴量は暗号化して印刷する。
【0057】
真贋判定処理1506では、まず紙片1507の反射像を撮像し(1508)、さらに二次元センサを用いて透過像を撮像する(1150)。得られた反射像または透過像から、紙片に印刷してある標準特徴量を認識する(1509)。次に、紙片のマークを検出し(1511)、得られた特徴抽出領域に摂動を施し(1513)、特徴量を抽出し(1512)、標準特徴量との距離値を計算する(1514)。マーク位置より推定した特徴抽出領域座標には、印刷、検出の過程で生じる誤差が含まれることがある。そこで、特徴抽出領域座標を摂動処理(1513)にて少しずつずらし、ずらした領域から特徴量を抽出し(1512) 、得られた特徴量と標準特徴量の相違の度合い(距離値)を計算する(1514) 。判定処理(1515)で真贋の判定結果を出力する。判定処理では、もし、距離値が閾値θ以下であれば、TRUEを、距離値がθ以下となる摂動パラメータがない場合にはFALSEを出力する。
【0058】
本実施例によれば、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能になる。また、紙片の特徴を検出する際に、照明方向の調整は必要ない。特徴量、特徴抽出領域をデータベースで一括管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能となる。また、二次元センサを用いてマークを検出し、これに応じて透過像の特徴を検出するため、厳密な位置合わせが不要である。また、紙片の標準特徴量を紙片に印刷するので、標準特徴量データベースは不要となる。
【0059】
[第五の実施例]
以上の各実施例では、マークと識別子または特徴量は、別々に紙片に印刷するようにしている。本発明の第五の実施例として、これらを同じバーコードで印刷することも可能である。図16の(A)の例では、紙片1601に印刷したバーコード1602に識別子または特徴量とともに、特徴抽出領域の座標が記してある。この場合、座標値は、バーコードとの相対位置で記すこととする。これにより、バーコードを読み取れば、図16の(B)の斜線部1603に示すような特徴抽出領域を得ることができる。
【0060】
なお、以上述べた本発明の各実施例における標準特徴量データベースや特徴抽出領域座標データベースは、必ずしも、登録・識別装置本体に対して物理的に遠隔地にあるデータベース管理サーバに設ける必要はない。真贋判定方式を知る者を含む一般のオペレータが、標準特徴量データベースや特徴抽出領域座標データベースへアクセスする権限に種々の制限を加えることにより、特徴量データベース管理サーバを登録・識別装置に対して物理的には近接した位置に設置するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の各実施例に用いる紙片識別装置の基本構成例を示す図である。
【図2】本発明の第一の実施例になる真贋判定システムの構成例を示す図である。
【図3】本発明の第一の実施例の処理の構成を示す図である。
【図4A】第一の実施例における透過像の撮像原理を示す図である。
【図4B】第一の実施例における透過像の例を示す図である。
【図5】第一の実施例における登録処理の手順を示す図である。
【図6】第一の実施例における真贋判定処理の手順を示す図である。
【図7】第一の実施例における特徴抽出処理の構成を示す図である。
【図8】第一の実施例における画像切出し・正規化処理の模式図である。
【図9】第一の実施例における摂動処理の模式図である。
【図10】第一の実施例における距離値と摂動量の関係を示す図である。
【図11】第一の実施例におけるマークの例を示す図である。
【図12】本発明の第二の実施例のシステム構成例を示す図である。
【図13】本発明の第二の実施例の処理の構成を示す図である。
【図14】本発明の第三の実施例の処理の構成を示す図である。
【図15】本発明の第四の実施例の処理の構成を示す図である。
【図16】本発明の第五の実施例の処理の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
100…紙片登録・識別装置、101…透過像撮影手段、102…反射像撮影手段、103…演算手段、104…通信手段、105…記憶手段、200…真贋判定システム、201…紙片、202…印刷装置、203…第1の登録・識別装置、204…第2の登録・識別装置、205…ネットワーク、206…特徴量データベース管理サーバ、209…標準特徴量データベース、301…登録処理、302…真贋判定処理、303…紙片、307…印刷処理、310…紙片、320…紙片、401…光源、402…紙片、403…レンズ、404…二次元撮像素子、1101…紙片、1102,1103,1104…マーク、1105…バーコード、1106…特徴抽出領域。
【技術分野】
【0001】
本発明は,紙片の識別装置及び紙片の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、文書の偽造防止、著作権保護のため、紙面上に非可視かつ改ざん不可能なパターンを印刷する技術が開発されてきている。例えば、非特許文献1では、文字の一部分に切断加工を施すことにより、目視では分からないように情報を埋め込む技術が述べられている。また、非特許文献2には、濃淡画像を2値化表示でハードコピーする際に,署名画像を走査し,署名部に該当する画素では出力画像と検証画像に互いに異なるパターンセルを記録することにより,密かに署名を記録する技術が述べられている。
【0003】
一方、文書の用途によっては、紙自身の真贋が問われることがある。例えば、切手、紙幣、交通機関や興行の切符は、その紙片自身に社会的な価値がある。複写物には価値は認められない。場合によっては、同じ内容を複写すること自体が禁じられている。こうした文書が用いる際には、紙片自身のアイデンティティを特定する必要がある。紙片自身の特徴から紙片を特定する方式としては、非特許文献3および非特許文献4がある。これは、紙の表面の凹凸を反射像で検出し、この特徴を数値的に表現し、予め紙片にバーコードで印字してある特徴と比較することで紙片の真贋を判定する。登録時には凹凸を観察する領域を表す黒点を印刷しておく。真贋判定時には、まずこの黒点を検出し、次にその検出結果に従って特徴を検出する。
【0004】
また、特許文献1には、紙片の識別情報(タグ)を、紙片上に不規則に分布するドットのような多数のパターンの中から採用し、識別対象物から検知されたパターン信号を、タグの特性として予め検知されているパターン信号と比較して、検証する手段が開示されている。
【0005】
【特許文献1】United States Patent 4,785,290
【非特許文献1】林克明、上田 芳弘、岩田 雅士、木村 春彦「文字への加工を利用したハードコピーへの情報ハイディングの一提案」情報処理学会誌Vol.44 No.11(2003)
【非特許文献2】岡一博、中村康弘、松井、甲子雄「濃度パターン法を用いたハードコピー画像への署名の埋込み」電子情報通信学会論文誌Vol.J79-D2 No.9 pp.1624-1626(1996)
【非特許文献3】Eric Metois, Paul M. Yarin, Noah Salzman, and Joshua R. Smith, 擢iberFingerprint Identification (Proceedings of the Third Workshop on Automatic Identification, Tarrytown, NY, March 2002, pp. 147-154)
【非特許文献4】Joshua R. Smith, 的mperceptible Sensory Channels, (IEEE Computer, Vol. 37, No. 6, pp. 84-85, June 2004)
【非特許文献5】Neil Gershenfeld, 典he Physics of Information Technology pp. 183-186, Cambridge University Press, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1や非特許文献2に開示された技術は、印刷されている内容に情報を埋め込む技術であり、印刷されている紙自身には関わらないものである。高解像度の複写機で異なる紙に複写した場合には、埋め込まれた情報も同じように複写される。このため、その紙が本物か、複写物かを判断することはできない。
【0007】
また、非特許文献3ないし非特許文献4に開示された従来技術には、3つの問題点がある。第一の問題点は、上質な紙の表面の凹凸は非常に小さく、反射像から光学的に凹凸を検出するのは困難なことである。特にコーティングを施して表面が平滑にしてある場合には、ほとんど凹凸の検出は不可能である。このため、この従来技術の適用対象は比較的品質の悪く表面が粗い紙片に限られてしまう。
【0008】
第二の問題点は、反射像は照明の方向により変化することである。紙の表面の凹凸を反射像の明暗で捉えるためには、照明光は紙片表面に垂直でなく、斜めに入射する必要がある。こうして得られる明暗は、照明の角度により変化する。このため、紙片ごとに照明を適切な角度に調整する必要がある。
【0009】
第三の問題点は、本技術の特徴抽出方式およびバーコード印字方式を知るものには偽造が可能となることである。すなわち、本技術に従って黒点を印刷し、その領域から特徴を取り出し、その結果をバーコードで印刷した場合には、偽造を検知できない。このため、特徴抽出方式およびバーコード印字方式を秘匿しなければ、真贋判定自身が不可能となってしまう。
【0010】
さらに、特許文献1に開示された従来技術は、実際には複製できない不規則な変化をもたらす識別情報を採用しているので判定方式を知るものでも偽造は困難であるが、識別情報の特定のために限られた点を飛び飛びに観測するため、判定に際して厳密な位置合わせが必要という欠点がある。
【0011】
本発明が解決しようとする第一の課題は、表面が平滑な場合でも紙片の真贋判定を可能とすることである。
【0012】
本発明が解決しようとする第二の課題は、紙片の特徴を検出する際に照明方向や紙の位置・姿勢の厳密な調整を不要とすることである。
【0013】
本発明が解決しようとする第三の課題は、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能であり、しかも、判定操作の容易な真贋判定方式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明は、識別対象の紙片の透過像を撮る透過像撮像手段と、前記透過像の特徴を数値的に抽出する特徴抽出手段と、前記特徴抽出手段で得られた特徴量と予め記憶してある標準特徴量の相違の度合いを距離値として計算する距離計算手段と、前記距離値が一定値以下か否かで前記紙片の真贋を判定する判定手段を有することを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、紙片の表面の凹凸に代わり、透過像を用い、紙片を特定する特徴を検出する。透過像を用いると、表面が平滑である場合にも、紙の内部構造による二次元像を得ることができる。この像は紙片を特定するのに十分な特徴を含んでいる。また、透過像は、背面より紙片に垂直に照明をあてることにより得られる。反射光を用いる方式のような、照明方向による二次元像の変化はない。このため、透過像を取得後、画像処理によって回転・位置補正を施せば、真贋判定に必要な特徴の抽出が可能となる。
【0016】
また、上記の第三の課題を解決するため、本発明では、紙片の特徴量を紙片の識別子とともに、遠隔地のサーバ上のデータベースで一括管理するようにする。真贋判定時には紙片に印刷されている識別子を認識し、その識別子に応じた標準的な特徴量と、紙片から新たに抽出された特徴量を比較する。この方式によれば、データベースに登録されていないものは贋物とみなされる。このため、たとえ本方式の真贋判定方式を知っている者であっても、偽造は不可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能となる。また、紙片の特徴を検出する際に照明方向の調整が不要となる。また、特徴量、特徴抽出領域をデータベースで管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能であり、しかも、判定操作の容易な真贋判定方式を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を、実施例により詳細に説明する。
[第一の実施例]
本発明の第一の実施例として、ネットワークを用いた紙片の真贋判定システムを図1ないし図11で説明する。
まず、図1に、紙片登録・識別装置(単に紙片識別装置と呼ぶ場合もある)の構成例を示す。この図は、本発明の各実施例に用いる紙片識別装置の基本構成例を示す図である。本装置は、少なくとも1台の計算機とこの計算機にインターフェイスを介して接続された各種入出力用端末装置からなるシステムとして構成される。計算機上で各々所定の処理手順を記述した複数のプログラムを実行させることにより、このシステムを紙片登録・識別装置として機能させる。すなわち、紙片登録・識別装置100は、透過像撮影手段101、反射像撮影手段102、演算手段103、通信手段104、記憶手段105の各部がバスで接続されて構成されている。透過像撮影手段102は、紙片の特徴を検出するために用いる。透過像撮影手段101の原理は、図4Aで後述する。反射像撮影手段102は、紙片に印刷されているマーク、識別子を認識するために用いる。ここで、識別子とは、紙片毎に付与される固有な整数値である。また、マークとは、紙片の特徴量を抽出する領域を指定するために、紙片上に印刷するものである。
【0019】
一例として、演算手段103、通信手段104、記憶手段105は、所定のプログラムを具備した計算機を用いて構成される。また、透過像撮影手段101及び反射像撮影手段102は計算機に対する入出力用端末装置の一部を構成し、これらの撮影手段で取得した紙片像のデータをA/D変換して計算機に送信する機能を有する。
【0020】
すなわち、演算手段103は、汎用のMPU(Micro Processing Unit)で、図3以下で述べる識別子認識処理322、313、マーク検出処理324、314、特徴抽出処理325、315、距離計算処理318、摂動処理316、判定処理319を実行するのに用いる。通信手段104は、例えばIEEE802.11bのような汎用のLANへの接続インタフェースである。通信段手段104を介して、後述する標準特徴量データベース209を管理するサーバとデータを交換する。
【0021】
記憶手段105は、例えばFlash EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)のような不揮発性のメモリである。記憶手段105には、識別子認識106、マーク検出107、摂動108、特徴抽出処理109、距離計算110、判定処理111の各処理の処理手順を記述するプログラム106を格納する。また、後述する登録処理で用いる際の処理手順および真贋判定処理で用いる際の処理手順もプログラム106に記述しておき、切り替えて使用できるようにする。また、特徴量112、識別子113も記憶手段105に格納する。
【0022】
紙片登録・識別装置100は、汎用のMPUで識別子認識処理、マーク検出処理、特徴抽出処理、距離計算処理、摂動処理、及び判定処理を実行することにより、マークで指定した領域中の紙片の特徴量を識別子認識結果とともに通信手段を介して出力する。
【0023】
なお、特徴量112、識別子113は、紙片登録・識別装置100を構成する計算機本体(又はサーバ)の記憶手段105で管理しても良いが、紙片登録・識別装置100に対して遠隔地に有りネットワークを介して接続された他のサーバ上のデータベースで一括管理するのが望ましい。
【0024】
図2に、このようなネットワークを用いた紙片の真贋判定システムの構成例を示す。本システムは、ネットワークで接続された複数台の計算機及び各種の端末装置からなる複数の登録・識別装置を備えた真贋判定システム200として構成される。すなわち、本システム200は、紙片201に対する印刷装置202、第1の登録・識別装置203、第2の登録・識別装置204を有する登録・識別処理サーバ(もしくは端末装置)と、特徴量データベース管理サーバ206で構成されており、これらのサーバ(もしくは端末装置)がネットワーク205で接続されている。第1の登録・識別装置203と第2の登録・識別装置204は、いずれも、図1の実施例に示した登録・識別装置100に相当する構成となっている。ただ、各登録・識別装置の特徴量データベース209は、登録・識別装置本体から離れた遠隔の位置にありネットワークで接続された共通の特徴量データベース管理サーバ206に格納される点で異なる。なお、登録・識別の各処理用に個別にサーバ(もしくは端末装置)を構成しても良いことは言うまでも無い。
【0025】
本システム200によれば、特徴量データベース管理サーバ206で、識別子発行処理及び印刷装置202を用いた識別子・マーク印刷の処理を実行する。また、標準特徴量データベースへの登録処理も、特徴量データベース管理サーバ206で実行する。それ以外の登録処理は、第1の登録・識別装置203で実行する。
【0026】
また、真贋判定処理は、第2の登録・識別装置204で実行する。ただし、真贋判定処理における標準特徴量呼び出し処理は、特徴量データベース管理サーバ206で実行する。
【0027】
図3に、第一の実施例の各処理プログラムのより具体的な構成、流れを示す。この例において、処理は、印刷、登録、真贋判定の3つの段階に分かれている。
【0028】
印刷処理301は、紙片303に登録処理、識別処理で必要なマークと識別子を紙片上に印刷する処理である。登録処理307は、紙片320の特徴量を抽出して標準特徴量データベース209に登録する処理である。ここで特徴量とは、紙片の透過像から得られるひとつ以上の数値である。登録時に抽出した特徴量は、真贋判定時の標準的な特徴量として用いるので、標準特徴量と呼ぶ。ここで、紙片320は予め印刷処理301でマークと識別子を印刷してあるものとする。真贋判定処理302は、紙片310の真贋を特徴量に基づいて判定する処理である。ここでは、予め標準特徴量データベース209に登録されている紙片のみを本物と判定される。もし、事前に登録されているならば真贋判定処理はTRUEを、登録されていないならばFALSEを出力する。
【0029】
以下では、印刷、登録、真贋判定の各処理を詳細に説明する。
印刷処理301では、まず識別子発行処理305で、標準特徴量データベース209を参照し、まだ識別子として未使用の整数値を新たな識別子として発行する。次に、識別子およびマークを紙片に印刷する(304)。印刷には、通常のプリンタを用いる。識別子はバーコードもしくは数字で紙片に印刷する。また、マークの印刷形式の詳細は図11にて説明する。
【0030】
登録処理307では、まず、紙片320の反射像を撮像する(321)。続いて、透過像を撮像する(323)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(322)。ここでは、既存のバーコード認識技術あるいは文字認識技術を用いる。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(324)。さらに、得られた透過像中から特徴量を抽出する(325)。この際、特徴量はマークで指定した領域から抽出するようにする。次に、得られた特徴量を識別子と対にして標準特徴量データベース209に登録する(326)。
【0031】
真贋判定処理302の際には、まず、紙片310の反射像を撮像する(311)。続いて、透過像を撮像する(312)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(313)。次に、得られた識別子を参照し、特徴量データベース209より識別子に該当する標準特徴量を呼び出す(317)。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(314)。マーク位置より推定した特徴抽出領域座標には、印刷、検出の過程で生じる誤差が含まれることがある。そこで、特徴抽出領域座標を摂動処理316にて少しずつずらし、ずらした領域から特徴量を抽出し(315)、得られた特徴量と標準特徴量の相違の度合い(距離値)を計算する(318)。ずらし方は摂動パラメータとして予め1通りあるいは複数通り記憶しておく。ここでは、距離の尺度としてユークリッド距離を用いる。最後に、判定処理319で真贋の判定結果を出力する。判定処理319では、いずれかの摂動条件で、得られた距離値が予め設定した閾値θ以下となれば、紙片310は本物とみなし、TRUEを出力する。予め設定してあるいかなる摂動条件でも距離値が閾値θより大きければ、紙片310を贋物とみなし、FALSEを出力する。
【0032】
透過像の撮像原理を、図4Aに示す。光源401は紙片402を背面から照らす。非特許文献5にあるように、紙の繊維はもともと透明であるが、紙片内の微細な構造により、入射光は散乱する。発明者の観察によると、この際の、光の透過のし方は、紙片内の微細な構造や紙片の厚さの微妙な変化を反映し、その結果得られる透過像は紙片毎に独特なものになる。この像を、レンズ403で二次元撮像素子404に結像するようにする。こうした装置構成により、紙片の透過像を撮像することができる。
【0033】
図4Bに、紙片の透過像の一例を示す。これは、市販の透過型スキャナを用い、上質紙を600DPIで撮像したものである。印刷の際に、濃淡を強調してある。
【0034】
登録処理の処理手順を、図5に示す。まず、登録対象の紙片の透過像を撮像し(501)、次に反射像を撮像する(502)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(503)。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(504)。次に、透過像中から特徴量を抽出する(505)。最後に、得られた特徴量を識別子と対にして標準特徴量データベース209に登録する(506)。
【0035】
真贋判定処理の処理手順を図6に示す。まず、真贋判定対象の紙片310の反射像を撮像する(601)。続いて、透過像を撮像する(602)。得られた反射像もしくは透過像から、紙片に印刷してある識別子を認識する(603)。次に、得られた識別子を参照し、標準特徴量データベース209より識別子に該当する標準特徴量を呼び出す(604)。次に、反射像もしくは透過像から、マークを検出する(605)。次に、摂動パラメータの数だけ、ループ606にて、以下の処理を繰り返す。まず、マーク検出結果を摂動パラメータで補正する(609)。次に、補正して得られる特徴量抽出領域から、特徴量を抽出する(610)。次に、得られた特徴量と標準特徴量の距離値を計算する(611)。次に、もし、距離値が閾値θ以下であれば(612)、判定結果をTRUEとし(613)、Label1(608)へジャンプし、処理を終了する。ループが終了したならば、判定結果をFALSEとし(607)、処理を終了する。
【0036】
なお、特徴抽出処理は、図3の登録処理307、真贋判定処理302で用いるが、これらは全て同じ処理である。
【0037】
図7に、この特徴抽出処理の詳細な構成例を示す。
特徴抽出処理701では、まず、指定された特徴抽出領域座標に基づき、透過像から部分画像を切出して、正規化する(702)。この際、予め定められた寸法の矩形(標準矩形)に合わせて画像を射影変換して切出す。次に、ローパスフィルター(LPF)を画像にかけ、ノイズを低減する(703)。次に、得られた画像に対しヒストグラム正規化を行う(704)。これは、画素値のヒストグラムを求め、ヒストグラムが平坦になるよう画素値を変換する処理である。
【0038】
この処理により、登録時の透過像撮像323と真贋判定時の透過像撮像312との特性の違いを補正することが可能となる。最後に、ヒストグラム正規化(704)の結果得られた画像から、数値的な特徴を取り出す(705)。数値的な特徴としては、例えば、各画素の画素値を用いる。この場合は、画像切出し・正規化(702)の出力が横w画素、縦h画素の矩形のRGBカラー画像であるならば、3×w×h個の特徴量が得られることとなる。また、別な特徴の例としては、予め指定した座標での、予め指定したフィルタ出力を用いる。必要に応じ、指定座標および/またはフィルタの種類を予め複数しておき、複数の特徴量を抽出する。
【0039】
画像切出し・正規化処理(702)の概要を、図8に示す。本実施例では、特徴抽出領域は透過像中の4隅の座標で指定する。この場合、図8の(A)に示すように、特徴抽出領域は必ずしも標準矩形とはならない。また、傾いている場合もある。そこで、射影変換を用いて、特徴抽出領域中の画素値を標準矩形中に複写するようにする。この際、(A)に示す特徴抽出領域の4隅の座標(P1, P2, P3, P4)が、(B)に示すような標準矩形の4隅の座標(P'1, P'2, P'3, P'4)に一致するよう、射影変換のパラメータを設定する。
【0040】
図3の摂動処理316の概要を、図9に示す。本実施例では、摂動パラメータδi(1≦I≦n)をn個予め記憶しておく。各摂動パラメータδiは8つの変数(δxi1, δyi1, δxi2, δyi2, δxi3, δyi3, δxi4, δyi4)からなる。それぞれの変数を用い、図9の(A)から図9の(B)に示すように特徴抽出領域を変化させる。
【0041】
なお、摂動処理316のループ606では、n個の摂動パラメータを一つ一つ用いて特徴抽出領域を変化させ(609)、特徴抽出(610)、距離計算(611)を実行する。
【0042】
図10は、δxi1=δxi2=δxi3=δxi4=δxi、δyi1=δyi2=δyi3=δyi4=δyiとし、δxiとδyiを様々に変え、距離計算処理318の出力値を測定した実験結果の一例である。図10からわかるように、適切な摂動パラメータでは(この例では図形の中央部において)、距離値が著しく小さくなっている一方、それ以外の場合(すなわち、場所がずれている場合)、距離値は一様に大きい。また、贋物の紙片から得られる距離値も、同様の大きくなることが実験で分かっている。このため、適切な閾値を用いることにより、本物と贋物を区別できる。
【0043】
図11に、本実施例におけるマークの一例を模式的に示す。この例では紙片1101に、図11の(A)に示すような識別子を表すバーコード1105とともに3つの黒点1102, 1103, 1104がマークとして印刷してある。このマークにより、図11の(B)の斜線部1106に示すような領域が指定される。なお、斜線部1106は紙片には印刷されるわけでなく、特徴抽出領域を模式的に示すため図中で用いた。
【0044】
マークの3つの点はそれぞれ図8の(A)のP1, P4, P3を表すものとみなす。残りの1点であるP2の座標は、特徴抽出領域が平行四辺形であるとの仮定に基づき、P1, P4, P3から推定する。
【0045】
本実施例によれば、紙片の表面の凹凸に代わり、透過像を用い、紙片を特定する特徴を検出する。透過像を用いると、表面が平滑である場合にも、紙の内部構造による二次元像を得ることができる。この像は紙片を特定するのに十分な特徴を含んでいる。また、透過像は、背面より紙片に垂直に照明をあてることにより得られる。反射光を用いる方式のような、照明方向による二次元像の変化はない。このため、透過像を取得後、画像処理によって回転・位置補正を施せば、真贋判定に必要な特徴の抽出が可能となる。すなわち、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能になる。また、紙片の特徴を検出する際に、照明方向の調整は必要ない。
【0046】
また、本発明では、紙片の特徴量を紙片の識別子とともに、遠隔地のサーバ上のデータベースで一括管理するようにする。真贋判定時には紙片に印刷されている識別子を認識し、その識別子に応じた標準的な特徴量と、紙片から新たに抽出された特徴量を比較する。この方式によれば、データベースに登録されていないものは贋物とみなされる。このため、たとえ本方式の真贋判定方式を知っている者であっても、偽造は不可能となる。すなわち、特徴量、特徴抽出領域を装置本体から離れた遠隔地のデータベースで管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能となるので、システムの信頼性を高めることができる。
【0047】
また、二次元撮像素子のような二次元センサを用いて位置合わせ用のマークを検出し、これに応じて透過像の特徴を検出するため、厳密な位置合わせが不要であり、判定操作は容易に行える。
【0048】
さらに、本実施例によれば、ネットワークを介して接続された複数の登録・識別装置により登録・識別を分散処理することで、処理速度を向上させることができる。そのため、多量の紙片の真贋判定処理に適したシステムを構築できる。また、複数の登録・識別装置に対応する標準特徴量を共通の特徴量データベース管理サーバで管理するので、システムの信頼性を高めることができる。
【0049】
[第二の実施例]
本発明の第二の実施例を図12、図13で説明する。まず、この実施例の紙片の真贋判定システム1200の構成を図12に示す。本システムは登録装置(サーバ又は端末)1201、真贋判定装置1202(サーバ又は端末)、特徴量データベース管理サーバ1204で構成されており、これらがネットワーク1203で接続されている。本実施例の紙片登録・識別装置1200は、特徴抽出領域の座標自身をデータベースで一括管理するものであり、特徴量データベース管理サーバ1204は、標準特徴量データベース1205及び特徴抽出領域座標データベース1206を備えている。登録処理における識別子発行と標準特徴量登録処理は、特徴量データベース管理サーバ1204で実行する。識別子・マーク印刷、透過像撮像、特徴抽出は、登録装置1201で実行する。真贋判定処理における標準特徴量呼び出し処理は特徴量データベース管理サーバ1204で実行する。それ以外の処理は真贋判定装置1202で実行する。
【0050】
図13に、第二の実施例の構成及び処理の流れを示す。登録処理1301では、まず標準特徴量データベース1311を参照して新たな識別子を発行し(1304)、紙片1302に識別子を印刷する(1303)。次に、紙片の透過像を撮像する(1305)。次に、特徴抽出領域座標設定処理1306にて乱数的に特徴抽出領域を設定し、透過像から特徴量を抽出する(1307)。得られた特徴量は識別子とともに標準特徴量データベース1311に登録する(1308)。さらに、特徴抽出領域座標も識別子と対にして特徴抽出領域座標データベース1310に登録する(1309)。
【0051】
真贋判定処理1312では、まず、紙片1313の反射像を撮像し(1314)、さらに透過像を撮像する(1317)。得られた反射像または透過像を用い、紙片1313に印刷されている識別子を認識する(1315)。次に識別子に応じた特徴抽出領域座標を特徴抽出領域座標データベース1310から呼び出す(1318)。呼び出した特徴抽出領域座標に摂動を施し(1320)、透過像から特徴量を抽出する(1321)。一方、識別子に応じた標準特徴量を標準特徴量データベースより呼び出す(1316)。紙片1313から得られた特徴量(1319)と標準特徴量の距離値(1321)を計算する。判定処理1322では、いずれかの摂動条件で、得られた距離値が予め設定した閾値θ以下となれば、紙片1313は本物とみなし、TRUEを出力する。予め設定してあるいかなる摂動条件でも距離値が閾値θより大きければ、紙片1313を贋物とみなし、FALSEを出力する。
【0052】
本実施例によれば、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能になる。また、紙片の特徴を検出する際に、照明方向の調整は必要ない。特徴量、特徴抽出領域を装置本体から離れた遠隔地のデータベースで一括管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能となる。また、特徴抽出領域の座標自身をデータベースで一括管理するので、安全性がより高くなる。さらに、二次元センサを用いて位置合わせ用のマークを検出し、これに応じて透過像の特徴を検出するため、厳密な位置合わせが不要である。
【0053】
[第三の実施例]
本発明の第三の実施例を図14に示す。この実施例は、本発明を紙片、例えば、切手、紙幣、切符など複数種の正式な紙片が発行されているもののアイデンティティの識別に応用したものである。この実施例では、識別対象の紙片があらかじめ登録されている複数種の紙片のいずれに該当するかを特定する処理を行う。この実施例の紙片の真贋判定システムのハード構成は、例えば図2の実施例と同様な構成であり、記憶手段にアイデンティティ識別処理用のプログラムが追加されているものとする。
【0054】
登録処理1401では、まず紙片1403に対し、マークを印刷し(1404)、さらに透過像を撮影する(1406)。得られた透過像から特徴量を抽出し(1407)、識別子発行処理(1405)で得られた識別子とともに標準特徴量データベース1409に登録する(1408)。登録処理1401を様々な紙片に対して実行し、標準特徴量データベース1409に複数の紙片を登録する。紙片識別処理1402では、まず、紙片1410から反射像を撮像し(1411)、さらに透過像を撮像する(1412)。次に得られた反射像もしくは透過像からマークを検出し(1414)、摂動を施して(1416)、透過像から特徴量を抽出する(1415)。得られた特徴量と標準特徴量データベース1409中の特徴量との距離値を計算し(1418)、最も距離が小さくなる摂動パラメータと識別子の組み合わせを求める(1419)。その結果の識別子を、紙片の識別結果とする。これにより、標準特徴量データベース1409に登録されている複数種の紙片の中から、最も紙片1410に類似したものを見つけることができる。
【0055】
[第四の実施例]
図15に、本発明の第四の実施例になる紙片登録・識別装置の処理の流れを示す。本実施例の紙片登録・識別装置は、第一の実施例の標準特徴量データベース209に相当するものがない。代わりに、この実施例では、紙片の標準特徴量はバーコードなどにより紙片に印刷するようにする。その他の構成は第一の実施例と同じである。
【0056】
真贋判定の際は、標準特徴量を紙片から認識後、透過像から得た特徴量と比較する。登録処理1501では、まず紙片1502の透過像を撮像し(1503)、特徴量を抽出し(1504)、特徴量とマークを印刷する(1505)。必要に応じ、標準特徴量は暗号化して印刷する。
【0057】
真贋判定処理1506では、まず紙片1507の反射像を撮像し(1508)、さらに二次元センサを用いて透過像を撮像する(1150)。得られた反射像または透過像から、紙片に印刷してある標準特徴量を認識する(1509)。次に、紙片のマークを検出し(1511)、得られた特徴抽出領域に摂動を施し(1513)、特徴量を抽出し(1512)、標準特徴量との距離値を計算する(1514)。マーク位置より推定した特徴抽出領域座標には、印刷、検出の過程で生じる誤差が含まれることがある。そこで、特徴抽出領域座標を摂動処理(1513)にて少しずつずらし、ずらした領域から特徴量を抽出し(1512) 、得られた特徴量と標準特徴量の相違の度合い(距離値)を計算する(1514) 。判定処理(1515)で真贋の判定結果を出力する。判定処理では、もし、距離値が閾値θ以下であれば、TRUEを、距離値がθ以下となる摂動パラメータがない場合にはFALSEを出力する。
【0058】
本実施例によれば、透過像を用いることにより、表面が平滑な紙片の真贋を判定することが可能になる。また、紙片の特徴を検出する際に、照明方向の調整は必要ない。特徴量、特徴抽出領域をデータベースで一括管理することにより、真贋判定方式を知る者にも偽造が不可能となる。また、二次元センサを用いてマークを検出し、これに応じて透過像の特徴を検出するため、厳密な位置合わせが不要である。また、紙片の標準特徴量を紙片に印刷するので、標準特徴量データベースは不要となる。
【0059】
[第五の実施例]
以上の各実施例では、マークと識別子または特徴量は、別々に紙片に印刷するようにしている。本発明の第五の実施例として、これらを同じバーコードで印刷することも可能である。図16の(A)の例では、紙片1601に印刷したバーコード1602に識別子または特徴量とともに、特徴抽出領域の座標が記してある。この場合、座標値は、バーコードとの相対位置で記すこととする。これにより、バーコードを読み取れば、図16の(B)の斜線部1603に示すような特徴抽出領域を得ることができる。
【0060】
なお、以上述べた本発明の各実施例における標準特徴量データベースや特徴抽出領域座標データベースは、必ずしも、登録・識別装置本体に対して物理的に遠隔地にあるデータベース管理サーバに設ける必要はない。真贋判定方式を知る者を含む一般のオペレータが、標準特徴量データベースや特徴抽出領域座標データベースへアクセスする権限に種々の制限を加えることにより、特徴量データベース管理サーバを登録・識別装置に対して物理的には近接した位置に設置するように構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の各実施例に用いる紙片識別装置の基本構成例を示す図である。
【図2】本発明の第一の実施例になる真贋判定システムの構成例を示す図である。
【図3】本発明の第一の実施例の処理の構成を示す図である。
【図4A】第一の実施例における透過像の撮像原理を示す図である。
【図4B】第一の実施例における透過像の例を示す図である。
【図5】第一の実施例における登録処理の手順を示す図である。
【図6】第一の実施例における真贋判定処理の手順を示す図である。
【図7】第一の実施例における特徴抽出処理の構成を示す図である。
【図8】第一の実施例における画像切出し・正規化処理の模式図である。
【図9】第一の実施例における摂動処理の模式図である。
【図10】第一の実施例における距離値と摂動量の関係を示す図である。
【図11】第一の実施例におけるマークの例を示す図である。
【図12】本発明の第二の実施例のシステム構成例を示す図である。
【図13】本発明の第二の実施例の処理の構成を示す図である。
【図14】本発明の第三の実施例の処理の構成を示す図である。
【図15】本発明の第四の実施例の処理の構成を示す図である。
【図16】本発明の第五の実施例の処理の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
100…紙片登録・識別装置、101…透過像撮影手段、102…反射像撮影手段、103…演算手段、104…通信手段、105…記憶手段、200…真贋判定システム、201…紙片、202…印刷装置、203…第1の登録・識別装置、204…第2の登録・識別装置、205…ネットワーク、206…特徴量データベース管理サーバ、209…標準特徴量データベース、301…登録処理、302…真贋判定処理、303…紙片、307…印刷処理、310…紙片、320…紙片、401…光源、402…紙片、403…レンズ、404…二次元撮像素子、1101…紙片、1102,1103,1104…マーク、1105…バーコード、1106…特徴抽出領域。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
識別対象の紙片の透過像を撮る透過像撮像手段と、前記透過像の特徴を数値的に抽出する特徴抽出手段と、前記特徴抽出手段で得られた特徴量と予め記憶してある標準特徴量の相違の度合いを距離値として計算する距離計算手段と、前記距離値が一定値以下か否かで前記紙片の真贋を判定する判定手段を有することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項2】
請求項1において、前記紙片上に印刷されたマークを検出する手段と、前記マーク検出の結果に基づいて前記特徴量を抽出する画像上の領域を決定する特徴抽出領域決定手段を有することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項3】
請求項1において、前記紙片上に予め印刷された識別子を認識し、前記特徴抽出手段は該認識結果に基づいて前記標準特徴量を選択することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項4】
請求項1において、紙片表面に印刷された識別子を認識する識別子認識手段と、紙片表面に印刷されたマークを検出するマーク検出手段と、前記透過像から前記紙片の特徴を数値的に抽出する特徴抽出手段と、識別子認識とマーク検出と特徴抽出の処理手順を記憶する記憶手段と、二つの特徴量間の距離を算出する距離計算手段と、距離値が予め定められている閾値以上かどうかを判定する判定手段とを有し、マークで指定した領域中の紙片の特徴量と通信手段を介して入力した標準特徴量との距離値が閾値を超えているかどうかの判定結果を出力することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項5】
計算機を具備した紙片識別装置を用いた紙片識別方法であって、
紙片の透過像を撮る透過像撮像処理と、前記透過像の特徴を数値的に抽出する特徴抽出処理と、前記特徴抽出処理で得られた特徴量と予め記憶してある標準特徴量の相違の度合いを計算する距離計算処理と、距離計算処理の結果の距離値が一定値以下か否かで紙片の真贋を判定する処理を有することを特徴とする紙片識別方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記特徴抽出処理で得られた特徴量と予め複数記憶してある標準特徴量との相違の度合いである距離値を計算する距離計算処理と、複数の標準特徴量の中から距離値が最も小さいものを選択しその識別子を出力する処理を行うことを特徴とする紙片識別方法。
【請求項7】
請求項5において、紙片上に印刷されたマークを検出し、その結果に基づいて特徴量を抽出する画像上の領域を決定することを特徴とする紙片識別方法。
【請求項8】
請求項5において、紙片上に印刷された識別子を認識し、予め記憶してある特徴量を抽出する画像上の領域座標の集合中から識別子に応じて要素を選択し、選択した領域から特徴量を抽出することを特徴とする紙片識別方法。
【請求項9】
請求項5において、ヒストグラム正規化後の画素値を前記特徴量として用いることを特徴とする紙片識別方法。
【請求項10】
請求項5において、識別子と標準特徴量とを遠隔地の計算機に記憶し、標準特徴量の選択の際にはネットワークを介して前記計算機に識別子を送信し、標準特徴量を受信することを特徴とする紙片識別方法。
【請求項1】
識別対象の紙片の透過像を撮る透過像撮像手段と、前記透過像の特徴を数値的に抽出する特徴抽出手段と、前記特徴抽出手段で得られた特徴量と予め記憶してある標準特徴量の相違の度合いを距離値として計算する距離計算手段と、前記距離値が一定値以下か否かで前記紙片の真贋を判定する判定手段を有することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項2】
請求項1において、前記紙片上に印刷されたマークを検出する手段と、前記マーク検出の結果に基づいて前記特徴量を抽出する画像上の領域を決定する特徴抽出領域決定手段を有することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項3】
請求項1において、前記紙片上に予め印刷された識別子を認識し、前記特徴抽出手段は該認識結果に基づいて前記標準特徴量を選択することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項4】
請求項1において、紙片表面に印刷された識別子を認識する識別子認識手段と、紙片表面に印刷されたマークを検出するマーク検出手段と、前記透過像から前記紙片の特徴を数値的に抽出する特徴抽出手段と、識別子認識とマーク検出と特徴抽出の処理手順を記憶する記憶手段と、二つの特徴量間の距離を算出する距離計算手段と、距離値が予め定められている閾値以上かどうかを判定する判定手段とを有し、マークで指定した領域中の紙片の特徴量と通信手段を介して入力した標準特徴量との距離値が閾値を超えているかどうかの判定結果を出力することを特徴とする紙片識別装置。
【請求項5】
計算機を具備した紙片識別装置を用いた紙片識別方法であって、
紙片の透過像を撮る透過像撮像処理と、前記透過像の特徴を数値的に抽出する特徴抽出処理と、前記特徴抽出処理で得られた特徴量と予め記憶してある標準特徴量の相違の度合いを計算する距離計算処理と、距離計算処理の結果の距離値が一定値以下か否かで紙片の真贋を判定する処理を有することを特徴とする紙片識別方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記特徴抽出処理で得られた特徴量と予め複数記憶してある標準特徴量との相違の度合いである距離値を計算する距離計算処理と、複数の標準特徴量の中から距離値が最も小さいものを選択しその識別子を出力する処理を行うことを特徴とする紙片識別方法。
【請求項7】
請求項5において、紙片上に印刷されたマークを検出し、その結果に基づいて特徴量を抽出する画像上の領域を決定することを特徴とする紙片識別方法。
【請求項8】
請求項5において、紙片上に印刷された識別子を認識し、予め記憶してある特徴量を抽出する画像上の領域座標の集合中から識別子に応じて要素を選択し、選択した領域から特徴量を抽出することを特徴とする紙片識別方法。
【請求項9】
請求項5において、ヒストグラム正規化後の画素値を前記特徴量として用いることを特徴とする紙片識別方法。
【請求項10】
請求項5において、識別子と標準特徴量とを遠隔地の計算機に記憶し、標準特徴量の選択の際にはネットワークを介して前記計算機に識別子を送信し、標準特徴量を受信することを特徴とする紙片識別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−338330(P2006−338330A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162224(P2005−162224)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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