説明

組換え血管内皮細胞増殖因子D(VEGF−D)

【課題】血管内皮増殖因子ファミリーの新規なタンパク質をコードするヒトcDNAを提供、及びその利用。
【解決手段】PDGFファミリーの増殖因子の新規なメンバーであり、特に内皮細胞増殖および血管新生を刺激し、血管透過性を増大させる、VEGF−Dが記載される。また、それをコードするヌクレオチド配列、その生産方法、それに対する抗体およびその他のアンタゴニスト、それが発現するようにトランスフェクトまたはトランスフォームされた宿主細胞、それを含有する医薬組成物、そして医学上および診断上の適用におけるそれらの利用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内皮細胞に対する増殖因子、そして具体的には新規な血管内皮増殖因子、その因子をコードするDNA、およびその因子を利用する、またはその因子に由来する、医薬および診断の組成物ならびに方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管新生は、組織の正常な成長および発達に必要とされる基礎的なプロセスであり、先在血管からの新しい毛細血管の増殖に関する。血管新生は、胚発生および正常な組織の成長、修復、および再生に関するだけでなく、女性の生殖周期、妊娠の確立と維持、および創傷と骨折の修復にも関与している。正常の個体において起こる血管新生の他に、血管形成の現象は、多くの病的プロセス、特に、腫瘍の増殖および転移、そして特に微小血管系の、血管増殖が増大するその他の状態、例えば、糖尿病性網膜症、乾癬、および関節症などに関係している。血管新生の阻害はこれらの病的プロセスの阻止または緩和において有用である。
【0003】
一方で、血管新生(化)が確立または拡張するべき状況、例えば組織または臓器移植後、または虚血性心疾患および血栓性閉塞性動脈炎のような、組織の梗塞または動脈狭窄において側副循環の確立を刺激するためにおいては血管新生の促進が望ましい。
【0004】
血管新生が、非常に多くの生理学的および病理学的なプロセスにおいて重大な役割を果たしているため、血管新生のコントロールに関与する因子について熱心に研究が行われてきた。多数の増殖因子が血管新生の調節に関与していることが示されている;これらには、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)そして肝細胞増殖因子(HGF)が含まれる。例えば、概説として、フォークマン(Folkman)他, “Angiogenesis”, J. Biol. Chem., 1992 267 10931-10934を参照。
【0005】
内皮細胞−特異的増殖因子の特定のファミリーおよびそれらに対応する受容体は、主として内皮細胞の増殖および分化に対する刺激、および、分化した細胞の特定の機能についての、原因であると示唆されてきた。これらの因子はPDGFファミリーのメンバーであり、内皮受容体チロシンキナーゼ(RTK)を介して作用すると考えられる。これまでに4つの血管内皮増殖因子のサブタイプが同定されている。現在ではVEGF−Aとして知られている、血管内皮増殖因子(VEGF)は、いくつかのソースから単離されている。VEGF−Aは、内皮細胞に対して高度に特異的な分裂促進活性を示し、血管新生を引き起こす連続した現象全体を刺激することができる。さらに、それは単球に対する強い化学遊走活性を有し、内皮細胞においてプラスミノーゲン活性化因子およびプラスミノーゲン活性化因子阻害剤を誘導することができ、そして微小血管の透過性にも影響を及ぼすことができる。後者の活性のために、それは、血管透過性因子(VPF)と称されることもある。
【0006】
VEGFの単離および特性についてはレビューにおいて概説されている; ファーララ(Ferrara) 他, “The Vascular Endothelial Growth Factor Family of Polypeptides” J. Cellular Biochem., 1991 47 212-218およびConnolly, “Vascular Permeability Factor: A Unique Regulator of Blood Vessel Function”, J. Cellular Biochem., 1991 47 219-223 を参照。
【0007】
より最近には、3つの更なるVEGFファミリーのメンバーが同定された。これらはVEGF−B、VEGF−CおよびVEGF2と命名されている。VEGF−Bは、Ludwig Institute for Cancer ResearchおよびThe University of Helsinkiによる国際特許出願第PCT/US96/02957(WO96/26736)において記載されており、VEGF−Cは、ヨウコフ(Joukov)他, The EMBO Journal, 1996 15 290-298において記載されており、そしてVEGF2は、Human Genome Sciences, Inc. による国際特許出願第PCT/US94/05291(WO95/24473)において記載されている。VEGF−Bは、VEGFのものと非常によく似た血管形成およびその他の特性を有するが、VEGFとは異なる組織において分布、発現している。具体的には、VEGF−Bは、心臓において非常に強く発現しており、そして肺においては弱くしか発現しておらず、これはVEGFの場合と逆である。これは、VEGFとVEGF−Bは、多くの組織において共発現(co-expressed)しているという事実にかかわらず、機能において異なっている可能性があるということを示唆している。
【0008】
VEGF−Bは、細胞のレチノイン酸結合タンパク質タイプI(CRABP−I)と相互作用する可能性のある細胞タンパク質のためのスクリーニング法であった、酵母共ハイブリッド相互作用トラップスクリーニング技術を用いて単離された。その単離と特徴については、PCT/US96/02957およびオロフソン(Olofsson)他, Proc. Natl. Acad. Sci., 1996 93 2576-2581において詳細に記載されている。
【0009】
VEGF−Cは、PC−3前立腺ガン細胞ライン(CRL1435)の条件培地から、Ftl4を発現するようにトランスフェクトされた細胞を用いた、内皮細胞−特異的受容体チロシンキナーゼFtl4のチロシンリン酸化を生じさせる培地の能力についてのスクリーニングによって単離された。VEGF−Cは、組換えFtl4を用いたアフィニティークロマトグラフィーを使用して精製され、PC−3 cDNAライブラリーからクローニングされた。その単離と特徴については、ヨウコフ(Joukov)他, The EMBO Journal, 1996 15 290-298において詳細に記載されている。
【0010】
VEGF2は、高度に腫瘍形成性の(tumorgenic)、エストロゲン非依存性のヒト乳ガン細胞ラインから単離された。この分子はPDGFに対して約22%のホモロジー、およびVEGFに対して30%のホモロジーを有すると述べられているが、VEGF2をコードする遺伝子の単離方法については明らかではなく、生物活性のキャラクタリゼーションについては開示されていない。
【0011】
血管内皮増殖因子はPDGF−受容体ファミリーの受容体チロシンキナーゼに結合することによって作用していると考えられる。5つの内皮細胞−特異的受容体チロシンキナーゼ、即ち、Flt−1(VEGFR−1)、KDR/Flk−1(VEGFR−2)、Flt4(VEGFR−3)、TieおよびTek/Tie−2、が同定されている。これらのすべてがシグナル伝達のために必要な内因性のチロシンキナーゼ活性を有する。重要な、Flt−1、Flk−1、TieおよびTek/Tie−2の血管形成と血管新生における特異的な役割は、マウス胚においてこれら受容体を不活性化するような標的化(targeted) 突然変異によって実証された。VEGFR−1とVEGFR−2とは、VEGFに高いアフィニティーで結合し、そしてVEGFR−1は、VEGF−Bおよび胎盤増殖因子(PlGF)にも結合する。VEGF−CはFlt4(VEGFR−3)に対するリガンドであることが示され、そしてVEGFR−2も活性化する(ヨウコフ(Joukov)他, 1996)。Tek/Tie−2に対するリガンドは記載されている(Regeneron Pharmaceuticals, Inc.による国際特許出願第PCT/US95/12935(WO96/11269));しかしTieに対するリガンドはまだ同定されていない。
【0012】
受容体Flt−4は胎児においては静脈およびリンパ内皮に発現しており、そして成人においては主にリンパ内皮に発現している(カイパイネン(Kaipainen)他, Cancer Res, 1994 54 6571-6577; Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1995 92 3566-3570)。VEGF−Cはリンパ内皮において第一の機能を有しており、血管新生と透過性の制御において、VEGFと共有される第二の機能を有している可能性があるということが示唆されている(ヨウコフ(Joukov)他, 1996)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
血管内皮増殖因子ファミリーの新規なタンパク質をコードするヒトcDNAを提供、及びその利用を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
今回我々は血管内皮増殖因子ファミリーの新規なタンパク質をコードするヒト
cDNAを単離した。VEGF−Dと称する、その新規なタンパク質は、このファミリーのその他のメンバーと構造的類似性を示す。
【0015】
発明の概要
本発明は、概して、内皮細胞の増殖または分化を刺激および/または増強する能力を有する新規に単離された増殖因子、その新規な増殖因子をコードする単離DNA配列、および診断および/または治療上の適用のために有用な組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の側面によれば、本発明は、VEGF−Dと命名され、VEGF、VEGF−BおよびVEGF−Cに構造的にホモロガスな(homologous)新規なポリペプチドをコードする、単離および精製された核酸分子を提供する。好適な実施態様において、前記核酸分子は配列番号1、配列番号4、配列番号6または配列番号7に示す配列を含むcDNAである。本発明のこの側面は、配列番号1、配列番号4、配列番号6または配列番号7のDNAに、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするような配列のDNA分子も包含する。好ましくは前記ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNA分子は、VEGF−Dのアミノ酸残基93からアミノ酸残基201の部分をコードするものであり、任意に(随意にoptionally)FLAGTMペプチドをコードするDNA配列に、作用するように結合される(operatively linked)。
【0017】
好ましくは、前記cDNAは、配列番号4、配列番号6または配列番号7に示す配列を有し、より好ましくは配列番号4に示す配列を有する。
【0018】
第2の側面によれば、本発明は、下記の特徴的なアミノ酸配列:
Pro-Xaa-Cys-Val-Xaa-Xaa-Xaa-Arg-Cys-Xaa-Gly-Cys-Cys(配列番号2)
を有するポリペプチドを提供する。前記ポリペプチドは内皮細胞の増殖を刺激する能力を有し、そして前記ポリペプチドは、配列番号3に示すアミノ酸配列、または、内皮細胞の増殖、分化、遊走または生存の内、少なくとも1つを刺激する能力を有する、そのフラグメントまたはアナログに実質的に対応するアミノ酸配列を含む。
【0019】
これらの能力は、ここでは“VEGF−Dの生物活性”と称し、そして当業者に周知の方法によって簡単にテストすることができる。好ましくは前記ポリペプチドは、限定されるものではないが、血管内皮細胞および/またはリンパ内皮細胞の増殖または分化を含む、内皮細胞の増殖または分化を刺激する能力を有する。
【0020】
より好ましくは、前記ポリペプチドは、配列番号5、配列番号8または配列番号9に示す配列を有し、そして最も好ましくは配列番号5に示す配列を有する。
【0021】
本発明の前記ポリペプチドの、好適なフラグメントは、VEGF−Dのアミノ酸残基93からアミノ酸残基201の部分であり、任意に(optionally)FLAGTMペプチドに、結合される。前記フラグメントがFLAGTMに結合している例として、前記フラグメントは、本出願において定義されるVEGFD△N△Cがある。
【0022】
したがって、保存的な置換、挿入または欠失を有するが、依然としてVEGF−Dの生物活性を保持しているポリペプチドは、明らかに本発明の範囲内に含まれることが理解されるべきである。当業者であれば、例えば部位特異的突然変異誘発の使用、または特異的な酵素による切断およびライゲーション等の、そのようなポリペプチドを作成するのに簡単に使用できる方法を熟知しているであろう。当業者はまた、ペプチド擬態性の化合物(peptidomimetic compounds)または、1以上のアミノ酸残基が非−自然発生のアミノ酸またはアミノ酸アナログによって置換されている化合物が、VEGF−Dの生物活性に要求される側面を保持している可能性があるということについても知っているであろう。そのような化合物は、簡単に作ることができ、また当業者に周知の方法によってテストすることができ、そしてまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0023】
さらに、VEGF−Dにおいて起こることが知られている、選択的スプライシングの結果生じるVEGF−Dポリペプチドの変異体(variant)形態、および、VEGF−Dをコードする核酸配列の自然発生の対立遺伝子変異体(allelic variant)は、本発明の範囲内に含まれる。対立遺伝子変異体は、当業者に周知であり、置換、欠失、または1以上のヌクレオチドの付加を含むが、その結果としてコードされるポリペプチドに何ら実質的な機能的変化を起こさない、別の(alternative)形態または核酸配列を表す。
【0024】
本出願において使用される“VEGF−D”という用語は、配列番号3、配列番号5、配列番号8、配列番号9のポリペプチド、および本出願において定義するVEGF−Dの生物活性を有する、それらのフラグメントまたはアナログを、集合的に指すものである。
【0025】
そのようなVEGF−Dの変異体形態は、修飾(modification)のためにVEGF−Dポリペプチドの、非−必須領域を標的化することによって調製することができる。これらの非−必須領域は、本出願の図面、特に図2および図10において示される強く保存された領域の外側にあると予想される。具体的には、VEGFを含む、PDGFファミリーの増殖因子は二量体であり、そしてVEGF−B、VEGF−C、PlGF、PDGF−AおよびPDGF−BはN−末端ドメイン、即ち、PDGF−様ドメインにおいて、8つのシステイン残基の完全な保存を示す(オロフソン(Olofsson)他, 1996; ヨウコフ(Joukov)他, 1996)。これらのシステインは分子内および分子間ジスルフィド結合に関与すると考えられている。更に、完全ではないが強く保存された更なるシステイン残基がC−末端ドメインにおいて存在する。分子内ジスルフィド結合によって形成された、各サブユニットの、ループ1、2および3は、PDGF/VEGFファミリーの増殖因子に対する受容体への結合に関与している(アンダーソン(Andersson)他: Growth Factors, 1995 12 159-164)。本出願において示すように、以前から知られているVEGFファミリーのメンバーにおいて保存されたシステインは、VEGF−Dにおいても保存されている。
【0026】
したがって、当業者であれば、提案されるいかなる変異体形態においてもこれらのシステイン残基は保存されるべきであるということ、そしてループ1、2および3に存在する活性部位も保存されるべきであるということを、よく理解するであろう。しかし、この分子のその他の領域は生物学的機能において重要性は低く、それゆえ修飾(modification)のための好適な標的を提供するということが期待され得る。修飾された(modified)ポリペプチドは、細胞増殖テストのようなルーチン活性アッセイ方法によってVEGF−Dの生物活性を示す能力について簡単にテストすることができる。
【0027】
修飾されたVEGF−Dポリペプチドの中には、内皮細胞に、即ちVEGF−D受容体に結合する能力を有するが、内皮細胞の増殖、分化、遊走、または生存を刺激する能力を有さないようなものがあると考えられる。これらの修飾されたポリペプチドは、VEGF−Dの競合性または非競合性の阻害剤として作用することができると期待され、VEGF−D作用の阻止または低下が望ましいような状況において有用であると期待される。したがって、そのような受容体−結合性であるが、非−分裂促進性、非−分化誘導性、非−遊走誘導性、または非−生存促進性の、VEGF−Dの変異体も、本発明の範囲内に含まれ、本出願において“受容体−結合性だが、その他の点では不活性な変異体”と称する。
【0028】
第3の側面によれば、本発明は、本発明のポリペプチドまたはポリペプチドフラグメントをコードする、精製および単離された核酸を提供する。前記核酸はDNA、ゲノムDNA、cDNAまたはRNAのいずれでもよく、一本鎖でも二本鎖でもよい。前記核酸は、細胞または組織ソースから単離しても、または、組換えあるいは合成起源のものでもよい。遺伝暗号の縮重のために、各配列が、配列番号3、配列番号5、配列番号8または配列番号9に示すアミノ酸配列、それらの活性フラグメントまたはアナログ、または、受容体−結合性だがその他の点では不活性あるいは部分的に不活性なそれらの変異体、をコードするような、多くのコード配列が可能であるということを当業者であれば理解するであろう。
【0029】
本発明の第4の側面は、本発明のcDNAまたは本発明の第3の側面による核酸を含むベクター、および、本発明の核酸またはベクターでトランスフォームまたはトランスフェクトされた宿主細胞を提供する。これらの細胞は、本発明のポリペプチドの発現のために特に好適であり、バキュロウイルスベクターでトランスフォームされた、ATCC(the American Type Culture Collection)から入手可能なSf9細胞(ATCC SRL−171)のような昆虫細胞、および好適な発現プラスミドによってトランスフェクトされたヒト胚腎臓細胞ライン293EBNAを含む。本発明の好適なベクターは、本発明による核酸が、1以上の適切なプロモーターおよび/またはその他の調節配列(制御配列)に、作用するように(operatively)結合される(connected)発現ベクターであり、そのようなベクターでトランスフォームまたはトランスフェクトされた適切な宿主細胞は、本発明のポリペプチドを発現することが可能となる。その他の好適なベクターは、哺乳動物細胞のトランスフェクションのため、または遺伝子治療のために好適な、アデノウイルスまたはレトロウイルスベクターまたはリポソームなどである。多くのそのようなベクターは当業者に周知である。
【0030】
本発明はまた、本発明による核酸によってコードされるポリペプチドを発現させることができるベクターの製造方法を提供する。この方法は、上述したように、前記核酸を、1以上の適切なプロモーターおよび/またはその他の調節配列(制御配列)に、作用するように結合させる工程を含むものである。
【0031】
本発明は更に、本発明によるポリペプチドの製造方法を提供する。この方法は、本発明の核酸またはベクターを宿主細胞中で発現させる工程、および前記宿主細胞または前記宿主細胞の増殖培地から前記ポリペプチドを単離する工程とを含むものである。本発明のこの側面の1つの好適な実施態様において、アフィニティークロマトグラフィーによる前記ポリペプチドの精製を促進するために、発現ベクターに更に、FLAGTMまたはヘキサヒスチジン(hexahistidine)などのアフィニティータグをコードする配列を含ませる。
【0032】
さらに別の側面において、本発明は、本発明のポリペプチドと特異的に反応する抗体を提供する。本発明のこの側面は、前述したVEGF−Dの変異体形態、フラグメントおよびアナログに対して特異的な抗体を含む。そのような抗体は、VEGF−Dの阻害剤またはアゴニストとして、およびVEGF−Dの検出および定量化のための診断剤として、有用である。ポリクローナル抗体もモノクローナル抗体も利用できる。モノクローナルおよびポリクローナル抗体は、当該技術分野における標準的方法を使用して、本発明のポリペプチドに対して産生することができる。ある種の目的のために、例えば、臨床状況においてVEGF−Dの効果を阻害するためにモノクローナル抗体を使用するべき場合などでは、ヒト化モノクローナル抗体またはキメラモノクローナル抗体を使用するのが望ましいであろう。組換えDNA法を含む、これらの産生方法も、当業者に周知である。
【0033】
本発明のこの側面はまた、VEGF−Dを認識し、そして適切に標識された抗体も含む。
【0034】
本発明によるポリペプチドまたは抗体は、検出可能なラベル(標識)で標識して、診断目的のために利用することができる。同様にそのように標識された 本発明のポリペプチドは、それに対応する受容体をin situで同定するために使用することができる。ポリペプチドまたは抗体を、イメージングのために好適な、超−磁性の(supermagnetic)、 常磁性の、高電子密度の、エコジェニックの(ecogenic)、または放射性の作用剤と、共有結合で、または非−共有結合で、結合させることができる。診断アッセイにおける使用のために、放射性または非放射性ラベルを使用することができ、後者は酵素標識またはビオチン/アビジン系のラベルを含む。
【0035】
本発明の臨床応用は、診断上の応用、創傷治癒、組織または臓器移植において、または、虚血性心疾患などの、組織梗塞または動脈狭窄における側副循環の確立のためにおける血管新生の促進、およびガンまたは糖尿病性網膜症の治療における血管新生の阻害を含む。ガンの生検材料におけるVEGF−Dの定量化は、将来の転移のリスクの指標として利用できる。
【0036】
VEGF−Dは、肺において高度に発現しており、そしてまた、それは血管透過性を増大させるので、VEGF−Dは様々な肺の病状に関連する。VEGF−Dアッセイは様々な肺の疾患の診断において利用することができる。VEGF−Dはまた、肺における血液循環および/または肺と血流との間のガス交換を改善するための、肺の疾患の治療において利用することができる。同様にVEGF−Dは、心不全の場合において、心臓への血液循環およびOガス透過性を改善するために利用することができる。同様に、VEGF−Dは、慢性閉塞性気道疾患において、血流およびガス交換を改善するために利用することができる。
【0037】
逆に、VEGF−Dアンタゴニスト(例えば、抗体および/または阻害剤)は、鬱血心不全などの、例えば肺において、血管透過性の増大によって生じる体液の蓄積に関連する病状を治療するために利用することができる。これはVEGF−Dアンタゴニストが、体液の蓄積に対して反作用する(体液の蓄積を相殺する)ために、血管透過性を相殺する効果を及ぼすことによる。
【0038】
VEGF−Dは小腸および大腸においても発現しており、VEGF−Dの投与は、その血液循環増大活性および血管透過性増大活性により、腸管における吸収不良症候群を治療するために利用することができる。
【0039】
したがって、本発明は、血管新生および/または新血管新生を刺激するような治療を必要とする哺乳類において、血管新生および/または新血管新生を刺激する方法を提供する。この方法は、有効量の、VEGF−D、または、内皮細胞の増殖を刺激する能力を有するそのフラグメントまたはアナログを、哺乳類に投与する工程を含むものである。
【0040】
VEGF−DをVEGF−A、VEGF−B、VEGF−C、PlGF、PDGF、FGFおよび/またはヘパリンのうち1以上と同時に、あるいは共同させて任意に投与してもよい。
【0041】
逆に、本発明は、血管新生および/または新血管新生を阻害するような治療を必要とする哺乳類において、血管新生および/または新血管新生を阻害する方法を提供する 。この方法は、有効量の、VEGF−Dアンタゴニストを、哺乳類に投与する工程を含むものである。前記アンタゴニストは、VEGF−Dの、その対応する受容体または標的細胞への結合を阻止することにより、あるいは、前記受容体からその細胞の作用部位へのシグナルトランスデューサーの活性化を阻止することにより、VEGF−Dの作用を阻止する薬剤であればいかなるものであってもよい。好適なアンタゴニストは、VEGF−Dに対する抗体;前述した、受容体−結合性であるが、非−分裂促進性のVEGF−D変異体などの、競合性または非−競合性の、VEGF−DのVEGF−D受容体への結合の阻害剤;およびVEGF−DをコードするDNA配列の少なくとも1部分に対して相補的なアンチセンスヌクレオチド配列、を含むが、それらに限定されるものではない。
【0042】
本発明はまた、生物試料(サンプル)中のVEGF−Dを検出する方法を提供する。この方法は、前記試料を、VEGF−Dに結合する能力を有する試薬に接触させる工程、および結合を検出する工程を含むものである。好ましくは、VEGF−Dに結合する能力を有する試薬は、VEGF−Dに対する抗体であり、より好ましくはモノクローナル抗体である。好適な実施態様において、結合および/または結合の程度は検出可能なラベル手段によって検出される;好適なラベルは前述のものである。
【0043】
VEGF−Dまたはアンタゴニストが治療の目的のために使用される場合、適用用量および経路は、治療されるものの状態に依存し、そして主治医または獣医の判断の自由(裁量)によるであろう。好適な経路は、皮下、筋肉内、または静脈内の注射、局所適用、インプラント、等を含む。VEGF−Dの局所適用は、VEGFと同様の方法で行えばよい。
【0044】
更に別の側面によると、本発明は、典型的にはテストキットの形態の、診断/予知(予後prognostic)の手段を提供する。例えば、本発明の1つの実施態様において、VEGF−Dに対する抗体および検出のための手段を含み、そしてより好ましくは、前記抗体とVEGF−Dの間の結合を評価する工程を含む、診断/予知のテストキットを提供する。本発明による前記診断/予知の手段の、1つの好適な実施態様において、前記抗体または前記VEGF−Dのいずれかが検出可能なラベル(標識)で標識され、そして前記抗体または前記VEGF−Dのいずれかが基体(substrate) に結合され、そうすることによって前記抗体と前記VEGF−Dの間の結合の後に、前記基体(substrate) に付着したラベルの量を測定することによって、VEGF−D−抗体相互作用を調べることができる。本発明の特に好適な実施態様において、前記診断/予知の手段を、通常のELISAキットとして提供することができる。
【0045】
更に別の実施態様において、前記診断/予知の手段は、試験個体のVEGF−D遺伝子のゲノム配列構造を明らかにするための、ポリメラーゼ連鎖反応手段、および、この配列構造を、VEGF−D発現における何らかの異常が所与の疾患状態と関連しているか否かを明らかにするために、何らかの異常を検出する目的で、本出願において開示された配列構造と比較する工程を有するものとすることができる。
【0046】
更なる側面によると、本発明は、試験対象における疾患状態と関連している可能性がある、試験対象のVEGF−D遺伝子構造における異常を検出する方法に関する。この方法は、前期試験対象からDNAサンプルを用意する工程;前記DNAサンプルを、ポリメラーゼに作用するように結合したVEGF−D DNAに対して特異的なプライマーのセットと接触させ、ポリメラーゼ連鎖反応によって前記サンプルからのVEGF−D DNAを選択的に増幅する工程、および、前記サンプルからの前記増幅されたVEGF−D DNAのヌクレオチド配列を、配列番号1または配列番号4に示すヌクレオチド配列と比較する工程、を含むものである。本発明はまた、ポリメラーゼに作用するように結合したVEGF−D DNAに対して特異的なプライマー対を含むテストキットの提供も含むものであり、ここで前記ポリメラーゼはDNAサンプルからのVEGF−D DNAを選択的に増幅する能力を有するものである。
【0047】
本発明の別の側面は、VEGF−Dポリペプチド、または、内皮細胞の増殖を促進するそのフラグメントまたはアナログ、または、それに対する抗体のいずれかを含む医薬組成物の提供に関する。VEGF−Dポリペプチドを含む組成物は、任意に、更にVEGF、VEGF−BおよびVEGF−C、および/またはヘパリンのうち一以上を含むものとすることができる。
【0048】
更なる側面において、本発明は、VEGF−Dポリペプチドを含むタンパク質ダイマー、特にジスルフィド結合したダイマーに関する。本発明のタンパク質ダイマーは、VEGF−Dポリペプチドのホモダイマー、および、VEGF−Dと、VEGF、VEGF−B、VEGF−C、PlGFまたはPDGFとからなるヘテロダイマーの両方を含む。
【0049】
本発明の更に別の側面によると、VEGF−Dの単離のための方法が提供され、この方法は、VEGF−Dを発現する細胞をヘパリンに曝して前記細胞からのVEGF−Dの放出を促進する工程と、そのようにして放出されたVEGF−Dを精製する工程とを含むものである。
【0050】
本発明の別の側面は、VEGF−Dまたは内皮細胞の増殖を促進するそのフラグメントまたはアナログをコードするDNA配列の少なくとも一部に対して相補的なアンチセンスヌクレオチド配列を有する、ベクターの提供に関する。本発明の更に別の側面によると、アンチセンス配列を有するようなベクターは、VEGF−Dの発現を阻害するため、または少なくとも弱めるために、利用可能である。
【0051】
VEGF−Dの発現を阻害するためのこのタイプのベクターの使用は、例えば、血管新生の用意のために、腫瘍がVEGF−Dを産生する場合などの、VEGF−Dの発現が、疾患に関連しているような場合において好ましい。アンチセンスヌクレオチド配列を有するベクターでそのような腫瘍細胞をトランスフォーメーションすることにより、血管新生が抑制または遅延され、そしてその腫瘍の増殖を阻害、あるいは遅らせることになるであろう。
【0052】
上述のような本発明のポリヌクレオチド、それらポリヌクレオチドのフラグメント、および、それらポリヌクレオチドの非−コード鎖とそれらに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするのに十分な類似性を有するそれらポリヌクレオチドの変異体は、すべて、その他の、非−ヒトの、VEGF−Dの哺乳類の形態をコードするポリヌクレオチドを、同定、精製、および単離するために有用である。したがって、そのようなポリヌクレオチドのフラグメントおよび変異体は、本発明の側面であると考えられる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の例は以下の通りである:5xSSC、20mM NaPO、pH6.8、50%ホルムアミド中で42℃でのハイブリダイゼーション;そして0.2xSSC中で42℃での洗浄、である。ハイブリダイズさせる配列の長さおよびGCヌクレオチド塩基含量に基づいて、経験的にこれらの条件を変化させることが望ましいということ、およびそのような変化量を決定するための式が存在するということは、当業者に理解されている。例えば、サムブルック(Sambrook)他, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, Second Edition, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory(1989)を参照。
【0053】
更に、精製および単離された、その他の、非−ヒトの、哺乳類のVEGF−Dの形態をコードするポリヌクレオチドもまた、それによってコードされるポリペプチド、そして非−ヒトVEGF−D変異体に対して特異的に免疫反応性である抗体と同様に、本発明の側面である。したがって、本発明は、精製および単離された哺乳類のVEGF−Dポリペプチド、そしてまた、そのようなポリペプチドをコードする精製および単離されたポリヌクレオチドを含むものである。
【0054】
本発明の核酸およびポリペプチドは、合成的手段または組換え手段によって調製することができ、または、天然のソースから精製することができる、ということが明らかに理解されるであろう。
【0055】
図面の簡単な説明
図1は、ヒトVEGF−DとヒトVEGF165(図1a)、ヒトVEGF−DとヒトVEGF−B(図1b)、ヒトVEGF−DとヒトVEGF−C(図1c)、そしてヒトVEGF−DとヒトPlGF(図1d)の、配列間の比較を示す。箱は、ヒトVEGF−Dと正確に一致する残基を示す。
図2は、ヒトVEGF−D、ヒトVEGF165、ヒトVEGF−B、ヒト
VEGF−C、およびヒトPlGFの配列間の、配列アラインメントを示す。箱は、VEGF−D配列と正確に一致する残基を示す;そして、
図3は、cDNA配列(配列番号1)から予測した、ヒトVEGF−Dのアミノ酸配列(配列番号3)を示す。箱は、N−結合型グリコシル化の可能性のある部位を示す。
図4は、市販のヒト肺cDNAライブラリーからハイブリダイゼーションによって単離した、ヒトVEGF−Dをコードする第2のcDNA配列のヌクレオチド配列(配列番号4)を示す;このcDNAは、ヒトVEGF−Dの全体のコード領域を含む。
図5は、図4のcDNA配列から推定した(deduced) 、ヒトVEGF−Dのアミノ酸配列(配列番号5)を示す。
図6は、市販のマウス肺cDNAライブラリーからハイブリダイゼーションスクリーニングによって単離した、マウスVEGF−D1をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号6)を示す。
図7は、図6と同じライブラリーから単離した、マウスVEGF−D2をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号7)を示す。
図8は、マウスVEGF−D1の推定アミノ酸配列(配列番号8)とマウス
VEGF−D2の推定アミノ酸配列(配列番号9)を示す。
図9は、マウスVEGF−D1、マウスVEGF−D2、およびヒトVEGF−Dの推定アミノ酸配列間の、比較を示す。
図10は、ヒトVEGF−D、ヒトVEGF165、ヒトVEGF−B、ヒト
VEGF−C、およびヒトPlGFのアミノ酸配列間の配列アラインメントを示す;そして、
図11は、VEGF−AまたはVEGF−Dのいずれかを発現するCOS細胞からの条件培地を、Ba/F3細胞において発現したキメラ受容体の細胞外ドメインに対して結合する能力についてテストした、バイオアッセイの結果を示す。
図12は、VEGF−Dペプチドの免疫沈降およびウエスタンブロッティング分析の結果を示す。
(A)pEFBOSVEGFDfullFLAGおよびpCDNA−1VEGF−AをCOS細胞にトランスフェクトし、生合成的に35S−システイン/メチオニンで4時間標識した。これら培養からの上清を、M2ゲルまたはプロテインAに結合したVEGF−Aに対する抗血清のいずれかで免疫沈降した。洗浄したビーズを等容量の2xSDS−PAGEサンプルバッファーで溶出し、ボイルした。サンプルを次に12% SDS−PAGEによって分離した。星印()でマークしたレーンは、サンプルをジチオスレイトールで還元し、ヨードアセトアミドでアルキル化したものを示す。分子量マーカーが示されている。fAおよびfBは、
pEFBOSVEGFDfullFLAGを発現するCOS細胞からの、M2ゲルによって免疫沈降された、43kDおよび25kD種を示す。
(B)精製したVEGFD△N△Cのウエスタンブロッティング分析である。
M2アフィニティーカラムから溶出した物質のアリコット(フラクション#3、VEGFD△N△C)を、2xSDS−PAGEサンプルバッファーと混合し、そして15% SDS−PAGEゲルで分離した。タンパク質を次にニトロセルロースメンブランにトランスファーし、モノクローナル抗体M2またはコントロールのアイソタイプが一致した抗体(Neg)のいずれかで探索した(probed)。ブロットを、ヤギ抗−マウス−HRP二次抗体および化学発光(ECL, Amersham)を使用して現像した。単量体のVEGFD△N△C、およびこのペプチドの推定上の二量体形態(VEGFD△N△C”)を矢印で示す。分子量マーカーが示されている。
図13は、VEGFR2バイオアッセイを用いた、VEGFD△N△Cタンパク質の分析の結果を示す。組換えVEGFD△N△C、およびM2アフィニティークロマトグラフィーによって精製した物質を、VEGFR2バイオアッセイを用いて評価した。IL−3を除去するために洗浄されたバイオアッセイ細胞(10)を、COS細胞でトランスフェクトされたVEGF−Dからの条件培地のアリコット、アフィニティーカラムからのフラクション#1(ボイド容量)またはアフィニティーカラムからのフラクション#3(VEGFD△N△Cを含有する)とともにインキュベートした。すべてのサンプルは初濃度20%(即ち1/5)で、その後倍加希釈してテストした。細胞を10%COの加湿雰囲気において37℃で48時間インキュベートした。細胞の増殖を、1μCiのH−チミジンを添加し、そして4時間以上かけて取り込まれた量をカウントすることによって定量化した。
図14は、VEGF−Dでトランスフォームされた組換えバキュロウイルスベクターで感染させたHF細胞からの培養上清による、NIH3T3細胞上のVEGFR3受容体(Flt4)のチロシンリン酸化の刺激を示す。
図15は、図14におけるものと同様に調製した培養上清による、PAE細胞におけるVEGFR2受容体(KDR)のチロシンリン酸化の刺激を示す。
図16は、ウシの大動脈の内皮細胞(BAE)に対するVEGFD△N△Cの分裂促進効果を示す。BAEを、VEGFD△N△Cを含有するフラクション#3、およびポジティブコントロールとしてテキストにおいて記載された精製VEGF−Aを用いて処理した。増殖因子を添加していない培地を用いて得られた結果を、培地コントロールと示す。
【実施例】
【0056】
本発明を図面および、以下の限定するものではない諸例に言及することによって詳細に説明する。
【0057】
例1
VEGFRファミリーにおいて、オーファン受容体は知られていないため、VEGFファミリーの更なるメンバーは見いだされないだろうと考えられてきた。さらに、我々は従来技術において、その他のそのようなファミリーメンバーが存在するであろうという示唆について何ら知らない。
【0058】
核酸データベースのコンピューターサーチを、他のプロジェクトに付随して、サーチトピックスとしてVEGF、VEGF−B、VEGF−CおよびPlGFのアミノ酸配列を使用して行った。このサーチによっていくつかのcDNA配列が同定された。これらの配列の1つである、GenBank登録番号H24828は、VEGF−CのシステインリッチC−末端領域に似た構造のポリペプチドをコードしていた。この配列は、ESTデータベース(database of expressed sequence tags)(dbEST)から得たものであり、この明細書でこれを特定するためにXPTと命名する。このXPTcDNAは、”Soares Breast 3NbHBst”と称される、成人女性の乳房組織からのmRNAを用いて構築された、ヒトcDNAライブラリーから単離されたものである。確認できる限り、これは正常な乳房組織であった。世界中の研究所からcDNAライブラリーを集め、cDNAクローンの配列を整え(array)、配列決定のために他の組織にそれらを提供している、the Integrated Molecular Analysis of Genome Expression Consortium(IMAGE Consortium)にしたがって、XPT DNAの配列決定を行った。
【0059】
データベースにおいて示されたXPT配列は、419ヌクレオチド長であり、VEGF−CのC−末端の100アミノ酸、即ちヨウコフ(Joukov)他 (1996)のナンバリング方法を用いると、およそ残基250から350、に類似したアミノ酸配列をコードしていた。同様にその他のタンパク質においてシステインリッチ領域がみられるが、これらは、例えば、ユスリカ類のChironomus tentansの唾液腺において合成される分泌絹−様タンパク質sp185のように、VEGFファミリーとは機能において全く無関係のものである。このタンパク質は、バルビアニ環、即ち、ユスリカ唾液腺における多糸染色体にみられる、組織特異的染色体“パフ”に位置する、遺伝子BR3によってコードされるものである(Dignam and Case: Gene, 1990 88 133-140; ポールソン(Paulsson)他, J. Mol. Biol., 1990 211 331-349) 。ヨウコフ(Joukov)他 (1996)においては、VEGF−Cにおけるsp185−様構造モチーフは、フォールディングされて独立したドメインになる可能性があり、それは生合成の後少なくとも部分的に切断されると考えられるということ、そしてVEGFのC−末端領域において、sp185型の少なくとも一つのシステインモチーフが存在するということが述べられている。
【0060】
ヨウコフ(Joukov)他の図3は、VEGF−CのC−末端の、システインリッチ領域の最後の3分の2は、VEGFまたはPlGFと整列化(align)せず、実際にVEGFまたはPlGFにおいては存在しないVEGF−CのC−末端延長(部)と考えられるであろうということを示している。XPTによってコードされる配列はこの延長部と類似している。XPT cDNAはその5’末端において切断されており(切形(truncated)であり)、そのためシステインリッチドメインに対してN−末端側の領域についてのアミノ酸配列は推定することも予想することも全く不可能であった。したがって、XPT−由来の配列に類似しているVEGF−Cの部分は、その他のVEGFファミリーのメンバーの間で保存されているVEGF−Cの領域まで延長していない。
【0061】
上述のように、全長XPT核酸によってコードされるポリペプチドのN−末端領域(dbESTにおいて報告されている切形(truncated)のXPT cDNAとは異なるので)が、VEGFファミリーのメンバーのいずれか、特に、さらにN−末端の250アミノ酸を有する、VEGF−C、に対してなんらかのさらなるホモロジーを示すか否かを予想するのは不可能であった。例えば、全長XPT核酸によってコードされる自然発生のタンパク質が、ユスリカ唾液腺タンパク質のヒトホモローグであるかもしれない。そうではなく、切形のXPT cDNAによってコードされるシステインリッチモチーフのタイプが、多くの構造ドメインと同様に、複数のタンパク質の間に広く分布しているかもしれない。例えば、システイン残基のクラスターは、金属結合、正確なタンパク質の折りたたみ(フォールディング)を促進するための分子内ジスルフィド結合の形成、または、タンパク質サブユニットから複合体の構築(アセンブリー)のための分子間ジスルフィド結合の形成に関与している可能性がある(Dignam and Chase, 1990)。切形のXPT cDNAが、VEGF−関連分子をコードする配列に由来するものであったかを判定するためには、より長いcDNAを単離する必要があった。
【0062】
例2 VEGF−DをコードするcDNAのクローニング
dbESTにおいて報告されているXPT cDNAのサンプルを、the IMAGE Consortiumによって得られたcDNAクローンの登録供給者である、ATCC(the American Type Culture Collection)から入手した。XPT cDNAのアイデンティティ(同一性)を、ジデオキシチェーンターミネーション法(サンガー(Sanger)他, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1977 74 5463-5467)を使用したヌクレオチド配列決定によって確認した。
【0063】
XPT cDNAを、Clontechから購入した、ヒト乳房cDNAライブラリーをスクリーニングするためのハイブリダイゼーションプローブとして使用した。1つの陽性クローンが単離され、そしてこのクローンを次に両鎖について配列決定した。ヌクレオチド配列を編集し、そしてオープンリーディングフレームを同定した。この核酸配列を配列番号1に示す。この配列によってコードされるポリペプチドをVEGF−Dと命名し、そして配列番号3に表示したその推定アミノ酸配列を、図3に示す。図3において、コンセンサス配列N−X−S/T、ただしXは任意のアミノ酸、を有する、推定上のN−結合型グリコシル化部位を箱で囲って示してある。
【0064】
例3 VEGF−Dの特性
VEGF−Dのアミノ酸配列を、ヒトVEGF−A165,VEGF−B、VEGF−C、およびPlGFのアミノ酸配列と比較した。これらの比較をそれぞれ、図1aから1dに示す。配列ホモロジーの程度を計算したところ、配列内にアラインメント(整列化)の目的で導入された間隙を計算において考慮しない場合、VEGF−Dは、VEGFと31%同一であり、VEGF−Cと48%同一であり、VEGF−Bと28%同一であり、そしてPlGFと32%同一である。したがって、確認された最も近い関係にあるタンパク質はVEGF−Cであった。
【0065】
The GenBank, EMBLおよびSwissProt核酸データベースでのコンピューターサーチではVEGF−Dと同一の(identical)タンパク質配列は全く見られなかった。前述の配列アラインメントから予測されるように、これらのデータベースにおいてみられる、最も近い関係にあるタンパク質はVEGF−Cであった。dbESTのサーチも行ったが、VEGF−Dの完全なコード領域を包含する配列は全く見られなかった。VEGF−Dの配列は、WO96/11269に開示されているTie−2リガンド1の配列とは無関係である。
【0066】
検出されたホモロジーは単に、アミノ酸配列のレベルにおけるものにすぎないものであったということを留意することが重要である。したがって他のVEGFファミリーのメンバーをコードする核酸配列による低いストリンジェンシーでのハイブリダイゼーションのような方法によって、VEGF−DをコードするcDNAまたはgDNAを単離するのは不可能であったであろう。
【0067】
VEGF−Dは、VEGFファミリーのすべてのメンバーの中でVEGF−Cに最も近い関係にあるようである。VEGF−Dアミノ酸配列はVEGF−Cにおいて見られるシステインリッチsp815−様モチーフを含んでいるので、本発明のこのポリペプチドはリンパ内皮において重要な機能的役割を果たしている可能性がある。我々は提案されているいかなるメカニズムにも拘束される意図はないが、VEGF−CとVEGF−Dとは、その上で内皮細胞が成長することが可能な絹−様マトリックスを構成している可能性があると考えられる。リンパ管は基底膜を有しておらず、したがって絹−様マトリックスが基底膜−様の物質を形成することが可能である。これは、細胞増殖の促進および/または細胞分化において重要である可能性があり、そして、ガン、特に転移、薬物療法、ガンの予後(予知)等に関連している可能性がある。
【0068】
例4 VEGF−Dの生物学的特性
VEGF−DのcDNA配列を使用して、VEGF−Dの推定アミノ酸配列、強塩基性、強酸性、疎水性および極性アミノ酸の数、分子量、等電点、pH7における電荷、およびタンパク質全体の組成分析を含む、コードされるポリペプチドの生化学的な特性を予想した。この分析はProteanタンパク質分析プログラム、バージョン1.20(DATASTAR)を使用して行った。これらの結果を以下の表1と表2とに要約する。表1はコドンの使用(codon usage)も示している。
【0069】
【表1】

【0070】
【表1−1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表2−1】

【0073】
この分析により、プロセシングされていないVEGF−Dモノマーの分子量は37キロダルトン(kD)であると予想される。これに比べて(完全にプロセシングされたペプチドに関する)実験による測定値は、VEGF−Aモノマーについては20から27kDであり、VEGF−Bモノマーについては21kDであり、そしてVEGF−Cモノマーについては23kDである。
【0074】
例5
例2に記載した、VEGF−Dに対するcDNAの最初の単離は、ヒト乳房cDNAライブラリーのハイブリダイゼーションスクリーニングによるものであった。そのようにして単離されたVEGF−Dに対するcDNAクローンはただ1つだけだったので、他の別個に単離されたVEGF−D cDNAとの比較によってcDNAの構造を確認することは不可能であった。この例で記載する研究は、更なるヒトVEGF−D cDNAクローンの単離に関するものであり、ヒトVEGF−D cDNAの構造を確認するために行われたものである。それに加えて、マウスVEGF−D cDNAクローンを単離した。
【0075】
Stratageneから購入した2つのcDNAライブラリー、1つはヒト肺からのもの、そして1つはマウス肺からのもの(それぞれカタログ番号937210、936307)、をVEGF−D cDNAプローブを用いたハイブリダイゼーションスクリーニングのために使用した。例2に記載したヒトVEGF−Dに対するcDNAのヌクレオチド1817から2495にわたるプローブを、テンプレートとしてVEGF−D cDNAを含むプラスミドと、下記の2つのオリゴヌクレオチド:
5’−GGGCTGCTTCTAGTTTGGAG(配列番号10)、
および、
5’−CACTCGCAACGATCTTCGTC(配列番号11)
を使用してポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって作成した。
【0076】
およそ200万の組換えバクテリオファージを、前記2つのcDNAライブラリーのそれぞれから、このプローブでスクリーニングした。9つのヒトの、そして6つのマウスのVEGF−Dに対するcDNAクローンが続いて単離された。
【0077】
前記9つのヒトのVEGF−Dに対するcDNAクローンのうち2つについてジデオキシチェーンターミネーション法(サンガー(Sanger)他, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1977 74 5463-5467)を使用して完全に配列決定した。この2つのcDNAは、ヒトVEGF−Dのコード領域の全体を含んでおり、一方のクローンが他方よりも5’−末端において5ヌクレオチド長かったということを除いては同一であった。この短い方のcDNAのヌクレオチド配列を図4に示し、配列番号4に表示する。このcDNAから推定されるヒトVEGF−D(hVEGF−D)のアミノ酸配列は、354残基長であり、これを図5に示す;これを配列番号5に表示する。その他のヒトVEGF−D cDNAクローンのうち5つの5’領域の配列も決定した。それぞれのクローンについて、キャラクタライズされた配列は、コード領域の翻訳開始部位からすぐに下流に100ヌクレオチド以上のDNAを含んでいた。すべてのケースにおいてこれらの領域の配列は、図4に示すヒトVEGF−D cDNAの、対応する領域と同一であった。
【0078】
6つのマウスのVEGF−Dに対するcDNAクローンのすべてを完全に配列決定した。これらクローンの内、2つだけはVEGF−Dのコード領域全体を含んでいた;その他のクローンは切形(truncated)であった。コード領域全体を有する2つのクローンのヌクレオチド配列は異なっており、異なるサイズのアミノ酸配列をコードしている。長い方のアミノ酸配列をmVEGF−D1と命名し、そして短い方の配列をmVEGF−D2と命名した。mVEGF−D1およびmVEGF−D2をコードするcDNAのヌクレオチド配列を、それぞれ図6および図7に示す。
【0079】
mVEGF−D1およびmVEGF−D2に対する推定アミノ酸配列を図8に示す。これらの配列をそれぞれ、配列番号6,7,8および9に表示する。これらアミノ酸配列間の相違は:
i)mVEGF−D2との比較において、mVEGF−D1には残基30の後に5アミノ酸(DFSFE)が挿入されていること;
ii)mVEGF−D1の残基317、およびmVEGF−D2の残基312の後の、C−末端の終わりの部分に完全な相違があり、その結果mVEGF−D1がかなり長くなっていること、である。
【0080】
マウスVEGF−Dに対する4つの切形のcDNAのうち3つは、C−末端領域をコードしていたが、N−末端の50アミノ酸をコードしていなかった。これら3つのcDNAのすべては、mVEGF−D2のC−末端と同じ、VEGF−DのC−末端をコードしていた。その他の切形のcDNAは、VEGF−DのN−末端側の半分のみをコードしていた。このcDNAから推定されるアミノ酸配列は、mVEGF−D2には見られないがmVEGF−D1には見られる、残基30の直後の5アミノ酸、DFSFEを含有していた。
【0081】
前述のように、この例において報告したヒトVEGF−D cDNAクローンの全体の配列は、第2のヒトクローンの配列との比較によって確証された。さらに、コード領域の5’−末端の配列は5つの他のヒトVEGF−D cDNAクローンにおいて同一であることが判明した。一方、例2において報告された配列は、VEGF−Dのコード領域のほとんどを含んでいるが、この領域の5’−末端付近が不正確であった。これはおそらくVEGF−D cDNAがコード領域の5’−末端付近で切断され(truncated)、そしてその位置が他の未同定のcDNAと結合し、その結果、真のVEGF−Dのコード配列の最初の30コドンが欠失し、そしてメチオニン残基と置換したためであると考えられる。このメチオニン残基は、例2において示されたVEGF−D配列のN−末端アミノ酸であるとされている。
【0082】
マウスVEGF−D1およびVEGF−D2の推定アミノ酸配列のN−末端領域は、ヒトVEGF−Dから推定されるものと非常によく似ている(図9を参照)。これはまた、ヒトVEGF−Dに対する正確な推定アミノ酸配列がこの例において報告されたものであることを示している。ヒトVEGF−DのN−末端の25アミノ酸は、非常に疎水性の領域を形成しており、これは、この領域の部分がタンパク質分泌のためのシグナル配列である可能性があるという意見と一致するものである。図10はヒトVEGF−Dの配列と、VEGFファミリーの増殖因子のその他のメンバー、即ちヒトVEGF165(hVEGF165)、ヒトVEGF−B(hVEGF−B)、ヒトVEGF−C(hVEGF−C)およびヒト胎盤増殖因子(hPlGF)、の配列とのアラインメントを示す。アラインメント中の間隙を計算のために無視した場合、ヒトVEGF−Dはアミノ酸配列において、ヒトVEGF165と31%同一であり、ヒトVEGF−Bと28%同一であり、VEGF−Cと48%同一であり、そしてヒトPlGFと32%同一であることが判明した。明らかに、VEGF−Cが、VEGF−Dに最も近い関係にあるこのファミリーのメンバーである。
【0083】
マウスVEGF−D1およびVEGF−D2の配列における違いは、おそらくディファレンシャルmRNAスプライシングに起因する可能性が高い。VEGF−D1のC−末端の41アミノ酸残基はVEGF−D2において欠失しており、そしてVEGF−D1配列とは近い関係にない9残基と置換されている。したがって、VEGF−D1のC−末端付近に存在する4つのシステイン残基はVEGF−D2において欠失している。この変化によって、タンパク質の三次構造または四次構造が変わる可能性があり、また、細胞内または細胞外の環境におけるタンパク質の局在に影響を及ぼす可能性がある。ヒトVEGF−DのC−末端はマウスVEGF−D1のものに似ているが、マウスVEGF−D2には似ていない。マウスVEGF−D1の残基30の後にあり、マウスVEGF−D2にもヒトVEGF−Dにも存在しない、小さな5アミノ酸の挿入がタンパク質のタンパク分解性プロセシングに影響している可能性がある。
【0084】
VEGF−Dは、マウスとヒトの間で高度に保存されている。ヒトVEGF−Dのアミノ酸残基の85パーセントがマウスVEGF−D1におけるものと同一である。これはおそらくタンパク質機能の保存を反映するものである。推定上のVEGF−Dの機能はここで提案した。ヒトVEGF−D cDNAのオルターナティブな形態は見つからなかったが、マウスVEGF−DのmRNAの多様な形態を引き起こすRNAスプライシングの異形(variation)が、ヒト組織においても起こっているかもしれないという可能性がある。
【0085】
例6 VEGF−DのCOS細胞における発現
図4に示す配列のヌクレオチド1から1520に渡り、全体のコード領域を含んでいる、VEGF−Dに対するヒトcDNAのフラグメントを、哺乳類の発現ベクターpCDNA1−ampに挿入した。このベクターを用いて、以前に記載されたDEAE−デキストラン法(アルッフォ(Aruffo)およびシード(Seed), 1987)によってCOS細胞を一過性にトランスフェクトし、そしてその結果得られた条件細胞培養培地(conditioned cell culture media)を7日間のインキュベーション後に収集し、Amicon濃縮器(10,000分子量をカットオフするCentricon 10)を用いて、製造業者の指示に従って濃縮した。トランスフェクションのために用いたプラスミドはヒトVEGF−Dのための発現コンストラクトと、ポジティブコントロールとして、マウスVEGF−A cDNAをpCDNA1−ampに挿入することによって作成したコンストラクトであった。条件培地を以下に記載するように2種類のバイオアッセイでテストし、そしてその結果はCOS細胞が実際に生物学的に活性の(有効な)VEGF−Dを発現および分泌していたということを実証するものである。
【0086】
例7 VEGF−DがVEGF受容体−2に結合する能力についてのバイオアッセイ
例5において示したように、VEGF−DはVEGFファミリーの他のメンバーに、一次構造において近い関係にある。このタンパク質ファミリーのメンバーのほとんどは、内皮細胞に対して、(細胞)分裂促進性(mitogenic)および/または走化性を有する(ケック(Keck)他, 1989; リョン(Leung)他, 1989; ヨウコフ(Joukov)他, 1996; オロフソン(Olofsson)他, 1996)。さらに文献に記載された最初のVEGFファミリーのメンバーであるVEGF−A(以前はVEGFとして知られていた)は、血管透過性の強力な誘導物質(インデューサー)である(ケック(Keck)他, 1989)。タンパク質の構造は、タンパク質の機能の重要な決定要因であるので、VEGF−Dも内皮細胞に対して分裂促進性であるか、または血管透過性を誘導する(induce)可能性があると考えられる。したがって、ヒトVEGF−Dをバイオアッセイにて、それが、VEGF−Aによって活性化されると分裂(促進)シグナルを引き起こすと考えられている内皮細胞−特異的受容体である、VEGF受容体−2(VEGFR2;Flk−1としても知られている)(ストローン(Strawn)他, 1996)に結合する能力についてテストした。
【0087】
VEGFR2に結合する増殖因子の検出のためのバイオアッセイは、因子-依存性の細胞ラインBa/F3において開発(develop)されており、我々の以前の特許出願番号PCT/US95/16755において記載されている。これらの細胞はインターロイキン−3(IL−3)の存在下で成長する;しかし、この因子を除去すると、結果として48時間以内に細胞死が起こる。もし増殖刺激を送達する能力のあるその他の受容体がBa/F3細胞にトランスフェクトされたら、それら細胞は、IL−3を含まない培地において細胞が成長する場合、その受容体を活性化する特異的な増殖因子によって救出(レスキュー)され得る。受容体−型チロシンキナーゼの特定のケースにおいては(例えば、VEGFR2)、受容体チロシンキナーゼの細胞外ドメインとエリスロポエチン受容体(EpoR)の膜貫通および細胞質内ドメインとを含むキメラ受容体が利用可能である。この場合、キメラ受容体の細胞外ドメインに結合するリガンド(例えば、VEGF)による刺激により、結果としてEpoR細胞質内ドメインを介するシグナル伝達、およびそれに続いてIL−3を含まない増殖培地における前記細胞ラインの救出(レスキュー)が起こる。この研究において使用する、マウスVEGFR2の細胞外ドメインとマウスEpoRの膜貫通および細胞質内ドメインとからなるキメラ受容体のコンストラクションとバイオアッセイ自体について以下に記載する。
【0088】
プラスミドコンストラクション
i)キメラVEGFR2受容体を産生するためのプラスミドのコンストラクション
マウスVEGFR2の細胞外ドメインをコードするDNAと、他のタンパク質ドメインをコードするDNAとを簡単に結合することが可能となるようなプラスミドコンストラクトを得るために、部位特異的突然変異誘発を使用して、マウスVEGFR2の、細胞外ドメインと膜貫通ドメインとの移行部(ジャンクション)をコードするcDNAの位置に、BglII制限酵素部位を生成した。エルリッヒス(Oelrichs)他 (1993)によって記載されたマウスVEGFR2 cDNAの全長クローンを哺乳類発現ベクターpCDNA1−amp中に、BstXI制限酵素部位を利用してサブクローニングした。一本鎖UTP+DNAをM13複製起点(ori領域)を使用して生成し、そしてこれをテンプレートとして使用して、所望の位置にBglII部位を含むマウスVEGFR2 cDNAを生成した。この変更した(altered) VEGFR2 cDNAを含むプラスミドをpVEGFR2Bglと命名した。キメラVEGFR2受容体を産生するために、あらゆる受容体の膜貫通および細胞質内ドメインをコードするDNAフラグメントをpVEGFR2BglのBglII部位に挿入することができる。
【0089】
ii)VEGFR2/EpoRキメラ受容体のコンストラクション
マウスEpoR cDNAを発現ベクターpCDNA1−amp中にサブクローニングし、そして突然変異誘発のためのテンプレートとして一本鎖DNAを生成した。EpoRの、膜貫通ドメインと細胞外ドメインとの移行部(ジャンクション)をコードする位置において、EpoR cDNAに、BglII制限酵素部位を挿入し、このDNAフラグメントが、pVEGFR2Bgl中のVEGFR2細胞外ドメインをコードする前記の変更した(modified)cDNAに直接ライゲーションできるようにした。さらにEpoRの細胞質内ドメインにおけるBglII部位を、無変化の(サイレントな)単一ヌクレオチド置換によって除いた。EpoRの膜貫通ドメインと細胞質内ドメインをコードするDNAフラグメントを用いて、次に、VEGFR2の膜貫通ドメインと細胞質内ドメインをコードする、pVEGFR2Bglの部分と置換した。このようにしてVEGFR2の細胞外ドメインと、EpoRの膜貫通および細胞質内ドメインとからなるキメラ受容体をコードする、単一の読み枠が生成した。
【0090】
このキメラ受容体をコードするDNAフラグメントを発現ベクターpBOSにサブクローニングし、そしてプラスミドpgk−neoとともに、1:20の比でBa/F3細胞ラインに、共−トランスフェクトした。VEGFR2−EpoRタンパク質を発現する細胞を、VEGFR2細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体(MAb 4H3)を用いたフローサイトメトリー解析によって選抜した。このモノクローナル抗体は、1994年2月10日に出願されたオーストラリア特許出願第PM3794号に記載されている。高レベルのVEGFR2−EpoRを発現する細胞ラインを、細胞を、5μg/mlのMAb 4H3、または、25ng/mlの組換えVEGF中にて成長させることによって選抜した。高レベルのVEGFR2−EpoRを発現する細胞ラインを、Ba/F3−NYK−EpoRと命名し、バイオアッセイのために使用した。
【0091】
バイオアッセイ
前述のBa/F3−NYK−EpoR細胞を、すべてのIL−3を除去するためにPBS中で3回洗浄し、13.5μlの培地当たり1000細胞の濃度となるように再懸濁し、そして60穴テラサキプレートの各ウェル当たり13.5μlのアリコットに分けた。トランスフェクトされたCOS細胞からの条件培地を次に細胞培養培地中に希釈した。内皮細胞受容体Tie2の細胞外ドメインとEpoRの膜貫通および細胞質内ドメインとからなるキメラ受容体を発現する細胞を非−応答性コントロール細胞ラインとして用いた。細胞を48−96時間インキュベートし、その間に細胞培養培地単独でインキュベートした細胞は死に、その他のウェル(即ちCOS細胞−条件培地の存在下のもの)においてみられた相対的な生存/増殖を、ウェル当たりに存在する生細胞を数えることによってスコアした。
【0092】
発現プラスミドで一過性にトランスフェクトされたCOS細胞からの条件培地を30倍濃縮し、そしてVEGFR2バイオアッセイに使用した。pCDNA1−ampでトランスフェクトされたCOS細胞からの濃縮された条件培地をネガティブコントロールとして使用した。
【0093】
結果を図11に示す。ここでインキュベーション培地中の30倍濃縮されたCOS細胞−条件培地のパーセンテージ(vol/vol)に対して、48時間のインキュベーション後のウェルにおける生細胞の数がプロットされている。明らかにVEGF−AまたはVEGF−Dのいずれかを含有する条件培地はこのアッセイにおいて細胞の生存を促進する能力があり、これはこれら両方のタンパク質がVEGFR2に結合してそれを活性化することができることを示唆していた。
【0094】
例8 血管透過性アッセイ
例6のように調製して30倍に濃縮されたヒトVEGF−Dを、麻酔されたモルモット(アルビノ/白色、300−400g)において行ったMiles血管透過性アッセイ(マイルズ(Miles)およびマイルズ(Miles), 1952) においてテストした。pCDNA1−ampでトランスフェクトされたCOS細胞からの濃縮された条件培地を再びネガティブコントロールとして使用した。モルモットを抱水クロラールで麻酔した(3.6g/100ml;体重10g当たり0.1ml)。次にこれら動物の背中をクリッパーで注意深く剪毛した。動物に対してエバンスブルー色素(MT PBS中0.5%、0.5ml)の心臓内注入を23G針を使用して行い、そして次に100−150μlの濃縮されたCOS細胞−条件培地を皮内に注射した。15−20分後これら動物を殺し(sacrificed)、そして背中の皮膚の層を切除して下にある血管を露出させた。定量化のためにそれぞれの注射部分を切除しそして2−5mlのホルムアミド中で45℃に加熱した。その結果得られた血管外遊出した色素を含有する上清を、次に620nmで分光光度的に調べた。
【0095】
動物1については、30倍濃縮されたVEGF−A条件培地の注射に起因する620nmでの吸光度は0.178であり、30倍濃縮されたVEGF−D条件培地の注射に起因する620nmでの吸光度は0.114であり、そして30倍濃縮されたpCDNA1−ampでトランスフェクトされた細胞からの培地の注射に起因する620nmでの吸光度は0.004であった。動物2については、30倍濃縮された培地を皮内注射の前に細胞培養培地中で4倍希釈した。VEGF−A条件(conditioned)サンプルに起因する620nmでの吸光度は0.141であり、VEGF−D条件サンプルに起因する620nmでの吸光度は0.116であり、ネガティブコントロールとして血清含量を整合したサンプルに起因する620nmでの吸光度は0.017であった。VEGF−AまたはVEGF−Dの存在下で両方の動物について観察された、色素の血管外遊出の増強は、これらタンパク質の両方が血管透過性を強く誘導することを示すものであった。
【0096】
ここで記載されたデータはVEGF−Dが分泌タンパク質であり、VEGF−Aの様に、VEGFR2に結合してVEGFR2を活性化し、血管透過性を誘導することができるということを示している。
【0097】
例9 内部VEGF−Dポリペプチドの生理活性
VEGF−Dの推定アミノ酸配列は、他のすべてのVEGFファミリーのメンバーの配列に類似した中央部分を含んでいる(図10におけるアラインメントに示すように、ヒトVEGF−Dアミノ酸配列のおよそ残基100から196)。したがってVEGF−Dの生理活性の部分は、この保存領域に存在するであろうと考えられていた。この仮説についてテストするために、VEGF−Dの生合成について研究し、そしてヒトVEGF−Dの前記保存領域を哺乳動物細胞において発現させ、精製し、そして以下に記載するバイオアッセイにおいてテストした。
【0098】
プラスミドコンストラクション
ヒトVEGF−Dの残基93から201の部分をコードするDNAフラグメント、即ちN−末端およびC−末端領域を除去したもの、をテンプレートとして全長ヒトVEGF−D cDNAを含むプラスミドを使用して、Pfu DNAポリメラーゼを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応によって増幅した。増幅されたDNAフラグメントは、その配列をヌクレオチドシークエンシングによって確認し、そして発現ベクターpEFBOSSFLAGに挿入し、それによって生じたプラスミドをpEFBOSVEGFD△N△Cと命名した。pEFBOSSFLAGベクターは、インターロイキン−3(IL−3)遺伝子由来のタンパク質分泌のためのシグナル配列およびFLAGTMオクタペプチドをコードするDNAを含んでいる。
【0099】
FLAGTMオクタペプチドは、M2モノクローナル抗体(IBI/Kodak)等の市販の抗体によって認識されることができる。VEGF−D PCRフラグメントを、IL−3シグナル配列がFLAGTM配列のすぐに上流となり、そしてFLAGTM配列がVEGF−D配列のすぐに上流となるように、そのベクターに挿入した。3つの配列すべてが同じ読み枠内となり、そのため哺乳動物細胞へのpEFBOSVEGFD△N△Cのトランスフェクションの結果として起こるmRNAの翻訳により、そのN−末端にIL−3シグナル配列を有し、続いて、FLAGTMオクタペプチドおよびVEGF−D配列が並ぶタンパク質が生じるであろう。シグナル配列の切断と引き続いて起こる細胞からのタンパク質の分泌により、N−末端に隣接してFLAGTMオクタペプチドがタグ付加されたVEGF−Dポリペプチドが生じるであろう。このタンパク質をVEGFD△N△Cと命名した。
【0100】
さらに、ヒトVEGF−Dの全長コード配列が、FLAGTMオクタペプチドの配列がVEGF−Dのコード配列のすぐ下流となり、そしてVEGF−Dのコード配列と同じ読み枠となるようにpEFBOSIFLAGに挿入された、pEFBOSVEGFDfullFLAGと称する第2のプラスミドを構築した。プラスミドpEFBOSIFLAGはIL−3シグナル配列を有さず、したがってVEGF−D/FLAG融合タンパク質の分泌はVEGF−Dのシグナル配列によって行われた。pEFBOSVEGFDfullFLAGはC−末端にFLAGTMオクタペプチドがタグ付加された全長のVEGF−Dを哺乳動物細胞中で発現させるようにデザインされた。このタンパク質をVEGFDfullFLAGと命名し、これはVEGF−D生合成の研究にとって有用である。
【0101】
VEGF−Dの翻訳後プロセシングについての分析
VEGF−Dポリペプチドがプロセシングされて成熟した完全に活性のあるタンパク質となるか否かを調べるため、pEFBOSVEGFDfullFLAGをCOS細胞に一過性にトランスフェクトした(アルッフォ(Aruffo)およびシード(Seed), 1987)。COS細胞中での発現、そしてその後の35S−メチオニン/システインでの生合成ラベリングおよびM2ゲルでの免疫沈降によって、およそ43kD(fA)および25kD(fB)の種が示された(図12A)。これらのバンドは、VEGF−Dは切断されてC−末端フラグメント(FLAGTMがタグ付加)および内部ペプチド(ほぼVEGFD△N△Cタンパク質に対応する)を生じるという考えに一致する。免疫沈降の還元(M2)によっていくらかfAバンドが還元され、これは2つのフラグメントの間のジスルフィド結合の可能性を示すものである。
【0102】
内部VEGF−Dポリペプチドの発現および精製
プラスミドpEFBOSVEGFD△N△Cを用いて、以前に記載されたDEAE−デキストラン法(アルッフォ(Aruffo)およびシード(Seed), 1987)によってCOS細胞に一過性にトランスフェクトした。その結果得られる条件細胞培養培地(およそ150ml)を、7日間のインキュベーションの後収集し、M2モノクローナル抗体を結合させた樹脂を用いたアフィニティークロマトグラフィーにかけた。簡単に説明すると、前記培地を、1mlのM2抗体カラムに、およそ4時間、4℃でバッチ式に流した。カラムを次に10mM Tris−HCl、pH8.0、150mM NaClで十分に洗浄し、その後同じバッファー中で25μg/mlの遊離のFLAGTMペプチドで溶出した。その結果得られた物質を以下に記載するバイオアッセイにおいて使用した。
【0103】
精製されたVEGFD△N△Cを検出するためにM2アフィニティーカラムから溶出されたフラクションをウエスタンブロット分析にかけた。カラムフラクションのアリコットを2xSDS−PAGEサンプルバッファーと混ぜボイルして15%SDSポリアクリルアミドゲルにローディングした。分離したフラクションをニトロセルロースメンブランにトランスファーし、そして非−特異的結合部位を、Tris/NaCl/Tween20(TST)および10%脱脂粉乳(BLOTTO)中でのインキュベーションによりブロッキングした。メンブランを次に3μg/mlのモノクローナル抗体M2またはコントロール抗体とともに室温で2時間インキュベートし、その後TST中で十分に洗浄した。次にメンブランを二次ヤギ抗−マウスHRP−結合抗血清とともに室温で1時間インキュベートし、その後TSTバッファー中で洗浄した。タンパク質種の検出は化学発光試薬(ECL, Amersham)を用いて行った(図12B)。
【0104】
非還元条件下において分子量およそ23kDの種(VEGFD△N△C)が、M2抗体によって検出された。これは、この内部フラグメントに対する予想分子量(12,800)にN−結合型グリコシル化を足したものと一致する;VEGFD△N△Cは2つの潜在的N−結合型グリコシル化部位を含んでいる。およそ40kDの種も検出されたが、これは前記23kDタンパク質(VEGFD△N△C)の非−共有結合性のダイマーを表すものである可能性がある。
【0105】
バイオアッセイ
ポリペプチドがVEGF受容体−2に結合する能力についてのバイオアッセイに関しては例7において詳細に記載されている。M2アフィニティーカラムから溶出したVEGFD△N△Cタンパク質を含有するフラクションのアリコットを培地で希釈し、そして以前に記載されたようにVEGFR2バイオアッセイにおいてテストした。精製VEGFD△N△Cタンパク質を含有することが示された(図12B)、アフィニティーカラムからのフラクション#3は、この精製フラクションの希釈度1/100まで、バイオアッセイ細胞ラインの増殖を誘導する明らかな能力を示した(図13)。それに対して、アフィニティーカラムのボイド容量(フラクション#1)は活性を示さず、一方オリジナルのVEGFD△N△C条件培地は弱い活性しか示さなかった。
【0106】
血管透過性アッセイ(マイルズ(Miles)およびマイルズ(Miles), 1952)は例8において簡単に記載されている。精製VEGFD△N△CのアリコットおよびM2アフィニティーカラムのボイド容量のサンプル(ネガティブコントロール)を培地と混合し、モルモットの皮膚に、皮内注入(注射)した。注射部位の皮膚の領域を切除し、そして血管外遊出した色素を溶出させた。精製VEGFD△N△Cの注入に起因する620nmにおける血管外遊出した色素の吸光度は0.131±0.009であった。それに対してボイド容量のサンプルの注入に起因する吸光度値は0.092±0.020であった。したがってVEGFD△N△Cは血管透過性を誘導したが、その効果は僅かな(marginal)ものでしかなかった。
【0107】
VEGFR2に結合する能力があること、および、全長VEGF−Dに比べて血管透過性の誘導が低いということから、VEGF−D△N△Cは競合阻害によって、VEGF−Dによる血管透過性の誘導を相対的に低下させるといえるかもしれない。この意味において、VEGF−D△N△Cフラグメントは、血管透過性の誘導に関してVEGF−Dに対するアンタゴニストであると考えられる可能性がある。
【0108】
要約
2つの要因によって我々は活性の促進についてVEGF−Dの内部フラグメントを探索することにした。まず第1に、VEGFファミリーのその他のすべてのメンバーとアミノ酸ホモロジーを示すのは、VEGF−Dの中央部分であるということがある。第2に、PDGF−BB等の他の増殖因子では内部生理活性ポリペプチドの生成を引き起こすタンパク分解性プロセシングが起こるということがある。更にCOS細胞中の全長VEGF−Dタンパク質について見られる活性は、VEGF−AをトランスフェクトされたCOS細胞からの条件培地に対応するものよりも低かった。
【0109】
成熟VEGF−D配列は、FAATFYおよびIIRRSIQIで切断され、残基92−205内に含まれるフラグメントに由来するであろうということが予想された。COS細胞中で発現させたVEGF−DfullFLAG の免疫沈降分析から、VEGF−Dポリペプチドの、これらの部位における内部タンパク分解性切断物(cleavage)と一致する種が生じていた。したがって、N−末端およびC−末端領域が除去された(VEGFD△N△C)、切形(truncated)形態のVEGF−Dが、COS細胞中で産生および発現されていた。このタンパク質をM2抗体を用いて同定および精製した。VEGFD△N△Cタンパク質は、VEGF−Dの92−205フラグメント内のペプチドを認識する、A2抗体によっても検出された(ここでは示されていない)。VEGFD△N△CをVEGFR2バイオアッセイおよびMiles血管透過性アッセイによって評価したところ、VEGFR2の細胞外ドメインとのクロスリンクを検出するようにデザインされたバイオアッセイにおいて、VEGFR2受容体に結合してそれを活性化することが示された。Milesアッセイにおけるこのポリペプチドによる血管透過性の誘導は、VEGF−Aの効果とは対照的に最低限のものであった。
【0110】
例10 VEGF−DのVEGFR−3に対する結合および活性化
組換えVEGF−Dの産生のために、ヒトVEGF−D cDNAをバキュロウイルスシャトルベクターにクローニングした。無修飾のVEGF−D cDNA(“全長VEGF−D”と称する)を含む、バキュロウイルスシャトルベクターの他に、VEGF−D cDNAが以下のように修飾された2種のバキュロウイルスシャトルベクターを構築した。
【0111】
一つのコンストラクト(“全長VEGF−D−H”と称する)においては、C−末端にヒスチジンタグを付加した。もう一方のコンストラクトにおいては、推定上のN−末端およびC−末端のプロペプチドを除去し、メリチンシグナルペプチドをイン・フレームにてN−末端に融合させ、そして残りのVEGFホモロジードメインのC−末端にヒスチジンタグを付加した(“△N△C−MELsp−VEGF−D−H”と称する)。
【0112】
前記3つのコンストラクトのそれぞれについて、2または3の独立のトランスフェクションの、バキュロウイルスのクローンを増幅した。High Five (HF)細胞の上清を、高いタイターのウイルスストックでの感染の48時間後に収集した。上清を、NaOHでpH7に調整し、一容量のD−MEM(0.2% FCS)で希釈した。
【0113】
ヨウコフ(Joukov)他, 1996に記載されているように、サンプルをNIH3T3細胞上のVEGFR−3(Flt4受容体)のチロシンリン酸化を刺激する能力についてテストした。感染していない細胞の上清と、VEGFR−3のチロシンリン酸化を刺激しない、VEGF−Cの短い(short)スプライスバリアントで感染させた細胞の上清とを、ネガティブコントロールとして使用した。△N△C−melSP−VEGF−D−Hと同じ様に修飾したVEGF−Cをポジティブコントロールとして使用した。結果を図14に示す。
【0114】
125および195kDの新しいバンドの出現は、受容体のリン酸化、したがって受容体の活性化を示す。
【0115】
例11 VEGF−DのVEGFR−2に対する結合および活性化
例10において記載されているように組換えVEGF−Dの産生のために、修飾および無修飾のヒトVEGF−D cDNAをバキュロウイルスシャトルベクターにクローニングした。
【0116】
前記3つのコンストラクト、全長VEGF−D、全長VEGF−D−H、および△N△C−melSP−VEGF−D−Hのそれぞれについて、2または3の独立のトランスフェクションの、バキュロウイルスのクローンを増幅した。High
Five(HF)細胞の上清を、高いタイターのウイルスストックでの感染の48時間後に収集した。上清を、NaOHでpH7に調整し、一容量のD−MEM(0.2% FCS)で希釈した。
【0117】
ヒスチジンタグ付加されたタンパク質によって条件づけられた(conditioned)上清について、ヨウコフ(Joukov)他, 1996にしたがって、KDR受容体のチロシンリン酸化を刺激する能力についてテストした。KDRは、flk1(VEGFR2)のヒトホモローグである。
【0118】
感染していない細胞の上清と、KDRを刺激しない、VEGF−C 156Sミュータントで感染させた細胞の上清とを、ネガティブコントロールとして使用した。VEGF165と△N△C−melSP−VEGF−D−Hと同じ様に修飾したVEGF−Cとをポジティブコントロールとして使用した。結果を図15に示す。
【0119】
およそ210kDの新しいバンドの出現は、受容体のリン酸化、したがって受容体の活性化を示す。
【0120】
例12 VEGF−D遺伝子発現の分析
ヒトおよびマウス胚におけるVEGF−D遺伝子発現のパターンをキャラクタライズするために、VEGF−D cDNAを、ポリアデニル化されたヒトRNAのノーザンブロット分析、およびマウス胚を用いたin situハイブリダイゼーション分析のための、ハイブリダイゼーションプローブとして使用した。
【0121】
成人(adult human)における遺伝子発現
図4(配列番号4)に示すヒトVEGF−D cDNAの、EcoRV部位から3’−末端にわたる(ヌクレオチド911から2029)1.1kbフラグメントをMegaprime DNAラベリングシステム(Amersham)を用いて製造業者の指示に従って、[α−32P]dATPで標識した。このプローブを用いて、再び製造業者の指示に従って、ヒト多組織ノーザンブロット(Clontech)を、ハイブリダイゼーションによってスクリーニングした。これらのブロットは、見かけ上病気を患っていない成人の組織から得られたポリアデニル化されたRNAを含むものであった。標識されたブロットのオートラジオグラフィーにより、VEGF−D mRNAは、心臓、肺、および骨格筋において最も大量であることが明らかになった。
【0122】
VEGF−D mRNAは、脾臓、卵巣、小腸および大腸においては中程度に豊富であり、そして腎臓、膵臓、胸腺、前立腺および精巣においては少量であった。脳、胎盤、肝臓または末梢血白血球からのRNAにおいては、VEGF−D mRNAは検出されなかった。、VEGF−D mRNAが検出された組織のほとんどにおいては転写産物のサイズは2.3kbであった。唯一の例外は骨格筋であり、2.3kbと2.8kbの2種のVEGF−D転写産物が検出された。骨格筋において2.3kbの転写産物の方が、2.8kbの転写産物よりも大量であった。
【0123】
マウス胚における遺伝子発現
マウスVEGF−D mRNAに対するアンチセンスRNAプローブを生成するために、図7(配列番号7)に示すマウスVEGF−D2 cDNAを、転写ベクターpBluescriptIIKS+(Stratagene)に挿入した。その結果得られたプラスミドを制限酵素(制限エンドヌクレアーゼ)FokIで完全に(to completion)消化し、そしてT3RNAポリメラーゼを用いたin vitro転写反応のためのテンプレートとして使用した。この転写反応は、VEGF−D2 cDNA(図7)の3’−末端から、最も3’−末端に近いFokI切断部位にわたる領域(ヌクレオチド1135から700)に対して、配列において相補的なVEGF−D mRNAに対するアンチセンスRNAプローブを生じさせるものであった。このアンチセンスRNAプローブを、交尾後15.5日のマウス胚から作成したパラフィン包埋した組織切片と、高いストリンジェンシーにてハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションと洗浄は、本質的に以前に記載されたものと同様であった(アーヘン(Achen)他, 1995)。
【0124】
洗浄と乾燥の後、スライドを6日間オートラジオグラフィーフィルムに露光した。
【0125】
オートラジオグラフィーフィルムの現像により、VEGF−D mRNAは、交尾後15.5日の胚の発生中の肺に局在していることが明らかになった。肺におけるこのVEGF−D mRNAに対するシグナルは、強く、そして高度に特異的なものであった。センスプローブでのコントロールハイブリダイゼーションでは、肺においてもその他の組織においても検出可能なバックグラウンドは見られなかった。
【0126】
要約
VEGF−D遺伝子は成人において広く発現しているが、確実に遍在性に発現している訳ではない。最も強い発現は、心臓、肺および骨格筋において検出された。交尾後15.5日のマウス胚において、強い特異的なVEGF−D遺伝子発現が肺において検出された。これらのデータは、VEGF−Dが肺の発達において役割を果たしている可能性があること、および肺におけるVEGF−D遺伝子発現が、少なくともヒトでは成体においても持続していることを示唆している。成人における他の組織での遺伝子発現は、VEGF−Dがその他の成体組織において別の機能を果たしているということを示唆している。
【0127】
例13 VEGF−Dは内皮細胞に対して(細胞)分裂促進性である
VEGFファミリーのタンパク質のいくらかのメンバー、すなわちVEGF−A(リョン(Leung)他, 1989)およびVEGF−B(オロフソン(Olofsson)他, 1996)は、内皮細胞に対して(細胞)分裂促進性である。内皮細胞に対するVEGFD△N△Cの分裂促進能力をテストするために、このタンパク質を例9に記載されているように発現させ、アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。VEGFD△N△Cを含有する、M2アフィニティーカラムから溶出した、フラクション#3を、5%血清を含む細胞培養培地中で10分の1に希釈し、そして10%血清を含む培地中で増殖させたウシ大動脈内皮細胞(BAE)に与えた。BAEは、VEGFD△N△Cの添加の前日にウェル当たり10,000細胞の密度で24−穴シャーレに播いておき、このポリペプチドの添加の3日後、細胞をトリプシンによって解離させ、数えた。ポジティブコントロールとしてこの実験に精製VEGF−Aを用いた。結果を図16に示す。細胞培養培地にフラクション#3を添加することにより、インキュベーションの3日後のBAEの数は2.4倍に増加し、この結果はVEGF−Aについて得られたものに匹敵するものであった。明らかにVEGFD△N△Cは内皮細胞に対して分裂促進性である。
【0128】
例14 ヒト染色体上のVEGF−D遺伝子の局在
ヒト染色体上のVEGF−D遺伝子の局在化のためのハイブリダイゼーションプローブを作成するために、ヒトゲノムDNAライブラリー(Clontech)から、VEGF−DのヒトゲノムDNAクローンを単離した。ゲノムライブラリーを、標準的方法(サムブルック(Sambrook)他, 1989)を用いて、図4に示すヒトVEGF−D cDNAでのハイブリダイゼーションによってスクリーニングした。そのようにして単離したクローンの1つは、ヒトVEGF−D cDNAからの配列に由来する多数のオリゴヌクレオチドに対するハイブリダイゼーションにより、VEGF−D遺伝子の部分を含んでいることが示された。およそ13kbのサイズの、このゲノムクローンの領域をアガロースゲルから精製し、ビオチン−14−dATPでニックトランスレーションによって標識し、そして2人の正常ヒト男性からの(分裂)中期(metaphase)に対して最終濃度20ng/μlにてin situでハイブリダイズさせた。蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法を以前に記載されたもの(カレン(Callen)他, 1990)から以下の点において改変した。つまり、染色体をよう化プロピジウム(対比染色として)とDAPI(染色体同定のため)で分析の前に染色した。中期標本のイメージ(像)を、the CytoVision Ultra image collection and enhancement system(Applied Imaging Int. Ltd.)を用いて、冷却CCDカメラで捕らえた。FISHシグナルとDAPI結合パターンを分析のために組み合わせた(merged)。
【0129】
一人目の正常男性からの15の中期(metaphases)を蛍光シグナルについて調べた。中期のうち10は、X染色体のバンドp22.1の、1つの染色分体上(3細胞)または両方の染色分体上(7細胞)にシグナルを示した。これら15の中期において、全部で9の非−特異的バックグラウンドドット(dots)が観察された。二人目の正常男性からの15の中期に対するプローブのハイブリダイゼーションからも同様の結果が得られ、その際、シグナルは7細胞においては1つの染色分体上、そして4細胞においては両方の染色分体上に、Xp22.1において観察された。結論を述べると、ヒトVEGF−D遺伝子はX染色体のバンドp22.1上に位置している。
【0130】
例15 マウス染色体上のマウスVEGF−D遺伝子の局在
VEGF−D遺伝子のマウス染色体の位置を、以前に記載されているように(コープランド(Copeland)およびジェンキンス(Jenkins), 1991)、(C57BL/6JxMus Spretus)F1雌とCB7BL/67雄とを交配することによって得られた子孫を用いた種間戻し交雑分析によって決定した。この種間戻し交雑マッピングパネルは、すべての常染色体およびX染色体の間に広く分布する、2400以上の遺伝子座についてタイプされている(コープランド(Copeland)およびジェンキンス(Jenkins), 1991)。C57BL/6JおよびM. SpretusのDNAをいくつかの酵素で消化し、そして情報源である(informative) 制限断片長多型(RFLP)について、本質的に記載されたように(ジェンキンス(Jenkins)他, 1982)、1.3kbのマウスVEGF−D cDNAプローブを用いてサザンブロットハイブリダイゼーションによって分析した。TaqIで消化したC57BL/6J DNAにおいて、7.1、6.3、4.7、2.5および2.2kbのフラグメントが検出され、そしてTaqIで消化したM. Spretus DNAにおいて、7.1、3.7、2.7、および2.2kbの主要なフラグメントが検出された。同時分離した、3.7および2.7のTaqIM. Spretus 特異的フラグメントの存在または不在は戻し交雑したマウスにおいて伴った(followed)。マッピングの結果は、VEGF−D遺伝子が、Bik、DxPasIおよびPtmb4に連鎖(リンク)して、マウスX染色体の末端領域に位置するということを示す。89のマウスにおいてはすべてのマーカーについて分析したが、133のマウスはいくつかのマーカーの対についてタイプした。それぞれの遺伝子座を、追加のデータを用いて組換え頻度について対の組み合わせにおいて分析した。各遺伝子座の対について分析したマウスの総数に対する、組換え染色体を示すマウスの総数の比、および最も確からしい遺伝子順序は以下の通りである:セントロメア−Btk−14/121―DxPasI―3/99―VEGF−D―5/133−Ptmb4。Map Manager(version 2.6.5)を用いて算出した組換え頻度[遺伝的距離として、センチモルガン(cM)±標準誤差にて表現した]は、−Btk−11.6+/−2.9―DxPasI―3.0+/−1.7―VEGF−D―3.8+/−1.7−Ptmb4である。Btk、DxPasI、およびPtmb4を含む、VEGF−D遺伝子に連鎖した遺伝子座についてのプローブおよびRFLPの記載は、以前に報告されたものである(ハックフリガー(Hacfliger)他, 1992; ホロウェイ(Holloway)他, 1997)。
【0131】
我々は、我々のX染色体の種間(遺伝学的)地図と、多くのクローニングされていない突然変異の地図位置を報告している複合性のマウス連鎖地図(The Jackson Library, Bar Harbor, MEに維持されているコンピュータ処理したデータベースである、Mouse Genome Databaseから提供されたもの)とを比較した。内皮細胞分裂促進因子の遺伝子座における変化に関して予期されるであろう、マウスの表現型の突然変異を欠くものである、複合性の(遺伝学的)地図の領域にVEGF−D遺伝子を、(染色体上に)位置づけた。マウスX染色体の末端領域は、ヒト染色体の短腕と、ホモロジー領域を共有している(Mouse Genome Database)。マウスにおけるこの間隔でのVEGF−D遺伝子の配置は、ヒトホモローグが染色体上でXp22に位置するであろうということを示唆している。これは、このヒト遺伝子がXp22.1に局在するとした我々のFISH分析と一致する。
【0132】
多数の疾患状態が、ヒトにおいて、Xp22.1およびこの領域のすぐ周囲の位置に位置づけられた未知の遺伝子における突然変異によって引き起こされる。これらの疾患状態には、カルマン症候群、眼球白子症(Nettleship−Falls型)、眼球白子症および感音系難聴、Partington症候群、脊椎骨異形成症(遅発型)、網膜色素変性症15、性腺形成異常症(XY 女性型)、Nance−Horan白内障−歯症候群、網膜分離症、シャルコー-マリー-ツース病、F−細胞産生、低マグネシウム血症、毛包性角化症spinulosa decalvance、コフィン-ローリー症候群、角膜類皮腫、低リン酸塩血症、無ガンマグロブリン血症、エカルディ症候群、遺伝性低リン酸血症II、精神薄弱(非−異形)、オピッツG症候群、色素障害(網状)、dosage−sensitive性転換、副腎形成不全、網膜色素変性症−6、難聴−4(先天性感音性)、およびウィルソン−ターナー症候群が含まれる。これらの疾病状態に関与する遺伝子の位置は、Johns Hopkins University (USA)のDr. Victor McKusickおよびその同僚によって編集されたOMIM遺伝子地図に示されている。
【0133】
VEGF−Dの機能の判定のためのバイオアッセイ
VEGF−Dが、内皮細胞に対する機能、血管新生および創傷治癒に関して、VEGFと類似の活性を有するか否かを評価するための他のアッセイを行った。受容体結合分布研究の結果によっては更なるアッセイを行ってもよいであろう。
【0134】
I.内皮細胞に対する機能についてのアッセイ
a)内皮細胞増殖
内皮細胞増殖アッセイを、例えばファーララ(Ferrara)およびヘンゼル(Henzel) (1989), ゴスポダロヴィッツ(Gospodarowicz)他(1989),および/またはクラッフェイ(Claffey)他, Biochim. Biophys. Acta, 1995 1246 1-9の方法などの、当業者に周知の方法によって行う。
【0135】
b)細胞接着アッセイ
多形核顆粒球の内皮細胞に対する接着に関するVEGF−Dの効果についてテストする。
【0136】
c)走化性
標準的なボイデンチャンバー(BoydenChamber) 走化性アッセイを用いて、走化性に関するVEGF−Dの効果についてテストする。
【0137】
d)プラスミノーゲン活性化因子アッセイ
ペッパー(Pepper)他 (1991)の方法を用いて、内皮細胞を、プラスミノーゲン活性化因子およびプラスミノーゲン活性化因子阻害剤の産生に関するVEGF−Dの効果についてテストする。
【0138】
e)内皮細胞遊走アッセイ
モンテサノ(Montesano)他 (1986)に記載されているようにして、内皮細胞の遊走および管(チューブ)の形成を刺激するVEGF−Dの能力についてアッセイする。別法として、ヨウコフ(Joukov)他 (1996)によって記載された三次元コラーゲンゲルアッセイまたは改変ボイデンチャンバー(Boyden Chamber)におけるゼラチン化メンブラン(グレイザー(Glaser)他, 1980)を用いてもよい。
【0139】
II.血管新生アッセイ
リョン(Leung)他 (1989)に記載されているようにして、ニワトリ漿尿膜における血管形成応答を誘導するVEGF−Dの能力についてテストする。別法としてラスティネジャド(Rastinejad)他 (1989)のラット角膜アッセイを用いてもよい;これはin vivo血管新生アッセイについて受け入れられている方法であり、その結果はその他のin vivoシステムにすぐに移行可能である。
【0140】
III.創傷治癒
創傷治癒を刺激するVEGF−Dの能力について、シリング(Schilling)他 (1959)によって記載され、ハント(Hunt)他 (1967)によって利用された、使用可能な臨床的に最も関連性のあるモデルにおいてテストする。
【0141】
IV.造血系
造血系に特異的な細胞集団を用いた多様なin vitro およびin vivoのアッセイが当業者に知られているが、以下にその概要を述べる。具体的には、蛍光活性化セルソーターで精製した細胞を用いた多様なin vitroマウス幹細胞アッセイが特に便利である。
【0142】
a)再増殖幹細胞
これらは致死照射されたマウスの骨髄を再増殖させることができ、そしてLin、Rhh1,Ly−6A/E、c−kitの表現型を有する細胞である。VEGF−Dを、これらの細胞単独と、またはその他の因子とともに、共−インキュベーションし、その後H−チミジン取り込みによる細胞の増殖の測定を行うことによってテストする。
【0143】
b)後期段階幹細胞
これらは比較的弱い骨髄再増殖能力を有するが、D13 CFU−Sを産生することができる細胞である。これらの細胞はLin、Rhh1,Ly−6A/E、c−kitの表現型を有する。VEGF−Dを、これらの細胞とともに一定期間インキュベートし、致死照射されたレシピエントに注入し、そしてD13脾コロニーの数を数える。
【0144】
c)前駆(progenitor)-濃縮細胞
これらはin vitroで単一の増殖因子に応答し、Lin、Rhh1,Ly−6A/E、c−kitの表現型を有する細胞である。このアッセイは、VEGF−Dが直接的に造血前駆細胞に対して作用することができるか否かを示すものである。VEGF−Dをこれらの細胞とともに寒天培養においてインキュベートし、そして7−14日後に存在するコロニーの数を数える。
【0145】
V.アテローム性動脈硬化症
平滑筋細胞はアテローム性動脈硬化症の発達または惹起において重大な役割を果たしており、それはそれらの表現型が収縮性から合成の状態へと変化することを必要とする。マクロファージ、内皮細胞、Tリンパ球および血小板はすべて、平滑筋細胞の増殖および表現型の変調に影響を与えることによって、アテローム斑の発達において役割を果たしている。その中において異なる細胞タイプが対の(opposite)カバーグラスに播かれる、改変Roseチャンバーを使用したin vitroアッセイは、多細胞の環境における平滑筋細胞の増殖速度および表現型の変調を測定するものであり、それを用いてVEGF−Dの平滑筋細胞に対する効果が評価される。
【0146】
VI.転移
転移を阻害するVEGF−Dの能力について、例えばカオ(Cao)他(1995)の方法を使用して、ルイス肺癌モデルを用いてアッセイする。
【0147】
VII.その他の細胞タイプにおけるVEGF−D
他の細胞タイプ、例えば肝臓細胞、心筋およびその他の細胞、内分泌細胞そして骨芽細胞(造骨細胞)の、増殖、分化そして機能に対するVEGF−Dの効果は、in vitro培養によるH−チミジン取り込みなどの当業者に周知の方法によって簡単にアッセイすることができる。これらおよびその他の組織におけるVEGF−Dの発現は、ノーザンブロッティングおよびハイブリダイゼーション等の技術、またはin situハイブリダイゼーションによって判定することができる。
【0148】
VIII.VEGF−D変異体(variant)およびアナログの作成
VEGF−Dは、PDGFファミリーの増殖因子のメンバーであり、PDGFファミリーのその他のメンバーと高度なホモロジーを示す。VEGF−Dはこのファミリーの増殖因子に特有の8つの保存されたシステイン残基を含む。これらの保存されたシステイン残基は、システインノット構造を作る、鎖内ジスルフィド結合、およびPDGFファミリーの増殖因子のメンバーの特徴であるタンパク質ダイマーを作る、鎖間ジスルフィド結合を形成する。VEGF−Dは、タンパク質チロシンキナーゼ増殖因子受容体と相互作用する。
【0149】
受容体への結合およびその結果としての活性のために必要とされる、タンパク質の構造および活性部位について、ほとんどまたはまったく知られていないタンパク質とは対照的に、VEGF−Dの活性のあるミュータントのデザインは、PDGFファミリーの増殖因子のメンバーの、活性部位および重要なアミノ酸について多くの知見が得られているという事実によって大幅に促進される。
【0150】
PDGFファミリーの増殖因子のメンバーの、構造/活性の関係を明らかにする既発表論文には、以下のものが含まれる。PDGFについて:エストマン(Oestman)他, J. Biol. Chem., 1991 266 10073-10077; アンダーソン(Andersson)他, J. Biol. Chem., 1992 267 11260-1266; エフナー(Oefner)他, EMBO J., 1992 11 3921-3926; フレミング(Flemming)他, Molecular and Cell Biol., 1993 13 4066-4067およびアンダーソン(Andersson)他, Growth Factors, 1995 12 159-164;そしてVEGFについて:キム(Kim)他, Growth Factors, 1992 7 53-64; ペトジェンス(Poetgens)他, J. Biol. Chem., 1994 269 32879-32885およびクラッフェイ(Claffey)他, Biochem. Biophys. Acta, 1995 12461-9。これらの出版物から、8つの保存されたシステイン残基のために、PDGFファミリーの増殖因子のメンバーは、特徴的なノットのある折りたたみ構造および二量体化を示し、その結果、二量体化した分子のそれぞれの端において3つの露出されたループ領域が形成され、そこにおいて活性受容体結合部位が位置していると予想され得るということが明らかである。
【0151】
この情報に基づいて、バイオテクノロジー技術分野に習熟した当業者は、ノットのある折りたたみ配列および二量体化の原因である8つのシステイン残基を保存することによって、およびタンパク質構造のループ1、ループ2、ループ3領域におけるおそらく受容体配列である配列を保存するか、または保存的なアミノ酸置換のみを行うことによっても、VEGF−D活性を高い確率で保持するVEGF−Dミュータントをデザインすることができる。
【0152】
タンパク質構造において、特異的に標的とする部位における所望の(突然)変異の形成はタンパク質化学者の技術の蓄積において標準的な技術であると考えられる(クンケル(Kunkel)他, Methods in Enzymol., 1987 154 367-382)。VEGFに関するそのような部位特異的突然変異誘発の例は、ペトジェンス(Poetgens)他, J. Biol. Chem., 1994 269 32879-32885およびクラッフェイ(Claffey)他, Biochim. Biophys. Acta, 1995 12461-9において見ることができる。事実、部位特異的突然変異誘発は、非常に一般的なものであるのでそのような方法を容易にするキットは市販されている(例えばPromega 1994-1995 Catalog., Pages 142-145)。
【0153】
VEGF−Dミュータントの内皮細胞増殖活性は、よく確立されているスクリーニング手法によってに簡単に確認することができる。例えば、クラッフェイ(Claffey)他,( Biochim. Biophys. Acta, 1995 1246 1-9)によって記載されている内皮細胞有系分裂アッセイに類似の手法を利用することができる。同様に、その他の細胞タイプの増殖、細胞分化およびヒトの転移に対するVEGF−Dの効果は、当業者に周知の方法を用いてテストすることができる。
【0154】
本発明を明瞭化および理解の目的でかなり詳細に記載したが、この明細書において開示した発明の概念の範囲から逸脱することなく、ここに記載した態様および方法に対する様々な改変および変更を行うことができるということは、当業者にとって明らかであろう。
【0155】
ここで引用した文献を以下の頁においてリストし、この記載により、それらは参考文献として本出願にその内容が合体される。
【0156】
参考文献
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【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1a】ヒトVEGF−DとヒトVEGF165の配列間の比較を示す図であって、箱は、ヒトVEGF−Dと正確に一致する残基を示す。
【図1b】ヒトVEGF−DとヒトVEGF−Bの配列間の比較を示す図であって、箱は、ヒトVEGF−Dと正確に一致する残基を示す。
【図1c】ヒトVEGF−DとヒトVEGF−Cの配列間の比較を示す図であって、箱は、ヒトVEGF−Dと正確に一致する残基を示す。
【図1d】ヒトVEGF−DとヒトPlGFの配列間の比較を示す図であって、箱は、ヒトVEGF−Dと正確に一致する残基を示す。
【図2】ヒトVEGF−D、ヒトVEGF165、ヒトVEGF−B、ヒトVEGF−C、およびヒトPlGFの配列間の配列アラインメントを示す図であって、箱は、VEGF−D配列と正確に一致する残基を示す。
【図3】cDNA配列(配列番号1)から予測した、ヒトVEGF−Dのアミノ酸配列(配列番号3)を示す図であって、箱は、N−結合型グリコシル化の可能性のある部位を示す。
【図4】市販のヒト肺cDNAライブラリーからハイブリダイゼーションによって単離した、ヒトVEGF−Dをコードする第2のcDNA配列のヌクレオチド配列(配列番号4)を示す図であって、このcDNAは、ヒトVEGF−Dの全体のコード領域を含む。
【図5】図4のcDNA配列から推定した(deduced) 、ヒトVEGF−Dのアミノ酸配列(配列番号5)を示す図。
【図6】市販のマウス肺cDNAライブラリーからハイブリダイゼーションスクリーニングによって単離した、マウスVEGF−D1をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号6)を示す図。
【図7】図6と同じライブラリーから単離した、マウスVEGF−D2をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号7)を示す図。
【図8】マウスVEGF−D1の推定アミノ酸配列(配列番号8)とマウスVEGF−D2の推定アミノ酸配列(配列番号9)を示す図。
【図9】マウスVEGF−D1、マウスVEGF−D2、およびヒトVEGF−Dの推定アミノ酸配列間の比較を示す図。
【図10】ヒトVEGF−D、ヒトVEGF165、ヒトVEGF−B、ヒトVEGF−C、およびヒトPlGFのアミノ酸配列間の配列アラインメントを示す図。
【図11】VEGF−AまたはVEGF−Dのいずれかを発現するCOS細胞からの条件培地を、Ba/F3細胞において発現したキメラ受容体の細胞外ドメインに対して結合する能力についてテストした、バイオアッセイの結果を示す図。
【図12a】VEGF−Dペプチドの免疫沈降およびウエスタンブロッティング分析の結果を示す図であって、pEFBOSVEGFDfullFLAGおよびpCDNA−1VEGF−AをCOS細胞にトランスフェクトし、生合成的に35S−システイン/メチオニンで4時間標識し、これら培養からの上清を、M2ゲルまたはプロテインAに結合したVEGF−Aに対する抗血清のいずれかで免疫沈降した。洗浄したビーズを等容量の2xSDS−PAGEサンプルバッファーで溶出し、ボイルした。サンプルを次に12% SDS−PAGEによって分離し、星印()でマークしたレーンは、サンプルをジチオスレイトールで還元し、ヨードアセトアミドでアルキル化したものを示し、分子量マーカーが示されており、fAおよびfBは、pEFBOSVEGFDfullFLAGを発現するCOS細胞からの、M2ゲルによって免疫沈降された、43kDおよび25kD種を示す。
【図12b】精製したVEGFD△N△Cのウエスタンブロッティング分析の結果を示す図であって、M2アフィニティーカラムから溶出した物質のアリコット(フラクション#3、VEGFD△N△C)を、2xSDS−PAGEサンプルバッファーと混合し、そして15% SDS−PAGEゲルで分離し、タンパク質を次にニトロセルロースメンブランにトランスファーし、モノクローナル抗体M2またはコントロールのアイソタイプが一致した抗体(Neg)のいずれかで探索した(probed)。ブロットを、ヤギ抗−マウス−HRP二次抗体および化学発光(ECL, Amersham)を使用して現像し、単量体のVEGFD△N△C、およびこのペプチドの推定上の二量体形態(VEGFD△N△C”)を矢印で示し、分子量マーカーが示されている。
【図13】VEGFR2バイオアッセイを用いた、VEGFD△N△Cタンパク質の分析の結果を示す図であって、組換えVEGFD△N△C、およびM2アフィニティークロマトグラフィーによって精製した物質を、VEGFR2バイオアッセイを用いて評価し、IL−3を除去するために洗浄されたバイオアッセイ細胞(10)を、COS細胞でトランスフェクトされたVEGF−Dからの条件培地のアリコット、アフィニティーカラムからのフラクション#1(ボイド容量)またはアフィニティーカラムからのフラクション#3(VEGFD△N△Cを含有する)とともにインキュベートし、すべてのサンプルは初濃度20%(即ち1/5)で、その後倍加希釈してテストしたものであり、細胞を10%COの加湿雰囲気において37℃で48時間インキュベートした。細胞の増殖を、1μCiのH−チミジンを添加し、そして4時間以上かけて取り込まれた量をカウントすることによって定量化した。
【図14】VEGF−Dでトランスフォームされた組換えバキュロウイルスベクターで感染させたHF細胞からの培養上清による、NIH3T3細胞上のVEGFR3受容体(Flt4)のチロシンリン酸化の刺激を示す図。
【図15】図14におけるものと同様に調製した培養上清による、PAE細胞におけるVEGFR2受容体(KDR)のチロシンリン酸化の刺激を示す図。
【図16】ウシの大動脈の内皮細胞(BAE)に対するVEGFD△N△Cの分裂促進効果を示す図であって、BAEを、VEGFD△N△Cを含有するフラクション#3、およびポジティブコントロールとしてテキストにおいて記載された精製VEGF−Aを用いて処理したものであり、増殖因子を添加していない培地を用いて得られた結果を、培地コントロールとして示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号5の93〜201のアミノ酸残基からなるポリペプチド、または、少なくとも1のアミノ酸の置換または欠失を有する対応のポリペプチド、をコードする単離核酸分子であって、前記ポリペプチドが、細胞増殖、細胞分化、細胞遊走、細胞生存および血管透過性からなるグループから選択される少なくとも一つの内皮細胞生物活性を刺激する能力を有するか、あるいは、内皮細胞に結合する能力を有するが少なくとも一つの前記生物活性を刺激する能力を有さない、配列番号5の93〜201のアミノ酸残基からなるポリペプチド、または、少なくとも1のアミノ酸の置換または欠失を有する対応のポリペプチド、をコードする単離核酸分子。
【請求項2】
cDNAである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
ゲノムDNAである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、更にアフィニティータグペプチド配列を有する、請求項1〜3のいずれかの核酸分子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の核酸分子を有するベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項7】
配列番号5の93〜201のアミノ酸残基からなるポリペプチド、または、少なくとも1のアミノ酸の置換または欠失を有する対応のポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、細胞増殖、細胞分化、細胞遊走、細胞生存および血管透過性からなるグループから選択される少なくとも一つの内皮細胞生物活性を刺激する能力を有するか、あるいは、内皮細胞に結合する能力を有するが少なくとも一つの前記生物活性を刺激する能力を有さない、配列番号5の93〜201のアミノ酸残基からなるポリペプチド、または、少なくとも1のアミノ酸の置換または欠失を有する単離ポリペプチド。
【請求項8】
更にアフィニティータグペプチド配列を有する、請求項7に記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求項7に記載のポリペプチドに対して特異的な反応性を有する抗体。
【請求項10】
前記抗体が、ポリクローナル抗体である請求項9に記載の抗体。
【請求項11】
前記抗体が、モノクローナル抗体である請求項9に記載の抗体。
【請求項12】
前記抗体が、ヒト化抗体である請求項9に記載の抗体。
【請求項13】
前記抗体が、キメラ抗体である請求項9に記載の抗体。
【請求項14】
前記抗体が、検出可能なラベルで標識されている請求項9〜13のいずれかに記載の抗体。
【請求項15】
請求項7または8に記載のポリペプチドを作る方法であって、前記方法が以下の工程:
i)前記ポリペプチドをコードする核酸配列が発現するように、プロモーター配列に操作可能に結合した前記ポリペプチドをコードする核酸配列を有するベクターを有する宿主細胞を培養する工程;そして
ii)前記宿主細胞から、または、前記宿主細胞が培養される増殖培地から前記ポリペプチドを単離する工程、を有する方法。
【請求項16】
請求項7または8のポリペプチドを単離する方法であって、下記の工程:
i)前記ポリペプチドを発現する細胞からの前記ポリペプチドの放出を促進するために、前記細胞をヘパリンに曝す工程と、そして、
ii)そのようにして放出されたポリペプチドを精製する工程、
とを有する、方法。
【請求項17】
請求項1〜4のいずれかに記載の核酸分子によってコードされるポリペプチドを発現する能力のあるベクターを作る方法であって、前記方法が、前記核酸分子が少なくとも一つのプロモーターと作用するように結合する位置において、前記核酸分子をベクターに挿入する工程を有する、方法。
【請求項18】
アンチセンスヌクレオチド配列を有するベクターであって、前記アンチセンスヌクレオチド配列が、請求項7または8に記載のポリペプチドをコードし、血管透過性、内皮細胞の増殖および内皮細胞分化から選択される少なくとも一つの生物活性を促進する、ゲノムDNA配列、RNA配列、またはcDNA配列の少なくとも一部に対して相補的であって、前記ベクターが前記少なくとも一つの活性を阻害するために使用可能である、アンチセンスヌクレオチド配列を有するベクター。
【請求項19】
内皮細胞の増殖を生体外において刺激する方法であって、内皮細胞を増殖するのに有効な量の請求項7または8に記載のポリペプチドに接触させる工程を有する、内皮細胞の増殖を生体外において刺激する方法。
【請求項20】
前記内皮細胞が、血管内皮細胞またはリンパ内皮細胞である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項7または8に記載のポリペプチド、および薬学で許容されるキャリアまたはアジュバントを有する、医薬組成物。
【請求項22】
更に、VEGF,VEGF−B,VEGF−C,PlGF,PDGF,FGFおよびヘパリンからなるグループから選択される少なくとも一つの物質を有する、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
請求項9に記載の抗体、および薬学で許容されるキャリアまたはアジュバントを有する、医薬組成物。
【請求項24】
前記抗体が、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、および、キメラ抗体からなるグループから選択される請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
請求項7または8に記載の第一のポリペプチド、および第二のポリペプチドからなる、タンパク質ダイマー。
【請求項26】
前記タンパク質ダイマーがホモダイマーであり、前記第二のポリペプチドが、前記第一のポリペプチドと同じである、請求項25に記載のタンパク質ダイマー。
【請求項27】
前記タンパク質ダイマーがヘテロダイマーであり、前記第二のポリペプチドが、VEGF,VEGF−B,VEGF−C,PlGFおよびPDGFからなるグループから選択される、請求項25に記載のタンパク質ダイマー。
【請求項28】
生物試料中における請求項7または8に記載のポリペプチドを検出する方法であって、前記試料を、前記ポリペプチドに結合する能力のある抗体に接触させる工程と、前記抗体の結合の発生を検出する工程とを有する、方法。
【請求項29】
生体外におけるVEGF受容体2の活性化方法であって、前記受容体を有する細胞を、前記受容体を活性化するのに有効な用量の請求項7または8に記載のポリペプチドに曝す工程を有する、生体外におけるVEGF受容体2の活性化方法。
【請求項30】
生体外におけるVEGF受容体3の活性化方法であって、前記受容体を有する細胞を、受容体を活性化するのに有効な用量の請求項7または8に記載のポリペプチドに曝す工程を有する、生体外におけるVEGF受容体3の活性化方法。
【請求項31】
請求項9に記載の抗体と、前記抗体の結合を検出するための手段を有する、診断または予知のテストキット。
【請求項32】
ポリメラーゼに作用するように結合する、請求項1〜3のいずれかに記載の核酸分子に対して特異的なプライマーの対を有する、診断または予知のテストキットであって、前記ポリメラーゼがDNAサンプルからの前記核酸分子を選択的に増幅することが可能となる、診断または予知のテストキット。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−167072(P2007−167072A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13569(P2007−13569)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【分割の表示】特願平10−510953の分割
【原出願日】平成9年8月21日(1997.8.21)
【出願人】(500025570)ルードヴィッヒ インスティテュート フォー キャンサー リサーチ (16)
【出願人】(501482754)
【氏名又は名称原語表記】LICENTIA OY
【住所又は居所原語表記】EROTTAJANKATU 19 B 5, 00130 HELSINKI, FINLAND
【Fターム(参考)】