説明

絶縁膜被覆金属箔の製造方法

【課題】金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した塗布液を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布して形成する絶縁膜の膜厚が、十分な絶縁性を確保できる膜厚であって、膜厚ムラがなく均一に成膜された絶縁膜被覆金属箔の製造方法を提供する。
【解決手段】金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した塗布液を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布し、熱処理して絶縁膜を形成する絶縁膜被覆金属箔の製造方法であって、前記塗布液の粘度が3〜15mPa・sで、前記塗布液の固形分含有量が20〜60質量%であり、前記熱処理の雰囲気が酸素を含有して水蒸気の含有量を0〜2mol%である絶縁膜被覆金属箔の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した塗布液をスリットコーターで金属箔表面に塗布して絶縁膜を形成した絶縁膜被覆金属箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の薄型ディスプレイの基板には、ガラス材料が使用されている。
【0003】
しかしながら、近年、上記ディスプレイを含み各種ディスプレイの薄型化が更に進み、その結果、ディスプレイの基板も更なる薄型が要求されてきた。このようにディスプレイ基板の薄型化に対し、従来のガラス基板では強度不足の問題を抱えており、特に、フレキシビリティが要求される電子ペーパーの基板としては、ガラス基板では益々対応が困難になってきている。そこで、従来のガラス基板に対して、金属箔がその代替基板として検討されている。その理由は、金属箔が薄くて強度も高く、フレキシビリティ(柔軟性)を有するためである。しかしながら、金属箔は、電気導電性であるので、ディスプレイ基板とするためには、金属箔に絶縁膜を被覆して表面を電気的に絶縁しなければならない。
【0004】
前記金属箔の絶縁膜としては、無機酸化物材料、有機高分子や有機樹脂等の有機材料、有機・無機ハイブリッド材料などの膜がある。
【0005】
無機酸化物材料は、耐熱性が高く、耐薬品性などに優れている。しかしながら、金属箔の絶縁膜とする場合には、耐電圧あるいは絶縁抵抗値を上げるために膜厚を上げることが難しく、硬く脆いためクラックが入り易い。よって、特に、フレキシブル基板として金属箔を使用するには、金属箔の絶縁膜としても適さない。
【0006】
有機材料は、絶縁膜としてだけではなく、それ単独でフレキシブル基板として検討されている。有機材料は柔軟性がありフレキシビリティに優れているので、例えば、PES (Poly Ether Sulphone)、OPS(Oriented PolyStyrene、延伸ポリスチレン)がディスプレイ基板材料として検討されている。しかしながら、いずれの樹脂もその耐熱性が200℃前後であり、薄型ディスプレイに不可欠なTFT(thin film transistor、薄膜トランジスタ)を形成する1000℃以上の温度に耐えることが出来ず、低温TFTであってもその製造温度が220〜500℃であるので前記樹脂を使用するのが難しい。よって、前記樹脂を金属箔の絶縁膜として用いても、同様の問題がある。
【0007】
上記無機酸化物材料や有機材料に比べて、有機・無機ハイブリッド材料は、無機酸化物膜と異なってクラックの発生なく厚膜化ができ、一方、有機材料と異なって300℃超える高い温度に耐えられる。したがって、有機・無機ハイブリッド材料は、薄型ディスプレイや電子ペーパー等で使用されるフレキシブル基板とする金属箔の絶縁膜には最も適した材料である。特に、ゾル・ゲル法によって作製できるオルガノシロキサン系有機・無機ハイブリッド膜は、前記金属箔の絶縁膜として密着性等も良好になり、より好ましいものである。
【0008】
更に、オルガノシロキサン系有機・無機ハイブリッドの中でも、ポリジメチルシロキサンを含む有機・無機ハイブリッド(ポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッド)は柔軟性に優れており、金属箔の基板材料とTFTを構成するための積層材料との熱膨張係数の違いによる影響を前記ポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドの柔軟性によって緩和でき、TFT構成材料にクラックが発生するのを防止できる。
【0009】
例えば、特許文献1〜2には、オルガノシロキサン系有機・無機ハイブリッドを上記目的として金属箔の絶縁膜に使用することが開示されている。特に、特許文献2では、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンとから形成されるポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッド膜をステンレス箔表面に形成することが開示されている。
【0010】
前記オルガノシロキサン系やポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッド膜は、ゾル(塗布液)を金属箔表面にコーティングし、乾燥、熱処理を施して形成される。前記塗布液のコーティングには、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、ロールコート等の各種従来の湿式コーティング法を採用することが考えられる。特許文献1におけるオルガノシロキサン系有機・無機ハイブリッド膜の形成に関し、塗布液のコーティング方法としては、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法が例示され、実際には、実施例で、ディップコート法又はバーコート法でステンレス箔表面にオルガノシロキサン系有機・無機ハイブリッドのゾルをコーティングしている。特許文献2におけるポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッド膜の形成に関し、塗布液のコーティング方法としては、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法が例示され、実際に、実施例で、バーコート法又はディップコート法でステンレス箔表面にポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドのゾルをコーティングしている。
【0011】
バーコート法は、塗膜性能評価等の試験材料を作製するためのコーティング方法であり、量産製造等ができないので、実用的はない。また、コーティングされた表面の平滑性や膜厚制御が十分な精度で行えないので、TFT基板の絶縁膜形成方法としては使用できないコーティング方法である。ロールコート法やスプレーコート法も、得られる膜表面の平滑性や膜厚制御が十分な精度で行えないため、TFT基板の絶縁膜形成方法としては採用できない。
【0012】
ディップコート法は、コートする液の中に浸漬して、引き上げ速度で膜厚を制御するという設備的にも比較的簡単なものである。得られる膜表面の平滑性も比較的良好で、膜厚制御も十分な精度が得られる。また、大面積の基板へのコーティングも容易にできる。しかしながら、大面積になると引き上げた上部から下部に向って膜厚が厚くなるというばらつきが大きくなる傾向にある。
【0013】
スピンコート法は、試料を試料台に真空吸着法などで固定して、塗布液を表面に落としたのち、回転することで塗布液を試料表面に広げてコートする方法である。該コート法は、半導体分野でレジスト等各種材料のコーティングに採用され、膜表面の平滑性も良好で膜厚の制御も精度よく行える。しかしながら、大型ディスプレイ等に使用される大面積のTFT基板になってくると、遠心力を利用しているために大きな面積では面中心部と外側で膜厚バラツキが顕著になるという問題がある。
【0014】
そこで、最近、大型化が進むディスプレイ製造分野では、レジスト等の各種材料のコーティング方法として、スリットコート法が採用されている。スリットコート法では、大面積の基板にコーティングしても面内の膜厚のばらつきが小さく、塗膜全体の膜厚精度として1〜2%以内に抑えることができる。また、スリットコート法では、スピンコート法に比べて、コーティング液の使用量も少なくて済むという特長もあり、製造コストも低減できる。但し、レベリング性に関しては、スピンコート法の場合には、基板に対して水平方向の力が塗液に働くため、強制的に塗膜表面がレベリングされるが、スリットコート法の場合には、塗液を基板に乗せるだけでレベリングさせる外力は何も働かない。したがって、塗布時に筋ムラ、段ムラ等のムラが発生しやすい。したがって、良好なレベリングを得るには、液自体の流動性によるしかない。そのためには、塗布液を低粘度にすることになる。
【0015】
【特許文献1】特開2003-247078号公報
【特許文献2】特開2005-79405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述のように、ディスプレイ等に使用されるTFT基板として、ポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッド膜を絶縁膜として被覆した絶縁膜被覆金属箔の製造において、具体的な塗布方法としては、特許文献2のように、ディップコート法やバーコート法が採用されてきた。一方、上記のように、ディスプレイの大型化に伴いTFT基板も大面積となり、その結果、大面積の金属箔に前記絶縁膜を精度よく、効率的に施す必要がある。しかしながら、ディップコート法では、大面積の基材には高精度でコーティングすることはできない。また、スピンコート法では、200mm×200mm程度までの小サイズ基板であれば、膜厚ばらつきを2%程度に抑えられるが、基板サイズが更に大きくなると膜厚のばらつきが問題となっている。したがって、レジストを始め各種塗布材料の塗布がスリットコート法で行われるようになってきたのと同様に、前記ポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドのゾルも金属箔表面にスリットコート法でコーティングすることが考えられる。
【0017】
しかしながら、前記ゾルをスリットコート法で塗布しても、目的とする絶縁膜が得られない。ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから調製したゾルは、ポリマー成分(ポリジメチルシロキサン)を含むため、金属アルコキシドのみから調製したゾルに比べて一般に粘度が高くなりやすい。前記粘度は、50〜100mP・sであり、バーコーターやディップコーターで塗布しやすい粘度である。スリットコート法では、15mPa・s以下の低粘度の塗布液で精度よく成膜でき、レジスト等の塗布液に前記の低粘度に設計されている。よって、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから調製した従来のゾルを、スリットコーターで塗布した場合、スリットから均一に液膜を押し出せず、筋状の不均一な塗布になったり、筋状の膜厚ムラが出たり、横段ムラが発生したりするという問題があった。
【0018】
ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから調製したゾルを、15mPa・s以下の低粘度にするには、低粘度である溶媒で希釈する。前記のように、溶媒で希釈して低粘度にしたゾルを、実際にスリットコーターで塗布し、従来と同じように大気中で熱処理を行って得られる膜では、膜厚が小さくなる。上記の目的とする絶縁膜として必要な厚さの膜が得られず、十分な絶縁性が確保できない。TFT基板として、金属箔の絶縁特性を確保するために、絶縁膜は、少なくとも1.5μm以上の膜厚が必要である。
【0019】
本発明は、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した塗布液を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布して形成する絶縁膜の膜厚が、十分な絶縁性を確保できる膜厚であって、膜厚ムラがなく均一に成膜された絶縁膜被覆金属箔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記の問題を解決するべく、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとからなる塗布液において、スリットコーターによって精度よく塗布できる低粘性で、なおかつ、十分な絶縁性が得られる膜厚を有する絶縁膜被覆金属箔の製造方法について鋭意検討し、前記塗布液の粘度が3〜15mPa・sの低粘度であっても、スリットコーターで塗布した後、熱処理する雰囲気を、酸素を含有して水蒸気の含有量を低減することが有効であることを見いだした。すなわち、本発明は以下の要旨とするものである。
【0021】
(1)金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した塗布液を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布し、熱処理して絶縁膜を形成する絶縁膜被覆金属箔の製造方法であって、前記塗布液の粘度が3〜15mPa・sで、前記塗布液の固形分含有量が20〜60質量%であり、前記熱処理の雰囲気が酸素を含有し、かつ水蒸気を0〜2mol%含有することを特徴とする絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【0022】
(2)前記熱処理の雰囲気の酸素含有量が、10〜50mol%である(1)記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【0023】
(3)前記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量が、900〜10000である(1)に記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【0024】
(4)前記塗布液を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布後、減圧乾燥し、前記減圧乾燥後に熱処理して絶縁膜を形成する(1)に記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【0025】
(5)前記絶縁膜の膜厚が1.5〜3μmである(1)〜(4)に記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の絶縁膜被覆金属箔の製造方法によれば、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した塗布液を、スリットコーターによって精度よく塗布できるように粘度を下げても、十分な絶縁性を確保できる膜厚であって、膜厚ムラがなく均一に成膜された絶縁膜被覆金属箔が得られるという作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明者らは、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドとから調製したゾルを塗布液として使用してスリットコート法による塗布を行い、得られる膜について、前記ゾルの固形分含有量、粘度、膜厚に関して詳細に検討した。
【0028】
ここで用いたゾルは、チタニウムテトライソプロポキシド1.4モルと3―オキソブタン酸エチル2.8モルを混合し、平均分子量3000のポリジメチルシロキサン0.75モルとプロプレングリコールモノメチルエーテルアセテ−ト(PGMEA)1モルを加え十分撹拌したのちに、水を2モル添加して加水分解を行って調製したものである。このゾルは、固形分含有量が74.3質量%で、粘度が45mPa・sであった。ここで、固形分含有量は、ポリジメチルシロキサンについては、平均分子量3000のまますべて固化するとし、チタニウムテトライソプロポキシドについては、加水分解され、最終的に、分子量80のTiO2になると仮定して、計算によって求めた。このゾルに、溶媒であるPGMEAを加えて希釈しながら、固形分含有量と粘度の関係を調べた結果を図1(a)に示す。ゾルの固形分含有量と粘度の関係は、線形関係ではなく、固形分含有量の増加とともにゾルの粘度は指数関数的に上昇した。
【0029】
また、それぞれの固形分含有量のゾルをスリットコーターでステンレス箔の表面に塗布し、大気中300℃で6時間の熱処理した後の膜厚を調べた結果を図1(b)に示す。固形分含有量が多いと得られる被膜の膜厚は大きく、固形分含有量が少なくなると得られる被膜の膜厚は小さくなる傾向である。図2に粘度と膜厚の関係を整理した。スリットコーターで平滑性のよい均一膜を得るためには塗布液の粘度として15mPa・s以下であることが求められる一方、TFT基板として、金属箔の絶縁特性を確保するためには、絶縁膜は、少なくとも1.5μmの膜厚が必要である。しかしながら、図2に示すように、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから成るゾルを大気中で熱処理した場合、所望のゾル粘度と膜厚を両立させることができない。
【0030】
本発明者らは、ゾル中の固形分含有量を少なくすると、膜厚が急激に減少するという図1(b)に示す現象について、その原因を明らかにした。図3に、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンからのポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドの形成反応を示す。図3の(1)式は、金属アルコキシドの加水分解反応であり、原料溶液中に添加された水によって加水分解され、部分的に脱水縮合反応が進むことにより一般式MxOxy/2(OH) x(n-y)で表わされる酸化物、水酸化物、又はオキソ酸状の無機クラスターが形成される。ここで、yは加水分解後、脱水縮合反応に関与したOH基の数を表す。前記MxOxy/2(OH) x(n-y)無機クラスターは、図3の(2)式のように、ポリジメチルシロキサンと脱水縮合や水素結合などの反応により、ポリジメチルシロキサン鎖を無機クラスター[MxOxy/2(OH)x(n-y-z)(O-)xz]で架橋した構造を形成する。ここで、zはポリジメチルシロキサンと結合したOH基の数を示す。ゾルの状態で、ポリジメチルシロキサン鎖を無機クラスターで架橋した構造が生成し、更に、乾燥、熱処理の過程で、前記架橋構造の形成が進み、最終的にポリジメチルシロキサン鎖が無機クラスターで架橋されて三次元骨格が形成される。ゾル中のすべてのポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドが、図3の反応で結合するのであれば、固形分含有量と膜厚は比例するはずである。しかしながら、現実は、図1(b)のように、固形分含有量と膜厚は比例関係ではなく、固形分含有量が減少していくと、得られる膜厚が急激に小さくなる。即ち、固形分含有量が小さいゾルにおいては、成膜過程で、含有する固形分が大きく減少しているのである。
【0031】
固形分含有量が小さい場合に、膜の固形分が大きく減少するのは、熱処理過程であり、熱処理雰囲気中の水分が影響していることを見出した。スリットコーターで成膜直後のゲル膜は、固形分含有量が異なるゾルによって、そのゲル構造も次のように異なってくる。
【0032】
1)図3の反応は、ゾル中の分子間距離によって反応速度に違いがあり、固形分含有量の小さい、すなわち、分子間距離の大きいゾルでは分子衝突頻度が下がるため反応が遅く、固形分含有量の小さいゾルになると反応速度が遅くなる。したがって、固形分含有量の小さいゾルから形成されるゲル膜では、図3の反応によって無機架橋されているポリジメチルシロキサンの割合が少なくなり、単に固化していたり、弱い水素結合のみで固定されていたりするだけのポリジメチルシロキサン(未架橋のポリジメチルシロキサン)の割合が多くなる。
【0033】
2)固形分含有量が少ないゾル(溶媒の割合が大きいゾル)からゲル化すると、ゲル化過程でより多くの溶媒を巻き込んで、多くの溶媒が取り込まれたゲル構造となる。
【0034】
一方、ゲル膜を熱処理する過程では、脱水縮合反応が進み、三次元骨格が発達していくのであるが、前記熱処理雰囲気中に水分(水蒸気)が多く存在すると、水分子が、ゲル膜中に拡散していく。特に、上記1)のように未反応基等の親水基が多く存在し、上記2)のように極性基を有する溶媒が多く存在して隙間の多いゲル構造であるほど、水分子は容易にゲル膜中に拡散できる。ゲル膜中に拡散した水分子は、熱処理される温度域では、シロキサン(Si−O−Si)結合やメタロキサン(Si−O−M)結合を加水分解し、ポリジメチルシロキサン鎖が切断され、ポリジメチルシロキサンの分子量が小さくなり、低分子量のポリジメチルシロキサンは脱離して、揮発するようになる。即ち、図4に示しているように、水蒸気である水(H2O)が、δ+に分極しているSi核やM核に攻撃して(例えば、図4の(a)、(b)、(c)の求核攻撃など)、シロキサン結合やメタロキサン結合が加水分解され、揮発性の低分子となり、系外に出ていきやすくなる。上記1)のように、未架橋のポリジメチルシロキサンは、三次元骨格に固定されていない若しくは片末端だけが固定されているので、前記のような加水分解を受けると、揮発性の低分子量物を形成しやすい。したがって、熱処理雰囲気中に水分が多量に存在する場合、ゾル中の固形分含有量が少なくなると、ゲル膜から固形分が多量に減少するようになり(ポリジメチルシロキサンの脱離量が多くなり)、図1(b)のように、固形分含有量と膜厚の関係は比例から大きくずれるのである。
【0035】
以上の知見より、熱処理雰囲気中の水分(水蒸気)を除去すれば、ポリジメチルシロキサンの加水分解が抑制でき、固形分含有量の少ないゾルであっても固形分の減少を少なくできることを見出した。
【0036】
更に、熱処理雰囲気中の水分を除去するとともに、熱処理雰囲気中に酸素を存在させると、次のような効果によって、固形分の減少を抑制できることを見出した。図5に示しているように、酸素が存在する雰囲気で、前記乾燥膜を熱処理すると、熱処理の温度域では、一部のメチル基が酸素分子と反応して、Si−CH2−CH2−Siのような架橋構造が形成され、膜構造がより緻密で疎水性になるので、水分子が膜中に拡散し難くなり、膜中に水分子が多少拡散しても加水分解が抑制され、固形分の減少を効果的に抑えることができる。
【0037】
本発明は、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した低固形分含有量で低粘度の塗布液(ゾル)を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布し、熱処理して絶縁膜を形成する際に、熱処理の雰囲気が酸素を含有し、水蒸気の含有量を低くすることで、熱処理過程での固形分の減少を抑制できることを見出したものである。
【0038】
本発明に係る塗布液(ゾル)の調製方法は、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを有機溶媒に溶解し、前記溶液を攪拌し、更に、攪拌しながら、前記溶液に水又は有機溶媒で希釈した水を添加するものである。前記添加する水は、金属アルコキシドを加水分解することを目的とするので、金属アルコキシドのアルコキシ基(−OR’)1モルに対して、0.5モル〜4.0モルの水の量を添加するのが好ましい。前記金属アルコキシドは、予め、化学改質剤で改質(置換)されていてもよい。また、前記有機溶媒に、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンとともに、化学改質剤を溶解してもよい。塗布液の粘度(固形分含有量)の調整は、使用する有機溶媒の総量を調節してできる。また、上述のように、一旦、高粘度の塗布液を調製し、その後、有機溶媒を添加して希釈しながら、塗布液の粘度を調整してもよい。
【0039】
本発明で用いる金属アルコキシドは、一般式M(OR’)nで表され、金属元素Mは、例えば、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、W から選ばれる1種以上のものが挙げられ、アルコキシ基OR’は、メトシキ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。特に、金属アルコキシドの金属元素が、ポリジメチルシロキサンを効果的に架橋するためには、3価又は4価の金属元素から選ばれる1種以上であることが好ましい。Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの金属アルコキシドは、反応性が高いため、アルコキシ基の一部をβ-ジケトン、β-ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、有機酸等の化学改質剤で置換したアルコキシド誘導体を使用してもよい。
【0040】
本発明のポリジメチルシロキサンとは、直鎖状にSi−Oのシロキサンが連続的に結合したものであり、一般式 X−[Si(CH32−O−]mSi(CH32−X で表される。ここで、mは重合度、Xは反応性官能基である。反応性官能基は、例えば、シラノール基、カルビノール基、アミノ基、アルコキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ポリエーテル基、フェノール基、エポキシ含有官能基等である。ポリジメチルシロキサンのD核のSiによるシロキサン結合は回転の自由度が大きく柔軟性に富むものである。このため、ポリジメチルシロキサンが入った膜は、金属アルコキシドのみから合成する膜に比べて、一般に厚膜化が容易である。ポリジメチルシロキサンの平均分子量は900以上10000以下が望ましい。ポリジメチルシロキサンの平均分子量が900より小さい場合は得られる膜が硬くなってクラックが入りやすくなる場合がある。平均分子量が10000を超えると、膜が、柔らかく、疵付きやすくなる場合がある。ここで、前記平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定して求めるものであり、ポリスチレンで検量線を作成して決められる質量平均分子量(Mw)である。
【0041】
本発明の塗布液(ゾル)の有機溶媒としては、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシド架橋反応に直接関与しない、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、1―ブタノール、2―ブタノール等の各種アルコール、アセトン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等を挙げることができる。特に、室温での蒸発速度が遅く、コーティング時にスリットコーターのヘッドのスリットで乾燥し難い溶媒がより望ましく、例えば、プロプレングリコールモノメチルエーテルアセテ−ト、1−ブタノール等である。
【0042】
本発明に係るスリットコーターの基本構成は、図6に示しているように、金属箔(基材)1を保持する基材保持台2、スリットノズルを具備するコーターヘッド3、塗布液(ゾル)のタンク4、塗布液をコーターヘッド3に送る液送ポンプ6、等である。コーターヘッド3と、基材保持台2は、相対的に平行移動できるようになっている。例えば、基材保持台2が固定され、コーターヘッド2が、基材に対して平行に移動する。前記移動とともに、コーターヘッド2のスリットノズルから塗布液を基材表面に吐出して塗布(コーティング)する。スリットノズルから吐出される塗布液は、ノズル口から基材表面に連続した液膜状であり、表面張力により液膜を維持したまま、コーターヘッドが移動する。前記スリットノズルのノズルギャップは、10μm〜500μmの間で調整する。また、コーターヘッドの移動速度(スキャンスピード)は、1〜200mm/secで調整する。
【0043】
本発明の金属箔は、スリットコーターで上記絶縁膜を施せるものであれば、特に選ばないが、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の薄型ディスプレイの基材として使用できる平坦な金属箔が好ましい。金属箔として素材は、例えば、ステンレス(SUS304、SUS430、SUS316等)、普通鋼、メッキ鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、チタニウム等が上げられる。金属箔の厚みとしては、15μm〜600μmであることが望ましい。15μmより薄い場合は基材としてのハンドリングが難しくなる場合がある。600μmより厚い場合は、フレキシビリティが得られなくなる上、基材が重くなる場合がある。特に、フレキシビリティのある電子ペーパー用を考えるのであれば、100μm以下がより望ましく、薄いほどフレキシビリティが高い。TFT等のプロセスを通過するため、耐食性の良いステンレスがより好適である。尚、本発明の製造方法の効果が得られるのは、前記金属箔基板に限らず、金属板であっても、金属以外のガラス、セラミックス、耐熱樹脂等の基板であっても、スリットコーターで本発明に係るゾルを塗布できるものでも、同様の効果が得られる。即ち、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製したポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドのゾルをスリットコーターで塗布して成膜するにあたり、低粘度のゾルでも厚い膜が得られるという製造方法であるので、基板の種類や厚さによらず、本発明の効果が得られるのである。基板の厚さとしては、スリットコーターで取り扱える数mm(2〜5mm)程度の厚さまで適用できる。
【0044】
本発明の塗布液(ゾル)の粘度は、3〜15mPa・s以下である。15mPa・sを超えると、上述のように、スリットコート法に適用できなかったり、スリットコーターでコーティングしたときにスジムラが発生したりする。3mPa・sより低い場合は、絶縁性を確保できる十分な膜厚を得ることができない。
【0045】
本発明の塗布液(ゾル)中の固形分含有量は、20〜60質量%である。固形分含有量が、20質量%より少ないと、絶縁性を確保できる十分な膜厚を得ることができない。固形分含有量が、60質量%を超えると、塗布液の粘度が高くなりすぎてスリットコーターで均一塗布ができなくなる。ここで、固形分含有量は、上述のように、仕込みの塗布液(ゾル)から、含有する全てのポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシド由来の金属酸化物が固形分として得られるという前提に基づいて、計算して求める。
【0046】
本発明の熱処理雰囲気中の水蒸気の含有量は、0〜2mol%である。雰囲気ガス中の水蒸気の含有量はガス中の全分子のモル数に対する水分子のモル数の比をmol%で表したものである。例えば、30℃の飽和水蒸気の空気では約4モル%の含有量となる。2モル%以下の雰囲気を得るには乾燥空気を利用する方法がある。ポリジメチルシロキサンの分解・揮発が抑制されるので水蒸気の含有量は少ないほどよい。水蒸気の含有量が、2mol%を超えると、上述のように、熱処理雰囲気中の水分で、ポリジメチルシロキサンが低分子量に分解されて、固形分が減少し、その結果、膜厚の減少が顕著になり、低い固形分含有量(低粘度)で十分な膜厚が得られない。0mol%とは、ガス分析計や水分分析計での測定限界以下で示される数値であり、また、水分を添加していない乾燥雰囲気である。尚、前記mol%は、常温常圧条件の体積%でも同様の値である。
【0047】
本発明の熱処理雰囲気では、上述の理由で、酸素を含有する。より好ましい酸素含有量は、10〜50mol%である。例えば、乾燥空気を利用すれば、酸素の含有量は、21mol%となる。酸素含有量が、10mol%より少ないときは、メチル基の架橋反応等が起こり難くなる場合があり、水分子の膜中への拡散を抑制し難くなり、ポリジメチルシロキサンの加水分解が起こり、固形分の減少が顕著になる場合がある。50mol%を超えると、酸化反応が激しくなる場合があり、得られる膜が硬くなりクラックが発生しやすくなる場合がある。尚、前記mol%は、常温常圧条件の体積%でも同様の値である。
【0048】
本発明の絶縁膜被覆金属箔の製造方法では、スリットコーターで塗布後、更に減圧乾燥を行って、熱処理することが望ましい。前記減圧乾燥の工程を入れることで、常温で溶媒が揮発するのでゲル膜中の分子の分子間距離が縮まり(高固形分含有量のゾルを塗布した状態と同じような状態になり)、熱処理中においてゲル膜中への水分子が拡散するのがより効果的に抑制され、上述のような加水分解によるポリジメチルシロキサンの揮発(固形分の減少)が抑制される。また、前記のように、ゲル膜中の分子間距離が縮まると、残存する未架橋ポリジメチルシロキサンが、三次元骨格に取り込まれる反応も促進される。三次元骨格に取り込まれるポリジメチルシロキサンが多くなることも、熱処理中におけるポリジメチルシロキサンの加水分解の抑制に寄与することになり、固形分の減少が抑制される。前記減圧乾燥条件として、真空チャンバー内の圧力は、100Pa以下であることが望ましい。より好ましい圧力は、10〜70Paである。100Paを超えると、溶媒がゲル膜中に残りやすく、前記効果が小さくなる。100Pa以下の真空度への到達時間は、60秒以内が望ましく、より好ましくは、10〜40秒である。真空到達時間は短すぎると、溶媒の突沸が起こりやすくなる場合がある。減圧乾燥は、バッチ式であるため到達時間が長すぎると(60秒を超えると)、基材一枚あたりの処理時間が長くなり生産効率が低下する場合がある。
【0049】
本発明の熱処理の温度は、220〜420℃であることが望ましい。熱処理方法としては、オーブンや電気炉内での加熱、赤外線加熱、誘導加熱などが挙げられるが、熱処理の雰囲気の制御ができる装置を用いることが必要である。熱処理の温度が220℃より低いと、ポリジメチルシロキサンの架橋反応が十分進まず、得られる絶縁膜の硬度が低くなる場合がある。熱処理の温度が420℃以上では、ポリジメチルシロキサンのメチル基等の有機成分の分解が著しくなる場合があり、前記有機成分の分解によって、熱処理中に膜の収縮が大きく、クラックが入る場合がある。
【0050】
本発明の絶縁膜の膜厚は、上述のように、十分な絶縁性を得るためには1.5μm以上であることが望ましい。1.5μmより薄い膜の場合は、十分な絶縁性が得られない。十分な絶縁性とは、1cm角の上部電極を形成して、金属箔との間に100Vの電圧を印加したときの絶縁抵抗値が、109Ωcm以上であることを意味する。膜厚が厚いのは、特に制約はないが、厚くなりすぎるとTFTプロセス中にクラックが発生しやすくなるので、3μm以下の膜厚が望ましい。
【0051】
本発明の絶縁膜の膜硬度は、鉛筆硬度でHB〜8H程度であることが望ましい。鉛筆硬度でHBよりも柔らかい膜は、プロセス中に疵が入りやすく実用上問題が出る場合がある。鉛筆硬度が8Hよりも硬い膜は、フレキシビリティがないため、繰り返し曲げを行った場合に膜にクラックなどが入りやすくなる場合がある。
【実施例】
【0052】
実施例1〜13および比較例1〜4は、チタニウムブトキシド1.4モルに対してアセト酢酸エチル2.8モルを混ぜて混合したところに、質量平均分子量3000の両末端シラノール変性のポリジメチルシロキサン(PDMS)0.75モル、水2モルを加え、1−ブタノールで固形分濃度と粘度を調整したゾルを作製した。
【0053】
コーティング用の金属箔は、370×470mmの0.6mmのSUS430BAのステンレス箔を使用した。前記金属箔は、表面の油やパーティクルの除去を目的として、0.4質量%NaOH水溶液で洗浄した。
【0054】
スリットコーターに関し、スリットノズルのスリット間隔を80μmとし、ヘッドと箔の間隔を120μmとし、スキャンスピードを50mm/secで、コーティングを行った。送液速度は、塗布液の粘度に合わせて0.1〜1.0ml/secの範囲で調整した。粘度が低いほど、送液速度は遅くしたほうがよく、具体的には、5mPa・sの塗布液で0.15ml/sec、20mPa・sの塗布液で0.8ml/secとし、その他の粘度の塗布液についても適宜調整した。
【0055】
スリットコーターでコーティング後、実施例2の試料以外の全試料で減圧乾燥を行った。減圧乾燥の条件は13Paまで30秒で行った。
【0056】
その後、全ての実施例および比較例において150℃、10分の乾燥を実施した後、熱処理した。熱処理に関し、比較例1〜5では、大気中、300℃、6時間の熱処理を行った。実施例1、2、8〜15および比較例7〜9は、乾燥空気中、300℃、6時間の熱処理を行った。前記乾燥空気中の水蒸気含有量は、検出限界以下で0.001モル%以下と見積もられた。実施例3および4は、乾燥空気と窒素を混合して酸素含有量を、表1のように調整した。実施例5および6は乾燥空気と酸素を混合して酸素含有量を調整した。実施例7および比較例6は、温度を調整した水中でバブリングさせてから電気炉に導入し、表1の水蒸気含有量に調整した。
【0057】
得られた絶縁膜は、走査型電子顕微鏡にて、膜厚の測定を行った。絶縁抵抗は、1cm角の上部電極を形成して、金属箔との間に100Vの電圧を印加したときの絶縁抵抗値が109Ωcm以上であった場合を○、それ未満の場合を×とした。また、絶縁膜被覆金属箔を直径5cmの円筒に巻きつけて元に戻すという繰り返しを100回実施した後、同様の絶縁抵抗評価を行った。膜の硬度は、鉛筆硬度法で評価した。
【0058】
比較例1〜3は、粘度が高すぎて筋状あるいはムラが顕著な不均一成膜となった。比較例4および5は、熱処理雰囲気中に水蒸気が多く存在するために、ポリジメチルシロキサンが加水分解して脱離し、固形分が減少して十分な膜厚が得られなかった。
【0059】
実施例1は、乾燥空気中で熱処理したので、ポリジメチルシロキサンの加水分解・脱離が抑制され、十分な膜厚が得られた。比較例5および実施例1について、蛍光X線分析法でSiおよびTiの強度を測定してSi/Tiの強度比を求めたところ、比較例5は5.2であったのに対して、実施例1は11.1であり、Siが相対的に多いことからポリジメチルシロキサンの系外への脱離が抑制されていることが確認できた。
【0060】
実施例2は、減圧乾燥を行わなかったために、溶媒が残ったまま乾燥および熱処理を行うことになり、水分子のゲル膜中への拡散が多少起こること、脱水縮合反応が遅くなること等によって、ポリジメチルシロキサンの分解・脱離が実施例1より多くなる。本発明の効果が得られる範囲内であるが、膜厚が実施例1より減少し、蛍光X線分析法によるSi/Ti比は8.0であった。
【0061】
実施例3〜6を実施例1と比べることにより、熱処理雰囲気中の酸素含有量の影響を知ることができる。実施例6では非常に硬い膜が得られたため、繰り返し曲げでクラックが発生し、繰り返し曲げ試験後の絶縁性は低下した。
【0062】
実施例7および比較例6を、実施例1と比べることにより、熱処理雰囲気中の水蒸気含有量の影響が分かる。実施例7および比較例6は、両方とも、水蒸気によるポリジメチルシロキサンの加水分解・脱離が起きる。しかしながら、比較例6は、実施例7に比べて、ポリジメチルシロキサンの分解・脱離がより多くなるため、膜厚がいっそう薄くなり絶縁性が確保できなくなっている。また、ポリジメチルシロキサンが減少するため、得られる膜が硬くなる。
【0063】
比較例7は、固形分含有量および粘度がともに低すぎるため、十分な膜厚が得られなかった。
【0064】
実施例10〜12は、質量平均分子量6000で両末端カルビノール変性のポリジメチルシロキサンと、表1に示した金属アルコキシドとから、ゾルを合成した。金属アルコキシドは、全て、金属アルコキシド1モルに対して2モル倍のアセト酢酸エチルで化学改質してから、表1に示した割合でポリジメチルシロキサンと混合した。溶媒には、PGMEAを用いた。
【0065】
実施例13および比較例8、9は、質量平均分子量12000で両末端シラノール変性のポリジメチルシロキサンと、チタニウムブトキシド1モルに対して2モル倍のアセチルアセトンで化学改質したチタニウムブトキシドとから、ゾルを合成した。溶媒には、2−エトキシエタノールを用いた。ポリジメチルシロキサンの分子量が大きいため、ゾルは高粘度となり、比較例8では、固形分含有量は低いものの、粘度が高すぎて均一成膜ができなかった。比較例9は、粘度を下げるように希釈した結果、固形分含有量が低くなりすぎたため、十分な膜厚が得られなかった。
【0066】
実施例14および15では、質量平均分子量850の両末端カルビノール変性のポリジメチルシロキサンと、金属アルコキシド1モルに対して2モル倍のアセト酢酸エチルで化学改質した表1中の金属アルコキシドとを用いて、ゾルを作製した。溶媒は、1−ブタノールとした。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の絶縁膜被覆金属箔の製造方法は、塗布液の粘度と固形分含有量、熱処理雰囲気中の酸素含有量と水蒸気含有量を調整することにより、スリットコーターで塗布してもスジ状塗布や塗りムラの発生がなく、絶縁性が確保できる1.5μm以上の膜厚で、均一な絶縁膜を得ることができる。膜厚均一性よく十分な絶縁性を保つ膜で覆われた金属箔は、ディスプレイ基板、特にTFTのバックプレーンとして優れており、薄型液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなどの基板として好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a):典型的なゾルの固形分含有量と粘度の関係、(b):ゾルの固形分含有量と膜厚の関係(前記ゾルをスリットコーターでステンレス箔の表面に塗布し、大気中で乾燥・熱処理して得られた被膜の膜厚)を示す。
【図2】希釈によって制御したゾルの粘度と得られる膜厚の関係(斜線領域は、スリットコートで要求される粘度とTFT基板の絶縁性に必要な膜厚の条件範囲である。)を示す。
【図3】金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンから形成されるポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドの生成反応を示す。
【図4】ポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドの水蒸気による分解と分解により生成する揮発性低分子の例を示す。
【図5】ポリジメチルシロキサン系有機・無機ハイブリッドの酸素による架橋反応を示す。
【図6】スリットコーターの概略図を示す。
【符号の説明】
【0070】
1 金属箔(基材)
2 基材保持台
3 スリットノズルを具備するコーターヘッド
4 塗布液(ゾル)のタンク
5 塗膜
6 液相ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンを含む原料から調製した塗布液を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布し、熱処理して絶縁膜を形成する絶縁膜被覆金属箔の製造方法であって、前記塗布液の粘度が3〜15mPa・sで、前記塗布液の固形分含有量が20〜60質量%であり、前記熱処理の雰囲気が酸素を含有し、かつ水蒸気を0〜2mol%含有することを特徴とする絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理の雰囲気の酸素含有量が、10〜50mol%である請求項1記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【請求項3】
前記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量が、900〜10000である請求項1に記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【請求項4】
前記塗布液を、スリットコーターを使用して金属箔基材に塗布後、減圧乾燥し、前記減圧乾燥後に熱処理して絶縁膜を形成する請求項1に記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁膜の厚さが1.5〜3μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の絶縁膜被覆金属箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−297678(P2009−297678A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157139(P2008−157139)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】