説明

絶縁電線の製造装置及び製造方法

【課題】電子線照射装置を備えても大型の設備にならず、また、電子線を効率よく照射することも可能な絶縁電線の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】押出機3に投入するペレット9に対しペレット用電子線照射装置13を用いて必要照射量よりも少ない量の電子線を照射しペレット9を半架橋させる第一工程と、半架橋させたペレット14を押出機3にて混練した後、導体7の外側に押し出して導体7に部分架橋状態の絶縁体8を被覆する第二工程と、導体7に被覆してなる部分架橋状態の絶縁体8に対し絶縁体用電子線照射装置18を用いて残り分の電子線を照射する第三工程と、を含んで絶縁電線2を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の製造装置及び製造方法に関し、詳しくは、電子線照射装置を備える絶縁電線の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
押出機を通過した絶縁電線の樹脂被覆部(絶縁体)に電子線照射を行い架橋を促す技術は、従来より一般的に知られている(例えば下記特許文献1、2参照)。
【特許文献1】特開平5−345324号公報
【特許文献2】特開平6−290650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
架橋を促すためとして電子線照射装置を備える従来の絶縁電線の製造装置にあっては、次のような問題点を有している。すなわち、電線に要求される特性を満足させるために、導体に被覆した後の絶縁体に高エネルギーの電子線を照射しなければならず、高エネルギーの電子線を照射するためには、安全上設備が大きなものとなってしまうという問題点を有している。
【0004】
高エネルギーの電子線を絶縁体に照射する理由としては、電子線を絶縁体内部にまで透過させて架橋させないと電線として要求する特性が得られず、仮にエネルギーが不足するような場合には、耐熱性・耐摩耗性等に不具合が生じてしまうからである。
【0005】
上記の他に、従来の絶縁電線の製造装置にあっては、電子線照射装置が大型で高価であるために、製品のコストアップにつながってしまうという問題点を有している。また、大型の電子線照射装置を設置するための十分なスペースや、安全性を考慮した十分なスペースを確保しなければならないという問題点も有している。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、電子線照射装置を備えても大型の設備にならず、また、電子線を効率よく照射することも可能な絶縁電線の製造装置及び製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の絶縁電線の製造装置は、導体を通過させつつ該導体に絶縁体を被覆する押出機と、架橋を促すための電子線照射装置とを備える絶縁電線の製造装置において、前記電子線照射装置を、前記押出機に投入するペレットに対して電子線を照射し前記ペレットを半架橋させるペレット用電子線照射装置と、前記押出機にて被覆をした後の部分架橋状態の絶縁体に対して残り分の電子線を照射する絶縁体用電子線照射装置とを備えて構成することを特徴としている。
【0008】
また、上記課題を解決するためになされた請求項2記載の本発明の絶縁電線の製造方法は、押出機に投入するペレットに対しペレット用電子線照射装置を用いて電子線を照射し前記ペレットを半架橋させる第一工程と、半架橋させた前記ペレットを前記押出機にて混練した後、導体の外側に押し出して該導体に部分架橋状態の絶縁体を被覆する第二工程と、前記導体に被覆してなる部分架橋状態の前記絶縁体に対し絶縁体用電子線照射装置を用いて残り分の電子線を照射する第三工程と、を含んで製造することを特徴としている。
【0009】
このような特徴を有する本発明によれば、高エネルギーの電子線の照射に比べて電子線の照射回数が増えるものの、ペレット用電子線照射装置、絶縁体用電子線照射装置のそれぞれの照射量は十分に小さくなり、トータル的に省エネルギーの製造装置及び製造方法となる。低エネルギーの電子線の照射であっても本発明の如く構成すれば、絶縁電線として要求する特性が得られるようになる。本発明によれば、電子線照射装置自体の小型化を図ることが可能になり、このことから電子線を過剰に照射してしまうようなことも避けられる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1、2に記載された本発明によれば、電子線照射装置を備えても大型の設備にならず、また、電子線を効率よく照射することも可能な絶縁電線の製造装置及び製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の絶縁電線の製造装置及び製造方法の一実施の形態を示す概略的な構成図である。また、図2は他の一実施の形態を示す概略的な構成図、図3は比較例の概略的な構成図である。
【0012】
図1において、引用符号1は絶縁電線2を製造するための製造装置を示している。製造装置1は、図示しない導体供給装置と、押出機3と、冷却水槽4と、電子線照射装置5と、電線巻取り装置6とを備えて構成されている。押出機3は、導体供給装置から供給される導体7を通過させつつ、この導体7の外側に絶縁体を被覆する装置であって、絶縁体が部分架橋状態の絶縁体8となるように構成されている。
【0013】
押出機3の構成について具体的に説明すると、この押出機3は電子線照射装置5の一構成を含むものであって、ベース樹脂組成物(ポリエチレン、塩化ビニルなど)のペレット9を入れるホッパ10と、配合ペレット11を入れるホッパ12と、ペレット9に電子線を照射して半架橋させるペレット用電子線照射装置13と、半架橋のペレット14及び配合ペレット11を合流させるペレット合流部15と、半架橋のペレット14及び配合ペレット11を混練して押し出すスクリューシリンダ16と、このスクリューシリンダ16から押し出された樹脂を導体7の外側に被覆するクロスヘッド17とを備えて構成されている。
【0014】
押出機3は、電子線照射装置5の一構成としてのペレット用電子線照射装置13を構成に含む(一例であるものとする。尚、図2に含まない場合を示す)という特徴を有している。また、押出機3は、半架橋のペレット14がスクリューシリンダ16に供給され、クロスヘッド17において導体7の外側に被覆する絶縁体が部分架橋状態の絶縁体8になるという特徴を有している。
【0015】
電子線照射装置5は、上記のペレット用電子線照射装置13と、冷却水槽4よりも後に設けられる絶縁体用電子線照射装置18とを備えて構成されている。ペレット用電子線照射装置13及び絶縁体用電子線照射装置18は、それぞれ低エネルギーの電子線を照射することができるような装置となっている。ペレット用電子線照射装置13及び絶縁体用電子線照射装置18は、それぞれ小型の装置となっている。
【0016】
本発明では、架橋を促すために必要な量をペレット用電子線照射装置13及び絶縁体用電子線照射装置18で分けて照射するような装置構成になっている。この装置構成は、高エネルギーの電子線を一つの装置で照射するような従来のもの、或いは図3のものと異なり、この点が本発明の特徴になっている。
【0017】
本発明において、ペレット用電子線照射装置13は、ペレット9に対して必要照射量(架橋させるために必要十分な照射量)よりも少ない量の電子線(低エネルギーの電子線:例えば60kV)を照射して半架橋のペレット14を得る装置となり、絶縁体用電子線照射装置18は、部分架橋状態の絶縁体8に対して残り分の電子線(低エネルギーの電子線:例えば60kV)を照射して主に絶縁体表面を架橋する装置となっている。
【0018】
次に、上記構成に基づき絶縁電線2が出来上がるまでの流れを簡単に説明する。
【0019】
ベース樹脂組成物のペレット9をホッパ10に投入すると、このホッパ10に連続する傾斜部19をペレット9が通過する。傾斜部19の位置でペレット9に対し低エネルギーの電子線をペレット用電子線照射装置13を用いて照射すると、半架橋のペレット14が得られてこの半架橋のペレット14がペレット合流部15に投入される(例えばここまでを製造に係る第一工程とする)。
【0020】
半架橋のペレット14は、別のホッパ12に投入された配合ペレット11と共に押出機3にて混練され、この後にクロスヘッド17の部分で押し出される。これにより、導体7の外側に部分架橋状態の絶縁体8が被覆される。部分架橋状態の絶縁体8は、既に架橋が促されて半架橋となっていることから、導体7に被覆された時点で電線としての特性向上が図られる(例えばここまでを製造に係る第二工程とする)。
【0021】
押出機3から押し出され、冷却水槽4を通過した後、部分架橋状態の絶縁体8に対して低エネルギーの電子線を絶縁体用電子線照射装置18を用いて照射すると、部分架橋状態の絶縁体8の特に表面の架橋が促され、これによって電線に要求される耐摩耗性・耐熱性の向上が図られる。この後、絶縁電線2は電線巻取り装置6に巻き取られて製品となる(例えばここまでを製造に係る第三工程とする)。
【0022】
以上、図1を参照しながら説明してきたように、本発明によれば電子線照射装置5を備えても大型の設備にならず、また、電子線を効率よく照射することができるようになっている。
【0023】
続いて、図2を参照しながら他の一実施の形態を説明する。尚、図1と基本的に同じ構成には同一の符号を付すものとする。
【0024】
図2の製造装置21は、図示しない導体供給装置と、押出機22と、冷却水槽4と、電子線照射装置5と、電線巻取り装置6とを備えて構成されている。押出機22は、導体供給装置から供給される導体7を通過させつつ、この導体7の外側に絶縁体を被覆する装置であって、絶縁体が部分架橋状態の絶縁体8となるように構成されている。
【0025】
押出機22の構成について具体的に説明すると、この押出機22は半架橋のペレット14と配合ペレット11とを入れるホッパ23と、半架橋のペレット14及び配合ペレット11を混練して押し出すスクリューシリンダ16と、このスクリューシリンダ16から押し出された樹脂を導体7の外側に被覆するクロスヘッド17とを備えて構成されている。
【0026】
半架橋のペレット14は、予め別工程でペレット用電子線照射装置13を用いて必要照射量(架橋させるために必要十分な照射量)よりも少ない量の電子線(低エネルギーの電子線:例えば60kV)を照射することにより得られるようになっている。電子線照射装置5は、上記の予め別工程で用いられるペレット用電子線照射装置13と、冷却水槽4よりも後に設けられる絶縁体用電子線照射装置18(例えば60kV)とを備えて構成されている。
【0027】
図2の場合も、大型の設備にならず、また、電子線を効率よく照射することができるようになっている。
【0028】
続いて、図3を参照しながら比較例としての製造装置を説明する。図3の製造装置と図1、図2の例とを比較すると、いかに本発明が小型の設備であるかが分かるようになっている。
【0029】
図3において、製造装置31は、大型電子線照射装置32を備える大型の設備となっている。大型電子線照射装置32は、高エネルギーの電子線(例えば約1000kV)を照射することができる装置であって、絶縁電線製造ライン33に設置することができないような大きなものとなっている。従って、予め絶縁電線製造ライン33で架橋前の絶縁電線34を製造しておき、この架橋前の絶縁電線34を別のライン35に運んだ後に、大型電子線照射装置32を用いて高エネルギーの電子線を照射し架橋を促して絶縁電線36を製造するような構成になっている。
【0030】
尚、大型電子線照射装置32は、架橋前の絶縁電線34を絶縁体内部まで架橋させる必要があることから、高エネルギーになるのは勿論のこと、架橋前の絶縁電線34に対し円周方向にまんべんなく架橋させる必要もあることから、過剰な照射が行われるようになっている。
【0031】
以上、図1ないし図3を参照しながら説明してきたように、本発明によれば、高エネルギーの電子線の照射に比べて電子線の照射回数が増えるものの、ペレット用電子線照射装置13、絶縁体用電子線照射装置18のそれぞれの照射量は十分に小さくなり、トータル的に省エネルギーの製造装置及び製造方法となる。低エネルギーの電子線の照射であっても本発明の如く構成すれば、絶縁電線として要求する特性が得られるようになる。
【0032】
本発明によれば、電子線照射装置自体の小型化を図ることが可能になり、また、電子線を過剰に照射してしまうようなことも避けることが可能になる。
【0033】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の絶縁電線の製造装置及び製造方法の一実施の形態を示す概略的な図であり、(a)は製造過程を示すフローチャート、(b)は製造装置の構成図である。
【図2】他の一実施の形態を示す概略的な図であり、(a)は製造過程を示すフローチャート、(b)は製造装置の構成図である。
【図3】比較例の概略的な図であり、(a)は比較例の製造過程を示すフローチャート、(b)は比較例の製造装置の構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1 製造装置
2 絶縁電線
3 押出機
4 冷却水槽
5 電子線照射装置
6 電線巻取り装置
7 導体
8 部分架橋状態の絶縁体
9 ペレット
10 ホッパ
11 配合ペレット
12 ホッパ
13 ペレット用電子線照射装置
14 半架橋のペレット
15 ペレット合流部
16 スクリューシリンダ
17 クロスヘッド
18 絶縁体用電子線照射装置
19 傾斜部
21 製造装置
22 押出機
23 ホッパ
31 製造装置
32 大型電子線照射装置
33 絶縁電線製造ライン
34 架橋前の絶縁電線
35 別のライン
36 絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を通過させつつ該導体に絶縁体を被覆する押出機と、架橋を促すための電子線照射装置とを備える絶縁電線の製造装置において、
前記電子線照射装置を、前記押出機に投入するペレットに対して電子線を照射し前記ペレットを半架橋させるペレット用電子線照射装置と、前記押出機にて被覆をした後の部分架橋状態の絶縁体に対して残り分の電子線を照射する絶縁体用電子線照射装置とを備えて構成する
ことを特徴とする絶縁電線の製造装置。
【請求項2】
押出機に投入するペレットに対しペレット用電子線照射装置を用いて電子線を照射し前記ペレットを半架橋させる第一工程と、
半架橋させた前記ペレットを前記押出機にて混練した後、導体の外側に押し出して該導体に部分架橋状態の絶縁体を被覆する第二工程と、
前記導体に被覆してなる部分架橋状態の前記絶縁体に対し絶縁体用電子線照射装置を用いて残り分の電子線を照射する第三工程と、
を含んで製造する
ことを特徴とする絶縁電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−37761(P2009−37761A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198956(P2007−198956)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】