説明

繊維強化プラスチック製管体の製造方法とその素管の研磨装置

【課題】管体の支持部材に格別の補正作業を必要とせずに、管体表面に微細ではあるが塗装後に顕在化する螺旋状の細溝が形成されず、且つ原料及び製作コスト増につながらない繊維強化プラスチック製管体の製造方法とその研磨装置とを提供する。
【解決手段】前記研磨装置は、第1駆動ロール(6) と被駆動ロール(4) とによって所定の回転速度で回転する研磨布(7) をもつ無端ベルト(8) と、同無端ベルト(8) の前記第1駆動ロール(6) と離間して配され前記繊維強化プラスチック製管体(13)の素管(13') の周面に押圧接触して駆動回転する第2の駆動ロール(5) と、前記第1駆動ロール(6) に近接して配され、素管(13') を支持する合成樹脂材料からなる支持部材(10)とを備えている。前記素管(13') の周面を、前記第1駆動ロール(6) の無端ベルト(8) の周回部分と前記第2駆動ロール(5) と前記支持部材(10)との3部材間で把持して研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化プラスチック製素管の周面を研磨する管体の製造に関し、特にゴルフシャフトや釣り竿などのような一端から他端にかけて漸次細く形成された繊維強化プラスチック製管体の製造に適した製造方法とその素管の研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック製管体は軽量であり、且つ剛性の設計に自由度があることから、ゴルフクラブを始め釣り竿や各種ラケット類、棒高跳び用ロッドなどのスポーツ用品や、各種軸体、或いは紙、フィルムなどの搬送ロール、印刷ロール、巻き取りロールなど一般産業用の各種ロールに広く使われている。
【0003】
こうした繊維強化プラスチック製管体は、一般にシートラッピング法とフィラメントワインディング法と呼ばれる2つの製造方式に従って製造される。ここでフィラメントワインディング法は、マトリックス樹脂を含浸させた連続する強化繊維束を、回転する筒状の金属製マンドレルに所定の巻き付け角度をもって螺旋状に巻き付ける方式であり、一方のシートラッピング法は、予めマトリックス樹脂を含浸した強化繊維引揃え体からなるプリプレグを回転するマンドレルに巻き回す方式である。
【0004】
これらの方式には、それぞれ一長一短があり、用途に応じて選択的に採用されている。樹脂を含浸した強化繊維がマンドレルに巻き付けられた後には、必要に応じて、その表面に合成樹脂製の熱収縮性ラッピングテープが螺旋状に巻き付けられる。このラッピングテープを巻き付けたのちに、加熱炉にて加熱され強化繊維間に含浸したマトリックス樹脂が接合硬化される。この熱硬化の間に前記ラッピングテープは収縮して、繊維強化プラスチック製管体はマンドレルとの間で圧搾され、繊維強化プラスチック管体に含まれる空気が排除される。
【0005】
熱硬化を終えた繊維強化プラスチック素管の表面からラッピングテープが外され、マンドレルが抜き出される。このラッピングテープが外された繊維強化プラスチック管体の表面には、繊維強化プラスチック素管に巻き付けられたラッピングテープ間から押し出されたマトリックス樹脂による螺旋状の僅かな盛上り線が形成される。製品によっては、ラッピングテープを巻き付けない場合もあり、その場合にも硬化後の繊維強化プラスチック素管の表面に繊維毛羽などの存在による僅かな凹凸面が形成される。このように、熱硬化を終えた繊維強化プラスチック素管の表面には様々な形状の凹凸面が形成される。
【0006】
この表面の凹凸が製品の用途や外見に影響のない場合は、そのまま製品として使用できるが、例えば上記ゴルフシャフトや搬送ロールなどのように表面平滑性が要求される場合には、例えば特開平7−112043号公報(特許文献1)、特開平9−70458号公報(特許文献2)、特開平11−276649号公報(特許文献3)、特開2003−340927号公報(特許文献4)に記載されているように、管体表面に研磨加工や研削加工がなされる。また、この研磨加工や研削加工がなされたのちに、必要に応じて塗装や金属メッキが施される。
【0007】
前記研磨加工や研削加工は、一般に円筒研削盤が多用されているが、特に研磨加工にはベルト式の研磨装置が使われることが好ましい。
ベルト式のパイプ研磨装置の一例が、例えば特開平8−206964号公報(特許文献5)に開示されている。この特許文献5に記載されたパイプ研磨装置は、駆動プーリと2個一対の被駆動プーリとを駆動プーリを頂点とする二等辺三角形状に配し、これらの3つのプーリに無端ベルト状の研磨布を掛け回し、前記一対の被駆動プーリ間のベルト部分に被研磨体であるパイプの周面を押し当てて、無端ベルトを回動させることによりパイプ表面の研磨を行う。前記一対の被駆動プーリは、前記パイプの押し付け力に応じて前記駆動プーリに向けて弾性的に進退し、ベルトの研磨材側表面のパイプ周面への周回角度が変化するようにしている。
【0008】
しかるに、前記ベルト式のパイプ研磨装置の研磨方法は均一な外径をもつパイプの研磨であれば、可撓製のあるベルトによって均一な研磨も可能であるが、管体の一端から他端にかけて外径を漸減させる、例えばゴルフクラブや釣り竿のような外径がテーパに形成された繊維強化プラスチック製の管体については、その長さ方向にわたって均一に研磨を行うことは極めて難しい。
【特許文献1】特開平7−112043号公報
【特許文献2】特開平9−70458号公報
【特許文献3】特開平11−276649号公報
【特許文献4】特開2003−340927号公報
【特許文献5】特開平8−206964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者等は多様な実験を繰り返した結果、上記特許文献5により開示された研磨布からなる無端ベルトを管体の周面に所望の周回角度で周回させながら研磨を行うよりは、研磨布からなる無端ベルトを回動させるロールのベルト周回部に直接管体に圧接させる方が、研磨布と管体との間の滑りをなくし、均等で且つ確実な耐久性のある研磨加工が可能になることを知った。
【0010】
この知見に基づいて、発明者等は前述の研磨を実現すべく様々に設計変更を試みた。その結果、従来の芯無し研削盤の砥石車に代えて研磨布からなる無端ベルトを採用することにより、均一で安定した研磨が可能になることを見い出し試作機を製作した。
すなわち、本試作機の基本構成としては、研磨布からなる無端ベルトの被駆動ロールと、同被駆動ロールを周回して回動する無端ベルトの周回部分の研磨面に対向して配される駆動ロールと、前記被駆動ロールの近接する下方位置に配され管体を下方から支持する支持部材とを備えている。かかる試作機にあって、前記駆動ロールは鋼鉄製で周面にゴムが巻き付けてある。前記支持部材はステンレス製である。
【0011】
かかる構成において、被研磨体として先端の外径が9mm、他端の外径が15mmの繊維強化プラスチック製素管を用い、この素管の研磨布側の面を無端ベルトの第1駆動ロールの軸線と平行に、且つその表面を前記第1駆動ロールを周回する下半部の研磨布に線接触させて前記支持部材の上面に載置した。一方、前記第2駆動ロールは前記無端ベルトの周回部分に対向させるとともに、その対向面の下半部を前記管体の上半部の周面に所定の押圧力で圧接させた。研磨にあたっては、前記無端ベルトと前記駆動ロールとともに駆動する。このときの無端ベルトと駆動ロールの回転方向は互いに逆であり、駆動ロールにより無端ベルトの研磨面に押圧された素管は一方向に回転して、その周面が無端ベルトの研磨面により研磨される。このとき、同時に素管を所定の速度で無端ベルトの第1駆動ロールの軸方向に押し出して素管の周面全部を研磨する。
【0012】
この研磨を、研磨布の粗さを#400及び#600に変えて、それぞれ1回づつ洗浄・乾燥後、その表面にアクリル系塗料を用いて塗装した。こうして塗装を終えた繊維強化プラスチック管体の表面を観察したところ、その塗装層に5mm間隔の極めて細い螺旋状の細溝が表出していることを発見した。この螺旋状の細溝は素管の研磨面を見るかぎり判明しにくいものであった。しかしながら、この細溝は塗装によって顕在化し製品価値を著しく低下させるものであった。そこで、素管の研磨面に前記細溝が形成される原因について調査した。
【0013】
その結果、細溝形成の原因が上記支持部材にあることが分かった。すなわち、前記支持材部材は研磨時間の経過とともに素管載置面が素管の圧接回転によって削られ、管体の外形に倣った凹溝が形成される。この凹溝は支持部材の使用時間が経過するにつれて深さを増し、遂にはその凹溝の溝端縁、特にその素管押込み側の端縁に先鋭な突起が形成され、素管の押圧回転と押し込み方向の移動とが同時になされるとき、前記突起が素管表面に接触して前記螺旋状の細溝を形成していることが判明した。研磨試験時であれば、前記支持部材の上面を所定時間ごとに研削するなどして平坦面を維持させることも可能であるが、実用化にあたってはこうした補正作業は煩雑性を増加させるばかりでなく、製品の生産性を大きく低下させ、製造コストの増大につながる。
【0014】
本発明は、こうした金属製支持部材を使った研磨機のもつ課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、上記ベルト式研磨機による研磨方法にあって、素管の支持部材に格別の補正作業を必要とせずに、素管周面に微細ではあるが塗装後に顕在化する螺旋状の細溝が形成されず、メンテナンスフリーで且つ原料コスト及び製作コストの増加につながらない繊維強化プラスチック製管体の製造方法と研磨装置とを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的は、本発明方法の基本構成である、硬化前の繊維強化プラスチックを金属製マンドレルに巻回し、その上からラッピングテープを巻回して繊維強化プラスチックを熱硬化して、硬化した繊維強化プラスチック製素管を得ることと、前記素管をマンドレルから取り外すとともに、表面に巻回されたテープを取り外すこととを含み、前記素管を研磨装置にかけて、その周面全体を研磨するにあたり、前記研磨装置が、第1駆動ロールと被駆動ロールとにより所定の回転速度で回転する研磨布を有する無端ベルトと、同無端ベルトの前記第1駆動ロールと離間して配され前記素管の周面に押圧接触して駆動回転する第2駆動ロールと、前記無端ベルトの第1駆動ロール周回部分に近接して配された前記素管を支持する支持部材とを備え、前記第1駆動ロール周回部分と前記第2駆動ロールと前記支持部材との3部材間で前記素管の周面を把持して研磨することを含んでなる繊維強化プラスチック製管体の製造方法によって効果的に達成される。
【0016】
好ましい態様によれば、前記方法により得られたれ繊維強化プラスチック製管体の表面を塗装することを更に含んでおり、前記素管が一端から他端にかけて漸次細く形成されていることを含んでいる。前記素管がゴルフシャフトであることが好ましい。
【0017】
更に、前記第1駆動ロールの軸線と前記第2駆動ロールの軸線とを所定の交差角をもって配することを含んでおり、前記第2駆動ロールを前記第1駆動ロールに向けて接近する方向に所定の移動速度にて平行移動制御することを含むことが望ましい。また、前記無端ベルトの回動速度と前記第2駆動ロールの周速度との間に所定の速度差をつけるとよい。
【0018】
こうした製造方法は本発明の研磨装置により効果的に実施できる。
すなわち、その基本構成は、第1駆動ロールと被駆動ロールとにより所定の回転速度で回転する研磨布からなる無端ベルトと、前記無端ベルトの被駆動ロール周回部分と離間して配された第2駆動ロールと、同じく前記第1駆動ロール周回部分に近接して配された管体支持部材とを備え、前記無端ベルトの被駆動ロール周回部分と前記第2駆動ロールと前記素管用の支持部材との3部材間で前記素管を把持して研磨することを含んでなり、前記支持部材が合成樹脂材料から構成されてなる繊維強化プラスチック製素管の研磨装置にある。
【発明の作用効果】
【0019】
本発明の研磨装置は、上述のような基本構成を備えることにより、装置の運転時間が長くなるにつれて、合成樹脂材料製の上記支持部材の素管載置面は次第に深く削られ、凹溝は、上記金属製の支持部材と比較すると短時間のうちに深く形成されてしまう。しかしながら、こうして凹溝が形成されたとしても、この合成樹脂材料製の支持部材は材質的に繊維強化プラスチックと比較して大幅に硬度が低いため、支持部材に上述のような微細な先鋭突起が形成されたとしても、素管周面に傷をつけることはない。そのため、研磨後に塗装しても、上述のような螺旋状の模様が表出せず、極めて美麗に仕上がる。そのため、スポーツ用品などのように外観を重視する繊維強化プラスチック製管体を製造するには最も好適な研磨装置である。
【0020】
また、管体がゴルフシャフトのようにテーパ状に形成されている場合には、上記第1駆動ロールの軸線に対して第2駆動ロールの軸線を所定の交差角、すなわちそのテーパ角で交差させることにより、管体の全長にわたり均質な研磨が可能となる。このとき、前記第2駆動ロールを前記第1駆動ロールに向けて接近する方向に所定の移動速度にて平行移動するように制御すると、その研磨量を正確に制御できるとともに、更に均質な研磨が可能となる。ここで、前記無端ベルトの回動速度と前記第2駆動ロールの回転速度との間に所定の速度差をつける場合には、その速度差を利用して確実な研磨を実現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を添付図面に示す代表的な実施形態に基づき具体的に説明する。図1は本発明の実施形態を示す繊維強化プラスチック製ゴルフシャフトの研磨装置を概略で示す要部の正面図である。
同図において、基台1には第1電動モータ2と第2電動モータ3が設置され、各電動モータ2,3の図示せぬ出力軸は図示せぬ減速機構を介して鋼鉄製で周面にゴムが巻き付けられた第1及び第2駆動ロール6,5の駆動軸6a,5aに連結されている。前記第1及び第2の電動モータ2,3には各種のサーボモータが使われる。
【0022】
前記第1駆動ロール6と不動位置に配された鋼鉄製で周面にゴムが巻き付けられた被駆動ロール4には研磨布7の研磨面7aを外面に備えた無端ベルト8が一定の張力で掛け回されて、同無端ベルト8を一方向に積極的に駆動回転させる。一方の第2駆動ロール5は、前記第1駆動ロール6を周回する無端ベルト8の周回部分に対向して配されている。この実施形態によれば、前記第2駆動ロール5の軸線と前記第1駆動ロール6の軸線とは、前記第1駆動ロール6の軸線を通る水平面に対して所要の傾斜角θをもつ平面上に第2駆動ロール5の軸線が配されている。この実施形態では、前述のように同一の傾斜平面上に第2駆動ロール5と第1駆動ロール6との各軸線を配しているが、必ずしも傾斜平面上ではなく、第2駆動ロール5と第1駆動ロール6とを同一水平面に配することも可能である。
【0023】
また本実施形態によれば、前記第2駆動ロール5の軸線を前記第1駆動ロール6の軸線と同一傾斜平面上で所定の交差角をもって交差するように配している。この所定の交差角とは、被研磨体である素管の一端から他端にかけて、その外径を漸減させて形成したテーパ角に等しい。
【0024】
すなわち、前記第1駆動ロール6の設置位置は不動であるため、前記第2駆動ロール5の軸線を、素管13’のテーパ角に合わせて、第1駆動ロール6の軸線と交差するよう斜めに配して第2駆動ロール5を設置している。研磨が始まると、前記ゴルフシャフト素管13’をその軸方向に一定の速度をもって押し込んでいく。この押し込み動作が続くにつれて次第に素管13’の外径が増加するため、その外径の増加に合わせて第2駆動ロール5を離間方向へと平行移動させる。
【0025】
このときの移動は、制御盤9に内蔵された図示せぬコンピュータに予め記憶されたプログラムに基づいて、図示せぬ移動機構を介して自動的になされるものであり、離間方向と接近方向の移動は、前記素管の長さ方向への押し込み動作時の外径の変化と予め設定された研磨量とに応じた移動量で移動する。前記移動機構は、例えば広く知られた芯無し研削機における調整ロールの通常の移動機構を採用することができる。
【0026】
前記第2駆動ロール5と第1駆動ロール6との間にあって、各ロール5,6の下半部位置に、本発明の特徴的構成である支持部材10が上下位置を調節可能にして配されている。この支持部材10は合成樹脂材料から構成されていることに特徴があり、図2に示すように、被研磨体である素管13’を載置する載置支持面を有する管体載置部10aと、この管体載置部10aから下方に延在する基台固定部10bとから構成される。前記基台固定部10bは所定の板厚を有する矩形平板状であり、その上部に前記管体載置部10aが一体に形成されている。この管体載置部10aは、前記基台固定部10bの長手方向の前後上端部から前記第2駆動ロール5側に突出する一対の上面が平坦な略立方体形状を呈している。また本実施形態では、前記基台固定部10bの下端部の前後に一対の逆U字状の切り欠き10b−1が形成されている。
【0027】
支持部材10を構成する合成樹脂材料としては、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化エチレンなどから選択することができるが、いずれにしても前記研磨体である素管13’よりも軟質な材料であることが要求される。
【0028】
上記基台1の前記第1駆動ロール6を周回する無端ベルト8の周回部分の垂直下方には、図1に示すように、基台1から垂直に立ち上がる金属製の支持部材固定板材11が配設されている。この支持部材固定板材11の第2駆動ロール5側の全面が一つの平面とされ、その第1駆動ロール6側の上端部表面が上方に板厚を漸減させたテーパ面に形成されており、このテーパ面の上端は前記従動ロール6を周回する無端ベルト8の周回部分の先端に近接させて、その僅か下方に位置するように配される。また、この支持部材固定板材11の下部の、前記支持部材10に形成された一対の上記切り欠き10b−1と対応する位置には、同じく一対の図示せぬボルトねじ込み孔が形成されている。
【0029】
この支持部材固定板材11のボルトねじ込み孔に、上記支持部材10の逆U字状の切り欠き10b−1を介して、図1に示すようにボルト12がねじ込まれ、支持部材10を支持部材固定板材11に固定する。支持部材10の素管載置部10aの上面位置を調整するときは、ボルト12の、前記支持部材10に形成された逆U字状の切り欠き10b−1に対する差し込み位置を調整する。
【0030】
以上の構成を備えた本発明に係るベルト式研磨装置を使って、外径が変わらない一般的な管形状をもつ繊維強化プラスチック製素管13’を研磨するには、まず素管13’の一端部を支持部材10の上記素管載置部10aに載置し、素管13’の外径に合わせて第2駆動ロール5を移動して、その軸線位置を決める。この操作は、例えば制御盤9の図示せぬ制御パネル上の第2駆動ロール位置決め操作用ボタンを押すことで、図示せぬコンピュータに記憶されたデータに基づきコンピュータの内部で自動的に演算処理がなされる。その演算結果に従って、上記移動機構の、例えば図示せぬ流体圧シンダーなどの駆動源を制御作動して第2駆動ロールの初期作動位置の位置決めがなされる。なお、この移動制御は、前述のようなコンピュータ制御によらず、第2駆動ロール5のロール支持部にスプリングを配置し、そのスプリングによる弾性力を利用してロール支持部を基台1上で前進/後退させるようにしてもよい。
【0031】
本実施形態では、前記素管13’として繊維強化プラスチック製のゴルフシャフトを例示しており、以下に、その表面研磨加工について詳述する。図4は、一般的な繊維強化プラスチック製ゴルフシャフト13の外観の一部を示している。ゴルフシャフト13は、そのグリップ側の端部からクラブヘッドを取り付ける側の先端にかけて、その外径が漸減するテーパ状に形成されている。本実施形態によるゴルフシャフト13は、引き揃えた強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグをマンドレルにに巻き回すシートラッピング方式を採用している。しかし、シートラッピング方式に代えて、多数のフィラメントからなる繊維束にマトリックス樹脂を含浸させたものをマンドレルに巻き回すフィラメントワインディング方式を採用することもできる。
【0032】
前記繊維強化プラスチック製ゴルフシャフト13を構成する強化繊維としては、炭素繊維を主流としているが、ガラス繊維、アラミド繊維、強化ポリエチレン繊維、ボロン繊維、セラミック繊維なども使用される。前記繊維強化プラスチック製ゴルフシャフト13を構成材料の一部であるマトリックス樹脂としては、従来と同様の樹脂であれば全てが使用でき、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が多く使われるが、熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0033】
前記繊維強化プラスチック製ゴルフシャフト13を製造するには、まず上述した公知のシートラッピング方式を採用してゴルフシャフト素管13’を製造する。その手順は、広く知られているとおり、所要の幅と厚みをもつ多数の炭素繊維を引揃えたものに、エポキシ樹脂を主成分とするマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを、一端から他端に外径が徐々に小さくされたテーパ状の金属からなるマンドレルの周面に巻き回し、所要の層厚をもつ管状の繊維強化プラスチック層を形成する。この繊維強化プラスチック層の外表面に、ポリプロピレン製のラッピングテープを螺旋状に定ピッチで巻き付けたのち、加熱炉に入れて加熱硬化させる。この加熱硬化時にラッピングテープは収縮して繊維強化プラスチック層をマンドレルとの間で加圧し、層間に残った空気を除去する。加熱硬化後の素管13’をマンドレルから抜き取ったのち、ラッピングテープを取り除く。このとき、素管13’の表面にはラッピングテープの形状痕である螺旋状の凸模様が形成されている。
【0034】
こうして得られた素管13’の表面を平滑に仕上げるため、本発明の上記実施形態に係るベルト式研磨装置を使って素管表面の研磨加工を行う。先ず、テーパ形状をもつ前記ゴルフシャフト素管13’の先細側端部を、図5に示すように、上記支持部材10の素管載置部10aと、第2駆動ロール5と、第1駆動ロール6を周回する上記無端ベルト8の周回部分との間の研磨空間へと、素管13’の周面と無端ベルト8の周回部分の先端面とが平行になるよう挿入して、支持部材10の管体載置部10aの上面に載せる。このとき、以下のように配置されるのが好ましい。前記第2駆動ロール5の軸線は前記第1駆動ロール6の軸線と、素管13’のテーパ角と等しい角度で交差する角度をもって傾斜して配されている。そのため、既述したとおり第2駆動ロール5の軸線と前記素管13’の中心線とが平行となる。ここで、図示せぬ上記移動機構が作動して、上記第2駆動ロール5を無端ベルト8の被駆動ロール周回部分に向けて移動して研磨開始時における位置決めがなされる。
【0035】
この位置決めと同時に、素管13’を支持部材10の素管載置部10a、第2駆動ロール5、及び無端ベルト8の周回部分の3点にて所定の把持力をもって把持される。ここで、上記第1及び第2電動モータ2,3が駆動され、上記第1駆動ロール6と前記第2駆動ロール5とを逆方向に駆動回転させる。すなわち、第1及び第2駆動ロール6,5が逆回転することで、第2駆動ロール5、無端ベルト8及びバックアップ部材10の間で所要の押圧力をもって3点支持された状態にある素管13’は、図1に矢印で示すように一方向に回転する。この回転の間、素管13’は第2駆動ローラ5によって無端ベルト8の研磨面7aに所定の押圧力をもって押し付けられ表面研磨加工がなされる。
【0036】
本実施形態において、上記研磨加工を効率的に且つ確実に行うため、前記無端ベルト8と第2駆動ロール5との周速度に速度差を設けることができる。本実施形態では、無端ベルト8の周速度を第2駆動ロール5の周速度よりも4倍ぐらい大きくしている。この速度差により研磨布7による研磨が確実となる。また、研磨面の砥粒の磨耗による研磨性能の低下を回復するため、図示せぬドレッサーを無端ベルト8の周面に接触させるように配置してもよい。
【0037】
素管13’の周面研磨が終了すると、その表面に常法に従って仕上げ塗装がなされる。塗料としては、アクリル系塗料、ウレタン系塗料、アクリルウレタン系塗料などが使われる。このときの塗装方法は従来公知の塗装方法によるため、詳しい説明は省略する。
【0038】
ところで、同じ支持部材が長時間使用されると、既述したとおり支持部材10の上記素管載置部10aの上面が、素管13’の圧接回転により素管13’の外形に倣って削り取られ、図3に示すように、円弧断面をもつ凹溝10a’が形成される。このとき形成される円弧断面の凹溝10a’は、素管13’の押し込み側の端面でその径が最も大きくなるため、同じ支持部材10が長時間使用されると、図3に示すとおり、特にその押し込み側の凹溝端面のベルト研磨面7a側の上端縁が薄刃状となる。
【0039】
前記支持部材10が金属製であると、前述のとおり、管体載置部10aの上面に形成される素管13’の押し込み側の凹溝端面部は薄刃状となり、特にその薄刃状の凹溝端面部における最も押し込み側部分は先鋭な刃部となって残り、同刃部が凹溝10a’内で軸方向に移動しながら回転する素管13’の周面に接触して、素管13’の長さ方向に、同素管13’の押し込み速度に依存するピッチをもって、図6及び図7に示すような、極めて微細な螺旋状の細溝13a’を作るようになる。研磨加工が終了したときのゴルフシャフト素管13’の表面上に形成された前記細溝13a’は肉眼では見づらいが、上記塗装工程を経たのちのゴルフシャフト13の塗装面14には、図7に拡大して示すような、前記細溝13a’に基づく螺旋状の模様14aが顕在化して表出するようになり、肉眼によっても容易に視認できるようになる。
【0040】
金属製支持部材10を使用する場合は、高価であることもあって交換せずに、前記凹溝10a’の深さが所定の値を越えたときに研磨処理を途中で中止して、前記支持部材10の管体載置部10aの上面を平坦面に削り、更にはその補正後の支持部材10の設置位置を調整しなければならない。かかる補正及び調整作業は高い精密性が要求され、極めて煩雑で且つ長時間が費やされる。
【0041】
以上は、金属製支持部材の薄刃状の刃部が形成される場合の不具合について述べたが、金属製支持部材を使用する場合には、更にその取付精度が悪く、その角部によって素管に細溝を作ることもある。
【0042】
しかるに、本発明に係る上記実施形態のように、支持部材10を合成樹脂材料で構成すると、同一の構成及び特性を備えた繊維強化プラスチック製の素管13’を、金属製の支持部材10の場合と同一条件で研磨したところ、研磨中に形成される凹溝10a’の形成速度は速まる。しかしがら、同凹溝10a’の深さが金属製支持部材10の使用時における上記所定の深さを越えて研磨された素管13’は、塗装処理後のゴルフシャフト13の表面に螺旋状の模様が全く表出せず、美麗に仕上がる。これは、素管13’の研磨時に前記細溝13a’が作られていないことを示している。そのため、上記実施形態では前記凹溝10a’が素管13’の研磨処理を不能にするまで、その支持部材10の使用を続行した。凹溝10a’が深くなり過ぎてゴルフシャフト素管13’の研磨処理が不能となったときは、金属製と比較すると材料費も制作費も大幅に安価であることから、補正作業を行うことなく新品のナイロン製支持部材10と交換した。
【0043】
このように、本発明に係る繊維強化プラスチック製管体の製造方法及び研磨装置によると、従来の円筒研磨装置や芯無し研磨装置と同様に所望の研磨が可能な上に、長時間にわたる研磨によっても支持部材による細溝の発生がなく、研磨後になされる管体周面の塗装が極めて美麗に仕上がる。更に、前記支持部材を合成樹脂材料により製作するため製作コストの低下につながるばかりでなく、結果的に装置の耐久性が向上するとともに、メンテナンスが簡略化される。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で様々な変更が可能であり、また上記実施形態では管体として繊維強化プラスチック製のゴルフシャフトを例に挙げているが、その他の繊維強化プラスチック製のスポーツ用品や各種ロールや軸体などの工業製品にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の代表的な実施形態に係る繊維強化プラスチック製管体のベルト式研磨装置の概略構成を要部で示す正面図である。
【図2】本発明の特徴的構成部材である支持部材の斜視図である。
【図3】長時間にわたる研磨後の磨耗形態を示す前記支持部材の斜視図である。
【図4】塗装仕上げ後の繊維強化プラスチック製ゴルフシャフトの要部拡大斜視図である。
【図5】本発明による研磨方法の一例を示す研磨開始直前の装置の一部外観図である。
【図6】金属製バックアップ部材の使用時における塗装仕上げ後のゴルフシャフトの一部を示す斜視図である。
【図7】同ゴルフシャフトの一部形状を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 基台
2 第1電動モータ
3 第2電動モータ
4 被駆動ロール
5 第2駆動ロール
5a 駆動軸
6 第1駆動ロール
6a 駆動軸
7 研磨布
7a 研磨面
8 無端ベルト 9 制御盤
10 支持部材
10a 素管載置部
10b 基台固定部
10b−1 切り欠き
10a’ 凹溝
11 支持部材固定板材
12 ボルト
13 繊維強化プラスチック製ゴルフシャフト
13’ 素管
13a’ 引っ掻き傷
14 塗装面
14a 螺旋状模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化前の繊維強化プラスチックを金属製マンドレルに巻回し、その上からラッピングテープを巻回して繊維強化プラスチックを熱硬化して、硬化した繊維強化プラスチック製素管を得ることと、
前記素管をマンドレルから取り外すとともに、表面に巻回されたテープを取り外すこととを含み、
前記素管を研磨装置にかけて、その周面全体を研磨するにあたり、
前記研磨装置が、第1駆動ロールと被駆動ロールとにより所定の回転速度で回転する研磨布を有する無端ベルトと、同無端ベルトの前記第1駆動ロールと離間して配され前記素管の周面に押圧接触して駆動回転する第2駆動ロールと、前記無端ベルトの第1駆動ロール周回部分に近接して配された前記素管を支持する支持部材とを備え、前記第1駆動ロール周回部分と前記第2駆動ロールと前記支持部材との3部材間で前記素管の周面を把持して研磨することを含んでなる繊維強化プラスチック製管体の製造方法。
【請求項2】
請求項1で得られた繊維強化プラスチック製管体の表面を塗装することを更に含んでなる請求項1記載の繊維強化プラスチック製管体の製造方法。
【請求項3】
前記素管が、一端から他端にかけて漸次細く形成されてなることを含んでなる請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック製管体の製造方法。
【請求項4】
前記素管がゴルフシャフトである請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製管体の製造方法。
【請求項5】
前記第1駆動ロールの軸線と前記第2駆動ロールの軸線とを所定の交差角をもって配することを含んでなる請求項1記載の繊維強化プラスチック製管体の製造方法。
【請求項6】
前記第1駆動ロールを前記第2駆動ロールに向けて接近する方向に所定の移動速度にて平行移動制御することを含んでなる請求項3記載の繊維強化プラスチック製管体の製造方法。
【請求項7】
前記無端ベルトの回動速度と前記第2駆動ロールの周速度との間に所定の速度差をつけることを含んでなる請求項3記載の繊維強化プラスチック製管体の製造方法。
【請求項8】
第1駆動ロールと被駆動ロールとにより所定の回転速度で回転する研磨布を有する無端ベルトと、前記無端ベルトの被駆動ロール周回部分と離間して配された第2駆動ロールと、同じく前記第1駆動ロール周回部分に近接して配された管体支持部材とを備え、前記無端ベルトの被駆動ロール周回部分と前記第2駆動ロールと前記素管用の支持部材との3部材間で前記素管を把持して研磨することを含んでなり、
前記支持部材が合成樹脂材料から構成されてなる繊維強化プラスチック製素管の研磨装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−238302(P2008−238302A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79768(P2007−79768)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(506266746)エムアールシーコンポジットプロダクツ株式会社 (35)
【Fターム(参考)】