説明

繊維強化樹脂製部材の製造装置

【課題】接着剤塗布前の処理を必要最小限に抑え、接着剤による十分な接着強度を確保する。
【解決手段】金型1は、雄型3と雌型4とで成形部材用の密閉自在なキャビティ5が形成され、キャビティ5には樹脂9を含浸させる面形状の強化繊維からなる繊維基材6が収納される。雄型3の一端部には、上方からキャビティ5内へと、繊維基材6の上面から含浸させる樹脂9を注入する注入口3aが設けられており、他端部には、キャビティ5内に樹脂9を注入する際に、キャビティ5内の空気を吸引除去する吸引口3bが設けられている。雌型4の端部には、下方からキャビティ5内へと、繊維基材6の下面から含浸させる樹脂9を注入する注入口4aが設けられている。繊維強化樹脂製部材2のライン状の接着部8a,8aに対応する部位には、ライン状の凹溝4b,4bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製部材をRTM(レジントランスファーモールディング)法により製造する繊維強化樹脂製部材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維強化樹脂製部材は様々な分野において用いられるようになっており、特に、車両においては、軽量化、衝突安全性の向上等を目的として、フード、ルーフパネル等の各部品に採用されるようになっている。
【0003】
炭素繊維強化プラスチックのような繊維強化樹脂製部材の成形としては、RTM法がよく知られている。例えば、特開2004−58650号公報(以下、特許文献1)では、金型内部に成形部材用キャビティを有し、その内面の一部または全面に樹脂流路溝が形成された、上型と下型とからなる両面金型のキャビティ内に、強化繊維となる成形部材用基材を配置し、両面金型を密閉した後、両面金型の注入口から所定の注入圧力で樹脂流路溝を経由させて成形部材用基材内部に樹脂を加圧含浸し、その後、硬化、脱型する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−58650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、繊維強化樹脂製部材を接着して取り付けるには、特に、車両の場合は、接着強度と動きの緩衝性を両立させるため、中強度・高粘度(ガラス用接着剤)を使用する場合がある。上述の特許文献1に開示されるようなRTM法で成形される繊維強化樹脂製部材の接着面は、その多くが樹脂を含浸させていく表面とは反対側の面に設定されており、樹脂が含浸し難く、強化繊維の織目がでてしまい凹凸が有る場合がある。こうした面で接着を行うとき、大きな凹凸に高粘度の接着剤が入り込まず、また凹凸面に離型剤の残留も多く、接着強度が十分に確保できない虞がある。そこで、凹凸面の表面をサンディングして、平滑面を作り、活性化(酸化物・離型剤・汚染物の除去)を行ってから、エアブロー、ワイプ、プライマー塗布をしてから接着剤の塗布をしなければならないという課題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、接着剤塗布前の処理を必要最小限に抑え、接着剤による十分な接着強度を確保することができる繊維強化樹脂製部材の製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、雄型と雌型とで成形部材用のキャビティを形成した金型の該キャビティ内に少なくとも所定の強化繊維で形成した面形状の繊維基材を収納し、樹脂を含浸させて繊維強化樹脂製部材をRTM法により製造する繊維強化樹脂製部材の製造装置において、上記雄型に上記繊維基材の一方の面から上記樹脂を含浸させる雄型側注入口を設けると共に、上記雌型に上繊維記基材の上記一方の面とは反対側の他方の面から上記樹脂を含浸させる雌型側注入口を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明による繊維強化樹脂製部材の製造装置によれば、接着剤塗布前の処理を必要最小限に抑え、接着剤による十分な接着強度を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態に係る金型と基材の概略説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る型締め行程の概略説明図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る樹脂注入行程の概略説明図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係る脱型行程の概略説明図である。
【図5】本発明の実施の一形態に係る樹脂含浸前の基材の説明図である。
【図6】本発明の実施の一形態に係る繊維強化樹脂製部材の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図6において、符号1はRTM法により繊維強化樹脂製部材2を成形する金型を示し、この金型1は、雄型(上型)3と雌型(下型)4とで成形部材用の密閉自在なキャビティ5が形成されて、このキャビティ5には樹脂9を含浸させる面形状の繊維基材6が収納される。
【0011】
この金型1を用いてRTM法により成形して得られる繊維強化樹脂製部材2は、図6に示すように、両縁部7,7がフランジ形状に形成された部材であり、中央突出面8の両縁部近傍には、それぞれ、縁に沿って他の部材と接着剤(例えば、中強度・高粘度のガラス用接着剤)を用いて接着する突出したライン状の接着部8a,8aが形成されている。
【0012】
雄型3の一端部には、上方からキャビティ5内へと、繊維基材6の上面から含浸させる樹脂9を注入する注入口3aが設けられている。また、雄型3の他端部には、キャビティ5内に樹脂9を注入する際に、キャビティ5内の空気を吸引除去する吸引口3bが設けられている。
【0013】
雌型4の端部には、下方からキャビティ5内へと、繊維基材6の下面から含浸させる樹脂9を注入する注入口4aが設けられている。また、上述の繊維強化樹脂製部材2のライン状の接着部8a,8aに対応する部位には、ライン状の凹溝4b,4bが形成されている。
【0014】
繊維基材6は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維等のプリプレグシート(クロス材またはUD材)で形成されており、図5に示すように、予めキャビティ5内に収納できる形状に形成されている。
【0015】
雄型3の注入口3a、及び、雌型4の注入口4aから注入する樹脂9は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂等の樹脂である。
【0016】
尚、注入口3a、4aの繊維基材6側の端部には、注入された樹脂9をキャビティ5の周囲まで導くランナー、及び、このランナーからキャビティ5に樹脂9を均一に供給するためのゲート等を設けても良い。また、吸引口3bの繊維基材6側の端部には、樹脂溜め用のランナーを設けても良い。
【0017】
次に、本実施形態において、RTM法により上述の繊維強化樹脂製部材2を成形する方法について説明する。
【0018】
まず、雄型3と雌型4のキャビティ5に臨む面を、所定の有機溶剤を用いて脱脂処理する。
【0019】
次に、雄型3と雌型4のキャビティ5に臨む面に、所定の離型剤を用いて離型処理を施す。
【0020】
次いで、図1、図2に示すように、予めキャビティ5内に収納できる形状に形成された繊維基材6をキャビティ5をキャビティ5内に収納して型締めを行う。
【0021】
次に、図3に示すように、真空ポンプ10で所定圧力で真空引きしてキャビティ5内の空気を吸引除去しながら、樹脂9を、雄型3の注入口3a、及び、雌型4の注入口4aから所定圧力で加圧注入する。
【0022】
雄型3の注入口3aから注入された樹脂9は、繊維基材6の上面から主に含浸していく。一方、雌型4の注入口4aから注入された樹脂9は、繊維基材6の下面から主に含浸していく。また、雌型4のライン状の凹溝4b,4bにも樹脂9が流入されて満たされる。
【0023】
次いで、金型1全体を、樹脂の硬化温度に温度調節し、キャビティ5内の樹脂9が十分硬化するまで放置する。
【0024】
次に、図4に示すように、金型1を開き、成形された繊維強化樹脂製部材2を型内から脱型する。
【0025】
こうして成形された繊維強化樹脂製部材2は、樹脂9が、雄型3の注入口3aと雌型4の注入口4aから、繊維基材6の上下面から十分に含浸させられているため、上下面、共に、強化繊維の織目が表出して凸凹な部位が生じることがない。
【0026】
また、成形された繊維強化樹脂製部材2に樹脂成形される接着部8a,8aも、表面は平滑で、接着剤による接着に適したものに形成される。
【0027】
このため、繊維強化樹脂製部材を接着剤により接着するに際し、従来行っていた、サンディング等の処理を行うことなく、接着作業を完了させることができる。
【0028】
そして、従来のサンディングで形成する平滑面よりも平滑性に優れた面を、接着剤による接着面とすることができるため、接着力を向上させることができる。また、従来のサンディングでは、意匠面に裏面接着によるひけができる場合があったが、本発明の実施の形態によれば、意匠面への影響を少なくすることができる。また、サンディング、ワイプの工数を削減でき、繊維強化樹脂製部材のコストダウンを図ることができる。更に、サンディングによるゴミの発生もないため、後工程の塗装時にゴミ物の付着する虞もない。また、雄型3の注入口3aと雌型4の注入口4aの2つの注入口から繊維基材6に含浸させるため、含浸時間を短縮させることができ、製造時間を短縮することが可能となる。
【0029】
尚、成形して得ようとする繊維強化樹脂製部材2の形状は、本実施の形態に限るものではない。また、繊維強化樹脂製部材2のライン状の接着部8a,8aは、無くても、或いは、他の形状でも、本発明が適用できることは云うまでもない。更に、雄型3の注入口3aから注入する樹脂の注入ラインと、雌型4の注入口4aから注入する樹脂の注入ラインとは、本実施の形態では、1つのラインから分岐した例で説明しているが、それぞれ独立した注入ラインとして、加圧する圧力を異なって設定できるようにしても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 金型
2 繊維強化樹脂製部材
3 雄型
3a 注入口
3b 吸引口
4 雌型
4a 注入口
4b 凹溝
5 キャビティ
6 繊維基材
8a 接着部
9 樹脂
10 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄型と雌型とで成形部材用のキャビティを形成した金型の該キャビティ内に少なくとも所定の強化繊維で形成した面形状の繊維基材を収納し、樹脂を含浸させて繊維強化樹脂製部材をRTM法により製造する繊維強化樹脂製部材の製造装置において、
上記雄型に上記繊維基材の一方の面から上記樹脂を含浸させる雄型側注入口を設けると共に、上記雌型に上繊維記基材の上記一方の面とは反対側の他方の面から上記樹脂を含浸させる雌型側注入口を設けたことを特徴とする繊維強化樹脂製部材の製造装置。
【請求項2】
上記繊維強化樹脂製部材は、上記一方の面と上記他方の面の少なくとも一方に他の部材と接着剤により接着する突出した接着部位を有するものであって、
上記接着部位に対応する上記雄型と雌型の少なくとも一方に、上記樹脂のみ流入して上記接着部位を形成する凹部を設けたことを特徴とする請求項1記載の繊維強化樹脂製部材の製造装置。
【請求項3】
上記強化繊維は炭素繊維であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の繊維強化樹脂製部材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−214878(P2010−214878A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66586(P2009−66586)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】