説明

繋留型水力発電装置のピッチ、ロールおよびドラグ安定化技術

水流から電力を取出す水力発電装置が提供される。水力発電装置は、浮体と、該浮体に連結されかつ発電機を駆動すべく構成されたロータとを有している。浮体およびロータは協働して浮心および重心を形成し、浮心は重心の上方かつ上流側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れの運動エネルギから発電する方法、システムおよび装置に関し、該装置のピッチ、ロールおよびドラグ(牽引)安定化を含む技術に関する。より詳しくは、本発明は、海流または川の流れの運動エネルギから発電する方法、システムおよび装置に関し、該装置のピッチ、ロールおよびドラグの安定化を含む技術に関する。
【0002】
先行出願の相互参照
本願は、2009年6月30日付米国仮特許出願第61/221,676号(発明の名称「海流タービン、水力発電装置およびこれらの関連方法、および繋留およびヨー装置、畳み上げロータ深さ制御、およびこれらに使用する畳み上げハーネス(OCEAN CURRENT TURBINE AND HYDROKINETIC POWER GENERATION APPARATUS AND RELATED METHODS, ALONG WITH MOORING & YAW ARRANGEMENTS, FURLING ROTOR DEPTH CONTROL, AND MOORING HARNESSES FOR USE THEREWITH)」)からの優先権および利益を主張する。尚、該米国仮特許出願の全体を本願に援用する。また、本願は、2009年8月24日付米国仮特許出願第61/236,222号(発明の名称「内蔵型可変ピッチ制御ロータハブ、エネルギ出力を最大化しかつ海流タービンの作動深さを制御する方法、および可変深さ水上飛行そり(SELF-CONTAINED VARIABLE PITCH CONTROL ROTOR HUB: METHOD OF MAXIMIZING ENERGY OUTPUT AND CONTROLLING OPERATING DEPTH OF AN OCEAN CURRENT TURBINE; AND VARIABLE DEPTH HYDROPLANE SLED)」)からの優先権および利益を主張する。該米国仮特許出願もその全体を本願に援用する。更に本願は、2010年4月28日付米国仮特許出願第61/328,884号(発明の名称「水流浸漬型繋留システムおよび配備、位置決めおよび回収方法(FLOODED ANCHORING SYSTEM AND METHOD OF DEPLOYMENT, POSITIONING AND RECOVERY)」)からの優先権および利益を主張する。該米国仮特許出願もその全体を本願に援用する。
【背景技術】
【0003】
海流の運動エネルギは、クリーンで持続的な大きいエネルギ源を意味する。世界中の海水は常時運動しており、多くの場所には、1.5m/sを超える速度を有する定常的に反復し急速に流れる海流が存在する。このような海流の例として、メキシコ湾流、フンボルト海流、黒潮、アグラス海流等がある。これらの海流は、海洋の温度勾配および塩分濃度勾配、コリオリの力および他の海洋熱伝達機構に源を有している。
【0004】
これらの海流は、主として300mを超える底深さを有する大陸棚領域に存在する。このような深さは、水力発電装置を、ケーブルまたは引っぱり綱(tether)を用いて、海底に固定された上流側アンカーに繋留することを必要とする。上流側の繋留ケーブルは、水力発電装置に動揺ピッチングモーメントを付与し、このため、ロータの回転軸線と自由流れ方向とを整合させる水平釣合い(level trim)定常状態姿勢を維持すべく、対抗モーメントを加える必要がある。回転軸線と自由流れ方向(「畳み上げ角(furl angle)」)とが整合しなくなると、水平軸線ロータのエネルギ変換性能が急速に低下する。水平軸線ロータの回転により、他の動揺ローリングモーメントすなわち不利なトルクが加えられる。また、ロータが作動を停止したときに消失するロータドラグ力に擬似または代用させる手段を設けて、水力発電装置の深さ制御を維持しかつ水力発電装置の位置が前方にサージすることを防止することは有利である。
【0005】
「沈水力(drowning force)」とも呼ばれる垂直力成分を有する上流側繋留ケーブルの張力は、明らかな重量として作用し、水力発電装置をより深く引っ張ろうとする。一般に、繋留ケーブル(単一または複数)を水力発電装置のノーズの近くに取付けて、自由流れ方向の変化との方向整合性を促進させることは有利であるので、沈水力はまた、「沈水モーメント(drowning moment)」と呼ばれるノーズダウンピッチングモーメントを発生する。このモーメントは、水力発電装置により発生される復元モーメントにより対抗されなくてはならない。水平に対する繋留ケーブルの角度(繋留ケーブルの「インターセプト角」)が急になるほど沈水力が増大し、したがって沈水モーメントが増大するので、最大エネルギ変換性能を得るための水平釣合い定常状態姿勢を維持するには、かなり大きい復元ノーズアップモーメントを必要とする。
【0006】
動揺ピッチングモーメントに対抗する種々の方法が知られており、例えば、繋留ケーブル取付け位置を変えるか、水力発電装置を半分浸漬して、沈水モーメントに対して反作用させるべく水線上の浮力を反転できるようにするレバーシステムを用いた前後のハイドロプレーン揚力面がある。これらの既知の解決法は、装置安定性を損ない、畳み上げ角を増大させるか、ロータの上流側に明らかな畳み上げ角すなわち後流を生じさせるため、エネルギ変換性能に損失を生じさせ、したがって、ロータ後退領域に流れ傾斜角を生じさせる。
【0007】
例えば下記特許文献1には、上流側繋留ケーブルの取付け位置を変えるてこ比システムと、重心の位置を前後方向に変えて装置全体のピッチ角を変化させ、これにより、取付けられたハイドロプレーンウイングの迎え角を変化させてより大きい(または小さい)揚力を発生させ、水力発電装置が一定作動深さまたはこの近くに留まるように沈水力の変化をオフセットさせる補完システムとを使用した水力発電装置が開示されている。特許文献1の水力発電装置のロータの主回転軸線は、装置全体をピッチングさせてノーズアップまたはノーズダウンさせることにより接近流れ方向に畳み上げられ、一定深さ作動を達成する。特許文献1はまた、繋留ケーブルのインターセプト角は、「リーズナブルに小さく維持すべき」ことを示唆している。繋留ケーブルの緩いインターセプト角は、長くて、コストが嵩みかつ重い繋留ケーブルになること、および、同数の装置を規則的パターン配列で配備することにより大きい投影地形面積(projected geographic area)を要する点で、天然資源の低効率使用であることを意味する。
【0008】
下記特許文献2には、前後方向の釣合い(trimming)を行う水力学的表面と、好ましくないピッチングモーメントに反作用して「水平軸線マリンタービンから最適性能を確保する略水平釣合い」を行う上面浮揚性要素とが提案されている。これらの両解決法は、水平軸線ロータのエネルギ変換性能を損なうものである。前後方向釣合い表面は、水平釣合いを維持するモーメントを生じさせる揚力を付与すると同時に、下流側にドリフト(漂流)してロータ後退領域に衝突する流れ吹き下ろし(flow downwash)傾斜角をも発生させ、明らかな畳み上げ角をロータに付与し、これによりエネルギ変換性能を低下させる。また、上面の浮揚性要素は、水力発電装置の表面に風/波作用の乱れを与え、この乱れは、装置全体およびロータの周期的すなわち正弦波ボビン作用に変換され、エネルギ変換性能は更に損なわれる。特許文献1および2は、浮心は重心の直ぐ上に位置して「水力発電装置の安定性を確保」することを開示しているが、重心の位置と浮心の位置との相対位置に関しては更なる情報または教示はなされていない。
【0009】
ロータの回転により非常に不利なローリングモーメントが導入される。なぜならば、ロータの直径およびトルクは、水力発電装置の残部に比べて大型の手段となる傾向を有するからである。不利なトルクは、水力発電装置自体の全体をロータの回転方向と同じ方向に回転させる傾向を有し、これはロータにより吸収されるトルクの大きさに比例するローリングモーメントの存在によるものと解される。したがって、水力発電装置は、ロータにより発生される不利なトルクに反作用する復元トルクを発生する。
【0010】
特許文献1、3および4に開示されているものを含む既知の水力発電装置は、一般に同サイズの第2ロータを使用しており、該第2ロータはキャンセリングトルクを発生すべく逆方向に回転する。逆回転する2つのロータは作動上の問題を有し、ロータトルクを同期させる必要がある。このため、一方のロータが不意に停止した場合には第2機能ロータを意図的に停止させて水力発電装置の反転を防止する必要があるため、水力発電装置の有用性が低下する。
【0011】
特許文献5、6および7には、ケーブルの張力を介して拘束力および拘束モーメントを付与して水力発電装置の適正姿勢を維持すべく、装置の或る位置に取付けられた付加繋留ケーブルによる多点繋留スキームを使用する技術が提案されている。数百メートルの深さを考慮すると、付加繋留ケーブルは長くてコストが嵩み、システムの重量を増大させ、かつケーブルがもつれる危険性が大きくメインテナンス上の他の問題も生じる。
【0012】
作動するロータにより発生されるドラグ力は同じ後退領域を有する平板にほぼ等しいことを考慮すると、水力発電装置に作用する総ドラグ力は、ロータの作動状態と非作動状態との間で、例えば数百%だけ変化するであろう。この結果、上流側の繋留ケーブルは垂れ曲り状態に弛緩して、水力発電装置を前方の所定位置にサージさせ、このため、海流ファーム配列をなして繋留された他の隣接水力発電装置に衝突する危険が生じる。また、ロータドラグ力の消失によっても沈水力の大きな減少を引き起こし、したがって、水力発電装置の深さ制御には問題が生じ、潜在的に制御不能に急激上昇するか、少なくとも特定深さから偏寄する。一般に、既知の繋留型水力発電装置は、ロータが作動しない場合にはドラグ安定化装置には連結されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】Robsonの米国特許第7,291,936号明細書
【特許文献2】Mackieの米国特許出願第2008/0050993号公報
【特許文献3】米国特許第7,091,161号明細書
【特許文献4】米国特許出願第2008/0018115号公報
【特許文献5】米国特許第4,025,220号明細書
【特許文献6】米国特許出願第2007/023107号公報
【特許文献7】国際特許公開WO 2009/004420 A2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、既知の水力発電装置のエネルギ変換性能を損なうことなく繋留型水力発電装置のピッチおよびロール安定化を解決する必要がある。また、ロータが作動しない場合に、ロータに擬似または代用させて、深さ制御を補助しかつ水力発電装置の前方所定位置への急激サージを回避する必要がある。
【0015】
本発明は、水流の運動エネルギに繋いで、クリーンで再生可能なエネルギを供給する水力発電装置、並びに該水力発電装置のピッチ、ロールおよびドラグを安定化するシステムおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
水流の運動エネルギに繋ぎ、クリーンで持続的なエネルギを供給する方法、システムおよび水力発電装置、並びに該水力発電装置のピッチ、ロールおよびドラグを安定化するシステムおよび方法が提供される。
【0017】
本発明の一態様によれば、水流から電力を取出す水力発電装置が開示される。この水力発電装置は、浮体と、該浮体に連結されかつ発電機を駆動すべく構成されたロータとを有し、浮体およびロータが協働して浮心および重心を形成し、浮心が重心の上方かつ上流側に配置されている。水力発電装置は、重心を調節するように構成された可動カウンタウェイト、重心を調節するように構成された可変バラスト、エレベータ制御面を備えたハイドロプレーンウイング、または浮体に取付けられたキールを更に有し、該キールは、遠位端に取付けられたデッドウェイトを有している。ロータは、水流と選択的に係合しまたは係合離脱する。
【0018】
本発明の他の態様によれば、水流から電力を取出す水力発電装置が開示され、該水力発電装置は、浮体と、該浮体に連結されたロータとを有し、該ロータは発電機を駆動すべく構成されており、浮体に連結されたキールと、該キールの遠位端に連結されたデッドウェイトとを更に有している。この水力発電装置は更に、水を交互に排出しまたは充満するように構成された複数の横方向に分離されたバラストタンク、ローリングモーメントを付与するように構成された流体力学的揚力面、可変ドラグ状態を配備すべく構成されたドラグインデューサを有し、可変ドラグ状態は、高ドラグ状態、低ドラグ状態および中間ドラグ状態を有し、高ドラグ状態、低ドラグ状態および中間ドラグ状態を配備するように構成されたドラグインデューサを更に有している。デッドウェイトは、浮体の垂直対称平面からオフセットされている。デッドウェイトは、浮体前方位置と浮体後方位置との間または左舷側位置と右舷側位置との間で移動できる。
【0019】
本発明の更に別の態様によれば、水流から電力を取出す水力発電装置が開示されている。該水力発電装置は、浮体と、該浮体に連結されたロータとを有し、該ロータは発電機を駆動すべく構成されており、可変ドラグ状態を配備すべく構成されたドラグインデューサを更に有し、可変ドラグ状態は、高ドラグ状態、低ドラグ状態および中間ドラグ状態を有している。水力発電装置は更に、浮体に取付けられたキールを有し、該キールは、遠位端に取付けられたデッドウェイトを有し、重心を調節するように構成された可変バラストまたは可変入射機構またはエレベータ制御面を備えたハイドロプレーンウイングを更に有している。ロータは、水流と係合しまたは係合離脱する。ドラグインデューサは、ロータが係合されると係合離脱する。ドラグインデューサは更に、ロータが係合離脱されると係合するように構成されている。
【0020】
本発明の他の特徴、長所および実施形態は、以下の詳細な説明および図面を考察することにより明らかになるであろう。また、本発明の上記要約、以下の詳細な説明および図面は例示であり、本発明の範囲を制限することなく他の例を示すことを意図したものであると理解すべきである。
【0021】
本発明を更に理解すべく包含される図面を含む添付書類は、本願明細書の一部に組み入れられかつその一部を構成しかつ本発明の実施形態を示し、また詳細な説明は本発明の原理を説明するものである。本発明および本発明を実施する種々の方法を基本的に理解する上で必要とされる以上に本発明の構造的細部を示すことはしない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1A】本発明の原理による水力発電装置の一例を示す斜視図である。
【図1B】本発明の原理による水力発電装置の一例を示す側面図である。
【図2A】ほぼ同じ長手方向ステーションにある浮心(center of buoyancy:CB)および重心(center of gravity:CG)を有する水力発電装置の一例を示す側面図である。
【図2B】ほぼ同じ長手方向ステーションでかつCGの上方にあるCBを有する水力発電装置の一例を示す側面図である。
【図2C】CGより上方かつ上流側にあるCBを有する水力発電装置の一例を示す側面図である。
【図3A】緩い繋留ケーブルインターセプト角を有する水力発電装置の海流ファーム配列の一例を示す側面図である。
【図3B】中間の繋留ケーブルインターセプト角を有する水力発電装置の海流ファーム配列の一例を示す側面図である。
【図3C】急な繋留ケーブルインターセプト角を有する水力発電装置の海流ファーム配列の一例を示す側面図である。
【図4A】バラストおよびカウンタウェイトを備えた図1Aの水力発電装置の側面図であり、水力発電装置のCGが艇体後方位置にあるところを示すものである。
【図4B】バラストおよびカウンタウェイトを備えた図1Aの水力発電装置の側面図であり、水力発電装置のCGが艇体前方位置にあるところを示すものである。
【図5A】ロータが作動状態にありかつ水力発電装置が右舷側にロールしている状態の図1Aの水力発電装置を示す正面図である。
【図5B】ロータが非作動状態にありかつ水力発電装置が左舷側にロールしていて、キールのウェイトが装置の対称平面に対して横方向位置にある状態の図1Aの水力発電装置を示す正面図である。
【図5C】ロータが作動状態にありかつ水力発電装置が垂直方向にあって、キールのウェイトが装置の対称平面に対して横方向位置にある状態の図1Aの水力発電装置を示す正面図である。
【図6A】ドラグインデューサが高ドラグ状態に配備された状態にある図1Aの水力発電装置を示す斜視図である。
【図6B】ドラグインデューサが高ドラグ状態に配備された状態にある図1Aの水力発電装置を示す斜視図である。
【図7】図1Aの複数の水力発電装置が種々の作動状態にある海流ファーム配列を示す側面図である。
【図8】本発明の原理にしたがって水力発電装置のピッチ、ロールおよびドラグを検出しかつ制御する方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に述べる詳細な説明により本発明を更に説明する。
本発明の実施形態およびその種々の特徴および長所の詳細を、添付図面において説明されおよび/または示されかつ以下の詳細な説明において説明された非制限的な実施形態を参照してより完全に説明する。図面に示した特徴は、必ずしも正確な縮尺で示されておらず、1つの実施形態の特徴は、本明細書で明白に説明されていなくても、当業者が考えることができるように他の実施形態に使用できる。本発明の実施形態を不必要に不明瞭にしないようにするため、よく知られたコンポーネンツおよび加工技術の説明は省略する。本明細書で使用される例は、単に、本発明を実施する方法の理解を容易にしかつ当業者が本発明の実施形態の実施を更に可能にするものである。したがって、本願に開示する例および実施形態は本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載および適用可能な法律によってのみ定められるものである。また、参照番号は、幾つかの図面を通して同じ部品を表わすものである。
【0024】
本明細書で使用される用語「コンピュータ」は、1つ以上の命令にしたがってデータを操作できる任意の機械、デバイス、回路、コンポーネンツまたはモジュールまたは機械、デバイス、回路、コンポーネンツ、モジュール等を意味し、例えば、プロセッサ、マイクロプロセッサ、中央処理装置、汎用コンピュータ、スーパーコンピュータ、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、手のひらコンピュータ、ノートブックコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ワークステーションコンピュータ、サーバー等、またはプロセッサ、マイクロプロセッサ、中央処理装置、汎用コンピュータ、スーパーコンピュータ、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、手のひらコンピュータ、ノートブックコンピュータ、ワークステーションコンピュータ、サーバー等(但しこれらに限定されない)のアレーを意味する。電子デバイスとして、例えば移動電話、携帯情報端末(PDA)、携帯コンピュータ、固定コンピュータ、スマートホン、モバイルステーション、ユーザ端末等があるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本明細書で使用される「ネットワーク」は、2つ以上の通信リンクの構成を意味する。ネットワークとして、例えばインターネット、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、メトロポリタンエリアネットワーク(MAN)、パーソナルエリアネットワーク(PAN)、キャンパスエリアネットワーク、コーポレートエリアネットワーク、グローバルエリアネットワーク(GAN)、ブロードバンドエリアネットワーク(BAN)、およびこれらの任意の組合せがある。ネットワークは、無線および有線媒体を介してデータを通信するように構成される。ネットワークには、例えばポイントツーポイントトポロジー、バストポロジー、リニアバストポロジー、分散バストポロジー、スタートポロジー、拡張スタートポロジー、分散スタートポロジー、リングトポロジー、メッシュトポロジー、ツリートポロジー等を含むトポロジーがある。
【0026】
本明細書で使用される「通信リンク」は、少なくとも2つの位置間でデータまたは情報を伝送する有線、無線および/または音響媒体を意味する。有線、無線および/または音響媒体として、例えば、金属導体リンク、無線周波数(RF)通信リンク、赤外(IR)通信リンク、光学通信リンク等があるが、これらに限定されるものではない。RF通信リンクとして、例えば、WiFi、WiMAX、IEEE802.11、DECT、0G、1G、2G、3Gまたは4Gセルラー規格、ブルートゥース等がある。
【0027】
本明細書で使用される用語「有している」「からなる」およびこれらの変形は、特に断らない限り、「有しているが、限定されない」ことを意味する。
【0028】
本明細書で使用される用語「不定冠詞「a」、「an」」および「定冠詞「the」」は、特に断らない限り、「1つ以上」であることを意味する。
【0029】
互いに連通している装置とは、特に断らない限り、互いに連続的に連通している必要はない。また、互いに連通している装置とは、1つ以上の中間体を介して直接的または間接的に連通していることを意味する。
【0030】
プロセス段階、方法段階、アルゴリズム等は、連続的順序で説明されるが、このようなプロセス、方法およびアルゴリズムは、交互の順序で作動するように構成することもできる。換言すれば、本明細書で説明される段階のあらゆるシーケンスまたは順序は、必ずしも当該段階がその順序で遂行されることを示すものではない。本明細書で説明するプロセス、方法またはアルゴリズムの段階は、事実上任意の順序で遂行される。また、或る段階は同時に遂行される。
【0031】
本明細書で単一の装置または物品を説明するとき、単一の装置または物品の代わりに2つ以上の装置または物品を使用できることは容易に理解されよう。同様に、本明細書で2つ以上の装置または物品を説明するとき、2つ以上の装置または物品の代わりに単一の装置または物品を使用できることは容易に理解されよう。装置の機能性または特徴が、このような機能性または特徴を有していると明白に説明されていない2つ以上の他の装置により代わりに具現できる。
【0032】
本明細書で使用される「コンピュータ読取り可能な媒体」とは、コンピュータにより読取りできるデータ(例えば情報)を供給することに関するあらゆる媒体を意味する。このような媒体は、不揮発性媒体、揮発性媒体および伝送媒体を含む多くの形態をとることができる。不揮発性媒体として、例えば、光ディスク、磁気ディスクおよび他の持続性メモリがある。揮発性媒体としては、ダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)がある。伝送媒体として、プロセッサに接続されるシステムバスを備えたワイヤを含む同軸ケーブル、銅線および光ファイバがある。伝送媒体として、無線周波数(RF)および赤外(IR)データ通信時に発生される音波、光波、電磁波を搬送できる。コンピュータ読取り可能な媒体の一般的形態として、例えば、フロッピディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、他の任意の磁気媒体、CD-ROM、DVD、他の任意の光媒体、パンチカード、紙テープ、孔パターンを備えた他の任意の物理的媒体、RAM、PROM、EPROM、フラッシュEEPROM、他の任意のメモリチップ、後述の搬送波、またはコンピュータが読取ることができる他の任意の媒体がある。
【0033】
コンピュータ読取り可能な媒体の種々の形態が、コンピュータへの情報のシーケンスを搬送するのに包含される。命令のシーケンスは、(i)RAMからプロセッサに配給され、または(ii)無線伝送媒体を介して伝送され、および/または(iii)例えばWiFi、WiMAX、IEEE802.11、DECT、0G、1G、2G、3Gまたは4Gセルラー規格、ブルートゥース等を含む多くのフォーマット、規格またはプロトコルにしたがってフォーマット化できる。
【0034】
本発明の一態様によれば、水力発電装置100の重心(「CG」)より上方かつ上流側に浮心(「CB」)が存在する水力発電装置100が開示される。水力発電装置100のこの形態は、ボディピッチングモーメントと呼ばれる復元ピッチングモーメントが得られる。ボディピッチングモーメントは、沈水モーメントに対抗して、水力発電装置100を、実質的にゼロの畳み上げ角を有する、水平定常状態に釣合いが保たれた作動姿勢(level steady state trimmed operational attitude)に維持し、最大エネルギ変換性能を付与する。また、水力発電装置100は、短くてコストが安くかつ軽量の繋留ケーブルを用いて、急な繋留ケーブルインターセプト角を維持し、これにより単位平方キロメートル当たりに多数の水力発電装置100を配備することができ、天然資源のより効率的な使用を可能にする。更に、水力発電装置100のピッチ姿勢は、カウンタウェイトを装置の前方および後方に移動させ、または装置前方および後方のバラストタンクを満たしまたは減量し、または装置前方および後方の垂直力学的表面を変化させることにより変えることができる。
【0035】
本発明の他の態様によれば、水力発電装置100は、作動するロータにより発生される不利なトルクに対抗するローリングモーメントを発生することが開示されている。この点に関し、ロール角偏寄が生じるときに、腹部キールが重み付き振り子として機能し、重み付き腹部キールは、ロータの回転方向に角度的に変位され、復元ローリングモーメントを受動的に発生して、水力発電装置100の全体を所定の垂直方向に戻すように回転させる。
【0036】
また、腹部キール遠位端でのデッドウェイト(載貨重量)は、水力発電装置100の対称垂直平面からオフセットさせ、ロータが作動しておりかつ不利なトルクが生じているときには腹部キールが略垂直方向を占め、ロータが作動していないときには腹部キールが傾斜方向すなわち角度的に偏寄した方向を占めるように構成できる。腹部キールの長さおよび遠位端でのデッドウェイトは、生じる対抗ローリングモーメントが、作動するロータにより発生されるあらゆる不利なトルクを実質的にキャンセルするように構成できる。
【0037】
本発明の他の態様によれば、ロータドラグ代用装置(ロータが作動しない場合はドラグインデューサ)を配備して、作動するロータにより発生されるドラグに擬似させる水力発電装置100が開示されており、該水力発電装置100では、上流側繋留ケーブルが撓んで、水力発電装置を前方の所定位置にサージさせ、パターン化された配備ファーム配列をなす隣接水力発電装置に衝突するか、繋留ケーブルのもつれを引き起こす危険のある垂れ曲り状態になることがない。また、ドラグインデューサは、水力発電装置100に作用するドラグ力を変調して、ロータが作動しない場合に深さ制御を維持する補助をなす手段を構成する。
【0038】
図1Aは、本発明の原理にしたがって構成された水力発電装置100の一例を示すものである。図1Bは、水力発電装置100の側面図である。
【0039】
水力発電装置100は、艇体101と、ロータ109と、艇体後部に取付けられた発電機(図示せず)と、キール105と、キールシリンダ111と、流体力学的ウイング106と、ハーネス102とを有している。水力発電装置100は、コンピュータ(図示せず)およびトランシーバ(図示せず)も有している。また、水力発電装置100は、例えば水温、圧力、深さ、物体(例えば、他の水力発電装置、哺乳動物、魚、船等)の接近、水流の速度および/または方向等の周囲の状況を検出するための1つ以上のセンサを有している。また、ロータ109は、オンボードハブコントローラ(図示せず)およびトランシーバを有している。艇体101には、水力発電装置100の主浮力源を形成する主圧力容器を設けることができる。また、艇体101には、水を交互に充満しまたは排出させて、水力発電装置100の重量並びに重心の位置を調節する1つ以上の内部バラストタンク(図示せず)を設けることができる。
【0040】
ロータ109は下流側の水平軸線ロータを有し、該ロータは複数のロータブレード107および可変ピッチ制御ロータハブ108を備えている。可変ピッチ制御ロータハブ108は、発電に使用される、艇体後部に取付けられた発電機(図示せず)に連結されている。
【0041】
キール105には、例えば、艇体の前後方向に移動できる可動カウンタウェイト(図示せず)を備えた腹部キール構造を設けることができる。キール105は、水力発電装置100の対称垂直平面から距離117だけオフセットしたキールシリンダ111に連結されている。キールシリンダ111は、デッドウェイトを有している。キール105および/またはキールシリンダ111は種々の目的、例えば、受動ヨーアライメントの方向舵、ロータの不利なトルクのキャンセルを補助する重み付き振り子、ボディのピッチングモーメントの発生を促進すべく、CGの上方および下流側へのCBの移動を促進する手段、ドラグ変調を促進すべく1つ以上のドラグインデューサ112を取付けるための大きい表面、繋留システムの前方取付け位置を形成するリーディングエッジルート延長部(leading edge root extension:LERX)114等を有し、本明細書で説明する他の長所は当業者に容易に理解されよう。1つ以上のドラグ代用装置(drag proxy devices)112は、例えばスプリットドラグフラップで形成できる。流体力学的ウイング106は、一般に艇体101の上方に取付けられる。或いは、流体力学的ウイング106は、艇体101と同位置または艇体101の下に取付けることができる。LERX14は、ハーネス102のノーズ前方取付け位置を提供する。或いは、ハーネス102は艇体101に取付けることができる。
【0042】
流体力学的ウイング106は、可変角入射偏寄(variable angle incidence deflections)またはトレーリングエッジエレベータ制御表面を形成して、水力発電装置100に揚力またはダウンフォースを発生するように構成されている。
【0043】
ハーネス102には、ユニバーサルジョイント繋留装置を設けることができる。ハーネス102は、例えば図1Bに矢印120により示すように、水力発電装置100がピッチおよびヨーの両方向に自由にピボットできるように構成されている。ハーネス102は、1つ以上の繋留ケーブル103に取付けられる。繋留ケーブル103はアンカー104に取付けられ、該アンカー104は、例えば海底、川底、水面下プラットホーム等の表面110に固定される。繋留ケーブル103は、水力発電装置100がハーネス102の回りでヨー運動するときに、左舷方向または右舷方向への並進運動を禁止する。繋留ケーブル103は、図1Bに示すように、水流の流れベクトルCの水平方向成分すなわち横方向成分に対してインターセプト角121を形成する。
【0044】
水力発電装置100は、パターン化された配備配列すなわち海流ファーム配列に配備される(例えば、図3A〜図3C参照)。所与のファーム配列における隣接する水力発電装置100は、アンカー104を共有できる。各搭載発電機(図示せず)により発電された電気エネルギは、例えば隣接の水力発電装置100または水中または陸上に配置された1つ以上の電気ステーション(図示せず)に送電され、例えば水上または陸上に配置されるユーティリティグリッドに送電する前に、各水力発電装置100から電気エネルギを収集する。電気エネルギは、例えば繋留ケーブル103に取付けられた電気ケーブル(図示せず)を介して送電されかつ隣接する水力発電装置100または1つ以上のステーションに送電される。
【0045】
水力発電装置100は、例えば矢印Cで示す方向に流れる自由流れで、完全水平定常状態釣合い作動姿勢を維持するように構成されている。この点に関し、水力発電装置100は、自由流れベクトルCに実質的に平行なロータ109の回転軸線115を維持し、これにより、移動流体の運動エネルギの使用可能電力への変換が最大化される。
【0046】
水平定常状態釣合い作動姿勢では、水力発電装置100は、CBの上方かつ上流側にCBを維持して、沈水モーメントに対抗するボディピッチングモーメントを発生する。艇体101の内部で艇体の前後に配置されたバラストタンク(図示せず)には水が満たされまたは排出されてCBの位置に対するCGの位置が変えられ、ボディピッチングモーメントの大きさを調節して、変化する自由流れ状態により時時刻刻と変化する沈水モーメントを正確にキャンセルする。また、キールシリンダ111の内部に配置された可動カウンタウェイトまたはキールウェイト(図示せず)を前後方向に変位させると、CBに対するCGの位置が変えられ、ボディピッチングモーメントの大きさも調節される。前後の釣合い表面(図示せず)は、過大なピッチングモーメントを完全に釣合わせて、水平定常状態釣合い作動姿勢を維持するのに使用される。
【0047】
ロータ109は、例えば、回転軸線115の回りで図1Aの矢印116により示す方向(水力発電装置100の前方から見て反時計回り方向)に回転するように構成されている。ロータ109の回転116により、ローリングモーメントすなわち不利なトルクが発生され、このトルク(このトルクも矢印116の方向である)は水力発電装置100に伝達される。ロータの不利なトルクによりキール105が例えば左舷側に角度的に偏寄する。これにより、キールシリンダ111(例えば、該キールシリンダ内に収容されたデッドウェイトおよびカウンタウェイトを含む)が左舷側に移動され、ロータの不利なトルクに対抗する復元ローリングモーメントが発生する。図1Aに示すように、キールシリンダ111は、水力発電装置100の垂直対称平面から横方向距離117だけオフセットしている。
【0048】
ドラグインデューサ112は、図1Aに示すように、例えば、キール105のトレーリングエッジの近くでキール105に取付けられた1対のスプリットドラグフラップを有している。ドラグインデューサ112は、ロータ109が作動していないときにロータ109のドラグ力に擬似した力を発生しかつロータのドラグ力を代用するものである。ドラグ力を増大させるため、両ドラグインデューサ112は、例えば図6Aに示すように、実質的に同時に反対方向に偏寄させることができる。ドラグインデューサ112は、偏寄角が増大するにつれて徐々に大きい前線面積(frontal area)が形成されるように、徐々に偏寄される。ドラグ力を減少させるには、両ドラグインデューサ112を実質的に同時に内方に後退させて互いに近づけ、偏寄角の減少につれて前線面積が徐々に小さくなるようにする。ドラグインデューサ112は、ロータ109が作動しないときまたは所定閾値より小さい値で作動するときは必ず配備され、水力発電装置100が前方所定位置にサージすることを防止し、または特定深さを維持するように制御する。
【0049】
水力発電装置100のコンピュータ(図示せず)は、本発明の原理にしたがって水力発電装置100の種々の機械的特性を制御するように構成されている。コンピュータは、例えば、1つ以上の内部バラストタンク(図示せず)内への水の充満または排出、ロータ109の作動、可変ピッチ制御ロータハブ108に関連するロータブレードのピッチ角、ドラグインデューサ112の作動、流体力学的ウイング106の作動、トレーリングエッジエレベータの制御面の偏寄、1つ以上のステーション(図示せず)および/またはパワーグリッド(図示せず)との連通、可動カウンタウェイトの作動、キールシリンダ111の内部に配置されたキールウェイト等を制御する。搭載コンピュータと例えばステーションおよび/またはグリッドとの接続は、当業者により知られているように、搭載トランシーバ(図示せず)および通信リンク(図示せず)により行われる。
【0050】
ステーションおよび/またはグリッドの各々は、1つ以上のトランシーバ、1つ以上の通信リンク、および任意であるがネットワークを介して、複数の水力発電装置100に通信可能に接続されたコンピュータを有している。コンピュータは、各水力発電装置100を遠隔モニタリングおよび制御できるように構成されている。
【0051】
図2A〜図2Cには異なる3つの水力発電装置200、220、240の例が示されており、各水力発電装置は他の2つとは異なる構成を有している。より詳しくは、図2Aは、浮心(CB)および重心(CG)がほぼ同じ長手方向ステーションにある水力発電装置200を示している。図2Bは、実質的に同じ長手方向ステーションにおいて、CBがCGより上方にある水力発電装置220を示す側面図である。図2Cは、CGより上方かつ上流側にCBがある水力発電装置を示す側面図である。図2A〜図2Cには、例えばCGより上方かつ上流側にCBを位置決めすることにより得られる幾つかの機械的長所が示されている。
【0052】
図2Aは、実質的に同じ長手方向ステーションおよび水線ステーションに共配置されかつ略ゼロの長手方向分離215を有しているCB219およびCG214を備えた水力発電装置200を示している。水力発電装置200は、繋留ケーブル208により拘束されている。繋留ケーブル208は、例えば、水平基準平面に対して小さいインターセプト角207を有している。この点に関し、繋留ケーブル208は、沈水力211を含むベクトル力209、210、211を水力発電装置200に伝達する。
【0053】
ロータ201が作動される前は、水力発電装置200は、水平姿勢(図示せず)を占めている。ロータ201が作動されると、ロータ201は、水力発電装置200に加えられる大きい下流側へのドラグ力を発生し、水力発電装置200を図2Aに示すようにノーズダウン方向に回転させる。水力発電装置200は、該装置200の沈水力211から生じる沈水モーメントが、ウイング202により発生されるノーズアップモーメントと、CG214の上方に作用するロータ201のドラグ力により発生されるノーズアップモーメントとの総和に実質的に等しくかつ対抗するまで、ノーズダウン方向に回転する。ウイング202により発生されるノーズアップモーメントは、エレベータ制御面203によるトレーリングエッジアップ角偏寄212により増大される。水力発電装置200のこのノーズダウン回転の結果として、ロータ201の回転軸線204に関して畳み上げ角206が導入され、これにより、エネルギ変換性能が、畳み上げ角206のコサイン(余弦)の3乗にほぼ等しいファクタだけ低下する。
【0054】
水力発電装置200を水平釣合い姿勢に戻すため、エレベータ制御面デフレクタ203は、トレーリングエッジアップを更に角度212まで偏寄させ、これによりウイング202に作用するダウンフォースを増大させかつ水力発電装置200のノーズアップモーメントを発生させるように構成されている。この結果生じる、ウイング202に作用する増大したダウンフォースは、トレーリングエッジの吹き下ろし流れ(すなわち後流)を下流側にドリフトさせかつロータ201に衝突させる。これにより、ロータ201には見かけの畳み上げ角212が発生される。この畳み上げ角は既存の幾何学的畳み上げ角206に付加され、両畳み上げ角は、ロータ201のエネルギ変換性能を低下させるべく作用する。インターセプト角207が緩いと、繋留ケーブル208を長くしなければならず、重量が増大しかつコストが嵩む。
【0055】
インターセプト角が急であると、沈水力211の大きさが増大し、したがって水力発電装置200に作用する沈水モーメントも増大する。急なインターセプト角207では、ロータ201が大きく畳み上げられかつ効率が低下し、水力発電装置200を水平にするのに必要な復元ノーズアップモーメントを発生するには、より大型でコストが嵩むウイング202を必要とする。沈水力211に関連するレバーアームを短くすることにより沈水モーメントを低減させることを試みて、繋留ケーブル取付け位置をCG214の位置に向かって後方に移動させるならば、水力発電装置200は、方向安定性および流入する流れ方向に対するヨーに装置自体を整合させる能力が犠牲になってしまう。
【0056】
図2Bは、CB239およびCG234が実質的に同じ長手方向ステーションにある水力発電装置220を示すものである。しかしながら、CB239は、水力発電装置220が実質的に水平釣合い姿勢(図示せず)にある場合にはCG234の直ぐ上に位置する。水力発電装置220は、図2Aの水力発電装置200におけるよりも水平基準平面に対して急なインターセプト角227を有する繋留ケーブル228により拘束されている。図2Bに示すように、繋留ケーブル228は、沈水力231を含むベクトル力229、230、231を水力発電装置220に伝達する。
【0057】
ロータ221が作動される前は、水力発電装置220は、水平姿勢(図示せず)を占めている。ロータ221が作動されると、ロータ201は、水力発電装置220に加えられる大きい下流側へのドラグ力を発生し、水力発電装置220を図2Bに示すようにノーズダウン方向に回転させる。水力発電装置220がノーズダウン方向に回転すると、CB239がCG234の上流側に前進する。水力発電装置220のノーズダウン回転は、沈水力231から生じる沈水モーメントが、ウイング222により発生されるノーズアップモーメントと、CB239とCG234との長手方向分離235から生じるノーズアップモーメントとの総和に実質的に等しくかつ対抗するようになると停止する。ウイング222により発生されるノーズアップモーメントは、エレベータ制御面223によるトレーリングエッジアップ角度偏寄により補助される。長手方向分離235は、水力発電装置220のノーズダウン(またはノーズアップ)回転の単なる結果に過ぎない。CG234は、CB239に対する高さ分離236を有している。CG234とCB239との間の長手方向分離235により表わされる付加寄与モーメントにより、(ロータ221の回転軸線224に対する)畳み上げ角226は、図2Aに示す畳み上げ角206に比べて減少される。
【0058】
水力発電装置220を水平釣合い姿勢に戻すには、エレベータ制御面デフレクタ223の偏寄角232を増大させて、流れ角(flow angularity)を下流側ロータ221に導入しまたは増大させる必要がある。流れ角は、前述の幾何学的畳み上げ角226に加えて見かけの畳み上げ角232を発生させ、これにより、ロータ221のエネルギ変換性能を低下させる。
【0059】
緩いインターセプト角227では、繋留ケーブル228が長くなり、一層コストが嵩みかつ重くなる。急なインターセプト角227では、ロータ221がより一層畳み上げられて効率が低下し、水力発電装置220に必要な復元ノーズアップモーメントを発生させるのに、より大型でコストが嵩むウイング222を必要とする。沈水力231に関連するレバーアームを短くすることにより沈水モーメントを低減させることを試みて、繋留ケーブル取付け位置をCG234の位置に向かって後方に移動させるならば、水力発電装置220は、方向安定性および流入する流れ方向に対するヨーに装置自体を整合させる能力が犠牲になってしまう。
【0060】
図2Cは、本発明の原理による水力発電装置240(または100)の一例を示すものである。水力発電装置240はCB259を有し、該CB259は、水力発電装置240が実質的に水平釣合い姿勢にあるときにCG254の上方かつ上流側に位置する。水力発電装置240は繋留ケーブル248により拘束されており、該繋留ケーブル248は、図2Aおよび図2Bのそれぞれのインターセプト角207、227より急なインターセプト角247(または図1Bの121)を有している。繋留ケーブル248は、沈水力251を含むベクトル力249、250、251を水力発電装置240に伝達する。
【0061】
ロータ241(または109)が作動される前は、水力発電装置240はノーズ高姿勢(図示せず)を占めており、この姿勢では、水力発電装置240のノーズは上方に回転されかつCB259とCG254との間の分離距離は最小になっている。ロータ241が作動されると、ロータ241は大きい下流側へのドラグ力を発生し、水力発電装置240を、例えばノーズ高姿勢からノーズダウン方向に回転させる。水力発電装置240のノーズダウン回転は、沈水力251から生じる沈水モーメントが、CG254の上方で水力発電装置240に作用するロータドラグ力により発生されるノーズアップモーメントと、CB259とCG254との長手方向分離255から生じるボディピッチングモーメントとの総和に実質的に等しくかつ対抗するようになると停止する。CB259をCG254の上方かつ上流側に位置決めすることにより、水力発電装置240は、ロータ241の回転軸線244に対して実質的にゼロの幾何学的畳み上げ角をもつ実質的に水平な定常状態釣合い作動姿勢に維持される。釣合いモーメントはウイング242(または106)から必要とされずかつトレーリングエッジエレベータ制御面243はゼロの偏寄角252を有するので、流れ角は回避されるか最小になり、したがってロータ241には導入されない。したがって、ロータ241はその最高効率作動状態に維持され、最高エネルギ変換性能を与える。
【0062】
図2Cから明らかなように、インターセプト角247は、図2Aおよび図2Bに示したインターセプト角207、227よりかなり急である。したがって、繋留ケーブル248は、図2Aおよび図2Bの繋留ケーブル208、228よりも短く、安いコストでかつ軽量にすることができる。水力発電装置240は、CB259とCG254との長手方向分離255を調節することにより、ロータ241の幾何学的すなわち見かけ畳み上げ角により引き起こされる効率低下を生じさせることなく、繋留ケーブル248から伝達される大きい沈水モーメントをオフセットするように構成されている。かくして、ロータ241のエネルギ変換効率が最大化されると同時に、水力発電装置240のピッチ安定性および水平釣合い作動姿勢を確保できる。
【0063】
前述のように、キールシリンダ260(または111)には可動カウンタウェイト(図示せず)を設けることができ、艇体101には1つ以上のバラストタンク(タンクではない)を設けることができる。キールシリンダ260内のカウンタウェイトを調節することにより(例えば、キールシリンダ260内でカウンタウェイトを前後方向に移動させることにより)、および/または(艇体101内の)1対の前後のバラストタンクを交換することにより、CG254の位置を調節できる。また、キールシリンダ260内のカウンタウェイトを調節しかつ前後のバラストタンク間で水バラストを交換することにより、CB259とCG254との間の長手方向分離255の大きさを調節して、ロータの畳み上げ角246を実質的にゼロにしかつウイング242による揚力が実質的に発生しないようにすることにより、ロータ241により受ける幾何学的すなわち見かけの畳み上げ角を回避することができる。したがって、水力発電装置240のピッチが安定化されかつロータ241のエネルギ変換性能を損なうことなく水平定常状態釣合い作動姿勢を維持できる。
【0064】
本発明の一実施形態によれば、ウイング242(または106)は、水力発電装置240(または100)から完全に除去できる。この実施形態では、引っ張り綱で繋留された水力発電装置240のピッチ、ロールおよび/またはドラグの安定化は、残余の手段により達成される。
【0065】
本発明の他の実施形態によれば、ウイング242(または106)はCG254に近接して配置され、したがって、水力発電装置240に単に揚力またはダウンフォースを加えるのに使用される。或いは(または付加的に)、ウイング242は、CG254から距離を隔てて配置するか、釣合い装置および浮揚装置の両方として使用される。
【0066】
本発明の原理によれば、ハーネス102は、水力発電装置240の遥か前方にリーズナブルに配置して、装置の方向安定性およびヨー整合能力を最大化することができる。CB259およびCG254の長手方向分離255から生じるボディピッチングモーメントは、ハーネス102のリーズナブルな遥か前方の取付け位置で作用する沈水力から生じる大きい沈水モーメントに抗する作用の補助をする。
【0067】
図3A〜図3Cは、矢印Cの方向に流れる自由流れ中に完全に浸漬されて作動している水力発電装置300、310、320のファーム配列の種々の例を示すものである。より詳しくは、図3Aは、緩い繋留ケーブルインターセプト角301(または207)を有する水力発電装置300(または200)の海流ファーム配列の一例を示す側面図、図3Bは、中間の繋留ケーブルインターセプト角311(または227)を有する水力発電装置310(または220)の海流ファーム配列の一例を示す側面図、および図3Cは、急な繋留ケーブルインターセプト角321(または121または247)を有する水力発電装置320(または240または100)の海流ファーム配列の一例を示す側面図である。
【0068】
図3Aを参照すると、水力発電装置300は、図2Aに示した水力発電装置200に概略的に対応している。水力発電装置300はファーム配列に構成されており、各水力発電装置300は、緩いインターセプト角301を有する繋留ケーブルに連結されている。図3Aに示すように、緩い繋留ケーブルのインターセプト角301は、図3Bまたは図3Cに示すファーム配列より長くて、コストが嵩みかつ重い繋留ケーブル303を必要とする。また、大きい畳み上げ角305が導入され、これは、水平軸線ロータのエネルギ変換性能を大きく低下させる。このようなケーブルは、コストが嵩みかつ長くなることに加え、繋留ケーブル303の増大した重量を支持すべく、大型でコストが嵩む水力発電装置、浮揚体積または大きいウイングの浮揚面を必要とする。
【0069】
繋留オーバーラップ距離302とは、上流側の水力発電装置300の位置と、隣接する下流側の水力発電装置300の表面床アンカー位置306との間の距離をいう。水力発電装置300のパターン化された配備配列内の水力発電装置300の密度を増大させかつ最小の全地理学的フットプリントを使用して天然資源の使用を最大化させるには、繋留オーバーラップ距離302を増大させて、下流側方向の装置300の連続列を装置300の上流側列に近接させなければならない。長い繋留ケーブル303ではオーバーラップ距離302を増大させることは問題が多く、例えば繋留ケーブル303のもつれの可能性、隣り合う装置300同士の衝突、上流側に隣接して作動する水力発電装置300の直ぐ下にアクセスできるに過ぎず、アンカー位置を機能させることの困難性が生じる。
【0070】
図3Bを参照すると、水力発電装置310は、図2Bに示した水力発電装置220に概略的に対応している。水力発電装置310のファーム配列では、複数の繋留ケーブル313は、図3Aに示したファーム配列の繋留ケーブル303より急なインターセプト角311を有している。したがって、図3Aに示したファーム配列の繋留ケーブル303に比べて、より短く、低コストで軽量の繋留ケーブル313を使用できる。繋留ケーブルのオーバーラップ距離312は、図3Aのオーバーラップ距離302に比べて減少しており、一方、所与の地理的領域における水力発電装置310の密度は増大している。
【0071】
また、図3Aの水力発電装置300に導入された畳み上げ角305より小さいけれども、水力発電装置310は、水平軸線ロータのエネルギ変換性能を大きく低下させる、かなりの大きさの畳み上げ角315を導入している。
【0072】
図3Cを参照すると、この水力発電装置320は、図2Bに示した水力発電装置240または図1Aおよび図1Bに示した水力発電装置100に概略的に対応している。図2Cで説明したように、CB259がCGの上方かつ上流側にあるため、水力発電装置320は、生じるボディピッチングモーメントを、最も急な繋留ケーブルインターセプト角321が得られるように使用でき、これにより、最短、最軽量かつ最低コストのケーブル323にでき、同時に、水力発電装置320は、最高エネルギ変換性能が得られる(幾何学的にまたは見掛け上)実質的にゼロのロータ畳み上げ角325を有する水平定常状態釣合い作動姿勢を維持することができる。また、小さい地理学的領域内に多数の水力発電装置320を配備できる。これにより、天然資源の使用が最大化され、一方、上流側の水力発電装置320の位置と、隣接する下流側の水力発電装置300の表面床アンカー位置326との間の繋留ケーブルオーバーラップ距離322が最小になり、ケーブルのもつれ、およびアンカーおよび隣接する装置320の繋留ケーブルの補修の煩わしさを回避できる。
【0073】
図4Aは、図1Aに示した水力発電装置100または図2Cに示した水力発電装置240と同じまたは実質的に同じ水力発電装置400を示す側面図である。水力発電装置400は、CB416(または259)に対してCG404(または254)を前後に移動させる少なくとも2つの機構を有している。例えば、水力発電装置400は、前後に配置された1対のバラストタンク401、402を有している。図4Aから分かるように、前方に配置されたバラストタンク401はほぼ空の状態が示され、バラストタンク402はほぼ満たされた状態が示されている。水力発電装置400には更に、両タンク401、402間で水を搬送するように構成されたポンプ(図示せず)が設けられている。水力発電装置400は更に、キールシリンダ260(または111)内に設けられた可動カウンタウェイト403を有している。カウンタウェイト403は、キールシリンダ260の長さに沿って前方から後方位置または後方から前方位置へと長手方向に移動できるように構成されている。ロータ軸線は、参照番号405で示されている。
【0074】
水力発電装置400のほぼ充満された後方のバラストタンク402および最後方位置にあるカウンタウェイト403は、最大負荷状態を表している。最大負荷状態は、例えば、CG254が、水力発電装置400に生じるボディピッチングモーメントの最大の大きさに対応する最後方位置404にある状態を含む。
【0075】
図4Bは、CG254が、水力発電装置400に生じるボディピッチングモーメントの最小の大きさに対応する最前方位置404にある負荷状態を有する水力発電装置400(参照番号410で示す)を示す側面図である。理解されようが、前方に配置されたバラストタンク401(参照番号411で示す)はほぼ充満されており、後方に配置されたバラストタンク402(参照番号412で示す)はほぼ空である。また、可動カウンタウェイト403(参照番号413で示す)は、前方位置にある。バラストタンク401、402および/またはカウンタウェイト403はCG254の位置を調節し、これにより水力発電装置400のボディピッチングモーメントの大きさを変えて実質的に水平定常状態釣合い作動姿勢を維持し、ロータ241(または109)の回転軸線と自由流れ方向とを整合させることによりエネルギ変換性能を最高にするように使用されている。ロータ軸線は、参照番号415により示されている。
【0076】
図5Aは、図1Aに示した水力発電装置100または図2Cに示した水力発電装置240と同じまたは実質的に同じ水力発電装置500を示す正面図である。図5Aを参照すると、自由流れCは水平軸線をもつ図5Aの紙面に垂直に流れ、ロータ501(または109または241)は、紙面に垂直な回転軸線の回りで例えば反時計回り方向に回転する。水力発電装置500は、CB259(参照番号505として示す)およびCG254(参照番号508として示す)を有している。
【0077】
作動中、ロータ501は、不利なトルクと呼ばれるローリングモーメントをを水力発電装置500に伝達し、水力発電装置500を例えば反時計回り方向502にロールさせる傾向を有する。例えば、水力発電装置500はバンク角へとロールし、バンク角では、レバーアーム距離506を介して作用するデッドウェイト503および/またはカウンタウェイト403(参照番号503で示す)により発生される復元ローリングモーメントにより実質的にオフセットされる。バンク角507の大きさは、キール105(参照番号510により示す)の長さ、デッドウェイト503の重量および/またはカウンタウェイト503の重量に反比例する。このため、より長いキール510、より重いデッドウェイト503および/またはより重いカウンタウェイト503を使用することにより、作動するロータ501により発生される不利なトルクをオフセットする対抗ローリングモーメントを発生させることが必要になる。かくして、重み付きキール510は復元振り子として作用する。
【0078】
しかしながら、図5Aから分かるように、水力発電装置500は、垂直基準平面509から角度的に変位(例えば右舷方向に傾斜)され、したがって、好ましい直立垂直方向に位置してはいない。好ましい直立垂直方向は、水力発電装置500の垂直対称面504が垂直基準平面509と一致するときに生じる。ロータ501から不利なトルクをキャンセルしかつ同時に水力発電装置500の好ましい直立垂直方向を達成するため、キールウェイト513は、図5Bに示すように水力発電装置500の垂直対称平面から横方向にオフセットされる。
【0079】
図5Bは水力発電装置500の正面図であり、ロータ501は非作動状態にあり、かつキール510と一体に形成されたキールウェイト513が水力発電装置500の垂直対称平面504に対して横方向に位置して、水力発電装置500は左舷側にロールしている。キールウェイト513は、水力発電装置500の垂直対称平面から距離516だけ横方向にオフセットするように構成されている。図5Bから分かるように、ロータ501が作動していないとき、水力発電装置500は左舷側にロールし、これによりCB515およびCG518を、垂直基準平面509と垂直整合するように位置決めする。
【0080】
図5Cは水力発電装置500の正面図であり、ロータ501は作動状態にありかつ水力発電装置500は好ましい垂直方向にあって、水力発電装置500の垂直対称平面504は垂直基準平面509と一致している。キールのウェイト513は、水力発電装置500の垂直対称平面504に対して実質的に横方向の所定位置に配置されている。
【0081】
図5Cでは、ロータ501が作動し、例えば、方向522に回転している場合、水力発電装置500は、以前の左舷側位置(図5B参照)から右舷側に回転し、水力発電装置500を垂直基準平面509と一致する(又は平行な)好ましい垂直方向に立て直す。このような作動状態では、CG528は横方向に変位し、例えば、CB525の左舷側に位置し、作動するロータ501により発生される不利なトルクに反作用する持続性のある回転モーメントを生じさせる。
【0082】
図5Cから分かるように、水力発電装置500には、ウイング106(531として示されている)に設けられた1つ以上の差動制御面デフレクタ533が設けられている。デフレクタ533は、作動するロータ501による不利なトルクに対抗する付加復元モーメントを付与する。
【0083】
また、水力発電装置500は、ウイング531に取付けられるかウイング531と一体に形成された複数のウイングタンク532を有している。ウイングタンク532は、ウイング531の遠位端に設ける(例えば図5Cに示すウイングチップタンク)か、ウイング531の遠位端と艇体101との間の位置に設けられる。作動するロータ501による不利なトルクに対抗するため、ウイングタンク532を交互に排出または充満させることにより、付加復元モーメントを付与することができる。
【0084】
更に、水力発電装置500には、図5Cに示すように、キール524の遠位端に配置される制御面デフレクタ535を設けることができる。
【0085】
図6Aは水力発電装置600を示す斜視図であり、この水力発電装置600は、図1Aに示した水力発電装置100または図2Cに示した水力発電装置240と実質的に同じである。図6Aには、ロータブレード601が完全にフェザーリングされた非作動状態にあり、かつ腹部キール603に配置されたドラグインデューサ602が偏寄位置にあって高ドラグ状態にある水力発電装置600が示されている。ドラグインデューサ602は、例えば1対のスプリットドラグフラップを有するものが示されている。
【0086】
図6Bは、高ドラグ状態に配備されたドラグインデューサ602を備えた水力発電装置600を示す正面図である。図6Bでは、ドラムインデューサ602のスプリットドラグフラップが、大きい前線領域を形成し、これにより自由流れCの力の下で大きいドラグが得られるように偏寄されている。
【0087】
繋留ケーブルの沈水力は、ロータのドラグ力(例えば図2Cの沈水力251)の大きさに比例する。したがって、ロータドラグ力の存在または除去は、繋留ケーブルの沈水力の大きさに大きい変化を引き起こし、水力発電装置600の特定作動深さを維持するのに必要な垂直力バランスを変化させる。ドラグインデューサ602は、ロータドラグ力が存在しないか最小であるときは、ロータドラグ力の代用となるドラグ力を付与する。ドラグインデューサ602は、ロータの作動状態からロータの非作動状態へのロータブレードのピッチ角の遷移中に生じる水力発電装置600の大きい前後方向移動を防止するロータドラグ力の代用を行う。水力発電装置600の大きい前後方向移動は非常に大きい問題である。なぜならば、水力発電装置が移動すると上流側繋留ケーブルが弛緩し、これは、隣接する水力発電装置600が衝突の危険を呈する規則的間隔の海洋ファーム配列で特に関心が高いからである(例えば図7参照)。
【0088】
ドラグインデューサ602は、ロータが作動していないときはいつでも高ドラグ状態に配備され、ロータが作動しているときはいつでも低ドラグ状態または無ドラグ状態に後退される。また、ロータブレード602が、例えば可変ピッチ制御ロータハブの使用によりピッチ角係合シーケンス中またはピッチ角非係合シーケンス中であるとき、ドラグインデューサ602は、水力発電装置600に作用する総ドラグ力(または総垂直力)を一定値に維持して、ロータの作動状態と非作動状態との間のシームレス遷移が得られる態様および速度に、それぞれ後退または伸長される。
【0089】
ドラグインデューサ602は配備可能な種々の高ドラグ装置からなり、高ドラグ装置として、例えば、スプリットドラグフラップ、偏寄可能なボディフラップまたはスケール、ウイングまたは前後の釣合い面上に配置される配備可能なフラップ、水力発電装置600の他の表面上に配置されるポップアップまたはポップアウト型ストールフェンス、約90°の入射偏寄が可能なウイングまたは釣合い面、水力発電装置600の内部キャビティから発射される引っ張り綱付き補助パラシュートまたはパラシュート、または後で低ドラグ状態または無ドラグ状態に後退できる他の配備可能な高ドラグ装置がある。
【0090】
図7は、種々の作動段階にある複数の水力発電装置700、701、702、703、706からなる海洋ファーム配列を示す側面図である。各水力発電装置700、701、702、703、706は、図1Aに示した水力発電装置100または図2Cに示した水力発電装置240と同じであるか、実質的に同じである。簡単化のため、水力発電装置700、701、702、703、706は、図1Aに示した水力発電装置100の例を参照して以下に説明する。
【0091】
水力発電装置700、701、702は、定格速度が生じておりしたがって搭載発電機(図示せず)により定格電力が発電される深さで、実質的に水平な釣合い定常状態で作動されている。水力発電装置703はそのロータ109が係合されておらず、明瞭化のため、ドラグインデューサ112は無ドラグ状態または低ドラグ状態に後退されているところが示されている。したがって、水力発電装置703は、懸垂線状態にある繋留ケーブル705により前方所定位置にサージされかつ直ぐ上流側の隣接水力発電装置701に衝突する危険がある。ドラグインデューサ112を高ドラグ状態に配備することにより、水力発電装置703は繋留ケーブル705をぴんと引っ張って下流側位置704に退去され、これにより水力発電装置701と衝突する危険が軽減される。
【0092】
水力発電装置704は、そのロータブレード107が完全にフェザーリングされかつロータ109は作動されておらず、ドラグインデューサ112は高ドラグ状態に配備され、ウイング106にはダウンフォースが作用しかつバラストタンク(例えば図4Aの参照番号401、402)内の海水が増大されていて、定格速度が生じておりかつロータは作動しておらず(または実質的に作動しておらず)発電していない深さに維持されている。
【0093】
水力発電装置706は、半浸漬表面状態にあるところが示されており、そのロータ109は作動しておらずかつドラグインデューサ112は中間偏寄角に配備され、したがって、繋留ケーブル705をぴんと引っ張るのに充分ではあるが、水力発電装置706をより深く引っ張る大きさまで沈水力を増大させるには不充分な大きさのドラグが発生されている。この状態では、水力発電装置706は、海上船舶707から乗組員により補修およびメインテナンスが行われる。作動深さまで下降させるため、水力発電装置706は、ドラグインデューサ112を高ドラグ状態に完全に配備して、沈水力を増大させかつ装置706を水面下に引き入れる。ひとたび水面下に入ると、ウイング106を負の入射角まで回転してダウンフォースを発生させる。同時に(または異なる時点で)、バラストタンク(例えば図4A、図4Bに示す)を海水で充満して、水力発電装置706の重量を増大させ、定格速度が生じる深さを有する位置708まで装置706を下降させる。この深さでは、低ドラグに向かって徐々に後退されたドラグインデューサ112と、今やロータブレードピッチ角を作動状態にピッチングさせる過程にある実際のロータ109との間にドラグ力遷移が生じ、これによりロータ109が作動するとロータによりドラグが発生される。ロータ代用物(ドラグインデューサ112により形成される)と特定深さでの実際のロータ109との間のこのドラグ遷移は、水力発電装置706全体に作用する垂直力バランスが実質的にゼロに維持されるように、かつ装置706が、ダウンフォースを緩和するウイング106並びにバラストタンク401、402(これらはロータの係合遷移過程中の除荷バラストである)の補助により、水力発電装置706により定格電力が発電される定格速度で特定深さに維持されるように生じる。ロータ109が非作動状態に遷移されるときに同様な(但し逆方向の)ドラグ力が生じ、このとき、水力発電装置706の制御された上昇の前に、ロータ109からドラグインデューサ112へのドラグ力伝達が生じる。これらの2つのドラグ遷移シーケンス(ロータ109の作動状態から非作動状態およびロータ109の非作動状態から作動状態を含む)は、それぞれ、ロータ係合離脱遷移プロトコルおよびロータ係合遷移プロトコルと呼ばれ、本願と同日出願に係る係属中の特許文献8(米国特許出願第 号公報(発明の名称「水力発電装置の配列を含む水力発電装置用電力制御プロトコル(POWER CONTROL PROTOCOL FOR A HYDROKINETIC DEVICE INCLUDING AN ARRAY THEREOF)」))に開示されている。尚、該特許文献8の全開示は本願に援用する。
【0094】
水力発電装置100は、例えば、本願と同日出願に係る係属中の特許文献9(米国特許出願第 号公報(発明の名称「引っ張り綱に繋がれた水力発電機用繋留システム(MOORING SYSTEM FOR A TETHERED HYDROKINETIC)」))に開示された繋留システムにより水中に保持される。尚、該特許文献9の全開示は本願に援用する。
【0095】
水力発電装置100には、例えば、本願と同日出願に係る係属中の特許文献10(米国特許出願第 号公報(発明の名称「内蔵型エネルギ貯蔵リザーバを備えた可変制御ロータ(VARIABLE CONTROL ROTOR HUB WITH SELF CONTAINED ENERGY STORAGE RESERVOIR)」))に開示された内蔵型エネルギ貯蔵リザーバを備えた可変制御ロータハブを設けることができる。尚、該特許文献10の全開示は本願に援用する。
【0096】
図8は、本発明の原理による水力発電装置のピッチ、ロールおよびドラグを検出しかつ制御する方法800の一例を示すものである。図1Aおよび図8を同時に参照すると、方法800は、水力発電装置100のピッチを検出しかつ決定する段階(ステップ810)、水力発電装置100のロール(垂直整合を含む)を検出しかつ決定する段階(ステップ814)および/または水力発電装置100のドラグ力を検出しかつ決定する段階(ステップ818)を有している。
【0097】
水力発電装置100のピッチ角が所定のピッチ範囲から外れている決定がなされた場合には(ステップ820においてYES)、水力発電装置100のピッチ角を調節する。例えば、水力発電装置100のピッチ角が所定のピッチ範囲に戻るまで、長手方向に分離された複数のバラストタンクに水を交互に充満しおよび排出する(ステップ830)。ピッチ範囲から外れていない場合には、ピッチ角調節は行わない(ステップ820においてNO)。これに加え(またはこの代わりに)、水力発電装置100のピッチ角が所定のピッチ範囲に戻るまで、キールシリンダ111内のカウンタウェイトを制御しつつ移動することによりピッチ角を調節することができる(ステップ830)。これに加え(またはこの代わりに)、水力発電装置100のピッチ角が所定のピッチ範囲に戻るまで、例えば可変入射角または1つ以上のトレーリングエッジを含む流体力学的ウイング106の部分を制御しつつ調節することによりピッチ角を調節することができる(ステップ830)。
【0098】
水力発電装置100の垂直整合位置が所定の垂直整合位置範囲から外れているとの決定がなされた場合には(ステップ824においてYES)、例えば図5Cを参照して説明した方法により水力発電装置100の垂直整合を調節できる。また、これに加え(またはこの代わりに)、ウイングタンク532を充満および排出し、エレベータ制御面533または方向舵535を偏寄させることができる(ステップ834)。所定の垂直整合位置範囲から外れていない場合には、ロール調節は行わない(ステップ824においてNO)。
【0099】
水力発電装置100のドラグ力が所定のドラグ力範囲から外れているとの決定がなされた場合には(ステップ828においてYES)、例えば、ロータ109によりドラグ力とドラグインデューサ112により発生されるドラグによるドラグ力との総和が所定のドラグ力の範囲内に入るまで、水力発電装置100のドラグを調節する(ステップ838)。所定のドラグ力範囲から外れていない場合には、ドラグ調節は行わない(ステップ828においてNO)。これに加え(またはこの代わりに)、水力発電装置100に作用するドラグ力は、ドラグ力が許容範囲に戻るまでロータブレード107のピッチ角を変えることによっても調節できる(ステップ828においてYES)。ロータ109によるドラグ力とドラグインデューサ112により発生されるドラグによるドラグ力との総和は、通常の作動状態中にロータ109のみによって発生されるドラグ力に等しい。
【0100】
実質的に同時に行われるとして示されているが、検出および決定ステップ810、818は異なる時点で行われる。同様に、判定ステップ820、828および調節ステップ830、838は、実質的に同時すなわち異なる時点で行われる。
【0101】
本発明の一態様によれば、コンピュータ読取り可能な媒体には、実態的に具現化された複数のコードセクション(すなわちセグメント)を有するコンピュータプログラムが設けられる。コンピュータプログラムには、方法800のステップ810からステップ838の各々についてコードセクションが設けられている。水力発電装置100の搭載コンピュータ(図示せず)で実行するとき、コンピュータプログラムは、水力発電装置100のピッチ、ロールおよび/またはドラグの検出および制御を行う。
【0102】
本発明の種々の実施形態によれば、本願に開示する方法は、コンピュータで実行されるソフトウェアプログラムとして作動することを意図したものである。専用ハードウェアとして特定集積回路、プログラム可能な論理回路があり(但しこれらに限定されない)、他のハードウェアデバイスも本願に開示の方法を実施するように同様に構成される。また、分散処理またはコンポーネント/オブジェクト分散処理、並列処理またはバーチャルマシン処理(但しこれらに限定されない)を含む他のソフトウェアインプリメンテーションも本願に開示する方法を実施するように構成できる。
【0103】
以上、本明細書では特定規格およびプロトコルに関連する実施形態で実施されるコンポーネンツおよび機能を説明したが、本願の開示はこのような規格およびプロトコルに限定されるものではない。
【0104】
本願の開示は例示実施形態に関連して行ったが、当業者ならば、本願の開示は、特許請求の範囲の記載の精神および範囲内での変更を行って実施できることは理解されよう。前述のこれらの例は単なる例示であって、本発明の可能なあらゆる設計、実施形態、用例または変更例を完全に列挙したものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流から電力を取出す水力発電装置において、
浮体と、
該浮体に連結されかつ発電機を駆動すべく構成されたロータとを有し、
浮体およびロータが協働して浮心および重心を形成し、浮心が重心の上方かつ上流側に配置されていることを特徴とする水力発電装置。
【請求項2】
前記重心を調節するように構成された可動カウンタウェイトを更に有していることを特徴とする請求項1記載の水力発電装置。
【請求項3】
前記重心を調節するように構成された可変バラストを更に有していることを特徴とする請求項1記載の水力発電装置。
【請求項4】
エレベータ制御面を備えたハイドロプレーンウイングを更に有していることを特徴とする請求項1記載の水力発電装置。
【請求項5】
前記浮体に取付けられたキールを更に有し、該キールは、遠位端に取付けられたデッドウェイトを有していることを特徴とする請求項1記載の水力発電装置。
【請求項6】
前記ロータは、水流と選択的に係合しまたは係合離脱することを特徴とする請求項1記載の水力発電装置。
【請求項7】
水流から電力を取出す水力発電装置において、
浮体と、
該浮体に連結されたロータとを有し、該ロータは発電機を駆動すべく構成されており、
浮体に連結されたキールと、
該キールの遠位端に連結されたデッドウェイトとを更に有していることを特徴とする水力発電装置。
【請求項8】
前記デッドウェイトは、浮体の垂直対称平面からオフセットされていることを特徴とする請求項7記載の水力発電装置。
【請求項9】
前記デッドウェイトは、浮体前方位置と浮体後方位置との間または左舷側位置と右舷側位置との間で移動できることを特徴とする請求項7記載の水力発電装置。
【請求項10】
水を交互に排出しまたは充満するように構成された複数の横方向に分離されたバラストタンクを更に有していることを特徴とする請求項7記載の水力発電装置。
【請求項11】
ローリングモーメントを付与するように構成された流体力学的揚力面を更に有していることを特徴とする請求項7記載の水力発電装置。
【請求項12】
可変ドラグ状態を配備すべく構成されたドラグインデューサを更に有し、可変ドラグ状態は、高ドラグ状態、低ドラグ状態および中間ドラグ状態を有していることを特徴とする請求項7記載の水力発電装置。
【請求項13】
前記高ドラグ状態、低ドラグ状態および中間ドラグ状態を配備するように構成されたドラグインデューサを更に有していることを特徴とする請求項7記載の水力発電装置。
【請求項14】
水流から電力を取出す水力発電装置において、
浮体と、
該浮体に連結されたロータとを有し、該ロータは発電機を駆動すべく構成されており、
可変ドラグ状態を配備すべく構成されたドラグインデューサを更に有し、可変ドラグ状態は、高ドラグ状態、低ドラグ状態および中間ドラグ状態を有していることを特徴とする水力発電装置。
【請求項15】
前記ロータは、水流と係合しまたは係合離脱することを特徴とする請求項14記載の水力発電装置。
【請求項16】
前記ドラグインデューサは、ロータが係合されると係合離脱するように構成されていることを特徴とする請求項14記載の水力発電装置。
【請求項17】
前記ドラグインデューサは更に、ロータが係合離脱されると係合するように構成されていることを特徴とする請求項14記載の水力発電装置。
【請求項18】
前記浮体に取付けられたキールを更に有し、該キールは、遠位端に取付けられたデッドウェイトを有していることを特徴とする請求項14記載の水力発電装置。
【請求項19】
前記重心を調節するように構成された可変バラストを更に有していることを特徴とする請求項14記載の水力発電装置。
【請求項20】
可変入射機構またはエレベータ制御面を備えたハイドロプレーンウイングを更に有していることを特徴とする請求項14記載の水力発電装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−532274(P2012−532274A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518531(P2012−518531)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/036459
【国際公開番号】WO2011/008353
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(511314706)
【Fターム(参考)】