説明

缶外面用水性塗料組成物及びその製造方法

【課題】本発明の課題は、耐磨耗性、耐傷付き性、滑り性に優れ、かつ表面からワックス成分等が離脱しにくい塗膜を形成し得る、ワックス共分散体を用いた缶外面用水性塗料組成物を提供することである。
【解決手段】融点70℃超〜110℃、酸価10〜50のワックス(a)と融点10〜70℃のワックス(b)を有機溶剤中に分散したワックス共分散体(A)と、前記ワックス(a)と四フッ化エチレン系樹脂(c)を有機溶剤中に分散したワックス共分散体(B)を、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜60/40かつ(b)/(c)=15/85〜50/50(重量比)の割合となるように含有し、さらに塗料用樹脂(C)を含有する缶外面用水性塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶外面用水性塗料組成物及びその製造方法に関するものである。詳しくは、滑り性、耐傷付き性に優れ、かつ滑り性や耐傷付き性向上の目的で添加したワックスが塗膜から脱離し難く、水中へも抽出されにくい塗膜を形成し得る缶外面用水性塗料組成物及びその製造方法に関する。
さらに詳しくは、製缶工程や内容物を充填する工程における搬送設備や製缶工程における缶の加工ツールをワックスで汚染し難く、各工程における搬送時、特に高速搬送時の滑り性、耐傷付き性に優れる塗膜であって、さらに長距離・長時間輸送時の耐傷付き性にも優れ、内容物充填後のレトルト殺菌処理時にワックスが溶出し難い塗膜を形成し得る缶外面用水性塗料組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料缶、食缶、キャップ、王冠栓等の外面は、その材質の保護と透明度、艶、美観の付与を目的として塗膜により被覆されている。
飲料缶を例にとって説明する。飲料缶自体を製造する工程及び内容物を充填する工程において搬送ラインで缶が搬送される際、外面塗膜は滑り易く、傷つきにくいことが要求される。
塗膜の滑り性が不足すると、搬送中に缶の表面同士あるいは缶と搬送ラインのガイド等との摩擦抵抗が大きくなってしまい、缶が搬送ライン中を滑らかに移動することができず、搬送が停滞してしまうという不都合を生じる。
また塗膜の耐傷付き性が不足すると、缶同士の接触により塗膜表面が傷付いてしまい、缶表面の美観が損なわれてしまう。
【0003】
そこで、このような要求に応えるために、いわゆる滑剤あるいは潤滑剤などと呼ばれるものを塗料中に添加することが提案されてきた。潤滑剤としては、みつろう、鯨ろう、牛脂、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ラノリンワックス等の動植物性ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の合成ワックス、シリコーン、四フッ化エチレン系樹脂等が知られている(特許文献1〜5参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、カルボキシル基もしくは水酸基を有するポリオレフィン系ワックスもしくは天然ワックスと、カルボキシル基もしくは水酸基と反応し得る官能基を有する塗料用樹脂との反応生成物を分散助剤の存在下に水中に分散せしめてなる水性分散体組成物が提案されている。
即ち、前記反応生成物は、ワックスの有するカルボキシル基や水酸基と、該ワックスを水性媒体に分散させるための分散剤的機能を担う塗料用樹脂とを反応させたものであり、この反応生成物は極めて親水性に富む。従って、この反応生成物の水性分散体を添加した水性塗料から形成される硬化塗膜は、親水性に富むものとなり、レトルト処理すると塗膜が白化する。
【0005】
ところで、これまでは優れた滑り性を発現させる潤滑剤、即ち硬化塗膜表面の動摩擦係数をより小さくするものが、傷つき防止効果の点でも優れると一般に考えられてきた。例えば、カルナウバワックスは、滑り性及び耐傷つき性の両方の点で優れているとされている。
しかし、カルナウバワックス含有塗料で外面が被覆された飲料缶等をレトルト処理すると、塗膜からカルナウバワックスがレトルト水に抽出され、レトルト水を汚染してしまうという問題があった。
さらに、飲料缶自体を製造する工程及び内容物を充填する工程において、缶胴部(ツーピース缶の場合は、底部と一体化した缶胴部、スリーピース缶の場合は、円筒状缶胴部に蓋部材を取り付けたもの)が搬送ラインを移動する際、カルナウバワックスは、塗膜から脱離し易く、ラインのガイドなどに付着、堆積して、ライン設備を汚染し易いという問題もあった。
【0006】
ラノリンワックスは、滑り性に優れ、搬送ラインの汚染もなく、カルナウバワックスに比してレトルト水を汚染し難いという利点があるものの、耐傷つき性の点ではカルナウバワックスには及ばない。
ポリエチレンワックスは、搬送ラインを汚染し易いという点で問題がある。
【0007】
これに対して四フッ化エチレン系樹脂は、滑り性も良好で、耐傷つき性に極めて優れ、搬送ラインやレトルト水を汚染しにくい、という点でバランスのとれた性能を有する潤滑剤であったということができる。
しかし、近年は四フッ化エチレン系樹脂といえども、滑り性及び耐傷つき性の要求される程度が高まってくるにつれ、必ずしも満足できるものではなくなりつつある。
【0008】
即ち、近年は、飲料缶の製缶工程における製缶速度が従来よりも速くなり、缶の搬送速度が従来よりも速くなってきた。また内容物充填工程における搬送ラインの搬送速度も従来よりも速くなってきた。搬送速度が速くなると、缶の搬送性(滑らかに連続して流れること)が低下し、缶がライン中に滞留しやすくなってしまうと共に、搬送ライン移動中に缶同士が接触する際に傷つきやすくなる。
四フッ化エチレン系樹脂は、このような高速搬送時の滑り性や耐傷つき性の点で満足できるものではなくなりつつある。
【0009】
ところで、飲料用缶の缶胴部は、製造された後、内容物を充填するために充填拠点まで、トラック、鉄道、飛行機等で輸送され、内容物が充填され、ツーピース缶の場合は蓋部材が、スリーピース缶の場合は底部材が、それぞれ取り付けられる。
近年、内容物の充填をおこなう業者の合理化により、充填拠点が整理・統廃合されるようになり、缶胴部製造場所から充填拠点までが従来よりも遠くなってきた。即ち、缶胴部は、従来よりも長距離・長時間輸送されるようになってきた。四フッ化エチレン系樹脂は、このような長距離・長時間輸送における耐傷つき性に対する要求の点でも満足できるものではなくなりつつある。
【特許文献1】特開平01−81867号公報
【特許文献2】特開平8−134359号公報
【特許文献3】特開平11−279489号公報
【特許文献4】特開平11−343455号公報
【特許文献5】特開平7−11192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、缶の搬送ラインやレトルト水を汚染しにくく、従来よりも高速で搬送される時の搬送性(滑り性)の点で優れ、長距離・長時間輸送時の耐傷つき性にも優れる塗膜を形成し得る缶外面用水性塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)と融点が10〜70℃のワックス(b)とを親水性有機溶剤中に分散してなるワックス共分散体(A)と、融点が70℃超から110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)と四フッ化エチレン系樹脂(c)とを親水性有機溶剤中に分散してなるワックス共分散体(B)と、水溶性ないし水分散性の塗料用樹脂(C)とを含有し、
前記ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)の合計量と、ワックス共分散体(A)及びワックス共分散体(B)由来の合計の前記ワックス(a)の割合が、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜60/40(重量比)であり、
前記ワックス(b)と四フッ化エチレン系樹脂(c)との割合が、(b)/(c)=15/85〜50/50(重量比)であることを特徴とする缶外面用水性塗料組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、塗料用樹脂(C)100重量部に対して、ワックス(a)、ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)を合計で0.5〜5.0重量部含有することを特徴とする上記発明に記載の缶外面用水性塗料組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、親水性有機溶剤が、グリコール系であることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の缶外面用水性塗料組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、塗料用樹脂(C)が、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂及び水溶性もしくは水分散性エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、且つベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂及びフェノール樹脂からなる硬化剤樹脂群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することを特徴とする上記いずれかの発明に記載の缶外面用水性塗料組成物に関する。
【0015】
さらに本発明は、融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)を用いて親水性有機溶剤中に融点が10〜70℃のワックス(b)を分散してワックス共分散体(A)を得、
別途、融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)を用いて親水性有機溶剤中に四フッ化エチレン系樹脂(c)を分散してワックス共分散体(B)を得、
前記ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)の合計量と、ワックス共分散体(A)及びワックス共分散体(B)由来の合計の前記ワックス(a)の割合が、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜60/40(重量比)、
前記ワックス(b)と四フッ化エチレン系樹脂(c)との割合が、(b)/(c)=15/85〜50/50(重量比)となるように、
前記ワックス共分散体(A)及び(B)を、
水溶性ないし水分散性の塗料用樹脂(C)の水性溶液ないし水性分散液に、添加することを特徴とする缶外面用水性塗料組成物の製造方法に関する。
【0016】
さらにまた、本発明は、金属もしくはプラスチックフィルム被覆金属に、上記いずれかの発明に記載の缶外面用水性塗料組成物を塗布し、硬化してなる被覆金属に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水性塗料組成物は、缶外面用水性塗料として必要な要件とされる、ウェットインキ上の塗工適性、塗膜硬度、製缶時の加工性に優れており、また本発明の水性塗料組成物を用いることにより、高速搬送時の滑り性、長距離・長時間輸送時の耐傷つき性にも優れ、且つ、製造設備やレトルト水を汚染することのない塗膜を得ることができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明では、予め作製しておいた2種類のワックス共分散体(A)と(B)とを併用することが重要である。ワックス共分散体(A)及び(B)のいずれにおいても、融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)は分散剤として機能する。
ワックス共分散体(A)は、滑り性に優れ、搬送ライン汚染もなく、カルナウバワックスに比してレトルト水を汚染し難い、ラノリンワックスに代表される比較的低融点のワックス(b)を、前記のワックス(a)によって親水性有機溶剤中に分散したものである。一方、ワックス共分散体(B)は、搬送ラインやレトルト水を汚染しない四フッ化エチレン系樹脂(c)を、前記のワックス(a)によって親水性有機溶剤中に分散したものである。
【0019】
本発明において用いられる融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)は、上記したように、後述するワックス(b)や四フッ化エチレン系樹脂(c)を親水性有機溶剤に分散させるための分散剤として機能する。そのためには、酸価が前記範囲にあることが重要であり、酸価が10〜30(mgKOH/g)の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量は、400〜1000であることが好ましい。
酸価が10未満のワックスでは、後述する比較的低融点のワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)に対する分散剤として機能しない。その結果、ワックス分散体(A)及び(B)それぞれの分散粒子が粗大となる。そして、粗大粒子が含まれているワックス分散体を添加してなる塗料組成物は、ワックスが沈降し易いばかりでなく、粗大粒子に起因する凝集物が塗膜表面にブツとして現れ、美観や潤滑性の低下を引き起こす。
一方、酸価が50を超えるワックスを用いてワックス(b)や四フッ化エチレン系樹脂(c)を親水性有機溶剤中に分散した分散体を使用して塗料を作製し、塗膜を形成すると、塗膜中に残存する過剰な酸の影響によって、レトルト殺菌処理後に塗膜が白化し易くなってしまう。
【0020】
また、酸価が10〜50(mgKOH/g)の範囲にあったとしても、融点が70℃以下のワックスを用いて、ワックス(b)や四フッ化エチレン系樹脂(c)を親水性有機溶剤中に分散した分散体を使用して塗料を作製し、塗膜を形成すると、分散粒子の凝集が起り易くなり、またレトルト処理時のレトルト水の汚染が発生し易くなってしまう。
また、酸価が10〜50(mgKOH/g)の範囲にあったとしても、融点が110℃を超えるワックスは結晶性が強いため、塗膜の熱硬化時やレトルト処理時に十分に溶融流動することができない。そのため、これを用いてワックス(b)や四フッ化エチレン系樹脂(c)を親水性有機溶剤中に分散した分散体が含まれる塗料により塗膜を形成しても、得られる硬化塗膜内部には粗大な粒子が残存してしまい、塗膜の光沢が低下するなどの弊害を生じ易くなる。
従って、分散剤として使用するワックス(a)の融点は、70℃超〜110℃であることが重要であり、75〜100℃であることが好ましい。
【0021】
このような分散剤用のワックス(a)として、酸化型マイクロクリスタリンワックス(酸価:5〜150(mgKOH/g)、融点:70〜96℃、重量平均分子量:450〜1000、以下同様)、モンタン酸ワックス(酸価:15〜160、融点:75〜95℃、重量平均分子量:700〜900)、酸化型ポリエチレンワックス(酸価:19〜25、融点:94〜133℃、重量平均分子量:4000〜8000)等のワックスが挙げられ、酸化型マイクロクリスタリンワックスが好ましい。
【0022】
ワックス共分散体(A)を構成し、前記ワックス(a)によって分散される融点が10〜70℃のワックス(b)としては、蜜蝋、ラノリンワックス、鯨蝋、キャンデリラワックス、木蝋等種々のワックスが挙げられ、融点10〜65℃のものが好ましく、ラノリンワックスが滑り性に優れ、表面が平滑な硬化塗膜を得られやすいという点でより好ましい。
融点10℃未満のワックスは存在しない。また、融点が70℃を超えるものは、それを含む塗料組成物が熱硬化する際に溶融するが、冷却時に2次凝集を引き起こして粗大粒子が生成しやすいため、飲料缶のレトルト処理後に塗膜表面から脱落しやすくなり、それによりレトルト処理設備等を汚染する、いわゆる「ワックス汚染」を引き起こしやすくなってしまう。
【0023】
ワックス共分散体(B)を構成し、前記ワックス(a)によって分散される四フッ化エチレン系樹脂(c)は、融点300〜380℃という高い融点を有するもので、重量平均分子量が150,000〜200,000のものが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0024】
ここで、ワックス共分散体(A)について詳細に説明する。
ワックス共分散体(A)は、前記したワックス(a)を用いて、前記したワックス(b)を親水性有機溶剤中に分散させたものである。
【0025】
ところで、ワックス(a)の代わりに、一般に界面活性剤あるいは乳化剤などと称される比較的低分子量である化合物〔以後、「界面活性剤等」と略す。〕や、乳化作用を示す水酸基あるいはカルボン酸含有樹脂を分散剤として用いて、親水性有機溶剤にワックス(b)を分散すること自体は可能である。
しかし、界面活性剤等を用いてワックス(b)を分散した分散体を使用した場合、レトルト殺菌処理によって、硬化塗膜が白化するという弊害を生じる。その機構としては、界面活性剤等が水分を取り込み、その水分がレトルト処理終了後に塗膜から脱離できず、目視的に白く観察されるものと考えられる。
また、乳化作用を示す、水酸基あるいはカルボン酸含有樹脂を用いてワックス(b)を分散した分散体を使用した場合、乳化作用を示す前記分散剤用樹脂が、塗膜の硬化過程において、塗膜を構成する主要な成分である後述の塗料用樹脂(C)に取り込まれてしまうことにより、ワックス(b)が塗膜の表面近傍に偏在しにくくなって、得られる塗膜の滑り性が不十分となってしまう。さらに、ワックス分散体の製造時に分散液が泡立ちやすくなり、該分散液を使用して得られる塗料組成物の泡消えも悪くなるため、残存する気泡の影響により硬化塗膜表面が平滑性に劣ってしまい、光沢や滑り性、耐傷付き性の低下を引き起こしやすい。
従って、界面活性剤等や、乳化作用を示す、水酸基あるいはカルボン酸含有樹脂ではなく、分散剤としてワックス(a)を用いて親水性有機溶剤にワックス(b)を分散させることが重要である。
【0026】
ワックス共分散体(A)を得る際に用いられる親水性有機溶剤とは、水と容易に混合する有機溶剤であり、水に対する溶解性(wt%)が6〜100wt%の範囲である。このような親水性有機溶剤としては、アルコール系とグリコール系の有機溶剤を好ましく挙げることができる。アルコール系有機溶剤としては、具体的には、メタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール、アミルアルコール、メチルアミルアルコール、アリルアルコール等を挙げることができる。その中で水と容易に混合するものとして、メタノール、アリルアルコール、n−プロパノール、イソプロパノール等が挙げられるが、これらは沸点が100℃未満であり、引火しやすいという懸念がある。
また、グリコール系親水性有機溶剤としては、具体的に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルプロピレングリコール、プロピルプロピレングリコール、ブチルプロピレングリコール等を挙げることができる。
本発明でワックス共分散体を製造する為に使用する親水性有機溶剤としては、前記アルコール類に比して引火点が高く、水性樹脂と容易に混合し、溶剤臭気の低減化や、下地の印刷に使用される金属インキに対する相溶性に優れるという点で、グリコール系親水性有機溶剤が最も好ましい。
昨今の環境衛生問題に対する関心の高まりや、非危険物化という観点を踏まえると、本発明で使用する親水性有機溶剤の沸点あるいは引火点は高い方が好ましく、かつ使用量も極力少なくすることが好ましい。
【0027】
ワックス共分散体(A)は、例えば以下のようにして得ることができるが、その製造方法はこれらに限定されるものではない。
加熱可能な容器中にて、別々にワックス(a)と(b)を、各融点+20℃以上の温度まで加熱させ、溶解ワックスをそれぞれ作製する。次いで、溶解したワックス(b)中に溶解したワックス(a)を徐々に添加、攪拌して両者の混合ワックスを作製した後、デスパー等により高速撹拌されている、密閉可能な容器中にあらかじめ仕込んでおいた親水性有機溶剤中に、上記混合ワックスを徐々に添加し分散することにより、平均粒子径が5〜30μmである白色のワックス共分散体(A)を得ることができる。
【0028】
このようにして得られるワックス共分散体(A)は、ワックス(b)とワックス(a)とを、(b)/(a)=90/10〜60/40の重量比で含有することが好ましく、(b)/(a)=85/15〜70/30の重量比で含有することがより好ましい。また、分散体を構成している分散粒子の平均粒子経は、3〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。分散体を構成している分散粒子においては、その存在形態は明確ではないが、ワックス(a)がシェル部を形成し、コア部であるワックス(b)の周囲を取り囲んだ状態で存在すると考えられる。
(b)の重量比が90を超えた場合、ワックス(b)を分散させるための分散助剤であるワックス(a)が不足する結果、ワックス(b)が凝集しやすくなり、これを用いて作製した水性塗料においては、塗装後の塗膜欠陥(ブツ状)が発生しやすくなる。一方、(b)の重量比が60未満の場合、特に滑り性に有効なワックス(b)を必要量配合することが困難となり、結果として得られる塗膜の滑り性が発現しにくい。
また、分散粒子の平均粒子径が30μmを超えた場合、粗大粒子が分散体液中に存在することで、これを用いて作製した塗料においてワックスが沈降したり、塗装後の塗膜表面で塗膜欠陥(ブツ状)が発生しやすい。一方、平均粒子径が3μm未満の場合、ワックス共分散体を用いて得られる水性塗料が塗装されて硬化する際に、ワックス成分が塗膜の表面近傍に偏在しにくくなり、十分な滑り性が得られなくなる。
【0029】
次に、ワックス共分散体(B)について詳細に説明する。
ワックス共分散体(B)は、前記ワックス(a)を用いて、前記四フッ化エチレン系樹脂(c)を親水性有機溶剤中に分散させたものであり、ワックス(a)と四フッ化エチレン系樹脂(c)との共分散体である。
分散媒として使用する親水性有機溶剤に関しては、ワックス共分散体(A)の場合と同様である。
【0030】
ワックス共分散体(B)は、例えば以下のようにして得ることができるが、その製造方法はこれらに限定されるものではない。
加熱可能な容器中にて、ワックス(a)を融点+20℃以上の温度まで加熱させ、溶解
ワックスを作製する。その中へ四フッ化エチレン系樹脂(c)を徐々に添加して攪拌し、両者の混合物を予め作製する。次にデスパー等により高速撹拌されている、密閉可能な容器中にあらかじめ仕込んでおいた親水性有機溶剤中に、上記混合物を徐々に添加し、分散することにより、平均粒子径が15〜30μmである白色のワックス共分散体(B)を得ることができる。
【0031】
このようにして得られるワックス共分散体(B)は、四フッ化エチレン系樹脂(c)とワックス(a)とを、(c)/(a)=90/10〜60/40の重量比で含有することが好ましく、(c)/(a)=80/20〜70/30の重量比で含有することがより好ましい。また、分散体を構成している分散粒子の平均粒子経は、10〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることがより好ましい。分散体を構成している分散粒子においては、その存在形態は明確ではないが、四フッ化エチレン系樹脂(c)の周囲をワックス(a)が取り囲んだ状態で存在すると考えられる。
(c)の重量比が90を超えた場合、四フッ化エチレン系樹脂(c)を分散させるための分散助剤であるワックス(a)が不足する結果、四フッ化エチレン系樹脂(c)が凝集しやすくなり、ワックス共分散体およびそれを用いて作製した水性塗料において沈降しやすくケーキングする可能性がある。また、塗装後の塗膜欠陥(ブツ状)も発生しやすい。一方、(c)の重量比が60未満の場合、特に耐傷付き性に有効な四フッ化エチレン系樹脂(c)を必要量配合することが困難となり、結果として得られる塗膜の耐傷付き性が発現しにくい。
また、分散粒子の平均粒子径が30μmを超えた場合、粗大粒子が分散体液中に存在することで、これを用いて作製した塗料においてワックスが沈降したり、塗装後の塗膜表面で塗膜欠陥(ブツ状)が発生しやすい。一方、平均粒子径が10μm未満の場合、親水性有機溶剤中で膨潤していた四フッ化エチレン系樹脂(c)が、塗膜の焼き付け工程において乾燥、収縮して過度に微細化されるため、塗膜の内部に潜り込んでしまい、表面近傍に存在しにくくなるため、塗膜の耐傷付き性が不足する可能性がある。
【0032】
次に、水溶性ないし水分散性の塗料用樹脂(C)について詳細に説明する。
水溶性ないし水分散性の塗料用樹脂(C)は、本発明の塗料組成物中において、塗膜形成成分の内最も多くの重量を占める、主たる成分であり、強靭な連続硬化塗膜を形成する機能を担うものである。
水溶性ないし水分散性の塗料用樹脂(C)の種類としては、特に限定されるものではないが、従来から缶外面用水性塗料組成物に用いられている水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性もしくは水分散性エポキシ樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂を用いることが好ましい。より具体的には、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂及び水溶性もしくは水分散性エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、且つベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂及びフェノール樹脂からなる硬化剤樹脂群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することがより好ましい。
【0033】
塗料用樹脂(C)は、水を必須成分とし、必要に応じて親水性有機溶剤を含有する液状媒体(以下「水性媒体」ともいう)中に溶解ないし分散された態様としておき、この水性溶液ないし水性分散液にワックス共分散体(A)、(B)を添加することにより塗料組成物を得ることが好ましい。塗料用樹脂(C)としてカルボン酸を有する樹脂を用いる場合には、アミン類やアンモニア等の塩基性化合物を用いて、水性媒体中に溶解ないし分散させることができる。
塗料用樹脂(C)の水性溶液ないし水性分散液は、不揮発分20〜60%であることが好ましく、40〜55%であることがより好ましい。
塗料用樹脂(C)の水性溶液ないし水性分散液中に含まれる親水性有機溶剤量は、全揮発分中の1〜40%であることが好ましく、5〜20%であることがより好ましい。環境汚染問題等を考慮すると、可能な限り有機溶剤量の含有量を低減することが好ましい。
【0034】
本発明の塗料組成物は、ワックス共分散体(A)、ワックス共分散体(B)及び塗料用樹脂(C)を含有するものであって、ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)の合計量と、ワックス共分散体(A)及びワックス共分散体(B)由来の合計のワックス(a)の割合が、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜60/40(重量比)であり、ワックス(b)と四フッ化エチレン系樹脂(c)との割合が、(b)/(c)=15/85〜50/50(重量比)であることが重要である。
ワックス(a)は、ワックス(b)、四フッ化エチレン系樹脂(c)を分散する機能を担うので、(a)、(b)、(c)の合計を100重量%とした内、ワックス(a)が20重量%よりも少なくなると、ワックス共分散体(A)及び/または(B)の分散状態が不安定になるばかりでなく、両分散体を含有する塗料組成物としての安定性も著しく損なわれ、凝集物、沈降物等が発生しやすくなる。
一方、ワックス(a)が40重量%よりも多くなると、ワックス(b)、四フッ化エチレン系樹脂(c)の配合量が相対的に減少することになるため、目標とする塗膜性能(高速搬送時の滑り性、耐傷付き性)が得られなくなる。
従って、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜60/40(重量比)であることが重要であり、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜70/30(重量比)であることが好ましい。
【0035】
また、四フッ化エチレン系樹脂(c)は、ワックス(b)に比して等量以上あることが重要である。(b)と(c)の合計を100重量%とした内、四フッ化エチレン系樹脂(c)が50重量%よりも少ないと、目標とする塗膜性能(特に長距離輸送時の耐傷付き性)が得られなくなる。
一方、四フッ化エチレン系樹脂(c)が85重量%よりも多いと、得られる塗料組成物においてワックス層が沈降しやすくなり、ワックス等の凝集の発生がおこりやすくなるため好ましくない。
従って、(b)/(c)=15/85〜50/50(重量比)であることが重要であり、(b)/(c)=30/70〜50/50(重量比)であることが好ましい。
【0036】
また、本発明の塗料組成物は、塗料用樹脂(C)100重量部に対して、ワックス(a)、ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)を合計で0.5〜5.0重量部含有することが好ましく、1.0〜4.0重量部含有することがより好ましい。
0.5重量部よりも少ないと、塗膜に滑り性を付与したり、塗膜の傷付きを防止する効果がほとんど期待できない。一方、5.0重量部よりも多いと、得られる塗膜表面にワックスないしは四フッ化エチレン系樹脂が過剰に偏在し、外的圧力により脱落しやすくなり、結果として缶を搬送するラインのガイドや、缶加工時のツールにそれらが堆積し、汚染しやすくなるため好ましくない。
【0037】
本発明の缶外面用水性塗料組成物は、缶の外面構成用の金属上や、プラスチックフィルム被覆金属上に塗布し、硬化させ、被覆された金属を得るために好適に用いられる。本来の目的である金属の表面保護や、缶搬送性の確保等に加えて、外観上透明感と高光沢を満たす必要性がある。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により更に詳述するが、これらに限定されるものではない。なお、実施例中、部とは重量部を、%とは重量%をそれぞれ表す。
【0039】
(製造例1):水性アクリル樹脂(C−1)溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコにブチルセロソルブ100部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ攪拌しながら105℃に昇温し、滴下槽からスチレン30部、エチルアクリレート20部、ブチルアクリレート10部、2ヒドロキシエチルアクリレート10部、メチルメタクリレート20部、アクリル酸10部からなる混合物100部に過酸化ベンゾイル5部を溶解させたものを3時間にわたって滴下した。その後、105℃に保ち1時間反応し、過酸化ベンゾイル0.5部を添加し、更に1時間反応させて終了した。これを減圧下100℃で、ブチルセロソルブを不揮発分83%になるまで留去し、その後ジメチルエタノールアミン14.6部と水を入れ、不揮発分50%、残留ブチルセロソルブ10%の透明で粘稠な水性アクリル樹脂(C−1)溶液を得た。
水性アクリル樹脂(C−1)の重量平均分子量は20000、ガラス転移温度(Tg)は50℃であった。
【0040】
(製造例2):水性ポリエステル樹脂(C−2)溶液の製造
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコに、無水フタル酸12.0部、アジピン酸48.0部、エチレングリコール25.0部を仕込み、210℃に加熱し、エステル化反応をおこなった。酸価が5以下になった時点で冷却を開始し、170℃においてブチルセロソルブ93部を添加し、冷却後、不揮発分50%、水酸基価45、重量平均分子量が2000、酸価が50(mgKOH/g)である透明状の粘稠なポリエステル樹脂(C−2)溶液を得た。
【0041】
(製造例3):アクリル樹脂(C−3)溶液の製造
(1)スチレン 105.0部
(2)アクリル酸エチル 105.0部
(3)メタクリル酸 90.0部
(4)過酸化ベンゾイル 6.0部
(5)nブタノール 100.0部
(6)nブタノール 592.8部
(7)過酸化ベンゾイル 0.6部
(8)過酸化ベンゾイル 0.6部
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコに上記(6)を仕込み、窒素ガスを導入しつつ攪拌しながら110℃に昇温し、滴下層から(1)〜(5)の混合液を110℃で3時間に渡って滴下した。その後、110℃に保ち1時間反応し、(7)を添加し、更に1時間反応させて(8)を添加し、同温度で1時間保持して反応を終了させ、不揮発分30%のアクリル樹脂(C−3)溶液を得た。水性アクリル樹脂(C−3)の重量平均分子量は20000、ガラス転移温度(Tg)は65℃であった。
【0042】
(製造例4):酸化型マイクロクリスタリンワックスとラノリンワックスとの共分散体(A−1)の製造
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコに、酸化型マイクロクリスタリンワックス(*1)4部を仕込み窒素気流下で撹拌しながら120℃に加熱し溶融させた。その中に予め別容器で70℃に加熱し溶融させたラノリンワックス(*2)16部を添加して、溶融物を混合した。
その後、別の容器に仕込んだブチルセロソルブ80部をディスパーにて撹拌速度600RPMで高速攪拌しつつ、この中に前記のワックス混合溶融物を徐々に添加し、不揮発分20%である酸化型マイクロクリスタリンワックスとラノリンワックスとの共分散体(A−1)を得た。
このワックス共分散体の分散粒子の、光散乱法による平均粒子径は20μmであった。また、得られた分散体を37℃で3ヶ月保存したが、外観上の変化は認められなかった。
(*1):酸化型マイクロクリスタリンワックスは東洋ペトロライト社製「カーディス320」使用。融点は91℃、酸価は36(mgKOH/g)、重量平均分子量は約1000。
(*2):ラノリンワックスはクローダジャパン(株)社製商品名「コロネット」使用。融点は42〜55℃。
【0043】
(製造例5):酸化型マイクロクリスタリンワックスとラノリンワックスとの共分散体(A−2)の製造
「コロネット」12部、「カーディス320」8部とした以外は製造例4と同様にして、不揮発分20%、平均粒子径15μmのワックス共分散体(A−2)を得た。
【0044】
(製造例6):酸化型マイクロクリスタリンワックスとラノリンワックスとの共分散体(A−3)の製造
「コロネット」4部、「カーディス320」16部とした以外は製造例4と同様にして、不揮発分20%、平均粒子径12μmのワックス共分散体(A−3)を得た。
【0045】
(製造例7):酸化型マイクロクリスタリンワックスと四フッ化エチレン系樹脂との共分散体(B−1)の製造
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコに、「カーディス320」4部を仕込み窒素気流下で撹拌しながら120℃に加熱し溶融させた。その中に四フッ化エチレン系樹脂(*3)16部を添加して混合した。
その後、別の容器に仕込んだブチルセロソルブ80部をディスパーにて撹拌速度600RPMで高速攪拌しつつ、この中に前記の「カーディス320」と四フッ化エチレン系樹脂の混合物を徐々に添加し、不揮発分20%、平均粒子径20μmのワックス共分散体(B−1)を得た。また、得られた分散体を37℃で3ヶ月保存したが、外観上の変化は認められなかった。
(*3):四フッ化エチレン系樹脂はエレメンティスジャパン社製「スリップエイド SL903」使用。融点321℃。平均粒子径3μm。
【0046】
(製造例8):酸化型マイクロクリスタリンワックスと四フッ化エチレン系樹脂との共分散体(B−2)の製造
「スリップエイド SL903」12部、「カーディス320」8部とした以外は製造例7と同様にして、不揮発分20%、平均粒子径20μmのワックス共分散体(B−2)を得た。
【0047】
(製造例9):酸化型マイクロクリスタリンワックスと四フッ化エチレン系樹脂との共分散体(B−3)の製造
「スリップエイド SL903」4部、「カーディス320」16部とした以外は製造例7と同様にして、不揮発分20%、平均粒子径15μmのワックス共分散体(B−3)を得た。
【0048】
(製造例10):ラノリンワックスの分散体(D−1)の製造
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコに、「コロネット」20部を入れ、窒素気流下で攪拌しながら70℃に加熱し、溶融した。
その後、別の容器に仕込んだブチルセロソルブ80部をディスパーにて撹拌速度600RPMで高速攪拌しつつ、この中に前記の「コロネット」溶融物を徐々に添加し、不揮発分20%のワックス分散体(D−1)を得た。このワックス分散体の分散粒子の光散乱法による平均粒子径は50μmであり、目視にてワックスの凝集が多く見られた。
【0049】
(製造例11):酸化型マイクロクリスタリンワックスの分散体(D−2)の製造
ラノリンワックスである「コロネット」の代わりに、酸化型マイクロクリスタリンワックスである「カーディス320」20部を用い、115℃で加熱溶融した以外は製造例10と同様にして、不揮発分20%のワックス分散体(D−2)を得た。このワックス分散体の分散粒子の光散乱法による平均粒子径は10μmであった。
【0050】
(製造例12):四フッ化エチレン系樹脂の分散体(D−3)の製造
容器に仕込んだブチルセロソルブ80部をディスパーにて撹拌速度600RPMで高速攪拌しつつ、この中に四フッ化エチレン系樹脂である「スリップエイド SL903」20部を徐々に添加し、不揮発分20%の分散体(D−3)を得た。この分散体の分散粒子の光散乱法による平均粒子径は35μmであった。
【0051】
(製造例13):カルナウバワックスの分散体(D−4)の製造
カルナウバワックス(*4)20部と、製造例1において得られた水性アクリル樹脂(C−1)溶液を80部を四ツ口フラスコに投入し、120℃で加熱溶解した。温度140℃にて7時間反応した後、液温を80℃まで下げてジエチルエタノールアミンを4部添加して反応生成物を中和した。この中和物にステアリン酸石鹸を10部添加後、95℃の水236部を30分かけて徐々に添加して不揮発分20%のワックス分散体(D−4)を得た。このワックス分散体の分散粒子の光散乱法による平均粒子径は10μmであった。
(*4):カルナウバワックスは野田ワックス社製「精製カルナウバワックスNo.1」使用。融点80〜84℃。
【0052】
(製造例14):カルナウバワックスの分散体(D−5)の製造
カルナウバワックスである「精製カルナウバワックスNo.1」20部を、分散剤であるホモゲノールL−1820(花王(株)製)5部を溶解したイソプロパノール75部の中に投入し、液温を30℃以下に保った状態で30分攪拌し、ワックスを均一に分散させ不揮発分20%のワックス分散体(D−5)を得た。このワックス分散体の分散粒子の光散乱法による平均粒子径は2μmであった。
【0053】
(製造例15):カルナウバワックスとラノリンワックスの共分散体(D−6)の製造
(1)「精製カルナウバワックスNo.1」(融点80〜84℃)70.0部
(2)「コロネット」(融点42〜55℃) 30.0部
(3)アクリル樹脂(C−3)溶液 6.7部
(4)ジメチルエタノールアミン 3.1部
(5)イオン交換水 863.6部
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコ(F1)に上記(1)〜(3)を仕込み、窒素ガスを導入しつつ攪拌しながら90℃に昇温し混合溶解した。別の四ツ口フラスコ(F2)に上記(4)〜(5)を仕込み90℃に加熱し、攪拌速度600rpmで攪拌しながら前記フラスコ(F1)内の溶液を徐々にフラスコ(F2)中に添加した。添加終了後、そのまま攪拌しながら40℃以下まで冷却し、不揮発分10.7%のワックス共分散体(D−6)を得た。このワックス水性分散体の分散粒子の光散乱法による平均粒子径は0.3μmであった。
【0054】
(製造例16):カルナウバワックスとポリエチレンワックスの共分散体(D−7)の製造
(1)「精製カルナウバワックスNo.1」(融点80〜84℃) 20.0部
(2)酸化型ポリエチレンワックス(融点110℃) 80.0部
(3)ジメチルエタノールアミン 2.1部
(4)ブチルセロソルブ 436.8部
(5)イオン交換水 436.8部
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた四ツ口フラスコ(F1)に上記(1)〜(2)を仕込み、窒素ガスを導入しつつ攪拌しながら120℃に昇温し混合溶融した。別の四ツ口フラスコ(F2)に上記(3)〜(5)を仕込み90℃に加熱し、攪拌速度600rpmで攪拌しながら前記フラスコ(F1)内の溶液を徐々にフラスコ(F2)中に添加した。添加終了後、そのまま攪拌しながら40℃以下まで冷却し、不揮発分11.0%のワックス共分散体(D−7)を得た。このワックス水性分散体の分散粒子の光散乱法による平均粒子径は9.2μmであった。
【0055】
(製造例17):酸化型マイクロクリスタリンワックスとカルナウバワックスとの共分散体(D−8)の製造
製造例4において、70℃で加熱し溶融させたラノリンワックスの代わりに、100℃で加熱し溶融させた「精製カルナウバワックスNo.1」16部を用いた以外は製造例4と同様にして、不揮発分20%、平均粒子径10μmのワックス共分散体(D−8)を得た。
【0056】
[実施例1]
製造例1で得られた水性アクリル樹脂溶液(C−1):不揮発分として30部、製造例2で得られた水性ポリエステル樹脂(C−2)溶液:不揮発分として20部、ベンゾグアナミン樹脂(*5):不揮発分として50部を混合し、さらに製造例4で得られたワックス共分散体(A−1)を、不揮発分として0.3部、製造例8で得られたワックス共分散体(B−1)を、不揮発分として0.3部を添加した。更に水及びブチルセロソルブを添加して不揮発分が50%、有機溶剤量が全揮発分中の25%になるように調整し、その後、これに、p−トルエンスルフォン酸アミン塩:0.2部、レベリング剤を0.3部添加して水性塗料を得た。
(*5): ベンゾグアナミン樹脂は三井サイテック社製「サイメル1123」(不揮発分98%)を使用。
【0057】
[実施例2]〜[実施例10]、[比較例1]〜[比較例11]
実施例1と同様にして、表1〜2に示した配合表に従って配合し、水性塗料を得た。
表中、ワックスないしは四フッ化エチレン系樹脂分散体の配合量については、各配合成分中の有効成分量として表記した。
得られた各水性塗料について、以下に述べる方法により試験をおこなった。試験結果を表3に示す。
【0058】
<塗料安定性>
得られた各水性塗料を40℃の恒温器に保存し、3ヶ月経過後に外観性状と凝集物の有無を確認した。
○・・・・異常なし。
△・・・・ワックス沈降多い。
×・・・・凝集物が発生した。
【0059】
<塗膜性能評価>
各水性塗料を、厚さ0.26mmの表面処理アルミ板にロールコート塗装により、乾燥膜厚が5μmになるように塗装し、ガスオーブンにより雰囲気温度200℃にて4分間焼付け、試験パネルを作成した。
各試験パネルについて、塗膜の諸物性を評価した。結果を表3に示す。表3における各種の試験方法は下記の通りである。
【0060】
(1)滑り性試験(低速):鋼球3点により支持された重さ1kgの重りを、塗膜上を150cm/分の速度で引っ張り、塗膜表面の動摩擦係数を算出した。
(2)滑り性試験(高速):鋼球3点により支持された重さ1kgの重りを、塗膜上を300cm/分の速度で引っ張り、塗膜表面の動摩擦係数を算出した。
【0061】
(3)耐傷付き性試験(引っ掻き試験):引っ掻き試験機にて、引っ掻き用サファイア針(100μm)を用いて速度300mm/分にて所定の荷重を掛けて塗膜表面を引っ掻き、塗膜に傷が発生した時の荷重(g)により評価した。
(4)耐傷付き性試験(振動塗膜磨耗試験):市販飲料缶(350ml缶)の胴部に、試験パネルを縦10cm×横20cmの寸法で貼り付け両端をテープで止め固定させた。円筒状の内径65mmのダンボール製筒の中に上記試験パネル固定缶を挿入し、スキャンデックス(振動数10Hz、振幅5cm条件)を用いて、上記の試験パネル固定缶が挿入されたダンボール製筒を、筒の方向に振動させた。振動後の試験パネルの塗膜傷付き程度を目視にて評価した。
なお、振動時間が5分間の試験を「短時間振動」、振動時間が40分の試験を「長時間振動」とした。
○ ・・・塗膜に全く傷が発生しない。
○〜△・・・塗膜に軽微な傷が発生する。
△ ・・・塗膜にやや大きな傷が発生する。
△〜×・・・塗膜に大きな傷が発生する。
× ・・・塗膜に極めて大きな傷が発生し、塗膜が剥離する。
【0062】
(5)耐磨耗性試験:学振型堅牢度試験機で荷重を300g条件にて対面が本評価用同塗膜として、100往復擦り、耐磨耗性を評価した。
○ ・・・全く塗膜が磨耗していない。
○〜△・・・わずかに塗膜が磨耗する。
△ ・・・少し塗膜が磨耗する。
△〜×・・・かなり塗膜が磨耗する。
× ・・・完全に塗膜が磨耗する。
【0063】
(6)塗膜表面状態:試験パネルの塗膜表面の曇りと、ブツ(凝集物)の有無を目視で観察した。塗膜の曇りおよびブツのないものを合格とした。
【0064】
(7)ワックス転移性:試験パネル(幅20cm×長さ30cm)の塗膜表面に、有色ポリエチレン製シート(2×2cm)を塗膜に接触させ、荷重100gを掛けつつ、20回往復させた。塗膜上の試験箇所を5箇所変更することにより合計100往復させて、シートに付着した転移物質の量を目視および秤量により評価した。
○・・・転移物無し(重量0.1mg未満)
△・・・転移物有り(重量0.1mg以上1mg未満)
×・・・転移物多い(重量1mg以上)
【0065】
(8)耐水性試験:試験パネルを、加圧下にて130℃の熱水中に30分間浸漬し、塗膜の異常の有無を目視判定する。
○:異常なし
△:軽微な異常あるが実用域内
×:異常有り(塗膜白濁及びブリスター発生)
【0066】
(9)水抽出試験:試験パネル(幅20cm×長さ30cm)を17枚用意し、それぞれを幅5cm×長さ15cmの短冊状にカットする。すべてのカットされた試料を4つ折りに曲げて、3Lフラスコに入れ、水2Lを入れて、125℃−30分レトルト処理を行う。処理後の抽出液をエバポレーターで50℃にて減圧濃縮し、濃縮液を蒸発乾固させて乾固物を秤量した。
○・・・乾固物200mg未満
△・・・乾固物200mg以上500mg未満
×・・・乾固物500mg以上
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
以上に述べたように、本発明の塗料組成物により、耐磨耗性、耐傷付き性、表面滑性、ワックス転移防止に対し優れた塗膜を得ることができるようになった。特に表面滑性に寄与するラノリンワックスのような低融点のワックス(b)、耐摩耗性に寄与する四フッ化エチレン系樹脂(c)をそれぞれ特定の酸価及び融点を有するワックス(a)によって共分散しておくことによって、分散安定性に優れる、ワックス共分散体(A)、(B)及びそれらを用いた塗料を得ることができた。その結果、塗料を長期間保存してもワックス等の凝集に由来する凝集物も発生せず、得られる塗膜の表面状態も非常に良好である。
これにより、飲料缶等の製造時及び輸送時の缶搬送性の向上と耐傷付き性の確保及び搬送ガイド部のワックス堆積を防止できる等、工業上多くの優れた効果がもたらされる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)と融点が10〜70℃のワックス(b)とを親水性有機溶剤中に分散してなるワックス共分散体(A)と、融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)と四フッ化エチレン系樹脂(c)とを親水性有機溶剤中に分散してなるワックス共分散体(B)と、水溶性ないし水分散性の塗料用樹脂(C)とを含有し、
前記ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)の合計量と、ワックス共分散体(A)及びワックス共分散体(B)由来の合計の前記ワックス(a)の割合が、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜60/40(重量比)であり、
前記ワックス(b)と四フッ化エチレン系樹脂(c)との割合が、(b)/(c)=15/85〜50/50(重量比)であることを特徴とする缶外面用水性塗料組成物。
【請求項2】
塗料用樹脂(C)100重量部に対して、ワックス(a)、ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)を合計で0.5〜5.0重量部含有することを特徴とする請求項1記載の缶外面用水性塗料組成物。
【請求項3】
親水性有機溶剤が、グリコール系であることを特徴とする請求項1又は2記載の缶外面用水性塗料組成物。
【請求項4】
塗料用樹脂(C)が、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂及び水溶性もしくは水分散性エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、且つベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂及びフェノール樹脂からなる硬化剤樹脂群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の缶外面用水性塗料組成物。
【請求項5】
融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)を用いて親水性有機溶剤中に融点が10〜70℃のワックス(b)を分散してワックス共分散体(A)を得、
別途、融点が70℃超〜110℃、酸価が10〜50(mgKOH/g)のワックス(a)を用いて親水性有機溶剤中に四フッ化エチレン系樹脂(c)を分散してワックス共分散体(B)を得、
前記ワックス(b)及び四フッ化エチレン系樹脂(c)の合計量と、ワックス共分散体(A)及びワックス共分散体(B)由来の合計の前記ワックス(a)の割合が、[(b)+(c)]/(a)=80/20〜60/40(重量比)、
前記ワックス(b)と四フッ化エチレン系樹脂(c)との割合が、(b)/(c)=15/85〜50/50(重量比)となるように、
前記ワックス共分散体(A)及び(B)を、
水溶性ないし水分散性の塗料用樹脂(C)の水性溶液ないし水性分散液に、添加することを特徴とする缶外面用水性塗料組成物の製造方法。
【請求項6】
金属もしくはプラスチックフィルム被覆金属に、請求項1ないし4いずれか記載の缶外面用水性塗料組成物を塗布し、硬化してなる被覆金属。



【公開番号】特開2007−9097(P2007−9097A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193459(P2005−193459)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】