説明

翼形部及び翼形部前縁を保護する方法

【課題】翼形部を開示する。
【解決手段】本翼形部は、翼弦長を形成した凹面形正圧側面(70)及び凸面形負圧側面(72)と前縁(74)及び後縁(76)とを有する。前縁保護ストリップ(80)は、前縁(74)と該前縁(74)から下流方向に後縁(76)に向かった翼形部の正圧側面(70)及び負圧側面(72)のそれぞれの所定の部分とに対して接合材層(82)によって付着されかつそれらを保護被覆する。前縁保護ストリップ(80)によって被覆された負圧側面(72)の所定の部分は、該前縁保護ストリップ(80)によって被覆された正圧側面(70)の所定の部分よりも少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願に開示した主題は、総括的には圧縮機翼形部及び翼形部前縁を保護する方法に関し、より具体的には、金属前縁ストリップを有する複合材料ファンブレード及びステータベーンに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの最新式タービンエンジンファンブレード及びステータベーンは、複合材積層体又は成形繊維で構成されている。これらは、ジョイント・ストライク・ファイタ(JSF)F136型エンジン及び有名なCF6−80C2型高バイパスエンジンに含まれる。エンジンの過酷な環境内でのベーン材料の腐食は、ベーンの前縁の周りに巻かれかつ負圧及び正圧側面の両方の大きな割合を被覆するV字形状保護金属ストリップによって防止される。先行技術の構造では、金属前縁ストリップを取付けることは、主として該金属ストリップをベーンに接合する接着剤層の厚さの均一性を制御する難しさ故に、困難である。最新式翼形部の前縁は、比較的尖っており、前縁への金属ストリップの取付けは精密でない。
【0003】
複合材ステータベーンでの経験によると、腐食防止のために翼形部の前縁に接合された薄い金属ストリップは、エンジン運転中に脱離した状態になる可能性があることが分かっている。脱離は一般的に、運転中における高温での金属ストリップとブレード又はベーンの複合材料との間の歪み不整合によって生じた接合不良によるものである。前縁ストリップの脱離は、エンジン流路の下流に設置された翼形部及びその他のエンジン構成部品に対して容認できないドメスチックオブジェクト損傷(DOD)を発生させる可能性がある。
【0004】
接合一体性を制御する上での重要な要素は、複合材料と金属ストリップとの間でのコンプライアント層として作用して歪み不整合を吸収する接合材料の能力である。脱離が発生すると、現行の前縁ストリップの構造では、脱離したストリップ破片の大きさを制御することが可能でなくて、比較的大きな不規則形状の金属材料の下流方向への吸込み及びそれによるエンジン損傷の可能性を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、翼形部前縁からの保護前縁ストリップの脱離を防止し、また万一脱離が発生した場合には下流側エンジン構成部品に対する損傷を最少にする必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様によると、翼形部を提供し、本翼形部は、翼弦長を形成した凹面形正圧側面及び凸面形負圧側面と前縁及び後縁とを備えた翼形部本体を含む。前縁保護ストリップは、前縁と該前縁から下流方向に後縁に向かった翼形部本体の正圧側面及び負圧側面のそれぞれの所定の部分とに対して接合材層によって付着されかつそれらを保護被覆する。前縁保護ストリップによって被覆された負圧側面の所定の部分は、該前縁保護ストリップによって被覆された正圧側面の所定の部分よりも大幅に少ない。
【0007】
本発明の別の態様によると、翼形部の前縁を保護する方法を提供し、本方法は、翼弦長を形成した凹面形正圧側面及び凸面形負圧側面と前縁及び後縁とを備えた翼形部本体を準備する段階と、前縁と該前縁から下流方向に後縁に向かった翼形部本体の正圧側面及び負圧側面のそれぞれの所定の部分とに対してかつそれらを保護被覆するように前縁保護ストリップを、該前縁保護ストリップによって被覆された負圧側面の所定の部分が、該前縁保護ストリップによって被覆された正圧側面の所定の部分の1/3よりも大きくないように付着させる段階とを含む。
【0008】
本発明の幾つかの態様を上に記載した。本発明のその他の態様は、以下の図面と共に本発明の説明を読み進めることにより明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に図1を参照すると、ガスタービンエンジン10を概略的に示しており、エンジン10は、低圧圧縮機12、高圧圧縮機14及び燃焼器16を含む。エンジン10はまた、高圧タービン18及び低圧タービン20を含む。圧縮機12及びタービン20は、第1のシャフト24によって結合され、また圧縮機14及びタービン18は、第2のシャフト26によって結合される。
【0010】
運転中に、空気は、低圧圧縮機12を通って流れ、加圧されかつ該低圧圧縮機12から高圧圧縮機14に供給される。高度に加圧された空気は、下流方向に燃焼器16に送給され、該燃焼器16において、空気は燃料と混合されかつ点火される。燃焼器16からの燃焼空気/ガス混合気は、タービン18及び20を駆動する。
【0011】
図2に示すように、高圧圧縮機組立体14は、複数の段を含み、各段は、半径方向に延びるロータブレード40の列と半径方向に延びるステータベーン組立体44の列とを含む。この例示的な実施形態では、ロータブレード40は、ロータディスク46によって支持され、またロータシャフト26に結合される。ロータシャフト26は、圧縮機14の周りで円周方向に延びかつステータベーン組立体44を支持したケーシング50によって囲まれる。
【0012】
図2に示す例示的な実施形態では、少なくとも入口案内ベーン組立体44は、ステータベーン52を含み、ステータベーン52は、ベーンプラットフォーム56からほぼ垂直方向に延びる半径方向外側ベーンステム又はスピンドル54を含む。各スピンドル54は、ケーシング50内に形成されたそれぞれの開口部58を貫通して延びてそれぞれのベーン52をケーシング50に結合するのを可能にする。ケーシング50は、複数の開口部58を含む。レバーアーム60は、各可変ベーン52から延びかつ該ベーン52を選択的に回転させるために利用されて、流路に対するベーン52の配向を変更して圧縮機14を通る空気流量の制御を高めるのを可能にする。この出願に開示した本発明は、ベーン又はブレードが可変ピッチになっているか否かに関係なくベーン及びブレードに対して使用することができる。現在のところ、圧縮機14における翼形部温度は一般的に、本発明の実施形態による前縁ストリップ80を備えたものとして示した入口案内ステータベーン52を別にすれば、公知の複合材料で製作したベーンには高温過ぎる。以下説明するようなあらゆる1つ又はそれ以上のベーンに対する金属前縁保護ストリップは、更なる進歩として複合材料ベーンを圧縮機全体にわたって実施可能にすることができるので、本発明の技術的範囲内であると考えられる。
【0013】
図3及び図4において最もよく示すように、ステータベーン52は、公知の種類の高分子複合材で形成された翼形部本体を含み、翼形部本体は、翼弦長を形成した凹面形正圧側面70及び凸面形負圧側面72(図4参照)と前縁74及び後縁76とを有する。
【0014】
前縁保護ストリップ80は、前縁74と該前縁74から下流方向に後縁76に向かった翼形部本体の正圧側面70及び負圧側面72のそれぞれの所定の部分とに対して接合材層82によって付着されかつそれらを保護被覆する。前縁74の腐食は一般的に、ベーン52の正圧側面70上でより激しく、従って特に図4に関して示すように、前縁保護ストリップ80によって被覆された負圧側面72の所定の部分はそれ故に、前縁保護ストリップ80によって被覆された正圧側面70の部分よりもはるかに少ない。このことは、その結果として優れた接合強度をもたらす接合材層82のより精密な厚さの制御を可能にする。
【0015】
ベーン52は、エンジン軸線を通って延びる半径方向線に関する平面から反れて「弓形にする」ことができる。このことは、翼形部内側及び外側流路における空気力学的作用に対応するためになされる。しかしながら、このように弓形にすることは、前縁保護ストリップ80とベーン52との間の取付けを一層複雑にする可能性があり、このことにより、主として正圧側面上に前縁保護ストリップ80を設けた状態になった本明細書に記載した設計が特に望ましいものとなる。
【0016】
前縁保護ストリップ80は、金属製であるのが好ましく、ベーン52が形成された高分子複合材に適した熱膨張特性及び整合性を有するように選択される。この目的には、チタンが1つの好適な金属である。前縁保護ストリップ80は、約0.25mm以下の厚さとするのが好ましく、約0.13〜0.2mm厚さの範囲の厚さを有する。図4に概略的に示すように、前縁74の周りで延びかつ負圧側面72上で延びる前縁保護ストリップ80の長さは、約2.5mm、又はより一般的には翼形部翼弦長の約2〜3%である。経験的に、負圧側面72上での前縁保護ストリップ80の延長の程度は、前縁保護ストリップ80の端縁部がベーン52から分離しかつ空気流/ガス圧力によって持ち上がるのを防止するのに十分なものでなければならない。
【0017】
接合材又は「コンプライアント」層82の厚さ又は材料は、分析によって前縁保護ストリップ80とベーン52との間での剪断応力を減少させるように決定される。接合材層82の材料は、204〜260°Cのエンジン環境内で安定しかつ長期持続した性能が得られるように、商品名Viton(登録商標)の下でデュポンによって製造されかつ販売されているようなビスマレイミド(BMI)又はフルオロエラストマーであるのが好ましい。接合材厚さは、0.05mm〜0.15mmのオーダであるのが好ましい。
【0018】
図3及び図4において描写的に示すように、前縁保護ストリップ80には、エンジン運転中に翼形部から脱離した場合に、下流側エンジン構成部品との衝突が該下流側エンジン構成部品に対して損傷を引き起こすことにならないほど十分に小さい寸法の小さな幾何学的形状のセグメントを形成する内側向きグルーブ80Aが凹設されている。グルーブ80Aは、約2.5mm〜6.3mm長さの側面を有するセグメントを形成するのが好ましい。グルーブ80Aそれ自体は、その幅が約0.13mmのオーダであり、前縁保護ストリップ80の厚さの約1/3の深さを有する。グルーブ80Aは、正方形、菱形、その他の四辺形形状、又はその他のあらゆる好適な形状を形成することができる。前縁保護ストリップ80の外面は、滑らかであり、かつ隣接するベーン表面からの本質的に乱流のない移行が行われるように意図されている。内側溝付き表面は付加的に、前縁保護ストリップ80の内面上により大きな表面領域を形成して、それによって前縁保護ストリップ80とその下にある接合材層82との間に強い接合が得られるようにする。
【0019】
図5に示すように、任意選択的に前縁保護ストリップ80には、ベーン52に沿って半径方向に間隔を置いて配置された軸方向に延びる調整スリット84を設けることができ、それによって、該前縁保護ストリップ80をベーン52の前縁74の形状に対して一層正確に取付けることができる。スリット84は、取付けられた時に互いに閉じて該スリット84の対向する端縁部が接するようになる浅い内向きテーパ状抜け勾配を有する。
【0020】
以上、金属前縁ストリップを供えた翼形部及び翼形部の前縁を保護する方法を説明している。本明細書は、実施例を使用して、本発明を実施するための最良の形態を含む本発明を開示し、またさらに当業者があらゆる装置又はシステムを製作しかつ使用すること及びあらゆる具体化方法を実行することを含めて本発明を実施するのを可能にする。本発明の特許性がある技術的範囲は、特許請求の範囲によって定まり、かつ当業者が想起するその他の実施例を含むことができる。そのようなその他の実施例は、それら実施例が特許請求の範囲の文言とは異ならない構成要素を有する場合、或いはそれら実施例が特許請求の範囲の文言と実質的でない差異を有する均等な構成要素を含む場合には、本特許請求の範囲の技術的範囲内にあることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ガスタービンエンジンの簡略斜視図。
【図2】例示的なガスタービンエンジン高圧圧縮機組立体の概略部分側面図。
【図3】単一のステータベーンの斜視図。
【図4】線4−4に沿って取った、図3におけるベーンの部分断面図。
【図5】本発明の別の実施形態による単一のステータベーンの側面図。
【符号の説明】
【0022】
10 ガスタービンエンジン
12 低圧圧縮機
14 高圧圧縮機
16 燃焼器
18 高圧タービン
20 低圧タービン
24 第1のシャフト
26 第2のロータシャフト
40 半径方向に延びるロータブレード
44 半径方向に延びるステータベーン
46 ロータディスク
50 ケーシング
52 ステータベーン
54 半径方向外側ベーンステム又はスピンドル
56 ベーンプラットフォーム
58 複数の開口部
60 レバーアーム
70 凹面形正圧側面
72 凸面形負圧側面
74 前縁
76 後縁
80 前縁保護ストリップ
80A 内側向きグルーブ
82 接合材層
84 軸方向に延びる調整スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼弦長を形成した凹面形正圧側面(70)及び凸面形負圧側面(72)と前縁(74)及び後縁(76)とを備えた翼形部本体と、
前記前縁(74)と該前縁(74)から下流方向に前記後縁(76)に向かった前記翼形部本体の正圧側面(70)及び負圧側面(72)のそれぞれの所定の部分とに対して接合材層(82)によって付着されかつそれらを保護被覆した前縁保護ストリップ(80)と、を含み、
前記前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記負圧側面(72)の所定の部分が、該前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記正圧側面(70)の所定の部分の1/3よりも大きくない、
翼形部。
【請求項2】
該翼形部が、タービンエンジンファンブレード、タービンエンジン圧縮機ブレード及びタービンエンジンステータベーン(52)から成る群から選択される、請求項1記載の翼形部。
【請求項3】
前記前縁保護ストリップ(80)によって被覆された該翼形部の負圧側面(72)の所定の部分が、該翼形部の翼弦長の1〜3%である、請求項1記載の翼形部。
【請求項4】
前記前縁保護ストリップ(80)によって被覆された該翼形部の負圧側面(72)の所定の部分が、前記前縁(74)から下流方向に前記後縁(76)に向かって約0.254cm(0.100)インチ延びる部分である、請求項1記載の翼形部。
【請求項5】
前記前縁保護ストリップ(80)が、エンジン運転中に該翼形部から脱離した場合に、下流側エンジン構成部品との衝突が該下流側エンジン構成部品に対して損傷を引き起こさないほど十分に小さい所定の寸法の隣接するセグメントを形成する多数の交差グルーブ(80A)を含む、請求項1記載の翼形部。
【請求項6】
翼形部の前縁(74)を保護する方法であって、
翼弦長を形成した凹面形正圧側面(70)及び凸面形負圧側面(72)と前縁(74)及び後縁(76)とを備えた翼形部本体を準備する段階と、
前記前縁(74)と該前縁(74)から下流方向に前記後縁(76)に向かった前記翼形部本体の正圧側面(70)及び負圧側面(72)のそれぞれの所定の部分とに対してかつそれらを保護被覆するように前縁保護ストリップ(80)を、該前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記負圧側面(72)の所定の部分が、該前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記正圧側面(70)の所定の部分の1/3よりも大きくないように付着させる段階と、を含む、
方法。
【請求項7】
前記前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記翼形部の負圧側面(72)の所定の部分が、該翼形部の翼弦長の1〜3%である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
低圧圧縮機(12)、高圧圧縮機(14)、高圧タービン(18)、低圧タービン(20)及び燃焼器(16)と、
複数の半径方向に延びるステータベーン(44)と、
を含み、前記ステータベーン(44)の少なくとも1つが、
翼弦長を形成した凹面形正圧側面(70)及び凸面形負圧側面(72)と前縁(74)及び後縁(76)とを備えたベーン本体と、
前記前縁(74)と該前縁(74)から下流方向に前記後縁(76)に向かった前記ベーン本体の正圧側面(70)及び負圧側面(72)のそれぞれの所定の部分とに対して接合材層(82)によって付着されかつそれらを保護被覆した前縁保護ストリップ(80)と、を含み、
前記前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記負圧側面(72)の所定の部分が、該前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記正圧側面(70)の所定の部分の1/3よりも大きくない、
タービンエンジン(10)。
【請求項9】
前記前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記ベーンの負圧側面(72)の所定の部分が、該翼形部の翼弦長の1〜3%である、請求項8記載のタービンエンジン。
【請求項10】
前記前縁保護ストリップ(80)によって被覆された前記ベーンの負圧側面(72)の所定の部分が、前記前縁(74)から下流方向に前記後縁(76)に向かって約2.5ミリメートルである、請求項8記載のタービンエンジン(10)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−24695(P2009−24695A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130244(P2008−130244)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】