説明

耐熱性吸音材

【課題】 温度約400℃以上の場所に設置された際でも熱収縮やへたりが無く、吸音性能に優れるとともに、難燃性、断熱性、機械的強度に優れた吸音材を提供すること。
【解決手段】 (A)溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性有機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を60wt%以上(全表皮材繊維中)含有し、目付が150g/m以下の繊維シートからなる厚さが0.01〜2mmの表皮材、および(B)溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を80wt%以上(全不織布繊維中)含有し、厚さが2〜100mmの不織布が積層されてなる耐熱性吸音材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れた吸音材に関し、詳細には自動車のエンジンルームや排気マフラ等に用いる耐熱性に優れた吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルーム内には、エンジンの発する音の共鳴を防止し、騒音を低減するために、通常、吸音材を設けている。エンジンルーム内のうち、特に排気マフラの近傍は、登坂走行時の高負荷、高回転数の条件下ではかなりの高温になる場合がある。従来、このような高温に耐えかつ吸音性能を長期にわたって維持することは困難と考えられており、グラスウールの表面にアルミ板を貼着した構成の吸音材は、高熱に耐えることができるものの、吸音性能が不充分であった。
【0003】
そこで、特開昭59−227442号公報(特許文献1)には、合成繊維不織布に高軟化点を有する短繊維を散布した後ニードリングを施して通気性のある耐熱性表皮を作成し、その耐熱性表皮を接着剤を介してグラスウールの表面に積層するとともに、加熱加圧成形することにより、耐熱性吸音材を得る方法が提案されている。
【0004】
この方法では合成繊維不織布を構成する繊維および短繊維として、軟化点が230℃以上の繊維を使用するとしており、具体的には、レーヨン、トリアセテート、ナイロン66、ポリエステル繊維を開示している。また、実施例において作成している耐熱性吸音材は、軟化点が240℃のポリエステルスパンボンド布を合成繊維不織布とし、その上に軟化点が242℃のポリエステル短繊維を散布し、ニードルパンチを施して耐熱性表皮を得、この耐熱性表皮をグラスウールの表面に特定量のフェノール樹脂を介して積層し、この積層体を200℃、90kg/cmの圧力で加熱加圧成形し、同時にトリミングを行ったものである。これにより、耐熱耐久性の良い吸音材が得られるとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、使用繊維の融点はいずれも300℃以下であるため、高温(約400℃以上)耐熱性が要求されるエンジンルームの吸音材として使用するには表皮の耐熱性が不充分である。また、表皮とグラスウールとを、フェノール樹脂接着剤を介して積層しているため、高温で接着剤が溶融分解するおそれがある。さらに、グラスウール成形体との積層体は、耐熱性と吸音性能の双方を一応満足しうるものではあるが、高度な吸音性能を得ることができない。また、グラスウール成形体を使用した場合は、吸音材のリサイクルが難しいという問題がある。
【0006】
特開2000−8260号公報(特許文献2)には、自動車のエンジンルームの吸音材として好適な吸音材として、耐炎化繊維からなる不織布と、無機繊維もしくは高分子化合物で構成された基材とが積層一体化された吸音材であって、不織布がその嵩密度(kg/m)×目付(g/m)=8000〜200000となるように設計されたものが開示されている。この方法では、アクリル系繊維を前駆体とした耐炎化繊維のニードルパンチ不織布を、上記の基材と積層一体化して、厚さ5〜100mmの吸音材を得ている。不織布と積層一体化される基材としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、ロックウール等の無機繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン等の有機高分子化合物が例示されている。
【0007】
しかしながら、具体的な態様として記載された基材の一つであるグラスウール(厚さ5mm)等を使用した場合、耐熱性は優れるが吸音性能が不充分であり、また、グラスウールを使用した場合は、吸音材のリサイクルが難しいという問題がある。一方、基材として難燃性ポリウレタンフォーム(厚さ5mm)を使用した場合は、ある程度の吸音性能は期待できるが耐熱性が不充分となるばかりか、吸音材を焼却処分した際に難燃剤由来の有害ガスが発生するおそれがある。また、不織布と基材とを、フェノール樹脂とアクリル粘着剤ラテックスを用いて積層一体化しているため、高温で接着剤が溶融して積層体が分離することによって経時で吸音性能が低下する問題がある。
【特許文献1】特開昭59−227442号公報
【特許文献2】特開2000−8260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、温度約400℃以上の場所に設置された際でも熱収縮やへたりが無く、吸音性能に優れるとともに、難燃性、断熱性、機械的強度に優れた吸音材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性有機繊維を主体とする特定の繊維シートからなる表皮材と、溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性繊維を主体とする特定の不織布とを積層することにより、400℃においても熱収縮やへたり、吸音性能の衰えの無い吸音材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
1)(A)溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性有機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を60wt%以上(全表皮材繊維中)含有し、目付が150g/m以下の繊維シートからなる厚さが0.01〜2mmの表皮材、および(B)溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を80wt%以上(全不織布繊維中)含有し、厚さが2〜100mmの不織布が積層されてなることを特徴とする耐熱性吸音材、
2)(A)表皮材が、さらにケイ酸塩鉱物を含有するものである前記1)に記載の耐熱性吸音材、
3)(A)表皮材を構成する耐熱性有機繊維が、アラミド繊維またはポリベンズオキサゾール繊維である前記1)または2)に記載の耐熱性吸音材、
4)(A)表皮材が、湿式不織布である前記1)〜3)のいずれかに記載の耐熱性吸音材、
5)(A)表皮材が、ガラス転移温度250℃以上の樹脂バインダーを5〜40wt%(表皮材中)含有する前記4)に記載の耐熱性吸音材、
6)樹脂バインダーが、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびメタ系アラミド樹脂から選ばれる少なくとも1種である前記5)に記載の耐熱性吸音材、
7)(B)不織布を構成する耐熱性繊維が、有機繊維である前記1)〜6)のいずれかに記載の耐熱性吸音材、
8)有機繊維が、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリイミド繊維または耐炎化繊維である前記7)に記載の耐熱性吸音材、および、
9)自動車用外装材として適用される前記1)〜8)のいずれかに記載の耐熱性吸音材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度約400℃以上の場所に設置された際にも、熱収縮やへたりが無く、吸音性能が良好で、難燃性、断熱性、機械的強度に優れた吸音材を提供することができる。又、本発明の吸音材を、ディーゼルエンジンの排気ダクトの吸音材等に適用することにより、車外騒音を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において(A)表皮材を構成する繊維シートに用いられる、溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、ポリアミドイミド繊維および耐炎化繊維から選ばれた1種または2種以上の有機繊維が挙げられる。これらの耐熱性有機繊維は、従来公知のものや、公知の方法またはそれに準ずる方法に従って製造したものを全て使用することができる。ここで、耐炎化繊維は、主としてアクリル繊維を空気などの活性雰囲気中で200〜500℃で焼成して製造されるもので、炭素繊維の前駆体である。例えば、旭化成社製造の商品名「ラスタン」(登録商標)、東邦テナックス社製造の商品名「パイロメックス」(登録商標)などを挙げることができる。
【0013】
上記の耐熱性有機繊維の中でも、低収縮性で加工性が良い点から、高温で溶融しない、アラミド繊維、ポリアリレート繊維およびポリベンズオキサゾール(PBO)繊維が好ましく、さらに好ましいのはアラミド繊維およびポリベンズオキサゾール(PBO)繊維である。
【0014】
アラミド繊維には、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維とがあり、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン株式会社、東レ・デュポン株式会社製、商品名「KEVLAR」(登録商標))、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」(登録商標))などがあり、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(米国デュポン社製商品名「NOMEX(登録商標)」、帝人株式会社製商品名「コーネックス(登録商標)」)などがある。これらのアラミド繊維の中でも、耐熱性に優れる点よりパラ系アラミド繊維が好ましい。
【0015】
上記のアラミド繊維は、その繊維表面および繊維内部にフィルムフォーマ、シランカップリング剤および界面活性剤が付与されていてもよい。これらの表面処理剤のアラミド繊維に対する固形分付着量は、0.01〜20wt%の範囲であることが望ましい。
【0016】
耐熱性有機繊維としては、長繊維または所望の繊維長に切断した短繊維が用いられる。それらの繊度は0.1〜10dtexが好ましい。短繊維を使用する場合、その繊維長は特に限定されず、加工性や吸音特性により適宜決定することができるが、1〜20mmが好ましい。
【0017】
前記の耐熱性有機繊維は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。同種または異種の繊維で、繊度や繊維長の異なる繊維を混合して用いることもできる。この場合、繊維の混合比は任意であり、吸音材の用途や目的に合せて適宜決定することができる。
【0018】
表皮材を構成する繊維シートは、上記の耐熱性有機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を60wt%以上(全表皮材繊維中)含有するものであればよく、本発明の目的を阻害しない範囲内であれば、上記の耐熱性有機繊維以外のポリエステル繊維やポリフェニレンスルフィド繊維などを40wt%以下の範囲で含有していてもよい。吸音材の設置場所が400℃を超える高温域となる場合は、全表皮材繊維中の耐熱性有機繊維の比率を90wt%以上にするのが好ましい。
【0019】
表皮材を構成する繊維シートとしては、長繊維からなるスパンボンド不織布、短繊維からなる乾式不織布または短繊維からなる湿式不織布が挙げられるが、特に好ましいのは、短繊維からなる湿式不織布である。短繊維からなる湿式不織布としては、チョップドファイバー、パルプまたはステープルを抄紙してなるペーパーやフェルトなどが挙げられる。市販品としては、アラミド繊維からなる湿式不織布「ケブラーペーパー」(王子製紙株式会社製)などが挙げられる
【0020】
繊維シートには、ケイ酸塩鉱物等の添加剤を含有させることもでき、より優れた耐熱性を付与することができる点で好ましい。かかる不織布は、例えば、耐熱性有機繊維とケイ酸塩鉱物とから、公知の湿式抄紙法により製造することができる。ケイ酸塩鉱物としては、マイカが好適に挙げられ、より具体的には、例えば白雲母、金雲母、黒雲母、人造金雲母などが挙げられる。繊維シートに対する上記ケイ酸塩鉱物の使用量は、5〜70wt%、好ましくは10〜40wt%である。
【0021】
表皮材として湿式不織布を用いる場合、ガラス転移温度250℃以上の樹脂バインダーを使用することが好ましい。ガラス転移温度の高い樹脂バインダーを含有させることにより、エンジンの排気ダクトなどの高温部材の周辺の吸音材に適用した場合でも吸音材の形状を維持することができ(すなわち、へたりがない)、吸音性能の低下を抑えることができる。樹脂バインダーを使用しない場合は、繊維シートを構成する繊維がバラバラになり易く、所望の形状のものが得られなかったり、吸音性能が低下したりする。樹脂バインダーのガラス転移温度は、280℃以上500℃以下がより好ましい。
【0022】
上記の樹脂バインダーとしては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、メタ系アラミド樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂から構成される繊維等も樹脂バインダーとして使用することができる。バインダー樹脂の溶融温度または熱分解温度は、繊維シートの主要構成繊維たる耐熱性有機繊維のそれよりも低いものを選択することが好ましく、繊維シート作成時にバインダー樹脂が溶融あるいは軟化することによって耐熱性有機繊維を結合させることができ、また、吸音材の使用時に耐熱性繊維が崩壊するのを防止することができる。
【0023】
前記樹脂バインダーは、表皮材中に、乾燥質量で、5〜40wt%含有されることが好ましい。樹脂バインダーは不織布の重なり合った繊維の交叉点に付着して繊維同士を結着する。樹脂バインダーの含有量が5wt%未満では不織布を構成する繊維同士の決着が不十分であり、一方、40wt%を超えると繊維シートの耐熱性が不足するので好ましくない。
【0024】
樹脂バインダーは、後記するように、抄紙用スラリー中に分散させることが好ましい。
【0025】
本発明において、表皮材として好ましく使用される湿式不織布の製造方法としては、前記耐熱性短繊維および樹脂バインダー繊維を水中に均一に分散させて抄紙し、得られるウエブを加熱乾燥する方法を挙げることができる。水中の繊維成分濃度は0.01〜1.5wt%程度が好ましい。乾燥後の湿式不織布をカレンダーロールを用いて加熱加圧処理を施すことが好ましい。
【0026】
表皮材を構成する繊維シートの目付(単位面積あたりの質量)は、150g/m以下である。目付が150g/mを超える場合は、表皮材の通気性が低下することによって吸音性能が不良になる。目付は、より好ましくは10〜150g/m、さらに好ましくは20〜150g/m、最も好ましくは20〜100g/mの範囲がよい。目付を前記範囲内とすることにより、強度と通気性を保持することができる。
【0027】
表皮材を構成する繊維シートの厚さは、強度と吸音性能の点から0.01〜2mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.01〜0.5mm、さらに好ましくは0.03〜0.1mmである。
【0028】
表皮材を構成する繊維シートは、通気量が50cc/cm/sec以下であることが好ましい。ここでいう通気量は、JIS L−1096に基づいて測定されるものである。通気量が50cc/cm/secを超えると吸音材の吸音性能が低下する。
【0029】
本発明において(B)不織布に用いられる、溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性繊維としては、無機繊維、有機繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、スラグウール、ロックウール、炭素繊維等が挙げられる。有機繊維としては、例えば、アラミド繊維(メタ系、パラ系)、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリベンズチアゾール繊維、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維、ポリアミドイミド繊維および耐炎化繊維から選ばれた1種または2種以上の有機繊維が挙げられる。有機繊維は、無機繊維に比べて繊維の加工性が良く、安全性に優れているため、好ましい。
【0030】
上記の有機繊維の中でも、低収縮性で加工性が良く高温で溶融しない点より、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリアリレート繊維、ポリイミド繊維(ポリイミドスリットヤーンなど)および耐炎化繊維が好ましく、さらに好ましいのはパラ系アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維およびポリイミド繊維(ポリイミドスリットヤーンなど)である。
【0031】
ポリイミドのスリットヤーンは、例えば東レ・デュポン株式会社の「kapton(登録商標)」フイルムをスリッターで0.3〜1.0mm程度の幅にスリットした後、巻き取り、これを集束してギァー式、またはスチーム、乾熱式などのクリンパーでクリンプを与え、長さ30〜100mm程度にカットしたあと、通常のニードルパンチ法などで不織布化することができる。
【0032】
不織布は、上記の耐熱性有機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を80wt%以上(全不織布中)含有するものであればよく、本発明の目的を阻害しない範囲内であれば、上記の耐熱性有機繊維以外のポリエステル繊維やポリフェニレンスルフィド繊維などを20wt%以下の範囲で含有していてもよい。吸音材の設置場所が400℃を超える高温域となる場合は、全不織布中の耐熱性有機繊維の比率が90wt%以上であるのが好ましい。
【0033】
不織布は、短繊維からなる不織布、長繊維からなる不織布のいずれであってもよく、例えば、ニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ不織布、メルトブロー不織布、スパンボンド不織布、ステッチボンド不織布、硬綿または湿式不織布などが用いられる。中でも、短繊維のニードルパンチ不織布、ウォータージェットパンチ不織布または湿式不織布が好ましく、特に、ニードルパンチ不織布または湿式不織布が好ましい。不織布は積層体にして使用することもできる。不織布は、目付150〜800g/m、嵩密度0.01〜0.2g/cmの範囲にあることが、吸音性能の点より好ましい。
【0034】
本発明で用いる耐熱性繊維としては、長繊維、または、長繊維やスリットヤーンを所望の繊維長に切断した短繊維が挙げられる。短繊維を使用する場合、その繊維長および繊度は特に限定されず、加工性や吸音特性により適宜決定することができる。短繊維の繊度は、通常0.5〜30dtex、好ましくは1.0〜20dtex、より好ましくは1.0〜10dtexであり、スリットヤーンの場合100〜300dtexである。短繊維の繊維長は10〜100mm、特に20〜80mmのものが好ましい。
【0035】
前記耐熱性繊維は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。同種または異種の繊維で、繊度や繊維長の異なる熱可塑性短繊維を混合して用いることもできる。この場合、繊維の混合比は任意であり、不織布の用途や目的に合せて適宜決定することができる。
【0036】
不織布は、その嵩密度が小さすぎると難燃性、断熱性および吸音性が低下し、大きすぎても耐摩耗性および加工性が低下するため、嵩密度が0.01〜0.2g/cmの範囲であることが好ましい。より好ましくは0.01〜0.1g/cm、さらに好ましくは0.02〜0.08g/cmである。このように、不織布の嵩密度を制御することによって、不織布中の空気(酸素)の割合が一定範囲内に制御されることで、不織布に優れた断熱性および吸音性能を付与することができる。
【0037】
本発明において不織布の厚みは、厚いほど吸音性能が良くなるが、経済性、扱い易さ、吸音材としてのスペース確保等の点から、2〜100mm、好ましくは3〜50mm、より好ましくは5〜30mmである。
【0038】
また、本発明において、上記不織布は種々の形状をとり得る。例えば、多面体(長方体等の六面体など)、円柱体、円筒体などが挙げられる。本発明の耐熱性吸音材は、前記不織布が多面体である場合、該多面体(例えば長方体など)の一表面に上記表皮材が積層されているもの以外に、該多面体の2以上の面において、上記表皮材が積層されていてもよい。また、前記不織布が円柱体または円筒体である場合は、該円柱体または円筒体の曲面において上記表皮材が積層されてなるのが好ましい。
【0039】
表皮材と不織布の積層は、非接着状態でもよいが、吸音材の剥離による吸音性能の低下を防止するため、結合させて積層することが好ましい。表皮と不織布の積層は接着剤を使用しない方法では縫合、ニードルパンチなどによる他、台付き金属製接合具を表皮材と不織布を貫通させたあと、先端部に別の穴あき金属板を通し、台付き金属製接合部の先端を折り曲げて接合する方法も採用することができる。また、結束機具を用いて固定部材を取り付ける方法も採用することができ、例えばバノックピン(登録商標)(日本バノック社製)などを挙げることができる。また、ポリイミド樹脂などの耐熱性熱可塑性樹脂により接着する方法も採用することができる。
【0040】
本発明の耐熱性吸音材において、表皮材は、不織布の少なくとも片面に積層されている必要があるが、不織布の両面に積層されていてもよい。また、不織布と表皮材とを少なくとも各1層以上用いてそれらを一体化させ、多層構造体としてもよく、積層数は任意である。
【0041】
本発明において、表皮材および不織布を構成する繊維の断面形状は特に限定されず、真円断面状であってもよいし、異形断面状であってもよい。例えば楕円状、中空状、X断面状、Y断面状、T断面状、L断面状、星型断面状、葉形断面状(例えば三つ葉形状、四葉形状、五葉形状等)、その他の多角断面状(例えば三角状、四角状、五角状、六角状等)などの異形断面状であってもよい。
【0042】
また、本発明の耐熱性吸音材は、必要に応じて染料や顔料で着色されていてもよい。着色方法として、紡糸前に染料や顔料をポリマーと混合して紡糸した原着糸を使用してもよく、各種方法で着色した繊維を用いてもよい。吸音材を染料や顔料で着色してもよい。
【0043】
本発明の耐熱性吸音材は、その目的や用途に合せて公知の方法等を適用して適宜な大きさ、形状等に加工することにより種々の用途に用いることができ、耐熱性と吸音性能が求められる用途の全てに用いることができる。具体的には、自動車、電車、貨車、船舶、航空機等のフロアー材、天井材、リアパッケージ、ドアトリム、ダッシュボードのインシュレータ;土木・建築用の壁材や天井材;電気掃除機、換気扇、電気洗濯機、電気冷蔵庫、冷凍庫、電気衣類乾燥機、電気ミキサー・ジューサー、エアコン(エアーコンディショナー)、ヘアードライヤー、電気かみそり、空気清浄器、電気除湿器、電気芝刈機などの電化製品;スピーカー用振動板;ブレーカ(ケーシングの内張等)などの各種用途に用いることができる。特に高温における耐熱性と吸音性能が要求される自動車のエンジンルームや排気マフラの吸音材として使用することにより、騒音を低減させることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における各特性値の測定方法は次の通りである。
【0045】
〔厚さ〕
圧縮硬さ試験器(株式会社大栄科学精器製作所製)を用い、荷重が0.1g/cm時の厚さを測定した。
【0046】
〔通気量〕
JIS L−1096のフラジール法に基づいて測定した。
【0047】
(実施例1)
東レ・デュポン(株)製のパラ系アラミド繊維「KEVLAR(登録商標)」ステープル(1.7dtex×51mm、LOI値29(融点または熱分解温度:500℃以上で炭化))を用い、ニードルパンチ方式により厚さ10mm、目付400g/m、嵩密度0.04g/cmの不織布を得た。
【0048】
また一方表皮材として、東レ・デュポン(株)製の単糸繊度1.7dtexのパラ系アラミド繊維「ケブラー(登録商標)」3mmチョップドファイバー糸と、樹脂バインダーとして、デュポン(株)製のメタ系アラミド繊維「NOMEX(登録商標) 」パルプ(ガラス転移温度:280〜290℃)を90:10の質量比で混合して抄紙し、カレンダー加工して厚さ95μm、目付71g/m、通気量0.81cc/cm/secのアラミドペーパーを得た。
【0049】
不織布と表皮材とを金属ピンで結合することにより積層一体化して吸音材を得た。
【0050】
(実施例2)
実施例1で得たKEVLAR(登録商標)100%の不織布に、表皮材として王子製紙(株)製のポリベンズオキサゾール(PBO)繊維からなるペーパー(厚さ95μm、目付72g/m、通気量0.93cc/cm/sec)を、実施例1と同様の方法により積層一体化して吸音材を得た。
【0051】
(実施例3)
東レ・デュポン(株)製のポリイミドフィルム「kapton(登録商標)Hタイプ」(厚さ25μm、目付36g/m)を、通常のスリッターで幅0.5mmにスリットし、180dtexの繊維を得た。このスリット糸を集束してギアー型のクリンパーで7回/2.54cmのクリンプを与え、繊維長55mmにカットし、通常のカード、クロスラッパー工程を経てニードルパンチ方式で不織布にした。ニードルパンチ時の針密度は50本/cmであり、ニードルパンチ工程2回通しとした。得られた不織布の厚さは10mm、目付は400g/m、嵩密度は0.04g/cmであった。また表皮材として実施例2のPBOからなるペーパーを用い、実施例2と同様の方法で不織布と表皮材を積層一体化して吸音材を得た。
【0052】
(比較例1)
実施例1で用いた東レ・デュポン(株)製のKEVLAR(登録商標)ステープルと、東レ(株)製のポリエステルステープル(1.7dtex、×51mm)を、質量比30:70で混合し、通常のニードルパンチ方法で厚さ10mm、目付400g/m、嵩密度0.04g/cmの不織布を得た。この不織布に実施例1で用いた「KEVLAR(登録商標)」と「NOMEX(登録商標)」からなるペーパーを、実施例1と同様の方法で積層一体化して吸音材を得た。
【0053】
(比較例2)
比較例1で用いた東レ・デュポン(株)製のKEVLAR(登録商標)ステープルと、東レ(株)製のポリエステルステープル(1.7dtex、×51mm)を、質量比を70:30に変更した以外は比較例1と同様の工程で、厚さ10mm、目付400g/m、嵩密度0.04g/cmの不織布を得た。この不織布に、実施例1で用いたKEVLAR(登録商標)とNOMEX(登録商標)からなるペーパーを、実施例1と同様の方法で積層一体化して吸音材を得た。
【0054】
(評 価)
表皮と不織布とをそれぞれ別に処理したものを用いて、寸法変化率および引っ張り強力の変化率を試験した。また、表皮と不織布とを一体化したサンプルを用いて、吸音率を試験した。
【0055】
〔耐熱性〕
実施例および比較例の吸音材を、タバイ(株)の高温乾燥機400℃中に30分間放置した後の収縮変化率および引っ張り強力変化率を測定した。その結果を下表1に示す。
【0056】
変化率(%)=[(熱処理前の値−熱処理後の値)/熱処理前の値]×100
【0057】
引っ張り強力は、ペーパーは幅15mm、試長100mm、引っ張り速度100mm/分で、不織布は幅50mm、試長200mm、引っ張り速度200mm/分で測定した。
【0058】
【表1】

【0059】
〔吸音率〕
自動垂直入射吸音率測定器(株式会社ソーテック製)を用い、JIS−A−1405「管内法における建築材料の垂直入射吸音率測定方法」による各周波数における垂直入射吸音率を測定した。測定は吸音材の表皮部分を音源側にして取り付けて行った。
【0060】
吸音率の評価結果によれば、垂直入射吸音率は実施例1〜3は熱処理前後でほとんど変化が見られなかったが、比較例1〜2は吸音率のピーク値が10〜22%低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性有機繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を60wt%以上(全表皮材繊維中)含有し、目付が150g/m以下の繊維シートからなる厚さが0.01〜2mmの表皮材、および(B)溶融温度または熱分解温度が370℃以上である耐熱性繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維を80wt%以上(全不織布繊維中)含有し、厚さが2〜100mmの不織布が積層されてなることを特徴とする耐熱性吸音材。
【請求項2】
(A)表皮材が、さらにケイ酸塩鉱物を含有するものである請求項1に記載の耐熱性吸音材。
【請求項3】
(A)表皮材を構成する耐熱性有機繊維が、アラミド繊維またはポリベンズオキサゾール繊維である請求項1または2に記載の耐熱性吸音材。
【請求項4】
(A)表皮材が、湿式不織布である請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性吸音材。
【請求項5】
(A)表皮材が、ガラス転移温度250℃以上の樹脂バインダーを5〜40wt%(表皮材中)含有する請求項4に記載の耐熱性吸音材。
【請求項6】
樹脂バインダーが、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびメタ系アラミド樹脂から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の耐熱性吸音材。
【請求項7】
(B)不織布を構成する耐熱性繊維が、有機繊維である請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性吸音材。
【請求項8】
有機繊維が、アラミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリイミド繊維または耐炎化繊維である請求項7に記載の耐熱性吸音材。
【請求項9】
自動車用外装材として適用される請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱性吸音材。

【公開番号】特開2006−138935(P2006−138935A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326534(P2004−326534)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(593049431)高安株式会社 (15)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】