説明

胴縁取付用ブラケットおよびそれを用いた建物の外壁構造

【課題】 杆状のブラケット本体1の一端側に、建物の躯体壁外面側に固定されるアンカー固定部2を有し、ブラケット本体1の他端側に、該ブラケット本体1から外方に張り出す胴縁受け板4が取り付けられる胴縁取付用ブラケットにおいて、ブラケット本体1が多少傾いて取り付けられた場合でも、胴縁を掛け渡す複数の胴縁受け板4の表面を容易に同一面上に一致させることができるようにし、ハツリやモルタル塗布などの下地処理を施すことなく、様々な施工条件に対応できるようにする。
【解決手段】 胴縁受け板4を、ブラケット本体1の中心軸と直交する方向に対して上下それぞれ2〜10度の範囲でブラケット本体1周りに傾動可能に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に鉄筋コンクリート(RC)、プレキャストコンクリート(PC)、軽量気泡コンクリート(ALC)などのコンクリート製の建物の躯体壁に胴縁を取り付けるために用いる胴縁取付用ブラケットおよびこの胴縁取付用ブラケットを用いた建物の外壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胴縁取付用ブラケットとしては、一端に設けられた鍔状部材、他端側外周に設けられた雄ネジ部および中心部を軸方向に貫通して設けられた雌ネジ部を備えた杆状のブラケット本体と、ブラケット本体の雌ネジ部の鍔状部材側に螺合されて接続されるアンカー部と、雄ネジ部に順次螺合される断熱材押さえ板および胴縁受け板とからなるものが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。また、これらの文献には、建物の躯体壁外面側に固定されたアンカー部にブラケット本体を鍔状部材側からねじ込んで取り付け、断熱材をブラケット本体の雄ネジ部を貫通させて躯体壁外面上に押し付け、断熱材より外方に突出した雄ネジ部に断熱材押さえ板をねじ込んで、断熱材を躯体壁外面との間に挟持させ、さらに雄ネジ部に胴縁受け板を螺合させた後、同様にして取り付けた複数の胴縁受け板に胴縁を掛け渡して取り付けて、さらに胴縁に外装材を取り付けた建物の外壁構造が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−251031号公報
【非特許文献1】2004年8月発行「日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)」709および710頁の「RC造外断熱工法の実証研究(その1 工法の概要)」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来の胴縁取付用ブラケットは、太径のブラケット本体の雄ネジ部に、ガタツキなくしっかり胴縁受け板を螺合させるものとなっている。
【0005】
しかしながら、一般にブラケットはその先端部に重量のある外装材を支持するため、地震や振動を受けた際にブラケットには軸方向の曲げ変形や根元部分の回転が生じ易く、この曲げ変形や回転により胴縁受け板にも回転が生じて胴縁や外装材、およびこれらを接合するビスに歪みや損傷が生じてしまうと言う問題があった。このような状態を防ぐためには、ブラケットの曲げ変形や回転を抑える必要があり、ブラケットの径を太くしたり、根元部分の回転を抑えるために大きく剛性のある鍔を設ける必要があった。このような解決方法は不経済であり、合理的な手段による耐震性の向上が大きな課題となっていた。
【0006】
また、躯体壁の表面に不陸があると、ブラケット本体を躯体壁に対して垂直に固定しにくく、ブラケット本体が傾いた状態で取り付けられ、このブラケット本体に取り付けられる胴縁受け板の表面も傾いてしまって、胴縁を掛け渡す複数の胴縁受け板の表面を同一面上に一致させることができなくなる問題がある。胴縁を掛け渡す複数の胴縁受け板の表面の方向が不揃いのまま施工を行うと、胴縁の取り付け状態に緩みや歪みを生じたり、外装材の仕上がり面の精度が低下する原因となる。緩んだり歪んだ状態で取付けられた胴縁は、振動などの外力や熱応力を受けたときに、胴縁やその周辺に思わぬ変形や損傷を生じる原因ともなる。このため、胴縁取付用ブラケットの取り付けに先立って、躯体壁面に、ハツリやモルタル塗布などの下地処理を施すことが必要となり、施工に多大な労力を要する問題がある。特に改修工事においては、躯体壁の状態も様々であり、この問題が顕著である。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、耐震性に優れた建物の外壁構造を提供すること、およびブラケット本体が多少傾いて取り付けられた場合でも、胴縁を掛け渡す複数の胴縁受け板の表面を容易に同一面上に一致させることができるようにし、ハツリやモルタル塗布などの下地処理を施すことなく、様々な施工条件に対応できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために本発明は、杆状のブラケット本体の一端側に、建物の躯体壁に固定されるアンカー固定部を有し、ブラケット本体の他端側に、該ブラケット本体から外方に張り出す胴縁受け板が取り付けられる胴縁取付用ブラケットにおいて、胴縁受け板が、ブラケット本体の中心軸と直交する方向に対してブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられることを特徴とする胴縁取付用ブラケットを提供するものである。
【0009】
上記本発明に係る胴縁取付用ブラケットは、ブラケット本体の他端が雄ネジ部となっていると共に、胴縁受け板の中央部を貫通して雌ネジ部が設けられており、胴縁受け板が、前記雌ネジ部を前記雄ネジ部に遊びを持って螺合させることで、ブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられること、
ブラケット本体の他端側の端部に回動可能にボールが保持されており、胴縁受け板が、該ボールに取り付けられていることで、ブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられること、
胴縁受け板が、ブラケット本体の中心軸と直交する方向に対して上下それぞれ1〜10度の範囲でブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられること、
をその好ましい態様として含むものである。
【0010】
また、本発明は、上記いずれかの胴縁取付用ブラケットのアンカー固定部が建物の躯体壁外面側に固定されており、該胴縁取付用ブラケットのブラケット本体の他端側に、該ブラケット本体から外方に張り出す胴縁受け板が、ブラケット本体の中心軸と直交する方向に対してブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられており、該胴縁受け板に胴縁が取り付けられ、さらに該胴縁に、外装材が取り付けられた二次胴縁または外装材が取り付けられていることを特徴とする建物の外壁構造を提供するものでもある。
【0011】
上記本発明に係る建物の外壁構造は、建物の躯体壁面上に、ブラケット本体を貫通させて断熱材が取り付けられており、胴縁受け板が断熱材より外方に突出したブラケット本体の他端側に取り付けられていること、
断熱材が、ブラケット本体に取り付けられた断熱材押え板と躯体壁との間に挟持されていること、
をその好ましい態様として含むものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る胴縁取付用ブラケットは、胴縁受け板が、ブラケット本体の中心軸と直交する方向に対してブラケット本体周りに傾動可能であることから、特に1〜10度の傾動可能な範囲であれば、地震や振動によりブラケットに軸方向の曲げ変形や根元部分の回転が生じ、ブラケット先端が傾斜した場合でも、胴縁受け板はその影響を受けずに元々の面を保つことができ、胴縁や外装材に歪みや損傷が生じることを防ぐことができる。また、ブラケット本体が多少傾いて取り付けられても、胴縁を掛け渡す複数の胴縁受け板の表面を容易に同一面上に一致させることができる。従って、この胴縁取付用ブラケットを用いた本発明に係る建物の外壁構造によれば、耐震性に優れた外壁構造とすることができる。また、ハツリやモルタル塗布などの下地処理を施すことなく、胴縁を安定した状態でしっかり取り付けることができ、良好な外装材の仕上がり面を得ることができる。また、躯体壁の状態が一定ではない改修工事にも容易に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜図3に基づいて、本発明の一例に係る胴縁取付用ブラケットと、この胴縁取付用ブラケットを用いた本発明の一例に係る建物の外壁構造を説明する。
【0014】
図1は、本発明の一例に係る胴縁取付用ブラケットを示す側面図、図2は、本発明の一例に係る建物の外壁構造の一部を示す施工途中段階の斜視図、図3は、本発明の一例に係る建物の外壁構造の一部を示す断面図である。
【0015】
まず、胴縁取付用ブラケットについて説明する。図1において、1はブラケット本体、2はアンカー部、3は断熱材押え板、4は胴縁受け板である。
【0016】
ブラケット本体1は、断熱性を重視した場合はプラスチック製でもよいが、一般的には鋼、ステンレススチールなどの金属の杆状体で構成されており、一端側中心部に、アンカー固定部として雌ネジ部5が設けられ、他端側外周面に雄ネジ部6が設けられている。また、雄ネジ部6が設けられた他端側端部には、ボルトの頭部状の形状をなす工具受け部7が設けられている。この工具受け部7は、ネジの締め付けに用いるレンチなどの工具を接続する箇所で、例えば雄型の六角レンチなどが嵌まり合う凹部として設けることもできる。
【0017】
上記ブラケット本体1の中間部に、外方に張り出した鍔部8が設けられている。また、この鍔部8のアンカー部2側には、ブラケット本体1を囲む位置に窪み部9が形成されており、この窪み部9に対応する位置に、1または複数の貫通孔10が形成されている。窪み部9と貫通孔10の役割については後述する。
【0018】
アンカー部2は、一端側が雄ネジ部11、他端側が、他端側の端部に向かって徐々に拡径した拡径頭部12となっており、雄ネジ部11の基部付近(雄ネジ部11の拡径頭部12側の端部付近)にストッパー13が設けられた杆状体のアンカーピン14を備えている。また、ストッパー13と拡径頭部12との間には、拡径頭部12側の端縁から軸方向にスリット15が切り込まれたアンカー環16が、軸方向にスライド可能に嵌め込まれている。
【0019】
上記アンカー部2は、図3に示されるように、躯体壁17の外面に形成された削孔18内に打ち込んだ後、アンカー部2の雄ネジ部11にブラケット本体1の雌ネジ部5を螺合させ、工具受け部7に接続したレンチなどで、ブラケット本体1の鍔部8が躯体壁17の外面に当接した後もさらにブラケット本体1を締め付けることで、躯体壁17に固定されるものである。つまり、鍔部8が躯体壁17の外面に当接した後にさらにブラケット本体1を締め付けると、アンカーピン11がブラケット本体1に徐々に引き寄せられ、その拡径頭部12がアンカー環16内に入り込んで拡径させ、アンカー環16が削孔18の内壁に強く係合するものとなっている。アンカー環16の径は削孔18の径よりもわずかに小さく、該アンカー環16の表面に備えられた凸状片16aだけが削孔18の内壁面に接触するように構成され、さらに凸状片16aは打ち込む方向には抵抗が小さいが、抜け出し方向には抵抗が大きい構造としている。従って、アンカーピン11がブラケット本体1に引き寄せられる時に、アンカー環16だけは移動せず、拡径頭部12がアンカー環16内に入り込んで拡径させることが可能となる。
【0020】
なお、ブラケット本体1の鍔部8が躯体壁17の外面に当接した後もさらにブラケット本体1を締め付けることにより拡径頭部がアンカー環内に入り込んで、アンカー部2の固定が完了する。即ち、アンカー部2の角度は削孔18に打ち込んだ角度にかかわらず、締付け完了までの間に躯体壁17に対して垂直の状態に矯正される。
【0021】
また、鍔部8は、これを躯体壁17の外面に当接させた状態でブラケット本体1をアンカー部2に固定すると、ブラケット本体1に外装材の重量など軸直交方向に外力を受けた際の固定度が向上させブラケット根元の回転が生じにくくする効果を有する。また、鍔部8を設けることにより、ブラケット本体1の一定長さを躯体壁17から突出させて取り付けることが容易に可能となる。アンカー部2は打ち込みに伴って先端が開いてアンカー効果を発揮するタイプのものを使うと技能レベルの低い職人でも施工が可能となるが、打ち込んだ際にアンカー部2の位置が固定されてしまう為、躯体壁17に対して斜めに打ち込まれると、後にブラケット本体1を締付けて固定する際に鍔部8が躯体壁17に当接しなかったりアンカー部2が折れてしまうなどの支障が生じ易い。
【0022】
断熱材押え板3は、中央部に雌ネジ部19が貫通した板状材で、雌ネジ部19をブラケット本体1の雄ネジ部6に螺合させることで、ブラケット本体1の周囲に張り出した状態で取り付けられるものとなっている。この断熱材押え板3は、図3に示されるように、アンカー部2で躯体壁17に固定したブラケット本体1を貫通させて躯体壁17外面に押し付けた断熱材20を、躯体壁17との間に挟持するものとなっている。この断熱材押え板3は、金属製とすることもできるが、熱損失を抑えるために合成樹脂製とすることが好ましい。合成樹脂製とする場合は雌ネジ部19を設けずに以下の方法とすることも好ましい。ブラケット本体1と接触する部分の断熱材押え板3の肉厚をブラケット本体1の雄ネジ部6に設けられたネジ山間の間隔と略同一とし、中央部のブラケット本体1が貫通する孔の径を雄ネジ部6のネジ部の谷径よりわずかに大きく、雄ネジ部6のネジ部の山径より小さくする。このように構成すると、断熱材押え板3はブラケット本体1に差し込む作業により装着でき、ネジを締める作業より容易であるし、断熱材押え板3が断熱材20を押し付ける程度も容易に調整できる。また、断熱材押え板3は、断熱材20を設けない場合は勿論のこと、断熱材20の取り付け形態によっては省略することができる。
【0023】
胴縁受け板4は、中央部に雌ネジ部21が貫通した板状材で、上記断熱材押え板3の後から雌ネジ部20をブラケット本体1の雄ネジ部6に螺合させることで、ブラケット本体1の周囲に張り出した状態で取り付けられるものとなっている。この胴縁受け板4は、図3に示されるように、胴縁22の取り付け部となるもので、通常、金属で構成されている。また、胴縁受け板4の取り付け位置の調整は、ブラケット本体1の雄ネジ部6への螺合位置の調整によって行うことができる。
【0024】
胴縁受け板4の雌ネジ部20は、胴縁受け板4の中央部を円筒状に絞り出した円筒状片4bの内面に形成したものである。該胴縁受け板4は、1.6〜3.2mm程度の鋼板であり、円筒状片4bの板厚は絞り加工されることによって薄くなり、1/2〜2/3の板厚になる。従って、胴縁受け板4に当初設定した以上の傾動が生じた場合も、胴縁受け板本体4aに変形が生じることなく、円筒状片4bが変形することにより設定した以上の傾動角を吸収することができ、胴縁受け板本体4a、胴縁22、外装材24およびそれらを接合するビスに歪みや損傷が生じることを防ぐことができる。円筒状片4bは、多角形とは異なり、変形する際に特定の箇所に応力が集中することがなく、変形能力およびその耐久回数に優れる。また、この効果を得るには、円筒状片4bの長さを適切に選択する必要がある。円筒状片4bの長さは、長いと傾動可能範囲が小さく、短いと大きくなる。その長さはねじ山2〜10山分が好ましく、3〜6山程度とするとさらに好ましい。
【0025】
特に本例における胴縁受け板4は、雌ネジ部19が、ブラケット本体1の雄ネジ部6に対して遊びを持って緩く螺合されるものとなっており、図1に一点鎖線で示されるように、螺合された状態で、ブラケット本体1の中心軸と直交する方向に対して上下それぞれ1〜10度の範囲でブラケット本体1周りに傾動可能となっている。従って、ブラケット本体1が多少傾いた状態で取り付けられた場合でも、胴縁受け板4を傾動させることで、胴縁受け板4の表面を垂直かつ同一面上に揃えることができるし、地震や振動によりブラケット本体1に回転や曲げ撓みが生じた場合にも、胴縁受け板4には回転が生じず、胴縁22や外装材24の歪みや損傷を防ぐ事ができる。前記の傾動角度は1〜10度の範囲であれば本発明の目的を達成できるが、なお好ましくは上下それぞれ2〜7度とする。胴縁受け板4の傾動角度が1度未満では、地震や振動によりブラケット本体1の回転や曲げ変形が生じた際にブラケット本体1の傾きを十分修正しにくく、胴縁受け板4の傾動角度が10度を超えると、胴縁受け板4が不安定になって作業性が悪くなる。
【0026】
ブラケット本体1の躯体壁17と当接する面と胴縁受け板4までの距離は、一般的には20〜150mm、躯体壁17の表面に断熱材20を装着する場合は40〜150mmとなり、さらに一般的には各々20〜100、40〜100mmが用いられる。またブラケット本体1の外径は、躯体壁17と当接する面と胴縁受け板4までの距離や想定する外装材24の重量、地震力および振動荷重等によって決定されるが、一般的には8〜24mm、さらに一般的には10〜20mmが用いられる。
【0027】
次に、建物の外壁構造について説明する。
【0028】
特に図3に示されるように、建物の躯体壁17の外面側には削孔18が形成されており、この削孔18にアンカー部2が拡径頭部12側から打ち込まれている。
【0029】
削孔18は、全体がアンカー部2の拡径頭部12よりわずかに大きく凸状片16aが適切に接触する径のものでもよいが、アンカー部2を打ち込んだ削孔18内に、例えば樹脂モルタルなどの接着剤21を注入する場合、削孔18の後端側(開口部側)の径を先端側(底部側)の径より大きくし、接着剤21を注入しやすくしておくことが好ましい。
【0030】
アンカー部2の雄ネジ部11には、ブラケット本体1の雌ネジ部5(図1参照)が螺合されている。この螺合は、前述したように、工具受け部7に接続したレンチなどで、ブラケット本体1の鍔部8が躯体壁17の外面に当接した後もさらにブラケット本体1を締め付けることで行われている。この締め付けにより、アンカーピン11が徐々に引き寄せられ、その拡径頭部が10がアンカー環16内に入り込んで拡径させ、アンカー環16が削孔18の内壁に強く係合してアンカー部2が削孔18内に固定されると共に、アンカー部2にブラケット本体1が取り付けられている。
【0031】
削孔18内に接着剤23を注入する場合、十分な量の接着剤23を注入しておくことが好ましいが、過剰の接着剤23を注入すると、アンカー部2の雄ネジ部11にブラケット本体1の雌ネジ部5(図1参照)を螺合したときに、余剰の接着剤23が削孔18から溢れ出て、躯体壁17への鍔部8の密着が妨げられてしまうことが生じる。前記鍔部8に設けられた窪み部9と貫通孔10(図1参照)は、これを防止するためのものである。これらを設けておくと、削孔18から溢れ出た接着剤23は窪み部9に収容され、窪み部9に収容しきれない接着剤23は貫通孔10から排出されるので、削孔18から溢れ出た接着剤23によって鍔部8が押し上げられて、躯体壁17への鍔部8の密着が妨げられるのを防止することができる。また、貫通孔10から接着剤23が流出することを目視することで、十分な接着剤23の充填が行われていることを確認することができる。
【0032】
ブラケット本体1は、上記のようにして躯体壁17に多数固定されているもので、ブラケット本体1が固定された躯体壁17の外面には、ブラケット本体1を貫通させて断熱材20が押し付けられている。この断熱材20は、各ブラケット本体1の雄ネジ部6に螺合された断熱材押え板3によって、躯体壁17との間に挟持されている。断熱材20としては、フェノールフォーム・ポリスチレンフォーム・硬質ウレタンフォームなどの合成樹脂系断熱材やグラスウールなどの繊維系断熱材を用いることができる。中でも5%歪時の圧縮強度が10〜20N/cm2程度のフェノールフォーム系断熱材で、表面材にポリエステル不織布が用いられたものが最も適する。この断熱材20はブラケット本体1を貫通させる場合、断熱材20に下孔加工をしなくても突き刺すことができるし、直径3〜10cm程度の大きさの断熱材押え板3で容易に安定的に固定することができる。断熱材20もしくは表面材がより硬いと下孔加工が必要となるし、より柔らかい場合は突き刺した時に周辺部分も大きく崩れ補修が必要になったり、断熱材押え板3と断熱材20との間に適切な反発力が発生しにくいので断熱材20の保持が不安定で位置ズレが生じやすくなる。断熱材押え板3の位置ズレを防止するために、断熱材押え板3とブラケット本体1の接合をネジ止めとしてさらにダブルナット等の緩み止め処置をするなど特別の手段が必要になる。
【0033】
各ブラケット本体1の雄ネジ部6には、さらに胴縁受け板4が螺合されており、複数の胴縁受け板4間に跨って掛け渡された胴縁22が、胴縁受け板4にビスなどによって取り付けられている。胴縁22としては、下向きコ字形断面の金属長尺材の両端を外方に屈曲させて鍔状突出部としたハット型材料を用いることができる。本例における胴縁22は、このハット型材料で、鍔状突出部をビスなどで胴縁受け板4に固定することで取り付けられている。また、ハット型材料の胴縁22には、外装材24が、その頂部にビスなどで取り付けられている。
【0034】
特に本発明においては、胴縁受け板4がブラケット本体1に対して傾動可能であることから、ブラケット本体1が傾いて取り付けられている場合でも、胴縁22が取り付けられる各胴縁受け板4の表面を同一面上に揃えることができる。さらに、複数の平行に配置された胴縁22に跨って外装材24もしくは二次胴縁をビス止めやボルト止め等の手段で緊結することにより、各々の胴縁22は外装材24もしくは二次胴縁の面と同一の面に矯正される。従って、胴縁22の取り付け状態を安定させやすく、外装材24の仕上がり面も良好なものとなる。
【0035】
胴縁受け板4は、断熱材20と外装材22との間に十分な通気用空間を確保するために、断熱材20から離れた位置に取り付けておくことが好ましい。また、胴縁22は、通常縦方向に取り付けられるが、横方向に取り付けることもできる。また、胴縁22に外装材22を取り付けるのではなく、胴縁22に交差する方向に二次胴縁(図示されていない)を取り付けて、この二次胴縁に外装材22を取り付けることもできる。
【0036】
次に、図4に基づいて、本発明の他の例に係る胴縁取付用ブラケットを説明する。
【0037】
図4は、胴縁と外装材を取り付けた状態の、本発明の他の例に係る胴縁取付用ブラケットを示す側面図である。なお、図4において、図1〜図3と同じ符号は同様の部材を示し、類似の符号は類似の部材を示す。
【0038】
本例におけるブラケット本体1’は、一端側にアンカー部2を有する点は図1の例と同様であるが、他端側の端部には、回転可能にベアリング状のボール25が保持されている。また、胴縁受け板4’(図1の雌ネジ部21を有していない点以外は図1の胴縁受け板4と同様)は、このボール25にビスなどで取り付けられており、ボール25を回転させることにより、ブラケット本体1’の中心軸と直交する方向に対して上下それぞれ2〜10度の範囲でブラケット本体1’周りに傾動可能となっている。
【0039】
本例の場合、胴縁受け板4’の傾動がベアリング状のボールによってもたらされることから、より滑らかな傾動が可能となる。
【0040】
また、図4に示される胴縁22は、前述のハット型材料を図2および図3に示される例とは上下を逆にして用い、頂部をブラケット本体1’(ボール25)への取り付け側とし、鍔状突出部を外装材24の取り付け側としている。このようなハット型材料の使用態様は、図1に示される胴縁取付用ブラケットにも適用できるもので、図4に示されるように、胴縁22上に外装材24の継ぎ目が位置する場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一例に係る胴縁取付用ブラケットを示す側面図である。
【図2】本発明の一例に係る建物の外壁構造の一部を示す施工途中段階の斜視図である。
【図3】本発明の一例に係る建物の外壁構造の一部を示す断面図である。
【図4】胴縁と外装材を取り付けた状態の、本発明の他の例に係る胴縁取付用ブラケットを示す側面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 ブラケット本体
1’ ブラケット本体
2 アンカー部
3 断熱材押え板
4 胴縁受け板
4a 胴縁受け板本体
4b 円筒状片
4’ 胴縁受け板
5 雌ネジ部(アンカー固定部)
6 雄ネジ部
7 工具受け部
8 鍔部
9 窪み部
10 貫通孔
11 雄ネジ部
12 拡径頭部
13 ストッパー
14 アンカーピン
15 スリット
16 アンカー環
16a 凸状片
17 躯体壁
18 削孔
19 雌ネジ部
20 断熱材
21 雌ネジ部
22 胴縁
23 接着剤
24 外装材
25 ボール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杆状のブラケット本体の一端側に、建物の躯体壁に固定されるアンカー固定部を有し、ブラケット本体の他端側に、該ブラケット本体から外方に張り出す胴縁受け板が取り付けられる胴縁取付用ブラケットにおいて、胴縁受け板が、ブラケット本体の中心軸と直交する方向に対してブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられることを特徴とする胴縁取付用ブラケット。
【請求項2】
ブラケット本体の他端側が雄ネジ部となっていると共に、胴縁受け板の中央部を貫通して雌ネジ部が設けられており、胴縁受け板が、前記雌ネジ部を前記雄ネジ部に遊びを持って螺合させることで、ブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の胴縁取付用ブラケット。
【請求項3】
ブラケット本体の他端側の端部に回動可能にボールが保持されており、胴縁受け板が、該ボールに取り付けられていることで、ブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の胴縁取付用ブラケット。
【請求項4】
胴縁受け板が、ブラケット本体の中心軸と直交する方向に対して上下それぞれ1〜10度の範囲でブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられることを特徴とする請求項2〜3に記載の胴縁取付用ブラケット。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の胴縁取付用ブラケットのアンカー固定部が建物の躯体壁に固定されており、該胴縁取付用ブラケットのブラケット本体の他端側に、該ブラケット本体から外方に張り出す胴縁受け板が、ブラケット本体の中心軸と直交する方向に対して1〜10度の範囲でブラケット本体周りに傾動可能に取り付けられており、該胴縁受け板に胴縁が取り付けられ、さらに該胴縁に、外装材が取り付けられた二次胴縁または外装材が取り付けられていることを特徴とする建物の外壁構造。
【請求項6】
建物の躯体壁面上に、ブラケット本体を貫通させて断熱材が取り付けられており、胴縁受け板が断熱材より外方に突出したブラケット本体の他端側に取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載の建物の外壁構造。
【請求項7】
断熱材が、ブラケット本体に取り付けられた断熱材押え板と躯体壁との間に挟持されていることを特徴とする請求項6に記載の建物の外壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−299543(P2006−299543A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119213(P2005−119213)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【Fターム(参考)】