説明

膜特性を求める方法

【課題】配線形成過程に起きる膜物性値変化を、再現性と簡便性とを両立して追跡できる技術を提供することである。
【解決手段】基板上に膜が順に複数積層されてなる複合膜における任意の膜Cの比誘電率を求める方法であって、前記基板上に前記複合膜を設ける複合膜成膜工程と、前記基板上に前記任意の膜C以外の膜を一つずつ設ける単一膜成膜工程と、前記複合膜成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、前記単一膜成膜工程で得た膜C以外の単一膜の比誘電率k(単一膜)を各々求める工程と、前記複合膜成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、前記複合膜成膜工程で得た複合膜における各々の膜の厚さd(単一膜)を求める工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイス製造の過程において、低誘電率絶縁膜が各種のプロセスダメージ、例えばエッチング、アッシング等のプラズマダメージや、ポリマー洗浄、CMP(化学・機械研磨)の工程で受けるダメージによって変質した際の膜物性を調べる為の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスにおける演算処理速度の高速化を実現する為には、デバイスにおける信号遅延を低減することが重要である。この信号遅延は、半導体素子おける信号遅延と配線遅延の和で表される。ところで、近年、配線ピッチの微細化が急速に進んでいる。この為、配線遅延の影響が信号遅延を上回るようになってきた。この配線遅延は、配線抵抗Rと配線間容量Cとの積、所謂、RCに比例する。従って、配線遅延を低減する為、配線抵抗や配線間容量を低減する必要がある。このようなことから、配線材料として、低抵抗なCuが選ばれるようになった。又、配線間を埋める絶縁材として、低誘電率絶縁膜(Low-k材)の検討が行なわれている。
【0003】
さて、誘電率を小さくする為、膜内部にポア(空孔)を導入したり、極性の大きいフッ素を導入することが考えられている。特に、ポアを導入する手法が盛んに研究され、比誘電率が2.4以下のLow-k材も実現されている。
【0004】
しかしながら、ポア構造の膜は、その機械的強度に乏しく、かつ、プラズマ耐性にも弱い。この為、半導体デバイス製造の過程で使用される圧力や衝撃が加わると、又、高エネルギーに曝された際、ポア構造の膜は、その特性が劣化し易いことが判って来た。
【0005】
そして、劣化したLow-k材は、その破壊された構造や、ポア構造に起因して、水分を吸収し易くなる。従って、このことからも、更なる劣化が起きる。特に、誘電率の上昇は避けられないことが判ってきた。そして、配線遅延が大きくなる。
【0006】
そこで、Low-k材の膜物性の劣化を低減する必要がある。この為には、どの工程でLow-k材がどの程度劣化したかを知る必要がある。尚、Low-k材の劣化は、比誘電率を指標として、その上昇分から簡便に見積もることが出来る。
【0007】
尚、「Journal of the Korean Physical Society, Vol.40, No.1, January 2002, pp.94〜98」に、単一材料の薄膜の物性(比誘電率)測定方法が開示されている。すなわち、実際にCu/low-k配線を形成すること無く、簡便に比誘電率の上昇を評価する方法が提案されている。具体的には、単一材料の薄膜に、加工工程で加えられる処理から任意に一つの処理を選択し、同様の処理を施した単層膜物性の評価を行う方法である。そして、実際に配線を形成せずに評価が行えることから、開発時間やコストを縮小できる。
【非特許文献1】Journal of the Korean Physical Society, Vol. 40, No. 1, January 2002, pp.94〜98
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、Cu/Low-k配線を形成した際に起きるLow-k材の劣化は、配線を形成する多段階の加工を経る中に、順次、蓄積されて行く。従って、劣化要因は複合的で複雑である。よって、単一材料の薄膜に、加工工程で加えられる処理から任意に一つの処理を選択し、同様の処理を施した単一膜の膜物性の評価(以下、単一膜物性の評価とも言う。)に際しては、配線形成後に実際に発生するLow-k材の劣化を忠実に再現することは困難な場合が多いことが判って来た。
【0009】
又、単一膜物性の評価においては、再現することが困難な加工工程が存在する。例えば、CMP保護膜(キャップ層)又はハードマスク層をlow-k材上に積層する工程やCMP工程などの積層構造を前提とする工程である。すなわち、このような場合のLow-k材の劣化は、積層構造が形成された後に初めて判明するものであったり、又、積層構造を通して間接的に構造内部に存在するlow-k材に蓄積される種類のものである。そして、単一膜物性の評価では、積層構造で発生する現象の再現は実質的に不可能である。
【0010】
従って、本発明が解決しようとする課題は、配線形成過程に起きる膜物性値変化を、再現性と簡便性とを両立して追跡できる技術を提供することである。例えば、配線間絶縁膜としての積層されたLow-k材の加工による劣化を判断する基準となる物性、特に比誘電率(以下、「抽出k値」とも言う。)を正確に求め、Low-k材の膜特性を的確に評価できる技術を提供することである。或いは、半導体デバイスにおける配線間絶縁膜の加工工程、特にプラズマを使用する工程、CMP保護膜を形成する工程、CMP工程における研磨加工によるLow-k材の劣化に関する定量的な情報を得る評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題についての検討が本発明者によって鋭意推し進められていく中で、配線構造中の部分構造に着目し、所望のLow-k層とその周辺膜を含む複合膜を測定試料としてLow-k材の中の特定のLow-k層の抽出k値を得る方法が、再現性と簡便性を両立する評価方法になるに至った。
【0012】
すなわち、これまで単一膜では再現することが困難であったCMP保護膜を形成する工程やCMP工程のプロセスダメージは、Low-k材上にキャップ層を形成した複合膜から別途得られたキャップ層単層の比誘電率を引用し、計算上、除外することで、積層膜中のLow-k層の比誘電率を得ることによって適正に評価できることが判った。
【0013】
尚、キャップ層とは、例えば図2(a)中の膜Cを指し、膜Cは複合膜であっても、或いは単一膜であっても良い。膜Cは、複合膜中、比誘電率を評価する目的の層とは異なる層を指す。
【0014】
複合膜から、計算上、キャップ層を除外することにより、Low-k層の比誘電率を抽出・決定する方法は式(1)に従う。以下、複合膜は、例えばキャップ層とLow-k層とが積層した2層構造である場合(図1参照)を例に挙げる。
式(1)
複合膜中のLow-k層の比誘電率k(Low-k層)=k(複合膜)・k(キャップ層)・MLd(Low-k層)/{k(キャップ層)・d(複合膜)−k(複合膜)・MLd(キャップ層)}
但し、式(1)中、k(X)はX層の比誘電率、MLd(X)は複合膜中のX層の膜厚、C(X)はX層の容量、d(複合膜)は複合膜の厚さであり、Xは複合膜、キャップ層、又はLow-k層の何れかを表す。
【0015】
尚、上記の式(1)は、複合膜、キャップ層及びLow-k層について得た下記の式(3)を下記の式(2)に代入し、k(Low-k層)について展開することで得られる。
式(2)
1/C(複合膜)=1/C(キャップ層)+1/C(Low-k層)
式(3)
C(X)=k(X)・S/d(X)
尚、式(2)は容量の直列合成に関する容量の基本式であり、式(3)は容量と比誘電率及び電極間隔の関係に関する基本式である。
但し、式(2),(3)中、k(X)はX層の比誘電率、d(X)はX層の膜厚、C(X)はX層の容量、Sは容量測定の電極面積であり、Xは複合膜、キャップ層、又はLow-k層の何れかを表す。
【0016】
すなわち、複合膜から計算上キャップ層を除外することで、Low-k層の比誘電率を抽出するには、式(1)では、特性値として、複合膜中のキャップ層及びLow-k層の膜厚を正確に測定した値を求める必要がある。
【0017】
ところで、複合膜にあっては、構造中に異種界面が存在する。この界面の位置を判別することは困難である。例えば、上記キャップ層とLow-k層からなる複合膜の場合、キャップ層とLow-k層とが共にSi原子を含有する組成の膜である時、複合膜中の各層の厚さを決定するに際し、その両者が接する界面位置を正確に把握し、各層に分離することは困難である。なぜならば、キャップ層に接するLow-k層は、キャップ層を形成する際にプロセスダメージを受けることによって膜質が変化し、キャップ層に近い膜質に変化する。この膜質の変化がキャップ層とLow-k層の界面を不明瞭にする要因であると推定している。実際、複合膜の膜厚を測定する方法として、汎用的に使用されている分光エリプソメトリー法は有効であるが、上述のような界面が不明瞭となる複合膜の材質や積層構造の組み合わせでは、各層の分離及び膜厚を決定することが困難であった。
【0018】
このような問題点についての検討が本発明者によって鋭意推し進められて行く中で、10nm以下の波長の電磁波を使用した膜厚測定方法によったならば解決できることが判って来た。すなわち、10nm以下の波長の電磁波を使用した膜厚測定方法を組み合わせた場合、複合膜から所望の層の比誘電率を抽出する際の計算精度の向上や、適用できる複合膜中の各層材質の組み合わせの拡充が達成され、各加工工程における比誘電率変化を簡便、かつ、広範囲に亘って測定できることが確認できた。
【0019】
本発明は上記知見に基づいて達成されたものである。
【0020】
すなわち、前記の課題は、
基板上に膜C,Cが順に積層されてなる複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法であって、
基板上に膜C,Cを順に積層して設けるC−C成膜工程と、
基板上に膜Cを設けるC成膜工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、
前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程
とを具備することを特徴とする複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法によって解決される。
【0021】
又は、基板上に膜C,C,Cが順に積層されてなる複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法であって、
基板上に膜C,C,Cを順に積層して設けるC−C−C成膜工程と、
基板上に膜Cを設けるC成膜工程と、
基板上に膜Cを設けるC成膜工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、
前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、
前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程
とを具備することを特徴とする複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法によって解決される。
【0022】
或いは、基板上に膜が順に複数積層されてなる複合膜における任意の膜Cの比誘電率を求める方法であって、
基板上に前記複合膜を設ける複合膜成膜工程と、
基板上に前記任意の膜C以外の膜を一つずつ設ける単一膜成膜工程と、
前記複合膜成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、
前記単一膜成膜工程で得た膜C以外の単一膜の比誘電率k(単一膜)を各々求める工程と、
前記複合膜成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、
前記複合膜成膜工程で得た複合膜における各々の膜の厚さd(単一膜)を求める工程
とを具備することを特徴とする複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法によって解決される。
【0023】
若しくは、積層された複合膜における任意の膜Cの膜特性を求める方法であって、
前記積層された複合膜の特性値から前記膜C以外の部分の特性値を差し引きして除外する
ことを特徴とする膜特性を求める方法によって解決される。
【0024】
又は、積層された複合膜における任意の膜Cの膜特性を求める方法であって、前記積層された複合膜の特性値から前記膜C以外の部分の特性値を差し引きして除外するに際して、任意の加工条件における膜Cの特性値と他の任意の加工条件における膜Cの特性値とを比較あるいは差分を行い、加工条件による特性値の変化により膜Cの加工特性を評価することを特徴とする膜特性を求める方法によって解決される。
【0025】
前記膜特性は、特に、比誘電率である。そして、比誘電率を求めるに際して、膜厚は10nm以下の波長の電磁波を用いた測定方法(例えば、XRR(X線反射率測定)法)により求められるのが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、例えば複合膜中に含まれるLow-k層の比誘電率が正確に得られる。例えば、配線間絶縁膜としてのLow-k層がCu/Low-k配線加工過程で受けるプロセスダメージの評価基準となる比誘電率が正確に求められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は膜特性を求める方法である。例えば、比誘電率を求める方法である。すなわち、基板上に膜C,Cが順に積層されてなる複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法である。そして、基板上に膜C,Cを順に積層して設けるC−C成膜工程と、基板(前記基板と同様な基板)上に膜C(前記複合膜C,Cにおける膜Cと同様な膜C)を設けるC成膜工程と、前記C−C成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、前記C成膜工程で得た膜Cの比誘電率k(C膜)を求める工程と、前記C−C成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、前記C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、前記C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程とを具備する。或いは、基板上に膜C,C,Cが順に積層されてなる複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法である。そして、基板上に膜C,C,Cを順に積層して設けるC−C−C成膜工程と、基板(前記基板と同様な基板)上に膜C(前記複合膜C,C,Cにおける膜Cと同様な膜C)を設けるC成膜工程と、基板(前記基板と同様な基板)上に膜C(前記複合膜C,C,Cにおける膜Cと同様な膜C)を設けるC成膜工程と、前記C−C−C成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、前記C−C−C成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程とを具備する。若しくは、基板上に膜が順に複数積層されてなる複合膜における任意の膜Cの比誘電率を求める方法である。そして、基板上に前記複合膜を設ける複合膜成膜工程と、基板(前記基板と同様な基板)上に前記任意の膜C以外の膜を一つずつ設ける単一膜成膜工程と、前記複合膜成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、前記単一膜成膜工程で得た膜C以外の単一膜の比誘電率k(単一膜)を各々求める工程と、前記複合膜成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、前記複合膜成膜工程で得た複合膜における各々の膜の厚さd(単一膜)を求める工程とを具備する。前記工程において、比誘電率は、市販のHgプローブやWLRプローバを用いて容量Cを測定することで求められる。又、前記工程において、膜厚は、分光エリプソメトリやX線分析装置、特に、光源に10nm以下の波長の電磁波を用いたX線反射率測定法(XRR法)、蛍光X線膜厚測定方法(XRF法)、X線回折測定法(XRD法)や陽電子消滅法を用いた測定装置で求めるのが好ましい。
【0028】
又、本発明の膜特性を求める方法は、積層された複合膜における任意の膜Cの膜特性を求める方法である。そして、前記積層された複合膜の特性値から前記膜C以外の部分の特性値を差し引きして除外する方法である。尚、上記において求めた任意の加工条件における膜Cの特性値と他の任意の加工条件における膜Cの特性値とを比較あるいは差分を行い、加工条件による特性値の変化により膜Cの加工特性を評価する方法である。膜特性は、特に、比誘電率である。そして、膜厚は、特に、10nm以下の波長の電磁波を用いた測定方法により求められるものである。
【0029】
本発明において、膜は、特に、半導体デバイスにおける配線間絶縁膜である。そして、複数の膜が積層された複合膜である。この複合膜における任意の膜における特性を求める(決定する)方法である。求めようとする特性の膜以外の膜は、単一膜であったり、複合膜であったりする。膜は如何なるものであっても良い。例えば、所謂、Low-k材が好ましい例として挙げられる。特に、比誘電率が3.2以下のLow-k材が好ましい例として挙げられる。中でも、構成元素中、20%以上の炭素原子が含まれる膜である。
【0030】
以下、更に詳しく説明する。
図2及び図3は、本発明で用いられる複合膜B中の該膜Aの比誘電率を膜A以外の部分を除外して求めるに際しての概念図である。図2(a)は複合膜Bが2層構造である場合を表し、図2(b)は複合膜Bが3層構造である場合を表す。図3は複合膜Bが4層以上の場合を表す。膜Aの上部に積層された構造全体を膜Cと見做し、膜Aの下部に積層された構造全体を膜Cと見做すことにより、複合膜Bは、実際は4層以上の層構造であったとしても、図3(a)に示される3層構造に帰属させることが出来る。その結果、図3(b)に示される複合膜Bが3層構造である場合に適用され、該膜Aの比誘電率を抽出できる。
【0031】
複合膜Bから膜A以外の部分の構造を計算上除外することで、膜Aの比誘電率を抽出し決定する方法は、各膜A、複合膜B、膜C、膜Cについて、比誘電率と膜厚とを入力した式(5)を、各々、式(4)に代入し、k(膜A)について展開することで得ることができる。
式(4)
1/C(複合膜)=1/C(膜A)+1/C(膜C)+1/C(膜C
式(5)
C(X)=k(X)・S/d(X)
但し、式(4),(5)中、k(X)はX層の比誘電率、d(X)は複合膜B中のX層の膜厚、C(X)はX層の容量、Sは容量測定の電極面積であり、Xは膜A、複合膜B、膜C、膜Cの何れかを表す。膜C及び膜Cは、複合膜B中、膜Aを含まない部分構造を表し、膜Cは膜Aの上部に積層された単一膜又は複合膜であり、膜Cは膜Aの下部に積層された単一膜又は複合膜を表す。
【0032】
用いられる測定サンプルとして、Low-k層上にプラズマ処理及びキャップ層被覆工程を実施した複合膜を例示(図4参照)する。
先ず、初めに、Si基板を準備し、該Si基板上に膜Aを成膜する。これを、膜1(下地膜無し)とする。若しくは、Si基板上に、CVD装置を用いてCVD膜を形成した後に、該CVD膜上に膜Aを形成する。この場合、該CVD膜を下地膜と標記する。これを膜1(下地膜有り)とする。次に、下地膜無し(又は有り)の該膜1に、CVD装置を用い、RFパワーと処理時間とを適宜選択し、ヘリウムプラズマ処理を実施する。これを膜2とする。最後に、該膜2にCVD装置を用い、キャップ層を被覆し、複合膜Bを作成した。又、別途、Si基板上に、CVD装置を用い、上記と同条件でキャップ層を成膜した。これを膜3とする。又、複合膜Bに下地膜を使用した場合には、別途、Si基板上に、CVD装置を用い、上記と同条件で下地膜を成膜した。これを膜4とする。
【0033】
上記膜Aの成膜方法には格別の制限は無い。例えば、スピンオン法やPE−CVD法で成膜されたものを好適に使用できる。又、キュア方法にも格別の制限は無い。例えば、熱キュア、UVキュア、EBキュア、プラズマキュア等を好適に使用できる。
【0034】
上記膜Aは、その材質に制限はないものの、Low-k材が好ましく使用される。特に、比誘電率が3.2以下のLow-k材が好ましく使用される。中でも、構成元素中、20%以上の炭素原子が含まれるものが好ましい。その理由は次の通りである。すなわち、炭素原子は軽元素である為、膜密度を低減する為に好適に使用される。そして、他の原子間結合によってもたらされる分子構造が、分子内もしくは分子間空孔を形成するのに適しており、膜密度を低減するのに適しているからである。一例として、炭素元素を20%以上(80%以下)含有し、かつ、Si元素を20%以上(80%以下)含有する材質、炭素元素を50%以上含有する材質が好適な例として挙げられる。上記組成は、分子内もしくは分子間空孔を形成するのにより好適な組成であり、膜密度を低減するのにより効果的である。
【0035】
上記膜Aの膜厚に格別な制限はない。しかしながら、特に10nm以下の波長の電磁波を用いた膜厚測定方法の精度を鑑みた場合、約1nmから約1000nmの膜厚のものであることが好ましい。軟X線程度から波長10nm以下の波長の電磁波を用いた膜厚測定方法の精度を鑑みた場合、約5nmから約300nmの膜厚のものが好適に使用することができる。更に、X線程度から軟X線程度の波長の電磁波を用いた膜厚測定方法の精度を鑑みた場合、約2nmから約500nmの膜厚のものが好適に使用することができる。X線程度以下の短波長の電磁波を用いた膜厚測定方法の精度を鑑みた場合、約1nmから約1000nmの膜厚のものが好適に使用することができる。
【0036】
上記下地膜には材質や成膜方法に格別な制限はない。例えば、スピンオン法やPE−CVDで成膜されたものが好適に使用できる。材質に関しては、半導体素子に採用されるものが好適に使用できる。例えば、SiO,SiC,SiCN,SiON,SiOCH,SiCOH,CONH,COH,CH等が挙げられる。又、これらの材質を複数組み合わせても良い。
【0037】
上記キャップ層には材質や成膜方法に格別な制限はない。例えば、スピンオン法やPE−CVDで成膜されたものが好適に使用できる。材質に関しては、半導体素子に採用されるものが好適に使用できる。例えば、SiO,SiC,SiCN,SiON,SiOCH,SiCOH,CONH,COH,CH等が挙げられる。又、これらの材質を複数組み合わせても良い。
【0038】
そして、該膜1から膜4及び複合膜Bが適宜な直径・厚みのSiウエハ上に積層された状態において、各膜の容量(Capacitance)を測定する。用いる測定機器には、市販のHgプローブやWLRプローバが好適に使用できる。ウエハの形状・厚みには格別な制限は無い。円形でも良く、分割したものであっても良い。すなわち、測定機器の電極を安定して接地することが出来る条件(例えば、面積)を有しておれば、ウエハの形態を問われ無い。
【0039】
次に、該膜1から膜4及び複合膜Bにおける各膜の膜厚を測定する。用いる測定機器は、市販の分光エリプソメトリやX線分析装置が好適に使用できる。膜厚を決定する際の解析方法に関しては、複合膜Bについては、2層以上を仮定したモデル解析を行い、Low-k層とキャップ層とを分離し、複合膜中の各層の膜厚を決定する。膜1から膜4については、1層以上を仮定したモデル解析を行い、各膜厚を決定する。膜厚測定の方法には格別な制限は無い。しかしながら、上述した通り、光源に10nm以下の波長の電磁波を用いたもので測定する方法が特に好ましい。例えば、光源にX線を使用したX線反射率測定法(XRR法)、蛍光X線膜厚測定方法(XRF法)、X線回折測定法(XRD法)や陽電子消滅法が挙げられる。
【0040】
上記モデル解析には、そのモデル(層)数に格別な制限は無い。但し、複合膜B中、同一材質の層について、少なくとも2層以上のモデル設定をすることが好ましい。より好ましくは3層以上のモデル設定をすることが好ましい。例えば、上記複合膜Bが、Si基板/膜A/C膜の2層積層構造の場合、膜Aを3層モデル、C膜を2層モデルとして設定した合計5層モデルが挙げられる。図5に、複合膜Bが、Si基板/Low-k-Y層(ポーラス性MSQ)/p−SiOキャップ層の2層積層構造の場合で、Low-k-Y層を3層モデル、p−SiOキャップ層を2層モデルとして設定した合計5層モデルを適用し、XRR法で決定した各層膜厚と密度分布を示す(図5参照)。
【0041】
上記で得られた膜3の容量と膜厚を用い、式(6)から、k(膜3)を求める。又、上記で得られた膜4の容量と膜厚を用い、式(7)から、k(膜4)を求める。同様に、上記で得られた複合膜Bの容量と膜厚を用い、式(8)から、k(複合膜B)を求める。
式(6)
C(膜3)=k(膜3)・S/d(膜3)
式(7)
C(膜4)=k(膜4)・S/d(膜4)
式(8)
C(複合膜B)=k(複合膜B)・S/d(複合膜B)
但し、d(複合膜B)は、複合膜Bの全体膜厚、即ち、キャップ層、膜A及び下地膜の合計膜厚を表す。C(複合膜B)は複合膜Bの全体容量、即ち、キャップ層、膜A、及び下地膜の直列合成容量を表す。
【0042】
上記で得られたk(膜3)、k(膜4)、k(複合膜B)、d(複合膜B)及び複合膜B中の各層の膜厚を用い、式(9)または式(10)から複合膜中のLow-k層の比誘電率を求める。
<複合膜Bがキャップ層/膜A/下地膜/Si基板の場合>
式(9)
複合膜B中の膜Aの比誘電率k(膜A)=k(複合膜B)・k(膜3)・k(膜4)・d(膜A)/{k(膜3)・k(膜4)・d(複合膜B)−k(複合膜B)・k(膜3)・d(下地膜)−k(複合膜B)・k(膜4)・d(キャップ層)}
<複合膜Bがキャップ層/膜A/Si基板の場合>
式(10)
複合膜B中の膜Aの比誘電率k(膜A)=k(複合膜B)・k(膜3)・d(膜A)/{k(膜3)・d(複合膜B)−k(複合膜B)・d(キャップ層)}
但し、d(X)は複合膜B中のX膜の膜厚、Xはキャップ層、膜A、或いは下地膜を表す。
【0043】
複合膜Bが4層以上の膜で構成されている場合、膜Aの上部に積層された構造全体をキャップ層と看做し、膜Aの下部に積層された構造全体を下地膜と看做すことで、該複合膜Bは3層構造に帰属させることが出来る。
すなわち、式(9)に従って膜Aの抽出k値を得ることが出来る。
但し、この抽出k値は、単層膜評価によって得られる値と異なり、積層した複合膜中のk値であり、現実的で正確な比誘電率を与えるものである。従って、この抽出k値を基にして、異なるLow-k材料間の特性を正しく比較できる。そして、抽出k値の値を、膜Aを含む複合膜について、膜Aに対して表面処理をしないまま積層を続けた場合の抽出k値を求め、更に膜Aに対してプラズマなどの表面処理を施した抽出k値を求めれば、その差分はプロセスによって受けたLow-k材料のダメージを意味するものとなり、Low-k材料のダメージの評価が可能となる。
又、上記したのと同様な手順を経ることで、基板上に膜C1,Cが順に積層されてなる複合膜において、膜Cの比誘電率を求めることが可能である。例えば、図4中、膜1(下地膜有り)において、下地膜が膜C1、膜AがCの場合、上部に存在する膜Aの比誘電率を求めることが出来る。この場合、図4中、膜1(下地膜無し)と比較することで、膜Aが下地膜から受ける影響を見積もることが出来る。
【0044】
以下、具体的な実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものでは無い。
先ず、膜1を準備した。すなわち、直径300mmの低抵抗Si基板(抵抗値0.001Ω程度)を準備し、該Si基板上に比誘電率2.20のLow-k層Y(ポーラス性MSQ)をスピンオン法により塗付し、続いてファーネスキュア装置を用いた熱キュアを実施して、膜厚100nmのLow-k層Y(ポーラス性MSQ)を成膜した。又、該Si基板上にCVD装置を用いて下地膜としてのp−SiCN膜、p−SiOCH膜、p−SiCOH若しくはp−SiC膜を形成した後、該下地膜上に上記Low-k層Y(ポーラス性MSQ)を同条件で成膜した。又、更に、CVD装置を用い成膜した比誘電率3.05のCVD膜(Low-k層Z)を成膜した。
【0045】
次に、膜4を準備した。該膜1の下地膜に対応した膜4を、CVD装置を用い、該膜1で使用した条件で該Si基板上に成膜した。
【0046】
次に、膜2を準備した。下地無し(又は有り)の該単層膜1に、CVD装置を用いてヘリウムプラズマ処理を施した。プラズマ処理の条件は、RFパワー100W(又は300W)で、処理時間を0秒(処理無し)、10秒、20秒、30秒間である。
【0047】
続いて、複合膜Bを準備した。すなわち、該膜2上に、キャップ層として、CVD装置を用いてp−SiO膜、p−SiOCH膜、p−SiC膜、p−SiCN膜、若しくはp−SiOCHとp−SiCとの複合膜を膜厚40nmで被覆し、複合膜Bを作成した。
【0048】
更に、膜3を準備した。該複合膜Bのキャップ層に対応した膜3を、CVD装置を用いて、複合膜Bで使用した条件で該Si基板上に成膜した。
【0049】
次に、該膜3、膜4及び複合膜Bの容量を測定した。すなわち、Four Dimensions社製Hgプローブ(CVmap3092A)、及びAgilent社製LCRメータ(HP 4285A)を用いて容量を測定した。
【0050】
続いて、該膜3、膜4及び複合膜Bの膜厚を測定した。すなわち、Bede社製BedeMetrix−L X−Ray Toolを使用し、XRR(X線反射率測定)法にて実施した。複合膜Bについては、5層モデル解析を行い、Low-k層とキャップ層とを分離し、複合膜中の各層の膜厚を決定した。膜3及び膜4については、3層モデル解析を行い、膜厚を決定した。
【0051】
最後に、複合膜B中の膜Aの比誘電率を決定した。下地膜を使用した場合には上記式(9)に従い、下地膜を使用しなかった場合には上記式(10)に従い、複合膜B中の膜Aの比誘電率を得た。
【0052】
表1に、上記のようにして得た複合膜B中の膜Aの抽出k値を示す。
【0053】
例えば、Low-k層Yの単層膜の比誘電率は2.20(Ref.1)であるので、p−SiO(膜厚40nm)のキャップ層を設けた場合のk値上昇分は、実施例17の抽出k値と比較すれば、0.16であることが判る。すなわち、現実の膜特性値として現実的かつ正確な値を表示していると謂える。又、実施例17と実施例3との抽出k値を比較すれば、ヘリウムプラズマ処理による影響は、その差分0.05で表現できる。すなわち、Low-k層Yは、予めヘリウムプラズマ処理を施してからp−SiO(膜厚40nm)のキャップ層を設けた場合の方が、ヘリウムプラズマ処理を施すこと無しにp−SiO(膜厚40nm)のキャップ層を設けた場合に比べて、Low-k層Yが受けるダメージは軽減されていることを理解できる。
【0054】
表1


【0055】
表2に昇温脱離ガス分析(TDS)法による含水量の分析結果を示す。
上記方法により作成したサンプルを、温度24度、湿度45%の雰囲気下で6日間放置した後に、昇温脱離ガス分析法により、該サンプルの表面温度180度において得られたM/z18の検出強度を表記した。
【0056】
すなわち、Low-k層Yの単層膜にヘリウムプラズマ処理を施した実施例21と、Low-k層Yの単層膜にヘリウムプラズマ処理を施し、更にp−SiO(膜厚40nm)のキャップ層を設けた実施例20からp−SiO(膜厚40nm)のキャップ層単層膜(比較例4)を差し引いたものを比較することで、Low-k層Yに対するキャップ層デポの影響を知ることが出来る。すなわち、{(1.92E-10)−(1.16E-10)}−(1.18E-12)=差分7.5E-11がキャップ層デポの影響による含水量増加分を示す。
【0057】
表2

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】キャップ層とLow-k層との積層複合膜Bの容量及び各層膜厚測定の説明図
【図2】複合膜Bから所望の膜Aを抽出する説明図
【図3】4層以上の積層構造の3層構造帰属化および所望の膜Aを抽出する説明図
【図4】下地膜の作成、及びLow-k層上にプラズマ処理およびキャップ層被覆工程を示す説明図
【図5】5層モデルを適用してXRR法で決定した各層膜厚と密度分布図 特許出願人 次世代半導体材料技術研究組合 代 理 人 宇 高 克 己

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に膜C,Cが順に積層されてなる複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法であって、
基板上に膜C,Cを順に積層して設けるC−C成膜工程と、
基板上に膜Cを設けるC成膜工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、
前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、
前記C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程
とを具備することを特徴とする複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法。
【請求項2】
基板上に膜C,C,Cが順に積層されてなる複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法であって、
基板上に膜C,C,Cを順に積層して設けるC−C−C成膜工程と、
基板上に膜Cを設けるC成膜工程と、
基板上に膜Cを設けるC成膜工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、
前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、
前記C成膜工程で得た膜の比誘電率k(C膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程と、
前記C−C−C成膜工程で得た複合膜における膜Cの厚さd(C膜)を求める工程
とを具備することを特徴とする複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法。
【請求項3】
基板上に膜が順に複数積層されてなる複合膜における任意の膜Cの比誘電率を求める方法であって、
基板上に前記複合膜を設ける複合膜成膜工程と、
基板上に前記任意の膜C以外の膜を一つずつ設ける単一膜成膜工程と、
前記複合膜成膜工程で得た複合膜の比誘電率k(複合膜)を求める工程と、
前記単一膜成膜工程で得た膜C以外の単一膜の比誘電率k(単一膜)を各々求める工程と、
前記複合膜成膜工程で得た複合膜の厚さd(複合膜)を求める工程と、
前記複合膜成膜工程で得た複合膜における各々の膜の厚さd(単一膜)を求める工程
とを具備することを特徴とする複合膜における膜Cの比誘電率を求める方法。
【請求項4】
積層された複合膜における任意の膜Cの膜特性を求める方法であって、
前記積層された複合膜の特性値から前記膜C以外の部分の特性値を差し引きして除外する
ことを特徴とする膜特性を求める方法。
【請求項5】
請求項4において求めた任意の加工条件における膜Cの特性値と他の任意の加工条件における膜Cの特性値とを比較あるいは差分を行い、加工条件による特性値の変化により膜Cの加工特性を評価する
ことを特徴とする膜特性を求める方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5の膜特性が比誘電率である
ことを特徴とする膜特性を求める方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6いずれかにおいて、10nm以下の波長の電磁波を用いた測定方法により膜の厚さを求める
ことを特徴とする膜特性を求める方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−206138(P2009−206138A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44320(P2008−44320)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(504371594)次世代半導体材料技術研究組合 (82)
【Fターム(参考)】