説明

膜硬度計測方法及び成膜装置

【課題】容易かつ高精度に膜硬度を計測する膜硬度計測方法及び成膜装置を提供する。
【解決手段】QMS20により、放電中のプラズマにおけるイオン種を計測し、計測された電流値からH=1、C=12という事実を用いてイオン種の質量と定義し、この質量を、水素流量比0、パルス周波数20kHzという条件での値で除することでイオン種の総質量比として算出した。上記水素流量比及びパルス周波数の条件下でDLC膜が生成されると、チャンバ11内を大気圧に戻し、この生成されたDLC膜に対して、ラマン分光分析装置30によりレーザー光を照射し、散乱したラマン散乱光を検出することで生成膜中の規則性六員環の多さを示すDピークとGピークの積分強度比ID/IGを算出した。生成された各々のDLC膜の硬度を、QMS20により算出されたイオン種の総質量比と、ラマン分光分析装置30により算出された積分強度比と、に基づいて計測した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ化学蒸着法により生成されたダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測する膜硬度計測方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質炭素膜であるダイヤモンド状炭素(DLC:Daimond−Like Carbon)膜を生成するものとして、スパッタリング装置やプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)成膜装置が広く用いられている。プラズマCVD成膜装置により生成されたDLC膜は非常に薄いので、このDLC膜の硬度を測定するには、従来からナノインテンダーを用いるのが一般的であった(特許文献1参照)。
【0003】
また、DLC膜質を分析する方法しては、分析対象に対してレーザー光を照射し、散乱したラマン散乱光を検出するラマン分光法が用いられる(特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−348350号公報
【特許文献2】特開2004−103108号公報
【特許文献3】特開平4−329879号公報
【特許文献4】特開平8−27576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記ナノインテンダーによる膜硬度の測定方法は、ミクロンオーダーの範囲でDLC膜に軽荷重を加えることで硬度を測定するため、測定のバラツキが大きく、多くの測定点数が必要であった。一方で、測定のバラツキを抑えるためには、DLC膜に加える荷重を増やすことも可能ではあるが、荷重を増やしてしまうとDLC膜ではなく、DLC膜が生成された基板の硬度を計測してしまうので計測精度面で問題が生じた。加えて、このナノインテンダーによる測定方法では、測定環境の整備に時間と慎重を要し、それ故に、当該DLC膜の硬度測定に時間を要するものであった。
【0006】
また、プラズマCVD成膜装置によりDLC膜を成膜するには一般的に減圧下で行われるので、このDLC膜の硬度を測定する場合には、成膜後、プラズマCVD成膜装置のチャンバ内を大気圧に戻し、この成膜したサンプルをチャンバ外へ取り出す必要が生じる。ここで、チャンバ外に取り出されたDLC膜の硬度を測定した際に、膜の硬度が所望の値にない状態であれば、再度チャンバ内に基板を配置し、真空引き後、減圧下で成膜を行わなければならず、多大な手間と時間を要していた。
【0007】
なお、ラマン分光法によりDLC膜を分析する方法では、ラマン散乱光と入射光との振動数の差異により膜質を調べることはできるが膜硬度を測定することはできなかった。
【0008】
本発明は上記課題を解消するために提案されたものであって、その目的は、容易かつ高精度に膜硬度を計測する膜硬度計測方法及び成膜装置を提供することにある。また、本発明は、膜硬度の測定環境を整備することなく、膜硬度の自動算出を可能とし、さらに、所望の膜硬度に制御可能な成膜装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測する膜硬度計測方法であって、四重極質量フィルタを用いて、合成中の前記ダイヤモンド状炭素膜の所定のイオン種の質量を計測し、ラマン分光分析により前記ダイヤモンド状炭素膜のDピークとGピークによる積分強度比を検出し、前記イオン種の質量と前記積分強度比に基づいて前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、チャンバ内に原料ガスを装填し、当該チャンバ内に配設された電極間に高周波電圧を印加し、プラズマを発生させることでダイヤモンド状炭素膜を生成する成膜装置であって、四重極質量フィルタを用いて、前記電極間で放電中の所定のイオン種の質量を計測する四重極質量分析装置と、前記ダイヤモンド状炭素膜をラマン分光分析するラマン分光分析装置と、過去に計測した前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度である実測膜硬度を基準とし、膜硬度の算出対象となる対象ダイヤモンド状炭素膜の前記四重極質量分析装置により計測されるイオン種の質量と前記ラマン分析装置により検出される積分強度比の値に応じて、当該対象ダイヤモンド状炭素膜の硬度を算出する膜硬度演算部と、を備える態様も包含する。
【0011】
また、本発明は、チャンバ内に原料ガスを装填し、当該チャンバ内に配設された電極間に高周波電圧を印加し、プラズマを発生させることでダイヤモンド状炭素膜を生成する成膜装置であって、四重極質量フィルタを用いて、前記電極間で放電中の所定のイオン種の質量を計測する四重極質量分析装置と、前記ダイヤモンド状炭素膜をラマン分光分析するラマン分光分析装置と、前記四重極質量分析装置により計測された前記イオン種の質量と、前記ラマン分析装置により計測されたDピークとGピークによる積分強度比と、に基づいて前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測する膜硬度計測部と、を備える態様も包含する。
【0012】
また、本発明は、前記膜硬度計測部により計測された前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度である実測膜硬度を基準とし、膜硬度の算出対象となる対象ダイヤモンド状炭素膜の前記四重極質量分析装置により計測されるイオン種の質量と前記ラマン分析装置により検出される積分強度比の値に応じて、当該対象ダイヤモンド状炭素膜の硬度を算出する膜硬度演算部を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記チャンバは外部光を透過する窓部を有し、当該窓部を介して前記ダイヤモンド状炭素膜にラマン分光を照射する前記ラマン分光分析装置の照射部を前記チャンバの外部に配置することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記膜硬度演算部により算出された前記対象ダイヤモンド状炭素膜の硬度と所定の閾値とを対比し、その対比結果に基づいて当該ダイヤモンド状炭素膜の生成に関する成膜条件を調整する成膜条件調整部を備えることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記電極に繋がるパルス電源を備え、前記パルス電源のパルス周波数と前記ダイヤモンド状炭素膜の成膜速度との所定の関係式に基づいて、前記パルス電源のパルス周波数を所望の成膜速度に応じた値に調整するパルス周波数調整部を備えることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、前記原料ガスは、炭化水素ガスと水素を含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明は、前記炭化水素ガスにアセチレンを用い、全ガス流量に対するアセチレンの含有量が略40%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
以上のような本発明によれば、容易かつ高精度に膜硬度を計測する膜硬度計測方法を提供することができ、また、膜硬度の測定環境を整備することなく膜硬度の自動算出を可能とし、さらに、所望の膜硬度に制御可能な成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る膜硬度演算部を備えた成膜装置の構成を示す全体構成図
【図2】本発明の実施形態に係る窓部を備えた成膜装置の構成を示す全体構成図
【図3】本発明の実施形態に係る膜硬度判定部及び成膜条件調整部を備えた成膜装置の構成を示す全体構成図
【図4】本発明の実施形態に係る膜硬度判定部及び成膜条件調整部の処理手順を示すフローチャート
【図5】本発明の実施形態に係るパルス周波数調整部を備えた成膜装置の構成を示す全体構成図
【図6】本発明の実施形態に係るパルス周波数と成膜速度との関係図
【図7】本発明の実施形態に係るガス流量調整部を備えた成膜装置の構成を示す全体構成図
【図8】本発明の実施形態に係るイオン種の総質量比と積分強度比と膜硬度との関係図(1)
【図9】本発明の実施形態に係るイオン種の総質量比と積分強度比と膜硬度との関係図(2)
【発明を実施するための形態】
【0020】
[本実施形態]
[1.構成]
次に、本発明の実施形態(以下、本実施形態と称する。)に係る成膜装置の構成について、図1〜7を参照して以下に説明する。
【0021】
本実施形態に係る成膜装置は、図1に示す通り、原料ガスが注入される成膜室であるチャンバ11内にカソード・アノード電極(図示しない)と成膜対象となる基板12を配置し、さらに、このチャンバ11外には、上記電極に接続される電源13aと、図示しないが、チャンバ11内を真空にするための真空機構と、が配設され、プラズマCVD成膜装置を構成する。また、後述する四重極質量分析装置(QMS:Quadrupol Mass Spectrometer)20を用いてイオン種の質量を測定するために、さらにチャンバ11内のガスを吸引するターボ分子ポンプ14と、その排気系であるロータリーポンプ(R.P.)15と、チャンバ11内の真空度を計測する真空計16と、が配設されている。なお、チャンバ11からQMS20、真空計16、ターボ分子ポンプ14に通じる配管にはバルブが設けられ、また、ターボ分子ポンプ14とロータリーポンプ15との間にも外気と繋がるバルブが設けられている。さらに、チャンバ11には、炭化水素ガスと水素ガスからなる原料ガスの導入路及び排気路であるガス導入管及びガス排気管が設けられている。
【0022】
ここで、本実施形態では、上記のような構成を有するプラズマCVD成膜装置に、QMS20と、ラマン分光分析装置30と、制御装置40と、を装備する構成に特徴を有している。
【0023】
QMS20は、イオン源で生じたイオンを四重極質量フィルタに投入し、所望のイオンのみを通過させることで、各イオン種の質量を測定するものであり、本実施形態では、このQMS20を利用することでDLC膜の合成中に各イオン種の質量を測定する。
【0024】
ラマン分光分析装置30は、一般的なものと同様であり、生成されたDLC膜に対してレーザー光を照射し、散乱したラマン散乱光を検出することでDピークとGピークの積分強度比を取得する。つまり、取得した散乱光であるラマンスペクトルを取得し、これに対しガウス関数を用いてDピークとGピークに分離することで、積分強度比であるID/IGを取得する。なお、このラマン分光分析装置20は、通常、チャンバ11外に取り出したDLC膜に対してレーザー光を照射し、ラマン散乱光を検出することで積分強度比ID/IGを取得する。
【0025】
制御装置40は、チャンバ11内に注入する原料ガスのガス流量、電極への電源13aの投入、ターボ分子ポンプ14を用いたチャンバ11内の真空度等の、本実施形態に係る成膜装置の各種動作を制御する機構(図示しない)に加え、所定の関係式に基づいて膜硬度を演算する膜硬度演算部41を備えている。
【0026】
この膜硬度演算部41が採用する所定の関係式とは、QMS20により計測されたイオン種の質量と、ラマン分光分析装置30により算出されたDピークとGピークの積分強度比ID/IGと、実測された膜硬度と、の関係式であり、後述するが、イオン種の質量を積分強度比ID/IGで除した値を基準に、実際にナノインテンダーを用いて初期値として計測したDLC膜の硬度から算出されるものである。つまり、膜硬度演算部41は、QMS20によりイオン種の質量が計測され、ラマン分光分析装置30により積分強度比ID/IGが算出されると、実測値から得られた所定の関係式に基づいて、自動的に膜硬度を演算するものである。
【0027】
また、本実施形態では、上記のような成膜装置の構成において、成膜室であるチャンバ11に窓部17を設ける形態も包含する。具体的には、図2に示す通り、チャンバ11外部に配設されたラマン分光分析装置30からのレーザー光がチャンバ11内の基板12を照射するように、窓部17を形成する。
【0028】
また、本実施形態では、電極に接続される電源13aとしてパルス電源13bを使用する形態も包含する(図2参照)。なお、これ以降では、電源13aにパルス電源13bを用いた実施形態で説明する。
【0029】
また、本実施形態では、制御装置40において、上述した膜硬度演算部41だけでなく、この膜硬度演算部41による演算結果に基づいて、演算された膜硬度が正常であるかを判定する形態を包含する。具体的には、制御装置40は、図3に示す通り、膜硬度演算部41により演算された膜硬度が正常値に相当する所定の閾値以上であるかを判定することで、当該膜硬度が正常であるかを判断する膜硬度判定部42と、膜硬度判定部42による正常か否かの判定結果に基づいて、パルス周波数、パルス電圧、パルス幅、チャンバ11内のガス圧、総ガス流量に対する水素流量比等を含む成膜条件を調整する成膜条件調整部43と、を備えている。
【0030】
例えば、図4のフローチャートに示すように、まず、膜硬度演算部41により、QMS20により計測されたイオン種の質量及びラマン分析分光装置30により計測された積分強度比ID/IGに基づいて、DLC膜の硬度が自動的に演算されると(S401)、膜硬度判定部42は、この演算された膜硬度が正常値に相当する所定の閾値以上であるかを判定する(S402)。膜硬度判定部42により膜硬度が所定の閾値以上であると判定されると(S402のYES)、当該膜硬度判定部42は演算された膜硬度が正常であると判定し、この膜硬度の判定処理は終了する。
【0031】
一方、膜硬度判定部42により膜硬度が所定の閾値を下回ると判定されると(S402のNO)、成膜条件調整部43は、演算された膜硬度が正常値となるようパルス周波数、パルス電圧、パルス幅、チャンバ11内のガス圧、総ガス流量に対する水素流量比等を含む成膜条件を調整する(S403)。
【0032】
より詳細には、この成膜条件調整部43は、パルス電源13bからパルス周波数、パルス電圧、パルス幅を取得しており、膜硬度判定部43により膜硬度が所定の閾値を下回ると判定された場合に、この取得したパルス周波数等が予め設定した所望の値であるかを判断し、所望の値でなかったパルス周波数等の条件を自動的に調整する。例えば、成膜条件調整部43は、膜硬度判定部42により膜硬度が所定の閾値を下回ると判定された際、パルス電源13bから取得したパルス電圧が設定値よりも低くなっていると判断すると、そのパルス電圧を上げるよう成膜条件を調整する。
【0033】
また、ガス圧や総ガス流量は、図示しないが、原料ガスのガスボンベに接続された圧力調整用バルブや流量調整バルブ等から取得し、成膜条件判定部43は、この取得したガス圧等が予め設定した所望の値であるかを判断する。なお、ガス流量の調整に関しては、後述するガス流量調整部45の構成で詳述する。
【0034】
そして、成膜条件調整部43により成膜条件が調整されると、膜硬度演算部41は、再度DLC膜の硬度を演算する。
【0035】
また、本実施形態は、図5に示す通り、パルス電源13bを用いるに伴い、制御装置40において、使用するパルス電源13bの各パルス周波数に応じた成膜速度の実測値を予め外挿しておき、この成膜速度の実測値とパルス周波数による関係式に基づいて、所望の成膜速度を得るようパルス電源13bのパルス周波数を調整するパルス周波数調整部44を備えている。
【0036】
特に、下記[数1]のようにプラズマ中のイオン種とラジカル種が全てexpに従うと表すことができるので、パルス電源13bを用いた際のパルス周波数と成膜速度の関係は、この[数1]を積分することで外挿した(一例として図6参照)。
【0037】
[数1]
y=y0exp(−λt)
ここで、yは、時刻tにおいて存在するイオン種やラジカル種の数
0、λは、係数とする。
【0038】
これにより、所望の成膜速度でDLC膜を成膜したい場合には、パルス周波数調整部44により、希望する成膜速度に応じたパルス電源13bのパルス周波数の範囲を設定することが可能となる。
【0039】
また、このパルス周波数調整部44は、成膜条件調整部43の一部として機能することも可能であり(図5では成膜条件調整部43と別に設けているが、成膜条件調整部43の内部に設けても可。)、その場合は、成膜条件調整部43のパルス周波数の制御機構として動作する。例えば、膜硬度が正常でなかった場合に行う膜硬度演算部41による再度の膜硬度の演算に際し、パルス周波数調整部44にて所望の成膜速度となるようパルス周波数を調整する。
【0040】
また、本実施形態では、総ガス流量に対する水素流量比が略60%である形態を包含する。より詳細には、図7に示す通り、制御装置40は、総ガス流量に対する炭化水素ガスの流量を制御するガス流量調整部45を備え、このガス流量調整部45が、全ガス流量中の炭化水素ガスの流量を制御することで、全ガス流量中の水素流量比を略60%に調整する。特に、ガス流量調整部45は、水素流量比を略60%に調整するためには、全ガス流量に対する炭化水素ガスであるアセチレンの量を略40%以上とするように調整する。
【0041】
また、このガス流量調整部45は、炭化水素ガスのガスボンベ(図示しない)に接続されたガス流量調整用のバルブの値からガス流量を取得し、この取得されたガス流量が予め設定された所望の値でないと判断する場合に、自動的に所望の流量となるよう炭化水素ガスの流量を調整する。
【0042】
なお、このようなガス流量調整部45は、成膜条件調整部43のガス流量調整機構として機能することが可能であり(図7では成膜条件調整部43と別に設けているが、成膜条件調整部43の内部に設けても可。)、成膜時だけでなく、膜硬度演算部41により演算された膜硬度が所定の閾値よりも低い場合に、ガス流量を所望の値に調整する。すなわち、ガス流量調整部43は、膜硬度演算部41により演算された膜硬度が所定の閾値よりも低い際、炭化水素ガスのガスボンベに接続されたバルブの値から取得したガス流量が正常値(任意に設定可能)でないと判断した場合に、このガス流量を正常値に調整する。
【0043】
[2.成膜方法]
次に、上記のような構成を有する成膜装置によるDLC膜の成膜方法について説明する。なお、成膜方法自体には従来と同様のものを採用するため、以下では概要のみ説明する。
【0044】
制御装置40は、チャンバ11内の圧力を真空機構(図示しない)を介して任意の圧力に調整し、その後、炭化水素ガスと水素ガスの混合ガスからなる原料ガスをガス導入管を通じてチャンバ11内に装填させる。そして、パルス電源13bによりチャンバ11内に配置した電極に対して電圧を印加し、カソード・アノード電極間にプラズマを発生させることで、基板12の外表面にDLC膜が生成される。
【実施例】
【0045】
次に、上記のような構成を有する本実施形態に係る実施例1〜5及び比較例1〜3について説明するが、その前提として、まず、本実施形態の特徴である生成されたDLC膜の硬度の初期値の測定に関して以下に説明する。なお、本発明は、下記のような実施例に限定されるものではなく、それ以外の形態も包含するものとする。また、下記で用いる総ガス流量に対する水素流量比、パルス周波数、パルス電圧、パルス幅、ガス圧は一例であり、これに限定するものではない。
【0046】
[膜硬度(初期値)の測定]
硬度の測定対象となるDLC膜は、総ガス流量に対する水素流量比がH2/(C22+H2)=0、0.5、0.75の3種類と、パルス電源13bのパルス周波数が20、10、2kHzの3種類と、の組み合わせである合計9種類の成膜条件で合成される。なお、その他の成膜条件として、パルス電源13bのパルス電圧は−5kV、パルス幅は5μs、ガス圧は4Paで一定とする。
【0047】
まず、このような条件で成膜される各DLC膜の合成中において、ターボ分子ポンプ14及びロータリーポンプ15により、チャンバ11とQMS20とが繋がる配管内を所定の圧力に調整後、QMS20によりイオン種の質量分析を実施した。具体的には、QMS20により、放電中のプラズマにおけるイオン種を計測し、計測された電流値からH=1、C=12という事実を用いてイオン種の信号値の合計を−1倍することでイオン種の総質量と定義した。さらに、イオン種の総質量を無次元化するために、このようにして求めたイオン種の総質量を水素流量比0、パルス周波数20kHzという条件で得られたイオン種の総質量で除することにより、イオン種の総質量比を算出した。
【0048】
また、上記水素流量比及びパルス周波数の条件下でDLC膜が生成されると、チャンバ11内を大気圧に戻し、この生成されたDLC膜に対して、ラマン分光分析装置30によりレーザー光を照射し、散乱したラマン散乱光を検出することで生成膜中の規則性六員環の多さを示すDピークとGピークの積分強度比ID/IGを算出した。
【0049】
そして、生成された各々のDLC膜の硬度を、QMS20により算出されたイオン種の総質量比と、ラマン分光分析装置30により算出された積分強度比と、に基づいて計測した。なお、計測自体には従来技術と同様にナノインテンダーを使用した。膜硬度の計測結果は、イオン種の総質量比を積分強度比ID/IGで除した値を横軸にとり、当該膜硬度を縦軸にとると、図8(図中の数字はイオン種の総質量比である。)に示す通りである。
【0050】
なお、図8の結果に、水素流量比とパルス周波数(kHz)を追記したものが図9である(図中の括弧内は(水素流量比、パルス周波数kHz)である。)。
【0051】
一般に、DLC膜は、成膜面へのイオン衝撃が大きくなると膜硬さは大きくなり、さらに成膜面へのイオン衝撃が過剰に大きくなると膜硬さは飽和し、そして減少するものである。ここで、成膜面へのイオン衝撃は、イオン種による成膜への貢献度とイオン種の総質量で与えられると考えることができるが、成膜に対するイオン種の貢献度は放電条件でさほど変わらないため、成膜面へのイオン衝撃はイオン種の総質量比と考えてよい。そのため、通常、イオン種の総質量比が大きくなるにつれて、膜硬度は高くなり、さらにイオン種の総質量が大きくなると膜硬さは飽和し、そして減少する。一方で、ラマン分光分析装置30により算出された積分強度比ID/IGは、上述の通り、生成膜中の規則性六員環の多さを示すので、この積分強度比ID/IGが大きくなるにつれて膜硬度は軟らかくなる。
【0052】
このような検討を踏まえ、イオン種の総質量比を積分強度比ID/IGで除した値と膜硬度との関係を考えると、図8からは次のような結果が把握される。
(a)イオン種の総質量比が小さい範囲(例えば、0.40程度より小さい範囲)においては、イオン種の総質量比を積分強度比ID/IGで除した値が高くなるほど膜硬度は高くなる。
(b)イオン種の総質量比が中程度の範囲(例えば、0.40程度〜0.70程度の範囲)においては、イオン種の総質量比を積分強度比ID/IGで除した値が高くなっても不変である。
(c)イオン種の総質量比が大きい範囲(例えば、0.70程度より大きい範囲)においては、イオン種の総質量比を積分強度比ID/IGで除した値が高くなるほど膜硬さは低下する。
【0053】
このような(a)〜(c)の測定結果が得られるのは、上述の通り、イオン種の総質量比が大きくなると成膜面へのイオン衝撃が大きくなるため、たとえイオン種の総質量比を積分強度比ID/IGで除した値が大きくても膜硬度が低下するからである。
【0054】
以上のようなイオン種の総質量比と積分強度比ID/IGに基づいて、生成されたDLC膜の硬度を測定する方法によれば、ナノインテンダーのみを用いて計測する場合と比較して、膜硬度をマクロに計測し表すことができるので、測定のバラツキを抑制し、それ故、測定点数も減らすことが可能となり、より簡易に硬度測定を実現することができる。また、ナノインテンダーにより測定対象膜に加えられる荷重を増やす必要も生じず、誤って基板の硬度を測ることもないので、高精度なDLC膜の硬度測定を実施することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、上記のようにDLC膜の硬度を計測する膜硬度計測部を構成として備える実施形態も包含するものである。具体的には、この膜硬度計測部は、QMS20により算出されたイオン種の総質量と、ラマン分析装置30により計測されたDピークとGピークによる積分強度比ID/IGと、に基づいて、ナノインテンダーによりダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測するものである。
【0056】
[実施例1]
次に、上記のように測定された各DLC膜の硬度の初期値を踏まえ、改めて生成されたDLC膜の硬度を自動計測する実施例1について説明する。なお、合成されるDLC膜の成膜条件は上述した9種類と同様なものを採用する。
【0057】
実施例1では、制御装置40に、上記初期値から得られた膜硬度とイオン種の総質量比と積分強度比とによる関係式(以下、「所定の膜硬度関係式」と称する。)に基づいて、膜硬度を自動演算する膜硬度演算部41を採用する点に特徴を有する。具体的には、実施例1では、上記成膜条件で改めて各DLC膜が生成されると、まず、その合成中に、QMS20において、イオン種の質量分析を実施し総質量比を算出した。また、DLC膜が生成されると、チャンバ11内を大気圧に戻すと共にDLC膜をチャンバ11外に取り出し、ラマン分光分析装置30において、レーザー光をこのDLC膜に照射し、散乱したラマン散乱光を検出することでDピークとGピークの積分強度比ID/IGを算出した。
【0058】
そして、制御装置40の膜硬度演算部41は、この算出されたイオン種の総質量比と積分強度比ID/IGを、所定の膜硬度関係式に当て嵌めることで自動的に膜硬度を演算した。
【0059】
これにより、算出された膜硬度は15.4GPaであった。特に、成膜終了後、大気圧に戻し、このように膜硬さを自動算出するのに要した時間は3分であった。また、ナノインテンダーを設置する際に必要となる除振台等の準備は不要であった。
【0060】
[実施例2]
実施例2では、本実施形態に係る成膜装置のチャンバ11に窓部17を設け、この窓部17を介して、チャンバ11外部に設けたラマン分光分析30から基板12に対してレーザー光を照射し、取得したラマンスペクトルに基づきDLC膜の積分強度比ID/IGを算出した。それ以外の成膜条件や成膜装置の構成等は実施例1と共通するため説明を省略する。
【0061】
この実施例2において、制御装置40の膜硬度演算部41より演算された膜硬度は、15.4GPaであり、さらに、成膜終了後、大気圧に戻すことなく、膜硬さを算出できたので、それに要した時間は成膜終了後1分であった。また、ナノインテンダーを設置する際に必要となる除振台等の準備は不要であった。
【0062】
[比較例1]
これに対し、比較例1は、制御装置40に、実施例1及び2のような膜硬度演算部41を有しない条件下で、ナノインテンダーを用いて生成されたDLC膜の硬度を計測するものである。なお、合成されるDLC膜の成膜条件は、実施例1と同様である。
【0063】
この比較例1では、ナノインデンターにより生成されたDLC膜の硬度を測定すると15.3GPaであった。また、この膜硬さを測定するのに要した時間は30分であった。さらに、ナノインデンター設置の際に除振台等の準備が必要であった。
【0064】
[実施例1及び2と比較例1との比較結果]
以下に、実施例1及び2と比較例1の関係を表1として示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1によれば、実施例1では、QMS20によりイオン種の総質量比を算出し、ラマン分析分光装置30により積分強度比ID/IGを算出することにより、制御装置40の膜硬度演算部41が生成されたDLC膜の硬度を自動的に演算するので、比較例1と対比しても格段に膜硬度の計測時間が短縮できているのがわかる。また、膜硬度も実際にナノインテンダーを用いて計測した比較例1と対比しても遜色なく、高精度に膜硬度を測定できていることがわかる。
【0067】
また、実施例2では、チャンバ11に窓部17を設け、この窓部17を介して、ラマン分光を分析しているので、膜硬度を測定する際に、一旦、チャンバ11内を大気圧に戻す必要がなく膜硬度を演算することが可能となる。これにより、比較例1と対比しても測定に要した時間は格段に短縮可能であり、実施例1と対比しても短いことがわかる。つまり、実施例2では、基板12をチャンバ11外に取り出すことなく、膜硬度が演算可能である。
【0068】
さらに、実施例1及び2では、制御装置40の膜硬度演算部41により膜硬度を自動演算しているので、比較例1で必要とした除振台等の準備も不要であった。
【0069】
[実施例3]
実施例3では、上記実施例1又は2が有する制御装置40の構成に、膜硬度演算部41により演算された膜硬度が正常値に相当する所定の閾値以上であるかを判定することで、当該膜硬度が正常であるかを判断する膜硬度判定部42と、膜硬度判定部42による正常か否かの判定結果に基づいて、パルス周波数、パルス電圧、パルス幅、チャンバ11内のガス圧、総ガス流量に対する水素流量比等を含む成膜条件を調整する成膜条件調整部43と、を備えた点を特徴とする。それ以外の成膜条件や成膜装置の構成等は実施例1又は2と共通するため説明を省略する。
【0070】
実施例3においても、実施例1又は2と同様に、まず、DLC膜の成膜直後に膜硬度演算部41により膜硬度が演算され、12.4GPaという結果が得られた。ここで、実施例3では、制御装置40内の膜硬度判定部42により、この演算された膜硬度が正常値に相当する所定の閾値(例えば、15.3GPa)以上であるかが判定され、この閾値を下回る場合に、成膜条件調整部43が上述した成膜条件を調整することになる。
【0071】
本実施例3では、得られた膜硬度が12.4GPaであり、膜硬度判定部42により所定の閾値を下回ると判定されるので、成膜条件調整部43は成膜条件を調整する必要がある。一例ではあるが、成膜条件調整部43では、パルス電源13bから取得したパルス周波数が2kHzであったため、この取得したパルス周波数が所望の設定値(例えば、5kHz)よりも低いと判断することにより、パルス周波数を2kHzから5kHzに調整した。つまり、何らかの理由によりパルス電源13bのパルス周波数が2kHzに低下し膜硬度の低下に影響していたので、成膜条件調整部43は、このパルス周波数を2kHzから5kHzに調整した。その後、調整された成膜条件下でDLC膜が生成されると、膜硬度演算部41は、このDLC膜に対し再度硬度を演算し、その結果として15.4GPaが得られた。
【0072】
[比較例2]
比較例2は、制御装置40に、膜硬度演算部41だけでなく、上記のような膜硬度判定部42と成膜条件調整部43を有しない条件下で、ナノインテンダーを用いて生成されたDLC膜の硬度を計測するものである。なお、合成されるDLC膜の成膜条件は、実施例1〜3と同様である。
【0073】
この比較例2によれば、DLC膜の成膜後に大気に戻し、ナノインデンターを用いて計測された膜硬度は12.4GPaであった。原因は、実施例3と同様に、何らかの理由でパルス周波数が2kHzになっていたからである。
【0074】
[実施例3と比較例2との比較結果]
上述の通り、実施例3では、演算された膜硬度が膜硬度判定部42により正常値に相当する所定の閾値を下回ると判定された場合、成膜条件調整部43が、この膜硬度の低下の要因となる成膜条件を調整した上で、再度、膜硬度演算部41で膜硬度を演算させることができる。これにより、実施例3では、測定された膜硬度が低かった場合に、成膜条件を変更し、一から基板を取り付け成膜し膜硬度を測定し直す比較例2と比較して、所望の膜硬度を容易かつ短時間で取得することが可能となる。つまり、実施例3は、膜硬度演算部41での演算結果に基づいて、成膜条件調整部43は成膜条件を最適にすることができるので、リアルタイムに膜硬度を演算することが可能となる。
【0075】
[実施例4]
実施例4では、実施例1〜3のいずれかが有する制御装置40の構成に、成膜速度とパルス周波数との関係式に基づき、所望の成膜速度を得るようパルス周波数を調整するパルス周波数調整部44を備えた点を特徴とする。それ以外の成膜条件や成膜装置の構成は実施例1〜3のいずれかと共通するため説明を省略する。
【0076】
実施例4では、まず、各パルス周波数における成膜速度の実測値を各イオン種と各ラジカル種の減衰を表す上記[数1]を積分することにより外挿し、その結果が図6のように示された。そして、制御装置40のパルス周波数調整部44が、この図6の結果から得られたパルス周波数と成膜速度の関係式を基に、所望の成膜速度を得るためのパルス周波数を特定した。例えば、成膜速度の下限を6×10−4μm/s以上としたい場合には、パルス周波数調整部44は、図6に示す通り、パルス周波数を7kHz以上に設定すればよい。
【0077】
これ以降は、実施例1〜3のいずれかと同様に、特定されたパルス周波数を含む成膜条件下でDLC膜が生成され、膜硬度が計測される。すなわち、膜硬度演算部41は、7kHz以上に設定されたパルス周波数を含む成膜条件下で生成されたDLC膜の硬度を演算する。
【0078】
[実施例4と従来技術との比較結果]
このような実施例4によれば、パルス周波数調整部44を通じて、成膜速度に対応したパルス電源13bのパルス周波数を特定することができるので、所望の成膜速度によってDLC膜を生成することが可能となる。また、成膜条件調整部43の一部として機能することで、例えば、膜硬度が正常でなかった場合に行う膜硬度演算部41による再度の膜硬度の演算に際し、パルス周波数調整部44にて所望の成膜速度となるようパルス周波数を調整することができる。
【0079】
[実施例5]
実施例5では、実施例1〜4のいずれかが有する制御装置40の構成に、総ガス流量に対する炭化水素ガスの流量を制御するガス流量調整部45を備えた点を特徴とする。それ以外の成膜条件や成膜装置の構成は実施例1〜4のいずれかと共通するため説明を省略する。
【0080】
特に、実施例5では、このガス流量調整部45が、全ガス流量中の炭化水素ガスの流量を制御することで、全ガス流量中の水素の流量比を略60%に調整した。より詳細には、水素流量比を略60%に調整するために、全ガス流量に対する炭化水素ガスであるアセチレンの量が略40%以上となるように調整した。
【0081】
これにより、制御装置40の膜硬度演算部41は、この成膜条件で生成されたDLC膜の硬度を演算し、15.0GPaという結果が得られた。なお、図9を参照すれば、この膜硬度は飽和する領域に入っていることが確認される。より詳細には、図9に示すように、例えば、10kHzで考えると、膜硬さが飽和する領域に入るのは水素流量比が略60%、すなわち全ガス流量中のアセチレンの流量比が略40%以上である場合であるから、実施例5では、計測されたDLC膜の硬度が高いことがわかる。
【0082】
[比較例3]
実施例5に対し、比較例3では、全ガス流量に対するアセチレンの流量比を略25%にし、比較例1と同様な手法により生成されたDLC膜の硬度を測定した。それ以外の成膜条件や成膜装置の構成は比較例1と共通するため説明を省略する。
【0083】
このような比較例3において、ナノインテンダーを用いて測定された膜硬度は13.4GPaであった。
【0084】
[実施例5と比較例3との比較結果]
実施例5では、ガス流量調整部45において、全ガス流量に対するアセチレンの流量比を略40%以上としているので、膜硬度は15.0GPaとなり、比較例3の場合と対比して、高精度に膜硬度を計測することができる。特に、比較例3の場合は、アセチレンの流量比を略25%に設定しているので、成膜条件を調整することで膜硬度を制御しても実用上適当な条件にはなり得なかった。
【0085】
また、実施例5では、ガス流量調整部45が成膜条件調整部43のガス流量調整機構として機能することが可能であるため、演算された膜硬度が所定の閾値を下回る場合であっても、総ガス流量に対する炭化水素ガスの流量を調整することで、例えば、パルス電源13bのパルス電圧、パルス幅、パルス周波数を制御する機構を採用する場合に比較して、非常に簡易な方法により成膜条件を調整することが可能となる。より詳細には、実施例5に係るガス流量調整部45の場合は、炭化水素ガスのガスボンベのバルブを制御するのみでガス流量を調整することができるのに対し、パルス電圧、パルス幅、パルス周波数を制御する場合は、制御装置40における電源回りの構成が非常に煩雑となるからである。
【符号の説明】
【0086】
11 チャンバ
12 基板
13a 電源
13b パルス電源
14 ターボ分子ポンプ
15 ロータリーポンプ
16 真空計
17 窓部
20 四重極質量分析装置(QMS)
30 ラマン分光分析装置
40 制御装置
41 膜硬度演算部
42 膜硬度判定部
43 成膜条件調整部
44 パルス周波数調整部
45 ガス流量調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測する膜硬度計測方法であって、
四重極質量フィルタを用いて、合成中の前記ダイヤモンド状炭素膜の所定のイオン種の質量を計測し、
ラマン分光分析により前記ダイヤモンド状炭素膜のDピークとGピークによる積分強度比を検出し、
前記イオン種の質量と前記積分強度比に基づいて前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測することを特徴とする膜硬度計測方法。
【請求項2】
チャンバ内に原料ガスを装填し、当該チャンバ内に配設された電極間に高周波電圧を印加し、プラズマを発生させることでダイヤモンド状炭素膜を生成する成膜装置であって、
四重極質量フィルタを用いて、前記電極間で放電中の所定のイオン種の質量を計測する四重極質量分析装置と、
前記ダイヤモンド状炭素膜をラマン分光分析するラマン分光分析装置と、
過去に計測した前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度である実測膜硬度を基準とし、膜硬度の算出対象となる対象ダイヤモンド状炭素膜の前記四重極質量分析装置により計測されるイオン種の質量と前記ラマン分析装置により検出される積分強度比の値に応じて、当該対象ダイヤモンド状炭素膜の硬度を算出する膜硬度演算部と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
チャンバ内に原料ガスを装填し、当該チャンバ内に配設された電極間に高周波電圧を印加し、プラズマを発生させることでダイヤモンド状炭素膜を生成する成膜装置であって、
四重極質量フィルタを用いて、前記電極間で放電中の所定のイオン種の質量を計測する四重極質量分析装置と、
前記ダイヤモンド状炭素膜をラマン分光分析するラマン分光分析装置と、
前記四重極質量分析装置により計測された前記イオン種の質量と、前記ラマン分析装置により計測されたDピークとGピークによる積分強度比と、に基づいて前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度を計測する膜硬度計測部と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
前記膜硬度計測部により計測された前記ダイヤモンド状炭素膜の硬度である実測膜硬度を基準とし、膜硬度の算出対象となる対象ダイヤモンド状炭素膜の前記四重極質量分析装置により計測されるイオン種の質量と前記ラマン分析装置により検出される積分強度比の値に応じて、当該対象ダイヤモンド状炭素膜の硬度を算出する膜硬度演算部を備えることを特徴とする請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記チャンバは外部光を透過する窓部を有し、
当該窓部を介して前記ダイヤモンド状炭素膜にラマン分光を照射する前記ラマン分光分析装置の照射部を前記チャンバの外部に配置することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記膜硬度演算部により算出された前記対象ダイヤモンド状炭素膜の硬度と所定の閾値とを対比し、その対比結果に基づいて当該ダイヤモンド状炭素膜の生成に関する成膜条件を調整する成膜条件調整部を備えることを特徴とする請求項2、4、5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記電極に繋がるパルス電源を備え、
前記パルス電源のパルス周波数と前記ダイヤモンド状炭素膜の成膜速度との所定の関係式に基づいて、前記パルス電源のパルス周波数を所望の成膜速度に応じた値に調整するパルス周波数調整部を備えることを特徴とする請求項2、4、5、6のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記原料ガスは、炭化水素ガスと水素を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記炭化水素ガスにアセチレンを用い、
全ガス流量に対するアセチレンの含有量が略40%以上であることを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−246307(P2011−246307A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120769(P2010−120769)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】