説明

自位置特定システム、自位置特定プログラム及び自位置特定方法

【課題】データベースに整備されていない地物に基づいて自位置が特定されることを抑制し、データベースに整備されている地物に基づいて適切に自位置を特定する。
【解決手段】推定自位置情報を取得する推定自位置情報取得部1と、撮影画像取得部3と、地物データベース21fから、画像認識の対象となる対象地物の対象地物情報を取得する地物情報取得部4と、対象地物の画像認識を行なう画像認識部6と、画像認識結果と対象地物情報とに基づいて推定自位置情報を補正する位置情報補正部9と誤認識可能性の有無を判定する誤認識可能性判定部7と、位置情報補正部9による補正の要否を判定する補正要否判定部8とを備え、補正要否判定部8は、誤認識可能性が有ると判定された場合に、位置情報補正部9による補正が不要と判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自位置を特定する自位置特定システム、自位置特定プログラム及び自位置特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザーの進路を案内するナビゲーションシステムが、広く活用されている。このようなナビゲーションシステムにおいて、適時、適切な案内を実施するためには、ユーザーの現在位置を逐次把握することが望ましい。このため、しばしば、GPS(global positioning system)を利用した測量により得られた位置情報や、デッドレコニング(Dead-Reckoning)技術を利用して得られた相対的な位置情報が用いられる。また、位置情報のさらなる精度向上を狙って、画像処理により位置情報が演算される場合がある。例えば、予め存在位置が把握されている路上のペイント(道路標示)や看板、標識などの地物を、撮影画像中から画像認識することによって当該地物の位置情報が取得される。特開2008−299650号公報(特許文献1)には、そのような地物を画像認識することによって、より高精度な自位置情報を取得し、この高精度な自位置情報に基づいて経路案内等のナビゲーション処理を行うナビゲーションシステムが例示されている(第67段落等)。
【0003】
具体的には、このナビゲーションシステムは、自位置の進行方向に存在し、予め存在位置が把握された地物の地物情報をデータベースから抽出し、地物が複数存在する場合には、画像認識に適した少なくとも1つの地物を選定する。そして、ナビゲーションシステムは、データベースから取得した地物情報を用いて選定された地物の画像認識を行う。この地物の画像認識が成功した場合に、GPSを用いた測量やデッドレコニングにより得られた位置情報が地物情報に基づいて補正される。当然ながら、位置情報の補正のためには、実際の地物の存在する位置と、データベースに格納されている地物情報に示された地物の位置情報とが一致している必要がある。このため、データベースの整備後に、地物が追加されているような場合には、データベースには反映されていない地物を画像認識し、認識された当該地物の位置をデータベース上に格納された別の地物の位置情報と結びつけてしまう可能性がある。そして、この場合には、異なった位置情報によって、GPSを用いた測量やデッドレコニングにより得られた位置情報が補正されてしまう可能性が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−299650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記背景に鑑みて、データベースに整備されていない地物に基づいて自位置が特定されることを抑制し、データベースに整備されている地物に基づいて適切に自位置が特定可能な技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた本発明に係る自位置特定システムの特徴構成は、
自位置を特定する自位置特定システムであって、
前記自位置の推定情報である推定自位置情報を取得する推定自位置情報取得部と、
前記自位置の周辺が撮影された撮影画像を取得する撮影画像取得部と、
予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報を格納した地物データベースから、画像認識の対象となる対象地物の前記地物情報である対象地物情報を取得する地物情報取得部と、
前記撮影画像に基づいて前記対象地物の画像認識を行なう画像認識部と、
前記画像認識部による画像認識結果と前記対象地物情報とに基づいて、前記推定自位置情報を補正する位置情報補正部と、
前記対象地物の画像認識が成功した際に、前記対象地物とは異なる前記地物が前記対象地物として画像認識された可能性である誤認識可能性の有無を判定する誤認識可能性判定部と、
前記位置情報補正部による補正の要否を判定する補正要否判定部と、を備え、
前記補正要否判定部は、前記誤認識可能性が有ると判定された場合に、前記位置情報補正部による補正が不要と判定する点にある。
【0007】
この特徴構成によれば、誤認識可能性判定部により誤認識可能性が有ると判定された場合に、位置情報補正部による推定自位置情報の補正が不要と判定する補正要否判定部を備える。従って、地物データベースに整備されていない地物など、対象地物とは異なる地物が対象地物として画像認識された可能性がある場合には、地物情報(対象地物情報)に応じた推定自位置情報の補正が行われない。つまり、地物データベースに整備されていない地物に基づいて自位置が誤って特定されることが抑制される。尚、この場合、自位置は、少なくとも推定自位置情報の有する誤差の範囲内で特定される。一方、誤認識可能性判定部により誤認識可能性が有ると判定されていない場合には、画像認識結果と対象地物情報とに基づいて、推定自位置情報が補正されるので、より高精度に自位置が特定される。このように、本特徴構成によれば、データベースに整備されていない地物に基づいて自位置が特定されることを抑制し、データベースに整備されている地物に基づいて適切に自位置が特定可能な自位置特定システムを提供することができる。
【0008】
ここで、本発明に係る自位置特定システムの前記誤認識可能性判定部は、前記対象地物として画像認識された前記地物が前記撮影画像上において存在する位置が、所定の予想存在範囲の外である場合に、前記誤認識可能性が有ると判定すると好適である。予想存在範囲の外において地物が認識された場合には、地物データベースに整備されていない地物、あるいは地物以外のものを対象地物として誤認識した可能性がある。従って、このような場合に、誤認識可能性判定部が「誤認識可能性が有る」と判定することにより、自位置が誤って特定されることが抑制される。
【0009】
尚、対象地物の予想存在範囲は、例えば、推定自位置情報に誤差が含まれ、対象地物を画像認識する範囲を厳密に絞り込むことができないために設定される。この予想存在範囲が、推定自位置情報に含まれる誤差に応じて設定されると、過不足が抑制された適切な予想存在範囲を設定することができる。従って、1つの好適な態様として、本発明に係る自位置特定システムは、前記推定自位置情報の誤差の推定情報である推定誤差情報を取得する推定誤差情報取得部を更に備え、前記予想存在範囲が、前記対象地物情報に含まれる前記対象地物の位置情報と、前記推定誤差情報とに基づいて設定されるとよい。
【0010】
ところで、地物にはその特性上、あるいは法規上、その地物の設置に関して一定の傾向を有するものがある。例えば、地物が道路上にペイントされた道路標示である場合、横断歩道予告があれば近傍に横断歩道があり、交差点における停止線は互いに対向する車線の双方に存在する。つまり、交差点であるか否か、両方向通行の道路であるか、横断歩道のある道路であるかなどの道路の構造に応じて、地物の設置形態に一定の傾向が見いだせる場合がある。従って、地物データベースに格納された地物情報に基づいて、このような傾向との整合性を検証すれば、地物データベースが整備された時に不足していた地物が追加される可能性の有無を判定することが可能である。このような観点に鑑みた1つの態様として、本発明に係る自位置特定システムは、前記画像認識部が、自位置の進行方向に沿って設定された所定の対象範囲内において前記対象地物を画像認識するものであり、前記誤認識可能性判定部が、前記進行方向に沿った道路の構造と前記対象地物の種別とに基づいて、前記対象範囲内に前記対象地物と同じ種別の前記地物が存在する可能性の有無を判定し、当該可能性が有る場合に、前記誤認識可能性が有ると判定すると好適である。
【0011】
画像認識処理は、比較的負荷の重い演算であるから、多くの地物を画像認識対象とすることは演算時間及び演算装置の規模の観点から現実的ではない。このため、上述したような対象範囲内において好ましくは1つの地物が対象地物として選定され、当該対象地物に対して画像認識が実行されることが多い。また、対象地物は、混同を抑制するために、対象範囲内において1つしか存在しない種別の地物が選定される場合が多い。尚、同種の地物が連続するような場合には、グループ化して1つの地物セットとして扱われる場合もあり、そのような地物セットが認識対象となる場合には、対象地物は対象地物セットとなる。このため、画像認識において対象地物(又は対象地物セット)が複数回認識された場合、その中の少なくとも1つについては、対象地物以外の他の地物や、地物以外のものを誤認識している可能性が生じる。補正要否判定部は、誤認識可能性が有り、画像認識において対象地物(又は対象地物セット)が複数回認識された場合に、当該誤認識可能性の信頼性が高いと判定して、補正の要否を効果的に判定することが可能である。
【0012】
また、画像認識処理は、認識対象となる画像、つまり対象範囲を順次走査することによって認識演算を行うことが多い。この際、演算時間や演算負荷を抑制するために、対象地物が認識されると、全ての画像に対する走査が完了していなくても画像処理を終了する場合が多い。しかし、画像認識の対象となる対象範囲において対象地物と同じ種別の地物の画像認識に複数回成功するか否かを判定する上では、対象地物が一度認識されても認識演算を継続することが好ましい。このような観点に鑑みた1つの態様として、本発明に係る自位置特定システムの前記画像認識部は、自位置の進行方向に沿って設定された所定の対象範囲内において前記対象地物を画像認識するものであり、前記補正要否判定部は、前記誤認識可能性が有ると判定された場合には、前記画像認識部に、前記対象範囲内における前記対象地物の画像認識を継続させ、前記画像認識部が前記対象範囲内において前記対象地物の画像認識に複数回成功した場合に、前記位置情報補正部による補正が不要と判定すると好適である。
【0013】
ここで、本発明に係る自位置特定システムの前記画像認識部は、前記誤認識可能性に基づいて前記対象地物の画像認識を継続する際に、画像認識アルゴリズムを変更すると好適である。例えば、誤認識可能性を判定するために、より精度よく対象地物を画像認識可能なアルゴリズムに変更する、あるいは、本来は終了していた画像認識を継続することによる演算時間の増加を抑制するために簡易なアルゴリズムに変更するなど、画像認識アルゴリズムを変更することが可能である。継続される画像認識は、誤認識可能性を判定するためのものであるから、継続の際に画像認識アルゴリズムを変更することによって、トレードオフ関係にある演算速度と演算精度との最適化を図ることも可能となる。
【0014】
ところで、自位置は、少なくとも推定自位置情報により、想定範囲の誤差の中で特定可能である。従って、誤った画像認識結果に基づいて想定範囲外の誤差が自位置に含まれることを抑制する観点では、誤認識可能性が有ると判定されることを必要以上に抑制すべきではない。このような観点における1つの態様として本発明に係る自位置特定システムの前記画像認識部は、前記誤認識可能性に基づいて前記対象地物の画像認識を継続する際に、前記対象地物が前記撮影画像中に存在すると認識され易くするように前記画像認識アルゴリズムを変更すると好適である。
【0015】
画像認識アルゴリズムの変更は、画像認識部の構成を簡潔にする観点からは、軽微であることが望ましい。即ち、構成の変更が軽微であって、変更により画像認識結果へ与える効果が高いことが望ましい。そこで、上述したように、画像認識アルゴリズムを、対象地物が前記撮影画像中に存在すると認識され易くするように変更する場合には、以下のような態様とすると好適である。即ち、本発明に係る自位置特定システムの前記画像認識部は、パターンマッチングによる適合度が所定の第1の値に設定された適合度しきい値以上となることにより前記対象地物を画像認識するものであり、前記誤認識可能性に基づいて前記対象地物の画像認識を継続する際には、前記適合度しきい値を前記第1の値よりも低い第2の値に設定して当該パターンマッチングを実行すると好適である。この態様によれば、適合度しきい値を変更することによって、より認識され易くするような画像認識アルゴリズムの変更を極めて容易に実施することができる。
【0016】
上述した本発明に係る自位置特定システムの種々の技術的特徴は、自位置特定プログラムや、自位置特定方法にも適用可能である。従って、本発明は、そのような自位置特定プログラムや、自位置特定方法も権利の対象とすることができる。例えば、本発明に係る、自位置特定プログラムは、上述した自位置特定システムの特徴を備えた各種の機能をコンピュータに実行させることが可能である。以下にその代表的な態様を例示する。当然ながらこのような自位置特定プログラムも、上述した自位置特定システムの作用効果を奏することができる。さらに、自位置特定システムの好適な態様として例示した種々の付加的特徴をこの自位置特定プログラムに組み込むことも可能であり、当該プログラムはそれぞれの付加的特徴に対応する作用効果も奏することができる。本発明に係る自位置特定方法についても同様である。
【0017】
1つの態様として、本発明に係る自位置特定プログラムの特徴構成は、
自位置を特定する自位置特定プログラムであって、
前記自位置の推定情報である推定自位置情報を取得する推定自位置情報取得機能と、
前記自位置の周辺が撮影された撮影画像を取得する撮影画像取得機能と、
予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報を格納した地物データベースから、画像認識の対象となる対象地物の前記地物情報である対象地物情報を取得する地物情報取得機能と、
前記撮影画像に基づいて前記対象地物の画像認識を行なう画像認識機能と、
前記画像認識機能により実現された画像認識結果と前記対象地物情報とに基づいて、前記推定自位置情報を補正する位置情報補正機能と、
前記対象地物の画像認識が成功した際に、前記対象地物とは異なる前記地物が前記対象地物として画像認識された可能性である誤認識可能性の有無を判定する誤認識可能性判定機能と、
前記位置情報補正機能による補正の要否を判定する補正要否判定機能と、をコンピュータに実現させ、
前記補正要否判定機能は、前記誤認識可能性が有ると判定された場合に、前記位置情報補正機能による補正が不要と判定する機能である点にある。
【0018】
また、1つの態様として、本発明に係る自位置特定方法の特徴構成は、
自位置を特定する自位置特定方法であって、
前記自位置の推定情報である推定自位置情報を取得する推定自位置情報取得ステップと、
前記自位置の周辺が撮影された撮影画像を取得する撮影画像取得ステップと、
予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報を格納した地物データベースから、画像認識の対象となる対象地物の前記地物情報である対象地物情報を取得する地物情報取得ステップと、
前記撮影画像に基づいて前記対象地物の画像認識を行なう画像認識ステップと、
前記画像認識ステップによる画像認識結果と前記対象地物情報とに基づいて、前記推定自位置情報を補正する位置情報補正ステップと、
前記対象地物の画像認識が成功した際に、前記対象地物とは異なる前記地物が前記対象地物として画像認識された可能性である誤認識可能性の有無を判定する誤認識可能性判定ステップと、
前記位置情報補正ステップによる補正の要否を判定する補正要否判定ステップと、を備え、
前記補正要否判定ステップは、前記誤認識可能性が有ると判定された場合に、前記位置情報補正ステップによる補正が不要と判定する点にある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ナビゲーションシステムのシステム構成を模式的に示すブロック図
【図2】ナビゲーションデータベースのレイヤ構造の一例を示す説明図
【図3】自位置を特定する手順の一例を模式的に示すフローチャート
【図4】対象地物の予想存在範囲に基づく誤認識判定条件の一例を示す図
【図5】道路の構造と地物の配置形態とに基づく誤認識判定条件の例1を示す図
【図6】道路の構造と地物の配置形態とに基づく誤認識判定条件の例2を示す図
【図7】道路の構造と地物の配置形態とに基づく誤認識判定条件の例3を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、車両用のナビゲーションシステムにおける車両の位置情報の精度を向上させるために路面に設けられた道路標示(ペイント)などの地物を画像認識する地物認識システムを例にして説明する。以下においては、地物として道路標示を例示して説明するが、路側に設置されたり、道路を跨いで懸架されたりした道路標識などの看板も含め、地上との相対位置が固定されている設置物も地物とすることができる。また、以下においては、このような地物認識システムを備えた車両用のナビゲーションシステムを例として説明するが、このナビゲーションシステムは車両に固定的に搭載されたいわゆる車載ナビゲーションシステムに限らず、任意に移動可能なポータブルナビゲーションシステムであってもよい。また、携帯電話機や、デジタルカメラ、PDA(personal digital(data) assistant)等のポータブル機器にアプリケーションとして搭載されたナビゲーションシステムであってもよい。
【0021】
図1は、このようなナビゲーションシステムのシステム構成を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、ナビゲーションシステム20は、自位置特定システム10と、ナビゲーションデータベース(ナビゲーションDB)21と、ガイド演算部23とを備えて構成されている。ガイド演算部23は、ナビゲーションシステム20の案内機能の中核となるシステムであり、ナビゲーションシステム20の存在する位置(自位置)に基づいて、目的地までの経路案内や自位置における種々の情報提供を実施する。ガイド演算部23による案内や情報提供は、例えばモニタ装置15を介してユーザーに提供される。自位置特定システム10は、この自位置を特定するシステムである。自位置特定システム10は、GPS(global positioning system)による測量やデッドレコニング(Dead-Reckoning)による自律制御を利用して自位置(推定自位置情報)を演算して取得する推定自位置情報取得部1、上述した地物を画像認識する画像認識部6、画像認識結果に基づいて推定自位置情報を補正する位置情報補正部9などを備えて構成されている。
【0022】
尚、「自位置」は、各システム、特にナビゲーションシステム20において定義され、ナビゲーションシステム20による案内を受けるユーザーが認知でき、案内結果を好適に利用できる位置である。例えば、ナビゲーションシステム20が車両に固定的に搭載された車載ナビゲーションシステムであり、ユーザーが当該車両の搭乗者である場合には、「自位置」は、ナビゲーションシステム20の位置であり、当該車両の位置であり、車載カメラなどの撮影装置の位置であり、ユーザーの位置である。ナビゲーションシステム20が、ポータブルナビゲーションシステムである場合には、「自位置」は、少なくともナビゲーションシステム20の位置であり、当該ポータブルナビゲーションシステムを携帯するユーザーの位置である。当該ポータブルナビゲーションシステムにカメラ(撮影装置)が付属されている場合には、当該カメラの位置も「自位置」である。また、ポータブルナビゲーションシステムが、車両に持ち込まれている場合には、当然ながら、「自位置」に当該車両の位置が含まれる。さらに、ポータブルナビゲーションシステムが、当該車両に搭載された車載カメラなどの撮影装置による撮影画像を取得可能な場合には、当該車載カメラの位置も自位置に含まれる。携帯電話機や、デジタルカメラ、PDA等のポータブル機器にアプリケーションとして搭載されたナビゲーションシステムの「自位置」も、ポータブルナビゲーションシステムと同様であるから、詳細な説明は省略する。
【0023】
上述したように、自位置特定システム10は、推定自位置情報取得部1、画像認識部6、位置情報補正部9などを備えて構成されている。本実施形態において、自位置の情報は、まず、GPSによる測量やデッドレコニングによる自律制御を利用して推定自位置情報取得部1において演算され、取得される。ここでは、この自位置の情報を「推定自位置情報」と称する。画像認識部6は、予め存在位置が把握されている複数の地物から選定された対象地物を画像認識する。この対象地物の地物情報に含まれる位置情報は、画像認識部6による演算結果に基づいて取得される自位置情報となる。位置情報補正部9は、画像認識部6の画像認識結果に基づいて、つまり、対象地物の位置情報に基づいて推定自位置情報を補正する。補正された位置情報は、予め存在位置が把握されている対象地物の位置情報に基づく自位置情報であるから、高精度な自位置を示す「高精度自位置情報」となる。ガイド演算部23は、少なくとも推定自位置情報を用いて、より好適には高精度自位置情報を用いて、目的地までの経路案内や自位置における種々の情報提供を実施する。
【0024】
本実施形態において、ナビゲーションシステム20は、マイクロコンピュータやDSP(digital signal processor)などの演算処理装置を中核部材として構成されている。つまり、演算処理装置をはじめ、メモリやディスク装置などの記憶媒体、周辺回路などのハードウェアと、当該ハードウェア上で用いられるプログラムやパラメータなどのソフトウェアとの協働によって、ナビゲーションシステム20が構成される。ナビゲーションシステム20を構成する自位置特定システム10や、ガイド演算部23についても同様である。
【0025】
ナビゲーションシステム20が有するナビゲーションデータベース21は、光ディスク装置や磁気ディスク装置、SSD(solid state drive)などによって実現される。本実施形態において、ナビゲーションデータベース21は、所定の領域毎に分けられた複数の地図情報と、この地図情報に関連付けられた複数の地物情報とが少なくとも格納されたデータベースである。ナビゲーションデータベース21は、図2に示すように、レイヤ構造を有して構築されている。本実施形態では、道路ネットワークレイヤM1、道路形状レイヤM2、地物レイヤM3がナビゲーションデータベース21に格納されている例を示している。
【0026】
道路ネットワークレイヤM1は、道路間の接続情報を示すレイヤである。具体的には、緯度及び経度で表現された地図上の位置情報を有する多数のノードNの情報と、2つのノードNを連結して道路を構成する多数のリンクKの情報とを有して構成されている。また、各リンクKは、そのリンク情報として、道路の種別(高速道路、有料道路、国道、県道等の種別)やリンク長さ等の情報を有している。また、道路形状レイヤM2は、道路ネットワークレイヤM1に関連付けられて格納され、道路の形状を示すレイヤである。具体的には、2つのノードNの間(リンクK上)に配置されて緯度及び経度で表現された地図上の位置情報を有する多数の道路形状補完点Sの情報や道路幅の情報等を有して構成されている。これらの道路ネットワークレイヤM1及び道路形状レイヤM2に格納された情報により、地図情報が構成される。
【0027】
地物レイヤM3は、道路ネットワークレイヤM1及び道路形状レイヤM2に関連付けられて構成され、道路上や道路周辺に設けられた各種の地物の情報、すなわち地物情報Fが格納されているレイヤである。この地物レイヤM3に地物情報Fが格納される地物には、道路の路面に設けられた道路標示が含まれている。このような道路標示に係る地物としては、例えば、横断歩道、停止線、各車線の進行方向を指定する進行方向別通行区分標示(直進矢印、右折矢印等)、交差点形状標示(十字マーク、T字マーク等)、道路に沿って車線を分ける区画線(実線、破線、二重線等)、速度表示、ゼブラゾーン等の各種のペイント標示が含まれる。なお、地物情報Fが格納される地物としては、このような道路標示のほか、信号機、標識、陸橋、トンネル等の各種の地物も含めることができる。このように、ナビゲーションデータベース21には、詳細な地物情報Fが格納されている。ナビゲーションデータベース21は、少なくとも図1に示すように、地図データベース21mと地物データベース21fとを備えて構成されているということもできる。
【0028】
地物情報Fは、少なくとも地物が存在する位置についての位置情報を含む情報である。この位置情報は、各地物の代表点の地図上の位置(緯度及び経度)及び各地物の向きの情報を有している。地物の代表点は、例えば、各地物の長さ方向及び幅方向の中心位置に設定される。また、地物情報Fは、各地物の属性情報を含んでいる。本実施形態においては、属性情報は、地物種別、地物の形態、地物の状態の情報を含んでいる。地物種別の情報は、各地物の種別を表す情報であり、基本的には同じ形状の地物が1つの種別として規定されている。例えば、地物種別の情報は、直進矢印、右折矢印、十字マーク、T字マーク、停止線、横断歩道等の道路標示の具体的な種別を表す情報となる。地物の形態の情報は、各地物の形状、大きさ、色彩等の情報を有している。地物の状態の情報は、現実の各地物のかすれの状態等のような各地物の画像認識処理に影響を与える地物の状態の情報を有している。
【0029】
以下、図3のフローチャートも利用して、自位置特定システム10を詳細に説明する。上述したように、まず、推定自位置情報取得部1により、自位置の推定情報である推定自位置情報が取得される(#01:推定自位置情報取得ステップ/機能)。本実施形態においては、推定自位置情報取得部1は、GPS受信機12、方位センサ13、及び距離センサ14から情報を受け取って推定自位置情報を演算する。尚、推定自位置情報取得部1は、現在位置の情報を蓄積することによって、方位センサ13や距離センサ14の検出結果を用いることなく、車両の進行方位や移動速度等の情報を取得することもできる。但し、GPSによる測量結果には誤差が含まれるため、デッドレコニングにより方位や移動距離を求める上では、方位センサ13や距離センサ14の検出結果を用いることが好ましい。
【0030】
推定自位置情報が示す「自位置」は、上述したように「種々の対象の位置」とすることができるが、撮影画像を用いて地物を認識する際の「自位置」であるから、ここでは、少なくとも画像認識に用いる撮影画像を撮影する撮影装置の推定位置を示す情報である。本実施形態において、撮影装置は図1に示すカメラ16である。カメラ16は、CCD(charge coupled device)やCIS(CMOS image sensor)などの撮像素子を用いて、毎秒15〜30フレームの2次元画像を時系列に撮影し、デジタル変換して動画データ(撮影画像)をリアルタイムに出力する。カメラ16による撮影画像は、所定のフレーム数、あるいは距離センサ14等と協働して、自位置の進行方向に沿った所定の範囲に対応するフレーム数分、バッファメモリ31に一時記憶される。カメラ16は、例えば水平方向に140〜190°の視野角が確保されている広角カメラである。カメラ16が車両の後方を撮影する後方カメラとして車両の後部バンパーや背面ドアなどに設置された場合には、その光軸に30度程度の俯角を有して車両に設置され、車両からおおよそ8m程度までの領域を撮影可能である。後方カメラとしてのカメラ16は、車両の後方の路面を含む画像を撮影画像として出力する。尚、撮影装置として、車両の前方を撮影する前方カメラが備えられ、当該前方カメラの撮影画像が用いられてもよい。このような前方カメラは、上述した後方カメラよりも光軸をやや上向きにして設置されている場合が多く、道路標識など、道路標示とは異なる地物も良好に視野に含むことができる。また、当然ながら、前方カメラ及び後方カメラ双方の撮影画像が用いられてもよい。
【0031】
画像認識部6により推定自位置情報を補正するための地物を認識するためには、認識対象となる対象地物の選定と、撮影画像における認識対象範囲(対象範囲)の設定が必要である。対象地物の選定及び認識対象範囲の設定は、推定自位置情報に基づいて実施される。但し、上述したように、推定自位置情報には誤差が含まれる。そこで、GPSの分解能や、方位センサ13、距離センサ14の精度、さらに前回補正されて得られた高精度自位置情報に基づく自位置からの移動距離などに基づいて、現時点において推定される誤差が図1に示す推定誤差情報取得部2によって演算され、取得される(推定誤差情報取得ステップ/機能)。撮影画像取得部3は、推定誤差情報に基づいて、画像認識の対象となる認識対象範囲を設定する(#02:認識対象範囲設定ステップ/機能)。図4に例示するように、この認識対象範囲SEは、自位置の進行方向FWに沿った所定の範囲に設定される。例えば、認識対象範囲SEは、現在の自位置、即ちカメラ16の位置(視点)や、推定自位置情報に自位置や、後述する対象地物の地物情報に含まれる地物の位置などを基準として設定される。この際、認識対象範囲SEは、所定のマージンとして、推定誤差情報に示される誤差を加味して設定されると好適である。撮影画像取得部3は、このようにして設定された認識対象範囲SEに対応する撮影画像、つまり自位置の周辺が撮影された撮影画像をバッファメモリ31から取得する(図3#03:撮影画像取得ステップ/機能)。
【0032】
同様に、推定誤差情報に基づいて、推定自位置情報が示す位置から所定の探索範囲内に存在すると推定される地物の地物情報Fが地物情報取得部4により取得される。つまり、予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報Fを格納した地物データベース21fから、地物情報Fが取得される(図3#04:地物情報取得ステップ/機能)。この探索範囲は、自位置の進行方向FWに沿った長さが上述した認識対象範囲SEと同じであると好適である。尚、探索範囲内に地物が存在しない場合には、当然ながら対象地物も選定されず、位置情報補正部9は、推定自位置情報を自位置情報として、処理を終了する(図3#05→#26)。一方、探索範囲内に地物が存在する場合には、図1に示す対象地物選定部5において対象地物が選定される(図3#06:対象地物選定ステップ/機能)。
【0033】
対象地物選定部5は、探索範囲内において存在が把握されている地物の中から対象地物を選定する。地物情報Fには、地物に関する情報として、地物の状態、例えば道路標示のかすれ具合なども含まれている。かすれが大きい地物では、当該地物を対象地物としても、画像認識を失敗したり、他の地物と誤認識したりする可能性が高くなるため、認識対象とはしないほうが好ましい場合がある。従って、対象地物選定部5は、かすれ状態などの条件に基づいて、探索範囲の中から対象地物を選定する。また、各地物の地物情報Fに各地物に対する画像認識の平均的な成功確率を示す認識率の情報が含まれている場合には、当該認識率の高い地物が対象地物として選定されると好適である。尚、地物の中には、2つ以上連続しているものもある。このような地物は、複数個をまとめた地物セットとして対象地物に選定されてもよい。上記に拘わらず、探索範囲における地物が1つの場合には選択の余地はないので、対象地物選定部5は、当該1つの地物を対象地物に選定する。
【0034】
上記においては、ステップ/機能#04を「地物情報取得ステップ/機能」として説明したが、ステップ/機能#04〜#06を総称して「地物情報取得ステップ/機能」としてもよい。つまり、地物情報取得ステップ/機能は、地物情報取得部4及び対象地物選定部5の協働により、予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報Fを格納した地物データベース21fから、画像認識の対象となる対象地物の地物情報Fである対象地物情報を取得するステップ/機能とすることができる。また、図3のフローチャートは一例であり、撮影画像取得ステップ/機能#03と、地物情報取得ステップ/機能#04(#04〜#06)とは逆の順であってもよい。
【0035】
尚、対象地物は、上述した認識対象範囲SEの中央に存在するとは限らない。そこで、対象地物が選定された後に、対象地物情報に含まれる位置情報と推定自位置情報とに基づいて、対象地物が認識対象範囲SEのほぼ中央に位置するように認識対象範囲SEが再設定されてもよい。また、撮影画像取得ステップ/機能#03と、地物情報取得ステップ/機能#04(#04〜#06)とを、図3とは逆の順序で実施する場合には、はじめから対象地物の位置情報と推定自位置情報とに基づいて、対象地物が認識対象範囲SEのほぼ中央に位置するように認識対象範囲SEが設定されてもよい。このように、認識対象範囲SEは、種々の基準で設定可能であるが、後述する対象地物の予想存在範囲TE(図4参照)よりも広い範囲に設定される。
【0036】
対象地物が選定されると、画像認識部6は、撮影画像に基づいて対象地物の画像認識を実行する(#11:画像認識ステップ/機能)。画像認識は、例えば、公知のパターンマッチング(テンプレートマッチング)の手法を用いて実行される。つまり、画像認識部6は、対象地物に対応するパターン(テンプレート)を認識対象範囲において走査して最も良く適合する位置(画像上の座標)を探索する。具体的には、画像認識部6は、上述した認識対象範囲SE内においてテンプレートを走査させて、対象地物が含まれているか否かについての画像認識を実行する。画像認識部6は、対象地物が認識されない限り、認識対象範囲SE内においてテンプレートの走査を継続する(#13,#11〜#13)。認識対象範囲SE内の走査を完了して、対象地物が認識されなかった場合には、その画像認識結果に基づいて、位置情報補正部9は、推定自位置情報を自位置情報に決定する(#13→#26)。
【0037】
画像認識部6は、1つの態様として、撮影画像に対して公知のエッジ抽出処理や方向ベクトル抽出処理などを施して特徴量を抽出し、当該特徴量と辞書61に格納された対象地物の辞書データ(テンプレートの特徴量)との適合性を演算することによってパターンマッチングを実行する。一例として、パターンマッチングの結果は、当該特徴量と辞書データとの適合度により示される。適合度とは、例えば特徴量と辞書データとが完全に一致した時を100%、全く一致しなかった時を0%とする指標である。例えば、画像認識部6は、パターンマッチングによる適合度が所定の第1の値に設定された適合度しきい値以上となることにより対象地物を画像認識する。つまり、この時、画像認識部6は、認識対象範囲SEに対象地物が有ると判定する(#12)。尚、上記においては、ステップ/機能#11を「画像認識ステップ/機能」として説明したが、ステップ/機能#11〜#13を総称して「画像認識ステップ/機能」としてもよい。
【0038】
画像認識部6により、対象地物の画像認識が成功した際には、つまり認識対象範囲SE内に対象地物が有ると判定されると、図1に示す誤認識可能性判定部7により、対象地物とは異なる地物が対象地物として画像認識された可能性である誤認識可能性の有無が判定される(図3#14:誤認識可能性判定ステップ/機能)。以下、誤認識可能性判定部7による判定条件の例について図4〜図7も利用して説明する。
【0039】
図4は、判定条件の一例を示している。自位置の進行方向FWに沿って設定された所定の認識対象範囲SE内には、さらに、対象地物が撮影画像上において存在すると予想される所定の予想存在範囲TEが設定されている。予想存在範囲TEは、対象地物情報に含まれる対象地物の位置情報と、推定誤差情報とに基づいて設定される。例えば、予想存在範囲TEは、推定自位置情報と対象地物情報の位置情報とに基づいて認識対象範囲SE内において特定される対象地物Ftの予想存在位置Tを中心として、進行方向FWの前後にそれぞれ推定誤差情報に応じた誤差範囲ΔEを設けて設定される。尚、図4では、進行方向FWの前後に均等に誤差範囲ΔEが設けられているが、誤差が生じる方向等に差がある場合や、画像認識処理の特性、カメラ16による撮影画像の特性などに応じて、進行方向FWの前後でそれぞれ異なる誤差範囲ΔEが設けられてもよい。
【0040】
図4に示す例において、停止線の道路標示である地物F1が対象地物Ftであり、当該対象地物Ftは予想存在範囲TEに存在している。認識対象範囲SE内には、他に、交差点を示す十字の道路標示の地物F2と、停止線の地物F3が存在する。但し、破線で示す地物F3は、実際の路面には存在するが、地物データベース21fには登録されていない新規の地物である。画像認識部6が、認識対象範囲SE内を進行方向FWの手前側から走査して画像認識する場合、最初に対象地物Ftとして認識されるのは地物F3である。この地物F3は、図4に示す予想存在範囲TE内で認識されたものではないので、誤認識可能性判定部7は、誤認識可能性が有ると判定する。このように、誤認識可能性判定部7は、1つの態様として、対象地物Ftとして画像認識された地物が撮影画像上において存在する位置が、所定の予想存在範囲TEの外である場合に、誤認識可能性が有ると判定する。
【0041】
図5〜図7は、判定条件の別の例を示している。この態様では、誤認識可能性判定部7は、進行方向FWに沿った道路の構造と対象地物Ftの種別とに基づいて、認識対象範囲SE内に対象地物Ftと同じ種別の地物が存在する可能性の有無を判定し、当該可能性が有る場合に、誤認識可能性が有ると判定する。図5〜図7において実線で示す地物は、地物データベース21fに登録されている地物であり、破線で示す地物は地物データベース21fには登録されていないが、実際の路面には存在し、撮影画像上に存在する地物である。
【0042】
図5に示す道路の構造は交差点であり、交差点の中央には交差点の道路標示である地物F2が存在する。また、一方の車線には停止線を示す地物F1が存在する。この場合、当該一方の車線の対向車線側には、交差点を挟んで同様の停止線の地物F3が存在する可能性が高い。ここで、地物データベース21fに地物F3が未登録であった場合には、地物データベース21fを整備する際に、かすれや書き直し前の消去等で地物F3の地物情報Fが収集されていなかった可能性がある。そして、停止線は、両方向通行の道路の場合には、交差点を挟んで両側に設置されることが多いので、地物F3は、地物データベース21fの整備後に再設置されている可能性が高い。ここで、地物F3が対象地物Ftとして画像認識されてしまうと、地物F3の位置が地物F1の地物情報に含まれる位置情報と結びつけられ、その位置情報に基づいて推定自位置情報が誤って補正されてしまうことになる。従って、このように交差点を含んで認識対象範囲SEが設定されているという道路構造と、多くの場合2つ設定されるという地物の種別とから、認識対象範囲SE内に対象地物Ftと同じ種別の地物が存在する可能性が有り、誤認識可能性が有ると判定される。
【0043】
図6に示す道路の構造は、地物F11として横断歩道予告を示す道路標示が配置されたものであり、地物F11の先には横断歩道を示す道路標示が存在するはずである。しかし、図6に破線で示すように、地物データベース21fに横断歩道の道路標示である地物F13が未登録であった場合には、地物データベース21fを整備する際に、かすれや書き直し前の消去等で地物F13の地物情報Fが収集されていなかった可能性がある。その後、横断歩道の地物F13が再設置されており、停止線の地物F12が対象地物Ftであった場合には、横断歩道の地物F13の道路に直交する線を停止線として画像認識してしまう可能性がある。その結果、上述したように、誤った位置情報によって推定自位置情報が補正されてしまう可能性がある。従って、横断歩道予告の先に横断歩道が登録されていない範囲に認識対象範囲SEが設定されているような道路構造の場合には、この道路構造とこれらの地物の種別とから、認識対象範囲SE内に対象地物Ftと混同する可能性のある地物が存在する可能性が有り、誤認識可能性が有ると判定される。
【0044】
図7に示す道路の構造も、地物F21として横断歩道予告を示す道路標示が配置されたものである。この横断歩道予告を示す道路標示は、注意を喚起するために、通常2つセットで配置される。その他、進行方向を示す矢印の道路標示も複数個がセットで配置される場合が多い。このように、道路標示には、法令や慣例により、複数個がセットで配置されるものがある。そのような道路標示の地物が認識対象範囲SE内に単独で存在する場合に、その道路構造と地物の種別とから、認識対象範囲SE内に対象地物Ftと同じ種別の地物が存在する可能性が有り、誤認識可能性が有ると判定される。図7では、地物データベース21fに登録された横断歩道予告の地物F21の手前に、未登録の地物F22が存在する例を示している。認識対象範囲SEにおいて先に地物F22が画像認識されると、地物F22の位置が対象地物Ftである地物F21の地物情報に含まれる位置情報とされ、その位置情報に基づいて推定自位置情報が誤って補正されてしまう。従って、誤認識可能性判定部7が、誤認識可能性が有ると判定すると好適である。
【0045】
尚、誤認識可能性判定部7は、図4により例示した条件と、図5〜図7により例示した条件との、何れか一方のみを用いて誤認識可能性の有無を判定してもよいが、双方を加味して誤認識可能性の有無を判定してもよい。例えば、誤認識可能性判定部7は、道路構造と地物の種別とに基づいて誤認識可能性が有ると仮判定し、さらに対象地物が予想存在範囲の外で認識された場合に誤認識可能性が有ると判定すると好適である。勿論、誤認識可能性判定部7は、対象地物が予想存在範囲の外で認識された場合に誤認識可能性が有ると仮判定し、さらに当該道路構造と地物の種別とに基づいて誤認識可能性が有ると判定してもよい。
【0046】
図4〜図7の具体例を示して説明したように、誤認識可能性判定部7により誤認識可能性が有ると判定されると、再び画像認識部6による画像認識処理が実行される(図3#21)。この画像認識は、認識対象範囲SEの最初から走査するものであっても良いが、ステップ/機能#11において、対象地物Ftを認識した際の続きからの走査であると演算時間を抑制できて好適である。ステップ/機能#21での画像認識処理は、対象地物Ftが画像認識されるまで、又は、認識対象範囲SE内におけるテンプレートの走査が完了するまで繰り返し継続される(#22,#23)。ステップ/機能#21での画像認識処理によって、対象地物Ftが画像認識された場合には、つまり対象地物Ftが有ると判定された場合には、認識対象範囲SEにおいて複数の対象地物Ftが認識されたことになる。この内、何れの地物が地物データベース21fに登録された対象地物Ftであるかを正確に判定することはできないので、図1に示す補正要否判定部8は、位置情報補正部9による推定自位置情報の補正が不要と判定する(図3#24:補正要否判定ステップ/機能)。位置情報補正部9は、推定自位置情報を自位置情報として決定し、処理を終了する(#26:位置情報決定ステップ/機能(位置情報補正ステップ/機能))。
【0047】
上述したように、ステップ/機能#21での画像認識処理は、対象地物Ftが再び画像認識されるまで、又は、認識対象範囲SE内においてテンプレートの走査が完了するまで繰り返し継続される(#22,#23)。対象地物Ftが再び画像認識されることなく、認識対象範囲SE内におけるテンプレートの走査が完了すると、補正要否判定部8は、位置情報補正部9による推定自位置情報の補正が必要と判定する(#25:補正要否判定ステップ/機能)。位置情報補正部9は、画像認識部6による画像認識結果と対象地物情報とに基づいて、推定自位置情報を補正して高精度位置情報を求めて処理を終了する(#27:位置情報補正ステップ/機能(位置情報決定ステップ/機能))。
【0048】
尚、ステップ/機能#21において実行される画像認識処理は、ステップ/機能#11で実行される画像認識処理と同一のアルゴリズムであってもよいが、異なるアルゴリズムであってもよい。同一のアルゴリズムにより画像認識処理を実行する場合には、認識対象範囲SEの全領域に亘って、同一の条件で対象地物Ftを探索することになる。従って、複数回、対象地物Ftを認識したような場合にそれらが同一種別の地物である可能性が高くなり、安定した評価が可能である。但し、通常は、画像認識部6は認識対象範囲SEにおいて対象地物Ftの画像認識に成功すると、その時点で画像認識処理を終了するので、そのような通常処理に比べると演算時間が長くなってしまう可能性がある。そこで、1つの態様として、本来は終了していた画像認識を継続することによる演算時間の増加を抑制するために、簡易なアルゴリズムに変更して、画像認識を継続してもよい。例えば、撮影画像の解像度を落として、走査対象の画素数を減少させることによって処理時間を短縮してもよい。また、パターンマッチングの際には、特徴量の一部分と辞書データの一部分との部分的な適合度を積算した積算値や、平均値によって全体の適合度を求める場合があるが、この際の部分的な適合度の有効桁数を削減して、処理時間を短縮してもよい。
【0049】
また、アルゴリズムの変更は、上述したような簡易なアルゴリズムへの変更に限らず、より精度よく対象地物を画像認識可能なアルゴリズムへの変更であってもよい。自位置の特定が高精度である方が好ましい場合には、必要以上に誤認識可能性が有ると判定されて推定自位置情報の補正が抑制されるよりも、誤認識可能性の判定を高精度に行い、できる限り推定自車位置情報が補正される方がよい。例えば、撮影画像からエッジ抽出や方向ベクトルを抽出する際の分解能を上げて、より詳細に特徴量を抽出するようにアルゴリズムを変更してもよい。また、上述したアルゴリズムの簡易化とは逆に、パターンマッチングの際の適合度の演算の有効桁数を上げて厳密に判定できるようにしてもよい。また、当然ながら、アルゴリズムの簡易化と高精度化とを併用してもよい。例えば、画像認識処理を継続する際に、トレードオフ関係にある演算速度と演算精度との最適化を図って適宜選択できるようにしてもよい。
【0050】
ところで、推定自位置情報に基づいてある程度の精度で自位置は特定できる。つまり、想定範囲の誤差の中で自位置は特定可能である。従って、誤った画像認識結果によって、想定できない誤差が自位置に含まれることを抑制するということを重視すれば、演算速度や演算精度とは別の観点で、画像認識アルゴリズムを変更してもよい。つまり、1つの態様として画像認識部6は、対象地物Ftが撮影画像中に存在すると認識され易くするように画像認識アルゴリズムを変更すると好適である。1つの態様として、より低いコントラストでもエッジ抽出が可能なパラメータに変更してエッジ抽出を実施することによって、特徴量を抽出し易くすると好適である。当然ながら、上述したような高精度な認識アルゴリズムへの変更により、対象地物Ftが撮影画像中に存在すると認識され易くなる場合には、当該高精度な認識アルゴリズムへの変更も1つの好適な実施形態となる。
【0051】
対象地物Ftが撮影画像中に存在すると認識され易くする別の態様として、画像認識部6は、誤認識可能性に基づいて対象地物Ftの画像認識を継続する際には、適合度しきい値を第1の値よりも低い第2の値に設定してパターンマッチングを実行すると好適である。上述したように、画像認識部6は、パターンマッチングによる適合度が所定の第1の値に設定された適合度しきい値以上となることにより対象地物Ftを画像認識する。従って、適合度しきい値を小さい値とすることによって、対象地物Ftの画像認識が成功し易くなる。画像認識アルゴリズムの変更は、画像認識部6の構成を簡潔するに観点からも、軽微であることが望ましい。適合度しきい値を変更するこの態様は、対象地物Ftが、より認識され易くするような画像認識アルゴリズムの変更を、極めて容易に実施することができる。即ち、構成の変更が軽微であって、変更により画像認識結果へ与える効果が高く好適である。
【0052】
以上説明したように、本発明によって、地物データベース21fに整備されていない地物に基づいて自位置が特定されることを抑制し、地物データベース21fに整備されている地物に基づいて適切に自位置が特定可能な技術を提供することができる。
【0053】
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0054】
(1)上記実施形態においては、誤認識可能性判定部7により誤認識可能性が有りと判定された場合(図3#14)に、画像認識部6による画像認識処理を継続し(#21〜#23)、その画像認識結果に基づいて補正要否判定部8が位置情報補正部9による補正の要否を判定する(#24,#25)例を示した。しかし、本発明はこの形態に限定されるものではない。補正要否判定部8は、誤認識可能性判定部7により誤認識可能性が有りと判定された場合(図3#14)に、その判定結果に基づいて位置情報補正部9による補正の要否を判定してもよい。つまり、補正要否判定部8は、誤認識可能性が有ると判定された場合に、位置情報補正部9による補正が不要と判定してもよい。具体的には、図3におけるステップ/機能#14において誤認識可能性が有ると判定された場合に、ステップ/機能#21〜#23を省略して直接ステップ/機能#24へ移行して位置情報補正部9による補正が不要と判定されてもよい。
【0055】
(2)上記実施形態においては、自位置特定システム10やナビゲーションシステム20が、車両や携帯端末などの1つの装置内に構築されている例を示した。しかし、そのような形態に限定されることなく、自位置特定システム10やナビゲーションシステム20は、複数の装置がネットワーク等により接続された分散システムによって構築されていてもよい。例えば、カメラ16、GPS受信器12、方位センサ13、距離センサ14、バッファメモリ31等が自位置と共に移動する端末装置に備えられ、その他の機能部がサーバー装置に備えられていてもよい。そして、端末装置とサーバー装置とがネットワーク等を介した通信によって接続されて、両者の協働によって自位置特定システム10やナビゲーションシステム20が構築されていてもよい。
【0056】
(3)上記実施形態においては、予想存在範囲TEが、対象地物Ftの予想存在位置Tを中心として、進行方向FWの前後にそれぞれ推定誤差情報に応じた誤差範囲ΔEを設けて設定される例などを示した。しかし、予想存在範囲TEは、このような推定誤差情報が示す誤差範囲ΔEに関係なく設定されてもよい。例えば、予想存在範囲TEは、一律の所定の値に設定された予想幅ΔHを、対象地物Ftの予想存在位置Tを中心とした進行方向FWの前後に設けて設定されてもよい。当然ながら、進行方向FWの前後に均等に予想幅ΔHが設けられる必要はなく、画像認識処理の特性、カメラ16による撮影画像の特性などに応じて、進行方向FWの前後でそれぞれ異なる予想幅ΔHが設けられてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明は、予め存在が把握されている地物を画像認識して自位置を特定する自位置特定システムに適用することができる。また、本発明は、このような自位置特定システムにより特定された自位置に基づいて、経路などを案内するナビゲーションシステムに適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
1 :推定自位置情報取得部
2 :推定誤差情報取得部
4 :地物情報取得部
6 :画像認識部
7 :誤認識可能性判定部
8 :補正要否判定部
9 :位置情報補正部
10 :自位置特定システム
21f :地物データベース
F :地物情報
FW :進行方向
Ft :対象地物
SE :認識対象範囲
TE :予想存在範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自位置を特定する自位置特定システムであって、
前記自位置の推定情報である推定自位置情報を取得する推定自位置情報取得部と、
前記自位置の周辺が撮影された撮影画像を取得する撮影画像取得部と、
予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報を格納した地物データベースから、画像認識の対象となる対象地物の前記地物情報である対象地物情報を取得する地物情報取得部と、
前記撮影画像に基づいて前記対象地物の画像認識を行なう画像認識部と、
前記画像認識部による画像認識結果と前記対象地物情報とに基づいて、前記推定自位置情報を補正する位置情報補正部と、
前記対象地物の画像認識が成功した際に、前記対象地物とは異なる前記地物が前記対象地物として画像認識された可能性である誤認識可能性の有無を判定する誤認識可能性判定部と、
前記位置情報補正部による補正の要否を判定する補正要否判定部と、を備え、
前記補正要否判定部は、前記誤認識可能性が有ると判定された場合に、前記位置情報補正部による補正が不要と判定する自位置特定システム。
【請求項2】
前記誤認識可能性判定部は、前記対象地物として画像認識された前記地物が前記撮影画像上において存在する位置が、所定の予想存在範囲の外である場合に、前記誤認識可能性が有ると判定する請求項1に記載の自位置特定システム。
【請求項3】
前記推定自位置情報の誤差の推定情報である推定誤差情報を取得する推定誤差情報取得部を更に備え、
前記予想存在範囲は、前記対象地物情報に含まれる前記対象地物の位置情報と、前記推定誤差情報とに基づいて設定される請求項2に記載の自位置特定システム。
【請求項4】
前記画像認識部は、自位置の進行方向に沿って設定された所定の対象範囲内において前記対象地物を画像認識するものであり、
前記誤認識可能性判定部は、前記進行方向に沿った道路の構造と前記対象地物の種別とに基づいて、前記対象範囲内に前記対象地物と同じ種別の前記地物が存在する可能性の有無を判定し、当該可能性が有る場合に、前記誤認識可能性が有ると判定する請求項1から3の何れか一項に記載の自位置特定システム。
【請求項5】
前記画像認識部は、自位置の進行方向に沿って設定された所定の対象範囲内において前記対象地物を画像認識するものであり、
前記補正要否判定部は、前記誤認識可能性が有ると判定された場合には、前記画像認識部に、前記対象範囲内における前記対象地物の画像認識を継続させ、前記画像認識部が前記対象範囲内において前記対象地物の画像認識に複数回成功した場合に、前記位置情報補正部による補正が不要と判定する請求項1から4の何れか一項に記載の自位置特定システム。
【請求項6】
前記画像認識部は、前記誤認識可能性に基づいて前記対象地物の画像認識を継続する際に、画像認識アルゴリズムを変更する請求項5に記載の自位置特定システム。
【請求項7】
前記画像認識部は、前記対象地物が前記撮影画像中に存在すると認識され易くするように前記画像認識アルゴリズムを変更する請求項6に記載の自位置特定システム。
【請求項8】
前記画像認識部は、パターンマッチングによる適合度が所定の第1の値に設定された適合度しきい値以上となることにより前記対象地物を画像認識するものであり、前記誤認識可能性に基づいて前記対象地物の画像認識を継続する際には、前記適合度しきい値を前記第1の値よりも低い第2の値に設定して当該パターンマッチングを実行する請求項6又は7に記載の自位置特定システム。
【請求項9】
自位置を特定する自位置特定プログラムであって、
前記自位置の推定情報である推定自位置情報を取得する推定自位置情報取得機能と、
前記自位置の周辺が撮影された撮影画像を取得する撮影画像取得機能と、
予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報を格納した地物データベースから、画像認識の対象となる対象地物の前記地物情報である対象地物情報を取得する地物情報取得機能と、
前記撮影画像に基づいて前記対象地物の画像認識を行なう画像認識機能と、
前記画像認識機能により実現された画像認識結果と前記対象地物情報とに基づいて、前記推定自位置情報を補正する位置情報補正機能と、
前記対象地物の画像認識が成功した際に、前記対象地物とは異なる前記地物が前記対象地物として画像認識された可能性である誤認識可能性の有無を判定する誤認識可能性判定機能と、
前記位置情報補正機能による補正の要否を判定する補正要否判定機能と、をコンピュータに実現させ、
前記補正要否判定機能は、前記誤認識可能性が有ると判定された場合に、前記位置情報補正機能による補正が不要と判定する機能である自位置特定プログラム。
【請求項10】
自位置を特定する自位置特定方法であって、
前記自位置の推定情報である推定自位置情報を取得する推定自位置情報取得ステップと、
前記自位置の周辺が撮影された撮影画像を取得する撮影画像取得ステップと、
予め存在が把握されている地物の位置情報及び種別情報を少なくとも含む地物情報を格納した地物データベースから、画像認識の対象となる対象地物の前記地物情報である対象地物情報を取得する地物情報取得ステップと、
前記撮影画像に基づいて前記対象地物の画像認識を行なう画像認識ステップと、
前記画像認識ステップによる画像認識結果と前記対象地物情報とに基づいて、前記推定自位置情報を補正する位置情報補正ステップと、
前記対象地物の画像認識が成功した際に、前記対象地物とは異なる前記地物が前記対象地物として画像認識された可能性である誤認識可能性の有無を判定する誤認識可能性判定ステップと、
前記位置情報補正ステップによる補正の要否を判定する補正要否判定ステップと、を備え、
前記補正要否判定ステップは、前記誤認識可能性が有ると判定された場合に、前記位置情報補正ステップによる補正が不要と判定する自位置特定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−215442(P2012−215442A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79988(P2011−79988)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】