説明

自動二輪車の出力制御装置及び方法

【課題】車両のウィリー状態を応答遅れなく精度よく防止できること。
【解決手段】フロントフォークのストローク量を検出するストロークセンサ21と、このストロークセンサ21にて検出されたストローク量から所定時間後のストローク量を予測し、この予測ストローク量に基づいてエンジンの出力を抑制制御するエンジン出力制御手段としてのエンジン制御ユニット22とを有し、前輪が路面から浮き上がるウィリー状態をその発生前に予測して判断し、エンジンの出力抑制制御を早期に開始するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動二輪車の出力制御装置及び方法に係り、特に、前輪が路面から浮き上がるウィリー状態を防止する自動二輪車の出力制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の走行中に、自動二輪車を急激に加速する場合には、前輪が路面から浮き上がるウィリー状態になることがある。このウィリー状態では、車両の円滑な操縦が困難になってしまう。
【0003】
そこで、特許文献1には、前輪を支持するフロントフォークの伸びきり直前を検出した後に、点火時期を遅角してエンジンの出力を抑制し、ウィリー状態を制御する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−180644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の装置では、フロントフォークの伸びきり直前を検出した後にエンジンの出力を抑制しているので、制御の開始時期が遅れてしまい、その結果、ウィリー状態を防止できない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、車両のウィリー状態を応答遅れなく精度よく防止できる自動二輪車の出力制御装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動二輪車の出力制御装置は、フロントフォークのストローク量を検出するストロークセンサと、このストロークセンサにて検出されたストローク量から所定時間後のストローク量を予測し、この予測ストローク量に基づいてエンジンの出力を抑制制御するエンジン出力制御手段と、を有することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明に係る自動二輪車の出力制御方法は、フロントフォークのストローク量をストロークセンサが検出し、この検出されたストローク量から所定時間後のストローク量を予測し、この予測ストローク量に基づいてエンジンの出力を抑制制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ストロークセンサが検出したフロントフォークのストローク量から所定時間後の予測ストローク量を求め、この予測ストローク量に基づいてエンジンの出力を抑制するので、前輪が路面から浮き上がるウィリー状態を、その発生前に予測して判断し、エンジンの出力抑制制御を早期に開始する。このため、車両のウィリー状態を応答遅れなく精度よく防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る自動二輪車の出力制御装置における一実施形態が適用された自動二輪車を示す左側面図。
【図2】図1の自動二輪車における出力制御装置を示すブロック図。
【図3】図1のストロークセンサをフロントフォークの一部と共に示す斜視図。
【図4】(A)は図1の前輪、後輪の車輪速度の時間変化を示すグラフ、(B)は、図1におけるフロントフォークのストローク量の時間変化を示すグラフ。
【図5】(A)は図4(A)の破線枠内を拡大した、前輪、後輪の車輪速度の時間変化を示すグラフ、(B)は、図4(B)の破線枠内を拡大した、フロントフォークのストローク量の時間変化を示すグラフ。
【図6】図5(B)の破線枠内を拡大した、フロントフォークのストローク量及び予測ストローク量などの時間変化を示すグラフ。
【図7】図4(B)、図5(B)及び図6におけるΔT秒後の第2ストローク予測量Sestと閾値Slimとの関係を示すグラフ。
【図8】図7のストローク予測量Sest及び閾値Slimからストローク制御量Pを求める手順を説明するグラフ。
【図9】図8のストローク制御量Pを実現するためのエンジン出力抑制制御量Qを算出する概念を説明するグラフ。
【図10】図2のエンジン制御ユニットが実行するウィリー防止のための手順を示すフローチャート。
【図11】図8のストローク制御量Pを実現するためのエンジン出力抑制制御量Qを算出する他の概念を説明するグラフ。
【図12】図8のストローク制御量Pを実現するためのエンジン出力抑制制御量Qを算出する更に他の概念を説明するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明に係る自動二輪車の出力制御装置の一実施形態が適用された自動二輪車を示す左側面図である。尚、本実施形態において、前後、上下、左右の表現は、自動二輪車に乗車した乗員を基準にしたものである。
【0013】
図1に示すように、自動二輪車1は車体フレーム2を有し、その前方にヘッドパイプ3が設けられる。ヘッドパイプ3には、図示しないサスペンション機構を内装し前輪4を回動自在に支持する左右一対のフロントフォーク5やハンドルバー6等から構成されるステアリング機構7が設けられ、ハンドルバー6により前輪4が左右に回動自在に操舵される。
【0014】
一方、車体フレーム2は、例えばツインチューブ型であってヘッドパイプ3の直後で左右方向に拡開された後、互いに平行に後斜下方に延びる左右一対のタンクレールを兼ねたメインフレーム8を有して構成される。このメインフレーム8の上方に燃料タンク11が配置され、この燃料タンク11の後方にライダシート12A、ピリオンシート12Bが車両の前後にそれぞれ配置される。
【0015】
また、メインフレーム8の後方下部にはピボット軸13が架設され、このピボット軸13にスイングアーム14がピボット軸13廻りにスイング自在に枢着されると共に、このスイングアーム14の後端に後輪15が回動自在に軸支される。そして、前輪4と後輪15間の車体中央下部で燃料タンク11の下方に、内燃機関としてのエンジン16がメインフレーム8に懸架されて配置される。このエンジン16の駆動力は、ドライブチェーン17などを経て後輪15に伝達される。
【0016】
更に、自動二輪車1は車体の前部が流線形のカウリング18で覆われており、走行中の空気抵抗低減と、走行風圧からのライダの保護が図られている。尚、図1中の符号9は、エンジン16からの排気ガスを排出するエキゾーストパイプであり、このエキゾーストパイプ9の後端に排気マフラ10が接続されている。
【0017】
さて、上述の自動二輪車1には、走行中に前輪4が路面から浮き上がるウィリー状態を防止するための出力制御装置20(図2)が設けられている。この出力制御装置20は、フロントフォーク5に設置されたストロークセンサ21と、エンジン出力制御手段としてのエンジン制御ユニット(ECU)22とを有して構成される。
【0018】
ストロークセンサ21は、図3に示すように、テレスコピック式の可変抵抗型センサであり、上端がフロントフォーク5のアウタチューブ5Aに取付ブラケット23Aを用いて、下端がフロントフォーク5のインナチューブ5B(またはブレーキキャリパブラケット24)に取付ブラケット23Bを用いてそれぞれ取り付けられる。
【0019】
フロントフォーク5は、アウタチューブ5A及びインナチューブ5Bの内部にサスペンション機構が収容され、アウタチューブ5Aが車体フレーム2側に支持され、インナチューブ5Bがブレーキキャリパブラケット24を介して前輪4を支持するものである。インナチューブ5Bが、アウタチューブ5Aに対して上下方向に摺動自在にテレスコピックに構成されている。このフロントフォーク5の伸縮移動量(ストローク量)がストロークセンサ21により検出される。
【0020】
エンジン制御ユニット22は、ストロークセンサ21にて検出されたストローク量St1から所定時間後(ΔT秒後)のストローク量を予測し、この予測ストローク量(後述の第2予測ストローク量Sest)からウィリーの発生を予測する。更に、エンジン制御ユニット22は、予測ストローク量(第2予測ストローク量Sest)から、ウィリーを防止するために制御すべきストローク量、即ちストローク制御量Pを求め、このストローク制御量Pに基づいてエンジン出力抑制制御量Q(エンジン16の点火遅角量R、失火率C)を算出する。そして、エンジン制御ユニット22は、このエンジン出力抑制制御量Qに基づく点火パルス信号をイグニッションコイル25へ出力し、点火プラグ26による点火を調整して、エンジン16の出力を抑制制御する。
【0021】
ここで、フロントフォーク5のストローク量の変化は、前輪4の分担荷重の変化を示している。また、前輪4が路面から浮き上がるウィリーは、後輪15に作用するエンジン16の駆動力に起因し、この駆動力が重力とバランスしなくなったときに発生する。このウィリー発生時の前輪4の分担荷重の変化、つまりフロントフォーク5のストローク量の変化は、後輪15の接地点を中心とした回転モーメントに起因するものとみなせ、エンジン16の駆動力と線形関係にあると言える。従って、ウィリーを防止するためのストローク制御量Pを実現するために、上述の如くエンジン16の出力を抑制する制御を実施するのである。
【0022】
次に、エンジン制御ユニット22によるウィリー予測手順と、ウィリー防止のためのエンジン出力抑制制御手順を、図4〜図9を用いて順次詳説する。
【0023】
[A]ウィリー予測手順
自動二輪車1にウィリーが発生した状態では、図4(A)及び図5(A)に示すように、前輪4の車輪速度Vf[m/秒]が後輪15の車輪速度Vr[m/秒]よりも遅くなる。しかしながら、実際には、タイヤの撓みや車両バンクに伴うタイヤ接地点の周長変化などが影響するため、ウィリーが発生してから、前輪4と後輪15の車輪速度差となって現れるまでに遅れが生ずる。
【0024】
つまり、図5(A)では、点Xで、前輪4の車輪速度Vfと後輪15の車輪速度Vrに車輪速度差が生じているが、フロントフォーク5のストローク量St1の変化を示す図5(B)では、点Yでストローク量St1がゼロ(St1=0)となり、この点Yに対応する点Z、即ち点Xよりも前の時点でウィリーが発生していると判断できる。ここで、図4(B)及び図5(B)は、ストロークセンサ21により検出されたフロントフォーク5の実際のストローク量St1[mm]の変化を示す。このストローク量St1は正またはゼロの値であり、St1=0がフロントフォーク5の伸びきり状態を示す。
【0025】
従って、ウィリーの発生を判断するパラメータとしては、ストロークセンサ21により検出されたストローク量St1を用いる。ストロークセンサ21は、このストローク量St1を第1フィルタとしてのローパスフィルタに通過させてノイズ等をカットし、ストローク量St2[mm]を得る。
【0026】
更にエンジン制御ユニット22は、このストローク量St2を時間で微分して速度Vst2[mm/秒]を求める。そしてエンジン制御ユニット22は、速度Vst2から所定時間(ΔT秒)後のストローク量を予測して、第1予測ストローク量Sestr[mm]を次式(1)のように求める。
Sestr=Vst2×ΔT+St2 ……(1)
【0027】
第1予測ストローク量Sestrは、例えば図6に示すグラフを用いて直線近似で求めたものである。つまり、ストローク量St2上の任意の時刻t[秒]における点Eで接線Kを引くと、この接線Kの傾きが、任意の時刻tにおけるストローク量St2の速度Vst2を示す。この接線K上において、任意の時刻tからΔT秒後の位置に点Fをプロットすると、この点FがΔT秒後のストローク量St2となる。この点Fを時間軸に沿って任意の時刻tまで移動させて点Gをプロットすると、この点Gが任意の時刻tにおけるΔT秒後の第1予測ストローク量Sestrとなる。
【0028】
このようにして、ストローク量St2上の任意の点における傾き(速度Vst2)から、ΔT秒後のストローク量St2の位置を直線近似により求め、このΔT秒後のストローク量St2の位置から第1予測ストローク量Sestrを求める。上述のステップをストローク量St2上のすべての点について行うことで、図6における第1予測ストローク量Sestrの曲線を得る。
【0029】
エンジン制御ユニット22は、このようにして求めた第1予測ストローク量Sestrを第2フィルタとしてのローパスフィルタに通すことでノイズなどをカットし、ΔT秒後の第2予測ストローク量Sestを求める。この第2予測ストローク量Sestが伸びきり状態(Sest≦0)を示すときに、現時点からΔT秒後に自動二輪車1にウィリーが発生することを予測できる。
【0030】
尚、ΔTの値は、0.05〜0.2秒程度に設定される。これは、ストローク量St1のサンプリングレートや、ローパスフィルタの位相遅れなどを考慮して設定されたものである。
【0031】
[B]エンジン出力抑制制御手順
エンジン出力抑制制御では、エンジン制御ユニット22は、図7に示すように、まずウィリーの発生を判定するための閾値Slim[mm]を設定する。この閾値Slimは、フロントフォーク5の最伸状態(伸びきり状態)よりも微小量だけ縮み方向にストロークした値(例えば5mm)に設定されたものである。
【0032】
ここで、Slim≒0とした場合には、(Slim−Sest)の値がゼロ近傍で正負の値を繰り返すことになり、この(Slim−Sest)の項を含む後述のストローク制御量Pに基づくエンジン16の出力抑制制御がオン、オフを繰り返すことになって不安定になる。このため、閾値Slimをゼロよりも微小量大きな値に設定して、上述の制御の不安定を回避したのである。
【0033】
第2予測ストローク量Sestが閾値Slimを下回ると、ΔT秒後にフロントフォーク5の伸びきりが予測される。そこで、エンジン制御ユニット22は、次に、第2予測ストローク量Sestが閾値Slim未満になった領域について制御実行領域を設定し、この制御実行領域でエンジン16の出力を抑制する制御を実施する。
【0034】
つまり、エンジン制御ユニット22は、図7において、制御実行領域内の第2予測ストローク量Sestの波形を、閾値Slimを基準として上下に反転して図8に示す波形Lを求め、この波形Lに対してOffset[mm]を考慮してストローク制御量P[mm]を求める。このように、ストローク制御量Pは、第2予測ストローク量Sestと閾値Slimとの差に基づいて設定されたものであり、ウィリーを防止するために制御すべきストローク量である。このストローク制御量Pは、次式(2)の如く表記される。
P=(Slim−Sest)×Gain+Offset ……(2)
【0035】
上記Gainは、エンジン16の出力特性により異なるが、急発進時における唐突なウィリーの場合や、故意にウィリーを発生させた場合ではなく、例えばコーナリングからの加速時などのように通常の走行条件で発生するウィリーを防止するための値である。具体的には、Gainは、(Slim−Sest)×Gainの最大値が15[mm]前後の値となるように設定される。
【0036】
また、Offsetは、次のようにして設定される。すなわち、ウィリーが比較的長時間(例えば0.3秒以上)継続すると、フロントフォーク5が伸びきり状態になるので、St1≒0となり、従ってSest≒0となる。このとき、前述の如く、閾値Slimがゼロよりも大きな値に設定されているので、長時間のウィリーにおける後半からエンジン出力抑制制御の終了までの間では、エンジン16にウィリーを発生させるほどの駆動力が生じていない、または車両が接地方向へ向かっているにも拘らず、ストローク制御量Pが大きくなってしまう。そこで、これらの不具合を回避するために、0〜3mm程度のOffsetを設定して、ストローク制御量Pの値を低減するのである。
【0037】
エンジン制御ユニット22は、上述のようにして算出したストローク制御量Pを実現するために、点火遅角量R[°]及び失火率C[%]を制御対象として、エンジン16の出力を抑制制御する。つまり、エンジン制御ユニット22は、図9の直線MRに示すように、ストローク制御量Pが所定値P0未満の時には、エンジン16の点火遅角量Rをストローク制御量Pに比例して変化(増加)させることで、エンジン出力抑制制御量Qを増大させる。また、エンジン制御ユニット22は、図9の直線MCに示すように、ストローク制御量Pが所定値P0以上のときには、エンジン16の失火率Cをストローク制御量Pに比例して変化(増加)させることで、エンジン出力抑制制御量Qを増大させる。点火遅角量Rを増加させていくとエンジン16が失火に至るので、その失火に至る限界(つまり失火遅角量Rlim)を超えて点火遅角量Rを増加させることはせず、代わりに失火率Cを増加させるのである。
【0038】
従って、上述のエンジン出力抑制制御量Qは、次式(3)〜(5)で表記される。
Q=R+C… ……(3)
R=P×α/P0 [0<P<P0]
0 [P≧P0] ……(4)
C=0 [0<P<P0]
(P−P0)×Cgain+α [P≧P0] ……(5)
ここで、P0は、失火遅角量Rlimに対応するストローク制御量である。また、αは、失火遅角量Rlimにおけるエンジン出力抑制制御量である。
【0039】
図9における点火遅角量Rに関する直線MRの傾きはα/P0である。また、図9における失火率Cに関する直線MCは、その傾きがCgainであり、その延長線がエンジン出力抑制制御量Q軸と交わる点の座標がCoffsetである。従って、α、Cgain、Coffsetの間に次の関係式(6)が成り立つ。
α=P0×Cgain+Coffset ……(6)
CgainとCoffsetは、点火遅角量Rに関する直線MRと失火率Cに関する直線MCとが、P=P0、Q=αで交差するように決定される。
【0040】
上述のようにエンジン制御ユニット22が実行するウィリーの予測手順とエンジン出力抑制制御手順を、図10に示すフローチャートを用いて説明する。
【0041】
エンジン制御ユニット22は、まず、ストロークセンサ21にて検出されたフロントフォーク5のストローク量St1を読み込み(S1)、このストローク量St1をローパスフィルタに通してストローク量St2を求める(S2、S3)。
【0042】
エンジン制御ユニット22は、次に、ストローク量St2を時間で微分して速度Vst2を算出し(S4)、ΔT秒後の第1予測ストローク量Sestrを直線近似により求める(S5)。エンジン制御ユニット22は、この第1予測ストローク量Sestrをローパスフィルタに通してΔT秒後の第2予測ストローク量Sestを算出し(S6、S7)、この第2予測ストローク量Sestがゼロ以下になる値から、現時点からΔT秒後にウィリーが発生すると予測する。
【0043】
次に、エンジン制御ユニット22は、第2予測ストローク量Sestが閾値Slim未満になったか否かを判断する(S8)。エンジン制御ユニット22は、第2予測ストローク量Sestが閾値Slim未満になったときに、この第2予測ストローク量Sestが閾値Slim未満になった制御実行領域において、ウィリーを制御するためのストローク制御量Pを算出する(S9)。
【0044】
エンジン制御ユニット22は、次に、ストローク制御量Pを実現するために点火遅角量R及び失火率Cを算出して、エンジン出力抑制制御量Qを求める(S10、S11)。エンジン制御ユニット22は、この算出したエンジン出力抑制制御量Qに基づく点火パルス信号をイグニッションコイル25へ出力して、点火プラグ26の点火タイミングを制御し、エンジン16の出力を抑制制御する(S12)。
【0045】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果を奏する。
出力制御装置20のエンジン制御ユニット22は、ストロークセンサ21が検出したフロントフォーク5のストローク量St1、St2から所定時間(ΔT秒)後の予測ストローク量(第1予測ストローク量Sestr、第2予測ストローク量Sest)を求め、第2予測ストローク量Sestが閾値Slim未満のときに、ΔT秒後にフロントフォーク5が伸びきり状態になると判断し、第2ストローク量Sestに基づきストローク制御量Pを求め、このストローク制御量Pを実現すべくエンジン16の出力抑制制御を開始する。このように、前輪4が路面から浮き上がってフロントフォーク5が伸びきりになるウィリー状態を、その発生前に予測して判断し、エンジン16の出力抑制制御を早期に開始するので、車両のウィリー状態を応答遅れなく精度良く防止できる。
【0046】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形することができる。例えば、多気筒エンジンにおいては、エンジン出力抑制制御の特性を気筒毎または気筒群毎に異ならせてもよい。
【0047】
具体的には、図11に示すように、P0未満のストローク制御量Pにおいて、点火遅角制御から失火制御に切り換えるタイミングを、気筒毎または気筒群毎に異ならせてもよい。例えば4気筒エンジンの場合、第1気筒#1ではストローク制御量P1において、第2気筒#2ではストローク制御量P2(>P1)において、第3気筒#3ではストローク制御量P3(>P2)において、第4気筒#4ではストローク制御量P4(>P3)において、それぞれ点火遅角制御から失火制御に切り換える。
【0048】
図11中の曲線U(#1)、U(#2)、U(♯3)、U(♯4)は、第1気筒#1〜第4気筒#4までの各気筒におけるエンジン出力抑制制御量Qを示す。この場合、4気筒エンジン全体としてのエンジン出力抑制制御量Qは、曲線Uに示すように、ストローク制御量Pの増加に従ってステップ状に増大するので、エンジン16の出力を緩やかに抑制して制御することができる。尚、上述の失火制御では失火率は一定である。
【0049】
また、図12に示すように、P0未満のストローク制御量Pにおいて、点火遅角制御の遅角度合いを気筒毎または気筒群毎に異ならせてもよい。例えば4気筒エンジンの場合、気筒毎に異なる係数を設定し、前述の如く式(4)で算出された点火遅角量Rに各気筒に対応する係数を乗ずることで、第1気筒#1〜第4気筒#4までのそれぞれの気筒で点火遅角制御の遅角度合いを異ならせている。
【0050】
図12中の曲線W(#1)、W(♯2)、W(#3)、W(#4)は、第1気筒(#1)〜第4気筒(#4)までの各気筒におけるエンジン出力抑制制御量Qを示す。この場合、4気筒エンジン全体でのエンジン出力抑制制御量Qは、曲線Wに示すように緩やかに抑制して制御される。特に、図11の場合に比べ、失火に至る気筒数が増える領域において、4気筒エンジン全体のエンジン出力抑制制御量Qが緩やかになるので、エンジン16の出力抑制制御を滑らかに実施できる。尚、この場合も、点火遅角量Rlimに至った後の失火制御では失火率は一定である。
【0051】
更に、上述の実施形態において、点火遅角制御または失火制御を実行する際に、スロットル開度に伴う燃料噴射量の制御を実行することで、エンジン16の出力抑制制御をより一層滑らかに実施してもよい。
【0052】
また、図11、図12に示す実施形態において、失火率を一定として失火制御を実行する代わりに、ストローク制御量Pが増加するにつれて失火率を増大させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 自動二輪車
4 前輪
5 フロントフォーク
16 エンジン
20 出力制御装置
21 ストロークセンサ
22 エンジン制御ユニット(エンジン出力制御手段)
St1、St2 ストローク量
Vst2 速度
Sestr 第1予測ストローク量
Sest 第2予測ストローク量
P ストローク制御量
Q エンジン出力抑制制御量
R 点火遅角量
C 失火率
Slim 閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフォークのストローク量を検出するストロークセンサと、
このストロークセンサにて検出されたストローク量から所定時間後のストローク量を予測し、この予測ストローク量に基づいてエンジンの出力を抑制制御するエンジン出力制御手段と、を有することを特徴とする自動二輪車の出力制御装置。
【請求項2】
前記エンジン出力制御手段は、ストロークセンサにて検出されたストローク量を第1フィルタに通した後に時間で微分して速度を求め、この速度から所定時間後のストローク量を予測して第1予測ストローク量とし、
この第1予測ストローク量を第2フィルタに通して第2予測ストローク量を求め、この第2予測ストローク量が閾値未満となったときにエンジンの出力を抑制制御することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の出力制御装置。
【請求項3】
前記エンジン出力制御手段は、第2予測ストローク量が閾値未満となったときに、これらの第2予測ストローク量と閾値との差に基づいて、制御すべきストローク量としてのストローク制御量を求め、
このストローク制御量を実現するためにエンジンの出力を抑制制御することを特徴とする請求項2に記載の自動二輪車の出力制御装置。
【請求項4】
前記閾値は、フロントフォークの最伸状態よりも微少量だけストロークした値に設定されたことを特徴とする請求項2または3に記載の自動二輪車の出力制御装置。
【請求項5】
前記エンジン出力制御手段は、ストローク制御量が所定値未満のときにエンジンの点火遅角量を変化させ、前記ストローク制御量が前記所定値以上のときに前記エンジンの失火率を変化させることを特徴とする請求項3または4に記載の自動二輪車の出力制御装置。
【請求項6】
前記エンジン出力制御手段は、多気筒エンジンにおいて、気筒毎または気筒群毎に異なるタイミングで点火遅角制御から失火制御に切り換えて、エンジンの出力を抑制制御することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の出力制御装置。
【請求項7】
前記エンジン出力制御手段は、多気筒エンジンにおいて、気筒毎または気筒群毎に遅角度合いを異ならせて点火遅角制御を行ない、エンジンの出力を抑制制御することを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車の出力制御装置。
【請求項8】
フロントフォークのストローク量をストロークセンサが検出し、
この検出されたストローク量から所定時間後のストローク量を予測し、
この予測ストローク量に基づいてエンジンの出力を抑制制御することを特徴とする自動二輪車の出力制御方法。
【請求項9】
前記予測ストローク量が閾値未満となったときに、これらの予測ストローク量と閾値との差に基づいて、制御すべきストローク量としてのストローク制御量を求め、
エンジン出力抑制制御は、前記ストローク制御量が所定値未満のときにエンジンの点火遅角量を変化させ、前記ストローク制御量が前記所定値以上のときに前記エンジンの失火率を変化させるものであることを特徴とする請求項8に記載の自動二輪車の出力制御方法。
【請求項10】
前記エンジン出力抑制制御は、多気筒エンジンにおいて、気筒毎または気筒群毎に異なるタイミングで点火遅角制御から失火制御に切り換えるものであることを特徴とする請求項8に記載の自動二輪車の出力制御方法。
【請求項11】
前記エンジン出力抑制制御は、多気筒エンジンにおいて、気筒毎または気筒群毎に遅角度合いを異ならせて点火遅角制御を行なうものであることを特徴とする請求項8に記載の自動二輪車の出力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−145072(P2012−145072A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5862(P2011−5862)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】