説明

自動二輪車の自動変速制御装置

【課題】路面勾配を検出するなどの特別の装置を必要とせず、スロットル全閉時にアクセル操作に伴う変速によるエンジンブレーキ制御だけで運転者の意思に沿う走行を実現できる自動二輪車の自動変速制御装置を供する。
【解決手段】アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0以下になると、アクセル開度(φ)が所要のモード解除アクセル開度(φr)以上になるまでエンジンブレーキモードとなり、アクセル開度(φ)に応じて変速比を決定し、変速用アクチュエータ(61)を駆動して決定した変速比に変更してエンジンブレーキを制御する自動二輪車の自動変速制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の自動変速制御装置に関し、特に電子式無段変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車の自動変速制御装置は、通常車速とスロットル開度に応じた変速比が設定されるが、スロットル開度が閉じた減速時には機関出力は発生せず、ポンピング等の機関損失に変速比を乗じた量のエンジンブレーキが生じる。
車速に応じて変速比を変化すると、速度が上がるにも拘わらず変速比が高速側に移行してエンジンブレーキの効きが足りず頻繁にマニュアルブレーキを操作したり、他方、車速が下がるに従って変速比が低速側に移行してエンジンブレーキが益々効いて車速が極端に低下したりするなど実際の使い勝手と逆に作用することが考えられる。
【0003】
そこで、走行路面が平坦路である場合と下り坂である場合とで変速比の移行制御を変えてエンジンブレーキが適切に働くようにした例がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−103469号公報
【0005】
特許文献1では、車両に路面勾配を検出する傾斜センサを備えており、スロットル全閉の場合、検出した路面勾配から走行路面が平坦路である場合と下り坂である場合とで変速の有無およびシフトダウンのタイミングを変えてエンジンブレーキ制御を行っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このエンジンブレーキ制御は、傾斜センサなどの路面勾配を検出する検出手段を特別に必要とするとともに、路面勾配および加速度から予め決められたシフトダウンによるエンジンブレーキ制御がなされるので、運転者の意思は反映されず、このような自動変速によるエンジンブレーキ制御だけでは運転者が望む走行状態を自由に形成することはできない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、路面勾配を検出するなどの特別の装置を必要とせず、スロットル全閉時にアクセル操作に伴う変速によるエンジンブレーキ制御だけで運転者の意思に沿う走行を実現できる自動二輪車の自動変速制御装置を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、
アクセル開度センサ(221)により検出されたスロットルグリップ(11g)の回動量であるアクセル開度(φ)に応じてスロットル用アクチュエータ(35M)を駆動してスロットルバルブ(35v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構を備えた内燃機関(30)を搭載し、内燃機関(30)の動力を変速用アクチュエータ(61)の駆動により任意の変速比に変速して駆動輪に伝達する電子式無段変速機(50)を備えた自動二輪車の変速制御装置において、
前記アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0以下になると、アクセル開度(φ)が所要のモード解除アクセル開度(φr)以上になるまでエンジンブレーキモードとなり、アクセル開度(φ)に応じて変速比を決定し、前記変速用アクチュエータ(61)を駆動して決定した変速比に変更してエンジンブレーキを制御することを特徴とする自動二輪車の自動変速制御装置である。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記スロットルグリップ(11g)が付勢手段により付勢されて基準回動位置に位置決めされた状態で、前記スロットルバルブ(35v)を全閉として前記アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0を示し、
前記スロットルグリップ(11g)の基準回動位置から加速方向に回動すると前記アクセル開度(φ)が正値で示され、
前記スロットルグリップ(11g)の基準回動位置から減速方向に回動すると前記アクセル開度(φ)が負値で示されることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記エンジンブレーキモードに入った時の車速と変速比を各々初期車速(Vi)と初期変速比(Pi)として記憶することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記初期車速(Vi)と前記初期変速比(Pi)に基づいて前記モード解除アクセル開度(φr)が設定されることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項2ないし請求項4のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0以下になり、エンジンブレーキモードに入ると、前記スロットルバルブ(35v)を全閉とすることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項3ないし請求項5のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記エンジンブレーキモード中に、前記スロットルグリップ(11g)が基準回動位置から減速方向に回動されアクセル開度(φ)が負値を示したときは、前記変速用アクチュエータ(61)を駆動して現在の変速比(P)から所定量低速側の変速比に変速することを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項3ないし請求項6のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記エンジンブレーキモード中に、前記スロットルグリップ(11g)が基準回動位置から加速方向に回動されアクセル開度(φ)が前記モード解除アクセル開度(φr)未満の正値を示したときは、前記変速用アクチュエータ(61)を駆動して現在の変速比(P)から所定量高速側の変速比に変速することを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記エンジンブレーキモード中に、運転者のブレーキ操作があり、ブレーキ信号が入力されたときは、前記エンジンブレーキモードを解除することを特徴とする。
【0016】
請求項9記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置において、
前記エンジンブレーキモード中に、前記モード解除アクセル開度(φr)以上のアクセル開度(φ)が入力されたときは、前記エンジンブレーキモードを解除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、運転者が操作するスロットルグリップ(11g)の回動量であるアクセル開度(φ)が0以下になると、アクセル開度(φ)が所要のモード解除アクセル開度(φr)以上になるまでエンジンブレーキモードとなり、スロットルグリップ(11g)の操作に伴うアクセル開度(φ)に応じて変速比を決定し、変速用アクチュエータ(61)を駆動して決定した変速比に変更してエンジンブレーキを制御するので、路面勾配を検出するなどの特別の検出装置を必要とせず、運転者のスロットルグリップ(11g)の操作により電子式無段変速機(50)の変速比を任意に調整することでエンジンブレーキを制御し車速を任意に設定可能で、運転者の意思に沿った走行を実現することができる。
特に、運転者によるスロットルグリップ(11g)のアクセル操作のみで変速比の増減が可能なので、マニュアルブレーキを操作する頻度が減り操作が簡単になる。
【0018】
請求項2記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、スロットルバルブ(11g)を全閉とするスロットルグリップ(11g)の基準回動位置から通常の加速方向の回動以外に減速方向の回動を可能とし、アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が負値を示すようになっているので、アクセル開度(φ)が0でスロットル全閉状態にあるときに、運転者は、スロットルグリップ(11g)の操作において、加速方向の回動、減速方向の回動、回動せずの3種類の意思を示すことができ、それぞれに応じた変速を行いエンジンブレーキを制御することができる。
【0019】
請求項3記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、エンジンブレーキモードに入った時の車速と変速比を各々初期車速(Vi)と初期変速比(Pi)として記憶するので、エンジンブレーキモードに入った時の初期車速(Vi)と初期変速比(Pi)を基準にその後の変化量に基づき変速を行いエンジンブレーキを制御することができる。
【0020】
請求項4記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、初期車速(Vi)と初期変速比(Pi)に基づいて前記モード解除アクセル開度(φr)が適切に設定されるので、運転者はスロットルグリップ(11g)の操作によりエンジンブレーキモードの維持および解除を適確に行うことができる。
【0021】
請求項5記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0以下になり、エンジンブレーキモードに入ると、前記スロットルバルブ(35v)を全閉に維持するので、機関側のフリクションを略一定に保ちつつ変速比のみでエンジンブレーキ量を制御できるため、エンジンブレーキ制御が簡単であるとともに、エンジンブレーキモード中に新気の流入がないので、機関や触媒の冷却を防ぐこともできる。
【0022】
請求項6記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、エンジンブレーキモード中に、スロットルグリップ(11g)が基準回動位置から減速方向に回動されアクセル開度(φ)が負値を示したときは、変速用アクチュエータ(61)を駆動して現在の変速比(P)から所定量低速側の変速比に変速するので、運転者が走行状態からエンジンブレーキの効きが弱過ぎると感じたときにスロットルグリップ(11g)を基準回動位置から減速方向に回動操作することで、所定量低速側の変速比にシフトダウンしてエンジンブレーキがより効くようにし、運転者に意思に沿ったエンジンブレーキ走行を可能とする。
【0023】
請求項7記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、エンジンブレーキモード中に、スロットルグリップ(11g)が基準回動位置から加速方向に回動されアクセル開度(φ)がモード解除アクセル開度未満の正値を示したときは、変速用アクチュエータ(61)を駆動して現在の変速比(P)から所定量高速側の変速比に変速するので、運転者が走行状態からエンジンブレーキの効きが強過ぎると感じたときに、スロットルグリップ(11g)を基準回動位置から加速方向に回動操作することで、所定量高速側の変速比にシフトアップしてエンジンブレーキの効きを弱めるようにし、運転者に意思に沿ったエンジンブレーキ走行を可能とする。
【0024】
請求項8記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、エンジンブレーキモード中に、運転者のブレーキ操作があり、ブレーキ信号が入力されたときは、エンジンブレーキモードを解除するので、エンジンブレーキからマニュアルブレーキに即時に切り換えて運転者のブレーキ操作を優先することができる。
【0025】
請求項9記載の自動二輪車の変速制御装置によれば、エンジンブレーキモード中に、モード解除アクセル開度(φr)以上のアクセル開度(φ)が入力されたときは、エンジンブレーキモードを解除するので、運転者の意思でエンジンブレーキモードの維持および解除を選択して実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係る自動二輪車の全体側面図である。
【図2】パワーユニットの左側面図である。
【図3】パワーユニットの右側面図である。
【図4】図2の概ねIV−IV線に沿って切断し展開したパワーユニットの断面図である。
【図5】アクセル開度センサの正面断面図である。
【図6】同側断面図である。
【図7】パワーユニットの制御系の概略ブロック図である。
【図8】エンジンブレーキ制御ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図8に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用した一実施の形態に係るスクータ型の自動二輪車1の側面図である。
車体前部2と車体後部3とが、低いフロア部4を介して連結されており、車体の骨格をなす車体フレームは、概ねダウンチューブ6とメインパイプ7とからなる。
【0028】
すなわち車体前部2のヘッドパイプ5からダウンチューブ6が下方へ延出し、同ダウンチューブ6は下端で水平に屈曲してフロア部4の下方を後方へ延び、その後端において左右一対のメインパイプ7が連結され、メインパイプ7は該連結部から斜め後方に立ち上がって所定高さで水平に屈曲して後方に延びている。
【0029】
同メインパイプ7により燃料タンクや収納ボックスが支持され、その上方にシート8が配置されている。
一方車体前部2においては、ヘッドパイプ5に軸支されて上方に操向ハンドル11が設けられ、下方にフロントフォーク12が延びてその下端に前輪13が軸支されている。
左右に展開するハンドル11のうち右側の操向ハンドル11の右側ハンドルバーの握り部は、スロットルグリップ11gとなっている。
【0030】
メインパイプ7の斜め傾斜部の中央付近にブラケット15が突設され、同ブラケット15に軸支されたリンク部材16を介してパワーユニット20が揺動自在に連結支持されている。
【0031】
パワーユニット20は、ユニットケース21の前部に内燃機関30が構成され、内燃機関30から後方にかけてベルト式無段変速機50が配設され、その後部に減速ギヤ機構110を一体に備えたもので、減速ギヤ機構110の出力軸が後車軸114で後輪17が取り付けられる(図2,図4参照)。
【0032】
該パワーユニット20は、ユニットケース21の前部において前面上部に左右一対のパワーユニットハンガ21h,21hが前方に突出しており、前記リンク部材16の下端にピボット軸19を介してパワーユニットハンガ21h,21hが連結され、他方で揺動自在の後部においてユニットケース21(伝動ケース23)の後端のブラケット27と前記メインパイプ7との間にリヤクッション18が介装されている(図1参照)。
【0033】
内燃機関30は、単気筒の4ストロークサイクル内燃機関で、ユニットケース21の前面からシリンダブロック31、シリンダヘッド32およびシリンダヘッドカバー33が重ねられて略水平に近い状態にまで大きく前傾した姿勢で突出している。
【0034】
シリンダヘッド32における上側の吸気ポートから上方に延出し後方へ屈曲した吸気管34にスロットルボディ35が接続され、同スロットルボディ35より後方へ延出した連結管36がユニットケース21の後半部に後輪17の左側に沿って配置されたエアクリーナ37に接続されている。
スロットルボディ35にはスロットルバルブ35vを駆動して吸気通路面積を変えるスロットル用電動モータ35Mが取り付けられている。
【0035】
スロットルボディ35は、ユニットケース21を揺動自在に軸支するピボット軸19の上方に同ピボット軸19に近接して位置しており、したがって、パワーユニット20の揺動時の振幅の比較的小さい場所にスロットルボディ21が配置されてスロットル作動を精度良く実行することができる。
【0036】
また、シリンダヘッド32における下側の排気ポートから下方に延出し後方へ屈曲した排気管38が右寄りに偏って後方へ延びて後輪17の右側のマフラー(図示せず)に接続される。
【0037】
車体前部2は、フロントカバー9aとリヤカバー9bにより前後から、フロントロアカバー9cにより左右側方から覆われ、ハンドル11の中央部はハンドルカバー9dによって覆われる。
フロア部4はサイドカバー9eにより覆われ、また車体後部3は左右側方からボディカバー10aおよびテールサイドカバー10bによって覆われる。
【0038】
図2はパワーユニット20の左側面図であり、図3は同右側面図であり、図4はパワーユニット20を図2の概ねIV−IV線に沿って切断し展開した断面図である。
【0039】
ユニットケース21は、左右割りで、右ユニットケース22に対して左ユニットケースは後方に延出して伝動ケース23を構成している。
図4を参照して、伝動ケース23は、前部右側に形成される左クランクケース部23aと前部から後部に亘って左側に形成される伝動ケース部23bと後部右側に形成される減速ギヤ部23cとからなり、前部の左クランクケース部23aが右ユニットケース22と合わされてクランク軸40を収容するクランク室40Cを構成し、伝動ケース部23bが左側から伝動ケースカバー24に覆われてベルト式無段変速機50を収容する変速室50Cを構成し、後部の減速ギヤ部23cが減速ギヤカバー25に覆われて減速ギヤ機構110を収容する減速ギヤ室110Cを構成する。
【0040】
クランク室40Cには、クランク軸40がユニットケース21の左右の軸受円孔に主軸受41,41を介して回転自在に支持されて左右一対のクランクウエブ40w,40wが収容され、左右水平方向に延びた延出部のうち右延出部にはACジェネレータ42が設けられ、左延出部には変速駆動機構60とともにベルト式無段変速機50のドライブプーリ51が設けられている。
【0041】
クランク軸40の左端は、カラー54を介して伝動ケースカバー24の軸受円孔24pに軸受43を介して軸支されている。
ドライブプーリ51は、固定プーリ半体51sと可動プーリ半体51dとからなる。
クランク軸40の小径に縮径する段部40aから左延出部には右から軸受52、ガイドスリーブ53、固定プーリ半体51s、そして前記カラー54の順に嵌合されて、クランク軸40の左端面に座金55を介してボルト56により締結することにより軸受52の内輪、ガイドスリーブ53、固定プーリ半体51sの基部、カラー54を締め付け、クランク軸40と一体とする。
【0042】
したがって、固定プーリ半体51sは、ガイドスリーブ53とカラー54とに挟まれてクランク軸40と一体に固定され、クランク軸40とともに一体に回転する。
【0043】
一方、固定プーリ半体51sに右側で対向する可動プーリ半体51dは、その基部である円筒状の可動プーリハブ51dhがガイドスリーブ53に部分的にスプライン嵌合してクランク軸40とともに回転すると同時に軸方向に摺動自在としている。
【0044】
このように左側の固定プーリ半体51sに対向する右側の可動プーリ半体51dは、クランク軸40とともに回転し、かつ軸方向に摺動して固定プーリ半体51sに接近・離反することができ、この両プーリ半体51s,51dの対向するテーパ面間にVベルト58が挟まれて巻き掛けられる。
【0045】
図2ないし図4を参照して、伝動ケース23は、伝動ケース部23bにおけるパワーユニットハンガ21hより後方部位が上方に大きく膨出しており、この膨出部23eの上部に変速駆動機構60の駆動源である変速用電動モータ61が右側から取り付けられる。
【0046】
したがって、変速用電動モータ61は、伝動ケース23の前部の左クランクケース部23aと右クランクケース22が形成するクランク室40Cの上方に配置される。
変速用電動モータ61は、大きく前傾したシリンダブロック31より上方に位置する(図2参照)。
【0047】
伝動ケース23の膨出部23eに対して部分的にギヤカバー部材26が左側から取り付けられる。
このギヤカバー部材26と伝動ケース23の壁面との間に軸受62,62を介して第1減速ギヤ軸63sの両端が軸支されており、同第1減速ギヤ軸63sと一体の大径ギヤ63aが、前記変速用電動モータ61の駆動軸61sに形成された駆動ギヤ61aと噛合している。
同様に、ギヤカバー部材26と伝動ケース23の壁面との間に軸受64,64を介して第2減速ギヤ軸65sの右端と左側部が軸支されており、同第2減速ギヤ軸65sと一体の大径ギヤ65aが、前記減速ギヤ軸63sと一体の小径ギヤ63bと噛合している。
【0048】
一方、前記クランク軸40に嵌着された軸受52の外輪に基端部を支持された円板ボス部材66に雌ねじ部材67がボルト68により固着されており、雌ねじ部材67のフランジ部に大径ギヤ67aが形成されていて、同大径ギヤ67aが前記第2減速ギヤ軸65sと一体の小径ギヤ65bと噛合する。
この雌ねじ部材67の円筒部67sの内周面に雌ねじ(スクリューねじ)が形成されている。
【0049】
前記可動プーリ半体51dを支持して軸方向に摺動自在の可動プーリハブ51dhの外周に嵌合された軸受69を介して雄ねじ部材70が支持され、同雄ねじ部材70の円筒部70sが、雌ねじ部材67の円筒部67sの内側にあって、円筒部67sの内周面の雌ねじに円筒部70sの外周面に形成された雄ねじが螺合している。
雄ねじ部材70は、円筒部70sの左端が雌ねじ部材67の円筒部67sの左開口端より左方に露出しており、同左端からフランジ部70aが可動プーリ半体51dの背面に沿って遠心方向に延出している。
【0050】
雄ねじ部材70のフランジ部70aの外周部に環状部材71が固着され、同環状部材71の後部が、後方に延びて雌ねじ部材67の大径ギヤ67aの外側に回り込むように軸方向右方に延出しており、その延出部71aを伝動ケース23の変速室50C内に突出した上下一対のガイド片72,72が、挟むようにして延出部71aの回転を規制するとともに、軸方向の移動を案内するように構成されている(図4参照)。
【0051】
したがって、可動プーリ半体51dと一体の可動プーリハブ51dhに軸受69を介して支持された雄ねじ部材70は、ガイド片72,72に回転が規制されて軸方向にのみ摺動することができる。
【0052】
変速駆動機構60は、以上のように構成されており、変速用電動モータ61が駆動して駆動軸61sに形成された駆動ギヤ61aが回転すると、駆動ギヤ61aと噛合する第1減速ギヤ軸63sの大径ギヤ63aが小径ギヤ63bとともに減速回転し、この小径ギヤ63bと噛合する第2減速ギヤ軸65sの大径ギヤ65aが小径ギヤ65bとともにさらに減速回転し、この小径ギヤ65bと噛合する雌ねじ部材67の大径ギヤ67aがまたさらに減速回転し、雌ねじ部材67が回転する。
【0053】
雌ねじ部材67が回転すると、これと螺合した雄ねじ部材70が回転を規制されているので、ねじ機構により軸方向に移動する。
雄ねじ部材70の軸方向の移動は、軸受69を介して可動プーリハブ51dhを可動プーリ半体51dと一体に軸方向に移動し、可動プーリ半体51dを固定プーリ半体51sに接近・離反させることができる。
【0054】
なお、可動プーリ半体51dは、これを一体に支持する可動プーリハブ51dhがクランク軸40と一体のガイドスリーブ53にスプライン嵌合しているので、クランク軸40とともに回転しながら軸方向に移動することになる。
【0055】
このように変速用電動モータ61の正逆転駆動により可動プーリ半体51dが固定プーリ半体51sに対して接近・離反することで、両プーリ半体51s,51dの対向するテーパ面間に巻き掛けられるVベルト58の巻掛け径が変更されて無段変速が行われる。
【0056】
伝動ケース23の膨出部23eに対して左側から取り付けられるギヤカバー部材26には、回転型ポテンショメータである駆動プーリ変速位置センサ75を取り付けるブラケット26aが左方に突出形成されており、駆動プーリ変速位置センサ75は、図2に示すように、その回転作動軸75aを鉛直より若干傾けた姿勢でブラケット26aに固着される。
【0057】
回転作動軸75aの下部に嵌着されたウォームホイール75wが、前記第2減速ギヤ軸65sの左側軸受64より左方に突出した左端部のウォームギヤ65wに噛合してウォームギヤ機構が構成されている。
【0058】
したがって、変速用電動モータ61が駆動して前記減速ギヤの噛合いを介して第2減速ギヤ軸65sが回転すると、上記ウォームギヤ機構を介して回転作動軸75aが回転し、その回転量を駆動プーリ変速位置センサ75が検出する。
【0059】
駆動プーリ変速位置センサ75が検出する回転量は、可動プーリ半体51dの軸方向プーリ位置Pを示し、プーリ位置Pはドライブプーリ51へのVベルト58の巻掛け径すなわちベルト式無段変速機50の変速比に相当する。
したがって、駆動プーリ変速位置センサ75はベルト式無段変速機50の変速比に相当するプーリ位置Pを検出している。
【0060】
パワーユニット20の後部の構造については、図4を参照して、ベルト式無段変速機50のドライブプーリ51に対応するドリブンプーリ81が、固定プーリ半体81sと可動プーリ半体81dとからなり、互いに対向して、ともに被動軸82に支持されている。
【0061】
可動プーリハブ98に支持される可動プーリ半体81dは、固定プーリハブ95に支持される固定プーリ半体81sと一緒に回転するとともに、軸方向に摺動自在であってコイルばね100により固定プーリ半体81sに接近する方向に付勢されている。
【0062】
かかる固定プーリ半体81sと可動プーリ半体81dの対向するテーパ面間に前記Vベルト58が巻き掛けられ、ドライブプーリ51側の巻掛け径に連動してドリブンプーリ81の巻掛け径が反比例の関係で変動し無段変速が実行される。
【0063】
被動軸82の左側部には遠心クラッチ90が設けられ、右側部は減速ギヤカバー25に覆われた減速ギヤ室110Cに挿入され、被動軸82は減速ギヤ室110C内の減速ギヤ機構110の入力軸となり、出力軸が後車軸114である。
減速ギヤ室110C内で被動軸82と後車軸114との間に中間軸112sが軸支され、中間軸112sと一体の大径ギヤ112aが、被動軸82に形成された小径ギヤ82gと噛合し、中間軸112sに形成された小径ギヤ112bが、後車軸114と一体に嵌着された大径ギヤ114aと噛合して減速ギヤ機構110が構成されている。
【0064】
図7は、パワーユニットPの制御系の簡単なブロック図である。
電子制御ユニットECU200により制御され、ECU200には、前記スロットルバルブ35vを駆動するスロットルバルブ制御手段201を備えるとともに、前記ドライブプーリ51の可動プーリ半体51dを移動して変速比を変える変速機制御手段202等を備える。
【0065】
スロットルバルブ制御手段201は、前記スロットル用電動モータ35Mを制御することでスロットルバルブ35vを駆動して吸気通路面積を変え、スロットルバルブ35vのスロットル開度θはスロットルセンサ35sにより検出されてスロットルバルブ制御手段201にフィードバックされる。
【0066】
変速機制御手段202は、前記変速用電動モータ61を制御することで駆動プーリ51の可動プーリ半体51dを移動して変速する。
可動プーリ半体51dのプーリ位置(変速比)Pは、駆動プーリ変速位置センサ75により検出され、変速機制御手段202に入力される。
【0067】
ECU200には、その他機関回転数nを検出する機関回転数センサ211,車速Vを検出する車速センサ212、アクセル開度センサ221,ブレーキスイッチ231その他内燃機関30の運転状態を検出するセンサから検出信号が入力される。
ブレーキスイッチ231は、ブレーキレバー(またはブレーキペダル)230の操作を検出するスイッチである。
【0068】
アクセル開度センサ221は、自動二輪車1の操向ハンドル11の右側ハンドルバーのスロットルグリップ11gの回動量(アクセル開度φ)を検出するもので、ヘッドパイプ5に取り付けられている(図1参照)。
【0069】
図5および図6に、アクセル開度センサ221を図示する。
基盤222に回動軸223が貫通して回動自在に軸支されており、回動軸223の一方の側の突出部にセンサ検出部221sが設けられており、回動軸223の他方の側の突出部にはワイヤプーリ224が嵌着されるとともに回動円板225が軸支されている。
ワイヤプーリ224と回動円板225は連結ピン226により一体に回動するように連結されている。
【0070】
基盤222と回動円板225が間隔を存して対向しており、基盤222の回動軸223に近い箇所から回動円板225に向けて規制ピン222pが突設されており、他方回動円板225の回動軸223に遠い箇所から基盤222に向けて旋回ピン225pが突設されており、基盤222と回動円板225の間で回動軸223に巻回されたセンタリング用スプリング227の両端が互いにたすき掛けられて規制ピン222pと旋回ピン225pを挟み込むように延出している。
【0071】
ワイヤプーリ224には、右ハンドルバーのスロットルグリップ11gから延出するスロットルワイヤ228の端部が巻き付けられており、スロットルグリップ11gの回動がスロットルワイヤ228を介してワイヤプーリ224および回動軸223の回動に伝達され、回動軸223の回動量はセンサ検出部221sで検出され、本アクセル開度センサ221はこの回動軸223の回動量をアクセル開度φとして検出する。
【0072】
回動円板225に外力が加わらないとき、図5に示すように、センタリング用スプリング227の両端延出部が基盤222の規制ピン222pと回動円板225の旋回ピン225pを挟み込んで、回動軸223から規制ピン222pの方向に旋回ピン225pを位置させたセンタリング状態にあって安定している。
このセンタリング状態でのスロットルグリップ11gの回動位置が操作しないときの安定した基準回動位置で、アクセル開度φが0とされる。
【0073】
スロットルグリップ11gを基準回動位置から加速方向に回動すると、スロットルワイヤ228を介してワイヤプーリ224および回動円板225が正回動し、センタリング用スプリング227の付勢力に抗して回動円板225の旋回ピン225pが、図5において時計回りに旋回し、アクセル開度φは正値で示される。
そして、スロットルグリップ11gを基準回動位置から減速方向に回動すると、スロットルワイヤ228を介してワイヤプーリ224および回動円板225が逆回動し、センタリング用スプリング227の付勢力に抗して回動円板225の旋回ピン225pが、図5において反時計回りに旋回し、アクセル開度φは負値で示される。
【0074】
なお、スロットルグリップ11gの基準回動位置から加速方向の回動は、前記スロットルバルブ制御手段201によりスロットルバルブ35vを開弁し、吸気通路面積を広げていくが、スロットルグリップ11gの基準回動位置から減速方向の回動は、スロットルバルブ35vを閉弁(全閉)のまま維持する。
【0075】
したがって、アクセル開度φが0でスロットルバルブ35vが全閉状態にあるときに、運転者は、スロットルグリップ11gの操作において、加速方向の回動(アクセル開度φ>0)、減速方向の回動(アクセル開度φ<0)、回動せず(アクセル開度φ=0)の3種類の意思を示すことができ、それぞれに応じた変速を行いエンジンブレーキを制御することを可能とする。
【0076】
アクセル開度φが0でスロットルバルブ35vが全閉状態で走行中は、内燃機関の出力はないので、駆動輪側の動力が逆に内燃機関側に伝達されて変速段に応じたエンジンブレーキが働くが、前記スロットルグリップ11gの回動によるアクセル開度センサ221が検出するアクセル開度φの変化に基づき変速がなされ、その変速に応じたエンジンブレーキ制御がなされる。
このエンジンブレーキ制御について、以下説明する。
【0077】
なお、変速機制御手段202は、車速vと機関回転数nに基づく変速パターンマップを備えており、駆動プーリ回転数に対する従動プーリ回転数の回転数比を変速比とし、各変速段をそれぞれ一定の回転数比に予め設定している。
すなわち、駆動プーリ51の可動プーリ半体51dの軸方向位置(プーリ位置P)が各変速段で決まっており、高速段ほど駆動プーリ可動半体67は固定プーリ半体51sに近い位置となる。
【0078】
図8は、変速機制御手段202によるエンジンブレーキ制御を示すフローチャートであり、同フローチャートに従って説明する。
ステップ1では、EB(エンジンブレーキ)モードフラグFが「1」か否かが判別されている。
EBモードフラグFは、後記するステップ4でエンジンブレーキモードに入ったとき、すなわちエンジンブレーキモードにセットされたときに、「1」が立ち、ステップ19でエンジンブレーキモードを抜けたとき、すなわちエンジンブレーキモードがリセットされたときに、「0」とされるフラグである。
【0079】
当初、EBモードフラグFは「0」であり、よってステップ1からステップ2に進み、アクセル開度センサ221が検出するアクセル開度φを読込み、ステップ3でアクセル開度φが0以下(0または負)か否かを判別する。
ここで、アクセル開度φが正値を示していれば、運転者がスロットルグリップ11gを加速方向に回動していることで、このときは本エンジンブレーキ制御ルーチンを抜け、エンジンブレーキモードには入らない。
【0080】
ステップ3でアクセル開度φが0以下と判別されたとき、すなわち、スロットルグリップ11gを基準回動位置に戻してアクセル開度φが0以下となったとき、ステップ4に進み、エンジンブレーキモードにセットされ、EBモードフラグFに「1」を立て、エンジンブレーキモードに入る。
次のステップ5では、エンジンブレーキモードに入った直後の初期車速Viと初期プーリ位置Piを読込み記憶する。
初期プーリ位置Piは、エンジンブレーキモードに入った直後の駆動プーリ51の可動プーリ半体51dの軸方向位置であり、エンジンブレーキモードに入ったときの変速比に相当する。
【0081】
そして、次のステップ6で、初期車速Viと初期プーリ位置Piからエンジンブレーキモードを解除するためのEBモード解除アクセル開度φrを設定する。
変速機制御手段202は、初期車速Viと初期プーリ位置PiからEBモード解除アクセル開度φrを導出するマップ等を予め備えている。
EBモード解除アクセル開度φrは、初期車速Viが大きい程、また初期プーリ位置Piが高速段側にある程、大きい値を示す。
【0082】
EBモード解除アクセル開度φrは、正値であり、EBモード解除アクセル開度φrが小さいと、スロットルグリップ11gの加速方向の回動量が小さくても、エンジンブレーキモードから抜けることができ、EBモード解除アクセル開度φrが大きいと、スロットルグリップ11gの加速方向の回動量が大きくなければ、エンジンブレーキモードから抜けることがない。
このように、初期車速Viと初期プーリ位置Piから適切なEBモード解除アクセル開度φrが設定されることで、運転者はスロットルグリップ11gの操作によりエンジンブレーキモードの維持および解除を適確に行うことができる。
【0083】
そして、ステップ7に進んで、スロットル用電動モータ35Mを駆動してスロットルバルブ35vを閉弁して全閉状態とする。
したがって、内燃機関30の出力はなくなり、機関出力のない状態でエンジンブレーキ制御がなされる。
【0084】
以上のステップ1〜7は、ステップ4でエンジンブレーキモードにセットされEBモードフラグFに「1」が立てられると、以後エンジンブレーキモードが解除されるまで、ステップ1からステップ8に飛んで、繰り返さない。
【0085】
ステップ8では、現在車速Vと現在プーリ位置Pとアクセル開度φをあらためて読込む。
次のステップ9では、ブレーキ信号の有無を判別し、ブレーキ操作があってブレーキ信号ありと判別されたときは、ステップ19に飛んで、エンジンブレーキモードがリセットされ、EBモードフラグFが「0」とされ、エンジンブレーキモードを抜ける。
エンジンブレーキモード中に、ブレーキ操作があり、ブレーキ信号が入力されたときは、エンジンブレーキモードを解除するので、エンジンブレーキからマニュアルブレーキに即時に切り換えて運転者のブレーキ操作を優先する。
【0086】
ステップ9でブレーキ信号なしと判別されると、ステップ10に進み、ステップ8で読み込んだアクセル開度φが0より小さい負値を示しているかが判別され、スロットルグリップ11gを基準回動位置から減速方向に回動操作してアクセル開度φが負値を示しているときはステップ15に飛ぶ。
【0087】
ステップ15では、現在プーリ位置Pで示された変速段より一段低い低速段変速比を目標変速比として指示し、そしてステップ17に進み、この変速比の指示に従い変速用電動モータ61を駆動して現在の変速段のプーリ位置Pから1段低い変速段のプーリ位置に駆動プーリ51の可動プーリ半体51dを移動しシフトダウンする。
【0088】
したがって、下り坂をエンジンブレーキを働かせて走行しているとき、または平坦路でもエンジンブレーキを働かせて減速しているときに、運転者がエンジンブレーキの効きが弱過ぎると感じたときに、スロットルグリップ11gを基準回動位置から減速方向に回動操作することで、変速段を1段シフトダウンしてエンジンブレーキがより効くようにし、運転者に意思に沿ったエンジンブレーキ走行を可能とする。
なお、変速段ごとの変速比を決めていない場合は、ステップ15において、現在の変速比より所定量低速側の変速比を指示し、その所定量低速側の変速比に変速する。
【0089】
ステップ10でアクセル開度φが負値を示していないと判別されるとステップ11に進み、ステップ8で読み込んだアクセル開度φが0より大きい正値を示しているか否かが判別され、スロットルグリップ11gを基準回動位置から加速方向に回動操作してアクセル開度φが正値を示しているときはステップ16に飛ぶ。
【0090】
ステップ16では、現在プーリ位置Pで示された変速段より一段高い高速段変速比を目標変速比として指示し、そしてステップ17に進み、この変速比の指示に従い変速用電動モータ61を駆動して現在の変速段のプーリ位置Pから1段高い変速段のプーリ位置に駆動プーリ51の可動プーリ半体51dを移動しシフトアップする。
【0091】
したがって、下り坂をエンジンブレーキを働かせて降坂しているとき、または平坦路でもエンジンブレーキを働かせて減速しているときに、運転者がエンジンブレーキの効きが強過ぎると感じたときに、スロットルグリップ11gを基準回動位置から加速方向に回動操作することで、変速段を1段シフトアップしてエンジンブレーキの効きを弱めるようにし、運転者に意思に沿ったエンジンブレーキ走行を可能とする。
なお、変速段ごとの変速比を決めていない場合は、ステップ16において、現在の変速比より所定量高速側の変速比を指示し、その所定量高速側の変速比に変速する。
【0092】
ただし、このときのスロットルグリップ11gの基準回動位置からの加速方向に回動量は、アクセル開度φが前記EBモード解除アクセル開度φr未満である必要がある。
アクセル開度φがEBモード解除アクセル開度φrを越えると、エンジンブレーキモードは解除されてしまう。
なお、エンジンブレーキモード中は、スロットルバルブ35vは全閉状態に維持され、アクセル開度φがEBモード解除アクセル開度φr未満の正値を示してもスロットルバルブ35vは全閉のままである。
【0093】
スロットルグリップ11gが基準回動位置にあってアクセル開度φが0のときは、アクセル開度φが負値でも正値でもなく、ステップ10,11,12と進み、ステップ12においてステップ5で記憶した初期車速Viに対してステップ8で読み込んだ現在車速Vがどう変化したかを示す目標レシオ係数Krを、初期車速Viに対する現在車速Vの比で求める。
【0094】
そして、次のステップ13で、目標レシオ係数Krから目標変速比を導出する。
目標レシオ係数Kr>1ならば増速しており、目標レシオ係数Kr<1ならば減速している。
目標レシオ係数Kr>1で増速しているときは、初期プーリ位置Piより低速段側に目標レシオ係数Krに応じて離れたプーリ位置の変速比を目標変速比として指示し、逆に目標レシオ係数Kr<1で減速しているときは、初期プーリ位置Piより高速段側に目標レシオ係数Krに応じて離れたプーリ位置の変速比を目標変速比として指示する。
【0095】
ただし、ここで指示する目標変速比は、初期プーリ位置Piの変速段より1段シフトアップした変速比やシフトダウンした変速比には達しない程度の変速比である。
ステップ14からステップ17に進むと、ステップ14で指示された目標変速比に従って変速用電動モータ61を駆動して変速を実行する。
【0096】
ステップ17からはステップ18に進み、ステップ8で読み込んだアクセル開度φがステップ6で設定したEBモード解除アクセル開度φr以上となったか否かを判別し、アクセル開度φがEBモード解除アクセル開度φrに至るまでは、本エンジンブレーキ制御ルーチンを抜け、アクセル開度φがEBモード解除アクセル開度φrに達すると、ステップ19に進んで、エンジンブレーキモードがリセットされ、EBモードフラグFに「0」として、エンジンブレーキモードから出て、本エンジンブレーキ制御ルーチンを抜ける。
本エンジンブレーキ制御ルーチンは所定のサイクルタイムで繰り返される。
【0097】
本エンジンブレーキ制御ルーチンは、以上のように構成されており、当初エンジンブレーキモードは解除されてEBモードフラグFが「0」でステップ1,2,3が繰り返されるうちに、運転者がスロットルグリップ11gを基準回動位置に操作してアクセル開度φを0とすると、ステップ3からステップ4に進んで、エンジンブレーキモードに入り、EBモードフラグFに「1」を立てるので、以後はステップ1からステップ8に飛び、ステップ8以降が実行される。
【0098】
その間に、ブレーキ信号があれば(ステップ9)、エンジンブレーキモードが解除され(EBモードフラグFが「0」)、ブレーキ信号がなければ、ステップ10,11でアクセル開度φが負値、正値、0のいずれを示しているかを判別している。
すなわち運転者がエンジンブレーキの効きが弱過ぎると感じたときはスロットルグリップ11gを基準回動位置から減速方向に回動操作することで(アクセル開度φ<0)、変速段を1段シフトダウンして(ステップ15,17)エンジンブレーキがより効くようにし、エンジンブレーキの効きが強過ぎると感じたときはスロットルグリップ11gを基準回動位置から加速方向に回動操作することで(アクセル開度φ>0)、変速段を1段シフトアップして(ステップ16,17)エンジンブレーキの効きを弱め、エンジンブレーキの効きが適度であると感じたときはスロットルグリップ11gを基準回動位置に維持し(アクセル開度φ=0)、車速が維持されるような変速調整(ステップ12,13,14,17)でエンジンブレーキが制御される。
【0099】
以上のエンジンブレーキ制御が、アクセル開度φがEBモード解除アクセル開度φr以上となるまで(ステップ18)、繰り返される。
すなわち、運転者がエンジンブレーキ走行を脱して内燃機関30の出力により走行すべくスロットルグリップ11gを加速方向に比較的大きく回動(アクセル開度φがEBモード解除アクセル開度φr以上となる回動)するまで上記エンジンブレーキ制御が継続される。
アクセル開度φがEBモード解除アクセル開度φrに達すると、エンジンブレーキモードがリセットされEBモードフラグFに「0」として(ステップ19)、エンジンブレーキモードから出て、本エンジンブレーキ制御ルーチンを抜ける。
【0100】
以上のように、本変速機制御手段202は、路面勾配を検出するなどの特別の検出装置を必要とせず、運転者のスロットルグリップ11gの操作により電子式無段変速機50の変速比を任意に調整することでエンジンブレーキを制御して車速を任意に設定可能で、スロットル全閉時において運転者の意思に沿った走行を実現することができる。
特に、運転者によるスロットルグリップ11gのアクセル操作のみで変速比の増減が可能なので、マニュアルブレーキを操作する頻度が減り操作が簡単になる。
【符号の説明】
【0101】
1…スクータ型自動二輪車、7…メインパイプ、11g…スロットルグリップ、19…ピボット軸、20…パワーユニット、21…ユニットケース、21h…パワーユニットハンガ、22…右ユニットケース、23…伝動ケース、24…伝動ケースカバー、25…減速ギヤカバー、30…内燃機関、31…シリンダブロック、35…スロットルボディ、35M…スロットル用電動モータ、40…クランク軸、40C…クランク室、
50…ベルト式無段変速機、50C…変速室、51…ドライブプーリ、51d…可動プーリ半体、51s…固定プーリ半体、58…Vベルト、
60…変速駆動機構、61…変速用電動モータ、70…雄ねじ部材、75…駆動プーリ変速位置センサ、110…減速ギヤ機構、
200…ECU、201…スロットルバルブ制御手段、202…変速機制御手段、
211…機関回転数センサ、212…車速センサ、
221…アクセル開度センサ、222…基盤、222p…規制ピン、223…回動軸、224…ワイヤプーリ、225…回動円板、225p…旋回ピン、226…連結ピン、227…センタリング用スプリング、228…スロットルワイヤ、230…ブレーキレバー、231…ブレーキスイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル開度センサ(221)により検出されたスロットルグリップ(11g)の回動量であるアクセル開度(φ)に応じてスロットル用アクチュエータ(35M)を駆動してスロットルバルブ(35v)を作動し吸気通路面積を変える電子式スロットルバルブ機構を備えた内燃機関(30)を搭載し、内燃機関(30)の動力を変速用アクチュエータ(61)の駆動により任意の変速比に変速して駆動輪に伝達する電子式無段変速機(50)を備えた自動二輪車の変速制御装置において、
前記アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0以下になると、アクセル開度(φ)が所要のモード解除アクセル開度(φr)以上になるまでエンジンブレーキモードとなり、アクセル開度(φ)に応じて変速比を決定し、前記変速用アクチュエータ(61)を駆動して決定した変速比に変更してエンジンブレーキを制御することを特徴とする自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項2】
前記スロットルグリップ(11g)が付勢手段により付勢されて基準回動位置に位置決めされた状態で、前記スロットルバルブ(35v)を全閉として前記アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0を示し、
前記スロットルグリップ(11g)の基準回動位置から加速方向に回動すると前記アクセル開度(φ)が正値で示され、
前記スロットルグリップ(11g)の基準回動位置から減速方向に回動すると前記アクセル開度(φ)が負値で示されることを特徴とする請求項1記載の自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項3】
前記エンジンブレーキモードに入った時の車速と変速比を各々初期車速(Vi)と初期変速比(Pi)として記憶することを特徴とする請求項2記載の自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項4】
前記初期車速(Vi)と前記初期変速比(Pi)に基づいて前記モード解除アクセル開度(φr)が設定されることを特徴とする請求項3記載の自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項5】
前記アクセル開度センサ(221)の検出するアクセル開度(φ)が0以下になり、エンジンブレーキモードに入ると、前記スロットルバルブ(35v)を全閉とすることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項6】
前記エンジンブレーキモード中に、前記スロットルグリップ(11g)が基準回動位置から減速方向に回動されアクセル開度(φ)が負値を示したときは、前記変速用アクチュエータ(61)を駆動して現在の変速比(P)から所定量低速側の変速比に変速することを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項7】
前記エンジンブレーキモード中に、前記スロットルグリップ(11g)が基準回動位置から加速方向に回動されアクセル開度(φ)が前記モード解除アクセル開度(φr)未満の正値を示したときは、前記変速用アクチュエータ(61)を駆動して現在の変速比(P)から所定量高速側の変速比に変速することを特徴とする請求項3ないし請求項6のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項8】
前記エンジンブレーキモード中に、運転者のブレーキ操作があり、ブレーキ信号が入力されたときは、前記エンジンブレーキモードを解除することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置。
【請求項9】
前記エンジンブレーキモード中に、前記モード解除アクセル開度(φr)以上のアクセル開度(φ)が入力されたときは、前記エンジンブレーキモードを解除することを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の自動二輪車の自動変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−225443(P2012−225443A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94597(P2011−94597)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】