説明

自動変速機の制御装置

【課題】入力回転数が出力回転数を下回る惰性走行状態から正駆動状態に移行する際に準備圧を適正に算出することで、エンジン回転の不要な上昇を抑制すると共に、燃費性能の低下を防止するようにした自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して車両に搭載されたエンジンの出力を入力して変速する自動変速機の制御装置において、ロックアップクラッチが解放されていると共に、トルクコンバータの出力回転数(メインMSの回転数NM)が入力回転数(エンジン回転数NE)を上回る惰性走行状態にあるとき、運転者によってアクセルペダル操作を通じてトルクが要求されたか否か判定し(S10)、トルクが要求されたと判定されるとき、要求されたトルクに基づいてロックアップクラッチに供給すべき準備圧を示す油圧制御値を算出する(S12からS16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動変速機の制御装置に関し、より具体的には惰性走行状態からアクセルペダル操作がなされたときの準備圧を適正に算出するようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1において、トルクコンバータの出力回転数が入力回転数を上回る逆駆動状態(惰性走行状態)から入力回転数が出力回転数を上回る正駆動状態に移行したとき、タービン回転数かエンジン回転数が所定範囲に入り、水温が所定範囲に入り、変速が終了しているなどの許可条件が成立するとき、スリップ制御(係合制御)を許可するように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2650172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術にあっては、上記のように構成することで、トルクコンバータの出力回転数が入力回転数を上回る惰性走行状態などのロックアップクラッチの容量制御が困難な領域においてロックアップクラッチ制御実圧の急変によるショックを回避している。
【0005】
ところで、このような惰性走行状態から正駆動状態に推移する際、準備圧を供給する準備区間を経由してロックアップクラッチを係合制御する係合制御区間に移行するが、特許文献1記載の技術などにおいて準備圧としては、通例、一定の時間、固定値が出力されるため、エンジン回転が不要に上昇して違和感を与えたり、係合制御開始までの時間が長くなって燃費性能が低下したりする不都合がある。
【0006】
この発明の目的は上記した課題を解決し、入力回転数が出力回転数を下回る惰性走行状態から正駆動状態に移行する際に準備圧を適正に算出することで、エンジン回転の不要な上昇を抑制すると共に、燃費性能の低下を防止するようにした自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して車両に搭載されたエンジンの出力を入力して変速する自動変速機の制御装置において、前記ロックアップクラッチが解放されていると共に、前記トルクコンバータの出力回転数が入力回転数を上回る惰性走行状態にあるとき、運転者によってアクセルペダル操作を通じてトルクが要求されたか否か判定する運転者トルク要求判定手段と、前記トルクが要求されたと判定されるとき、前記要求されたトルクに基づいて前記ロックアップクラッチに供給すべき準備圧を示す油圧制御値を算出する油圧制御値算出手段とを備える如く構成した。
【0008】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧制御値算出手段は、予め実験を通じて求められた油圧制御値とそれによって前記ロックアップクラッチに実際に発生する油圧の元圧であるライン圧との関係に基づいて設定された特性に従って前記油圧制御値を算出する如く構成した。
【0009】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧制御値算出手段は、前記ロックアップクラッチのスリップ量が設定値を下回ったとき、前記油圧制御値を算出する如く構成した。
【0010】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧制御値算出手段は、前記ロックアップクラッチのスリップ量が減少から増加に反転したとき、前記ロックアップクラッチの係合制御を許可する如く構成した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る自動変速機の制御装置にあっては、惰性走行状態にあるとき、運転者によってアクセルペダル操作を通じてトルクが要求されたか否か判定し、トルクが要求されたと判定されるとき、要求されたトルクに基づいて、換言すれば要求されたトルクが多ければ大きくなるようにロックアップクラッチに供給すべき準備圧を示す油圧制御値を算出する如く構成したので、準備圧が固定値ではなく、要求されたトルクに基づいて、換言すれば要求されたトルクが多ければ大きくなるように算出されることから、不要なエンジン回転の上昇を抑制することができる。また、準備圧が大きく算出されることで早期に係合制御に移行させることができ、燃費性能の低下を防止することができる。
【0012】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、予め実験を通じて求められた油圧制御値とそれによってロックアップクラッチに実際に発生する油圧の元圧であるライン圧との関係に基づいて設定された特性に従って油圧制御値を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、油圧制御値に対するロックアップクラッチの応答特性の遅れを考慮することができる。
【0013】
即ち、遅れがあるときはその遅れを吸収するように油圧制御値を算出することができることから、よって準備区間と係合制御区間とをショックなく、かつ滑らかに連続させることができる。
【0014】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、ロックアップクラッチのスリップ量が設定値を下回ったとき、油圧制御値を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、油圧制御値を一層適正な時期に算出することができる。
【0015】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、ロックアップクラッチのスリップ量が減少から増加に反転したとき、ロックアップクラッチの係合制御を許可する如く構成したので、上記した効果に加え、係合制御への移行時期を一層適正に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1のトランスミッションの油圧回路をトルクコンバータを中心に部分的に示す油圧回路図である。
【図3】図1に示す自動変速機の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図4】図3フロー・チャートに示す処理を説明するタイム・チャートである。
【図5】図3フロー・チャートの油圧制御値の算出処理を示すサブルーチン・フロー・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る自動変速機の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0018】
図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0019】
以下説明すると、符号T/Mは自動変速機(以下「トランスミッション」という)を示す。トランスミッションT/Mは車両(図示せず)に搭載されてなると共に、前進5速および後進1速の速度段を有する平行軸式の有段型からなる。
【0020】
トランスミッションT/Mは、エンジン(内燃機関)Eのクランクシャフトに接続されるアウトプットシャフト10にロックアップ機構Lを有するトルクコンバータ12を介して接続されたメインシャフト(入力軸)MSと、このメインシャフトMSに複数のギヤ列を介して接続されたカウンタシャフト(出力軸)CSとを備える。エンジンEは複数気筒を備えると共に、ガソリンを燃料とする火花点火式のエンジンからなる。
【0021】
トルクコンバータ12のロックアップ機構LはロックアップクラッチLCを備え、供給される油圧(作動油ATFの圧力)に応じてアウトプットシャフト10に対してメインシャフトMSを係合(より正確にはスリップ)させる。
【0022】
アウトプットシャフト10の回転数に対するメインシャフトMSの回転数の比ETRはトルクコンバータ12、より具体的にはロックアップクラッチLCのスリップ率、換言すればスリップ量(係合度)を示すと共に、アウトプットシャフト10の回転数とメインシャフトMSの回転数の差SLIPもトルクコンバータ12、より具体的にはロックアップクラッチLCのスリップ量(係合度)を示す。
【0023】
メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ14、メイン2速ギヤ16、メイン3速ギヤ18、メイン4速ギヤ20、メイン5速ギヤ22、およびメインリバースギヤ24が支持される。
【0024】
また、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ14に噛合するカウンタ1速ギヤ28、メイン2速ギヤ16と噛合するカウンタ2速ギヤ30、メイン3速ギヤ18に噛合するカウンタ3速ギヤ32、メイン4速ギヤ20に噛合するカウンタ4速ギヤ34、メイン5速ギヤ22に噛合するカウンタ5速ギヤ36、およびメインリバースギヤ24にリバースアイドルギヤ40を介して接続されるカウンタリバースギヤ42が支持される。
【0025】
上記において、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ14を1速用油圧クラッチ(摩擦係合要素。以下同様)C1でメインシャフトMSに結合すると、1速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0026】
メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン2速ギヤ16を2速用油圧クラッチC2でメインシャフトMSに結合すると、2速(ギヤ。速度段)が確立する。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ32を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフトCSに結合すると、3速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0027】
カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ4速ギヤ34をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ20を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、4速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0028】
また、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ5速ギヤ36を5速用油圧クラッチC5でカウンタシャフトCSに結合すると、5速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0029】
さらに、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバースギヤ42をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメインリバースギヤ24を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、後進速度段が確立する。
【0030】
カウンタシャフトCSの回転は、ファイナルドライブギヤ46およびファイナルドリブンギヤ48を介してディファレンシャルDに伝達され、それから左右のドライブシャフト50,50を介し、エンジンEおよびトランスミッションT/Mが搭載される車両(図示せず)の駆動輪W,Wに伝達される。
【0031】
車両運転席(図示せず)のフロア付近にはシフトレバー54が設けられ、運転者の操作によって8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれか選択される。
【0032】
エンジンEの吸気路(図示せず)に配置されたスロットルバルブ(図示せず)はDBW(Drive By Wire)機構55に接続される。即ち、スロットルバルブはアクセルペダル(図示せず)との機械的な連結が断たれ、電動機などのアクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
【0033】
DBW機構55のアクチュエータの付近にはスロットル開度センサ56が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THHFを示す信号を出力する。またファイナルドリブンギヤ48の付近には車速センサ58が設けられ、ファイナルドリブンギヤ48が1回転するごとに車速Vを示す信号を出力する。
【0034】
更に、カムシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が設けられ、特定気筒の所定クランク角度でCYL信号を、各気筒の所定クランク角度でTDC信号を、所定クランク角度を細分したクランク角度(例えば15度)ごとにCRK信号を出力する。また、エンジンEの吸気路のスロットルバルブ配置位置の下流には絶対圧センサ62が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
【0035】
また、メインシャフトMSの付近には第1の回転数センサ64が設けられ、メインシャフトMSの回転数(トランスミッションT/Mの入力回転数)NMを示す信号を出力すると共に、カウンタシャフトCSの付近には第2の回転数センサ66が設けられ、カウンタシャフトCSの回転数(トランスミッションT/Mの出力回転数)NCを示す信号を出力する。
【0036】
さらに、車両運転席付近に装着されたシフトレバー54の付近にはシフトレバーポジションセンサ68が設けられ、前記した8種のポジション(レンジ)の中、運転者によって選択されたポジションを示す信号を出力する。
【0037】
後述するようにトランスミッションT/Mの油圧回路Oのリザーバの付近には温度センサ70が設けられて油温(作動油Automatic Transmission Fluidの温度)TATFに比例した信号を出力すると共に、各油圧クラッチCnに接続される油路には油圧スイッチ72(図2で図示省略)がそれぞれ設けられ、各油圧クラッチCnに供給される油圧が所定値に達したとき、ON信号を出力する。
【0038】
車両運転席のブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ74が設けられ、運転者のブレーキペダル操作に応じてON信号を出力すると共に、アクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ76が設けられ、運転者のアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APに応じた出力を生じる。
【0039】
これらセンサ56などの出力は、ECU(電子制御ユニット)80に送られる。
【0040】
ECU80は、CPU82,ROM84,RAM86、入力回路88、および出力回路90からなるマイクロコンピュータから構成される。マイクロコンピュータはA/D変換器92を備える。
【0041】
前記したセンサ56などの出力は、入力回路88を介してECU80内に入力され、アナログ出力はA/D変換器92を介してデジタル値に変換されると共に、デジタル出力は波形整形回路などの処理回路(図示せず)を経て処理され、前記RAM86に格納される。
【0042】
車速センサ58の出力およびクランク角センサ60のCRK信号出力はカウンタ(図示せず)で時間間隔が計測され、車速Vおよびエンジン回転数NEが検出される。第1の回転数センサ64および第2の回転数センサ66の出力もカウントされ、トランスミッションの入力軸回転数NMおよび出力軸回転数NCが検出される。
【0043】
図示の如く、トランスミッションT/Mの油圧回路OはシフトソレノイドSL1からSL5とリニアソレノイドSL6からSL9を備える。図2は図1の油圧回路Oをトルクコンバータ12を中心に部分的に示す油圧回路図である。
【0044】
油圧回路Oには油圧ポンプO1が設けられる。油圧ポンプO1はエンジンEで駆動され、前記したリザーバ(符号O2で示す)に貯留された作動油ATFを汲み上げ、PHレギュレータバルブO3に送る。
【0045】
PHレギュレータバルブO3は車両の走行状態に応じて油圧ポンプO1の吐出圧を調整し、PH圧(元圧あるいはライン圧)を生成し、油路O4に供給する。
【0046】
油路O4は各油圧クラッチCnに接続されると共に、トルクコンバータ12に接続される。即ち、トルクコンバータ12のロックアップクラッチLCは背圧室LC1と、背圧室LC1に接続される内圧室LC2を備える。内圧室LC2は油路O4から分岐される油路O5に接続されて油圧を供給される一方、背圧室LC1はリニアソレノイドSL8に接続されて係合量が調整される。
【0047】
また、ロックアップクラッチLCの解放時には、背圧室LC1は油路O4から分岐される油路O5に接続されて油圧を供給される一方、内圧室LC2は油路O6を介してドレンXに接続されて油圧を排出する。
【0048】
トルクコンバータ12においてロックアップクラッチLCは背圧室LC1と内圧室LC2の差圧(供給油圧)に応じた圧力でアウトプットシャフト10に対してメインシャフトMSを係合(スリップ)させる。
【0049】
ECU80においてCPU82は行先段あるいは目標段(変速比)を決定し、出力回路90および電圧供給回路(図示せず)を介して油圧回路Oに配置されたシフトソレノイドSL1からSL5を励磁・非励磁してクラッチ油路の切替え制御を行う。
【0050】
またCPU82はリニアソレノイドSL6,SL7を励磁・非励磁して変速に関係する油圧クラッチCnへの供給油圧を制御すると共に、リニアソレノイドSL8を励磁・非励磁してロックアップクラッチLCの背圧室LC1の油圧を制御し、さらにリニアソレノイドSL9を励磁・非励磁してPH圧を調整する。
【0051】
尚、CPU82はエンジンEの燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ(図示せず)を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置(図示せず)を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火するが、それらはこの発明と直接の関連を有しないので、それ以上の説明を省略する。
【0052】
次いで、この発明に係る自動変速機の制御装置の動作を説明する。
【0053】
図3はその処理を示すフロー・チャート、図4はその処理を示すタイム・チャートである。図3のプログラムはCPU82によって所定時間ごとに実行される。
【0054】
以下説明すると、S10においてアクセル開度APが所定値を上回るか否か判断する。
【0055】
具体的にはロックアップクラッチLCが解放(非係合)されていると共に、図4に示すようなトルクコンバータ12の出力回転数(メインシャフトMSの回転数NM)が入力回転数(エンジン回転数NE)を上回る惰性走行状態にあるとき、運転者によってアクセルペダル操作を通じてトルクが要求されたか否か判定する。
【0056】
S10で否定されるときは以降の処理をスキップすると共に、肯定されるときはS12に進み、トルクコンバータ12のスリップ量、即ち、トルクコンバータ12の出力回転数と入力回転数の差が設定値(零あるいはその近傍)を下回るか否か判断する。図4タイム・チャートでいえば、時刻t1のとき、この判断は肯定される。
【0057】
S12で否定されるときはS14に進み、ロックアップクラッチLCに供給すべき準備圧を示す油圧制御値に固定値を設定する一方、肯定されるときはS16に進み、油圧制御値を要求トルクに応じて算出する。
【0058】
図5はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0059】
以下説明すると、S100において油圧制御値の算出が初回、即ち、図3フロー・チャートの処理において初めてのプログラムループか否か判断し、肯定されるときはS102に進み、エンジンEの出力トルクを算出する。
【0060】
これは、エンジンEの回転数NEと負荷(例えばスロットル開度THHFアクセル開度AP)とから適宜な特性を検索することで算出する。この実施例にはDBW機構55を備え、そこで検出されたアクセル開度APなどに応じてスロットル開度THHFが制御されることから、スロットル開度THHFは運転者によってアクセルペダル操作を通じて要求されたトルクを示す。
【0061】
負荷を示すパラメータ運転者によってアクセルペダル操作を通じて要求されたトルクを示すものであればどのようなものでも良く、例えば、吸気管内絶対圧PBAなどであっても良い。
【0062】
次いでS104に進み、目標LC差圧(ロックアップクラッチLCの背圧室LC1と内圧室LC2の差圧の目標値)を算出する。
【0063】
これは、S102で算出されたエンジンEの出願トルクから目標LCトルク(ロックアップクラッチLCの伝達トルクの目標値)を求め、求めた目標LCトルクと目標LCスリップ量と油温とから予め設定された特性に従って目標LCトルクを実現するのに必要なLC差圧を検索して算出する。
【0064】
この予め設定された特性は、実験的に計測された値をECU80のROM84に実装したものである。即ち、予め実験を通じて求められたロックアップクラッチLCへの供給油圧(即ち、その背圧室LC1と内圧室LC2の差圧)と供給油圧によってロックアップクラッチLCに実際に発生するLC伝達トルクとの関係に基づいて設定された特性に従って目標LCトルクを実現するのに必要なLC差圧を算出する。
【0065】
次いでS106に進み、算出されたLC差圧に基づいて油圧制御値(リニアソレノイドSL8に通電されるべき制御値)を算出する。尚、S100で否定されるときはS108に進み、油圧制御値として前回値を保持する。
【0066】
図3フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS18に進み、上記のようにして算出された油圧制御値を出力する(即ち、油圧を供給する)。
【0067】
次いでS20に進み、トルクコンバータ12のスリップ量が前回値を上回るか、換言すればスリップ量が減少から増加に反転したか否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップする。
【0068】
一方、S20で肯定されるときはS22に進み、ロックアップクラッチLCの係合制御を許可する。図4タイム・チャートでいえば、時刻t2でS20の判断は肯定され、係合制御が許可される。
【0069】
上記した如く、この実施例にあっては、ロックアップクラッチLCを有するトルクコンバータ12を介して車両に搭載されたエンジンEの出力を入力して変速する自動変速機(トランスミッション)T/Mの制御装置(ECU80)において、前記ロックアップクラッチLCが解放されていると共に、前記トルクコンバータ12の出力回転数(メインシャフトMSの回転数NM)が入力回転数(エンジン回転数NE)を上回る惰性走行状態にあるとき、運転者によってアクセルペダル操作を通じてトルクが要求されたか否か判定する運転者トルク要求判定手段(S10)と、前記トルクが要求されたと判定されるとき、前記要求されたトルクに基づいて前記ロックアップクラッチに供給すべき準備圧を示す油圧制御値を算出する油圧制御値算出手段(S12から18)とを備える如く構成したので、準備圧が固定値ではなく、要求されたトルクに基づいて、換言すれば要求されたトルク大きければ大きくなるように算出されることから、図4に破線で示すような不要なエンジン回転の上昇を、実線で示すように抑制することができる。
【0070】
また、準備圧が大きく算出されることで早期に、図4でいえば時刻t3の前のt2に係合制御に移行させることができ、燃費性能の低下を防止することができる。
【0071】
また、前記油圧制御値算出手段は、予め実験を通じて求められた油圧制御値とそれによって前記ロックアップクラッチLCに実際に発生する油圧の元圧であるライン圧との関係に基づいて設定された特性に従って前記油圧制御値を算出する如く構成したので、上記した効果に加え、油圧制御値に対するロックアップクラッチLCの応答特性の遅れを考慮することができる。
【0072】
即ち、遅れがあるときはその遅れを吸収するように油圧制御値を算出することができることから、よって準備区間と係合制御区間とをショックなく、かつ滑らかに連続させることができる。
【0073】
また、前記油圧制御値算出手段は、前記ロックアップクラッチLCのスリップ量が設定値を下回ったとき、前記油圧制御値を算出する(S12,S16)如く構成したので、上記した効果に加え、油圧制御値を一層適正な時期に算出することができる。
【0074】
また、前記油圧制御値算出手段は、前記ロックアップクラッチLCのスリップ量が減少から増加に反転したとき、前記ロックアップクラッチの係合制御を許可する(S20,S22)如く構成したので、上記した効果に加え、係合制御への移行時期を一層適正に決定することができる。
【0075】
尚、図3の処理においてスリップ量を用いたが、入力回転数に対する出力回転数の比を用いても良い。即ち、この明細書において目標「スリップ量」は回転数の差と回転数の比の双方を含む。
【0076】
また、この発明を平行軸式の自動変速機を例にとって説明したが、この発明はプラネタリ型の自動変速機にも妥当する。
【符号の説明】
【0077】
T/M 自動変速機(トランスミッション)、E エンジン(内燃機関)、O 油圧回路、12 トルクコンバータ、L ロックアップ機構、LC ロックアップクラッチ、LC1 背圧室、LC2 内圧室、14,16,18,20,22,24,28,30,32,34,36,42 ギヤ、Cn 油圧クラッチ(摩擦係合要素)、55 DBW機構、58 車速センサ、60 クランク角センサ、62 絶対圧センサ、64,66 回転数センサ、76 アクセル開度センサ、80 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックアップクラッチを有するトルクコンバータを介して車両に搭載されたエンジンの出力を入力して変速する自動変速機の制御装置において、前記ロックアップクラッチが解放されていると共に、前記トルクコンバータの出力回転数が入力回転数を上回る惰性走行状態にあるとき、運転者によってアクセルペダル操作を通じてトルクが要求されたか否か判定する運転者トルク要求判定手段と、前記トルクが要求されたと判定されるとき、前記要求されたトルクに基づいて前記ロックアップクラッチに供給すべき準備圧を示す油圧制御値を算出する油圧制御値算出手段とを備えることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記油圧制御値算出手段は、予め実験を通じて求められた油圧制御値とそれによって前記ロックアップクラッチに実際に発生する油圧の元圧であるライン圧との関係に基づいて設定された特性に従って前記油圧制御値を算出することを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記油圧制御値算出手段は、前記ロックアップクラッチのスリップ量が設定値を下回ったとき、前記油圧制御値を算出することを特徴とする請求項1または2記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記油圧制御値算出手段は、前記ロックアップクラッチのスリップ量が減少から増加に反転したとき、前記ロックアップクラッチの係合制御を許可することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−179584(P2011−179584A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44137(P2010−44137)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】