説明

自動変速機の油圧制御装置

【課題】オールオフフェール後のエンジンの再始動時に、パーキング装置をパーキング状態とすると共に、ニュートラル(N)レンジ状態に切換えることにより、車輌をパーキング状態とすることが可能な自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】油圧制御装置20は、オールオフフェール時に、パーキング装置30にパーキング解除圧を出力することでパーキング解除状態を保持する第4切換え手段54と、油圧サーボへ逆入力させる油圧を保持することで走行状態を保持する第5切換え手段55とを備えている。オールオフフェール後のエンジンの再始動時に、第4切換え手段54は、パーキング解除圧を第5切換え手段55に出力し、該第5切換え手段55は、パーキング解除圧の作用により、油圧サーボへの油圧の供給を停止することでニュートラル状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輌に用いられる自動変速機の油圧制御装置に係り、詳しくは、運転者の操作を電気信号を介して伝達し、パーキング(P)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、ドライブ(D)レンジ及びリバース(R)レンジに等に切換えるシフトバイワイヤ方式のレンジ切換え装置が備えられた自動変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車輌に搭載される自動変速機は、複数の摩擦係合要素(クラッチ、ブレーキ)の係合状態を油圧制御装置によって制御し、変速機構における伝達経路を形成することを可能としている。この油圧制御装置にあっては、複数の切換えバルブや調圧バルブ等を備えていると共に、これらバルブの動作を電子制御するための複数のソレノイドバルブが備えられており、これらソレノイドバルブの駆動によって上記切換えバルブや調圧バルブを作動させ、上記伝達経路の形成が行われている。
【0003】
また、このような油圧制御装置にあっては、運転者の操作を電気信号によってそれぞれのソレノイドバルブに伝達し、これにより該ソレノイドバルブを操作することによって切換えバルブやパーキング装置等の切換えを行うシフトバイワイヤ方式のレンジ切換え装置を備えたものがある。
【0004】
このようなレンジ切換え装置にあって、例えば断線やショートが生じた場合、或いは油圧制御装置内において何らかの故障を検知した場合など、ソレノイドバルブに何等電気信号を送らない状態、いわゆるソレノイド・オールオフフェールの状態において、エンジンが停止されるまで、車輌の走行を確保するために油圧制御によって、パーキング装置をパーキング解除状態に保持すると共に、ドライブ(D)レンジ状態も保持することができるフェールセーフ機能を備えたものが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特表2002−533631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に自動変速機の油圧制御装置では、例えば油圧制御装置内においての何らかの故障があった等の理由によりいずれかの変速段が保持されたままエンジンを停止し、その後、エンジンを再始動した場合、車輌が急発進してしまう虞がある。このため、エンジンを再始動する際には、パーキング装置がパーキング状態とされていることが望ましい。
【0007】
つまり、上記のように油圧制御装置がオールオフフェールの状態となり、エンジンが停止されるまで、フェールセーフ機能によってドライブ(D)レンジ状態を保持して車輌の走行状態を保持した場合にも、エンジンの再始動時には、車輌が安全な停止状態とされていることが望まれている。
【0008】
そこで本発明は、オールオフフェール後のエンジンの再始動時に、パーキング装置をパーキング状態とすると共に、油圧サーボを走行状態からニュートラル状態に切換えることにより、車輌を停止状態とすることが可能な自動変速機の油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る本発明は(例えば図1ないし図5参照)、パーキング解除圧が入力されることによりパーキング解除状態となり、前記パーキング解除圧が入力されない場合にはパーキング状態となるパーキング装置(30)と、
複数の変速段を形成するように、それぞれの油圧サーボによって係脱される複数の摩擦係合要素(C−1,C−2,C−3,C−4,B−1,B−2)と、を備え、
複数の前記油圧サーボを制御する複数のソレノイドバルブ(SL3,SL2)の非通電時に、エンジンが停止されるまでの間、前記パーキング装置(30)を前記パーキング解除状態に保持し、かつ前記複数の摩擦係合要素(C−1,C−2,C−3,C−4,B−1,B−2)のうち所定の摩擦係合要素(C−2,C−3)を、所定高速段を形成するように係合状態を保持して走行状態を保持する自動変速機(1)の油圧制御装置(20)において、
前記パーキング装置(30)に前記パーキング解除圧を出力するパーキング切換え手段(54)と、
全てのソレノイドバルブの非通電時に前記自動変速機(1)の前記走行状態を保持する走行レンジ保持手段(55)と、を備え、
前記パーキング切換え手段(54)は、前記非通電時に、エンジンが停止されるまでの間、前記パーキング装置(30)をパーキング解除状態に保持し、前記エンジンの再始動時には前記パーキング解除圧を前記走行レンジ保持手段(55)に出力するように切換え、かつ前記走行レンジ保持手段(55)が、前記エンジンの再始動時に前記パーキング解除圧の作用によって、前記油圧サーボへの油圧の供給を遮断することで、前記走行状態からニュートラル状態へ切換える、
ことを特徴とする自動変速機(1)の油圧制御装置(20)にある。
【0010】
請求項2に係る本発明は(例えば図4参照)、前記パーキング切換え手段(54)は、スプール(54p)、前記スプール(54p)を一方側に付勢する付勢部材(54s)、前記スプール(54p)の前記一方側にフィードバック圧が作用するフィードバック油室(54g)、を有するパーキング切換えバルブ(54A)と、
前記非通電時に、前記パーキング切換えバルブ(54A)の前記スプール(54p)を他方側に付勢するパーキング切換え用ソレノイドバルブ(RS3)と、を備え、
通常時には前記パーキング装置(30)に前記パーキング解除圧を出力し、前記非通電時には前記パーキング切換え用ソレノイドバルブ(RS3)の制御圧による作用よりも、前記付勢部材(54s)の作用及び前記フィードバック圧による作用を強くすることで、前記パーキング解除圧の前記パーキング装置(30)への出力が保持され、前記エンジンの再始動時には前記スプール(54p)に前記フィードバック圧が作用する前に前記パーキング切換え用ソレノイドバルブ(RS3)の制御圧が作用し、前記パーキング切換えバルブ(54A)が切換えられることで前記パーキング解除圧が前記走行レンジ保持手段(55)に出力されてなる、
請求項1記載の自動変速機(1)の油圧制御装置(20)にある。
【0011】
請求項3に係る本発明は(例えば図4参照)、前記走行レンジ保持手段(55)は、電気信号に基づいて前記走行状態と前記ニュートラル状態との2つの位置に切換えられ、前記非通電時に切換え位置が保持されるレンジ保持切換え用ソレノイドバルブ(RS5)を有し、
前記レンジ保持切換え用ソレノイドバルブ(RS5)は、前記エンジンの再始動時に前記パーキング切換えバルブ(54A)から入力された前記パーキング解除圧が作用することによって切換えられ、前記非通電時に前記レンジ保持切換え用ソレノイドバルブ(RS5)によって保持された前記走行状態から前記ニュートラル状態に切換えられてなる、
請求項1または2記載の自動変速機(1)の油圧制御装置(20)にある。
【0012】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る本発明によると、全てのソレノイドバルブの非通電時、つまりオールオフフェール状態の際のエンジン再始動時に、パーキング解除圧の作用によって、油圧サーボへの油圧の供給を遮断することにより、油圧サーボを走行状態からニュートラル状態へ切換えるので、パーキング装置をパーキング状態にすると共にニュートラル状態とすることができ、車輌を安全な停止状態にすることができる。また、エンジン再始動時に不要となるパーキング解除圧を作用させることによって走行レンジ保持手段を切換えるので、該走行レンジ保持手段を切換えるためのバルブや油路等を設ける場合に比して、油圧制御装置が簡素化されてバルブボディのコンパクト化を図ることができる。
【0014】
請求項2に係る本発明によると、エンジンの再始動時に、パーキング切換え用ソレノイドバルブの制御圧によってパーキング切換えバルブが切換えられるので、パーキング解除圧を走行レンジ保持手段に出力することができる。これにより、エンジンの再始動の際に、パーキング解除圧によって走行レンジ保持手段の切換えを行うことができる。
【0015】
請求項3に係る本発明によると、非通電時に切換え位置が保持されるレンジ保持切換え用ソレノイドバルブを有しているので、1個の切換え用ソレノイドバルブによる簡単な構成で、非通電時に切換え位置を保持でき、オールオフフェール時のフェールセーフを行うことができるものでありながら、エンジンの再始動時には車輌を安全な停止状態にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図5に基づいて説明する。
【0017】
まず、本発明を適用し得る自動変速機1、具体的には前進8速段の自動変速機の概略構成について説明する。図1に示すように、例えばFRタイプ(フロントエンジン、リヤドライブ)の車輌に用いて好適な自動変速機1は、不図示のエンジンに接続し得る自動変速機1の入力軸11を有しており、該入力軸11の軸方向を中心としてトルクコンバータ7と、変速機構2とを備えている。
【0018】
上記トルクコンバータ7は、自動変速機1の入力軸11に接続されたポンプインペラ7aと、作動流体を介して該ポンプインペラ7aの回転が伝達されるタービンランナ7bとを有しており、該タービンランナ7bは、上記入力軸11と同軸上に配設された上記変速機構2の入力軸12に接続されている。また、該トルクコンバータ7には、ロックアップクラッチ10が備えられており、該ロックアップクラッチ10が後述の油圧制御装置20の油圧制御によって係合されると、上記自動変速機1の入力軸11の回転が変速機構2の入力軸12に直接伝達される。
【0019】
上記変速機構2には、入力軸12(及び中間軸13)上において、プラネタリギヤDPと、プラネタリギヤユニットPUとが備えられている。上記プラネタリギヤDPは、サンギヤS1、キャリヤCR1、及びリングギヤR1を備えており、該キャリヤCR1に、サンギヤS1に噛合するピニオンP1及びリングギヤR1に噛合するピニオンP2を互いに噛合する形で有している、いわゆるダブルピニオンプラネタリギヤである。
【0020】
また、該プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素としてサンギヤS2、サンギヤS3、キャリヤCR2(CR3)、及びリングギヤR3(R2)を有し、該キャリヤCR2に、サンギヤS2及びリングギヤR3に噛合するロングピニオンP4と、該ロングピニオンP4及びサンギヤS3に噛合するショートピニオンP3とを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
【0021】
上記プラネタリギヤDPのサンギヤS1は、例えばミッションケース3に一体的に固定されているボス部3bに接続されて回転が固定されている。また、上記キャリヤCR1は、上記入力軸12に接続されて、該入力軸12の回転と同回転(以下、「入力回転」という。)になっていると共に、第4クラッチC−4(摩擦係合要素)に接続されている。更に、リングギヤR1は、該固定されたサンギヤS1と該入力回転するキャリヤCR1とにより、入力回転が減速された減速回転になると共に、第1クラッチC−1(摩擦係合要素)及び第3クラッチC−3(摩擦係合要素)に接続されている。
【0022】
上記プラネタリギヤユニットPUのサンギヤS2は、係止手段としての第1ブレーキB−1(摩擦係合要素)に接続されてミッションケース3に対して固定自在となっていると共に、上記第4クラッチC−4及び上記第3クラッチC−3に接続されて、第4クラッチC−4を介して上記キャリヤCR1の入力回転が、第3クラッチC−3を介して上記リングギヤR1の減速回転が、それぞれ入力自在となっている。また、上記サンギヤS3は、第1クラッチC−1に接続されており、上記リングギヤR1の減速回転が入力自在となっている。
【0023】
更に、上記キャリヤCR2は、中間軸13を介して入力軸12の回転が入力される第2クラッチC−2(摩擦係合要素)に接続されて、該第2クラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、また、係止手段としてのワンウェイクラッチF−1及び第2ブレーキB−2(摩擦係合要素)に接続されて、該ワンウェイクラッチF−1を介してミッションケース3に対して一方向の回転が規制されると共に、該第2ブレーキB−2を介して回転が固定自在となっている。そして、上記リングギヤR3は、不図示の駆動車輪に回転を出力する出力軸15に接続されている。
【0024】
つづいて、上記構成に基づき、変速機構2の作用について図1、図2及び図3に沿って説明する。なお、図3に示す速度線図において、縦軸はそれぞれの回転要素(各ギヤ)の回転数を示しており、横軸はそれら回転要素のギヤ比に対応して示している。また、該速度線図のプラネタリギヤDPの部分において、横方向最端部(図3中左方側)の縦軸はサンギヤS1に、以降図中右方側へ順に縦軸は、リングギヤR1、キャリヤCR1に対応している。更に、該速度線図のプラネタリギヤユニットPUの部分において、横方向最端部(図3中右方側)の縦軸はサンギヤS3に、以降図中左方側へ順に縦軸はリングギヤR3(R2)、キャリヤCR2(CR3)、サンギヤS2に対応している。
【0025】
例えばD(ドライブ)レンジであって、前進1速段(1st)では、図2に示すように、第1クラッチC−1及びワンウェイクラッチF−1が係合される。すると、図1及び図3に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、キャリヤCR2の回転が一方向(正転回転方向)に規制されて、つまりキャリヤCR2の逆転回転が防止されて固定された状態になる。すると、サンギヤS3に入力された減速回転が、固定されたキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、前進1速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0026】
なお、エンジンブレーキ時(コースト時)には、第2ブレーキB−2を係止してキャリヤCR2を固定し、該キャリヤCR2の正転回転を防止する形で、上記前進1速段の状態を維持する。また、該前進1速段では、ワンウェイクラッチF−1によりキャリヤCR2の逆転回転を防止し、かつ正転回転を可能にするので、例えば非走行レンジから走行レンジに切換えた際の前進1速段の達成を、ワンウェイクラッチF−1の自動係合により滑らかに行うことができる。
【0027】
前進2速段(2nd)では、図2に示すように、第1クラッチC−1が係合され、第1ブレーキB−1が係止される。すると、図1及び図3に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第1ブレーキB−1の係止によりサンギヤS2の回転が固定される。すると、キャリヤCR2がサンギヤS3よりも低回転の減速回転となり、該サンギヤS3に入力された減速回転が該キャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、前進2速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0028】
前進3速段(3rd)では、図2に示すように、第1クラッチC−1及び第3クラッチC−3が係合される。すると、図1及び図3に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第3クラッチC−3の係合によりリングギヤR1の減速回転がサンギヤS2に入力される。つまり、サンギヤS2及びサンギヤS3にリングギヤR1の減速回転が入力されるため、プラネタリギヤユニットPUが減速回転の直結状態となり、そのまま減速回転がリングギヤR3に出力され、前進3速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0029】
前進4速段(4th)では、図2に示すように、第1クラッチC−1及び第4クラッチC−4が係合される。すると、図1及び図3に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第4クラッチC−4の係合によりキャリヤCR1の入力回転がサンギヤS2に入力される。すると、キャリヤCR2がサンギヤS3よりも高回転の減速回転となり、該サンギヤS3に入力された減速回転が該キャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、前進4速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0030】
前進5速段(5th)では、図2に示すように、第1クラッチC−1及び第2クラッチC−2が係合される。すると、図1及び図3に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。すると、該サンギヤS3に入力された減速回転とキャリヤCR2に入力された入力回転とにより、上記前進4速段より高い減速回転となってリングギヤR3に出力され、前進5速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0031】
前進6速段(6th)では、図2に示すように、第2クラッチC−2及び第4クラッチC−4が係合される。すると、図1及び図3に示すように、第4クラッチC−4の係合によりサンギヤS2にキャリヤCR1の入力回転が入力される。また、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。つまり、サンギヤS2及びキャリヤCR2に入力回転が入力されるため、プラネタリギヤユニットPUが入力回転の直結状態となり、そのまま入力回転がリングギヤR3に出力され、前進6速段(直結段)としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0032】
前進7速段(7th、OD1)では、図2に示すように、第2クラッチC−2及び第3クラッチC−3が係合される。すると、図1及び図3に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第3クラッチC−3を介してサンギヤS2に入力される。また、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。すると、該サンギヤS2に入力された減速回転とキャリヤCR2に入力された入力回転とにより、入力回転より僅かに高い増速回転となってリングギヤR3に出力され、前進7速段(上記直結段よりも増速のオーバードライブ1速段)としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0033】
前進8速段(8th、OD2)では、図2に示すように、第2クラッチC−2が係合され、第1ブレーキB−1が係止される。すると、図1及び図3に示すように、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。また、第1ブレーキB−1の係止によりサンギヤS2の回転が固定される。すると、固定されたサンギヤS2によりキャリヤCR2の入力回転が上記前進7速段より高い増速回転となってリングギヤR3に出力され、前進8速段(上記直結段よりも増速のオーバードライブ2速段)としての正転回転が出力軸15から出力される。
【0034】
後進1速段(Rev1)では、図2に示すように、第3クラッチC−3が係合され、第2ブレーキB−2が係止される。すると、図1及び図3に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第3クラッチC−3を介してサンギヤS2に入力される。また、第2ブレーキB−2の係止によりキャリヤCR2の回転が固定される。すると、サンギヤS2に入力された減速回転が、固定されたキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、後進1速段としての逆転回転が出力軸15から出力される。
【0035】
後進2速段(Rev2)では、図2に示すように、第4クラッチC−4が係合され、第2ブレーキB−2が係止される。すると、図1及び図3に示すように、第4クラッチC−4の係合によりキャリヤCR1の入力回転がサンギヤS2に入力される。また、第2ブレーキB−2の係止によりキャリヤCR2の回転が固定される。すると、サンギヤS2に入力された入力回転が、固定されたキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、後進2速段としての逆転回転が出力軸15から出力される。
【0036】
なお、本自動変速機においては、油圧制御装置による油圧制御により、リバースレンジ時に第4クラッチC−4及び第2ブレーキB−2が係合されて、つまり後進2速段のみを形成するようにしている。しかし、これは、種々変更が可能で、後進1速段のみ、もしくは、後進1速段および後進2速段の両方を形成することもできる。
【0037】
また、例えばP(パーキング)レンジ及びN(ニュートラル)レンジでは、第1クラッチC−1、第2クラッチC−2、第3クラッチC−3、及び第4クラッチC−4が解放される。すると、キャリヤCR1とサンギヤS2との間、リングギヤR1とサンギヤS2及びサンギヤS3との間、即ちプラネタリギヤDPとプラネタリギヤユニットPUとの間が切断状態となる。また、入力軸12(中間軸13)とキャリヤCR2との間が切断状態となる。これにより、入力軸12とプラネタリギヤユニットPUとの間の動力伝達が切断状態となり、つまり入力軸12と出力軸15との動力伝達が切断状態となる。
【0038】
図4は、上記自動変速機1に適用される油圧制御装置20の概略を示す図であり、該油圧制御装置20は、パーキング装置30と、第1切換え手段51と、第2切換え手段52と、第3切換え手段53と、第4切換え手段(パーキング切換え手段)54と、第5切換え手段(走行レンジ保持手段)55と、上記複数のクラッチ及びブレーキのそれぞれの油圧サーボへの油圧の供給を制御するリニアソレノイドバルブとが備えられている。なお、図4においては、説明の関係上、上記複数のクラッチ及びブレーキのうちクラッチC−3,C−2とそれに対応するリニアソレノイドバルブSL3,SL2とを図示し、これ以外のクラッチ及びブレーキにもそれぞれ対応するリニアソレノイドバルブが配置されているが、図示を省略している。また、本明細書中において、各種ソレノイドバルブの「ノーマルオープン」とは、非通電時に入力ポートと出力ポートとが連通されて入力された油圧が略々そのまま出力ポートより出力されることを意味し、反対に「ノーマルクローズ」とは、非通電時に入力ポートと出力ポートとが遮断されて入力された油圧が出力ポートより出力されないことを意味するものである。
【0039】
また、本発明に係る油圧制御装置20は、運転者によってパーキング(P)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、ドライブ(D)レンジ及びリバース(R)レンジ等が選択されるシフトレバー(不図示)からのシフト信号に基づいて制御部(不図示)が発信する制御信号に基づき、各ソレノイドバルブ等が制御されることによりレンジ切換えが行われている。そして、油圧制御装置20は、これらシフト信号及び制御信号が、電気信号を介して行われるシフトバイワイヤ方式によるものである。従ってシフトレバーによってレンジの選択を行うように説明したが、例えばボタン操作によってレンジの選択を行うように構成することもできる。
【0040】
図5は、上記パーキング装置30の概略を示す図であり、該パーキング装置30は、大まかにパーキングシリンダ31、パーキングロッド32、サポート36、パーキングポール37、パーキングギヤ41を備えている。上記パーキングシリンダ31は、上記油圧制御装置20のバルブボディ42に接続されており、パーキングロッド32が、その基端側において、軸方向に移動自在となるように貫通配置されている。また、パーキングシリンダ31の内部には、一端をパーキングシリンダ31に対して固定し、他端をパーキングロッド32に対して固定することでパーキングロッド32をパーキングギヤ41側に付勢するように縮設されたスプリング(不図示)が配置されている。該パーキングロッド32は、その先端側においてパーキングシリンダ31方向に摺動自在となり、反対側には移動できなくなるように遊嵌された円錐状のウエッジ33を備えており、該パーキングロッド32に固定された鍔部34と該ウエッジ33との間には、スプリング35が配置されている。上記サポート36は、該パーキングロッド32の先端側の下方に配置されており、パーキングポール37との間にウエッジ33が挿脱されるように配置されている。パーキングポール37は、基端側の軸38を中心に略々上下方向に揺動自在に配置されており、中間部分の上方側には、自動変速機1の出力軸15に固定されたパーキングギヤ41に対して係脱可能な爪部40が突設されている。
【0041】
以上の構成によりパーキング装置30は、パーキングシリンダ31に油圧が作用すると、パーキングロッド32がスプリング(不図示)の付勢力に抗して該パーキングシリンダ31側に移動し、ウエッジ33をサポート36とパーキングポール37との間から離脱させ、該パーキングポール37を下方側に揺動して爪部40をパーキングギヤ41との噛合いから外すことによりパーキング解除状態となるように構成されている。また、パーキングシリンダ31に作用する油圧を抜くと、パーキングロッド32がスプリング(不図示)の付勢力によりパーキングポール37側に移動し、ウエッジ33がサポート36とパーキングポール37との間に挿入され、該パーキングポール37を上方側に揺動して爪部40をパーキングギヤ41と噛合わせることによりパーキング状態となるように構成されている。なお、パーキングシリンダ31に作用する油圧を抜いた状態においては、上記爪部40がパーキングギヤ41の凸部に乗り上げ、パーキングポール37が上方側に揺動しない場合にも、ウエッジ33は、スプリング35によってパーキングシリンダ31側とは反対側に付勢されており、パーキングギヤ41が回転すると爪部40が該パーキングギヤ41と噛合うようになっている。
【0042】
上記第1切換え手段51は、ソレノイドRS1及び通常用パーキング切換えバルブ51Aを備えている。該ソレノイドRS1は、運転者のレバー操作又はボタン操作等の操作に基づく不図示の制御部からの電気信号が入力されることにより、プランジャを2つの位置に切換えることが可能であり、内部に備えられた永久磁石の作用により、非通電状態とされてもプランジャの切換え位置を保持できる、ラッチタイプのソレノイドである。
【0043】
上記通常用パーキング切換えバルブ51Aは、上方部分が上記ソレノイドRS1のプランジャに連結されたスプール51pと該スプール51pを上方側に付勢するスプリング51sとを有しており、入力ポート51aと、出力ポート51bと、出力ポート51cとを備えている。つまり、第1切換え手段51は、ソレノイドRS1及び通常用パーキング切換えバルブ51Aによって1つのソレノイドバルブを構成している。そして、第1切換え手段51は、スプリング51sによってスプール51pが付勢された上方側の位置になると、入力ポート51aと出力ポート51bとが連通され、入力ポート51aと出力ポート51cとが遮断される。
【0044】
一方、スプール51pがソレノイドRS1の作用により、スプリング51sの付勢力に抗した下方側の位置になると、入力ポート51aと出力ポート51cとが連通され、入力ポート51aと出力ポート51bとが遮断される。
【0045】
上記第2切換え手段52は、ソレノイドバルブRS2及び予備用パーキング切換えバルブ52Aを備えている。該ソレノイドバルブRS2は、ノーマルクローズからなり、ライン圧からなる供給圧が供給され、運転者のレバー操作又はボタン操作等の操作に基づく制御部からの電気信号が入力される。上記予備用パーキング切換えバルブ52Aは、スプール52pと該スプール52pを下方側に付勢するスプリング52sとを有しており、スプール52pの下方側にソレノイドバルブRS2からの制御圧が作用する制御ポート52fと、入力ポート52aと、入力ポート52bと、入力ポート52cと、出力ポート52dと、出力ポート52eとを備えている。そして、上記第2切換え手段52は、スプリング52sによってスプール52pが付勢された下方側の位置になると、入力ポート52bと出力ポート52dとが連通され、入力ポート52aと出力ポート52dとが遮断され、また入力ポート52cと出力ポート52eとが連通される。
【0046】
一方、ソレノイドバルブRS2からの制御圧が、制御ポート52fに作用することにより、スプール52pがスプリング52sの付勢力に抗した上方側の位置になると、入力ポート52aと出力ポート52dとが連通され、入力ポート52bと出力ポート52dとが遮断され、また入力ポート52cと出力ポート52eも遮断される。
【0047】
上記第3切換え手段53は、ソレノイドバルブRS3及び摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aを備えている。該ソレノイドバルブRS3は、ノーマルオープンからなり、ライン圧からなる供給圧が供給され、運転者のレバー操作又はボタン操作等の操作に基づく制御部からの電気信号が入力される。上記摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aは、スプール53pと該スプール53pを上方側に付勢するスプリング53sとを有しており、スプール53pの上方側にソレノイドバルブRS3からの制御圧が作用する制御ポート53cと、入力ポート53aと、入力ポート53bと、出力ポート53dと、出力ポート53eと、出力ポート53fとを備えている。そして、上記第3切換え手段53は、スプリング53sによってスプール53pが付勢された上方側の位置になると、入力ポート53bと出力ポート53eが連通され、入力ポート53aと出力ポート53d、及び入力ポート53bと出力ポート53fは共に遮断される。
【0048】
一方、ソレノイドバルブRS3からの制御圧が、制御ポート53cに作用することにより、スプール53pがスプリング53sの付勢力に抗した下方側の位置になると、入力ポート53aと出力ポート53d、及び入力ポート53bと出力ポート53fは共に連通され、入力ポート53bと出力ポート53eが遮断される。
【0049】
上記第4切換え手段54は、パーキング切換えバルブ54Aを有していると共に、上記ソレノイドバルブRS3を上記第3切換え手段53と共有する形で備えている。該パーキング切換えバルブ54Aは、スプール54pと、該スプール54pを上方側に付勢するスプリング54sと、該スプール54pの下方側にフィードバック油室54gを有しており、スプール54pの上方側にソレノイドバルブRS3からの制御圧が作用する制御ポート54aと、入力ポート54bと、入力ポート54cと、入力ポート54hと、出力ポート54dと、出力ポート54eと、出力ポート54fと、を備えている。また、入力ポート54cの手前側の油路には、不図示のオリフィスが設けられている。そして、上記第4切換え手段54は、スプリング54sによってスプール54pが付勢された上方側の位置になると、入力ポート54bと出力ポート54d、及び入力ポート54cと出力ポート54fは共に連通され、入力ポート54bと出力ポート54eは遮断される。
【0050】
一方、ソレノイドバルブRS3からの制御圧が、制御ポート54aに作用することにより、スプール54pがスプリング54sの付勢力に抗した下方側の位置になると、入力ポート54bと出力ポート54eが連通され、入力ポート54bと出力ポート54d、及び入力ポート54cと出力ポート54fは共に遮断される。
【0051】
上記第5切換え手段55は、ソレノイドRS5及び走行レンジ保持バルブ55Aを備えている。該ソレノイドRS5は、運転者のレバー操作又はボタン操作等の操作に基づく不図示の制御部からの電気信号が入力されることにより、プランジャを2つの位置に切換えることが可能であり、内部に備えられた永久磁石の作用により、非通電状態とされてもプランジャの切換え位置を保持できる、ラッチタイプのソレノイドである。
【0052】
上記走行レンジ保持バルブ55Aは、上方部分が上記ソレノイドRS5のプランジャに連結されたスプール55pと、該スプール55pを上方側に付勢するスプリング55sと、該スプール55pの下方側に油室55dとを有しており、入力ポート55aと、入力ポート55bと、出力ポート55cとを備えている。つまり、第5切換え手段55は、ソレノイドRS5及び走行レンジ保持バルブ55Aによって1つのソレノイドバルブを構成している。そして、第5切換え手段55は、スプリング55sによってスプール55pが付勢された上方側の位置になると、入力ポート55aと出力ポート55cとが遮断される。
【0053】
一方、スプール55pがソレノイドRS5の作用により、スプリング55sの付勢力に抗した下方側の位置になると、入力ポート55aと出力ポート55cとが連通される。
【0054】
上記リニアソレノイドバルブSL3は、ノーマルクローズからなり、リニア駆動部56Aと調圧バルブ部56Bとにより構成されている。リニア駆動部56Aは、供給(通電)される電流に応じて下方側に駆動されるスプール(不図示)を有して構成されており、調圧バルブ部56Bは、該スプールを上方側に付勢するスプリング(不図示)を備えていると共に、入力ポート56bと出力ポート56cとフィードバックポート56dとドレーンポート56aとを備えて構成されている。これにより、リニアソレノイドバルブSL3のリニア駆動部56Aに電流が供給されない非通電時には、上記スプリングによってスプールが上方の位置にされて、入力ポート56bと出力ポート56cとが遮断されると共に、出力ポート56cとドレーンポート56aとが連通される。
【0055】
また、リニアソレノイドバルブSL3のリニア駆動部56Aに徐々に電流が供給されていくと、上記スプリングの付勢力に抗してスプールが徐々に下方側に駆動制御されて入力ポート56bと出力ポート56cとの間を徐々に連通して開いていくと共に出力ポート56cとドレーンポート56aとが徐々に閉じていく状態となる。そして、最終的には、リニア駆動部56Aに最大電流が供給されると、入力ポート56bと出力ポート56cとが連通し、出力ポート56cとドレーンポート56aとが遮断される。
【0056】
なお、上記リニアソレノイドバルブSL3に接続されているクラッチC−3の油圧サーボに出力された油圧の一部は、上記フィードバックポート56dに入力されており、例えば油圧サーボに急激に大きな圧力を出力した場合に、スプールを上方側に押し戻して該油圧サーボに出力される油圧を低下させたり、該油圧サーボに出力される油圧が脈動した場合に、油圧を安定させたりするようになっている。
【0057】
上記リニアソレノイドバルブSL2は、リニアソレノイドバルブSL3と同様にノーマルクローズからなり、リニア駆動部57Aと調圧バルブ部57Bとにより構成されている。リニア駆動部57Aは、供給(通電)される電流に応じて下方側に駆動されるスプール(不図示)を有して構成されており、調圧バルブ部57Bは、該スプールを上方側に付勢するスプリング(不図示)を備えていると共に、入力ポート57bと出力ポート57cとフィードバックポート57dとドレーンポート57aとを備えて構成されている。これにより、リニアソレノイドバルブSL2のリニア駆動部57Aに電流が供給されない非通電時には、上記スプリングによってスプールが上方の位置にされて、入力ポート57bと出力ポート57cとが遮断されると共に、出力ポート57cとドレーンポート57aとが連通される。
【0058】
また、リニアソレノイドバルブSL2のリニア駆動部57Aに徐々に電流が供給されていくと、上記スプリングの付勢力に抗してスプールが徐々に下方側に駆動制御されて入力ポート57bと出力ポート57cとの間を徐々に連通して開いていくと共に出力ポート57cとドレーンポート57aとが徐々に閉じていく状態となる。そして、最終的には、リニア駆動部57Aに最大電流が供給されると、入力ポート57bと出力ポート57cとが連通し、出力ポート57cとドレーンポート57aとが遮断される。
【0059】
ついで、図4に沿って上記油圧制御装置20の作用について説明する。
【0060】
通常走行(ドライブ(D)レンジ)時には、ソレノイドRS1がON状態にあり、通常用パーキング切換えバルブ51Aでは、スプール51pがスプリング51sの付勢力に抗した下方側の位置にされている。また、ソレノイドバルブRS2は、OFF状態にあり、予備用パーキング切換えバルブ52Aでは、スプール52pがスプリング52sに付勢された下方側の位置にされている。さらに、ソレノイドバルブRS3はON状態にあり、ノーマルオープンのため制御圧を出力せず、摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53A及びパーキング切換えバルブ54Aでは、それぞれのスプール53p,54pがそれぞれのスプリング53s,54sに付勢された上方側の位置にされている。また、ソレノイドRS5はON状態にあり、走行レンジ保持バルブ55Aでは、スプール55pがスプリング55sの付勢力に抗した下方側の位置にされている。
【0061】
この状態では、第1切換え手段51に供給されたライン圧(PL)は、通常用パーキング切換えバルブ51Aにおいて、入力ポート51a及び出力ポート51cを介し、予備用パーキング切換えバルブ52Aにおいて、入力ポート52b及び出力ポート52dを介し、パーキング切換えバルブ54Aにおいて、入力ポート54b及び出力ポート54dを介して、パーキング解除圧としてパーキングシリンダ31に入力され、パーキング装置30がパーキング解除状態となる。
【0062】
また、第3切換え手段53に供給されたライン圧(PL)は、摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aにおいて、入力ポート53b及び出力ポート53eを介して、リニアソレノイドバルブSL3,SL2のそれぞれに入力される。さらに、第4切換え手段54に供給されたライン圧(PL)は、パーキング切換えバルブ54Aにおいて、入力ポート54c及び出力ポート54fを介してフィードバック油室54gに入力され、これによりスプール54pが上方側に付勢される。
【0063】
上記通常走行(ドライブ(D)レンジ)時に、例えば断線等により全てのソレノイドバルブ(第1切換え手段51、ソレノイドバルブRS2、ソレノイドバルブRS3、第5切換え手段55、リニアソレノイドバルブSL3、リニアソレノイドバルブSL2)がOFFフェール(以下、「オールオフフェール」という)した場合(非通電時)には、ソレノイドRS1はラッチタイプのソレノイドであるため、ON状態が保持され、通常用パーキング切換えバルブ51Aでは、スプール51pがスプリング51sの付勢力に抗した下方側の位置にされている。また、ソレノイドバルブRS2はOFF状態にあり、予備用パーキング切換えバルブ52Aでは、スプール52pがスプリング52sに付勢された下方側の位置にされている。
【0064】
ソレノイドバルブRS3はノーマルオープンであるため、OFF状態にあって制御圧を出力する。すると、摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aにおいて、制御ポート53cに制御圧が作用し、スプール53pがスプリング53sの付勢力に抗した下方側の位置に移動される。また、パーキング切換えバルブ54Aでは、制御ポート54aに制御圧が作用し、スプール54pを下方側へ押圧するが、フィードバック油室からの作用とスプリング54sの作用とによる上方側への押圧力の方が強く、スプール54pは上方側の位置にされる。
【0065】
また、ソレノイドRS5は、ラッチタイプのソレノイドであるため、ON状態が保持され、走行レンジ保持バルブ55Aでは、スプール55pがスプリング55sの付勢力に抗した下方側の位置にされている。
【0066】
この状態では、通常時と同様に第1切換え手段51に供給されたライン圧(PL)は、通常用パーキング切換えバルブ51Aにおいて、入力ポート51a及び出力ポート51cを介し、予備用パーキング切換えバルブ52Aにおいて、入力ポート52b及び出力ポート52dを介し、パーキング切換えバルブ54Aにおいて、入力ポート54b及び出力ポート54dを介して、パーキング解除圧としてパーキングシリンダ31に入力され、パーキング装置30がパーキング解除状態となる。
【0067】
また、第3切換え手段53に供給されたライン圧(PL)は、摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aにおいて、入力ポート53b及び出力ポート53fを介し、走行レンジ保持バルブ55Aにおいて、入力ポート55a及び出力ポート55cを介して再び摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aの入力ポート53aに入力される。該入力ポート53aに入力された圧油は、出力ポート53dから出力され、リニアソレノイドバルブSL3,SL2にドレーンポート56a,57aから逆入力されて、クラッチC−3及びC−2が係合状態となる。さらに、第4切換え手段54に供給されたライン圧(PL)は、パーキング切換えバルブ54Aにおいて、入力ポート54c及び出力ポート54fを介してフィードバック油室54gに入力され、上記のようにスプール54pを上方側に付勢している。これにより、パーキング装置30がパーキング解除状態を保持することができると共に、上述のように自動変速機1は、前進7速段とされ、走行状態を保持でき、例えば車輌が高速走行時にオールオフフェールとなった場合(非通電時)にも、急激なシフトダウンが行われることがないので、安全に停止状態とし、つまりフェールセーフを行うことができる。
【0068】
上記オールオフフェールとなり、車輌が停止状態とされ、エンジンがOFFとされた場合には、ライン圧(PL)の供給が停止されるため、ソレノイドバルブRS3はノーマルオープンであるが、制御圧の出力が停止される。従って、摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aのスプール53pは、スプリング53sに付勢された上方側の位置に移動される。また、パーキングシリンダ31へのパーキング解除圧の供給も停止されるため、パーキング装置30は、パーキング状態とされる。
【0069】
その後、エンジンが再びONとされた場合(再始動時)には、ソレノイドRS1、ソレノイドバルブRS2及びソレノイドRS5がオールオフフェールとなった際の状態を保持しており、ソレノイドバルブRS3は、再びライン圧(PL)が供給されることにより制御圧を出力する。ソレノイドバルブRS3が制御圧を出力すると、摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aにおいて、制御ポート53cに制御圧が作用し、スプール53pがスプリング53sの付勢力に抗した下方側の位置に移動される。また、パーキング切換えバルブ54Aでは、制御ポート54aに制御圧が作用し、スプール54pがスプリング54sの付勢力に抗した下方側の位置にされる。なお、このエンジンの再始動時には、パーキング切換えバルブ54Aの入力ポート54cにもライン圧(PL)が入力し、出力ポート54fと入力ポート54hとを介してフィードバック油室54gに入力されるが、入力ポート54cの手前に設けられたオリフィスの作用により、該フィードバック油室54gに油圧が作用するよりも先に制御ポート54aに制御圧が作用するので、スプール54pがスプリング54sの付勢力に抗した下方側の位置にされる。
【0070】
この状態では、第1切換え手段51に供給されたライン圧(PL)は、通常用パーキング切換えバルブ51Aにおいて、入力ポート51a及び出力ポート51cを介し、予備用パーキング切換えバルブ52Aにおいて、入力ポート52b及び出力ポート52dを介し、パーキング切換えバルブ54Aにおいて、入力ポート54b及び出力ポート54eを介して走行レンジ保持バルブ55Aの入力ポート55bに入力される。該走行レンジ保持バルブ55Aの入力ポート55bに圧油が入力されると、油室55dに油圧が作用し、ソレノイドRS5によって下方側の位置に保持されていたスプール55pを上方側に押し戻す。なお、上記入力ポート55bに入力される圧油は、通常時やオールオフフェール時にパーキングシリンダ31に入力されていたパーキング解除圧を、パーキング切換えバルブ54Aの切換えによって導いた圧油である。
【0071】
また、第3切換え手段53に供給されたライン圧(PL)は、摩擦係合要素用供給圧切換えバルブ53Aにおいて、入力ポート53b及び出力ポート53fを介し、走行レンジ保持バルブ55Aにおいて、入力ポート55aに入力されるが、上記のようにスプール55pは上方側の位置にされているため遮断される。このため、オールオフフェール時のように、リニアソレノイドバルブSL3,SL2にドレーンポート56a,57aから逆入力される油圧も遮断され、クラッチC−3及びC−2が解放状態となって、ニュートラル状態とされる。さらに、パーキング切換えバルブ54Aの出力ポート54dからのパーキング解除圧の出力がなくなり、パーキング装置30は、パーキング状態となる。これにより、オールオフフェール後のエンジンの再始動時には、パーキング装置30がパーキング状態とされ、かつ自動変速機1がニュートラル状態とされるようにすることができる。
【0072】
以上のように、本発明に係る自動変速機1の油圧制御装置20は、全てのソレノイドバルブの非通電時、つまりオールオフフェール状態の際のエンジン再始動時に、走行状態からニュートラル状態へ切換えるので、パーキング装置30をパーキング状態にすると共にニュートラル状態とすることができ、車輌を安全な停止状態にすることができる。また、エンジン再始動時に不要となるパーキング解除圧を作用させることによって走行レンジ保持手段55を切換えるので、該走行レンジ保持手段55を切換えるためのバルブや油路等を設ける場合に比して、油圧制御装置20が簡素化されてバルブボディのコンパクト化を図ることができる。
【0073】
また、エンジンの再始動時に、パーキング切換え用ソレノイドバルブRS3の制御圧によってパーキング切換えバルブ54Aが切換えられるので、パーキング解除圧を走行レンジ保持手段55に出力することができる。これにより、エンジンの再始動の際に、パーキング解除圧によって走行レンジ保持手段の切換えを行うことができる。
【0074】
また、非通電時に切換え位置が保持される第5切換え手段55を有しているので、1個の切換え用ソレノイドバルブによる簡単な構成で、非通電時に切換え位置を保持でき、オールオフフェール時のフェールセーフを行うことができるものでありながら、エンジンの再始動時には車輌を安全な停止状態にすることができる。
【0075】
なお、以上説明した本実施の形態においては、走行レンジ保持手段として、ラッチタイプのソレノイドと、ドライブ(D)レンジ及びニュートラル(N)レンジとの切換えに対応した切換えバルブとを組み合わせたものを用いるように説明したが、例えば、モータと、ドライブ(D)レンジ、リバース(R)レンジ及びニュートラル(N)レンジの切換えに対応した切換えバルブとを組み合わせ、オールオフフェールとなった際に、リバース(R)レンジも保持できるように構成してもよく、つまり、オールオフフェール時にその時のレンジ状態を保持し、かつエンジンの再始動時にパーキング解除圧によってニュートラル状態とできるものであれば、どのような走行レンジ保持手段を用いても本発明を適用することができる。
【0076】
また、上記のような走行レンジ保持手段としては、例えば、ラッチタイプのソレノイド2個と切換えバルブ2本とを組み合わせ、前進7速段と、前進3速段と、リバース(R)レンジと、ニュートラル(N)レンジとの4通りの切換え機構を設け、オールオフフェールとなった際に、比較的高速の場合は前進7速段、比較的低速の場合は前進3速段をそれぞれ保持すると共に、リバース(R)レンジも保持し、エンジンの再始動時には、パーキング解除圧によってニュートラル状態とできるように構成しても本発明を適用することができる。
【0077】
また、以上説明した本実施の形態においては、各油圧サーボがそれぞれリニアソレノイドバルブにより直接調圧制御されるように説明したが、例えば、デューティ制御されるソレノイドバルブからの制御圧により調圧される調圧バルブを介して各油圧サーボを制御するように構成しても本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施の形態に係る自動変速機を示すスケルトン図。
【図2】自動変速機の係合表。
【図3】自動変速機の速度線図。
【図4】本実施の形態に係る油圧制御装置を示す回路図。
【図5】パーキング装置を示す模式図。
【符号の説明】
【0079】
1 自動変速機
20 油圧制御装置
30 パーキング装置
54 パーキング切換え手段(第4切換え手段)
54A パーキング切換えバルブ
54g フィードバック油室
54p スプール
54s 付勢部材(スプリング)
55 走行レンジ保持手段(第5切換え手段)
RS3 ソレノイドバルブ
RS5 ソレノイドバルブ
SL2,SL3 ソレノイドバルブ
C−1,C−2,C−3,C−4,B−1,B−2 摩擦係合要素(クラッチ、ブレーキ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキング解除圧が入力されることによりパーキング解除状態となり、前記パーキング解除圧が入力されない場合にはパーキング状態となるパーキング装置と、
複数の変速段を形成するように、それぞれの油圧サーボによって係脱される複数の摩擦係合要素と、を備え、
複数の前記油圧サーボを制御する複数のソレノイドバルブの非通電時に、エンジンが停止されるまでの間、前記パーキング装置を前記パーキング解除状態に保持し、かつ前記複数の摩擦係合要素のうち所定の摩擦係合要素を、所定高速段を形成するように係合状態を保持して走行状態を保持する自動変速機の油圧制御装置において、
前記パーキング装置に前記パーキング解除圧を出力するパーキング切換え手段と、
全てのソレノイドバルブの非通電時に前記自動変速機の前記走行状態を保持する走行レンジ保持手段と、を備え、
前記パーキング切換え手段は、前記非通電時に、エンジンが停止されるまでの間、前記パーキング装置をパーキング解除状態に保持し、前記エンジンの再始動時には前記パーキング解除圧を前記走行レンジ保持手段に出力するように切換え、かつ前記走行レンジ保持手段が、前記エンジンの再始動時に前記パーキング解除圧の作用によって、前記油圧サーボへの油圧の供給を遮断することで、前記走行状態からニュートラル状態へ切換える、
ことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記パーキング切換え手段は、スプール、前記スプールを一方側に付勢する付勢部材、前記スプールの前記一方側にフィードバック圧が作用するフィードバック油室、を有するパーキング切換えバルブと、
前記非通電時に、前記パーキング切換えバルブの前記スプールを他方側に付勢するパーキング切換え用ソレノイドバルブと、を備え、
通常時には前記パーキング装置に前記パーキング解除圧を出力し、前記非通電時には前記パーキング切換え用ソレノイドバルブの制御圧による作用よりも、前記付勢部材の作用及び前記フィードバック圧による作用を強くすることで、前記パーキング解除圧の前記パーキング装置への出力が保持され、前記エンジンの再始動時には前記スプールに前記フィードバック圧が作用する前に前記パーキング切換え用ソレノイドバルブの制御圧が作用し、前記パーキング切換えバルブが切換えられることで前記パーキング解除圧が前記走行レンジ保持手段に出力されてなる、
請求項1記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記走行レンジ保持手段は、電気信号に基づいて前記走行状態と前記ニュートラル状態との2つの位置に切換えられ、前記非通電時に切換え位置が保持されるレンジ保持切換え用ソレノイドバルブを有し、
前記レンジ保持切換え用ソレノイドバルブは、前記エンジンの再始動時に前記パーキング切換えバルブから入力された前記パーキング解除圧が作用することによって切換えられ、前記非通電時に前記レンジ保持切換え用ソレノイドバルブによって保持された前記走行状態から前記ニュートラル状態に切換えられてなる、
請求項1または2記載の自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−85248(P2009−85248A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252397(P2007−252397)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】