説明

自動変速機

【課題】 自動車の被牽引時に車輪側から自動変速機に駆動力が逆伝達される場合、自動変速機の損傷を簡単な構造で防止する。
【解決手段】 プラネタリギヤユニットの一つの要素を拘束可能なブレーキB1に、オイルポンプ29からの油圧で作動するメインピストン16およびサブピストン24を設け、通常の走行時にはメインピストン16がオイルポンプ29からの油圧で前進してブレーキB1が係合することで、自動変速機に所定の変速段を確立することができ、このときサブピストン24はオイルポンプ29からの油圧で後退するのでメインピストン16の作動と干渉することがない。エンジンが停止してオイルポンプ29からの油圧が消滅する被牽引時には、サブピストン24が係合用スプリング27の弾発力で前進してブレーキB1が係合するので、自動変速機の特定の部材が過回転状態になるのをすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用駆動源からの駆動力が入力される少なくとも一つのプラネタリギヤユニットを備え、前記プラネタリギヤユニットの複数の要素のうちの出力要素が常時車輪に接続され、前記複数の要素のうちの少なくとも一つの要素が摩擦係合装置により拘束可能な自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
故障した自動車を牽引して移動させる場合、路面により駆動されて回転する車輪から入力される駆動力が自動変速機に逆伝達されるが、被牽引中はオイルポンプが停止していて自動変速機の被潤滑部にオイルを供給することができないため、その被潤滑部が過熱して異常摩耗や焼き付きが発生する可能性がある。
【0003】
そこで、自動変速機の出力軸にクラッチを設け、通常の走行時には前記クラッチを係合してエンジンの駆動力を車輪に伝達し、被牽引時には前記クラッチを係合解除して車輪から自動変速機に駆動力が逆伝達するのを防止するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−63724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のものは、出力軸に設けられたクラッチはエンジンの駆動力を伝達可能な容量を必要とするため、大容量で大型のクラッチを使用することが必要になってコストや重量が増加する問題があった。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自動車の被牽引時に車輪側から自動変速機に駆動力が逆伝達される場合、自動変速機の損傷を簡単な構造で防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、走行用駆動源からの駆動力が入力される少なくとも一つのプラネタリギヤユニットを備え、前記プラネタリギヤユニットの複数の要素のうちの出力要素が常時車輪に接続され、前記複数の要素のうちの少なくとも一つの要素が摩擦係合装置により拘束可能な自動変速機において、前記摩擦係合装置は前記走行用駆動源により駆動される油圧供給源からの油圧で作動するメインピストンおよびサブピストンを備え、前記メインピストンは前記油圧供給源からの油圧で前進して前記摩擦係合装置を係合させ、前記サブピストンは係合用スプリングの弾発力で前進して前記摩擦係合装置を係合させるとともに、前記油圧供給源からの油圧で後退して前記摩擦係合装置を係合解除することを特徴とする自動変速機が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記摩擦係合装置は、前記少なくとも一つの要素を非回転部に結合するブレーキであることを特徴とする自動変速機が提案される。
【0009】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記摩擦係合装置は、前記少なくとも一つの要素を変速機入力軸に結合するクラッチであることを特徴とする自動変速機が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の第1ブレーキB1、第2ブレーキB2および第1クラッチC1は本発明の摩擦係合装置に対応し、実施の形態のラージサンギヤSs1、プラネタリキャリヤCsおよびスモールサンギヤSs2は本発明の少なくとも一つの要素に対応し、実施の形態の自動変速機のハウジングHは本発明の非回転部に対応し、実施の形態の入力軸ISは本発明の変速機入力軸に対応し、実施の形態の変速用プラネタリギヤユニットPUsは本発明のプラネタリギヤユニットに対応し、実施の形態のリングギヤRsは本発明の出力要素に対応し、実施の形態のオイルポンプ29は本発明の油圧供給源に対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、走行用駆動源が停止して自動変速機の潤滑が行えなくなる自動車の被牽引時には車輪から自動変速機に駆動力が逆伝達され、プラネタリギヤユニットの出力要素が駆動されるため、自動変速機の特定の部材が過回転状態になる可能性がある。しかしながら、プラネタリギヤユニットの複数の要素のうちの少なくとも一つの要素を拘束可能な摩擦係合装置に、走行用駆動源により駆動される油圧供給源からの油圧で作動するメインピストンおよびサブピストンを設け、通常の走行時にはメインピストンが油圧供給源からの油圧で前進して摩擦係合装置が係合することで、自動変速機に所定の変速段を確立することができ、このときサブピストンは油圧供給源からの油圧で後退するのでメインピストンの作動と干渉することがない。また走行用駆動源が停止して油圧供給源からの油圧が消滅する被牽引時には、サブピストンは係合用スプリングの弾発力で前進して摩擦係合装置が係合するので、車輪から自動変速機に逆伝達される駆動力でプラネタリギヤユニットの出力要素が駆動されても、プラネタリギヤユニットの複数の要素のうちの少なくとも一つの要素を摩擦係合装置で拘束することで、自動変速機の特定の部材が過回転状態になるのを防止し、前記特定の部材の異常摩耗や焼き付きを防止することができる。前記サブピストンはプラネタリギヤユニットのフリクションに打ち勝つ荷重を発生すれば良いため、その寸法、重量、コストを小さく抑えることができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、被牽引時にプラネタリギヤユニットの少なくとも一つの要素をブレーキで非回転部に結合することで、車輪からプラネタリギヤユニットの出力要素に逆伝達される駆動力で自動変速機の特定の部材が過回転するのを防止し、異常摩耗や焼き付きの発生を防止することができる。
【0013】
また請求項3の構成によれば、被牽引時にプラネタリギヤユニットの少なくとも一つの要素をクラッチで変速機入力軸に結合することで、車輪からプラネタリギヤユニットの出力要素に逆伝達される駆動力で自動変速機の特定の部材が過回転するのを防止し、異常摩耗や焼き付きの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】自動変速機のスケルトン図。
【図2】図1の2部の詳細図。
【図3】変速用プラネタリギヤユニットの速度線図。
【図4】自動変速機の摩擦係合装置の作動表。
【図5】サブピストンの作用を説明する速度線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1に示すように、自動車用の前進6速、後進1速の自動変速機Tは、シングルピニオン型のプラネタリギヤユニットで構成される減速用プラネタリギヤユニットPUrと、ラビニヨ式のプラネタリギヤユニットで構成される変速用プラネタリギヤユニットPUsと、湿式多板型油圧クラッチよりなる第1〜第3クラッチC1,C2,C3と、湿式多板型油圧ブレーキよりなる第1、第2ブレーキB1,B2と、ワンウェイクラッチF1とを備える。尚、自動変速機Tはエンジンの駆動力が入力される入力軸ISに対して軸対称の構造を備えているが、図1には入力軸ISの片側部分だけが示される。
【0017】
減速用プラネタリギヤユニットPUrは、サンギヤSrと、リングギヤRrと、プラネタリキャリヤCrと、プラネタリキャリヤCrに回転自在に支持されてサンギヤSrおよびリングギヤRrに同時に噛合する複数のピニオンPrとを備える。サンギヤSrは自動変速機TのハウジングHに固定され、プラネタリキャリヤCrは入力軸ISに接続され、リングギヤRrは第3クラッチC3に接続される。
【0018】
減速用プラネタリギヤユニットPUrのギヤ比(リングギヤRrの歯数/サンギヤSrの歯数)をiとした場合、入力要素であるプラネタリキャリヤCrの回転数が入力軸ISの回転数と同じ「1」であり、固定要素であるサンギヤSrの回転数が「0」であるため、出力要素であるリングギヤRrの回転数N1は、N1=(i+1)/iとなり、入力軸ISの回転数「1」に対して増速される。
【0019】
変速用プラネタリギヤユニットPUsは、ラージサンギヤSs1と、スモールサンギヤSs2と、リングギヤRsと、プラネタリキャリヤCsと、プラネタリキャリヤCsに回転自在に支持された複数のラージピニオンPs1と、プラネタリキャリヤCsに回転自在に支持された複数のスモールピニオンPs2とを備える。ラージピニオンPs1はリングギヤRs、ラージサンギヤSs1およびスモールピニオンPs2に同時に噛合し、スモールピニオンPs2はスモールサンギヤSs2に噛合する。
【0020】
プラネタリキャリヤCsは第3クラッチC3を介して減速用プラネタリギヤユニットPUrのリングギヤRrに結合可能であり、かつ第2ブレーキB2あるいはワンウェイクラッチF1を介してハウジングHに結合可能である。スモールサンギヤSs2は第1クラッチC1を介して入力軸ISに結合可能である。ラージサンギヤSs1は第1ブレーキB1を介してハウジングHに結合可能であり、かつ第2クラッチC2を介して入力軸ISに結合可能である。そしてリングギヤRrは出力軸OSを介して車輪に接続される。
【0021】
尚、Dレンジが選択された状態で1速変速段が確立する場合には、油圧ブレーキである第2ブレーキB2は係合せず、代わりにワンウェイクラッチF1が係合することでオイルポンプの負荷軽減が図られる。但し、ワンウェイクラッチF1の係合により1速変速段が確立した状態では、車両の減速時にワンウェイクラッチF1がスリップしてエンジンブレーキが使用できないため、運転者がエンジンブレーキを要求するLレンジが選択された状態では、第2ブレーキB2が係合して1速変速段を確立することでエンジンブレーキの使用を可能にしている。
【0022】
次に、図2に基づいて第1ブレーキB1の具体的な構造を説明する。
【0023】
第1ブレーキB1は、自動変速機TのハウジングHに接続されたクラッチアウター11と、変速用プラネタリギヤユニットPUsのラージサンギヤSs1に接続されたクラッチインナー12と、クラッチアウター11に回転不能かつ軸線方向摺動自在に嵌合する複数の摩擦係合要素13…と、クラッチインナー12に回転不能かつ軸線方向摺動自在に嵌合する複数の摩擦係合要素14…と、摩擦係合要素13…,14…を脱落不能に保持すべくクラッチアウター11に係止されるサークリップ15と、摩擦係合要素13…,14…をサークリップ15に向けて係合方向に押圧するメインピストン16と、メインピストン16を摺動自在に案内するピストンガイド17と、メインピストン16を油圧で係合方向に駆動するメイン油室18と、メインピストン16を係合解除方向に付勢する複数のリターンスプリング19…と、リターンスプリング19…の一端を支持するスプリングリテーナ20とを備える。
【0024】
ピストンガイド17は円環状の部材であって、その第1シリンダ面17aおよび第2シリンダ面17bに、メインピストン16のピストン本体部16aが2個のシール部材21,22を介して摺動自在に嵌合しており、これらのシール部材21,22によってメインピストン16およびピストンガイド17間に液密なメイン油室18が区画される。
【0025】
メインピストン16は、ピストン本体部16aから径方向外側に延びて図中右端の摩擦係合要素13に対向する押圧部16bと、ピストン本体部16aから軸線方向に延びる円筒部16cとを備える。ピストンガイド17とピストン16の円筒部16cとの間に嵌合する円環状のスプリングリテーナ20は、サークリップ23でピストンガイド17に係止される。ピストン本体部16aに凹設したスプリングシート16d…と、スプリングリテーナ20に凹設したスプリングシート20a…とに、圧縮状態にある複数のリターンスプリング19…の軸線方向両端部が係止される。
【0026】
ピストンガイド17の外周部に円環状のシリンダ17cが形成されており、そこに円環状のサブピストン24が摺動自在に嵌合する。サブピストン24は複数の係合用スプリング27…で図中左方向に付勢されており、その押圧部24aが図中右端の摩擦係合要素13に当接して係合方向に押圧するが、シール部材25,26を介してシールされるサブ油室28に油圧を供給するとサブピストン24は係合用スプリング27…の弾発力に抗して係合解除方向に後退する。
【0027】
エンジンにより駆動されるオイルポンプ29がオイルタンク30から汲み上げたオイルが供給される油圧制御装置31は、1速変速段および後進変速段の確立時に第1ブレーキB1のメイン油室18にクラッチ圧を供給し、かつエンジンの運転中に第1ブレーキB1のサブ油室28に常時ライン圧を供給する。
【0028】
図3は変速用プラネタリギヤユニットPUsの速度線図であって、4本の縦線は図中左側から右側に向かって第1回転要素(ラージサンギヤSs1)、第2回転要素(プラネタリキャリヤCs)、第3回転要素(リングギヤRs)および第4回転要素(スモールサンギヤSs2)に対応する。リングギヤRsとスモールサンギヤSs2とのギヤ比(リングギヤRsの歯数/スモールサンギヤSs2の歯数)をjとし、リングギヤRsとラージサンギヤSs1とのギヤ比(リングギヤRsの歯数/ラージサンギヤSs1の歯数)をkとした場合、第1〜第4要素間の間隔は、k:1:j−1の割合となる。
【0029】
図4の作動表を参照すると明らかなように、第1クラッチC1の係合によりスモールサンギヤSs2が入力軸ISに接続されて回転数「1」になり、第2ブレーキB2(あるいはワンウエイクラッチF1)の係合によりプラネタリキャリヤCsがハウジングHに拘束されて回転数「0」になることで、出力要素であるリングギヤRsが回転数「1st」で回転して1速変速段が確立する。
【0030】
第1クラッチC1の係合によりスモールサンギヤSs2が入力軸ISに接続されて回転数「1」になり、第1ブレーキB1の係合によりラージサンギヤSs1がハウジングHに拘束されて回転数「0」になることで、出力要素であるリングギヤRsが回転数「2nd」で回転して2速変速段が確立する。
【0031】
第1クラッチC1の係合によりスモールサンギヤSs2が入力軸ISに接続されて回転数「1」になり、第2クラッチC2の係合によりラージサンギヤSs1が入力軸ISに接続されて回転数「1」になることで、変速用プラネタリギヤユニットPUsの各要素が相対回転不能なロック状態になり、出力要素であるリングギヤRsが入力軸ISと同じ回転数「1」で回転して3速変速段が確立する。
【0032】
第1クラッチC1の係合によりスモールサンギヤSs2が入力軸ISに接続されて回転数「1」になり、第3クラッチC3の係合によりプラネタリキャリヤCsの回転数が減速用プラネタリギヤユニットPUrの出力回転数「N1」になることで、出力要素であるリングギヤRsが回転数「4th」で回転して4速変速段が確立する。
【0033】
第2クラッチC2の係合によりラージサンギヤSs1が入力軸ISに接続されて回転数「1」になり、第3クラッチC3の係合によりプラネタリキャリヤCsの回転数が減速用プラネタリギヤユニットPUrの出力回転数「N1」になることで、出力要素であるリングギヤRsが回転数「5th」で回転して5速変速段が確立する。
【0034】
第3クラッチC3の係合によりプラネタリキャリヤCsの回転数が減速用プラネタリギヤユニットPUrの出力回転数「N1」になり、第1ブレーキB1の係合によりラージサンギヤSs1がハウジングHに拘束されて回転数「0」になることで、出力要素であるリングギヤRsが回転数「6th」で回転して6速変速段が確立する。
【0035】
第2クラッチC2の係合によりラージサンギヤSs1が入力軸ISに接続されて回転数「1」になり、第2ブレーキB2の係合によりプラネタリキャリヤCsがハウジングHに拘束されて回転数「0」になることで、出力要素であるリングギヤRsが回転数「Rev」で逆方向に回転して後進変速段が確立する。
【0036】
図2において、エンジンの運転時には該エンジンにより駆動されるオイルポンプ29が発生する油圧が油圧制御装置31に供給され、油圧制御装置31が常時出力するライン圧がサブ油室28に伝達されることで、サブピストン24が係合用スプリング27…の弾発力に抗して後退し、サブピストン24の押圧部24aは図中右端の摩擦係合要素13…から離間する。
【0037】
そして2速変速段および6速変速段の確立時には、油圧制御装置31からのクラッチ圧がメイン油室18に供給され、メインピストン16がリターンスプリング19…の弾発力に抗して前進することで、その押圧部16aが摩擦係合要素13…,14…を押圧して第1ブレーキB1を係合させる。このとき、上述したように、サブピストン24はライン圧によって後退しているため、メインピストン16の作動と干渉することはない。
【0038】
さて、自動車が故障して走行不能になり、レッカー車により車体後部をつり上げて後ろ向きに牽引するとき、接地した前輪の回転が出力軸OSを介して変速用プラネタリギヤユニットPUsのリングギヤRsに伝達される。自動車の被牽引時にはエンジンが停止してオイルポンプ29も停止するため、自動変速機Tの各被潤滑部には潤滑油が供給されず、かつライン圧も消滅するため、サブピストン24は係合用スプリング27…の弾発力で前進し、その押圧部24aが摩擦係合要素13…,14…を押圧して第1ブレーキB1を係合させる。
【0039】
図5(A)は、上記サブピストン24を持たない従来の自動変速機の被牽引時における変速用プラネタリギヤユニットPUsの速度線図を示すもので、オイルポンプ29が停止したために第1〜第3クラッチC1〜C3および第1、第2ブレーキB1,B2は全て係合解除し、ワンウェイクラッチF1も前輪が路面により後進方向に駆動されるために係合解除する。その結果、速度線図のラインは第1〜第3クラッチC1〜C3、第1、第2ブレーキB1,B2およびワンウェイクラッチF1のフリクションの大小関係に応じて、斜線の範囲で変化する。従って、例えばプラネタリキャリヤCsの回転数はaの範囲で変動し、その回転数が最大のbになった場合には、プラネタリキャリヤCsに接続されたワンウェイクラッチF1が過回転し、潤滑油の供給が停止しているために異常摩耗や焼き付きが発生する可能性がある。
【0040】
しかしながら、本実施の形態によれば、被牽引時にオイルポンプ29が停止することで第1ブレーキB1が自動的に係合するため、図5(A)に太い実線で示すように、変速用プラネタリギヤユニットPUsの速度線図が確定し、プラネタリキャリヤCsの回転数、つまりワンウェイクラッチF1の回転数はcに抑えられ、上述した異常摩耗や焼き付きの発生が未然に解消される。
【0041】
しかも、サブピストン24は変速用プラネタリギヤユニットPUsのフリクションに打ち勝つだけの荷重を発生すれば良く、自動変速機Tの出力を伝達するための大荷重を発生する必要がないため、サブピストン24を追加したことによる寸法、重量およびコストの増加が最小限に抑えられる。
【0042】
上述した実施の形態では第1ブレーキB1にサブピストン24を設けているが、第2ブレーキB2や第1クラッチC1にサブピストン24を設けることができる。
【0043】
図5(B)は、第2ブレーキB2にサブピストン24を設け、被牽引時に第2ブレーキB2を係合する場合の速度線図である。同図に太い実線で示すように、第2ブレーキB2を係合するとプラネタリキャリヤCsがハウジングHに拘束されるため、プラネタリキャリヤCsの過回転を防止することができる。但し、この場合にはラージサンギヤSs1およびスモールサンギヤSs2の回転数は高くなる。
【0044】
図5(C)は、第1クラッチC1にサブピストン24を設け、被牽引時に第1クラッチC1を係合する場合の速度線図である。同図に太い実線で示すように、第1クラッチC1を係合するとスモールサンギヤSs2が入力軸ISに接続されるため、停止したエンジンのフリクションでスモールサンギヤSs2の回転を停止させて過回転を防止することができる。但し、この場合にはラージサンギヤSs1の回転数は高くなる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0046】
例えば、実施の形態の自動変速機Tは1個の変速用プラネタリギヤユニットPUsを備えているが、複数の変速用プラネタリギヤユニットPUsを備えていても良く。また変速用プラネタリギヤユニットPUsの構造は必ずしもラビニヨ型である必要はなく、シングルピニオン型あるいはダブルピニオン型であっても良い。
【符号の説明】
【0047】
B1 第1ブレーキ(摩擦係合装置)
B2 第2ブレーキ(摩擦係合装置)
C1 第1クラッチ(摩擦係合装置)
Cs プラネタリキャリヤ(少なくとも一つの要素)
H ハウジング(非回転部)
IS 入力軸(変速機入力軸)
PUs 変速用プラネタリギヤユニット(プラネタリギヤユニット)
Rs リングギヤ(出力要素)
Ss1 ラージサンギヤ(少なくとも一つの要素)
Ss2 スモールサンギヤ(少なくとも一つの要素)
16 メインピストン
24 サブピストン
27 係合用スプリング
29 オイルポンプ(油圧供給源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源からの駆動力が入力される少なくとも一つのプラネタリギヤユニット(PUs)を備え、前記プラネタリギヤユニット(PUs)の複数の要素のうちの出力要素(Rs)が常時車輪に接続され、前記複数の要素のうちの少なくとも一つの要素(Ss1,Cs,Ss2)が摩擦係合装置(B1,B2,C1)により拘束可能な自動変速機において、
前記摩擦係合装置(B1,B2,C1)は前記走行用駆動源により駆動される油圧供給源(29)からの油圧で作動するメインピストン(16)およびサブピストン(24)を備え、前記メインピストン(16)は前記油圧供給源(29)からの油圧で前進して前記摩擦係合装置(B1,B2,C1)を係合させ、前記サブピストン(34)は係合用スプリング(27)の弾発力で前進して前記摩擦係合装置(B1,B2,C1)を係合させるとともに、前記油圧供給源(29)からの油圧で後退して前記摩擦係合装置(B1,B2,C1)を係合解除することを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
前記摩擦係合装置(B1,B2)は、前記少なくとも一つの要素(Ss1,Cs)を非回転部(H)に結合するブレーキであることを特徴とする、請求項1に記載の自動変速機。
【請求項3】
前記摩擦係合装置(C1)は、前記少なくとも一つの要素(Ss2)を変速機入力軸(IS)に結合するクラッチであることを特徴とする、請求項1に記載の自動変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−179561(P2011−179561A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42966(P2010−42966)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】