説明

自動調心ころ軸受および連続鋳造設備のローラ支持構造

【課題】球面ころのノンスリップラインを分散させると共に、製造工程および組立工程を簡素化した自動調心ころ軸受を提供する。
【解決手段】自動調心ころ軸受11は、外径面に左右複列の内輪軌道面を有する内輪と、内径面に左右複列の内輪軌道面に対面する球面形状の外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面および外輪軌道面に沿う球面形状の転動面を有する複数の球面ころ14とを備える。そして、複数の球面ころ14は、転動面17の曲率を互いに異ならせた複数種類の球面ころ14a,14bを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動調心ころ軸受、特に連続鋳造設備のローラ等の大きな荷重が負荷され、比較的低速で回転する回転部材を支持する自動調心ころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動調心ころ軸受が、例えば、特開2002−147449号公報(特許文献1)に記載されている。図5および図6を参照して、同公報に記載されている自動調心ころ軸受101を説明する。なお、図5は自動調心ころ軸受101における球面ころ104の差動滑りの分布を示す図、図6は球面ころ104と内輪102および外輪103との接触面の摩耗状況を示す図である。
【0003】
まず、図5を参照して、自動調心ころ軸受101は、複列の軌道を有する内輪102と、複列一体の球面軌道を有する外輪103と、内輪102および外輪103の間に組み込まれる複数の球面ころ104と、複数の球面ころ104を転動可能に保持する保持器(図示省略)とを備える複列自動調心ころ軸受である。
【0004】
この自動調心ころ軸受101に採用される球面ころ104は、転動面104aが球面の一部を構成する曲面形状となっているので、転動時の周速が軸方向で異なる。その結果、球面ころ104の軸方向の2箇所に現れるノンスリップライン104b,104cでのみ滑りを伴わない純転がりとなり、他の部分では内輪102および外輪103の軌道面102a,103aとの間で差動滑りを生じる。また、この差動滑りはノンスリップライン104b,104cから遠ざかる程大きくなる。
【0005】
次に図6を参照して、球面ころ104の転動面104aと内輪102および外輪103の軌道面102a,103aとの間で差動滑りを生じると、両者の接触面には摩耗を生じる。なお、摩耗量は、滑り量の増加に伴って増えるので、ノンスリップライン104b,104cの近傍で比較的少なく、ノンスリップライン104b,104cから遠ざかる程大きくなる。
【0006】
摩耗が進行すると、差動滑りによる摩耗を生じないノンスリップライン104b,104cの位置に接触荷重が集中する。その結果、大きな接触面圧による疲労剥離が早期に発生しやすく、軸受のメンテナンス周期が短くなるという問題がある。特に、ハウジングに固定される非回転側軌道輪(多くの場合には外輪を指す)では、円周上の所定位置に荷重が集中するので、軌道面に割れが発生する等の問題が起こりやすい。また、この問題は、低速で回転することにより潤滑油が軸受全体に供給されにくい自動調心ころ軸受で顕著である。
【0007】
そこで、上記公報に記載されている自動調心ころ軸受101においては、球面ころ104を左右の端面が互いに曲率の異なる曲面で構成される非対称ころとする。そして内輪102および外輪103には、左右逆向きの球面ころ104が交互に配置されている。これにより、円周方向に並ぶ球面ころ104のノンスリップライン104b,104cを分散させて、摩耗の進行を遅らせることができると記載されている。
【特許文献1】特開2002−147449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、自動調心ころ軸受101に採用される球面ころ104の転動面104aには、内輪102および外輪103の軌道面102a,103aとの間の摩擦抵抗を低減するために研削加工が施される。この研削加工は球面ころ104の両端面を挟持して行われるが、両端面が曲面形状の球面ころ104においては、ぬすみの形成等の特別の加工が必要となる。その結果、製造工程が複雑化するという問題がある。また、自動調心ころ軸受101を組み立てる際には、球面ころ104の左右方向を意識しなければならず、組立工程も複雑化する。
【0009】
そこで、この発明の目的は、球面ころのノンスリップラインを分散させると共に、製造工程および組立工程を簡素化した自動調心ころ軸受を提供することである。また、このような自動調心ころ軸受を採用することにより、メンテナンス周期を延伸した連続鋳造設備のローラ支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る自動調心ころ軸受は、外径面に左右複列の内輪軌道面を有する内輪と、内径面に左右複列の内輪軌道面に対面する球面形状の外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面および外輪軌道面に沿う曲面形状の転動面を有する複数の球面ころとを備える。そして、複数の球面ころは、転動面の曲率を互いに異ならせた複数種類の球面ころを含む。
【0011】
上記構成のように、球面ころの転動面の曲率を異ならせることにより、各球面ころのノンスリップラインを異なる位置に配置することができる。その結果、球面ころと内外輪との接触部分の局所的な摩耗を抑制することができ、接触面圧部分を分散させることが可能となる。
【0012】
また、球面ころの端面を平面とすることができると共に、組立時に球面ころの左右を意識する必要もなくなる。その結果、製造工程および組立工程を簡素化した自動調心ころ軸受を得ることができる。
【0013】
この発明に係る連続鋳造設備のローラ支持構造は、鋳型と、鋳型から鋳片を排出および搬送するローラと、ローラを回転自在に支持する自動調心ころ軸受とを備える。自動調心ころ軸受に注目すると、外径面に左右複列の内輪軌道面を有する内輪と、内径面に左複列の内輪軌道面に対面する球面形状の外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面および外輪軌道面に沿う曲面形状の転動面を有する複数の球面ころとを有する。そして、複数の球面ころは、転動面の曲率を互いに異ならせた複数種類の球面ころを含む。
【0014】
上記構成の自動調心ころ軸受をローラを支持する軸受として採用することにより、メンテナンス周期を延伸した連続鋳造設備のローラ支持構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、球面ころのノンスリップラインを分散させると共に、製造工程および組立工程を簡素化した自動調心ころ軸受を得ることができる。また、このような自動調心ころ軸受を採用することにより、メンテナンス周期を延伸した連続鋳造設備のローラ支持構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1および図2を参照して、この発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受11を説明する。なお、図1は内輪12の内輪軌道面12aに配置される複数の球面ころ14を示す図、図2はこの発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受11を示す図である。
【0017】
まず、図2を参照して、この発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受11は、内輪12と、外輪13と、複数の球面ころ14と、隣接する球面ころ14の間隔を保持する保持器15と、案内輪16とを備える。
【0018】
内輪12は、その外径面に左右2列の内輪軌道面12a,12bを有する。また、左右の内輪軌道面12a,12bの間には、球面ころ14の端面18を案内する案内輪16が配置されている。外輪13は、その内径面に内輪軌道面12a,12b対面する球面形状の外輪軌道面13aを有する。
【0019】
保持器15は、任意の構成を採用することができる。例えば、金属を切削加工して形成した揉み抜き保持器、鉄板をプレス加工して形成したプレス保持器、樹脂材料を射出成型して形成した樹脂製保持器のいずれであってもよい。
【0020】
球面ころ14は、球の一部を構成する曲面形状の転動面17と、平面形状の両端面18とを有する全体としてたる型の転動体である。また、球面ころ14の最大径位置がころ長さの中央に位置する対称ころである。そして、この球面ころ14は、左右の内輪軌道面12a,12bそれぞれに複数配置されて、内輪軌道面12a,12bおよび外輪軌道面13aの間を転動する。
【0021】
さらに図1を参照して、内輪軌道面12aには、転動面17a,17bの曲率が互いに異なる第1および第2の球面ころ14a,14bが交互に配置されている。具体的には、第1の球面ころ14aは、転動面17aの曲率半径が相対的に小さいRである。一方、第2の球面ころ14bは、転動面17bの曲率半径が相対的に大きいR(R<R)である。なお、内輪軌道面12bに配置される球面ころ14も同様であるので、説明は省略する。
【0022】
上記構成の自動調心ころ軸受11において、ノンスリップライン19の位置は球面ころ14の転動面17の曲率に依存する。すなわち、曲率半径の小さい球面ころ14aにおいては、2つのノンスリップライン19aが中央よりに形成され、両者の間隔は小さい。一方、曲率半径の大きい球面ころ14bにおいては、2つのノンスリップライン19bが両端よりに形成され、両者の間隔は大きい。
【0023】
このように、転動面17a,17bの曲率が互いに異なる2種類の球面ころ14a,14bを交互に配置することにより、ノンスリップライン19a,19bを分散することができる。これにより、内輪12および外輪13の軌道面12a,12b,13aの局所的な摩耗を抑制することができ、接触面圧部分を分散させることが可能となる。また、自動調心ころ軸受11の組立時に球面ころ14の左右を意識する必要がなくなるので、組立工程を簡素化することができる。
【0024】
ここで、転動面17a,17bの曲率半径を大幅に変更すると転動面17a,17bと軌道面12a,12b,13aとが点接触となり、接触面圧の増大が問題となる。しかし、RとRとの差が僅かであれば、転動面17a,17bおよび軌道面12a,12b,13aが弾性変形して両者が面接触するので、このような問題は生じない。
【0025】
なお、上記の実施形態においては、転動面の曲率が互いに異なる2種類の球面ころ14a,14bを交互に配置した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成を採用することができる。
【0026】
例えば、転動面の曲率が互いに異なる3種類以上の球面ころを配置してもよい。これにより、ノンスリップライン19をさらに分散させることができる。また、複数種類の球面ころをランダムに並べてもよい。これにより、自動調心ころ軸受11の組立時に球面ころ14の種類を意識する必要がなくなるので、さらに組立工程を簡素化することができる。
【0027】
また、上記の実施形態における自動調心ころ軸受11は、左右の内輪軌道面12a,12bの間に案内輪16を配置した例を示したが、これに限ることなく、この発明はあらゆる構成の自動調心ころ軸受に採用することができる。
【0028】
例えば、図3を参照して、この発明の他の実施形態に係る自動調心ころ軸受21を説明する。なお、自動調心ころ軸受21の基本構成は自動調心ころ軸受11と共通するので、共通点の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0029】
この発明の他の実施形態に係る自動調心ころ軸受21は、内輪22と、外輪23と、複数の球面ころ24と、保持器25とを備える複列の自動調心ころ軸受である。また、内輪22の左右の内輪軌道面22a,22bの間には中鍔22cが設けられており、軸方向両端部には外鍔22dが設けられている。この鍔部22cは、球面ころ24の端面を案内する機能を有する。
【0030】
上記構成の自動調心ころ軸受21において、左右の内輪軌道面22a,22bに転動面27の曲率を互いに異ならせた球面ころ24を交互に配置することによっても、この発明の効果を得ることができる。
【0031】
さらに、上記の各実施形態においては、最大径位置がころ長さの中央に位置する対称ころを採用した例を示したが、これに限ることなく、この発明は、ころの最大径位置がころの長さ方向の中央に存在しない非対称ころを有する自動調心ころ軸受にも適用することができる。
【0032】
次に、図4を参照して、この発明の一実施形態に係るローラ支持構造を採用した連続鋳造設備31を説明する。なお、図4は連続鋳造設備31の図解図である。
【0033】
連続鋳造設備31は、溶鋼を受け入れると共に溶鋼中の介在物を除去する取鍋32およびタンディシュ33と、溶鋼を所定の形状に鋳造する鋳型34と、鋳型34から鋳片35を引き抜くピンチロール36と、鋳片35を搬送するガイドロール37と、鋳片35を所定の大きさに切断するトーチ38とを備える。
【0034】
精錬が終了した溶鋼は、まず取鍋32に注入され、タンディシュ33を経て鋳型34に到達する。また、取鍋32およびタンディシュ33では、溶鋼の表面に浮遊する介在物が除去される。鋳型34は、例えば銅製であって常に水冷されている。これにより、鋳型34に接した溶鋼は、所定の形状に成形されると共に急冷されて表面が凝固する。
【0035】
次に、ピンチロール36は、鋳型34内から引き抜いた鋳片35をガイドロール37に受け渡す。複数のガイドロール37は、鋳片35を挟持した状態でトーチ38まで案内する。その際、鋳片35はスプレー冷却されて全体が凝固する。最後に、切断機としてのトーチ38によって、鋳片35が所定の大きさに切断される。
【0036】
この連続鋳造設備31は、鋼の強度、加工性、および耐疲労性等の機械的性質を低下させる酸化物等の介在物を溶鋼中から除去すると共に、圧延工程における加工を容易にするためにスラブと呼ばれる半製品を製造する。
【0037】
上記構成の連続鋳造設備31において、ピンチロール36やガイドロール37は、鋳片35を挟持する際に大きく撓む。また、ピンチロール36やガイドロール37の回転速度は、比較的低速である。そこで、このようなロール36,37を支持する軸受(図示省略)としては、撓みに対して調心性を有する自動調心ころ軸受11,21が適している。
【0038】
また、この発明の実施形態に係る自動調心ころ軸受11,21は、ノンスリップライン19,29を分散配置することによって長寿命となっている。その結果、連続鋳造設備31のメンテナンス周期を延伸することができる。
【0039】
なお、上記の各実施形態に係る自動調心ころ軸受11,21は、連続鋳造設備31に限らず、あらゆる用途に使用することができる。特に、建設機械、一般産業機械、風力発電機等の高荷重環境下で使用する場合に有利な効果を奏する。
【0040】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明は、自動調心ころ軸受に有利に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1に示す自動調心ころ軸受の内輪軌道面に配置される球面ころを示す図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る自動調心ころ軸受を示す図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係る自動調心ころ軸受を示す図である。
【図4】この発明の一実施形態に係る連続鋳造設備を示す図である。
【図5】従来の自動調心ころ軸受における差動すべりの分布を示す図である。
【図6】従来の自動調心ころ軸受における摩耗状況を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
11,21,101 自動調心ころ軸受、12,22,102 内輪、12a,12b,22a,22b,102a 内輪軌道面、13,23,103、外輪、13a,23a103a 外輪軌道面、14,14a,14b,24,104 球面ころ、15,25 保持器、16 案内輪、17,17a,17b,27,104a 転動面、18,18a,18b,28 端面、19,19a,19b,104b,104c ノンスリップライン、22c 中鍔、22d 外鍔、31 連続鋳造設備、32 取鍋、33 タンディシュ、34 鋳型、35 鋳片、36 ピンチロール、37 ガイドロール、38 トーチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径面に左右複列の内輪軌道面を有する内輪と、
内径面に前記左右複列の内輪軌道面に対面する球面形状の外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面および前記外輪軌道面に沿う曲面形状の転動面を有する複数の球面ころとを備え、
前記複数の球面ころは、前記転動面の曲率を互いに異ならせた複数種類の球面ころを含む、自動調心ころ軸受。
【請求項2】
鋳型と、
前記鋳型から鋳片を排出および搬送するローラと、
前記ローラを回転自在に支持する自動調心ころ軸受とを備え、
前記自動調心ころ軸受は、外径面に左右複列の内輪軌道面を有する内輪と、内径面に前記左右複列の内輪軌道面に対面する球面形状の外輪軌道面を有する外輪と、前記内輪軌道面および前記外輪軌道面に沿う曲面形状の転動面を有する複数の球面ころとを有し、前記複数の球面ころは、前記転動面の曲率を互いに異ならせた複数種類の球面ころを含む、連続鋳造設備のローラ支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−69823(P2008−69823A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247915(P2006−247915)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】