説明

自動車のタイヤデフレクタ

【課題】この発明は、ブレーキ装置の冷却性と、車両全体のCd値とを両立し得る自動車のタイヤデフレクタを提供することを目的とする。
【解決手段】ホイールハウス2前方の車体下面部を構成するアンダーカバー10bから下方へ突出するデフレクタ板100からなり、前記ホイールハウス内へ車両前方から流入する走行風量を制限する自動車のデフレクタであって、車幅方向の両端部100a、100bから車両前方へ膨出した形状をなす膨出部100cを備えるとともに、前記膨出部100cを形成するデフレクタ板100の部位に、下端まで連続して延びるスリット部100dを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前輪を収容するホイールハウス内へ流入する走行風量を制限する自動車のタイヤデフレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
車両走行時に車体下面部の下方を通過する走行風はホイールハウス内に流入して車体側面から流出する。一般に、操舵輪である前輪を収容するホイールハウスは前輪の転舵代を見込んで奥行き空間が大きく形成されているため、前輪のホイールハウスから車体側面から流出する空気量は多くなり易い。車体側面から空気が大量に流出すると車両全体の空気の流れを乱す要因となって、車両全体の空気抗力係数(Cd値)を悪化させることになる。
【0003】
そこで、前輪の前方に板状のデフレクタ板を配設してホイールハウス内に流入する走行風量を低減することが提案されている(特許文献1及び2)。一方、ホイールハウス内に流入する走行風量が低減すると前輪に設けられたブレーキ装置の冷却性が悪化する。このため、車両下面部を構成するアンダーカバーにブレーキ装置へ走行風を導く窪みを設けることも提案されている(特許文献1及び2)。
【0004】
【特許文献1】特許第3607965号公報
【特許文献2】特開2002−362429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ブレーキ装置へ走行風を導くことは、ホイールハウス内への走行風量を増大させていることになり、車両全体のCd値を悪化させる要因となる。
【0006】
この発明は、ブレーキ装置の冷却性と、車両全体のCd値とを両立し得る自動車のタイヤデフレクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の自動車のタイヤデフレクタは、タイヤ及びブレーキを含んでなる左右の前輪と、該前輪を収容するホイールハウスとを備え、該ホイールハウス前方の車体下面部から下方へ突出する縦壁部からなり、前記ホイールハウス内へ車両前方から流入する走行風量を制限する自動車のデフレクタであって、車幅方向の両端部から車両前方へ膨出した形状をなす膨出部を備えるとともに、前記膨出部を形成する前記縦壁部の部位に、下端まで連続して延びるスリット部を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、前記縦壁部の存在により前記ホイールハウス内へ流入する走行風量が制限され、当該ホイールハウスから車外へ流出する走行風量を低減し、車両全体のCd値を向上させる。一方、前記縦壁部を、その車幅方向の両端部から車両前方へ膨出した形状とすることで、前記縦壁部を乗り越えて前記ホイールハウス内へ流入する走行風が、車両後方へ流れる渦状の上昇流を生じる。この渦状の上昇流が前記ブレーキ装置の冷却風となり、前記ブレーキ装置の冷却性を向上する。
従って、ブレーキ装置の冷却性と、車両全体のCd値とを両立し得る車両のデフレクタ構造を提供することができる。また、前記縦壁部の構成のみでこれらの効果を得られる。
【0009】
さらに、前記縦壁部にスリット部を備えていることにより、路面の縁石、段差等の障害物との接触時に縦壁部を容易に変形させることができるため、縦壁部の取付部に大きな力が作用することを防止できる。
【0010】
なお、前記膨出部は、車両前方へ円弧状または楕円弧状(アール状)に膨出することが望ましい。
【0011】
この発明の一実施態様においては、前記スリット部の上端に、該スリット部のスリット幅より大きい直径からなる円孔部を設けたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、縦壁部の変形時に、スリット部の上端における応力の集中を抑制することができるため、スリット部の上端が裂けることを確実に抑制できる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記縦壁部の上端に、横壁からなる取付部を備え、前記縦壁部の、下端より上方に離間した部位と前記取付部とに跨ってリブを連続形成するとともに、該リブを、前記スリット部の側部に備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、前記スリット部に加えて前記リブを備えることにより、前記縦壁部の変形の促進と、前記縦壁部の剛性の向上との両立を図ることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記スリット部を、前記膨出部の先端部より後退した車幅方向内側の部位に設けたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、スリット部が車両外側から見立たなくなるため、斜め前方から車両を見た時の見栄えを向上させることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記スリット部を、前記膨出部の先端部及び車幅方向においてその両側の部位に設けたことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、障害物との接触時において、前記縦壁部を確実に変形させることができるため、前記取付部への影響をより低下させることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、タイヤデフレクタを、車体下面部を構成するアンダーカバーの側部に形成した段下げ部に取付け、前記タイヤデフレクタの車幅方向外側の後端部を前記ホイールハウス前端まで形成するとともに、前記段下げ部の後端をラウンド形状とし、前記タイヤデフレクタの車幅方向内側の後端部を前記外側の後端部より前方になるように形成したことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、アンダーカバーにおいて段下げ部の後端がラウンド形状をなしていることにより、該形状に沿って冷却風をより確実にブレーキ装置に案内することができ、ブレーキ装置の冷却性能を向上させることができる。
【0021】
さらに、前記ラウンド形状に合わせて、前記内側の後端部を、前記外側の後端部より前方になるように形成していることにより、前記内側の後端部を前記外側の後端部によって隠すことができるため、車体側面視での外観性能の向上を図ることができる。
【0022】
この発明の一実施態様においては、前記スリット部が、前記縦壁部の接線と直交する方向に指向していることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、スリット部の幅を大きく設定しなくとも、前記縦壁部の変形時に、その端部が隣接する他の縦壁部の端部と干渉することを回避できるため、スリット部の存在による気流の乱れを最小限に留めることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、ブレーキ装置の冷却性と、車両全体のCd値とを両立し得る車両のデフレクタ構造を提供することができる。
【0025】
さらに、前記縦壁部にスリット部を備えていることにより、路面の縁石、段差等の障害物との接触時に前記縦壁部を容易に変形させることができるため、取付部に大きな力が作用することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1はこの発明の実施形態に係る自動車のタイヤデフレクタ構造を備えた車両Aの前方の側視図であり、図2は、車両Aの前部を一部断面にして示す底面図であり、図5は、デフレクタ板100及びその近傍の各部材の取付構造を一部断面にして示す後方斜視図であり、図6は、図5におけるX−X線矢視断面図であり、図7は、要部を一部断面にして示す正面図である。なお、図中において矢印(F)は車両前方、矢印(R)は車両後方を示し、矢印(IN)は車両内方、矢印(OUT)は車両外方を示す。
【0027】
車両Aは操舵輪である左右の前輪1と、前輪1を転舵可能に収納するホイールハウス2と、を備える。ホイールハウス2は前輪1の転舵代を見込んで奥行き空間が形成されており、その一部には図7(左の前輪1の近傍を示す。)に示すようにサスペンションタワー部2aが形成されている。また、図7に示すようにホイールハウス2の車外側にはフロントフェンダパネル7が接合され、車内側にはフロントサイドフレーム(フロントフレーム)8が接合されている。フロントサイドフレーム8にはボディ結合ブッシュ9を介してペリメータフレーム6が接合されている。
【0028】
図2で示すように、前輪1はホイール1aと、ホイール1aに装着されたタイヤ1bとを備え、ナックルアーム4を介して操舵されるように構成されている。前輪1にはブレーキ装置3が設けられている。ブレーキ装置3はブレーキディスク3aとキャリパー3bとから構成されており、ブレーキディスク3aはホイール1aに固定されている。キャリパー3bはステアリングナックル(不図示)に支持され、ブレーキディスク3aに鞍状に跨って配設されている。前輪1はロアアーム5を含むフロントサスペンション(例えば、ダブルウィッシュボーン形式、マクファーソンストラット形式)により左右独立して懸架されており、ロアアーム5はペリメータフレーム6に支持されている。なお、図2に示すように車両Aの前方の車体下面部は、アンダーカバー10a乃至10cにより構成されている。
【0029】
図1、図2に図示の部材11は、バンパフェースであり、このバンパフェース11の下端からは、自動車の空気抵抗低減のために下方に突出するエアダムスカート12が設けられている。
【0030】
次に、前輪1の前方にはアンダーカバー10bに取付けられたデフレクタ板100が配設されている。図3、図4は、それぞれ左の前輪1の前方に配設されたデフレクタ板100の底面図、後方斜視図である。なお、右の前輪1の前方に配設されたデフレクタ板100も左右が対称となるが同様の構成である。
【0031】
デフレクタ板100はホイールハウス2前方の車体下面部から下方へ突出して、ホイールハウス2内へ車両前方から流入する走行風量を制限する板状の部材であり、例えば、オレフィン系エラストマー等の弾性材料から形成される。デフレクタ板100の上端には横壁からなるアンダーカバー10bへの取付部101が一体に形成されている。取付部101には取付孔101aが形成されている。
【0032】
デフレクタ板100は車幅方向に湾曲しながら延びており、その車幅方向の両後端部(内側端部100a、外側端部100b)の双方から車両前方へ円弧状または楕円弧状(アール状)に膨出した形状をなす膨出部100cを備えている。なお、デフレクタ板100の上下方向の幅は、両端部100a、100b、膨出部100cのいずれにおいても同様となっている。
【0033】
上述の通り、本実施形態ではデフレクタ板100が両端部100a及び100bの双方から車両前方へ膨出した形状を有しているが、本実施形態では、特に、車両底面視で楕円弧状をなしている。図2において線L1よりも車両前方側の部分は完全な楕円弧であるが、両端部100a及び100b近傍は車両前後方向と平行に延びている。なお、内側端部100aまたは、外側端部100b近傍のいずれかを車両前後方向と平行に延びるようにしてもよい。
【0034】
また、本実施形態の場合、図2、図3に示すように外側端部100bは、ホイールハウス2の前縁近傍に略一致するように配設されている。ところで、アンダーカバー10bの側部には、車幅方向内側よりも下方に下がる形状とされ、底面視で凸形状となる段下げ部10b1が形成されており、デフレクタ板100は、この段下げ部10b1の面に取付けられている。更に、段下げ部10b1は、その後端がラウンド形状をなしており、内側端部100aは、段下げ部10b1のラウンド形状に合わせて、外側端部100bよりも前方に位置するように形成されている。
【0035】
また、図2に示すようにデフレクタ板100の膨出方向は、車両前後方向よりも車内側を向いている。本実施形態の場合、楕円弧の中心方向(長軸方向)L2が車両前後方向と角度θをなしている。なお、デフレクタ板100の膨出方向を車両前後方向に合わせる構成も採用可能である。
【0036】
デフレクタ板100は、図3、図4に示すように、膨出部100cの先端部より後退した車幅方向内側の部位に、下端まで連続して延びるスリット部100dを備えており、スリット部100dの上端には、スリット幅L3より大きい直径rからなる円孔部100eが設けられている。
【0037】
更に、デフレクタ板100からは、その下端より上方に離間した部位と、取付部101とに跨るようにリブ100fが連続形成されている。このリブ100fは、スリット部100dの両側部の他、この両側部の位置から離間した位置に、デフレクタ板100の内周に沿って複数備えられられている。
【0038】
図3において図示されている部材13B、14Bはいずれもボルトであり、ボルト13Bは、バンパフェース11にエアダムスカート12を取付けるためのものであり、ボルト14Bは、バンパフェース11にアンダーカバー10b、デフレクタ板100(取付部101)を取付けるためのものである。また、同図において図示されている部材15はリベットであり、デフレクタ板100(取付部101)をアンダーカバー10bに取付けるためのものである。
【0039】
エアダムスカート12は、バンパフェース11を車体に組付ける前に、予め図5に示すバンパフェース11縁部のクリップナット13N、ボルト13Bによりバンパフェース11に締結(サブアッシー)される。ここで、バンパフェース11、エアダムスカート12には、対応する位置にそれぞれ、係合孔11a、突起部12aが形成されており、この突起部12aには、薄板状の係合爪12bが形成されている。この係合爪12bは薄板状とされているために可撓性を有する部位となっている。エアダムスカート12をバンパフェース11にサブアッシーする際、係合爪12bを係合孔11aの位置に合わせつつエアダムスカート12を上方へ押し上げることで、係合爪12bは係合孔11aの縁部からの押圧により変形し、係合爪12bが前記縁部を乗り越えた時に、図5、図6に示すように互いを係合させることができる。これにより、エアダムスカート12を、バンパフェース11の所定の位置に位置決めすることができる。
【0040】
アンダーカバー10bは、図5、図6に示すように、所定間隔を置いてバンパフェース11の縁部に並ぶ複数のクリップナット14N、14N…、ボルト14B、14B…によりバンパフェース11に締結されている。ここで、取付部101に形成された複数の取付孔101aのうち、最も車外側では、ボルト14Bが挿通され、取付部101がアンダーカバー10bとともにバンパフェース11に共締めされている。
【0041】
取付部101のその他の取付孔101a、…には、リベット15、…が挿通され、デフレクタ板100がアンダーカバー10bの所定位置に固定されている。
【0042】
次に、図7に示すように車両正面視で、デフレクタ板100は前輪1のタイヤ1bと一部が重なるように配設されている。本実施形態の場合、外側端部100bはタイヤ1bの幅方向の中心よりも外側に位置し、内側端部100aはタイヤ1bの内縁よりも車内側でホイールハウス2の内縁よりも車外側に位置しており、デフレクタ板100は車幅方向にタイヤ1bの内縁を跨るように配設されている。このため、車両前方からアンダーカバー10b下を通過する走行風がデフレクタ板100により偏向され、デフレクタ板100が存在しない場合と比べるとホイールハウス2内へ流入することが制限される。
【0043】
次に、デフレクタ板100の作用について説明する。デフレクタ板100は上記の通り、基本的にはホイールハウス2内へ車両前方から走行風が流入することを制限するものであるが、本実施形態ではデフレクタ板100が両端部100a及び100bの双方から車両前方へ膨出した形状を有しているため、走行風の一部がブレーキ装置3へ流れ、その冷却風とすることができる。図8は走行風の流れの説明図である。
【0044】
デフレクタ板100に衝突する走行風は、デフレクタ板100を乗り越える気流d1a、d1bと、乗り越えずにデフレクタ板100の側面を流れる気流d2a、d2bとに大別される。
【0045】
まず、気流d2aはデフレクタ板100の内側端部100aに続く側面に沿ってホイールハウス2内へ流れ、気流d2bはデフレクタ板100の外側端部100bに続く側面に沿って車両側方へ流れる。本実施形態の場合、デフレクタ板100が車両底面視で楕円弧状をなしており、緩やかにカーブしているため、デフレクタ板100により左右に偏向される走行風である気流d2a及びd2bはデフレクタ板100の側面に沿って層状の流れを維持でき、乱れが少なくなる。このため、特に車両側方に流れる気流d2bについて、車両全体のCd値を向上できる。一方、気流d2aはホイールハウス2内へ流入して徐々に拡散する。このため、その一部が上昇して図8に示すように車両側方へ流れ、ブレーキ装置3の冷却風として機能することになる。本実施形態では、特に、デフレクタ板100の内側端部100a近傍が車両前後方向と平行に延びているため、気流d2aをより車両後方側へ、つまり、ブレーキ装置3へ導くことができる。
【0046】
一方、デフレクタ板100を乗り越える気流d1a、d1bは、デフレクタ板100の左右の湾曲方向が走行風の進行方向(車両前後方向)から傾いているため、図8に示すように渦状の気流となり、まとまりながら流れる。また、デフレクタ板100を下方から上方へ乗り越えることになるので、渦状の上昇流となる。このうち、デフレクタ板100の外側端部100bに続く側面を乗り越えた気流d1bは、外側端部100bに続く側面が車両外方に指向していると共にタイヤ1bの存在により拡散しながら車両側方に流れ、気流d2bと合流する。気流d1bにより車両側方を流れる気流が若干乱れるが、気流d1bはタイヤ1bに衝突して拡散し、気流が弱まることと気流d2bとの合流により、車両側方を流れる気流の乱れはさほど大きくならない。
【0047】
一方、デフレクタ板100の内側端部100aに続く側面を乗り越えた気流d1aは、外側端部100aに続く側面がタイヤ1bの内縁よりも車両内方に指向していることにより、ホイールハウス2内を上昇しながら流れ、徐々に拡散する。しかして、気流d1aはブレーキ装置3の冷却風として機能することになる。本実施形態では、特に、デフレクタ板100の内側端部100a近傍が車両前後方向と平行に延びているため、気流d1aをより車両後方側へ、つまり、ブレーキ装置3へ導くことができる。また、本実施形態では、デフレクタ板100の内側端部100aがホイールハウス2の前縁部に略一致しているため、デフレクタ板100がホイールハウス2により近い位置に配設され、しかも、内側端部100aがブレーキ装置3へより近づくことから、気流d1aや気流d2aが完全に拡散してしまう前に、ブレーキ装置3へ届き易くなり、ブレーキ装置3の冷却性を向上できる。
【0048】
更に、本実施形態では、デフレクタ板100の膨出方向が車両前後方向よりも車内側を向いているため、内側端部100aに続く側面は、走行風(車両前後方向)となす角度が相対的に浅くなり、外側端部100bに続く側面は、相対的に深くなる。つまり、外側端部100bに続く側面に走行風が衝突する場合よりも、内側端部100aに続く側面に走行風が衝突する場合の方が、拡散の程度が小さく、かつ、車両後方へ流れ易くなる。このため、気流d1aや気流d2aが車両後方へ、つまり、ブレーキ装置3へ指向し易くなり、ブレーキ3の冷却性を向上できる。
【0049】
このように本実施形態では、デフレクタ板100の存在によりホイールハウス2内へ流入する走行風量が制限され、ホイールハウス2から車外へ流出する走行風量を低減し、車両A全体のCd値を向上させる。一方、デフレクタ板100を、その車幅方向の両端部から車両前方へ膨出した形状とすることで、デフレクタ板100を乗り越えてホイールハウス2内へ流入する走行風が、車両後方へ流れる渦状の上昇流を生じさせ、この渦状の上昇流がブレーキ装置3の冷却風となり、ブレーキ装置3の冷却性を向上する。従って、ブレーキ装置3の冷却性と、車両A全体のCd値とを両立し得る車両のデフレクタ構造を提供することができる。デフレクタ板100の構成のみでこれらの効果を得られる。
【0050】
更に、本実施形態では、アンダーカバー10bにおいて段下げ部10b1の後端がラウンド形状をなしていることにより、該形状に沿って冷却風をより確実にブレーキ装置3に案内することができる。ここで、このラウンド形状に合わせて、デフレクタ板100の内側端部100aは、外側端部100bより前方になるように形成されていることにより、内側端部100aを外側端部100bによって隠すことができるため、側面視での外観性能の向上を図ることができる。
【0051】
次に、デフレクタ板100のスリット部100dの作用について、図9、図10を参照して説明する。図9、図10は、それぞれ、障害物Yとの接触時におけるデフレクタ板100の状態を説明するための底面図、側面図である。
【0052】
デフレクタ板100は、車体下部から下方に突出しているために、車両走行中、デフレクタ板100と路面の縁石、段差等の障害物Yと接触する可能性がある。そこで、本実施形態では、デフレクタ板100にスリット部100dを形成することで、障害物Yにデフレクタ板100が接触した時、デフレクタ板100の変形により取付部101bに伝播される衝撃を緩和するようになっている。
【0053】
具体的には、車両走行中、デフレクタ板100が障害物Yと接触した時、図9にて二点鎖線で示すように、スリット部100dによってデフレクタ板100を部分的に楕円形状の中心に向かって折り畳むように容易に変形させることができる。これにより、障害物Yとの接触による衝撃がデフレクタ板100で緩和され、取付部101に大きな力が作用することを防止できる。結果として、ボルト14B、クリップナット14Nによる締結や、リベット15による固定に緩みが生じたり、ボルト14B、クリップナット14N、リベット15が破損、脱落したりすることを防止できる。
【0054】
デフレクタ板100の変形時、スリット部100dの上端では、スリット部100dの幅が広がる方向に力が作用する。ここで、仮に、スリット部100dの上端を、図10にて二点鎖線で示すような角形としてしまうと、角部に応力が集中し、上端が裂けてしまう虞がある。これに対し、本実施形態では、スリット部100dの上端が円孔部100eとされ、上述したような応力の集中が抑制される構成となっているため、この場合スリット部100dの上端が裂けることを確実に抑制できる。
【0055】
また、本実施形態では、リブ100fを備えていることにより、デフレクタ板100の過剰な変形を抑制できるようになっており、スリット部100dに加えてリブ100fを備えることにより、デフレクタ板100の変形の促進と、デフレクタ板100の剛性の向上との両立を図ることができる。
【0056】
また、スリット部100dを、膨出部100cの先端部より後退した車幅方向内側に配設したことにより、スリット部100dが車両外側から見立たなくなるため、斜め前方から車両を見た時の見栄えを向上させることができる。
【0057】
ところで、スリット100dは、図9に示すように、デフレクタ板100が延びる曲線の接線Zと直交する方向に指向している。これにより、その加工、成形が容易となる他、デフレクタ板100の変形時、スリット部100dにより形成されたデフレクタ板100の端部同士の干渉を回避できる。ここで、図11に示すように、デフレクタ板100にスリット部100dとは異なる方向に指向するスリット部100d’を備えた場合、障害物Yと接触したデフレクタ板100は、変形時にその端部が二点鎖線で示すように隣接する他の端部と干渉し易くなり、変形が妨げられてしまう可能性がある。この場合、スリット100d’の幅を大きく確保すれば干渉の問題は解決できるが、スリット幅を広げることで気流の乱れを引き起こしてしまう可能性がある。本実施形態では、スリット部100dの指向する方向を工夫することにより、スリット部100dの幅を大きく設定しなくともデフレクタ板100の端部同士の干渉を回避できるため、スリット部100dの存在による気流の乱れを最小限に留めることができる。
【0058】
なお、スリット部は、図12に示すスリット部200d、200d、…のように、膨出部200cの先端部及びその両側の部位に設けることもできる。これにより、障害物Yとの接触時においてデフレクタ板200を確実に変形させることができ、取付部201への影響をより低下させることができる。
【0059】
但し、スリット部200dの数が多くなれば、デフレクタ板200をより確実に変形させることができるものの、スリット部200dによって区切られたデフレクタ板200の長手方向の幅が短くなるために、障害物Yの押圧力の方向によっては、隣接するデフレクタ板200の端部同士が、図12において二点鎖線で示すように互いに反対方向に変形し、スリット部200dの上端が裂け易くなる可能性がある。従って、スリット部200dの数を設定する際は、図示のように、多くとも、車体外側部、先端部、車体内側部の3箇所に形成される程度とするのが好ましい。
【0060】
なお、図12において図示されている部材200fはリブであり、その作用、効果は、図3等に示すリブ100fと略同様である。
【0061】
なお、上記各実施形態では、デフレクタ板100の底面視形状を楕円弧状としたが、デフレクタ板の車幅方向の両端部から車両前方へ膨出した形状はこれに限られず、種々の形状が採用できる。例えば、図13(a)のデフレクタ板300(膨出部300c)のように円弧状(半円弧状)とすることもできる。また、図13(b)のデフレクタ板301(膨出部301c)のように三角状(底辺がないもの)とすることもできる。更に、図13(c)のデフレクタ板302(膨出部302c)のように台形状(底辺がないもの)とすることもできる。これらのいずれの例においても、デフレクタ板100について説明した構成は適宜採用することができ、デフレクタ板100と略同様の効果が得られる。
【0062】
また、デフレクタ板300、301、302においても、それぞれ、図示のようにスリット部300d、301d、302dや、リブ300f、301f、302fを備えたりすることができる。また、図示のものは、デフレクタ板100と同様、見栄えを重視して、いずれも車体内側にスリット部300d、301d、302dを備えているが、スリット部300d、301d、302dの数、位置については、デフレクタ板100、200の場合と同様、見栄え、変形のし易さ等の各要素を考慮して適宜設定すればよい。
【0063】
なお、各スリット部300d、301d、302dも、スリット部100d等と同様、デフレクタ板300、301、302の接線Zと直交する方向に指向していることが好ましい。
【0064】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の縦壁部は、デフレクタ板100、200、300、301、302に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態に係る自動車のタイヤデフレクタ構造を備えた車両の前方の側視図。
【図2】車両前部を一部断面にして示す底面図。
【図3】左の前輪の前方に配設されたデフレクタ板を示す底面図。
【図4】左の前輪の前方に配設されたデフレクタ板を示す後方斜視図。
【図5】デフレクタ板及びその近傍の各部材の取付構造を一部断面にして示す後方斜視図。
【図6】図5におけるX−X線矢視断面図。
【図7】要部を一部断面にして示す正面図。
【図8】走行風の流れの説明図。
【図9】障害物との接触時におけるデフレクタ板の状態を説明するための底面図。
【図10】障害物との接触時におけるデフレクタ板の状態を説明するための側面図。
【図11】図9に示すものと異なる方向に指向しているスリット部を備えたデフレクタ板を示す図であって、障害物との接触時におけるデフレクタ板の状態を示す底面図。
【図12】本発明の別の実施形態に係るデフレクタ板を示す底面図。
【図13】本発明のさらに別の実施形態に係るデフレクタ板を示す底面図。
【符号の説明】
【0066】
1…前輪
1b…タイヤ
2…ホイールハウス
3…ブレーキ装置
10a、10b、10c…アンダーカバー
10b1…段下げ部
100、200、300、301、302…デフレクタ板
100a…内側端部
100b…外側端部
100c、200c、300c、301c、302c…膨出部
100d、200d、300d、301d、302d…スリット部
100e…円孔部
100f、200f、300f、301f、302f…リブ
101…取付部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ及びブレーキを含んでなる左右の前輪と、
該前輪を収容するホイールハウスとを備え、
該ホイールハウス前方の車体下面部から下方へ突出する縦壁部からなり、前記ホイールハウス内へ車両前方から流入する走行風量を制限する自動車のデフレクタであって、
車幅方向の両端部から車両前方へ膨出した形状をなす膨出部を備えるとともに、
前記膨出部を形成する前記縦壁部の部位に、下端まで連続して延びるスリット部を備えた
自動車のタイヤデフレクタ。
【請求項2】
前記スリット部の上端に、該スリット部のスリット幅より大きい直径からなる円孔部を設けた
請求項1記載の自動車のタイヤデフレクタ。
【請求項3】
前記縦壁部の上端に、横壁からなる取付部を備え、
前記縦壁部の、下端より上方に離間した部位と前記取付部とに跨ってリブを連続形成するとともに、
該リブを、前記スリット部の側部に備えた
請求項1または2記載の自動車のタイヤデフレクタ。
【請求項4】
前記スリット部を、前記膨出部の先端部より後退した車幅方向内側の部位に設けた
請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の自動車のタイヤデフレクタ。
【請求項5】
前記スリット部を、前記膨出部の先端部及び車幅方向においてその両側の部位に設けた
請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の自動車のタイヤデフレクタ。
【請求項6】
タイヤデフレクタを、車体下面部を構成するアンダーカバーの側部に形成した段下げ部に取付け、
前記タイヤデフレクタの車幅方向外側の後端部を前記ホイールハウス前端まで形成するとともに、
前記段下げ部の後端をラウンド形状とし、前記タイヤデフレクタの車幅方向内側の後端部を前記外側の後端部より前方になるように形成した
請求項1乃至5のうちいずれか一項記載の自動車のタイヤデフレクタ。
【請求項7】
前記スリット部は、前記縦壁部の接線と直交する方向に指向している
請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の自動車のタイヤデフレクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−13013(P2008−13013A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185141(P2006−185141)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】