説明

自動車のパワートレーンマウンティングシステム

【課題】多様なエンジン仕様のプラットフォーム車両用に適用され、優れたマウンティング特性を有するパワートレーンマウンティングシステムを提供する。
【解決手段】エンジンと変速機を横方向に搭載するパワートレーンマウンティングシステムであって、車体のサイドメンバーとエンジンとの間に取り付けられたエンジンマウントと、車体のサイドメンバーと変速機の上端間に設けられる変速機マウントと、サブフレームとパワートレーン間に設けられた前/後方側マウントとからなり、前/後方側マウントのパワートレーン荷重を支持する量を、エンジンマウントの支持する量より大きくし、変速機マウントは、パワートレーンの荷重を分担しないように、前/後方側マウントとエンジンマウントおよび変速機マウントのサブフレームおよびサイドメンバーに対する相対装着高さおよびスプリング定数が設定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のパワートレーンマウンティングシステムに係り、より詳しくは、中型級または大型級のエンジン仕様を有する車両に汎用的に適用し得る自動車のパワートレーンマウンティングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、前機関前輪駆動(FF;Front engine Front driving)型の車両において、エンジンと変速機からなるパワートレーンを支持し、これらから発生する振動および騷音を絶縁するためのパワートレーンマウンティングシステムは、3点または4点支持の慣性主軸方式、または3点支持の重量中心方式を主に採択している。
従来、4点支持の慣性主軸方式は、パワートレーン荷重の大部分を支持する主マウントであるエンジンマウントと変速機マウントをパワートレーンの慣性主軸上に配置して、エンジンの加振入力に対する抵抗を最小にすることにより、アイドルの際、NVHに対する優れた性能を発揮する特徴を有する。同時に、ロールマウントに前/後方側2点支持方式を採択しているので、大変位のロール制御にも有利な利点がある。
しかし、V6型エンジンのように、高性能および高出力エンジンが適用される車両においては、前記のような4点支持の慣性主軸方式によっては満足な性能を期待することが無理であった。
【0003】
すなわち、V6エンジンのように、高出力のエンジンにおいては、発生するトルクが大きくてエンジンの重量が重いため、エンジンの慣性または出力に対するロール変位が過度に発生する。
このような大変位のロール挙動を制御するためには、ロールマウントの特性値を過度に高めなければならないが、ロールマウントの特性値を過度に高めると、アイドルの際、NVH性能が悪くなって顧客不満の原因となるので、ロールマウントに対する特性値を過度に高めることができない。
また、従来、4点支持の慣性主軸方式においては、ロールマウントの特性値が低いため、加速の際、高出力に対する作用および反作用によりエンジンのロール変位が大きくなり、ロールマウントが過度に圧搾されるため、車両の出発時、エンジン騷音が急激に室内に伝達される傾向がある。
【特許文献1】特開2001−239843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、4点支持の慣性主軸方式とほぼ類似した構成を有しながらも、中型級のI4エンジンと大型級のV6エンジンなどの多様なエンジン仕様を有するプラットフォーム車両用に汎用的に適用され、優れたマウンティング特性を発揮することができるパワートレーンマウンティングシステムを提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の自動車のパワートレーンマウンティングシステムは、エンジンルーム内にエンジンと変速機を横方向に搭載するパワートレーンマウンティングシステムにおいて、前記パワートレーンの慣性主軸上の車両側方に位置し、車体のサイドメンバーとエンジンとの間に取り付けられたエンジンマウントと、前記パワートレーンの慣性主軸上の前記エンジンマウントの対抗側に位置し、車体のサイドメンバーと変速機の上端間に設けられ、パワートレーンのロール挙動を制御する変速機マウントと、前記パワートレーンの車両の前/後方にそれぞれ位置し、サブフレームとパワートレーン間に設けられた前/後方側マウントとからなり、前記の前/後方側マウントがパワートレーンの荷重を支持する量が、前記エンジンマウントが支持する量より大きくなるようにし、前記変速機マウントは、パワートレーンの荷重を分担しないように、前記の前/後方側マウントとエンジンマウントおよび変速機マウントの前記サブフレームおよびサイドメンバーに対する相対装着高さおよびスプリング定数が設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明による自動車のエンジンマウンティングシステムによれば、エンジンルーム内にエンジンと変速機を搭載することにおいて、4点の慣性支持方式とほとんど類似した構成を取りながら、I4エンジンまたはV6エンジンが使用されるパワートレーンを優れたマウンティング特性で支持できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【実施例】
【0008】
図1〜図3に示す通り、車両の前方下側にはサブフレームが備えられ、車両の両側にサイドメンバーが備えられ、サイドメンバーにエンジンマウント1と変速機マウント2がそれぞれ車体の両側に配置されてエンジンEと変速機TMを支持する。
エンジンマウント1と変速機マウント2はそれぞれエンジンEと変速機TMの結合体であるパワートレーンの慣性主軸X上に位置する。
エンジンマウント1は、そのマウンティング軸が車体に対して上下方向に向かうように取り付けられ、変速機マウント2は、そのマウンティング軸が車体に対して左右方向に向かうように取り付けられる。
また、サブフレームSFの車両の前/後側に前/後側マウント3、4が固定されてパワートレーンを支持する。前/後側マウント3、4は、そのマウンティング軸が車体に対して上下方向に向かうように取り付けられる。
【0009】
すなわち、エンジンマウント1と変速機マウント2は慣性主軸X上で車体側サイドメンバーSMとパワートレーン間を連結する2点マウントを形成し、サブフレームSF上に前/後方側マウント3、4がそれぞれ1点マウントを形成するように配置する。
本発明は、従来とは異なり、前/後方側マウントのパワートレーンの荷重を支持する量が、エンジンマウントの支持する量より大きくなるようにすることに大きな特徴がある。
本実施例においては、前/後方側マウント3、4がパワートレーンの総重量の約75%〜85%を支持するように設定され、これに対するインシュレーター特性値も20kgf/mm程度のスプリング定数値を有するように設定される。
【0010】
また、エンジンマウント1は残りのパワートレーン荷重の15%〜25%程度を支持するように設定され、変速機マウント2は、従来とは異なり、変速機TMの上端に配置されて、エンジンEに対するロールマウントの役目をするように設定され、パワートレーンに対する荷重分担を全くしないようになっている。
変速機マウント2はサブフレームSFと変速機TMの上端との間に取り付けられるので、変速機の中間部分に位置することより相対的にエンジンEのロール制御に有利となり、慣性主軸上に配置されることによって、エンジンEの起振力に対する抵抗が少なくてNVH(Noise Vibration Harshness)性能においても有利である。
【0011】
すなわち、本発明によるマウンティングシステムは、構成面では従来4点支持の慣性主軸方式と同じ構成を有するが、パワートレーンに対する重量分担およびインシュレーター特性値(スプリング定数値)は従来と全く違うように設定される。
前/後方側マウント3、4のインシュレーター特性値が大きく、エンジンマウント1と変速機マウント2のインシュレーターの特性値はそれより低いので、エンジンEのロールモードが確実に非連成化されてNVH性能が向上でき、さらに変速機マウント2のマウンティング軸が、従来と異なり、90゜回転して左右方向に設定されているので、ロールモードの非連成化に一層有利に作用する。
【0012】
ここで、非連成化とは、空間上でのパワートレーンのある一自由度による運動がほかの自由度による運動と組み合わせられない特性を言う。
また、前記のように適用される変速機マウント2は、車両の出発時に感じる感じに非常に大きな影響を及ぼすことになるが、これは図8〜10に詳細に示す。
変速機マウント2はブッシュ型になっており、マウンティング軸であるインナーパイプの軸が車両の横方向に配置され、インナーパイプからアウターパイプに向かって半径方向に多数のブリッジ20が形成されている。
変速機マウント2は、車両の前後方向の特性値を上下方向の特性値より1.2倍以上高くする必要があり、左右方向の特性値は上下方向の特性値の0.5倍以下に設定される。
【0013】
車両の出発時にパワートレーンのローリングが発生すれば、ブリッジが次第に変形するにしたがい、変速機マウントの特性値が漸進的に変化するので、エンジンで発生する騷音に比例して、室内で運転手が感じるエンジンの騒音も漸次増大する。
したがって、従来、車両の出発時に発生するパワートレーンのローリングに対してマウントが提供する特性値が急激に上昇して、運転手が感じるエンジンの騷音が急激に増加することを防止することができる。
変速機マウント2は、一側に車体のサイドメンバーSMの上端に支持されるための第1マウンティングブラケット2aと、他側に変速機TMの上端に支持されるための第2マウンティングブラケット2bとを一体に備えており、サイドメンバーSMは、これを構成する内/外側パネル(IN/PNL、OUT/PNL)間の空間で第1マウンティングブラケット2aをネジ締結で固定支持するための円筒状のスペーサSを備えている。
【0014】
一方、サブフレームSFの前方部位でパワートレーンの前方側を支持するマウント3は、手動変速機が搭載される場合、単に荷重を支持する一般のブッシュ型マウントを適用すればよく、自動変速機が搭載される場合は、半能動マウント(SEMI−ACTIVE MTG)を適用して、アイドルの際、ロールモードを低下させてNVH性能に有利であるようにする。
半能動マウントは公知の技術で、既存のサンドイッチ型流体封入式マウントの内部に真空スイッチと2種の流路(オリフィス)を形成したものであり、真空スイッチは、マウント外部に加えられるソレノイドバルブによってエンジンの吸気側真空を供給または遮断して内部の真空スイッチをON/OFFに切り換える。
【0015】
この際、真空スイッチがONとなって真空が連結されると、アイドルに有利なようにインシュレーター特性値(Kd;同スプリング定数値)が小さくなって減殺力が小くなり、OFFとなると、走行性能に有利なように内部真空スイッチを閉めることで、インシュレーター特性値(Kd値)が大きくなって減殺力が増加する。
前記のような構成のパワートレーンマウンティングシステムにおいて、大型級のV6エンジンでない中型級のI4エンジンを搭載する場合は、それによるアイドルNVH性能の低下が発生するおそれがあるが、この場合には、マウント3、4に対するインシュレーター特性値のみを変化させて適用すれば、前記と同一性能を期待することができるので、車両においてプラットフォームの共用化をはかることができる。
【0016】
以上で、本発明に関する好ましい実施例を説明したが、本発明は前記実施例に限定されず、本発明の属する技術範囲を逸脱しない範囲での全ての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、4点支持の慣性主軸方式とほぼ類似した構成を有しながらも、中型級のI4エンジンと大型級のV6エンジンなど多様なエンジン仕様を有するプラットフォーム車両用に汎用的に適用され、優れたマウンティング特性を発揮することができるパワートレーンマウンティングシステムに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明による自動車のパワートレーンマウンティングシステムを示す概略斜視図である。
【図2】本発明によるパワートレーンマウンティングシステムの平面図である。
【図3】本発明によるパワートレーンマウンティングシステムの背面図である。
【図4】図1に示すエンジンマウントを拡大して示す斜視図である。
【図5】図1に示す変速機マウントを拡大して示す斜視図である。
【図6】図1に示す前方側マウントを拡大して示す斜視図である。
【図7】図1に示す後方側マウントを拡大して示す斜視図である。
【図8】図1に示す変速機マウントを示す斜視図である。
【図9】図1に示す変速機マウントを示す正面図である。
【図10】図1に示す変速機マウントを示す平面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 エンジンマウント
2 変速機マウント
3 前方側マウント
4 後方側マウント
20 ブリッジ
E エンジン
IN/PNL 内側パネル
OUT/PNL 外側パネル
S スペーサ
SF サブフレーム
SM サイドメンバー
TM 変速機
X 慣性主軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム内にエンジンと変速機を横方向に搭載するパワートレーンマウンティングシステムにおいて、
前記パワートレーンの慣性主軸上の車両側方に位置し、車体のサイドメンバーとエンジンとの間に取り付けられたエンジンマウントと、
前記パワートレーンの慣性主軸上の前記エンジンマウントの対向側に位置し、車体のサイドメンバーと変速機の上端間に設けられ、パワートレーンのロール挙動を制御する変速機マウントと、
前記パワートレーンの車両の前/後方にそれぞれ位置し、サブフレームとパワートレーン間に設けられた前/後方側マウントとからなり、
前記の前/後方側マウントがパワートレーンの荷重を支持する量が、前記エンジンマウントが支持する量より大きくなるようにし、前記変速機マウントは、パワートレーンの荷重を分担しないように、前記の前/後方側マウントとエンジンマウントおよび変速機マウントの前記サブフレームおよびサイドメンバーに対する相対装着高さおよびスプリング定数が設定されたことを特徴とする自動車のパワートレーンマウンティングシステム。
【請求項2】
前記前/後方側マウントがパワートレーンの荷重を支持する量はパワートレーンの総荷重の75%〜85%であり、
前記エンジンマウントがパワートレーンの荷重を支持する量はパワートレーンの総荷重の15%〜25%であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のパワートレーンマウンティングシステム。
【請求項3】
前記エンジンマウントのマウンティング軸は車体に対して上下方向に向かうように取り付けられ、前記変速機マウントの軸は車体に対して左右方向に向かうように取り付けられ、前記前/後方側マウントのマウンティング軸は車体に対して上下方向に向かうように取り付けられたことを特徴とする請求項1に記載の自動車のパワートレーンマウンティングシステム。
【請求項4】
前記変速機マウントのインシュレーター特性値は、前後方向の特性値が上下方向の特性値の1.2倍以上であり、左右方向の特性値が上下方向の特性値の0.5倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のパワートレーンマウンティングシステム。
【請求項5】
前記変速機マウントは、インナーパイプの軸が車両の横方向に配置され、前記インナーパイプからアウターパイプに向かって半径方向に形成された多数のブリッジと、一側に前記サイドメンバーの上端に支持されるための第1マウンティングブラケットと、他側に前記変速機の上端に支持されるための第2マウンティングブラケットとを一体に備えたことを特徴とする請求項4に記載の自動車のパワートレーンマウンティングシステム。
【請求項6】
前記サイドメンバーは、これを構成する内/外側パネル間の空間に前記第1マウンティングブラケットをネジ締結で固定支持するための円筒状のスペーサを備えたことを特徴とする請求項5に記載の自動車のパワートレーンマウンティングシステム。
【請求項7】
前記前方側マウントは、エンジンルーム内に取り付けられる変速機が手動であると、一般のブッシュ型マウントを適用し、自動であると、半能動マウントを適用することを特徴とする請求項1に記載の自動車のパワートレーンマウンティングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−176109(P2006−176109A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341280(P2005−341280)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【Fターム(参考)】