説明

自動車の車体前部構造

【課題】自動車の衝突時に、車体に与えられる荷重に基づき車体に与えられるエネルギーにつき、所望のエネルギー吸収量を吸収して、荷重を十分に緩和できるようにする。
【解決手段】サイドメンバ8の長手方向の中途部40と操舵時の前車輪4との接触を避けるよう中途部40の外側面に凹部41を形成する。サイドメンバ8にその前方から第1荷重Aが与えられたとき、サイドメンバ8の前部43が圧縮変形するようこのサイドメンバ8の前部43に変形促進部44を形成する。エプロンメンバ37とサイドメンバ8の中途部40とに架設され、これら37,40を互いに結合させる結合部材46を設ける。第1荷重Aよりも大きい第2荷重Bがサイドメンバ8の中途部40にその前方から与えられたとき、この中途部40が車体2の幅方向の内方Cに向けて屈曲変形するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車が前進中に衝突して、車体にその前方から荷重(衝撃力)が与えられるとき、この荷重により上記車体が前部側から後部側に向けて、経時的に順序よく所定の変形をするようにした自動車の車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記自動車の車体前部構造には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、自動車の車体前部は、この車体の長手方向に延びる左右一対のサイドメンバと、これら各サイドメンバよりも上方に配置されるエプロンメンバとを備えている。このエプロンメンバは、上記各サイドメンバの外側方に配置される前車輪用の懸架装置を支持している。上記各サイドメンバの長手方向の中途部と操舵時の上記前車輪との接触を避けるよう上記中途部の外側面に凹部が形成されている。上記サイドメンバにその前方から第1荷重が与えられたとき、この第1荷重により上記サイドメンバの前部が圧縮変形(塑性変形)するようこの変形を促進する変形促進部がこのサイドメンバの前部に形成されている。
【0003】
上記自動車が前進中に衝突して、上記サイドメンバにその前方から荷重が与えられるときには、上記変形促進部により上記サイドメンバの前部がその前端側から後端側に向けて圧縮変形させられる。すると、この変形により、上記衝突時の荷重に基づき車体に与えられようとする運動エネルギーが吸収される。これにより、上記荷重が緩和されるため、乗員に与えられる荷重が小さく抑制されて、この乗員が保護される。
【0004】
一方、上記左右サイドメンバの間には、走行用駆動源となるエンジンユニットが配置され、このエンジンユニットは、ブラケットにより上記各サイドメンバに支持されている。ここで、前記したように、各サイドメンバの中途部には凹部が形成されており、この凹部により上記中途部の強度は低下しがちである。そこで、上記各サイドメンバの中途部に上記ブラケットを固着させることにより、上記中途部が十分に補強されている。つまり、上記ブラケットにより、上記したサイドメンバの中途部の強度低下が補填されている。
【特許文献1】特開2000−289651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したように、自動車の衝突時には、サイドメンバの前部の圧縮変形により、上記衝突時の荷重に基づき車体に与えられようとするエネルギーが吸収される。
【0006】
しかし、前記したように、サイドメンバの中途部はエンジンユニット用のブラケットにより十分に補強されている。このため、上記サイドメンバの中途部が上記荷重により変形する、ということは防止される。よって、この荷重が大きい場合には、サイドメンバの変形による上記エネルギーの吸収量(EA量)が不足しがちになって、上記荷重の緩和が不十分になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、自動車の衝突時に、車体に与えられる荷重に基づき車体に与えられるエネルギーにつき、所望のエネルギー吸収量を吸収して、上記荷重を十分に緩和できるようにすることである。
【0008】
請求項1の発明は、車体2の長手方向に延びる左右一対のサイドメンバ8と、これら各サイドメンバ8よりも上方に配置されるエプロンメンバ37とを備え、このエプロンメンバ37が、上記各サイドメンバ8の外側方に配置される前車輪4用の懸架装置3を支持し、上記各サイドメンバ8の長手方向の中途部40と操舵時の上記前車輪4との接触を避けるよう上記中途部40の外側面に凹部41を形成し、上記サイドメンバ8にその前方から第1荷重Aが与えられたとき、上記サイドメンバ8の前部43が圧縮変形するようこのサイドメンバ8の前部43に変形促進部44を形成した自動車の車体前部構造において、
上記エプロンメンバ37と上記サイドメンバ8の中途部40とに架設され、これら37,40を互いに結合させる結合部材46を設け、上記第1荷重Aよりも大きい第2荷重Bが上記サイドメンバ8の中途部40にその前方から与えられたとき、この中途部40が車体2の幅方向の内方Cに向けて屈曲変形するようにしたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加えて、上記車体2の長手方向に沿った視線でみて(図4)、上記凹部41内面を、下方に向かうに従い車体2の幅方向の内方に向かうよう形成したものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1、もしくは2の発明に加えて、上記各サイドメンバ8の下方に配置され、これらサイドメンバ8の後部23における前、後取付部24,26に取り付けられるサブフレーム20を設け、上記サイドメンバ8の後部23にその前方から荷重が与えられたとき、この荷重により上記サイドメンバ8の後取付部26に対し上記サブフレーム20を離脱可能にする一方、上記第2荷重Bよりも大きい第3荷重Dが上記サイドメンバ8の後部23にその前方から与えられたとき、このサイドメンバ8における上記凹部41と前取付部24との間の部分55が上方Eに向けて屈曲変形するよう上記サイドメンバ8の部分に脆弱部56を形成したものである。
【0011】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による効果は、次の如くである。
【0013】
請求項1の発明は、車体の長手方向に延びる左右一対のサイドメンバと、これら各サイドメンバよりも上方に配置されるエプロンメンバとを備え、このエプロンメンバが、上記各サイドメンバの外側方に配置される前車輪用の懸架装置を支持し、上記各サイドメンバの長手方向の中途部と操舵時の上記前車輪との接触を避けるよう上記中途部の外側面に凹部を形成し、上記サイドメンバにその前方から第1荷重が与えられたとき、上記サイドメンバの前部が圧縮変形するようこのサイドメンバの前部に変形促進部を形成した自動車の車体前部構造において、
上記エプロンメンバと上記サイドメンバの中途部とに架設され、これらを互いに結合させる結合部材を設け、上記第1荷重よりも大きい第2荷重が上記サイドメンバの中途部にその前方から与えられたとき、この中途部が車体の幅方向の内方に向けて屈曲変形するようにしており、これによれば、次の効果が生じる。
【0014】
即ち、上記発明の自動車が前進中に衝突して、その車体のサイドメンバにその前方から第1荷重が与えられるときには、まず、上記変形促進部により上記サイドメンバの前部がその前端側から後端側に向けて圧縮変形させられ、この前部に所定の変形が得られる。
【0015】
ここで、上記したようにエプロンメンバは上記懸架装置を支持するものであって、強度と剛性とが大きいものである。そして、上記エプロンメンバとサイドメンバの中途部とは結合部材により互いに結合されている。これにより、上記サイドメンバの中途部は、上記結合部材を介しエプロンメンバにより補強されて上記サイドメンバの前部よりも強度と剛性とが高められる。
【0016】
このため、上記したようにサイドメンバの前部に第1荷重が与えられたとき、この第1荷重は上記サイドメンバの中途部にも作用するが、上記のように補強されたサイドメンバの中途部は上記第1荷重に対し大きい抵抗力で対抗して、この中途部が変形させられるということは、一旦防止される。
【0017】
上記衝突が進行して、上記第1荷重による上記サイドメンバの前部の圧縮変形がほぼ完了したとする。ここで、上記したように第1荷重に対するサイドメンバの中途部の抵抗力は上記前部よりも大きい。このため、上記衝突が更に進行すると、上記サイドメンバの中途部にその前方から与えられる荷重は上記第1荷重よりも大きい第2荷重となる。すると、この第2荷重により、上記凹部が形成されたサイドメンバの中途部は、上記したように車体の幅方向の内方に向けて屈曲変形させられ、上記中途部に所定の変形が得られる。
【0018】
上記の結果、車両が前進中に衝突して、車体にその前方から荷重が与えられるとき、この荷重により上記車体のサイドメンバの前部と、この前部の後側の中途部とは経時的にこの順序でそれぞれ所定の変形をすることとなる。このため、上記各変形により所望のエネルギー吸収量を得ることができて、上記荷重を十分に緩和させることができる。
【0019】
請求項2の発明は、上記車体の長手方向に沿った視線でみて、上記凹部内面を、下方に向かうに従い車体の幅方向の内方に向かうよう形成している。
【0020】
このため、上記サイドメンバの中途部における上部は幅寸法を大きいままに保つことができて、その強度と剛性とは下部のそれよりも大きくなる。よって、上記中途部の上部は上記結合部材やエプロンメンバと共に、上記第1荷重や第2荷重に対しより強固に対抗して、上記中途部が上方など意図しない方向に屈曲しようとすることが、より確実に防止される。この結果、上記中途部に所定の変形が、より確実に得られる。
【0021】
一方、上記中途部の下部の幅寸法は小さくできて、その強度と剛性は、より低く設定できる。このため、上記第2荷重による上記中途部の屈曲変形は、上記中途部の下部が変形を円滑に開始することによって迅速に誘発させられる。よって、上記した中途部の所定の変形は、タイミングよく得ることができる。
【0022】
請求項3の発明は、上記各サイドメンバの下方に配置され、これらサイドメンバの後部における前、後取付部に取り付けられるサブフレームを設け、上記サイドメンバの後部にその前方から荷重が与えられたとき、この荷重により上記サイドメンバの後取付部に対し上記サブフレームを離脱可能にする一方、上記第2荷重よりも大きい第3荷重が上記サイドメンバの後部にその前方から与えられたとき、このサイドメンバにおける上記凹部と前取付部との間の部分が上方に向けて屈曲変形するよう上記サイドメンバの部分に脆弱部を形成している。
【0023】
ここで、上記サイドメンバの後部は上記サブフレームにより補強されており、これにより、上記サイドメンバの後部は、上記中途部よりも強度と剛性とが高められる。
【0024】
このため、上記したようにサイドメンバの中途部に第2荷重が与えられたとき、この第2荷重は上記サイドメンバの後部にも作用するが、上記のように補強されたサイドメンバの後部は上記第2荷重に対し大きい抵抗力で対抗して、この後部が変形させられるということは、一旦防止される。
【0025】
上記衝突が進行して、上記第2荷重による上記サイドメンバの中途部の屈曲変形がほぼ完了したとする。ここで、上記したように第2荷重に対するサイドメンバの後部の抵抗力は上記中途部よりも大きい。このため、上記衝突が更に進行すると、上記サイドメンバの後部にその前方から与えられる荷重は上記第2荷重よりも大きい第3荷重となる。すると、この第3荷重により、上記脆弱部が形成されたサイドメンバの上記部分は、上記したように上方に向けて屈曲変形させられ、サイドメンバの後部に所定の変形が得られる。
【0026】
また、上記したように、サイドメンバの後部にその前方から何らかの荷重(第1荷重、第2荷重、第3荷重のうちのいずれかの荷重)が与えられたとき、上記サイドメンバの後取付部に対し上記サブフレームは離脱させられる。ここで、上記したように、特に第3荷重に基づきサイドメンバの部分が上方に向けて屈曲変形させられるとき、この屈曲変形に連動して上記前取付部に取り付けられている上記サブフレームの前部側が上記後取付部に対し上方移動させられる。このため、上記サブフレームと後取付部との互いの取付部は、上記サブフレームの前部側の上方移動によりこじられるなどして、上記取付部には大きい応力が生じ、より容易に破断可能とされる。よって、上記サイドメンバの後取付部に対するサブフレームの離脱は容易かつ円滑にさせることができる。
【0027】
そして、上記したように、サイドメンバ8の後取付部26に対し上記サブフレーム20は離脱させられるため、上記したサイドメンバの上記部分の上方に向けての屈曲変形は、上記サブフレームによって阻害されることなく、円滑に達成される。よって、上記サイドメンバの部分は、大きく屈曲変形すると同時に、上記第3荷重により後方に押されて上記屈曲変形が円滑に促進される。即ち、上記サイドメンバの後部に所定の変形がより確実に得られる。
【0028】
上記の結果、車両が前進中に衝突して、車体にその前方から荷重が与えられるとき、この荷重により上記車体のサイドメンバの前部と、この前部の後側の中途部と、この中途部の後側の後部とは経時的にこの順序でそれぞれ所定の変形をすることとなる。このため、上記各変形により所望のエネルギー吸収量を得ることができて、上記荷重を十分に緩和させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の自動車の車体前部構造に関し、自動車の衝突時に、車体に与えられる荷重に基づき車体に与えられるエネルギーにつき、所望のエネルギー吸収量を吸収して、上記荷重を十分に緩和できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0030】
即ち、自動車の車体の前部は、この車体の長手方向に延びる左右一対のサイドメンバと、これら各サイドメンバよりも上方に配置されるエプロンメンバとを備えている。このエプロンメンバは、上記各サイドメンバの外側方に配置される前車輪用の懸架装置を支持している。上記各サイドメンバの長手方向の中途部と操舵時の上記前車輪との接触を避けるよう上記中途部の外側面に凹部が形成されている。上記サイドメンバにその前方から第1荷重が与えられたとき、この第1荷重により上記サイドメンバの前部を圧縮変形させるようこの変形を促進する変形促進部がこのサイドメンバの前部に形成されている。
【0031】
上記エプロンメンバと上記サイドメンバの中途部とに架設され、これらを互いに結合させる結合部材が設けられる。上記第1荷重よりも大きい第2荷重が上記サイドメンバの中途部にその前方から与えられたとき、この中途部が車体の幅方向の内方に向けて屈曲変形するようにしている。
【実施例】
【0032】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0033】
図において、符号1は自動車で、矢印Frは、この自動車1の進行方向の前方を示している。
【0034】
上記自動車1は、板金製の車体2と、この車体2の前部にそれぞれ懸架装置3により操舵可能に懸架される左右一対の前車輪4と、上記車体2の前部にブラケット5により支持される走行駆動用のエンジンユニット6とを備え、上記懸架装置3と前車輪4とによって上記車体2の前部が走行面7上に支持されている。
【0035】
上記車体2の前部は、この車体2の長手方向に延びる左右一対のサイドメンバ8と、これら左右サイドメンバ8の前端部同士を互いに結合させるクロスメンバ9とを備えている。また、上記サイドメンバ8は、その前部側を構成して、ほぼ水平に延びる前水平メンバ11と、この前水平メンバ11の後端部から後下方の傾斜方向に向かって延びる傾斜メンバ12と、上記サイドメンバ8の後部側を構成して、上記前水平メンバ11よりも低く位置し、上記傾斜メンバ12の後端部からほぼ水平に延びる後水平メンバ13とを備えている。
【0036】
上記サイドメンバ8の前水平メンバ11は、車体2の長手方向に沿った視線でみて、断面が外側方に向かって開口するコの字形状のメンバ本体15と、このメンバ本体15の上、下端縁部から一体的に延出する上、下一対の外向きフランジ16,17と、上記メンバ本体15の開口を閉じるよう上記各外向きフランジ16,17にスポット溶接S1,S2により結合されて、これら両外向きフランジ16,17を互いに結合させる結合板18とを備えている。これにより、上記サイドメンバ8の前水平メンバ11は閉断面構造とされている。また、上記傾斜メンバ12と後水平メンバ13も、上記前水平メンバ11とほぼ同構成で閉断面構造とされている。
【0037】
上記車体2の前部は、上記各サイドメンバ8の下方に配置されるサブフレーム20を備えている。このサブフレーム20は、車体2の平面視で、左右サイドメンバ8に跨るように設けられるサブフレーム本体21と、このサブフレーム本体21の前端部から上方に突出する左右一対の取付アーム22とを備えている。これら各取付アーム22の突出端部は、上記各サイドメンバ8の後部23下面に形成される前取付部24に対し締結具25により取り付けられている。上記前取付部24は上記前水平メンバ11の後端部におけるメンバ本体15の下部に形成されている。
【0038】
一方、上記サブフレーム本体21の後端部は、上記各サイドメンバ8の上記後部23下面に形成される後取付部26に対し締結具27により取り付けられている。上記後取付部26は、上記傾斜メンバ12の本体側の後端部下面に溶接により固着される板金製の中空形状体である。上記後取付部26の下端部を構成する下面板の一部に上記締結具27のナットが溶接されている。上記後取付部26の下面に上記サブフレーム本体21の後端部が当接され、この後端部をその下方から貫通する上記締結具27のボルトが上記ナットに螺合されている。これにより、上記したように、サブフレーム本体21の後端部は、上記後取付部26に対し締結具27により取り付けられている。上記サブフレーム20は、上記左右サイドメンバ8を互いに結合するクロスメンバとして働く。
【0039】
上記車体2の前部は、上記各サイドメンバ8の外側方に配置される側壁29を備え、これら左右側壁29同士の間が車室30とされている。上記側壁29にドア開口31が形成されている。このドア開口31の下部開口縁はサイドシル32とされ、前部開口縁はフロントピラー33とされている。これらサイドシル32とフロントピラー33とは、いずれも強度と剛性とが大きい閉断面構造とされ、車体2の骨格部材とされている。上記サイドシル32の前端部とフロントピラー33の下端部とは、車体2の長手方向で、上記サイドメンバ8の傾斜メンバ12とほぼ同じところに位置し、この傾斜メンバ12に連結材34により強固に結合されている。
【0040】
上記各フロントピラー33の長手方向の中途部からそれぞれ前方に向かって強度と剛性が大きいエプロンメンバ37が突設されている。これら各エプロンメンバ37は上記各サイドメンバ8よりも上方に配置されている。これらサイドメンバ8とエプロンメンバ37とにサスペンションタワー38が架設されて強固に支持されている。前記前車輪4は上記サイドメンバ8の外側方に配置されている。そして、上記前車輪4は、前記懸架装置3により、上記サブフレーム20と、上記サスペンションタワー38、およびこのサスペンションタワー38を介し上記エプロンメンバ37とに支持される。
【0041】
上記各サイドメンバ8の前水平メンバ11における長手方向の中途部40と操舵時の前車輪4(図1中、一点鎖線)とが互いに接触することを避けるよう上記中途部40の外側面に凹部41が形成されている。上記車体2の長手方向に沿った視線でみて(図4)、上記凹部41の内面は、下方に向かうに従って車体2の幅方向の内方に向かうよう形成されている。これにより、上記サイドメンバ8の中途部40の上部の幅寸法は、下部よりも大きくされている。前記エンジンユニット6のブラケット5は、上記凹部41の後部に対応する上記各サイドメンバ8の前水平メンバ11上と、上記サブフレーム20とに支持されている。
【0042】
上記サイドメンバ8にその前方から第1荷重Aが与えられたとき、この第1荷重Aにより、上記サイドメンバ8の前水平メンバ11の前部43を圧縮変形(塑性変形)させるようこの変形を促進する変形促進部44が上記サイドメンバ8の前部43に形成されている。具体的には、上記変形促進部44は、縦方向と車体2の幅方向とに延びる複数のビードである。
【0043】
上記サイドメンバ8の中途部40の上部と上記エプロンメンバ37の突出部とに架設され、これら37,40を互いに結合させる結合部材46が設けられている。この結合部材46は、上記サイドメンバ8の中途部40を構成している上記結合板18の上端縁部から一体的に上方に向かって延出するアウタパネル47と、このアウタパネル47の内面側にスポット溶接S3により結合されて、このアウタパネル47の上端縁部よりも更に上方に向かって延出するインナパネル48とを備えている。
【0044】
上記インナパネル48の下端縁部は、上記中途部40の上側の外向きフランジ16と結合板18の上端縁部との間に挟まれて、前記スポット溶接S1により互いに結合されている。一方、上記インナパネル48の上端縁部は上記エプロンメンバ37の突出端縁部にスポット溶接S4により結合されている。上記インナパネル48は、上記アウタパネル47よりも板厚が大きくされている。また、上下方向における上記アウタパネル47とインナパネル48との各中途部47a,48aは閉断面構造とされている。これらにより、上記結合部材46の強度と剛性とが高められている。
【0045】
上記各サイドメンバ8の中途部40を補強する補強板51が設けられている。この補強板51は、上記サイドメンバ8の中途部40内で、この中途部40のメンバ本体15内面に接合されてスポット溶接S5により結合されている。また、上記補強板51の下端縁部は上記中途部40の下側の外向きフランジ17と結合板18の下端縁部との間に挟まれて、前記スポット溶接S2により互いに結合されている。
【0046】
上記補強板51の板厚は、上記サイドメンバ8の前水平メンバ11の各部のそれよりも大きくされており、かつ、上記補強板51の上下方向での中途部に上記中途部40の長手方向に延びるビード52が形成されている。これにより、上記サイドメンバ8の中途部40は、上記補強板51によって補強されている。
【0047】
上記第1荷重Aよりも大きい第2荷重Bが上記サイドメンバ8の中途部40にその前方から与えられたとき、この中途部40に形成された前記凹部41の存在により、この中途部40は、上記結合部材46と補強板51とを設けたことにかかわらず、車体2の幅方向の内方Cに向けて屈曲変形することとされている。
【0048】
上記第1荷重Aや第2荷重Bが上記サイドメンバ8に与えられたときでは、上記サイドメンバ8の前、後取付部24,26に対する上記サブフレーム20の取り付けは解除されないよう、この取り付けは強固になされている。一方、上記第2荷重Bよりも大きい第3荷重Dが、上記サイドメンバ8の後部23にその前方から与えられたときには、上記第3荷重Dにより上記サイドメンバ8の後取付部26に対し上記サブフレーム20の後端部が離脱可能とされている(図3中一点鎖線)。
【0049】
上記した第3荷重Dに基づく上記サイドメンバ8の後取付部26からのサブフレーム20の離脱は、例えば、上記第3荷重Dにより上記締結具27のボルトに剪断力や曲げ力や引張力が与えられてこのボルトが破断することにより達成される。また、上記離脱は、例えば、上記締結具27のナットを溶接した上記後取付部26の下面板の一部が、上記第3荷重Dによりこの後取付部26の他部から引きちぎられることにより達成される。なお、サイドメンバ8の後取付部26からの上記サブフレーム20の離脱は、上記第1荷重Aもしくは第2荷重Bに基づくものであってもよい。
【0050】
上記補強板51は、上記サイドメンバ8の長手方向で、このサイドメンバ8における上記前取付部24と凹部41との間の部分55に位置させられている。上記補強板51の後下部には切り欠きが形成され、この切り欠きは、上記部分55における下部側の強度を局部的に低下させるための脆弱部56とされている。そして、上記サイドメンバ8の後部23にその前方から上記第3荷重Dが与えられたとき、上記サイドメンバ8の部分55における上記脆弱部56の存在により、上記部分55は上方Eに向けて屈曲変形させられるようになっている。
【0051】
上記構成において、自動車1が前進中に衝突して、その車体2のサイドメンバ8にその前方から第1荷重Aが与えられるときには、まず、上記変形促進部44により上記サイドメンバ8の前部43がその前端側から後端側に向けて圧縮変形させられ、この前部43に所定の変形が得られる。
【0052】
ここで、上記したようにエプロンメンバ37は上記懸架装置3を支持するものであって、強度と剛性とが大きいものである。そして、上記エプロンメンバ37とサイドメンバ8の中途部40とは結合部材46により互いに結合されており、更に、上記中途部40に補強板51が結合されている。これにより、上記サイドメンバ8の中途部40は、上記結合部材46を介しエプロンメンバ37により補強されると共に、上記補強板51によっても補強され、上記サイドメンバ8の前部43よりも強度と剛性とが高められる。
【0053】
このため、上記したようにサイドメンバ8の前部43に第1荷重Aが与えられたとき、この第1荷重Aは上記サイドメンバ8の中途部40にも作用するが、上記のように補強されたサイドメンバ8の中途部40は上記第1荷重Aに対し大きい抵抗力で対抗して、この中途部40が変形させられるということは、一旦防止される。
【0054】
上記衝突が進行して、上記第1荷重Aによる上記サイドメンバ8の前部43の圧縮変形がほぼ完了したとする。ここで、上記したように第1荷重Aに対するサイドメンバ8の中途部40の抵抗力は上記前部43よりも大きい。このため、上記衝突が更に進行すると、上記サイドメンバ8の中途部40にその前方から与えられる荷重は上記第1荷重Aよりも大きい第2荷重Bとなる。すると、この第2荷重Bにより、上記凹部41が形成されサイドメンバ8の中途部40は、上記したように車体2の幅方向の内方Cに向けて屈曲変形させられ、上記中途部40に所定の変形が得られる。
【0055】
上記の結果、車両1が前進中に衝突して、車体2にその前方から荷重が与えられるとき、この荷重により上記車体2のサイドメンバ8は前部43と、この前部43の後側の中途部40とは経時的にこの順序でそれぞれ所定の変形をすることとなる。このため、上記各変形により所望のエネルギー吸収量を得ることができて、上記荷重を十分に緩和させることができる。
【0056】
なお、上記第2荷重Bの一部は、上記結合部材46に与えられるため、この結合部材46が上記第2荷重Bによってわずかながらでも圧縮や曲げ変形するようにしておけば、その分、上記エネルギー吸収量をより大きくすることができる。
【0057】
また、前記したように、車体2の長手方向に沿った視線でみて(図4)、上記凹部41内面を、下方に向かうに従い車体2の幅方向の内方に向かうよう形成している。
【0058】
このため、上記サイドメンバ8の中途部40における上部は幅寸法を大きいままに保つことができて、その強度と剛性とは下部のそれよりも大きくなる。よって、上記中途部40の上部は、この上部に結合された上記結合部材46やエプロンメンバ37と共に、上記第1荷重Aや第2荷重Bに対しより強固に対抗して、上記中途部40が上方など意図しない方向に屈曲しようとすることが、より確実に防止される。この結果、上記中途部40に所定の変形が、より確実に得られる。
【0059】
一方、上記中途部40の下部の幅寸法は小さくできて、その強度と剛性は、より低く設定できる。このため、上記第2荷重Bによる上記中途部40の屈曲変形は、上記中途部40の下部が変形を円滑に開始することによって迅速に誘発させられる。よって、上記した中途部40の所定の変形は、タイミングよく得ることができる。
【0060】
また、前記したように、各サイドメンバ8の下方に配置され、これらサイドメンバ8の後部23における前、後取付部24,26に取り付けられるサブフレーム20を設け、上記サイドメンバ8の後部23にその前方から荷重が与えられたとき、この荷重により上記サイドメンバ8の後取付部26に対し上記サブフレーム20を離脱可能にする一方、上記第2荷重Bよりも大きい第3荷重Dが上記サイドメンバ8の後部23にその前方から与えられたとき、このサイドメンバ8における上記凹部41と前取付部24との間の部分55が上方Eに向けて屈曲変形するよう上記サイドメンバ8の部分に脆弱部56を形成している。
【0061】
ここで、上記サイドメンバ8の後部23は上記サブフレーム20により補強されており、これにより、上記サイドメンバ8の後部23は、上記中途部40よりも強度と剛性が高められる。
【0062】
このため、上記したようにサイドメンバ8の中途部40に第2荷重Bが与えられたとき、この第2荷重Bは上記サイドメンバ8の後部23にも作用するが、上記のように補強されたサイドメンバ8の後部23は上記第2荷重Bに対し大きい抵抗力で対抗して、この後部23が変形させられるということは、一旦防止される。
【0063】
上記衝突が進行して、上記第2荷重Bによる上記サイドメンバ8の中途部40の屈曲変形がほぼ完了したとする。ここで、上記したように第2荷重Bに対するサイドメンバ8の後部23の抵抗力は上記中途部40よりも大きい。このため、上記衝突が更に進行すると、上記サイドメンバ8の後部23にその前方から与えられる荷重は上記第2荷重Bよりも大きい第3荷重Dとなる。すると、この第3荷重Dにより、上記脆弱部56が形成されたサイドメンバ8の上記部分55は、上記したように上方Eに向けて屈曲変形させられ、サイドメンバ8の後部23に所定の変形が得られる。
【0064】
また、上記したように、サイドメンバ8の後部23にその前方から何らかの荷重(第1荷重A、第2荷重B、第3荷重Dのうちのいずれかの荷重)が与えられたとき、上記サイドメンバ8の後取付部26に対し上記サブフレーム20は離脱させられる。
【0065】
具体的には、上記第3荷重Dが与えられることにより、上記サイドメンバ8の後部23の前部側が後方に向けて圧縮変形したとする。すると、この変形に、上記サブフレーム20の各取付アーム22が連動して、このサブフレーム20が上記サイドメンバ8の後部23の後取付部26に対し相対的に後方移動させられる。このため、上記第3荷重Dに基づき上記後取付部26における締結具27のボルトに剪断力が与えられる。
【0066】
しかも、前記したように、脆弱部56の存在により上記第3荷重Dに基づき上記サイドメンバ8の部分55は後方かつ上方Eに向けて屈曲変形させられる。このため、この屈曲変形に連動して、上記部分55の後側に隣接している上記前取付部24は、その前端側が後端側よりも大きく後上方に向かって回動するよう変形させられる。すると、この前取付部24に取り付けられている上記サブフレーム20の前部側は上記後取付部26に対し後上方に移動させられる。
【0067】
ここで、前記したように、サブフレーム20のサブフレーム本体21の後端部は、上記サイドメンバ8の後部23下面に形成された後取付部26に取り付けられており、この後取付部26は上記サイドメンバ8の後部23の後部側と共に上記各荷重によっては変形し難い部分とされている。このため、上記締結具27を含む上記後取付部26とサブフレーム20との互いの取付部は、上記したサブフレーム20の前部側の後上方への移動によりこじられて、特に、上記締結具27のボルトには剪断力、曲げ力、および引張力による複合力が同時に与えられる。
【0068】
このため、上記ボルトに与えられる上記複合力により、このボルトには大きい応力が生じ、より容易に破断させられる。よって、上記サイドメンバ8の後取付部26に対し上記サブフレーム20は容易かつ円滑に離脱させられる。
【0069】
そして、上記したように、サイドメンバ8の後取付部26に対し上記サブフレーム20は上記第3荷重Dに基づき容易かつ円滑に離脱させられるため、上記第3荷重Dに基づく上記サイドメンバ8の部分55の上方Eに向けての屈曲変形は、上記サブフレーム20によって阻害されることなく、円滑に達成される。よって、上記サイドメンバ8の部分55は大きく屈曲変形すると同時に、上記第3荷重Dにより後方に押されて上記屈曲変形が円滑に促進される。即ち、上記サイドメンバ8の後部23に所定の変形がより確実に得られる。
【0070】
上記の結果、車両1が前進中に衝突して、車体2にその前方から荷重が与えられるとき、この荷重により上記車体2のサイドメンバ8は前部43と、この前部43の後側の中途部40と、この中途部40の後側の後部23とは経時的にこの順序でそれぞれ所定の変形をすることとなる。このため、上記各変形により所望のエネルギー吸収量を得ることができて、上記荷重を十分に緩和させることができる。
【0071】
一方、上記したように、サイドメンバ8の各部はそれぞれ所定の変形がなされるが、上記エプロンメンバ37は、それ自身の強度と剛性とにより変形が防止される。このため、このエプロンメンバ37にサスペンションタワー38を介し支持される懸架装置3に対し、上記各荷重A,B,Dに基づく悪影響が与えられることは抑制される。
【0072】
なお、以上は図示の例によるが、サイドメンバ8の前部43は中途部40とは別体に設けてもよい。また、上記前部43の前面にこの前部43と同構成のクラッシュボックスを別途に取り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】車体前部の簡略部分平面図である。
【図2】車体前部の部分斜視図である。
【図3】車体前部を車室側からみた簡略側面図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】図3のV−V線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0074】
1 自動車
2 車体
3 懸架装置
4 前車輪
5 ブラケット
6 エンジンユニット
8 サイドメンバ
20 サブフレーム
23 後部
24 前取付部
25 締結具
26 後取付部
27 締結具
37 エプロンメンバ
40 中途部
41 凹部
43 前部
44 変形促進部
46 結合部材
51 補強板
55 部分
56 脆弱部
A 第1荷重
B 第2荷重
C 内方
D 第3荷重
E 上方
S1−S5 スポット溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の長手方向に延びる左右一対のサイドメンバと、これら各サイドメンバよりも上方に配置されるエプロンメンバとを備え、このエプロンメンバが、上記各サイドメンバの外側方に配置される前車輪用の懸架装置を支持し、上記各サイドメンバの長手方向の中途部と操舵時の上記前車輪との接触を避けるよう上記中途部の外側面に凹部を形成し、上記サイドメンバにその前方から第1荷重が与えられたとき、上記サイドメンバの前部が圧縮変形するようこのサイドメンバの前部に変形促進部を形成した自動車の車体前部構造において、
上記エプロンメンバと上記サイドメンバの中途部とに架設され、これらを互いに結合させる結合部材を設け、上記第1荷重よりも大きい第2荷重が上記サイドメンバの中途部にその前方から与えられたとき、この中途部が車体の幅方向の内方に向けて屈曲変形するようにしたことを特徴とする自動車の車体前部構造。
【請求項2】
上記車体の長手方向に沿った視線でみて、上記凹部内面を、下方に向かうに従い車体の幅方向の内方に向かうよう形成したことを特徴とする請求項1に記載の自動車の車体前部構造。
【請求項3】
上記各サイドメンバの下方に配置され、これらサイドメンバの後部における前、後取付部に取り付けられるサブフレームを設け、上記サイドメンバの後部にその前方から荷重が与えられたとき、この荷重により上記サイドメンバの後取付部に対し上記サブフレームを離脱可能にする一方、上記第2荷重よりも大きい第3荷重が上記サイドメンバの後部にその前方から与えられたとき、このサイドメンバにおける上記凹部と前取付部との間の部分が上方に向けて屈曲変形するよう上記サイドメンバの部分に脆弱部を形成したことを特徴とする請求項1、もしくは2に記載の自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−87675(P2008−87675A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272240(P2006−272240)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】