説明

自動車用駆動装置

【課題】ハイブリッド自動車で電気自動車として走行する場合に、2個のM/Gの同時駆動を可能にして、より小さい容量のM/Gで済ませる。
【解決手段】入力軸10と、出力軸12と、動力分割が可能な動力分割遊星歯車組20と、第1M/G56と、第2M/G58と、を備え、入力軸10は第1リングギヤ24と連結可能であり、出力軸12は第1キャリア28と連結し、第1M/G56は第1サンギヤ22と連結し、第2M/G58は出力軸12および第1リングギヤ24と、それぞれ連結可能であり、第2M/G58が出力軸12を駆動する動力伝達経路に第2ワンウエイクラッチ74と、該第2ワンウエイクラッチ74と並行して機械的連結・解除手段52aを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電気モーターの2種類の動力源を有する、いわゆるハイブリッド自動車の駆動装置に関し、特にエンジンより入力される動力を、遊星歯車を介して出力軸へ伝達可能で、複数のモーターを備えた自動車用駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車用駆動装置としては、2個のモーター・ジェネレーター(以下、M/Gと記す)、2組の遊星歯車組を備え、電気的無段変速機としてハイブリッド駆動する例が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,478,705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、2個のモーター・ジェネレーター(以下、M/Gと記す)、2組の遊星歯車組を備え、電気的無段変速機としてハイブリッド駆動する上記従来の自動車用駆動装置にあっては、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、電気自動車と同じような走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、せっかく2個のM/Gを備えているにもかかわらず、両M/Gを有効活用できず、これによる強力な駆動力を得ることができないという問題があった。
【0005】
解決しようとする問題点は、バッテリーの電力のみを動力源として電気自動車と同じ走行をする場合に、1個のM/Gでしか駆動することができず、このため、大きな駆動力を発揮するには大きな容量のM/Gが必要となる点である。
本発明の目的は、2個のM/Gを備えたハイブリッド自動車にあって、電気自動車として走行する場合に同時に2個のM/Gを使った駆動を可能にし、これにより、より小さい容量のM/Gの適用で済ませることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車用駆動装置は、エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、出力軸と、第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する第1遊星歯車で構成され、動力分割が可能な動力分割遊星歯車組と、第1モーター・ジェネレーターと、第2モーター・ジェネレーターと、を備え、入力軸は第1リングギヤと連結するか、または連結可能であり、出力軸は第1キャリアと連結し、第1モーター・ジェネレーターは第1サンギヤと連結し、第2モーター・ジェネレーターは出力軸および第1リングギヤと、それぞれ連結可能であり、第2モーター・ジェネレーターが出力軸を駆動する動力連結・解除経路に第2ワンウエイクラッチと、該第2ワンウエイクラッチと並列に機械的伝達手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の自動車用駆動装置は、ハイブリッド自動車(HV)用でありながら、バッテリーのみを動力源とした電気自動車(EV)走行において2個のM/Gで同時駆動することができる。したがって、2個のM/Gの合計容量を小さくして、コスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】図2のB−B線に沿って切断した拡大断面図である。
【図4】図2のC−C線に沿って切断した断面図である。
【図5】実施例1の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図6】本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図7】実施例2の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図8】本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図9】図8のG部の拡大断面図である。
【図10】図9のH−H線に沿って切断した断面図である。
【図11】実施例3の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図12】本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図13】実施例4の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図14】本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図15】本発明の実施例6に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図16】本発明の実施例7に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【図17】実施例7の自動車用駆動装置における作動表を示す図である。
【図18】本発明の実施例8に係る自動車用駆動装置の主要部を示したスケルトン図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る自動車用駆動装置を、各実施例に基づき図とともに説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
実施例1の自動車用駆動装置は、エンジン1から駆動される入力軸10と、該入力軸10と同軸心上に設けられた出力軸12を備えている。出力軸12は図示しない差動装置などを介して自動車の車輪を駆動する。
入力軸10と出力軸12との間には、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30、第3遊星歯車組40の3つの遊星歯車組が配置してある。第1遊星歯車組20と、第2遊星歯車組30と、第3遊星歯車組40は、いずれも一般的にシングルピニオン型と呼ばれるもので、それぞれが同様の構成になっている。
【0011】
すなわち、第1遊星歯車組20は、第1サンギヤ22と、第1リングギヤ24と、第1サンギヤ22および第1リングギヤ24に噛み合った複数の第1ピニオン26を回転自在に軸支する第1キャリア28と、の3つの回転要素で構成され、本発明の動力分割遊星歯車組を構成する。
また、第2遊星歯車組30は、第2サンギヤ32と、第2リングギヤ34と、第2サンギヤ32および第2リングギヤ34に噛み合った複数の第2ピニオン36を回転自在に軸支する第2キャリア38と、の3つの回転要素で構成され、本発明の入力変速歯車群を構成する。
同様に第3遊星歯車組40は、第3サンギヤ42と、第3リングギヤ44と、第3サンギヤ42および第3リングギヤ44に噛み合った複数の第3ピニオン46を回転自在に軸支する第3キャリア48と、の3つの回転要素で構成され、本発明の減速歯車を構成する。
【0012】
次に、上記各回転要素と他の回転メンバーとの連結関係を説明する。
入力軸10は、第2キャリア38と連結している。
第2サンギヤ32はブレーキ50によりケース(静止部)52に固定可能であるとともに、第1ワンウエイクラッチ54により一方の回転方向にのみにおいて第2リングギヤ34と連結可能である。また第2リングギヤ34は第1リングギヤ24と連結している。
第1サンギヤ22は第1M/G56と連結している。
第1キャリア28は第3キャリア48と連結するとともに出力軸12と連結している。
第3サンギヤ42は第2M/G58と連結するとともに、クラッチ60と第2リングギヤ34を介して第1リングギヤ24と連結可能である。
第3リングギヤ44は第2ワンウエイクラッチ74を介して一方の回転方向にのみにおいてケース52に固定可能であるとともに、回転方向に関わらず固定装置52aにより機械的に固定可能である。固定装置52aは本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
すなわち、第3リングギヤ44の外周に形成したドッグ歯溝44aに固定装置52aを係合することにより、第3リングギヤ44をケース52に固定することができる。
また、第2ワンウエイクラッチ74は、第3リングギヤ44のエンジン1の回転方向と逆方向の回転を阻止するようになっている。
【0013】
ここで、前述の第1ワンウエイクラッチ54は本発明の第1締結要素を、またブレーキ50は本発明の第2締結要素を、それぞれ構成する。また、第1ワンウエイクラッチ54およびブレーキ50は、これらを同時締結することで第1リングギヤをケース52に固定する本発明の固定手段をも構成する。
【0014】
なお、第1ワンウエイクラッチ54は、第2サンギヤ32が第1リングギヤ24に対してエンジン1の回転方向と同じ方向に相対回転するのを係止(係合)するようになっているもので、本実施例では周知の機械式のものを用いるが、油圧多板式クラッチで締結・開放制御するものなどでもよい。
したがって、入力軸10と連結した第2キャリア38がエンジン1に駆動され、ブレーキ50が解放されていて第2サンギヤ32がエンジン1の回転方向と同じ方向回転しようとすると第1ワンウエイクラッチ54により第1リングギヤ24に係止され、第2遊星歯車組30が一体になる。
【0015】
これとは逆に、第2リングギヤ34がエンジン1の回転方向と逆の方向に回転しようとした場合も、第2サンギヤ32との間で第1ワンウエイクラッチ54が係合して、第2遊星歯車組30が一体になる。
また、第1ワンウエイクラッチ54は上記に限らず、第2キャリア38と第2サンギヤとの間、または第2キャリア38と第2サンギヤ32との間に設けても同様の機能を果たすことができる。
ここで、固定装置52aを解除する場合の作動を、図2乃至図4とともに説明する。
なお、以下の説明ではエンジン1の回転方向と同じ方向の回転を「正回転」、その逆を「逆回転」と定義する。
【0016】
一般にワンウエイクラッチと並行して機械的な噛み合いを設けると、機械的な噛み合いを解除するのに大きな力が必要になるとともに、噛み合いが外れる瞬間に衝撃が生じることがある。
すなわち、対象物(この場合は第3リングギヤ44)に作用するトルクを、一方の回転方向はでワンウエイクラッチで受け、他方の回転方向では機械的な噛み合いで受けると、機械的な噛み合いで受けた後に対象物に作用するトルクがなくなっても、ワンウエイクラッチと機械的な噛み合いの両者間でトルクが残留することになる。
【0017】
このため、機械的な噛み合いを解除する際に、その残留トルクに抗して外す必要があるからである。以下の説明はその解除を容易にするための構成と作用である。
図2は図1のA部の断面を示す拡大図であり、図3は図2のB−B線に沿って切断した断面を示す拡大図である。また、図4は図2のC−C線に沿って切断した断面を示す図である。
【0018】
図2において、第3リングギヤ44の外周には固定装置52aが係合するドッグ歯溝44aと第2ワンウエイクラッチ74のスプラグ74aが接する外周面44b、が形成されている。なお、図2は、図4のように固定装置52aの歯52eがドッグ歯溝44aに係合している状態を示す。
図4において、第3リングギヤ44の外周に形成されたドッグ歯溝44aに、固定装置52aの内側に形成された歯52eが噛み合っている。固定装置52aは、ケース52にピン52dによって係止されており、ピン52dを中心に揺動可能である。したがって、図4の状態から固定装置52aが時計回り方向に揺動するとドッグ歯溝44aとの噛み合いが外れる。
【0019】
第2ワンウエイクラッチ74は、第3リングギヤ44とアウターリング74bとの間に楔作用をするスプラグ74aがあり、第3リングギヤ44が正回転するのは自由であるが、逆回転するのをスプラグ74aの楔作用で阻止する。
図2、図3に見るように、アウターリング74bの外側に形成されたスプライン歯74cがケース52に形成されたスプライン溝52cに係合している。スプライン歯74cとスプライン溝52cとの間にはスプリング72が挿入されているとともに、回転方向に「D」で示す回転量の遊びがある。
【0020】
スプリング72は板バネであり、本発明の弾性体を構成する。スプリング72は、図2に示すリング部72aがアウターリング74bに対応したリング状になっている。リング部72aの半径方向最外部分からスプライン溝52cとスプライン歯74cの径方向の隙間に外周部分72bが入り込み、図3に見るように外周部分72bの一端側部分から半径方向内側方向に曲げられた舌部72cが、スプライン歯74cを回転方向に押圧するように形成されている。
【0021】
そのため、舌部72cの弾性でスプライン歯74cがスプライン溝52cの左側(反時計回り方向)へ寄せられている。そして、第2ワンウエイクラッチ74が第3リングギヤ44の逆回転を阻止する際には、舌部72cをたわませて遊びDを詰めるようになっている。
【0022】
図4のように、固定装置52aの互いに噛み合っているドッグ歯溝44aと歯52eの間にも回転方向に若干の遊び(隙間)が存在するとともに、ドッグ歯溝44aと歯52eの歯面形状や、ドッグ歯溝44aの先端の面取りEや歯52eの先端の面取りFなどの影響で、両者が噛み合う際や、これを解除する際に第3リングギヤ44が僅かに回転する。この回転量を上述の回転量Dに相当する値として「G」と定義する。
この両者が噛み合った状態で第3リングギヤ44にトルクが作用して、それが正回転方向であれば固定装置52aによって回転を阻止され、逆回転方向であった場合に第2ワンウエイクラッチ74がこれを阻止する。
【0023】
このため、正回転方向のトルクが作用して固定装置52aによって回転を阻止された後に、固定装置52aの噛み合いを解除するには第3リングギヤ44が逆回転方向に最大、回転量Gだけ回転すれば、噛み合いがスムーズに外れることができる。
したがって、回転量Dを回転量Gより大きく設定しておくことにより、固定装置52aを揺動させて歯52eがドッグ歯溝44aから外れる際に、舌部72cの弾性力に打ち勝つだけの力があればよく、衝撃も起きない。
【0024】
次に、図1に示した自動車用駆動装置の作動を、図5に示した作動表を参考にしながら説明する。
図5の作動表において、縦方向にこれから説明する走行モードと各駆動モードを割り当て、横方向にはブレーキなどの締結要素とM/Gをそれぞれ割り当ててある。すなわち、クラッチ60を「C」、ブレーキを「B」、固定装置52aを「L」、第1ワンウエイクラッチ54を「OWC1」、第2ワンウエイクラッチ74を「OWC2」、第1M/G56を「M/G1」、第2M/G58を「M/G2」とした。
【0025】
表中の○印はクラッチ60などの締結要素にあっては締結・係合を表し、第1M/G56、第2M/G58にあっては駆動を表し、△印は第1M/G56、第2M/G58において発電を表している。また、第1M/G56、第2M/G58における−印は停止可能であることを表す。
【0026】
なお、図示は省略するが図1に示した自動車用駆動装置は、これを作動させるため、必要に応じて油圧ポンプ、バッテリー、各種センサ、コントローラー、アクチュエーターなどを備えており、以下の作動はコントローラーの指示に基づいて行われる。
さらに、各遊星歯車組の歯数比(サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)を、第1遊星歯車組20にあってはα1、第2遊星歯車組30にあってはα2、第3遊星歯車組40にあってはα3とする。
【0027】
始めに、バッテリーに蓄えた電力のみを動力源として、電気自動車(EV)として走る、EV走行について説明する。
EV走行は、前進のE−1モード乃至E−4モードと、後進のE−Rモードの、計5種類の駆動モードがある。
E−1モードは、第2M/G58のみを使った駆動である。つまり、第3リングギヤ44が第2ワンウエイクラッチ74により逆回転方向の回転を阻止されているので、第2M/G58が第3サンギヤ42を正回転方向に駆動することで出力軸12と連結した第3キャリア48を減速駆動する。
この場合の出力トルクToは、第2M/G58のトルクをT2とした場合、T2(1+α3)/α3である。このとき第1M/G56は停止していることができる。
【0028】
次に、E−2モードは、本発明の第2締結要素であるブレーキ50の締結と、本発明の第1締結要素である第1ワンウエイクラッチ54の締結により行う。これにより、第2遊星歯車組30は一体になってケース52に固定されるので、第1M/G56が第1遊星歯車組20を介して出力軸12を減速駆動する。
この場合の出力トルクToは、第1M/G56のトルクをT1とした場合、T1(1+α1)/α1である。このとき第2ワンウエイクラッチ74の係合は自動的に解除されるので、第3リングギヤ44は正回転可能であり、第2M/G58は停止していることができる。
【0029】
次に、E−3モードは、ブレーキ50を締結し第2ワンウエイクラッチ74が係合することで駆動する。この場合、第1ワンウエイクラッチ54も自動的に締結され、上記のE−1モードとE−2モードを合わせた駆動になる。したがって、この場合の出力トルクToは、T1(1+α1)/α1+T2(1+α3)/α3である。
【0030】
次に、E−4モードは、ブレーキ50を解除してクラッチ60を締結して駆動する。
これにより、第2M/G58が第1リングギヤ24と連結されるので、出力軸12は第1M/G56と第2M/G58とにより協調して駆動されるようになる。この場合の出力トルクToは、T1+T2である。
したがって、いずれも減速駆動のE−1モード乃至E−3モードは、低速から中速の走行に適し、E−4モードは高速走行に適している。特にE−1モード乃至E−3モードは自動車の走行負荷などに応じて自由に切り替えて駆動することができる。
また、E−1モード乃至E−3モードは、第1M/G56と第2M/G58の容量を異なるものとした場合、それぞれの単独での駆動と、両方同時の駆動の計3種類の容量のM/Gで減速駆動できるので、自動車の走行負荷などに応じた最適の駆動モードの選択ができる。
【0031】
次にEV走行で後進するE−Rモードについて説明する。
E−Rモードは、固定装置52aを係合することで第3リングギヤ44をケース52に固定するとともに、クラッチ60を締結する。
これにより、第1M/G56と第2M/G58の両者による後進駆動が可能である。
E−Rモードの出力軸トルクは、−(T1/α1+T2){(1+α3)/α3}+T1(1+α1)/α1である。
【0032】
続いて、前進走行中においてエンジン1が停止した状態で、第1M/G56と第2M/G58のいずれも駆動せずに惰行するか、あるいはいずれかが発電して自動車を制動する作用について説明する。この走行は作動表のEB欄に記載してある。
【0033】
EB走行はE−4モードと同じ締結関係であり、第1M/G56と第2M/G58の両方での発電を行う。この場合の出力トルクも、発電と駆動の違いはあるが、E−4モードと同様である。B−1モードは高速走行から低速まで幅広い走行をカバーし、制動力の制御も自由度が高い。
EB走行で発電した電力は、バッテリーに蓄えて次の加速等に使うことにより、いわゆるエネルギー回生を行って自動車の電力消費を少なくする。
【0034】
次に、エンジン1を始動して第1M/G56と第2M/G58の両者を併用して走行するハイブリッド自動車(HV)として走る、HV走行について説明する。
HV走行は、バッテリーの充電量が少なくなった場合の一般走行や、EV走行では得られない大きな駆動力を要する加速または登坂、および高速走行等において用いる。
【0035】
始めにエンジン1の始動について説明する。
自動車が停止中または低速走行中のエンジン1の始動は、ブレーキ50を締結した上で、第1M/G56に電力を供給して逆回転させる。これにより第1遊星歯車組20の作用で第1リングギヤ24と第2リングギヤ34が正回転し、第2遊星歯車組30の作用で第2キャリア38が減速駆動され、これと連結したエンジン1が正回転する。そこで、燃料供給や点火動作などの一般的な方法でエンジン1が始動する。
このエンジン1の始動中に、第1M/G56による駆動で第1キャリア28に逆回転方向のトルクが作用するので、これによる自動車の後進を防ぐために第2M/G58に正回転方向のトルクを出させる。
むろん、第2M/G58の駆動によるE−1モードで前進駆動中に、第1M/G56による駆動でエンジン1を始動することができる。
【0036】
また、自動車が一定速以上の速度で走行中のエンジン1の始動にあっては、上記のEB走行にして、第2リングギヤ34が正回転しているので、ブレーキ50で第2サンギヤ32を制動することでエンジン1を減速回転させて行う。このとき、ブレーキ50は締結(第2サンギヤ32の固定)ではなく、制動力の付与(第2サンギヤ32の制動回転)でよい。
【0037】
エンジン1が始動した後は、自動車の速度等に応じてH−1モード(HV走行での低速モード)乃至H−2モード(同、中速モード)へ移行する。
はじめに、H−1モードは第1ワンウエイクラッチ54と第2ワンウエイクラッチ74の係合で駆動する。すなわち、エンジン1により入力軸10が正回転すると、第1ワンウエイクラッチ54の係合で第2遊星歯車組30が入力軸10と一体になって、第1リングギヤ24を駆動する。
第1リングギヤ24は第1遊星歯車組20において出力軸12と一体の第1キャリア28を減速駆動するとともに、その反力トルクで第1M/G56を逆回転させ発電させる。すなわち、ここでエンジン1のトルクは第1キャリア28を機械的に減速駆動するトルクと第1M/G56に発電させるトルクとに分割される。
【0038】
そして、第1M/G56が発電した電力を第2M/G58に供給してE−1モードと同様に第3遊星歯車組40を介して出力軸12を減速駆動する。このとき、出力軸12のトルクToは、T1(1+α1)/α1+T2(1+α3)/α3であり、他方エンジン1のトルクをTeとすると、To=Te(1+α1)+T2(1+α3)/α3でもある。
H−1モードにおいて車速が上昇していくと、第1サンギヤ22とともに第1M/G56がごく低速回転になって発電効率が悪い運転域になるので、そうなる前にH−2モードへ切り替える。
【0039】
H−2モードは、ブレーキ50を締結することで駆動する。これにより、H−1モードにおいて入力軸10と同じ回転速度であった第1リングギヤ24が、第2遊星歯車組30によって増速駆動されるようになる。
したがって、出力軸12の回転速度を切り替え前と同じとした場合、第1サンギヤ22と第1M/G56の回転速度が上昇し、上記の発電効率が悪い運転域から脱する結果、動力伝達効率が向上する。
このとき、出力軸12のトルクToは、T1(1+α1)/α1+T2(1+α3)/α3であり、他方エンジン1のトルクをTeとすると、To=Te(1+α1)/(1+α2)+T2(1+α3)/α3でもある。
【0040】
続いてH−3モードは、ブレーキ50の締結を解除してクラッチ60を締結する結果、エンジン1により入力軸10が正回転すると、第1ワンウエイクラッチ54の作用で、第2遊星歯車組30が入力軸10と一体になって第2M/G58および第1リングギヤ24を駆動する。
このとき、エンジン1のトルクTeは第2M/G58を駆動するトルクと第1リングギヤ24を駆動するトルクとに分割される。
これにより第2M/G58が発電し、その電力を第1M/G56に供給して第1サンギヤ22を駆動する。したがって、出力軸12はエンジン1のトルクの一部で駆動される第1リングギヤ24と第1M/G56とに駆動される。
このとき、出力軸12のトルクはTe+T1−T2であり、T1(1+α1)/α1でもある。
【0041】
なお、エンジン1のトルクTeのうち、分割されて第1リングギヤ24を駆動するトルクは、第1M/G56が第1サンギヤ22を駆動するトルクの反力として第1リングギヤ24に作用するトルク、T1/α1である。
H−3モードにおいて車速が上昇すると、第1M/G56の回転速度が上がって、第1M/G56の駆動効率が悪い運転域になるので、そうなる前にH−4モードへ切り替える。
【0042】
H−4モードは、クラッチ60とともにブレーキ50を締結して駆動する。
その結果、入力軸10の回転は第2遊星歯車組30において増速され、第2M/G58と第1リングギヤ24とを(1+α2)倍の回転速度で駆動する。
したがって、出力軸12の回転速度を切り替え前と同じとした場合、第2サンギヤ32と第2M/G58の回転速度が低下し、上記の発電効率が悪い運転域から脱する結果、動力伝達効率が向上する。
これにより、H−3モードと同様に、第2M/G58が発電し、その電力を第1M/G56に供給して第1サンギヤ22を駆動する。したがって、出力軸12はエンジン1のトルクの一部で駆動される第1リングギヤ24と第1M/G56とに駆動される。
このとき、出力軸12のトルクはTe/(1+α2)+T1−T2であり、T1(1+α1)/α1でもある。
【0043】
以上のH−1モード乃至H−4モードはいずれも、本発明の動力分割遊星歯車組である第1遊星歯車組20において、エンジン1のトルクの一部を機械的に、残りを電気的に出力軸12に伝えて駆動するので、常に機械的な動力伝達比率が高く、したがって動力伝達効率が高い。
それに加えて、上記したように発電効率や駆動効率の悪い運転領域を回避した駆動ができるのが特徴である。
【0044】
次にHV走行の後進であるH−Rモードについて説明する。
エンジン1を回転させての後進は、固定装置52aにより第3リングギヤ44をケース52に固定して駆動する。
そして、後述するようにH−2モードと同様の連結にして駆動する。その場合、第2M/G58の回転方向が逆になるだけで、作動は実質的にH−2モードの場合と同様である。
つまり、例えば前進のH−1モードと同じ連結関係にして第2M/G58の回転方向を逆にした場合の出力軸12のトルクは、Te(1+α1)−T2(1+α3)/α3であるのに対して、図5のH−Rモードに書いたようにH−2モードと同じ締結にした場合の出力軸12のトルクは、Te(1+α1)/(1+α2)−T2(1+α3)/α3となるので、後進方向の駆動力は後者の方が大きい。
【0045】
すなわち、エンジン1のトルクのうち機械的に伝達するトルクは常に前進方向のトルクであるので、これを少なくした方が後進駆動トルクを大きく確保できる。
したがって、バッテリーの残量が少ない場合などの後進には、H−2モードと同じ締結のH−Rモードが適している。
なお、上記のHV走行は第1M/G56と第2M/G58のいずれか一方が発電した電力を他方に供給して駆動する前提で説明したが、これに限ることなく発電した電力の一部をバッテリーの充電にあててもいいし、発電した電力にバッテリーから追加して供給して駆動することもできる。
【0046】
以上説明したように、本実施例1の自動車用駆動装置は、第1リングギヤ24をケース52(静止部)に固定する固定手段として、ブレーキ50と第1ワンウエイクラッチ54の同時締結を行うようにした。これによる第1リングギヤ24の固定で、エンジン1が停止した状態において、第1M/G56が第1遊星歯車組20を介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、同時に第2M/G58も出力軸12を減速駆動可能とした。
【0047】
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である。その結果、第1M/G56と第2M/G58の合計容量が自動車の必要とするモーター容量を満足すればいいので、1個のM/Gでしか駆動できなかった従来例に比べてM/Gのトータル容量を減らすことができる。これにより、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【0048】
そして、EV走行では必要に応じて第2M/G58と第1M/G56の両者での駆動が可能であるとともに、第1M/G56のみでの駆動と第2M/G58のみでの駆動を選択できるので、自動車の走行負荷に応じて最適な制御を行うことができる。
特に、E−1モードとE−2モードは、第1M/G56と第2M/G58の一方が駆動して他方は停止していることができるので、無駄な連れ回りを回避して、電力消費を少なくする効果もある。
【0049】
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、ブレーキ50とクラッチ60の2個だけであることが、本発明の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列に固定装置52aを設けたことによるものである。
そして、第3遊星歯車組40が存在して、第2M/G58が大きな減速比で出力軸12を駆動可能であるため、低トルク高速回転型の第2M/G58を使うことができるので、そのサイズを小さくすることができる。
【0050】
さらに、第2遊星歯車組30による増速作用で、H−1モードおよびH−3モードにおける発電効率や駆動効率が悪化する領域での駆動を回避して、H−2モード、H−4モードという駆動を可能にしたので、動力伝達効率を高く維持するとともに駆動モードの選択自由度が高まり、燃費の向上が期待できる。
【0051】
上記したように、EB走行ではクラッチ60を締結して第1M/G56と第2M/G58とで発電しながら制動を行うが、クラッチ60の締結を解除すると第1M/G56と第2M/G58の両方を停止させておくことも可能である。
例えばHV走行における高速走行中にアクセルペダルの踏み込みをゆるめて、加速はしないけれども積極的な制動はしたくない場合、エンジン1を停止させて惰行すると、従来例では少なくとも一方のM/Gが回転するので、それが発電することによって制動に至らないように若干の電力を供給する必要があり、電力を消費することになる。
上記のような制御により第1M/G56と第2M/G58が回転しないで済むので、余計な電力消費を抑えられるという効果があり、その分、燃費が向上する。
【0052】
したがって、第1M/G56と第2M/G58の両方をフルに活用できることを生かして、たとえば市街地走行などの短距離は主に電気自動車として走行して、バッテリーの電力が少なくなった場合にエンジン1の動力で走行する、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例2】
【0053】
次に、本発明の実施例2の自動車用駆動装置につき説明する。
図6は、本発明の実施例2に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0054】
実施例2における実施例1との違いは、実施例1における第2遊星歯車組30がないことである。また、第1遊星歯車組20と第3遊星歯車組40の軸方向の位置関係が入れ替わっている。そして、第1遊星歯車組20と第3遊星歯車組40のキャリア同士は第1キャリア28として一体になっている。
各回転メンバーの連結関係は次のようになっている。
入力軸10は第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24と連結可能であり、第2M/G58は第3リングギヤ44と連結するとともに、第2クラッチ68により第1リングギヤ24と連結可能である。第1キャリア28は出力軸12と連結している。
【0055】
第3サンギヤ42は第2ワンウエイクラッチ74を介して一方の回転方向にのみにおいてケース52に固定可能であるとともに、回転方向に関わらず固定装置52aにより機械的に固定可能である。固定装置52aは本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
第2ワンウエイクラッチ74と固定装置52aの詳細は実施例1で説明したのと同様である。その他の構成と連結関係は、実施例1と同様であり、説明を省略する。
なお、第1遊星歯車組20の歯数比α1を第3遊星歯車組40の歯数比α3と同じか、それよりも大きな値に設定することが望ましい。
【0056】
続いて実施例2の作動を、図7に示した作動表を参考にしながら説明する。
図7は、第1クラッチ60を「C1」、第2クラッチ68を「C2」、固定装置52aを「L」、第2ワンウエイクラッチ74を「OWC」とした以外は実施例1の図5と書き方は同様である。
始めに、EV走行のE−1モードは実施例1と同様であり、E−2モードは第2クラッチ68の締結で行うが、実施例1のE−4モードと実質的に同様である。E−1モードは低速走行に、E−2モードは中速から高速走行に適している。
【0057】
E−Rモードは第2クラッチ68の締結で行うが、実施例1と実質的に同様である。
なお、EV走行の後進は、E−2モードと同じ締結にした上で、両M/G56、58を逆回転駆動させて行うこともできる。
EB走行も第2クラッチ68の締結で行うが、実施例1と実質的に同様であり、高速から低速まで幅広い制動力を得ることができる。
【0058】
次にHV走行のH−1モードは第1クラッチ60の締結で駆動するが、実質的に実施例1と同様である。
H−2モードは第1クラッチ60、第2クラッチ68の締結に加えて第2ワンウエイクラッチ74による第3リングギヤ44の固定により、入力軸10と出力軸12とは機械的に連結される。その変速比(入力軸10の回転速度/出力軸12の回転速度)は1+α3である。
前述のように、第1遊星歯車組20の歯数比α1を第3遊星歯車組40の歯数比α3よりも大きな値に設定した場合、H−1モードでは第1M/G56は逆回転して発電していたが、H−2モードにおいては正回転するので第1M/G56に電力を供給して駆動させてもよい。むろん、その電力は第2M/G58の発電により得てもいいし、バッテリーから供給してもよい。また、両M/G56、58は発電・駆動のいずれもしないでも駆動可能である。
【0059】
続くH−3モードは、第1クラッチ60、第2クラッチ68の締結は維持して、第2ワンウエイクラッチ74による第3リングギヤ44の固定を解除して駆動する。
すなわち、H−2モードの状態から第1M/G56の回転速度が上昇すれば、第2ワンウエイクラッチ74による固定は自動的に解除されH−3モードに移行する。
H−3モードは実施例1のH−4モードと実質的に同様である。
H−1モードは低速走行に、H−2モードは中継的に用い、H−3モードは中速から高速走行に適している。
H−Rモードは第1クラッチ60と固定装置52aを締結して行う。出力軸12のトルクはTe(1+α1)−T2(1+α3)/α3である。
【0060】
実施例2の自動車用駆動装置もEV走行において、入力歯車群はないが、第1M/G56と第2M/G58の両方による同時駆動ができることが特徴である点は実施例1と同様である。
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行速度に応じて駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、第1クラッチ60と第2クラッチ68の2個だけであることが、本発明の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列に第1固定装置52aを設けたことによるものである。
【0061】
また、EB走行で第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
そして、図6で分かるように、第1クラッチ60と第2クラッチ68とは、歯車やワンウエイクラッチのような潤滑を必要とする構成要素と隔離した場所に配置することが可能である。したがって、乾式クラッチにすることが容易である。
この場合、さらに、第1クラッチ60と第2クラッチ68をスプリングの張力で常に締結する構成にして、締結を解除するときだけアクチュエーターで操作するようにすれば、一般的な自動変速機などが有する油圧ポンプを用いないで済ませることができる。
【0062】
これらにより、油圧ポンプを駆動する動力や湿式の摩擦要素につきまとう引きずり抵抗といったロスを回避することが出来るので、より一層、電力消費や燃料消費の低い走行が期待できる。
また、第1遊星歯車組20と第3遊星歯車組40のキャリア同士を第1キャリア28として一体にしたため、コストを安くすることができる。
実施例2もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例3】
【0063】
次に、本発明の実施例3の自動車用駆動装置につき説明する。
図8は、本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。
ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0064】
実施例3における実施例1との違いは、第1に、出力軸12が入力軸10と平行に設けられており、第1キャリア28と出力軸12との間を伝達歯車28a、12aとで連結していることである。
第2の違いは本発明の入力変速歯車群と減速歯車に遊星歯車を用いていない点である。すなわち、入力変速歯車群は、入力軸10と平行に設けたカウンタ軸62との間に、入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bの、計4枚のいわゆる平行軸歯車で構成されており、第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24を駆動可能である。
【0065】
そして、第2M/G58が駆動軸58eと第2ワンウエイクラッチ74および第1減速歯車58a、伝達歯車12aを介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、第2ワンウエイクラッチ74と並列に設けたドッグクラッチ58cとスリーブ70を介して出力軸12を駆動可能である。ドッグクラッチ58cとスリーブ70は本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
【0066】
すなわち、スリーブ70は第1減速歯車58bに形成したスプライン58dと常時噛み合って軸方向に移動可能であり、スリーブ70を左側へ移動してドッグクラッチ58cと噛み合わせると駆動軸58eと第1減速歯車58bとが機械的に連結される。
第1減速歯車58aと伝達歯車12aは、本発明の減速歯車を構成する。
さらに、第2M/G58は第2クラッチ68と第2減速歯車58bを介して入力歯車64bを駆動可能であり、カウンタ軸62および駆動歯車66a、66bを介して第1リングギヤ24を減速駆動することができる。
図5では、第2減速歯車58bと入力歯車64bが離れて描かれているが、実際は両者が噛み合う位置関係になっている。
【0067】
さらに、出力軸12は油圧ポンプ2を駆動可能になっている。
入力変速歯車群を含めて各回転メンバーの連結関係は以下のようになっている。
入力軸10は第1ワンウエイクラッチ54を介して第1リングギヤ24を駆動可能である。この場合、エンジン1が正回転方向に駆動する方向にのみ第1ワンウエイクラッチ54が係合する。なお、第1クラッチ60および第1ワンウエイクラッチ54は、これらが同時締結することで第1リングギヤ24をケース52に固定する本発明の固定手段を構成する。
【0068】
入力軸10はまた、第1クラッチ60を介して入力歯車64aと連結可能であり、入力歯車64aは相手の入力歯車64b、カウンタ軸62、駆動歯車66a、66bを介して第1リングギヤ24を増速駆動可能になっている。すなわち、入力歯車64a、64bと駆動歯車66a、66bの各歯数は増速比になるようにそれぞれ設定されている。その他の連結関係は基本的に実施例1と同様である。
【0069】
ここで、第2ワンウエイクラッチ74と並列に設けた機械的な連結手段であるドッグクラッチ58cとスリーブ70について説明する。
すなわち、実施例1でも説明したように、ドッグクラッチ58cとスリーブ70を噛み合わせてトルクを伝達した後に、これを解除する際に大きな力が必要になり、衝撃が生ずることがある。
したがって、ここでも第2ワンウエイクラッチ74に実施例1で説明したような遊びと弾性体が設けてあるが図示は省略する。なお、遊びと弾性体を設ける部位は、第2ワンウエイクラッチ74と第1減速歯車58aの間、および第2ワンウエイクラッチ74と駆動軸58eとの間のいずれでもよい。
【0070】
一方、実施例1における固定装置52aに相当するのが、ドッグクラッチ58cとスリーブ70であり、これを図9および図10で説明する。
ドッグクラッチ58cとスリーブ70とは、本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
図9は図8におけるG部の断面を表し、図10は図9のH−H線に沿って切断した断面を表す。
前述のように、スリーブ70のスプライン70aは第1減速歯車58aに形成したスプライン58dと常時噛み合っている。スリーブ70が左側へ移動するとドッグクラッチ58cの外周に形成したスプライン58fとスプライン70aが噛み合ってトルクを伝達する。
【0071】
実施例3でも説明したように、スプライン58eとスプライン70aの両者が噛み合い始めてから係合が終わるまでの駆動軸58eとスリーブ70との相対回転が、第2ワンウエイクラッチ74に付随して設けた遊びを詰める回転方向側に小さいことが重要である。そのために、図10に示すように、スプライン58eとスプライン70aの先端同士58gと70bは互いに一方向の面取りになっている。
【0072】
続いて実施例3の作動を、図11に示した作動表を参考にしながら説明する。
図11は、第1クラッチ60を「C1」、第2クラッチ68を「C2」、スリーブ70を「S」とした以外は実施例1の図5と同様である。
また、各締結要素は実施例1におけるクラッチ60「C」の機能を第2クラッチ68「C2」が、ブレーキ50の機能を第1クラッチ60「C1」が、固定装置「L」の機能をスリーブ「S」が、それぞれ果たしており、これらの締結要素の組み合わせの関係は実質的に実施例1と同様である。
唯一、機能的に異なるのは第2減速歯車58bが入力歯車64bと噛み合って、第1リングギヤ24を減速駆動するようになっている点である。
【0073】
また、各駆動モードにおける出力軸12のトルクであるが、入力変速歯車群と減速歯車に遊星歯車を用いていないので、上記した伝達歯車28a、12aと、入力変速歯車群を構成する入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bと、第1、第2減速歯車58a、58bとそれぞれの相手歯車12a、64bの、各歯数比が出力軸トルクに影響することが異なるのみで、実質的に実施例1と同様であるので、詳細の説明を省略する。
【0074】
ここで、油圧ポンプ2の役割について説明する。
実施例1の作動の部分に記したように、EV走行においてはエンジン1が回転しておらず、HV走行に切り替わって初めて始動されて回転する。自動車の運転条件にもよるが、EV走行を長時間行った後にHV走行に切り替わり、急に高負荷の運転を余儀なくされる場合が考えられ、エンジン1にとって潤滑面で厳しい状態になる可能性がある。
そこで、EV走行をしている間に出力軸12で駆動する油圧ポンプ2でエンジン1の潤滑回路にエンジンオイルを循環させて、予備的に潤滑を行っておくことができるようになっている。
【0075】
図示は省略したが、吐出管2b側に電磁バルブなどを設けて、時々油圧を発生させることも可能である。むろん、エンジン1自体にも図示しない潤滑ポンプを有しているので、油圧ポンプ2はあくまでも補助的な潤滑を行うものである。
また、油圧ポンプ2の駆動は出力軸12に限ることなく、他の回転メンバーで駆動してもよいし、専用の小型モーターで駆動してもよい。重要なことはEV走行をしている間にエンジン1を予備的に潤滑できるようにすることである。
【0076】
実施例3の自動車用駆動装置も、第1リングギヤ24をケース52に固定する固定手段として、第1クラッチ60と第1ワンウエイクラッチ54の同時締結を行うようにした。これによる第1リングギヤ24の固定で、エンジン1が停止した状態において、第1M/G56が第1遊星歯車組20を介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、同時に第2M/G58も出力軸12を減速駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
【0077】
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
【0078】
さらに、入力変速歯車群の、入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bによる増速作用で、H−2モード、H−4モードという駆動を可能にしたので、動力伝達効率を高く維持するとともに駆動モードの選択自由度が高まり、燃費の向上が期待できる。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、第1クラッチ60と第2クラッチ68の2個だけであることが、本発明の大きな効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70、ドッグクラッチ58cを設けたことによるものである。
【0079】
また、EB走行のB−1モードで第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
さらに、伝達歯車28a、12a、入力歯車64a、64b、駆動歯車66a、66b、第1減速歯車58aおよび第2減速歯車58bなどに用いた平行軸の歯車は歯数比の変更が遊星歯車に比べて容易であり、適用する車種に応じた仕様に最適化することがやりやすいメリットもある。
【0080】
そして、図8で分かるように、第1クラッチ60と第2クラッチ68とは、歯車やワンウエイクラッチのような潤滑を必須とする構成要素と隔離した位置に配置することが可能である。したがって、乾式クラッチにすることと、これに伴って油圧ポンプを用いないことが容易である。
実施例3もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例4】
【0081】
次に、本発明の実施例4の自動車用駆動装置につき説明する。
図12は、本発明の実施例4に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1および実施例3と異なる部分を中心に説明し、それらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0082】
実施例4における実施例1との違いは、実施例3と同様に、出力軸12が入力軸10と平行に設けられていることであり、実施例2と同様に入力変速歯車群がない構成である点が実施例3と異なる。
以下、各回転メンバーの連結関係も含めて、次のようになっている。
すなわち、入力軸10は第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24を直結駆動可能である。
第1キャリア28は出力軸12と連結歯車28a、12aで連結されている。なお、連結歯車28a、12aの歯数比を、第1キャリア28が出力軸12を増速駆動するような設定にすることが望ましい。
【0083】
出力軸12と平行に設けた第2M/G58は、実施例3と同様に第2ワンウエイクラッチ74と第1減速歯車58a、12aを介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、第2ワンウエイクラッチ74と並列に設けたドッグクラッチ58cとスリーブ70を介して出力軸12を駆動可能である。むろん、第2ワンウエイクラッチ74には実施例1および実施例3で説明したように回転方向の遊びが設けられている。
ドッグクラッチ58cとスリーブ70とは、本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
【0084】
第2M/G58はまた、第2減速歯車58bと、カウンタ軸62と入力軸10間に設けられた駆動歯車66a、66bと、第2クラッチ68を介して第1リングギヤ24と連結可能である。
図12において第2減速歯車58bと駆動歯車66aは離れて描いてあるが、実際は両者が噛み合う位置関係になっている。
その他は、実施例1および実施例3と同様である。
【0085】
続いて実施例4の作動を、図13に示した作動表を参考にしながら説明する。
図13は、実施例3の第1ワンウエイクラッチ54がなくなって、第2ワンウエイクラッチ74を「OWC」としてある。
各締結要素の組み合わせと作動は、固定装置52aの「L」がスリーブ70の「S」に置き換わっているが、実質的に実施例2と同様である。
また、出力軸12のトルクも、上記した第1減速歯車58a、12a、第2減速歯車58b、駆動歯車66a、66bの各歯数比分が影響するものの、実質的に実施例2と同様であるので詳しい説明を省略する。
【0086】
実施例4の自動車用駆動装置も、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方による同時駆動ができることが特徴である点は実施例1と同様である。
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な制御を行うことができるとともに、無駄な連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
【0087】
また、EB走行で第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。そして、実施例2と同様に、2個のクラッチ60、68は、容易に乾式にすることができる。
実施例4もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例5】
【0088】
次に、本発明の実施例5の自動車用駆動装置につき説明する。
図14は、本発明の実施例5に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0089】
実施例5における実施例1との違いは、入力軸10と出力軸12とが同じ軸心上にありながら、カウンタ軸62が入力軸10と平行に設けられていることである。
すなわち実施例3と同様に、入力変速歯車群が入力軸10とカウンタ軸62との間に設けられた入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bの、計4枚の平行軸歯車で構成されており、第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24を増速駆動可能である。
また、入力軸10は第1ワンウエイクラッチ54を介して第1リングギヤ24と連結可能である。なお、第1クラッチ60および第1ワンウエイクラッチ54は、これらが同時締結することで第1リングギヤ24をケース52に固定する本発明の固定手段を構成する。
【0090】
そして、第1M/G56は出力軸12と平行に設けられ、第1減速歯車56a、22aを介して第1サンギヤ22と連結している。さらに、第2M/G58はカウンタ軸62と同じ軸心上に配置され、実施例2と同様に第1減速歯車58a、58bと第2ワンウエイクラッチ74を介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、第2ワンウエイクラッチ74と並列に設けたドッグクラッチ58cとスリーブ70を介して出力軸12を駆動可能である。むろん、第2ワンウエイクラッチ74には実施例1および実施例2で説明したように回転方向の遊びが設けられている。
ドッグクラッチ58cとスリーブ70とは、本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
第2M/G58はまた、第2クラッチ68と駆動歯車66a、66bを介して第1リングギヤ24と連結可能である。
【0091】
そして、駆動歯車66aは動力取り出し歯車76と噛み合っており、これを介して動力取り出し軸78を駆動することができる。これは、一般にパワーテークオフ装置と言われるもので、駆動装置の横に取り付けて自動車の走行以外の目的で、動力取り出し軸78から動力を取り出してさまざまな作業等に使用するものである。
【0092】
続いて実施例5の作動であるが、上記した入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66b、第1減速歯車56a、22a、第1減速歯車58a、28a、の動力伝達経路は若干異なるが、図11の作動表も含めて実質的に実施例3と同様である。
出力軸12のトルクについても同様であるので、詳細の説明は省略する。
【0093】
また、動力取り出し軸78は、第2クラッチ68を締結すると第2M/G58で駆動可能であり、第1クラッチ60を締結した場合はエンジン1で駆動することができるので、自動車が停止中、走行中を問わずに駆動することができる。
外部への動力取り出し方法は上記に限らず、例えばカウンタ軸62から直接取り出すことも可能である。重要なことは、第1リングギヤ24の回転と連動した動力を取り出すことである。
【0094】
実施例5の自動車用駆動装置も、第1リングギヤ24をケース52に固定する固定手段として、第1クラッチ60と第1ワンウエイクラッチ54の同時締結を行うようにした。これによる第1リングギヤ24の固定で、エンジン1が停止した状態において、第1M/G56が第1遊星歯車組20を介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、同時に第2M/G58も出力軸12を減速駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
【0095】
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
【0096】
さらに、入力変速歯車群の入力歯車64a、64b、および駆動歯車66a、66bによる増速作用で、H−2モード、H−4モードという駆動を可能にしたので、動力伝達効率を高く維持するとともに駆動モードの選択自由度が高まり、燃費の向上が期待できる。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、第1クラッチ60と第2クラッチ68の2個だけである点が、本発明の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70、ドッグクラッチ58cを設けたことによるものである。
【0097】
また、EB走行で第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
そして、実施例3と同様に、第1クラッチ60と第2クラッチ68とは、乾式クラッチにすることが容易である。
実施例5は、動力取り出し軸78を設けるのに適しており、商用車のハイブリッド自動車に適用することができる。
【実施例6】
【0098】
次に、本発明の実施例6の自動車用駆動装置につき説明する。
図15は、本発明の実施例6に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1および実施例5と異なる部分を中心に説明し、これらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0099】
実施例6における実施例5との違いは、入力変速歯車群がないことである。
以下、実施例6の構成と連結関係を説明する。
入力軸10は第1クラッチ60を介して第1リングギヤ24と連結可能であり、第2M/G58は駆動歯車66a、66bと第2クラッチ68を介して第1リングギヤ24と連結可能であるとともに、減速歯車58a、58bと第2ワンウエイクラッチ74を介して出力軸12を一方の回転方向に減速駆動可能である。また、第2ワンウエイクラッチ74と並列に設けたドッグクラッチ58cとスリーブ70を介して出力軸12を駆動可能である。むろん、第2ワンウエイクラッチ74には実施例1および実施例2で説明したように回転方向の遊びが設けられている。
ドッグクラッチ58cとスリーブ70とは、本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
その他の構成は実施例5と同様である。
【0100】
次に実施例6の作動であるが、図13の作動表を含めて実施例4と実質的に同様である。出力軸12のトルクは、駆動歯車66a、66bと減速歯車58a、58bの各歯数比分は実施例4と異なるが、実質的に同様であるので説明を省略する。
【0101】
実施例6の自動車用駆動装置も、エンジン1が停止した状態において、第2M/G58が減速歯車58a、58bを介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、同時に第2M/G58も出力軸12を減速駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
【0102】
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、第1クラッチ60と第2クラッチ68の2個だけである点が、本発明の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70、ドッグクラッチ58cを設けたことによるものである。
【0103】
また、EB走行で第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
そして、実施例3と同様に、第1クラッチ60と第2クラッチ68とは、乾式クラッチにすることが容易である。
実施例6もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例7】
【0104】
次に、本発明の実施例7の自動車用駆動装置につき説明する。
図16は、本発明の実施例7に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1および実施例6と異なる部分を中心に説明し、これらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0105】
実施例7における実施例6との違いは、実施例6における駆動歯車66a、66bと第1減速歯車58a58bとが共通の歯車になっていることである。
すなわち、実施例7においては第1減速歯車58a、58bが実施例6の駆動歯車66a、66bを兼ねている。
したがって、第1減速歯車58bが、第2ワンウエイクラッチ74を介して一方の回転方向にのみ第1キャリア28を経て出力軸12と連結可能であり、スリーブ70を介して回転方向に関係なくドッグクラッチ28c経由で出力軸12と連結可能である。第1減速歯車58bはまた、第2クラッチ68を介して第1リングギヤ24と連結可能である。
ドッグクラッチ28cとスリーブ70とは、本発明の機械的連結・解除手段を構成する。
【0106】
また、入力軸10をケース52に固定するドッグ歯10aが設けてあり、固定装置52aを噛み合わせることで固定可能である。これは後述のようにEV走行において特に大きな駆動力を要する場合に固定する。
固定装置52aは実施例1で示したのと同様のものでよく、ドッグ歯10aは入力軸10に限らず、エンジン1が一般的に備えるフライホイールの外周に形成してもよい。
その他の連結関係は実施例6と同様である。
【0107】
続いて実施例7の作動を、図17に示した作動表を参考にしながら説明する。
図17の締結要素は、固定装置52aの「L」が新たに設けられたのみで、他は実施例4の図13と同様である。
また、各駆動モードについてもE−Lモード、E−RL1モード、E−RL2モードが、新たに加わったのみで他は実施例6と同様であるので、新たな駆動モードのみ説明する。
【0108】
E−Lモードは特に大きな駆動力を要する場合に用いる。すなわち、前述の固定装置52aを噛み合わせて入力軸10を固定するとともに、第1クラッチ60の締結で第1リングギヤ24をケース52に固定する。これにより、第1M/G56、第2M/G58の両者で減速駆動できるようになる。すなわち、減速歯車58a、58bの歯数比(58bの歯数/58aの歯数)をiとした場合、出力軸トルクはT1(1+α1)/α1+T2・iである。
【0109】
むろん、第1M/G56のみでの減速駆動も可能であり、その場合は第2ワンウエイクラッチ74の締結が解除され、第2M/G58は停止していることができる。
E−1モード、E−2モードは、実施例6と実質的に同じである。
次に後進のE−RL1モードとE−RL2モードとは、E−Lモードと同様に特に大きな駆動力を要する場合に用いる。
【0110】
E−RL1モードは、E−Lモードと同じ締結に加えてスリーブ70を締結して第1M/G56、第2M/G58の両者で減速駆動する。出力軸12のトルクは回転方向が異なるのみで、E−Lモードと同じである。
E−RL2モードは、スリーブ70の噛み合いをしない場合で、第1M/G56のみでの駆動である。出力軸トルクは−T1(1+α1)/α1である。
E−Rモードは実施例6と実質的に同じである。
その他の駆動モードも実施例6と実質的に同様であるので、説明を省略する。
なお、実施例6と実質的に同様とした駆動モードの出力軸トルクは、第1減速歯車58a、58bが実施例6の駆動歯車66a、66bを兼ねている分のみ異なるが、実質的に同様である。
【0111】
実施例7の自動車用駆動装置も、エンジン1が停止した状態において、第2M/G58が減速歯車58a、58bを介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、同時に第2M/G58も出力軸12を減速駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
【0112】
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、第1クラッチ60と第2クラッチ68の2個だけである点が、本発明の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列にスリーブ70、ドッグクラッチ28cを設けたことによるものである。
【0113】
また、EB走行で第2クラッチ68の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
そして、実施例3と同様に、第1クラッチ60と第2クラッチ68とは、乾式クラッチにすることが容易である。
上記したように、第1減速歯車58a、58bが実施例6の駆動歯車66a、66bを兼ねているので、実施例6に比べて歯車が2個少ないのが本実施例の特徴である。
実施例7は、入力軸10の固定装置52aを設けたため、必要に応じてEV走行で大きな駆動力を得ることができるので、商用車のハイブリッド自動車の駆動装置として用いるのに適する。
【実施例8】
【0114】
次に、本発明の実施例8の自動車用駆動装置につき説明する。
図18は、本発明の実施例8に係る自動車用駆動装置の主要部のスケルトン図である。ここでは、実施例1および実施例2と異なる部分を中心に説明し、これらと実質的に同じ部分については同じ符号を付し、それらの説明を省略する。
【0115】
実施例8における実施例1および実施例2との違いは、本発明の入力歯車群を構成する第2遊星歯車組30は実施例1と同様であり、本発明の動力分割遊星歯車組を構成する第1遊星歯車組20と本発明の減速歯車を構成する第3遊星歯車組40とは実施例2と同様であり、クラッチ60の連結関係のみが異なる。
すなわち、クラッチ60は第1サンギヤ22と第3サンギヤ42とを連結可能になっている。一方、実施例2と同様に第1キャリア28と第3遊星歯車組40のキャリアが一体になっているので、クラッチ60により第1サンギヤ22と第3サンギヤ42とを連結すると、サンギヤ同士22、42も一体になるので、結果としてリングギヤ同士24と44も実質的に一体になったのと同様になる。
【0116】
したがって、クラッチ60の連結関係は実施例1と異なるが、実質的には入力軸10と第2リングギヤ34および第3リングギヤ44が連結可能であるのと同じことになる。
続いて実施例8の作動であるが、上記したように実質的に実施例1と実施例2とを組み合わせたようになる。作動表も図5の実施例1と同様であるので、詳細の説明は省略する。
【0117】
実施例8の自動車用駆動装置も、エンジン1が停止した状態において、第2M/G58が減速歯車58a、58bを介して出力軸12を減速駆動可能であるとともに、同時に第2M/G58も出力軸12を減速駆動可能とした。
したがって、EV走行において第1M/G56と第2M/G58の両方を、同時駆動を含め、フルに活用できることが特徴である点は実施例1と同様である。
【0118】
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
そして、EV走行では自動車の走行負荷に応じて最適な駆動モードを選択して走行できるとともに、無駄なM/Gの連れ回りを回避して電力消費を少なくする効果もある。
また、上記の機能を得るための摩擦要素としては、ブレーキ50とクラッチ60の2個だけである点が、本発明の効果である。これは、第2ワンウエイクラッチ74と並列に固定装置52aを設けたことによるものである。
【0119】
また、EB走行でクラッチ60の締結を解除すると、第1M/G56と第2M/G58の両方を回転させないことが可能である点も実施例1と同様である。
そして、実施例3と同様に、ブレーキ50とクラッチ60とは、乾式にすることが容易である。
実施例8もいわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【0120】
以上説明したように、本発明の自動車用駆動装置にあっては、いずれもエンジン1が停止したEV走行で第1M/G56と第2M/G58の両者で出力軸を駆動可能としたことが特徴である。
その結果、2個のM/G56、58の合計容量を小さくして、一般的にコントローラーに含まれるインバーターも含めてコスト・重量・大きさの面でメリットを出すことが可能となる。
【0121】
そして、EV走行では無駄なM/Gの連れ回りを回避して、電力消費を少なくする効果もある。
したがって、第1M/G56と第2M/G58の両方をフルに活用できることを生かして、たとえば市街地走行などの短距離は主に電気自動車として走行して、バッテリーの電力が少なくなった場合にエンジン1の動力で走行する、いわゆるプラグインハイブリッド自動車と呼ばれる車両等の駆動装置として用いるのに適する。
【0122】
また、各実施例は以上の特徴を有しながら摩擦要素の数がいずれも2個と少ないことが特徴である。したがって、制御装置も含めてコストが安くなる。
なお、実施例7で説明した、入力軸10の固定装置52aを設けることによるEV走行の駆動力増大の手段は、他の実施例4、実施例6などにも応用可能である。
【0123】
また、本発明の自動車用駆動装置にあっては、以下のような変更を行うことも可能である。
例えば、入力変速歯車群を備えた上記各実施例は、変速段数が2段のものであったが、これをさらに多段化することができる。
また、上記実施例の説明において摩擦要素として説明したブレーキ50、クラッチ60などは、円錐クラッチなど他の締結要素に置き換えても上記各作用は成立する。
【0124】
さらに、上記した各実施例は、第1遊星歯車組20、第2遊星歯車組30などを、シングルピニオン型と呼ばれる遊星歯車組を用いたが、これをダブルピニオン型に置き換えることも可能である。図示は省略したが、ダブルピニオン型の場合の連結関係は、シングルピニオン型に対してキャリアとリングギヤを入れ替えればよい。
【0125】
本発明の自動車用駆動装置は、当業者の一般的な知識に基づいて、自動車の走行条件に応じて最適な駆動モードを選択し、M/Gの最も効率の高いゾーンでの駆動を行うことや、GPS(全地球測位システム)、カーナビゲーションシステムなどの情報を基に、長い坂道の走行時や高速道路の入り口において、さらには気温が低くて自動車の暖房熱源が足りない場合などに、自動的にHV走行に切り替えるなどの制御面での工夫と合わせた態様で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の自動車用駆動装置は、特に走行コストを重視し、環境負荷の低減を要求される小型乗用車などに適用することができるが、それらに限らず内燃機関および電気モーター・ジェネレーターを利用したさまざまな車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0127】
1 エンジン
2 油圧ポンプ
10 入力軸
12 出力軸
20 第1遊星歯車組(動力分割遊星歯車組)
22 第1サンギヤ
24 第1リングギヤ
26 第1ピニオン
28 第1キャリア
30 第2遊星歯車組(入力変速歯車群)
32 第2サンギヤ
34 第2リングギヤ
36 第2ピニオン
38 第2キャリア
40 第3遊星歯車組(減速歯車)
42 第3サンギヤ
44 第3リングギヤ
46 第3ピニオン
48 第3キャリア
50 ブレーキ、(第1締結要素、固定手段)
52 ケース(静止部)
52a 固定装置(固定手段、機械的連結・解除手段)
54 第1ワンウエイクラッチ(第2締結要素、固定手段)
56 第1M/G
58 第2M/G
58a 第1減速歯車(減速歯車)
60 クラッチ(第1締結要素、固定手段)
62 カウンタ軸
64 入力歯車
66 駆動歯車
68 第2クラッチ
70 スリーブ(機械的連結・解除手段)
72 スプリング
74 第2ワンウエイクラッチ
76 動力取り出し歯車
78 動力取り出し軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの動力を受け入れ可能な入力軸と、
出力軸と、
第1サンギヤ、第1リングギヤ、第1キャリアの、3つの回転要素を有する第1遊星歯車で構成され、動力分割が可能な動力分割遊星歯車組と、
第1モーター・ジェネレーターと、
第2モーター・ジェネレーターと、
を備え、
前記入力軸は前記第1リングギヤと連結するか、または連結可能であり、
前記出力軸は前記第1キャリアと連結し、
前記第1モーター・ジェネレーターは前記第1サンギヤと連結し、
前記第2モーター・ジェネレーターは前記出力軸および前記第1リングギヤと、それぞれ連結可能であり、
前記第2モーター・ジェネレーターが前記出力軸を駆動する動力伝達経路に第2ワンウエイクラッチと、該第2ワンウエイクラッチと並列に機械的連結・解除手段を設けたことを特徴とする自動車用駆動装置。
【請求項2】
前記動力伝達経路の前記第2ワンウエイクラッチの前後いずれかに回転方向の遊びを設け、該遊びが前記第2ワンウエイクラッチの係合する回転方向に形成されるように弾性力で付勢する弾性体を備えたことを特徴とする請求項1に記載の自動車用駆動装置。
【請求項3】
前記第2モーター・ジェネレーターと前記出力軸の間の、前記動力伝達経路内に減速歯車を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用駆動装置。
【請求項4】
前記減速歯車は、第3サンギヤ、第3リングギヤ、第3キャリアの、3つの回転要素を有する第3遊星歯車組で構成され、前記第3キャリアを前記出力軸と連結し、前記第3サンギヤと前記第3リングギヤの一方と前記入力軸とが連結または連結可能であり、前記第3サンギヤと前記第3リングギヤの他方を前記第2ワンウエイクラッチにより静止部に固定可能である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項5】
前記第3キャリアと前記第1キャリアとを一体としたことを特徴とする請求項4に記載の自動車用駆動装置。
【請求項6】
前記第1リングギヤを静止部に固定する固定手段を有して、
該固定手段にて前記第1リングギヤを静止部に固定することにより、前記エンジンが停止した状態で前記第1モーター・ジェネレーターが前記動力分割遊星歯車組を介して前記出力軸を減速駆動可能であるとともに、同時に前記第2モーター・ジェネレーターが前記出力軸を駆動可能としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項7】
前記第1リングギヤを静止部に固定する固定手段を有して、低速段と高速段の2段変速が可能で、前記入力軸から受け入れた動力を前記第1リングギヤへ変速して出力可能な入力変速歯車群を備え、該入力変速歯車群は、前記低速段の動力伝達を可能にする第1締結要素と、前記高速段の動力伝達を可能にする第2締結要素とを有し、前記固定手段は前記第1締結要素と前記第2締結要素とから構成され、これら前記固定手段は前記第1締結要素と前記第2締結要素とを同時に締結することにより、前記第1リングギヤを前記静止部に固定する前記固定手段とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項8】
前記入力変速歯車群は、第2サンギヤ、第2リングギヤ、第2キャリアの、3つの回転要素を有する第2遊星歯車組で構成され、前記第2キャリアは前記入力軸と連結し、前記第2リングギヤは前記第1リングギヤと連結し、前記第2サンギヤを静止部に固定可能な前記第2締結要素を構成するブレーキと、前記第2リングギヤと第2キャリアのいずれか一方と前記第2サンギヤとの間、または前記第1キャリアと前記第2キャリアとの間のいずれかに前記第1締結要素で連結可能としたことを特徴とする請求項7に記載の自動車用駆動装置。
【請求項9】
前記動力分割遊星歯車組を前記入力軸と同軸上に配置し、前記入力軸と該入力軸と平行に配置したカウンタ軸との間に第1歯車対と第2歯車対からなる前記入力変速歯車群を構成し、前記入力軸と前記第1リングギヤとは前記第1締結要素で連結可能であり、前記入力軸と同軸上に配置した第1クラッチにより、前記入力変速歯車群と前記入力軸とを連結可能としたことを特徴とする請求項7に記載の自動車用駆動装置。
【請求項10】
前記第1締結要素が第1ワンウエイクラッチであることを特徴とする請求項請求項7乃至9のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項11】
前記出力軸を前記入力軸と平行に配置して、前記動力分割遊星歯車組を前記入力軸と同軸上に配置し、前記第1キャリアと前記出力軸とを歯車対で連結するとともに、前記第2モーター・ジェネレーターが前記歯車対の一方の歯車を介して前記出力軸を減速駆動可能としたことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項12】
前記第2モーター・ジェネレーターが前記入力軸を介して前記第1リングギヤと連結可能な第2クラッチを備えたことを特徴とする請求項1に記載の自動車用駆動装置。
【請求項13】
前記入力軸と同じ軸心上に、前記入力軸と前記第1リングギヤとを連結可能な第1クラッチと前記第2クラッチとを隣り合わせて設けたことを特徴とする請求項10に記載の自動車用駆動装置。
【請求項14】
前記第1リングギヤと一体の、もしくはこれと連動して回転する歯車を設け、該歯車から外部へ動力を取り出し可能としたことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の自動車用駆動装置。
【請求項15】
前記第2モーター・ジェネレーターが、前記出力軸および前記第1リングギヤと、共通の1対の歯車対でそれぞれ連結可能であることを特徴とする請求項1に記載の自動車用駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−95386(P2013−95386A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242747(P2011−242747)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(393011821)有限会社ファインメック (13)
【出願人】(594008626)協和合金株式会社 (49)
【Fターム(参考)】