説明

荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法

【課題】所望の電流密度を得るために最適なフィラメント電力を求めることが可能な荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法を提供する。
【解決手段】本発明の荷電粒子ビーム発生装置は、フィラメント電力によりカソード11を加熱することにより放出される電子を、バイアス電圧により集束し、加速電圧により加速することにより所定のエミッション電流の荷電粒子ビーム20を照射する荷電粒子銃10と、電流密度を測定するための検出器22と、フィラメント電力およびエミッション電流を制御するための制御部18と、バイアス飽和点における電流密度とエミッション電流との関係とフィラメント電力とエミッション電流との関係を記憶し、設定電流密度よりエミッション電流値とフィラメント電力値を算出するための記憶演算部19を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカソードフィラメントを用いた荷電粒子ビーム描画装置、荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、LSI等のマスクパターンの微細化が要求されている。そして、この微細なマスクパターンの形成に、優れた解像度を有する荷電粒子ビーム描画装置が利用されている。このような荷電粒子ビーム描画装置には、荷電粒子銃としてカソードフィラメントを用いた熱電子放射型の電子銃が用いられる。熱電子放射型の電子銃により、フィラメント電力によりカソードを加熱することにより放出される電子を、バイアス電圧により集束させ、加速電圧により加速させた所定のエミッション電流の電子ビームが照射される(例えば特許文献1など参照)。
【0003】
このような電子銃の動作条件は、通常、エミッション電流を所定の値に設定し、フィラメント電力とバイアス電圧の関係より決定される。例えば、エミッション電流を所定の値としたときのフィラメント電力とバイアス電圧との関係(バイアス飽和特性)を測定する。そして、温度制限領域と空間電荷制限領域の境界、すなわちフィラメント電力の変化に対してバイアス電圧が飽和する点(バイアス飽和点)におけるフィラメント電力を求め、このフィラメント電力に所定のマージンを持たせて最適動作点に設定する。
【0004】
フィラメント電力とカソード温度には相関があり、これらの関係は、個々のカソードにおいて測定され、設定されたフィラメント電力におけるカソード温度を求めることができる。通常、カソード温度は約1450〜1470Kで、若干のばらつきがある。カソード温度が高いと、カソードの蒸発が早まるとともに、カソードの劣化、接触状態の変化など、熱による変化が生じ、カソード寿命を縮める原因となる。従って、カソード温度は低いほど長寿命化が可能となる(例えば特許文献2など参照)。
【特許文献1】特開平5−166481号公報
【特許文献2】特開2006−221983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
照射される電子ビームの電流密度Jは、カソード温度に依存し、カソード温度が低下すると、電流密度Jも低下する。従って、所望の電流密度Jを得るために、適切なカソード温度に制御する必要がある。
【0006】
カソード温度を決定するフィラメント電力は、経験的に所定値に設定されたエミッション電流におけるバイアス飽和特性により求められている。このようにしてフィラメント電力を求めることにより、カソード温度が約1450〜1470Kでばらついても、カソードの温度特性のばらつきは吸収され、所望の電流密度Jを得ることができる。しかしながら、微細化の要求に伴い、電流密度Jが増加している。それに従って、カソード温度が上昇するため、カソード温度のばらつきにより、カソードの寿命が大きく変動してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、所望の電流密度Jを得るために最適なフィラメント電力(カソード温度)を求める機能を有する荷電粒子ビーム描画装置、および所望の電流密度Jを得るために最適なフィラメント電力を求めることが可能な荷電粒子ビーム描画方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、フィラメント電力によりカソードを加熱することにより放出される電子を、バイアス電圧により集束し、加速電圧により加速することにより所定のエミッション電流の荷電粒子ビームを照射する荷電粒子銃と、荷電粒子ビームの光軸に設置され、荷電粒子ビームの電流密度を測定するための検出器と、検出器と接続され、フィラメント電力およびエミッション電流を制御するための制御部と、制御部と接続され、バイアス電圧がフィラメント電力に対して飽和するバイアス飽和点における電流密度とエミッション電流との関係と、フィラメント電力とエミッション電流との関係を記憶し、設定電流密度より描画のためのエミッション電流値とフィラメント電力値を算出するための記憶演算部と、パターンが描画される試料を載置するステージと、試料上の所定の位置に、所定のパターンを形成するために荷電粒子ビームを制御する荷電粒子ビーム制御系備えることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置において、設定電流密度と、検出器により検出される電流密度を比較する判断部を備え、判断部は、検出器および制御部と接続されることが好ましい。
【0010】
また、本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法は、フィラメント電力によりカソードを加熱することにより放出される荷電粒子を、バイアス電圧により集束させ、加速電圧により加速させ、所定のエミッション電流で荷電粒子ビームを試料上に照射することにより描画を行う荷電粒子ビーム描画方法であって、予め、バイアス電圧、フィラメント電力、および前記エミッション電流との関係より、バイアス電圧がフィラメント電力に対して飽和するバイアス飽和点における、荷電粒子ビームの電流密度とエミッション電流との関係と、フィラメント電力とエミッション電流との関係を求め、電流密度とエミッション電流との関係より、設定電流密度に対応する第1のエミッション電流値を求め、フィラメント電力とエミッション電流との関係より、第1のエミッション電流値に対応する第1のフィラメント電力値を求めることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法において、第1のエミッション電流値および第1のフィラメント電力値としたときの電流密度を測定し、測定された電流密度が、設定電流密度に達していない場合、エミッション電流を第2のエミッション電流値となるように調整し、フィラメント電力とエミッション電流との関係より、第2のエミッション電流値に対応する第2のフィラメント電力値を求めることが好ましい。
【0012】
また、本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画方法において、照射された荷電粒子ビームに対するレンズの励磁量を制御することにより、電流密度を微調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、荷電粒子ビーム描画装置および荷電粒子ビーム描画方法において、所望の電流密度を得るために最適なフィラメント電力を求めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
【0015】
図1に、本実施形態の荷電粒子ビーム描画装置である熱電子放射型の電子ビーム描画装置の概念図を示す。図に示すように、電子銃10において、電子が放射されるカソード11は、フィラメント12を介して、カソード11を加熱するためのフィラメント供給電源13と接続され、フィラメント回路が構成されている。
【0016】
カソード11とフィラメント12を囲むように、カソード11の下方に開口部を有し、カソード11から放出される電子を収束・制御するためのウェネルト14が配置されている。このウェネルト14には、カソード11との間にバイアス電圧を印加するためのバイアス電源15が接続され、バイアス回路が構成されている。
【0017】
ウェネルト14の下方には、アノード16が配置され、接地されている。そして、フィラメント回路およびバイアス回路には、カソード11とアノード16との間に加速電圧が印加され、エミッション電流を供給するための加速電源17が接続されている。
【0018】
フィラメント供給電源13、バイアス電源14は、フィラメント電力およびエミッション電流を制御するための制御部18と接続されている。さらに、制御部18は、各パラメータの関係を記憶し、設定電流密度Jよりエミッション電流値とフィラメント電力値を算出するための記憶演算部19と接続されている。
【0019】
電子銃10の下方には、照射される電子ビーム20を制御するための励磁レンズなどを含む電子ビーム制御系21が設置されており、さらに描画に供される試料が載置されるステージ(図示せず)が設置されている。ステージには、併せて電流密度Jを測定するための検出器22が設置されている。検出器22は、測定された電流密度Jがスペックに入るかどうかを判断する判断部23を介して、制御部18と接続されている。
【0020】
このような電子ビーム描画装置を用いて、描画に先立ち、用いられるカソード11における最適なエミッション電流とフィラメント電力を設定する。
【0021】
図2にフローチャートを示すように、先ず、エミッション電流を例えば120〜150μAとし、それぞれフィラメント電力とバイアス電圧の関係(バイアス飽和特性)を測定する。フィラメント電力は、フィラメント供給電源13より印加される印加電圧と電流値より求められる。そして、これらをそれぞれ図3に示すようにプロットし、各エミッション電流におけるバイアス飽和点を求める(ステップ1)。このとき、バイアス飽和点は、バイアス電圧がフィラメント電力を無限大としたときのバイアス電圧の99.6%となる点とする。そして、このバイアス飽和点におけるエミッション電流とフィラメント電力の関係をプロットする(ステップ2)。
【0022】
次いで、各バイアス飽和点における条件で、電子ビーム20を検出器22に照射して電流密度Jを測定し、エミッション電流と電流密度Jの関係を、図4に示すようにプロットする(ステップ3)。
【0023】
そして、図5に示すように、各バイアス飽和点におけるフィラメント電力と電流密度Jを、エミッション電流をパラメータにして重ね合わせる(ステップ4)。これら各パラメータの関係データは、記憶演算部21において記憶される。
【0024】
次いで、電流密度Jの目標値を設定し(ステップ5)、記憶された各パラメータの関係データに基づき、記憶演算部19において設定電流密度Jにおけるエミッション電流値を求め(ステップ6)、求められたエミッション電流値に対応するフィラメント電力値を求める(ステップ7)。
【0025】
このようにして求められたエミッション電流値とフィラメント電力値で、再度電子ビーム20を検出器22に照射して電流密度Jを実測する(ステップ8)。測定された電流密度Jが、例えば目標値の±10%といったスペックに収まっているかどうかを、判断部23で判断する(ステップ9)。スペックに収まっていなければ、エミッション電流を調整し(ステップ10)、再度フィラメント電力を求める(ステップ7)。なお、このとき、制御系21におけるレンズの励磁量を調整することにより、電流密度Jを微調整してもよい。一方、スペックに収まっていれば、その条件で実描画を開始する(ステップ11)。
【0026】
先ず、電子銃10を含む電子ビーム描画装置内部を10−6Pa程度まで減圧する。カソード11にフィラメント供給電源13より、フィラメント電力が供給され、カソード11より電子が放射される。
【0027】
カソード11から放射された電子は、バイアス電源15によりウェネルト14に印加された所定のバイアス電圧により制御され、ウェネルト14直下のクロスオーバーポイントに集束されて電子ビーム20が形成される。カソード11とアノード16との間には、加速電源17により例えば50kVの加速電圧が印加されており、電子ビーム20は、アノード18に向かって加速される。
【0028】
さらに、加速された電子ビーム20を、電子ビーム制御系21により、ステージに載置され、パターンが描画される試料上の所定の位置に照射されるように、成形、調整する。成形、調整された電子ビーム20は、ステージ駆動系で制御されて、試料上に照射され、所定のパターンが描画される。
【0029】
このようにして、最適なエミッション電流値とフィラメント電力値を求めることができる。そして、フィラメント電力値が最適化されることにより、カソードの寿命を20%程度長くすることが可能となる。
【0030】
本実施形態において、荷電粒子ビームとして電子ビームを用いたが、電子ビームに限定されるものではなく、イオンビームなど、他の荷電粒子ビームを用いることも可能である。イオンビームを用いる場合、カソードで発生した熱電子がイオン銃内に導入されたArガスなどと衝突することにより、Ar+イオンが形成される。形成されたAr+イオンは、電子ビームと同様に加速され、試料上に照射され、所定のパターンが描画される。その際、同様にして、所望の電流密度Jを得るために最適なフィラメント電力に調整することができる。
【0031】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。その他要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一態様の熱電子放射型の電子ビーム描画装置の概念図。
【図2】本発明の一態様における最適なエミッション電流とフィラメント電力を設定するフローチャート。
【図3】本発明の一態様におけるフィラメント電力とバイアス電圧の関係を示す図。
【図4】本発明の一態様におけるエミッション電流とフィラメント電力の関係を示す図。
【図5】フィラメント電力と電流密度Jを、エミッション電流をパラメータとして示す図。
【符号の説明】
【0033】
10…電子銃
11…カソード
12…フィラメント
13…フィラメント供給電源
14…ウェネルト
15…バイアス電源
16…アノード
17…加速電源
18…制御部
19…記憶演算部
20…電子ビーム
21…電子ビーム制御系
22…検出器
23…判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント電力によりカソードを加熱することにより放出される電子を、バイアス電圧により集束し、加速電圧により加速することにより所定のエミッション電流の荷電粒子ビームを照射する荷電粒子銃と、
前記荷電粒子ビームの光軸に設置され、前記荷電粒子ビームの電流密度を測定するための検出器と、
前記検出器と接続され、前記フィラメント電力および前記エミッション電流を制御するための制御部と、
前記制御部と接続され、前記バイアス電圧が前記フィラメント電力に対して飽和するバイアス飽和点における前記電流密度と前記エミッション電流との関係と、前記フィラメント電力と前記エミッション電流との関係を記憶し、設定電流密度より描画のためのエミッション電流値とフィラメント電力値を算出するための記憶演算部と、
パターンが描画される試料を載置するステージと、
前記試料上の所定の位置に、所定のパターンを形成するために前記荷電粒子ビームを制御する荷電粒子ビーム制御系を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記設定電流密度と、前記検出器により検出される電流密度を比較する判断部を備え、前記判断部は、前記検出器および前記制御部と接続されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
フィラメント電力によりカソードを加熱することにより放出される電子を、バイアス電圧により集束させ、加速電圧により加速させ、所定のエミッション電流で荷電粒子ビームを試料上に照射することにより描画を行う荷電粒子ビーム描画方法であって、
予め、前記バイアス電圧、前記フィラメント電力、および前記エミッション電流との関係より、前記バイアス電圧が前記フィラメント電力に対して飽和するバイアス飽和点における、前記荷電粒子ビームの電流密度と前記エミッション電流との関係と、前記フィラメント電力と前記エミッション電流との関係を求め、
前記電流密度と前記エミッション電流との前記関係より、設定電流密度に対応する第1のエミッション電流値を求め、
前記フィラメント電力と前記エミッション電流との前記関係より、前記第1のエミッション電流値に対応する第1のフィラメント電力値を求めることを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項4】
前記第1のエミッション電流値および前記第1のフィラメント電力値としたときの電流密度を測定し、
測定された前記電流密度が、前記設定電流密度に達していない場合、前記エミッション電流を第2のエミッション電流値となるように調整し、
前記フィラメント電力と前記エミッション電流との前記関係より、前記第2のエミッション電流値に対応する第2のフィラメント電力値を求めることを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
照射された前記荷電粒子ビームに対するレンズの励磁量を制御することにより、前記電流密度を微調整することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の荷電粒子ビーム描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−62374(P2010−62374A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227080(P2008−227080)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】