説明

蒸気乾燥方法及び蒸気乾燥装置

【課題】減圧蒸気を用いてより効果の高い蒸気乾燥を行うことができる蒸気乾燥方法を提供する。
【解決手段】洗浄したワークを、溶剤を用いて乾燥する蒸気乾燥方法は、減圧された蒸気槽内において、洗浄後のワークを貯留された溶剤に浸漬する冷浴工程S10と、蒸気槽内に溶剤の減圧蒸気を充満させて蒸気エリアを形成し、冷浴工程S10後のワークを蒸気エリアに移動させて減圧蒸気中に留置する蒸気乾燥工程S20と、蒸気乾燥工程S20後に、ワークを蒸気エリアから蒸気槽内において減圧蒸気の希薄な冷却エリアに移動させ、ワーク表面の溶剤を気化させる冷却工程S30とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧蒸気を用いて洗浄後の部品を乾燥する蒸気乾燥方法、及び当該蒸気乾燥方法を実行する蒸気乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗剤等を用いて各種のワークを洗浄し、純水等を用いてリンスした後の乾燥方法として、ワークに付着した純水等をイソプロピルアルコール(IPA)等の溶剤や代替フロン等によって置換してから、置換された物質の蒸気が充満する環境下に移動させることによってワーク表面の洗浄及び乾燥を行う、いわゆる蒸気乾燥方法及び当該蒸気乾燥方法を行う蒸気乾燥装置が知られている。
【0003】
上述した置換物質の蒸気のうち、IPA等の蒸気は80℃前後の高温であるため、樹脂等の材料に対する負荷が大きい。したがって、外周を縁塗りした光学ガラス素子や、当該光学ガラス素子どうしを接合剤で貼り合わせた接合品等をワークとする蒸気乾燥には適さない。また、フッ素系溶剤は、温暖化係数が高いため環境負荷が高く、使用できない状況になりつつある。
【0004】
この問題を解決する装置として、特許文献1に記載の蒸気乾燥装置が知られている。この装置では、減圧された蒸気を使用することにより、置換物質を高温にしない状態、すなわち置換物質の溶解力が低い状態での蒸気乾燥を可能にし、耐熱性や耐薬品性の高くない樹脂等からなる被洗浄物に対しても適用可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−123658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の蒸気乾燥装置を用いた蒸気乾燥方法においては、蒸気乾燥に先立ってワークを置換物質に浸漬すること(冷浴)が行われることがある。この場合、充分な蒸気乾燥効果を得るためには、冷浴後直ちに蒸気乾燥が行われることが好ましい。
しかしながら、特許文献1に記載の蒸気乾燥装置では、減圧蒸気を用いるために、冷浴後のワークを蒸気槽内に移動させた後、蒸気槽内の減圧を行ってから蒸気を充満させる必要がある。その結果、冷浴から蒸気乾燥までの間にタイムラグが発生し、高い洗浄度が要求される光学ガラス素子等のワークを乾燥する場合、効果が充分得られないことがあるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、減圧蒸気を用いてより効果の高い蒸気乾燥を行うことができる蒸気乾燥方法、及び当該蒸気乾燥方法を実行可能な蒸気乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、洗浄したワークを、溶剤を用いて乾燥する蒸気乾燥方法であって、減圧された蒸気槽内において、洗浄後の前記ワークを貯留された前記溶剤に浸漬する冷浴工程と、前記蒸気槽内に前記溶剤の減圧蒸気を充満させて蒸気エリアを形成し、前記冷浴工程後の前記ワークを前記蒸気エリアに移動させて前記減圧蒸気中に留置する蒸気乾燥工程と、前記蒸気乾燥工程後に、前記ワークを前記蒸気エリアから前記蒸気槽内において前記減圧蒸気の希薄な冷却エリアに移動させ、前記ワーク表面の前記溶剤を気化させる冷却工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
なお、本発明において「ワーク」とは、単独の部品、及び複数の部品が組み合わされた製品又は半製品を含む。
【0010】
本発明の蒸気乾燥方法によれば、減圧された蒸気槽内において、冷浴工程後のワークが減圧蒸気を用いて直ちに蒸気乾燥工程に移行するため、より効果的な蒸気乾燥が行われる。
【0011】
前記冷浴工程において、貯留された前記溶剤の温度は、前記蒸気乾燥工程において用いられる前記減圧蒸気の温度よりも5℃以上低く設定されてもよい。この場合、ワーク表面の溶剤をより効率よく乾燥させることができる。
【0012】
前記冷却工程において、前記ワークは秒速3ミリメートル(mm/s)以上50mm/s以下で前記蒸気エリアから前記冷却エリアへ移動されてもよい。
また、前記冷却エリアの温度は、前記蒸気エリアの温度よりも5℃以上低く設定されてもよい。
【0013】
本発明の第2の態様は、洗浄したワークを、溶剤を用いて乾燥させる蒸気乾燥装置であって、内部を減圧可能に構成され、前記溶剤が貯留される冷浴部を有する蒸気槽と、前記蒸気槽と接続され、前記蒸気槽に前記溶剤の減圧蒸気を供給可能に構成された減圧蒸気供給部と、前記減圧蒸気を冷却して、前記蒸気槽内を前記減圧蒸気が充満された蒸気エリアと前記減圧蒸気の希薄な冷却エリアとに分割する冷却部と、前記冷浴部、前記蒸気エリア、及び前記冷却エリアに前記ワークを移動可能に構成された移動機構とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の蒸気乾燥装置によれば、蒸気槽内の冷浴部で冷浴されたワークを、蒸気槽内に導入した減圧蒸気を用いて速やかに蒸気乾燥を行うことができる。
【0015】
本発明の蒸気乾燥装置は、前記減圧蒸気供給部と前記冷浴部との間に設けられた断熱部をさらに備え、前記減圧蒸気供給部は、前記蒸気槽の内部に形成されてもよい。この場合、速やかに蒸気槽内に減圧蒸気を導入することができ、かつ冷浴部に貯留された溶剤が減圧蒸気供給部によって加熱されるのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の蒸気乾燥方法及び蒸気乾燥装置によれば、減圧蒸気を用いてより効果の高い蒸気乾燥を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の蒸気乾燥装置の構成を示す図である。
【図2】同蒸気乾燥装置を用いた蒸気乾燥方法の流れを示すフローチャートである。
【図3】同蒸気乾燥装置の使用時の動作を示す図である。
【図4】各種溶剤の飽和蒸気曲線を示すグラフである。
【図5】同蒸気乾燥装置の使用時の動作を示す図である。
【図6】同蒸気乾燥装置の使用時の動作を示す図である。
【図7】同蒸気乾燥装置の使用時の動作を示す図である。
【図8】同蒸気乾燥装置の使用時の動作を示す図である。である。
【図9】同蒸気乾燥装置の使用時の動作を示す図である。である。
【図10】本発明の第2実施形態の蒸気乾燥装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1実施形態について、図1から図9を参照して説明する。図1は、本実施形態の蒸気乾燥方法を実行する蒸気乾燥装置1の構成を示す図である。
蒸気乾燥装置1は、各種のワークWを蒸気乾燥するものであり、内部空間を減圧可能に構成された蒸気槽10と、蒸気槽10と接続された蒸気発生槽(減圧蒸気供給部)20と、蒸気槽10の内部環境を調節する調節部30とを備えている。
【0019】
蒸気槽10は、上部に自動の蓋11を有し、後述する調節部30のエダクターを介して内部空間を減圧することが可能に構成されている。
蒸気槽10の内部には、ワークWを冷浴するための冷浴部12と、内部空間を蒸気エリアと冷却エリアに分けるための冷却管(冷却部)13と、ワークを蒸気槽10の内部で移動させるための移動機構14とを備えている。
【0020】
冷浴部12は、蒸気槽10の下部に設けられており、内部にイソプロピルアルコール(IPA)等の溶剤100が貯留される。冷浴部12に貯留される溶剤は、蒸気乾燥に用いられる公知のものが適宜選択されてよい。また、冷浴部12の内面には冷却管15が配置されており、相対的に高温の減圧蒸気が蒸気槽10内に導入されても、貯留された溶剤100の温度が一定に保たれる。
【0021】
冷却管13は、蒸気槽10内において蓋11に近い上部の所定位置に取り付けられている。冷却管13は、蒸気槽10内に導入された溶剤の減圧蒸気を冷却する。冷却された溶剤は、液化して下方に落下するため、冷却管13より蓋11側の領域は、減圧蒸気の希薄な冷却エリアA2(図3参照)となり、冷却13よりも下方の領域は、減圧蒸気が充満する蒸気エリアA1(図3参照)となる。すなわち、冷却管13によって、蒸気槽10の内部空間が蒸気エリアA1と冷却エリアA2とに分割されており、冷却エリアA2の減圧蒸気の密度は、蒸気エリアA1のそれよりも小さい。
【0022】
移動機構14は、例えばアームやステージ等を有する公知のものを採用することができ、ワークWを冷浴部12内、蒸気エリアA1、及び冷却エリアA2の間で移動させることができる。
さらに、蒸気槽10には内部の圧力を調整するためのリークバルブ16が取り付けられている。
【0023】
蒸気発生槽20は、溶剤を加熱する加熱部21を有している。加熱部21としては公知のヒータ等を好適に採用することができる。
蒸気発生槽20は、導入パイプ22及び供給パイプ23を介して蒸気槽10と気密的に接続されている。そして、冷浴部12に貯留された溶剤の一部が供給パイプ23を通って蒸気発生槽20に供給され、加熱部21によって加熱され、蒸気となる。発生した蒸気は、導入パイプ22を通って蒸気槽10の内部に導入される。
導入パイプ22及び供給パイプ23には、それぞれ弁24及び弁25が取り付けられており、溶剤及び蒸気の流通のオンオフを切り替え可能となっている。
【0024】
調節部30は、蒸気槽10の真空引きをするためのエダクター31と、蒸気槽10に供給する溶剤が貯留される封液槽32とを備えている。
エダクター31は吸引パイプ33を介して蒸気槽10と気密的に接続されており、ポンプ34を動作させることによって蒸気槽10の真空引きを行うことができる。なお、真空引きを行う手段として、真空ポンプが使用されても良い。
封液槽32は、パイプ35を介して蒸気槽10の冷浴部12と接続される一方、エダクター31及びポンプ34とも回路を構成している。吸引パイプ33及びパイプ35にも、それぞれ弁36及び弁37が取り付けられている。
蒸気槽10のリークバルブ16、蒸気槽10と蒸気発生槽20との接続部位に設けられた弁24、25、及び蒸気槽10と調節部30との接続部位に設けられた弁36、37は、いずれも図示しない制御部に接続されており、自動で開閉可能となっている。
【0025】
上記のように構成された本実施形態の蒸気乾燥装置1の使用時の動作について説明する。
図2は蒸気乾燥装置1を用いて行われる、本実施形態の蒸気乾燥方法の流れを示すフローチャートである。この蒸気乾燥方法は、洗浄後のワークを蒸気槽10に入れて冷浴する冷浴工程S10と、冷浴後のワークを減圧蒸気で蒸気乾燥する蒸気乾燥工程S20と、蒸気乾燥後にワークを冷却してワーク表面の溶剤を気化させる冷却工程S30と、冷却工程後のワークを蒸気槽10から取り出す取出工程S40とを備えている。
【0026】
まずステップS10の冷浴工程において、図1に示すように、ユーザは蒸気槽10の蓋11を開け、洗浄剤による洗浄及びリンスが終了したワークWを蒸気槽10内部の移動機構14に設置する。ユーザが蓋11を閉めると、図示しない制御部によって弁37が開き、封液槽32から蒸気槽10内の冷浴部12に溶剤100が供給され、冷浴部12内に貯留される。このとき、弁25も並行して開き、冷浴部12内の溶剤の一部が蒸気発生槽20内に供給される。
【0027】
冷浴部12に所定量の溶剤100が貯留されると、移動機構14が冷浴部12に移動してワークWが溶剤100に浸漬される。このようにして所定時間ワークWの冷浴が行われる。ワークWは、例えば、貯留された溶剤100と同程度の温度となるように溶剤100に浸漬される。
なお、冷浴工程S10においては、弁36及び弁24は閉じられており、かつリークバルブ16は開かれているので、蒸気槽10の内部はまだ減圧されていない。
【0028】
冷浴工程S10と並行して、続く蒸気洗浄工程S20の準備が行われる。
具体的には、図3に示すように、弁37及びリークバルブ16が閉じられてから弁36及び弁24が開かれ、調節部30のエダクター31が作動されて蒸気槽10及び気密的に接続された蒸気発生槽20の真空引きが行われる。これによって蒸気槽10及び蒸気発生槽20の内部が所定の圧力となるまで減圧されるとともに、蒸気発生槽20内で加熱部21によって加熱された溶剤は、蒸気となって蒸気槽10内に導入される。このとき、蒸気槽10及び蒸気発生槽20の内部は減圧されているため、溶剤100の沸点が下がり、大気圧下における蒸気よりも低温の蒸気が蒸気槽10内に充満する。
なお、減圧の目標値は、図4に示すような各溶剤の飽和蒸気圧曲線に基づいて、選択した溶剤における設定したい蒸気温度に対応する圧力まで減圧されるように設定すればよい。
【0029】
ここで処理はステップS20に移る。蒸気槽10内に充満した減圧蒸気は、蓋11側の冷却管13によって冷却され、上述のように蒸気槽10の内部が蒸気エリアA1と冷却エリアA2に分割される。
そして、蒸気エリアA1が形成されたところで、図5に示すように、移動機構14がワークWを蒸気エリアA1内に移動し、減圧蒸気によってワークWの蒸気乾燥が行われる。
【0030】
ステップS30の冷却工程では、図6に示すように、移動機構14が所定の速度で移動してワークWを蒸気エリアA1から冷却エリアA2に移動させる。そして、図7に示すように、弁24、25が閉じられて蒸気槽10への減圧蒸気の供給が停止され、ワークWが冷却エリアA2に所定時間放置される。この間に、ワークWは冷却エリアA2で徐々に冷却されると共に、ワークW表面の溶剤が気化して蒸気乾燥が完了する。
【0031】
その後、ステップS40の取出工程において、図8に示すように、弁36が閉じられるとともにリークバルブ16が開かれ、蒸気槽10の内部が大気圧と同等の常圧に戻される。蒸気槽10内が常圧に戻った後、蓋11が開かれ、ワークWが取り出される。その後継続して蒸気乾燥を行う場合は、必要に応じて、図9に示すように弁37及び弁25を開いて、冷浴部12及び蒸気発生槽20内の溶剤100の量を調整してもよい。
【0032】
本実施形態の蒸気乾燥装置1を用いて蒸気乾燥を行った場合と、大気圧下における一般的な蒸気乾燥との比較実験を行った。この比較実験においては、直径50mmの光学ガラス素子で、外周に黒色の縁取り塗料が塗られたものと、当該光学ガラス素子が接着剤によって複数個接合されたものとの2種類のワークを使用した。溶剤としてはIPAを使用し、蒸気乾燥装置1では減圧蒸気の温度を50℃及び40℃の2種類設定した。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、大気圧下においては、IPAの蒸気温度は83℃であり、高温にさらされたためにワークの縁取り塗料や接着剤に変質等のダメージが見られ、ワークに設定された要求品質を保持することができなかった。また、蒸気乾燥後、触れられる程度の温度まで冷却されるのに2分程度を要した。さらに、蒸気が高温であるため、爆発や火災等に対する注意が必要であった。
【0035】
これに対し、蒸気乾燥装置1を用いた場合、40℃及び50℃のいずれの蒸気温度においても縁取り塗料や接着剤へのダメージは見られず、ワークの品質が保持されていた。また、蒸気乾燥終了後はすぐにワークに触れることができ、速やかに蒸気槽10から取り出すことができた。さらに、火災等の危険性は低く、安全に作業を行うことができた。
【0036】
本実施形態の蒸気乾燥装置1を用いた蒸気乾燥方法によれば、ステップS10の冷浴工程において、減圧された蒸気槽10内に設けられた冷浴部12でワークの冷浴が行われる。そしてステップS20の蒸気乾燥工程で蒸気槽10内に溶剤の減圧蒸気が導入され、冷浴後のワークが直ちに蒸気エリアA1に移動されて蒸気乾燥が行われる。
したがって、減圧蒸気を用いながらも冷浴後すぐにワークを蒸気洗浄できるため、樹脂等の材料を含んで形成されるワークであっても、品質を損なうことなくより効果的に蒸気乾燥を行うことができる。
【0037】
本実施形態の蒸気乾燥方法においては、冷浴部12内に貯留される溶剤の温度や、移動機構の移動速度等を適切に設定することによってさらに蒸気乾燥の質を向上させることが可能である。以下、具体例を示す。
【0038】
下記表2は、冷浴部12内の溶剤100の温度と減圧蒸気の温度との差について検討した結果を示す表である。両者の温度差が2℃の場合はワーク表面に若干の乾燥染みが観察され、蒸気槽10から取り出した後に手拭きが必要であった(以下、この状態を「乾燥染みあり」と表記し、表2以降の各表において「△」で示す。)が、両者の温度差が5℃以上の場合は、ワーク表面に乾燥染みは見られず、手拭き工程を必要としない程度の仕上がりであった(以下、この状態を「良好」と表記し、表2以降の各表において「○」で示す。)。したがって、冷浴部12内の溶剤100の温度と減圧蒸気の温度との差が5℃以上に設定されると、蒸気乾燥の品質が向上し、好ましいことが示された。
【0039】
【表2】

【0040】
下記表3は、ワークが蒸気エリアA1から冷却エリアA2に移動するときの移動機構14の移動速度について検討した結果を示す表である。移動速度が80mm/s以上の場合で、ワークが「乾燥染みあり」の状態となったが、大気圧下では蒸気乾燥の仕上がりに影響が出る場合がある50mm/sの移動速度においても仕上がりは「良好」であった。
したがって、本実施形態の蒸気乾燥方法では、50mm/s以下の速度でワークが蒸気エリアA1から冷却エリアA2に移動されるのが好適であることが示された、また、この範囲内であれば、一般的な蒸気乾燥方法における移動速度である3mm/s以上でワークが移動されても問題はなく、この範囲内であれば、移動速度を上げるほど蒸気乾燥に要する時間をより短縮できることができ、より好ましいと考えられた。
【0041】
【表3】

【0042】
下記表4は、蒸気エリアA1と冷却エリアA2との温度差について検討した結果を示す表である。両者が同等の温度である場合は、ワークが「乾燥染みあり」の状態となったが、両者の温度差が5℃以上の場合は、ワークの仕上がりは「良好」であった。したがって、蒸気エリアA1と冷却エリアA2との温度差が5℃以上に設定されると、蒸気乾燥の品質が向上し、好ましいことが示された。
【0043】
【表4】

【0044】
次に、本発明の第2実施形態について、図10を参照して説明する。本実施形態の蒸気乾燥装置41と、上述の第1実施形態の蒸気乾燥装置1との異なるところは、蒸気発生槽が蒸気槽の内部に設けられている点である。なお、上述の第1実施形態と共通する構成には、同一の符号を付して共通する説明を省略する。
【0045】
図10は本実施形態の蒸気乾燥装置41の構成を示す図である。蒸気発生槽42は、蒸気槽10の内部において、冷浴部12と隣接して設けられている。蒸気発生槽42と冷浴部12との間は隔壁43で仕切られている。隔壁43には断熱材等を用いて断熱部44が設けられており、減圧蒸気発生時に加熱される蒸気発生槽42内の溶剤100の熱が、冷浴部12に伝わりにくくなっている。
溶剤は、パイプ35からまず冷浴部12に供給される。溶剤が冷浴部12に満量たまると、隔壁43を越えてオーバーフローし、蒸気発生槽42へ供給される。
【0046】
上記のように構成された蒸気乾燥装置41においては、蒸気乾燥工程S20において、ワークWの冷浴と並行しながら蒸気発生槽42で減圧蒸気が発生される。発生した減圧蒸気はそのまま蒸気槽10内を上昇して蒸気エリアA1に減圧蒸気が充満する。
【0047】
本実施形態の蒸気乾燥装置41においても、上述の蒸気乾燥装置1と同様に、冷浴後のワークWに対してただちに減圧蒸気による蒸気乾燥を行うことができる。
また、蒸気槽10内に蒸気発生槽42が設けられているので、蒸気槽と蒸気発生槽とを接続するためのパイプや弁等が必要なく、より装置構成や使用時の制御を簡素にすることができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
例えば、上述の各実施形態においては、ワークが光学ガラス素子からなる例を説明したが、本発明の蒸気乾燥方法及び蒸気乾燥装置の適用対象はこれには限定されず、高温の溶剤蒸気では品質が損なわれたり、より高い洗浄品質が求められたりするような他のワークに対しても問題なく適用することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1、41 洗浄乾燥装置
10 蒸気槽
12 冷浴部
13 冷却管(冷却部)
14 移動機構
20、42 蒸気発生槽(減圧蒸気供給部)
44 断熱部
100 溶剤
A1 蒸気エリア
A2 冷却エリア
S10 冷浴工程
S20 蒸気乾燥工程
S30 冷却工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄したワークを、溶剤を用いて乾燥する蒸気乾燥方法であって、
減圧された蒸気槽内において、洗浄後の前記ワークを貯留された前記溶剤に浸漬する冷浴工程と、
前記蒸気槽内に前記溶剤の減圧蒸気を充満させて蒸気エリアを形成し、前記冷浴工程後の前記ワークを前記蒸気エリアに移動させて前記減圧蒸気中に留置する蒸気乾燥工程と、
前記蒸気乾燥工程後に、前記ワークを前記蒸気エリアから前記蒸気槽内において前記減圧蒸気の希薄な冷却エリアに移動させ、前記ワーク表面の前記溶剤を気化させる冷却工程と、
を備えることを特徴とする蒸気乾燥方法。
【請求項2】
前記冷浴工程において、貯留された前記溶剤の温度は、前記蒸気乾燥工程において用いられる前記減圧蒸気の温度よりも5℃以上低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の蒸気乾燥方法。
【請求項3】
前記冷却工程において、前記ワークは秒速3ミリメートル以上50ミリメートル以下で前記蒸気エリアから前記冷却エリアへ移動されることを特徴とする請求項1の蒸気乾燥方法。
【請求項4】
前記冷却エリアの温度は、前記蒸気エリアの温度よりも5℃以上低く設定されていることを特徴とする請求項1に記載の蒸気乾燥方法。
【請求項5】
洗浄したワークを、溶剤を用いて乾燥させる蒸気乾燥装置であって、
内部を減圧可能に構成され、前記溶剤が貯留される冷浴部を有する蒸気槽と、
前記蒸気槽と接続され、前記蒸気槽に前記溶剤の減圧蒸気を供給可能に構成された減圧蒸気供給部と、
前記減圧蒸気を冷却して、前記蒸気槽内を前記減圧蒸気が充満された蒸気エリアと前記減圧蒸気の希薄な冷却エリアとに分割する冷却部と、
前記冷浴部、前記蒸気エリア、及び前記冷却エリアに前記ワークを移動可能に構成された移動機構と、
を備えることを特徴とする蒸気乾燥装置。
【請求項6】
前記減圧蒸気供給部と前記冷浴部との間に設けられた断熱部をさらに備え、
前記減圧蒸気供給部は、前記蒸気槽の内部に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の蒸気乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−190519(P2010−190519A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36888(P2009−36888)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】