説明

蒸着装置および有機EL素子

【課題】1枚の基板内に複数個の有機EL素子を配した場合、基板の所定の領域に配された有機EL素子に所定の膜厚を成膜することが可能な、蒸着装置およびそれを用いて作製された有機EL素子を提供する。
【解決手段】蒸着源により蒸着材料を気化させて、基板にマスクを用いて所望の形状に膜形成を行う蒸着装置において、前記基板およびマスクの蒸着源側に、膜形成を行いたい領域部分に開口を設けたシャッターマスクを配することを特徴とする蒸着装置、およびそれを用いて製造した有機EL素子を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着装置およびそれを用いて作製された有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜技術はエレクトロニクスをハード面で支えている最重要技術である。近年、エレクトロニクスを構成するデバイスの最小寸法はナノメートルの領域へと移行してきている。このようなデバイスを実現するには、材料は必然的に薄膜となり、材料作製に関してはナノメートルからオングストロームの制御性を必要とするようになってきている。一方、工業的には、生産性を損なわずに材料・デバイスを高度化せねばならず、原子レベルの制御性を有するとともに、十分な薄膜形成速度を有する技術が要求される。さらに、デバイスの機能の多様化が進むため、制御対象となる薄膜形成材料も、半導体、磁性体、絶縁体、酸化物、誘電体、金属、超誘電体など広範囲になってきている。
【0003】
こうして積層される薄膜は例えば液晶表示装置やエレクトロルミネッセンス表示装置等の表示デバイスの電極や機能性薄膜、プリント配線板の配線や、プリント配線板に作り込みで形成される受動素子のための抵抗皮膜や高誘電皮膜、光学特性や分子透過を制御するためのフィルム等を挙げることができる。
【0004】
このように薄膜技術を応用したデバイス中でも、有機EL素子は、例えばアクティブマトリクス型の表示装置の画素に利用することが可能であり、液晶ディスプレイに変わる次世代フラットディスプレイとして有望視されている。従来の有機EL素子の構成は、ガラス基板上に透明電極からなる陽極を形成し、その上に有機層を積層した後、金属からなる陰極を形成する。これにより、ダイオード構造の有機EL素子が得られる。陰極は例えばアルミニウムやマグネシウムと銀の合金からなる。有機層は基本的に正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層を積層したものである。かかる構成において、陰極および陽極から各々電子と正孔を注入し、電子輸送層および正孔輸送層を介して、発光層で電子と正孔が再結合し発光する。
【0005】
有機EL素子の各層の成膜方法としては真空蒸着法が用いられる。真空蒸着法とはプラズマ蒸着法より前に実用化された成膜技術で、装置の構造が簡単、シャッターなどで膜厚制御が容易、高真空中で純度の高い成膜が行える、プラズマ蒸着法のようなプラズマによる試料の損傷がないといった特長がある。
【0006】
真空蒸着法にはいくつかのプロセスがある。まず、チャンバー全体を真空状態にして蒸着材料を加熱・溶融して溶湯とし、気化させる。なお、溶湯とは蒸着源内にある溶融状態の蒸着材料を指す。次いで気体分子となった蒸着材料が被蒸着物(基板)に衝突、付着することで薄膜が形成される。蒸着材料を加熱・溶融する方法には抵抗加熱式、電子ビーム式、高周波誘導式、レーザ式などがある。蒸着材料分子が被蒸着物に達する前にチャンバー内の残存気体分子に衝突しないよう、また、気体分子自体が被蒸着物に衝突しないよう、プラズマ蒸着法(数Pa)より高い真空度(10-2〜10-4Pa)が必要となる。
【0007】
有機EL素子の研究、開発においては、層を構成する材料の最適化が重要となるが、層の膜厚、すなわち発光層および陰極等の膜厚によっても電子および正孔のキャリア注入バランスが変化するため、各層の膜厚を変化させて有機EL素子を作製し、評価を行う必要がある。
【0008】
有機EL素子の研究、開発段階で用いられる蒸着装置としてはクラスタ方式のものが用
いられる。クラスタ方式の装置は、中央に基板を受け渡すための真空チャンバーを設置、その周辺に基板を導入するためのロードロック室、基板とマスクの合体を行うアライメント室、蒸着を行うための蒸着室、封止作業を行うための封止室を配置する。真空チャンバーに導入された基板は、アライメント室から蒸着室、封止室へと一枚一枚ロボットアームにより搬送される。プロセスチャンバーを自由に配置できるため、プロセス変更など柔軟に対応できる。しかしながら、ロボットアームによる基板の受け渡しは、タクトタイムを長くするため、有機EL素子の各層の膜厚を変化させる場合、変化させる膜厚分だけ基板枚数が必要となり、時間が長くなって開発スピードを遅らせる要因となっていた。
【特許文献1】特開2004−119064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、1枚の基板内に複数個の有機EL素子を配した場合、基板の所定の領域に配された有機EL素子に所定の膜厚を成膜することが可能な、蒸着装置およびそれを用いて作製された有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題を解決するためになされた第1の発明は、蒸着源により蒸着材料を気化させて、基板にマスクを用いて所望の形状に膜形成を行う蒸着装置において、前記基板およびマスクの蒸着源側に、膜形成を行いたい領域部分に開口を設けたシャッターマスクを配することを特徴とする蒸着装置である。
【0011】
本発明の課題を解決するためになされた第2の発明は、前記シャッターマスクは、前記基板およびマスクからなるユニットからでたフックにより支持され、基板およびマスクからなるユニットと連動して回転することが可能であることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置である。
【0012】
本発明の課題を解決するためになされた第3の発明は、前記シャッターマスクは、搬送機構により取り外しが可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着装置である。
【0013】
本発明の課題を解決するためになされた第4の発明は、前記シャッターマスクの厚みは1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸着装置である。
【0014】
本発明の課題を解決するためになされた第5の発明は、前記シャッターマスクは金属からなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蒸着装置である。
【0015】
本発明の課題を解決するためになされた第6の発明は、陽極と、陰極と、両者の間に形成された有機層とからなり、前記有機層は前記陽極から供給される正孔と前記陰極から供給される電子との再結合によって発光する発光層を含んでいる有機EL素子であって、請求項1乃至5のいずれかに記載の蒸着装置を用いて作製されることを特徴とする有機EL素子である。
【発明の効果】
【0016】
基板内に複数個の有機EL素子を配した場合、基板およびマスクの蒸着源側に、開口を設けたシャッターマスクを配することで、成膜したい領域にある有機EL素子にはマスクの開口部とシャッターマスクの開口部の位置を合わせることで成膜し、成膜したくない領
域にある有機EL素子にはマスクの開口部を遮蔽するようにシャッターマスクの位置を合わせる。このように、マスクとシャッターマスクのお互いの位置関係を調整することで、一枚の基板内において所定の領域にある有機EL素子に所定の膜厚を積層することができた。
【0017】
また、シャッターマスクは、基板およびマスクからなるユニットからでたフックにより支持されるため、基板およびマスクからなるユニットと連動して動作することが可能である。そのため、膜厚の面内均一性を図るために基板が回転するような機構が設けられた蒸着装置においても、シャッターマスクが基板およびマスクと連動して回転するためにマスクとシャッターマスクの位置関係を変えることなく成膜作業をすることができた。
【0018】
さらに、シャッターマスクは成膜したくない領域にある有機EL素子に蒸着物が回りこまないように、マスクと一定の間隔をとって配置されればよく、ロボットアームなどの搬送機構により取り外しが可能であるため、簡便に膜厚の調整をすることができた。
【0019】
シャッターマスクの材質は金属からなり、厚みは成膜したい領域に蒸着物質が到達するのを妨げない程度の厚さであれば用いることができるため、通常のマスクのようなエッジングによる微細な開口パターン形成および開口断面のテーパー形状の形成を行う必要がなく、製造コストを安く作製することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態に関わる蒸着装置と有機EL素子の例を図面に示し、詳細に説明する。
【0021】
まず、蒸着装置について説明する。図1は蒸着装置の説明図である。同図において、1は真空チャンバー、2はセルシャッター、3は基板シャッター、4は基板、5はバッキングプレート、6は蒸着材料、7は蒸着源、8は排気ポンプ、9はマスク、10は本発明のシャッターマスクである。
【0022】
真空チャンバー1内の下部には、蒸着材料6を仕込み加熱により蒸発させる壺型状の蒸着源7が設けられている。この蒸着源7には電力供給ラインを通じて電力を供給する電源が真空チャンバー1の外部に設けられている。ここで、蒸着材料6としては、例えば有機材料や金属材料等を使用することができる。蒸着源7の開口部上方近傍には、蒸着材料6の蒸着レートのON/OFFを実質的にコントロールするためのセルシャッター2が配置されている。また、真空チャンバー1の上部には、基板4を下方に固定するバッキングプレート5が配置されている。このバッキングプレート5内部には基板4を冷却するための冷却水が流れている。また、バッキングプレート5は基板4に成膜される蒸着膜の面内膜厚均一性を図る機構として、回転機構を備えている場合がある。基板4の蒸着面と蒸着源7の間には、基板4の蒸着面に蒸着材料6を積層させるタイミングを実質的にコントロールするための基板シャッター3が配置されている。基板シャッター3と基板4の間には所望の開口パターンを有したマスク9が設置される。ここで、本発明のシャッターマスク10は、基板4およびマスク9からなるユニットからでたフック11により支持されている。フック11はシャッターマスク10をマスク9下に挿入し、支持することが可能で、蒸着の妨げとならないものであればよい。また、シャッターマスク10は例えばロボットアームなどの搬送機構によって取り外しが可能である。もしくは、搬送機構とは別に蒸着室内にシャッターマスクを取り外せる機構を設けることもできる。さらに、シャッターマスクが基板およびマスクと連動して回転することができるためにマスクとシャッターマスクの位置関係を変えることなく成膜作業ができるため好ましい。
【0023】
次に、図2は本発明の蒸着装置で成膜される有機EL素子の説明図である。例えばガラ
ス等の透明な材質からなる基板21の上に例えばITO(Indium−Tin−Oxide)等の透明導電膜からなる陽極22を形成する。その上に正孔輸送層23および発光層24等からなる有機層を重ねた後、第一陰極25および第二陰極26を形成する。有機層は多層構造とすることもでき、陽極12から供給される正孔と第二陰極26から供給される電子との再結合によって発光する発光層24を含んでいることを条件とする。第一陰極25は電子が効率的に注入できるように、仕事関数の低い金属薄膜が好ましい。例えば、仕事関数の低いアルミニウムとリチウムの合金或いはマグネシウムと銀の合金を10nm程度に薄く成膜する。また、第二陰極26は薄い金属膜からなる第一陰極の保護と、配線抵抗の低抵抗化の役目を果たす。
【0024】
図2で示したような有機EL素子を、図3に示すように基板4に複数配する。ここで、基板4は例えば金属からなり、有機EL素子17をはめ込めるようなホルダー状となっている。
【0025】
また、図4に本発明のシャッターマスクの説明図を示す。シャッターマスク10は開口部18を有する。シャッターマスク10の材質は耐衝撃性などの面から金属であることが好ましい。また、厚みは1mm以上5mm以下であることが好ましい。これは1mm以下であると、基板4およびマスク9からなるユニットからでたフックにより支持されたときに反りが発生する可能性があるからであり、5mm以上であると、成膜したい領域に蒸着物質が到達するのを妨げる可能性があるからである。
【0026】
図5に蒸着源7側から見た基板4およびマスク9からなるユニットとシャッターマスク10を重ね合わせた場合の説明図である。ここで、シャッターマスク10の開口部18と重なった第一領域19に存在する有機EL素子については、蒸着源7から放出される蒸着材料6が付着して成膜される。一方、第二領域20に存在する有機EL素子はシャッターマスクにより蒸着物質が遮断されるため、成膜は行われない。ここで、シャッターマスクは成膜したくない領域にある有機EL素子に蒸着物が回りこまないように、マスクと一定の間隔をとって配置されることが好ましい。
【0027】
次に、実際に本発明の蒸着装置で有機EL素子の成膜を行う際の作業手順について説明する。有機EL素子17を基板4にはめ込み(図3)マスク9と合体させたユニットを、蒸着を行う真空チャンバー1に搬入する(図1)。ここで、例えば第一陰極25の厚さが5nm、10nmとなるような有機EL素子を作製する場合について説明する。セルシャッター2と基板シャッター3(図1)を開けて発光層24(図2)まで成膜作業を行った後、第一陰極25を5nmまで成膜する。その後、一旦基板シャッター3を閉じ、シャッターマスク10を例えばロボットアームを用いて導入し、また基板シャッター3を開いて5nm成膜する。以上の作業を行うことによって、第一領域19に存在する有機EL素子には第一陰極が10nm成膜され、第二領域20に存在する有機EL素子には第一陰極が5nm成膜される。これにより、従来は有機EL素子の各層の膜厚を変化させる場合、変化させる膜厚分だけ基板枚数が必要となっていたのが、シャッターマスクを用いることにより、基板一枚内で膜厚を変化させることができるため、作業時間を大幅に短縮することが可能となる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例について述べる。
【0029】
本実施形態の有機EL素子は、ガラス基板上に反射層およびITOを成膜し、その上に正孔輸送層としてPEDOT:PSSを、発光層としてMEHPPV(メトキシエチルヘキシロキシポリフェニルビニレン)を積層した。ここで、PEDOT:PSSの膜厚が50nm、MEHPPVの膜厚が80nmとなるようにスピン成膜した。さらにその上に電
子が効率的に注入できるような仕事関数の低い第一の陰極としてカルシウムを成膜し、その上に第二の陰極としてアルミニウムを150nmの厚さで成膜した。ここで、本発明の蒸着装置を用いて、第一陰極のカルシウムの膜厚が5nm、10nmとなるような2種類の有機EL素子を作製する。
【0030】
本実施形態の蒸着装置はクラスタ方式で、蒸着源としてPBN(熱分解窒化ホウ素)で形成された蒸着るつぼに蒸着材料を仕込みタンタルヒーターを用いて蒸着るつぼを加熱する方式であり、蒸着作業時の真空度は3×10-4Paとした。また、シャッターマスクの材質はステンレスを用い、厚さは2mmとした。発光層まで成膜した有機EL素子をステンレス製の基板に4行4列の計16個配し、アライメント室で基板とマスクを合体させた後、ロボットアームを用いて蒸着室に導入した。ここで、第一の陰極としてカルシウムを650℃で加熱し5nmまで成膜した。その後、一旦基板シャッターを閉じ、シャッターマスクを、ロボットアームを用いて導入し、基板シャッターを開いて5nm成膜した。シャッターマスクの開口部は基板に配された2行4列の計8個が存在する領域と重なるように設けられている。次に、シャッターマスクをロボットアームによって取り外し、アルミニウムを1480℃で加熱して150nm成膜した。以上の作業を行うことによって、一枚の基板内に第一陰極のカルシウムが5nmの有機EL素子が8枚と、10nmの有機EL素子が8枚作製できた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る蒸着装置の概念断面図である。
【図2】本発明に係る蒸着装置で成膜される有機EL素子の概念断面図である。
【図3】本発明に係る蒸着装置の基板上の有機EL素子の概念正面図である。
【図4】本発明に係る蒸着装置のシャッターマスクの概念正面図である。
【図5】本発明に係る蒸着装置の概念断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 真空チャンバー
2 セルシャッター
3 基板シャッター
4 基板
5 バッキングプレート
6 蒸着材料
7 蒸着源
8 排気ポンプ
9 マスク
10 シャッターマスク
11 フック
17 有機EL素子
18 開口部
19 第一領域
20 第二領域
21 基板
22 陽極
23 正孔輸送層
24 発光層
25 第一陰極
26 第二陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着源により蒸着材料を気化させて、基板にマスクを用いて所望の形状に膜形成を行う蒸着装置において、前記基板およびマスクの蒸着源側に、膜形成を行いたい領域部分に開口を設けたシャッターマスクを配することを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記シャッターマスクは、前記基板およびマスクからなるユニットからでたフックにより支持され、基板およびマスクからなるユニットと連動して回転することが可能であることを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記シャッターマスクは、搬送機構により取り外しが可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記シャッターマスクの厚みは1mm以上5mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記シャッターマスクは金属からなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の蒸着装置。
【請求項6】
陽極と、陰極と、両者の間に形成された有機層とからなり、前記有機層は前記陽極から供給される正孔と前記陰極から供給される電子との再結合によって発光する発光層を含んでいる有機EL素子であって、
請求項1乃至5のいずれかに記載の蒸着装置を用いて作製されることを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−293675(P2008−293675A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135227(P2007−135227)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】