説明

薄膜の成膜装置

【課題】 従来より低コスト、小型で、筒状治具を自転させながら蒸着原料の周りを公転させつつ移動させる装置が必要なく、また試料の一部分に成膜の不要な箇所がある場合にその箇所にマスキング等が不要な、膜厚の均一性が高い薄膜を成膜する薄膜の成膜装置を提供すること。
【解決手段】 真空の炉体2内でターゲット8(蒸着原料)をプラズマ化させ、試料4の表面に膜を形成する薄膜の成膜装置1で、試料4の表面に窒素ガス(不活性ガス)を供給するガス供給装置6を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に関する従来技術として、特許文献1に記載の物理蒸着膜装置がある。従来技術では、複数の試料を複数の空隙が形成されているとともに両端が開口している筒状治具の外周部に放射状に取り付けPVD膜(物理蒸着膜)形成処理を行うものである。この筒状治具を自転させながらターゲット(蒸着原料)の周りを公転させつつ移動させることで、試料の表面に膜厚の均一性が高いPVD膜(物理蒸着膜)を形成することができる。
【特許文献1】特開平9−157844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、筒状治具を自転させながらターゲットの周りを公転させつつ移動させることが必要であり、装置の大型化及びコスト高を招来する問題がある。また、膜厚の均一なPVD膜(物理蒸着膜)を形成するには、隣接するターゲットとの間に空隙を形成する必要があり、これも装置の大型化の要因になる。また試料の一部分に成膜の不要な箇所があると、その箇所にマスキングしてPVD膜(物理蒸着膜)の成膜を妨げる必要があった。
【0003】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、従来の装置より低コスト、小型で、筒状治具を自転させながらターゲット(蒸着原料)の周りを公転させつつ移動させる装置が必要なく、また試料の一部分に成膜の不要な箇所がある場合にその箇所にマスキングが不要な、膜厚の均一性の高い薄膜を形成する薄膜の成膜装置を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、真空中の炉体内で蒸着原料をプラズマ化させて試料の表面に薄膜を成膜する装置で、試料の表面に不活性ガスを供給するガス供給装置を備える構成である。
【0005】
また、請求項2に記載の発明は、ガス供給装置は、複数のガス供給パイプを備え、ガス供給パイプにより試料の任意の表面に不活性ガスを供給する構成である。
【0006】
また、請求項3に記載の発明は、ガス供給パイプは、試料に供給するガスの供給量が夫々異なり、試料に供給するガスの供給量は蒸着原料の供給位置側が多い構成である。
【0007】
また、請求項4に記載の発明は、ガス供給装置は、ガス流路が形成されたフランジを備え、ガス流路が形成されたフランジから試料の任意の位置に不活性ガスを供給する構成である。
【0008】
また、請求項5に記載の発明は、フランジから試料に供給されるガスの供給量は、蒸着原料の供給位置側が多い構成である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明では、薄膜の膜厚が厚く形成される部分の試料表面に不活性ガスを供給する。蒸着原料の供給位置側に近い部分ほど膜が厚く形成され、蒸着原料の供給位置側から遠い部分ほど膜が薄く形成され膜厚が不均一になる。この課題を解決する為に蒸着原料の供給位置側に近い部分の試料表面に不活性ガスを供給して、成膜を妨げて、膜厚の均一性が高い薄膜を形成することを可能にする。本発明では、従来の装置のように筒状治具を自転させながら蒸着原料の周りを公転させつつ移動させる装置が必要ないため、従来の装置と比べて低コストである。また、隣接する蒸着原料の間に膜厚を均一にするための空隙を設ける必要がないため、装置の小型化が可能になる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明では、ガス供給装置は複数のガス供給パイプを備え、ガス供給パイプにより試料の任意の位置に不活性ガスが供給可能なため、試料の一部分に成膜の不要な箇所がある場合、その箇所に不活性ガスを供給することでマスキングが不要になる。
【0011】
また、請求項3に記載の発明では、膜厚が厚く形成される蒸着原料の供給位置側のガスの供給量を多くすることで、膜厚の均一性が高い薄膜を成膜できる。
【0012】
また、請求項4に記載の発明では、ガス流路を備えたフランジから試料の任意の表面に不活性ガスを供給するため、試料の一部分に成膜の不要な箇所がある場合、その箇所に不活性ガスを供給することでマスキングが不要になる。また、複数のガス供給パイプを備える必要がないため、ガス供給パイプの炉体内の取り回しが容易になる。
【0013】
また、請求項5に記載の発明では、膜厚が厚く形成される蒸着原料の供給位置側のガスの供給量を多くすることで、膜厚の均一性が高い薄膜を成膜できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の薄膜の成膜装置を図1〜11に基づいて詳述する。
【0015】
図1は、本発明の第一実施形態である薄膜の成膜装置1の透過図である。薄膜の成膜装置1は物理蒸着膜(PVD膜)を成膜するもので、炉体2の内部には軸3に取り付けられた試料4と、試料4の上部に設けたフランジ5と、フランジと接続して試料4の表面に窒素ガス(不活性ガス)を供給するガス供給装置6と、炉の内面に設けたターゲット8(蒸着原料)と、を備える。
【0016】
薄膜の成膜装置1は、炉体2の内部を真空ポンプ7で真空にし、ターゲット8をプラズマ化させて、離れた位置に置かれた試料4の表面に蒸着させ、PVD膜9(物理蒸着膜)(図4)を形成する。ターゲット8は、アルミニウム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケルなどの金属類の他、半導体や樹脂も使用可能である。炉体2内を真空にする理由は、蒸着原料を安定してプラズマ化させること、プラズマ化した蒸着原料が試料4に達する前に、炉体2内の残存気体分子に衝突したり、化学反応することを防ぐためである。
【0017】
図2は、本発明の第一実施形態である薄膜の成膜装置1の部分断面の模式図である。フランジ5は、ガス供給装置6の複数のガス供給パイプ10と接続する。ガス供給パイプ10は、フランジ5の円周方向に接続して、試料4の表面に窒素ガスを供給する。試料4の表面への窒素ガスの供給は、ターゲット8を備える炉体2の内面側に多く供給される。
【0018】
図3は、平均自由行程と炉体2内圧力の関係を示したものである。圧力が高い場合、つまり炉内のプラズマ密度が高い場合は、衝突までの距離は短くなり、平均自由行程は短くなる。通常PVD膜を形成するには平均自由行程が10〜1000mmになるように炉体内圧力を調整する必要がある。窒素ガスを試料4の表面に供給すると、プラズマ化した蒸着原料が試料4に達する前に、窒素ガスに衝突するため、試料4の表面のPVD膜9の成膜が妨げられる。大気圧付近の窒素ガスを供給すると、平均自由行程は0.1μmとなり、ほとんど成膜されない。
【0019】
図4は、第一実施形態の平板の試料4にPVD膜9が成膜される模式図である。ターゲット側の窒素ガスの供給量を増やした場合、PVD膜9はターゲット8側の成膜が窒素ガスの供給量に応じて阻害されるため、膜厚の均一性が高いPVD膜9が成膜される。
【0020】
図5は、第一実施形態の円柱の試料4にPVD膜9が成膜される模式図である。図4と同様に、ターゲット側の窒素ガスの供給量を増やした場合、PVD膜9はターゲット8側の成膜が窒素ガスの供給量に応じて阻害されるため、膜厚が均一なPVD膜9が成膜される。
【0021】
図6は、第一実施形態の平板の試料4の一部分を成膜しない場合の模式図で、成膜の不要な箇所に窒素ガスを供給することで、試料4の任意の表面にマスキング無しでPVD膜9の成膜を防ぐことができる。
【0022】
図7は、本発明の第二実施形態である薄膜の成膜装置11の部分断面についての模式図である。第一実施形態の物理蒸着膜形成装置1と同様の部位については、同一の符号を用いて説明する。フランジ12にはガス流路13が形成され、1本のガス供給パイプ10で窒素ガスが供給される。試料4の表面への窒素ガスの供給は、ガス流路13によりターゲット8が設置される炉体2の内面側に多く供給される。その他の作用については、第一実施形態と同様である。
【0023】
本発明では、PVD膜9の膜厚が厚く成膜される部分の試料4の表面に窒素ガスを供給することで、PVD膜9の形成が妨げられ、膜厚の均一性が高いPVD膜9を形成できる。また、従来の装置のように筒状治具を自転させながらターゲットの周りを公転させつつ移動させる装置は不要であり、従来の装置と比べて低コストである。また、ターゲット8との間に膜厚を均一にするための空隙を設ける必要がないため、薄膜の成膜装置1、11の小型化が可能になる。
【0024】
また、ガス供給装置6は複数のガス供給パイプ10を備え、ガス供給パイプ10により試料4の任意の表面に窒素ガスの供給が可能なため、試料4の一部分に成膜の不要な箇所がある場合に、その箇所に窒素ガスを供給することでマスキングが不要になる。
【0025】
また、PVD膜9の膜厚が厚く成膜されるターゲット8側のガスの供給量を多くすることで、膜厚の均一性が高いPVD膜9を形成できる。
【0026】
また、ガス流路13が形成されたフランジ12から試料4の任意の表面に窒素ガスを供給するため、試料4の表面の一部分に成膜の不要な箇所がある場合、その箇所に窒素ガスを供給することでマスキングが不要になる。また、複数のガス供給パイプ10を備える必要がないため、ガス供給パイプ10の炉体2内の取り回しが容易になる。
【0027】
また、PVD膜9の膜厚が厚く形成されるターゲット8側のガスの供給量を多くすることで、膜厚の均一性が高いPVD膜9を形成できる。
【0028】
本発明は薄膜の成膜装置1、11は物理蒸着(PVD)に限定されるものではなく、化学蒸着(CVD)でもよく、同様の効果を奏する。また、本発明の薄膜の成膜装置は実施形態に限定されるものではなく、PVDならばターゲット(蒸着原料)に近い位置、CVDならば原料ガス供給装置(蒸着原料)に近い位置(蒸着原料の供給位置側)の試料に不活性ガスを供給して、膜厚全体の均一性が高い薄膜を形成するものであればよい。
【0029】
(薄膜の成膜試験)
図8〜図10は、本発明の薄膜の成膜を試験する試験装置20で、図8は正面図、図9は側面図、図10はA部拡大図である。
【0030】
試験装置20は、薄膜の成膜装置1、11と同様に、炉体21と、炉体21の内部に設けられる基盤セット治具22に取り付けられた試料23と、試料23の表面にArガス(不活性ガス)を供給するガス導入パイプ24と、ガス導入パイプ24にArガスを供給するガスボンベ25と、炉体21に接続して炉内を真空にする真空ポンプ26と、炉体21の内面に設けたターゲット27と、を備える。
【0031】
試験装置20は東芝メカトロニクス社製のスパッタリング装置(CFS−4ES−231 φ350mm×奥260mm)を用い、試料23には寸法が縦20mm×横20mm×厚み2mmのSKH51材を用い、ターゲット27は寸法がφ3inch×厚み3mmのアルミ材を用い、ガス導入パイプ24の内径はφ4mmで、炉体21の炉内圧力は1Paで、成膜時間は30分とした。試料23とターゲット27の距離は100mmである。ガス導入パイプ24からは試料23の表面と平行にArガスを噴射する。本実施形態でのガス導入量は、一分間あたり140ccである。試料23は、ガス導入パイプ24の中央から6.9mmの位置でマスキングテープ29(図10)によりマスキングされる。
【0032】
試験装置20は、炉体21の内部を真空ポンプ26で10−2Paまで真空排気した後に、Arガスを導入し、1Paまで昇圧させ、ターゲット27をプラズマ化させて、離れた位置に置かれた試料23の表面に蒸着させる。このときガスボンベ25のArガスは炉体21に設けられたガス導入口28を介してガス導入パイプ24に送られる。ガス導入パイプ24からは、試料23の表面に沿ってArガスが噴出する。Arガスは、ガス導入パイプ24の中心線上に多く供給される。
【0033】
図11は、試験装置20による薄膜の成膜試験結果である。膜厚は、ガス導入口28の噴出口から8mm下流の位置で、ガス導入パイプ24の中心線に垂直な方向に計測した。Arガスが多く供給されるガス導入パイプの中心線上から0mmの位置の膜厚が0.94μmに対して、ガス導入パイプ24の中心線上から6.9mmの位置の膜厚は1.21μmで、0.27μmの膜厚の差ができる。これは中心線の付近にArガスが多く供給されることで、成膜が妨げられるためである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第一実施形態である薄膜の成膜装置の透過図である。
【図2】本発明の第一実施形態である薄膜の成膜装置の部分断面の模式図である。
【図3】平均自由行程と炉内圧力の関係を示したものである。
【図4】本発明の第一実施形態の平板の試料に真空蒸着膜が成膜される模式図である。
【図5】本発明の第一実施形態の円柱の試料に真空蒸着膜が成膜される模式図である。
【図6】本発明の第一実施形態の平板の試料の一部分に成膜しない場合の模式図である。
【図7】本発明の第二実施形態である薄膜の成膜装置の部分断面の模式図である。
【図8】本発明の薄膜の成膜を試験する試験装置の正面からの説明図である。
【図9】本発明の薄膜の成膜を試験する試験装置の側面からの説明図である。
【図10】本発明の薄膜の成膜を試験する試験装置のA部拡大説明図である。
【図11】試験装置による薄膜の成膜試験結果である。
【符号の説明】
【0035】
1 薄膜の成膜装置(第一実施形態)
2 炉体
4 試料
6 ガス供給装置
8 ターゲット(蒸着原料)
10 ガス供給パイプ
13 ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中の炉体内で蒸着原料をプラズマ化させて試料の表面に真空蒸着膜を成膜する薄膜の成膜装置において、
前記試料の表面に不活性ガスを供給するガス供給装置を備えたこと、
を特徴とする薄膜の成膜装置。
【請求項2】
前記ガス供給装置は、複数のガス供給パイプを備え、前記ガス供給パイプにより前記試料の任意の表面に不活性ガスを供給すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜の成膜装置。
【請求項3】
前記ガス供給パイプは、前記試料に供給するガスの供給量が夫々異なり、
前記試料に供給するガスの供給量は、前記蒸着原料の供給位置側が多いこと、
を特徴とする請求項2に記載の薄膜の成膜装置。
【請求項4】
前記ガス供給装置は、ガス流路が形成されたフランジと接続し、前記ガス流路が形成された前記フランジから前記試料の任意の表面に不活性ガスを供給すること、
を特徴とする請求項1に記載の薄膜の成膜装置。
【請求項5】
前記フランジから前記試料に供給されるガスの供給量は、前記蒸着原料の供給位置側が多いこと、
を特徴とする請求項4に記載の薄膜の成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−202143(P2008−202143A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11079(P2008−11079)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】