説明

薄膜塗布乾燥装置及び薄膜の製造方法

【課題】シート状部材の表面上への材料の塗布及び乾燥を効率よく行い、光学フィルム用基材及びフレキシブル基板の表面に高い生産効率で薄膜を形成できる薄膜塗布乾燥装置及び薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】薄膜塗布乾燥装置1は、筐体10の内部に、貯留部13内に貯留された液状又はペースト状の材料3の一部に進入して筐体10の内部を第1の空間16と第2の空間17とに区画する隔壁15を有する。搬送部(搬送ローラ14)は、シート状部材2を第1の空間16から貯留部13内の材料3中に浸漬させた後、第2の空間17にてシート状部材2を材料3から取り出すように、シート状部材2を搬送する。第1の空間16内及び第2の空間17内は、夫々第1及び第2の排気部材4により排気され、第2の空間17に取り出されたシート状部材2は、表面に付着した材料3が第2の空間17で乾燥される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状部材の表面上に液状又はペースト状の材料を塗布し、乾燥させて、薄膜を形成する薄膜塗布乾燥装置及び薄膜の製造方法に関し、特に、液晶ディスプレイ用のカラーフィルター等に使用されているフレキシブル基板及び光学フィルム用基材の表面に薄膜を形成する薄膜塗布乾燥装置及び薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば液晶ディスプレイパネル及びプラズマディスプレイパネル等の前面ガラス基板としては、表面に例えば反射防止機能、広視野角機能又は感光性等を有する薄膜が形成されたものが使用されている。この光学機能性薄膜は、例えば前面ガラス基板等の基板の表面上に直接形成されたり、例えば反射防止フィルム及び広視野角フィルム等、各種のフィルム用基材の表面に形成された後、光学フィルムとして前面ガラス基板上に貼着される。
【0003】
光学機能性薄膜を基板の表面上に直接形成する場合においては、基板の表面上に液体状又はペースト状の材料を塗布し、材料中の溶媒を乾燥させて薄膜を形成することが行われている。このとき、溶媒を乾燥させる方法としては、加熱による方法がある。
【0004】
しかしながら、溶媒の乾燥のための加熱温度を高温にすると、材料と共に基板も加熱することになり、基板回路が損傷しやすくなるという問題点がある。そして、この問題点を解決するために乾燥温度を下げると、乾燥速度が遅くなり、製造装置のスループットが低下するという問題点がある。
【0005】
また、加熱時の温度により、例えば材料中には、気泡が生じることがあり、溶媒の乾燥後に、薄膜の表面にピンホール等の欠陥が発生するという問題点があり、この問題点を解決するために、溶媒の乾燥を減圧下で行う方法が提案されており、種々の技術が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、カラーフィルター基板を製造する際に、基板上に(例えばブラックマトリクス等の遮光層となる)感光性樹脂組成物を塗布後、乾燥工程において、100Torrの圧力に減圧した状態で6秒以上乾燥させ、これにより、樹脂組成物の表面に異物、ピンホール及び材料凝集等の欠陥を防止する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2及び3にも、基板上に材料を塗布した後、基板を真空炉又は真空チャンバーに移動させ、真空炉又は真空チャンバー内の減圧条件下で溶媒を乾燥させる技術が開示されており、これにより、材料中の気泡等の発生を防止したり、溶媒の沸点を低下させることが開示されている。
【0008】
一方、例えば前面ガラス基板等の基板の表面上に貼着される光学フィルム等の製造においても、ウェブと呼ばれる透明基材(フィルム)上に各種光学機能性を有する液状又はペースト状の材料を塗布し、材料中の溶媒を乾燥させることにより、ウェブ上に光学機能性薄膜を形成する方法が採用されている。光学フィルム等の製造においては、例えば図4に示すように、ウェブ等の基材2は、ロール状に巻き取られており、ロール20から連続的に供給され、所定の加工を施した後、再度ロール20に巻き取る方法が採用されている。この方式は、ロールトゥロール方式と呼ばれている。このように、光学フィルム等の製造においては、フィルムの柔軟性により、フィルムの表面に薄膜を形成する場合においても上記特許文献1乃至3とは異なる形成方法が採用されている。
【0009】
例えば、特許文献4には、ローラにより支持されて連続的に供給されているウェブに対して、近接するようにスロットダイを設置し、スロットダイの先端の塗布ヘッドから連続的に材料を供給して、ウェブの表面に薄膜となる材料を塗布する技術が開示されている。そして、特許文献1の光学フィルムの製造装置においては、フィルム基材がロール状に巻き取られて連続的に供給されるため、溶媒を乾燥させるための長尺の乾燥炉を設け、大気圧雰囲気、25乃至140℃の温度で乾燥させることが開示されている。
【0010】
また、連続的に供給されるシート状部材の表面に薄膜の材料を塗布する技術としては、例えば特許文献5及び6に開示されているように、シート状部材を機能性材料中に浸漬させて塗布する方法も考えられる。
【0011】
他方、近時、液晶ディスプレイパネル及びプラズマディスプレイパネル等の基板材料及び基板回路についての技術開発はますます進んでおり、基板は、柔軟性を有するシート状基板として構成され、これにより、ディスプレイパネルにおける薄肉化が達成され始めている。また、基板のフレキシブル化が達成されることにより、液晶ディスプレイパネル等の製造工程においては、例えばロール状に巻き取られた基板材料により、複数枚のシート状基板を連続的に製造することが可能となり、基板の生産効率を向上できる技術として、注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−241623号公報
【特許文献2】特開2006−297241号公報
【特許文献3】特開2010−40991号公報
【特許文献4】特開2007−121426号公報
【特許文献5】特開2000−167457号公報
【特許文献6】特開昭60−248253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来技術においては、以下のような問題点がある。即ち、ロール状に巻き取られた長尺のシート状部材の表面に薄膜を形成する場合においては、材料中の溶媒を乾燥させるための乾燥炉が長くなり、薄膜を形成するための装置が大型化するという問題点がある。特に、上記特許文献5及び6の技術を用いた場合においては、シート状部材を液中に浸漬させるため、シート状部材の表面への材料の塗布は効率よく行うことができるものの、特許文献4の技術に比して、溶媒の乾燥時間が長くなり、装置が大型化するという問題も発生する。
【0014】
この問題点を解決するためには、上記特許文献1乃至3のように、乾燥工程において、シート状部材の周囲を減圧し、これにより、溶媒の乾燥効率を高めることが考えられる。しかしながら、特許文献1乃至3の技術においては、薄膜形成対象物が定形の基板である一方、この技術を単純に長尺のシート状部材、例えばロール状に巻き取られた光学フィルム又はフレキシブル基板に適用することは容易ではない。
【0015】
また、装置の大型化を避けるために、例えば、乾燥装置と塗布装置とを一体的に構成した場合においては、乾燥時の減圧により、塗布前の材料から溶媒が容易に蒸発してしまい、材料の塗布を阻害するだけではなく、製造コストも上昇するという問題点がある。
【0016】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、シート状部材の表面上への材料の塗布及び乾燥を効率よく行い、光学フィルム用基材及びフレキシブル基板の表面に高い生産効率で薄膜を形成できる薄膜塗布乾燥装置及び薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る薄膜塗布乾燥装置は、シート状部材の表面上に液状又はペースト状の材料を塗布した後、乾燥させることにより、前記シート状部材の表面上に薄膜を形成する薄膜塗布乾燥装置において、筐体と、この筐体の内部に設けられ前記液状又はペースト状の材料が貯留された貯留部と、前記貯留部内の材料の一部に進入して前記筐体の内部空間を第1の空間と第2の空間とに区画する隔壁と、前記シート状部材を前記第1の空間から前記貯留部内の材料中に浸漬させた後、前記第2の空間にて前記シート状部材を前記材料から取り出すように、前記シート状部材を搬送する搬送部と、前記第1の空間内を排気する第1の排気部材と、前記第2の空間内を排気して前記材料が付着した前記シート状部材が前記第2の空間内を進行する間に前記材料を乾燥させる第2の排気部材と、を有することを特徴とする。
【0018】
上述の薄膜塗布乾燥装置において、例えば前記筐体には、前記第2の空間から前記シート状部材を排出するための排出部が設けられており、前記排出部は前記シート状部材の通過を案内する排出路と、前記排出路内を排気する第3の排気部材と、が設けられている。この場合に、例えば前記第3の排気部材は、前記排出路にて前記第2の空間から外部に向かって複数個の排気口を有し、前記第3の排気部材は、前記排出路内の圧力が前記第2の空間から前記筐体の外部へ向けて高くなるように前記排出路内を排気する前記排出路内の圧力が前記第2の空間から前記筐体の外部へ向けて高くなるように前記排出路内を排気する。
【0019】
上述の薄膜塗布乾燥装置において、前記隔壁は、前記第2の空間に面する前記材料の表面積が前記第1の空間に面する前記材料の表面積よりも小さくなるように前記筐体の内部を区画することが好ましい。
【0020】
例えば、前記貯留部は、前記第1及び/又は第2の空間側の前記材料の液面上に浮かべられる蓋を有することが好ましい。
【0021】
前記第1及び第2の排気部材は、例えば前記第1の空間の圧力と前記第2の空間の圧力とが等しくなるように前記第1及び第2の空間内を排気する。
【0022】
上述の薄膜塗布乾燥装置において、例えば前記筐体には、外部から前記第1の空間内に前記シート状部材を搬入するための搬入部が設けられており、前記搬入部には、前記シート状部材の通過を案内する搬入路と、前記搬入路内を排気する第4の排気部材と、が設けられている。この場合に、例えば前記第4の排気部材は、前記搬入路にて外部から前記第1の空間に向かって複数個の排気口を有し、前記第4の排気部材は、前記搬入路内の圧力が前記筐体の外部から前記第1の空間へ向けて低くなるように前記搬入路内を排気する。
【0023】
上述の薄膜塗布乾燥装置は、例えば前記第1排気部材に接続され前記第1排気部材により排気された排ガスから前記材料の成分を凝縮により取り出した後、前記貯留部内に返戻する凝縮器を有する。前記シート状部材は例えば柔軟性を有する基板である。又は前記シート状部材は、例えば光学フィルム用の基材であり、前記材料は光学機能性材料である。
【0024】
本発明に係る薄膜の製造方法は、上述の薄膜塗布乾燥装置を使用し、前記第1排気部材により排気されている第1の空間にシート状部材を供給する工程と、前記シート状部材を液状又はペースト状の材料内に浸漬させて前記シート状部材の表面上に前記材料を塗布する工程と、前記材料内から第2の空間に前記シート状部材を取り出す工程と、前記シート状部材の表面上に塗布された前記材料を減圧下の第2の空間にて乾燥させて薄膜を形成する工程と、表面に薄膜が形成されたシート状部材を前記第2の空間から排出する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る薄膜塗布乾燥装置は、薄膜となる材料を貯留する貯留部を有し、搬送部は、シート状部材を貯留部内の材料中に浸漬する。これにより、シート状部材の表面上への材料の塗布を効率よく行うことができる。また、筐体の内部の空間は、隔壁により第1の空間と第2の空間とに区画されており、第2の空間内は第2排気部材により排気され材料が付着したシート状部材が第2の空間内を進行する間に材料を乾燥させるため、1つの装置内にて材料の塗布及び乾燥を行ってシート状部材の表面に薄膜を形成することができ、生産効率が高い。
【0026】
従って、本発明に係る薄膜の製造方法は、生産効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置を示す模式図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置を示す模式図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置を示す模式図である。
【図4】ロールトゥロール方式を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。先ず、本発明の第1実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置について、その構成を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置を示す模式図である。本実施形態の薄膜塗布乾燥装置1は、図1に示すように、筐体10の側面から延びる搬入部11及び排出部12と、筐体10の内部に設けられ薄膜となる材料3を貯留する貯留部13と、搬送部としての搬送ローラ14と、隔壁15とにより構成されており、例えばロール状に巻き取られたシート状部材2が搬入部11から筐体10の内部に供給され、シート状部材2の表面上に材料3を塗布し、材料3中の溶媒を乾燥させて薄膜を形成した後、シート状部材2を排出部12から排出するものである。本実施形態においては、隔壁15は、筐体10の内面の上部から延出して設けられており、隔壁15の先端部は貯留部13内の材料3の一部に進入している。これにより、筐体10内部の貯留部13の内部空間は、隔壁15により、搬入部11側の第1の空間16と排出部12側の第2の空間17とに区画されている。本実施形態においては、第1の空間16は排気ポンプ4(第1排気部材)に接続されて排気される。排気ポンプ4は、例えば凝縮器5に接続されており、凝縮器5は、貯留部13に接続されている。また、第2の空間17は、図示しない(第2)排気部材、例えば排気ポンプに接続されて排気される。本実施形態においては、第1及び第2排気部材は、第1の空間16の圧力と第2の空間17の圧力とが等しくなるように、夫々第1及び第2の空間16、17を排気する。なお、本実施形態においては、シート状部材2として光学フィルム用の基材を使用し、薄膜となる材料として反射防止材料を使用して、反射防止フィルムを製造する場合について説明する。
【0029】
筐体10の側面に設けられた搬入部11は、例えば長さが500乃至1000mmであり、その長手方向に垂直な断面において、シート状部材2の搬送路となる孔の大きさは、幅が例えばシート状部材2の幅よりも5乃至10mm大きく、高さが例えばシート状部材2の厚さよりも0.1乃至1.0mm大きい。
【0030】
また、シート状部材2の排出路を有する排出部12は、例えば長さが500乃至1000mmであり、その長手方向に垂直な断面において、シート状部材2の排出路となる孔の大きさは、幅が例えばシート状部材2の幅よりも5乃至10mm大きく、高さが例えばシート状部材2の厚さよりも0.1乃至1.0mm大きい。本実施形態においては、例えば搬入路及び排出路の長さを十分に長くすることにより、筐体10の内部が減圧された場合には、搬入路内及び排出路内には、筐体10の内部から外部へと緩やかな圧力勾配で徐々に圧力が高くなる圧力分布を生じさせることができ、これにより、搬入路及び排出路からの空気の流入を防止することができる。なお、搬入路及び排出路からの空気の流入を防止する方法としては、例えば搬送経路の断面積を複数箇所で局所的に小さくなるように構成したり、搬入路及び排出路の経路断面積を外部から筐体10の外部から内部へと徐々に大きくなるように構成してもよい。
【0031】
貯留部13は、例えば筐体10の内部の下方に設けられており、液状又はペースト状の薄膜となる材料3が貯留される。本実施形態においては、材料3は、例えばフッ素モノマー等の反射防止材料である。
【0032】
搬送ローラ14は、例えば図示しない駆動装置、例えばモータにより駆動されて回転することにより、シート状部材2を搬送するものである。本実施形態においては、搬送ローラ14は、筐体10の内部に4個設置されており、第1の空間16内における搬入路の延長線上から例えばロールの半径寸法だけ下方にずれた位置に1個、第2の空間17における排出路の延長線上から例えばロールの半径寸法だけ下方にずれた位置に1個、これらの下方に夫々1個ずつ設けられている。そして、下方の2個の搬送ローラ14は、貯留部13内に貯留された材料3内に位置するように設けられている。そして、これらの4個の搬送ローラ14により、シート状部材2が緊張状態で張架されるように構成されている。第2の空間17内に設けられた搬送ローラ14の下方には、搬送ローラ14に懸架されたシート状部材2の裏面(反射防止材料を塗布すべき面の反対側の面)に接するようにへら状のスクレーパー19が設けられており、シート状部材2の裏面に付着した材料3をスクレーパー19により掻き落とせるように構成されている。
【0033】
これにより、シート状部材2は、搬送ローラ14の回転により、順次、搬入路により案内されて第1の空間16に供給され、材料3中に浸漬されて両面に材料3が付着した後、第2の空間17に取り出され、スクレーパー19により裏面側の余分な材料が掻き落とされ、排出部12の排出路から外部に排出されていく。なお、搬送ローラ14の回転は、モータによるものではなくてもよく、例えば、排出部12の外方からシート状部材2に引張力を負荷することにより、緊張状態のシート状部材2自身の移動により搬送ローラ14が回転するように構成されていてもよい。
【0034】
隔壁15は、上述の如く筐体10の内部における貯留部13の上部の空間を第1の空間16と第2の空間17とに区画するように設けられている。隔壁15は、例えば第2の空間17に面する材料3の表面積が第1の空間16に面する材料3の表面積よりも小さくなるように筐体10の内部を区画しており、これにより、第2の空間17における液面からの溶媒の蒸発を抑制している。本実施形態においては、第1の空間16側の筐体10の内面には、排気口が設けられており、この排気口に例えば排気ポンプ4等が接続されることにより、第1の空間16内の排気を行っている。同様に、第2の空間17側の筐体10の内面にも排気口が設けられており、図示しない排気手段、例えば排気ポンプにより第2の空間17内が排気されている。これにより、本実施形態においては、第1の空間16の圧力Pと第2の空間17の圧力Pとは、筐体10の外部圧力よりも小さくなるように設定されている。そして、本発明においては、第1の空間16の圧力Pと第2の空間17の圧力Pとは互いに等しくなるように設定されている。従って、本発明においては、材料3の液面の高さは、第1の空間16側と第2の空間17側とで等しくなる。これに対して、例えば、第2の空間17の圧力だけを低くした(真空度を高めた)場合においては、例えば特許文献6の第1図に示すように、第2の空間17側の液面の高さが高くなり、これにより、液状又はペースト状の材料3が貯留部13から装置の外部に漏出することも考えられる。しかしながら、本発明においては、材料3の液面の高さを第1の空間16内の圧力Pと第2の空間17内の圧力Pとを互いに等しくすることができ、内部圧力によって液面の高さが変化することはないため、シート状部材2の表面への薄膜の形成を安定して行うことができる。上記第1及び第2の空間内の圧力P、Pは、例えば0.1至0.5atmである。
【0035】
本実施形態においては、第1の空間16側の空間を排気する排気ポンプ4(第1排気部材)には、凝縮器5が接続されている。凝縮器5は、排気ポンプ4により排気された空気中に含まれる材料の成分、例えば材料3の溶媒成分を例えば水による冷却により凝縮して取り出すものである。凝縮器5は、貯留部13に接続されており、凝縮により取り出した材料の成分を貯留部13内に戻すことができる。これにより、仮に第1の空間16における減圧により材料3の溶媒成分が蒸発した場合においても、蒸発した溶媒成分は、再度貯留部13内の材料3中に戻され、材料3から溶媒だけが蒸発により失われることも抑制される。
【0036】
次に、本実施形態の薄膜塗布乾燥装置の動作について説明する。本実施形態においては、先ず、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)又はTAC(トリアセチレンセルロース)からなる厚さが100μm程度のシート状部材2(光学フィルム用基材)が、搬入部11の搬入路により案内されて例えば水平方向に供給され、第1の空間16に入る。第1の空間16は、排気ポンプ4により、大気圧よりも低い圧力Pに減圧されている。そして、この減圧により、第1の空間16内においては、貯留部13内に貯留された液状又はペースト状の材料3、例えばフッ素モノマー等の反射防止材料の液面から、溶媒が蒸発している。しかしながら、本実施形態においては、排気ポンプ4には、凝縮器5が接続されており、凝縮器5は、排気ポンプ4により排気された排ガスから前記材料成分、即ち、材料3の溶媒成分を例えば水による冷却により凝縮して取り出し、貯留部13内に返戻する。よって、第1の空間16内における溶媒の損失を防止することができる。
【0037】
第1の空間16内に供給されたシート状部材2(光学フィルム用基材)は、第1の空間16内に設けられた搬送ローラ14において、その進行方向を鉛直下方へと90度転換され、貯留部13内に貯留された材料3(フッ素モノマー液)に向けて搬送される。そして、貯留部13内に貯留された材料3内にシート状部材2が浸入し、材料3に浸漬される。
【0038】
材料3(フッ素モノマー液)内に浸入したシート状部材2(光学フィルム用基材)は、液中の2カ所で方向転換された後、再び取り出される。このとき、シート状部材2が取り出されるのは、第2の空間17である。材料3内への浸漬により、シート状部材2の両面には、材料3が例えば95乃至105nmの薄膜状に付着する。
【0039】
第2の空間17内に取り出されたシート状部材2(光学フィルム用基材)は、第2の空間17内に配置された搬送ローラ14に向けて鉛直上方に搬送され、その搬送経路上にてスクレーパー19により裏面側の余分な材料が掻き落とされた後、搬送ローラ14にて、その進行方向を水平方向へと90度転換され、排出路へと向かっていく。このとき、第2の空間17内の圧力Pは大気圧よりも低い圧力に減圧されているため、シート状部材2の表面に薄膜状に付着した液状の材料3から、溶媒成分が蒸発していく。これにより、シート状部材2の表面には、例えば反射防止機能を有するフッ素モノマー薄膜が形成され、反射防止フィルムが製造される。製造された反射防止フィルムは、排出部12の排出路により案内されて、装置の外部に排出されていく。
【0040】
排出された反射防止フィルムは、例えば図4に示すようなロール20に巻き取られ、次の製造工程に運ばれていく。
【0041】
このように、本実施形態の薄膜塗布乾燥装置1においては、シート状部材2を貯留部13内の材料3中に浸漬するため、シート状部材2の表面上への材料3の塗布を効率よく行うことができ、第2の空間17における減圧により、材料3が付着したシート状部材2が第2の空間17内を進行する間に材料3を乾燥させるため、1つの装置内にて材料3の塗布及び乾燥を行ってシート状部材2の表面に薄膜を形成することができ、生産効率が高い。
【0042】
また、第2の空間17は、第1の空間16と等しい圧力に減圧されており、これにより、例えば第2の空間17における溶媒の蒸発効率を高めるために第2の空間17の真空度を高めた場合においても、貯留部13内の材料3の液面の高さが変化することはなく、例えば第2の空間17から材料3が外部に漏出したり、材料3を乾燥する区間の長さが短くなることを防止でき、シート状部材2の表面への薄膜の形成を安定して行うことができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、第2の空間17内の材料3の液面からは、材料3中の溶媒が蒸発していくが、隔壁15を設置することにより、材料3の液面を第1の空間16側と第2の空間17側とに分けているため、液面全体から溶媒が蒸発する場合に比して、蒸発により失われる溶媒の量は少ない。また、このとき、例えば第2の空間17に面する材料3の表面積が第1の空間16に面する材料3の表面積よりも小さくなるように隔壁15を設ければ、第2の空間17における液面からの溶媒の蒸発量をさらに低減することができる。なお、第2の空間17における溶媒の損失を抑制するために、第1の空間16と同様に、第2の空間17側の第2の排気部材に接続されるように凝縮器を設置し、凝縮器により、第2の空間17側で蒸発した溶媒を貯留部13に返戻するように構成してもよい。
【0044】
次に、本実施形態の薄膜塗布乾燥装置1を使用した薄膜の製造方法について説明する。本実施形態においては、シート状部材2としては、例えば図4に示すようにロール状に巻き取られたものを使用する。先ず、このロール20を例えば供給側の回転軸に設置し、シート状部材2(光学フィルム用基材)の先端をロール20から引き出して、薄膜塗布乾燥装置1に設置する。即ち、シート状部材2の先端を搬入部11の搬入路に挿通し、第1の空間16内に取り出し、4個の搬送ローラ14に緊張状態に張架し、排出部12の排出路に挿通して装置の外部へと取り出し、巻き取り側のロール20の例えば回転軸に固定する。次に、貯留部13内に材料3として、例えばフッ素モノマー等の反射防止材料を液状又はペースト状の状態で投入する。
【0045】
そして、第1排気部材及び第2排気部材を駆動することにより、第1の空間16及び第2の空間17内を排気し、第1及び第2の空間内を減圧する。このとき第1の空間16の圧力と第2の空間17の圧力とを互いに等しく設定する。これにより、薄膜の製造準備が完了する。
【0046】
薄膜の製造にあたっては、先ず、例えば搬送ローラ14を回転させるか、又は巻き取り側のロール20の回転軸を回転させることにより、薄膜塗布乾燥装置1内にシート状部材2(光学フィルム用基材)を連続的に供給する。これにより、シート状部材2を搬入部11の搬入路から第1の空間16内に供給する。
【0047】
次に、第1の空間16内に供給されたシート状部材2(光学フィルム用基材)を貯留部13に貯留された材料3(フッ素モノマー液)内に浸漬させることにより、シート状部材2の表面に材料3を付着させる。本発明においては、材料3中にシート状部材2を浸漬させるため、材料の塗布は円滑に進行する。
【0048】
次に、シート状部材2(光学フィルム用基材)を材料3(フッ素モノマー液)から第2の空間17に取り出す。これにより、シート状部材2の表面には、材料3が薄膜状に付着する。表面に液状又はペースト状の材料が付着した基材2を、第2の空間17を経由させて排出路へと搬送する。このとき、第2の空間17内の圧力Pは大気圧よりも低い圧力に減圧されているため、シート状部材2の表面に付着したフッ素モノマー材料は、溶媒が蒸発することにより乾燥される。そして、シート状部材2の表面には、例えば反射防止機能を有するフッ素モノマー薄膜が形成され、反射防止フィルムが製造される。引き続き製造された反射防止フィルムを、排出路から装置の外部に排出する。
【0049】
このように、本実施形態の薄膜の製造方法においては、材料の塗布及び乾燥を順次一つの装置により行うことができ、光学フィルム用基材及びフレキシブル基板の表面に高い生産効率で薄膜を形成することができる。また、第2の空間17内の圧力を第1の空間16と等しい圧力に減圧することにより、貯留部13内の材料3の液面の高さが変化することはなく、シート状部材2の表面への薄膜の形成を安定して行うことができる。
【0050】
なお、本実施形態においては、シート状部材2として光学フィルム用の基材を使用し、薄膜となる材料3として反射防止材料を使用して、反射防止フィルムを製造する場合について説明したが、本実施形態の薄膜塗布乾燥装置1は、シート状部材2としてフレキシブル基板を使用し、この基板上に各種の薄膜を形成する場合においても有用であり、上記と同様の効果を得ることができる。この場合においては、薄膜となる材料3には、例えば光硬化性樹脂及びポリイミド樹脂等を使用することができ、例えば配線材料である銅箔がパターニングされたフレキシブル基板の表面を薄膜により保護することができる。
【0051】
次に、本発明の第2実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置について説明する。先ず、本実施形態の薄膜塗布乾燥装置の構成について説明する。図2は、本発明の第2実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置を示す模式図である。本実施形態においては、第1実施形態の構成を有する薄膜塗布乾燥装置1において、装置の外部から第1の空間16へと向かう搬入路の途中に、2個の排気口11a及び11bがこの順に設けられている。これらの排気口11a及び11bは、夫々、例えば排気ポンプに接続されており、これにより、搬入路内が排気されており、搬入路内の圧力は、排気口11a及び11bに近接した位置で、夫々P1a、P1bとなるように調整されており、薄膜塗布乾燥装置1の外部の圧力(大気圧)をPとしたとき、順次P、P1a、P1b、P(第1の空間16の圧力)の順に圧力が小さくなるように調整されている。これにより、搬入路内の圧力は、筐体10の外部から第1の空間16へ向けて圧力が徐々に降圧されている。
【0052】
同様に、第2の空間17から装置の外部へ向けて延びる排出路においても、その途中に2個の排気口12a及び12bがこの順に設けられ、排気口12a及び12bから排気することにより、排出路内における排気口12a及び12bに近接した位置の圧力が、夫々P2a、P2bとなるように調整されており、順次P、P2a、P2b、Pの順に圧力が大きくなるように調整されている。これにより、排出路内の圧力は、第2の空間17から筐体10の外部へ向けて圧力が徐々に昇圧されている。
【0053】
以上の構成により、本実施形態においては、筐体10の内部の圧力が減圧された場合においても、搬入路及び排出路内に圧力勾配を発生させて、外部から空気が流入することを防止している。その他の構成については、第1実施形態と同じである。
【0054】
本実施形態においては、筐体10の内部に外部空気が流入することを効果的に防止することができるため、例えば第1及び第2の空間16、17の排気効率が向上し、第1排気部材及び第2排気部材としての例えば排気ポンプの消費電力を低減でき、薄膜の製造コストを低減することができる。
【0055】
また、第2の空間17における乾燥工程においては、シート状部材2の表面上に付着した材料の表面が不均一な空気の流れに曝されて、形成される薄膜の膜厚及び膜質が不均一になることを防止することができ、形成する薄膜の品質を向上させることができる。
【0056】
次に、本第2実施形態の薄膜塗布乾燥装置の動作について説明する。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、搬入部11の搬入路から第1の空間16へとシート状部材2を供給する。このとき、搬入路の内部は、排気口11a及び11bにより排気されており、装置の外部から第1の空間16に向けて徐々に圧力が低くなるような圧力勾配が形成されている。これにより、外部から第1の空間16に空気が流入することが防止されている。
【0057】
第1の空間16内は、排気ポンプ4により排気されているが、外部からの空気の流入を防止していることにより、第1の空間16内の圧力変動は小さい。従って、排気ポンプ4の駆動に必要となる電力が低減される。
【0058】
第1の空間16内に供給されたシート状部材2は、第1実施形態と同様に、貯留部13内の材料3に浸漬され、やがて、第2の空間17に取り出される。第2の空間17に取り出されたシート状部材2の両面には、液状又はペースト状の材料3が薄膜状に付着する。
【0059】
そして、シート状部材2が第2の空間17に取り出され、第2の空間17内の搬送ローラ14へと搬送されていく搬送経路上にて、シート状部材2の両面に付着した液状又はペースト状の材料のうち、シート状部材2の裏面側の余分な材料はスクレーパー19により掻き落とされる。そして、シート状部材2の表面に薄膜状に付着した材料は、排出部12に到達するまでの間に、第2の空間17内の減圧により、溶媒成分が蒸発され、乾燥される。本実施形態においては、排出路内は、排気口12a及び12bにより排気されており、第2の空間17から装置の外部に向けて徐々に圧力が大きくなるような圧力勾配が形成され、これにより、装置の外部から第2の空間17内に空気が流入することが防止されている。従って、第1排気部材(排気ポンプ4)と同様に、第2の空間17を排気する第2排気部材においても、例えば排気ポンプの消費電力を低減することができる。また、排出路からの空気の流入を防止しているため、乾燥していない状態の材料が不均一な空気の流れに曝され、例えば膜圧が不均一になったり、膜質が不均一になることが防止される。
【0060】
表面に乾燥薄膜が形成されたシート状部材2は、第1実施形態と同様に、排出部12の排出路から装置の外部に排出され、例えば図4に示すようなロール20に巻き取られ、次の製造工程に運ばれていく。
【0061】
このように、本実施形態においては、搬入路及び排出路内に圧力勾配を設けることにより、搬入路及び排出路からの外部空気の流入を防止することができ、薄膜の製造コストを低減し、品質のよい薄膜を形成することができる。
【0062】
なお、本実施形態においても、第1実施形態と同様の種々の変形が可能である。また、本実施形態においては、少なくとも排出路内を排気すれば、品質の高い均質な薄膜を形成することができるため、搬入路内を排気する構成が設けられていなくてもよい。
【0063】
次に、本発明の第3実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置について説明する。先ず、本実施形態の薄膜塗布乾燥装置の構成について説明する。図3は、本発明の第3実施形態に係る薄膜塗布乾燥装置を示す模式図である。本実施形態においては、材料3を貯留する貯留部13には、材料3の液面上に浮かべられる蓋18が設けられている。蓋18は、第1の空間16側又は第2の空間17側の材料3の液面上に一方だけに設けられていてもよく、第1の空間16側及び第2の空間17側の両方の液面上に設けられていてもよいが、本実施形態においては、第1の空間16側に蓋18aが設けられ、第2の空間17側に蓋18bが設けられている。例えば蓋18a及び蓋18bには、夫々、シート状部材2を挿通させるための孔が設けられており、蓋18aの孔を介してシート状部材2が第1の空間16から材料3中に浸漬され、蓋18bの孔を介してシート状部材2が材料3から第2の空間17に取り出される。その他の構成は第1実施形態と同じである。
【0064】
即ち、第1実施形態の構成においては、材料3の液面から材料3中の溶媒成分が蒸発していくが、本実施形態においては、蓋18を設置することにより、材料3の液面からの溶媒の蒸発を抑制している。これにより、本実施形態においては、第1実施形態に比して溶媒の損失が抑制され、薄膜の形成に必要となるコストを低減することができる。例えば、第1実施形態においては、第2の空間17に面する材料3の表面積が第1の空間16に面する材料3の表面積よりも小さくなるように隔壁15を設置することにより、第2の空間17における液面からの溶媒の蒸発を抑制したが、この場合においては、第1の空間16に面する材料3の表面積は必然的に広くなり、第1の空間16側の液面における溶媒の蒸発量が多くなる。本実施形態においては、第1の空間16側の液面上に蓋18aを設置することにより、第1の空間16側の液面における溶媒の蒸発を抑制し、シート状部材2の表面上に材料3を均質に付着させることができる。また、第2の空間17側の液面上に蓋18bを設置することにより、材料3が乾燥しやすい圧力に減圧されている第2の空間17においても、液面からの溶媒の蒸発を抑制することができ、材料3の均質性を維持できるだけではなく、溶媒の損失を低減することにより、薄膜の製造コストの上昇を抑えることができる。なお、例えば、蒸発した溶媒を再度貯留部13に返戻する構成、例えば凝縮器等を第1の空間16側及び第2の空間17側の一方だけに設け、凝縮器等を設けた側にて材料3からの溶媒の損失を防止できる場合においては、凝縮器等を設置していない側の液面上だけに蓋18を設置してもよい。
【0065】
また、本実施形態においては、蓋18のシート状部材2を挿通させる部分だけに孔を設けることにより、材料3の液面が空気に触れる面積を最小限に抑えることができ、溶媒の蒸発をより効果的に抑制することができる。
【0066】
次に、本第3実施形態の薄膜塗布乾燥装置の動作について説明する。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、先ず、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)又はTAC(トリアセチレンセルロース)からなる厚さが100μm程度のシート状部材2(光学フィルム用基材)が、搬入部11の搬入路から供給され、第1の空間16に入る。第1の空間16は、排気ポンプ4により、例えば大気圧よりも低い圧力Pに減圧されている。そして、この第1の空間16側の材料3の液面上には、蓋18aが浮かべられている。蓋18aが設置されていない場合においては、排気ポンプ4による減圧により、材料3の液面からは、溶媒が蒸発していくが、本実施形態においては、材料3の液面上に蓋18を設置することにより、液面からの溶媒の蒸発は抑制される。また、隔壁15を設置することにより、例えば第1の空間16に面する材料3の表面積が第2の空間17に面する材料3の表面積よりも大きい場合においては、第1の空間16側の液面における溶媒の蒸発量は多くなるが、第1の空間16側の液面上に蓋18aを設置することにより、第1の空間16側の液面における溶媒の蒸発を抑制し、シート状部材2の表面上に付着させる材料3の均質性を維持することができる。また、仮に材料3の液面から溶媒が蒸発した場合においても、第1の空間16側に排気ポンプ4及び凝縮器5を設け、凝縮器5により排ガス中の溶媒を再度貯留部13内に返戻することにより、第1の空間16側における溶媒の損失は防止できる。
【0067】
続いて、シート状部材2は、第1実施形態と同様に、搬送ローラ14で進行方向を転換され、貯留部13内に貯留された材料3に向けて搬送される。本実施形態においては、第1の空間16側の材料3の液面上には蓋18aが浮かべられており、この蓋18aに設けられた孔へ向けてシート状部材2が搬送されていく。そして、シート状部材2は、蓋18aの孔に挿通され、やがて、材料3の液面に到達し、材料3中に浸入し、材料3に浸漬される。
【0068】
そして、液中の2カ所で方向転換された後、第2の空間17へと向かっていく。本実施形態においては、第2の空間17側の材料3の液面には、蓋18bが浮かべられており、この蓋18bに設けられた孔へ向けてシート状部材2が搬送されていく。そして、シート状部材2は、材料3の液面から蓋18bの孔内に取り出され、やがて、第2の空間17に達する。材料3への浸漬により、シート状部材2の両面には、液状又はペースト状の材料3が薄膜状に付着する。
【0069】
第2の空間17は、溶媒が乾燥しやすい圧力Pに減圧されており、材料3の液面上に蓋18bが設けられていない場合においては、材料3の液面からは溶媒が容易に蒸発していく。本実施形態においては、第2の空間17側の材料3の液面上には蓋18bが設けられているため、第2の空間17側においても、溶媒の蒸発が抑制される。これにより、材料3の均質性を維持できるだけではなく、溶媒の損失を低減することにより、薄膜の製造コストの上昇を抑えることができる。また、仮に材料3の液面から溶媒が蒸発した場合においても、蒸発した溶媒を再度貯留部13に返戻する構成、例えば凝縮器等を第2の空間17側に設ければ、第2の空間17側における溶媒の損失を更に効果的に防止できる。
【0070】
第2の空間17内に取り出されたシート状部材2は、第2の空間17内の搬送ローラ14に向けて搬送されていく搬送経路上にて、シート状部材2の両面に付着した液状又はペースト状の材料のうち、シート状部材2の裏面側の余分な材料がスクレーパー19により掻き落とされる。そして、シート状部材2は、第2の空間17内の搬送ローラ14にて、その進行方向を鉛直上方から水平方向へと90度転換され、排出路へと搬送されていくが、排出路に到達するまでの間に、第2の空間17の減圧により、その表面に薄膜状に付着した材料3から溶媒成分が円滑に蒸発していき、乾燥されて、乾燥薄膜が形成される。そして、表面に乾燥薄膜が形成されたシート状部材2は、排出路を通過し、装置の外部に排出され、例えば図4に示すようなロール20に巻き取られ、次の製造工程に運ばれていく。
【0071】
このように、本実施形態においては、材料3の液面上に浮かべられる蓋18が設けられているため、第1実施形態の効果に加えて、材料3の液面からの溶媒の蒸発を抑制することができ、材料3の均質性を維持できるだけではなく、薄膜の製造コストの上昇を抑えることができる。
【0072】
なお、本実施形態においては、蓋18は、第1の空間16側及び第2の空間17側において夫々1部材により構成されているが、第1の空間16側の蓋18a及び/又は第2の空間17側の蓋18bは、夫々複数個の部材により構成されていてもよい。また、本実施形態においても、第2実施形態と同様に、搬入路内及び/又は排出路内を排気する構成を設けてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1:薄膜塗布乾燥装置、10:筐体、11:搬入部、11a、11b:排気口、12:排出部、12a、12b:排気口、13:貯留部、14:搬送ローラ、15:隔壁、16:第1の空間、17:第2の空間、18、18a、18b:蓋、19:スクレーパー、2:シート状部材、3:材料、4:排気ポンプ、5:凝縮器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状部材の表面上に液状又はペースト状の材料を塗布した後、乾燥させることにより、前記シート状部材の表面上に薄膜を形成する薄膜塗布乾燥装置において、
筐体と、
この筐体の内部に設けられ前記液状又はペースト状の材料が貯留された貯留部と、
前記貯留部内の材料の一部に進入して前記筐体の内部空間を第1の空間と第2の空間とに区画する隔壁と、
前記シート状部材を前記第1の空間から前記貯留部内の材料中に浸漬させた後、前記第2の空間にて前記シート状部材を前記材料から取り出すように、前記シート状部材を搬送する搬送部と、
前記第1の空間内を排気する第1排気部材と、
前記第2の空間内を排気して前記材料が付着した前記シート状部材が前記第2の空間内を進行する間に前記材料を乾燥させる第2排気部材と、
を有することを特徴とする薄膜塗布乾燥装置。
【請求項2】
前記筐体には、前記第2の空間から前記シート状部材を排出するための排出部が設けられており、前記排出部には、前記シート状部材の通過を案内する排出路と、前記排出路内を排気する第3の排気部材と、が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項3】
前記第3の排気部材は、前記排出路にて前記第2の空間から外部に向かって複数個の排気口を有し、前記第3の排気部材は、前記排出路内の圧力が前記第2の空間から前記筐体の外部へ向けて高くなるように前記排出路内を排気することを特徴とする請求項2に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項4】
前記隔壁は、前記第2の空間に面する前記材料の表面積が前記第1の空間に面する前記材料の表面積よりも小さくなるように前記筐体の内部を区画することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項5】
前記貯留部は、前記第1及び/又は第2の空間側の前記材料の液面上に浮かべられる蓋を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項6】
前記第1及び第2排気部材は、前記第1の空間の圧力と前記第2の空間の圧力とが等しくなるように前記第1及び第2の空間内を排気することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項7】
前記筐体には、外部から前記第1の空間内に前記シート状部材を搬入するための搬入部が設けられており、前記搬入部には、前記シート状部材の通過を案内する搬入路と、前記搬入路内を排気する第4の排気部材と、が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項8】
前記第4の排気部材は、前記搬入路にて外部から前記第1の空間に向かって複数個の排気口を有し、前記第4の排気部材は、前記搬入路内の圧力が前記筐体の外部から前記第1の空間へ向けて低くなるように前記搬入路内を排気することを特徴とする請求項7に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項9】
前記第1排気部材に接続され前記第1排気部材により排気された排ガスから前記材料の成分を凝縮により取り出した後、前記貯留部内に返戻する凝縮器を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項10】
前記シート状部材は柔軟性を有する基板であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項11】
前記シート状部材は光学フィルム用の基材であり、前記材料は光学機能性材料であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の薄膜塗布乾燥装置。
【請求項12】
前記請求項1乃至9のいずれかに記載の薄膜塗布乾燥装置を使用し、前記第1排気部材により排気されている第1の空間にシート状部材を供給する工程と、前記シート状部材を液状又はペースト状の材料内に浸漬させて前記シート状部材の表面上に前記材料を塗布する工程と、前記材料内から第2の空間に前記シート状部材を取り出す工程と、前記シート状部材の表面上に塗布された前記材料を減圧下の第2の空間にて乾燥させて薄膜を形成する工程と、表面に薄膜が形成されたシート状部材を前記第2の空間から排出する工程と、を有することを特徴とする薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24724(P2012−24724A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167375(P2010−167375)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(500171707)株式会社ブイ・テクノロジー (283)
【Fターム(参考)】