説明

薄膜形成装置および薄膜形成方法

【課題】ガス冷却を用いた成膜方法において、基板への損傷を抑制しながら、十分な基板冷却能力を確保する。
【解決手段】本発明の薄膜形成装置は、薄膜形成領域9において基板7の裏面に近接する冷却体10と、冷却体10と基板7の裏面の間にガスを導入するガス導入手段とを備え、冷却体10は、基板と近接し赤外光を透過する透過体と透過体を介して基板と対向する吸収体から構成される。このような構成によって、基板から放射された輻射光が透過体を透過し、透過体を介して基板と対向する輻射率が大きな吸収体に吸収されるため、冷却体10から基板7への輻射を抑制することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成装置または薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの高性能化、小型化に薄膜技術が幅広く展開されている。また、デバイスの薄膜化はユーザーの直接的なメリットに留まらず、地球資源の保護、消費電力の低減といった環境側面からも重要な役割を果たしている。
【0003】
こうした薄膜技術の進展には、薄膜製造方法の高効率化、安定化、高生産性化、低コスト化といった産業利用面からの要請に応えることが必要不可欠であり、これに向けた努力が続けられている。
【0004】
薄膜の高生産性には、高堆積速度の成膜技術が必須であり、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法などをはじめとする薄膜製造において、高堆積速度化が進められている。また、薄膜を連続的に大量に形成する方法として、巻き取り式の薄膜製造方法が用いられる。巻き取り式の薄膜製造方法はロール状に巻かれた長尺の基板を巻き出しロールから巻き出し、搬送系に沿って搬送中に、基板上に薄膜を形成し、しかる後に巻き取りロールに巻き取る方法である。巻き取り式の薄膜製造方法は、例えば電子線を用いた真空蒸着源などの高堆積速度の成膜源と組み合わせることによって、薄膜を生産性よく形成することが出来る。
【0005】
このような連続巻き取り式の薄膜製造の成否を決める要因として、成膜時の熱負荷の課題がある。例えば真空蒸着の場合、蒸発源からの熱輻射と、蒸発原子の有する熱エネルギーが基板に付与され、基板の温度が上昇する。特に堆積速度を高めるために蒸発源の温度を上げたり、蒸発源と基板を近づけたりすると、基板の温度が過度に上昇する。しかし基板の温度が上昇しすぎると、基板の機械特性の低下が顕著となり、堆積した薄膜や基板の熱膨張によって基板が大きく変形したり、基板が溶断したりする問題が生じやすくなる。その他の成膜方式においても熱源は異なるが、成膜時に基板に熱負荷が加わり、同様の問題がある。
【0006】
こうした基板の変形や溶断などが生じることを防ぐために、成膜時に基板の冷却が行われる。基板の冷却を目的として、搬送系の経路上に配置された円筒状キャンに基板が沿った状態で成膜を行うことが広く行われている。この方法で基板と円筒状キャンの熱的な接触を確保すると、熱容量の大きな冷却キャンに熱を逃がすことが出来るので、基板温度の上昇を防いだり、特定の冷却温度に基板温度を保持したりすることが出来る。
【0007】
真空雰囲気下で基板と円筒状キャンの熱的な接触を確保するための方法のひとつとして、ガス冷却方式がある。ガス冷却方式とは、基板と冷却体である円筒状キャンとの間で間隔が数mm以下のわずかな隙間を維持しつつ、この隙間に微量の冷却ガスを供給して気体の熱伝導を利用して基板と円筒状キャンの熱的な接触を確保し、基板を冷却する方法である。特許文献1には、基板であるウエブに薄膜を形成するための装置において、ウエブと支持手段である円筒状キャンとの間に冷却ガスを導入することが示されている。これによれば、ウエブと支持手段との間の熱伝導が確保できるので、ウエブの温度上昇を抑制することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−152262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のように、蒸着を行うような真空雰囲気においては、接触による熱伝導が小さいため、輻射伝熱による熱伝達の割合が大きくなるが、ウエブとキャンが近接した構成では、ウエブからの輻射光をキャンが反射する際に、反射された輻射光は再びウエブに吸収されるため、ウエブからキャンへの輻射伝熱が阻害されるという課題があった。特に、ウェブへの傷やキヤン表面形状のウェブへの転写が敏感な工程において、キヤン表面に鏡面加工を施す場合、輻射光のキャン表面での反射が大きいという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の薄膜形成装置は、真空中で表面と裏面を有する帯状の基板の前記表面上に、薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記基板を搬送する搬送機構と、搬送されている前記基板の前記表面上に、薄膜形成領域内で薄膜を形成する薄膜形成手段と、前記薄膜形成領域において前記裏面に近接する冷却面を有する冷却体と、前記搬送機構と、前記薄膜形成手段と、前記冷却体とを収容する真空容器とを備え、前記冷却体は、基板と近接し赤外光を透過する透過体と、透過体を介して基板を対向する吸収体を具備することを特徴とし、透過体の輻射率は吸収体の輻射率よりも小さいことを特徴とする薄膜形成装置である
さらに、真空中で、表面と裏面を有する帯状の基板の前記表面に、薄膜を形成する薄膜形成方法であって、薄膜形成領域において前記裏面に近接する冷却体を配置する配置工程と、搬送されている前記基板の前記表面上に、前記薄膜形成領域内で薄膜を形成する薄膜形成工程を含み、前記冷却体は、基板と近接し赤外光を透過する透過体と、透過体を介して基板を対向する吸収体を有し、透過体の輻射率は吸収体の輻射率よりも小さいことを特徴とする薄膜形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
上記のような構成によって、基板から放射された輻射光が透過体を透過し、透過体を介して基板と対向する輻射率が大きな吸収体に吸収されるため、冷却体から基板への輻射を抑制することが出来る。
【0012】
したがって、基板の冷却能力が向上し、キャン表面形状の転写による損傷を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1の成膜装置全体の構成を示す模式側面図。
【図2】(A)は本発明の実施形態1に用いるキャンの正面図、(B)は図2(A)のAA’断面図。
【図3】(A)は本発明の実施形態1に用いるキャンの正面図、(B)は図3(A)のAA’断面図。
【図4】(A)本発明の実施形態1に用いるキャンの正面図、(B)は図4(A)のAA’断面図。
【図5】本発明の実施形態2の成膜装置全体の構成を示す模式側面図。
【図6】本発明の実施形態2に用いる冷却体の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態において、同一部分には、同一番号を記し、重複する記載は省略する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施形態1である、薄膜形成領域内で基板が円筒状のキャンに沿って搬送される場合の成膜装置全体の構成を模式的に示す側面図である。
【0016】
真空容器1は内部空間を有する耐圧性の容器状部材であり、その内部空間に巻き出しローラ2、複数の搬送ローラ3、薄膜形成領域9、巻き取りローラ4、成膜源5、及び、遮蔽板6を収容する。巻き出しローラ2は、軸心回りに回転自在に設けられているローラ状部材であり、その表面に帯状で長尺の基板7が捲回され、最も近接する搬送ローラ3に向けて基板7を供給する。
【0017】
搬送ローラ3は軸心回りに回転自在に設けられているローラ状部材であり、巻き出しローラ2から供給される基板7を薄膜形成領域9に誘導し、最終的に巻き取りローラ4に導く。薄膜形成領域9を基板7が走行する際に、成膜源5から飛来した材料粒子が、必要に応じて原料ガス導入管(図示せず)から導入された原料ガスと反応して基板7表面に堆積し、薄膜が形成される。巻き取りローラ4は、図示しない駆動手段によって回転駆動可能に設けられているローラ状部材であり、薄膜が表面に形成された基板7を巻き取って保存する。
【0018】
成膜源5には各種成膜源を用いることが出来、例えば抵抗加熱、誘導加熱、電子線加熱などによる蒸発源や、イオンプレーティング源、スパッタ源、CVD源等を用いることが出来る。また成膜源として、イオン源やプラズマ源を組み合わせて用いることも可能である。例えば、成膜源5は、薄膜形成領域9の最下部の鉛直方向下方に設けられて、鉛直方向上部が開口している容器状部材と、当該容器状部材の内部に載置された成膜材料とを含む。成膜源5の近傍には電子銃や誘導コイル等の加熱手段(図示せず)が設けられ、これらの加熱手段によって前記容器状部材内部の成膜材料が加熱されて蒸発する。材料の蒸気は鉛直方向上方に向けて移動し、薄膜形成領域9における基板7表面に付着して薄膜が形成される。成膜源5は、成膜時に、基板7に対して熱負荷を与えることになる。
【0019】
遮蔽板6は、成膜源5から飛来した材料粒子が基板7と接触し得る領域を薄膜形成領域9のみに制限している。
【0020】
排気手段8は真空容器1の外部に設けられて、真空容器1内部を薄膜の形成に適する減圧状態に調整する。排気手段8は、たとえば、油拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプなどを主ポンプとした各種真空排気系によって構成される。
【0021】
薄膜形成領域9内で、基板7の裏面(成膜される表面の反対面)側には円筒状のキャン冷却体10が配置され、薄膜形成中、基板7は冷却体10に沿って搬送されている。
【0022】
冷却体10は、冷媒によって冷却されている。冷媒は、通常、液体又は気体の物質であり、代表的には水である。冷却体10には冷媒流路(図示せず)が接して設置されるか又埋設され、この流路を冷媒が通過することで冷却体10は冷却されている。冷媒流路として配管を使用する場合、配管の材質は特に限定されず、銅やステンレス等のパイプを用いることができる。配管は溶接などによって冷却体10に取り付けられても良い。
【0023】
冷却体10と基板7の間にはガス供給機構25により、冷却ガスが供給される。冷却ガスには、ヘリウムやアルゴンなどの各種ガスを用いることができる。ガス供給機構としては、例えば横笛様の吹きだし形状を有するガスノズルを冷却体10直近に設置し、そのノズルから基板7と冷却体10の間に向かってガスを導入する方法等が挙げられる。
【0024】
以上のように、図1の薄膜形成装置によれば、巻き出しローラ2から送り出された基板7が、搬送ローラ3を経由して走行し、薄膜形成領域9において蒸発源5から飛来した蒸気および必要に応じて酸素、窒素などの供給を受け、基板上に薄膜が形成される。この基板7は、別の搬送ローラ3を経由して巻き取りローラ4に巻き取られる。これによって、表面に薄膜が形成された基板7が得られる。
【0025】
基板7には、各種高分子フィルムや、各種金属箔、あるいは高分子フィルムと金属箔の複合体、その他の上記材料に限定されない長尺基板を用いることが出来る。高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。金属箔としては、例えば、アルミ箔、銅箔、ニッケル箔、チタニウム箔や、ステンレスなどの合金箔等が挙げられる。基板の幅は例えば50〜1000mmであり、基板の望ましい厚みは例えば3〜150μmである。基板の幅が100mm以上では温度ムラにより基板の熱膨張に部分的な差ができ、基板の一部がキャンから浮き上がりやすくなるが、本発明を適用できないということではない。基板の厚みが3μm未満では基板の熱容量が極めて小さいために薄膜形成中に熱変形が発生しやすい。基板の厚みが150μmより大きいと、巻き出しローラ2や巻き取りローラ4から付与される張力でも基板がほとんど伸びないため、基板に部分的に発生する歪を抑えられずに冷却体と基板との間に大きな隙間が生じやすくなり、ガス冷却時の冷却ガスの漏れが大きくなる。しかし、いずれも本発明が適用できないことを示すものではない。基板の搬送速度は作成する薄膜の種類や成膜条件によって異なるが、例えば0.1〜500m/分である。搬送方向Rで搬送中の基板7に印加される張力は、基板の材質や厚み、あるいは成膜レートなどのプロセス条件によって適宜選択される。
【0026】
図2は冷却体10の正面図および、基板通過位置での断面図を示す。
【0027】
冷却体10は基板7と接触する透過体51と透過体を介して基板7と対向する吸収体52により構成される。
透過体51は基板7と直接または冷却ガスを介して熱的に接触し、接触熱伝導による基板7の冷却を担い、基板7からの輻射で放出される赤外光を透過する。透過体51の表面は基板7への表面形状の転写や基板7への傷を防ぐため平滑である。透過体51は巨視的には基板7と直接接触するが、基板7と透過体の間に冷却ガスを導入するため、厳密に接触が確保される必要はなく、近接していれば良い。
【0028】
透過体51の厚みは、上限は赤外光の透過率によって制限されるため、およそ10mm以下であることが望ましい。厚みの下限は機械的強度によって、ある程度の制限を受けるが、基板7と透過体との摩擦や基板7にかけられた張力によって破壊されない材料であれば、蒸着や鍍金などの各種方法で吸収体表面に透過体の薄膜を形成して用いることもできる。本発明は透過体の厚みによって限定されるものではない。
【0029】
透過体51は、基板7から放出される赤外光を透過する材質により構成される。
基板からの輻射光のピーク波長(λm(μm))は基板絶対温度(T(K))により決まり、式1(ウイーンの式)に従うことが知られている。
【0030】
(式1)λm=2896/T ウイーンの式
基板7からの輻射光を有効に透過するためには、透過体51は基板温度に対するピーク波長λmにおいて透過率が50%以上であることが好ましい。
【0031】
蒸着工程で用いられる基板温度は基板の材質や薄膜の性状によって異なるが、大まかに100℃〜500℃程度であり、このときの輻射光のピーク波長は3〜8μm程度であることから、この波長領域に透過率が50%以上であることが好ましい。
【0032】
具体的には、シリコンや、ゲルマニウム、サファイア、フッ化カルシウムやフッ化バリウムなどを使用することができる。また、基板温度が比較的高温であり、ピーク波長が短い場合には、石英ガラスなどの長波長領域の透過率が低い材料を用いることも可能である。
【0033】
吸収体52は透過体51を介して基板7に対向し、基板7からの輻射光を吸収する。
【0034】
吸収体52は基板7と直接接触する危険性が無く、表面形状の基板への転写など基板に損傷を与える危険性が無いことから、平滑かつ磨耗に強い表面性状が必要な従来の冷却体に比べて、表面形状や材質の選択肢を多くとることができる。
【0035】
吸収体52の輻射光の吸収率を向上させるため、吸収体表面は輻射率が高い材質で構成されることが望ましく、吸収体表面粗さは透過体表面粗さよりも大きいことが望ましい。
【0036】
具体的には吸収体52の表面の輻射率は0.7以上あることが望ましく、材質としては表面に電解処理や酸化処理を施して輻射率を向上させたアルミニウムなど各種金属を用いることができるほか、シリカやアルミナのような酸化物や黒鉛などの比較的表面が粗く、磨耗に弱いもしくは脆い高輻射率の材料も用いることが可能である。また、吸収体52の機械的強度が小さい場合には、図3に示すように吸収体のさらに内側に機械的強度が高い芯53を埋め込むことで、機械的強度を補償することも可能である。芯の材質としては、一般にローラや円筒状キャンの材質として用いられるアルミニウムなど各種材料を用いることができ、本発明は芯53の材質や形状に限定されるものではない。さらに、芯53を設置した場合には、吸収体52は機械的強度を必要としないことから、各種黒化塗料の塗布や鍍金、蒸着により芯53上に薄膜状の吸収体52を形成しても良い。
【0037】
従来の円筒状キャン冷却体の材質として使用されるアルミニウムやステンレスなど各種金属材料の場合、輻射率は0.1程度の値であるが、基板への表面形状の転写や損傷を抑制するため、冷却体表面を研磨した場合、研磨の程度にもよるが輻射率はさらに低下し、0.05程度になる。この場合、基板からの輻射光の95%程度が冷却体に吸収されず基板に反射してしまい、再び基板が吸収してしまうため、輻射による冷却が阻害され、冷却効率の低下を招く。
【0038】
一方、本発明で使用する材質は、たとえばアルマイト処理したアルミニウムで輻射率0.8、黒鉛材で0.9程度を達成することができ、黒化塗料などを用いた場合には0.95程度まで達成することが可能である。このため、基板からの輻射光の70%〜95%程度を吸収することが可能になるため、基板への輻射光の反射を大幅に減少させることが可能になり、輻射による基板冷却が良好に達成される。
【0039】
基板7と冷却体10の間に冷却ガスを供給する方法としては、図1に示すようなガス供給機構を用いて供給する方法のほかに、冷却体10自身から冷却ガスを供給する方法が挙げられる。
【0040】
図4に冷却ガスを供給する機構を備えた冷却体10の一例を示す。
【0041】
冷却体10は透過体51と吸収体52から成るが、透過体上の基板が通過する位置には、冷却ガスを流通させるための細孔53が開けられており、また、透過体51と冷却体52の間には冷却ガスを保持するための空間(マニホールド)15が設けられている。このマニホールドに冷却ガスを導入することで、細孔53を通じて基板7と透過体51の間にガスを供給することが可能になる。
【0042】
透過体51表面における細孔53の開口面積は1つ当たり0.5〜20mmであることが好ましい。0.5mm未満では、成膜粒子により細孔が詰まりやすく好ましくない。20mmを超えると、各細孔から導入されるガスの圧力にバラツキが生じやすく、基板幅方向及び基板長手方向において冷却ムラが発生するため好ましくない。
【0043】
図2(A)および図2(B)において、細孔53は複数設置しているが、細孔の数は必要なガス圧や基板にかけられる張力に応じて、基板7と冷却体10の間のガス圧が均一になるように適切に選択することができ、本発明は細孔の数に規制されない。
【0044】
複数の細孔53は、透過体51表面において均一な間隔を開けて配置しても良い。しかし、冷却体と基板7との間からのガス漏れが多い場合は、ガス導入穴の配置や大きさを調整することで、基板幅方向の両端部近傍でのガス流量が多くなるように細孔51の配置を調節しても良い。
冷却ガスの吸収体52と透過体51の間のマニホールド15への導入方法としては、ガス導入用の管13を吸収体52の内部に設置し、吸収体にも細孔をあけることで可能になるほか、各種方法を用いることができ、本発明は冷却ガスの導入方法に規制されるものではない。
【0045】
また、本発明の冷却体は、薄膜形成領域9のみでなく、基板の搬送経路における搬送ローラ3や巻き取りローラ4、巻き出しローラ2に使用することも可能である。
搬送ローラ3や巻き取りローラ4、巻き出しローラ2に冷却体10を用いる場合、薄膜形成領域9と異なり、基板7への熱負荷が小さいことから、必ずしも基板7と冷却体10の間に冷却ガスを導入して冷却能力を向上させる必要はなく、必要とされる冷却能力が小さい、または排気能力が低く冷却ガスを導入することで真空容器1内圧が上昇し、薄膜形成に支障をきたす場合には、冷却ガスを導入せずに冷却体10を使用しても問題はない。
【0046】

(実施の形態2)
本発明は、板状の冷却体を用い、基板7と冷却体を近接させて、基板7と冷却体の間に冷却ガスを導入することも可能である。
【0047】
図5は、本発明の実施形態2である、薄膜形成領域内で基板が直線状に搬送される場合の成膜装置全体の構成を模式的に示す側面図である。ここで、「基板が直線上に搬送される」とは、図1に示すような円筒状キャンに沿って湾曲した状態での基板の搬送を除外することを意図しており、具体的には、図5で示すように複数のローラによって搬送方向に張力がかけられた状態での基板の搬送を意味している。ただし、図5に示すような側面図において、完全な直線上を基板が搬送される場合のみではなく、基板7の自重によるたるみや、冷却ガス、原料ガスの噴射などの原因で、直線的な搬送経路内に若干の曲がり部分を含んでいる場合も含む。
【0048】
真空容器1は内部空間を有する耐圧性の容器状部材であり、その内部空間に巻き出しローラ2、複数の搬送ローラ3、薄膜形成領域9、巻き取りローラ4、成膜源5、及び、遮蔽板6を収容する。巻き出しローラ2は、軸心回りに回転自在に設けられているローラ状部材であり、その表面に帯状で長尺の基板7が捲回され、最も近接する搬送ローラ3に向けて基板7を供給する。
【0049】
搬送ローラ3は軸心回りに回転自在に設けられているローラ状部材であり、巻き出しローラ2から供給される基板7を薄膜形成領域9に誘導し、最終的に巻き取りローラ4に導く。薄膜形成領域9を基板7が走行する際に、成膜源5から飛来した材料粒子が、必要に
応じて原料ガス導入管(図示せず)から導入された原料ガスと反応して基板7表面に堆積し、薄膜が形成される。巻き取りローラ4は、図示しない駆動手段によって回転駆動可能に設けられているローラ状部材であり、薄膜が表面に形成された基板7を巻き取って保存する。
【0050】
成膜源5には各種成膜源を用いることが出来、例えば抵抗加熱、誘導加熱、電子ビーム加熱などによる蒸発源や、イオンプレーティング源、スパッタ源、CVD源等を用いることが出来る。また成膜源として、イオン源やプラズマ源を組み合わせて用いることも可能である。例えば、成膜源5は、薄膜形成領域9の最下部の鉛直方向下方に設けられて、鉛直方向上部が開口している容器状部材と、当該容器状部材の内部に載置された成膜材料とを含む。成膜源5の近傍には電子銃や誘導コイル等の加熱手段(図示せず)が設けられ、これらの加熱手段によって前記容器状部材内部の成膜材料が加熱されて蒸発する。材料の蒸気は鉛直方向上方に向けて移動し、薄膜形成領域9における基板7表面に付着して薄膜が形成される。成膜源5は、成膜時に、基板7に対して熱負荷を与えることになる。
【0051】
遮蔽板6は、成膜源5から飛来した材料粒子が基板7と接触し得る領域を薄膜形成領域9のみに制限している。
【0052】
排気手段8は真空容器1の外部に設けられて、真空容器1内部を薄膜の形成に適する減圧状態に調整する。排気手段8は、たとえば、油拡散ポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプなどを主ポンプとした各種真空排気系によって構成される。
【0053】
薄膜形成領域9内で、基板7の裏面(成膜される表面の反対面)側には冷却体10が基板7に近接して配置されている。
【0054】
基板7の搬送経路に沿って冷却体10の前後には、一対の補助ローラ11が配置されており、基板7の裏面に接している。これにより、薄膜形成領域9近傍での基板7の搬送経路を調整し、基板と冷却体との距離を微調整することが容易になる。
【0055】
冷却体10と基板裏面との間には、ガスフローコントローラ12で導入量を制御されたガスが、冷却ガス供給手段14からガス配管13を通して導入される。この導入されたガスが、冷却体10の冷熱を伝達して基板7を冷却する。冷却ガス供給手段14には、ガスボンベ、ガス発生装置などがある。
【0056】
冷却体10は、冷媒によって冷却されている。冷媒は、通常、液体又は気体の物質であり、代表的には水である。冷却体10には冷媒流路(図示せず)が接して設置されるか又埋設され、この流路を冷媒が通過することで冷却体10は冷却されている。冷媒流路として配管を使用する場合、配管の材質は特に限定されず、銅やステンレス等のパイプを用いることができる。配管は溶接などによって冷却体10に取り付けられても良い。また、冷媒を通すための穴を冷却体10に直接開けることで冷媒流路を形成してもよい。
【0057】
基板7の冷却能は種々の条件を変更することで調整が可能である。そのような条件として、例えば、冷却体10を冷却する冷媒の種類、流量又は温度や、冷却体10と基板裏面との間に導入する冷却ガスの流量、種類又は温度(ガス導入条件)、補助ローラ11等により調整される冷却体10と基板7との距離などが挙げられる。これらの条件は1種類のみを調整してもよく、2種類以上を組み合わせて調整してもよい。
【0058】
以上のように、図5の薄膜形成装置によれば、巻き出しローラ2から送り出された基板7が、搬送ローラ3を経由して走行し、薄膜形成領域9において蒸発源5から飛来した蒸気および必要に応じて酸素、窒素などの供給を受け、基板上に薄膜が形成される。この基
板7は、別の搬送ローラ3を経由して巻き取りローラ4に巻き取られる。これによって、表面に薄膜が形成された基板7が得られる。
【0059】
基板7には、各種高分子フィルムや、各種金属箔、あるいは高分子フィルムと金属箔の複合体、その他の上記材料に限定されない長尺基板を用いることが出来る。高分子フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。金属箔としては、例えば、アルミ箔、銅箔、ニッケル箔、チタニウム箔やステンレスなどの合金箔等が挙げられる。基板の幅は例えば50〜1000mmであり、基板の望ましい厚みは例えば3〜150μmである。
【0060】
基板の幅が50mm未満ではガス冷却時のガスの漏れが大きいが、本発明を適用できないということではない。基板の厚みが3μm未満では基板の熱容量が極めて小さいために熱変形が発生しやすい。基板の厚みが150μmより大きいと、巻き出しローラ2や巻き取りローラ4から付与される張力でも基板がほとんど伸びないため、基板に部分的に発生する歪を抑えられずに冷却体と基板との間に大きな隙間が生じやすくなり、ガス冷却時のガスの漏れが大きくなる。しかし、いずれも本発明が適用できないことを示すものではない。基板の搬送速度は作成する薄膜の種類や成膜条件によって異なるが、例えば0.1〜500m/分である。搬送中の基板7に印加される張力は、基板の材質や厚み、あるいは成膜レートなどのプロセス条件によって適宜選択される。
【0061】
図6は、図1で示した成膜装置の薄膜形成領域9近傍を拡大した断面図である。
【0062】
冷却体10は実施の形態1にて記載した冷却体と同様、基板7に近接する透過体51と透過体51を介して基板と対向する吸収体52から構成される。
【0063】
冷却体10と基板7の間にガスを導入する方法としては、様々な方法が可能である。例として、図6に示すように、冷却体10の内部に、ガス配管13に連結したマニホールド15を設け、そこから透過体の表面(基板7の裏面と対向する面)に伸びる複数の細孔53を経由してガスを供給する。別法として、例えば横笛様の吹きだし形状を有するガスノズルを冷却体に埋め込み、そのノズルからガスを導入する方法等により、冷却体10と基板7の間にガスを導入することもできる。ガス導入方法は、これらに限定されるものではなく、熱伝達媒体としてのガスを冷却体と基板との間に制御しながら導入できるのであれば、他の方法を用いることも出来る。
【0064】
図6における細孔53の開口面積は、細孔1つ当たり0.5〜20mmであることが好ましい。0.5mm未満では、成膜粒子により細孔が詰まりやすく好ましくない。20mmを超えると、各穴から導入されるガスの圧力にバラツキが生じやすく、基板幅方向及び基板長手方向において冷却ムラが発生するため好ましくない。
【0065】
複数の細孔53は、冷却体10表面において均一な間隔を開けて配置しても良い。しかし、冷却体と基板との間からのガス漏れが多い場合は、ガス導入穴の配置や大きさを調整することで、基板幅方向の両端部近傍でのガス流量が多くなるように細孔53の配置を調節しても良い。
【0066】
実施の形態2に記載の板状の冷却体を用いる場合、走行中の基板と冷却体とが接触すると傷や基板切れなどの不具合が発生する恐れがあるため、特に冷却体表面が基板の走行経路よりも突出している場合には、冷却体と基板裏面との間に導入される冷却ガスによって、冷却面と基板裏面とのあいだにギャップが生じる(すなわち、基板が冷却面から浮上する)よう、冷却ガスの圧力を調整することが好ましい。このときの冷却体と基板裏面とのあいだの距離は0.1〜5mmであることが好ましい。0.1mm未満では、基板の形状
バラツキや走行バラツキによって基板と冷却体が接触する恐れがある。5mmを超えると、そのギャップからガスが漏れやすくなるため、ガス導入量の増加が必要となり、更にギャップ拡大による冷却効率の低下も招くので好ましくない。
【0067】
ギャップを生じさせるために導入する冷却ガスの圧力は、20〜200Paであることが好ましい。20Pa未満では、圧力が低すぎるため、基板の形状バラツキや走行バラツキがある場合は、基板が冷却体に接触する恐れがある。200Paを超えると、冷却面と裏面とのあいだのギャップが大きくなり、ガス漏れの増加、そして真空ポンプへの不必要な負荷が発生する。
【0068】
発明を実施するための形態として上記に具体的に述べたが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
また、具体的な適用例として、シリコンを用いた電池用極板や、磁気テープ等について述べたが、本発明はこれらに限定されるものではなく、コンデンサ、センサ、太陽電池、光学膜、防湿膜、導電膜、などをはじめとする安定成膜が要求される様々なデバイスに適用可能なことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の薄膜形成膜装置及び薄膜形成方法では、ガス冷却方式において基板と冷却体の接触が懸念され、冷却体表面を平滑化する必要があるプロセスにおいても、基板から冷却体への輻射光の反射を抑制し、熱伝達を促進することにより、十分な冷却効果を達成することが可能である。これによって、基板の変形や溶断等を防止しながら、高材料利用効率と高成膜レートを両立する薄膜形成を実現することが出来る。
【符号の説明】
【0071】
1 真空容器
2 巻き出しローラ
3 搬送ローラ
4 巻き取りローラ
5 成膜源
6 遮蔽板
7 基板
8 排気手段
9 薄膜形成領域
10 冷却体
11 補助ローラ
12 ガスフローコントローラ
13 ガス配管
14 冷却ガス供給手段
15 マニホールド
16 ガス導入穴
17 導入ガス
51 透過体
52 吸収体
53 細孔
55 芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中で、表面と裏面を有する帯状の基板の前記表面上に、薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記基板を搬送する搬送機構と、
搬送されている前記基板の前記表面上に、薄膜形成領域内で薄膜を形成する薄膜形成手段と、
前記薄膜形成領域において前記裏面に近接する冷却面を有する冷却体と、
前記搬送機構と、前記薄膜形成手段と、前記冷却体とを収容する真空容器とを備え、
前記冷却体は、基板と近接し赤外光を透過する透過体と、透過体を介して基板を対向する吸収体を具備することを特徴とし、透過体の輻射率は吸収体の輻射率よりも小さいことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記冷却面と前記裏面との間に冷却ガスを導入して基板を冷却するガス導入手段とを有する、請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記透過体と前記吸収体の間にガスを保持する空間と、前記透過体を貫通する細孔を具備し、前記細孔から前記基板と前記冷却体の間に冷却ガスを導入することを特徴とする請求項2記載の薄膜形成装置
【請求項4】
前記細孔の1つ当たりの開口面積が0.5〜20mmであることを特徴とする請求項3記載の薄膜形成装置
【請求項5】
前記冷却体は、前記冷却面が円筒形状を有する回転式冷却体であり、
前記薄膜形成領域で、前記基板は前記冷却面に沿って湾曲しつつ搬送される、請求項1〜4に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記透過体は波長3〜8μmの赤外光を50%以上透過することを特徴とする、請求項1〜5に記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
前記吸収体の輻射率が0.7以上であることを特徴とする、請求項6に記載の薄膜形成装置。
【請求項8】
前記冷却体が冷媒によって冷却されている、請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜形成装置。
【請求項9】
真空中で、表面と裏面を有する帯状の基板の前記表面に、薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
薄膜形成領域において前記裏面に近接する冷却体を配置する配置工程と、
搬送されている前記基板の前記表面上に、前記薄膜形成領域内で薄膜を形成する薄膜形成工程を含み、
前記冷却体は、基板と近接し赤外光を透過する透過体と、透過体を介して基板を対向する吸収体とを有し、透過体の輻射率は吸収体の輻射率よりも小さいことを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項10】
前記冷却体と前記裏面との間に冷却ガスを導入する、請求項9に記載の薄膜形成方法。

【請求項11】
前記薄膜形成工程において、前記冷却ガスを、前記裏面と前記冷却面とのあいだにギャップが生じるよう調整された圧力で導入する、請求項10に記載の薄膜形成方法。
【請求項12】
前記裏面と前記冷却面とのあいだの距離は、0.1〜5mmである、請求項11に記載の薄膜形成方法。
【請求項13】
前記圧力は、20〜200Paである、請求項11又は12に記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−58079(P2011−58079A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211389(P2009−211389)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】