説明

衝撃吸収部材の製造方法

【課題】短い変形ストロークと優れたエネルギー吸収効率を両立させ得る衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】長手方向と短手方向とを有し、曲げ変形を行うことにより衝撃を吸収する中空の衝撃吸収部材1であって、前記衝撃を直接受けることにより圧縮応力が発生する圧縮部位10と、この圧縮部位10に対向し引張応力が発生する引張部位12と、これら圧縮部位10と引張部位12との両端側を連結する一対の側方部位14と、を有し、少なくとも前記側方部位14には、所定の曲率半径を有する複数の山部162と谷部164とからなる蛇腹状の変形促進手段16が設けられ、前記変形促進手段16は、繊維強化プラスチック材で形成され、且つ、前記谷部164の頂部が前記長手方向における前記変形促進手段16の両端を結ぶ線よりも内側になる位置に配置される衝撃吸収部材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収部材に関し、特に、短い変形ストロークと優れたエネルギー吸収効率を両立させ得る衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、軽量且つ高強度の構造部材として、アルミに加えて、繊維強化材料が用いられている。繊維強化材料は、複合材料を繊維で強化したものであり、繊維強化ゴム(FRR)、繊維強化金属(FRM)、繊維強化セラミックス(FRC)、繊維強化プラスチック(FRP)等が知られている。これらのうち、繊維強化材料として最もよく利用されるFRPは、マトリクス(素地)としてプラスチックを使用したもので、強化材としては一般に、炭素やガラス等の繊維が使用されることが知られている。
【0003】
FRPの強化材として炭素繊維を使用したものは、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とよばれる。CFRPは、先端複合材料の中核に位置し、軽量、高強度、高弾性率材料として、航空分野、宇宙分野等に欠くことのできない構造材料として知られている。CFRP材は、炭素繊維の配向に応じて異なる構造及び性質を持つ、ユニダイレクショナル材(UD材)や、クロス材が知られている。UD材は、炭素繊維をうすく一方向に並べてエポキシ樹脂等により成型した素材形態である。一方、クロス材はカーボン繊維などの繊維を織物又は編物として、エポキシ樹脂等により成型した素材形態である。これらのCFRPは、鉄の約25%の重量と軽量ながら、耐熱性及び耐蝕性に優れる。
【0004】
ところで、従来より、自動車等の衝撃吸収部材として、乗員の保護対策及び燃費向上等の観点から、軽量且つ高強度の構造部材であるアルミニウム材やアルミニウム合金材が用いられている。特に、フロントピラー、センターピラー、リアピラー等の自動車側部に使用されるビーム材においては、衝突時の衝撃から乗員を保護するために、より優れたエネルギー吸収量を有する衝撃吸収部材が望まれている。
【0005】
例えば、自動車の側部構造材に設置されるフレームでは、単一材料を押出成型やプレス成型し、断面形状を閉断面化、大断面化して強度及び剛性を上げることにより、衝突時のエネルギー吸収量の増大が図られている。一般に、側面衝突時の変形モードとしては、センターピラーを例に挙げると、上部サイドルーフレールと下部サイドシルを支点として折れ曲がる、3点曲げによる曲げ変形を受ける。従って、側部構造材としては、曲げの荷重に対する耐久力が強く、曲げによるたわみが小さいことが望まれる。
【0006】
また、自動車の側部構造部材であるピラーでは、アルミニウム材又はアルミニウム合金材を用いた場合、同じ重量で大きな断面2次モーメントを得るために中空構造が採用されている。このようなアルミニウム等の衝撃吸収部材は、衝撃によって加わる荷重が最大強度に達した直後に荷重強度が急激に減少するという性質がある。これは、加わる荷重が降伏点を越えると、小さな荷重で容易に衝撃吸収部材が変形するため、一旦降伏点を越えると車体の変形量が大きいことを意味する。即ち、降伏点を越えると耐え得る荷重が小さくなり、小さい荷重で大きな車体の変形を生じるため、荷重と変位の積で算出されるエネルギー吸収量は結果的に小さくなる。従って、ピラー等の衝撃吸収部材としては、荷重が最大強度に達して降伏点を越えた後、降伏点近傍の荷重が引き続き加わったとしても、一定の変位に達するまでは荷重強度を保持し続けるものであることが望まれる。
【0007】
これに関し、特許文献1には、アルミ中空形材の引張面側にFRP材を隣接して一体化させた部材が開示されている。これは、圧縮面側に塑性変形容易な部材を使用し、引張面側に高強度軽量部材を使用することで、圧縮面側で衝撃吸収を受け持ち、引張面側では面の変化量を少なくすることで大きなエネルギー吸収と小さな変形を実現しようとする技術である。
【0008】
また、特許文献2には、軸圧壊してエネルギーを吸収させる車体構造部材において、曲げ変形を受ける箇所に蛇腹状の荷重伝達部材を配置し、山折した蛇腹の稜線を荷重受け面とし、谷折した蛇腹の稜線を構造部材への結合部として、良好な軸圧壊特性の実現と、曲げ入力に対する強度を向上させるという技術が開示されている。
【特許文献1】特開平06−101732号公報
【特許文献2】特開2004−75021号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている衝撃吸収部材は、圧縮側に塑性変形しやすいアルミを使用しているため、衝撃吸収部材の吸収エネルギー量は、圧縮側の降伏応力が支配的要因となってしまう。つまり、引張側の高強度FRP材は、エネルギー吸収材としての寄与が低く、かつ、アルミを使用することで重量効率の向上にも限界がある。また、この衝撃吸収部材においては、アルミとFRPがボルトにより接合された構造を有しているため、荷重による変形に伴ってボルト接合部に応力集中が発生してしまい、この発明特有の利点を発揮する以前に接合部から破断に至る可能性がある。ボルトの代わりとして接着剤を使用したとしても、接着剤の強度で衝撃吸収部材全体の強度の上限値が決まってしまう。
【0010】
また、特許文献2に開示されている荷重伝達部材を、荷重を受ける中空長材に採用した場合、荷重伝達部材自身が抵抗となって荷重を発生させるだけで、長材に略直角方向に働く荷重を長手方向に変換することはできない。図10に、特許文献2に開示される荷重伝達部材の荷重受け面301に、衝撃を加えた状況を示す。図10(A)の矢印方向から、山折部分302に衝撃を加えた場合、特許文献2に開示された荷重伝達部は、衝撃により図10(B)に示されるように、断面が潰れるのみとなる。図10(C)は、図10(B)のA−Aにおける構造部材300の断面図を示すものである。即ち、特許文献2に開示された荷重伝達部材は、荷重伝達部材自身が抵抗となって荷重に寄与するのみであり、結局のところ、曲げ荷重により断面が潰れてしまい、曲げモーメントに耐えられなくなるという根本的な問題を解決することができない。
【0011】
また仮に、特許文献2に開示された荷重伝達部材を、接着、溶接等により接続して断面の潰れを防ごうとしても、接続部から破壊が進行する危険性が高まり、且つ、接続範囲の剛性が上がり、圧縮時の荷重変動が大きくなるため、軸圧壊特性の向上を図ることができなくなる可能性がある。また、そもそもこの荷重伝達部材はあくまで軸圧壊エネルギー吸収部材の性能向上を図ったものであり、軸圧壊方向の荷重を受けずに曲げ荷重のみを受ける構造部材を対象としたものではないため、曲げ変形のみに対するエネルギー吸収性能の向上を達成するものではない。
【0012】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、短い変形ストロークと優れたエネルギー吸収効率を両立させ得る衝撃吸収部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、中空の衝撃吸収部材の所定の位置に蛇腹状の変形促進手段を設けることによって、短い変形ストロークと優れたエネルギー吸収効率を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のような衝撃吸収部材を提供する。
【0014】
(1) 長手方向と短手方向とを有し、曲げ変形を行うことにより衝撃を吸収する中空の衝撃吸収部材であって、前記衝撃を直接受けることにより圧縮応力が発生する圧縮部位と、この圧縮部位に対向し引張応力が発生する引張部位と、これら圧縮部位と引張部位との両端側を連結する一対の側方部位と、を有し、少なくとも前記側方部位には、所定の曲率半径を有する複数の山部と谷部とからなる蛇腹状の変形促進手段が設けられ、前記変形促進手段は、繊維強化プラスチック材で形成され、且つ、前記谷部の頂部が前記長手方向における前記変形促進手段の両端を結ぶ線よりも内側になる位置に配置された衝撃吸収部材。
【0015】
(1)の衝撃吸収部材は、衝撃を受ける部位の側方に、変形促進手段として、蛇腹状の構造を有するものである。一般に、構造部材が衝撃を受けると、荷重部及び曲げモーメントが極値を取る部分において、構造部材が折れ曲がる。構造部材が曲げ変形を受ける際には、衝撃を直接受ける部分には圧縮応力が発生し、この圧縮応力が発生する部位に対向する部位には引張り応力が発生し、この圧縮応力がある大きさを越えたときに、曲げ荷重が低下して圧縮部位が座屈し、断面が潰れる。
【0016】
この点、(1)の衝撃吸収部材によれば、衝撃を受ける部位の側方に、繊維強化プラスチック材で形成された蛇腹状の変形促進手段を設けたことによって、衝撃吸収部材に対して衝撃による荷重が加わったときに、圧縮応力が発生する部位の蛇腹が座屈する。繊維強化プラスチック材で形成された蛇腹が座屈する際には、一定の荷重が発生するため、圧縮を受ける部位において蛇腹の座屈を安定的に発生させることができる。また、座屈後は干渉により荷重が上昇するため、その力により周囲の蛇腹を更に座屈する。これにより、断面を潰す力を、蛇腹の座屈時の荷重に変換し続けることができ、荷重部の断面形状を維持したままで周囲に変形を拡大することにより、曲げエネルギー吸収効率を向上することができる。
【0017】
また、(1)の衝撃吸収部材に設けられた蛇腹状の変形促進手段は、所定の曲率で形成された複数の山部と谷部とを滑らかに繋いだ連続形状を有しており、より安定した蛇腹の座屈を可能としている。さらには、蛇腹状の谷部の頂部が、長手方向における前記変形促進手段の両端を結ぶ直線よりも内側になる位置に配置されることにより、蛇腹の座屈時に蛇腹部分が外側に膨らみ、断面が潰れることを防止できる。
【0018】
(2) 前記変形促進手段は、前記山部及び谷部の各稜線が前記長手方向に対して略直交する向きに配置された(1)記載の衝撃吸収部材。
【0019】
(2)の衝撃吸収部材によれば、変形促進手段となる蛇腹状の山部及び谷部の各稜線を前記長手方向に対して略直交する向きに配置することによって、曲げ変形時に圧縮部位及び引張部位の両方に一定荷重を発生させることができ、エネルギー吸収効率を向上させるとともに、変形ストロークを短くすることができる。
【0020】
(3) 前記山部及び谷部の曲率半径は、互いに異なる(1)又は(2)記載の衝撃吸収部材。
【0021】
(3)の衝撃吸収部材によれば、山部及び谷部を、互いに異なる曲率半径で形成することによって、蛇腹の座屈時に発生する荷重の強弱を調整することができる。これにより、荷重点から離れた位置であっても座屈し易い領域を形成することができ、変形及び破壊領域を拡大し、コントロールすることができる。山部及び谷部の曲率半径は特に限定されないが、谷部の曲率半径が山部の曲率半径よりも小さい場合には、衝撃吸収部材の曲げ変形時に側方部位がより外側に変形し易いため、断面が部材の外側に膨らみ、断面係数が減少してしまう可能性がある。これに対して、谷部の曲率半径の方が山部の曲率半径よりも大きい場合には、衝撃吸収部材の曲げ変形時に側方部位の蛇腹が効果的に座屈し、断面が部材の外側に膨らむことがないため好ましい。また、異なる曲率半径を有する山部があってもよく、同様に、異なる曲率半径を有する谷部があってもよい。
【0022】
(4) 前記側方部位に設けられた変形促進手段は、前記圧縮部位側から中立軸を跨いで前記圧縮部位側にまで配置された(1)から(3)いずれか記載の衝撃吸収部材。
【0023】
(4)の衝撃吸収部材によれば、蛇腹状の変形促進手段を圧縮部位側から中立軸を跨いで圧縮部位側にまで配置することによって、衝撃が加わったときに蛇腹がより効果的に座屈する。従って、断面を潰す力を、より効果的に蛇腹の座屈時の荷重に変換し続けることができ、さらに短い変形ストロークと優れたエネルギー吸収効率を実現できる。
【0024】
なお、本発明でいう中立軸とは、中立面と側方部位との交線をいい、中立面とは、短手方向の各断面における図心を含む面であって、圧縮応力及び引張応力のいずれもが作用しない面である。図心とは、図形の面積の大きさを力と考えてその合力を求めたときに、その作用点に相当するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の衝撃吸収部材によれば、衝撃による曲げ荷重が加わった際に、衝撃吸収部材の側方に設けられた蛇腹状の変形促進手段が座屈することによって、曲げ荷重を長手方向の圧縮荷重に変換し、断面の潰れを回避して曲げ荷重の低下を防止することができる結果、曲げエネルギー吸収効率を向上させることが可能となる。従って、本発明の衝撃吸収部材は、従来よりも短い変形ストロークと優れたエネルギー吸収効率を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、共通する構成要素については、同一符号を付し、その説明を省略若しくは簡略化する。
【0027】
本発明の一実施形態である衝撃吸収部材1の斜視図を図1に示す。この衝撃吸収部材1は、衝撃を直接受けることにより圧縮応力が発生する圧縮部位10と、この圧縮部位10に対向し引張応力が発生する引張部位12と、これら圧縮部位10と引張部位12との両端側を連結する一対の側方部位14を有する。側方部位14には、蛇腹状の変形促進手段16が設けられており、蛇腹状の変形促進手段16は、同じ曲率半径を有する複数の山部162と谷部164とを滑らかに繋いだ連続形状を有している。なお、この変形促進手段16が設けられている領域は、側方部位14であれば特に限定されない。
【0028】
衝撃吸収部材1の平面図を図2及び3に示す。図2に示すように、谷部164の頂部は、長手方向における変形促進手段16の両端を結ぶ直線mよりも内側になる位置に配置されている。また、図3に示すように、変形促進手段16は、山部162の曲率半径r1と谷部164の曲率半径r2が同じ長さである。この場合には、座屈時に各々の山部162及び谷部164が安定した一定の荷重を発生する。これに対して、図4に示すように、本実施形態の変形例として、山部162’の曲率半径r1よりも谷部164’の曲率半径r2の方が大きい変形促進手段を設けた衝撃吸収部材が挙げられる。この変形例では、曲率半径の大きい谷部164’が山部162’よりも座屈し易く、優先的に一定の荷重を発生する。
【0029】
[衝撃吸収機構]
図5は、本発明の衝撃吸収部材1における衝撃吸収機構を表す図である。一般に、構造部材が衝撃により曲げ変形を受ける際には、側方部位14の衝撃加圧部9付近には、矢印方向の圧縮応力が発生し、側方部位14の衝撃加圧部9の反対側には、圧縮応力と反対方向の引張応力が発生する。構造部材が曲がってしまうのは、構造部材の曲げ荷重が低下するためであり、曲げ荷重の低下は、前記圧縮応力により、衝撃加圧部9および側方部位14が座屈し、断面が潰れてしまうためである。本発明においては、側方部位14に設けられた変形促進手段16により、この圧縮応力を利用して、曲げ荷重を長手方向の圧縮荷重に変換し、断面の潰れを回避することにより曲げ荷重の低下を防ぐことが可能となり、その結果、曲げエネルギー吸収効率を向上することができる。
【0030】
[衝撃吸収部材の形状]
本発明の衝撃吸収部材1は、長手方向と短手方向を有し、衝撃時には、長手方向に対して略直角に曲げ変形がなされることにより衝撃の吸収を行うものである。本発明に係る衝撃吸収部材1の形状は、中空の衝撃吸収部材となるものであれば特に限定されるものではない。例えば、四角柱などの断面多角形形状、円筒形状を挙げることができ、場所によって断面形状が異なっていてもよい。
【0031】
[衝撃吸収部材、変形促進手段の材料]
本実施形態に係る変形促進手段16は、繊維強化プラスチック材により形成される。例えば、強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、玄武岩繊維などが使用でき、母材プラスチックとしては、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、不飽和ポリエステル、ビニルエステルなどが使用できる。
【0032】
繊維強化プラスチック材のうち、強化材として炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量、高強度、高弾性率材料であるため、本実施形態に係る変形促進手段16の形成に好適に用いられる。具体的には、CFRPのUD材やクロス材等を積層したものを用いることができる。例えば、積層するシート同士の繊維方向が一定の角度を有するように、積層されるシート状UD材同士の繊維方向を変えて積層させたものを用いることができる。また、一のシート状UD材と他のシート状UD材とを、繊維配向角が45度と−45度となるように積層して形成されたもの(以下、CFRPのUD材[45/−45]とする)等を用いることができる。ここで、「繊維配向角」とは、衝撃吸収部材の重心を通って長手方向に延びる中心軸と繊維方向から定まる角度である。また、「繊維方向」とは、UD材やクロス材等の繊維強化材を形成する際に、繊維を一方向に揃えることにより決定される繊維の向きである。繊維強化材を用いた衝撃吸収構造体の荷重特性は、繊維配向角に影響されるため、繊維配向角を適宜設定することにより、高いエネルギー吸収効率を有する衝撃吸収部材を提供することができる。なお、積層回数や繊維配向角については特に限定されない。
【0033】
また、本実施形態に係る変形促進手段16の形成に、プリプレグを用いることができる。例えば、シート状UD材の繊維方向を一方向に揃えて複数枚積層した一方向UD材により形成されたプリプレグ等を用いることができる。
【0034】
なお、変形促進手段16以外の部位における材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、繊維強化プラスチック、繊維強化金属などの繊維強化材料、鉄やアルミニウムなどの金属、樹脂単体等を挙げることができる。
【0035】
<製造方法>
本実施形態に係る衝撃吸収部材1の製造方法の一例を図6に示す。図6に示すように、本実施形態に係る衝撃吸収部材1に設けられる変形促進手段16は、予め所定の曲率半径を有する複数の山部と谷部からなる連続形状を設けた上型22と下型24の間に、繊維強化プラスチック材をすし巻き状にしたプリプレグ100を挿入し、これらの型2を閉じて内圧成形することにより得られる。次いで、得られた変形促進手段16を、中空の鉄材やアルミニウム材等の側方部位に配置することにより、衝撃吸収部材1が得られる。このように、変形促進手段16のみを繊維強化プラスチック材で成形し、その他の部分を金属等で成形することができる他、繊維強化プラスチック材の内圧成形のみでも衝撃吸収部材1の成形が可能である。
【0036】
<用途>
本発明の衝撃吸収部材は、短い変形ストロークと大きなエネルギー吸収効率を実現できることから、優れた衝撃エネルギー吸収が必要となる部材に用いることができる。そのような部材としては、例えば、自動車のフロントピラー、センターピラー、リアピラー等の自動車側部に使用されるビーム材を挙げることが可能である。本発明の衝撃吸収部材を構造部材に用いた自動車は、追突事故等により車体に衝撃が加わった際に、曲げ荷重に対する耐久性に優れることから、優れた衝撃エネルギーの吸収が期待でき、乗員の保護に寄与しうる。
【0037】
図7は、本発明の衝撃吸収部材を自動車センターピラーのビーム材として適用した例を示す図である。自動車センターピラーとは、図7(A)にて示される部分であり、センターピラーには、図7(B)に示されるように、内部構造材としてのビーム材が存在している。図7(B)に示されるビーム材のY−Yにおける断面図が図7(C)である。一般に、自動車の側方からの衝突時の荷重は、矢印に示される方向から受ける。このため、矢印方向を受ける面を荷重受け面(圧縮部位)とし、その側方部位に対して変形促進手段を設けるのが効果的である。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
[衝撃吸収部材の全体構成]
図8に示されるような、蛇腹状の変形促進手段を備える中空の衝撃吸収部材を作成した。図8中の長さの数値の単位はmmであり、衝撃吸収部材は、長手方向の長さ600mm、断面が50mm×50mmの中空部材である。この衝撃吸収部材の長手方向の略中心部分のP部に、90mmの領域で、蛇腹状の変形促進手段を設けた。尚、図8における矢印を衝撃加圧方向とした。
【0040】
衝撃吸収部材の製造は、次の通りに行った。先ず、東邦テナックス(株)製の炭素繊維HTAにマトリクスとしてエポキシ樹脂(#112)を用いたUD材を、積層構成が[0/90/0/90/0]sとなるように積層した後、すし巻き状にしてすし巻き状プリプレグを作成した。次いで、予め曲率半径25mmを有する複数の山部と谷部からなる連続形状を設けた上型と下型の間に、このすし巻き状プリプレグを挿入し、これらの型を閉じて内圧成形することにより、変形促進手段を得た。そして、全面をUD材[0/90]10plyで成形した中空部材の側方部位に、この変形促進手段を配置することにより、衝撃吸収部材を得た。
【0041】
<比較例1>
中空の部材に変形促進手段を設けなかった以外は実施例1と同様に、全面をUD材[0/90]10plyで成形したものを比較例1とした。
【0042】
<評価>
実施例1及び比較例1により得られた衝撃吸収部材について、3点曲げの荷重変位試験を行なった。試験機としては、島津製作所製オートグラフを用い、試験速度を5mm/minとして、押子に設置したロードセルにより測定を実施した。
【0043】
試験の結果、得られた応力−歪曲線を図9に示す。図9に示すように、実施例は比較例と比べ、降伏点(最大荷重)後の荷重(応力)低下が少なく、より衝撃エネルギー吸収効率が高いことが示された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】一実施形態に係る衝撃吸収部材の斜視図である。
【図2】一実施形態に係る衝撃吸収部材の変形促進手段の拡大図である。
【図3】一実施形態に係る衝撃吸収部材の変形促進手段の拡大図である。
【図4】変形例に係る衝撃吸収部材の変形促進手段の拡大図である。
【図5】衝撃吸収機構を説明するための図面である。
【図6】一実施形態に係る衝撃吸収部材の製造方法を説明するための図面である。
【図7】本発明に係る衝撃吸収部材を自動車センターピラーのビーム材に適用した例を示す図面である。
【図8】実施例1の衝撃吸収部材の側面図である。
【図9】実施例及び比較例における応力−歪曲線を示す図である。
【図10】特許文献2の構造部材を説明するための図面である。
【符号の説明】
【0045】
1、3 衝撃吸収部材
10、10’ 圧縮部位
12 引張部位
13 中立軸
14 側方部位
16 変形促進手段
162、162’ 山部
164、164’ 谷部
2 型
22 上型
24 下型
30 ピラー材
100 プリプレグ
300 構造部材
301 荷重受け面
302 山折部分
303 結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向と短手方向とを有し、曲げ変形を行うことにより衝撃を吸収する中空の衝撃吸収部材であって、
前記衝撃を直接受けることにより圧縮応力が発生する圧縮部位と、この圧縮部位に対向し引張応力が発生する引張部位と、これら圧縮部位と引張部位との両端側を連結する一対の側方部位と、を有し、
少なくとも前記側方部位には、所定の曲率半径を有する複数の山部と谷部とからなる蛇腹状の変形促進手段が設けられ、
前記変形促進手段は、繊維強化プラスチック材で形成され、且つ、前記谷部の頂部が前記長手方向における前記変形促進手段の両端を結ぶ線よりも内側になる位置に配置された衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記変形促進手段は、前記山部及び谷部の各稜線が前記長手方向に対して略直交する向きに配置された請求項1記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記山部及び谷部の曲率半径は、互いに異なる請求項1又は2記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記側方部位に設けられた変形促進手段は、前記圧縮部位側から中立軸を跨いで前記引張部位側にまで配置された請求項1から3いずれか記載の衝撃吸収部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−207679(P2006−207679A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19897(P2005−19897)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】