説明

表示素子、表示素子駆動方法、および携帯用表示装置

非接触ICカードなど、例えばメモリ性を有するコレステリック液晶を用いる携帯用表示装置の機械的耐久性を向上させることを目的とし、対向する2枚の基板1と、基板1にはさまれた表示部(液晶)2とを備える表示素子において、表示部2以外の部分で基板1を保持する壁面構造体であって、壁面が基板1に垂直となり、該壁面と垂直な面が基板1と接着される壁面材3を備え、基板1と接着される面の面積を、表示部2の基板1側の面の面積より大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、例えば液晶表示素子、その駆動方法、および携帯用表示装置としての非接触型ICカードに係り、さらに詳しくは電源を切断しても表示が継続される、例えばコレステリック液晶を用いた表示素子と、その駆動方法と、機械的な強度を大幅に向上させると共に、多層配線基板を利用したアンテナ構造を有するICカードとに関する。
【背景技術】
近年、接触型ICカードやバーコードなどが利用されている物流などの応用分野において、耐久性と利便さの良い、非接触型のICカードやRF(ラジオ・フリクェンシー)タグなどが普及し始めている。今後、電子マネーなどの新たな応用分野も開拓され、益々、外部装置と無線通信を行うカードやタグが普及することが予想される。ICカードは、情報記録において優れているが、記録内容が専用の装置で読み取るまで、確認できないところに問題点がある。ポイントカードや交通機関の回数券カードでは、記録内容を視認できることが望まれている。
図1は接触型ICカードの従来例を示す。ICカードリーダ/ライタと接触させてデータや電力をやり取りするための端子C1〜C8を備えており、例えば端子C1には回路の電源電圧として用いられるVCCが供給される。
従来の接触型のICカードでは、磁気フレークを用いた表示や、ロイコ染料を用いた熱書込みによる視認可能な媒体が提案されていた。接触型であるため、ICカードを挿入する専用装置があり、その装置内に、磁気ヘッドや熱ヘッドの表示書込み装置が内蔵されている。今後普及が予想される非接触型のICカードやRFタグでは、従来のような書込みヘッドを搭載することはできない。無線で供給される電気信号で表示をさせなければならないので、電気駆動可能な液晶方式や電気泳動方式が必要となる。
表示素子を備えたICカードなどについては次のような文献がある。特許文献1では表示素子を備えたICカードが開示され、非接触型や液晶ディスプレイの使用が提案されている。特許文献2にはタグ情報を直接読み出して表示できる無線タグが開示されており、電子ペーパーの使用も提案されている。
【特許文献1】 実公平7−30384号公報「ICカード」
【特許文献2】 特開2002−236891号公報「データ表示機能付き無線タグ」
図2は非接触型ICカードの構成例の説明図である。同図において、例えば密着型のICカード50は、カードリーダ/ライタ51との間で非接触でデータのやり取りを行う。図の上部に断面図を示すように、密着型ICカードは通信のためのアンテナ部を備えている。
密着型ICカード50はマイコン部52、RFインタフェース53、非接触インタフェース54を備え、マイコン部52はCPU55、メモリ56、I/Oポート57などを備えている。
またカードリーダ/ライタ51は、密着型ICカード50との間の通信のインタフェースとしての非接触インタフェース60、およびホストコンピュータとのインタフェースとしてのインタフェース回路61を備えている。
ICカードやRFタグを表示素子として実際に使用するためには、大きな課題があり、実現に至っていない。その課題は、物理的な耐久性であって、例えば、ICカードに利用するためには、JISで規格化されている曲げ耐性や環境試験などをクリアしなければならない。一般的な液晶では、とても耐えられない。例えば、ICカードであれば、長辺85mmに対して中心を2cm曲げる操作を500回以上繰り返し、損傷がないことが要求されている。従来型の液晶では、基板の破損や、配向の乱れ、シール材の剥がれなどの問題で、耐えることはできない。接触型またはハイブリッド型(接触と非接触の両機能)のカードでは、読み取り装置に挿入するため、カード表面に搬送ローラによる強いローラ圧が加わる。従来型の液晶では、ローラ圧によって、液晶が一方に寄せられ、エッジ部でシールが破壊され、液晶が漏れ出し、液晶表示素子としての機能が失われてしまう。
図3は柱状スペーサを用いる液晶セルの構造の従来例である。2枚の基板101の間に柱状スペーサ102が挿入され、基板を支える構造となっている。このようなスペーサの利用や、接着性を持たせた柱の提案などが次の文献に開示されているが、このような構造もICカードへの適用については耐久性が不十分であるという問題点があった。
【特許文献3】 実公昭58−13515号公報「液晶表示装置」
【特許文献4】 特開平7−318912号公報「液晶パネル枠、液晶パネル体及び液晶ディスプレイ」
【特許文献5】 特許第3196744号公報「液晶表示素子とその製造方法」
これらの特許文献3、特許文献4、および特許文献5における液晶セル構造ではマトリクス構造を用いているため、開口率、すなわちセルの表面積の中で表示に有効な液晶が占める面積の割合が大きく設計され、柱状スペーサの面積を20%以上とするような発想は存在せず、液晶セルの耐久性の面では問題があった。
また一般的に使用されている液晶電卓の表示部においては、セル内全体に液晶が注入され、その1部のみが駆動されており、高価な液晶が無駄に使用されているという問題点もあった。
次に半永久的メモリ性を有し、ICカードの表示部や電子ペーパへの応用が期待されているコレステリック液晶の選択反射は、歴史的に古く、1888年にコレステロール誘導体から発見されている。次の特許文献6にはポリマーネットワークとカイラルネマティック液晶との混合によって、選択反射状態と透過状態との2つの安定性を利用した表示素子が開示されている。カイラルネマティック液晶はコレステリック液晶の一種であり、基本的性質は同じである。カイラルネマティック液晶はネマティック液晶にキラル性物質(カイラル剤)を添加し、コレステリック相を形成させたものである。
コレステリック液晶(カイラルネマティック液晶)は、電気的な制御によって反射状態であるプレーナ状態と透過状態であるフォーカルコニック状態の間の状態遷移が行なわれる。このプレーナ状態とフォーカルコニック状態は、何らかの外力を加えない限り半永久的に保持され、コレステリック液晶は半永久的メモリ性を有する。
【特許文献6】 特表平6−507505号公報「液晶光変調デバイスと液晶物質」
図4はこのようなコレステリック液晶の駆動波形の説明図である。コレステリック液晶についてはその性質をさらに詳しく後述するが、基本的にプレーナ状態とフォーカルコニック状態との2つの安定状態を有する液晶である。プレーナ状態では、ある範囲の周波数の光を選択的に反射し、これに対してフォーカルコニック状態ではすべての光を透過する、すなわち透明状態となる。
プレーナ状態にする、すなわちプレーナ駆動を行うためには、図4の左側に示すように、例えば±40V程度のパルスを印加する方法が、またフォーカルコニック駆動としては、右側に示すように±18V程度のパルスを印加する方法が用いられている。ここで正負のパルスを印加する理由は、液晶内のイオンの偏りなどによる残像や、表示むらを出さないようにするためである。
このようにコレステリック液晶を用いる表示素子は、半永久的メモリ性を有し、ICカードなどに用いるのに適当であるが、図4で説明したようにプレーナ駆動とフォーカルコニック駆動とによって波高値の異なる2種類のパルスを使い分ける必要があり、またその波高値も+40V程度とかなり高いために、バッテリを持たない無電源のICカードでは、電源回路が複雑になるという問題点があった。
次に非接触ICカードにおけるアンテナ構造の従来例の問題点について説明する。図5は従来の一般的な非接触ICカードにおけるアンテナ配線の説明図である。同図に示すように、アンテナ配線はフィルム基板の最も外側に配置され、そのアンテナによってICカードリーダ/ライタから送信されるデータなどが受信されていた。
例えばコレステリック液晶を用いる表示機能付きのICカードでは、前述のように比較的高い値の電圧が必要であり、そのような電圧を発生させるためには、従来のアンテナ配線に加えてアンテナ配線に高周波電流が流れた時、電磁誘導によって電圧が誘起されるコイルパターンを追加し、そのコイルパターンに誘起された電圧を用いて表示用ドライバに電源を供給する必要がある。
図6はそのようなコイルパターンを、アンテナ配線に近接させてフィルム基板の外周付近に配置したICカードの構造の説明図である。同図において、コイルパターンに誘起された電圧を用いて、例えばLCDドライバの動作が行われる。しかしながら実際の多くのICカードの使用例、例えば銀行のキャッシュカードのような場合には、数字やアルファベットなどの文字情報をICカードに突起として生成するエンボス加工が行われる。図7、図8はこのエンボス加工に伴う問題点の説明図である。
図7において、エンボス領域においては、エンボス加工によってカードの厚み方向に押し出しが行われるため、このエンボス領域にアンテナ配線やコイルパターンがかかると、その配線が切断されてしまうという問題点があった。
この問題点に対する従来の改良方式を図8に示す。図8は、エンボス文字にかかる配線の部分だけ配線の幅を広くして、エンボス加工が行われても配線部が切断されないICカードの従来例である。同図では、アンテナ配線だけがフィルム基板の外周付近に成されており、図6のようなコイルパターンの配線は行われていない。
したがって、図6のようにアンテナ配線とコイルパターンとをフィルム基板の共に外周付近に配置し、しかも図4で説明したような複数の異なる電圧値を必要とする場合には、それに対応する複数のコイルパターンをアンテナ配線に近接させて設け、しかもそれぞれの幅も広げる必要があるが、そのような構造は従来の基板構造では不可能であるという問題点があった。
【発明の開示】
本発明の第1の目的は、携帯用表示装置、例えば非接触ICカードなどの表示装置の機械的耐久性を向上させることである。第2の目的は、そのような携帯用表示装置において、素子の駆動のためのコストを低減させる素子駆動方法を提供することであり、第3の目的はアンテナ配線と、表示部に電圧を供給するためのコイルパターンとを、効率的に配置した携帯用表示装置を提供することである。
本発明の表示素子は、対向する2枚の基板と、その基板に挟まれた表示部とを備えるものであり、表示部以外の部分で基板を保持する壁面構造体を備える。その壁面構造体の壁面は基板に垂直であり、その壁面と垂直な面が基板と接着されるものである。例えば壁面と垂直で基板と接着される面の面積を、表示部の基板側の面の面積より大きくすることができる。
次に本発明の表示素子駆動方法は、例えばコレステリック液晶を用いた表示素子を駆動するものである。液晶セルのプレーナ状態での駆動時には、液晶セルにパルス電圧を印加した後、電源側の駆動インピーダンスを液晶セルのインピーダンスより低い値にし、かつ印加電圧を0にする方法が、またフォーカルコニック状態への駆動時には、パルス電圧を印加した後、前記駆動インピーダンスを液晶セルのインピーダンスより高い値にする方法が用いられる。
次に本発明の携帯用表示装置は多層配線基板を用いるものであり、外部からデータおよび電力の供給を受けるためのアンテナパターンと、アンテナパターンに近接して設けられ、アンテナパターンに電流が流れたときに電磁誘導作用によって発生する電圧を表示用電源電圧として利用するためのコイルパターンとを、多層配線基板の異なる層にそれぞれ設けたものである。
以上のように本発明によれば、表示素子の対向する2枚の基板の間に、表示部以外の部分で基板を保持する壁面構造体を備えることにより、表示素子の機械的耐久性が大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
図1は、接触型ICカードの従来例を示す図である。
図2は、非接触型ICカードの従来例の構成を示す図である。
図3は、スペーサを用いた液晶セルの構造の従来例を示す図である。
図4は、コレステリック液晶の駆動方式の従来例の説明図である。
図5は、アンテナ配線を備える非接触型ICカードの従来例を示す図である。
図6は、LCDドライバへの電源供給用コイルパターンを備えるICカードの従来例の説明図である。
図7は、エンボス加工による従来技術の問題点の説明図である。
図8は、エンボス加工の問題点の従来技術における解決方法の説明図である。
図9は、本発明における液晶表示素子の耐久性向上構造の原理説明図である。
図10は、セグメント遮光マスクを備える液晶表示素子の構成例である。
図11は、光吸収層を備える液晶素子の構成例の説明図である。
図12は、液晶素子の貼り合わせ方法の説明図である。
図13は、液晶素子におけるコモン電極除去部の説明図である。
図14は、液晶素子におけるシールとトランスファー形式の説明図である。
図15は、素子の多面取りの説明図である。
図16は、多面取りのために対向基板に入れられた切り込み線の説明図である。
図17は、耐久性向上のための液晶注入道の構造例(その1)を示す図である。
図18は、耐久性向上のための液晶注入道の構造例(その2)を示す図である。
図19は、コレステリック液晶のプレーナ状態の説明図である。
図20は、コレステリック液晶のフォーカルコニック状態の説明図である。
図21は、コレステリック液晶の応答特性を示す図である。
図22は、コレステリック液晶に対する単一極性プレーナ駆動波形の説明図である。
図23は、単一極性フォーカルコニック駆動波形の説明図である。
図24は、コレステリック液晶を用いるセグメント表示の説明図である。
図25は、本実施形態における両極性プレーナ駆動波形の説明図である。
図26は、両極性フォーカルコニック駆動波形の説明図である。
図27は、本実施形態における単一極性プレーナ駆動波形の説明図である。
図28は、単一極性フォーカルコニック駆動波形の説明図である。
図29は、表示部ドライバの回路構成図である。
図30は、プレーナ状態への駆動時におけるタイムチャートである。
図31は、フォーカルコニック状態への駆動時におけるタイムチャートである。
図32は、ハイブリッド型表示付きICカードの構成例を示す図である。
図33は、表示付きICカードの構成を示すブロック図である。
図34は、多層配線基板を用いたICカードの構成例を示す図である。
図35は、図34のカードの断面図である。
図36は、アンテナパターンおよびコイルパターン以外の部品に対しても4層基板を用いたICカードの断面図である。
図37は、アンテナとコイルパターンを4層部に、その他の部品を2層部に搭載したICカードの構成例である。
図38は、図37のICカードの断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図9は本発明における液晶表示素子の耐久性向上構造の原理的な説明図である。同図において、2枚の基板1の間に液晶を用いる表示部2が挟まれるが、表示部2は壁面材3によって囲まれており、液晶は注入道によって連結されている。
壁面材3の壁面と垂直な面が基板1と接着されるが、その接着される面積を表示部2としての液晶の基板1側の面の面積より大きくすることができる。
また液晶2を用いる表示部はセグメント表示部であって、液晶注入道によってセグメント表示部の各セグメントに液晶が注入可能とされる。
また表示部2としての液晶と基板1との間に、各セグメントに注入された液晶の幅より小さい開口部以外を遮光する遮光層を備えることもでき、さらに2枚の基板のうちで、遮光層が表示部との間に備えられた基板と異なる基板と壁面材3との間に、光吸収層を備えることもできる。
また表示部2は、コレステリック液晶を用いる表示部であることもできる。
また表示部2は数字またはキャラクタ文字を複数配列させた構造であり、壁面材3は各文字毎にブロックを形成し、そのブロックの間が液晶注入道で連結されることもでき、さらに文字毎のブロックに対応して液晶の入口と出口とが備えられ、ブロック内の液晶注入道は入口で分岐し、出口で合流することもできる。
次に本発明の表示素子駆動方法は、コレステリック液晶を用いる表示素子の駆動に用いられるものであり、プレーナ状態への駆動時には液晶セルにパルス電圧を印加後、電源側の駆動インピーダンスを液晶セルのインピーダンスより低くし、かつ印加電圧を0にする方法が、フォーカルコニック状態への駆動時にはパルス電圧印加後、駆動インピーダンスを液晶セルのインピーダンスより高くする方法が用いられる。
この方法において、パルス電圧の液晶セルへの印加中にその極性を少なくとも1回は反転させることもでき、またパルス電圧の波高値を液晶セルが確実にプレーナ状態に遷移する電圧値以上とすることもできる。
またプレーナ状態への駆動時におけるパルス電圧印加後の駆動インピーダンスの値は、液晶セルに蓄積された電荷の放電時間が、液晶セルがプレーナ状態に遷移するのに必要な時間の最大値以下となるような値とすることもできる。
さらにこの駆動方法が用いられる表示素子と、外部からデータおよび電力の供給を受けるためのアンテナ部とを有する携帯用表示装置を用いることもできる。
さらに本発明の携帯用表示装置は、多層配線基板を用いるものであり、外部からデータおよび電力の供給を受けるためのアンテナパターンと、アンテナパターンに近接して設けられ、アンテナパターンに電流が流れたときに電磁誘導作用によって発生する電圧を表示用の電源電圧として利用するためのコイルパターンとが、多層配線基板の異なる層にそれぞれ設けられる。そして多層配線基板上で、アンテナパターンとコイルパターンとが配置される部分を2層以上、他の部品が配置される部分を1層以上とすることもできる。
続いて、図9で説明した液晶表示素子の構造を含め、本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。
一般にICカード、またはRF(ラジオ・フリケンシー)タグに液晶素子を用いる場合には、金額の数字や、ナンバー、記号などの数字、またはアルファベット、すなわちキャラクタ文字が使用される。数字であれば、7セグメントで1つの数字を表す方法が一般に用いられる。
液晶素子の内部で表示に使用される領域は限定されており、数字表示領域以外に液晶を注入する必要はない。そこで図9に示すように表示(セグメント)部以外は壁面構造とすることで、ICカードに圧倒的な耐久性を与えることが可能となる。少なくとも表示素子の寸法、すなわち表側のサイズに対して50%以上の壁面構造をもたせることで、超耐久性構造が実現される。
本発明の素子構造は、開口率を犠牲にすればマトリクス表示でも適用可能であるが、数字表示やキャラクタ表示のようなセグメント型の液晶表示により適している。一般的に使用されている液晶電卓の表示部には、セルの全体に液晶が注入され、その1部のみの駆動が行われている。高価な液晶が無駄に使用されており、図9のような構造を用いることによって、コスト削減を実現することもできる。
壁面材3としては、前述の特許文献5に述べられているようなレジストを使用することもでき、加熱処理により接着力を与えることが可能となる。レジストの種類によっては、加熱処理に伴う軟化によって厚み設定値、例えば5μm程度の安定性が悪くなることがある。このような場合には球状、またはファイバ状のスペーサを併用することによって、厚みを安定的に制御することができる。接着力がないが、厚み安定性のよい柱状スペーサ(UV硬化性樹脂など)を併用してもよい。球状、またはファイバ状のスペーサは壁面材3に混合するか、基板1に散布させておけばよい。
図10はセグメント遮光マスクの使用例を示す。ICカード等への応用には、メモリ性(電源切断後表示保持)の液晶が必要である。選択反射機能を備え、双安定性のあるコレステリック液晶がその候補となる。高電圧パルスを与えると反射状態、低電圧パルスを与えると透明状態となる双安定型の液晶である。しかし、この液晶は、圧力や熱の変化によっても、状態が変化することが知られている。
セグメント電極が無い領域(注入口付近や、セグメント間の注入道)では、対向する電極は無く、もし、液晶が反射状態に変化してしまうと、電気的には初期化することができない。ノイズが表示され、数字の視認性を低下させてしまう。そこで、セグメント遮光マスク4によって、セグメント表示に不要な領域を遮光することにより、良好な表示となる。図9の壁面材3の上にセグメント形状の遮光マスク4を備えることにより、液晶注入には必要であるが、表示には余分であった注入道を隠すことが可能となり、表示の視認性を向上させることが可能となる。
図11に示す様に、遮光マスク4はセルの内部に設けることが望ましい。基板1の外側に設けることも可能であるが、基板1の厚さにより、奥行き感を感じてしまい、視認性には不都合となる。視野角範囲の広さを確保するためには、セル内部に遮光マスク4を形成することが望ましい。遮光マスク4の光透過部の幅は、壁面材3で形成された液晶幅より小さくする。同サイズでは、位置合わせのマージンが無く、大きすぎると、不要な所が見えてしまい、視認性が低下する。
コレステリック液晶は双安定性であり、反射状態と透過状態の2つのモードがある。表示素子とするために、明部と暗部が必要であり、透過状態における光線を吸収させることで、反射状態を明、透過状態を暗とする。そのため、図11に示すような光吸収層5を設けている。光吸収層5は、コモン電極上7のセルの内部に形成することが望ましい。基板1の外側に光吸収層5を設けることも可能であるが、電極がITO等の透明電極であっても、光反射があり、コントラストの低下の原因となる。図11に示す積み重ね構造によって、高コントラストで視認性良い表示を実現することが可能となる。
図12に積み重ねプロセスを示す。基板上に透明電極のセグメントパターンを形成した図12のセグメント電極基板上にセグメント遮光マスク4を形成し、壁面材3を形成する。遮光マスク4と壁面材3は、フォトリソグラフィー技術か印刷技術によって形成する。コモン基板には、透明電極のベタパターン上に光吸収層5を形成する。形成方法は、フォトリソグラフィー技術か印刷技術が用いられる。黒色吸収体からなる電極を用いても良い。両基板上に各層を形成し、貼合する。貼合した基板を加熱処理によって、接着させる。(ここでは、その他プロセスのシール材、トランスファー塗布、球状スペーサ散布工程は、説明を省略している。)
ここで、セグメント基板、遮光マスク、壁面構造体は、表示の原型パターンを形成するため、高精度な位置合わせ技術が必要である。コモン基板である対向基板は、ベタ形状の光吸収層5とコモン電極なので、高精度な位置合わせは要求されない。図12における貼合後構造10を作成するためには、高精度な位置合わせ貼合工程を必要としないプロセス手法となる。
ICカード応用に必要な曲げの耐久性を実現させるためには、ガラス基板では無く、プラスチック基板またはフィルム基板を用いることとなる。そのような基材においては、高精度な貼合は困難であり、本発明におけるプロセス工程が必要となる。素子の構造としては、セグメントパターン上に光吸収層を設け、コモン電極基板側から表示を見る構造も想定されるが、セグメント基板側から表示を見る構造でなければ、上記に示す貼合工程における位置合わせ精度の緩和を実現することができない。つまり、セグメント電極側を表示面とすることにより、作製プロセスを容易にすることが可能となり、歩留まり向上と低コスト化が期待できる。
図13に側面側から見た素子の断面図を示す。セグメント基板11側が表示面である。セグメント基板11のセグメント電極6から信号を与えるため、コモン基板12より、セグメント基板11の方が基板サイズが大きくなっている。セグメント電極6より、フレキシケーブル等を接着させて電圧を加える。対向基板のコモン電極7には、導電性粒子または導電性ペーストにより、セグメント基板11上の所定の配線に導通させて、セグメント基板の所定の配線より、電圧を加える。コモン電極7はベタ電極であるが、コモン基板12上の一部に、電極除去部14を設けている。
コモン電極除去部14は図14で説明するシール材15の外側で、セグメント表示の取り出し配線と対向しているところである。ガラス基板では、婉曲性が少なく、障害となりにくいが、フィルム基板であると、婉曲により、コモン電極とセグメント表示の取り出し配線がショートすることがある。シール材の広がりを制御することは困難であるため、予め、この部は電極を除去する構造とする。この構造によって、フィルム基板であっても、ショートの回避が実現され、歩留まりの向上が可能となる。セグメント表示の取り出し配線と対向する部以外は、コモン電極を除去する必要性はない。なお、コモン電極を除去する代わりに、非導電性の物質を塗布することもできる。
図14はシール材およびトランスファーの配置構造を示す。壁面材3が、十分に接着力が強ければ、シール材15を省略することも可能であるが、十分な耐久性を持たせるために、シール材15を併用する。壁面材にて、液晶の注入道を確保し、その周りにシール材15を形成する。シール材15と液晶は接しない構造であり、従来の液晶構造とは異なるため、液晶に障害を与えない特別な接着剤を使用しなくても良い。従来は、シール材から液晶への不純物の溶け出しによる表示特性変化等の大きな問題が生じていた。シール材と液晶を接触させない本構造により、歩留まりが大きく向上する。また、トランスファー材16も液晶と接触することがないので、導通性の良い材料を任意に選択可能となる。トランスファーは、表示駆動のためには、高度な耐久性を要求される。
一般的な液晶素子は、液晶への不純物や配向の乱れ等の影響を回避するため、シール材の外側にトランスファーを配置する。しかし、曲げ等の力により、基板の剥がれが生じるのは、外周部からであり、トランスファーはシール材内部に形成させることが望ましい。図14に示すように、壁面材で液晶は囲まれ、トランスファーを壁面材の外側に配置し、そのさらに外側にシール材を配置することで、耐久性を大きく向上させることが可能となる。トランスファーは1点でも良いが、複数配置することで、さらに信頼性が向上する。表示素子の対称的な位置への配置も、表示の均一性や、耐久性向上に有効である。
図15、図16は、1つの基板から多面取りを行う例を示す。図15に示すように、1つの基板上に複数の素子を形成する。シール材は隣の素子と連続的に形成する。シール材の形成はロボットディスペンサ等によるシリンジ針からの塗布が一般的である。シール材形成の方法としては印刷法もあるが、壁面材料の立体的な構造物があるため、適切ではない。対向基板にシール材を形成する場合には、貼合時の位置合わせ精度が問題となる。図15のように、壁面材を形成した基板に、ディスペンサによるシール材塗布を行う。ディスペンサによる塗布は、書き出しポイントと書き終わりポイントで、過剰な塗布がなされることが知られている。そこで、図15の様に、書き出し位置と書き終わり位置を素子外とし、隣接素子と連続的にシール材を形成する。そのため、過剰なシールがどの素子にもないので、セル厚の均一性等の歩留まりが向上する。
図16は、フィルム基板における対向基板を示す。予め、スリット状の切り込み線を形成しておく。多面取りの場合、貼合後に電極取り出し線を露出させなければならず、片基板のみの切断が必要となる。一般的なガラス基板では、ダイヤモンド刃により、表面に傷線を描き、基板を割る工程(スクライブ工程)で、片基板のみを容易に切断することが可能である。しかし、フィルム基板では、スクライブ工程ができない。片面のみカッター刃などで、切断を試みても、対向のセグメント引き出し線に損傷を与えてしまう。そこで、図16の対向基板(コモン基板)のように、片基板の切断を予め、行っておく。本手法により、配線に損傷を与えず、歩留まりが向上する。
図17に、高耐久性の液晶素子における液晶道の構造例を示す。液晶としては、前述のようにコレステリック液晶が候補である。コレステリック液晶は、曲げや押圧力の外力、歪によって、表示状態が変化しやすい。曲げによる表示セル内部の歪を少なくすれば、変化を抑制することが可能となる。図11の構造における液晶の注入道において、曲げによる表示変化を実験的に観察すると、中心の直線ラインにおいて、変化が顕著であった。曲げによる歪を支える壁面構造物がないため、大きな歪が直線上に加わっていることが判った。短いラインでは、変化が少ない。ラインの直線長が長いほど歪は多く発生する。そこで、図17、18の様に、注入道を変化させ、直線距離を短くさせることで、曲げによる表示変化を抑制することが可能となった。
図17では、第二以降の8の文字において、液晶入口から出口への3ルートにおいて、どの距離も等しく、注入時における気泡の巻き込みが少なくなる。真空注入において、真空度が高ければ、空気の巻き込みは少なくなるが、完全に無にすることは困難である。最後の8の文字の出口には、ダミー道を作り、余分な空気のバッファ部を設けている。
図18では、8の字の液晶入り口から出口への3ルートにおいて、等距離ではないが、最も直線距離が少なくなる液晶道の構造であって、液晶の表示変化を最も抑制することができる。注入道の終端は、閉塞されているが、開放されていても良い。表面張力によって、注入が可能であるが、開口部の封止が新たに必要となり得策ではない。
本実施形態においては、非接触ICカードを携帯用表示装置の例として説明するが、非接触ICカードにおける表示方式として強誘電性液晶、ゲストホスト液晶、電気泳動方式などの応用が提案されているが、強誘電性液晶はコントラストが低く、基本的に階調表示が不能で、衝撃に極めて弱い。ゲストホスト液晶もコントラストが低く、電気泳動方式も表示のメモリ性に問題があるため、本実施形態ではコレステリック液晶を利用した表示方式について説明する。
コレステリック液晶は表示品質の面において熱書き込みや磁気書き込みの方式に比べて明度、コントラストが高く、カラー化や中間調表示が可能であるというメリットがあり、表示のメモリ性もほぼ半永久的なものである。
ここで、ICカードなどのモバイル用の表示装置についてさらに説明する。コンピュータ用の表示装置やモバイル用の表示装置は,CRTまたはバックライト付の透過型液晶ディスプレイが一般的である。このタイプは全て,発光型のディスプレイである。近年の研究から,テキスト等の表示を快適に読むためには,非発光型の反射型の表示装置が望ましいことが提唱されている。反射型は装置に備えた光源を使用しないため,低消費電力化にも有効である。
また,更なる低消費電力化のため,電源を切断しても表示が消えないメモリ性のある表示装置が望まれている。反射型でメモリ性のある代表的な媒体は紙であり,その歴史は非常に古く,現代においても欠くことのできないツールの1つである。このような,反射型とメモリ性という紙の最大の特長と,表示の任意の切り替えが可能なディスプレイの特長を掛け合わせた,つまり紙とディスプレイの融合を目指した「電子ペーパ」という新たな表示デバイスが近年注目を集め,その実用化を目指し,各社開発を進めている。電子ペーパの応用分野は様々あるが,以下,その1つとして注目を集めている,表示付ICカードを例にさらに説明する。
現代はカード社会と呼ばれるように,数多くのカードが日常的に使用されている。クレジットカードや銀行のキャッシュカード,テレホンカード等のプリペイドカード,会社での社員カードや学校での学生カードなど様々用途で利用されている。ICカードの登場は1970年であり,カードの中にICチップを埋め込むというアイディアが生まれてから,ICカードは大きな注目を集めるようになり,着実に普及してきている。そして21世紀になり,インターネットの定着や電子商取引の拡大など,ICカードを取り巻く環境は大きく進化している。
ICカードは,キャッシュカードやクレジットカードのようなプラスチック製のカードにICチップが埋め込まれたカードである。ICカードには演算機能があり,データの取り扱いに関しても,磁気カードに比べ、その機能は格段に大きい。ICカードは,ICチップにCPUを内蔵しているかどうか,あるいはインタフェースの違いにより以下のように分類できる。この分類は次の非特許文献1に基づいている。
【非特許文献1】 ICカードビジネス最前線 工業調査会(2000年11月)
1. CPUの有無による分類…CPUを内蔵しているか否かによって,「メモリカード」と「CPUカード」に分類できる。
・メモリカード:データを記憶するためのROMを内蔵しており,データの記憶量は,磁気カードの80文字に対し,500〜16000文字以上と格段に大きい。メモリには,PROM,EPROM,EEPROMなどが利用される。
・CPUカード:CPU内蔵のため,カード自身に演算機能がある。CPUでは,入力された暗証番号とカード内の暗証番号との照合や,データのアクセス許可の制御をおこなっている。そのため,不当アクセスや改ざんの防止機能があり,セキュリティ面にも非常に優れている。
2.インタフェースによる分類…外部とのインタフェースにより,「接触型カード」と「非接触型カード」に分類できる。
・接触型ICカード…カードの表面に金属の端子があり,ICカードをカードリーダ/ライタに挿入することで,リーダ/ライタから端子へ電力が供給され,情報のやり取りが行われる。現在,先行して普及されており,重い計算や安定した通信が特長である。
・非接触型ICカード…ICカードとICカードリーダ/ライタにアンテナを内蔵させて,電磁波を利用して情報のやり取りを行う。そのためにカード周辺部にアンテナを備えている。非接触型はICカードとリーダ/ライタとの通信距離によって,密着型(2mm),近接型(10cm),近傍型(1m),遠隔型(数m)の4つに分類される。非接触であるゆえ,操作性,耐久性に優れ,接触型と非接触型の両方を兼ね備えたハイブリッド型のカードもある。
ICカード内部に記録された情報を見るには,リーダ/ライタに設けられたディスプレイ等の表示部を利用する方法が現在も主流で,この方法ではICカードとリーダ/ライタとの接続が必要である。しかし近年,感熱発色型の材料を用いて印字消去を行う熱書き込み方式,あるいは磁性体を用いて印字消去を行う磁気書き込み方式がICカードに適用されているケースがあり,プリベイドカードやポイントカードとして利用されている。次の非特許文献2に感熱発色型の代表的な方式としてロイコ染料を用いたリライタブル記録媒体が記載されている。
【非特許文献2】 松井,鳥居,古屋,筒井:「ロイコ染料型リライタブル記録媒体の発色・消色特性制御」,Japan Hardcopy 2000 論文集,P.69−72
しかしながら,上記の表示方式は,表示品質が低明度,低コントラストで,視認性が悪い。また,いずれもサーマルヘッドや磁気ヘッド等で記録部に直接接触して表示が行われるものであり,表示の書き換えを行うには書き込み部を備えたリーダ/ライタにカードを差し込まなければならない。上記の表示方式は,将来の主流となり得る非接触ICカードへの適用は不向きであり,非接触ICカードへの情報の表示には,電力駆動による表示方式が有望である。このような電力駆動による表示方式として、前述のコレステリック液晶の利用が有望である。そこでコレステリック液晶の駆動方式などについてさらに説明する。
図19および図20は、コレステリック液晶のプレーナ状態とフォーカルコニック状態との説明図である。コレステリック液晶を用いた表示装置では、液晶分子の配向状態のスイッチングを行なうことによって2つの状態の制御が行われる。図19は、特定の波長領域の光を選択的に反射するプレーナ状態を示す。このプレーナ状態では液晶分子の螺旋ピッチと、螺旋の回転方向に沿った円偏光が選択的に反射される。反射が最大となる波長λは液晶の平均屈折率n、螺旋ピッチpを用いて以下の式によって考えられる。
λ=n×p
反射帯域Δλは液晶の屈折率異方性Δnの増加につれて大きくなる。
図20はフォーカルコニック状態を示す。この状態では入射光のほとんどが透過され、透明状態となる。したがって液晶層の下に任意の色の層を設けると、フォーカルコニック状態ではその色を表示させることができる。そこで例えばプレーナ状態の反射光の波長帯域を550nm付近とし、液晶層の下に光吸収層(黒)を設けることにより、背景色黒の上で緑色の単色表示を行なうことができる。
図21は、コレステリック液晶の応答特性をまとめたものである。同図においてVF0はフォーカルコニック状態への遷移が始まる閾値の電圧であり、V100aからVF100bまでは完全なフォーカルコニック状態となる電圧範囲、Vはプレーナ状態への遷移が始まる閾値電圧、VP100は完全にプレーナ状態となる閾値電圧である。初期状態がプレーナ状態(P)の場合には、パルス電圧を上げていくとある範囲まではフォーカルコニック状態への駆動帯域となり、さらにパルス電圧を上げると再度プレーナ状態への駆動帯域となる。初期状態がフォーカルコニック状態(FC)の場合には、パルス電圧を上げるにつれて次第にプレーナ状態への駆動帯域となる。
図22、図23は、コレステリック液晶に対する一般的な単一極性駆動波形の説明図である。コレステリック液晶に対してはパルス電圧の印加によって駆動が行なわれる。強い電界を与えると液晶分子の螺旋構造がほどけ、すべての分子が電界の向きに従うホメオトロピック状態となる。
図22において例えば+40Vのパルスを与えた後に電界を除去することによって、液晶分子の螺旋軸が電極に垂直になる螺旋構造が形成され、螺旋ピッチに応じた光を選択的に反射するプレーナ状態となる。
図23において例えば+18Vのパルスを与えた後に電界を除去する、すなわち液晶分子の螺旋軸が完全にほどけない程度の弱い電界を加えた後に電界を除去する場合には、液晶の螺旋軸は電極に平行となり、入射光を透過するフォーカルコニック状態が得られる。これに対して中間的な強さの電界を与えた後にその電界を除去するとプレーナ状態とフォーカルコニック状態が混在した状態が得られ、中間調の表示を可能とすることができる。
図24はコレステリック液晶を用いたセグメント表示の例の説明図である。例えば最終桁の“3”の表示において(2)と(5)の部分をフォーカルコニック状態に、その他の(1)、(3)、(4)、(6)および(7)の部分をプレーナ状態に駆動することによって表示が行なわれる。
このようなコレステリック液晶を駆動するために、一般的には図4、あるいは図22、図23で説明した2種類の駆動電圧波形が用いられる。このため駆動回路がコスト高になるという問題があり、本実施形態では1種類の波形でプレーナ駆動とフォーカルコニック駆動との両方が可能な駆動方式を使用する。
図25、図26は本実施形態におけるプレーナ駆動とフォーカルコニック駆動の両極性パルスの波形の例である。図25はプレーナ駆動の波形の例であり、この波形は図4におけるプレーナ駆動波形と同じである。
これに対して図26に示されるフォーカルコニック駆動の波形では、図4と異なって40Vの波高値を持つ+、−のパルスの後に電源回路がハイインピーダンス状態とされる。すなわちフォーカルコニック状態に駆動する場合には、プレーナ状態に駆動するパルスと同じパルスを印加した後に、−40Vを印加した状態で駆動回路をハイインピーダンスにする制御が行われる。
液晶の表示セルは電気的にはコンデンサであり、−40Vの印加時に表示セルに蓄積された電荷は、液晶セル自身の抵抗とコンデンサの容量によって決まる時定数に対応してゆっくりと放電され、液晶セルはフォーカルコニック状態となる。なお、図25、図26ではパルスの極性反転回数は1回であるが、その回数を複数回としてもよい。すなわち、正と負のパルスで駆動波形の1周期とすると複数周期の波形を印加してもよい。
図27、図28は単一極性パルスによるプレーナ駆動波形と、フォーカルコニック駆動波形の説明図である。図27のプレーナ駆動波形は、図22で説明した波形と同じである。
図28のフォーカルコニック駆動波形では、図27のプレーナ駆動波形と同様に+40Vの電圧値が50msの間維持された後に、電源回路がハイインピーダンスとされ、表示セルに蓄積された電荷は図26におけると同様にゆっくりと放電され、表示セルはフォーカルコニック状態となる。
図29は表示部ドライバ回路の構成例であり、図30および図31はこのドライバ回路の動作タイムチャートである。プレーナ状態への駆動時には、図30に示すように電源電圧Vccを40Vとした後に、50msの間ロジック出力をローレベル(L)に維持する。ロジック出力がLとなると、図29のトランジスタTrはオフとなり、ダイオードDおよび抵抗R2を通して液晶セルは40Vに充電される。その後少なくとも1msの間ロジック出力をHとすると、トランジスタTrはオンとなり、液晶セルに蓄積された電荷はTrを通して急激に放電されるため、液晶セルはプレーナ状態となる。
フォーカルコニック状態への駆動時には、図31に示すようにVccを+40Vとした後、ロジック出力を50msの間Lとし、その後Vccが立下り、液晶セルに蓄積された電荷が放電されるまでの間ロジック出力をLに保つことによって、ダイオードD、トランジスタTrは共にオフとなり、電源側はハイインピーダンス状態となるため、液晶セルに蓄積された電荷は液晶セル自身の抵抗を介してゆっくりと放電され、液晶セルはフォーカルコニック状態となる。
次に例えば、コレステリック液晶の1種としてのカイラルネマティック液晶を使用した表示部を持つICカードの構成について説明する。図32はハイブリッド型、すなわち接触型としても、あるいは非接触型としても使用でき、メモリ性表示部、すなわちカイラルネマティック液晶を用いた表示部を持つICカードの構成例である。
ネマティック液晶とカイラル材に、右方向へのねじれを誘起するCB15をそれぞれ適量混合し、プレーナ状態における反射色を緑色とし、この液晶を100μmの厚みのITO(インジューム・ティン・オキサイド)蒸着済みガラス基板で挟み、ガラスセルを作成した。液晶の厚みは5μmとした。
図32において、このカイラルネマティック液晶を用いた数字表示のセグメント駆動素子としての表示部20は、ICカードの右上に設けられ、さらにその上に素子駆動用のIC21が埋め込まれている。この表示部は、例えばキャッシュカードにおいては残高表示などに使用される。カード上には、さらにICカードリーダ/ライタとの間で非接触でデータや電力を受け取るためのIC22、リーダ/ライタに接触して電力やデータを受け取るためのIC23、および文字や数字などがパンチされたエンボス部24が設けられている。
図33は非接触ICカードの構成例である。同図において、ICカード26をICカードリーダ/ライタ27に接近させることによって、ICカード26はアンテナ28によって電磁波の供給を受け、データおよび電力が供給されて動作を開始し、その後さらに必要に応じICカードリーダ/ライタ27との間で情報のやり取りが行われる。
ICカード26には全体を制御するためのCPU30、ICカードリーダ/ライタ27との間でデータのやり取りや電力の供給を受けるための非接触インタフェース31、データやプログラムなどを格納するリードオンリメモリ32、表示部ドライバ33、および表示部34を備えている。
続いて本実施形態におけるICカード上のアンテナパターンと、コイルパターンとの配置方式について説明する。前述のように、非接触式のICカードにおいて、例えばコレステリック液晶を用いた表示部を駆動する回路に電源を供給するために、ICカード上のアンテナ、すなわちICカードリーダ/ライタ側から送られる電波を受信するアンテナのパターンの近くにコイルパターンを設け、アンテナパターンによる電波の受信時に、アンテナパターンとコイルパターンとの間の電磁誘導作用を利用し、コイルパターンに誘起される電圧を表示部駆動のために用いる。
しかしながら前述のように、ICカードとしての一般的な使用例であるクレジットカードやキャッシュカードなどには、エンボス加工、すなわち数字や文字のパンチが機械的に行われ、このためアンテナパターンとコイルパターンとを接近させてICカード上に適切に配置することが難しいという問題点があったが、本実施形態においては多層配線基板を利用して、コイルパターンとアンテナパターンとを異なる層に設けることによって、この問題点を解決する。
図34、図35は多層配線板を利用し、アンテナパターンとは別の層にコイルパターンを形成した例である。図34はICカードの表面を示し、図35は図34の点線の部分の断面図を示す。図34において、エンボス加工がかかる部分については、図8で説明したように配線を幅広くすることによっても対応できる。
図35において、無線IC用アンテナパターン、すなわちICカードリーダ/ライタからの電波を受信するアンテナパターンは1層であるのに対して、LCDドライバ電源供給用コイルパターンは3層となっている。これは例えば既存のLCDドライバにおいては何種類かの電圧の電源を必要とすること、また例えばコレステリック液晶を用いる表示部においては駆動電圧として、例えば40Vというような比較的高い電圧の必要があるため、コイルパターンの巻数にあまり制限を設けずに、多数回の巻数を可能とさせることなどによっている。
しかしながら多層配線板を利用し、アンテナパターンとコイルパターンとを異なる層に配線した場合には、図36に示すように基板の厚さと部品の高さによって全体の厚みT1が、ICカードの厚みの規格、例えば0.8mm内に入らなくなる可能性がある。
図37、図38はこの問題点を解決したICカードの構成例である。図37においてはICカードの表面が示されているが、部品の搭載部を多層配線板の2層部に、アンテナとコイルパターンの配線部を4層部に設けている。
図38においては、図37のICカードの断面図が示されている。部品搭載部としての2層部と、アンテナパターンとコイルパターンとの配線部としての4層部を加えた全体の厚みT2は、図36で示した厚みT1よりも小さくなっている。なお図38において、アンテナパターンおよびコイルパターンの4層の配線部は当然左側にも存在するが、その部分は省略されている。
このように本実施形態によれば、アンテナパターンとコイルパターンとを、多層配線基板を利用して異なる層に設けることにより、コイルパターンによって比較的高い電圧を発生させたり、複数種類の電圧の値を得ることが可能となり、表示機能付き無電源非接触型ICカードの使用範囲を拡大させるために有効である。
【産業上の利用可能性】
本発明は、液晶表示素子、表示素子のドライバ、およびICカードや電子ペーパなどの携帯用表示装置の製造産業は当然のこととして、これらの素子や表示装置を用いるすべての産業において利用可能である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】

【図25】

【図26】

【図27】

【図28】

【図29】

【図30】

【図31】

【図32】

【図33】

【図34】

【図35】

【図36】

【図37】

【図38】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する2枚の基板と、該基板に挟まれた表示部とを備える表示素子において、
前記表示部以外の部分で基板を保持する壁面構造体であって、該壁面が基板に垂直となり、該壁面と垂直な面が基板と接着される壁面構造体を備えることを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記壁面と垂直で基板と接着される面の面積が、前記表示部の基板側の面の面積より大きいことを特徴とする請求項1記載の表示素子。
【請求項3】
前記表示部が液晶を用いるセグメント表示部であり、前記壁面構造体が該セグメント表示部の各セグメントに液晶を注入可能とする液晶注入道を備えることを特徴とする請求項1記載の表示素子。
【請求項4】
前記表示部と基板の間に、前記各セグメントに注入された液晶の幅より小さい幅を持つ開口部以外を遮光する遮光層を備えることを特徴とする請求項3記載の表示素子。
【請求項5】
前記2枚の基板のうちで、前記遮光層が表示部との間に備えられた基板と異なる基板と、前記壁面構造体との間に光吸収層を備えることを特徴とする請求項4記載の表示素子。
【請求項6】
前記表示部が、コレステリック液晶を用いる表示部であることを特徴とする請求項1記載の表示素子。
【請求項7】
前記表示部が、数字またはキャラクタ文字を複数配列させた構造を有し、前記壁面構造体は該各文字毎にブロックを形成し、該ブロックの間が液晶の注入道で連結されていることを特徴とする請求項1記載の表示素子。
【請求項8】
前記文字毎のブロックに対応して液晶の入口と出口とを備え、ブロック内の液晶道が該入口で分岐し、該出口で合流することを特徴とする請求項7記載の表示素子。
【請求項9】
コレステリック液晶を用いた表示素子の駆動方法において、
液晶セルのプレーナ状態への駆動時には、液晶セルにパルス電圧を印加後、電源側の駆動インピーダンスを液晶セルのインピーダンスより低い値にし、かつ印加電圧を0にすることを、
フォーカルコニック状態への駆動時には、パルス電圧を印加後、前記駆動インピーダンスを液晶セルのインピーダンスより高い値にすることを特徴とする表示素子駆動方法。
【請求項10】
前記パルス電圧は、該パルス電圧の液晶セルへの印加中に、その極性が少なくとも1回は反転することを特徴とする請求項9記載の表示素子駆動方法。
【請求項11】
前記パルス電圧の波高値は、前記液晶セルが確実にプレーナ状態に遷移する電圧値以上であることを特徴とする請求項9記載の表示素子駆動方法。
【請求項12】
前記プレーナ状態への駆動時におけるパルス電圧印加後の電源側の駆動インピーダンスの値は、液晶セルに蓄積された電荷の放電時間が、液晶セルがプレーナ状態に遷移するのに必要な時間の最大値以下となるような値であることを特徴とする請求項9記載の表示素子駆動方法。
【請求項13】
表示素子と、外部からデータおよび電力の供給を受けるためのアンテナ部とを備える携帯用表示装置における表示素子の駆動方法として、前記駆動方法を用いることを特徴とする請求項9記載の表示素子駆動方法。
【請求項14】
多層配線基板を用いた携帯用表示装置において、
外部からデータおよび電力の供給を受けるためのアンテナパターンと、
該アンテナパターンに近接して設けられ、アンテナパターンに電流が流れた時に電磁誘導作用によって発生する電圧を表示用電源電圧として利用するためのコイルパターンとを、前記多層配線基板の異なる層にそれぞれ設けることを特徴とする携帯用表示装置。
【請求項15】
前記多層配線基板において、前記アンテナパターンとコイルパターンとが配置されている部分を2層以上、他の部品が配置される部分を1層以上とすることを特徴とする請求項14記載の携帯用表示装置。

【国際公開番号】WO2005/024504
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508788(P2005−508788)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011315
【国際出願日】平成15年9月4日(2003.9.4)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(000237639)富士通フロンテック株式会社 (667)
【Fターム(参考)】