説明

被加工材の変形量低減方法、被加工材の加工方法及び反応器の製造方法

【課題】ガラス材等の被加工材に生じた反り等の変形量を低減する。
【解決手段】ガラス基板10,20,30の両面にドライフィルムを施し、各ガラス基板10,20,30について一方のドライフィルムに所定パターンの開口を露光・現像により形成する。次に、サンドブラスト法によってその開口パターンに沿った溝をガラス基板10,20,30に施す。次に、ドライフィルムを貼り付けた状態でガラス基板10,20,30をエッチング液に浸漬し、溝の壁面部分をエッチングする。次に、溝に触媒を担持し、ガラス基板10,20,30を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的加工により変形した被加工材の変形量低減方法に関するともに、その変形量低減方法を利用した被加工材の加工方法及び反応器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、エネルギー変換効率の高いクリーンな電源としての燃料電池を自動車や携帯機器などに搭載するため、燃料電池やその周辺技術の開発が進められている。燃料電池は、燃料と大気中の酸素を電気化学的に反応させて、化学エネルギーから電気エネルギーを直接取り出す装置である。
【0003】
燃料電池に用いる燃料としては水素単体が挙げられるが、常温、常圧で気体であることによる取り扱いに問題がある。そこで、燃料を液体の状態で保存して、その燃料を反応器によって水素に改質し、その水素を燃料電池に送ることが行われている。このような燃料電池や反応器を小型な電子機器に搭載するために、反応器や燃料電池を小型化するための開発が行われている。小型な反応器としては、溝が形成された複数のガラス基板を積み重ねて接合したものがあり、溝には触媒が担持されている。複数のガラス基板の接合により溝に対応する部分が流路とされ、燃料がその流路を流れる過程で触媒反応が起こる。また、特許文献1に記載された静電接合方法を応用すれば、溝が形成された複数のガラス基板を接合することができる。
【特許文献1】特開平6−326331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガラス基板の接合前にガラス基板に溝を加工する必要があり、溝の加工によってガラス基板に残留応力が発生し、ガラス基板に反り等の変形が生じる。しかし、反りが生じたガラス基板を接合したものとしても、隣り合うガラス基板の対向面を十分に面接触させることができず、高い密着性の接合面を得ることができない。
【0005】
そこで、本発明は、ガラス材等の被加工材に生じた反り等の変形量を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、機械的に削ることによる彫込み加工により変形した被加工材についてその彫込み壁面を化学的にエッチングすることによって、その被加工材の変形量を低減することを特徴とする被加工材の変形量低減方法である。
【0007】
請求項2に係る発明は、開口部を備えた状態でマスクを被加工材に被覆し、前記開口部を通じて前記被加工材を機械的に削ることによって前記開口部に沿った彫込みを前記被加工材に施し、前記マスクにより被覆された状態で前記被加工材の彫込み壁面を化学的にエッチングすることを特徴とする被加工材の加工方法である。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の被加工材の加工方法において、前記被加工材の化学的にエッチングした後に前記マスクを除去し、前記被加工材に別の部材を接合することによって前記被加工材の彫込みを前記別の部材で覆うことを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載の被加工材の加工方法において、前記被加工材がリチウム含有ガラス材又は硼珪酸ガラス材であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、マスクで被加工板の一方の面を被覆するとともに前記マスクに開口部を形成し、前記開口部を通じて前記被加工板を機械的に削ることによって前記開口部に沿った彫込みを前記被加工板に施し、前記マスクにより被覆された状態で前記被加工板の彫込みの壁面を化学的にエッチングすることを特徴とする反応器の製造方法である。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の反応器の製造方法において、前記化学的にエッチングをした後に、前記マスクを除去し、前記被加工板の一方の面に板材を接合することによって前記被加工板の彫込みを前記板材で覆うことを特徴とする。
【0012】
請求項7に係る発明は、請求項5に記載の反応器の製造方法において、前記被加工板がリチウム含有ガラス板又は硼珪酸ガラス板であることを特徴とする。
【0013】
請求項8に係る発明は、請求項5に記載の反応器の製造方法において、前記被加工板の彫込みに触媒を担持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、被加工材や被加工板を機械的に削ることによって彫込みを被加工材や被加工板に施す際、主に彫込み壁面近傍に残留応力が発生し、被加工材や被加工板に生じる変形に対し、その彫込み壁面を化学的にエッチングする。この処理によってその壁面近傍が除去され、残留応力も除去される。そのため、被加工材や被加工板に生じた変形量が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0016】
反応器の製造方法について説明する。
図1は、反応器の構成要素であるガラス基板10の加工工程を示した図である。まず、図1(a)に示すような矩形平板状のガラス基板10を準備し、ガラス基板10を洗浄する。このガラス基板10は可動イオンのもとなるアルカリ金属(例えば、Na、Li)を含有した耐熱性ガラス又は硼珪酸ガラスからなり、具体的にはパイレックス(登録商標)ガラスからなる。
【0017】
次に、図1(b)に示すように、感光性樹脂からなるドライフィルム(レジストフィルム)41,42をガラス基板10の両面に貼り付け、一方のドライフィルム41を部分的に露光して潜像をドライフィルム41に形成し、他方のドライフィルム42を部分的に露光して潜像をドライフィルム42に形成する。そして、ドライフィルム41及びドライフィルム42が貼り付けられたガラス基板10を現像液に浸漬すると、図1(c)に示すように、潜像に応じた開口パターン41aがドライフィルム41に形成され、潜像に応じた開口パターン42aがドライフィルム42に形成される。
【0018】
次に、図1(d)に示すように、残留したドライフィルム41をマスクとして、微細粉(例えば、平均粒径40μmの炭化珪素粒)を含んだ圧縮エアーを開口パターン41aを通じてガラス基板10に吹き付けて、微細粉や圧縮エアーの衝突力によりガラス基板10を削って孔部18aを形成する。なお、圧縮エアーの圧力は特に限定されないが、例えば、0.23MPaとし、彫り込みの加工レートを約16μm/minとする。また、このとき、後の接合時に電極を取り出すための切欠き19(図2参照)の部分にも、この切欠き19に対応する孔部を形成する。
【0019】
次に、残留したドライフィルム42をマスクとして、微細粉(例えば、平均粒径40μmの炭化珪素粒)を含んだ圧縮エアーを開口パターン42aを通じてガラス基板10に吹き付けて、微細粉や圧縮エアーの衝突力によりガラス基板10を削る。ここで、開口パターン42aをなぞるように圧縮エアーをガラス基板10に吹き付けて、開口パターン42aに沿ってガラス基板10を削り、図1(e)に示すように、開口パターン42aに沿った形状の彫込み溝11をガラス基板10に形成する。この時、ドライフィルム42側から彫り込んだ孔部をドライフィルム41側から彫り込んだ孔部18aに貫通させ、彫込み溝11のほかに貫通孔18を形成する。また、上述の切欠き19も、この過程で貫通孔18と同時に形成される。なお、圧縮エアーの圧力は特に限定されないが、例えば、0.23MPaとし、彫込み溝11の加工レートを約16μm/minとする。
【0020】
以上のようなサンドブラスト法によってガラス基板10を機械的に削って彫込み溝11や貫通孔18を施すと、ガラス基板10の加工面のうち、より広範囲において加工されている面(ドライフィルム42側の面)が凸となるようにガラス基板10が反る。これは、機械的加工によって彫込み溝11の壁面近傍に応力が残留したものと考えられる。また、サンドブラスト法によって形成された彫込み溝11の壁面は比較的粗い。
【0021】
次に、図1(f)に示すように、ドライフィルム41,42を残留させた状態でガラス基板10をエッチング液(例えば、フッ酸水溶液)43に浸漬し、彫込み溝11や貫通孔18の壁面部分をエッチング液43によって化学的にエッチング(ウェットエッチング)する。エッチングによる除去量は厚み3.5〜5μmとすることが好ましい。このようなエッチングにより、彫込み溝11や貫通孔18の壁面近傍の残留応力が解放され、ガラス基板10の反りが低減される。また、彫込み溝11の壁面がエッチングされても、彫込み溝11の壁面の粗さは残る。また、ガラス板のうちドライフィルム41,42によって被覆された部分をエッチング液43から保護することができる。
【0022】
次に、ガラス基板10をエッチング液43から取り出し、図1(e)に示すように、除去液によってドライフィルム41,42を除去し、ガラス基板10を洗浄する。
【0023】
図2(a)は彫込み溝11が形成された面とは反対の面の平面図であり、図2(b)は彫込み溝11が形成された面の平面図であり、図2(c)は図2(b)のIIc−IIc線に沿った面の矢視断面図である。図2(b)に示すように、彫込み溝11は、右縁から貫通孔18の左側へ至る燃料導入部12と、燃料導入部12に通じるとともに貫通孔18の左側において葛折り状になった改質部13と、改質部13に通じるとともに貫通孔18の左側から右側へ至る連通部14と、右縁から連通部14に通じる空気導入部15と、空気導入部15及び連通部14に通じるとともに貫通孔18の右側において葛折り状となった一酸化炭素除去部16と、一酸化炭素除去部16から右縁に至る排出部17等とからなる。
なお、一枚の大きな基板から複数のガラス基板10をダイシング加工により切り出しても良い。その場合には、図1(a)〜図1(g)の各工程をガラス基板10ごとに順番に行うのではなく、各工程を全てのガラス基板10についてまとめて行った後に、一枚の大きな基板から複数のガラス基板10を切り出す。
【0024】
次に、彫込み溝11のうち改質部13の壁面に改質用触媒(例えば、Cu/ZnO系触媒)81を担持させるとともに、一酸化炭素除去部16の壁面に選択酸化用触媒(例えば、白金系触媒)82を担持させる。彫込み溝11の壁面が粗くなっているので、改質用触媒81や選択酸化用触媒82を担持させやすく、改質用触媒81や選択酸化用触媒82のミクロ的な表面積が大きくなるので、改質用触媒81や選択酸化用触媒82による反応効率が高くなる。
【0025】
図3及び図4は、反応器の構成要素であるガラス基板20の加工工程を示した図である。図3(a)に示すように、矩形平板状の別のガラス基板20を準備し、ガラス基板20を洗浄する。次に、図3(b)に示すように、ガラス基板20の両面に金属薄膜51,52を気相成長法(例えば、スパッタリング法、蒸着法等)によって成膜する。金属薄膜51,52は、ガラス基板10や後述するガラス基板30をガラス基板20に陽極接合するために用いるものであり、例えばタンタルからなる。
【0026】
次に、図3(c)に示すように、金属薄膜52に電熱膜53を気相成長法によって成膜する。ここで、電熱膜53は金属薄膜52側から順にタングステン層、金層、タングステン層を積層したものである。
【0027】
次に、図3(d)に示すように、フォトリソグラフィー法及びエッチング法により電熱膜53及び金属薄膜52をパターニングし、電熱膜53からヒータ53a,53bを形成する。
【0028】
次に、図3(e)に示すように、気相成長法、フォトリソグラフィー法及びエッチング法によりヒータ53a,53bを酸化シリコン又は窒化シリコンの絶縁膜54で被覆し、その後、ヒータ53a,53b以外の部分で電熱膜53をエッチングにより除去する。
【0029】
次に、図3(f)に示すように、感光性樹脂からなるドライフィルム55,56をガラス基板20の両面に貼り付け、一方のドライフィルム56を部分的に露光して潜像をドライフィルム56に形成し、他方のドライフィルム55を部分的に露光して潜像をドライフィルム55に形成する。そして、ドライフィルム55及びドライフィルム56が貼り付けられたガラス基板20を現像液に浸漬すると、図4(a)に示すように、潜像に応じた開口パターン56aがドライフィルム56に形成され、潜像に応じた開口パターン55aがドライフィルム55に形成される。
【0030】
次に、残留したドライフィルム55をマスクとして、微細粉を含んだ圧縮エアーを開口パターン55aを通じてガラス基板20に吹き付ける。このようなサンドブラスト法によって開口パターン55aに沿ってガラス基板20を削り、図4(b)に示すように、開口パターン55aに沿った形状の彫込み溝21をガラス基板20に形成する。
【0031】
次に、図4(c)に示すように、残留したドライフィルム56をマスクとして、微細粉を含んだ圧縮エアーを開口パターン56aを通じてガラス基板20に吹き付けて、ドライフィルム56側から彫り込んだ孔部を反対側に貫通させ、貫通孔28を形成する。
【0032】
次に、図4(d)に示すように、ドライフィルム55,56を残留させた状態でガラス基板20をエッチング液57に浸漬し、彫込み溝21や貫通孔28の壁面部分をエッチング液57によって化学的にエッチングする。これにより、ガラス基板20の反りが低減される。ドライフィルム55,56が張り付けられているので、彫込み溝21や貫通孔28の壁面部分がエッチングされるが、他の部分はエッチングされず、ヒータ53a,53b、金属薄膜51,52、絶縁膜54等を保護することができる。
【0033】
次に、ガラス基板20をエッチング液57から取り出し、図4(e)に示すように、除去液によってドライフィルム55,56を除去し、ガラス基板20を洗浄する。
なお、一枚の大きな基板から複数のガラス基板20をダイシング加工により切り出しても良い。その場合には、図3(a)〜(f)、図4(a)〜(e)の各工程をガラス基板20ごとに順番に行うのではなく、各工程を全てのガラス基板20についてまとめて行った後に、一枚の大きな基板から複数のガラス基板20を切り出す。
【0034】
図5(a)は彫込み溝21が形成された面の平面図であり、図5(b)は彫込み溝21が形成された面とは反対の面の平面図であり、図5(c)は図5(b)のVc−Vc線に沿った面の矢視断面図である。図5(a)に示すように、彫込み溝21のうち改質部23がガラス基板10の改質部13と対称な形状となっており、一酸化炭素除去部26がガラス基板10の一酸化炭素除去部16と対称な形状となっており、貫通孔28がガラス基板10の貫通孔18と対称な形状となっている。
【0035】
次に、彫込み溝21のうち改質部23の壁面に改質用触媒(例えば、Cu/ZnO系触媒)83を担持させるとともに、一酸化炭素除去部26の壁面に選択酸化用触媒(例えば、白金系触媒)84を担持させる。
【0036】
図6は、反応器の構成要素であるガラス基板30の加工工程を示した図である。図6(a)に示すように、可動イオンのもととなるアルカリ金属(例えば、Na、Li)を含有した矩形平板状のガラス基板30を準備し、ガラス基板30を洗浄する。なお、ガラス基板30は硼珪酸ガラスの基板であっても良い。
【0037】
次に、図6(b)に示すように、ドライフィルム61,62をガラス基板30の両面に貼り付け、一方のドライフィルム62を部分的に露光して潜像をドライフィルム62に形成し、他方のドライフィルム61を部分的に露光して潜像をドライフィルム61に形成する。そして、ドライフィルム61及びドライフィルム62が貼り付けられたガラス基板30を現像液に浸漬すると、図6(c)に示すように、潜像に応じた開口パターン62aがドライフィルム62に形成され、潜像に応じた開口パターン61aがドライフィルム61に形成される。
【0038】
次に、残留したドライフィルム61をマスクとして、微細粉を含んだ圧縮エアーを開口パターン61aを通じてガラス基板30に吹き付けてガラス基板30を削り、図6(d)に示すように、開口パターン61aに沿った形状の彫込み溝31をガラス基板30に形成する。また、このとき、後の接合時に電極を取り出すための切欠き39(図7参照)の部分にも、この切欠き39に対応する孔部を形成する。
【0039】
次に、図6(e)に示すように、残留したドライフィルム62をマスクとして、微細粉を含んだ圧縮エアーを開口パターン62aを通じてガラス基板30に吹き付けて、ドライフィルム62側から彫り込んだ孔部を反対側に貫通させ、貫通孔38を形成する。また、上述の切欠き39も、この過程で貫通孔38と同時に形成される。
【0040】
次に、図6(f)に示すように、ドライフィルム61,62を残留させた状態でガラス基板30をエッチング液63に浸漬し、彫込み溝31や貫通孔38の壁面部分をエッチング液63によって化学的にエッチングする。これにより、ガラス基板30の反りが低減される。
【0041】
次に、ガラス基板30をエッチング液63から取り出し、図6(f)に示すように、除去液によってドライフィルム61,62を除去し、ガラス基板30を洗浄する。
【0042】
図7(a)は彫込み溝31が形成された面の平面図であり、図7(b)は彫込み溝31が形成された面とは反対の面の平面図であり、図7(c)は図7(b)のVIIc−VIIc線に沿った面の矢視断面図である。図7(a)に示すように、彫込み溝31は、右縁から貫通孔38の左側へ至る燃料導入部32と、燃料導入部32に通じるとともに貫通孔38の左側において葛折り状になった燃焼部33と、燃焼部33に通じた端子収納部34,35と、燃焼部33に通じるとともに貫通孔38の左側から右縁に至る排出部36と、貫通孔38の右側において枝分かれしたヒータ収納部37等とからなる。
なお、一枚の大きな基板から複数のガラス基板30をダイシング加工により切り出しても良い。その場合には、図6(a)〜図6(g)の各工程をガラス基板30ごとに順番に行うのではなく、各工程を全てのガラス基板30についてまとめて行った後に、一枚の大きな基板から複数のガラス基板30を切り出す。
【0043】
次に、彫込み溝31のうち燃焼部33の壁面に燃焼用触媒(例えば、白金系触媒)85を担持させる。
【0044】
以上のように加工したガラス基板10,20,30を積み重ねて、これらを接合する。ここで、ガラス基板20をガラス基板10とガラス基板30の間に挟み、ガラス基板20の両面のうち金属薄膜51が成膜された面をガラス基板10との接合面にし、金属薄膜52が成膜された面をガラス基板30との接合面にする。また、ガラス基板10については、彫込み溝11が形成された面をガラス基板20との接合面にし、ガラス基板30について彫込み溝31が形成された面をガラス基板20との接合面にする。
【0045】
具体的には、図8(a)に示すように、ガラス基板10とガラス基板20を重ね合わせ、ガラス基板10,20の全体を加熱し、ガラス基板10側を陰極とし、切欠き19を通じて陽極91をガラス基板20の金属薄膜51に当接させる。これにより、ガラス基板10とガラス基板20を陽極接合する。なお、ガラス基板10とガラス基板20の接合に際しては、彫込み溝11の改質部13と彫込み溝21の改質部23を重ね合わせ、彫込み溝11の一酸化炭素除去部16と彫込み溝21の一酸化炭素除去部26を重ね合わせ、貫通孔18と貫通孔28を重ね合わせる。
【0046】
次に、ヒータ53a,53bの両端部にリード線を接続する。
【0047】
次に、図8(b)に示すように、ガラス基板20とガラス基板30を重ね合わせ、ガラス基板10,20、30の全体を加熱し、ガラス基板30側を陰極とし、切欠き39を通じて陽極91をガラス基板20の金属薄膜52に当接させる。これにより、ガラス基板20とガラス基板30を陽極接合する。なお、ガラス基板20とガラス基板30の接合に際しては、ヒータ53aを彫込み溝31の燃焼部33に収容され、ヒータ53bを彫込み溝31のヒータ収納部37に収容し、貫通孔28と貫通孔38を重ね合わせる。
【0048】
ガラス基板10,20,30が終わったら、リード線がガラス基板20とガラス基板30の間の穴を通っているので、その穴をガラス封止材等により封止する。以上により、反応器が完成する。
【0049】
以上のような製造方法においては、ガラス基板10,20,30に生じた反りがエッチングによって低減されているので、ガラス基板10,20,30の面同士を十分に接触させて陽極接合することができるので、これらの密着性が高いものとなる。また、ガラス基板10やガラス基板30についてはエッチングの際にドライフィルムによって保護された面が接合面となるので、製造される反応器内の気密性が高くされた状態となるようにガラス基板10やガラス基板30をガラス基板20に陽極接合することができる。同様に、ガラス基板20についてもエッチングの際に金属薄膜51,52が保護されて熱やエッチング液によるダメージを受けていないので、製造される反応器内の気密性が高くされた状態となるようにガラス基板20をガラス基板10やガラス基板30に陽極接合することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、ウェットエッチング法を用いているので、エッチングが等方的になされ、彫込み溝11,21,31の壁面表層を等方的に除去することができ、その表層を効率的に除去することができる。また、ウェットエッチング法では、エッチング液に浸漬しているので、ガラス基板10,20,30の両面を同時に処理したり、複数枚のガラス基板10,20,30を同時に処理したりすることができる。
【0051】
以上のように製造した反応器の作用について説明する。
燃料(例えば、メタノール、エタノール、ジメチルエーテル、ブタン、ガソリン)と水が気化して混合した状態で燃料導入部12に供給され、燃料と水の混合気が燃料導入部12から改質部13,23に送られる。燃料と水の混合気が改質部13,23を流動しているときに、改質用触媒81,83によって燃料と水から水素ガスが生成され、更に微量ながら一酸化炭素ガスが生成される。燃料がメタノールの場合には、次式(1)、(2)のような化学反応が起こる。なお、水素が生成される反応は吸熱反応であって、ヒータ53aの熱や後述の燃焼熱が用いられる。
【0052】
CH3OH+H2O→3H2+CO2 …(1)
2+CO2→H2O+CO …(2)
【0053】
改質部13,23で生成された水素ガス及び一酸化炭素ガス等は連通部14を通って一酸化炭素除去部16に送られ、更に外部の空気が空気導入部15を通って一酸化炭素除去部16に送られる。水素ガス、一酸化炭素ガス及び空気が一酸化炭素除去部16を流動しているときに、選択酸化用触媒82,84によって一酸化炭素が優先的に酸化し、一酸化炭素が選択的に除去される。
【0054】
一酸化炭素除去後、水素ガス等の混合気が排出部17から排出される。排出された水素ガス等の混合気は燃料電池型発電セルに送られ、燃料電池型発電セルでは水素と酸素の電気化学反応により電気が取り出される。また、燃料電池型発電セルで電気化学反応せずに残った水素ガス等が空気と混合されて、燃料導入部32に供給される。水素ガスと空気等の混合気が燃料導入部32から燃焼部33に送られ、混合気が燃焼部33を流動しているときに、水素ガスが燃焼用触媒85によって酸化し、酸化によって燃焼熱が発する。以上の工程を経て生成された排ガスが排出部36を通って外部に排出される。
【0055】
以上のような反応器は、燃料電池型発電セルとともに、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話機、PDA(Personal Digital Assistant)、電子手帳、腕時計、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、ゲーム機器、遊技機、その他の電子機器に備え付けられる。電子機器には、その他に、液体状の燃料と水を混合した状態で又は別々で収容した燃料容器と、燃料容器の燃料と水を気化し、その燃料と水の混合気を反応器へ送る気化器とが備え付けられる。
【0056】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行っても良い。
【0057】
上記実施形態では、彫込み溝11,21,31や貫通孔18,28,38の加工として、衝突荷重を利用したサンドブラスト法を用いたが、他の機械的加工法を用いても良い。例えば、工具を用いて剪断力によりガラス基板10,20,30を削り、彫込み溝11,21,31や貫通孔18,28,38を施しても良い。
【0058】
また、上記実施形態では、ガラス基板10,20,30をエッチング液に浸漬したが、エッチング液をガラス基板10,20,30に吹き付けても良い。
【0059】
上記実施形態では、彫込み溝11,21,31や貫通孔18,28,38を加工したが、彫込みによる溝や孔のほかに、彫込みによる凹部を加工しても良い。また、貫通孔18,28,38は両面から彫り込むことで貫通させたが、片面から彫り込むことで貫通させても良い。
【0060】
また、上記実施形態では、ドライフィルム41,42,55,56,61,62がネガ型であるが、ドライフィルム41,42,55,56,61,62がポジ型であっても良い。ドライフィルム41,42,55,56,61,62がポジ型である場合には、ネガ型に対して、露光する箇所と露光しない箇所を反転させる。
【0061】
また、上記実施形態では、被加工材がガラス材、特にガラス基板10,20,30であった。ガラス基板10,20,30の全部又は何れかを他の材料(例えば、イオン伝導性を持たせたセラミックス、鉄、アルミニウム、銅等からなる金属材料又は鉄、アルミニウム、銅等を含む合金材料、シリコン)からなる基板に代えて、その基板をサンドブラスト法で削って、その基板に形成された彫込み溝の壁面をウェットエッチングし、得られた基板を接合して、反応器を製造しても良い。但し、基板の材料に応じて、エッチング工程において用いるエッチング液を変更したり、接合の方法を変更したりする。
【実施例1】
【0062】
直径125mm、厚さ0.6mmのリチウム含有ガラス基板にドライフィルムを貼り付けた。ドライフィルムの中央部には、80mm四方の正方形状開口部が形成されていた。そのガラス基板の反対面の全体にドライフィルムを貼り付けた。次に、平均粒径40μmの炭化珪素粒を含んだ圧縮エアー(気圧0.23MPa)をノズル状開口部を通じてガラス基板に吹き付けて、約16μm/minの加工レートで深さ250μmの彫込み溝をガラス基板に施した。その彫込み溝が形成された面とは反対の面について非接触段差計にてその面の反り具合を直径に沿って測定した。その測定結果を図9(凡例:サンドブラスト加工後)に示した。
【0063】
また、サンドブラスト加工をした後に、ドライフィルムを残した状態でガラス基板をエッチング液に浸漬した。ここで、エッチング液はフッ酸水溶液であり、エッチング液の温度は室温であり、エッチング液の濃度は15vol%であった。また、エッチングレートは約30nm/secであり、エッチング量を3.5μmとした。エッチング後、彫込み溝が形成された面とは反対の面について上述の非接触段差計にてその面の反り具合を直径に沿って測定した。その測定結果を図9(凡例:フッ酸処理後)に示した。
【0064】
図9において、横軸は直径方向における測定位置を表し、縦軸は所定の基準水平面から下への変位を表す。図9から明らかなように、サンドブラスト加工した後では、直径の中央(測定位置40mmの部分)では変位が大きく、直径の両側(測定位置0mm、80mmでは変位が小さく、ガラス基板が反っていることがわかる。それに対して、フッ酸処理後では全体的な変位が小さくなっており、ガラス基板の反りが小さくなったことがわかる。そのため、フッ酸処理によってガラス基板の反りが低減され、ガラス基板がほぼ平坦になっていることがわかる。
また、上述の実施形態に沿って製造された反応器は気密性が高く製造されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】反応器の製造方法におけるガラス基板の加工工程を示した図である。
【図2】図1に示した加工工程により加工されたガラス基板の表面、裏面及び断面を示した図である。
【図3】反応器の製造方法における別のガラス基板の加工工程を示した図である。
【図4】図3の続きの工程を示した図である。
【図5】図3、図4に示した加工工程により加工されたガラス基板の表面、裏面及び断面を示した図である。
【図6】反応器の製造方法における別のガラス基板の加工工程を示した図である。
【図7】図6に示した加工工程により加工されたガラス基板の表面、裏面及び断面を示した図である。
【図8】ガラス基板の接合工程を示した図である。
【図9】ガラス基板の反りを示したグラフである。
【符号の説明】
【0066】
10、20、30 ガラス基板
11、21、31 彫込み溝
41、42、55、56、61、62
43、57、63 エッチング液
42a、55a、61a
81、83 改質用触媒
82、84 選択酸化用触媒
85 燃焼用触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的に削ることによる彫込み加工により変形した被加工材についてその彫込み壁面を化学的にエッチングすることによって、その被加工材の変形量を低減することを特徴とする被加工材の変形量低減方法。
【請求項2】
開口部を備えた状態でマスクを被加工材に被覆し、前記開口部を通じて前記被加工材を機械的に削ることによって前記開口部に沿った彫込みを前記被加工材に施し、前記マスクにより被覆された状態で前記被加工材の彫込み壁面を化学的にエッチングすることを特徴とする被加工材の加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載の被加工材の加工方法において、
前記被加工材の化学的にエッチングした後に前記マスクを除去し、前記被加工材に別の部材を接合することによって前記被加工材の彫込みを前記別の部材で覆うことを特徴とする被加工材の加工方法。
【請求項4】
請求項2に記載の被加工材の加工方法において、
前記被加工材がリチウム含有ガラス材又は硼珪酸ガラス材であることを特徴とする被加工材の加工方法。
【請求項5】
マスクで被加工板の一方の面を被覆するとともに前記マスクに開口部を形成し、前記開口部を通じて前記被加工板を機械的に削ることによって前記開口部に沿った彫込みを前記被加工板に施し、前記マスクにより被覆された状態で前記被加工板の彫込みの壁面を化学的にエッチングすることを特徴とする反応器の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の反応器の製造方法において、
前記化学的にエッチングをした後に、前記マスクを除去し、前記被加工板の一方の面に板材を接合することによって前記被加工板の彫込みを前記板材で覆うことを特徴とする反応器の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の反応器の製造方法において、
前記被加工板がリチウム含有ガラス板又は硼珪酸ガラス板であることを特徴とする反応器の製造方法。
【請求項8】
請求項5に記載の反応器の製造方法において、
前記被加工板の彫込みに触媒を担持することを特徴とする反応器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−63166(P2008−63166A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240461(P2006−240461)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】