説明

被覆ポリマー誘電性フィルム

【課題】湿った環境で安定で且つ高い誘電定数及び高い破壊強さを有するポリマー材料を含む構造体の提供。
【解決手段】フィルム40及びフィルム40を含む物品60であり、フィルム40は第1の層42、第2の層44及び第3の層46を含む。第1の層42はポリマー誘電材料を含む。第2の層44は第1の層42の少なくとも1つの表面48、50上に配置され、無機酸化物誘電材料を含む。第3の層46は第1の層42又は第2の層44上に配置され、窒化物又はオキシ窒化物材料を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に被覆ポリマー誘電性フィルムに関し、具体的には無機材料で被覆されたポリマー誘電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
高い抵抗率、高い誘電率、低い散逸係数及び高い電場破壊強さ(Vb)をもつポリマーはコンデンサーのような電子デバイスにおいて誘電体として重要な用途を有する。電子産業はコスト及び性能主導であり、コストを下げ、その信頼性と性能を改良するための材料に対する要求が常に増大している。ポリマー系デバイスは、ポリマーフィルムの押出又は溶液流延に関連する製造技術が薄膜金属化技術と容易に組み合わせて柔軟で経済的なデバイスを得ることができ、非常に大きい電子デバイスに製造することができるので、以前から重視されている。
【0003】
ポリマー系電子デバイスは、その固有の低い誘電損失、優れた高周波応答、低い散逸係数(DF)、低い等価直列抵抗(ESR)、及び高電圧能の故に多くのパワーエレクトロニクス及びパルスパワー用途に使用されている。しかしながら、殆どの誘電性ポリマーは、低いエネルギー密度(<5J/cc)を特徴とするか、及び/又は低い破壊強さ(<450kV/mm)を有しており、このため電子デバイスの作動電圧が制限され得る。他の不都合は、例えば熱的安定性及び低減した寿命に関連している。高いエネルギー密度を実現するためには、高い誘電定数と高い破壊強さの両方を有することが望ましいであろう。これらの2つの性質のトレードオフは有利ではないであろう。高い破壊強さを示す殆どの誘電性ポリマーは比較的低い誘電定数を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7786839号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題に対処し、電子産業用途の現在の需要を満たすポリマー材料が必要とされている。従って、方法を考案し、かなり高い誘電定数及び比較的高い破壊強さが得られるポリマー材料を含む構造体を策定することが重要である。さらに、ポリマー系電子デバイスを形成する間取扱いが容易になるように湿った環境で安定な構造体及び材料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様はフィルムを提供する。このフィルムは第1の層、第2の層及び第3の層を含む。第1の層はポリマー誘電材料を含む。第2の層は第1の層の少なくとも1つの表面上に配置され、無機酸化物誘電材料を含む。第3の層は第1又は第2の層の上に配置され、窒化物又はオキシ窒化物材料を含む。
【0007】
本発明の1つの態様はフィルムを提供する。このフィルムは第1の層、第2の層及び第3の層を含む。第1の層は第1及び第2の表面を有し、シアノビスフェノールモノマーから誘導された構造単位を有するポリエーテルイミド組成物を含む。第2の層は第1の層の第1の表面上に配置され、二酸化ケイ素を含む。第3の層は第1の層の第2の表面上に配置され、窒化ケイ素を含む。
【0008】
本発明の1つの態様は電子物品を提供する。この電子物品はフィルムを含む。フィルムは第1の層、第2の層及び第3の層を含む。第1の層はシアノビスフェノールモノマーから誘導された構造単位を有するポリエーテルイミド組成物を含む。第2の層は第1の層の少なくとも1つの表面上に配置され、二酸化ケイ素を含む。第3の層は第1又は第2の層の上に配置され、窒化ケイ素を含む。
【0009】
本発明の上記及びその他の特徴、態様、及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読めばより良く理解されるであろう。全図面を通して類似の符号は類似の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の1つの態様による比較のweibull確率プロットである。
【図2】図2は、本発明の1つの態様による比較のボックスチャートである。
【図3】図3は、本発明の1つの態様による比較のグラフである。
【図4】図4は、本発明の1つの態様による比較のweibull確率プロットである。
【図5】図5は、本発明の様々な態様によるフィルムの断面図である。
【図6】図6は、本発明の様々な態様によるフィルムの断面図である。
【図7】図7は、本発明の様々な態様によるフィルムの断面図である。
【図8】図8は、本発明の様々な態様によるフィルムの断面図である。
【図9】図9は、本発明の様々な態様によるフィルムの断面図である。
【図10】図10は、本発明の1つの態様による物品の断面図である。
【図11】図11は、本発明の1つの態様による比較のweibull確率プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び特許請求の範囲では、幾つかの用語を使用するが、その意味は次の通りである。単数形態は、前後関係から明らかに他の意味を示さない限り複数の対象を含む。本明細書及び特許請求の範囲を通じて使用する場合、近似値を表す言語は、それが関係する基本的な機能に変化を生じることなく変わることが許される定量的表現を表すのに使用され得る。よって、「約」のような用語で修飾された値はその特定された正確な値に限定されない。場合によって、近似値を表す言語は、その値を測定するための機器の精度に対応し得る。
【0012】
本明細書で使用する場合、用語「し得る」及び「あり得る」は、一組の状況内の発生、明示された性質、特性又は機能の保持の可能性を示し、及び/又はその動詞が関連する能力、才能、又は可能性の1以上を表現することによって別の動詞の意味を限定する。よって、「し得る」及び「あり得る」を使用することは、修飾された用語が表示された能力、機能、又は使用に明らかに適当、能力がある、又は適切であるが、状況によってはその修飾された用語が適当、能力がある、又は適切でないこともあり得ることを考慮していることを示している。例えば、状況によっては、ある事象又は能力を期待することができるが、他の状況ではその事象又は能力が期待することができない。この違いは用語「し得る」及び「あり得る」により表される。
【0013】
本発明で検討される誘電特性の幾つかは誘電定数、及び破壊強さである。誘電材料の「誘電定数」は、電極間及びその周りの空間が誘電体で充填されたコンデンサーの静電容量の、同じ構成の電極の真空中での静電容量に対する比である。本明細書で使用する場合、用語「散逸係数」又は「誘電損失」とは、誘電材料内で散逸される電力の、印加した電力に対する比をいう。散逸係数は通常損失角(δ)の正接、又は位相角の余接(cotangent)として測定される。本明細書で使用する場合、「破壊強さ」とは、印加したAC又はDC電圧下での誘電材料の絶縁破壊耐性の尺度をいう。破壊するまでに印加した電圧を誘電材料の厚さで割ると破壊強さの値が得られる。一般に、kV/mmのように単位長さに対する電位差の単位で測定される。本明細書で使用する場合、用語「高温」とは、特に断らない限りセ氏約100度(℃)を超える温度をいう。
【0014】
上述したように、一実施形態では、本発明は複数の層を含むフィルムを提供する。本フィルムの第1の層はポリマー誘電材料からなる。一実施形態では、このポリマー誘電材料は少なくとも約150℃、幾つかの特定の実施形態では少なくとも約220℃のガラス転移温度を有する。多種のポリマーがこの性質を示し、「高温ポリマー」といわれることが多い。非限定例としては、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、シアノ変性ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリフェノールスルフィド、ポリフェニレンオキシド、スチレンアロイ、ポリスルホン、ポリビニリデンジフルオリド、ポリビニリデンヘキサフルオリド、ポリアリールエーテル、ポリエーテルスルホン、シアノエチルセルロース、シロキサンイミドポリマー、及び以上のいずれかを含有する様々なコポリマーがある(当業者には理解されるように、ここに挙げたポリマーの中にはこの実施形態の温度基準を満たさないグレードで入手可能なものがある)。特定の実施形態では、第1の層のポリマー誘電材料はシアノ変性ポリエーテルイミドである。シアノ変性ポリエーテルイミド及びその合成は2010年9月30日に出願された米国特許出願第12/895416号及び同第12/924666号(これらの内容全体は援用により本明細書の一部をなす)。別の実施形態では、シアノ変性ポリエーテルイミドはシアノビスフェノールモノマーから誘導された構造単位を含む。また、各種のポリマーの多くの物理的ブレンドも使用し得る。この場合、一実施形態では、個々のポリマーの各々が少なくとも約150℃のガラス転移温度を有するであろう。
【0015】
一実施形態では、ポリマーはポリマー複合材である。本明細書で使用する場合、用語「複合材」は、2種以上の成分で構成された材料を指すことを意味する。従って、この実施形態では、ポリマー又はコポリマーは少なくとも1種の無機構成成分、例えば充填材料を含有する。ポリマーは、上記高温ポリマーから選択することができ、又は低温ポリマー(又はコポリマー又はブレンド)、すなわち、約150℃未満のガラス転移温度を有するものであることができる。かかるポリマーの例としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテル、ポリビニリデンジフルオリド、ポリビニルクロリド、又はこれらのコポリマーがある。無機構成成分の非限定例としては、ケイ素含有物質、炭素含有物質、金属水和物、金属酸化物、金属ホウ化物、及び金属窒化物がある。一実施形態では、無機構成成分は、粉末化強誘電性物質、チタン酸バリウム、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ストロンチウムバリウム、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、酸化セシウム、イットリア、シリカ、ジルコン酸鉛、及びジルコン酸チタン酸鉛から選択される少なくとも1種である。無機構成成分は様々な形状又は形態、例えば、微粒子、繊維、小板、ウィスカー、ロッド、又は以上の2種以上の組合せであることができる。一実施形態では、無機構成成分(例えば、粒子)は特定の粒度、粒度分布、平均粒子表面積、粒子形状、及び粒子の断面形状を有する形態で使用し得る。(構成成分のタイプに応じて他の規格、例えば、ウィスカー又はロッドの場合のアスペクト比も指定し得る。)
一実施形態では、無機構成成分はポリマー複合材の総重量を基準にして約1重量%〜約80重量%の量でポリマー複合材中に存在し得る。別の実施形態では、無機構成成分はポリマー複合材の総重量を基準にして約5重量%〜約60重量%の量で存在し得る。さらに別の実施形態では、無機構成成分はポリマー複合材の総重量を基準にして約10重量%〜約50重量%の量で存在し得る。一実施形態では、第1の層は約0.05μm〜約20μmの範囲の厚さを有する。別の実施形態では、第1の層は約20μm〜約500μmの範囲の厚さを有する。
【0016】
先行技術においては、表面欠陥のため、誘電体の破壊電圧がばらばらになり、その結果従来のポリマー誘電性フィルムを含む物品では様々な位置で破壊電圧が変化していた。一例として、誘電体層としてポリマーフィルムを含むコンデンサーは様々な表面欠陥を示し、そのコンデンサーの全体の破壊電圧が低下することになる可能性があった。このポリマー誘電体表面を被覆することで、表面構造がより均一になり得、従って表面欠陥が低減し得る。
【0017】
従って、一実施形態では、本発明のフィルムの第2の層が第1の層の上に配置される。用途に応じて、第2の層は第1の層の1つの表面上に、又は第1の層の対向する両方の表面上に設け得る。例えば、第1の層の1つの(第1の)表面上の表面欠陥が別の(第2の)表面より少ないと期待される場合、第2の層被覆は第1の層の第2の表面にのみ行えば充分であり得る。別の例において、第1の層が既にある基材の上に形成されている場合、第2の層は環境に曝露される表面にのみ設け得る。また、フィルムを使用する用途の必要要件、フィルムのコスト、又は製造の容易さに応じて、第1の層の1つの表面を第2の層材料以外の材料で被覆してもよい。1つの特定の実施形態では、第2の層は第1の層の対向する両面上に配置される。
【0018】
第2の層は、表面欠陥を減らし第1の層の破壊強さを増大するいかなる物質でもあり得る。一実施形態では、第2の層の材料は第1の層とうまく接着することができ、第1の層と比べて類似の又はより高い温度に耐える能力を有する。一実施形態では、第2の層の材料は第1の層の材料と比較して同様な又はより高い誘電定数を有する。一実施形態では、第2の層は無機酸化物誘電材料を含む。一実施形態では、無機酸化物誘電材料には、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、又はこれらの混合物が含まれる。1つの特定の実施形態では、第2の層に使用する無機酸化物誘電材料は二酸化ケイ素である。
【0019】
第1の層上に第2の層として無機材料を設置することで、第1と第2の層の組合せに対してより狭い破壊電圧範囲が得られ、その結果、この組合せを使用する物品の寿命が延長され増強される。さらに、かかる表面処理によって、コロナ耐性、すなわち、物品内の誘電体がその完全な破壊に至ることなく特定のレベルのイオン化に耐える時間の目安、を増大することができる。
【0020】
図1に、SiO2を被覆したPEI(ポリエーテルイミド)フィルムと比較したシアノ変性PEIフィルムの破壊強さのweibull確率チャートを示す。
【0021】
Weibull分布は、正規分布又は指数分布のような多くの特定の分布をモデル化するのに使用することができる全般的な分布である。本発明で使用するWeibull分布は指数分布によって得られる。
【0022】
本発明においては、多数の破壊強さデータ点を集め、それらを、起こったWeibullランダム値の確率密度関数に従い、それらの破壊強さに対してプロットすることによって、Weibull解析を行った。図1は、それぞれ被覆してないシアノ変性PEI(黒丸で示す)及びSiO2で被覆したシアノ変性PEI(四角で示す)の破壊強さに対応する点線の直線10及び破線の直線18を示す。使用したPEIの厚さは約13μmであり、SiO2被覆の厚さは約100nmであった。被覆してないPEIの直線10は2つの限界線12と14を有しており、この間に破壊全体の90%が見出され得る。直線18は限界線20と22を有する。SiO2被覆により、PEIフィルムのより高い確からしい破壊強さが得られることが分かる。図2に、ポリマー複合材PVDF−HFP(ポリビニリデンジフルオリド−ヘキサフルオロプロピレン)のSiO2被覆を有するものと有しないものとの破壊強さのボックスプロット比較を示す。このグラフから、SiO2被覆による破壊強さの増大が明らかである。
【0023】
第2の層の厚さは広い範囲で変化し得、第1の層の表面欠陥を覆い隠すと共にフィルムの付加される材料コストと重量増を減らすように最適化することができる。実験的には、第2の層の設置厚さが高い方がフィルムで測定される破壊強さの変動が少ないことが判明した。しかしながら、第2の層材料の付加コスト及び第2の層の設置による重量増分は、特定の用途におけるフィルムの第2の層被覆の最大の厚さを決定し得る。一実施形態では、第2の層は約1nm〜約500nmの範囲の厚さを有する。特定の実施形態では、第2の層は約20nm〜約100nmの範囲の厚さを有する。適切な被覆法の例としては、限定されることはないが、スパッタリング、電気化学的堆積、スピンコーティング、浸漬塗装、ブラシ塗り、溶媒キャスティング、及び蒸着がある。
【0024】
ときには第1の層又は無機酸化物の第2の層が例えば湿気のような環境条件の影響を受け易いことがある。従って、第3の層として防湿物質を被覆することはフィルムの寿命を延ばす役に立つ。よって、一実施形態では、フィルムの第3の層が第1又は第2の層上に配置される。第3の層は第2の層の材料とは異なる材料から選択し得る。この第3の層は、防湿層として機能すると共に、第2の層の材料と同様な又は異なる機能を増強し得る。一実施形態では、第3の層の材料は第1及び第2の層とうまく接着することができ、第1の層と比べて類似の又はより高い温度に耐える能力を有する。一実施形態では、第3の層の材料は第1の層の材料と比較して同様な又はより高い誘電定数を有する。一実施形態では、第3の層は窒化物又はオキシ窒化物材料を含む。別の実施形態では、第3の層は窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、窒化アルミニウム、又は以上の任意の組合せを含む。特定の実施形態では、第3の層は窒化ケイ素を含む。
【0025】
図3は、250nm厚のSiNxで被覆されたPEIフィルムの受領したままの状態24と約80%の湿度に曝露した後26の誘電損失の比較のグラフである。このグラフから明らかに観察できるように、湿気に曝露してもSiNxを被覆したPEIフィルムの誘電損失は増大しない。
【0026】
図4に、限界線30と32を有するPEIフィルム28(四角に対応する)の破壊強さのWeibull確率チャートを、限界線36と38を有するSiNxを被覆したPEIフィルム34(黒丸に対応する)と比較して示す。SiO2被覆で得られた結果と同様、SiNx被覆ではPEIフィルムのより高い確からしい破壊強さが得られることが観察される。しかし、より厚い無機層の方がより高い熱伝導率には有利であることが判明した。従って、増大した破壊強さ、増大した熱伝導率及び増大した防湿特性の複合効果を得るためには、ポリマー誘電体を含むフィルムに無機酸化物の第2の層と酸化物又はオキシ窒化物材料の第3の層を設けるのが好ましい。
【0027】
第2の層と第3の層の設置は必要とされる機能特性及び最終用途に応じて一定の組合せであり得る。一実施形態では、図5に示されているように、第2の層を第1の層の第1の表面上に配置し、第3の層を第1の層の第2の表面上に配置する。図5は、本発明の一実施形態によるフィルム40の断面図を表す。フィルム40は第1の層42、第2の層44及び第3の層46を含んでいる。1つの例において、第1の層42は、第2の層44で被覆された第1の表面48を含むポリエーテルイミド層である。
【0028】
別の実施形態では、図6に示されているように、第2の層44が第1の層42の第1の表面48上に配置され、第3の層46が第2の層44上に配置される。さらに別の実施形態では、図7に示されているように、第2の層44が第1の層42の対向する両方の表面上に配置され、第3の層46が第2の層44の一方の上に配置される。さらにもう一実施形態では、図8に示されているように、第2の層44が第1の層42の第1の表面48上に配置され、第3の層46が第1の層42の第2の表面50上、及び第2の層44の上に配置される。図9に示されているように、特定の実施形態では、第2の層44は第1の層42の対向する両方の表面上に配置され、第3の層46は両方の第2の層44の上に配置される。
【0029】
一実施形態では、第3の層は約1nm〜約500nmの範囲の厚さを有する。特定の実施形態では、第3の層は約20nm〜約100nmの範囲の厚さを有する。
【0030】
一実施形態では、本フィルムは約10cm〜約10000cmの範囲の長さと、約10cm〜約200cmの範囲の幅を有する。一実施形態では、本フィルムは約1μm〜約20μmの範囲の厚さを有する。別の実施形態では、フィルムは約20μm〜約500μmの範囲の厚さを有する。
【0031】
一実施形態では、本フィルムは約−50℃〜約220℃の範囲の温度で機能することができる。別の実施形態では、フィルムは約800kV/mm以下の破壊電圧を有する。特定の実施形態では、フィルムは約300kV/mm〜約800kV/mmの範囲の破壊電圧を有する。一実施形態では、フィルムは約0.3W/mKより大きい熱伝導率を有する。
【0032】
一実施形態では、本フィルムを含む物品が提供される。この物品は上記のように無機材料及び防湿材料で被覆されたポリマー材料の1以上の層を含み得る。物品の非限定例には、コンデンサー、絶縁フィルム/層、又は絶縁テープがある。一例として、このテープは回転機械、変圧器、ケーブル、及びその他の電気装置のようなデバイスの絶縁システムの部品として使用することができる。一実施形態では、物品はコンデンサーである。一実施形態では、本フィルムはコンデンサー内の誘電体層として機能する。図10は、一例の物品60の断面図を示す。この例における物品は第1の層42、第2の層44、第3の層46及び電極62を有するコンデンサーである。
【0033】
一実施形態では、本フィルムは第1の層の誘電性ポリマーと比較して高まった様々な性質を示し得る。かかる性質の例としては、より高い誘電定数、増大した絶縁破壊電圧、低減した表面欠陥、及び増大したコロナ破壊耐性がある。
【0034】
上述の実施形態は、現存するコンデンサー及びかかるコンデンサーを作成する方法に比べて明らかな利点を呈する。例えば、以上の層構造のフィルムにより作成されたコンデンサーは、ポリマーに基づく従来公知のコンデンサーと比較して、増大した絶縁破壊電圧、増大したエネルギー貯蔵、及び延長された寿命を提供し、一方で他の全ての高い性能パラメーター、抵抗率、損失係数、及び放電効率を維持することが判明している。
【実施例】
【0035】
以下の実施例で本発明の方法と実施形態を例示する。従って、これらの実施例は特許請求の範囲に制限を課すものと考えるべきではない。
【0036】
特に断らない限り、全ての成分はAlpha Aesar,Inc.(Ward Hill,Mass.)、Sigma Aldrich(St.Louis,Mo.)、Spectrum Chemical Mfg.Corp.(Gardena,Calif.)などのような普通の化学品供給業者から市販されている。
【0037】
ポリエーテルイミドポリマーフィルムはMitsubish Plastics,Inc.から市販されている。これらのフィルムをSiO2及びSiNxのような被覆材料のための基材として使用する。以下の実施例で用いたフィルムの厚さは13um及び25umである。
【0038】
SiO2層のスパッター堆積
Perkin Elmer Model 4450スパッタリング機を使用して、第1のポリマー層上にSiO2被覆を設けた。SiO2のスパッタリング標的をスパッタリングシステムの内部に固定し、十分に洗浄した。ポリマーの第1の層を金属リングに巻き付けてフィルムが動かないようにした後、スパッタリングシステム内の基板の上に置いた。次に、システムをポンプで引き、ベース真空の2.5e−7トルにした。基板を水冷し、基板温度を100℃未満に維持して低温SiO2堆積を確保した。3kWのRF電源を使用して、RFモードでSiO2スパッタリングを行った。スパッター圧力はアルゴンガス流(40sccm)と酸素流(2.5sccm)を用いて5.0mTに調節した。RF電力密度を〜2.3W/cm2、誘導基板バイアスを−40Vとし、〜29A/minの堆積速度、10RPMのテーブル回転速度で、ポリマーの第1の層の上にSiO2フィルムを設けた。堆積時間は目的とする厚さに依存する。各々の実験は、15分の堆積サイクルで、サイクル間に15分のポンプ/休止を挟んで行った。この堆積プロセスをポリマーの第1の層の反対側の表面で繰り返した。その後、SiO2で被覆したポリマーの第1の層を、湿気の吸収を避けるために持ち運びできるDesi−Vac Containerに貯蔵した。
【0039】
SiNx被覆のPECVD
PEIフィルム及びSiO2被覆したPEIフィルムにSiNxを被覆した。慣用のPlasma Therm 790 SLRと容量結合した(capacitively coupled)反応性イオンエッチング(RIE)システムで、PEIの第1の層試料(厚さ25ミクロン)上に薄いSiNxフィルムを設けた。真空システムは、およそ1−2”のギャップにより分離された2つの水平配向した円形(直径11”)のアルミニウム電極を含んでいる。被覆される試料は通例底部電極上に載せた。次いで、反応器を5分間ベース圧力(およそ1mトル)までポンプで引いて、全ての空気をシステムから排気した。プロセスガスを反応ゾーン内部に導入した。自動スロットルバルブによって0.05−2トルの作動反応器圧力を設定した。圧力が設定されたら、RF電力を(通例)頂部電極に、所望のプロセス時間に達するまで印加した。その後、RF電力を止め、スロットルバルブを開いた。次いで反応器に通気し、試料を取り出した。同様のプロセスを使用して、SiO2被覆ポリマーフィルム上にSiNxを被覆した。
【0040】
試験と測定
フィルムの特性決定
SEM技術を用いてPEIの第1の層上の被覆層を検査した。厚さと被覆の形態学がそのイメージングから得られた。Profilometerを用いてフィルムの表面粗度を検査した。被覆してないPEIフィルムの場合、粗度は100−200nmの程度である。無機被覆を設けた後同様な粗度が観察された。SiO2被覆としての第2の層及びSiNx被覆としての第3の層を確かめるために、第2及び第3の層に対して屈折率及びXPS分析を行った。行った実験の幾つかで、SiNx層の組成は式Si34に近いことが見られる。
【0041】
誘電応答
誘電損失は、誘電材料の交流電場における電磁エネルギーの固有の散逸を定量化するパラメーターである。高い誘電損失は最終的に誘電材料の温度上昇を生じさせた。ポリマー層、SiO2の第2の層を被覆したポリマー層、SiNxの第3の層を被覆したポリマー層、及びSiO2の第2の層を被覆したポリマー層の上に被覆されたSiNxの第3の層をその誘電損失で特徴付けた。誘電損失を検討したフィルムは約13−50ミクロンの厚さであり、誘電測定の前に白金電極をスパッターで被覆した。誘電応答試験は、ASTM D 150規格に従ってHP4285Aインピーダンス分析器を用いて室温において10−2−106Hzの周波数で行った。
【0042】
湿気の吸収に対する保護
SiO2を被覆したPEIフィルムは、このフィルムを30%を超える湿度に曝露した後高めの誘電損失を示した。SiO2被覆ポリマー層上に被覆したSiNxの第3の層は、湿度に曝露したフィルムでかなり減少した誘電損失と増大した破壊強さを有する。
【0043】
破壊強さ
ポリマー層、SiO2の第2の層を被覆したポリマー層、SiNxの第3の層を被覆したポリマー層、及びSiO2の第2の層を被覆したポリマー層上に被覆されたSiNxの第3の層を、500ボルト/秒の増加率でDC電場を印加することによって破壊強さ試験にかけた。測定には、ASTM D 3755規格に従って金属球−平面試験構成(metal ball-plane testing configuration)を利用した。Hipotronics発電機で、フィルムが破壊して穴に入り(breaks into holes)、高い漏れ電流に達したときの破壊電圧を記録した。図11は、限界線72と74を有するSiNx/SiO2を被覆したPEIフィルム70(黒丸に対応する)と比較して、限界線78と80を有するPEIフィルム76(四角に対応する)の破壊強さのweibull確率チャートを示す。図は、追加のSiNxキャッピング層が、PEIの破壊強さに対するSiO2被覆の効果を減じないことを示している。SiO2の第2の層とSiNxの第3の層との厚さの最適化により、PEIフィルムの破壊強さが増大すると共にさらに破壊強さの変動が減少すると期待される。
【0044】
本明細書では本発明の幾つかの特徴のみを例示し説明して来たが、多くの修正と変更が当業者には自明であろう。従って、特許請求の範囲は、本発明の真の思想に入るものとしてかかる修正と変更を全て包含するものと了解されたい。
【符号の説明】
【0045】
10−被覆してないシアノ変性PEIの破壊強さに対応する点線の直線
12−10の限界線
14−10の限界線
18−SiO2で被覆されたPEIの破壊強さに対応する破線の直線
20−18の限界線
22−18の限界線
24−250nmの厚さのSiNxで被覆されたPEIフィルムの受領したままの状態での誘電損失
26−250nmの厚さのSiNxで被覆されたPEIフィルムの約80%の湿度に曝露した後の誘電損失
28−PEIフィルムの破壊強さ
30−28の限界線
32−28の限界線
34−SiNxで被覆されたPEIフィルムの破壊強さ
36−34の限界線
38−34の限界線
40−フィルム
42−第1の層
44−第2の層
46−第3の層
48−第1の層の第1の表面
50−第1の層の第2の表面
60−物品
62−電極
70−シアノ変性PEIフィルムの破壊強さ
72−70の限界線
74−70の限界線
76−SiNxで被覆されたPEIフィルムの破壊強さ
78−76の限界線
80−76の限界線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー誘電材料を含む第1の層42、
第1の層42の少なくとも1つの表面48、50上に配置された無機酸化物誘電材料を含む第2の層44、及び
第1の層42又は第2の層44上に配置された窒化物又はオキシ窒化物材料を含む第3の層46
を含んでなるフィルム40。
【請求項2】
第1の層42のポリマー誘電材料がポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、シアノ変性ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリフェノールスルフィド、ポリフェニレンオキシド−スチレンアロイ、又はポリビニリデンフルオリドである、請求項1記載のフィルム40。
【請求項3】
第1の層42のポリマー誘電材料がシアノ変性ポリエーテルイミドである、請求項1記載のフィルム40。
【請求項4】
シアノ変性ポリエーテルイミドがシアノビスフェノールモノマーから誘導された構造単位を含む、請求項3記載のフィルム40。
【請求項5】
第2の層44の無機酸化物誘電材料が二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、又はこれらの混合物を含む、請求項1記載のフィルム40。
【請求項6】
第2の層44の厚さが約1nm〜約500nmの範囲である、請求項5記載のフィルム40。
【請求項7】
第3の層46が窒化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、窒化アルミニウム、又はこれらの組合せを含む、請求項1記載のフィルム40。
【請求項8】
第1の表面48及び第2の表面50を有し、ポリエーテルイミド組成物を含む第1の層42、
第1の層42の第1の表面48上に配置された二酸化ケイ素を含む第2の層44、並びに
第1の層42の第2の表面50上に配置された窒化ケイ素を含む第3の層46
を含んでなり、
ポリエーテルイミドがシアノビスフェノールモノマーから誘導された構造単位を含む、フィルム40。
【請求項9】
フィルム40がさらに二酸化ケイ素層上に配置された窒化ケイ素を含む、請求項8記載のフィルム。
【請求項10】
ポリエーテルイミド組成物を含む第1の層42、
第1の層42の少なくとも1つの表面48、50上に配置された二酸化ケイ素を含む第2の層44、及び
第1の層42又は第2の層44上に配置された窒化ケイ素を含む第3の層46
を含み、ポリエーテルイミドがシアノビスフェノールモノマーから誘導された構造単位を含むフィルム40を含んでなる電子物品60。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−179896(P2012−179896A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−272924(P2011−272924)
【出願日】平成23年12月14日(2011.12.14)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】