説明

製膜方法

【課題】ポリマーフィルムの傷やしわ等を防止する。
【解決手段】溶液製膜設備は、搬送手段として駆動ローラ48を備える。駆動ローラ48は、溶媒を含む状態でバンドから剥がされたポリマーフィルム12を搬送する。駆動ローラ48は、周方向に沿って形成された、断面略半円形状の谷部60および山部61を有する。谷部60および山部61は、軸方向に交互に並んでおり、そのピッチPv、Pmは0.01mm以上2mm以下、谷部60の底点60aから山部61の頂点61aまでの高さHv−mは0.01mm以上1mm以下となっている。谷部60および山部61の曲率半径Rv、Rmは、0.1mm以上0.5mm以下となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの溶融押し出しまたはポリマー溶液の流延乾燥によりポリマーフィルムを製造する製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルムを製造する方法、すなわち製膜方法としては、溶融製膜方法と溶液製膜方法とがある。溶融製膜方法は、ペレットや粉末等のポリマーを、加熱して溶融し、これを薄膜状に成形し、押し出されたポリマーフィルムを搬送しながら冷却する。また、溶液製膜方法では、ポリマーを溶剤に溶解してつくったドープを、流延支持体に流延して流延膜を形成し、この流延膜を流延支持体から剥がす。流延膜は溶媒が蒸発しきらないうちに流延支持体から剥がされ、ポリマーフィルムは搬送されながら乾燥される。このように、いずれの製膜方法においても、ポリマーフィルムは搬送されながら所定の工程を経ることになる。
【0003】
ポリマーフィルムの搬送手段としては、サクションローラが多く用いられている。サクションローラは、周面に空気を吸引する複数の孔が設けられており、空気を吸引することによりポリマーフィルムを引きつけて周面に接触させ、モータにより周方向に回転することにより搬送させる。
【0004】
生産速度を上げるためにはポリマーフィルムの搬送速度を上げるが、搬送速度を上げるには、サクションローラによる吸引力を強める必要がある。しかし、吸引力を強めると、サクションローラの孔の跡がポリマーフィルムについてしまういわゆる孔写りが発生してしまう。
【0005】
孔写りを防止するためには、周面を研磨するという対策があるものの、この方法は製造ラインの稼働を停止させる必要があることから製造ロスが生じてしまい、好ましいとはいえない。そこで、サクションローラの表面に、ロックウエル硬度が98HRR以下の柔らかい素材を被覆するという方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、孔写りを防止するとともに、ポリマーフィルムがローラ上でスリップすることにより発生する擦り傷やしわを防止するために、サクションローラの吸引力を所定範囲にし、サクションローラの上流側と下流側との張力の差を、搬送すべきポリマーフィルムの温度に応じて所定の値にするという方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平06−179556号公報
【特許文献2】特開2005−306019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、サクションローラは、孔から空気を吸引してポリマーフィルムを引きつけるため、空中の異物やポリマーフィルムの表面に付いていた異物が孔に付着して、この異物がポリマーフィルムに傷をつけてしまうという問題がある。そして、特許文献1及び特許文献2に記載される方法では、異物の付着によるポリマーフィルムの傷の発生を防止することはできない。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、搬送手段として用いられるローラでのスリップを防止するとともに、ローラに異物が付着しても、傷やしわのない平滑なポリマーフィルムを製造することができる製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、ポリマーの溶融及び押し出しと、ポリマー溶液の流延及び乾燥とのいずれか一方によりポリマーフィルムを製造する製膜方法において、押し出されたポリマーフィルム、または、流延されて形成されたポリマーフィルムの搬送手段として、周方向に沿って周面に交互に形成された断面略半円形状の谷部及び山部を有し、前記谷部及び前記山部のピッチが0.01mm以上2mm以下、谷部の底点から山部の頂点までの高さが0.01mm以上1mm以下である駆動ローラを用いることを特徴として構成されている。
【0009】
谷部および山部の曲率半径が0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましく、山部の頂点部分に、軸方向に平行な平坦面を形成することが好ましい。平坦面の軸方向における幅が0.05mm以上0.5mm以下であることが好ましい。
【0010】
温度が100℃以上200℃以下であるポリマーフィルムを前記駆動ローラで搬送することが好ましい。
【0011】
ポリマーフィルムの、前記駆動ローラの上流側における搬送方向での張力と下流側における搬送方向での張力との差が5N/m以上200N/m以下(ただし、これらの値は、前記ポリマーフィルムの幅方向1mあたりの値)であることが好ましく、ポリマーフィルムを駆動ローラにより10m/分以上230m/分以下で搬送することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製膜方法によれば、搬送手段としてのローラでポリマーフィルムがスリップせず、ローラに異物が付着しても、傷やしわのない平滑なポリマーフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の製膜方法は、溶液製膜方法と溶融製膜方法とのいずれをも含む。まず、溶液製膜方法の実施態様について説明する。
【0014】
[原料]
ドープの原料としては、溶液製膜でフィルムを製造することができる公知のポリマー及び溶剤を用いることができる。ポリマーの中でも、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンを好ましく用いることができる。これらのいずれのポリマーであっても、製造設備の構成と製造方法の流れとは基本的に同じであるので、以下、セルロースアシレートフィルムをポリマー成分として用いる場合を例に挙げて説明する。
【0015】
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。これらの中でも、アシル基がアセチル基であるセルローストリアセテートが特に好ましい。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0016】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0017】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましく、0.31〜0.34であることがさらに好ましい。
【0018】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.22〜2.90であることが好ましく、2.40〜2.88であることが特に好ましい。DSBは0.30以上であることが好ましく、0.70以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶剤を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0019】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0020】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0021】
ドープを製造するための溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロホルム,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶剤に溶解して得られるポリマー溶液である。
【0022】
溶剤としては、上記化合物の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、セルロースアシレートの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0023】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶剤としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。また、溶剤は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0024】
ドープには、目的に応じて可塑剤、紫外線吸収剤(UV剤)、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等の公知である各種添加剤を添加させても良い。例えば、可塑剤としては、トリフェニルフォスフェート、ビフェニルジフェニルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤や、ジエチルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、及びポリエステルポリウレタンエラストマー等の公知の各種可塑剤を用いることができる。
【0025】
なお、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0026】
以上の原料を用いて、セルロースアシレート濃度が5重量%〜40重量%であるドープを製造する。セルロースアシレート濃度は15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。また、添加剤の濃度は、固形分全体に対して1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0027】
なお、ドープの製造に関して、原料の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳しく記載されており、これらの記載の内容も本発明に適用することができる。
【0028】
[溶液製膜によるフィルムの製造方法]
図1は溶液製膜設備10を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備10に限定されるものではない。溶液製膜設備10には、セルロースアシレートが溶剤に溶けているドープ11を流延して溶剤を含んだセルロースアシレートフィルム(以降、単にフィルムと称する)12とする流延室13と、フィルム12を搬送しながら乾燥する第1乾燥室16と、第1乾燥室16を出たフィルム12の両側端部を保持してフィルム12を搬送しながら乾燥するテンタ17と、フィルム12の両側端部を切り離す耳切装置18と、フィルム12を搬送しながら乾燥して溶剤がほとんど含まれない状態にまでする第2乾燥室21と、フィルム12を冷却するための冷却室22と、フィルム12の帯電量を減らすための除電装置23と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対26と、フィルム12を巻き取る巻き取り部27とが備えられる。
【0029】
流延室13には、ドープ11を流出する流延ダイ31と、流延支持体としてのバンド32とを備える。流延ダイ31はコートハンガー型のダイが好ましい。ドープ11の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ31の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が流延ダイ31に取り付けられてある。
【0030】
流延ダイ31の幅は特に限定されず、本実施形態では、最終製品となるフィルム12の幅の1.1倍〜2.0倍程度である。さらに、流延ダイ31には、流出するときのビードの厚みを調整するために、流延ダイ31のスリットの隙間を調整する厚み調整ボルト(ヒートボルト)が幅方向に所定の間隔で複数備えられることが好ましい。流延ダイ31のスリットの隙間の大きさとドープの流出量との調節により、乾燥した後のフィルム12の厚みが20〜80μmとなるようにする。
【0031】
バンド32は、周方向に回転するバックアップローラ33に巻き掛けられており、バックアップローラ33の回転により連続走行する。バックアップローラ33には、駆動手段(図示せず)が設けられ、この駆動手段により回転する。バンド32の幅は特に限定されず、本実施形態ではドープ11の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲とされる。バンド32は、周面の平均粗さが0.01μm以下とされており、クロムメッキ処理等を施されてある。
【0032】
バックアップローラ33は、伝熱媒体が通る流路(図示せず)が内部に形成されている。そして、バックアップローラ33には、伝熱媒体循環装置(図示せず)が接続しており、この伝熱媒体循環装置は、伝熱媒体の温度を制御し、前記流路に伝熱媒体を循環供給する。これによりバックアップローラ33の周面温度が制御され、バックアップローラ33に接するバンド32の温度を所定値となるようにする。なお、バンド32の温度は、溶剤の種類、固形成分の種類、ドープ11の濃度等に応じて適宜設定する。
【0033】
流延ダイ31からバンド32にかけては流延ビードが形成され、バンド32の上には流延膜38が形成される。流延ビードの上流側には減圧チャンバ36が備えられる。減圧チャンバ36は、流延ビードの上流側の空気を吸引することにより、流延ビートに関し上流側のエリアを減圧して、流延ビードの様態を安定させる。
【0034】
ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。また、流延ビードを所望の形状に保つために、流延ダイ31のエッジ部に吸引装置(図示せず)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。この吸引風量は、1L/min.〜100L/min.の範囲であることが好ましい。
【0035】
流延室13には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置37と、ドープ11及び流延膜38から蒸発した溶剤を凝縮して回収するための凝縮器(図示せず)とが設けられる。そして、凝縮液化した溶剤を回収するための回収装置(図示せず)が流延室13の外部には設けられてある。回収装置により回収された溶剤は、再生してドープ製造用の溶剤として再利用する。
【0036】
また、流延室13の内部には、不活性ガスを送り出すガス送出部(図示せず)と、流延室13の内部の空気を外部に排出するための排気ダクト(図示無し)とが備えられる。不活性ガスにより内部空気を置換することにより、流延室13の内部における溶媒ガス濃度を20%以下にすることが好ましい。
【0037】
そして、流延室13には、流延膜38をバンド32から剥ぎ取るためにフィルム12を支持する剥ぎ取りローラ45が備えられる。流延膜38は、自己支持性をもつようになるまで乾燥されてから、バンド32から剥ぎ取られる。自己支持性をもつとは、第1乾燥室16における支持及び搬送が可能な程度に湿潤フィルムが乾燥した状態を意味する。
【0038】
流延膜38は、溶媒の含有率(以降、溶媒含有率と称する)が70%にまでに達すると、フィルム12として支持及び搬送が可能となっているが、70%より多くても支持及び搬送が可能である場合もある。この場合には、70%よりも多い溶媒含有率でもフィルム12を第1乾燥室16に導入してよい。流延膜38は、溶媒含有率が徐々に減り、150%以下になってからであって70%未満になる前、すなわち70%以上150%以下の範囲であるときに剥ぎ取ることがより好ましい。これにより、バンド32に流延膜38が剥ぎ残ることがなく、また、第1乾燥室16では駆動ローラ48でフィルム12に傷やしわを発生させずに、150%よりも溶媒含有率が大きい場合よりも良好に搬送することができる。
【0039】
上記溶媒含有率は、乾量基準の値であり、具体的には、サンプリングしたサンプルの重量をx、サンプルを完全に乾燥した後の重量をyとするとき100×{(x−y)/y}算出される値である。
【0040】
なお、バンド32とバックアップローラ33とに代えて、周方向に回転するドラムを流延支持体として用いることもできる。この場合には、流延膜38を冷却することによりゲル化して自己支持性をもたせる。冷却とともに乾燥を実施することにより、流延膜38の剥ぎ取りのタイミングをバンド32とバックアップローラ33とを用いた場合よりも早めることができる。また、ドラムを使用する場合には、流延膜を冷却するとともに乾燥をもすることにより、剥ぎ取りのタイミングをさらに早め、生産効率をさらに向上させることができる。ドラムを流延支持体として用いる場合には、剥ぎ取りのタイミングは、流延膜の溶媒含有率が100〜300%の範囲であるときが好ましい。
【0041】
第1乾燥室16には、乾燥空気を吹き出す送風ダクト46と、フィルム12を搬送するための駆動ローラ48と、フィルム12を支持するためのフリーローラ50とが備えられる。駆動ローラ48の詳細については別の図面を参照しながら説明する。フリーローラ50は、駆動源に接続されておらず、フィルム12との接触により回転することができる。この第1乾燥室16では、フィルム12は、テンタ17における後述の把持が可能な程度にまで乾燥される。把持が可能な程度とは、通常はフィルム12の溶媒含有率が30%以下である。流延室13と第1乾燥室16とは図1に示すように搬送方向に連続して設けられ、流延膜38は剥ぎ取られるとすぐにフィルム12として第1乾燥室16に導入されて乾燥されることが好ましい。この場合には、剥ぎ取り時の溶媒含有率と第1乾燥室16の導入時における溶媒含有率とは同じ値とみなすことができる。
【0042】
第1乾燥室16では、溶媒含有率が10〜30%の範囲となるまでフィルム12を乾燥することがより好ましい。流延膜38は前述の通り溶媒含有率が70%〜150%の範囲のときに剥ぎ取られることが好ましいので、フィルム12は、溶媒含有率が70%から30%に下がる間は第1乾燥室16で乾燥されることが好ましい。そして、バンド32からの剥ぎ取りのタイミングが150%以下であって70%よりも高い範囲のA値であり、また、第1乾燥室16で10%以上30%未満の範囲のB値である場合には、A値からB値に達する間は第1乾燥室16で乾燥することになる。添加剤がフィルム12に含まれている場合には、フィルム12の溶媒含有率がこのように大きく変化する第1乾燥室16では、溶媒とともに添加剤も気化して、駆動ローラ48に付着し固化することが多いが、駆動ローラ48でフィルム12を搬送することにより、スリップすることなく良好に搬送をすることができ、添加剤その他の異物の付着によるスリップがなく、ポリマーフィルムに傷やしわが発生することを防止することができる。そして、駆動ローラ48の表面に付着して固化した添加剤等の異物によりフィルム12に凹凸がつくこともない。
【0043】
なお、第1乾燥室16では、20%にまで溶媒含有率が下がってもさらに乾燥を進めてよく、10〜30%の範囲となるまで乾燥を進めることがより好ましい。溶媒含有率が30%よりも小さくなっても後述の駆動ローラ48でフィルム12を搬送することにより、傷やしわの発生を防止する効果がより高くなる。
【0044】
送風ダクト46からは、フィルム12に直接吹き付けるように空気が出されてもよいし、フィルム12に直接吹き付けるのではなく、フィルム12の周辺の溶剤ガス濃度が飽和しないように第1乾燥室16の内部を循環させるように空気が出されてもよい。
【0045】
フィルム12の温度は、主に、送風ダクト46からの空気により調節する。第1乾燥室16におけるフィルム12の好ましい温度範囲は10℃以上100℃未満である。10℃よりも低いと乾燥効率が悪く、10℃以上の場合と比べて第1乾燥室16の搬送路の長さを長くする必要が生じる。また、100℃以上とすると、溶媒の急速な蒸発によりフィルム12が変形してしまうことがある。
【0046】
フィルム12は溶媒を含んでいるために、温度が変化すると、接触するものとの摩擦力も変化しやすい。しかし、後述の駆動ローラ48を用いることにより、フィルム12の10℃〜100℃未満という幅広い温度範囲で設定しても、スリップすることなく良好に搬送することができ、また、異物が駆動ローラ48に付着しても、フィルム12に傷やしわが発生することがない。したがって、第1乾燥室16の搬送路の上流側から下流側にかけてフィルム12の温度が変化するようにしても、良好に搬送することができるという効果がある。
【0047】
また、第1乾燥室16の内部には、不活性ガスを送り出すガス送出部(図示せず)が備えられる。不活性ガスにより内部空気を置換することにより、第1乾燥室16の内部における溶媒ガス濃度を20%以下にすることが好ましい。
【0048】
第1乾燥室16で搬送されるフィルム12には、ドローテンションが付与されていることが好ましい。これにより、フィルム12のたるみを防止することができる。ドローテンションとは、フィルム12の搬送方向における張力である。第1乾燥室16の搬送路に駆動ローラ48を配した場合には、この駆動ローラ48の回転速度を調整することにより、駆動ローラ48よりも上流側を走行するフィルム12のドローテンションを調整することができる。そして、駆動ローラ48を用いると、たるみを防止する他、傷やしわが発生することなく、駆動ローラ48でスリップせずにより良好に搬送することができる。そして、フィルム12のドローテンションは、10N/m〜300N/mの範囲となるようにすることが好ましく、このようなドローテンションの場合には、従来の例えばサクションローラに比べて、駆動ローラ48はスリップの防止効果やフィルム12の平滑性の向上という効果が特に高い。なお、上記のドローテンションの値は、フィルム12の幅方向1mあたりに付与される力を意味する。したがって、フィルム12の幅がn(0<n、単位;m)である場合には、駆動ローラ48を用いる効果が特に大きい張力の範囲は、n×10(N)〜n×300(N)である。なお、駆動ローラ48は、第1乾燥室16に複数備えられてもよい。
【0049】
テンタ17に送られたフィルム12は、その両端部が保持手段(図示せず)により保持され、保持手段の移動により搬送される。そして、この搬送の間に乾燥される。保持手段としては、フィルム12の側部を把持するクリップや、側部を突き刺して保持する複数のピン等がある。流延支持体としてバンド32を用い、溶剤の一部を蒸発させた後に流延膜38を剥ぎ取る場合には、テンタ17での保持手段はクリップが好ましく、一方、流延支持体としてドラムを用いて溶剤をほとんど蒸発させずに冷却した流延膜を剥ぎ取る場合には、テンタ17での保持手段はピンが好ましい。なお、テンタ17では、フィルム12は、120℃以上180℃以下の温度とされることにより乾燥を進められる。
【0050】
フィルム12は、テンタ17で乾燥された後、その両側端部が耳切装置18により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ51に送られる。クラッシャ51により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用される。
【0051】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム12は、第2乾燥室21に送られて、搬送されながらさらに乾燥される。第2乾燥室21の搬送路にも、第1乾燥室16と同様に、フィルム12の搬送手段としての駆動ローラ48と、フィルム12を支持するフリーローラ50とが備えられる。搬送手段として駆動ローラ48を用いることにより、フィルム12の温度が例えば100℃以上という高温であってもスリップせずに安定して搬送することができ、フィルム12に傷やしわ等がつくことを防止することができる。また、駆動ローラ48により異物をフィルム12に押し付けるということがなく、フィルム12に凹凸を付けることがない。
【0052】
なお、駆動ローラ48は、第2乾燥室21の搬送路に設けられる複数のローラのうち、最も上流側のひとつと、最も下流側のひとつとに用いることが好ましく、これらふたつの間のローラはフリーローラ50とするとよい。しかし、駆動ローラ48とフリーローラ50との配置はこれに限定されない。
【0053】
送風ダクト49からは、フィルム12に直接吹き付けるように空気が出されてもよいし、フィルム12に直接吹き付けるのではなく、フィルム12の周辺の溶剤ガス濃度が飽和しないように第2乾燥室21の内部を循環させるように空気が出されてもよい。
【0054】
フィルム12の温度は、主に、送風ダクト49からの空気により調節する。第2乾燥室21におけるフィルム12の好ましい温度範囲は100℃以上200℃以下であり、より好ましくは100℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは100℃以上160℃以下である。これにより、第2乾燥室21ではフィルム12の溶媒含有率が0.1%以下となるようにフィルム12を乾燥することができる。また、フィルム12の温度が100℃以上であると、サクションローラ等を用いて従来は傷やしわ等が発生していたが、本発明によると傷やしわ等の発生がなく良好に搬送することができる。フィルム12の温度を100℃よりも低くすると乾燥効率が悪く、100℃以上の場合と比べて第2乾燥室21の搬送路の長さを長くする必要が生じる。また、フィルム12の温度を200℃よりも高い以上とすると、フィルム12がやわらかくなって延びてしまい搬送不能になってしまうことがある。
【0055】
第2乾燥室21では、フィルム12を劣化しない範囲でより効率的かつ効果的に乾燥させるために、上記のように高温とされる。フィルム12は、溶媒を含んでいる状態では、接触するものとの摩擦力が温度に大きく依存する。温度が高いほど摩擦力が大きくなるのである。また、フィルム12を高温にするほど、フィルム12に含まれていた添加剤が気化しやすく、駆動ローラ48に付着しやすい。しかし、後述の駆動ローラ48を搬送用の駆動ローラとして用いることにより、溶剤を含むフィルム12の温度を100℃以上という高温に設定しても、添加剤が駆動ローラ48に付着して固化しても、フィルム12は駆動ローラ48でスリップすることなく良好に搬送することができ、フィルム12に傷やしわが発生することがなく、固化した添加剤による凹凸がフィルム12につくこともない。この効果は、フィルム12のポリマー成分がセルローストリアセテート(TAC)であって、フィルム12の温度が略140℃以上200℃以下の範囲であるときには、特に大きい。したがって、第2乾燥室16における搬送でフィルム12に傷やしわがつくことがなくなる。
【0056】
第2乾燥室21で搬送されるフィルム12には、ドローテンションが付与されていることが好ましい。これにより、フィルム12のたるみや変形を防止することができる。第1乾燥室16の搬送路に複数の駆動ローラ48を配した場合には、各駆動ローラ48の回転速度を調整することにより、各駆動ローラ48よりもそれぞれ上流側を走行するフィルム12のドローテンションを調整することができる。そして、駆動ローラ48を用いると、たるみを防止する他、異物等が駆動ローラ48についても傷やしわがフィルム12に発生することなく、駆動ローラ48でスリップせずにより良好に搬送することができる。
【0057】
そして、第2乾燥室21においては、搬送手段の上流側と下流側とにおけるドローテンションの差が5N/m以上200N/m以下となるような場合に、搬送手段として駆動ローラ48を用いる上記効果が特に大きい。このドローテンションの差の値も、フィルム12の幅1m当たりの張力についての値であるので、フィルム12の幅がn(nは正、単位はm)のときには、上記値にそれぞれnを乗ずるとよい。
【0058】
第2乾燥室21におけるドローテンションについて具体例を説明する。例えば、第2乾燥室21の搬送路のローラのうち、最も上流側のひとつと最も下流側のひとつのみを駆動ローラ48とした場合には、前者の回転速度よりも、後者の回転速度の方を大きくすることが好ましい。これにより、上流側の駆動ローラ48よりも上流側におけるドローテンション(上流側ドローテンションと称する)に比べて、上流側の駆動ローラ48と下流側の駆動ローラ48との間におけるドローテンション(下流側ドローテンションと称する)を高くすることができる。そして、これらのドローテンションの差が5N/以上200N/m以下の範囲となるように各駆動ローラの48の回転速度を調整する。なお、ドローテンションの調整は、駆動ローラ48の回転速度のみならず、フリーローラ50の位置を変化させたり、公知のダンサローラ等を用いることによっても実施することができる。
【0059】
乾燥したフィルム12は、冷却室22で略室温にまで冷却することが好ましい。
【0060】
除電装置23は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、フィルム12の帯電圧を所定の範囲にする。帯電圧が−3kV〜+3kVとなるようにフィルム12を除電することが好ましい。なお、除電装置23の位置は、冷却室22の下流側に限定されない。
【0061】
ナーリング付与ローラ対26は、フィルム12の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmとなるようにエンボス加工をすることが好ましい。
【0062】
巻き取り部27の内部には、フィルム12を巻き取るための巻取装置52と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ53とが備えられている。
【0063】
図2において、駆動ローラ48は、ローラ本体48aと、ローラ本体48aの両端部に嵌着された軸部48bとからなり、モータ(図示無し)により周方向に回転する。ローラ本体48aは、フィルム12をその外周面で支持しながら搬送する。なお、ローラ本体48a、軸部48bの材質としては、耐蝕性に優れたもの、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などが材料として用いられる。
【0064】
図3において、ローラ本体48aの周面には、断面略半円形状の谷部60および山部61が周方向に沿って形成されている。谷部60および山部61は、軸方向に関して交互に配置されている。谷部60および山部61は、例えば、バイトを用いた精密旋盤で精度良く加工成形される。
【0065】
谷部60の隣り合う底点60a同士の距離、および山部61の隣り合う頂点61a同士の距離、すなわち、谷部60および山部61のピッチPvおよびPmは、0.01mm以上2mm以下となっている。ピッチPvおよびPmが0.01mm未満であると、旋盤加工が困難となり、もしできたとしても製造コストが掛かって非常に高価になってしまう。また、ピッチPvおよびPmが2mmよりも大きいと、スリップが発生したり、ローラ跡や固化した添加剤等の異物の跡や傷がフィルム12につく。
【0066】
底点60aから頂点61aまでの高さHv−mは、0.01mm以上1mm以下となっている。高さHv−mが0.01mm未満であると、フィルム12との間の空気層を除去する効果がなくなり、スリップしやすくなってしまい傷やしわがフィルム12に発生したり、異物の跡やローラの跡や傷がフィルム12につくことがある。高さHv−mが1mmよりも大きいと、旋盤加工が困難となり、もしできたとしても製造コストが掛かって非常に高価になってしまう。
【0067】
谷部60の断面を形成する円の中心Ovから底点60aまでの距離、および山部61の断面を形成する円の中心Omから頂点61aまでの距離、すなわち、谷部60および山部61の曲率半径RvおよびRmは、0.1mm以上0.5mm以下となっている。曲率半径RvおよびRmが0.1mm未満であると、フィルム12との接触面積が小さくなり、スリップが発生することがある。また、異物の跡や異物による傷がフィルム12についてしまう場合もある。曲率半径RvおよびRmが0.5mmよりも大きいと、高さHv−mが低くなりスリップが発生することがあり、また異物の跡や異物による傷、駆動ローラ48の跡がフィルム12についてしまう場合がある。
【0068】
図4において、山部61の頂点61aの部分には、軸方向に平行な平坦面70が形成されている。平坦面70は、谷部60および山部61を形成した後に、例えば、研磨機で山部61の頂点61aの部分を研磨することにより加工成形される。この平坦面70の軸方向における幅Wfは、0.05mm以上0.5mm以下となっている。幅Wfが0.05mm未満であると、山部61の加工精度によっては研磨することができない部分が生じる。幅Wfが0.5mmよりも大きいと、上記で規定されるピッチで谷部60および山部61を形成することができない。
【0069】
以上説明したように、周方向に沿って周面に交互に形成された、断面略半円形状の谷部60および山部61を有し、谷部60および山部61のピッチPv、Pmが0.01mm以上2mm以下、谷部60の底点60aから山部61の頂点61aまでの高さHv−mが0.01mm以上1mm以下の駆動ローラ48を用いてフィルム12を搬送するので、添加剤の固化物やその他の異物が駆動ローラ48に付着していても、フィルム12との間の空気層が効果的に除去され、フィルム12がスリップしないような摩擦力で駆動ローラ48がフィルム12に接触する。したがって、傷やしわの発生を防止することができる。また、駆動ローラ48や異物の跡がフィルム12につくこともない。
【0070】
山部61の頂点61aの部分に平坦面70を形成し、軸方向における幅Wfを0.05mm以上0.5mm以下とするので、摩擦力をさらに高めることができ、且つ平坦面70によるスジ状の傷が発生することがない。
【0071】
なお、ピッチPvおよびPmは、より好ましくは0.3mm以上0.5mm以下である。また、高さHv−mは、より好ましくは0.02mm以上0.1mm以下である。
【0072】
曲率半径RvおよびRmは、より好ましくは0.2mm以上0.4mm以下である。幅Wfは、より好ましくは0.1mm以上0.3mm以下である。
【0073】
フィルム12の搬送速度が10m/分以上230m/分以下である場合に、駆動ローラ48を用いる効果が特に大きく、40m/分以上230m/分以下である場合にさらに顕著な効果がみられる。
【0074】
また、フィルム12の幅は、より好ましくは1800mm以上2500mm以下である。フィルム12の幅が大きくなるほど、スリップによる傷やしわが発生しやすくなるのが通常ではあるが、駆動ローラ48の使用による効果は、1800mm以上2500mmの範囲の幅のフィルム12でも十分に発揮される。
【0075】
ピッチPvおよびPm、高さHv−m、曲率半径RvおよびRm、幅Wf、湿潤フィルムの幅に関する以上の好ましい各数値範囲では、特に上記の各効果が大きい。
【0076】
なお、フィルム製造設備のフィルム搬送路に配される、駆動源が接続されていないフリーローラに対しても、駆動ローラ48の形状を適用しても、同様の良好な効果が得られる。
【0077】
溶融製膜では、公知の溶融押出機(図示無し)の下流側に駆動ローラ48を備える。溶融押出機は、供給されたポリマーを加熱して溶融するための加熱部と、溶融したポリマーをフィルムの形状で外部へ押し出す押出部とを備え、加熱部には、ポリマーを混合あるいは練るための混練部材が備えられる。本発明においては、溶融押出機としては市販の溶融押出機を用いてよい。溶融押出機から押し出された直後のポリマーフィルムは、略融点という高温であるので、次工程にすぐには供することができない場合が多い。次工程とは、幅方向に張力をかけて延伸する延伸工程や、巻き取り工程等がある。そこで、搬送させながら冷却することが好ましい。冷却は、空気の吹き付けや、冷水との接触等のいわゆる強制冷却の他に、自然に温度が下がるまで搬送のみをするいわゆる自然冷却があり、本発明ではいずれでもよい。
【0078】
次工程までの搬送、あるいは次工程における搬送には、駆動ローラ48を用いることが好ましい。これにより、略融点のポリマーフィルムに対しても、冷却されたポリマーフィルムに対しても傷やしわをつけることなく、ポリマーフィルムを搬送することができるので、得られるポリマーフィルムは平滑性の高いものとなる。また、溶融製膜では、以上のように、ポリマーフィルムの温度が押し出し直後の融点付近あるいは融点以上の温度から製品となる略室温までの間で大きく変化するが、本発明によると、温度変化に関わらず良好に搬送することができ、ポリマーフィルムに傷やしわがつくことがない。
【0079】
以上のように、本発明によると、溶媒が含まれているといないとに関わらず、加熱されて高温となっているフィルムを搬送する場合であっても、搬送手段としてのローラで傷やしわ等が発生することなく、平滑なフィルムが得られる。
【実施例1】
【0080】
駆動ローラ48として、直径300mm、面長1000mmのステンレス製(メッキなし)のローラ本体48aに、軸間距離1500mmとなるように軸部48bを嵌着したものを用意した。ローラ本体48aには、ピッチPv、Pm0.5mm、高さHv−m0.04mm、曲率半径Rv0.4mm、Rm0.4mmとなるように谷部60および山部61を形成した。
【0081】
以下の配合でドープ11をつくった。
セルローストリアセテート(酢化度=60.7%) 100重量部
可塑剤a(トリフェニルフォスフェート(TPP)) 8重量部
可塑剤b(ビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)) 4重量部
マット剤 0.03重量部
溶剤成分1(ジクロロメタン) 594重量部
溶剤成分2(メタノール) 66重量部
【0082】
図1に示す溶液製膜設備10により、上記ドープ11からフィルム12をつくった。第2乾燥室21におけるフィルム12の設定温度が異なる実験1〜実験6を実施した。第2乾燥室21における複数のローラのうち、最も上流側のひとつと最も下流側のひとつとを駆動ローラ48とした。そして、これらふたつの駆動ローラ48の間の搬送路に配される複数のローラはすべてフリーローラとした。
【0083】
上流側の一方の駆動ローラ48よりも上流側におけるドローテンションに比べて、ふたつの駆動ローラ48の間におけるドローテンションの方が10N/m高くなるようにした。このドローテンションの差の値は、表1の「張力差」欄に示す。フィルム12の搬送速度は表1の「搬送速度」欄に示すように70m/分とした。なお、第2乾燥室21以外の搬送路に配した駆動ローラは、すべて駆動ローラ48とした。得られたフィルム12に傷や引きつれしわ、面写りが有るか否かを目視にて評価した。傷やしわ、ローラの跡が確認されなかった場合を「○」、ローラの薄い跡や、わずかな傷やしわが確認された場合を「△」、確認された場合を「×」、ローラの跡や深い傷・しわ等が頻発または連続発生した場合を「××」とした。この評価結果は、表1の「評価結果」欄に示す。
【0084】
直径300mm、面長1000mmのステンレス製(メッキなし)のローラ本体に、軸間距離1500mmとなるように軸部を嵌着したサクションローラを用意した。図5に示すように、このサクションローラ2のローラ本体には、ピッチ2mm、高さ0.5mm、幅1mmの略V字状の溝3を周方向に沿って形成した。また、幅1mm、溝3との境界面の曲率半径0.2mmの平坦面4を形成し、径3mmのサクション穴5を複数個形成した。そして、サクション穴5の中心から、幅1mm、高さ0.5mmの略V字状の横溝6を軸方向に沿って形成した。
【0085】
実験1〜6における第2乾燥室21の駆動ローラ48をサクションローラ2に代え、比較実験1〜6を実施した。なお、第2乾燥室21以外の搬送路に配した駆動ローラは、すべて駆動ローラ48とした。その他の条件と評価方法とは実験1〜6とそれぞれ同じである。
【0086】
【表1】

【実施例2】
【0087】
第2乾燥室21におけるフィルム12の温度を100℃とし、張力差を表2に示すように変化させた実験1〜5を実施した。他の条件及び評価方法は実施例1と同じである。結果は表2に示す。
【0088】
実験1〜5における第2乾燥室21の駆動ローラ48をサクションローラ2に代え、比較実験1〜5と同様に比較実験1〜5を実施した。結果は表2に示す。
【0089】
【表2】

【実施例3】
【0090】
第2乾燥室21におけるフィルム12の温度を100℃とし、搬送速度を表3に示すように変化させた実験1〜3を実施した。他の条件及び評価方法は実施例1と同じである。結果は表3に示す。
【0091】
実験1〜3における第2乾燥室21の駆動ローラ48をサクションローラ2に代え、比較実験1〜3を実施した。結果は表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
実施例1の実験1〜実験6、実施例2の実験1〜5、実施例3の実験1〜実験3では、フィルム12及びフィルム12が駆動ローラ上でスリップすることはなかった。なお、実施例1の実験4〜6と比較実験4〜6とからは、サクションローラでは傷・しわ・ローラ跡を付けることなく搬送することができなかったフィルム温度範囲でも、本発明によるとこれらの問題が発生することなく良好に搬送することができることがわかる。また、谷部及び山部におけるローラの跡はフィルムには発生しなかった。そして、フィルム12には傷やしわがなく、駆動ローラに付着した異物による傷もなかった。これに対して実施例1〜3の各比較実験では、温度、搬送方向における張力、搬送速度がそれぞれ高くなるほど、スリップが発生しやすくなり、傷、しわが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】ウエブ案内ローラを備える溶液製膜設備の概略図である。
【図2】ウエブ案内ローラの構成を示す斜視図である。
【図3】ウエブ案内ローラの表面形状を示す拡大部分断面図である。
【図4】ウエブ案内ローラの表面形状を更に拡大して示す拡大部分断面図である。
【図5】比較例としてのサクションローラの形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0095】
10 溶液製膜設備
11 ドープ
21 第2乾燥室
32 バンド
48 駆動ローラ
60 谷部
60a 底点
61 山部
61a 頂点
70 平坦面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーの溶融及び押し出しと、ポリマー溶液の流延及び乾燥とのいずれか一方によりポリマーフィルムを製造する製膜方法において、
押し出されたポリマーフィルム、または、流延されて形成されたポリマーフィルムの搬送手段として、周方向に沿って周面に交互に形成された断面略半円形状の谷部及び山部を有し、前記谷部及び前記山部のピッチが0.01mm以上2mm以下、前記谷部の底点から前記山部の頂点までの高さが0.01mm以上1mm以下である駆動ローラを用いることを特徴とする製膜方法。
【請求項2】
前記谷部および前記山部の曲率半径が0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の製膜方法。
【請求項3】
前記山部の頂点部分に、軸方向に平行な平坦面を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の製膜方法。
【請求項4】
前記平坦面の軸方向における幅が0.05mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の製膜方法。
【請求項5】
温度が100℃以上200℃以下である前記ポリマーフィルムを前記駆動ローラで搬送することを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の製膜方法。
【請求項6】
前記ポリマーフィルムの、前記駆動ローラの上流側における搬送方向での張力と下流側における搬送方向での張力との差が5N/m以上200N/m以下(ただし、これらの値は、前記ポリマーフィルムの幅方向1mあたりの値)であることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の製膜方法。
【請求項7】
前記ポリマーフィルムを前記駆動ローラにより10m/分以上230m/分以下の速度で搬送することを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−160804(P2009−160804A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65(P2008−65)
【出願日】平成20年1月4日(2008.1.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】