説明

製鋼スラグの処理方法

【課題】製鋼工程の精錬処理時に発生する製鋼スラグの処理方法において,スラグの溶融状態を維持しながら製鋼スラグの改質還元処理を行うことで,遊離CaOや気泡をほとんど含まない高品質のスラグを得るとともに製鋼スラグの外観を改善し,かつ,製鋼スラグ中の有価成分を十分に回収する。
【解決手段】溶融製鋼スラグを溶銑が保持された反応容器に装入し,反応容器に装入された溶融製鋼スラグにSiO含有改質材および還元用炭素源を添加し,製鋼スラグの溶融状態を維持したまま製鋼スラグの改質処理および還元処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,製鋼スラグの処理方法に関し,特に,製鋼工程の精錬処理時に発生する製鋼スラグを溶融状態で改質処理および還元処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑予備処理および脱炭処理等の製鋼工程の精錬処理により生成される製鋼スラグは,遊離CaO(f・CaO)を含み,この遊離CaOの水和反応により体積が膨張し,多くの微小な亀裂や開気孔を発生する場合がある。このような遊離CaOを多く含む製鋼スラグは体積安定性が低い。また,溶融状態の製鋼スラグは気泡(主としてCOガス)を多く含んでいる。このような気泡を含む溶融製鋼スラグを冷却すると気泡を含んだ状態で凝固してしまうため,すり減り減量が高い低品質のものとなる。
【0003】
そのため,製鋼スラグは,土木工事用の仮設材,道路の地盤改良材,下層路盤材等の低級用途に専ら使用され,より高級用途である上層路盤材,コンクリート用骨材,石材原料等には用いられにくい。
【0004】
これに対して,製鋼スラグを,上層路盤材,コンクリート用骨材,石材原料等の用途に有効利用すべく,従来から,製鋼スラグの高品質化を図り商品価値を高めるために,製鋼スラグ中の遊離CaOを低減させたり,溶融製鋼スラグ中の気泡を低減させたりすることが行われている。
【0005】
例えば,非特許文献1には,転炉から排出された脱炭スラグを溶融状態のまま改質する方法が記載されている。この方法は,溶融スラグ中に酸素とSiO含有改質材を浸漬ランスを通じて吹き込み,スラグ中のFeOをFeに酸化させて,その際の反応熱で昇熱し,溶融状態を維持しながら改質材によってスラグの塩基度(CaO/SiO)を低減し,未滓化石灰を体積安定性のある化合物(2CaO・SiO)に変化させるものである。
【0006】
また,例えば,特許文献1には,製鋼スラグにSiO含有改質材,炭素含有還元材および鉄スクラップを混合し,酸素ガス含有気体を供給しつつ,還元性雰囲気に維持しながら加熱溶解する方法が記載されている。このとき,製鋼スラグとしては溶融状態のスラグを使用してもよい。
【0007】
【非特許文献1】M.Kuehn, et al., 2nd European Steelmaking Congress, Taranto(1997年)p445〜453
【特許文献1】特開平6−115984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら,非特許文献1に記載の方法では,スラグを還元しないので改質処理後のスラグ中のFeOを低減できずトータル鉄(以下,「T・Fe」と記載する場合もある。)の含有率は高いままである。そのため,(1)スラグ中の酸化鉄とスラグ中の粒鉄に含まれるCとが反応してCOガスの気泡が発生し,スラグ中に気泡が残存するため,冷却後スラグを利材化する際の欠陥となる,(2)T・Feが多く黒色を呈しているだけでなく,スラグ中の粒鉄が錆びて赤褐色になるため,外観の点から用途が限定される,(3)スラグに含まれるリンやマンガン等の有価成分の回収もできない,という問題があった。また,スラグ中に浸漬したランスからガスを吹き込んで溶融状態のスラグを撹拌するので,スラグ中の粒鉄の沈降が妨げられ,粒鉄の回収がし難いという問題もあった。
【0009】
一方,特許文献1に記載の方法ではスラグの還元処理は行われるが,製鋼スラグを加熱するための熱源が,コークス,石炭等の炭素含有還元剤の燃焼熱だけでは,たとえ溶融状態または半凝固状態の熱量を保有する製鋼スラグを使用したとしても,改質還元処理中にスラグ温度を溶融温度以上に維持するのは困難である。また,還元反応はスラグ/メタル界面で行われるが,メタル源として使用される鉄スクラップの溶解量は限られているため,スラグ/メタル界面積が少なく,還元反応速度が遅いという問題があった。さらに,メタルは,リンやマンガン等の有価成分の回収先ともなり得るが,上述のように鉄スクラップの溶解量は限られているため,メタル中の有価成分の濃度が早期に飽和し,有価成分の回収量が少ないという問題もあった。加えて,特許文献1に記載の方法では,鉄スクラップを混合するため,鉄スクラップの溶解に多量の熱と時間を必要とするという問題もあった。
【0010】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,製鋼工程の精錬処理時に発生する製鋼スラグの処理方法において,スラグの溶融状態を維持しながら製鋼スラグの改質還元処理を行うことで,遊離CaOや気泡をほとんど含まない高品質のスラグを得るとともに製鋼スラグの外観を改善し,かつ,製鋼スラグ中の有価成分を回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは,上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果,種湯として溶銑を保持した容器に溶融状態の製鋼スラグを装入し,スラグの溶融状態を維持したまま改質処理および還元処理を行うことにより,遊離CaOの滓化や還元反応を促進でき,これにより,遊離CaOや気泡をほとんど含まない高品質のスラグを得るとともに製鋼スラグの外観を改善し,かつ,製鋼スラグ中の鉄,リン,マンガン等の有価成分を高効率で回収できることを見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち,本発明の要旨とするところは,以下のとおりである。
(1)溶融製鋼スラグを溶銑が保持された反応容器に装入し,前記反応容器に装入された溶融製鋼スラグにSiO含有改質材および還元用炭素源を添加し,前記製鋼スラグの溶融状態を維持したまま前記製鋼スラグの改質処理および還元処理を行うことを特徴とする,製鋼スラグの処理方法。
(2)前記改質処理および前記還元処理中の前記製鋼スラグの温度を,溶融温度より10℃以上高い温度に維持することを特徴とする,(1)に記載の製鋼スラグの処理方法。
(3)前記製鋼スラグにSiO含有物質を添加し,前記製鋼スラグ中のCaOとSiOとの質量比である塩基度CaO/SiOを1.9以下とすることを特徴とする,(1)または(2)に記載の製鋼スラグの処理方法。
(4)前記製鋼スラグの溶融温度を1300℃以下にすることを特徴とする,(1)〜(3)のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
(5)前記製鋼スラグにSiO,AlおよびMgOのうちの少なくともいずれか1種を含有する物質を添加することで,前記製鋼スラグの溶融温度を1300℃以下にすることを特徴とする,(4)に記載の製鋼スラグの処理方法。
(6)前記還元処理により前記製鋼スラグ中のトータル鉄の含有率を1.5質量%以下とすることを特徴とする,(1)〜(5)のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
(7)前記還元処理により前記製鋼スラグ中に含まれる酸化リンを還元し,溶銑中にリンを回収することを特徴とする,(1)〜(6)のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
(8)前記還元用炭素源は,炭素質廃棄物であることを特徴とする,(1)〜(7)のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
(9)前記SiO含有改質材は,Alをさらに含有することを特徴とする,(1)〜(8)のいずれに記載の製鋼スラグの処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,製鋼工程の精錬処理時に発生する製鋼スラグの処理方法において,スラグの溶融状態を維持しながら製鋼スラグの改質還元処理を行うことで,遊離CaOや気泡をほとんど含まない高品質のスラグを得るとともに製鋼スラグの外観を改善し,かつ,製鋼スラグ中の有価成分を十分に回収することが可能である。したがって,本発明によれば,得られたスラグを,上層路盤材,コンクリート用骨材,石材原料等の高級用途に使用することができるだけでなく,鉄,リン,マンガン等の有価成分の酸化物を高濃度に含むスラグを生成することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明の製鋼スラグの処理方法は,上述したように,溶融製鋼スラグを溶銑が保持された反応容器に装入し,反応容器に装入された溶融製鋼スラグにSiO含有改質材および還元用炭素源を添加し,製鋼スラグの溶融状態を維持したまま製鋼スラグの改質処理および還元処理を行うものである。以下,各構成要素について詳細に説明する。
【0016】
(製鋼スラグの種類)
本発明は製鋼スラグを改質処理の対象としており,改質対象の製鋼スラグとしては,特に限定されるものではなく,例えば,脱炭スラグ,溶銑予備処理スラグ,電気炉スラグ等を使用することができる。
【0017】
本発明では,溶融状態の製鋼スラグを使用して,溶融状態を維持しながら改質処理および還元処理を行う。このように溶融状態で処理を行うのは,遊離CaOの低減を促進するためおよびスラグの還元反応を促進するためには,溶融状態であることが必要だからである。以下,この点についてより詳細に説明する。
【0018】
(製鋼スラグの改質処理)
溶融状態の製鋼スラグにSiO含有改質材を添加して改質処理を行うことにより,製鋼スラグ中の未反応の遊離CaOを滓化させ,滓化した遊離CaOとSiO等との反応により遊離CaOを低減させることができる。したがって,遊離CaOの水和反応(Ca+2HO→Ca(OH)+H)による体積膨張を防止することができる。ここで,溶融状態で改質処理を行うのは,溶融温度未満で改質処理を行った場合には,処理前に未滓化のスラグが固相として残存し,固相として高融点の析出相が残存する場合があるため,SiOとの反応が十分に進行せず,安定して遊離CaOを減少させることができないためである。
【0019】
このように,スラグの溶融温度以上で処理することにより,製鋼スラグ中の遊離CaOと改質材中のSiOとの反応が促進される。すなわち,製鋼スラグ中の遊離CaOを低減するためには,スラグの処理温度が重要であり,本発明者らが行った検討によれば,改質処理中の製鋼スラグの温度を,スラグの溶融温度より10℃以上高い温度に維持することが好ましい。処理温度が高いほど,遊離CaOと改質材中のSiOとの反応が促進されるが,スラグの溶融温度より100℃以上の高温で処理しても,昇温のために必要なエネルギー増加に比べ,反応効率はそれほど増加しない。そのため,改質処理中の製鋼スラグ温度は10℃以上100℃未満の範囲でスラグの溶融温度より高いことが好ましい。
【0020】
ここで,図1に基づいて,スラグの溶融温度の測定方法について説明する。なお,図1は,スラグの溶融温度の測定方法の一例を示す説明図である。
【0021】
スラグの溶融温度は,例えば,以下のようにして測定することができる。すなわち,図1に示すように,耐火物の支持台の上に白金箔を載せ,その上に2〜3gのスラグを微粉砕し,プレスにて所定の直径(例えば,直径1cm)の円柱状に成形した後,一定の昇温速度で昇温し,スラグが溶融し,液滴高さが1/2になった時点の温度を測定し求めることができる。この方法で測定したスラグの溶融温度では試料が液滴となっており,均一な液体状態となっており,未溶解状態の固相もしくは,固相として析出する析出相は見られず,均一な溶融状態となっている。
【0022】
以下,図2に基づいて,改質処理中のスラグの処理温度についての検討結果について説明する。なお,図2は,スラグの処理温度と,改質処理後の遊離CaOの含有量(質量%)との関係の具体例を示すグラフである。図2では,スラグ処理温度の指標として,スラグ組成で定まるスラグ溶融温度(測定方法については後述する。)と実際の処理温度との差である過熱度ΔT(℃)で示した。所定の温度に5分以上保持し,平衡状態に達した段階のスラグを分析した。
【0023】
本検討では,塩基度(CaO/SiO)が0.8,1.9および3.0の3水準の塩基度の製鋼スラグを使用して検討したが,図2に示すように,いずれの塩基度の場合もΔTが高いほど遊離CaOが低下するということがわかった。例えば,ΔTが10℃以上であれば,CaO/SiO=3.0の場合でも遊離CaOを2.7質量%以下に低減することができる。遊離CaOが2.7質量%以下であれば,改質処理後にスラグが膨張しても水浸膨張比1.5%以下を達成でき,様々な用途に適用可能となる。さらに,CaO/SiO=1.9以下の場合には,ΔTが10℃以上であれば,遊離CaOは0.7質量%以下となり,水浸膨張比0.7%以下を達成できるので,より高級な用途である上層路盤材,コンクリート骨材等にも適用できるようになる。なお,製鋼スラグをその溶融温度より高温で処理することで,スラグの還元反応も促進される。還元反応は吸熱反応であるので,溶融温度近傍の温度で処理すると安定した溶融状態を維持することができない。したがって,スラグの還元反応を安定して促進するためにも溶融温度より高い温度で処理することが有効である。また,改質還元処理中のスラグの温度を溶融温度より10℃以上高い温度とすると,スラグの粘性が急激に低下し,スラグを撹拌しやすくなるという利点もある。以上の点から,本発明では,改質還元処理中の製鋼スラグの温度をスラグの溶融温度より10℃以上高温で維持することが好ましい。一方,スラグの溶融温度より100℃以上の高温で処理しても,昇温のために必要なエネルギー増加に比べ,反応効率はそれほど増加しない。そのため,改質処理中の製鋼スラグ温度は10℃以上100℃未満の範囲でスラグの溶融温度より高いことが好ましい。
【0024】
また,溶融状態の製鋼スラグにSiO含有物質を添加し,製鋼スラグ中のCaOとSiOとの質量比である塩基度CaO/SiOを1.9以下とすることが好ましい。上述した図2によれば,CaO/SiO≦1.9の場合に,著しく遊離CaOが低減され,ΔTが10℃以上で処理すると,遊離CaOを0.7質量%以下に低減できる。改質処理前の製鋼スラグの塩基度CaO/SiOが1.9を超える場合でも,SiO含有物質を添加して塩基度CaO/SiOを1.9以下に制御することで,遊離CaOとSiOとの反応を促進し,遊離CaOを効率的に低減することが可能となる。一方,塩基度CaO/SiOが0.8未満ではスラグの粘度が上昇するため,遊離CaOと改質材中のSiOの反応速度が低減するため効率的に改質できない。そのため,塩基度CaO/SiOを0.8以上1.9以下に制御することが好ましい。
【0025】
(製鋼スラグの還元処理)
本発明では,溶融状態で製鋼スラグの還元処理を行うことにより,第1に,製鋼スラグ中のトータル鉄を低減し,COガスを主とする気泡の発生を防止することができる。このCOガスの気泡は,転炉などから排出された直後の溶融スラグ中には粒鉄が懸濁しており,この懸濁粒鉄の表面に付着した炭素と溶融スラグ中の酸化鉄とが反応することにより発生する。そこで,溶融スラグ中の酸化鉄を還元して酸素源である酸化鉄の量を低減させることにより,COガスの発生を防止することができる。
【0026】
本発明ではまた,溶融状態で製鋼スラグの還元処理を行うことにより,第2に,製鋼スラグ中のトータル鉄(T・Fe)を低減させることで,スラグを白色化または透明化して外観を改善し,スラグの高付加価値化を図ることができる。スラグは,T・Feが多い場合は黒色を呈しているが,スラグ中のFeOやFeを還元してT・Feを低減させると,還元処理後のスラグを脱色させて白色または透明に近づけることができる。このようにT・Feが多く黒色を呈している製鋼スラグを白色化または透明化して,コンクリート骨材としてセメントとともに混合すること等ができれば,還元処理後の製鋼スラグの用途を著しく拡げることができる。そのためには,セメントと同等またはセメントよりも白色化することが必要となる。セメントよりも黒色の強いスラグを骨材として混合した場合,コンクリート内に黒色の点として現れ,外観を損ねることになるからである。
【0027】
具体的には,還元処理により製鋼スラグ中のトータル鉄の含有率を1.5質量%以下とすることが好ましい。この理由は,本発明者らが行った以下の実験により説明できる。以下,図3に基づいて,T・Feの含有率とスラグの白色度との関係について検討した実験の結果について説明する。なお,図3は,T・Fe(質量%)と白色度の評価の一例との関係を示すグラフである。
【0028】
本実験では,製鋼スラグの色と,最も一般的に用いられている普通ポルトランドセメントおよび白色セメントの色とを目視により比較することにより,望ましい白色度を有するためのT・Feの範囲を明らかにした。評価基準は,白色セメントと同等の白色度を有するものを◎,普通ポルトランドセメントと同等の白色度を有するか,普通ポルトランドセメントよりも白色のものを○,普通ポルトランドセメントよりも黒色のものを×とした。なお,比較に用いたセメントの成分範囲を下記表Aに示す。
【0029】
【表1】

【0030】
上記実験の結果,図3に示すように,スラグ中のT・Feが1.5質量%以下の場合に白色度の評価が○か◎(すなわち,スラグの白色度が普通ポルトランドセメントと同等以上)であることがわかった。したがって,T・Feが1.5質量%以下であれば,普通ポルトランドセメントに骨材として混合してもセメントの外観を損ねることはない。さらに,図3に示すように,T・Feが0.5質量%の場合には,白色度の評価が◎であるということがわかった。したがって,T・Feを0.5質量%以下まで低減すれば,白色セメントの白色度に匹敵し,白色セメントの骨材として使用することができるので,還元処理により製鋼スラグ中のT・Feを0.5質量%以下とすることが特に好ましい。以上の理由から,本発明では,製鋼スラグ中のT・Feを1.5質量%以下まで低下させることで,スラグの外観を改善することとした。一方,製鋼スラグ中のT・Feを0.1質量%未満に低減するためには長時間の処理が必要であり効率的ではないので,0.1質量%以上とすることが好ましい。
【0031】
本発明ではまた,溶融状態で製鋼スラグの還元処理を行うことにより,第3に,製鋼スラグ中の鉄,リン,マンガン等の有価成分を回収することができる。製鋼スラグ中には,CaO,SiOの他に,鉄,リン,マンガン等の有価成分が酸化物(FeO,MnO,P等)の形で多く含有されている。これらの有価成分の酸化物を,製鋼スラグ中に還元用の炭素源を添加することにより還元し,鉄,リン,マンガン等の有価成分を種湯として用いている溶銑に回収することができる。
【0032】
特に,リンは,肥料原料等として用いられるため重要である。そこで,製鋼スラグの還元処理により特に製鋼スラグ中に含まれる酸化リンを還元し,溶銑中にリンを回収してリン濃度を高めることを目的として,本発明を用いることができる。なお,一般に,リンは鉄のもろさの原因となるため,通常は脱リン処理により溶銑中から取り除かれるが,本発明は,リンを一時的に種湯溶銑中に濃化させておき,その後高濃度のリンを含む溶銑を脱リンし,得られたスラグ中に高濃度の酸化リン(P)として回収し,肥料原料等として資源化する目的で用いられる。
【0033】
また,例えば,同一の種湯溶銑を用いて本発明の還元処理を繰り返して行い,溶銑中のリン濃度を高めた後に脱リンを行うことにより,高濃度の酸化リンを含む脱リンスラグを生成することが可能である。このような脱リンスラグは,少量のスラグからリンを高効率で回収できる高品位のリン資源となる。
【0034】
(種湯溶銑の役割)
また,本発明では,溶融状態の製鋼スラグを種湯としての溶銑が保持された反応容器に装入することで,第1に,製鋼スラグの改質還元反応の際,溶融状態の製鋼スラグの顕熱だけでなく,種湯溶銑の顕熱を利用でき,吸熱反応である還元反応中もスラグの溶融状態を維持することができる。その結果,上述したように,スラグ中の遊離CaOの低減を促進し,スラグの還元速度を維持し,かつ,COの脱泡速度を維持することもできる。ここで,溶銑が有する顕熱を利用することにより,還元反応(吸熱反応)中もスラグの溶融状態を維持するという観点からは,種湯溶銑の質量は,製鋼スラグの質量の1/4以上であることが好ましく,製鋼スラグと同質量以上であることがさらに好ましく,製鋼スラグの質量の1.5倍以上であることが最も好ましい。製鋼スラグの質量に対し,溶銑の質量が1/4未満である場合には,還元反応中にスラグの温度低下を招き,スラグの溶融状態を維持することが困難となるため好ましくない。
【0035】
第2に,還元反応のサイトとして溶銑/スラグ界面を利用することができる。製鋼スラグの還元反応は,スラグ/還元用炭素源界面よりも,主に溶銑/スラグ界面で進行する。言い換えると,還元反応速度はスラグ/還元用炭素源界面よりも,溶銑/スラグ界面で大きいので,溶銑を保持した容器内に製鋼スラグを装入することにより,溶銑/スラグ界面を還元反応サイトとして利用して,製鋼スラグの還元反応速度を大きくする(還元反応を促進する)ことができる。ここで,還元反応サイトとして溶銑/スラグ界面を利用した場合に,還元反応速度を最大化するために,還元反応界面積を最大化する観点からは,種湯として用いる溶銑の量は,少なくとも反応容器の底面全体を覆う量であることが好ましい。
【0036】
第3に,製鋼スラグ中の有価成分(鉄,リン,マンガン等)を種湯として用いた溶銑中に高効率で回収することができる。製鋼スラグ中のリンやマンガン等の有価成分の酸化物は,還元されて種湯溶銑中に移行する。種湯溶銑は,上述したように,還元反応界面積を最大化する観点から,少なくとも反応容器の底面全体を覆うために,反応容器内に多量に保持されている。したがって,製鋼スラグ中のリンやマンガン等の有価成分は,量の多い種湯溶銑に移行しても,種湯溶銑中の有価成分の濃度は低い状態であるので,製鋼スラグからの有価成分の移行速度,言い換えると,製鋼スラグ中の有価成分の酸化物の還元速度を,有価成分濃度が飽和に達するまで維持することができる。一方,種湯溶銑が少量である場合には,リンやマンガン等の有価成分の濃度がすぐに飽和に達してしまい,有価成分の酸化物の還元速度は低下してしまう。
【0037】
なお,上述したように,種湯溶銑を再利用して,製鋼スラグの還元反応を同一の種湯が保持された反応容器で繰り返すことにより溶銑中のリン濃度を高めた後に脱リンを行うと,従来よりも高濃度のリン酸を含む高リン酸スラグとして高効率で回収することができる。
【0038】
(スラグの溶融温度の制御)
また,本発明の製鋼スラグの処理方法を実施する際には,製鋼スラグの組成を制御することにより,スラグの溶融温度を1300℃以下にすることが好ましい。このように,スラグの溶融温度を1300℃以下の比較的低温にすることにより,スラグの流動性を良化させて,製鋼スラグの還元速度をさらに大きくすることができる。
【0039】
より詳しく説明すると,本発明では,遊離CaOの低減に加えて,製鋼スラグ中の酸化鉄,酸化リン,酸化マンガン等の還元処理を行うことも目的としているが,処理中のスラグの粘度が低く流動性が高いものほど,スラグ/還元用炭素源界面における物質移動が促進されるため,スラグの還元速度が早くなる。製鋼スラグの処理設備を安定稼動させるためには,同一の処理温度をできるだけ維持することが好ましいが,同一の処理温度であれば,溶融温度が低くなる組成のスラグであるほどスラグの粘度は低くなる。これは,処理温度が同一で,溶融温度が低いスラグの場合には,スラグ溶融温度と実際の処理温度との差である過熱度ΔT(℃)が大きくなるためである。本発明者らの実験によると,スラグ装入直後に還元反応が急激に進み,1320℃弱に処理温度が低下する場合があった。そこで,本発明では,スラグの粘度を低下させてスラグの流動性を高めるために,10℃以上のΔTを確保すべく,還元処理前のスラグ組成に応じてスラグ組成を制御し,この組成で定まるスラグの溶融温度を1300℃以下にして流動性を良化させて還元反応の速度を大きくすることが好ましい。一方,スラグの溶融温度が低下し過ぎると,流動性が高くなり過ぎる等の理由により炉壁の耐火物溶損が激しくなるので,スラグの溶融温度は1100℃以上であることが好ましい。
【0040】
具体的には,スラグの溶融温度を制御するために,製鋼スラグ中に,SiO,AlおよびMgOのうちの少なくともいずれか1種を含有する溶融温度を低下させる物質を添加することで,製鋼スラグの溶融温度を1300℃以下にすることができる。本発明者らが測定した例を示す。下表のスラグNo.1の組成をベースに,SiO,Al,MgOをそれぞれ5%高めた場合のスラグの溶融温度の測定結果を示す。
【0041】
【表2】

【0042】
なお,本実施形態におけるスラグ成分(組成)の分析方法には,例えば,蛍光X線分析(JIS K 0119)を,遊離CaOの分析にはエチレングリコール抽出法ICP発光分光分析を用いることが出来る。遊離CaOの分析において同時に遊離CaOを抽出する方法としてTBP(トリブロムフェノール)法等があり,抽出が正しく出来ればいずれの方法を用いても良い。
【0043】
(加熱手段)
本発明では,改質処理および還元処理を行う際に同一の処理温度を維持するために,加熱用バーナー等による加熱,または,燃焼用炭材を供給しながらランス等により酸素を吹き込むことによる加熱を行うことが好ましい。加熱用バーナーの燃料としては,例えば,重油,LPGなどを使用することができる。また,加熱用バーナーの代わりに,燃焼用炭材を供給しながら,酸素を吹き込むことにより炭材を燃焼させた燃焼熱により加熱してもよい。燃焼用炭材は,上述した還元用炭素源と同一の形態でも異なる形態でもよい。またく,燃焼用炭材と還元用炭素源とは,その双方を同一の加熱手段,例えば,粉体溶射バーナーから供給してもよく,異なる加熱手段から,例えば,燃焼用炭材は粉体溶射バーナーから供給し,還元用炭素源は粉体溶射バーナーとは別のスラグ上面側に設置したパイプから供給してもよい。
【0044】
(ガス撹拌によるスラグの均熱化)
また,改質還元処理の際,上述したような加熱はスラグ上面側から行われるため,スラグ上面側では改質反応や還元反応が十分に進む一方で,スラグ下面側(溶銑側)ではスラグ上面側からの加熱の効果が及びにくいため,改質反応や還元反応が十分に進まないことがある。そこで,改質還元処理中の製鋼スラグを均熱化するため,製鋼スラグ中に上吹きランス等からガスの吹込みを行って,処理中のスラグを撹拌するようにしてもよい。このような撹拌に使用するガス種としては,例えば,アルゴンなどの不活性ガスを使用することができるが,スラグに燃焼用炭材が供給される場合には,撹拌用ガスとしてOを含むガスを使用することにより,撹拌用のO含有ガスが燃焼用炭材を燃焼させることができるため,スラグ撹拌と同時にスラグ温度の維持を効率的に行うことができる。
【0045】
(還元用炭素源および燃焼用炭材)
本発明において,上述した還元用炭素源や燃焼用炭素源としては,例えば,廃プラスチック,バイオマス,パルプ屑等の炭素質廃棄物を使用することができる。かかる炭素質廃棄物は,還元用炭素源または燃焼用炭素源のいずれか一方として使用してもよく,還元用炭素源および燃焼用炭素源の双方に使用してもよい。
【0046】
(SiO含有改質材)
また,本発明の改質処理で使用するSiO含有改質材として,Alをさらに含有する改質材を使用してもよい。SiOのほかAlをスラグに添加することにより,スラグの溶融温度を更に低下させることが出来る。このような改質材としては,例えば,石炭灰などがある。
【実施例】
【0047】
以下に,実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし,本発明は,下記実施例にのみ限定されるものではない。なお,下記の実施例は,上記実施形態に基づいて,溶融製鋼スラグを処理して,処理後のスラグおよび溶銑の成分を評価したものである。
【0048】
(実施例1)
溶銑予備処理スラグ20トンを溶融状態のまま(スラグの溶融温度は,1320℃であった),種湯溶銑5.1トンを保持するスラグ処理炉に装入した。搬送台車でスラグ処理位置に移送後,加熱用バーナーを下降させてスラグ上面上に照射した。このバーナーは粉体溶射型のものであり,バーナーの燃料としては重油を使用した。SiO含有改質材としては石炭灰を0.2トンずつ10回,還元用炭素源としてはコークスを0.1トンずつ10回で,それぞれ3分間隔でバーナーの粉体溶射位置から分割添加し,溶融改質還元処理を行った。処理温度は1330℃〜1380℃で行い,処理中のスラグは常に溶融状態を維持した。処理時間は,石炭灰とコークスの10回の分割添加の前後を含めて合計45分であった。なお,途中でスラグ中温度を均一化するため,バーナーによる加熱と並行してスラグ中にガス吹込み用パイプを浸漬させてArガスを吹き込みながらスラグの撹拌を行った。撹拌後は,ガス吹込み用パイプを引き上げた。改質還元処理後のスラグは,処理後スラグ用鍋に排出し,スラグ処理炉には種湯溶銑を残した。
【0049】
改質還元処理前および処理後のスラグ,使用した石炭灰およびコークスの成分を下記表3〜5にそれぞれ示す。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
上記表3に示すように,溶融改質処理後のスラグは,体積膨張の原因となる遊離CaO(f・CaO)が1質量%未満に低減できており,上層路盤材等の高級用途に利材化しても問題ない水準にまで改質された。
【0054】
また,還元処理後のスラグ中のトータル鉄(T・Fe)は0.5質量%未満まで低減された結果,冷却後のスラグは白色化された外観が改善され,普通ポルトランドセメント,ならびに白色セメントに混合しても外観上の違和感は見られなかった。
【0055】
また,処理後のスラグにおいては,MnOやPのような有価成分の酸化物も還元されてスラグ中の濃度が低減し,種湯溶銑に有価成分(マンガン,リン)として回収された。この結果,下記表6に示すように,種湯溶銑中のマンガンやリンの濃度は上昇した。
【0056】
【表6】

【0057】
さらに,同一の種湯溶銑を用いて,上記の溶融改質還元処理を10回繰り返して行い,スラグ中の有価成分(マンガン,リン)を溶銑中に回収した結果,種湯溶銑中のマンガンおよびリンの濃度を下記表1−5に示す濃度にまで高めることができた。1回あたりの溶融改質還元処理時間は35分から55分であった。この後,脱リンを行い,脱リンスラグ中にPとして高濃度のリン成分を効率的に回収できた。
【0058】
【表7】

【0059】
(実施例2)
溶銑予備処理スラグ20トンを溶融状態のまま(スラグの溶融温度は,1300℃であった),種湯溶銑200トンを保持するスラグ処理炉に装入した。搬送台車でスラグ処理位置に移送後,酸素ランスを下降させてスラグ上面上に照射した。燃焼用炭材,還元用炭素源,改質材は,酸素ランスと別に設置したそれぞれの供給用のパイプからスラグ面上に供給した。燃焼用炭材としてはコークス,還元用炭素源としては廃プラスチック,改質材として石炭灰を使用し,それぞれ1回当たり0.4トン,0.3トン,0.2トンを10回,5分間隔で分割添加し,溶融改質還元処理を行った。処理温度は1310℃〜1400℃で行い,処理中のスラグは常に溶融状態を維持した。処理時間は,コークス,廃プラスチック,石炭灰の10回の分割添加の前後を含めて合計で60分であった。分割添加5回目と6回目の間に,酸素吹込みと並行してスラグ中にパイプを浸漬してOガスを吹き込みスラグ撹拌を行った。撹拌後,本実施例では6回目の分割添加前に撹拌用パイプは引き上げた。改質還元処理後のスラグは,処理後スラグ用鍋に排出し,スラグ処理炉には種湯溶銑を残した。
【0060】
改質還元処理前および処理後のスラグ,使用した石炭灰およびコークスの成分を下記表8〜10にそれぞれ示す。
【0061】
【表8】

【0062】
【表9】

【0063】
【表10】

【0064】
上記表8に示すように,溶融改質処理後のスラグは,体積膨張の原因となる遊離CaO(f・CaO)が1質量%未満に低減できており,上層路盤材等の高級用途に利材化しても問題ない水準にまで改質された。
【0065】
また,還元処理後のスラグ中のトータル鉄(T・Fe)は0.5質量%未満まで低減された結果,冷却後のスラグは白色化された外観が改善され,普通ポルトランドセメント,ならびに白色セメントに混合しても外観上の違和感は見られなかった。
【0066】
また,処理後のスラグにおいては,MnOやPのような有価成分の酸化物も還元されてスラグ中の濃度が低減し,種湯溶銑に有価成分(マンガン,リン)として回収された。この結果,下記表11に示すように,種湯溶銑中のマンガンやリンの濃度は上昇した。この後,脱リンを行い,脱リンスラグ中にPとして高濃度のリン成分を効率的に回収できた。
【0067】
【表11】

【0068】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】スラグの溶融温度の測定方法の一例を示す説明図である。
【図2】スラグの処理温度と改質処理後の遊離CaOの含有量(質量%)との関係の具体例を示すグラフである。
【図3】T・Fe(質量%)と白色度の評価の一例との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融製鋼スラグを溶銑が保持された反応容器に装入し,前記反応容器に装入された溶融製鋼スラグにSiO含有改質材および還元用炭素源を添加し,前記製鋼スラグの溶融状態を維持したまま前記製鋼スラグの改質処理および還元処理を行うことを特徴とする,製鋼スラグの処理方法。
【請求項2】
前記改質処理および前記還元処理中の前記製鋼スラグの温度を,溶融温度より10℃以上高い温度に維持することを特徴とする,請求項1に記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項3】
前記製鋼スラグにSiO含有物質を添加し,前記製鋼スラグ中のCaOとSiOとの質量比である塩基度CaO/SiOを1.9以下とすることを特徴とする,請求項1または2に記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項4】
前記製鋼スラグの溶融温度を1300℃以下にすることを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項5】
前記製鋼スラグにSiO,AlおよびMgOのうちの少なくともいずれか1種を含有する物質を添加することで,前記製鋼スラグの溶融温度を1300℃以下にすることを特徴とする,請求項4に記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項6】
前記還元処理により前記製鋼スラグ中のトータル鉄の含有率を1.5質量%以下とすることを特徴とする,請求項1〜5のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項7】
前記還元処理により前記製鋼スラグ中に含まれる酸化リンを還元し,溶銑中にリンを回収することを特徴とする,請求項1〜6のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項8】
前記還元用炭素源は,炭素質廃棄物であることを特徴とする,請求項1〜7のいずれかに記載の製鋼スラグの処理方法。
【請求項9】
前記SiO含有改質材は,Alをさらに含有することを特徴とする,請求項1〜8のいずれに記載の製鋼スラグの処理方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−297693(P2007−297693A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129052(P2006−129052)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】