説明

複列軸受

【課題】内輪とはまり合う軸に疵が発生することを防止できる複列円すいころを提供する。
【解決手段】軸1の外周側に嵌められた内輪2a、2bと、内輪2a、2bの外周側に配置された外輪3と、内輪2a、2bおよび外輪3間に配置された複列の転動体4a、4bとを備える。内輪2a、2bの内径面の一端に面取り13a、13bが形成されると共に、面取り13a、13bに隣接する内輪2a、2bの内径面に、軸1が嵌合するはめあい部12a、12bが形成された複列軸受である。内輪2a、2bの内径面の、面取り13a、13bとはめあい部12a、12bとの間に潤滑剤溜り18a、18bを設けて疵付防止手段を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列軸受に関するもので、特に鉄道車両車軸軸受や各種産業機械用として利用される複列軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両車軸用軸受の内輪は、車軸と堅くはまり合っているため、内輪内周面のはめあい部と端部面取りとの繋ぎ部と、車軸との間で高面圧が発生する。一般に、鉄道車両車軸は、台車や車体からの負荷で微小であるがベンディング(撓み)を生じており、撓んだ状態で回転駆動される。内輪と鉄道車両車軸との間には潤滑を行っていないため、車軸の回転時には、繋ぎ部と車軸との間で無潤滑状態の微少の繰り返し滑りが発生し、表面硬化処理された内輪内径面よりも柔らかい車軸が疵ついてしまう。
【0003】
このため、車軸の疵の発生を回避するための方法が提案されている(特許文献1及び特許文献2)。特許文献1には、軸疵を防止するために一対の内輪の突合せ端部における内周面を面取りし、前記面取りとはめあい部との繋ぎ部(稜線部)を含む帯状領域の表面硬さを、車軸の表面硬さよりも低くすることが記載されている。一般的にフレッティング摩耗は、硬さの低い部材の表面に起こるため、車軸の外周面を摩耗させずに繋ぎ部を摩耗させることで、車軸のフレッティング摩耗を防止できて、車軸の外周面に周方向の疵が発生することを防止している。
【0004】
また、特許文献2には、内輪と軸との間に、内輪及び軸よりも硬度の低いスリーブを介在させる点が記載されている。これにより、繋ぎ部が直接軸と接触するのを防止し、軸がベンディングした(撓んだ)際に、軸の外周面に疵が発生することを防止している。
【特許文献1】特開2003−314566号公報
【特許文献2】特開2006−214570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のものは、内輪内周面の繋ぎ部が車軸に接触しないように車軸にはグルービング(応力緩和溝)が施されているが、車軸のグルービング開始位置では軸側が凸になって内輪内周面と接触しているため、内輪内周面に疵が発生してしまう。内輪内周面との擦れによって車軸外周面にも疵を生じる。
【0006】
また、特許文献2のものは、スリーブを介在させることにより、軸受を車軸に組込む際に軸受の寸法を大きくさせることに繋がり、従来の軸受との互換性がなくなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、内輪とはまり合う軸に疵が発生することを防止できる複列円すいころを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の複列軸受は、軸の外周側に嵌められた内輪と、前記内輪の外周側に配置された外輪と、前記内輪および前記外輪間に配置された複列の転動体とを備え、内輪の内径面の一端に面取りが形成されると共に、面取りに隣接する内輪の内径面に、軸が嵌合するはめあい部が形成された複列軸受において、内輪の内径面の、面取りとはめあい部との間に潤滑剤溜りを設けて疵付防止手段を構成したものである。
【0009】
本発明の複列軸受によれば、軸と内輪との摺接により、軸に疵を発生させやすい内輪内径面(面取りとはめあい部との間)に潤滑剤溜りを設けることにより、面取りとはめあい部との間に潤滑剤を供給することができる。これにより、軸の回転時に、内輪内径面と軸との間で微少の繰り返し滑りが発生しても、内輪内径面と軸との間の摩擦を小とすることができて、軸に疵が発生することを防止できる。また、潤滑剤溜りに潤滑剤を封入することができるため、軸がベンディングしても(撓んでも)常に潤滑剤溜りに潤滑剤を保持させることができる。
【0010】
本発明の他の複列軸受は、軸の外周側に嵌められた内輪と、前記内輪の外周側に配置された外輪と、前記内輪および前記外輪間に配置された複列の転動体とを備え、内輪の内径面の一端に面取りが形成されると共に、面取りに隣接する内輪の内径面に、軸が嵌合するはめあい部が形成された複列軸受において、軸の外径面に、内輪の内径面の面取りとはめあい部との繋ぎ部に面する潤滑剤溜りを設けて疵付防止手段を構成したものである。
【0011】
本発明の他の複列軸受によれば、軸と内輪との摺接により、疵が発生しやすい軸の外径面(繋ぎ部に面する部位)に潤滑剤溜りを設けることにより、繋ぎ部に潤滑剤を供給することができる。これにより、軸の回転時に、内輪内径面と軸との間で微少の繰り返し滑りが発生しても、内輪内径面と軸との間の摩擦を小とすることができて、軸に疵が発生することを防止できる。また、潤滑剤溜りに潤滑剤を封入することができるため、軸がベンディングしても(撓んでも)常に潤滑剤溜りに潤滑剤を保持させることができる。
【0012】
前記潤滑剤溜りに潤滑剤を供給する潤滑剤供給路を備えることができる。この場合、潤滑剤供給路を、内輪を貫通する貫通孔としたり、内輪間に配置された間座を貫通する連通孔としたりすることができる。これにより、軸受内部の内端側(円すいころの小径側)の空間内に充填された潤滑剤は、貫通孔や連通孔を介して潤滑剤溜りに供給される。このため、長期にわたって潤滑剤溜りに潤滑剤を供給することができて、軸に疵が発生することを長期にわたって防止できる。特に、間座を貫通する連通孔を設けると、軸受の軌道面である内輪の内径面に特別追加工することなく、貫通孔加工時の加工硬化や軌道輪の強度への影響を抑えることができる。
【0013】
前記潤滑剤溜りに固体潤滑剤を充填することができる。二硫化モリブデン、PTFE、グラファイト等の固体潤滑剤は、潤滑油のような液体潤滑剤と異なり、摩擦面材料同士の接触が生じにくい。また、潤滑油による流体潤滑では高い荷重領域や低速域で油膜切れが発生しやすいのに対し、固体潤滑剤は摩擦面に固体潤滑膜が形成され、摩擦面材料の接触を抑制しかじりが発生し難いという点で有効である。これにより、潤滑剤溜りに潤滑剤が随時供給される。
【0014】
また、固体潤滑剤は、潤滑成分及び樹脂成分を必須成分とし、前記樹脂成分は発泡して多孔質化された固形物であり、かつ前記潤滑成分を樹脂内部に吸蔵してなる多孔性固形潤滑剤とすることができる。なお、本発明において「吸蔵」とは、液体・半固体状の潤滑成分が他の配合成分と反応することなく、固体の樹脂中に化合物にならないで含まれることをいう。多孔性固形潤滑剤は潤滑成分を既に含んでいるため、軸受内部空間に封入する潤滑油が多孔性固形潤滑剤に染み込みにくく、潤滑油が軸受内部空間外に流出するのを最小限に留めることが可能となる。また、多孔性固形潤滑剤に含有される潤滑成分が、必要な量だけ染み出し、摺接部の潤滑を補うことができるという点で有効である。
【0015】
鉄道車両車軸用軸受であって、前記外輪を軸箱の内周面に嵌合させ、前記内輪を車軸の外周面に嵌合させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上より、本発明の複列軸受によれば、内輪とはまり合う軸に疵が発生することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1に、本発明の第1実施形態の複列軸受を、鉄道車両車軸用軸受に適用した実施の形態を示す。この複列軸受は、軸(車軸)1の端部1aに配置したものであり、外周面に円すい状の軌道面6a、6bを有し、車軸1とはまり合う一対の内輪2a、2bと、内周面に円すい状の軌道面7a、7bを有する外輪3と、内輪2a、2bの軌道面6a、6bと外輪3の軌道面7a、7bとの間に転動自在に介在する複数の円すいころ4a、4bを備える。内輪の軌道面6a、6bと外輪の軌道面7a、7bとの間には、複数の円すいころ4a、4bを軸受周方向に所定の間隔を隔てて保持する保持器5a、5bが介在している。
【0019】
軸端側(図1の左方)に位置する図示省略の前蓋と、反軸端側(図1の右方)に位置する後蓋16との間には、一対の内輪2a、2b及び間座15が配置され、前蓋と内輪2aとの間には油切り14が介在する。後蓋16は一方で内輪2bと接し、他方で車軸1の段部1bに接している。これにより、一対の内輪2a、2bは、小径側の端面同士が間座15を介して突き合わされた状態で、後蓋16と油切り14とで挟持されている。
【0020】
内輪2a、2bは、図2に示すように、軌道面6a、6bの小径側に、径方向外側に突出する小鍔21a、21bを形成すると共に、軌道面6a、6bの大径側に、径方向外側に突出する大鍔22a、22bを形成している。内輪2a、2bの内径面は、軸が嵌合するはめあい部12a、12bと、大径側から小径側に向かって拡径するテーパ状の面取り13a、13bとを備えている。この面取り13a、13bにより、軸受を車軸1に圧入する際の案内面とすることができる。面取り13a、13bとはめあい部12a、12bとの間には、疵付防止手段を構成する潤滑剤溜り18a、18bを設けている。潤滑剤溜り18a、18bは、面取り13a、13bとはめあい部12a、12bとの繋ぎ部19a、19bに、全周にわたって凹溝を形成し、この凹溝に潤滑剤(グリース)を封入して構成されている。これにより、面取り13a、13bとはめあい部12a、12bとの間に潤滑剤を供給することができる。
【0021】
また、内輪2a、2bの小鍔21a、21bに、小鍔21a、21bを貫通する貫通孔23a、23bを設けている。これにより、軸受内部の内端側(円すいころの小径側)の空間Sと、潤滑剤溜り18a、18bとが連通し、貫通孔23a、23bが潤滑剤供給路となって、空間Sのグリースが潤滑剤溜り18a、18bに定期的に供給される。
【0022】
対向する内輪2a、2b間には間座15が設けられており、この間座15に潤滑剤溜り18a、18bへ連通する連通孔24を設けている。この場合、連通孔24を円周方向に沿って120°ピッチで設けている。これにより、連通孔24が潤滑剤供給路となって、空間S内に充填されたグリースが潤滑剤溜り18a、18bに供給される。
【0023】
軸受内への異物の侵入や軸受内部からの潤滑剤の漏出を防止するため、軸受の両側には密封装置26a、26bが装着してある。密封装置26a、26bは外輪3の両端開口部に装着したシールケース27a、27bと、シールケース27a、27bの内部に保持させたオイルシール28a、28bとで構成される。この実施の形態では、後蓋16に摺動接触するシールリップをもったオイルシール28a、28bを、シールケース27a、27bを介して外輪3に取り付けてある。また、シールケース27a、27bの先端と後蓋16との間でラビリンスを形成させ、非接触シールを構成させてある。油切り14、内輪2a、2b、オイルシール28a、28bの間にはグリースが充填され、円すいころ等の潤滑を行う。
【0024】
このように、本発明の第1実施形態の複列軸受では、車軸1と内輪2a、2bとの摺接により、車軸1に疵を発生させやすい内輪内径面(面取り13a、13bとはめあい部12a、12bとの間)に潤滑剤溜り18a、18bを設けることにより、面取り13a、13bとはめあい部12a、12bとの間に潤滑剤を供給することができる。これにより、車軸1の回転時に、内輪内径面と軸との間で微少の繰り返し滑りが発生しても、内輪内径面と車軸1との間の摩擦を小とすることができて、車軸1に疵が発生することを防止できる。また、潤滑剤溜り18a、18bに潤滑剤を封入することができるため、車軸1がベンディングしても(撓んでも)常に潤滑剤溜り18a、18bに潤滑剤を保持させることができる。
【0025】
潤滑剤溜り18a、18bに潤滑剤を供給する潤滑剤供給路を備え、潤滑剤供給路を、内輪2a、2bを貫通する貫通孔23a、23bとしたり、内輪間に配置された間座15を貫通する連通孔24としたりしている。これにより、軸受内部の内端側(円すいころ4a、4bの小径側)の空間S内に充填された潤滑剤は、貫通孔23a、23bや連通孔24を介して潤滑剤溜り18a、18bに供給される。このため、長期にわたって潤滑剤溜り18a、18bに潤滑剤を供給することができて、車軸1に疵が発生することを長期にわたって防止できる。特に、間座15を貫通する連通孔24を設けると、軸受の軌道面である内輪2a、2bの内径面に特別追加工することなく、貫通孔加工時の加工硬化や軌道輪の強度への影響を抑えることができる。
【0026】
前記複列軸受は、多量の水(雨水や泥水等)及び塵埃に曝される等の過酷な環境で使用される鉄道車両の車軸用軸受装置に特に最適となり、車軸用軸受装置として、長期に亘って安定した機能を発揮する。
【0027】
なお、潤滑剤溜り18a、18bには、固体潤滑剤を充填することができる。多孔性固形潤滑剤は、潤滑油を含む潤滑成分及び樹脂成分を必須成分とし、前記樹脂成分が発泡して多孔質化された固形物であり、かつ前記潤滑成分を樹脂内部に吸蔵することにより設けられる。
【0028】
本発明に用いる多孔性固形潤滑剤を構成する樹脂成分としては、発泡・硬化後にゴム状弾性を有し、変形により潤滑成分の滲出性を有するものが好ましい。発泡・硬化は、樹脂生成時に発泡・硬化させる形式であっても、樹脂成分に発泡剤を配合して成形時に発泡・硬化させる形式であってもよい。ここで硬化は架橋反応および/または液状物が固体化する現象を意味する。また、ゴム状弾性とは、ゴム弾性を意味するとともに、外力により加えられた変形がその外力を無くすことにより元の形状に復帰することを意味する。
【0029】
この多孔性固形潤滑剤を構成する樹脂成分には、プラスチックまたはゴムなどのうち、エラストマーまたはプラストマーのいずれかまたは両方を、アロイまたは共重合成分として採用できる。
【0030】
ゴムの場合は、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンエラストマー、フッ素ゴム、クロロスルフォンゴムなどの各種ゴムを採用できる。
【0031】
また、プラスチックの場合は、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド4,6樹脂(PA4,6)、ポリアミド6,6樹脂(PA6,6)、ポリアミド6T樹脂(PA6T)、ポリアミド9T樹脂(PA9T)などの汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックを採用できる。上記プラスチックなどに限られることなく、軟質ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォーム、半硬質ウレタンフォームなどのウレタンフォームなどを用いることもできる。
【0032】
樹脂成分中には必要に応じて顔料や酸化防止剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
【0033】
この発明に用いる多孔性固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、伸縮、屈曲、遠心力および温度上昇に伴う気泡の膨張など、外力の作用によって潤滑成分を必要部位に供給することが可能なものである。
【0034】
発泡により多孔質化される際に生成させる気泡は、連続孔が望ましく、外力の作用によって潤滑成分を樹脂成分の表面から連続孔を介して必要部位に直接供給することが可能である。独立孔の場合は、樹脂成分中の潤滑成分の全量が一時的に気泡中に取り込まれて、必要な時に必要部位に充分供給されない場合がある。
【0035】
潤滑成分を樹脂内部に吸蔵するには、潤滑成分の存在下で発泡反応と硬化反応を同時に行なわせる反応型含浸法を採用することが望ましい。このようにすると潤滑成分を樹脂内部に高充填することが可能となり、その後には潤滑成分を含浸して補充する後含浸工程を省略できる。
【0036】
これに対して発泡固形物をあらかじめ成形しておき、これに潤滑成分を含浸させる後含浸法だけを採用すると、樹脂内部に充分な量の潤滑成分が染み込まないので、潤滑成分保持力が充分でないものになり、短時間で潤滑剤が析出されて長期的に使用すると潤滑成分が供給不足となる場合がある。このため、後含浸工程は、反応型含浸法の補助手段として採用することが好ましい。
【0037】
この反応型含浸法は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させて行なうことが好ましい。また、整泡剤の種類や量によって表面張力を制御し、生じる気泡の種類(連続型/独立型)や気泡の大きさを制御することが可能である。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0038】
潤滑成分(100重量%)の潤滑油の割合は、1重量%〜95重量%が好ましく、さらに好ましくは5〜80重量%である。潤滑油の割合が、1重量%未満の場合は、潤滑油を必要箇所に充分に供給することが困難になる。また、95重量%を超える多量の配合では、固形潤滑剤に特有の機能を果たさない場合がある。
【0039】
この発明に用いる潤滑成分としては、発泡体を形成する固形物を溶解しないものであれば種類を選ばずに使用することができるが、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独もしくは混合して用いても良い。
【0040】
この発明に用いる潤滑油としては、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等の一般的に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられる。
【0041】
この発明に使用するグリースの増ちょう剤としては、リチウム石鹸、リチウムコンプレックス石鹸、カルシウム石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウム石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸等の石鹸類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0042】
このウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、ポリウレア化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0043】
ジウレア化合物は、例えばジイソシアネートとモノアミンの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、へキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、へキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0044】
ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミン、ジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネート、モノアミンとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。グリースの基油としては、前述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0045】
この発明に使用するワックスとしては炭化水素系合成ワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、ケトン・アミン類、水素硬化油などどのようなものでも良い。これらのワックスに使用する油成分としては前述の潤滑油と同様のものを用いることができる。
【0046】
以上述べたような潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固体潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0047】
樹脂成分を発泡させる手段としては周知の発泡手段を採用すればよく、例えば、水、アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を加熱し、気化させる物理的手法やエアーや窒素などの不活性ガスを外部から吹き込む機械的発泡方法、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)やアゾジカルボンイミド(ADCA)等のように温度や光によって分解し、窒素ガスなどを発生させる分解型発泡剤を使用する、などの方法が挙げられる。また、原料として反応性の高いイソシアネート基を持つ場合には、それと水分子との化学反応によって生じる二酸化炭素による化学的発泡を用いても良い。
【0048】
このような反応を伴う発泡を用いるには必要に応じて触媒を使用することが望ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。
【0049】
3級アミン系触媒としてはモノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、環状アミン類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミダゾール誘導体、酸ブロックアミン触媒などが挙げられる。
【0050】
また、有機金属触媒としてはスタナオクタエート、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマーカプチド、ジブチルチンチオカルボキシレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジマーカプチド、ジオクチルチンチオカルボキシレート、オクテン酸鉛などが挙げられる。また、反応のバランスを整えるなどの目的でこれら複数種類を混合して用いても良い。
【0051】
樹脂成分の発泡倍率は1.1倍以上200倍未満であることが望ましい。発泡倍率1.1倍未満の場合は気泡体積が小さく、または固形物が硬すぎて変形しないなどの不具合がある。また、200倍以上の時には外力に耐える強度を得ることが困難となり、使用中に破損や破壊に至ることがある。
【0052】
なお、多孔性固形潤滑剤に代えて、二硫化モリブデン、PTFE、グラファイト等の固体潤滑剤を用いることもできる。
【0053】
このように、潤滑剤溜り18a、18bに固体潤滑剤を保持させると、潤滑油のような液体潤滑剤と異なり、摩擦面材料同士の接触が生じにくい。また、潤滑油による流体潤滑では高い荷重領域や低速域で油膜切れが発生しやすいのに対し、固体潤滑剤は摩擦面に固体潤滑膜が形成され、摩擦面材料の接触を抑制しかじりが発生し難いという点で有効である。これにより、潤滑剤溜りに潤滑剤が随時供給される。
【0054】
特に、固体潤滑剤を前記のような多孔性固形潤滑剤とすると、軸受内部空間に封入する潤滑油が多孔性固形潤滑剤に染み込みにくく、潤滑油が軸受内部空間外に流出するのを最小限に留めることが可能となる。また、多孔性固形潤滑剤に含有される潤滑成分が、必要な量だけ染み出し、摺接部の潤滑を補うことができるという点で有効である。
【0055】
次に、本発明の第2実施形態の複列軸受について説明する。この場合、図3に示すように、内輪2a、2bの内径面の面取り13a、13bとはめあい部12a、12bとの繋ぎ部19a、19bに面する車軸1の外径面に、疵付防止手段としての潤滑剤溜り31a、31bを設けている。これにより、繋ぎ部19a、19bに潤滑剤を供給することができ、車軸1の回転時に、内輪内径面と車軸1との間で微少の繰り返し滑りが発生しても、内輪内径面と車軸1との間の摩擦を小とすることができて、車軸1に疵が発生することを防止できる。
【0056】
なお、図3に示す複列軸受において、図1及び図2の構成と同様のものについては、図1及び図2と同一符号を付し、その説明を省略する。このため、第2実施形態の複列軸受においても、前記第1実施形態と同様の効果を有する。
【0057】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、潤滑剤溜り18a、18bは、内輪2a、2bや車軸1の全周にわたって設けたが、周方向に沿って所定ピッチで設けてもよい。潤滑剤溜り18a、18bの断面形状としては、種々の形状を採用することができ、その大きさも、潤滑剤を保持できる大きさであれば任意に設定することができる。また、貫通孔23a、23bや間座15(連通孔24)を省略してもよい。連通孔24の配設ピッチとしては、120°ピッチに限られない。
【0058】
軟質被膜30a、30bは、車軸1より硬度が低いものであれば、銅に限られず、金、銀、マンガン等種々のものを採用することができる。また、内輪2a、2bの内径面の全体にわたって軟質被膜30a、30bを形成することができる。
【0059】
実施形態では転動体4a、4bとして円すいころを用いた円すいころ軸受であったが、円筒ころを用いた円筒ころ軸受とすることもできる。さらには、鉄道車両の車軸用軸受装置以外のものにも本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施形態を示す複列軸受の要部断面図である。
【図2】前記図1の複列軸受の要部拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態を示す複列軸受の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 軸(車軸)
2a、2b 内輪
3 外輪
4a、4b 円すいころ
12a、12b はめあい部
13a、13b 面取り
18a、18b、31a、31b 潤滑剤溜り
19a、19b 繋ぎ部
23a、23b 貫通孔
24 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸の外周側に嵌められた内輪と、前記内輪の外周側に配置された外輪と、前記内輪および前記外輪間に配置された複列の転動体とを備え、内輪の内径面の一端に面取りが形成されると共に、面取りに隣接する内輪の内径面に、軸が嵌合するはめあい部が形成された複列軸受において、
内輪の内径面の、面取りとはめあい部との間に潤滑剤溜りを設けて疵付防止手段を構成したことを特徴とする複列軸受。
【請求項2】
軸の外周側に嵌められた内輪と、前記内輪の外周側に配置された外輪と、前記内輪および前記外輪間に配置された複列の転動体とを備え、内輪の内径面の一端に面取りが形成されると共に、面取りに隣接する内輪の内径面に、軸が嵌合するはめあい部が形成された複列軸受において、
軸の外径面に、内輪の内径面の面取りとはめあい部との繋ぎ部に面する潤滑剤溜りを設けて疵付防止手段を構成したことを特徴とする複列軸受。
【請求項3】
前記潤滑剤溜りに潤滑剤を供給する潤滑剤供給路を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2の複列軸受。
【請求項4】
前記潤滑剤供給路が、内輪を貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項3の複列軸受。
【請求項5】
前記潤滑剤供給路が、内輪間に配置された間座を貫通する連通孔であることを特徴とする請求項3の複列軸受。
【請求項6】
前記潤滑剤溜りに固体潤滑剤を保持させたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項の複列軸受。
【請求項7】
鉄道車両車軸用軸受であって、前記外輪を軸箱の内周面に嵌合させ、前記内輪を車軸の外周面に嵌合させたことを特徴とする前記請求項1〜請求項6のいずれか1項の複列軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−138880(P2009−138880A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317390(P2007−317390)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】