説明

複合シート

【課題】軟磁性金属を高い組成比で含有し、電磁波吸収量が向上し、且つシート両面における表面抵抗値の差が有意に大きな複合シートを提供する。
【解決手段】軟磁性金属粉末と樹脂とを含む複合シートであって、前記複合シート100重量部に対して前記軟磁性金属粉末を50〜95重量部含有し、前記複合シートの一方の表面の表面抵抗値が1010Ω以上であり、他方の表面の表面抵抗値が105〜109Ωである、複合シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性金属粉末と樹脂とを含む複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性金属粉末及び樹脂を含むシートである「複合シート」は、電磁波吸収シート又はノイズ抑制シートとも称され、主に、パソコンや携帯電話などの情報通信機器内の回路基板上から発生する電磁ノイズを吸収することによる、回路の誤作動防止や機器外部への放射電磁波の抑制といった効果を奏する。
【0003】
軟磁性金属粉末として、例えば、鉄−ケイ素−アルミニウム合金(Fe−Si−Al)は、初期透磁率が高いことから上記の用途に適している。このような特性を利用して、当該金属粉末を樹脂に対して高い組成比で配合し、薄くシート状に加工してなる複合シートが開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−119189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した鉄−ケイ素−アルミニウム合金などの軟磁性金属は、導電性を有するが、樹脂と複合化した場合には絶縁性を有するようになり、回路基板の近傍で使用しても十分な水準の電気抵抗を発揮する。それでも、近年の情報通信機器の小型化に伴い、回路のより近傍にシートを貼る必要性が増大しつつあるため、さらに大きな電気抵抗(表面抵抗)を有するシートに対するニーズが高まっている。このようなシートの製造方法として、シート表面に絶縁性のフィルムを貼り合わせる方法や、シート表面に塗料を塗工して絶縁膜を形成する方法などが挙げられる。しかしながら、いずれの方法によっても、電磁波吸収量が向上し、且つシート両面における表面抵抗値の差が有意に大きな複合シートを製造しようとすると、膜厚の増大が避けられず、実用的に適さないシートしか得られない上、加工の工程数が増えて煩雑になるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、軟磁性金属を高い組成比で含有し、電磁波吸収量が向上し、且つシート両面における表面抵抗値の差が有意に大きな複合シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために、前記軟磁性金属粉末と樹脂とを含む複合シートについて鋭意検討した。その結果、シート両面の表面抵抗値に有意な差があって、表面抵抗値のより小さな側の表面(以下、「粘着付与面」ともいう)が粘着剤層と接するようにすることにより、電気回路に対する絶縁信頼性の向上が図れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、軟磁性金属粉末と樹脂とを含む複合シートであって、前記複合シート100重量部に対して前記軟磁性金属粉末を50〜95重量部含有し、前記複合シートの一方の表面の表面抵抗値が1010Ω以上であり、他方の表面の表面抵抗値が105〜109Ωである、複合シートである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軟磁性金属を高い組成比で含有し、電磁波吸収量が向上し、且つシート両面における表面抵抗値の差が有意に大きな複合シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
本実施の形態は、軟磁性金属粉末と樹脂とを含む複合シートであって、前記複合シート100重量部に対して前記軟磁性金属粉末を50〜95重量部含有し、前記複合シートの一方の表面の表面抵抗値が1010Ω以上であり、他方の表面の表面抵抗値が105〜109Ωである、複合シートに係る。
【0012】
上述したように、本発明者らは、軟磁性金属粉末と樹脂とを含む複合シートの両面の表面抵抗値に有意な差があって、表面抵抗値のより小さな側の表面(粘着付与面)が粘着剤層と接するようにすることにより、電気回路に対する絶縁信頼性の向上が図れることを見出した。ここで、本明細書における「粘着付与面」とは、表面抵抗値のより小さな側の表面であって粘着剤層と接する面であり、粘着剤層を構成する粘着材としては、以下に制限されないが、アクリル、シリコーンやゴム等が使用できる。
【0013】
[軟磁性金属粉末]
【0014】
軟磁性金属粉末とは、軟磁性金属の粉末である。前記軟磁性金属とは、外部磁界のシグナルに迅速に対応して、高い磁束密度をほとんど損失することなく得ることができる金属であり、高透磁率材料とも称される。
【0015】
前記軟磁性金属としては、以下に制限されないが、例えば、純鉄、カルボニル鉄、Fe−Si合金、Fe−Al合金、Fe−Cr−Ni合金、Fe−Si−Al合金、Fe−Ni合金、及びFe−Co合金が挙げられる。中でも、より透磁率が高いという観点から、純鉄、カルボニル鉄、Fe−Si−Al合金、Fe−Cr−Ni合金、及びFe−Ni合金が好ましい。なお、本明細書における「透磁率」は、後述する実施例において実施した方法による測定値を採用する。
【0016】
ここで、透磁率の測定は、電波吸収量の評価に繋がるものである。透磁率が高い程、電波吸収量が大きくなるという関係にある。なお、同じ配合量でも、Fe−Cr−Ni合金よりFe−Si−Al合金の方が、透磁率は高い傾向にある。
【0017】
前記Fe−Si−Al合金としては、高い電磁波吸収効果を得るという観点から、原子重量換算で、Siが8〜12重量部であってAlが5〜8重量部であるものが好ましい。中でもSiが9.6重量部、Alが5.7重量部であるものが特に好ましく、この組成の合金を以下では「Fe−9.6Si−5.7Al」と表す。上記カルボニル鉄とは、純鉄の粒子表面がリン酸鉄で覆われたものの一般名称である。上記Fe−Ni合金は、一般にパーマロイと呼ばれ、当該合金100重量部に対するNi成分の組成が通常、20〜90重量部である。
【0018】
前記Fe−Cr−Ni合金としては、高い電磁波吸収量を得るという観点から、
原子量換算で、Crが1.48〜1.68重量部、Niが0.50〜0.70重量部であるものが好ましい。
【0019】
軟磁性金属粉末の含有量は、前記複合シート100重量部に対して50〜95重量部である。50重量部以上の場合には、シート成形の原料である樹脂組成物の電磁波吸収量に優れ、95重量部以下の場合には、樹脂組成物の成形性及びシートの柔軟性に優れる。また、ワニスの基材に対する塗工性の向上という観点から、好ましくは60〜90重量部であり、より好ましくは70〜90重量部である。このように、本実施の形態に係る複合シートは、軟磁性金属を高い組成比で含有する。ここで、本明細書における「電磁波吸収量」の算出方法について説明する。
【0020】
<電磁波吸収量の算出>
【0021】
幅1mmのマイクロスプリットラインから放射される電磁波強度を電磁波可視化装置で観察した。ライン上の任意の位置での放射電磁波強度を測定し、その値をP1とする。同じ位置に複合シートを貼り、その位置での放射電磁波強度をP2とする。
【0022】
電磁波吸収量(単位:dB)は下記式により求める。
【0023】
電磁波吸収量=20×log(P1/P2)
【0024】
複合シートは1cm角の正方形とし、放射電磁波の測定値は500MHzとする。
【0025】
軟磁性金属粉末の平均粒径(d50)として、好ましくは1〜100μmである。1μm以上の場合には粉末の取り扱い性が良好となり、100μm以下の場合には、樹脂組成物のシート成形性が良好になるとともに、電磁波吸収量も向上する。また、粉末取扱い性という観点から、より好ましくは2〜60μmであり、さらに好ましくは10〜50μmである。なお、本明細書における平均粒径の測定方法は、BET法である。
【0026】
軟磁性金属粉末は、その粒径が大きいものと小さいものとを混合させて用いた場合、樹脂と混練した際に当該粉末の空間(粉末粒子間の距離)を有意に減少させることができる。そのため、樹脂に対する軟磁性金属粉末の充填率を一層増大させることができ、複合シートの電磁波吸収量を向上させることができる。
【0027】
軟磁性金属粉末の比表面積は、0.3〜2m2/gであることが好ましい。0.3m2/g以上の場合には、樹脂と混練しシート化させた際のシートの柔軟性に優れ、2m2/g以下の場合には、樹脂に対して軟磁性金属粉末を高濃度(高組成比)で配合できるため、シートの電磁波吸収量を向上させることができる。なお、本明細書における比表面積の測定方法は、BET法である。
【0028】
軟磁性金属粉末の形態としては、以下に制限されないが、例えば、球状や扁平状が挙げられる。中でも好ましくは扁平状である。扁平状の場合、樹脂と混練しシート化する段階で、軟磁性金属粉末がシート平面に対して水平に配向しやすくなる。そして、このように水平に配向させることで、複合シートの電磁波吸収量が向上し、且つ複合シートを有意に薄くできるという観点から、扁平状は好ましいといえる。特に、扁平状に加工されたFe−Si−Al合金、Fe−Cr−Ni合金、及びFe−Ni合金の粉末は、透磁率が非常に高いため、より好ましい。
【0029】
軟磁性金属粉末の粒子が扁平状の場合に、この扁平な「板」の厚みとしては、0.05〜5μmが好ましい。0.05μm以上の場合には、樹脂との混練時に形状を維持できるため、所望の形状の複合シートを成形しやすく、5μm以下の場合には複合シートを一層薄くできる。また、より好ましくは0.1〜1μmである。
【0030】
軟磁性金属粉末は、樹脂との密着性を一層向上させることを目的として、当該粉末の粒子表面をカップリング処理してもよい。前記カップリング処理としては、以下に制限されないが、例えば、シランカップリング処理が挙げられる。
【0031】
前記シランカップリング処理に用いるシランカップリング剤としては、以下に制限されないが、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性シラン;3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ官能性シラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン等のオレフィン官能性シラン;3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリル官能性シラン;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリル官能性シラン;及び、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性シランが挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
シランカップリング処理の各条件の例を説明する。まず、処理液の組成としては、上記のカップリング剤を水などの溶媒に0.1〜15g/Lの濃度で溶解させればよい。また、処理液の温度は、室温〜50℃であればよい。軟磁性金属粉末の処理液への浸漬時間については特に制限されることはない。
【0033】
シランカップリング処理後は、以下に制限されないが、加熱や紫外線照射により、カップリング剤と軟磁性金属粉末との間で安定的結合を形成させて、カップリング剤を軟磁性金属粉末に吸着させることができる。なお、加熱や紫外線照射の条件については、従来公知の条件を用いればよい。
【0034】
[樹脂]
【0035】
本実施の形態における樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂としては、例えば、二重結合や三重結合などの不飽和基を有するモノマーの重合体又は共重合体を用いることができる。
【0037】
モノマーとしては、以下に制限されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、α−メチルスチレン、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ素化エチレン、アクリロニトリル、無水マレイン酸、及び酢酸ビニルが挙げられる。
【0038】
また、上記のモノマーの重合体又は共重合体以外の熱可塑性樹脂として、以下に制限されないが、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレングリコール、ポリエーテルイミド、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、及びポリアリレートが挙げられる。
【0039】
熱硬化性樹脂としては、以下に制限されないが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、ビスマレイミド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、及びベンゾシクロブテン樹脂が挙げられる。
【0040】
上記の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、官能基を有する化合物で変性されたものであってもよい。かかる官能基としては、以下に制限されないが、ビニル基、アリル基、カルボキシル基、酸無水基、エステル基、水酸基、アミノ基、アミド基、イミド基、エポキシ基及びハロゲンからなる群より選択される1種以上があり得る。
【0041】
上記樹脂の成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
上記した熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂の中でも、溶剤に対する溶解性、軟磁性金属粉末との密着性、及び溶剤や軟磁性金属粉末と混練してなるワニスの基材へのコーティング性といった観点から、熱可塑性シリコーン樹脂又は塩素化ポリエチレンが好ましく、熱可塑性シリコーン樹脂がより好ましい。前記熱可塑性シリコーン樹脂は、主に、ジメチルシロキサンの繰り返し単位から構成されるが、その繰り返し単位中に水素結合などの相互作用を有するセグメントを含むものは水素結合を介して擬似架橋点を形成し、エラストマーとしての粘弾性挙動を示す。そのため、前記熱可塑性シリコーン樹脂は、本実施の形態に係る複合シートの引っ張り強度や柔軟性などの特性上、好ましいものといえる。上記の相互作用を有するセグメントとしては、以下に制限されないが、相互作用の強さという観点から、好ましくはエステル結合又はウレア結合である。
【0043】
樹脂の含有量は、複合シート100重量部に対して1〜50重量部である。1重量部以上の場合、コーティング成膜性に優れ、50重量部以下の場合、複合シートの磁気特性や難燃性に優れる。また、コーティング時の基材との剥離し易さという観点から、好ましくは5〜20重量部である。
【0044】
[複合シート]
【0045】
本実施の形態に係る複合シートは、シート両面の表面抵抗値に有意な差があって、表面抵抗値のより小さな側の面(粘着付与面)が粘着剤層と接するように使用するものである。より詳細にいえば、前記一方の表面の表面抵抗値が他方の表面の表面抵抗値より有意に大きく、且つ前記一方の表面の表面抵抗値が絶対値としても大きいという特性を有する。このような特性に起因して、前記複合シートは、電気回路に対する絶縁信頼性を向上させることができる。
【0046】
本実施の形態に係る複合シートは、上記の軟磁性金属粉末や樹脂以外にも、目的に応じて、難燃剤、紫外線吸収剤、可塑剤や架橋剤などを含み得る。
【0047】
本実施の形態に係る複合シートは、その両面のうち一方の表面の1Vでの表面抵抗値が、電気回路との絶縁性の観点から1010Ω以上である。また、より高い絶縁性という観点から、好ましくは1011Ω以上、より好ましくは1012Ω以上である。
【0048】
これに対し、前記複合シートの他方の表面の表面抵抗値は、105〜109Ωである。105Ω以上の場合は電気回路との絶縁性が一層良好となり、109Ω以下の場合には電磁波吸収量を向上させることができる。また、という観点から、好ましくは106〜109Ω、より好ましくは106〜108Ωである。ここで、本明細書における「表面抵抗値」の測定は、後述する実施例において実施した方法を採用する。
本発明の複合シートは、軟磁性合金粉末と樹脂が溶液中に均一に分散されたワニスを基材フィルムにキャストまたはコーティングした後、乾燥して溶剤を除去することにより得られる。上記ワニスの30℃における好ましい液粘度の範囲は1,000mPa・s〜1,000,000mPa・sであり、複合シートの厚みを所望通りに制御する観点から、より好ましくは10,000mPa・s〜50,000mPa・sである。1,000mPa・s以上では塗膜内での軟磁性金属粉末の沈降速度を抑えることができ、複合シートの表面固有抵抗を本発明で規定する範囲内に制御することが容易である。1,000,000mPa・s以下でも軟磁性金属粉末は適度な速度で沈降するため、複合シートの表面固有抵抗値の制御の観点から好ましい。
上記ワニスで使用される溶剤はトルエン、キシレン、アセトン、2−ブタノン、テトラヒドロフラン、メチルイソブチルケトンを用いることができ、さらに塗布形状を調整するために、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド等の高沸点溶媒を5%以下の少量だけ添加する場合もある。
ワニスを塗布する基材フィルムは使用する溶剤に対して耐性があればよく、ポリエチレン等のポリオレフィン系フィルム、PET等のポリエステル系フィルムが好ましく用いられ、基材フィルムから複合フィルムを剥離しやすくするためにフッ素やシリコーンでコーティングされたフィルムを用いることもできる。
【0049】
本実施の形態に係る複合シートにおいて、電子回路との絶縁信頼性の観点から、表面抵抗値のより低い側の面または表面抵抗のより高い側の面、あるいは両方の面が絶縁層で被覆されていることが好ましい。面抵抗値のより低い側の面が絶縁層で被覆されていると、複合シートと電気回路との間の絶縁性が一層良好になるため好ましい。絶縁層で被覆する方法としては、以下に制限されないが、例えば、樹脂フィルムの積層及び樹脂の塗工が挙げられる。前記複合シートの両面を、接着層を有するフィルムで被覆すると、当該シートを電子機器の所望の場所に容易に貼り付けることができるため、好ましい。
【0050】
複合シートを顕著に薄くできるため、シート表面に樹脂フィルムの積層や樹脂の塗工をしても、全体の膜厚も薄くできる。その結果、本実施の形態においては、樹脂フィルムの積層や樹脂の塗工に起因した上述のような問題(課題)は生じない。
【0051】
本実施の形態に係る複合シートは、以下に制限されないが、樹脂、軟磁性金属粉末及び溶剤を均一に混練して得られるワニスを、基材(フィルムやシート等)にコートした後、乾燥し、溶剤を除去することによって得られる。かかるコーティングする方法は、必要に応じて、磁場や電場の存在下で行ってもよく、超音波、電磁波や紫外線を照射しながら行ってもよい。
【0052】
前記溶剤としては、以下に制限されないが、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、2−ブタノン(MEK)、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0053】
上記の過程を経て、溶剤が除去されることにより得られる複合シートにおいて、シート表面に対して垂直方向に加圧することにより、シートをより薄くすることもできる。加圧と同時に加熱させると、薄肉化の効果の点で好ましい。
【実施例】
【0054】
以下、本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0055】
[表面抵抗値の測定]
【0056】
ASTM D257;1993の規格に準拠し、電極サイズが主電極として25mm径であり、ガード電極が内径38mm、外径50mmのドーナツ型であり、印加電圧が1Vである場合の測定値を表面抵抗値とした。
【0057】
[透磁率の測定]
【0058】
後述する実施例及び比較例で得られた複合シートから、内径17mm、外径39mmのドーナツ状試料を切り抜き、この試料を用いた同軸管によるSパラメーター反射法を利用して、100MHzにおける透磁率虚数部の値を求めた。この透磁率虚数部の値を透磁率として評価した。
【0059】
[実施例1]
【0060】
熱可塑性シリコーン樹脂(GENIOMER140、旭化成ワッカー(株)製;メルトフローインデックス(180℃、荷重21.6Kg)90g/10min)15gを2−ブタノン20gに溶解させて得られた溶液に、扁平状のFe−9.6Si−5.7Al合金(比表面積0.57m2/g;d50=59μm、d90=133μm)の粉末85gを加え、十分に攪拌混合(混練)した。合金粉末が溶液中に均一に分散した状態で、かかる分散液をPETフィルム上にキャストし、100℃で熱風乾燥した結果、厚み0.2mmの膜が得られた。この膜を5MPa、200℃3分間の条件下で熱プレス処理し、厚み0.1mmの複合シートを製造した。得られた複合シートの両面の表面抵抗値を測定した結果、一方の表面が1×1011Ω、他方の表面が1×106Ωであった。この複合シートの100MHzにおける透磁率虚数部の値は25であった。この複合シートの、表面抵抗値が1×106Ωの側の面に、電子機器との接着目的でアクリル粘着層を塗工した。結果として、この複合シートを電子機器内に貼り付けたところ、電気回路に対して絶縁信頼性を付与することができた。
【0061】
[実施例2]
【0062】
熱可塑性シリコーン樹脂の添加量を25g、扁平状のFe−9.6Si−5.7Al合金の粉末の添加量を75gとした点以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同じ厚みの複合シートを製造した。得られた複合シートの両面の表面抵抗値を測定した結果、一方の表面が1×1012Ω、他方の表面が5×108Ωであった。この複合シートの100MHzにおける透磁率虚数部の値は22であった。この複合シートの表面抵抗値が5×108Ωの側の面に、電子機器との接着目的でアクリル粘着層を塗工した。結果として、この複合シートを電子機器内に貼り付けたところ、電気回路に対して絶縁信頼性を付与することができた。
【0063】
[実施例3]
【0064】
塩素化ポリエチレン(エラスレン301A、昭和電工(株)製;メルトフローインデックス(180℃、荷重21.6Kg)1.6g/min)20g、及びの97Fe−2Cr−1Ni合金の粉末(比表面積0.87m2/g;d50=19μm、d90=39μm)80gを、トルエン20g中でよく分散させた。その後、かかる分散液をPETフィルム上にキャストし、100℃で熱風乾燥した結果、厚み0.3mmの膜が得られた。この膜を、5MPa、200℃3分間の条件下で熱プレス処理し、厚み0.15mmの複合シートを製造した。得られた複合シートの両面の表面抵抗値を測定した結果、一方の表面が1.2×1010Ω、他方の表面が8×108Ωであった。この複合シートの100MHzにおける透磁率虚数部の値は13であった。この複合シートの表面抵抗値が8×108Ωの側の面に、電子機器との接着目的でアクリル粘着層を塗工した。結果として、この複合シートを電子機器内に貼り付けたところ、電気回路に対して絶縁信頼性を付与することができた。
【0065】
[比較例1]
【0066】
熱可塑性シリコーン樹脂25gと、Fe−9.6Si−5.7Al合金の粉末75gとを、小型ミキサーを用いて150℃で混練し、合金粉末が均一に分散した樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、5MPa、200℃3分間の条件下で熱プレス処理し、厚み0.1mmの複合シートを製造した。なお、用いた樹脂及び合金粉末は、実施例1で用いたものと同じである。得られた複合シートの両面の表面抵抗値を測定した結果、一方の表面が1×109Ω、他方の表面が5.5×108Ωであった。この複合シートの100MHzにおける透磁率虚数部の値は15であった。結果として、この複合シートを電子機器内に貼り付けただけでは、電気回路に対して絶縁信頼性を付与することはできなかった。この複合シートが電気回路に対して絶縁信頼性を付与するために、さらに、一方の表面に電気抵抗を上げる目的で厚み38μmのPETフィルムを貼り付け、且つ複合シートの他方の表面にも電子機器との接着目的でアクリル粘着層を塗工する必要があった。
【0067】
[比較例2]
【0068】
塩素化ポリエチレン20gと、97Fe−2Cr−1Ni合金の粉末80gとを、小型ミキサーを用いて120℃で混練し、合金粉末が均一に分散した樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を、5MPa、120℃3分間の条件下で熱プレス処理し、厚み0.15mmの複合シートを製造した。なお、用いた樹脂及び合金粉末は、実施例3で用いたものと同じである。得られた複合シートの両面の表面抵抗値を測定した結果、一方の表面が1×109Ω、他方の表面が5.5×109Ωであった。この複合シートの100MHzにおける透磁率虚数部の値は13であった。結果として、この複合シートを電子機器内に貼り付けただけでは、電気回路に対して絶縁信頼性を付与することはできなかった。この複合シートが電気回路に対して絶縁信頼性を付与するために、さらに、一方の表面に電気抵抗を上げる目的で厚み38μmのPETフィルムを貼り付け、且つ複合シートの他方の表面にも電子機器との接着目的でアクリル粘着層を塗工する必要があった。
【0069】
[比較例3]
【0070】
熱可塑性シリコーン樹脂の添加量を4g、Fe−9.6Si−5.7Al合金の粉末の添加量を96gとした点以外は、実施例1と同様にして、厚み0.3mmの複合シートを製造した。得られた複合シートの両面の表面抵抗値を測定した結果、一方の表面が7×104Ω、他方の表面が6×104Ωであった。この複合シートの透磁率の測定を試みたが、シートが脆かったため、所定の測定用ドーナツ状試料を切り抜くことができず、測定することができなかった。
また、この複合シートの各面に対し、アクリル粘着層の塗工を試みたが、塗工後に複合シート表面から当該層が剥離した。
【0071】
[比較例4]
【0072】
熱可塑性シリコーン樹脂の添加量を55g、Fe−9.6Si−5.7Al合金の粉末の添加量を45gとした点以外は、実施例1と同様にして、厚み0.3mmの複合シートを製造した。得られた複合シートの両面の表面抵抗値を測定した結果、一方の表面が1×1013Ω、他方の表面が1×1014Ωであった。この複合シートの100MHzにおける透磁率虚数部の値は3であった。
【0073】
透磁率虚数部の値は、吸収した電磁波を熱に変換する際のパラメーターであり、この値が大きい程、電磁波を熱に変換する効果、即ち電波吸収量が大きいことを意味する。
【0074】
以上の結果を下記表1にまとめて示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る複合シートは、携帯電話、パーソナルコンピュータやデジタルカメラ等の電子機器及び情報通信機器の内部に搭載される、配線板、CPU、LSIや配線などの部材に貼り付けられ、機器の誤作動の原因となる不要な電磁ノイズの吸収の用に供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属粉末と樹脂とを含む複合シートであって、
前記複合シート100重量部に対して前記軟磁性金属粉末を50〜95重量部含有し、前記複合シートの一方の表面の表面抵抗値が1010Ω以上であり、他方の表面の表面抵抗値が105〜109Ωである、複合シート。
【請求項2】
前記軟磁性金属粉末は扁平状である、請求項1に記載の複合シート。
【請求項3】
前記樹脂は熱可塑性シリコーン樹脂である、請求項1又は2に記載の複合シート。
【請求項4】
表面抵抗値のより低い側の表面が絶縁層で被覆されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合シート。

【公開番号】特開2011−3582(P2011−3582A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143232(P2009−143232)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】